(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、半導体基板100の断面例を示す。半導体基板100は、ベース基板102、バッファ層104、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114を有する。
【0011】
ベース基板102は、その上に形成されるエピタキシャル成長層を支持する支持基板である。ベース基板102としてn型GaAs基板が挙げられる。ベース基板102にn型GaAs基板を用いる場合、n型GaAs基板の(100)面または(100)面と適当なオフ角を有する面にエピタキシャル成長層が形成される。オフ角は、たとえば2°〜10°の範囲、好ましくは4〜6°が挙げられる。n型GaAs基板にドーピングされる不純物原子としてSi、Se、Sが挙げられる。n型GaAs基板のキャリア濃度は、1×10
17cm
−3〜1×10
19cm
−3の範囲、好ましくは1×10
18cm
−3〜4×10
18cm
−3の範囲が挙げられる。
【0012】
ベース基板102は、サファイア基板、シリコンカーバイド基板、酸化亜鉛基板、または表面がシリコンである基板であってもよい。ここで、「表面がシリコン」とは、少なくとも基板の表面の一部がシリコンで構成されることを意味する。たとえばSiウェハのように基板全体がシリコンで構成されていてもよく、SOI(silicon−on−insulator)基板のように絶縁層の上にシリコン層を有する構造であってもよい。あるいはサファイア基板、ガラス基板、シリコンカーバイド基板、酸化亜鉛基板、GaAs基板等シリコン以外の材料からなる基板上にシリコン層が形成されたものでもよい。エピタキシャル成長層と接するベース基板102の材料が半導体である場合には、当該半導体材料にn型不純物がドーピングされていることが好ましい。ベース基板102の全部または一部がn型の伝導型を有することにより、ベース基板102に電極を接続できる。例えば半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合、ベース基板102にレーザのカソード側電極を接続できる。
【0013】
バッファ層104は、ベース基板102の上にエピタキシャル成長により形成されたn型3−5族化合物半導体結晶層である。バッファ層104は、ベース基板102中の欠陥に応じて、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108などにも欠陥が形成されることを抑制する。バッファ層104としてn型GaAs層が挙げられる。バッファ層104にn型GaAs層を用いる場合、n型GaAs層の厚さは、10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。n型GaAs層にドーピングされる不純物原子として、Si、Se、Sが挙げられる。n型GaAs層のキャリア濃度は、1×10
18cm
−3〜5×10
18cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0014】
n型積層結晶層106は、バッファ層104の上にエピタキシャル成長により形成された、複数のn型3−5族化合物半導体結晶層からなる積層結晶層である。n型積層結晶層106は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、共振器の一方のミラーであるn型ミラー層として機能する。n型積層結晶層106は、例えば分布ブラッグ反射器(DBR)である。n型積層結晶層106は、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した積層構造を複数含んでもよい。高屈折率層と低屈折率層とを複数繰り返して配置することで所定の波長の光の反射率を高くできる。
【0015】
n型積層結晶層106に含まれる低屈折率層として、n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層が挙げられる。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合、当該低屈折率層に用いるn型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層のAl組成(q)は、0.8〜1.0の範囲内であることが適切である。n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層にドーピングされる不純物原子として、Si、Se、Sが挙げられる。n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層のキャリア濃度は、1×10
18cm
−3〜3×10
18cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0016】
n型積層結晶層106に含まれる高屈折率層として、n型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層が挙げられる。n型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層のAl組成(r)をn型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層のAl組成(q)より小さくすることで、n型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層の屈折率をn型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層の屈折率より大きくできる。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、当該高屈折率層に用いるn型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。n型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層のAl組成(r)は、0.0〜0.2の範囲内(ただしn型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層のAl組成(q)より小さい)であることが適切である。n型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層にドーピングされる不純物原子として、Si、Se、Sが挙げられる。n型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層のキャリア濃度は、1×10
18cm
−3〜3×10
18m
−3の範囲内であることが好ましい。
【0017】
n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層とn型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層との間に、Al
sGa
1−sAsのAl組成(s)を当該層の厚さ方向に連続的に変えたn型Al
sGa
1−sAs(0≦s≦1)層を配置してもよい。n型Al
qGa
1−qAs層とAl
sGa
1−sAs層との界面において、Al組成(s)はAl組成(q)と略等しくてよい。n型Al
rGa
1−rAs層とAl
sGa
1−sAs層との界面において、Al組成(s)はAl組成(r)と略等しくてよい。Al組成(s)を連続的に変えることで、n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層およびn型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層の間の電気抵抗を低減できる。n型Al
qGa
1−qAs(0<q≦1)層およびn型Al
rGa
1−rAs(0≦r<1、q>r)層の繰り返し回数は、30〜60が好ましい。
【0018】
i型積層結晶層108は、n型積層結晶層106の上にエピタキシャル成長により形成された、複数のi型3−5族化合物半導体結晶層からなる積層結晶層である。i型積層結晶層108は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、活性層として機能する。i型積層結晶層108は、2つのi型AlGaAs層120がi型GaAs/AlGaAs層122を挟んで構成した積層結晶層を含む。
【0019】
i型AlGaAs層120は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、クラッド層として機能する。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、i型AlGaAs層120の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。i型AlGaAs層120のAl組成は、0.1〜0.9の範囲内であることが適切である。厚さ方向のAl組成を連続的に変化させることによって、i型AlGaAs層120のバンドギャップエネルギが厚さ方向に連続的に変化する。
【0020】
i型GaAs/AlGaAs層122は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、発光層として機能する。i型GaAs/AlGaAs層122は、GaAs層およびAlGaAs層が交互に複数配置された量子井戸構造(MQW)を含む。量子井戸構造(MQW)は、GaAs/AlGaAs構造に代えて、InGaAs/GaAs構造、InGaAs/AlGaAs構造、GaAs/GaAsP構造、InGaAs/GaAsP構造、またはGaInNAs/GaAs構造であってもよい。
【0021】
半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、量子井戸構造(MQW)に含まれるGaAs層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。量子井戸構造(MQW)に含まれるAlGaAs層の厚さは、5nm〜12nmの範囲内であることが好ましい。当該AlGaAs層のAl組成は、0.1〜0.4の範囲内であることが適切である。GaAs層およびAlGaAs層の積層構造の繰り返し数は、2〜6の範囲内であることが適切である。
【0022】
p型AlGaAs層110は、i型積層結晶層108の上にエピタキシャル成長により形成される。p型AlGaAs層110は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に一部が酸化され、酸化狭窄層として機能する。p型AlGaAs層110の厚さは、20nm〜40nmの範囲内であることが好ましい。p型AlGaAs層110のAl組成は、0.95〜1.0の範囲内であることが適切である。p型AlGaAs層110にドーピングされる不純物原子として、C(炭素)、Znが挙げられる。p型AlGaAs層110のキャリア濃度は、1×10
18cm
−3〜3×10
18cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0023】
p型積層結晶層112は、p型AlGaAs層110の上にエピタキシャル成長により形成された、複数のp型3−5族化合物半導体結晶層からなる積層結晶層である。p型積層結晶層112は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、共振器の他方のミラーであるp型ミラー層として機能する。p型積層結晶層112は、例えば分布ブラッグ反射器(DBR)である。p型積層結晶層112は、低屈折率層である第1結晶層130と高屈折率層である第2結晶層132とを積層した積層結晶層を含む。つまり、第1結晶層130または第2結晶層132は、p型ミラー層として機能するp型積層結晶層112の一部を構成する。第1結晶層130と第2結晶層132を積層した積層構造を複数回繰り返して配置することで所定の波長の光の反射率を高くできる。
【0024】
第1結晶層130として、p型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層が挙げられる。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合、第1結晶層130に用いられるp型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。p型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層のAl組成(m)は、0.5〜1.0の範囲内であることが適切であり、特に0.8〜1.0の範囲内であることが好ましい。p型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層にドーピングされる不純物原子として、C、Znが挙げられる。p型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層のキャリア濃度は、1×10
18cm
−3〜4×10
18cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0025】
第2結晶層132としてのp型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層のAl組成(n)をp型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層のAl組成(m)より小さくすることで、p型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層の屈折率をp型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層の屈折率より大きくできる。第2結晶層132にp型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層を用いる場合、p型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。p型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層のAl組成(n)は、0.0〜0.2の範囲内(ただしp型Al
mGa
1−mAs(0<m≦1)層のAl組成(m)より小さい)であることが適切である。p型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層にドーピングされる不純物原子として、C、Znが挙げられる。p型Al
nGa
1−nAs(0≦n<1、m>n)層のキャリア濃度は、1×10
18cm
−3〜4×10
18cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0026】
第1結晶層130と第2結晶層132との間に、Al
sGa
1−sAsのAl組成sを連続的に変えたp型Al
sGa
1−sAs(0≦s≦1)層を配置してもよい。Al組成sを連続的に変えることで、第1結晶層130と第2結晶層132の間の電気抵抗を低減できる。第1結晶層130および第2結晶層132の繰り返し回数は、10〜30が好ましい。
【0027】
p型GaAs層114は、p型積層結晶層112の上にエピタキシャル成長されたp型3−5族化合物半導体結晶層である。p型GaAs層114は、他のp型半導体層を含んでもよい。p型GaAs層114は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、コンタクト層として機能する。p型GaAs層114の厚さは、10nm〜40nmの範囲内であることが好ましい。p型GaAs層114にドーピングされる不純物原子として、C、Znが挙げられる。p型GaAs層114のキャリア濃度は、4×10
19cm
−3〜1×10
20cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0028】
p型GaAs層114は、本発明におけるp型結晶層に相当する。すなわち、p型GaAs層114は、3−5族化合物半導体からなり、2×10
18cm
−3以上、1×10
19cm
−3以下の濃度の水素原子を含む。また、p型GaAs層114は、p型不純物原子として炭素原子を含む。なお、
図1において、p型GaAs層114を設けずに、第2結晶層132のキャリア濃度を高くして、これをコンタクト層として用いてもよい。この場合には、第2結晶層132が本発明におけるp型結晶層に相当する。
【0029】
p型GaAs層114をエピタキシャル成長させる場合、結晶層表面の平坦性を高めるため、3族原料ガス供給量に対する5族原料ガス供給量のモル比(V/III比)が比較的大きい条件を選択する。一方、V/III比を小さくすると、3族原料ガスに含まれる炭素原子が結晶層に取り込まれるようになり、結晶層に取り込まれた炭素原子がp型不純物として機能するようになる。p型GaAs層114等のp型結晶層の場合、V/III比の小さなエピタキシャル成長条件を選択すれば、結晶層中にp型不純物である炭素原子が取り込まれ、p型結晶層の抵抗率が低減でき、あるいはp型結晶層の抵抗率が制御しやすくなる。
【0030】
ところが、V/III比を小さくして3族原料ガス由来の炭素原子をp型結晶層に取り込めば、炭素原子に付随して水素原子もp型結晶層に多く取り込まれることになる。これら水素原子は、p型不純物である炭素原子を不活性化する。不活性化した炭素原子は、p型不純物として機能しないので、同一レベルの炭素原子がドープされたp型結晶層と比較すれば、正孔濃度が低くなる。また、炭素原子はそれ自体が正孔を散乱させる因子になるので、不活性化した炭素原子の比率が大きい結晶層では、同一レベルの正孔濃度を有する結晶層と比較して正孔移動度が小さくなる。正孔濃度の低下あるいは正孔移動度の低下は、p型結晶層の電気抵抗を増加させ、VCSELとして構成した場合の特性を劣化させることになる。
【0031】
本実施形態の半導体基板100において、p型結晶層であるp型GaAs層114に含まれる水素原子の濃度範囲は、2×10
18cm
−3以上、1×10
19cm
−3以下である。水素原子の濃度が1×10
19cm
−3以下であれば、p型GaAs層114に含まれる炭素原子が活性化される割合がより大きくなり、正孔濃度をより高くすることができる。この結果、電気抵抗をより小さくすることができる。また、不活性化される炭素原子の数が相対的に少なくなるので、正孔移動度を低下させる因子が少なく、その結果、電気抵抗をより小さくすることができる。
【0032】
一方、水素原子の濃度が2×10
18cm
−3以上であれば、p型GaAs層114の結晶性がより向上し、電気抵抗の上昇を抑えることができる。水素原子濃度を2×10
18cm
−3未満の非常に低い値にするには、p型GaAs層114を成長した後に、高温、または、長時間で熱処理する必要があるが、高温または長時間での熱処理は、p型GaAs層114の膜中に存在する水素原子を強制的に脱離させることになる。なお、p型GaAs層114の膜中に存在している水素原子は、C−H結合を形成した状態で安定に存在していると推察される。このため、水素原子を強制的に離脱させると、安定なC−H結合を高いエネルギーで切断することとなり、C原子のダングリングボンドを発生させると考えられる。C原子のダングリングボンドは、p型GaAs層114の結晶性を悪化させ、かえってp型GaAs層114の電気抵抗を上昇させることとなる。
【0033】
p型GaAs層114の水素原子濃度を2×10
18cm
−3未満の非常に低い値にする方策として、p型GaAs層114を成長させる段階での原料ガスとして、5族原子の有機化合物を使うことも考えられる。しかし、このような方策の場合であっても、不純物混入や欠陥発生により電気抵抗を上昇させることになると考えられる。従って、良好な電気抵抗特性を実現するp型GaAs層114中の水素原子濃度には、適切な範囲が存在することなる。p型結晶層中の水素原子の濃度を前述の範囲とする方法については製造方法において説明する。
【0034】
なお、VCSELを構成するp型結晶層のうち、コンタクト層として機能するp型GaAs層114は、p型AlGaAs層110と比較して、V/III比がより小さい条件でのエピタキシャル成長で形成する。この場合のV/III比として、0.01以上15.0以下が挙げられる。V/III比が小さいと、エピタキシャル結晶層に炭素原子とともに水素原子が多く取り込まれるようになるので、p型GaAs層114を本発明のp型結晶層とする効果が大きい。
【0035】
半導体基板100の製造方法は、以下のとおりである。ベース基板102を用意し、ベース基板102上にバッファ層104、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114を順次エピタキシャル成長させる。
【0036】
エピタキシャル成長にはMOCVD法を用いる。MOCVD法に用いる3族原料ガスは、3族原子に少なくとも1つのアルキル基が結合した3族原子のアルキル化物を含む。3族原料ガスとして、TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMI(トリメチルインジウム)が挙げられる。5族原料ガスは、5族原子の水素化物を含む。5族原料ガスとして、AsH
3(アルシン)、PH
3(ホスフィン)が挙げられる。n型不純物ガスとしてSi
2H
6(ジシラン)が挙げられる。エピタキシャル成長温度は、400℃〜800℃の範囲内で制御する。
【0037】
エピタキシャル成長において、3族原料ガスおよび5族原料ガスの供給量を制御することで各結晶層の組成が制御できる。また、n型不純物ガスの供給量を制御することでn型不純物のドーピング量が制御できる。p型不純物のドーピングには、3族原料ガスに含まれる炭素原子のオートドーピングが利用できる。すなわち、3族原料ガスのモル供給量に対する5族原料ガスのモル供給量の比(V/III比)が小さい場合には、3族原料ガスのアルキル基に由来する炭素原子がエピタキシャル成長層に混入する。炭素原子はp型不純物として機能するので、このようなアルキル基由来の炭素原子の混入を利用し、V/III比を制御することでエピタキシャル成長層への炭素原子すなわちp型不純物のドーピング量が制御できる。V/III比を小さくすれば、高価な5族原料ガスが節約でき、製造コストが低減できる。
【0038】
p型GaAs層114をエピタキシャル成長により形成する段階では、V/III比を小さくし、オートドーピングによりp型不純物である炭素原子を混入させる。ただし、V/III比が小さいので、エピタキシャル成長が終了した段階のp型GaAs層114には、炭素原子とともに水素原子が多く混入している。そこで、p型GaAs層114のエピタキシャル成長が終了した段階で、エピタキシャル成長されたp型GaAs層114を加熱し、p型GaAs層114内の水素原子濃度を低減する。
【0039】
p型GaAs層114を形成する段階とp型GaAs層114内の水素原子濃度を低減する段階を、同一反応炉において連続して行うことができる。この場合、反応炉へのガスの供給を停止して、反応炉内の雰囲気を減圧状態にすることができる。あるいは、p型GaAs層114を形成する段階とp型GaAs層114内の水素原子濃度を低減する段階を、反応炉を変えて不連続に行うこともできる。この場合、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性なガスで反応炉内の雰囲気を置換し、当該不活性ガスを流し続けた状態でp型GaAs層114を加熱できる。反応炉内の雰囲気を減圧状態にし、あるいは、雰囲気を不活性ガスに置換することで、雰囲気中の水素分圧を低く、たとえば水素分子濃度を検出限度以下にすることができる。これにより、p型GaAs層114内の水素原子濃度を効果的に低減できる。不活性ガスとして窒素が好ましい。
【0040】
なお、p型GaAs層114を形成する段階とp型GaAs層114内の水素原子濃度を低減する段階を連続して行う場合あるいは不連続に行う場合の何れの場合であっても、反応炉内に、たとえば水素キャリアガスと5族原料ガスとを流し続けてもよい。この場合、水素キャリアガスと5族原料ガスとを流し続けるので、反応炉内の雰囲気の水素分圧を低くすることができない。よって反応炉内の水素分圧が低い場合と比較して効果が限定的となる。ただし、p型GaAs層114内の水素原子濃度が高い場合には、水素原子を外部に拡散させ除去することが可能である。
【0041】
減圧雰囲気でp型GaAs層114を加熱する場合の圧力、加熱温度および加熱時間として、1×10
−3〜1×10
3Pa、300〜600℃、1〜30分が挙げられる。窒素雰囲気でp型GaAs層114を加熱する場合の窒素流量、圧力、加熱温度および加熱時間として、1〜200SLM、1×10
3〜1×10
5Pa、400〜700℃、1〜60分が挙げられる。水素キャリアガスおよび5族原料ガスの雰囲気でp型GaAs層114を加熱する場合のガス流量、圧力、加熱温度および加熱時間として、H
2流量が1〜200SLM、5族原料ガス流量が1〜2000SCCM、1×10
3〜1×10
4Pa、500〜800℃、1〜60分が挙げられる。
【0042】
p型結晶層を成長する段階において、アルキル基由来の炭素原子をドーピングすることに加え、p型不純物ガスを供給することによりp型不純物をドーピングすることもできる。p型不純物ガスとしてCX
4−yH
y(ただし、Xはハロゲン原子、yは0以上3以下の整数である。)が挙げられ、具体的にはCBrCl
3が挙げられる。他のp型不純物ガスとしてジエチル亜鉛(DEZn)が挙げられる。
【0043】
以上のようにして、半導体基板100が製造できる。p型GaAs層114をエピタキシャル成長により形成したさせた後、半導体基板100を加熱することにより、p型GaAs層114内の水素原子濃度を2×10
18cm
−3以上、1×10
19cm
−3以下の適切な範囲にすることができる。この結果、p型GaAs層114内に存在する炭素原子が活性化される割合が増加し、一方でp型GaAs層114の結晶性の低下も防ぐことができるので、p型GaAs層114の電気抵抗が低下する。コンタクト層として機能するp型GaAs層114の電気抵抗がVCSEL特性に及ぼす影響は大きいので、当該電気抵抗の低下によりVCSEL特性を著しく向上させることができる。
【0044】
図2は、垂直共振器面発光レーザ200の断面例を示す。垂直共振器面発光レーザ200は、ベース基板102、バッファ層104、n型ミラー層206、活性層208、酸化狭窄層210、p型ミラー層212、コンタクト層214、電極216および酸化層218を有する。活性層208は、クラッド層220および発光層222を有する。
【0045】
n型ミラー層206、活性層208、酸化狭窄層210、p型ミラー層212およびコンタクト層214の各々は、半導体基板100のn型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114の各々がメサ加工されて形成されたものである。電極216は、コンタクト層214に接してドーナツ状に形成された金属層であり、垂直共振器面発光レーザ200のアノード電極として機能する。酸化層218は、メサ加工されたp型AlGaAs層110を横方向酸化した酸化層である。活性層208は、クラッド層220および発光層222を含み、クラッド層220および発光層222の各々は、i型AlGaAs層120およびi型GaAs/AlGaAs層122の各々がメサ加工されて形成されたものである。なお、図示は省略したが、ベース基板102の上面または下面にはカソード電極が形成される。メサ加工は、n型ミラー層206の途中、たとえばn型ミラー層206の上部数層程度の深さで停止してもよい。
【0046】
垂直共振器面発光レーザ200の製造方法は以下の通りである。半導体基板100を製造した後、バッファ層104、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114をメサ加工する。その後、メサ加工した半導体基板100を酸化雰囲気に置き、p型AlGaAs層110を横方向酸化して酸化層218を形成する。さらに電極216となる金属層を蒸着法またはスパッタ法で形成し、フォトリソグラフィ法またはリフトオフ法により金属層をパターニングして電極216を形成する。
【0047】
(実施例1)
オフ角5°のベース基板102上に、表1に示す結晶層をエピタキシャル成長させた。3族原料ガスとしてTMGおよびTMAを用いた。5族原料ガスとしてアルシンを用いた。n型不純物ガスとしてジシランを用いた。層番号2〜5のp型結晶層ではV/III比が15以下と小さいので、3族原料ガスのメチル基に由来するC原子がp型不純物になるが、p型不純物ガスも併用した。p型不純物ガスとしてCBrCl
3を用いた。エピタキシャル成長の反応温度は、570℃〜680℃の範囲で制御した。なお、層番号1のp型GaAs層がp型GaAs層114に相当する。層番号3のp型AlGaAs層が第1結晶層130に相当する。層番号2のp型AlGaAs層が第2結晶層132に相当する。
【表1】
【0048】
層番号5から層番号1までの各層の形成工程では、エピタキシャル成長後に熱処理を行った。熱処理の工程は、エピタキシャル成長と同一の反応炉において、エピタキシャル成長の工程と連続して行った。具体的には、エピタキシャル成長の工程後に原料ガスの供給を停止し、エピタキシャル成長させた結晶層を加熱した。加熱温度および加熱時間は、600℃、20分とした。
【0049】
上記のようにして形成した半導体基板にメサ加工を施し、電極を形成して垂直共振器面発光レーザを作成したところ、正常にレーザ発振が観測された。発振のしきい値電流は0.45mAであった。スロープ効率は0.88W/Aであった。不良率は1.0%であった。
【0050】
(比較例)
比較例として、ベース基板102の上に、表2に示す結晶層をエピタキシャル成長させた。比較例における各層の形成工程は、層番号5から層番号1までの各層において加熱処理を行わなかった点を除き、実施例1と同様である。
【表2】
【0051】
上記のようにして形成した半導体基板に、実施例1と同様にメサ加工を施し、電極を形成して垂直共振器面発光レーザを作成したところ、電流上昇させた際に、レーザ出力が低下する素子が発生し、歩留まりが低下した。また、発振のしきい値電流は0.80mAと実施例1より高く、スロープ効率は0.52W/Aと実施例1より低下した。不良率は18.9%と実施例1より高かった。