特許第6012206号(P6012206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6012206変性セルロースナノファイバー及び変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012206
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】変性セルロースナノファイバー及び変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20161011BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20161011BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20161011BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20161011BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C08B15/06
   C08L101/12
   C08L55/02
   C08L77/00
   C08L1/26
【請求項の数】4
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2012-51338(P2012-51338)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-185068(P2013-185068A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年1月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/研究開発項目(4)化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発/セルロースナノファイバー強化による自動車用高機能化グリーン部材の研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514168843
【氏名又は名称】地方独立行政法人京都市産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仙波 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】上坂 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】北川 和男
(72)【発明者】
【氏名】矢野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明弘
(72)【発明者】
【氏名】吉村 知章
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−303361(JP,A)
【文献】 特開昭58−060093(JP,A)
【文献】 特開2004−218177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/06
C08L 1/00−101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が0.01〜3μmであり、平均繊維長が5〜3000μmであるセルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性することを特徴とする、変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
(1)平均繊維径が0.01〜3μmであり、平均繊維長が5〜3000μmであるセルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性する工程、
(2)工程(1)によって得られた変性セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合する工程、
を含む樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド樹脂及び/又はABS樹脂である、請求項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
(1)セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性する工程、
(2)工程(1)によって得られた変性セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合する工程、
を含み、
前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド樹脂及び/又はABS樹脂である、
樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性セルロースナノファイバー及び変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースファイバーは、全ての植物の基本骨格物質であり、地球上に一兆トンを超える蓄積がある。また、セルロースファイバーは、鋼鉄の1/5の軽さであるにも関わらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有する繊維である。この様なセルロースファイバーの物性を活かして、樹脂等のマトリックス中にフィラーとして含有させることで、低熱膨張を維持しながら、機械的強度を付与させる樹脂組成物の開発が行われている。
【0003】
例えば、セルロースファイバー(或いはセルロースナノファイバー)に対して、種々の化学的処理が施されており、セルロースファイバーの改質が試みられている。
【0004】
特許文献1及び2には、微細修飾セルロース繊維の製造方法において、天然セルロースにN−オキシル化合物及び共酸化剤を作用させることで、セルロースの水酸基にカルボキシル基、アルデヒド基を導入し、次いでカルボキシル基、アルデヒド基が導入されたセルロースに対し、カチオン化剤として有機オニウム化合物(有機性カチオン化合物)を用いてカチオン化処理を行う方法が記載されている。この有機オニウム化合物は、低分子量化合物であり、また反応部位を有するものでは無く、前記セルロースに吸着するものである。特許文献1及び2は、樹脂材料との複合化について検討していない。
【0005】
特許文献3には、四級アンモニウム基により置換されたカチオン化セルロース誘導体が記載されている。この四級アンモニウム基を有するカチオン化剤は、低分子量化合物である。特許文献3は、繊維形状のセルロース、更にはセルロースナノファイバーをカチオン化するものではなく、また樹脂材料との複合化について検討していない。
【0006】
また、特許文献4には、四級アンモニウム基を含有する化合物でカチオン変性されたセルロースミクロフィブリルが開示されている。この四級アンモニウム基を有するカチオン化剤は、反応性カチオン性モノマーの低分子量化合物である。特許文献4では、パルプ材料に前記カチオン化剤を添加し、カチオン化処理を施すことで、パルプ材料をミクロフィブリル化し易くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−127067号公報
【特許文献2】特開2011−47084号公報
【特許文献3】特開2002−226501号公報
【特許文献4】特開2011−162608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カチオン変性された、新規な変性セルロースナノファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、セルロースナノファイバーをジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によってカチオン変性することにより、新規な変性セルロースナノファイバーを得ることが可能となることを見出した。本発明はこの様な知見に基づき、更に鋭意検討を重ねて完成した発明である。
【0010】
本発明は下記項に示す変性セルロースナノファイバー及び当該変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物、並びに前記変性セルロースナノファイバーの製造方法及び前記樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0011】
項1. ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によってカチオン変性された、変性セルロースナノファイバー。
【0012】
項2. 前記変性セルロースナノファイバー中に、前記ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物が1〜50質量%含まれる、前記項1に記載の変性セルロースナノファイバー。
【0013】
項3. 前記項1又は2に記載の変性セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物。
【0014】
項4. 前記熱可塑性樹脂(B)100質量部に対する前記変性セルロースナノファイバー(A)の含有量が、1〜300質量部である、前記項3に記載の樹脂組成物。
【0015】
項5. 前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド樹脂及び/又はABS樹脂である、前記項3又は4に記載の樹脂組成物。
【0016】
項6. セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性することを特徴とする、変性セルロースナノファイバーの製造方法。
【0017】
項7. (1)セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性する工程、
(2)工程(1)によって得られた変性セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合する工程、
を含む樹脂組成物の製造方法。
【0018】
項8. 前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリアミド樹脂及び/又はABS樹脂である、前記項7に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、表面に存在する水酸基が分子量の大きな嵩高い化合物であるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によって置換されているので、変性セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集することを抑制できる。また、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物はカチオン性化合物であるため、変性セルロースナノファイバー同士の静電反発性を良好に得ることができる。
【0020】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、樹脂材料との混合において、変性セルロースナノファイバー同士の凝集が抑制され、変性セルロースナノファイバーが樹脂中で均一に分散されるので、力学的特性、耐熱性、表面平滑性、外観等に優れた変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物及び成形体を調製することができる。
【0021】
本発明の変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物は、力学的特性において、曲げ試験等の静的特性、及び衝撃試験等の動的特性をバランス良く向上できる。本発明の変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物は、耐熱性において、荷重たわみ温度では数十℃の向上を達成できる。
【0022】
本発明の変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物から得られる最終成形品は、セルロースナノファイバーの凝集塊が発生せず、表面平滑性及び外観に優れる。
【0023】
本発明の変性セルロースナノファイバーの調製に用いるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物は、繊維布帛関係の処理剤として使用されているものであり、コスト面、処理の簡便性に優れていることから実用化が容易である。本発明のジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によって変性されたセルロースナノファイバーは、樹脂組成物の樹脂成分中で分散性の促進効果が高い。
【0024】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、製紙関連の技術分野においては新規な変性セルロースナノファイバーを提供することができ、化学関連の技術分野においては前記変性セルロースナノファイバーを含む新規な樹脂組成物を提供することができ、自動車関連産業においては、前記樹脂組成物から調製した新規な成形加工品及び組み立て品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例で使用したセルロースナノファイバーの顕微鏡写真である(倍率:2000倍)。
図2】実施例で使用したセルロースナノファイバーの顕微鏡写真である(倍率:5000倍)。
図3】実施例で使用したセルロースナノファイバーの顕微鏡写真である(倍率:10000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の変性セルロースナノファイバー及び当該変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物、並びに前記変性セルロースナノファイバーの製造方法及び前記樹脂組成物の製造方法について、詳述する。
【0027】
1.変性セルロースナノファイバー
本発明の変性セルロースナノファイバー(A)は、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によってカチオン変性されたものである。
【0028】
変性セルロースナノファイバー(変性CNF)の原料として用いられるセルロースナノファイバー(CNF)は、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布、紙等の天然植物原料から得られるパルプ;レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。これらの中で、パルプが好ましい原材料として挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
前記パルプとしては、植物原料を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプが好ましいものとして挙げられる。これらの原材料は、必要に応じ、脱リグニン、又は漂白を行い、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。
【0030】
これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(以下、NUKPということがある)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(以下、NOKPということがある)、針葉樹漂白クラフトパルプ(以下、NBKPということがある))が特に好ましい。
【0031】
パルプは主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0〜40重量%程度、好ましくは0〜10重量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0032】
植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。これが、植物の基本骨格物質(基本エレメント)である。そして、このセルロースミクロフィブリルが集まって、植物の骨格を形成している。本発明において、「セルロースナノファイバー」とは、植物繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)をその繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものである。
【0033】
セルロースナノファイバーの製造方法(植物繊維を解繊する方法)としては、公知の方法が採用でき、例えば、前記植物繊維含有材料の水懸濁液又はスラリーをリファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。
【0034】
解繊する工程において、分散媒として水を用いた場合には、別の溶媒としては、両親媒性の溶媒を加えてもよい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール系のアルコール系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;n−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。これらの中で、アセトンが系中の水を除去しやすい点、及びCNFが非常に分散しやすい点から好ましい。
【0035】
前記解繊処理の方法としては、例えば、特開2011-213754号公報、特開2011-195738号公報に記載された解繊方法等を用いることができる。
【0036】
セルロースナノファイバーの比表面積としては、50〜300m/g程度が好ましく、70〜250m/g程度がより好ましく、100〜200m/g程度がさらに好ましい。セルロースナノファイバーの比表面積を高くすることで樹脂組成物の強度が向上するため、好ましい。また、比表面積が極端に高いと樹脂中での凝集が起こりやすくなり、目的とする高強度材料が得られないことがある。そのため、セルロースナノファイバーの比表面積は上記の範囲とすることが好ましい。また、セルロースナノファイバーの比表面積が大きいと、セルロースナノファイバーに対してジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によるカチオン変性を効率よく行うことができる。
【0037】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、3μm以下程度が好ましく、0.01〜3μm程度がより好ましい。また、平均繊維径が10〜200nm程度、好ましくは10〜150nm程度、特に好ましくは10〜100nm程度のセルロースナノファイバーを使用することもできる。また、セルロースナノファイバーの平均繊維長は、5〜3000μmが好ましい。尚、セルロースナノファイバーの繊維径の平均値(平均繊維径)は、電子顕微鏡の視野内の変性セルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。この様なセルロースナノファイバーとしては、ダイセル化学工業株式会社製の「セリッシュ」がある。前記特性を有するセルロースナノファイバーを用いることで、セルロースナノファイバーに対してジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によるカチオン変性を効率よく行うことができる。
【0038】
本発明のジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によってカチオン変性された変性セルロースナノファイバー(A)は、セルロースナノファイバーの表面に存在する水酸基の一部が、分子量の大きな嵩高い化合物であるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によって置換されているので、変性セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集することを抑制できる。また、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物は、カチオン性化合物であるため、変性セルロースナノファイバー同士の静電反発性を良好に得ることができる。その結果、樹脂材料中に配合するフィラーとして、本発明の変性セルロースファイバー(A)を用いた場合、樹脂成分中での分散性が優れ、樹脂組成物の機械的強度等の物性を向上させることができる。
【0039】
ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の好ましい態様は、下記一般式(1)で表されるジアリルアミン塩酸塩:
【0040】
【化1】
【0041】
(式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。)
及びエピクロルヒドリン:
【0042】
【化2】
【0043】
からなる重合物である。
【0044】
ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の好ましい態様は、下記一般式(2):
【0045】
【化3】
【0046】
(式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。Xは、エポキシ−2,3−プロピル基:
【0047】
【化4】
【0048】
又は、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基:
【0049】
【化5】
【0050】
である。)
で表される重合物である。
【0051】
ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の好ましい態様は、下記一般式(3):
【0052】
【化6】
【0053】
(式(3)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。)
で表される化合物である。
【0054】
一般式(1)〜(3)で表される化合物のRは、合成が工業的に可能であるという理由から、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基であることが好ましい。炭素数7〜10のアラルキル基としては、ベンジル基(C6H5CH2-)、フェネチル基(C6H5CH2CH2-)等がある。更に合成に掛かるコストが低いことから、メチル基が最も好ましい。
【0055】
一般式(2)、(3)で表される化合物(ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物)の重量平均分子量(Mw)は、変性セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集することを抑制でき、変性セルロースナノファイバー同士の静電反発性を良好に得ることができるという理由から、好ましくは0.1〜500万程度であり、より好ましくは1万〜100万程度であり、更に好ましくは2〜80万程度であり、特に好ましくは2.5〜60万程度である。
【0056】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの一部の水酸基が、前記ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部と、共有結合することによりカチオン変性されていることが好ましい。前記「共有結合」とは、原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学結合をいう。
【0057】
セルロースナノファイバーの一部の水酸基が、前記ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物のエピクロルヒドリン部と、共有結合することによりカチオン変性されている構造の一例としては、以下の一般式(4):
【0058】
【化7】
【0059】
(式(4)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。)
で表される構造が挙げられる。
【0060】
セルロースナノファイバーの一部の水酸基が、前記ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部と、共有結合することによりカチオン変性されていることで、樹脂中での分散性が向上するという効果を得ることができる。
【0061】
尚、本発明の変性セルロースナノファイバー中では、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とがイオン吸着しているものも含まれる。
【0062】
変性セルロースナノファイバー中の、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の含有量は、変性セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集することを抑制でき、変性セルロースナノファイバー同士の静電反発性を良好に得ることができるという理由から、1〜50質量%程度が好ましく、1〜20質量%程度がより好ましく、1.5〜20質量%程度が更に好ましく、2〜10質量%程度が特に好ましい。前記「含有量」とは、セルロースナノファイバーの一部の水酸基が、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部と、共有結合することにより含まれる量(共有結合量)であり、変性セルロースナノファイバーにおいて、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とがイオン吸着することにより含まれる量(イオン吸着量)が含まれていても良い。
【0063】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、表面に存在する水酸基が分子量の大きな嵩高い化合物であるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によって置換されているので、変性セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集することを抑制できる。また、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物はカチオン性化合物であるため、変性セルロースナノファイバー同士の静電反発性を良好に得ることができる。
【0064】
2.変性セルロースナノファイバーの製造方法
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法は、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性することを特徴とする。
【0065】
原料として用いられるセルロースファイバー及びジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物は、前記「1.変性セルロースナノファイバー」で記載したものを用いることができる。また、セルロースナノファイバーに対してジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によるカチオン変性を効率よく行うことができるという理由から、比表面積が大きいセルロースナノファイバーを使用することが好ましい。
【0066】
本発明の変性セルロースナノファイバーの好ましい製造方法としては、セルロースナノファイバーと、下記一般式(2):
【0067】
【化8】
【0068】
(式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。Xは、エポキシ−2,3−プロピル基:
【0069】
【化9】
【0070】
又は、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基:
【0071】
【化10】
【0072】
である。)
で表されるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させて、以下の一般式(4):
【0073】
【化11】
【0074】
(式(4)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。)
が一例として挙げられる変性セルロースナノファイバーを得るものである。
【0075】
前記一般式(2)で表されるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の好ましい態様は、下記一般式(3):
【0076】
【化12】
【0077】
(式(3)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は炭素数7〜10のアラルキル基である。)
で表される化合物である。
【0078】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造方法は、アルカリ存在下で、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部とを共有結合させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性することが好ましい。セルロースナノファイバーとジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物との反応は、水酸化アルカリ金属等のアルカリと共に、水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの存在下に行うことが好ましい。
【0079】
触媒となるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化アルカリ金属が好ましく使用できる。
【0080】
また、水は、水道水、精製水、イオン交換水、純水、工業用水等を好ましく使用することができる。更に、炭素数1〜4のアルコールとしては、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等を好ましく使用することができる。水と炭素数1〜4のアルコールは、夫々単独で使用でき、混合して使用しても良い。水と炭素数1〜4のアルコールとを混合して使用する場合、その組成比は適宜調整される。
【0081】
上記、アルカリ存在下で、セルロースナノファイバーとジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、良好に、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部とを共有結合させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性することができる。
【0082】
セルロースナノファイバーに対するジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の使用割合は、変性セルロースナノファイバー中のジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の含有量が上記1〜50質量%程度となる様に調整すれば良く、セルロースナノファイバー100質量部に対して、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物を、好ましくは3〜200質量部程度、より好ましくは3〜100質量部程度、更に好ましくは5〜45質量部程度使用すれば良い。
【0083】
また、アルカリ(水酸化アルカリ金属等)の使用割合は、変性セルロースナノファイバー中のジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物の含有量が上記1〜50質量%程度となる様に調整すれば良く、セルロースナノファイバーを100質量部として、アルカリを、好ましくは100〜500質量部程度、より好ましくは100〜300質量部程度、更に好ましくは100〜200質量部程度使用すれば良い。
【0084】
更に、水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの使用割合は、セルロースナノファイバーを100質量部として、好ましくは3000〜50000重量部程度、より好ましくは3000〜10000重量部程度、更に好ましくは5000〜10000重量部程度である。
【0085】
セルロースナノファイバーとジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させる温度は、通常10〜90℃程度、より好ましく20〜80℃程度、更に好ましくは30〜60℃程度である。また、セルロース繊維を含有する材料と前記カチオン化剤とを作用(反応)させる時間は、通常10分〜10時間程度、好ましくは30分〜5時間程度、より好ましくは1〜3時間程度である。また、反応を行う圧力は、特に制限がなく、大気圧下で行えばよい。
【0086】
上記反応によって、良好にセルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部とを共有結合させることができる。
【0087】
また、カチオン変性された本発明の変性セルロースナノファイバーをそのまま樹脂材料と混合しても良いが、前記カチオン変性を行った後、反応系中に残存する水酸化アルカリ金属塩等の成分を鉱酸、有機酸等により中和してから樹脂材料との混合工程に供するのが好ましい。更に、当該中和工程の他に、常法により洗浄、精製を行っても良い。
【0088】
本発明の変性セルロースナノファイバーの製造に用いるジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物は、繊維布帛関係の処理剤として使用されているものであり、コスト面、処理の簡便性に優れていることから実用化が容易である。本発明のジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によって変性されたセルロースナノファイバーは、樹脂組成物の樹脂成分中で分散性の促進効果が高い。
【0089】
3.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、変性セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物を含む。
【0090】
変性セルロースファイバー(A)としては、前記「1.変性セルロースナノファイバー」又は前記「2.変性セルロースナノファイバーの製造方法」で得られる変性セルロースナノファイバーを用いることができる。
【0091】
熱可塑性樹脂(B)としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、熱可塑性ポリウレタン、ポリアセタール、ナイロン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等が挙げられ、マトリックス材料として使用できる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。前記熱可塑性樹脂の中でも、これまでウッドプラスチックとして、木粉などの木質材料との複合化の実績が多数あるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリスチレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0092】
ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンの共重合合成樹脂)は、その一成分であるポリアクリロニトリルとセルロース系材料の相容性パラメーターが近接していることから相容性に優れるという理由から、マトリックス材料として好ましい。ポリ乳酸(PLA)は、これまでウッドプラスチックとして木粉などの木質材料との複合化の実績が多数あることからマトリックス樹脂として好ましい。また、分子構造内に極性の高いアミド結合を有するポリアミド系樹脂は,セルロース系材料との親和性が高いという理由から、ポリアミド6(PA6、ε−カプロラクタムの開環重合体)、ポリアミド66(PA66、ポリヘキサメチレンアジポアミド)、ポリアミド11(PA11、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、ポリアミド12(PA12、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等、及びポリアミド共重合樹脂等を用いることが好ましい。
【0093】
更に、構造部材として汎用性を有するポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリアミド樹脂が好ましい。前記熱可塑性樹脂(B)としては、上記樹脂の中でも、ポリアミド樹脂及び/又はABS樹脂が好ましい。
【0094】
熱可塑性樹脂(B)は、セルロースナノファイバーの凝集を低減できるという理由から、平均粒子径が、好ましくは50〜500μm程度、より好ましくは20〜100μm程度、更に好ましくは1〜20μm程度のものを使用することが好ましい。
【0095】
変性セルロースナノファイバー(A)の含有量は、配合による力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れるという理由から、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、1〜300質量部程度が好ましく、1〜200質量部程度がより好ましく、1〜100質量部程度が更に好ましい。
【0096】
また、上記樹脂組成物中に含まれる各成分に加え、例えば、相溶化剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を配合してもよい。
【0097】
任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよいが、例えば、樹脂組成物中10質量%程度以下が好ましく、5質量%程度以下がより好ましい。
【0098】
本発明の樹脂組成物は、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物によってカチオン変性された変性セルロースナノファイバーを含むので、変性セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集することを抑制でき、変性セルロースナノファイバー同士の静電反発性を良好に得ることができる。よって、変性セルロースナノファイバーと樹脂材料との混合工程において、変性セルロースナノファイバー同士の凝集が抑制され、変性セルロースナノファイバーが樹脂中で均一に分散され、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れた変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物を得ることができる。本発明の変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物は、力学的特性において、曲げ試験等の静的特性、及び衝撃試験等の動的特性をバランス良く向上できる。本発明の変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物は、耐熱性において、荷重たわみ温度では数十℃の向上を達成できる。
【0099】
4.樹脂組成物の製造方法
本発明の樹脂組成物の製造方法は、
(1)セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物とを反応させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性する工程、
(2)工程(1)によって得られた変性セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合する工程、
を含む。
【0100】
工程(1)は、前記「2.変性セルロースナノファイバーの製造方法」で記載した通りである。工程(1)によって得られた変性セルロースナノファイバー(A)は、工程(2)において熱可塑性樹脂(B)と混合する。また、本発明では、当該混合工程を「複合化」ともいう。
【0101】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、前記工程(1)が、アルカリ存在下で、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)のエピクロルヒドリン部とを共有結合させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性する工程(1a)であることが好ましい。工程(1a)については、前記「2.変性セルロースナノファイバーの製造方法」で記載した通りである。
【0102】
工程(2)において、変性セルロースナノファイバー(A)の配合量としては、前記「3.樹脂組成物」で記載した、樹脂組成物に含まれる変性セルロースナノファイバー(A)の含有量となる様に調整すれば良く、当該含有量と同等の配合量を配合すれば良い。
【0103】
また、工程(2)において、前記熱可塑性樹脂(B)は、ポリアミド樹脂及び/又はABS樹脂であることが好ましい。
【0104】
工程(2)において、混合する温度(複合化温度)は、好ましくは60〜250℃程度、より好ましくは80〜230℃程度、更に好ましくは120〜〜200℃程度である。マトリックス樹脂材料の一般的な成形加工温度以上において変性セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを均一に混合することにより、複合化することができる。
【0105】
工程(2)において、任意の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、前記「3.樹脂組成物」で記載したものを用いることができる。
【0106】
工程(2)の混合工程において、熱可塑性樹脂(B)中に変性セルロースナノファイバー(A)を均一に分散させることができるという点から、分散媒中に分散させて、混合してもよい。分散媒としては、例えば、水;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のエーテル類のジメチル、ジエチル化物等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の非極性溶媒、又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。また、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂(B)を良好に分散させることができるという理由から、キシレン、テトラリンを使用することが好ましく、特にキシレンを使用することが好ましい。
【0107】
変性セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)、その他の任意の添加剤とを混合する方法としては、特に限定されないが、ミキサー、ブレンダー、単軸スクリュー混練機、二軸スクリュー混練機、ニーダー、ラボプラストミル、ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、遊星攪拌装置、3本ロール等の混合又は攪拌できる装置で混合、攪拌する方法が挙げられる。
【0108】
本発明の樹脂組成物は、所望の形状に成形され、成形材料として用いることができる。
【0109】
変性セルロースナノファイバーと樹脂材料との混合工程において、変性セルロースナノファイバー同士の凝集が起こらず、変性セルロースナノファイバーが樹脂中で均一に分散されるので、力学的特性、耐熱性、表面平滑性、外観等に優れた変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物及び成形体を得ることができる。更に、樹脂組成物では、力学的特性において、曲げ試験等の静的特性、及び衝撃試験等の動的特性をバランス良く向上できる。また、樹脂組成物では、耐熱性において、荷重たわみ温度では数十℃の向上を達成できる。また、樹脂組成物から得られる最終成形品では、セルロースナノファイバーの凝集塊が発生せず、表面平滑性及び外観に優れる。
【0110】
5.成形材料及び成形体
本発明は、前記の樹脂組成物を用いた成形材料にも関する。
【0111】
前記樹脂組成物は、所望の形状に成形され成形材料として用いることができる。成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。これらの形状を有する成形材料は、例えば金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いて得られる。
【0112】
更に本発明は、前記成形材料を成形してなる成形体にも関する。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【0113】
本発明の成形体は、セルロースナノファイバー含有樹脂成形物が使用されていた繊維強化プラスチック分野に加え、より高い機械強度(引っ張り強度等)が要求される分野にも使用できる。例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【0114】
本発明の変性セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物から得られる最終成形品は、セルロースナノファイバーの凝集塊が発生せず、表面平滑性及び外観に優れる。
【0115】
本発明の変性セルロースナノファイバーは、製紙関連の技術分野においては新規な変性セルロースナノファイバーを提供することができ、化学関連の技術分野においては前記変性セルロースナノファイバーを含む新規な樹脂組成物を提供することができ、自動車関連産業においては、前記樹脂組成物から調製した新規な成形加工品及び組み立て品を提供することができる。
<実施例>
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0116】
(1)各種カチオン変性処理剤によるCNFのカチオン変性処理1
実施例1
1.カチオン変性処理剤によるCNFのカチオン変性処理
表1に示すカチオン変性処理剤によりセルロースナノファイバー(CNF)のカチオン変性処理を行った。使用したCNFは、ダイセル化学工業株式会社製の「セリッシュ(KY100G)」である。セリッシュ(KY100G)は、コットンリンター等を由来原料として、高剪断力、高衝撃力を作用させることによって、高度に裂解・微細化した、平均繊維径10nm〜10μm、平均繊維長0.4〜0.5mmのCNFである。
【0117】
【表1】
【0118】
表1中、「反応型」とは、カチオン変性処理剤に反応部位があり、CNFの水酸基と共有結合できる化合物である。「非反応型」とは、カチオン変性処理剤に反応部位がなく、CNFの水酸基と共有結合できない化合物であり、CNFとイオン吸着するものである。
【0119】
次に、アルカリ有の条件下において、CNFとカチオン変性処理剤とを反応若しくは吸着させた。表2にアルカリを使用した場合の処理スキームを示す。アルカリ存在下で、セルロースナノファイバーとメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物とを反応させることにより、良好に、セルロースナノファイバーの一部の水酸基とメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物のエピクロルヒドリン部とを共有結合させることにより、セルロースナノファイバーをカチオン変性することができる。
【0120】
【表2】
【0121】
2.CNFのカチオン化ポリマー定着量
微量全窒素分析装置を用いて窒素量(N量)を測定し、セルロースナノファイバー(CNF)へのカチオン変性剤の定着量を算出した。その結果を表3に定着量を示した。
【0122】
【表3】
【0123】
尚、試料No.Tr6、Tr7、Tr10は、アルカリ処理を施していない試料であり、イオン吸着による定着量を示す。また、試料No.Tr1、Tr2は、反応型のカチオン変性処理剤を用い、アルカリ処理を施した試料であり、イオン吸着及び共有結合による定着量を示す。試料No.Tr5は、非反応型のカチオン変性処理剤を用いた試料であり、イオン吸着による定着量を示す。カチオン変性処理剤としてメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物を使用したTr1、Tr2が、高いカチオン変性処理剤定着量を示した。
【0124】
3.樹脂組成物の作製
カチオン化ポリマー処理したセルロースナノファイバー(CNF)とポリアミド11(PA11)との複合化を行った。複合化のスキームを表4に示した。
【0125】
【表4】
【0126】
下記表5及び6に作製した複合材料の組成を示した。
【0127】
未処理CNF又はカチオン変性処理剤による処理CNFの添加量を、5質量%(熱可塑性樹脂100質量部に対して変性CNFは5.6質量部に相当する)(表5)及び10質量%(熱可塑性樹脂100質量部に対して変性CNFは11.1質量部に相当する)(表6)とした。
【0128】
【表5】
【0129】
【表6】
【0130】
4.評価方法
曲げ試験、Izod衝撃試験及び荷重たわみ温度(HDT)試験を行った。試験条件を表7に示す。
【0131】
【表7】
【0132】
5.評価結果及び考察
試験結果(力学的特性及びHDT(NBはNot Break)の一覧を表8に示す。
【0133】
曲げ試験では、マトリックスに未処理CNFを5質量%添加することにより弾性率及び強度が向上し、更にカチオン変性処理CNFを添加した材料において、未処理CNF添加材料(ブランク5試料)よりも曲げ特性が向上した。
【0134】
Izod衝撃試験では、マトリックスにカチオン変性処理したCNFを添加した場合は、低下度合いが抑えられ、耐衝撃性を良好に維持することができた。メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物を用いたPat1は、ブランク5試料に比べて、2.75J-Nが高い値を示し、5.5J-RはNBであった。
【0135】
HDT試験では、0.45MPa及び1.8MPaともに、カチオン変性処理を行ったCNFを5質量%添加することで向上した。Pat1、Pat2は、ブランク5試料に比べてHDT試験の0.45MPa応力下、1.8MPa応力下での試験において、向上した。
【0136】
Pat11、Pat12は、カチオン変性処理CNFを添加することで、曲げ特性が大きく向上した(曲げ試験)。Pat11、Pat12は、耐衝撃性も向上した(Izod衝撃試験)。Pat11、Pat12は、HDT試験の1.8MPa応力下での試験において、数十℃の大きな向上が見られた。
【0137】
【表8】
【0138】
(2)各種カチオン変性処理剤によるCNFのカチオン変性処理2
実施例2
高圧ホモジナイザーにより解繊された含水セルロースナノファイバー(CNF)を固形分2質量%となるように蒸留水に加え撹拌した。次に分子量約3万のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物をCNF固形分100質量部に対して5、10、30又は50質量部、及び各々に苛性ソーダ(NaOH)をCNF100質量部に対して150質量部添加し、40℃において一時間撹拌した。反応後のスラリーを塩酸により中和、水洗し、カチオン変性セルロースナノファイバー(変性CNF)を得た。
【0139】
得られた変性CNFの全窒素量を測定し、変性CNF中のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の質量%を測定した。結果を下記表9に示す。
【0140】
メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が5〜30質量%までは、変性CNF中のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の質量が増加し、それ以降の添加量50質量%まではほぼ一定となった。
【0141】
次に、これら変性CNF10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のポリアミド11(PA11、アルケマ社製リルサンBESNO)(PA11 100質量部に対して、変性CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0142】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験及び荷重たわみ温度測定を行った。尚Izod衝撃試験は,2.75J-N試験(ノッチ挿入面側を打撃し、ノッチ先端より破壊開始する試験)及び5.5J-R試験(ノッチ挿入面と反対面を打撃し、成形体表面より破壊開始する試験)を実施した。得られた曲げ弾性率、曲げ強度、Izod衝撃強度及び荷重たわみ温度を下記表10に示す。
【0143】
使用したCNF、物性評価方法の詳細は次の通りである。
【0144】
セルロースナノファイバー(CNF)
ダイセル化学工業株式会社製の「セリッシュ(KY100G)」を使用した。セリッシュ(KY100G)は、コットンリンター等を由来原料として、高剪断力、高衝撃力を作用させることによって、高度に裂解・微細化した、繊維径10nm〜10μm、平均繊維長0.4〜0.5mmのCNFである。また、その他の実施例及び比較例においてもセリッシュを使用した。
【0145】
特性評価方法
曲げ試験(JIS K-7171):幅10mm、厚さ4mm、長さ80mmの射出成形体を支点間距離64mm、曲げ速度10mm/minにて3点曲げを行った。
【0146】
Izod衝撃試験(JIS K-7110):曲げ試験と同じ射出成形体に2mmのノッチを挿入しハンマー容量2.75Jにてノッチ挿入面を打撃する試験(2.75J-N)、及びハンマー容量5.5Jにてノッチ挿入面と反対側を打撃する試験(5.5J-R)を実施した。前者ではノッチからき裂が進展、後者ではノッチの無い成形体表面からき裂が進展する。何れもエッジワイズ試験である。
【0147】
荷重たわみ温度試験(JIS K-7191):30℃のシリコンバスに試験片を浸し,低荷重試験では曲げ応力を0.45MPa,高荷重試験では1.8MPaとし,120℃/時間にて昇温し,曲げたわみ量が0.34mmとなった温度を荷重たわみ温度とした。
【0148】
【表9】
【0149】
【表10】
【0150】
曲げ特性は、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が変化しても、良好に維持できた。Izod衝撃強度5.5J-Rは、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が多くなるほど向上した。荷重たわみ温度は、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が変化しても、良好に維持できた。
【0151】
実施例3
高圧ホモジナイザーにより解繊された含水CNFを固形分2質量%となるように蒸留水に加え撹拌した。次に分子量約50万のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物をCNF固形分100質量部に対して5、10、30又は50質量部、及び各々に苛性ソーダ(NaOH)をCNF100質量部に対して150質量部添加し、40℃において一時間撹拌した。反応後のスラリーを塩酸により中和、水洗し、カチオン変性CNFを得た。
【0152】
得られた変性CNFの全窒素量を測定し、変性CNF中のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の質量%を測定した。結果を下記表11に示す。
【0153】
メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が5〜30質量%までは、変性CNF中のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の質量が増加し、それ以降の添加量50質量%まではほぼ一定となった。
【0154】
次に、これら変性CNF10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のポリアミド11(PA11、アルケマ社製リルサンBESNO)(PA11 100質量部に対して、変性CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0155】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験(2.75J-N試験、5.5J-R試験)、荷重たわみ温度測定を行った。得られた曲げ弾性率、曲げ強度、Izod衝撃強度及び荷重たわみ温度を下記表12に示す。
【0156】
【表11】
【0157】
【表12】
【0158】
曲げ特性は、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が変化しても、良好に維持できた。Izod衝撃強度5.5J-Rは、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が多くなるほど向上した。荷重たわみ温度は、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が変化しても、良好に維持できた。
【0159】
比較例1
高圧ホモジナイザーにより解繊されたCNF 10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のポリアミド11(アルケマ社製リルサンBESNO)(PA11 100質量部に対して、CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0160】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験(2.75J-N試験、5.5J-R試験)、荷重たわみ温度測定を行った。
【0161】
曲げ弾性率は1890MPa、曲げ強度は67.4MPa、Izod衝撃強度は、2.75J-Nが3.88kJ/m2、5.5J-Rが54.8kJ/m2であった。また荷重たわみ温度は、低荷重(0.45MPa)が160.4℃、高荷重(1.8MPa)が65.9℃であった。
【0162】
比較例2
高圧ホモジナイザーにより解繊された含水CNFを固形分2質量%となるように蒸留水に加え撹拌した。次に分子量約50万のCNFの水酸基と反応性を持たないポリアミン・エピクロルヒドリン変性重合物(TND127):
【0163】
【化13】
【0164】
をCNF固形分100質量部に対して30質量部、及び苛性ソーダ(NaOH)をCNF100質量部に対して150質量部添加し、40℃において一時間撹拌した。反応後スラリーを塩酸により中和、洗浄し、変性CNFを得た。
【0165】
得られた変性CNFの全窒素量を測定し反応量を算出したところ、変性CNF中の1.4質量%がポリアミン・エピクロルヒドリン変性重合物であった。この変性CNF 10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のポリアミド11(PA11、アルケマ社製リルサンBESNO)(PA11 100質量部に対して、変性CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0166】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験(2.75J-N試験、5.5J-R試験)、荷重たわみ温度測定を行った。
【0167】
曲げ弾性率は1780MPa、曲げ強度は65.8MPa、Izod衝撃強度は、2.75J-Nが3.62kJ/m2、5.5J-Rが51.1kJ/m2であった。また荷重たわみ温度は、低荷重(0.45MPa)が160.3℃、高荷重(1.8MPa)が64.7℃であった。
【0168】
参考例
高圧ホモジナイザーにより解繊された含水CNFを固形分2質量%となるように蒸留水に加え撹拌した。次にグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド:
【0169】
【化14】
【0170】
をCNF固形分100質量部に対して300質量部、及び苛性ソーダ(NaOH)を全蒸留水量100質量部に対して55質量部添加し、80℃において一時間撹拌した。反応後スラリーを塩酸により中和、洗浄し、変性CNFを得た。
【0171】
この変性CNF 10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のポリアミド11(PA11、アルケマ社製リルサンBESNO)(PA11 100質量部に対して、変性CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0172】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験(2.75J-N試験、5.5J-R試験)、荷重たわみ温度測定を行った。
【0173】
曲げ弾性率は1820MPa、曲げ強度は66.3MPa、Izod衝撃強度は、2.75J-Nが4.23kJ/m2、5.5J-Rが52.3kJ/m2であった。また荷重たわみ温度は、低荷重(0.45MPa)が157.4℃、高荷重(1.8MPa)が62.3℃であった。
【0174】
実施例4
実施例1と同様に、分子量約3万のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物をCNF固形分100質量部に対して5又は30質量部添加して、及び各々に苛性ソーダ(NaOH)をCNF100質量部に対して150質量部添加し、変性CNFを作製した(表13)。得られた変性CNF 10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂、日本エイアンドエル株式会社製クララスチックS3716)(ABS樹脂100質量部に対して、変性CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0175】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験(2.75J-N試験、5.5J-R試験)、荷重たわみ温度測定を行った。得られた曲げ弾性率、曲げ強度、Izod衝撃強度及び荷重たわみ温度を下記表14に示す。
【0176】
【表13】
【0177】
【表14】
【0178】
曲げ特性は、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が変化しても、良好に維持できた。Izod衝撃強度5.5J-Rは、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が多くなるほど向上した。荷重たわみ温度は、メチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量が変化しても、良好に維持できた。
【0179】
比較例3
高圧ホモジナイザーにより解繊されたCNF 10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のABS樹脂(日本エイアンドエル株式会社製クララスチックS3716)(ABS樹脂100質量部に対して、CNF 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0180】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験(2.75J-N試験、5.5J-R試験)、荷重たわみ温度測定を行った。
【0181】
曲げ弾性率は2690MPa、曲げ強度は74.3MPa、Izod衝撃強度は、2.75J-Nが3.24kJ/m2、5.5J-Rが12.1kJ/m2であった。また荷重たわみ温度は、低荷重(0.45MPa)が107.8℃、高荷重(1.8MPa)が105.4℃であった。
【0182】
評価結果の考察
実施例2及び3は、曲げ弾性率、曲げ強度、Izod衝撃強度及び荷重たわみ温度において優れた特性を示した。またメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物の添加量によって、曲げ特性及び耐衝撃性を任意に変化させられることが確認できた。尚、ナイロン11のみの成形体の物性は、曲げ弾性率1160MPa、曲げ強度49.6MPa、Izod衝撃強度2.75J-Nは8.04kJ/m2、5.5kJ-Rは破壊せず、荷重たわみ温度は、低荷重(0.45MPa)が111.4℃、高荷重(1.8MPa)が47.1℃であった。
【0183】
比較例1は、カチオン変性処理しなかったCNFにより強化した熱可塑性樹脂組成物であり、実施例1及び2の変性CNF添加熱可塑性樹脂組成物よりも全ての評価項目において劣っていた。
【0184】
比較例2は、実施例3で使用したカチオン化ポリマーと同等の分子量で、CNFの水酸基と反応性を持たないカチオン化ポリマーにより処理したCNFによる強化熱可塑性樹脂組成物である。実施例3の変性CNF添加熱可塑性樹脂組成物よりも低い特性であった。
【0185】
参考例は、先行文献である特開2011-162608号公報に示されたカチオン性モノマーをCNFの水酸基に共有結合させカチオン性を付与したCNFによる強化熱可塑性樹脂組成物である。実施例2及び3の変性CNF添加熱可塑性樹脂組成物に比べると、物性が十分ではなかった。
【0186】
実施例4は、実施例2において用いたメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物によりカチオン化されたCNFをABSに添加したカチオン化CNF強化熱可塑性樹脂組成物であり、曲げ弾性率及び曲げ強度において優れた特性を示した。尚、用いているABS樹脂のみの成形体の物性は、曲げ弾性率2220MPa、曲げ強度69.4MPa、Izod衝撃強度2.75J-Nは19.1kJ/m2、5.5kJ-Rは118 kJ/m2、荷重たわみ温度は、低荷重(0.45MPa)が101.2℃、高荷重(1.8MPa)が105.3℃であった。
【0187】
比較例3は、カチオン変性処理しなかったCNFにより強化したABS樹脂組成物であり、実施例4の変性CNF添加熱可塑性樹脂組成物よりも曲げ弾性率及び曲げ強度が劣っていた。
【0188】
比較例4
パルプ材料を用いて、実施例2と同様の手順によりをカチオン変性し、カチオン変性パルプを作製した。
【0189】
分子量約3万のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物をカチオン変性パルプのパルプ固形分100質量部に対して30質量部、及び苛性ソーダ(NaOH)をパルプ固形分100質量部に対して150質量部添加し、40℃において一時間撹拌した。これら変性パルプ10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のポリアミド11(PA11、アルケマ社製リルサンBESNO)(PA11 100質量部に対して、カチオン変性パルプ 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0190】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験、荷重たわみ温度測定を行った。尚Izod衝撃試験は,2.75J-N試験(ノッチ挿入面側を打撃し、ノッチ先端より破壊開始する試験)及び5.5J-R試験(ノッチ挿入面と反対面を打撃し、成形体表面より破壊開始する試験)を実施した。
【0191】
得られた曲げ弾性率は1680MPa、曲げ強度は63.4MPa、Izod衝撃強度は2.75J-Nが4.05kJ/m2、5.5J-Rが51.6kJ/m2、荷重たわみ温度は0.45MPaが160.7℃、1.8MPaが56.6℃であった。
【0192】
カチオン変性CNFを含む樹脂組成物と比べて、カチオン変性パルプを含む樹脂組成物では、曲げ特性、Izod衝撃強度及び荷重たわみ温度が劣っていた。
【0193】
比較例5
パルプ材料を用いて、実施例2と同様の手順によりをカチオン化変性し、カチオン変性パルプを作製した。
【0194】
分子量約3万のメチルジアリルアミン塩酸塩・エピクロルヒドリン変性重合物をカチオン変性パルプのパルプ固形分100質量部に対して30質量部、及び苛性ソーダ(NaOH)をパルプ固形分100質量部に対して150質量部添加し、40℃において一時間撹拌した。これら変性パルプ10質量%と熱可塑性樹脂として90質量%のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂、日本エイアンドエル株式会社製クララスチックS3716)(ABS樹脂100質量部に対して、カチオン変性パルプ 11.1質量部)を設定温度190℃にて二軸スクリュー混練押出機を用いて複合化した。射出成形機を用いて、複合材料を射出成形体へ加工した。
【0195】
得られた成形体について、曲げ試験、Izod衝撃試験、荷重たわみ温度測定を行った。尚Izod衝撃試験は,2.75J-N試験(ノッチ挿入面側を打撃し、ノッチ先端より破壊開始する試験)及び5.5J-R試験(ノッチ挿入面と反対面を打撃し、成形体表面より破壊開始する試験)を実施した。
【0196】
得られた曲げ弾性率は2790MPa、曲げ強度は79.3MPaであった。
【0197】
カチオン変性CNFを含む樹脂組成物と比べて、カチオン変性パルプを含む樹脂組成物では、曲げ特性が劣っていた。
図1
図2
図3