(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不織布が、血液滑性付与剤含有第3領域において、血液滑性付与剤含有第2領域及び血液滑性付与剤含有第4領域における血液滑性付与剤の坪量の1〜70質量%の血液滑性付与剤の坪量を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の不織布。
前記不織布が、前記縦方向に延びる、複数の畝部と、複数の溝部とを有し、第1領域が前記溝部であり、第2領域及び第4領域が、それぞれ、前記畝部の側部であり、そして第3領域が、前記畝部の中央部である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の不織布。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[定義]
本明細書において用いられる用語のうち、その一部を定義する。
・「縦方向に配向する繊維」
本明細書において、「縦方向に配向する繊維」は、縦方向に対して、−45°超且つ+45°未満の範囲に配向している繊維を意味する。
【0012】
・「横方向に配向する繊維」
本明細書において、「横方向に配向する繊維」は、上記縦方向と直交する横方向に対して、−45°超且つ+45°未満の範囲に配向している繊維を意味する。
なお、縦方向に対して−45°又は+45°に配向している繊維(すなわち、横方向に対して、−45°又は+45°に配向している繊維)は、縦方向に配向する繊維、及び横方向に配向する繊維のいずれにも含まれない。
【0013】
・「第2領域」及び「血液滑性付与剤含有第2領域」
本明細書において、「血液滑性付与剤含有第2領域」は、第2領域の中で、血液滑性付与剤を含む部分を意味する。従って、第2領域が、その全体に血液滑性付与剤を含む場合には、第2領域と、血液滑性付与剤含有第2領域との範囲は同一である。
なお、第3領域と、血液滑性付与剤含有第3領域との関係、並びに第4領域と、血液滑性付与剤含有第4領域との関係も同一である。
【0014】
・「畝部」及び「溝部」
本明細書において、「畝部」は、一定の方向に延びる、他の領域よりも高い部分を意味し、「溝部」は、概ね一つの方向に延びる、他の領域よりも低い部分を意味し、そして「畝部」及び「溝部」は、上記一定の方向と垂直な方向に交互に配置されている。
本明細書では、便宜上、「畝部」及び「溝部」を、その坪量により区別することができる。
例えば、畝部は、不織布全体の平均坪量よりも高い坪量を有する部分であり、そして溝部は、不織布全体の平均坪量よりも低い坪量を有することができる。
【0015】
・「排泄口当接域」
本明細書において、トップシートに関する「排泄口当接域」は、トップシートの中で、着用者の排泄口(小陰唇等)に当接する領域を意味する。上記排泄口当接域は、吸収性物品のサイズ等によってもその位置が異なるが、サイドフラップを有する吸収性物品の場合には、一般的には、吸収性物品の幅方向の中心を通る長手方向線と、両ウィング部の長手方向中心を通る幅方向線との交点とを囲むように連続的又は非連続的に配置されているエンボスにより画定される領域の内側が排泄口当接域である。また、サイドフラップを有しない吸収性物品の場合には、一般的には、吸収性物品の幅方向中心部且つ長手方向中心部を囲むように連続的又は非連続的に配置されているエンボスにより画定されるが排泄口当接域である。
【0016】
・「血液滑性付与剤含有領域」
本明細書において、トップシートに関する「血液滑性付与剤含有領域」は、トップシートが、血液滑性付与剤を含む領域を意味する。トップシートは、排泄口当接域に、血液滑性付与剤含有領域を有することが好ましく、例えば、トップシートは、排泄口当接域の一部又は全部に血液滑性付与剤含有領域を有することができる。トップシートはまた、排泄口当接域以外の領域に、血液滑性付与剤含有領域を有することができる。
【0017】
本開示の、吸収性物品のトップシート用の不織布について、以下、詳細に説明する。
なお、「吸収性物品のトップシート用の不織布」を、以下、単に「不織布」と称する場合がある。
図1は、本開示の実施形態の1つに従う不織布の斜視図である。
図1に示される不織布5は、縦方向Lと、横方向Cとを有する。
図1に示される不織布5は、縦方向Lに延びる第1領域1と、第1領域1に隣接する第2領域2と、第2領域2に隣接する第3領域3と、第3領域3に隣接する第4領域4との4領域から成るユニット6を、横方向Cに複数有する。
図1に示される不織布5では、第1領域1、第2領域2、第3領域3及び第4領域4が、縦方向Lに延びている。
【0018】
なお、本開示の不織布では、第1領域、第2領域、第3領域及び第4領域から成るユニットは、横方向に一定の間隔をおいて配置されていてもよく(すなわち、あるユニットの第4領域が、隣のユニットの第1領域と横方向に一定の間隔を有してもよい)、そして横方向に連続して配置されていてもよい(すなわち、あるユニットの第4領域が、隣のユニットの第1領域と隣接していてもよい)。
【0019】
また、
図1に示される不織布5では、第2領域2及び第4領域4が、第3領域3よりも高い、縦方向Lに配向する繊維の含有率を有し、そして第1領域1が、第3領域3よりも高い、横方向Cに配向する繊維の含有率を有する。
なお、本明細書では、「縦方向に配向する繊維」及び「横方向に配向する繊維」を、それぞれ、「縦配向繊維」及び「横配向繊維」と略する場合がある。
【0020】
図1に示される不織布5は、縦方向Lに延びる、複数の畝部7と、複数の溝部8とを有し、そして第1領域1が溝部8であり、第2領域2、第3領域3及び第4領域4が畝部7であり、より具体的には、第3領域3が畝部の中央部7’’であり、そして第2領域2及び第4領域4が、畝部の側部7’である。
なお、
図1に示される不織布5において、畝部7の坪量は、溝部8の坪量よりも大きい。
【0021】
図2は、
図1に示される不織布5が含む血液滑性付与剤の量を説明するための図である。
図2に示される不織布5では、第2領域2、第3領域3及び第4領域4が、それぞれ、40℃における0.01〜80mm
2/sの動粘度と、0.01〜4.0質量%の抱水率と、1,000未満の重量平均分子量とを有する血液滑性付与剤を含む血液滑性付与剤含有第2領域12、血液滑性付与剤含有第3領域13及び血液滑性付与剤含有第4領域14を有し、そして血液滑性付与剤含有第2領域12及び血液滑性付与剤含有第4領域14における血液滑性付与剤の坪量が、血液滑性付与剤含有第3領域13における血液滑性付与剤の坪量よりも多い。
【0022】
図3は、本開示の別の実施形態に従う不織布の斜視図である。
図3に示される不織布5は、縦方向Lと、横方向Cとを有し、縦方向Lに延びる第1領域1と、第1領域1に隣接する第2領域2と、第2領域2に隣接する第3領域3と、第3領域3に隣接する第4領域4との4領域から成るユニット6を、横方向Cに複数有する。
図3に示される不織布5では、第1領域1、第2領域2、第3領域3及び第4領域4が、縦方向Lに延びている。
【0023】
また、
図3に示される不織布5では、第2領域2及び第4領域4が、第3領域3よりも高い、縦方向Lに配向する繊維の含有率を有し、そして第1領域1が、第3領域3よりも高い、横方向Cに配向する繊維の含有率を有する。
【0024】
図4は、
図3に示される不織布5が含む血液滑性付与剤の量を説明するための図である。
図4に示される不織布5では、第2領域2、第3領域3及び第4領域4が、それぞれ、血液滑性付与剤を含む血液滑性付与剤含有第2領域12、血液滑性付与剤含有第3領域13及び血液滑性付与剤含有第4領域14を有し、そして血液滑性付与剤含有第2領域12及び血液滑性付与剤含有第4領域14における血液滑性付与剤の坪量が、血液滑性付与剤含有第3領域13における血液滑性付与剤の坪量よりも多い。
【0025】
本開示の不織布において、第3領域は、好ましくは約40〜約80%の、縦配向繊維の含有率を有する。また、本開示の不織布において、第1領域は、好ましくは約0〜約45%の、縦配向繊維の含有率を有する。さらに、本開示の不織布において、第1領域は、第3領域よりも好ましくは約10%以上低い、縦配向繊維の含有率を有する。
第1領域が、第3領域よりも縦配向繊維の含有率が低い、すなわち、横配向繊維の含有率が高いと、第1領域において、吸収した経血が縦方向に拡散しにくく、吸収体に移行しやすくなる。
【0026】
本開示の不織布において、第2領域及び第4領域は、好ましくは約55%以上の、縦配向繊維の含有率を有する。また、本開示の不織布において、第2領域及び第4領域は、第3領域よりも、好ましくは約10%以上高い、縦配向繊維の含有率を有する。
第2領域及び第4領域が、第3領域よりも縦配向繊維の含有率が高いと、第2領域及び第4領域において、繊維間の距離が短くなり、繊維密度が高まるため、その剛性が高まる。その結果、本開示の不織布が、外圧等によって潰れにくくなる。
【0027】
本開示の不織布において、第1領域は、好ましくは約55%以上の、横配向繊維の含有率を有する。
【0028】
本明細書において、縦配向繊維と、横配向繊維との含有率は、以下のように測定することができる。
(1)デジタルマイクロスコープを準備する。デジタルマイクロスコープとしては、例えば、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX−100が挙げられる。
(2)測定すべきサンプルを、縦方向及び横方向が明確となるように観察台上にセットする。
【0029】
(3)測定すべきサンプルから、イレギュラーに手前に飛び出した繊維を除き、サンプルの最も手前の繊維にレンズのピントを合わせる。
(4)撮影深度(奥行き)を設定し、サンプルの3D画像をPC画面上に表示する。
(5)撮影した3D画像を、2D画像に変換する。
(6)測定範囲において、縦方向及び横方向に、それらを等分する平行線を、複数本、画面上に引く。
【0030】
(7)平行線により形成された各セルにおいて、縦方向に配向している繊維の本数と、横方向に配向している繊維の本数と、どちらにも配向していない繊維の本数とを測定する。
(8)所定の範囲内における繊維の全本数から、縦配向繊維の含有率と、横配向繊維の含有率とを算出する。
【0031】
本開示の実施形態の1つに従う、畝部及び溝部を有する不織布では、畝部は、好ましくは約15〜約250g/m
2、そしてより好ましくは約20〜約120g/m
2の坪量を有する。上記坪量が約15g/m
2を下回ると、畝部が潰れやすくなる傾向があり、一度吸収した経血が加圧下において逆戻りしやすくなる傾向がある。また、上記坪量が約250g/m
2より高くなると、経血が下方(例えば、吸収体)に移動しにくくなり、経血が畝部に滞留し、着用者が不快感を覚える場合がある。
【0032】
本開示の実施形態の1つに従う、畝部及び溝部を有する不織布では、畝部は、好ましくは約3〜約150g/m
2、そしてより好ましくは約5〜80g/m
2の坪量を有する。上記坪量が約3g/m
2を下回ると、トップシートが使用中に破損する場合がある。また、上記坪量が約150g/m
2を上回ると、溝部に到達した経血が下方(吸収体)に移行しにくくなり、経血が溝部に滞留し、着用者が不快感を覚える場合がある。
【0033】
本開示の実施形態の1つに従う、畝部及び溝部を有する不織布は、好ましくは約10〜200g/m
2、そしてより好ましくは約20〜約100g/m
2の平均坪量を有する。上記平均坪量が約10g/m
2を下回ると、トップシートが使用中に破損する場合がある。また、上記平均坪量が約200g/m
2を上回ると、経血が不織布に滞留する恐れがある。
【0034】
畝部及び溝部の坪量、並びに不織布の平均坪量は、以下のように測定することができる。
(1)測定すべき範囲(畝部、溝部又は不織布)にマークを付け、その面積:SA
α(m
2)を測定する。
なお、誤差を少なくするために、サンプルの総面積が5cm
2を超えるように、マーキングする。
【0035】
(2)マーキングされた範囲を、鋭利な刃物、例えば、カッターの替え刃で切り出し、その総質量:TM(g)を測定する。
(3)測定すべき範囲の坪量BS
α(g/m
2)を、次の式:
BS
α(g/m
2)=TM(g)/SA
α(m
2)
により求める。
【0036】
本開示の不織布において、第2領域の血液滑性付与剤含有第2領域及び/又は第4領域の血液滑性付与剤含有第4領域は、上記血液滑性付与剤を、好ましくは約1〜約30g/m
2、より好ましくは約2〜約20g/m
2、そしてさらに好ましくは約3〜約10g/m
2の坪量の範囲で含む。血液滑性付与剤の作用については後述するが、上記坪量が、約1g/m
2を下回ると、不織布に到達した経血が吸収体に速やかに移動せずにその場所に残る傾向があり、そして上記坪量が約30g/m
2を超えると、着用中のべたべた感が増加する傾向がある。
【0037】
また、第2領域及び/又は第4領域が、上記範囲で血液滑性付与剤を含むことにより、第2領域及び/又は第4領域に到達した経血が、縦配向繊維に沿って縦方向に拡散する前に、経血を吸収性物品の内部に滑落しやすくなる。これにより、トップシートが経血で赤く着色することを抑制することができ、そして経血が肌に付着することによるカブレを抑制することができ、そして見た目の嫌悪感を低減することができる。
【0038】
本開示の不織布において、第3領域の血液滑性付与剤含有第3領域は、血液滑性付与剤含有第2領域における血液滑性付与剤及び/又は血液滑性付与剤含有第4領域における血液滑性付与剤の坪量の、好ましくは約1〜約70質量%、より好ましくは約3〜約60質量%、そしてさらに好ましくは約5〜約50質量%の比率の坪量で血液滑性付与剤を含む。
【0039】
血液滑性付与剤の作用については後述するが、上記比率が約1質量%を下回ると、トップシートに到達した経血が吸収体に速やかに移動せずにその場所に残る傾向があり、上記比率が約70質量%を上回ると、着用中のべたべた感が増加する傾向がある。
【0040】
また、第3領域は、縦配向繊維の含有率が低いため、第3領域に到達した経血が、縦方向に拡散しにくい傾向がある。従って、血液滑性付与剤含有第3領域の血液滑性付与剤の量をある程度少なくしても、第3領域に到達した経血は、縦方向に拡散しにくい。従って、上記量は、コストの観点から有用である。
【0041】
本開示の不織布では、第1領域が、血液滑性付与剤を含む血液滑性付与剤含有第1領域を有してもよい。第1領域が、血液滑性付与剤含有第1領域を有することにより、吸収した経血が、横方向に拡散する前に、経血を吸収性物品の内部に滑落させやすくなる。これにより、トップシートが経血で赤く着色することを抑制することができる。
【0042】
本明細書では、不織布が含む血液滑性付与剤の坪量は、以下のように測定することができる。
(1)不織布の測定すべき範囲を、鋭利な刃物、例えば、カッターの替え刃を用いて、できるだけその厚さを変化させないように切り出して、サンプルを得る。
(2)サンプルの面積:SA
β(m
2)及び質量:SM
0(g)を測定する。
(3)サンプルを、血液滑性付与剤を溶解させることができる溶媒、例えば、エタノール、アセトン等の中で、少なくとも3分間攪拌し、血液滑性付与剤を溶媒中に溶解させる。
【0043】
(4)サンプルを、質量を測定したろ紙の上でろ過し、ろ紙上で、サンプルを溶媒で十分に洗浄する。ろ紙上のサンプルを、60℃のオーブン内で乾燥させる。
(5)ろ紙及びサンプルの質量を測定し、そこからろ紙の質量を減ずることにより、乾燥後のサンプルの質量:SM
1(g)を算出する。
(6)血液滑性付与剤の坪量BS
β(g/m
2)を、次の式:
BS
β(g/m
2)=[SM
0(g)−SM
1(g)]/SA
β(m
2)
により算出する。
なお、誤差を少なくするために、サンプルの総面積が100cm
2を超えるように、複数の吸収性物品から複数のサンプルを採取し、複数回実験を繰り返し、それらの平均値を採用する。
【0044】
本開示の不織布は、第2領域の血液滑性付与剤含有第2領域と、第3領域の血液滑性付与剤含有第3領域と、第4領域の血液滑性付与剤含有第4領域とにおいて、同一の血液滑性付与剤、又は同一の血液滑性付与剤の組み合わせを含むことができる。
【0045】
また、本開示の不織布は、第2領域の血液滑性付与剤含有第2領域と、第3領域の血液滑性付与剤含有第3領域と、第4領域の血液滑性付与剤含有第4領域とにおいて、異なる血液滑性付与剤、又は異なる血液滑性付与剤の組み合わせを含むことができる。
【0046】
[血液滑性付与剤]
本開示の不織布において、第2領域、第3領域及び第4領域が、それぞれ、40℃における約0.01〜約80mm
2/sの動粘度と、約0.05〜約4.0質量%の抱水率と、約1,000未満の重量平均分子量とを有する血液滑性付与剤を含む血液滑性付与剤含有第2領域、血液滑性付与剤含有第3領域及び血液滑性付与剤含有第4領域を有する。
【0047】
上記血液滑性付与剤は、40℃において、約0〜約80mm
2/sの動粘度を有し、約1〜約70mm
2/sの動粘度を有することが好ましく、約3〜約60mm
2/sの動粘度を有することがより好ましく、約5〜約50mm
2/sの動粘度を有することがさらに好ましく、そして約7〜約45mm
2/sの動粘度を有することがさらに好ましい。
上記動粘度は、a)血液滑性付与剤の分子量が大きくなるほど、b)極性基、例えば、カルボニル結合(−CO−)、エーテル結合(−O−)、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)等の比率が高いほど、そしてc)IOBが大きくなるほど、高くなる傾向がある。
【0048】
また、40℃において、約0〜約80mm
2/sの動粘度を有するためには、血液滑性付与剤の融点が45℃以下であることが好ましい。血液滑性付与剤が40℃で結晶を含むと、その動粘度が高くなる傾向があるからである。
なお、本明細書では、40℃における動粘度を、単に「動粘度」と称する場合がある。
【0049】
血液滑性付与剤における動粘度の意義については後述するが、上記動粘度が約80mm
2/sを超えると、血液滑性付与剤の粘性が高く、トップシートの肌当接面に到達した経血と共に、血液滑性付与剤が吸収性物品の内部に滑落することが難しくなる傾向がある。
上記動粘度は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」に従って、キャノンフェンスケ逆流形粘度計を用いて、40℃の試験温度で測定されることができる。
【0050】
上記血液滑性付与剤は、約0.01〜約4.0質量%の抱水率を有し、約0.02〜約3.5質量%の抱水率を有することが好ましく、約0.03〜約3.0質量%の抱水率を有することがより好ましく、約0.04〜約2.5質量%の抱水率を有することがさらに好ましく、そして約0.05〜約2.0質量%の抱水率を有することがさらに好ましい。
【0051】
本明細書において、「抱水率」は、物質が、保持することができる水の比率(質量)を意味し、以下の通りに測定されうる。
(1)40℃の恒温室に、20mLの試験管、ゴム栓、測定すべき物質及び脱イオン水を一昼夜静置する。
(2)上記恒温室で、試験管に、測定すべき物質5.0gと、脱イオン水5.0gを投入する。
(3)上記恒温室で、試験管の口をゴム栓にて栓し、試験管を1回転させ、5分間静置する。
【0052】
(4)上記恒温室で、測定すべき物質の層(通常は、上層)3.0gを、直径90mmの、質量:W
0(g)のガラス製シャーレに採取する。
(5)上記シャーレを、オーブン内で、105℃で3時間加熱し、水分を蒸発させ、シャーレごと、質量:W
1(g)を測定する。
(6)抱水率を、以下の式に従って算出する。
抱水率(質量%)=100×[W
0(g)−W
1(g)]/3.0(g)
測定は3回実施し、平均値を採用する。
【0053】
血液滑性付与剤における抱水率の意義については後述するが、上記抱水率が低くなると、血液滑性付与剤と、経血との親和性が低下し、トップシートの肌当接面に到達した経血が吸収性物品の内部に滑落しにくくなる傾向がある。
一方、上記抱水率が高くなると、界面活性剤と同様に、経血との親和性が非常に高くなり、トップシートの肌当接面に、吸収された経血が残存し、トップシートの肌当接面が赤く着色しやすくなる傾向がある。
【0054】
上記抱水率は、a)血液滑性付与剤の分子量が小さくなるほど、そしてb)極性基、例えば、カルボニル結合(−CO−)、エーテル結合(−O−)、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)等の比率が高いほど、値が大きくなる傾向がある。血液滑性付与剤が、より親水性を有することになるからである。また、上記抱水率は、後述のIOBが大きくなるほど、すなわち、無機性値が高いほど、そして有機性値が小さいほど、値が大きくなる傾向がある。血液滑性付与剤が、より親水性を有することになるからである。
【0055】
上記血液滑性付与剤における動粘度と、抱水率との意義について説明する。
図5は、本開示の不織布を含む吸収性物品、より具体的には生理用ナプキンの正面図である。
図5は、トップシート22の肌当接面側から観察した図である。
図5に示される吸収性物品21は、液透過性のトップシート22と、吸収体23と、液不透過性のバックシート(図示せず)とを有する。
図5に示される吸収性物品21はまた、一対のサイドフラップ24、サイドシート25、及びエンボス26を有する。
なお、
図5に示される吸収性物品21は、向かって左側が、前方である。
【0056】
図5に示される吸収性物品21において、トップシート22は、肌当接面に、吸収性物品の長手方向に延びる、複数の畝部と、複数の溝部とを有するが、畝部及び溝部は、便宜上省略されている。また、
図5に示される吸収性物品21では、畝部及び溝部は、吸収性物品21の幅方向に交互に配置されている。
【0057】
また、
図5に示される吸収性物品21は、一対のサイドフラップ24、サイドシート25及びエンボス26を有するが、別の実施形態に従う吸収性物品は、一対のサイドフラップ、サイドシート及び/又はエンボスを有しない。
【0058】
図5に示される吸収性物品21では、排泄口当接域は、4つのエンボス26'により画定される領域であり、トップシート22は、排泄口当接域の全領域において、血液滑性付与剤含有領域27を有する。
【0059】
図6は、
図5に示される吸収性物品21の血液滑性付与剤含有領域27のX−X断面に相当する断面図であり、血液滑性付与剤による経血の吸収体への移行を模式的に説明するための図である。
図6に示される吸収性物品21は、液透過性のトップシート22と、液不透過性のバックシート28と、トップシート22及びバックシート28の間の吸収体23とを有する。
【0060】
図6において、トップシート22は、肌当接面33に、複数の凸部31と、複数の凹部32とを有し、トップシート22の肌当接面33には、血液滑性付与剤34が塗布されている。なお、
図6では、便宜上、血液滑性付与剤34が、トップシート22の肌当接面33の上に液滴(又は粒子)として示されているが、本開示の不織布、並びに当該不織布を含む吸収性物品では、血液滑性付与剤の形状及び分布は、当該図面に示されるものに限定されるものではない。
【0061】
図6に示されるように、トップシート22の凸部31に到達した経血35は、凸部31に存在する血液滑性付与剤34と接触する。凸部31に存在する血液滑性付与剤34は、その一部が経血35と共に凹部32に滑落する(経血35')。次いで経血35'は、凹部32の内部を滑落し、吸収体23に到達する(経血35'')。次いで、経血35''は、吸収体23に吸収される。
【0062】
より詳細に説明すると、約0.01〜約4.0質量%の抱水率を有する血液滑性付与剤34は、経血35と一定の親和性を有する。例えば、血液滑性付与剤34の親水性部分(例えば、親水性を有する基、例えば、極性基、例えば、カルボニル基,オキシ基,カルボキシル基,ヒドロキシル基等、及び親水性を有する結合、例えば、極性を有する結合、例えば、カルボニル結合,エステル結合,カーボネート結合,エーテル結合等)が経血35中の親水性成分(血漿等)と親和性が高く、当該親和性成分を引き寄せつつ、血液滑性付与剤34の疎水性部分(例えば、炭化水素部分)が、経血35中の親水性成分(血漿等)と親和性が低く、当該親水性成分を弾くため、いわゆる滑剤としてはたらき、経血35を、吸収体23に向かって滑落させることができる。
【0063】
また、40℃において約0.01〜約80mm
2/sの動粘度を有する血液滑性付与剤34は、着用者の体温付近で非常に低粘度であるため、その一部が経血35とともに、凸部31から凹部32に滑落し、次いで凹部32を透過して吸収性物品21の内部に滑落することができる。
【0064】
さらに、血液滑性付与剤34は、約0.01〜約4.0質量%の抱水率を有するため、経血35中の、主に親水性成分(血漿等)との親和性が低く、経血35をトップシート22上に残存させにくい。経血35中の親水性成分(血漿等)が、血液滑性付与剤34の疎水性部分を嫌うためである。
【0065】
なお、
図6では、肌当接面33に、複数の凸部31と、複数の凹部32とを有するトップシート22に基づいて、血液滑性付与剤による経血の吸収体への移行を模式的に説明したが、凹凸を有しないトップシート、例えば、フラットな不織布においても、同様に経血を移行させることができる。不織布の各繊維の間から、経血を滑落させることができるためである。
また、
図6では、血液滑性付与剤による経血の吸収体への移行を模式的に説明したが、血液滑性付与剤含有組成物の場合も、同様に機能する。
【0066】
上記血液滑性付与剤は、約1,000未満の重量平均分子量を有し、そして好ましくは約900未満の重量平均分子量を有する。上記重量平均分子量が約1,000以上であると、血液滑性付与剤そのものにタック性が生じ、着用者に不快感を与える傾向があるからである。また、重量平均分子量が高くなると、血液滑性付与剤の粘度が高くなる傾向があるため、加温により、血液滑性付与剤の粘度を、塗布に適した粘度に下げることが難しくなり、その結果、血液滑性付与剤を、溶媒で希釈しなければならない場合も生じうる。
【0067】
上記血液滑性付与剤は、約100以上の重量平均分子量を有することが好ましく、そして約200以上の重量平均分子量を有することがより好ましい。上記重量平均分子量が小さくなると、上記血液滑性付与剤の蒸気圧が高くなり、保存中に気化し、量の減少、着用時の臭気等の問題が発生する場合があるからである。
【0068】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、多分散系の化合物(例えば、逐次重合により製造された化合物、複数の脂肪酸と、複数の脂肪族1価アルコールとから生成されたエステル)と、単一化合物(例えば、1種の脂肪酸と、1種の脂肪族1価アルコールから生成されたエステル)とを含む概念であり、N
i個の分子量M
iの分子(i=1、又はi=1,2・・・)からなる系において、次の式:
M
w=ΣN
iM
i2/ΣN
iM
i
により求められるM
wを意味する。
【0069】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる、ポリスチレン換算の値を意味する。
GPCの測定条件としては、例えば、以下が挙げられる。
機種:(株)日立ハイテクノロジーズ製 高速液体クロマトグラム Lachrom Elite
カラム:昭和電工(株)製 SHODEX KF−801、KF−803及びKF−804
溶離液:THF
流量 :1.0mL/分
打込み量:100μL
検出:RI(示差屈折計)
なお、本明細書の実施例に記載される重量平均分子量は、上記条件により測定したものである。
【0070】
上記血液滑性付与剤は、約0.00〜約0.60のIOBを有することができる。
IOB(Inorganic Organic Balance)は、親水性及び親油性のバランスを示す指標であり、本明細書では、小田らによる次式:
IOB=無機性値/有機性値
により算出される値を意味する。
【0071】
上記無機性値と、有機性値とは、藤田穆「有機化合物の予測と有機概念図」化学の領域Vol.11,No.10(1957)p.719−725)に記載される有機概念図に基づく。
藤田氏による、主要な基の有機性値及び無機性値を、下記表1にまとめる。
【0073】
例えば、炭素数14のテトラデカン酸と、炭素数12のドデシルアルコールとのエステルの場合には、有機性値が520(CH
2,20×26個)、無機性値が60(−COOR,60×1個)となるため、IOB=0.12となる。
【0074】
上記血液滑性付与剤において、IOBは、約0.00〜約0.60であることが好ましく、約0.00〜約0.50であることがより好ましく、約0.00〜約0.40であることがさらに好ましく、そして約0.00〜約0.30であることがさらに好ましい。IOBが上述の範囲にあると、上記抱水力及び動粘度が、上述の要件を満たしやすくなるからである。
【0075】
上記血液滑性付与剤は、45℃以下の融点を有することが好ましく、そして40℃以下の融点を有することがより好ましい。血液滑性付与剤が45℃以下の融点を有することにより、上記血液滑性付与剤が、上述の範囲の動粘度を有しやすくなるからである。
【0076】
本明細書において、「融点」は、示差走査熱量分析計において、昇温速度10℃/分で測定した場合の、固形状から液状に変化する際の吸熱ピークのピークトップ温度を意味する。上記融点は、例えば、島津製作所社製のDSC−60型DSC測定装置を用いて測定することができる。
【0077】
上記血液滑性付与剤は、約45℃以下の融点を有すれば、室温(約25℃)で液体であっても、又は固体であってもよい、すなわち、融点が約25℃以上でも、又は約25℃未満でもよく、そして例えば、約−5℃、約−20℃等の融点を有することができる。
【0078】
上記血液滑性付与剤は、その融点に下限は存在しないが、その蒸気圧が低いことが好ましい。上記血液滑性付与剤の蒸気圧は、25℃(1気圧)で約0〜約200Paであることが好ましく、約0〜約100Paであることがより好ましく、約0〜約10Paであることがさらに好ましく、約0〜約1Paであることがさらにいっそう好ましく、そして約0.0〜約0.1Paであることがさらにいっそう好ましい。
【0079】
本開示の不織布が、人体に接して用いられることを考慮すると、上記蒸気圧は、40℃(1気圧)で約0〜約700Paであることが好ましく、約0〜約100Paであることがより好ましく、約0〜約10Paであることがさらに好ましく、約0〜約1Paであることがさらにいっそう好ましく、そして約0.0〜約0.1Paであることがさらにいっそう好ましい。上記血液滑性付与剤の蒸気圧が高いと、保存中に気化し、その量の減少、着用時の臭気等の問題が発生する場合があるからである。
【0080】
また、上記血液滑性付与剤の融点を、気候、着用時間の長さ等に応じて選択することができる。例えば、平均気温が約10℃以下の地域では、約10℃以下の融点を有する血液滑性付与剤を採用することにより、経血が排泄された後、周囲温度によって冷却された場合であっても、血液滑性付与剤が機能しやすいと考えられる。
【0081】
また、吸収性物品が長時間にわたって使用される場合には、血液滑性付与剤の融点は、約45℃以下の範囲で高い方が好ましい。汗、着用時の摩擦等の影響を受けにくく、長時間着用した場合であっても、血液滑性付与剤が偏りにくいからである。
【0082】
当技術分野では、経血の表面張力等を変化させ、経血を迅速に吸収することを目的として、トップシートの肌当接面を、界面活性剤でコーティングすることが行われている。しかし、界面活性剤がコーティングされたトップシートは、経血中の親水性成分(血漿等)と親和性が高く、それらを引き寄せ、むしろ経血をトップシートに残存させるようにはたらく傾向がある。上記血液滑性付与剤は、従来公知の界面活性剤と異なり、経血と親和性が低く、経血をトップシートに残存させず、迅速に吸収体に移行させることができる。
【0083】
上記血液滑性付与剤は、好ましくは、次の(i)〜(iii)、
(i)炭化水素、
(ii) (ii−1)炭化水素部分と、(ii−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル基(−CO−)及びオキシ基(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基とを有する化合物、及び
(iii) (iii−1)炭化水素部分と、(iii−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル基(−CO−)及びオキシ基(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基と、(iii−3)上記炭化水素部分の水素原子を置換する、カルボキシル基(−COOH)及びヒドロキシル基(−OH)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基とを有する化合物、
並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。
【0084】
本明細書において、「炭化水素」は、炭素と水素とから成る化合物を意味し、鎖状炭化水素、例えば、パラフィン系炭化水素(二重結合及び三重結合を含まない、アルカンとも称される)、オレフィン系炭化水素(二重結合を1つ含む、アルケンとも称される)、アセチレン系炭化水素(三重結合を1つ含む、アルキンとも称される)、及び二重結合及び三重結合から成る群から選択される結合を2つ以上含む炭化水素、並びに環状炭化水素、例えば、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素が挙げられる。
【0085】
上記炭化水素としては、鎖状炭化水素及び脂環式炭化水素であることが好ましく、鎖状炭化水素であることがより好ましく、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、及び二重結合を2つ以上含む炭化水素(三重結合を含まない)であることがさらに好ましく、そしてパラフィン系炭化水素であることがさらに好ましい。
上記鎖状炭化水素には、直鎖状炭化水素及び分岐鎖状炭化水素が含まれる。
【0086】
上記(ii)及び(iii)の化合物において、オキシ基(−O−)が2つ以上挿入されている場合には、各オキシ基(−O−)は隣接していない。従って、上記(ii)及び(iii)の化合物には、オキシ基が連続する化合物(いわゆる、過酸化物)は含まれない。
【0087】
また、上記(iii)の化合物では、炭化水素部分の少なくとも1つの水素原子がカルボキシル基(−COOH)で置換された化合物よりも、炭化水素部分の少なくとも1つの水素原子が、ヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物の方が好ましい。カルボキシル基は、経血中の金属等と結合し、血液滑性付与剤の抱水率が高くなり、所定の範囲を超える場合があるからである。これは、IOBの観点からも同様である。表1に示すように、カルボキシル基は、経血中の金属等と結合し、無機性値が150から、400以上へと大幅に上昇するため、カルボキシル基を有する血液滑性付与剤は、使用時にIOBの値が約0.60を上回る場合がありうる。
【0088】
上記血液滑性付与剤は、より好ましくは、次の(i’)〜(iii’)、
(i’)炭化水素、
(ii’) (ii’−1)炭化水素部分と、(ii’−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びエーテル結合(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる結合とを有する化合物、及び
(iii’) (iii’−1)炭化水素部分と、(iii’−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びエーテル結合(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる結合と、(iii’−3)上記炭化水素部分の水素原子を置換する、カルボキシル基(−COOH)及びヒドロキシル基(−OH)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基とを有する化合物、
並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。
【0089】
上記(ii’)及び(iii’)の化合物において、2以上の同一又は異なる結合が挿入されている場合、すなわち、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)及びエーテル結合(−O−)から選択される2以上の同一又は異なる結合が挿入されている場合には、各結合は隣接しておらず、各結合の間には、少なくとも、炭素原子が1つ介在する。
【0090】
上記血液滑性付与剤は、さらに好ましくは、炭化水素部分に、炭素原子10個当たり、カルボニル結合(−CO−)を約1.8個以下、エステル結合(−COO−)を2個以下、カーボネート結合(−OCOO−)を約1.5個以下、エーテル結合(−O−)を約6個以下、カルボキシル基(−COOH)を約0.8個以下、そして/又はヒドロキシル基(−OH)を約1.2個以下有することができる。
【0091】
上記血液滑性付与剤は、さらに好ましくは、次の(A)〜(F)、
(A) (A1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(A2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のカルボキシル基とを有する化合物とのエステル、
(B) (B1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(B2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエーテル、
(C) (C1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する、2〜4個のカルボキシル基とを含むカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、(C2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエステル、
(D)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、及びカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つの結合とを有する化合物、
(E)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール、又はそのアルキルエステル若しくはアルキルエーテル、及び
(F)鎖状炭化水素、
並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。
以下、(A)〜(F)に従う血液滑性付与剤について詳細に説明する。
【0092】
[(A) (A1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(A2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のカルボキシル基とを有する化合物とのエステル]
(A)(A1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(A2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のカルボキシル基とを有する化合物とのエステル(以下、「化合物(A)」と称する場合がある)は、上述の動粘度、抱水率及び重量平均分子量を有する限り、全てのヒドロキシル基がエステル化されていなくともよい。
【0093】
(A1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物(以下、「化合物(A1)」と称する場合がある)としては、例えば、鎖状炭化水素テトラオール、例えば、アルカンテトラオール、例えば、ペンタエリトリトール、鎖状炭化水素トリオール、例えば、アルカントリオール、例えば、グリセリン、及び鎖状炭化水素ジオール、例えば、アルカンジオール、例えば、グリコールが挙げられる。
【0094】
(A2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のカルボキシル基とを有する化合物としては、例えば、炭化水素上の1つの水素原子が、1つのカルボキシル基(−COOH)で置換された化合物、例えば、脂肪酸が挙げられる。
化合物(A)としては、例えば、(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、(a
2)鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、及び(a
3)鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルが挙げられる。
【0095】
[(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
上記鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルとしては、例えば、次の式(1):
【化1】
のペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステル、次の式(2):
【化2】
のペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステル、次の式(3):
【化3】
のペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステル、次の式(4):
【化4】
のペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルが挙げられる。
(式中、R
1〜R
4は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
【0096】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸(R
1COOH、R
2COOH,R
3COOH,及びR
4COOH)としては、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルが、上記動粘度、抱水率及び重量平均分子量の要件を満たすものであれば、特に制限されないが、例えば、飽和脂肪酸、例えば、C
2〜C
30の飽和脂肪酸、例えば、酢酸(C
2)(C
2は、炭素数を示し、R
1C、R
2C,R
3C又はR
4Cの炭素数に相当する、以下同じ)、プロパン酸(C
3)、ブタン酸(C
4)及びその異性体、例えば、2−メチルプロパン酸(C
4)、ペンタン酸(C
5)及びその異性体、例えば、2−メチルブタン酸(C
5)、2,2−ジメチルプロパン酸(C
5)、ヘキサン酸(C
6)、ヘプタン酸(C
7)、オクタン酸(C
8)及びその異性体、例えば、2−エチルヘキサン酸(C
8)、ノナン酸(C
9)、デカン酸(C
10)、ドデカン酸(C
12)、テトラデカン酸(C
14)、ヘキサデカン酸(C
16)、ヘプタデカン酸(C
17)、オクタデカン酸(C
18)、エイコサン酸(C
20)、ドコサン酸(C
22)、テトラコサン酸(C
24)、ヘキサコサン酸(C
26)、オクタコサン酸(C
28)、トリアコンタン酸(C
30)等、並びに列挙されていないこれらの異性体が挙げられる。
【0097】
上記脂肪酸はまた、不飽和脂肪酸であることができる。上記不飽和脂肪酸としては、例えば、C
3〜C
20の不飽和脂肪酸、例えば、モノ不飽和脂肪酸、例えば、クロトン酸(C
4)、ミリストレイン酸(C
14)、パルミトレイン酸(C
16)、オレイン酸(C
18)、エライジン酸(C
18)、バクセン酸(C
18)、ガドレイン酸(C
20)、エイコセン酸(C
20)等、ジ不飽和脂肪酸、例えば、リノール酸(C
18)、エイコサジエン酸(C
20)等、トリ不飽和脂肪酸、例えば、リノレン酸、例えば、α-リノレン酸(C
18)及びγ-リノレン酸(C
18)、ピノレン酸(C
18)、エレオステアリン酸、例えば、α-エレオステアリン酸(C
18)及びβ-エレオステアリン酸(C
18)、ミード酸(C
20)、ジホモ-γ-リノレン酸(C
20)、エイコサトリエン酸(C
20)等、テトラ不飽和脂肪酸、例えば、ステアリドン酸(C
20)、アラキドン酸(C
20)、エイコサテトラエン酸(C
20)等、ペンタ不飽和脂肪酸、例えば、ボセオペンタエン酸(C
18)、エイコサペンタエン酸(C
20)等、並びにこれらの部分水素付加物が挙げられる。
【0098】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルとしては、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸に由来する、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステル、すなわち、ペンタエリトリトールと飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
また、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルとしては、抱水率の値を小さくする観点から、ジエステル、トリエステル又はテトラエステルであることが好ましく、トリエステル又はテトラエステルであることがより好ましく、そしてテトラエステルであることがさらに好ましい。
【0099】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、上記式(1)において、R
1C、R
2C、R
3C及びR
4C部分の炭素数の合計が、約15であることが好ましい(上記炭素数の合計が15の場合に、IOBが0.60となる)。
【0100】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルでは、例えば、ペンタエリトリトールと、ヘキサン酸(C
6)、ヘプタン酸(C
7)、オクタン酸(C
8)、例えば、2−エチルヘキサン酸(C
8)、ノナン酸(C
9)、デカン酸(C
10)及び/又はドデカン酸(C
12)とのテトラエステルが挙げられる。
【0101】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、上記式(2)において、R
1C、R
2C及びR
3C部分の炭素数の合計が、約19以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が19の場合に、IOBが0.58となる)。
【0102】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、上記式(3)において、R
1C及びR
2C部分の炭素数の合計が、約22以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が22の場合に、IOBが0.59となる)。
【0103】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルを構成する脂肪酸の炭素数、すなわち、上記式(4)において、R
1C部分の炭素数が、約25以上であることが好ましい(上記炭素数が25の場合に、IOBが0.60となる)。
なお、上記IOBの計算に当たっては、二重結合、三重結合、iso分岐、及びtert分岐の影響は、考慮していない(以下、同様である)。
【0104】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルの市販品としては、ユニスター H−408BRS、H−2408BRS−22(混合品)等(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0105】
[(a
2)鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
上記鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルとしては、例えば、次の式(5):
【化5】
のグリセリンと脂肪酸とのトリエステル、次の式(6):
【化6】
のグリセリンと脂肪酸とのジエステル、及び次の式(7):
【化7】
(式中、R
5〜R
7は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
のグリセリンと脂肪酸とのモノエステルが挙げられる。
【0106】
上記グリセリンと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸(R
5COOH、R
6COOH及びR
7COOH)としては、グリセリンと脂肪酸とのエステルが、上記動粘度、抱水率及び重量平均分子量の要件を満たすものであれば、特に制限されず、例えば、「(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル」において列挙される脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸に由来する、グリセリンと脂肪酸とのエステル、すなわち、グリセリンと飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
【0107】
また、上記グリセリンと脂肪酸とのエステルとしては、抱水率の値を小さくする観点から、ジエステル又はトリエステルであることが好ましく、そしてトリエステルであることがより好ましい。
【0108】
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、トリグリセリドとも称され、例えば、グリセリンとオクタン酸(C
8)とのトリエステル、グリセリンとデカン酸(C
10)とのトリエステル、グリセリンとドデカン酸(C
12)とのトリエステル、及びグリセリンと、2種又は3種の脂肪酸とのトリエステル、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0109】
上記グリセリンと、2種以上の脂肪酸とのトリエステルとしては、例えば、グリセリンと、オクタン酸(C
8)及びデカン酸(C
10)とのトリエステル、グリセリンと、オクタン酸(C
8)、デカン酸(C
10)及びドデカン酸(C
12)とのトリエステル、グリセリンと、オクタン酸(C
8)、デカン酸(C
10)、ドデカン酸(C
12)、テトラデカン酸(C
14)、ヘキサデカン酸(C
16)及びオクタデカン酸(C
18)とのトリエステル等が挙げられる。
【0110】
融点を約45℃以下とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、式(5)において、R
5C、R
6C及びR
7C部分の炭素数の合計が、約40以下であることが好ましい。
【0111】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルでは、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、式(5)において、R
5C、R
6C及びR
7C部分の炭素数の合計が、約12以上であることが好ましい(炭素数の合計が12の場合に、IOBが0.60となる)。
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、いわゆる、脂肪であり、人体を構成しうる成分であるため、安全性の観点から好ましい。
【0112】
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルの市販品としては、トリヤシ油脂肪酸グリセリド、NA36、パナセート800、パナセート800B及びパナセート810S、並びにトリC2L油脂肪酸グリセリド及びトリCL油脂肪酸グリセリド(以上、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0113】
上記グリセリンと脂肪酸とのジエステルは、ジグリセリドとも称され、例えば、グリセリンとデカン酸(C
10)とのジエステル、グリセリンとドデカン酸(C
12)とのジエステル、グリセリンとヘキサデカン酸(C
16)とのジエステル、及びグリセリンと、2種の脂肪酸とのジエステル、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0114】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪酸とのジエステルでは、グリセリンと脂肪酸とのジエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、式(6)において、R
5C及びR
6C部分の炭素数の合計が、約16以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が16の場合にIOBが0.58となる)。
【0115】
上記グリセリンと脂肪酸とのモノエステルは、モノグリセリドとも称され、例えば、グリセリンのオクタデカン酸(C
18)モノエステル、グリセリンのドコサン酸(C
22)モノエステル等が挙げられる。
【0116】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪酸とのモノエステルでは、グリセリンと脂肪酸とのモノエステルを構成する脂肪酸の炭素数、すなわち、式(7)において、R
5C部分の炭素数が、約19以上であることが好ましい(上記炭素数が19の場合に、IOBが0.59となる)。
【0117】
[(a
3)鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
上記鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルとしては、例えば、C
2〜C
6の鎖状炭化水素ジオール、例えば、C
2〜C
6のグリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール又はヘキシレングリコールと、脂肪酸とのモノエステル又はジエステルが挙げられる。
【0118】
具体的には、上記鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルとしては、例えば、次の式(8):
R
8COOC
kH
2kOCOR
9 (8)
(式中、kは、2〜6の整数であり、そしてR
8及びR
9は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
のC
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのジエステル、及び次の式(9):
R
8COOC
kH
2kOH (9)
(式中、kは、2〜6の整数であり、そしてR
8は、鎖状炭化水素である)
のC
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのモノエステルが挙げられる。
【0119】
上記C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステルにおいて、エステル化すべき脂肪酸(式(8)及び式(9)において、R
8COOH及びR
9COOHに相当する)としては、C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステルが、上記動粘度、抱水率及び重量平均分子量の要件を満たすものであれば、特に制限されず、例えば、「(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル」において列挙されている脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸が好ましい。
【0120】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、式(8)に示されるブチレングリコール(k=4)と脂肪酸とのジエステルでは、R
8C及びR
9C部分の炭素数の合計が、約6以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が6の場合に、IOBが0.60となる)。
【0121】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、式(9)に示されるエチレングリコール(k=2)と脂肪酸とのモノエステルでは、R
8C部分の炭素数が、約12以上であることが好ましい(上記炭素数が12の場合に、IOBが0.57となる)。
【0122】
上記C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステルとしては、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸に由来する、C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステル、すわなち、C
2〜C
6グリコールと飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
【0123】
また、上記C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステルとしては、抱水率の値を小さくする観点から、炭素数の大きいグリコールに由来する、グリコールと脂肪酸とのエステル、例えば、ブチレングリコール、ペンチレングリコール又はヘキシレングリコールに由来するグリコールと脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
さらに、上記C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステルとしては、抱水率の値を小さくする観点から、ジエステルであることが好ましい。
上記C
2〜C
6グリコールと脂肪酸とのエステルの市販品としては、例えば、コムポールBL、コムポールBS(以上、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0124】
[(B) (B1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(B2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエーテル]
(B) (B1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(B2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエーテル(以下、「化合物(B)」と称する場合がある)は、上述の動粘度、抱水率及び重量平均分子量を有する限り、全てのヒドロキシル基がエーテル化されていなくともよい。
【0125】
(B1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物(以下、「化合物(B1)」と称する場合がある)としては、「化合物(A)」において化合物(A1)として列挙されるもの、例えば、ペンタエリトリトール、グリセリン、及びグリコールが挙げられる。
【0126】
(B2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物(以下、「化合物(B2)」と称する場合がある)としては、例えば、炭化水素の1個の水素原子が、1個のヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物、例えば、脂肪族1価アルコール、例えば、飽和脂肪族1価アルコール及び不飽和脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0127】
上記飽和脂肪族1価アルコールとしては、例えば、C
1〜C
20の飽和脂肪族1価アルコール、例えば、メチルアルコール(C
1)(C
1は、炭素数を示す、以下同じ)、エチルアルコール(C
2)、プロピルアルコール(C
3)及びその異性体、例えば、イソプロピルアルコール(C
3)、ブチルアルコール(C
4)及びその異性体、例えば、sec−ブチルアルコール(C
4)及びtert−ブチルアルコール(C
4)、ペンチルアルコール(C
5)、ヘキシルアルコール(C
6)、ヘプチルアルコール(C
7)、オクチルアルコール(C
8)及びその異性体、例えば、2−エチルヘキシルアルコール(C
8)、ノニルアルコール(C
9)、デシルアルコール(C
10)、ドデシルアルコール(C
12)、テトラデシルアルコール(C
14)、ヘキサデシルアルコール(C
16)、へプラデシルアルコール(C
17)、オクタデシルアルコール(C
18)、及びエイコシルアルコール(C
20)、並びに列挙されていないこれらの異性体が挙げられる。
【0128】
上記不飽和脂肪族1価アルコールとしては、上記飽和脂肪族1価アルコールのC−C単結合の1つを、C=C二重結合で置換したもの、例えば、オレイルアルコールが挙げられ、例えば、新日本理化株式会社から、リカコールシリーズ及びアンジェコオールシリーズの名称で市販されている。
【0129】
化合物(B)としては、例えば、(b
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、例えば、モノエーテル、ジエーテル、トリエーテル及びテトラエーテル、好ましくはジエーテル、トリエーテル及びテトラエーテル、より好ましくはトリエーテル及びテトラエーテル、そしてさらに好ましくはテトラエーテル、(b
2)鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、例えば、モノエーテル、ジエーテル及びトリエーテル、好ましくはジエーテル及びトリエーテル、そしてより好ましくはトリエーテル、並びに(b
3)鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、例えば、モノエーテル及びジエーテル、そして好ましくはジエーテルが挙げられる。
【0130】
上記鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、例えば、次の式(10)〜(13):
【化8】
(式中、R
10〜R
13は、それぞれ、鎖状炭化水素である。)
の、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテル、トリエーテル、ジエーテル及びモノエーテルが挙げられる。
【0131】
上記鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、例えば、次の式(14)〜(16):
【化9】
(式中、R
14〜R
16は、それぞれ、鎖状炭化水素である。)
の、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテル、ジエーテル及びモノエーテルが挙げられる。
【0132】
上記鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、次の式(17):
R
17OC
nH
2nOR
18 (17)
(式中、nは、2〜6の整数であり、そしてR
17及びR
18は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
のC
2〜C
6グリコールと脂肪族1価アルコールとのジエーテル、及び次の式(18):
R
17OC
nH
2nOH (18)
(式中、nは、2〜6の整数であり、そしてR
17は、鎖状炭化水素である)
のC
2〜C
6グリコールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルが挙げられる。
【0133】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(10)において、R
10、R
11、R
12及びR
13部分の炭素数の合計が、約4以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が4の場合に、IOBが0.44となる)。
【0134】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(11)において、R
10、R
11及びR
12部分の炭素数の合計が、約9以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が9の場合に、IOBが0.57となる)。
【0135】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのジエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(12)において、R
10及びR
11部分の炭素数の合計が、約15以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が15の場合に、IOBが0.60となる)。
【0136】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数、すなわち、上記式(13)において、R
10部分の炭素数が、約22以上であることが好ましい(上記炭素数が22の場合に、IOBが0.59となる)。
【0137】
また、IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルでは、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、式(14)において、R
14、R
15及びR
16部分の炭素数の合計が、約3以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が3の場合に、IOBが0.50となる)。
【0138】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのジエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、式(15)において、R
14及びR
15部分の炭素数の合計が、約9以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が9の場合に、IOBが0.58となる)。
【0139】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数、すなわち、式(16)において、R
14部分の炭素数が、約16以上であることが好ましい(上記炭素数が16の場合に、IOBが0.58となる)。
【0140】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、式(17)に示されるブチレングリコール(n=4)と脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、R
17及びR
18部分の炭素数の合計が、約2以上であることが好ましい(上記炭素数の合計が2の場合に、IOBが0.33となる)。
また、IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、式(18)に示されるエチレングリコール(n=2)と脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、R
17部分の炭素数が、約8以上であることが好ましい(上記炭素数が8の場合に、IOBが0.60となる)。
【0141】
化合物(B)としては、化合物(B1)と、化合物(B2)とを、酸触媒の存在下で、脱水縮合することにより生成することができる。
【0142】
[(C) (C1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する、2〜4個のカルボキシル基とを含むカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、(C2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエステル]
(C) (C1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する、2〜4個のカルボキシル基とを含むカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、(C2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエステル(以下、「化合物(C)」と称する場合がある)は、上述の動粘度、抱水率及び重量平均分子量を有する限り、全てのカルボキシル基がエステル化されていなくともよい。
【0143】
(C1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する、2〜4個のカルボキシル基とを含むカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸(以下、「化合物(C1)」と称する場合がある)としては、例えば、2〜4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素カルボン酸、例えば、鎖状炭化水素ジカルボン酸、例えば、アルカンジカルボン酸、例えば、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸及びデカン二酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、例えば、アルカントリカルボン酸、例えば、プロパン三酸、ブタン三酸、ペンタン三酸、ヘキサン三酸、ヘプタン三酸、オクタン三酸、ノナン三酸及びデカン三酸、並びに鎖状炭化水素テトラカルボン酸、例えば、アルカンテトラカルボン酸、例えば、ブタン四酸、ペンタン四酸、ヘキサン四酸、ヘプタン四酸、オクタン四酸、ノナン四酸及びデカン四酸が挙げられる。
【0144】
また、化合物(C1)には、2〜4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ヒドロキシ酸、例えば、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸等、2〜4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素アルコキシ酸、例えば、O−アセチルクエン酸、及び2〜4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素オキソ酸が含まれる。
(C2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物としては、「化合物(B)」の項で列挙されるもの、例えば、脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0145】
化合物(C)としては、(c
1)4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素テトラカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル、例えば、モノエステル、ジエステル、トリエステル及びテトラエステル、好ましくはジエステル、トリエステル及びテトラエステル、より好ましくはトリエステル及びテトラエステル、そしてさらに好ましくはテトラエステル、(c
2)3個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素トリカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル、例えば、モノエステル、ジエステル及びトリエステル、好ましくはジエステル及びトリエステル、そしてより好ましくはトリエステル、並びに(c
3)2個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ジカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル、例えば、モノエステル及びジエステル、好ましくはジエステルが挙げられる。
化合物(C)の例としては、アジピン酸ジオクチル、O−アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられ、そして市販されている。
【0146】
[(D)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、及びカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つの結合とを有する化合物]
(D)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、及びカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つの結合とを有する化合物(以下、「化合物(D)」と称する場合がある)としては、(d
1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(d
2)ジアルキルケトン、(d
3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル、及び(d
4)ジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0147】
[(d
1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル]
上記脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、次の式(19):
R
19OR
20 (19)
(式中、R
19及びR
20は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
を有する化合物が挙げられる。
【0148】
上記エーテルを構成する脂肪族1価アルコール(式(19)において、R
19OH及びR
20OHに相当する)としては、上記エーテルが、上述の動粘度、抱水率及び重量平均分子量の要件を満たすものであれば、特に制限されず、例えば、「化合物(B)」の項で列挙される脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0149】
[(d
2)ジアルキルケトン]
上記ジアルキルケトンとしては、次の式(20):
R
21COR
22 (20)
(式中、R
21及びR
22は、それぞれ、アルキル基である)
を有する化合物が挙げられる。
上記ジアルキルケトンは、市販されている他、公知の方法、例えば、第二級アルコールを、クロム酸等で酸化することにより得ることができる。
【0150】
[(d
3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル]
上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルとしては、例えば、次の式(21):
R
23COOR
24 (21)
(式中、R
23及びR
24は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
を有する化合物が挙げられる。
【0151】
上記エステルを構成する脂肪酸(式(21)において、R
23COOHに相当する)としては、例えば、「(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル」において列挙されている脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸が好ましい。上記エステルを構成する脂肪族1価アルコール(式(21)において、R
24OHに相当する)としては、例えば、「化合物(B)」の項で列挙される脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0152】
上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルの例としては、例えば、ドデカン酸(C
12)と、ドデシルアルコール(C
12)とのエステル、テトラデカン酸(C
14)と、ドデシルアルコール(C
12)とのエステル等が挙げられ、上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルの市販品としては、例えば、エレクトールWE20、及びエレクトールWE40(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0153】
[(d
4)ジアルキルカーボネート]
上記ジアルキルカーボネートとしては、次の式(22):
R
25OC(=O)OR
26 (22)
(式中、R
25及びR
26は、それぞれ、アルキル基である)
を有する化合物が挙げられる。
上記ジアルキルカーボネートは、市販されている他、ホスゲンとアルコールとの反応、塩化ギ酸エステルとアルコール又はアルコラートとの反応、及び炭酸銀とヨウ化アルキルとの反応により合成することができる。
【0154】
抱水率、蒸気圧等の観点から考察すると、(d
1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(d
2)ジアルキルケトン、(d
3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル、及び(d
4)ジアルキルカーボネートでは、重量平均分子量が約100以上であることが好ましく、そして約200以上であることがより好ましい。
なお、(d
2)ジアルキルケトンにおいて、上記炭素数の合計が約8の場合、例えば、5−ノナノンでは、融点は約−50℃であり、蒸気圧は20℃で約230Paである。
【0155】
[(E)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール、又はそのアルキルエステル若しくはアルキルエーテル]
(E)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール、又はそのアルキルエステル若しくはアルキルエーテル(以下、化合物(E)と称する場合がある)としては、(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール、(e
2)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、(e
3)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテルが挙げられる。以下、説明する。
【0156】
[(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール]
上記ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールは、i)オキシC
3〜C
6アルキレン骨格、すなわち、オキシプロピレン骨格、オキシブチレン骨格、オキシペンチレン骨格、及びオキシヘキシレン骨格から成る群から選択されるいずれか1種の骨格を有し且つ両末端にヒドロキシ基を有するホモポリマー、ii)上記群から選択される2種以上の骨格を有し且つ両末端にヒドロキシ基を有するブロックコポリマー、又はiii)上記群から選択される2種以上の骨格を有し且つ両末端にヒドロキシ基を有するランダムコポリマーを意味する。
【0157】
上記ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールは、次の式(23):
HO−(C
mH
2mO)
n−H (23)
(式中、mは3〜6の整数である)
により表わされる。
【0158】
本発明者が確認したところ、ポリプロピレングリコール(式(23)において、m=3のホモポリマーに相当する)では、重量平均分子量が約1,000未満の場合には、抱水率の要件を満たさないことが見いだされた。従って、上記血液滑性付与剤の範囲に、ポリプロピレングリコールのホモポリマーは含まれず、プロピレングリコールは、他のグリコールとのコポリマー又はランダムポリマーとして、(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールに含まれるべきである。
【0159】
なお、本発明者が確認したところ、ポリエチレングリコール(式(23)において、m=2のホモポリマーに相当する)では、重量平均分子量が1,000未満では、動粘度及び抱水率の要件を満たし得ないことが示唆された。
【0160】
IOBを約0.00〜約0.60とする観点から考察すると、例えば、式(23)がポリブチレングリコール(m=4のホモポリマー)である場合には、n≧約7であることが好ましい(n=7の場合に、IOBが0.57となる)。
上記ポリC
3〜C
6アルキレングリコールの市販品としては、例えば、ユニオール(商標)PB−500及びPB−700(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0161】
[(e
2)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
上記ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルとしては、「(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール」の項で説明したポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールのOH末端の一方又は両方が、脂肪酸によりエステル化されているもの、すなわち、モノエステル及びジエステルが挙げられる。
【0162】
ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪酸とのエステルにおいて、エステル化すべき脂肪酸としては、例えば、「(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル」において列挙されている脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸が好ましい。
【0163】
[(e
3)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル]
上記ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、「(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール」の項で説明したポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールのOH末端の一方又は両方が、脂肪族1価アルコールによりエーテル化されているもの、すなわち、モノエーテル及びジエーテルが挙げられる。
ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテルにおいて、エーテル化すべき脂肪族1価アルコールとしては、例えば、「化合物(B)」の項で列挙されている脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0164】
[(F)鎖状炭化水素]
上記鎖状炭化水素としては、例えば、(f
1)鎖状アルカン、例えば、直鎖アルカン及び分岐鎖アルカンが挙げられる。直鎖アルカンは、融点が約45℃以下の場合には、炭素数が約22以下となり、そして蒸気圧が1気圧及び25℃で約0.01Pa以下である場合には、炭素数が約13以上となる。分岐鎖アルカンは、直鎖アルカンよりも、同一炭素数において融点が低い傾向がある。従って、分岐鎖アルカンは、融点が約45℃以下の場合でも、炭素数が22以上のものも含むことができる。
上記炭化水素の市販品としては、例えば、パールリーム6(日油株式会社)が挙げられる。
【0165】
本開示の実施形態の1つに従う不織布では、第2領域、第3領域及び第4領域が、それぞれ、血液滑性付与剤を含む血液滑性付与剤含有第2領域、血液滑性付与剤含有第3領域及び血液滑性付与剤含有第4領域を有する。
本開示の別の実施形態に従う不織布では、第2領域、第3領域及び/又は第4領域が、血液滑性付与剤のみから成る血液滑性付与剤含有第2領域、血液滑性付与剤含有第3領域及び/又は血液滑性付与剤含有第4領域を有する。
【0166】
本開示の別の実施形態に従う不織布では、第2領域、第3領域及び/又は第4領域が、上述の血液滑性付与剤と、少なくとも1種の他の成分とを含む血液滑性付与剤含有組成物から成る血液滑性付与剤含有第2領域、血液滑性付与剤含有第3領域及び/又は血液滑性付与剤含有第4領域を有する。
以下、血液滑性付与剤含有組成物について説明する。
【0167】
[血液滑性付与剤含有組成物]
血液滑性付与剤含有組成物は、上述の血液滑性付与剤と、少なくとも1種の他の成分とを含む。上記少なくとも1種の他の成分としては、本開示の効果を阻害しないものであれば特に制限されず、当業界で吸収性物品、特にトップシートに慣用的に適用されるものが挙げられる。
上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーン、シリコーン系レジン等が挙げられる。
上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、酸化防止剤、例えば、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)、BHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、没食子酸プロピル等が挙げられる。
【0168】
上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、ビタミン、例えば、天然ビタミン又は合成ビタミンが挙げられる。上記ビタミンとしては、例えば、水溶性ビタミン、例えば、ビタミンB群、例えば、ビタミンB
1,ビタミンB
2,ビタミンB
3,ビタミンB
5,ビタミンB
6,ビタミンB
7,ビタミンB
9,ビタミンB
12等、ビタミンCが挙げられる。
上記ビタミンとしては、例えば、脂溶性ビタミン、例えば、ビタミンA群、ビタミンD群、ビタミンE群、およびビタミンK群等が挙げられる。
上記ビタミンにはまた、それらの誘導体も含まれる。
【0169】
上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、アミノ酸、例えば、アラニン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、プロリン、ヒドロキシプロリン等、並びにペプチドが挙げられる。
【0170】
上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、ゼオライト、例えば、天然ゼオライト、例えば、方沸石、菱沸石、輝沸石、ナトロライト、束沸石、及びソモソナイト、並びに、合成ゼオライトが挙げられる。
上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、コレステロール、ヒアルロン酸、レシチン、セラミド等が挙げられる。
【0171】
また、上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、薬剤、例えば、皮膚収斂剤、抗ニキビ剤、抗シワ剤、抗セルライト剤、美白剤、抗菌剤、抗カビ剤等が挙げられる。
上記皮膚収斂剤としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸アルミニウム、タンニン酸等、油溶性皮膚収斂剤、例えば、油溶性ポリフェノールが挙げられる。上記油溶性ポリフェノールとしては、天然の油溶性ポリフェノール、例えば、オオバクエキス、オトギリソウエキス、オドリコソウエキス、カモミラエキス、ゴボウエキス、サルビアエキス、シナノキエキス、セイヨウボダイジュエキス、シラカバエキス、スギナエキス、セージエキス、サルビアエキス、テウチグルミエキス、ハイビスカスエキス、ビワ葉エキス、ボダイジュエキス、ホップエキス、マロニエエキス、ヨクイニンエキス等が挙げられる。
【0172】
上記抗ニキビ剤としては、例えば、サリチル酸、過酸化ベンゾイル、レゾルシノール、イオウ、エリスロマイシン、亜鉛等が挙げられる。
上記抗シワ剤としては、例えば、乳酸、サリチル酸、サリチル酸誘導体、グリコール酸、フィチン酸、リポ酸、リソフォスファチド酸が挙げられる。
【0173】
上記抗セルライト剤としては、例えば、キサンチン化合物、例えば、アミノフィリン、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン等が挙げられる。
上記美白剤としては、例えば、ナイアシンアミド、コウジ酸、アルブチン、グルコサミン及び誘導体、フィトステロール誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体、並びにクワ抽出物及び胎盤抽出物が挙げられる。
【0174】
また、上記少なくとも1種の他の成分としては、例えば、抗炎症成分、pH調整剤、抗菌剤、保湿剤、香料、色素、染料、顔料、植物抽出エキス等が挙げられる。上記抗炎症成分としては、例えば、天然由来の抗炎症剤、例えば、ボタン、オオゴン、オトギリソウ、カモミール、甘草、モモノハ、ヨモギ、シソエキス等、合成抗炎症剤、例えば、アラントイン、グリチルリチン酸ジカリウム等が挙げられる。
上記pH調整剤としては、皮膚を弱酸性に保つためのもの、例えば、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸等が挙げられる。
上記顔料としては、例えば、酸化チタンが挙げられる。
【0175】
上記血液滑性付与剤含有組成物は、血液滑性付与剤及び少なくとも1種の他の成分を、それぞれ、好ましくは約50〜約99質量%及び約1〜約50質量%、より好ましくは約60〜約99質量%及び約1〜約40質量%、さらに好ましくは約70〜約99質量%及び約1〜約30質量%、さらにいっそう好ましくは約80〜約99質量%及び約1〜約20質量%、さらにいっそう好ましくは約90〜99質量%及び約1〜約10質量%、そしてさらにいっそう好ましくは約95〜99質量%及び約1〜約5質量%含む。本開示の効果の観点からである。
【0176】
上記血液滑性付与剤含有組成物は、界面活性剤を、トップシート又はセカンドシートの親水化処理に由来する量以下で含むことが好ましい。より具体的には、上記血液滑性付与剤含有組成物は、界面活性剤を、好ましくは約0.0〜約1.0g/m
2、より好ましくは約0.0〜約0.8g/m
2、さらに好ましくは約0.1〜約0.5g/m
2、そしてさらにいっそう好ましくは約0.1〜約0.3g/m
2の坪量の範囲で含む。
界面活性剤の量が増えると、経血がトップシートに残存しやすい傾向があるからである。なお、界面活性剤は、抱水率の値を有しない。水と混和するため、測定すべき物質の層が存在しないからである。
【0177】
上記血液滑性付与剤含有組成物は、水を、好ましくは約0.0〜約1.0g/m
2、より好ましくは約0.0〜約0.8g/m
2、さらに好ましくは約0.1〜約0.5g/m
2、そしてさらにいっそう好ましくは約0.1〜約0.3g/m
2の坪量の範囲で含む。
水は、吸収性物品の吸収性能を低下させるため、少ないことが好ましい。
【0178】
上記血液滑性付与剤含有組成物は、血液滑性付与剤と同様に、組成物として、40℃において、約0〜約80mm
2/sの動粘度を有することが好ましく、約1〜約70mm
2/sの動粘度を有することがより好ましく、約3〜約60mm
2/sの動粘度を有することがさらに好ましく、約5〜約50mm
2/sの動粘度を有することがさらにいっそう好ましく、そして約7〜約45mm
2/sの動粘度を有することがさらにいっそう好ましい。
上記血液滑性付与剤含有組成物の動粘度が約80mm
2/sを超えると、粘性が高く、トップシートの肌当接面に到達した経血と共に、血液滑性付与剤組成物が吸収性物品の内部に滑落することが難しくなる傾向があるからである。
【0179】
上記血液滑性付与剤含有組成物が、上記少なくとも1種の他の成分として上記血液滑性付与剤と混和する成分を含む場合には、その他の成分は、好ましくは約1,000未満の重量平均分子量を有し、そしてより好ましくは約900未満の重量平均分子量を有する。上記重量平均分子量が約1,000以上であると、血液滑性付与剤含有組成物そのものにタック性が生じ、着用者に不快感を与える傾向があるからである。また、重量平均分子量が高くなると、血液滑性付与剤含有組成物の粘度が高くなる傾向があるため、加温により、血液滑性付与剤組成物の粘度を、塗布に適した粘度に下げることが難しくなり、その結果、血液滑性付与剤を、溶媒で希釈しなければならない場合も生じうる。
【0180】
上記血液滑性付与剤含有組成物は、組成物として、約0.01〜約4.0質量%の抱水率を有し、約0.02〜約3.5質量%の抱水率を有することが好ましく、約0.03〜約3.0質量%の抱水率を有することがより好ましく、約0.04〜約2.5質量%の抱水率を有することがさらに好ましく、そして約0.05〜約2.0質量%の抱水率を有することがさらに好ましい。
【0181】
上記抱水率が低くなると、血液滑性付与剤組成物と、経血との親和性が低下し、トップシートの肌当接面に到達した経血が吸収性物品の内部に滑落しにくくなる傾向がある。
なお、上記血液滑性付与剤含有組成物が固形物を含む場合には、動粘度及び抱水率の測定において、それらを濾過により取り除くことが好ましい。
【0182】
上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物は、所望により、揮発性溶媒、例えば、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、芳香族系溶媒等を含む塗布液として塗装されうる。上記塗布液が揮発性溶媒を含むことにより、上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物を含む塗布液の粘度が下がるために、塗布が容易になる、塗装時の加温が不要になる等の塗布工程の簡易化が図れる。
【0183】
[不織布及び吸収性物品の製造方法]
本開示の不織布は、例えば、特開2008−25078号に記載の方法に従って、血液滑性付与剤を塗布すべき不織布を形成し、次いで形成された不織布に、血液滑性付与剤を塗布することにより製造することができる。例えば、
図1に示される不織布5は、特開2008−25078号の「第1実施例」に従って製造することができ、
図3に示される不織布5は、同「第2実施例」に従って製造することができる。
【0184】
上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物、あるいはそれを含む塗布液の塗布方法は、特に制限されるものではなく、必要に応じて上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物、あるいはそれを含む塗布液を加熱し、例えば、非接触式のコーター、例えば、スパイラルコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ディップコーター等、接触式のコーター等の塗布装置を用いて、上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物、あるいはそれを含む塗布液を塗布することができる。上記塗布装置としては、液滴状又は粒子状の改質剤が全体に均一に分散される点、及び資材にダメージを与えない観点から、非接触式のコーターが好ましい。
【0185】
また、上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物、あるいはそれを含む塗布液は、室温で液体の場合にはそのまま、又は粘度を下げるために加熱され、そして室温で固体の場合には液化するように加熱され、コントロールシームHMA(Hot Melt Adhesive)ガンから塗布されることができる。コントロールシームHMAガンのエアー圧を高くすることにより、微粒子状の血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物を塗布することができる。
なお、血液改質付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物の塗布量は、例えば、コントロールシームHMAガンからの塗出量を増減することにより調節することができる。
【0186】
なお、第2領域、第3領域及び第4領域の血液滑性付与剤の坪量は、例えば、以下のように変化させることができる。
(1)本開示の不織布を、特開2008−25078号に従って製造する際に、繊維ウェブに、吹き出し口から、熱風と共に、血液滑性付与剤等を吹き付ける。
吹き出し口から吹き出された血液滑性付与剤等は、第1領域に当たった後に跳ね返り、第2領域、第3領域及び第4領域に付着する。なお、吹き付けにより、吹き出し口に相対的に近い第2領域及び第4領域における血液滑性付与剤の坪量は、吹き出し口から相対的に遠い第
3領域における血液滑性付与剤の坪量よりも多くなる。
【0187】
(2)複数の畝部(第2領域、第3領域及び第4領域)と、複数の溝部(第1領域)とを有する不織布の場合には、例えば、コントロールシームHMAガンから、血液滑性付与剤等を、溝部(第1領域)に沿って畝部の側部(第2領域及び第4領域)を中心に塗布する。
(3)複数の畝部と、複数の溝部とを有する不織布の場合には、畝部の中央部(第3領域)にマスキングテープを貼り付け、不織布全体に血液滑性付与剤等を均一に塗布し、次いで、マスキングテープを剥離する。
【0188】
本開示の不織布を含む吸収性物品は、当技術分野に公知の方法に従って、製造することができる。例えば、液透過性のバックシート、吸収体、及び上述の不織布を、間に接着剤を挟んで積層し、次いで、吸収性物品の形状にカットすることにより製造することができる。
【0189】
上記不織布を構成する繊維として、天然繊維及び化学繊維が挙げられ、天然繊維としては、例えば、粉砕パルプ、コットン等のセルロースが挙げられ、化学繊維としては、例えば、レーヨン、フィブリルレーヨン等の再生セルロース、アセテート、トリアセテート等の半合成セルロース、熱可塑性疎水性化学繊維、並びに親水化処理を施した熱可塑性疎水性化学繊維が挙げられる。
【0190】
上記熱可塑性疎水性化学繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の単繊維、PE及びPPのグラフト重合物からなる繊維が挙げられる。
【0191】
上記液不透過性のバックシートとしては、PE、PP等を含むフィルム、通気性を有する樹脂フィルム、スパンボンド又はスパンレース等の不織布に通気性を有する樹脂フィルムを接合したもの、SMS等の複層不織布等が挙げられる。吸収性物品の柔軟性を考慮すると、例えば、坪量約15〜約30g/m
2の低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムが好ましい。
【0192】
本開示の実施形態の1つに従う吸収性物品は、液透過性のトップシートと、吸収体との間に、セカンドシートを含む。上記セカンドシートとしては、液透過性のトップシートと同様の例が挙げられる。
【0193】
上記吸収体の第1の例としては、吸収コアが、コアラップで覆われているものが挙げられる。
上記吸収コアの構成要素としては、例えば、親水性繊維、例えば、粉砕パルプ、コットン等のセルロース、レーヨン、フィブリルレーヨン等の再生セルロース、アセテート、トリアセテート等の半合成セルロース、粒子状ポリマー、繊維状ポリマー、熱可塑性疎水性化学繊維、及び親水化処理された熱可塑性疎水性化学繊維、並びにこれらの組み合わせ等が挙げられる。また、上記吸収コアの構成要素として、高吸収性ポリマー、例えば、アクリル酸ナトリウムコポリマー等の粒状物が挙げられる。
【0194】
上記コアラップとしては、液透過性で高分子吸収体が透過しないバリアー性を有する物であれば、特に制限されず、例えば、織布、不織布等が挙げられる。上記織布及び不織布としては、天然繊維、化学繊維、ティッシュ等が挙げられる。
【0195】
上記吸収体の第2の例としては、吸収シート又はポリマーシートから形成されたものが挙げられ、その厚さは、約0.3〜約5.0mmであることが好ましい。上記吸収シート及びポリマーシートとしては、通常、生理用ナプキン等の吸収性物品に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。
【0196】
上記サイドシートしては、液透過性のトップシートと同様の例が挙げられる。
上記フラップは、サイドシートと、液不透過性のバックシートとから形成されることができ、所望により、補強シート、例えば、紙をそれらの間に有することができる。
【0197】
上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物は、不織布の繊維間の空隙を閉塞しないことが好ましく、上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物は、例えば、不織布の繊維の表面に、液滴状又は粒子状で付着しているか、あるいは繊維の表面を覆っていることができる。
【0198】
また、上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物は、吸収した経血とともに滑落するために、その表面積が大きいことが好ましく、液滴状又は粒子状で存在する血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物は、粒径が小さいことが好ましい。
【0199】
本開示の別の実施形態に従う吸収性物品は、血液滑性付与剤を含むセカンドシートを有する。また、本開示の別の実施形態に従う吸収性物品は、血液滑性付与剤を含む吸収体を有する。
【0200】
血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物が塗布される不織布は、親水化処理されていることが好ましい。上記親水化処理としては、不織布の繊維の表面に親水剤をコーティングすること、不織布の原料である合成樹脂に親水剤を混合すること等が挙げられる。
【0201】
血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物を塗布する前の不織布が親水性を有することにより、トップシート上に血液滑性付与剤に由来する親油性領域と、親水剤に由来する親水性領域とがまばらに共存することになり、血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物が滑落性能を発揮し、経血を、吸収体に速やかに移行させやすくなるからである。
【0202】
上記血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物は潤滑剤としても作用しうる。従って、血液滑性付与剤又は血液滑性付与剤含有組成物が、不織布の繊維同士の摩擦を低減させ、不織布全体のしなやかさを向上させることができる。
【0203】
本開示の好ましい実施形態に従う吸収性物品としては、血液を吸収することを目的とするもの、例えば、生理用ナプキン、パンティーライナー等が挙げられる。
なお、本開示の不織布、並びに当該不織布を含む吸収性物品は、公知のスキンケア組成物、ローション組成物等を含む吸収性物品とは異なり、エモリエント剤、固定化剤等の成分が不要であり、本開示の実施形態の1つに従う不織布、並びに当該不織布を含む吸収性物品は、エモリエント剤及び/又は固定化剤を含まない。
【実施例】
【0204】
以下、例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
[例1]
[リウェット率及び吸収体移行速度の評価]
図5に示されるような形状を有する市販の生理用ナプキン(立体ギャザーを有せず、血液滑性付与剤が塗布されていない)を準備した。当該生理用ナプキンは、親水剤で処理されたエアスルー不織布(ポリエステル及びポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:35g/m
2)から形成されたトップシートと、エアスルー不織布(ポリエステル及びポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:30g/m
2)から形成されたセカンドシートと、パルプ(坪量:150〜450g/m
2、中央部ほど多い)、アクリル系高吸収ポリマー(坪量:15g/m
2)及びコアラップとしてのティッシュを含む吸収体と、撥水剤処理されたサイドシートと、ポリエチレンフィルムから成るバックシートとから形成されていた。
【0205】
以下に、実験に用いられた血液滑性付与剤を列挙する。
[(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
・ユニスター H−408BRS,日油株式会社製
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリトール,重量平均分子量:約640
・ユニスター H−2408BRS−22,日油株式会社製
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリトールと、ジ2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールとの混合物(58:42、重量比),重量平均分子量:約520
【0206】
[(a
2)鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
・Cetiol SB45DEO,コグニスジャパン株式会社製
脂肪酸が、オレイン酸又はステアリル酸である、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・SOY42,日油株式会社製
C
14の脂肪酸:C
16の脂肪酸:C
18の脂肪酸:C
20の脂肪酸(飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の両方を含む)がおおよそ0.2:11:88:0.8の質量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:880
【0207】
・トリC2L油脂肪酸グリセリド,日油株式会社製
C
8の脂肪酸:C
10の脂肪酸:C
12の脂肪酸がおおよそ37:7:56の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約570
・トリCL油脂肪酸グリセリド,日油株式会社製
C
8の脂肪酸:C
12の脂肪酸がおおよそ44:56の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約570
【0208】
・パナセート810s,日油株式会社製
C
8の脂肪酸:C
10の脂肪酸がおおよそ85:15の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約480
・パナセート800,日油株式会社製
脂肪酸が全てオクタン酸(C
8)である、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約470
【0209】
・パナセート800B,日油株式会社製
脂肪酸が全て2−エチルヘキサン酸(C
8)である、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約470
・NA36,日油株式会社製
C
16の脂肪酸:C
18の脂肪酸:C
20の脂肪酸(飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の両方を含む)がおおよそ5:92:3の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約880
【0210】
・トリヤシ油脂肪酸グリセリド,日油株式会社製
C
8の脂肪酸:C
10の脂肪酸:C
12の脂肪酸:C
14の脂肪酸:C
16の脂肪酸(飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の両方を含む)がおおよそ4:8:60:25:3の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:670
・カプリル酸ジグリセリド,日油株式会社製
脂肪酸がオクタン酸である、グリセリンと脂肪酸とのジエステル,重量平均分子量:340
【0211】
[(a
3)鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル]
・ユニスター H−208BRS,日油株式会社製
ジ2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール,重量平均分子量:約360
・コムポールBL,日油株式会社製
ブチレングリコールのドデカン酸(C
12)モノエステル,重量平均分子量:約270
・コムポールBS,日油株式会社製
ブチレングリコールのオクタデカン酸(C
18)モノエステル,重量平均分子量:約350
【0212】
[(c
2)3個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素トリカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル]
・O−アセチルクエン酸トリブチル,東京化成工業株式会社製
重量平均分子量:約400
・クエン酸トリブチル,東京化成工業株式会社製
重量平均分子量:約360
【0213】
[(c
3)2個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ジカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル]
・アジピン酸ジオクチル,和光純薬工業製
重量平均分子量:約380
【0214】
[(d
3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル]
・エレクトールWE20,日油株式会社製
ドデカン酸(C
12)と、ドデシルアルコール(C
12)とのエステル,重量平均分子量:約360
・エレクトールWE40,日油株式会社製
テトラデカン酸(C
14)と、ドデシルアルコール(C
12)とのエステル,重量平均分子量:約390
【0215】
[(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール]
・ユニオールPB500,日油株式会社製
ポリブチレングリコール,重量平均分子量:約500
・ユニオールPB700,日油株式会社製
ポリオキシブチレンポリオキシプロピレングリコール,重量平均分子量:約700
【0216】
[(f
1)鎖状アルカン]
・パールリーム6,日油株式会社製
流動イソパラフィン、イソブテン及びn-ブテンを共重合し、次いで水素を付加することにより生成された分岐鎖炭化水素、重合度:約5〜約10,重量平均分子量:約330
【0217】
[その他の材料]
・NA50,日油株式会社製
NA36に水素を付加し、原料である不飽和脂肪酸に由来する二重結合の比率を下げたグリセリンと脂肪酸とのトリエステル,重量平均分子量:約880
・(カプリル酸/カプリン酸)モノグリセリド,日油株式会社製
オクタン酸(C
8)及びデカン酸(C
10)がおおよそ85:15の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのモノエステル,重量平均分子量:約220
・Monomuls 90−L2ラウリン酸モノグリセリド,コグニスジャパン株式会社製
【0218】
・クエン酸イソプロピル,東京化成工業株式会社製
重量平均分子量:約230
・リンゴ酸ジイソステアリル
重量平均分子量:約640
・ユニオールPB1000R,日油株式会社製
ポリブチレングリコール,重量平均分子量:約1,000
・ユニオールD−250,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約250
【0219】
・ユニオールD−400,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約400
・ユニオールD−700,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約700
・ユニオールD−1000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約1,000
・ユニオールD−1200,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約1,160
【0220】
・ユニオールD−2000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約2,030
・ユニオールD−3000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約3,000
・ユニオールD−4000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコール,重量平均分子量:約4,000
【0221】
・PEG1500,日油株式会社製
ポリエチレングリコール,重量平均分子量:約1,500〜約1,600
・ウィルブライトcp9,日油株式会社製
ポリブチレングリコールの両末端のOH基が、ヘキサデカン酸(C
16)によりエステル化された化合物,重量平均分子量:約1,150
・ユニルーブMS−70K,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのステアリルエーテル,約15の繰返し単位,重量平均分子量:約1,140
【0222】
・ノニオンS−6,日油株式会社製
ポリオキシエチレンモノステアレート、約7の繰返し単位、重量平均分子量:約880
・ユニルーブ5TP−300KB
ペンタエリトリトール1モルに、エチレンオキシド5モルと、プロピレンオキシド65モルとを付加させることにより生成した、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリスリトールエーテル,重量平均分子量:4,130
【0223】
・ウィルブライトs753,日油株式会社製
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオキシブチレングリセリン,重量平均分子量:約960
・ユニオール TG−330,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのグリセリルエーテル,約6の繰返し単位,重量平均分子量:約330
【0224】
・ユニオール TG−1000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのグリセリルエーテル,約16の繰返し単位,重量平均分子量:約1,000
・ユニオール TG−3000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのグリセリルエーテル,約16の繰返し単位,重量平均分子量:約3,000
・ユニオール TG−4000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのグリセリルエーテル,約16の繰返し単位,重量平均分子量:約4,000
【0225】
・ユニルーブ DGP−700,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのジグリセリルエーテル,約9の繰返し単位,重量平均分子量:約700
・ユニオックスHC60,日油株式会社製
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油,重量平均分子量:約3,570
・ワセリン,コグニスジャパン株式会社製
石油に由来する炭化水素、半固形
上記試料の、動粘度、抱水率、重量平均分子量、IOB及び融点を、下記表2に示す。
また、融点に関し、「<45」は、融点が45℃未満であることを意味する。
【0226】
上記生理用ナプキンのトップシートの肌当接面のほぼ全体に、上述の血液滑性付与剤を塗布した。各血液滑性付与剤を、血液滑性付与剤が室温で液体である場合にはそのまま、そして血液滑性付与剤が室温で固体である場合には、融点+20℃の温度まで加熱し、次いで、コントロールシームHMAガンを用いて、各血液滑性付与剤を微粒化し、トップシートの肌当接面に、坪量がおおよそ5g/m
2となるように塗布した。
【0227】
図7は、トップシートがトリC2L油脂肪酸グリセリドを含む生理用ナプキン(No.1−5)における、トップシートの肌当接面の電子顕微鏡写真である。
図7から明らかなように、トリC2L油脂肪酸グリセリドは、微粒子状で、繊維の表面に存在している。
【0228】
[試験方法]
各血液滑性付与剤を含むトップシートの上に、穴の開いたアクリル板(200mm×100mm,125g,中央に、40mm×10mmの穴が開いている)を置き、上記穴から、37±1℃のウマEDTA血(ウマの血液に、凝結防止のため、エチレンジアミン四酢酸(以下、「EDTA」と称する)が添加されたもの)3.0gを、ピペットを用いて滴下(1回目)し、1分後、37±1℃のウマEDTA血3.0gを、アクリル板の穴から、ピペットで再度滴下した(2回目)。
【0229】
2回目の血液の滴下後、直ちに上記アクリル板を外し、血液を滴下した場所に、ろ紙(アドバンテック東洋株式会社 定性濾紙 No.2,50mm×35mm)10枚(ろ紙10枚の総質量:FW
0(g))を置き、その上から、圧力が30g/cm
2となるようにおもりを置いた。1分後、上記ろ紙を取出し、試験後のろ紙10枚の総質量FW
1(g)を測定し、以下の式に従って、「リウェット率」を算出した。
リウェット率(質量%)
=100×[FW
1(g)−FW
0(g)]/6.0(g)
【0230】
また、リウェット率の評価とは別に、2回目の血液の滴下後、血液がトップシートから吸収体に移行する時間である「吸収体移行速度」を測定した。上記吸収体移行速度は、トップシートに血液を投入してから、トップシートの表面及び内部に、血液の赤さが見られなくなるまでの時間を意味する。
リウェット率と、吸収体移行速度の結果を、下記表2に示す。
【0231】
また、吸収体移行速度の試験後のトップシート(TS)の肌当接面の白さを、以下の基準に従って、目視で評価した。
◎:血液の赤さがほとんど残っておらず、血液が存在した場所と、存在していない場所の区別がつかない
○:血液の赤さが若干残っているが、血液の存在した場所と、存在していない場所の区別がつきいにくい
△:血液の赤さが若干残っており、血液が存在した場所が分かる
×:血液の赤さがそのまま残っている
【0232】
さらに、トップシートの肌当接面のタック性を、以下の基準に従って35℃で測定した。
○:タック性なし
△:若干のタック性有り
×:タック性有り
結果を、併せて下記表2に示す。
【0233】
【表2-1】
【0234】
【表2-2】
【0235】
血液滑性付与剤を有しない場合には、リウェット率は22.7%であり、そして吸収体移行速度は60秒超であったが、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、いずれも、リウェット率が7.0%以下であり、そして吸収体移行速度が8秒以下であることから、吸収性能が大幅に改善されていることが分かる。
【0236】
上記血液滑性付与剤は、吸収体移行速度が速いことから、本開示の不織布において、血液滑性付与剤含有第2領域及び/又は血液滑性付与剤含有第4領域における血液滑性付与剤の坪量が、血液滑性付与剤含有第3領域における血液滑性付与剤の坪量よりも多いことにより、第2領域及び/又は第4領域に到達した経血が縦方向に拡散する前に、吸収体の内部に速やかに滑落させることができることが示唆される。
【0237】
同様に、40℃における約0.01〜80mm
2/sの動粘度と、約0.01〜約4.0質量%の抱水率と、約1,000未満の重量平均分子量とを有する血液滑性付与剤では、吸収性能が大きく改善されることが分かった。
【0238】
次に、No.1−1〜1−51の生理用ナプキンを、複数のボランティアの被験者に着用してもらったところ、No.1−1〜1−23の血液滑性付与剤を含む生理用ナプキンでは、経血を吸収した後であってもトップシートにべたつき感がなく、トップシートがサラサラしているとの回答を得た。
また、No.1−11,13,16,18〜20及び23の血液滑性付与剤を含む生理用ナプキンでは、経血を吸収後のトップシートの肌当接面が、血液で赤く染まっておらず、不快感が少ないとの回答を得た。
【0239】
[例2]
[畝溝構造を有するトップシートにおける経血の表面残存率]
畝溝構造を有するトップシートにおける経血の表面残存率を評価した。
親水剤で処理されたエアスルー不織布(ポリエステル及びポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:35g/m
2)から形成されたトップシートと、エアスルー不織布(ポリエステル及びポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:30g/m
2)から形成されたセカンドシートと、パルプ(坪量:150〜450g/m
2、中央部ほど多い)、アクリル系高吸収ポリマー(坪量:15g/m
2)及びコアラップとしてのティッシュを含む吸収体と、撥水剤処理されたサイドシートと、ポリエチレンフィルムから成るバックシートとを準備した。
【0240】
上記トップシートは、特開2008−2034号公報に記載の方法に従って製造された、畝溝構造を有するトップシートであり、畝部の厚さが約1.5mmであり、溝部の厚さが約0.4mmであり、畝溝構造のピッチ(畝部の幅+溝部の幅)が約4mmであり、そして溝部には、開孔率約15%の開孔部が形成されていた。
【0241】
血液滑性付与剤として、ユニスター H−408BRS(日油株式会社製、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステル)を選択し、室温において、コントロールシームHMAガンから、上記トップシートの肌当接面(畝溝面)に、5.0g/m
2の坪量で塗布した。電子顕微鏡で確認したところ、H−408BRSは、微粒子状で、繊維の表面に付着していた。
次いで、バックシート、吸収体、セカンドシート、そして畝溝面を上にしてトップシートを順に重ね合わせることにより、生理用ナプキンNo.2−1を形成した。
【0242】
血液滑性付与剤を、ユニスター H−408BRSから、下記表3に示されるものに変更して、生理用ナプキンNo.2−2〜No.2−40を製造した。なお、血液滑性付与剤が室温で液体である場合には、そのまま、そして血液滑性付与剤が室温で固体である場合には、融点+20℃の温度まで加熱し、次いで、コントロールシームHMAガンを用いて、血液滑性付与剤を微粒化し、トップシートの肌当接面に、坪量がおおよそ5g/m
2となるように塗布した。
また、血液滑性付与剤は、トップシートの肌当接面のほぼ全面に、そして畝部及び溝部の両方に塗布された。
【0243】
[試験方法]
トップシートの質量:W
2(g)(試験前のトップシートの質量)を測定した後、吸収性物品の長手方向及び幅方向の中央部且つトップシートの上に、穴の開いたアクリル板(200mm×100mm,125g,中央に、40mm×10mmの穴が開いている)を置き、上記穴から、37±1℃のウマEDTA血(ウマの血液に、凝結防止のため、エチレンジアミン四酢酸(以下、「EDTA」と称する)が添加されたもの)4.0gを、ピペットを用いて滴下した。
【0244】
ウマEDTA血の滴下後、直ちに上記アクリル板を外し、トップシートを取出し、その質量:W
3(g)(試験後のトップシートの質量)を測定し、以下の式に従って、「表面残存率(質量%)」を算出した。
表面残存率(質量%)
=100×[W
3(g)−W
2(g)]/4.0(g)
結果を、下記表3に示す。
【0245】
【表3-1】
【0246】
【表3-2】
【0247】
血液滑性付与剤を有しない生理用ナプキンNo.2−40では、表面残存率が7.5質量%であったが、動粘度及び抱水率が所定の範囲内にある生理用ナプキンNo.2−1〜No.2−16では、表面残存率が2.5質量%以下であった。
【0248】
生理用ナプキンNo.2−1〜No.2−16では、トップシートの畝部に滴下されたウマEDTA血が、畝部から溝部へと滑落し、溝部から吸収体内部に迅速に吸収される様子が観察された。一方、血液滑性付与剤を有しない生理用ナプキンNo.2−40では、滴下したウマEDTA血は、溝部に滑落するのではなく、溝部にゆっくりと垂れ落ち、その多くがトップシートの畝部に残存した。また、抱水率が高い吸収性物品、例えば、No.2−25では、トップシートの畝部に滴下されたウマEDTA血は、溝部に滑落するのではなく、トップシートに一部残存しながらゆっくりと垂れ落ち、そして一部が畝部に残存した。
血液滑性付与剤の作用を確認するために、さらに以下の実験を行った。
【0249】
[例3]
[血液滑性付与剤を含む血液の粘性]
血液滑性付与剤を含む血液の粘性を、Rheometric Expansion System ARES(Rheometric Scientific,Inc)を用いて測定した。ウマ脱繊維血に、パナセート810sを2質量%添加し、軽く撹拌して試料を形成し、直径50mmのパラレルプレートに試料を載せ、ギャップを100μmとし、37±0.5℃で粘度を測定した。パラレルプレートゆえ、試料に均一なせん断速度はかかっていないが、機器に表示された平均せん断速度は、10s
-1であった。
【0250】
パナセート810sを2質量%含むウマ脱繊維血の粘度は、5.9mPa・sであり、一方、血液滑性付与剤を含まないウマ脱繊維血の粘度は、50.4mPa・sであった。従って、パナセート810sを2質量%含むウマ脱繊維血は、血液滑性付与剤を含まない場合と比較して、約90%粘度を下げることが分かる。
【0251】
血液は、血球等の成分を含み、チキソトロピーの性質を有することが知られているが、本開示の血液滑性付与剤は、低粘度域で、経血等の血液の粘度を下げる作用をも有すると考えられる。血液の粘度を下げることにより、吸収した経血を、トップシートから吸収体に速やかに移行しやすくなると考えられる。
【0252】
[例4]
[血液滑性付与剤を含む血液の顕微鏡写真]
健常ボランティアの経血を、食品保護用ラップフィルム上に採取し、その一部に、10倍の質量のリン酸緩衝生理食塩水中に分散されたパナセート810sを、パナセート810sの濃度が1質量%となるように添加した。経血を、スライドグラスに適下し、カバーグラスをかけ、光学顕微鏡にて、赤血球の状態を観察した。血液滑性付与剤を含まない経血の顕微鏡写真を
図8(a)に、そしてパナセート810sを含む経血の顕微鏡写真を
図8(b)に示す。
【0253】
図8から、血液滑性付与剤を含まない経血では、赤血球が連銭等の集合塊を形成しているが、パナセート810sを含む経血では、赤血球が、それぞれ、安定に分散していることが分かる。従って、血液滑性付与剤は、血液の中で、赤血球を安定化させる働きをも有することが示唆される。
【0254】
[例5]
[血液滑性付与剤を含む血液の表面張力]
血液滑性付与剤を含む血液の表面張力を、協和界面科学社製接触角計 Drop Master500を用い、ペンダントドロップ法にて測定した。表面張力は、ヒツジ脱繊維血に、所定の量の血液滑性付与剤を添加し、十分振とうした後に測定した。
測定は、機器が自動で行うが、表面張力γは、以下の式により求められる(
図9を参照)。
【0255】
γ=g×ρ×(de)
2×1/H
g:重力定数
1/H:ds/deから求められる補正項
ρ:密度
de:最大直径
ds:滴下端よりdeだけ上がった位置での径
【0256】
密度ρは、JIS K 2249−1995の「密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」の5.振動式密度試験方法に準拠し、下記表4に示される温度で測定した。
測定には、京都電子工業株式会社のDA−505を用いた。
結果を、下記表4に示す。
【0257】
【表4】
【0258】
表4から、血液滑性付与剤は、血液の表面張力を下げる作用をも有することが分かる。
血液の表面張力を下げることにより、吸収した血液をトップシートの繊維間に保持せず、速やかに吸収体に移行させることができると考えられる。
【0259】
本開示は、以下の(J1)〜(J10)に関する。
[J1]
吸収性物品のトップシート用の、縦方向と、横方向とを有する不織布であって、
上記不織布が、上記縦方向に延びる第1領域と、第1領域に隣接する第2領域と、第2領域に隣接する第3領域と、第3領域に隣接する第4領域との4領域から成るユニットを、上記横方向に複数有し、
第2領域及び第4領域が、第3領域よりも高い、上記縦方向に配向する繊維の含有率を有し、
第1領域が、第3領域よりも高い、上記横方向に配向する繊維の含有率を有し、
第2領域、第3領域及び第4領域が、それぞれ、40℃における0.01〜80mm
2/sの動粘度と、0.01〜4.0質量%の抱水率と、1,000未満の重量平均分子量とを有する血液滑性付与剤を含む血液滑性付与剤含有第2領域、血液滑性付与剤含有第3領域及び血液滑性付与剤含有第4領域を有し、そして
血液滑性付与剤含有第2領域及び血液滑性付与剤含有第4領域における上記血液滑性付与剤の坪量が、血液滑性付与剤含有第3領域における上記血液滑性付与剤の坪量よりも多い、
ことを特徴とする、上記不織布。
【0260】
[J2]
上記血液滑性付与剤が、0.00〜0.60のIOBをさらに有する、J1に記載の不織布。
【0261】
[J3]
第3領域が、40〜80%の、上記縦方向に配向する繊維の含有率を有し、
第1領域が、0〜45%の、上記縦方向に配向する繊維の含有率を有し且つ第3領域よりも10%以上低い、上記縦方向に配向する繊維の含有率を有し、そして
第2領域及び第4領域が、55%以上の、上記縦方向に配向する繊維の含有率を有し且つ第3領域よりも10%以上高い、上記縦方向に配向する繊維の含有率を有する、
J1又はJ2に記載の不織布。
【0262】
[J4]
第1領域が、55%以上の、上記横方向に配向する繊維の含有率を有する、J1〜J3のいずれか一項に記載の不織布。
【0263】
[J5]
上記不織布が、血液滑性付与剤含有第2領域及び血液滑性付与剤含有第4領域において、1〜30g/m
2の坪量の血液滑性付与剤を含む、J1〜J4のいずれか一項に記載の不織布。
【0264】
[J6]
上記不織布が、血液滑性付与剤含有第3領域において、血液滑性付与剤含有第2領域及び血液滑性付与剤含有第4領域における血液滑性付与剤の坪量の1〜70質量%の血液滑性付与剤の坪量を有する、J1〜J5のいずれか一項に記載の不織布。
【0265】
[J7]
上記不織布が、上記縦方向に延びる、複数の畝部と、複数の溝部とを有し、第1領域が上記溝部であり、そして第2領域及び第4領域が、それぞれ、上記畝部の側部であり、そして第3領域が畝部の中央部である、J1〜J6のいずれか一項に記載の不織布。
【0266】
[J8]
上記血液滑性付与剤が、次の(i)〜(iii)、
(i)炭化水素、
(ii) (ii−1)炭化水素部分と、(ii−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル基(−CO−)及びオキシ基(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基とを有する化合物、及び
(iii) (iii−1)炭化水素部分と、(iii−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル基(−CO−)及びオキシ基(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基と、(iii−3)上記炭化水素部分の水素原子を置換する、カルボキシル基(−COOH)及びヒドロキシル基(−OH)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基とを有する化合物、
並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択され、
ここで、(ii)又は(iii)の化合物において、オキシ基が2つ以上挿入されている場合には、各オキシ基は隣接していない、
J1〜J7のいずれか一項に記載の不織布。
【0267】
[J9]
上記血液滑性付与剤が、次の(i’)〜(iii’)、
(i’)炭化水素、
(ii’) (ii’−1)炭化水素部分と、(ii’−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びエーテル結合(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる結合とを有する化合物、及び
(iii’) (iii’−1)炭化水素部分と、(iii’−2)上記炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びエーテル結合(−O−)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる結合と、(iii’−3)上記炭化水素部分の水素原子を置換する、カルボキシル基(−COOH)及びヒドロキシル基(−OH)から成る群から選択される、一又は複数の、同一又は異なる基とを有する化合物、
並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択され、
ここで、(ii’)又は(iii’)の化合物において、2以上の同一又は異なる結合が挿入されている場合には、各結合は隣接していない、
J1〜J8のいずれか一項に記載の不織布。
【0268】
[J10]
上記血液滑性付与剤が、次の(A)〜(F)、
(A) (A1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(A2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のカルボキシル基とを有する化合物とのエステル、
(B) (B1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する2〜4個のヒドロキシル基とを有する化合物と、(B2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエーテル、
(C) (C1)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する、2〜4個のカルボキシル基とを含むカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、(C2)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分の水素原子を置換する1個のヒドロキシル基とを有する化合物とのエステル、
(D)鎖状炭化水素部分と、上記鎖状炭化水素部分のC−C単結合間に挿入された、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、及びカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つの結合とを有する化合物、
(E)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール、又はそのアルキルエステル若しくはアルキルエーテル、及び
(F)鎖状炭化水素、
並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される、J1〜J9のいずれか一項に記載の不織布。
【0269】
[J11]
上記血液滑性付与剤が、(a
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、(a
2)鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、(a
3)鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、(b
1)鎖状炭化水素テトラオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、(b
2)鎖状炭化水素トリオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、(b
3)鎖状炭化水素ジオールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、(c
1)4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素テトラカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル、(c
2)3個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素トリカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル、(c
3)2個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ジカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸又はオキソ酸と、少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエステル、(d
1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(d
2)ジアルキルケトン、(d
3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル、(d
4)ジアルキルカーボネート、(e
1)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコール、(e
2)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪酸とのエステル、(e
3)ポリオキシC
3〜C
6アルキレングリコールと少なくとも1の脂肪族1価アルコールとのエーテル、及び(f
1)鎖状アルカン、並びにそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される、J1〜J10のいずれか一項に記載の不織布。
【0270】
[J12]
上記血液滑性付与剤が、上記不織布の繊維の表面に付着している、J1〜J11のいずれか一項に記載の不織布。
【0271】
[J13]
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、上記トップシート及びバックシートの間の吸収体とを有する吸収性物品であって、
上記トップシートが、J1〜J12のいずれか一項に記載の不織布である、
上記吸収性物品。
【0272】
[J14]
上記縦方向が、吸収性物品の長手方向と平行である、J13に記載の吸収性物品。
[J15]
生理用ナプキン又はパンティーライナーである、J13又はJ14に記載の吸収性物品。