(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空気圧により変形可能な弾性体であるメンブレンが表面に貼りつけられた生化学カートリッジの装着時に、前記生化学カートリッジ側に形成された流路の開口端と前記メンブレンを挟んで対向する反応部形成用の断面矩形形状の凹構造と、前記凹構造のコーナー付近に設けられる第1の開口及び第2の開口と、前記第1の開口に接続された第1の管路と、前記第2の開口に接続された第2の管路とが形成された温調ブロックと、
空気の吸引時には、前記第1の管路及び前記第2の管路から時間差で前記凹構造から空気を吸引する一方、空気の導入時には、前記第1の管路と前記第2の管路を通じて前記凹構造を同時に加圧するポンプと
を有する生化学カートリッジ用温調機構。
空気圧により変形可能な弾性体であるメンブレンが表面に貼りつけられた生化学カートリッジの装着時に、前記生化学カートリッジ側に形成された流路の開口端と前記メンブレンを挟んで対向する反応部形成用の断面矩形形状の凹構造と、
前記凹構造のコーナー付近に設けられる第1の開口及び第2の開口と、
前記第1の開口に接続された第1の管路と、
前記第2の開口に接続された第2の管路と
を有する温調ブロック。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0012】
〔実施例1〕
(装置の全体構成)
本実施例では、生化学処理装置の一例として、DNAの解析に使用される前処理一体型キャピラリ電気泳動装置について説明する。
図1に、前処理一体型キャピラリ電気泳動装置1の構成例を示す。前処理一体型キャピラリ電気泳動装置1は、前処理部2と分析部3で構成される。前処理部2は、反応液からDNAを抽出して増幅する前処理を実行し、分析部3は、前処理部2で処理されたDNAをキャピラリ電気泳動により分析する。前処理部2の詳細構成については後述する。分析部3は、キャピラリ5と、検出部6と、オーブン8と、高圧電源9を有する。
【0013】
前処理一体型キャピラリ電気泳動装置1は、前処理の終了後、オートサンプラ4を通じて前処理部2を水平方向に駆動し、前処理部2の流路の一端を分析部3のキャピラリ5の一端と接続する。キャピラリ5にはポリマが充填されており、オーブン8により一定温度に保持されている。キャピラリ5の接続後、分析部3は、その両端部に高圧電源9により高電圧を印加してキャピラリ内に導入されたDNA検体を電気泳動し、検出部6において蛍光分析する。
【0014】
(前処理部の構成)
図2に、前処理部2の構成例を示す。前処理部2は、送液機構12と温調機構13とを有している。
図2の前処理部2には、マイクロ流体デバイスとしてのカートリッジ11が装着された状態を表している。平板状のカートリッジ11には、メンブレンで外界から密閉された流路が形成され、当該流路内でDNAの抽出から増幅までの生化学的な処理が実行される。送液機構12は、前述のカートリッジ11を支持する支持面(載置面)と、カートリッジ11に形成された流路を通じ、サンプルや試薬等の流体を送液する機構(
図1のポンプ7を含む。)とを有する。温調機構13は、例えばペルチェ素子で構成され、カートリッジ11内の流体をPCRに適した温度に制御する。
【0015】
図3に、装着状態におけるカートリッジ11と前処理部2の断面構造を示す。カートリッジ11には、各処理に用いる試薬を封入するウェル24aと、ウェル24aからPCRを行う反応部に試薬を送液するための狭流路23aと、反応部から反応液をウェル24bに送液するための狭流路23bとが形成されている。
【0016】
カートリッジ11の下面(前処理部2に装着される面)には、空気圧により変形可能な弾性体であるメンブレン21が貼り付けられている。なお、メンブレン21は、少なくともウェル24aの開口と狭流路23aの一方の開口間、狭流路23aの他方の開口と狭流路23bの一方の開口間、狭流路23bの他方の開口とウェル24bの開口間を連結して流路を形成できるように貼り付けられていれば良い。後述するように、メンブレン21が、送液機構12の支持面(載置面)に形成された送液流路溝22a、22bや反応部の外形を規定する溝(後述の反応ウェル34)に沿って変形することにより、送液のための流路や反応部を形成する。すなわち、カートリッジ11内の反応液は、メンブレン21の変形により形成される流路を通ってウェル24aからウェル24bに送液される。つまり、カートリッジ11を用いれば、外気とのコンタミネーションを無くした状態で反応液の送液と反応を行うことができる。
【0017】
カートリッジ11は、例えば熱及び薬品の両方に耐性を有するポリカーボネート樹脂(PC)、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオリフィン系樹脂(COP)等の材料で構成される。また、メンブレン21は、シリコンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴムなどのゴム材、エラストマー材等の材料で構成される。さらに、蒸発を極力防いで安定した分析を行うため、メンブレン21には、水蒸気透過性及びガス透過性が共に低い材料を使用する。例えばガス透過性が、20cc・cm/cm
2・sec・atm以下の材質のメンブレンを使用する。
【0018】
一方、送液機構12には、カートリッジ11の構造に合わせた溝構造の送液流路溝22a及び22bと、空気圧によりメンブレン21を流路の形状に変形させる吸引口25及び加圧口26が設けられている。吸引口25及び加圧口26は、接続部(図示せず)と配管チューブを介し、空気圧を制御するポンプ7(
図1)に接続されている。接続部には、三方弁等の切換え弁が配置されており、前記切換え弁の開閉を通じて吸引口25や加圧口26に対する空気の印加タイミングを制御する。本実施例で使用されるポンプ7は、例えばダイヤフラム型もしくはロータリー型エアポンプであり、−1MPa〜1MPaを発生することができる。
【0019】
送液の方式について、
図3を用いて説明する。送液流路溝22aとメンブレン21で囲まれた空間の空気を吸引口25から吸引すると、メンブレン21は送液流路溝22aの表面に沿うように変形し、ウェル24aと連結する送液流路が形成される。このように形成された送液流路溝22aに、ウェル24aから反応液が導入される。これに対し、加圧口26よりメンブレン21と送液流路溝22aの間に空気を導入すると、メンブレン21は押し上げられ、カートリッジ11の下面に密着した状態に戻る。結果的に、送液流路溝22a内に導入された反応液は、狭流路23aを通って反応部へと送液される。
【0020】
反応部が形成される位置には、温調機構13が配置される。温調機構13は、温調ブロック32と、加熱冷却装置51と、放熱ブロック52で構成される。温調機構13は、2つの送液機構12の間に配置されており、放熱ブロック52に取り付けられたヒートシンク53(
図6)を通じて放熱する。
【0021】
(温調ブロックの構成)
図4に、カートリッジ11の装着面の側から見た温調ブロック32の構造を透視図として示す。
図4に示すように、温調ブロック32には、反応ウェル34、断熱材35、加圧吸引用路36、加圧吸引用継ぎ手31、温度センサ33が配置される。
図4の場合、温調ブロック32の表面には、反応部の外形を規定する溝(反応ウェル34)が8個形成される。反応ウェル34の個数は、装着するカートリッジ11の個数に応じて定まる。本実施例に係る温調ブロック32では、8個のカートリッジ11について加熱処理と冷却処理を同時並列的に実行することができる。
【0022】
本実施例の場合、反応ウェル34は、カートリッジ11の装着面から見て、
図5に示すように六角形状に形成される。もっとも、反応ウェル34の形状は、六角形状に限らず、その他の形状(例えば長方形、円形、楕円)でも良い。本実施例の場合、6つの頂角のうち対向位置の2つの頂点位置に、反応ウェル34内の空気圧制御用の加圧吸引口41a、41bが計16個配置される。なお、加圧吸引口41a及び41bは、
図3に示すように、狭流路23a及び23bの開口付近に配置する。
【0023】
本実施例の場合、加圧吸引口41a及び41bを通じて反応ウェル34内の空気を吸引することにより、対応位置のメンブレン21を反応ウェル34の表面形状に沿って変形させることができる。この変形により、反応部が形成される。
【0024】
図4の場合、同じ頂点側に位置する4個の加圧吸引口41a、41bに対し、放熱ブロック52の内部に形成された各1本の加圧吸引用路36が接続される。4本の加圧吸引口41a、41bには、それぞれ加圧吸引用継ぎ手31が接続される。加圧吸引用継ぎ手31には、二方弁、三方弁等の弁を通じてポンプ7(
図1)が接続される。これらの弁を適切に制御することにより、同じ加圧吸引口41を用いながら、反応ウェル34を加圧又は減圧(吸引)することができる。ポンプ7の動作は不図示の制御部により制御される。本実施例の場合、放熱ブロック32と加圧吸引用継ぎ手31の間には樹脂製のアダプタ(不図示)が接続される。放熱ブロック32から加圧吸引用継ぎ手31への放熱を少なくするためである。8個の反応ウェル34の外周には断熱材35が取り囲むように配置される。8個の反応ウェル34の温度を均一に保つためである。
【0025】
図6及び
図7に、
図4に示す温調ブロック32のA-A断面及びB-B断面を示す。
図6に示すように、温度センサ33は、直線状に配列された8個の反応ウェル34の反応温度の測定用に、反応ウェル34の下部に配置される。本実施例の場合、温度センサ33は3つ配置される。もっとも、温度センサ33の数は、2個以下でも4個以上でも良い。本実施例の場合、温度センサ33の数は、加熱冷却装置51の数に応じて設けられている。測定温度に応じて各加熱冷却装置51をフィードバック制御するためである。
【0026】
断熱材35は、
図6に示すように、温調ブロック32の側面部にも貼り付けられる。温調ブロック32の側面部にも断熱材35を貼り付けることにより、温調ブロック32の側面からの放熱を防ぐことができる。
【0027】
図6及び
図7に示すように、放熱ブロック52は、その下方位置に配置される空冷ファン54からの風が直接当たないように配置する。ちなみに、空冷ファン54の風は、放熱ブロック52の下面に取り付けられたヒートシンク53に直接当るように設定される。
【0028】
ここで、反応ウェル34の断面構造について説明する。
図6及び
図7に示すように、反応ウェル34の断面形状は矩形形状であり、送液方向の長さに比して、溝の高さ(重力方向の厚み)が小さい構造を有している。溝の高さを低くすることで反応液の熱抵抗が小さくなり、反応液の上面側と下面側との間で温度差が生じ難くなる。
【0029】
なお、前述した特許文献1の場合には、反応ウェル34に相当する凹陥部が断面半円状に形成されており、送液方向の長さに比例して溝が深くなり、凹陥部の上面側の反応液と底面側の反応液との間で温度差が生じ易い。
【0030】
このように、本実施例に係る反応ウェル34は、従来構造に比して格段に薄型化できるため、より正確な温度調整が可能となる。また、本実施例の場合、反応ウェル34を薄型化できるため、温調ブロック32の薄型化も実現できる。
【0031】
因みに、温調ブロック32には、一定以上の剛性を持ち、熱伝導性がよく、比熱が小さい材質(例えばアルミニウム合金、銅、真鍮等)の部材を用いる。もちろん、温調ブロック32の温度を素早く変化させるためには、温調ブロック32の熱容量はなるべく小さく抑えることが望ましい。このため、本実施例の温調ブロック32では、反応ウェル34及び温度センサ33を挿入する部分以外の部位を必要に応じて肉抜きした構造を採用し、ブロック自身の熱容量を小さくする。
【0032】
温調機構13の加熱冷却装置51には、公知の装置を使用する。本実施例の場合、加熱と冷却の両方が可能なペルチェ素子を使用する。加熱冷却装置51は、温調ブロック32の大きさや形状に合わせ、1つ又は複数個配置する。もっとも、用途によっては、加熱源と冷却源をそれぞれ配置する又はどちらか一方のみを配置しても良い。
【0033】
温調ブロック32に備えられている温度センサ33は、温調機構13に備える加熱冷却装置51の個数及び温調ブロック32の大きさや形状に応じて1つ又は複数個備える。本実施例では、それぞれ3個の温度センサ33と加熱冷却装置51を設ける。温度センサ33には、白金電極、サーミスタ、測温抵抗体を用いることができ、加熱冷却装置51には、ペルチェ素子を利用できる。
【0034】
図7に示すように、温度センサ33及び加熱冷却装置51は、温度制御基板61に接続されている。各温度センサ33からの検出信号は、温度制御基板61に入力される。温度制御基板61は、演算結果に基づいて制御信号を各加熱冷却装置51に送信し、その温度を制御する。温度制御基板61は、温度制御に必要な素子(例えばメモリ、CPU、加熱冷却装置51のオン(ON)/オフ(OFF)制御に必要な回路等)を備えている。
【0035】
加熱又は冷却の際には、温度制御基板61は、それぞれ対応する一対又は備えられている温度センサ33の全ての測定値に基づいて加熱冷却装置51をフィードバック制御する。本実施例では、各ペルチェ素子の加熱冷却性能が15W以上を用いることにより、温調ブロック32の温度を、3℃/sec以上の速度で変化させる。
【0036】
複数の加熱冷却装置51をそれぞれ独立に制御することにより、温調ブロック32に温度のローカリティが生じ難くなる。
【0037】
(反応部への送液動作1)
カートリッジ11内の流体を温調制御される反応部に送液する動作は、送液機構12の送液流路溝22a及び温調ブロック32に形成された加圧吸引機構(加圧吸引用路36、加圧吸引口41a、41b、加圧吸引用継ぎ手31)とポンプ7の協働制御を通じて実行される。前述したように、反応部は、反応ウェル34の形状に沿って作成される。
図8に、反応部への送液動作の一例を示す。
【0038】
[ステップ101]
送液開始前、メンブレン21は、
図9(a)に示すように、カートリッジ11の表面に貼りついている。メンブレン21と反応ウェル34の間は空気で満たされている。この状態で、送液流路溝22aに加圧口26から空気を加圧導入すると、送液流路溝22aのメンブレン21に保持されていた液体が反応ウェル34と対面する領域のメンブレン21へ押し出される。この結果、反応ウェル34側のメンブレン21は送液の圧力により
図9(b)に示すように伸長され、膨らんでいく。
【0039】
[ステップ102、103、104]
前処理一体型キャピラリ電気泳動装置の全体動作を管理する不図示の制御装置(以下「全体制御部」という)は、この際の送液量を確認し、送液量が一定量以上であれば(本実施例では15μl以上であれば)、ポンプ7を駆動制御し、液体の流入口に近い側の加圧吸引口41aから反応ウェル34内の空気の吸引(排気)を開始する。
【0040】
[ステップ105]
全体制御部は、加圧吸引口41aからの吸引を維持しつつ、送液流路溝22aからの送液を続行する。一定量以上の送液が実行されると、
図9(c)に示すように、吸引を行っている方のメンブレン21が反応ウェル34の内壁面(すなわち、温調ブロック32)と密着した状態になる。特に、断面の形状が矩形である薄型の反応ウェル34の場合には、従来装置のように流体の自重による送液だけの場合には角部に空気だまりが形成されて密着度が低下する可能性が高いが、本実施例では角部まで確実に密着させることができる。
【0041】
[ステップ106、107、108]
全体制御部は、この際の送液量を確認し、送液量が一定量以上であれば(本実施例では20μl以上であれば)、液体の流入口から遠い側の加圧吸引口41bから反応ウェル34内の空気の吸引(排気)を開始する。
【0042】
[ステップ109、110、111]
全体制御部は、加圧吸引口41a及び41bの両方からの吸引を維持しつつ、さらに送液流路溝22aからの送液を続行する。さらに一定量以上の送液が実行されると、
図9(d)に示すように、温調ブロック32とのメンブレンの間の空気は加圧吸引口から吸引され、メンブレン21が反応ウェル34の内壁面(すなわち、温調ブロック32)の全体と密着した反応部が形成される。
【0043】
なお、本実施例の場合には、メンブレン21によって形成される反応部は、反応ウェル34の形状以上には膨張できないため、仮に送液量が一定量以上になった場合でも、温調機構12によって温度制御を行う液量を一定量に制限することができる。
【0044】
[ステップ111、112、113、114]
送液流路溝22aからの送液量が規定量(本実施例では25μl以上)になると、全体制御部は送液を終了制御し、その後、加圧吸引口41a及び41bからの吸引も終了して温調処理(加熱及び冷却)を開始する。
図9では、温調開始前に吸引も終了しているが、温調中も吸引を継続しても良い。
【0045】
図9(e)に示すように、本実施例では、メンブレン21が、温調ブロック32に強固に(隙間なく)密着されるため、メンブレン21と温調ブロック32間の接触熱抵抗が小さくなり、温調ブロック32からメンブレン21を介して反応液71に効率良く熱を供給もしくは除去が行える。例えば反応液25μlに対して、3℃/sec以上の速度で変化させることができる。
【0046】
(反応部への送液動作2)
ところで、反応部を形成する動作(反応部への送液動作)は、
図8に示す吸引タイミングに限らない。例えば
図10に示す吸引タイミングのように、予め反応部を形成した後に送液を開始することもできる。
【0047】
[ステップ201、202]
この場合、全体制御部は、送液流路溝22aからの送液を開始する前に、一定時間(本実施例の場合、10sec)、反応ウェル34に形成された加圧吸引口41aから空気を吸引し、予めメンブレン21を部分的に膨らませておく。換言すると、メンブレン21を、加圧吸引口41a側の反応ウェル34の内壁に密着させるように変形する。
【0048】
[ステップ203]
その後、全体制御部はポンプ7を制御して、反応ウェル34の上流側に位置する送液流路溝22aの加圧口26から空気を導入し、送液流路溝22aのメンブレン21に保持されていた液体を反応ウェル34側のメンブレン21へ送液する。
【0049】
[ステップ204、205、206]
全体制御部は、この際の送液量を確認し、送液量が一定量以上(本実施例では15μl以上)であれば、液体の流入口から遠い側の加圧吸引口41bから反応ウェル34内の空気の吸引(排気)を開始する。
【0050】
[ステップ207]
ここで、全体制御部は、加圧吸引口41bからの吸引を一定時間(本実施例の場合、10sec)実行し、メンブレン21を膨らませて反応部を完成させる。具体的には、メンブレン21を、加圧吸引口41b側の反応ウェル34の内壁全体に密着させる。
【0051】
[ステップ208、209、210]
この後、全体制御部はポンプ7を制御して、反応ウェル34の上流側に位置する送液流路溝22aの加圧口26に対する空気の導入を再開し、送液流路溝22aのメンブレン21に保持されていた液体を反応ウェル34側のメンブレン21へ送液する。
【0052】
[ステップ211、212]
送液流路溝22aからの送液量が規定量(本実施例では25μl以上)になると、全体制御部は送液を終了制御し、温調処理(加熱及び冷却)を開始する。
【0053】
(反応部への送液動作3)
この他、
図11に示す吸引タイミングを用い、反応部を形成する(反応部への送液する)こともできる。
図11では、送液流路溝22aからの送液と反応ウェル34内の吸引とを同時に実行する手法を説明する。
【0054】
[ステップ301]
この場合、全体制御部は、送液流路溝22aに加圧口26から空気を加圧導入して流体を送液する処理と、反応ウェル34に形成された加圧吸引口41a及び41bから空気を吸引して反応部を形成する処理とを同時に開始する。
【0055】
[ステップ302、303、304]
全体制御部は、送液量を確認し、送液量が一定量以上(本実施例では25μl以上)であれば、送液を終了する。
図11の場合、温調ブロック32に密着した反応部がほぼ同時に終了する。
図11の場合、送液の終了後も、加圧吸引口41a及び41bの両方からの空気の吸引は継続する。なお、前述した吸引タイミング例と同様に、送液の終了時点でメンブレン21と温調ブロック32との密着が確保されている場合には、この時点で、加圧吸引口41a及び41bの両方からの吸引を終了しても良い。
【0056】
[ステップ305、306、307]
全体制御部は、温調処理(加熱及び冷却)を開始し、温度センサ33により反応ウェル34内の液体の温度が90℃以上になったことが確認されると、加圧吸引口41a及び41bの両方からの空気の吸引を終了する。
図11では、加熱する場合だけを想定しているが、勿論、所定温度まで反応ウェル34内の液体の温度を冷却する処理も実行する。
【0057】
(反応部からの送液動作)
図12(a)に、反応ウェル34での反応処理が終了した時点における反応部の状態を示す。この時点では、反応ウェル34に密着したメンブレン21内に流体が満たされている。次に、全体制御部は、反応ウェル34の下流側に位置する送液流路溝22bの吸引口25から空気を吸引し、送液流路溝22bに対向する位置のメンブレン21を引き下げる(膨張させる)。これにより、反応ウェル34側のメンブレン21に保持されていた流体は送液流路溝22bの側に吸い出される。同時に、全体制御部は、反応ウェル34内に形成された加圧吸引口41a及び41bに空気を導入する(加圧する)。この状態を
図12(b)に示す。なお、反応ウェル34に対する空気の導入は、加圧吸引口41a及び41bの両方である必要はなく、いずれか一方だけでも良い。いずれにしても、反応ウェル34内に空気を導入して加圧し、メンブレン21を押し上げるように変形することにより、メンブレン21がカートリッジ11の表面に密着した状態に確実に戻る。すなわち、反応部から反応液を確実に排出できる。この結果、送液流路溝22bからの吸い出しだけによる送液に比べ、確実かつ短時間のうちに送液することができる。
【0058】
〔実施例2〕
前述の実施例では、断熱材35を反応ウェル34を取り囲むように配置し(すなわち、断熱材35を温調ブロック32の側面全体に亘って配置し)、反応部から外部への放熱を少なくする手法について説明した。さらに、放熱量を少なくするためには、カートリッジ11の本体のうち反応部の形成領域に対向する部分を他の部分に比べて薄くし、薄くした部分に断熱材35を設置しても良い。このような構造を採用すれば、反応部の上面側からカートリッジ11への放熱を一段と少なくすることができる。
【0059】
より積極的には、断熱材だけではなく、加熱装置または加熱冷却装置を反応部と対向する領域部分に設置しても良い。反応部の上面から加熱又は加熱冷却すれば、反応液の温度変化を一段と速めることができる。
図13に、カートリッジ11の上面側に加熱装置62を設置する例を示す。
図13では、カートリッジ11のうち反応部と対向する部分に空気層63を形成し、断熱効果も高めている。もっとも、空気層63を有しない構造のカートリッジ11の上面に加熱装置62を直接接触させても良い。なお、加熱装置62をカートリッジ11の表面に直接接触させる場合には、加熱装置62の設定温度は目標加熱温度に一致させることが望ましい。なお、
図13に示すように、加熱装置62と反応部の間に空気層63を挟む場合には、目標加熱温度よりも高い温度に設定することで、間に挟んだ空気の層を十分に加熱する必要がある。
【0060】
冷却時には、加熱装置62の加熱を停止する又は加熱装置62をカートリッジ11の上面から取り外す等の処理や動作を実行する。
【0061】
ところで、本実施例のように、カートリッジ11の上面に加熱装置62(ここでは加熱冷却装置も含む)を設ける場合には、加熱装置62の制御を、温調機構13内の加熱冷却機構の加熱及び又は冷却の制御と同期させることが望ましい。反応部の上面側からと下面側からの両方から熱交換を実行すれば、反応液の温度変化がさらに促進され、反応液の上面と下面での温度差がより生じ難くなる。
【0062】
(他の実施例)
本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば加圧吸引口41a及び41bを断面矩形の反応ウェル34の底面に設けているが、側面と底面が形成するコーナー付近であれば任意の位置、例えば側面、底面、隅のいずれにも設けることができる。また、前述の実施例では、加圧吸引口41a及び41bのいずれもが、加圧だけでなく吸引にも使用できる場合について説明したが、反応ウェル34内に加圧専用の開口と吸引専用の開口を設け、温調ブロック32内に加圧専用の管と吸引専用の管を設けても良い。例えば加圧吸引口41aとその接続管を吸引専用とし、加圧吸引口41bとその接続管を加圧専用として用いても良い。
【0063】
また、前述の実施例では、反応ウェル34の断面形状が矩形形状である場合について説明したが、必ずしも矩形形状でなくても良い。例えばコーナー部に丸みを有していても良いし、反応ウェル34の送液方向の断面形状が楕円形状でも良い。
【0064】
また、上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために、一部の実施例について詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要は無い。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。