特許第6012913号(P6012913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許6012913リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池
<>
  • 特許6012913-リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池 図000007
  • 特許6012913-リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池 図000008
  • 特許6012913-リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池 図000009
  • 特許6012913-リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池 図000010
  • 特許6012913-リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6012913
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20161011BHJP
   C23C 22/52 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   C23C22/52
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-535077(P2016-535077)
(86)(22)【出願日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2016051265
【審査請求日】2016年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-7793(P2015-7793)
(32)【優先日】2015年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 淳
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−251469(JP,A)
【文献】 特開2012−212528(JP,A)
【文献】 特許第5417436(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/157574(WO,A1)
【文献】 特開2014−240522(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/002158(WO,A1)
【文献】 特開平7−309846(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115177(WO,A1)
【文献】 カソード還元小委員会,銅酸化物皮膜のカソード還元における還元順序の検討,材料と環境,日本,2004年,Vol.53,No.10,pp.472-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
C23C 22/52
C25D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃×1時間加熱後に室温で測定した表面酸化皮膜の第一プラトー電位領域における最大電位が、光沢面とマット面の両面ともに−800mV以下(vs.SCE)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔。
【請求項2】
180℃×1時間加熱後に室温で測定した表面酸化皮膜の第一プラトー電位領域における最大電位が、光沢面とマット面の両面ともに−820mV以下(vs.SCE)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔。
【請求項3】
常態において、表面から0.2nmの深さにおける値として、原子C、N、O、Cuの内、原子Nの割合が、光沢面とマット面の両面ともに3〜20atm%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔を負極集電体として用いた、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用電極を負極として用いた、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、比較的高い電圧を得ることができるという特徴を有し、ノートパソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の小型電子機器用に多用されている。また、電気自動車や一般家庭の分散配置型電源といった大型機器の電源としての利用も始まっており、他の二次電池と比較して軽量でエネルギー密度が高いことから、各種の電源を必要とする機器で広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極用集電体として使用される銅箔に要求される特性の一つとして、リチウムイオン二次電池のサイクル特性に影響する負極活物質との密着性が挙げられる。
銅箔表面との密着性に劣る活物質層では、銅箔をサイジングしたり、折り曲げたり、巻回した場合に活物質層が剥離、脱落して、目的の性能が得られず、耐久性や寿命が低下する場合がある。また、活物質層の厚みの均一性が不十分に形成されると、その部分でリチウム析出やデンドライト発生が生じ、短絡が生じやすくなり、短時間での充電が困難となる。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池の負極電極は、活物質材料と結着剤を溶媒と混合して得られる活物質スラリーを集電体(銅箔等)に塗布後、乾燥し、さらに、密度を上げる必要があればプレスして結着させて活物質層を形成する。
【0005】
前記スラリーを銅箔に塗布した状態のものを、これまでは80〜150℃程度の温度で6〜12時間程度加温することにより負極電極を乾燥させてきた。しかし、近年のリチウムイオン二次電池の需要の拡大に伴い、より生産性を向上させるため、負極電極をより高温、短時間(150〜200℃程度の温度で1〜3時間程度)で乾燥することが試みられている。
【0006】
しかし、このような高温、短時間での乾燥を行うと、銅とその上に生成する酸化皮膜(酸化銅〔I〕と酸化銅〔II〕からなる)との間の密着性が低下し、銅から酸化皮膜が剥離することにより、銅箔のカールを生じやすい。
【0007】
具体的には、乾燥温度を上げることにより、酸化皮膜において、銅との密着性が高い酸化銅〔I〕の割合が低下し、酸化銅〔II〕の割合が増加する。その結果、酸化皮膜全体の銅との密着性が低下して酸化皮膜が銅表面から剥離し易くなる。この剥離し易さが表面処理銅箔のS面(光沢面)とM面(マット面)とで異なっていることに起因し銅箔全体に応力が生じてカールが発生しやすい。
【0008】
そして、そのような銅箔を用いた負極電極では、カールの発生に起因して、塗布した活物質材料が銅箔表面から剥離、脱落しやすくなり、耐久性や寿命に問題が生じやすい。
【0009】
特許文献1(特許第5081481号公報)、および特許文献2(特許第5512585号公報)では、C=O官能基を付加させたアゾール系化合物を用いて表面処理を銅箔に施すことによる、負極活物質と銅箔との間の密着性の向上が提唱されている。また、特許文献3(特許第5417436号公報)では、銅箔表面の少なくとも一部にアゾール化合物およびシランカップリング剤の混合層を形成させることによる、負極活物質と銅箔との間の密着性の向上が提唱されている。
しかし、特許文献1〜3のいずれにおいても負極電極製造における乾燥工程での酸化皮膜形成の影響については言及されておらず、加熱時のカールが防止できない場合がある点については検討されていない。
【0010】
このほか、銅製品用の表面処理成分としては、シランを分子構造内に含んだベンゾトリアゾール系化合物(特許文献4=特開平6−279463号公報)、フッ素シランを分子構造内に含んだベンゾトリアゾール系化合物(特許文献5=特開平7−309846号公報)、および分子構造内にシランを含んだイミダゾール系化合物(特許文献6=特開平6−256358号公報)が提唱されている。しかし、これらの特許文献4〜6では、銅箔を負極集電体として負極活物質を塗布した際の特性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5081481号公報(特開2008−251469号公報)
【特許文献2】特許第5512585号公報(特開2012−212528号公報)
【特許文献3】特許第5417436号公報
【特許文献4】特開平6−279463号公報
【特許文献5】特開平7−309846号公報
【特許文献6】特開平6−256358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、銅箔の加熱時のカール防止特性を向上することにより活物質の剥離を防止したリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極および該銅箔を集電体としたリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、リチウムイオン二次電池の負極集電体として使用される表面処理銅箔の、負極電極製造時の加熱乾燥工程におけるカール防止につき鋭意研究開発を行った結果、当該乾燥工程中に生成する酸化皮膜の厚さや密着性が表面処理銅箔のS面とM面の両面で異なることが、カールの原因となることを見出した。その上で、銅箔の表面処理として窒素含有防錆成分と炭素数4以上のケトン類との混合溶液による処理が効果的であり、かかる処理を行うと、銅箔表面に形成される酸化皮膜中の酸化銅〔II〕の価数を、銅との密着性の高い酸化銅〔I〕に近づけ、酸化皮膜全体の銅への密着性を高めることによって、このようなカールを防止できることを突き止め、本発明を完成させるに至った。また、このような酸化銅〔II〕の価数の変化は、銅箔表面に形成される酸化皮膜をカソード電流によって還元する際の、酸化銅〔II〕の還元に相当する電位がほぼ一定となる領域(以下、第一プラトー電位領域とよぶ)における電位の最大値が卑な方向にシフトしていることを確認した。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
(1)180℃×1時間加熱後に室温で測定した表面酸化皮膜の第一プラトー電位領域における最大電位が、光沢面とマット面の両面ともに−800mV以下(vs.SCE)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔。
(2)180℃×1時間加熱後に室温で測定した表面酸化皮膜の第一プラトー電位領域における最大電位が、光沢面とマット面の両面ともに−820mV以下(vs.SCE)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔。
(3)常態において、表面から0.2nmの深さにおける値として、原子C、N、O、Cuの内、原子Nの割合が、光沢面とマット面の両面ともに3〜20atm%であることを特徴とする(1)または(2)項に記載のリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔を負極集電体として用いた、リチウムイオン二次電池用電極。
(5)(4)項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を負極として用いた、リチウムイオン二次電池。
【0015】
本書において、室温とは20℃とする。
本発明では、電解銅箔の表面に有機防錆皮膜を設けたものを、表面処理電解銅箔と呼ぶ。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る銅箔によれば、負極電極製造における乾燥工程でのカールを防止し、負極活物質の剥離を防止することができるため、リチウムイオン二次電池の集電体として好適に使用することができる。
【0017】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第一プラトー電位領域における最大電位を説明する図である。
図2図2は、第一プラトー電位領域の最大電位の代表例を、実施例1、比較例5について示した図である。
図3図3は、銅箔表面における各種元素の存在量(割合)を説明する図である。
図4図4は、実施例におけるカール値の測定法を説明する図である。
図5図5は、各実施例と比較例での、第一プラトー電位領域最大電位と窒素量との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
(銅箔)
本発明において、銅箔は電解銅箔、電解銅合金箔のいずれでもよい。以下でこれらの銅箔を区別する必要がない時は単に「銅箔」と表現する。
電解銅箔の場合、光沢面にカソードドラム表面の転写痕が残り易いため、光沢面(S面)とマット面(M面)とでは表面粗度に差が生じ易い。特に、M面はS面よりも表面が平滑になり、S面側のような粗い表面で起こる酸化皮膜のアンカー効果がなく、銅から酸化皮膜が剥離しやすい傾向にある。これにより、製箔された銅箔の表面においては、従来の防錆処理では、電極製造時の加熱乾燥工程で生成する酸化皮膜の厚みや密着性に、S面とM面の両面の間で差が生じることが避けられなかった。その結果、銅箔には酸化皮膜による内部応力の差に起因してM面側を内側にしたカールが生じ、電極活物質の剥離などの影響が懸念されていた。
【0020】
本実施形態の銅箔は、前記加熱乾燥工程での代表的な条件として、180℃の大気雰囲気下で1時間加熱した後に、室温で測定した表面酸化皮膜の第一プラトー電位領域における最大電位が、S面とM面の両面ともに、−800mV以下(vs.SCE)、好ましくは−820mV以下(vs.SCE)である。
【0021】
図1に示したように、第一プラトー電位領域とは、表面処理銅箔を作用電極として、生成した酸化皮膜をカソード電流で還元した際に得られる電位−時間曲線において、酸化銅〔II〕が還元される電位領域である。具体的には、かかる電位・時間曲線において、最初の下落部分、2番目の下落部分にそれぞれ引いた接線の間の、電位値がほぼ一定となっている電位領域をさす。この電位領域において、曲線の凸部と接する時間軸に平行な直線を引いたとき、曲線と接する部分の点から電位値を読み取り、第一プラトー電位領域における最大電位として採用する。
【0022】
上記のように、酸化皮膜中の酸化銅〔II〕の価数を酸化銅〔I〕に近づけることによって酸化皮膜全体の密着性を向上させ、さらに酸化銅〔II〕層の還元電位をずらして銅の酸化皮膜の第一プラトー電位領域の最大電位を卑な方向にシフトさせる。このため、銅箔の表面処理として窒素含有防錆成分と炭素数4以上のケトン類との混合溶液による処理が特に好適であることを見出した。
【0023】
その背景として、酸化銅〔II〕の価数を酸化銅〔I〕に近づけるため、分子内で電子求引性の大きな酸素を構造中に含み、電子の一部を酸化銅〔II〕に対して供給しうる有機化合物を、窒素含有防錆成分と混合した溶液での処理を検討した。その結果、炭素数4以上のケトン類が特に好適であるという結論に至った。
【0024】
ケトン類が酸化銅〔II〕への電子供給に足りるような電子を酸素原子が持つためには、電子供与性を有するアルキル基を3つ以上持ち、炭素数は4以上でなければならない。炭素数3の最も単純なケトンであるアセトンでは、分子内で電子供与性をもつアルキル基が2つしかないために酸素原子に電子が足りず、このような酸化銅〔II〕への電子供給の効果はない。
【0025】
本実施形態の銅箔は、銅箔表面に含まれる窒素原子の存在量が特定の範囲内にあることが好ましい。すなわち、常態において、銅箔表面に存在する原子C、N、O、Cuのうち原子Nの割合が、S面とM面の両面ともに3〜20atm%であることが好ましい。
【0026】
本発明における「表面処理銅箔の表面に存在する原子C、N、O、Cu」の量(割合)は、以下のようにして求めるものとする。すなわち、X線光電子分光分析装置(XPS装置)とアルゴンスパッタとを組み合わせて、深さ方向の元素分析を行い、原子C、N、O、Cuの定量を行う。即ち、XPS装置にて銅箔表層付近のC、N、OおよびCuを検出し、図3に示したように、表面処理銅箔の最表面からの深さ0.2nmの原子C、N、O、Cuの量から、原子Nの原子百分率を算出することにより、表面処理銅箔の表面における検出量とする。この深さとするのは、銅箔最表面(深さ0nm)の原子C、N、O、Cuの量では、表面処理銅箔に付着するコンタミネーションなどの不純物と窒素含有防錆化合物との区別が難しいためである。
【0027】
常態における、表面から0.2nmにおける値として、原子C、N、OおよびCuの内、原子Nの原子百分率が、光沢面とマット面の両面ともに3〜20atm%であることが好ましい。
【0028】
この原子Nの割合が3〜20atm%であると、加熱時に、表面処理銅箔の粗さによらず、S面とM面の両面に密着性の高い酸化皮膜が適度な厚さで生成するため、S面とM面の両面の応力差が発生せず、箔のカールが起こりにくくなる。本実施形態の銅箔においては、この酸化皮膜の厚さは、通常、120nm以下程度である。
【0029】
この原子Nの割合が高すぎると、窒素含有防錆化合物の付着量が大きいため、加熱乾燥後に銅箔表面に生成する酸化皮膜の厚さは小さく抑えられるが、この酸化膜層と有機防錆処理層との間の密着性が低下する。このため、銅箔表面に活物質スラリーを形成しても、これが有機防錆層とともに銅箔から剥離しやすい部分が発生するため、あまり好ましくはない。
【0030】
また、圧延銅箔(タフピッチ銅)の場合には、圧延の過程で加工変質層が表面付近に形成されるため、ケトン類によって加熱乾燥後の酸化皮膜中の酸化銅〔II〕の価数を調整しても酸化皮膜の銅箔からの剥離を防ぐことができない。このため、銅箔表面における酸化皮膜の密着性をコントロールできず、カールは抑制されにくい。
【0031】
一方、この原子Nの割合が低すぎると、防錆能が不足し、表面の酸化が進行し易くなるため、酸化皮膜厚・酸化皮膜密着性をコントロールできず、カールは抑制されにくい。
本発明において、常態とは、表面処理電解銅箔の製造後、熱処理等の熱履歴を受けずに常温に置かれた状態のことを意味する。
ここで、常温とは20℃とし、前記室温と同義である。
【0032】
銅箔表面に防錆処理を行う手法として、分子内で電子求引性の大きな酸素を構造中に含み、電子の一部を酸化銅〔II〕に対して供給しうる有機化合物(炭素数4以上のケトン類)を、窒素含有防錆成分と混合した溶液で処理する手法を採ることができる。その一例として、窒素含有防錆化合物を150〜3000ppm含み、炭素数4以上のケトン類を窒素含有化合物に対して濃度比0.010〜0.200となるように調製した混合溶液を用いた有機防錆処理を採用することができる。
【0033】
本実施形態の銅箔においては、この有機防錆皮膜の厚さは、通常、1.0〜5.0nm程度である。有機防錆皮膜は、常態における表面処理を行っていない銅箔表面に設けられ、本実施態様の銅箔表面の最表層は有機防錆皮膜である。
【0034】
本実施態様の銅箔において、表面処理とは前記有機防錆処理を意味する。
窒素含有防錆化合物の例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、クロロベンゾトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ナフトトリアゾール、ベンゾイミダゾール等のアゾール系化合物もしくはイミダゾール系化合物、およびこれらの錯体化合物が挙げられる。
【0035】
なお、窒素含有防錆化合物としては、分子構造内にシラン、フッ素を含まないものが好ましい。これらを含んでいる場合、乾燥時に生成する酸化皮膜厚と酸化皮膜密着性をコントロールしがたく、乾燥時のカールの大きさをコントロールするのが難しい場合がある。
【0036】
さらに、防錆性などの特性向上のための従来例として、銅表面にクロメート層を形成する例、銅表面と有機防錆皮膜との間にクロメート層やシラン層といった中間層を設けている例、もしくは、有機防錆成分とシランカップリング剤との混合層を設けている例がある。しかし、これらのいずれの場合でも、乾燥時に生成する酸化皮膜の密着性はコントロールしがたく、乾燥時のカールの大きさをコントロールすることは難しくなる傾向がある。
【0037】
炭素数4以上のケトン類の例としては、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0038】
銅箔表面に有機防錆皮膜を形成する窒素含有防錆化合物の濃度は、150〜3000ppmとすることが好ましく、700〜2000ppmとすることがさらに好ましい。窒素含有防錆化合物の濃度が低すぎると、乾燥時の酸化皮膜が過剰に増大し、銅箔に対する密着性のコントロールが不可能となる。一方で高すぎると、有機防錆皮膜の厚さが過剰に大きくなるため、有機溶媒系バインダーを使用した活物質スラリーとの密着性が低下する場合がある。
【0039】
銅箔表面に有機防錆皮膜を形成する炭素数4以上のケトン類の濃度は、窒素含有防錆化合物の濃度に対して、0.010〜0.200の濃度比とすることが好ましく、0.075〜0.200とすることがより好ましい。この窒素含有防錆化合物に対する炭素数4以上のケトン類の濃度比を前記範囲内とすることにより、加熱乾燥時に銅箔表面に形成される酸化皮膜の密着性を、S面とM面の両面での差を小さくして加熱後のカールを防止する効果を確保することができその効果はより高まる。
【0040】
前記窒素含有防錆化合物に対する炭素数4以上のケトン類の濃度比が低すぎる場合、または、アセトンのような炭素数が3以下のケトン類を使用した場合は、炭素数4以上のケトン類の乾燥時の酸化皮膜の密着性のコントロールに効果がない。一方で炭素数4以上のケトン類の濃度比が高すぎると、銅箔表面におけるバインダーの濡れ性が低下するため、カールは抑制されるものの活物質の剥離は進みやすい状態となる。
【0041】
また、銅箔表面に有機防錆皮膜を形成する際の窒素含有防錆化合物および炭素数4以上のケトン類の混合溶液の温度は、20℃〜50℃とすることが好ましい。この温度が低すぎると、防錆機能を保持できるほどの密度の有機防錆皮膜とならず、高すぎると有機防錆皮膜の密度が過剰に高くなるためである。
さらに、窒素含有化合物および炭素数4以上のケトン類の混合溶液のpHはトリアゾール成分に代表される窒素含有防錆化合物の安定性を確保するため、溶液のpHを6.5〜8.0とすることが好ましい。
【0042】
銅箔に塗布するアゾール系化合物、およびイミダゾール化合物に代表される窒素含有防錆化合物の溶液濃度、溶液温度、pH等の条件、銅箔の浸漬時間等は形成する有機防錆皮膜の厚みとの関係で適宜に決めることができる。なお、浸漬時間は通常0.5〜30秒程度であればよい。
【0043】
本実施形態においては、電解銅箔製箔後ただちに有機防錆剤溶液に浸漬して有機防錆皮膜を形成するが、製箔後ただちに防錆処理できない場合は、前処理として酸洗い、または脱脂を施す。酸洗いをする場合は、HSO=5〜200g/L、温度=10℃〜80℃の希硫酸に浸漬する酸洗い方法が効果的である。また、脱脂の場合は、NaOH=5〜200g/L、温度=10℃〜80℃の水溶液中で、電流密度=1〜10A/dm、0.1分〜5分で陰極または/および陽極電解脱脂を行うのが効果的である。
【0044】
本実施形態では上記銅箔を集電体とし、その上に負極活物質層を形成して負極電極を作製し、該負極電極を組み込み、慣用手段によりリチウムイオン二次電池を作製する。
負極活物質としては、例えば、炭素、珪素、スズ、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、アルミニウム、インジウム、リチウム、酸化スズ、チタン酸リチウム、窒化リチウム、インジウムを固溶した酸化錫、インジウム−錫合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、以下は本発明の一例であり、実施にあたっては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態を採用することができる。
【0046】
〔銅箔の製箔(実施例1〜22および比較例1〜10、14〜30で共通)〕
次に示す組成の電解液を調製し、下記の条件で、アノードには貴金属酸化物被覆チタン電極、カソードにはチタン製回転ドラムを用いて、電流密度=50〜100A/dmで、厚さ10μmの電解銅箔を製造した。
銅: 70〜130g/L
硫酸: 80〜140g/L
添加剤: 3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム=1〜10ppm
ヒドロキシエチルセルロース=1〜100ppm
低分子量膠(分子量3,000)=1〜50ppm
塩化物イオン濃度=10〜50ppm
温度: 50〜60℃
【0047】
〔防錆処理・加熱処理〕
〔実施例1〜5〕
電解製箔された銅箔を、ただちに濃度600〜1800ppmの窒素含有防錆化合物と濃度55〜350ppmの炭素数4以上のケトン類との混合水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
窒素含有防錆化合物と炭素数4以上のケトン類の種類と濃度、および炭素数4以上のケトン類の量の窒素含有防錆化合物の量に対する比は、表に示した通りである(以下同様)。
【0048】
〔実施例6〜8〕
電解製箔された銅箔を、ただちに濃度2200〜3000ppmの窒素含有防錆化合物と濃度200〜450ppmの炭素数4以上のケトン類との混合水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0049】
〔実施例9〜11〕
電解製箔された銅箔を、ただちに濃度150〜400ppmの窒素含有防錆化合物と濃度12〜75ppmの炭素数4以上のケトン類との混合水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0050】
〔実施例12〜16〕
電解製箔された銅箔を、ただちに濃度600〜1800ppmの窒素含有防錆化合物と濃度46〜350ppmの炭素数4以上のケトン類との混合水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0051】
〔実施例17〜19〕
電解製箔された銅箔を、ただちに濃度2400〜2800ppmの窒素含有防錆化合物と濃度35〜200ppmの炭素数4以上のケトン類との混合水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0052】
〔実施例20〜22〕
電解製箔された銅箔を、ただちに濃度180〜450ppmの窒素含有防錆化合物と濃度3〜33ppmの炭素数4以上のケトン類との混合水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0053】
〔比較例1〕
電解製箔された銅箔を、防錆剤等による処理を行わず、直ちに大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0054】
〔比較例2〕
製箔直後の電解銅箔を、濃度を0.1wt%に調製した酸化クロム〔III〕水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬させてドライヤーにて乾燥させることによりクロメート層を設け、直ちに大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0055】
〔比較例3〜10〕
比較例3〜9では、電解製箔された銅箔を、ただちに濃度100〜2200ppmの窒素含有防錆化合物のみの水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
比較例10では、窒素含有防錆化合物に加え、炭素数4以上を満たさないケトン化合物としてアセトンを100ppm混合した水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行い、その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0056】
〔比較例11〜13〕
熱間圧延後の純銅(タフピッチ銅)板に、中間焼鈍を反復して施し、途中、溶剤脱脂と硫酸水溶液による酸洗・研磨を行い、更に充分な水洗を行った後、最終仕上げ圧延により10μmの厚みの圧延銅箔とした。
その後、トルエンなどを含む溶剤で洗浄する脱脂処理を行って乾燥させた後、ただちに濃度750〜2000ppmの窒素含有防錆化合物と濃度40〜140ppmの炭素数4以上のケトン類とを混合した水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬させ、ドライヤーで乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0057】
〔比較例14〜16〕
比較例14〜16では、特許文献1(特許第5081481号公報)の実施例4、9、12に記載された表面処理方法に基づき、カルボキシベンゾトリアゾール(以下CBT)をを0.005〜0.080wt%を、イソプロピルアルコール(以下IPA)、ノルマルパラフィン(以下NP、JX日鉱日石エネルギー株式会社製NSクリーン100R(商品名))、もしくはそれらの混合溶媒で濃度を調整した混合液、および、CBTに加えてモノエチルアミン(以下EA)を0.0040wt%添加して同様に濃度を調整した混合液を表面処理に用いた。
表面処理は、製箔した電解銅箔をただちに上記の混合液(液温35℃)に5秒間浸漬させた後、ドライヤーで乾燥させることにより行い、その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0058】
〔比較例17〜19〕
比較例17〜19では、特許文献2(特許第5512585号公報)の実施例11、10、15に記載された表面処理方法に基づき、CBT(1wt%)をジメチルアセトアミド(以下DMAC、5wt%)に溶解した後にイソプロピルアルコール(以下IPA、15wt%)を添加し、ヘキサンと混合して濃度を調整した混合液を用いて表面処理した。
このうち比較例17は、製箔した電解銅箔をただちに上記の混合液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより、直接処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
比較例18は、製箔直後の電解銅箔を、イミダゾールシラン(JX日鉱日石金属株式会社製IS-1000(商品名))3×10−4 mol/L水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬させてドライヤーにて乾燥させることにより、中間層としてシラン層を設けた上で、さらに比較例17と同様の処理、加熱を行った。
比較例19は、製箔直後の電解銅箔を、濃度を0.1wt%に調製した酸化クロム〔III〕水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬させてドライヤーにて乾燥させることにより、中間層としてクロメート層を設けた上で、さらに比較例17と同様の処理、加熱を行った。
【0059】
〔比較例20〜22〕
比較例20〜22では、特許文献3(特許第5417436号公報)の実施例1−9〜1−11に記載された表面処理方法基づき、ベンゾトリアゾール(BTA)1×10−4〜6×10−4 mol/Lとシランカップリング剤(イミダゾールシラン、JX日鉱日石金属株式会社製IS-1000(商品名))3×10−4 mol/Lとを混合した水溶液を調製し、電解銅箔を表面処理した。
製箔した電解銅箔をただちに上記の水溶液(液温35℃)に5秒間浸漬し、ドライヤーで乾燥させることにより、直接処理を行い、その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0060】
〔比較例23〜24〕
比較例23〜24では、特許文献4(特開平6−279463号公報)の実施例1にある手法で合成した2種類の反応生成物(以下SBTA1=分子構造は式(1)、SBTA2=分子構造は式(2))を、当該特許文献の[0027]段落の内容に基づいて6wt%の濃度になるようにそれぞれメタノールに溶解させた溶液(液温35℃)を調製し、これに製箔した電解銅箔を5秒間浸漬させ、ドライヤーによって乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0061】
〔比較例25〜27〕
比較例25〜27では、特許文献5(特開平7−309846号公報)の実施例1、2、3にある手法で合成した3種類の反応生成物(以下FSBTA1=式(3)、FSBTA2=式(4)、FSBTA3=式(5)。いずれも、1位のN置換体、2位のN置換体の比率2:1の混合物。)の原液(液温35℃)に、製箔した電解銅箔を5秒間浸漬させ、ドライヤーによって乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0062】
〔比較例28〜30〕
比較例28〜30では、特許文献6(特開平6−256358号公報)の実施例1、2、3にある手法で合成した3種類の反応生成物(以下FBIA1=式(6)、FBIA2=式(7)、FBIA3=式(8))を、当該特許文献6の[0026]段落の内容に基づいて6wt%の濃度になるようにそれぞれメタノールに溶解させた溶液(液温35℃)を調製し、これに製箔した電解銅箔を5秒間浸漬させ、ドライヤーによって乾燥させることにより表面処理を行った。その後、大気オーブン(ヤマト科学株式会社製DF−411(商品名))を用いて180℃の温度で1時間加熱を行った。
【0063】
【化1】
【0064】
【化2】
【0065】
〔第一プラトー領域における最大電位の測定〕
銅箔を作用電極(WE、測定部面積1cm2)、白金電極を対極(CE)、塩化カロメル電極(SCE)を基準電極(RE)として、塩化カリウム(KCl)0.1N水溶液を電解液とする3電極セルを構成し、窒素ガスで十分に脱気したあと、北斗電工製電気化学測定装置HZ−3000(商品名)を用いて、カソード定電流800μAを入力し、電位信号の応答を観測した。横軸を測定時間、縦軸を電位値としたときに、最初に電位が時間に対してほぼ一定となる領域(第一プラトー電位領域)を検知し(図1参照)、この領域の中での最大の電位値を測定した。
【0066】
〔カール値の測定〕
図4に示したように、各実施例、各比較例で作製した銅箔を縦10cm×横5cmの長方形に切り、銅箔のマット面(M面)側を表にして、左端が幅2cmはみ出すように、コクヨ製TZ−1343(商品名)のステンレス直定規(C型 JIS1級 30cm)を重石として乗せた。その後、銅箔の縦方向の中央部分(図4中の線1の位置)と、その上下2cmの部分(図4中の線2と線3の位置)の計3点について、銅箔を置いた面からの端部の立ち上がりの高さ[mm]を測定し、3点の平均値を算出することにより、カール値を測定した。
得られたカールの度合いについて、次の基準で評価した。すなわち、カール値が0.5mm未満のものを優として「A」、0.5mm以上1.5mm未満となるものを良として「B」、1.5mm以上3.0mm未満となるものを可として「C」、3.0mm以上となるものを不可として「D」と、それぞれ表中に示した。
【0067】
〔活物質層の形成と密着性の評価〕
各実施例、各比較例で作製した銅箔(表面処理、およびドライヤーによる乾燥は行うが、大気オーブンによる乾燥は行わないもの)の両面に下記炭素材料からなる活物質スラリーペーストを用い、銅箔と活物質の密着性を下記により評価した。その結果を表1、2に示す。炭素材料としては塊状人造黒鉛を用い、該塊状人造黒鉛をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に8%PVDF(ポリフッ化ビニリデン)粉を溶かした溶液と混合してペースト状とし、このペーストを銅箔表面に約50μmの厚さに塗布して、180℃で1時間乾燥後圧延によるプレスを行い、さらに真空乾燥した。
この活物質塗布面に両面テープを貼り付け、支持板にも両面テープを貼り付け、両面テープ同士を張り合わせた。そして、JIS C 6471に準じる方法で引き剥がし角度90度にて剥離強度を測定した。以下の表には、電解銅箔のS面と支持板の間の剥離強度、電解銅箔のM面と支持板の間の剥離強度を、それぞれ測定した結果を示した。支持板としては、引き剥がし試験に供しても折れないような硬さを有するポリスチレン板を用いた。
このように形成した活物質層の密着性について、活物質剥離試験の結果を以下の基準で評価した。剥離強度が4000gf/cm以上のものを優として「A」、3000gf/cm以上4000gf/cm未満となるものを良として「B」、2000gf/cm以上3000gf/cm未満となるものを可として「C」、2000gf/cm未満となるものを不可として「D」と、それぞれ表中に示した。
【0068】
[原子含有量の測定]
銅箔表面付近の原子含有量を、アルバック・ファイ株式会社製XPS測定装置5600MC(商品名)を使用し下記条件で測定した。
到達真空度1×10−10Torr(Arガス導入時1×10−8Torr)、
X線:X線種単色化Al−Kα線、
出力300W、
検出面積800μmφ、
イオン線:イオン種Ar
加速電圧3kV、
掃引面積3×3mm
試料入射角45°(試料と検出器とのなす角)、
スパッタリングレート2.3nm/分(SiO換算)
測定開始後5.2秒後(深さ0.2nm)における原子C、N、O、Cuの含有量の和を分母、原子Nの含有量を分子として、原子Nの量の原子百分率[atm%]を算出した。
【0069】
表1に実施例、表2に比較例の評価結果を示す。また、図5に各実施例と比較例での、第一プラトー電位領域最大電位と窒素量との関係を示す。
なお、表中の窒素含有防錆化合物の名称は、BTAが1,2,3−ベンゾトリアゾール、TTAがトリルトリアゾール、EBTAはエチルベンゾトリアゾール、BIAはベンゾイミダゾールを示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2-1】
【0072】
【表2-2】
【0073】
実施例1〜11は、酸化皮膜の第一プラトー電位領域の最大電位が−820mVを下回っている例である。
このうち、実施例1〜5は、窒素量が特に適切な範囲内(3〜20atm%)であり、カール値は0.5mm未満の範囲となっており、活物質の剥離はほぼ問題のないレベルに抑制されている。実施例6〜8は窒素量が20atm%を超えており、カール値は0.5mm未満に抑えられているものの、酸化皮膜と有機防錆層との密着性がやや劣るため、活物質の密着性はやや劣っているが、負極の品質に大きな問題はない。実施例9〜11は窒素量が3atm%を下回っており、加熱乾燥に伴って生成する酸化皮膜量がやや多く、カール値は1.5〜3.0mm未満とやや劣り、活物質の密着性もやや劣っているが、負極の品質に大きな問題はない。
一方、実施例12〜22は、酸化皮膜の第一プラトー電位領域の最大電位が−800〜−820mVの範囲に入っている例である。全体的に実施例1〜11と比べてカール防止特性や活物質密着性がやや劣るが、負極の品質に大きな問題はない。
このうち、実施例12〜16は、窒素量が特に適切な範囲内(3〜20atm%)であり、カール値は0.5〜1.5mm未満の範囲となっており、活物質の剥離はほぼ問題のないレベルに抑制されている。
実施例17〜19は窒素量が20atm%を超えており、カール値は0.5〜1.5mm未満に抑えられているものの、酸化皮膜と有機防錆層との密着性がやや劣るために活物質の密着性はやや劣っているが、負極の品質に大きな問題はない。
実施例20〜22は窒素量が3atm%を下回っており、加熱乾燥に伴って生成する酸化皮膜量がやや多く、カール値は1.5〜3.0mm未満とやや劣り、活物質の密着性はやや劣っているが、負極の品質に大きな問題はない。
【0074】
これに対し、各比較例では、酸化皮膜の第一プラトー電位領域の最大電位がS面とM面の少なくともいずれか一方で−820mVを上回っており、特性が劣っていた。
比較例1は、窒素含有防錆化合物および炭素数4以上のケトン類による防錆処理を行っておらず、カール値は7.0mmを超えてかなり大きく、活物質の剥離がかなり大きかった。
比較例2は、銅箔表面がクロメート皮膜と共に酸化し、十分な密着性を持つ酸化皮膜が形成することができなかったため、6.0mmを超える大きなカールが発生し、活物質の剥離を抑制することはできなかった。
また、比較例3〜9は、窒素含有防錆化合物は使用しているものの、炭素数4以上のケトン類を使用しなかったため、カールを十分に抑制することができず、活物質の剥離が大きかった。特に比較例3〜4では、第一プラトー電位領域の最大電位が−800mV(vs.SCE)を下回る面と上回る面とがそれぞれ存在し、酸化皮膜の密着性が面ごとに異なっていたため、かえってカールが発生しやすくなっていた。
比較例10は、炭素数3のアセトンを使用したため、カールを十分に抑制することができず、活物質の剥離が大きかった。
比較例11〜13は、タフピッチ銅の圧延により形成した圧延銅箔に対して、窒素含有防錆化合物および炭素数4以上のケトン類による防錆処理を行った試験例である。圧延銅箔では、内部に多く含有する酸素が加熱によって放出されて酸化皮膜に含有され、十分な密着性を持つ酸化皮膜を形成することができなかった。このため、4.0mmを超えるカールが発生し、活物質の剥離を抑制することができなかった。
このほか、比較例14〜16におけるCBTにより形成した有機防錆層を形成した例、比較例17〜19におけるCBT、DMAC、IPAを組み合わせて形成した有機防錆層を設け、必要に応じてシラン層もしくはクロメート層からなる中間層を設けた例、比較例20〜22におけるBTAとシランカップリング剤からなる混合層を設けた例、比較例23〜30におけるシランもしくはフッ素シランを分子構造中に含むアゾール化合物もしくはイミダゾール化合物からなる防錆層を設けた例では、いずれの場合においても、酸化皮膜の第一プラトー電位領域の最大電位が−800mV(vs.SCE)を上回っており、形成された防錆皮膜及び中間層に酸化膜の密着性をコントロールする能力がなく、加熱後のカールを十分に抑制することができず、活物質の剥離は大きかった。
【0075】
本発明をその実施形態および実施例とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0076】
本願は、2015年1月19日に日本国で特許出願された特願2015−7793に基づく優先権を主張するものであり、これらはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【要約】
【課題】銅箔の加熱時のカール防止特性を向上することにより活物質の剥離を防止したリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極および該銅箔を集電体としたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】180℃×1時間加熱後に室温で測定した表面酸化皮膜の第一プラトー電位領域における最大電位が、光沢面とマット面の両面ともに−800mV以下(vs.SCE)であるリチウムイオン二次電池用表面処理電解銅箔、これを用いたリチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5