【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定され
るものではない。
以下において、部または%は、特記しない限り、重量部または重量%を表わす。
【0032】
重合体の分析および撥水撥油性の測定は以下のようにして行った。
【0033】
「数平均分子量」
含フッ素重合体の数平均分子量(Mn)の測定は、500MHzの
1H−NMR(Varian Unity INOVA500)または400MHzの
1H-NMR(JEOL ECS-400)にて、C6F6/C6D6=95/5の混合溶媒中で、70℃で行った。重合開始剤のi−Pr基のメチン基の4.2ppm付近のシグナル強度、ならびに主鎖CH
2基由来の1.7〜2.6ppm付近のシグナル強度、または側鎖に存在するエステルCH
2基に由来する4.5〜4.7ppm付近のシグナル強度から、重合体中の単量体単位と末端基の比率を計算して求めた。一方、非フッ素重合体の数平均分子量(Mn)の測定は、テトラヒドロフランを溶媒とし、SHOWA DENKO製のShodex GPC−104 (カラムLF604×2直列)を用いて測定した。尚、クロマトグラムは、標準ポリスチレンのサンプルを用いて校正した。
【0034】
「立体規則性」
ポリアクリレートの立体規則性の分析は、Matsuzakiら(J.Polym.Sci.,A-1,5,2167(1967))のポリアクリル酸メチルの分析法に従った。即ち、
1H-NMRにおいて、2ppm付近に現れる主鎖メチレンプロトンに基づく3本の吸収を利用し、低磁場と高磁場の吸収よりイソタクチックダイアド(m)を求めた。一方、ポリメタクリレートの立体規則性の分析法は、Nishioka (J. Polym. Sci., 45, 232(1960)、およびBovey (J. Polym. Sci., 44, 173 (1960) によって確立されているので、重合体の立体規則性は、その方法に従った。即ち、
1H−NMRにおいて、1ppm付近に現れるα−メチル基のプロトンに基づく3本の吸収を利用し、低磁場の吸収よりイソタクチックトリアド(mm)を求めた。
【0035】
「熱的特性」
重合体のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)および融解エンタルピー(ΔH)は、熱分析計DSC(SEIKO-RDC220)にて、−50〜150℃の温度範囲で昇温スピード10℃/分で測定した。
【0036】
「静的接触角」
重合体の撥水撥油性の評価の1つである静的接触角は以下の様にして測定した。撥水性は水滴(表面張力γi=72mN/m)の静的接触角を、撥油性はn−ヘキサデカン液滴(表面張力γi=27mN/m)の静的接触角をそれぞれ測定して求めた。即ち、含フッ素重合体をHCFC−225あるいはHFE7300(1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3−メトキシ−4−トリフルオロメチル−ペンタン)、または非フッ素重合体をトルエン溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布して、HCFC−225を用いた場合は75℃で3分間熱処理して、HFE−7300あるいはトルエンを用いた場合は48時間室温乾燥して製膜した。次に、協和界面科学(株)製の接触角計(商品名「CA−VP」)で接触角を測定した。測定環境はJISR3257に準じて、温度15〜20℃、相対湿度50〜70%とした。接触角の角度の大きい方が、撥水撥油性に優れている。
【0037】
「動的的接触角・転落角」
重合体の撥水撥油性評価の1つである動的接触角を以下の様にして測定した。撥水性は水滴(表面張力γi=72mN/m)の動的接触角を、撥油性はn−ヘキサデカン液滴(表面張力γi=27mN/m)の動的接触角をそれぞれ測定して求めた。動的接触角の詳細としては、前進接触角:θa(deg)、後退接触角:θr(deg)、および、転落角:α(deg)を測定して求めた。即ち、ガラス基板上に上記と同様の方法で重合体を製膜し、上記と同様に協和界面科学(株)製の接触角計(商品名「CA−VP」)で接触角を測定した。測定環境はJISR3257に準じて、温度15〜20℃、相対湿度50〜70%とした。θaとθrの差を表すヒステリシスおよび転落角の小さい方が、撥水撥油性に優れている。
【0038】
開始剤合成例:α−リチオイソ酪酸エステルの合成
Lochmann L.らの文献(J. Organomet. Chem. 1973, 50, 9.)に従い合成を行った。ジイソプロピルアミン2.80mL(20ミリモル)にn-ブチルリチウムを20ミリモル含むヘキサン溶液12.5mLを乾燥窒素下0℃で加え、1.5時間、0℃に保った。これにイソ酪酸イソプロピル25.6mL(20ミリモル)を室温で加えて、 1 時間保った後減圧濃縮をおこなった。ヘプタンで再結晶を行い、対応するリチウムエノレート(Li-i-P
rIB)の白色結晶を2.3g(収率85%)得た。
【0039】
実施例1
1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(m−XHF)10mL、含フッ素単量体2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート CH
2=CH-COO-(CH
2)
2-(CF
2)
6F(以下「C6−SFA」と略す。)を4.18g(10ミリモル)をガラスアンプルに入れ、窒素下で−40℃に保った。次いで、リチウムエノレート(Li-i-PrIB)を0.2ミリモル含むベンゼン溶液0.424mLを添加して密封し、−40℃に24時間保って重合反応を行った。反応終了後に少量の塩酸酸性メタノールを添加して重合反応を停止し、反応液を大量のメタノール中に投入して重合体を沈殿させた。得られた沈殿を濾取、洗浄後、真空乾燥して本発明の含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0040】
実施例2
m−XHF10mL、Li-i-PrIBを0.2ミリモル含むベンゼン溶液0.245mL、リチウムトリメチルシラノレート(Me3SiOLi)を0.2ミリモル含むトルエン溶液0.237mLをガラスアンプルに入れ、窒素下で−40℃に保った。次いで、C6-SFAを4.18g(10ミリモル)を添加して密封し、−40℃に24時間保って重合反応を行った。重合反応停止と以後の手順は実施例1と同様に行い、本発明の含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
m−XHF10mLに代えてHCFC-22510mL、リチウムトリメチルシラノレート(Me
3SiOLi)を5ミリモル用い、−78℃で重合を行ったこと以外は実施例2と同様の手順を用いた。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0042】
参考例1
m−XHF10mLに代えてm−XHF7mLとトルエン3mL、エチルアルミニウム ビス-2,6-ジ- tert-ブチルフェノキシド(EtAl(ODBP)
2)を0.6ミリモル用い、−78℃で72時間重合を行ったこと以外は実施例2と同様の手順を用いた。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0043】
比較例1(ラジカル重合による「C8−SFA」単量体からの含フッ素重合体)
含フッ素単量体C6−SFAに代えて2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート CH
2=CH-COO-(CH
2)
2-(CF
2)
8F(以下「C8−SFA」と略す。)5.18g(10ミリモル)を用いること、およびLi-i-PrIBに代えてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)32.8mg(0.2ミリモル)を用いること、および重合温度を60℃とすること以外は、実施例1と同じ手順を繰り返し、含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0044】
比較例2(ラジカル重合による「C6−SFA」単量体からの含フッ素重合体)
Li-i-PrIBに代えてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)32.8mg(0.2ミリモル)を用いること、および重合温度を60℃とすること以外は実施例1と同じ手順を繰り返し、含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
(表中、含フッ素単量体;CH
2=CHCOO-(CH
2)
2-(CF
2)
n-F、n=6:C6−SFA、n=8:C8−SFA。 m;イソタクチックダイアド。 n. d.: 観測されず。)
【0046】
表1から、本発明になる含フッ素重合体は、ラジカル重合で得られた重合体と比較して、任意にイソタクチシチィーを調整でき、且つ、高いイソタクチシチィーでは明確なTmを有し、イソタクチシチィーが高くなるほど融解エンタルピーが増大している。これは、イソタクチシチィーが由来して含フッ素重合体の結晶性が誘起したことを示唆している。
【0047】
「結晶性の測定(X線回折)」
実施例1および比較例2で得られた含フッ素重合体の粉末X線回折パターンを、理学電機(株)製RAD−rA型を用いて、40kV、50mAで単色CuKα線源による反射法にて測定した。得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
(表中、n. d.: 観測されず。)
【0049】
表2から、比較例2のラジカル重合で得られた低いイソタクチシチィーの含フッ素重合体では、2θ=18deg付近に分子内のパーフルオロアルキル基間のパッキングに帰属される回析線のみが観測されたのに比べて、本発明の高いイソタクチシチィーを有する含フッ素重合体では、2θ=18deg付近の回折線に加えて2θ=4deg付近と7deg付近と10deg付近にラメラ構造に帰属される回析線も観測され、本発明の含フッ素重合体の結晶性が高いことを示している。
【0050】
実施例
4
リチウムエノレート(Li-i-PrIB)を0.2ミリモル含むベンゼン溶液0.353mL、リチウムトリメチルシラノレート(Me
3SiOLi)を5ミリモル含むトルエン溶液4.63mL、トルエン20mLをガラスアンプルに入れ、窒素下で0℃に保った。次いで、単量体ステアリルメタアクリレート CH
2=C(CH
3)-COO-(CH
2)18H(以下「StMA」と略す。)を3.39g(10ミリモル)添加して密封し、0℃に24時間保って重合反応を行った。反応終了後に少量の塩酸酸性メタノールを添加して重合反応を停止し、反応液を大量のメタノール中に投入して重合体を沈殿させた。得られた沈殿を濾取、洗浄後、真空乾燥して本発明の重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表3に示す。
【0051】
比較例3(ラジカル重合による「StMA」単量体からの非フッ素重合体)
Li-i-PrIBに代えてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)32.8mg(0.2ミリモル)を用いること、および重合温度を60℃とすること以外は、実施例
4と同じ手順を繰り返し、非フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
(表中、非フッ素単量体StMA:CH
2=C(CH
3)COO-(CH
2)
18-H。 mm:イソタクチックトリアド。)
表2から、本発明の重合体は、ラジカル重合で得られた重合体と比較して、高いイソタクチシチィーであり、且つ、Tmが高くなっている。これは、イソタクチシチィーが由来して重合体の結晶性が誘起したことを示唆している。
【0053】
実施例
5
実施例1で得られた含フッ素重合体をHFE−7300溶媒中の1%溶液5mLとし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、48時間室温乾燥して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表4に、n−ヘキサデカンに対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表5に示す。
【0054】
実施例
6
実施例1で得られた含フッ素重合体に代えて実施例2で得られた含フッ素重合体を用いること以外は、実施例
5と同じ手順を繰り返して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表4に、n−ヘキサデカンに対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表5に示す。
【0055】
実施例
7
実施例1で得られた含フッ素重合体に代えて実施例3で得られた含フッ素重合体を用いること以外は、実施例
5と同じ手順を繰り返して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表4に、n−ヘキサデカンに対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表5に示す。
【0056】
参考例2
実施例1で得られた含フッ素重合体に代えて
参考例1で得られた含フッ素重合体を用いること以外は、実施例
5と同じ手順を繰り返して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表4に、n−ヘキサデカンに対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表5に示す。
【0057】
比較例4
比較例1で得られた含フッ素重合体をHCFC−225溶媒中の1%溶液5mLとし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、75℃で3分間熱処理して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表4に、n−ヘキサデカンに対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表5に示す。
【0058】
比較例5
実施例1で得られた含フッ素重合体に代えて比較例2で得られた含フッ素重合体を用いること以外は、実施例
6と同じ手順を繰り返して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表4に、n−ヘキサデカンに対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表5に示す。
【0059】
【表4】
(表中、m:イソタクチックダイアド。>90:ガラス基板を90degに傾斜しても水滴が転落しなかったことを表す。n.d.:転落角が>90であったため評価できなかったことを表す。)
表4から、本発明の含フッ素重合体は、イソタクチシチィーが高くなるほど、水に対する転落角およびヒステリシスが低下する。即ち、高いイソタクチシチィーを有する本発明の含フッ素重合体は撥水性が優れていることが判る。
【0060】
【表5】
(表中、m:イソタクチックダイアド。>90:ガラス基板を90degに傾斜しても水滴が転落しなかったことを表す。n.d.:転落角が>90であったため評価できなかったことを表す。)
表5から、本発明の含フッ素重合体は、イソタクチシチィーが高くなるほど、油(n−ヘキサデカン)に対する転落角およびヒステリシスが低下する。即ち、高いイソタクチシチィーを有する本発明の含フッ素重合体は撥油性が優れていることが判る。
【0061】
実施例
8
実施例
4で得られた重合体をトルエン溶媒中の1%溶液5mLとし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、48時間室温乾燥して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表6に示す。
比較例6
実施例
4で得られた重合体に代えて比較例3で得られた重合体を用いること以外は、実施例
8と同じ手順を繰り返して製膜した。この塗膜の水に対する静的接触角、および動的接触角の測定結果を表6に示す。
【0062】
【表1】
(表中、mm:イソタクチックトリアド。)
表6から、本発明の重合体は、イソタクチシチィーが高くなるほど、水に対する転落角およびヒステリシスが低下する。即ち、高いイソタクチシチィーを有する本発明の重合体は撥水性が優れていることが判る。