(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の静電レンズは、3つ以上の静電レンズであり、前記複数の電磁レンズの一方の磁場中に少なくとも2段の静電レンズが配置され、前記複数の電磁レンズの他方の磁場中に少なくとも1段の静電レンズが配置され、
前記少なくとも3段の静電レンズを用いて、前記複数の電磁レンズを通過する荷電粒子ビームの焦点ずれが生じないように、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持するように、かつ、測定された前記ステージの回転方向の位置ずれ量を補正するように、ビーム像を回転させることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
前記複数の静電レンズは、3つ以上の静電レンズであり、前記複数の電磁レンズの一方の磁場中に少なくとも2段の静電レンズが配置され、前記複数の電磁レンズの他方の磁場中に少なくとも1段の静電レンズが配置され、
前記少なくとも3段の静電レンズを用いて、測定された試料の表面高さに応じて荷電粒子ビームの焦点を動的に合わせながら、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持するように、かつ、測定された前記ステージの回転方向の位置ずれ量を補正するように、ビーム像を回転させることを特徴とする請求項3記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0015】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、アパーチャ部材203、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、及び、2段の静電レンズ212,214が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、レーザ測長用のミラー106が配置される。
【0016】
また、縮小レンズ205と対物レンズ207は、共に、電磁レンズで構成され、磁場が逆方向で励磁の大きさが等しくなるように配置される。また、静電レンズ212は、縮小レンズ205の磁場中に配置される。静電レンズ214は、対物レンズ207の磁場中に配置される。静電レンズ212は、自身に印加された電圧により生じる磁場の影響が縮小レンズ205の磁場に効率よく作用させるため、静電レンズ212は、縮小レンズ205の磁場中に完全に含まれる位置に配置されると好適である。同様に、静電レンズ214は、自身に印加された電圧により生じる磁場の影響が対物レンズ207の磁場に効率よく作用させるため、静電レンズ214は、対物レンズ207の磁場中に完全に含まれる位置に配置されると好適である。
【0017】
制御部160は、制御計算機110、メモリ111、制御回路112、アンプ120,122、磁気ディスク装置等の記憶装置140、およびレーザ測長器130,132,134を有している。制御計算機110、メモリ111、制御回路112、アンプ120,122(電圧印加部)、記憶装置140、およびレーザ測長器130,132,134は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0018】
制御計算機110内には、回転誤差測定部50、及び電圧取得部52が配置される。回転誤差測定部50、及び電圧取得部52といった機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。回転誤差測定部50、及び電圧取得部52に入出力される情報および演算中の情報はメモリ111にその都度格納される。
【0019】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。また、
図1では、磁場が逆方向の縮小レンズ205と対物レンズ207の各電磁レンズの磁場中に静電レンズが1つずつ配置された構成になっているがこれに限るものではない。磁場が逆方向の各電磁レンズの磁場中に静電レンズが少なくとも1つずつ配置されればよい。よって、1つの電磁レンズの磁場中に静電レンズが2個以上配置されてもよい。また、
図1では、縮小レンズ205と対物レンズ207の倍率が、n:1となり異なっているが、励磁の大きさが等しく磁場が逆方向の電磁レンズの組であれば、倍率が、n:1(n>1:nは整数であっても整数でなくてもよい)でも良いし、1:1でも構わない。
【0020】
図2は、実施の形態1におけるアパーチャ部材の構成を示す概念図である。
図2(a)において、アパーチャ部材203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2(a)では、例えば、512×8列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。ここでは、y方向の各列について、x方向にAからHまでの8つの穴22がそれぞれ形成される例が示されている。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、
図2(a)にように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。
図2(b)に示すように、例えば、縦方向(y方向)1段目の列と、2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)2段目の列と、3段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0021】
図3は、実施の形態1におけるブランキングプレートの構成を示す概念図である。ブランキングプレート204には、アパーチャ部材203の各穴22の配置位置に合わせて通過孔が形成され、各通過孔には、対となる2つの電極24,26の組(ブランカー:第1の偏向器)が、それぞれ配置される。各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立にかかる対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。このように、複数のブランカーが、アパーチャ部材203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0022】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直にアパーチャ部材203全体を照明する。アパーチャ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかるアパーチャ部材203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。そして、ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかるブランカーのON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20のパターン像は、対物レンズ207により焦点が合わされ、試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。
【0023】
描画装置100は、XYステージ105が移動しながらショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0024】
図4は、実施の形態1における描画動作を説明するための概念図である。
図4(a)に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。かかる各ストライプ領域32は、描画単位領域となる。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で例えば連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、
図4(b)に示すように、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向にむかって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、
図4(c)に示すように、アパーチャ部材203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、各穴22と同数の複数のショットパターン36が一度に形成される。例えば、アパーチャ部材203の1つの穴Aを通過したビームは、
図4(c)で示す「A」の位置に照射され、その位置にショットパターン36を形成する。同様に、例えば、アパーチャ部材203の1つの穴Bを通過したビームは、
図4(c)で示す「B」の位置に照射され、その位置にショットパターン36を形成する。以下、C〜Hについても同様である。そして、各ストライプ32を描画する際、x方向に向かってXYステージ105が移動する中、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画する。
【0025】
ここで、上述したように、試料101をXYステージ105上に載置して、XYステージ105を移動させながら、或いはステップアンドリピート動作させながら試料101上にパターンを描画する。しかしながら、XYステージ105の位置がずれていると所望する位置にパターンが描画できないことになる。例えば、XYステージ105のx,y方向の位置ずれ(Δx,Δy)や回転位置ずれ(Δθ)が生じている場合などである。XYステージ105のx,y方向の位置ずれ(Δx,Δy)については、XYステージ105のx,y方向を移動させること等で調整を行うことも可能であるが、回転位置ずれ(Δθ)についてはXYステージ105をx,y方向を移動させても補正することが困難である。そこで、実施の形態1では、磁場が逆方向の電磁レンズの組のそれぞれの磁場中に配置される静電レンズ212,214を用いて、ステージの回転位置ずれ(Δθ)に合わせて、ビーム像を回転させて描画する。
【0026】
図5は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における描画方法は、ステージの回転位置ずれ測定工程(S102)と、電圧取得工程(S104)と、像回転及び描画工程(S106)という一連の工程を実施する。
【0027】
ステージの回転誤差測定工程(S102)として、回転誤差測定部50は、試料101を載置するXYステージ105の回転方向の位置ずれ量Δθ(回転誤差)を測定する。
【0028】
図6は、実施の形態1におけるステージ誤差の測定方法を説明するための概念図である。
図6において、XYステージ105上には、x方向とy方向に沿ってミラー106が配置される。そして、少なくとも3つのレーザ測長器130,132,134を用いて、x方向の誤差(Δx)とy方向の誤差(Δy)を測定する。
図6の例では、x方向の誤差については、レーザ測長器130で1か所測定する。一方、y方向の誤差について、x方向に位置をずらして2つのレーザ測長器132,134により2か所で測定する。これにより、設計上の基準位置に対するx方向の誤差(Δx)とy方向の誤差(Δy1,Δy2)を測定できる。かかる3つの誤差を測定することで、XYステージ105の回転誤差Δθを計算できる。少なくとも、x方向に位置をずらした2つのレーザ測長器132,134の測定結果からXYステージ105の回転誤差Δθを計算できる。2つのレーザ測長器132,134間の予め設定された距離x’と、2つのレーザ測長器132,134が測定したy方向の誤差(Δy1,Δy2)の差分y’と、を用いて、例えば、回転誤差Δθ=tan
−1(y’/x’)で求めてもよい。
【0029】
図7は、実施の形態1における電磁レンズと静電レンズの配置位置の一例を示す図である。
図7に示すように、縮小レンズ205と対物レンズ207は、共に、電磁レンズで構成され、磁場が逆方向になるように配置される。また、静電レンズ212は、縮小レンズ205の磁場中に配置される。静電レンズ214は、対物レンズ207の磁場中に配置される。
【0030】
図8は、実施の形態1における静電レンズの一例を示す構成図である。静電レンズ212,214は、例えば、リング状の3段の電極50,52,54から構成され、上下の電極50,54は0Vの電圧が、中段の電極52に電圧が印加されることでマルチビーム20の焦点を調整できる。一方、かかる静電レンズ212,214を通過する電子は、電圧変動に伴い速度vが変化することになる。また、像の回転量θは、相対論効果を無視できる近似では磁場Bを電子の移動速度vで割った値を光軸に沿った距離zで積分した値に比例する。よって、静電レンズ212,214は、像の回転量θを調整できる。よって、静電レンズ212,214に印加する電圧を調整することで、焦点を合わせながらビーム像を回転させることができる。なお、相対論効果を含めても同様の効果が得られる。
【0031】
図9は、実施の形態1における2段の静電レンズで電圧を可変にした際の像の回転変動の一例を示す図である。本計算では相対論効果は考慮していない。ここでは、例えば、対物レンズ207でマルチビーム20の焦点を試料101面上に調整し、その位置に焦点が固定されるように、2段の静電レンズ212,214に印加する電圧を調整しながら、2段の静電レンズ212,214の電圧を可変にした際の像の変動回転角(°)の一例を示している。
図9の例では、1段目の静電レンズ212の電圧を可変に振った際、その都度、焦点が固定された位置からずれないように2段目の静電レンズ214の電圧を調整した場合の結果を示している。よって、焦点位置をずらさずに、所望の角度にビーム像を回転させるための2段の静電レンズ212,214に印加する電圧の組が存在する。
【0032】
そこで、電子ビームの焦点位置がずれないようにしながら、2段の静電レンズに印加する電圧の組を振った場合における、ビーム像の変動回転角と2段の静電レンズに印加する電圧の組との相関関係が定義された相関テーブルを作成する。かかる相関テーブルは記憶装置140に記憶する。かかる相関関係は、予め、シミュレーション或いは実験等により求め、相関テーブルを作成しておき、記憶装置140に格納しておけばよい。
【0033】
電圧取得工程(S104)として、電圧取得部52は、記憶装置140に格納された相関テーブルを参照し、縮小レンズ205と対物レンズ207(複数の電磁レンズ)を通過する電子ビームの焦点ずれが生じないように、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量Δθを補正するように、ビーム像を回転させる静電レンズ212,214に印加する電圧の組を取得する。ここでは、対物レンズ207で合わせた焦点位置が変化しないようにしながら、位置ずれ量Δθに合わせてビーム像を位置ずれ量Δθと同方向に回転させる2段の静電レンズ212,214の電圧の組を取得する。XYステージ105の回転方向の位置ずれ量Δθと同方向にビーム像を回転させることで、試料101上では、XYステージ105の回転方向の位置ずれが発生してない状態で描画された位置と同様の位置にビーム像が転写されることになる。
【0034】
像回転及び描画工程(S106)として、静電レンズ212,214を用いて、縮小レンズ205と対物レンズ207を通過する電子ビームの焦点ずれが生じないように、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量を補正するように、ビーム像を回転させると共に、描画部150は、ビーム像を回転させた状態でビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。具体的には、まず、描画の際、取得された静電レンズ212,214の電圧の組は制御回路112に出力される。そして、制御回路112は、アンプ120に静電レンズ212用の電圧信号を、アンプ122に静電レンズ214用の電圧信号を出力する。アンプ120は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ212に印加する。アンプ122は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ214に印加する。また、制御回路112に制御された描画部150は、ビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。
【0035】
図10は、実施の形態1における2段の静電レンズの効果の一例を説明するための概念図である。シングルビーム方式では、
図10(a)に示すように、照射エリアが1本のビームのショット図形11となるので、回転半径r0が小さい。よって、ステージの回転誤差が生じてもその位置誤差は小さくて済む。これに対して、マルチビーム方式では、
図10(b)に示すように、多数のビーム本数による多数のショット図形36が1回のショットで照射されるため、照射エリア10が大きい。よって、それに伴って回転半径r1も大きくなる。よって、ステージの回転誤差が生じると照射エリア10全体が回転してしまうので各ショット図形36の位置ずれ量も大きくなってしまう。よって、実施の形態1のように、2段の静電レンズを配置して、ステージの回転誤差を打ち消すことで、かかる位置ずれを抑制できる。特に、マルチビーム方式においてその効果が大きいものとなる。
【0036】
以上のように、実施の形態1によれば、ステージの回転位置がずれている場合でも所望する位置へとパターンを描画できる。よって、高精度な描画を行うことができる。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態1では、上述した例では、対物レンズ207で合わせた焦点位置を変化させないように静電レンズ212,214の電圧を調整したが、これに限るものではない。電子ビーム描画では、例えばXYステージ105が移動しながら描画を進めるため、描画位置が都度変化していく。また、試料面も平面とは限らず、凹凸が存在する。そのため、マルチビーム20が照射される試料面上の高さが変化する。そのため、静電レンズ212,214によって、描画中に、ダイナミックにマルチビーム20の焦点ずれを補正(ダイナミックフォーカス)するとなおよい。
【0038】
図11は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図11において、描画室103には、試料101面の高さを測定する、投光器220と受光器222で構成されるZセンサが配置される点と、制御計算機110内に、さらに高さ測定部54が配置される点以外は、
図1と同様である。
【0039】
回転誤差測定部50、電圧取得部52、及び高さ測定部54といった機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。回転誤差測定部50、電圧取得部52、及び高さ測定部54に入出力される情報および演算中の情報はメモリ111にその都度格納される。
【0040】
図12は、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図12において、実施の形態2における描画方法は、ステージの回転位置ずれ測定工程(S102)と電圧取得工程(S104)との間に、Z測定工程(S103)を実施する点以外は
図5と同様である。なお、Z測定工程(S103)は、電圧取得工程(S104)の前であれば、ステージの回転位置ずれ測定工程(S102)の前に実施してもよい。
【0041】
以下、特に説明しない内容は、実施の形態1と同様である。
【0042】
図13は、実施の形態2における2段の静電レンズで電圧を可変にした際の像の回転変動の他の一例を示す図である。ここでは、例えば、静電レンズ212,214によってダイナミックフォーカスを行うことを前提に、焦点位置を振って、焦点位置毎に、当該焦点位置に焦点が固定されるようにしながら、2段の静電レンズに印加する電圧の組を振った場合における、ビーム像の変動回転角と2段の静電レンズに印加する電圧の組との相関関係が定義された相関テーブルの一例を示す。かかる相関テーブルは記憶装置140に記憶する。かかる相関関係は、予め、シミュレーション或いは実験等により求め、相関テーブルを作成しておき、記憶装置140に格納しておけばよい。
【0043】
Z測定工程(S103)において、高さ測定部54は、Zセンサを用いて、XYステージ105上の試料101の表面高さを測定する。まず、測定したい試料101面の領域を投光器220からの光が照射される位置にくるようにXYステージ105を移動させる。そして、ストライプ領域32毎に投光器220からの光を照射して、各ストライプ領域32上の試料面高さを測定し、高さ分布を取得する。
【0044】
電圧取得工程(S104)として、電圧取得部52は、記憶装置140に格納された相関テーブルを参照し、測定された試料101の表面高さに応じて電子ビームの焦点を動的に合わせながら、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量Δθを補正するように、ビーム像を回転させる静電レンズ212,214に印加する電圧の組を取得する。ここでは、対物レンズ207で合わせた焦点位置を動的に変化させながら、位置ずれ量Δθに合わせてビーム像を位置ずれ量Δθと同方向に回転させる2段の静電レンズ212,214の電圧の組を取得する。
【0045】
像回転及び描画工程(S106)として、静電レンズ212,214を用いて、測定された試料101の表面高さに応じて電子ビームの焦点を動的に合わせながら、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量を補正するように、ビーム像を回転させると共に、描画部150は、ビーム像を回転させた状態でビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。具体的には、まず、描画の際、取得された静電レンズ212,214の電圧の組は制御回路112に出力される。そして、制御回路112は、アンプ120に静電レンズ212用の電圧信号を、アンプ122に静電レンズ214用の電圧信号を出力する。アンプ120は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ212に印加する。アンプ122は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ214に印加する。また、制御回路112に制御された描画部150は、ビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。
【0046】
以上のように、実施の形態2によれば、ダイナミックフォーカスを行いながら、ステージの回転位置がずれている場合でも所望する位置へとパターンを描画できる。よって、さらに高精度な描画を行うことができる。
【0047】
実施の形態3.
実施の形態3では、さらに、ビーム像の倍率変動についても調整する構成について説明する。
【0048】
図14は、実施の形態3における描画装置の構成を示す概念図である。
図14において、静電レンズ216、及び、アンプ124を追加した点以外は、
図11と同様である。なお、ダイナミックフォーカスを行わない場合には、
図14における投光器220と受光器222で構成されるZセンサと、高さ測定部54は省略してもよい。
【0049】
また、実施の形態3における描画方法の要部工程を示すフローチャートは、
図12と同様である。また、なお、ダイナミックフォーカスを行わない場合には、
図5と同様で構わない。以下、特に説明しない内容は、実施の形態1或いは実施の形態2と同様である。
【0050】
図15は、実施の形態3における電磁レンズと静電レンズの配置位置の一例を示す図である。
図15に示すように、縮小レンズ205と対物レンズ207は、共に、電磁レンズで構成され、磁場が逆方向になるように配置される。また、2段の静電レンズ212,216は、縮小レンズ205の磁場中に配置される。1段の静電レンズ214は、対物レンズ207の磁場中に配置される。ここでは、3段の静電レンズ212,214,216が配置される。静電レンズは、3段に限定されることなく、3つ以上の静電レンズであればよい。そして、磁場が逆方向になる複数の電磁レンズの一方の磁場中に少なくとも2段の静電レンズが配置され、他方の磁場中に少なくとも1段の静電レンズが配置されればよい。よって、縮小レンズ205側に1段の静電レンズが配置され、対物レンズ207側に2段の静電レンズが配置されてもよい。
【0051】
静電レンズに電圧を印加すると、電子ビームのビーム像の倍率も変化する。実施の形態1,2では、2段の静電レンズを用いていたため、焦点位置と像の回転の2つの要素を制御するはできるが、さらに、3つ目のビーム像の倍率の制御は同時に行うことは困難であった。そこで、実施の形態3では、3段の静電レンズを用いて、焦点位置と像の回転と像の倍率の制御とを同時に行う。
【0052】
まず、ダイナミックフォーカスを行わない場合について説明する。ダイナミックフォーカスを行わない場合、焦点位置は、対物レンズ207によって調整された位置に固定する必要がある。
【0053】
図16は、実施の形態3における3段の静電レンズで電圧を可変にした際の像の回転変動と倍率変動の一例を示す図である。ここでは、例えば、静電レンズ212,214によってダイナミックフォーカスを行わず、対物レンズ207によって調整された位置に固定することを前提に、当該焦点位置に焦点が固定されるようにしながら、3段の静電レンズに印加する電圧の組を振った場合における、ビーム像の変動回転角と倍率変動率と3段の静電レンズに印加する電圧の組との相関関係が定義された相関テーブルの一例を示す。かかる相関テーブルは記憶装置140に記憶する。かかる相関関係は、予め、シミュレーション或いは実験等により求め、相関テーブルを作成しておき、記憶装置140に格納しておけばよい。
【0054】
電圧取得工程(S104)として、電圧取得部52は、記憶装置140に格納された相関テーブルを参照し、縮小レンズ205と対物レンズ207(複数の電磁レンズ)を通過する電子ビームの焦点ずれが生じないように、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持するように、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量Δθを補正するように、ビーム像を回転させる静電レンズ212,214,216に印加する電圧の組を取得する。ここでは、対物レンズ207で合わせた焦点位置が変化しないように、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持するようにしながら、位置ずれ量Δθに合わせてビーム像を位置ずれ量Δθと同方向に回転させる3段の静電レンズ212,214,216の電圧の組を取得する。
【0055】
像回転及び描画工程(S106)として、静電レンズ212,214,216を用いて、縮小レンズ205と対物レンズ207を通過する電子ビームの焦点ずれが生じないように、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持するように、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量を補正するように、ビーム像を回転させると共に、描画部150は、ビーム像を回転させた状態でビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。具体的には、まず、描画の際、取得された静電レンズ212,214,216の電圧の組は制御回路112に出力される。そして、制御回路112は、アンプ120に静電レンズ212用の電圧信号を、アンプ122に静電レンズ214用の電圧信号を、アンプ124に静電レンズ216用の電圧信号を出力する。アンプ120は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ212に印加する。アンプ122は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ214に印加する。アンプ124は、電圧信号を受けて対応する電圧を静電レンズ216に印加する。また、制御回路112に制御された描画部150は、ビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。
【0056】
以上のように、実施の形態3によれば、ステージの回転位置がずれている場合でも、焦点位置をずらさず、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持しながら、所望する位置へとパターンを描画できる。よって、さらに高精度な描画を行うことができる。
【0057】
次に、静電レンズ212,214,216によって、描画中に、ダイナミックにマルチビーム20の焦点ずれを補正(ダイナミックフォーカス)する場合について説明する。
【0058】
図17は、実施の形態3における3段の静電レンズで電圧を可変にした際の像の回転変動と倍率変動の一例を示す図である。ここでは、例えば、静電レンズ212,214,216によってダイナミックフォーカスを行うことを前提に、ある焦点位置に変更した場合に、当該焦点位置に焦点が固定されるようにしながら、3段の静電レンズに印加する電圧の組を振った場合における、ビーム像の変動回転角とビーム像の倍率変動率と3段の静電レンズに印加する電圧の組との相関関係の一例を示している。
【0059】
図18は、実施の形態3における3段の静電レンズで電圧を可変にした際の像の回転変動と倍率変動の他の一例を示す図である。ここでは、例えば、静電レンズ212,214,216によってダイナミックフォーカスを行うことを前提に、焦点位置を振って、焦点位置毎に、当該焦点位置に焦点が固定されるようにしながら、3段の静電レンズに印加する電圧の組を振った場合における、ビーム像の変動回転角とビーム像の倍率変動率と3段の静電レンズに印加する電圧の組との相関関係が定義された相関テーブルの一例を示す。かかる相関テーブルは記憶装置140に記憶する。かかる相関関係は、予め、シミュレーション或いは実験等により求め、相関テーブルを作成しておき、記憶装置140に格納しておけばよい。
【0060】
Z測定工程(S103)において、高さ測定部54は、Zセンサを用いて、XYステージ105上の試料101の表面高さを測定する。
【0061】
電圧取得工程(S104)として、電圧取得部52は、記憶装置140に格納された相関テーブルを参照し、測定された試料101の表面高さに応じて電子ビームの焦点を動的に合わせながら、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持しながら、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量Δθを補正するように、ビーム像を回転させる静電レンズ212,214,216に印加する電圧の組を取得する。ここでは、対物レンズ207で合わせた焦点位置を動的に変化させながら、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持しながら、位置ずれ量Δθに合わせてビーム像を位置ずれ量Δθと同方向に回転させる3段の静電レンズ212,214,216の電圧の組を取得する。
【0062】
像回転及び描画工程(S106)として、静電レンズ212,214を用いて、測定された試料101の表面高さに応じて電子ビームの焦点を動的に合わせながら、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持しながら、かつ、測定されたXYステージ105の回転方向の位置ずれ量を補正するように、ビーム像を回転させると共に、描画部150は、ビーム像を回転させた状態でビーム像のパターンをXYステージ105上の試料101に描画する。
【0063】
図19は、実施の形態3における3段の静電レンズの効果の他の一例を説明するための概念図である。シングルビーム方式では、
図13(a)に示すように、照射エリアが1本のビームのショット図形11となるので、倍率変動が生じてもその位置誤差は小さくて済む。これに対して、マルチビーム方式では、
図13(b)に示すように、多数のビーム本数による多数のショット図形36が1回のショットで照射されるため、照射エリア10が大きい。よって、倍率変動が生じると照射エリア10全体の倍率が変動してしまうので、シングルビーム方式と同じ倍率変動が生じた場合に各ショット図形36の位置ずれ量も大きくなってしまう。よって、実施の形態3のように、3段の静電レンズを配置して、像の倍率変動を打ち消すことで、かかる位置ずれを抑制できる。特に、マルチビーム方式においてその効果が大きいものとなる。
【0064】
以上のように、実施の形態3によれば、ダイナミックフォーカスを行いながら、かつ、ビーム像の倍率を一定に維持しながら、ステージの回転位置がずれている場合でも所望する位置へとパターンを描画できる。よって、さらに高精度な描画を行うことができる。
【0065】
図20は、電磁レンズと静電レンズの配置関係を示す図である。上述した各実施の形態において、電磁レンズの組として、縮小レンズ205と対物レンズ207を示したが、これに限るものではない。電子ビームが通過する光学系内に配置され、磁場が逆方向となる電磁レンズ70,72の組であればよい。そして、かかる磁場が逆方向となる電磁レンズ70,72の磁場中に、それぞれ1つずつ、計2段の静電レンズ80,82、或いは、一方に2段、他方に1段の計3段の静電レンズ80,82,84を配置することで、上述した内容と同様の制御を行うことができる。
【0066】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述したラスタースキャン動作は一例であって、マルチビームを用いたラスタースキャン動作その他の動作方法であってもよい。また、上述した例では、マルチビーム描画装置を示したが、これに限るものではなく、磁場が逆方向となる電磁レンズの組が配置されていれば、シングルビームの描画装置であってもよい。同様の効果を発揮できる。
【0067】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0068】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置は、本発明の範囲に包含される。