(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体基板やフラットパネルディスプレイ(FPD)基板などの基板を加熱する技術として、高周波電力を印加した誘導コイルにより高周波の振動磁界を発生させ、この振動磁界内に配置した発熱体を誘導電流により発熱させ(電磁誘導加熱)、発熱体に載置または近接させた基板をこの発熱体からの伝熱により加熱する技術が知られている。この技術を、多数枚の基板の一括処理に適用するため、真空に保持された処理容器内に縦方向に多数の発熱体を棚状に配置して、真空容器の外部に設けた誘導コイルにより多数の発熱体を発熱させ、この多数の発熱体のそれぞれに対応して配置した多数枚の基板を加熱する熱処理装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には熱処理装置の一形態として、電磁誘導加熱を利用して多数枚の基板を加熱し、それぞれの基板に原料ガスを供給することにより基板表面に成膜する縦型の成膜装置が開示されている。この成膜装置は、処理容器内に複数枚の基板を保持する導電材料からなる保持治具を備える。この保持冶具が電磁誘導加熱における発熱体として機能し、処理容器外部の誘導コイルにより処理容器内に縦方向の振動磁界を発生させ、この保持治具を発熱させることにより保持された基板を加熱する構成となっている。そして、処理容器の片側に配置したガス導入口から原料ガスを基板に平行に流すことにより成膜処理を行う。
【0004】
しかし、この構成では、基板が大口径化するとこの基板を保持する保持冶具も大型になるため、処理容器外部の誘導コイルにより保持冶具を均一に発熱させることが難しく、保持冶具からの伝熱により加熱される基板は基板面内や面間の温度均一性を良好に維持することが困難になる。また、成膜処理の際に保持治具に付着した膜や反応生成物はいずれ剥離して発塵源となるため、定期的に保持冶具を処理容器から取り外し保持冶具に付着した付着物を除去する洗浄処理が必要となる。ところが、この構成では基板の大口径化にともない保持治具が大型になるため、処理容器への挿脱作業が困難になり、保持治具の洗浄処理時には洗浄液などのコストアップになってしまう。
【0005】
これに対し、特許文献2に開示された熱処理装置では、特許文献1と同様な縦型の成膜装置であるが、処理容器外部の誘導コイルにより発熱させる発熱体は一体構成ではなく、それぞれの基板に対応した複数の発熱体を備えており、この複数の発熱体を石英などの絶縁材料からなる保持治具に保持する構成になっている。この絶縁材料からなる保持治具には誘導電流が流れず発熱しないため、膜や反応生成物の付着が少ない。また、発熱体はそれぞれの基板に対応して個別化されているため、発熱体の保持冶具への着脱や発熱体の洗浄処理が容易である。基板はそれぞれに対応する発熱体からの伝熱により加熱されるため、発熱体の形状や発熱体と基板との距離を変えることにより基板面内の温度分布を調整することができる。また、この構成では保持治具は発熱体を保持した状態で回転するようになっており、大口径の基板における面内温度の均一性を得ることが容易となる。
【0006】
また、特許文献2と同様、それぞれの基板に対応した発熱体を保持治具に対して着脱可能に設け、かつ保持治具を回転可能とした技術として、特許文献3には、水平方向の振動磁界を発生する機構として、高周波電力を供給する電磁石を処理容器の外側に配置した構成、特許文献4には、誘導コイルを処理容器内部に配置して発熱体に近接させ、電磁誘導加熱の効率を向上させた構成が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。ここでは、処理容器の外側に電磁誘導源として螺旋状の誘導コイルを設けて処理容器内に縦方向の振動磁界を形成する熱処理装置の例について示す。
【0021】
図1は本発明の第1の実施形態に係る熱処理装置を示す縦断面図である。
図1に示すように、熱処理装置1は、下端が開放され、上端が閉じられた円筒状をなす縦型の処理容器22を有している。この処理容器22は、耐熱性を有し、振動磁界による磁束を透過する絶縁材料、例えば石英で構成されている。
【0022】
この処理容器22の内部には、その下方から、複数の発熱体Nを所定のピッチで縦方向に配置して、各発熱体Nの上に基板Sを載置した状態で基板Sを保持した基板保持体24が挿入可能となっている。各基板Sは主にその直下の発熱体Nにより加熱されるようになっている。この基板保持体24が挿入された際には、処理容器22の下端の開口部は、例えば石英やステンレス板よりなる蓋部26により塞がれて密閉されるようになっている。処理容器22の下端部と蓋部26との間には、気密性を維持するために例えばOリング等のシール部材28が介在される。この蓋部26および基板保持部材24の全体は、ボートエレベータのような昇降機構30に設けられたアーム32の先端に支持されており、基板保持体24および蓋部26を一体的に昇降できるように構成されている。
【0023】
基板保持体24は、下端の蓋部26に設けられた回転機構54により回転可能となっている。具体的には、回転機構54は、蓋部26の中央部より下方へ伸びる円筒状の固定スリーブ56を有しており、この固定スリーブ56内は処理容器22内に連通されている。この固定スリーブ56の外周には、軸受58を介して円筒状の回転部材60が回転可能に設けられており、この回転部材60には図示しない駆動源により走行駆動される駆動ベルト62が掛け渡されて、駆動ベルト62が駆動されることにより回転部材60が回転されるようになっている。
【0024】
また軸受58の下部において、固定スリーブ56と回転部材60との間には磁性流体シール59が設けられており、回転部材60が回転しても、処理容器22内の気密性を保持されるようになっている。
【0025】
固定スリーブ56内には、基板保持体24から下方に延びる回転軸64が挿通されている。
【0026】
回転部材60および回転軸64は、ベース板70に固定されており、図示しない駆動源により駆動ベルト62を介して回転部材60が回転されることにより、回転軸64を介して基板保持体24が回転される。
【0027】
処理容器22の下部には、この処理容器22内部へ成膜処理に必要な原料ガスなどのガスを導入するガス供給機構90が設けられている。ガス供給機構90は、処理容器22の外部から処理容器22の側壁を貫通してその内部に至る、例えば石英からなる第1のガスノズル92および第2のガスノズル94を有している。第1のガスノズル92および第2のガスノズル94には、それぞれガス供給配管96およびガス供給配管98が接続されており、これらには、それぞれ開閉弁96b、98bおよびマスフローコントローラのような流量制御器96a、98aが順次設けられており、成膜処理に必要な第1のガスおよび第2のガスをそれぞれ流量制御しつつ導入できるようになっている。成膜処理としてはSiO
2、SiN、TiN、Ru等のCVD、Ge、GaN等のエピタキシャル成長が例示される。
【0028】
処理容器22の下部側壁には、排気口100が設けられている。この排気口100には処理容器22内を排気する排気機構102が設けられている。排気機構102は、排気口100に接続された排気配管103と、排気通路103に介在された圧力制御弁104と、排気通路103に接続されて、排気通路103を介して処理容器22内を排気する排気ポンプ105とを有している。
【0029】
処理容器22の外側には、電磁誘導源である誘導コイル106が設けられている。誘導コイル106は、金属製パイプを処理容器22の外周に縦方向に沿って螺旋状に巻回してなっており、縦方向におけるその巻回領域は基板Sの収容領域よりも広くなっている。
【0030】
誘導コイル106は、金属製パイプを隙間を開けて巻回したものであっても、隙間を設けないで密に巻回したものであってもよい。誘導コイル106を構成する金属製パイプの材料としては銅を好適に用いることができる。
【0031】
そして、この誘導コイル106の上下の両端には、高周波電源110から延びる給電ライン108が接続されており、高周波電源110から誘導コイル106に高周波電力が印加されるようになっている。この給電ライン108の途中には、インピーダンス整合を行うマッチング回路112が設けられている。
【0032】
誘導コイル106に高周波電力を印加することにより、
図2に示すように、処理容器22の内部に縦方向の振動磁界Hが形成され、その振動磁界Hによって基板保持体24を構成する発熱体Nに誘導電流が流れて発熱体Nが発熱するようになっている。誘導コイル106に印加される高周波電力の周波数は、例えば1〜100kHzの範囲内、好ましくは10〜50kHzの範囲内に設定される。
【0033】
また誘導コイル106を構成する金属製パイプの両端には、冷媒流路114が接続されており、この冷媒流路114には冷却器116が接続され、冷却器116から冷媒流路114を介して誘導コイル106を構成する金属製パイプ内に冷媒を流して誘導コイル106を冷却するようになっている。冷媒としては、例えば冷却水を用いることができる。
【0034】
熱処理装置1における各構成部は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えた制御部150により制御されるようになっている。制御部150には、オペレータによる熱処理装置1を管理するためのコマンド入力等の入力操作を行うキーボードや、熱処理装置1の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース151が接続されている。さらに、制御部150には、熱処理装置1で実行される各種処理を制御部150の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて熱処理装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部152が接続されている。処理レシピは記憶部152の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、コンピュータに内蔵されたハードディスクや半導体メモリであってもよいし、CD−ROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース151からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部152から呼び出して制御部150に実行させることで、制御部150の制御下で、熱処理装置1での所望の処理が行われる。
【0035】
次に、基板保持体24について詳細に説明する。
基板保持体24は、水平姿勢の複数枚の発熱体Nを縦方向に配列し、その上下に断熱部材38、39を配置して、これら発熱体Nどうしの間、および発熱体Nと断熱部材38、39との間にスペーサ40を介在させた棚状の構造体を、その上方に配置された押圧部材41および下方に配置された支持部材42で挟んだ構成を有している。
【0036】
押圧部材41は、本体41aと、本体41aの中心から上方に延び、処理容器22の天壁22aの中心に回転可能に支持される軸部材41bと、軸部材41bに巻回され、本体41aを下方に付勢するコイルスプリング41cとを有し、コイルスプリング41cの付勢力により上部の断熱部材38を押圧するようになっている。軸部材41bは、処理容器22の天壁22aに着脱可能に設けられ、天壁22aに対し回転可能にかつ気密に装着されるようになっている。
【0037】
支持部材42は、下部の断熱部材39を支持し、その下面の中心には、回転軸64が固定されている。したがって、回転部材60が回転して回転軸64が回転されることにより、基板保持体24も回転されるようになっている。つまり、基板保持体24は、従来のような基板保持治具を用いずに発熱体Nとスペーサ40を組み合わせた自立的な回転構造体を構成している。
【0038】
発熱体Nは、基板Sの載置面を有する円板形状をなしており、振動磁界Hによって誘導電流が流れ、大きなジュール熱が発生し得る適切な比抵抗を有する導電材料で形成されている。また、発熱体Nを構成する材料は熱伝導率が大きい方が好ましい。熱伝導率を大きくすることにより発熱体Nの熱分布が平滑化され均熱性が良くなる。このような材料としては、例えばグラファイト、カーボンコンポジットや炭化珪素(SiC)などの炭素系材料があり、発熱体としてこれらを好適に用いることができる。
【0039】
スペーサ40は、
図3に示すように、円板形状の発熱体Nの外周に例えば3つ設けられている。これらの3つのスペーサ40は、矢印方向から基板Sが挿入可能なようにその間隔が調整されている。スペーサ40は、
図1に示すように、発熱体Nおよび上下の断熱部材38、39に形成された溝に嵌め込まれるようになっている。発熱体Nの厚さが薄い場合には、発熱体Nとスペーサ40の結合が困難になるが、その場合には、例えば
図4(a)に示すように、本体40aの上下に凹部40bと凸部40cを設けたスペーサを用い、
図4(b)に示すように、発熱体Nの内部でスペーサ40の凹部40bと凸部40cを結合するようにしてもよい。
【0040】
スペーサ40は、それ自身が電磁誘導加熱により発熱して高温になると、発熱体Nとの接続部がホットスポットになり、発熱体Nの均熱性を悪化させることがあるので、これを防ぐためにスペーサ40の材料として発熱し難い材料または形状を選択することが好ましい。スペーサ40を構成する材料が石英やアルミナなどの絶縁体であれば、誘導電流が流れないためスペーサ40自身は発熱せず、形状にかかわらずホットスポットは発生しない。また、スペーサ40を発熱体Nと同じ材料で形成しても、振動磁界Hによる磁束が鎖交する面積を小さくする形状にすることで、スペーサ40の発熱を抑制することができる。例えば、スペーサ40が円筒形状のような中空形状であれば、螺旋状の誘導コイル106により形成される縦方向の振動磁界Hによる磁束の鎖交面積は小さくなり、その分誘導起電力が減少するため、スペーサ40の発熱を抑制することができる。この場合スペーサ40の形状は円筒形状に限らず、多角形の断面を有する多角筒形状としてもよい。また、スペーサ40の形状を十字または米印の断面を有する柱形状にすることにより、磁束の鎖交面積をより小さくできるため、スペーサ40の発熱をより抑制することができる。また、スペーサ40は前記のように中空形状でなく、例えば円柱形状であっても、
図5に示すように、縦方向の振動磁界Hにより誘導電流は円柱側面を周回するように流れるので、円柱側面に誘導電流の経路を横切る縦スリット43を形成し誘導電流を流れ難くすることで、スペーサ40自身の発熱を抑制することができる。この場合はスペーサ40の形状は円柱形状に限らず、多角形の断面を有する多角柱形状としてもよい。
【0041】
発熱体Nには、図示しないフォークにより基板Sの受け渡しが可能なようにフォークが挿入可能な溝(図示せず)が設けられている。溝を設ける代わりに、発熱体Nの基板載置面に対し突没可能な基板昇降ピンを設けてもよい。
【0042】
電磁誘導加熱では、加熱効率は誘導コイルと発熱体との距離に大きく依存し、発熱体を誘導コイルに近接させることで加熱効率を高めることができる。ところが、従来のように保持治具に複数の発熱体を保持した構成の場合には、保持治具が処理容器内で大きな空間を占有することから、その分、発熱体を誘導コイルに近付けることができず、加熱効率を高くすることが困難であった。また、絶縁材料からなる保持治具は発熱せず、かつ保持した発熱体との熱的結合が大きいため、この構成では発熱体の実質的な熱容量が大幅に増加することになる。このため、発熱体の昇温速度が十分上がらず、基板の高速昇温ができなかった。また、成膜処理においては、保持冶具にも膜や反応生成物が付着し、それがいずれ発塵源となりうるため、保持治具も定期的に洗浄処理にて付着物を除去する必要がある。したがって、大口径の基板を保持する場合には、保持治具も大型となり、処理容器への挿脱作業が困難になり、保持治具の洗浄処理時には洗浄液などのコストアップになってしまう。
【0043】
これに対して、本実施形態では、保持治具は使用せず、複数の発熱体Nとスペーサ40とを組み立てブロックのように組み合わせて基板保持体24を構成する。このため、保持治具の占有空間は不要となり、その分、発熱体Nを誘導コイル106に近接させることができ、従来よりも加熱効率を格段に上げることができる。また、スペーサ40の熱容量は発熱体Nに対してほとんど無視できるため、この構成では基板保持体24の実質的な熱容量を最小にできる。このため、発熱体Nの昇温速度を十分上げることができ、基板Sの高速昇温が可能になる。
【0044】
また、保持治具を用いずに発熱体Nとスペーサ40とを組み合わせており、その他の部材も断熱部材38、39および押圧部材41、支持部材42だけであるため、これらの分解および組み立ては容易であり、洗浄処理もこれらを分解した状態で容易に行うことができる。このため、処理容器内部での発塵を抑制するためのメンテナンスに付随する作業やコストを格段に低減できる。
【0045】
一方、基板の大口径化にともない処理容器のサイズは大きくなり、処理容器が複数付属する(マルチチャンバ)構成の熱理装置ではその占有面積(フットプリント)が著しく増加して、装置の運用コストが上がってしまう。また、多数枚の基板を一括処理する縦型の熱処理装置では、処理容器のサイズが大きくなると、建屋への搬入や設置が困難になる場合がある。
【0046】
これに対して、本実施形態では、保持治具を用いない分、処理容器22の水平方向のサイズの縮小が可能となり、熱処理装置のフットプリントを低減することができる。また、縦方向に関しても、発熱体Nどうしの間隔を縮小することにより、一括処理枚数を減らさずに処理容器22のサイズを縮小することができる。ただし、成膜処理の場合は、発熱体Nどうしの間隔は、基板Sを載置し、かつ基板Sに原料ガスなどのガスを供給するための十分なコンダクタンスを確保する必要があるため、その縮小には自ずと限界があり、発熱体N自体の厚さを小さくすることが有効である。発熱体Nが薄い場合には、発熱体Nとスペーサ40の結合が困難になるが、その場合には、
図4に示すように、例えば、発熱体Nの内部でスペーサ40同士を結合するようにして基板保持体24を構成することができる。
【0047】
このように、本実施形態によれば処理容器の水平方向や縦方向のサイズの縮小が可能になり、この処理容器を有する熱処理装置が小型化することにより、装置の運用コスト、設置コストを低減することができる。
【0048】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
ここでは、処理容器の外側に電磁誘導源として複数の電磁石を設けて、処理容器の内部に水平方向の振動磁界を形成する熱処理装置の例について示す。
【0049】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に保持治具は使用せず、複数の発熱体とスペーサとを組み立てブロックのように組み合わせて基板保持体を構成し、処理容器の内部に複数の発熱体を縦方向に配置する。
【0050】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る熱処理装置を示す縦断面図である。
図6は電磁誘導源の構成が
図1と異なるのみであるから、
図1と同じものには同じ符号を付して説明を省略する。
【0051】
本実施形態では、処理容器22が角筒状であり、その相対向する側壁にそれぞれ設けられた一対の電磁石120,130により構成される電磁誘導源140が処理容器22の縦方向に沿って複数設けられている。本実施形態では4つの電磁誘導源を有する例を示している。
【0052】
各電磁誘導源140を構成する電磁石120,130はそれぞれ2つの磁極を有するU字状(コ字状)の磁芯122,132に誘導コイル124,134を巻回して構成される。各誘導コイル124,134には、高周波電源126,136から高周波電力が印加されるようになっている。
【0053】
具体的には、
図7に示すように、電磁石120の磁芯122は、2つの磁極127,128と、これらを繋ぐ中間部129とを一体で構成しており、誘導コイル124は中間部129に巻回されている。一方、電磁石130の磁芯132は、2つの磁極137,138と、これらを繋ぐ中間部139とを一体で構成しており、誘導コイル134は中間部139に巻回されている。電磁石120の磁極127,128および電磁石130の磁極137,138は、処理容器22に形成された孔に嵌装されており、電磁石120の2つの磁極面(磁極127,128の端面)127A,128A、および電磁石130の2つの磁極面(磁極138,137の端面)138A,137Aが対向するように配置されている。各磁芯122,132は、鉄損を抑えるため、フェライト系材料や圧粉磁芯材料で構成することが好ましい。
【0054】
各磁極面127A,128A,137A,138Aは、
図7に示すように、処理容器22の側壁に設けた開口部から処理容器22の内部に露出させてもよいが、各開口部に石英、アルミナなどの絶縁材料からなる窓(図示しない)を設け、その外側に配置した各磁極面127A,128A,137A,138Aからの磁束を処理容器22の内部に透過させてもよい。
【0055】
このような状態で高周波電源126,136から誘導コイル124,134に高周波電力を印加することにより、処理容器22の内部に水平方向の振動磁界が形成される。
【0056】
また、電磁石120,130からなる電磁誘導源140が処理容器22の縦方向に沿って複数設けられているので、各電磁誘導源140における電磁石120,130の誘導コイル124,134に供給する高周波電流の大きさを個別に制御することにより各電磁誘導源140に対応する発熱体Nの発熱量を個別に制御することができる。このため、縦方向に配置した発熱体Nの間の発熱量分布を調整でき、基板Sの面間温度均一性を良好に保つことができる。
【0057】
本実施形態においても、スペーサ40は、それ自身が電磁誘導加熱により発熱して高温になると、発熱体Nとの接続部がホットスポットになり、発熱体Nの均熱性を悪化させることがあるので、これを防ぐためにスペーサ40の材料として発熱し難い材料または形状を選択することが好ましい。本実施形態のように水平方向の振動磁界であっても、この磁界による磁束が鎖交する面瀬を小さくするように、磁極面に対向する面の横幅を狭くした矩形体(直方体)形状のスペーサであれば、発熱を抑制することができる。また、スペーサ40が一般的な円柱形状の場合では、
図8に示すように、水平方向の振動磁界Hにより誘導電流は円柱側面をループ状に流れるので、この誘導電流の経路を横切るよう円柱側面を周回する横スリット44を形成し、誘導電流を流れ難くすることで、スペーサ40自身の発熱を抑制することができる。
【0058】
本実施形態の場合にも、第1の実施形態と同様、保持治具は使用せず、複数の発熱体Nとスペーサ40とを組み立てブロックのように組み合わせて基板保持体24を構成するので、保持治具の占有空間は不要となり、処理容器22の水平方向のサイズの縮小が可能となる。また、成膜処理の場合は、前記のように発熱体Nどうしの間隔を縮小することには限界があるため、発熱体Nを薄くすることにより処理容器22の縦方向のサイズを縮小することになる。
【0059】
しかし、本実施形態のように、水平方向の振動磁界内に複数の発熱体を縦方向に配置する場合には、炭素系材料のような非磁性材料で構成されている発熱体Nを薄くすると、水平方向の振動磁界による磁束が鎖交する面積が減少するため、発熱体Nに誘起される誘導起電力が減少し、その分発熱量が減少する。また、発熱体Nを薄くすることにより誘導電流が流れる経路が制限され、発熱量が更に減少するため、加熱効率は著しく低下する。
【0060】
このような問題を解消するためには、発熱体Nとして、炭素系材料のような非磁性材料からなる本体の適切な位置に強磁性材料からなる磁性体部を設けたものを用いることが好ましい。この磁性体部では振動磁界により誘起される誘導起電力は強磁性材料の透磁率に比例して上昇するため、誘導電流による発熱量を格段に増加させることができる。
【0061】
磁性体部は鉄系やコバルト系の強磁性材料により構成され、加熱効率の面では透磁率の高い鉄系磁性材料が好ましく、また加熱温度の面ではキュリー温度が高いコバルト系磁性材料が好ましい。鉄系磁性材料であれば10〜50kHzの振動磁界内に置かれた場合の透磁率が100〜200であるため、この透磁率に比例して磁性体部で誘起される誘導起電力が上昇する。また、透磁率が高いほど誘導電流は磁性体部の表面を流れ易くなるため、磁性体部を薄くしても誘導電流が制限されることがない。このため、鉄系磁性材料からなる磁性体部を100μm程度まで薄化しても十分高い加熱効率が得られる。
図9は、誘導コイルに50kHzの高周波電力を印加して水平方向の振動磁界を形成し、グラファイトリングと普通鋼からなるFeリングを電磁誘導加熱した場合の温度上昇曲線を示す図である。両者の熱容量をほぼ同じにするため、グラファイトリングは厚さ15mm、Feリングは厚さ3mmとした。Feリングはグラファイトリングに比べて厚さが1/5になっているにもかかわらず、極めて高い加熱効率が得られることが分かる。また、
図10は誘導コイルに50kHzの高周波電力を印加して水平方向の振動磁界を形成し、ペレット形状をした各種の鉄系磁性材料を電磁誘導加熱した場合の温度上昇曲線を示す図であるが、加熱効率は純鉄が最も高いことがわかる。このため、発熱体Nの磁性体部を構成する鉄系磁性材料としては、純鉄を用いることが最も好ましい。また、この磁性体部は厚さ100μm程度の純鉄からなる薄板とすることができる。
【0062】
ただし、発熱体から鉄系磁性材料が露出した状態で、基板を発熱体に載置し、真空に保持された処理容器22の内部で基板を加熱する場合には、基板への鉄コンタミネーションが懸念されるため、発熱体から鉄系磁性材料が露出しないようにする必要がある。このため、
図11(a),(b)に示すように、発熱体Nとして、炭素系材料などの非磁性材料からなる本体161に溝162を設け、その溝162に鉄系磁性材料の薄板163を挿入した後、溝162を封止部材164により封止することが好ましい。
【0063】
この場合には、鉄系磁性材料の薄板163を所定の形状(本例の場合は円弧状)に作成し、本体161の溝162を薄板163に合わせた形状で形成し、溝162に薄板163を挿入するだけで、両者は密着されていないため、両者の間の滑りが許容され、両者の熱膨張の差によるストレス変形を防止することができる。また、溝162を封止部材164により封止することにより、薄板163から基板への鉄コンタミネーションが防止される。
【0064】
溝162の封止方法としては、炭素材用接着剤を用いた焼成炭化法を採用することが好ましい。この場合、炭素繊維や炭素質フィラーからなる基材に、熱硬化樹脂としてフェノール樹脂を含浸しシート状にして、シート状接着剤を形成する。本体161の溝162に薄板163を挿入した後、シート状接着剤を半硬化状体で溝162の入り口部分に充填する。この後、1000℃以上の温度で、かつ鉄系磁性材料の融点(1500℃程度)より低い温度にて焼成し、接着剤中の不純物を揮発させて炭化させ、溝162の入り口部分を封止する(封止部材164)。これにより純度の高い炭素材による封止が完成する。
【0065】
なお、本実施形態においては、発熱体の本体を構成する材料は必ずしも炭素系材料のような導電材料である必要はない。発熱体の本体を窒化アルミニウム(AlN)などの熱伝導率の高い材料で構成し、この本体に強磁性材料からなる磁性体部を設けることによって、磁性体部にて発熱した熱が速やかに発熱体全体に伝導し、発熱体は十分な均熱性を得ることがきる。この場合においても前記の焼成炭化法により封止することができるが、セラミックス系の無機接着剤を前記溝162の入り口部分に充填し、加熱硬化させ封止する方法を用いてもよい。また、ガラス材を流動温度まで加熱し、前記溝162の入り口部分にガラス材を溶着するガラス溶着法にて封止してもよい。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内で種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、基板を発熱体に載置した例を示したが、基板を発熱体から離隔させてもよい。また、熱処理としては、成膜処理を挙げたが、その他、酸化処理、アニール処理、拡散処理等、基板の加熱をともなう処理であれば本発明の熱処理に含まれる。また、本発明の熱処理においては、ガスの供給は必須ではない。さらに、上記実施形態では、電磁誘導源である誘導コイルや電磁石を、処理容器の外側に設けた例を示したが、これらを処理容器の内部に設けてもよい。さらにまた、基板についても、処理に応じて半導体基板、サファイア基板、ZnO基板、ガラス基板等種々のものを用いることができ、特に限定されるものではない。