【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
ポリエチレングリコールとシクロデキストリンとを水性媒体中で混合し、シクロデキストリン分子の開口部に前記
ポリエチレングリコールが串刺し状に包接された擬ポリロタキサン粒子を含有する擬ポリロタキサン水性分散体を得る包接工程と、前記包接工程で得られた擬ポリロタキサン水性分散体を乾燥して擬ポリロタキサンを得る乾燥工程とを有する擬ポリロタキサンの製造方法であって、
前記ポリエチレングリコールは、両末端に、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を有し、前記ポリエチレングリコールと前記シクロデキストリンとの重量比が1:2〜1:5であり、前記乾燥工程において、擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧し、加熱した気流中で乾燥
し、前記乾燥工程における気流の温度が70〜200℃である擬ポリロタキサンの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、乾燥工程において、擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧し、加熱した気流中で乾燥する方法を用いれば、高い包接率を有する粉末状擬ポリロタキサンを工業的に有利な方法で製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、PEGとシクロデキストリンとを水性媒体中で混合し、シクロデキストリン分子の開口部に前記PEGが串刺し状に包接された擬ポリロタキサン粒子を含有する水性分散体を得る包接工程を有する。
【0011】
前記PEGの重量平均分子量は1000〜50万であることが好ましく、1万〜30万であることがより好ましく、1万〜10万であることがさらに好ましい。前記PEGの重量平均分子量が1000未満であると、得られる架橋ポリロタキサンが特性の低いものとなることがある。前記PEGの重量平均分子量が50万を超えると、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低く、乾燥工程において噴霧できない場合がある。
なお、本明細書において、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリエチレングリコール換算により求められる値である。GPCによってポリエチレングリコール換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、TSKgel SuperAWM−H(東ソー社製)等が挙げられる。
【0012】
前記PEGは、好ましくは、両末端に反応性基を有する。前記PEGの両末端は、従来公知の方法により反応性基を導入することが出来る。
前記PEGの両末端に有する反応性基は、採用する封鎖基の種類により適宜変更することができ、特に限定されないが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などが挙げられ、とりわけ、カルボキシル基が好ましい。前記PEGの両末端にカルボキシル基を導入する方法としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)と次亜塩素酸ナトリウムとを用いてPEGの両末端を酸化させる方法等が挙げられる。
【0013】
前記包接工程において、PEGとシクロデキストリンとの重量比は1:2〜1:5であることが好ましく、1:2.5〜1:4.5であることがより好ましく、1:3〜1:4であることがさらに好ましい。シクロデキストリンの重量がPEGの重量の2倍未満であると、PEGを包接するシクロデキストリンの個数(包接量)が低下する場合がある。シクロデキストリンの重量がPEGの重量の5倍を超えても、包接量は増加せず経済的でない。
【0014】
前記シクロデキストリンとしては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。とりわけ、包接性の観点より、α−シクロデキストリンが好ましい。これらのシクロデキストリンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
前記水性媒体としては、例えば、水、水とDMF、DMSOなどの水性有機溶媒との水性混合物などが挙げられ、とりわけ水が好ましく用いられる。
【0016】
包接工程におけるPEGとシクロデキストリンとの混合条件としては、両者を前記水性媒体中に添加して混合すればよいが、PEGとシクロデキストリンとを水性媒体に溶解させることが好ましい。具体的には、通常50〜100℃、好ましくは60〜90℃、より好ましくは70〜80℃に加熱、溶解することによりほぼ透明な混合溶液を得ることが出来る。
【0017】
PEGとシクロデキストリンとの混合溶液を冷却することにより、PEGとシクロデキストリンからなる擬ポリロタキサン粒子が析出し、概ね白色状の擬ポリロタキサン水性分散体が得られる。
【0018】
前記混合溶液を冷却する際に、混合溶液を流動させながら連続的または断続的に冷却し、擬ポリロタキサン粒子を析出させることにより、流動性がよく、経時的に流動性が低下しない擬ポリロタキサン水性分散体を得ることができるため、乾燥工程において擬ポリロタキサン水性分散体を容易に噴霧することが出来る。
なお、前記混合溶液を冷却する際に、静置下で冷却して擬ポリロタキサン粒子を析出させた場合には、極めて流動性の低いペースト状やクリーム状、または流動性のないゲル状の擬ポリロタキサン水性分散体が得られる。ペースト状やクリーム状で得られた擬ポリロタキサン水性分散体であっても経時的に流動性を失うため、乾燥工程において噴霧する前に適当な条件下で攪拌、混合するなどにより、流動性を付与しておくことが好ましい。
【0019】
前記混合溶液を冷却する際、冷却後の到達温度は、0〜30℃であることが好ましく、1〜20℃であることがより好ましく、1〜15℃であることがさらに好ましい。0℃未満まで冷却した場合、凍結などにより得られる擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下することがある。30℃を超える場合、擬ポリロタキサン粒子が充分に析出しないことがある。
【0020】
前記混合溶液を冷却する際の冷却速度は、0.01〜30℃/分であることが好ましく、0.05〜20℃/分であることがより好ましく、0.05〜10℃/分であることがさらに好ましい。前記混合溶液を冷却する際の冷却速度が0.01℃/分未満であると、析出する擬ポリロタキサン粒子が微細となりすぎるため、得られる擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下する場合がある。前記混合溶液を冷却する際の冷却速度が30℃/分を超えると、擬ポリロタキサン粒子が大きくなるため分散安定性が低下し、沈降分離する場合がある。
【0021】
上述したように、擬ポリロタキサン粒子をより完全に析出させるため、断続的に冷却することも可能であり、また、冷却の過程で冷却速度や前記混合溶液の流動状態を変化させることも可能である。
【0022】
前記混合溶液を冷却し、所望の温度に到達した後、得られた擬ポリロタキサン水性分散体の流動状態を保持する時間は、通常数秒〜1週間、好ましくは数時間〜3日である。
【0023】
前記混合溶液を冷却する際に、混合溶液を流動させる方法としては、攪拌翼による攪拌、超音波照射など従来公知の方法を使用することができる。
混合溶液を流動させる程度は特に限定されず、緩やかな攪拌により混合溶液が僅かに流動する程度からホモジナイザー等での強攪拌による激しい流動状態まで任意に選択することが出来るが、過小な流動状態では析出する擬ポリロタキサン粒子が大きくなるため分散安定性が低下し、沈降分離する場合があり、過大な流動状態では析出する擬ポリロタキサン粒子が微細となりすぎるため得られる擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下する場合がある。
一方、混合溶液を流動させない状態で冷却した場合、極めて流動性が低いか流動性のないゲル状の擬ポリロタキサン水性分散体となる。
【0024】
擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径は、冷却速度、冷却後の到達温度、冷却する際の混合溶液の流動状態などにより変化するが、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性、分散安定性の観点より、1〜200μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましく、1〜50μmであることがさらに好ましい。擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径が1μm未満であると、分散体の流動性が低下するか流動性を示さない場合がある。擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径が200μmを超えると、擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子が沈降分離することがある。
なお、本明細書において前記擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により分析することが出来る。
【0025】
擬ポリロタキサン水性分散体に占める擬ポリロタキサンの濃度(以下、固形分濃度という)は、5〜25wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましく、10〜20wt%であることがさらに好ましい。前記擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度が5wt%未満であると、経済的でない。前記擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度が25wt%を超えると、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下するため、乾燥工程において噴霧することが難しくなる場合がある。
【0026】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、前記包接工程で得られた擬ポリロタキサン水性分散体を乾燥して擬ポリロタキサンを得る乾燥工程を有する。本発明の擬ポリロタキサンの製造方法によれば、当該乾燥工程により、粉末状の擬ポリロタキサンを得ることができる。
前記乾燥工程では、擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧し、加熱した気流中で乾燥する。
【0027】
前記乾燥工程において、擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧する方法としては、例えば、圧力ノズル、二流体ノズル、四流体ノズル、超音波ノズルなどを用いるノズル法や、回転ディスク法などが挙げられる。
【0028】
前記ノズル法は、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が高い場合に好適に用いることができる。
前記ノズル法に用いられる装置としては、例えば、ノズルアトマイザー式噴霧乾燥装置などが挙げられる。前記ノズルアトマイザー式噴霧乾燥装置では、熱風の吹き出し方向に対向して擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧する並向流式、熱風の吹出し方向と同一方向に擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧する並流式に大別され、並向流式では噴霧した擬ポリロタキサン水性分散体の滞留時間を長く、並流式では噴霧した擬ポリロタキサン水性分散体の滞留時間を短くすることが出来る。ノズルアトマイザー式噴霧乾燥装置では、ノズル径を変化させるなどにより、噴霧する液滴径を調整し、得られる擬ポリロタキサンの粒子径を任意に調整することが出来る。
【0029】
前記回転ディスク法は、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低かったり、擬ポリロタキサン水性分散体中の擬ポリロタキサン粒子が比較的大きかったりする場合に好適に用いることができる。
前記回転ディスク法に用いられる装置としては、例えば、ロータリーアトマイザー式噴霧乾燥装置が挙げられる。前記ロータリーアトマイザー式噴霧乾燥装置では、ディスクの回転数を変化させることにより、噴霧する液滴径を調整し、得られる粉末状擬ポリロタキサンの粒子径を任意に調整することが出来る。
【0030】
前記乾燥工程において、気流には空気、または窒素などのガスを使用することが出来る。
前記乾燥工程における気流の温度は70〜200℃であることが好ましく、70〜180℃であることがより好ましく、70〜170℃であることがさらに好ましい。前記乾燥工程における気流の温度が70℃未満であると、乾燥が不充分となる場合がある。前記乾燥工程における気流の温度が200℃を超えると、擬ポリロタキサンが分解し、包接率が低下するおそれがある。
【0031】
前記乾燥工程における系の圧力は特に限定されないが、通常、大気圧に近い圧力で乾燥を行う。また、減圧下で乾燥することも可能であり、大気圧以下の圧力で乾燥を行うことが好ましい。
【0032】
噴霧した擬ポリロタキサン水性分散体の滞留時間は、通常数秒から数分であり、シクロデキストリンの遊離を抑制するため、3分以下であることが好ましく、2分以下であることがより好ましい。また、噴霧した擬ポリロタキサン水性分散体の滞留時間が短すぎると、乾燥が不充分となる。
【0033】
擬ポリロタキサン水性分散体を噴霧する際の液滴の直径は、1〜2000μmであることが好ましく、5〜500μmであることがより好ましい。上記液滴の直径が1μm未満であると、気流との同伴により乾燥収率が低下する場合がある。上記液滴の直径が2000μmを超えると、全液滴の総表面積が小さくなり、乾燥速度が遅くなることがある。
【0034】
得られる粉末状擬ポリロタキサンや架橋ポリロタキサンの用途、使用目的によるが、本発明によれば、当該粉末状擬ポリロタキサンの包接率を6〜60%とすることができる。前記包接率が6%未満であると、滑車効果が発現しないことがある。前記包接率が60%を超えると、環状分子であるシクロデキストリンが密に配置され過ぎてシクロデキストリンの可動性が低下することがある。シクロデキストリンが適度な可動性を有し、より高い包接率とするためには、包接率は15〜40%が好ましく、20〜30%がより好ましい。
なお、本明細書において前記包接率とは、PEGへのシクロデキストリンの最大包接量に対するPEGを包接しているシクロデキストリンの包接量の割合であり、PEGとシクロデキストリンの混合比、水性媒体の種類などを変化させることにより、任意に調整することが出来る。また、前記最大包接量とは、PEG鎖の繰り返し単位2つに対し、シクロデキストリンが1つ包接された最密包接状態とした場合のシクロデキストリンの個数をいう。
【0035】
前記包接率は、
1H−NMRにより測定することが出来るが、得られた粉末状擬ポリロタキサンを溶解させ分析した場合、シクロデキストリンが遊離し正確な包接率を得ることが出来ないため、通常、シクロデキストリンが遊離しないように当該擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入したポリロタキサンに変性した後、分析され、得られた包接率は、作製した粉末状擬ポリロタキサンの包接率とみなすことが出来る。具体的には、包接率は、DMSO−d
6に擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入したポリロタキサンを溶解し、NMR測定装置(VARIAN Mercury−400BB)により測定し、4〜6ppmのシクロデキストリン由来の積分値と3〜4ppmのシクロデキストリン及びPEGの積分値の比較で算出することができる。
【0036】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法により得られる粉末状擬ポリロタキサンの体積平均粒子径は1〜300μmであることが好ましく、5〜70μmであることがより好ましく、5〜50μmであることがさらに好ましい。得られる粉末状擬ポリロタキサンの体積平均粒子径が1μm未満であると、気流との同伴により乾燥収率が低下する場合がある。得られる粉末状擬ポリロタキサンの体積平均粒子径が300μmを超えると、乾燥装置内に付着が生じるおそれがある。
【0037】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法により得られる粉末状擬ポリロタキサンの含水率は、10wt%以下であることが好ましく、7wt%以下であることがより好ましく、5wt%以下であることがさらに好ましい。得られる粉末状擬ポリロタキサンの含水率が10wt%を超えると、シクロデキストリンが遊離しないように擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入する反応において、反応系中の水分が多くなるため、反応が進行しないか、または封鎖基の導入率が低下する場合がある。