特許第6013190号(P6013190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013190
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】擬ポリロタキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/16 20060101AFI20161011BHJP
   C08G 65/06 20060101ALI20161011BHJP
   C08G 83/00 20060101ALI20161011BHJP
   C08J 3/14 20060101ALI20161011BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C08B37/16
   C08G65/06
   C08G83/00
   C08J3/14
   C08J3/16
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-548735(P2012-548735)
(86)(22)【出願日】2011年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2011078018
(87)【国際公開番号】WO2012081430
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-280265(P2010-280265)
(32)【優先日】2010年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智朗
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】濱本 茂生
(72)【発明者】
【氏名】趙 長明
【審査官】 井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−272664(JP,A)
【文献】 特開2006−316089(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/080469(JP,A1)
【文献】 特表2002−508401(JP,A)
【文献】 特開平03−237103(JP,A)
【文献】 特開2007−063412(JP,A)
【文献】 化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典2」,共立出版株式会社,1960年,初版,658〜659頁,「乾燥装置」の項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/
C08G 65/
C08G 83/
C08J 3/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールとシクロデキストリンとを水性媒体中で混合し、シクロデキストリン分子の開口部に前記ポリエチレングリコールが串刺し状に包接された擬ポリロタキサン粒子を含有する擬ポリロタキサン水性分散体を得る包接工程と、前記包接工程で得られた擬ポリロタキサン水性分散体を乾燥して擬ポリロタキサンを得る乾燥工程とを有する擬ポリロタキサンの製造方法であって、
前記ポリエチレングリコールは、両末端に、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を有し、
前記ポリエチレングリコールと前記シクロデキストリンとの重量比が1:2〜1:5であり、
前記乾燥工程において、擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状にして乾燥し、
前記乾燥工程における乾燥温度が70〜200℃である
ことを特徴とする擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項2】
ポリエチレングリコールの重量平均分子量が1000〜50万である請求項1記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項3】
包接工程において、ポリエチレングリコールとシクロデキストリンとを、水性媒体中に溶解して混合溶液を調製した後、前記混合溶液を流動させながら連続的または断続的に冷却し、擬ポリロタキサン粒子を析出させることにより、擬ポリロタキサン水性分散体を得る請求項1または2記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項4】
冷却速度が0.01〜30℃/分である請求項記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項5】
擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度が5〜25wt%である請求項1、2、3または4記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項6】
擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径が1〜200μmである請求項記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項7】
乾燥工程における系の圧力が大気圧以下である請求項1、2、3、4、5または6記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項8】
乾燥工程における乾燥時間が10分以下である請求項1、2、3、4、5、6または7記載の擬ポリロタキサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬ポリロタキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリロタキサンは、擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入したポリロタキサンを複数架橋することで得られる。例えば、擬ポリロタキサンが、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」ともいう)と該PEGを包接するシクロデキストリンとからなる場合、得られる架橋ポリロタキサンは、PEGの直鎖分子上に串刺し状に貫通されているシクロデキストリンが、当該直鎖分子に沿って移動可能(滑車効果)なために、張力が加わっても滑車効果によりその張力を均一に分散させることができる。そのため、架橋ポリロタキサンは、クラックや傷が生じにくいなど、従来の架橋ポリマーにない優れた特性を有する。
【0003】
架橋ポリロタキサンの製造に用いられる擬ポリロタキサンは、通常、PEGとシクロデキストリンとを水性媒体中で混合することにより生成するため、水性分散体として得られる。効率よく、しかも化学的に安定な結合により擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入してポリロタキサンを得るには、PEGの両末端を−COOH基とし、封鎖基を該−COOH基と反応する基、例えば−NH基、−OH基などとして反応させることが有効である。
しかしながら、このような擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入する反応においては系内の水分が反応を失活させるため、反応を効率よく進行させるには、反応系中に水が存在しないかまたは水分量を極めて微量に制御する必要があり、擬ポリロタキサンの水性分散体を遠心分離、濾過などにより固液分離した後、または水性分散体をそのまま乾燥し、充分に水を除去する必要があった。
【0004】
特許文献1には、PEG/α−シクロデキストリン包接化合物(擬ポリロタキサン)の沈殿を水中に懸濁し、70℃以上の温度に加熱すると、包接力が弱まりシクロデキストリンが遊離することが開示されている。そのため、擬ポリロタキサンの水分散体を70℃以上の温度で乾燥させることは、包接率の低下を招く可能性があった。包接率が低下すると、架橋ポリロタキサンの滑車効果が損なわれ、所望の特性が得られなくなるため、従来、擬ポリロタキサン水性分散体の乾燥には、主に凍結乾燥法や70℃以下での減圧乾燥が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献2には、擬ポリロタキサン水性分散体をアセトンの中で沈殿させ、ろ別した後、室温で真空乾燥する方法が開示されている。しかしながら、アセトンによる媒体置換とろ別では擬ポリロタキサン中の水を充分に除去することができないため、室温下での乾燥では水分が残留し、擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入する反応を阻害するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−237103号公報
【特許文献2】特開2005−272664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来公知の乾燥方法では分散媒である水の沸点以下での乾燥となるため、非常に長い乾燥時間を要するだけでなく、凍結乾燥方式においては大きな設備コスト、ランニングコストが掛かる。
また、70℃以下の乾燥温度であっても含水状態で長時間加熱するとシクロデキストリンが遊離してしまうという問題があった。
本発明の目的は、上記の課題を解決し、高い包接率を有する乾燥擬ポリロタキサンを工業的に有利な方法で製造することができる擬ポリロタキサンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリエチレングリコールとシクロデキストリンとを水性媒体中で混合し、シクロデキストリン分子の開口部に前記ポリエチレングリコールが串刺し状に包接された擬ポリロタキサン粒子を含有する擬ポリロタキサン水性分散体を得る包接工程と、前記包接工程で得られた擬ポリロタキサン水性分散体を乾燥して擬ポリロタキサンを得る乾燥工程とを有する擬ポリロタキサンの製造方法であって、前記ポリエチレングリコールは、両末端に、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を有し、前記ポリエチレングリコールと前記シクロデキストリンとの重量比が1:2〜1:5であり、前記乾燥工程において、擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状にして乾燥し、前記乾燥工程における乾燥温度が70〜200℃である擬ポリロタキサンの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、乾燥工程において、擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状にして乾燥する方法を用いれば、工業的に有利に高い包接率を有する乾燥擬ポリロタキサンを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、PEGとシクロデキストリンとを水性媒体中で混合し、シクロデキストリン分子の開口部に前記PEGが串刺し状に包接された擬ポリロタキサン粒子を含有する水性分散体を得る包接工程を有する。
【0011】
前記PEGの重量平均分子量は1000〜50万であることが好ましく、1万〜30万であることがより好ましく、1万〜10万であることがさらに好ましい。前記PEGの重量平均分子量が1000未満であると、得られる架橋ポリロタキサンが特性の低いものとなることがある。前記PEGの重量平均分子量が50万を超えると、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低く、乾燥工程において薄膜状にすることが困難となる場合がある。
なお、本明細書において、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリエチレングリコール換算により求められる値である。GPCによってポリエチレングリコール換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、TSKgel SuperAWM−H(東ソー社製)等が挙げられる。
【0012】
前記PEGは、好ましくは、両末端に反応性基を有する。前記PEGの両末端は、従来公知の方法により反応性基を導入することが出来る。
前記PEGの両末端に有する反応性基は、採用する封鎖基の種類により適宜変更することができ、特に限定されないが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などが挙げられ、とりわけ、カルボキシル基が好ましい。前記PEGの両末端にカルボキシル基を導入する方法としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)と次亜塩素酸ナトリウムとを用いてPEGの両末端を酸化させる方法等が挙げられる。
【0013】
前記包接工程において、PEGとシクロデキストリンとの重量比は1:2〜1:5であることが好ましく、1:2.5〜1:4.5であることがより好ましく、1:3〜1:4であることがさらに好ましい。シクロデキストリンの重量がPEGの重量の2倍未満であると、PEGを包接するシクロデキストリンの個数(包接量)が低下する場合がある。シクロデキストリンの重量がPEGの重量の5倍を超えても、包接量は増加せず経済的でない。
【0014】
前記シクロデキストリンとしては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。とりわけ、包接性の観点より、α−シクロデキストリンが好ましい。これらのシクロデキストリンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
前記水性媒体としては、例えば、水、水とDMF、DMSOなどの水性有機溶媒との水性混合物などが挙げられ、とりわけ水が好ましく用いられる。
【0016】
包接工程におけるPEGとシクロデキストリンとの混合条件としては、両者を前記水性媒体中に添加して混合すればよいが、PEGとシクロデキストリンとを水性媒体に溶解させることが好ましい。具体的には、通常50〜100℃、好ましくは60〜90℃、より好ましくは70〜80℃に加熱、溶解することによりほぼ透明な混合溶液を得ることが出来る。
【0017】
PEGとシクロデキストリンとの混合溶液を冷却することにより、PEGとシクロデキストリンからなる擬ポリロタキサン粒子が析出し、概ね白色状の擬ポリロタキサン水性分散体が得られる。
【0018】
前記混合溶液を冷却する際に、混合溶液を流動させながら連続的または断続的に冷却し、擬ポリロタキサン粒子を析出させることにより、流動性がよく、経時的に流動性が低下しない擬ポリロタキサン水性分散体を得ることができるため、乾燥工程において擬ポリロタキサン水性分散体を容易に薄膜状にすることが出来る。
なお、前記混合溶液を冷却する際に、静置下で冷却して擬ポリロタキサン粒子を析出させた場合には、極めて流動性の低いペースト状やクリーム状、または流動性のないゲル状の擬ポリロタキサン水性分散体が得られる。ペースト状やクリーム状で得られた擬ポリロタキサン水性分散体であっても経時的に流動性を失うため、乾燥工程の前に適当な条件下で攪拌、混合するなどにより、流動性を付与しておくことが好ましい。
【0019】
前記混合溶液を冷却する際、冷却後の到達温度は、0〜30℃であることが好ましく、1〜20℃であることがより好ましく、1〜15℃であることがさらに好ましい。0℃未満まで冷却した場合、凍結などにより得られる擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下することがある。30℃を超える場合、擬ポリロタキサン粒子が充分に析出しないことがある。
【0020】
前記混合溶液を冷却する際の冷却速度は、0.01〜30℃/分であることが好ましく、0.05〜20℃/分であることがより好ましく、0.05〜10℃/分であることがさらに好ましい。前記混合溶液を冷却する際の冷却速度が0.01℃/分未満であると、析出する擬ポリロタキサン粒子が微細となりすぎるため、得られる擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下する場合がある。前記混合溶液を冷却する際の冷却速度が30℃/分を超えると、擬ポリロタキサン粒子が大きくなるため分散安定性が低下し、沈降分離する場合がある。
【0021】
上述したように、擬ポリロタキサン粒子をより完全に析出させるため、断続的に冷却することも可能であり、また、冷却の過程で冷却速度や前記混合溶液の流動状態を変化させることも可能である。
【0022】
前記混合溶液を冷却し、所望の温度に到達した後、得られた擬ポリロタキサン水性分散体の流動状態を保持する時間は、通常数秒〜1週間、好ましくは数時間〜3日である。
【0023】
前記混合溶液を冷却する際に、混合溶液を流動させる方法としては、攪拌翼による攪拌、超音波照射など従来公知の方法を使用することができる。
混合溶液を流動させる程度は特に限定されず、緩やかな攪拌により混合溶液が僅かに流動する程度からホモジナイザー等での強攪拌による激しい流動状態まで任意に選択することが出来るが、過小な流動状態では析出する擬ポリロタキサン粒子が大きくなるため分散安定性が低下し、沈降分離する場合があり、過大な流動状態では析出する擬ポリロタキサン粒子が微細となりすぎるため得られる擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下する場合がある。
一方、混合溶液を流動させない状態で冷却した場合、極めて流動性が低いか流動性のないゲル状の擬ポリロタキサン水性分散体となる。
【0024】
擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径は、冷却速度、冷却後の到達温度、冷却する際の混合溶液の流動状態などにより変化するが、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性、分散安定性の観点より、1〜200μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましく、1〜50μmであることがさらに好ましい。擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径が1μm未満であると、分散体の流動性が低下するか流動性を示さない場合がある。擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径が200μmを超えると、擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子が沈降分離することがある。
なお、本明細書において前記擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により分析することが出来る。
【0025】
擬ポリロタキサン水性分散体に占める擬ポリロタキサンの濃度(以下、固形分濃度という)は、5〜25wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましく、10〜20wt%であることがさらに好ましい。前記擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度が5wt%未満であると、経済的でない。前記擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度が25wt%を超えると、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が低下するため、乾燥工程において薄膜状にすることが難しくなる場合がある。
【0026】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法は、前記包接工程で得られた擬ポリロタキサン水性分散体を乾燥して擬ポリロタキサンを得る乾燥工程を有する。
前記乾燥工程では、擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状にして乾燥する。
【0027】
擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状にする方法としては、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法などの方法を用いることができる。
【0028】
擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状とする際の膜厚は、0.1〜2mmであることが好ましく、0.1〜1mmであることがより好ましく、0.1〜0.5mmであることがさらに好ましい。擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状とする際の膜厚が0.1mmより薄い場合、時間当たりの収量が低くなるため経済的でない。擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状とする際の膜厚が2mmより厚い場合、乾燥が不充分となるおそれがある。
擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状とする際の膜厚を制御する方法は、使用する乾燥装置などにより異なるが、例えば、後述するドラムドライヤーを用いる場合、ドラム間隔、ドラム回転数、擬ポリロタキサン水性分散体の供給速度などにより適宜制御することができる。
【0029】
前記乾燥工程で使用される乾燥装置としては、例えば、ドラムドライヤー、遠心薄膜乾燥機などが挙げられる。なかでも、擬ポリロタキサン水性分散体の流動性が極めて低い場合にも使用できることから、ドラムドライヤーが好ましく使用される。
【0030】
例えば、ドラムドライヤーでは、加熱されたドラムの表面に擬ポリロタキサン水性分散体を薄膜状に付着させ、すみやかに蒸発乾燥を行い、ドラムが1回転する間に、固定されたナイフで乾燥物を連続的にドラム表面より掻き取ることにより、乾燥擬ポリロタキサンを得ることができる。
【0031】
前記乾燥工程における乾燥温度は70〜200℃であることが好ましく、90〜180℃であることがより好ましく、100〜170℃であることがさらに好ましい。前記乾燥温度が70℃未満であると、乾燥が不充分となる場合がある。前記乾燥温度が200℃を超えると、擬ポリロタキサンが分解し、包接率が低下するおそれがある。
【0032】
前記乾燥工程における系の圧力は特に限定されないが、通常、大気圧に近い圧力で乾燥を行う。また、減圧下で乾燥することも可能であり、大気圧以下の圧力で乾燥を行うことが好ましい。
【0033】
薄膜状とした擬ポリロタキサン水性分散体の乾燥時間は、通常数秒から数分であり、シクロデキストリンの遊離を抑制するため、10分以下であることが好ましく、5分以下であることがより好ましく、2分以下であることがさらに好ましい。また、薄膜状とした擬ポリロタキサン水性分散体の乾燥時間が短すぎると、乾燥が不充分となる。
【0034】
得られる乾燥擬ポリロタキサンや架橋ポリロタキサンの用途、使用目的によるが、本発明によれば、当該乾燥擬ポリロタキサンの包接率を6〜60%とすることができる。前記包接率が6%未満であると、滑車効果が発現しないことがある。前記包接率が60%を超えると、環状分子であるシクロデキストリンが密に配置され過ぎてシクロデキストリンの可動性が低下することがある。シクロデキストリンが適度な可動性を有し、より高い包接率とするためには、包接率は15〜40%が好ましく、20〜30%がより好ましい。
なお、本明細書において前記包接率とは、PEGへのシクロデキストリンの最大包接量に対するPEGを包接しているシクロデキストリンの包接量の割合であり、PEGとシクロデキストリンの混合比、水性媒体の種類などを変化させることにより、任意に調整することが出来る。また、前記最大包接量とは、PEG鎖の繰り返し単位2つに対し、シクロデキストリンが1つ包接された最密包接状態とした場合のシクロデキストリンの個数をいう。
【0035】
前記包接率は、H−NMRにより測定することが出来るが、乾燥擬ポリロタキサンを溶解させ分析した場合、シクロデキストリンが遊離し正確な包接率を得ることが出来ないため、通常、シクロデキストリンが遊離しないように当該擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入したポリロタキサンに変性した後、分析され、得られた包接率は、作製した乾燥擬ポリロタキサンの包接率とみなすことが出来る。具体的には、包接率は、DMSO−dに擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入したポリロタキサンを溶解し、NMR測定装置(VARIAN Mercury−400BB)により測定し、包接率は、4〜6ppmのシクロデキストリン由来の積分値と3〜4ppmのシクロデキストリン及びPEGの積分値の比較で算出することができる。
【0036】
本発明の擬ポリロタキサンの製造方法により得られる乾燥擬ポリロタキサンの含水率は、10wt%以下であることが好ましく、7wt%以下であることがより好ましく、5wt%以下であることがさらに好ましい。得られる乾燥擬ポリロタキサンの含水率が10wt%を超えると、シクロデキストリンが遊離しないように擬ポリロタキサンの両末端に封鎖基を導入する反応において、反応系中の水分が多くなるため、反応が進行しないか、または封鎖基の導入率が低下する場合がある。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、高い包接率を有する乾燥擬ポリロタキサンを工業的に有利な方法で製造することができる擬ポリロタキサンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。以下、PEGを酸化して両末端にカルボキシル基を有するPEGの製造方法について、国際公開第05/052026号パンフレットに記載された方法を参考にして行った。
【0039】
(製造例1)
1L容のフラスコ内で、PEG(重量平均分子量35000)100g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)1g、臭化ナトリウム10gを水1Lに溶解させた。次いで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)50mLを添加し、室温で30分間撹拌した。余った次亜塩素酸ナトリウムを分解させるために、エタノールを50mL添加して反応を終了させた。
分液ロートを用い、500mLの塩化メチレンを用いた抽出を3回繰り返して有機層を分取した後、エバポレーターで塩化メチレンを留去し、2Lの温エタノールに溶解させてから冷凍庫(−4℃)中で一晩静置し、両末端にカルボキシル基を有するPEGのみを析出させ、回収し、減圧乾燥することにより両末端にカルボキシル基を有するPEG100gを得た。
【0040】
(製造例2)
1L容のフラスコ内で、高分子量PEG(重量平均分子量10万)100g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)1g、臭化ナトリウム10gを水1Lに溶解させた。次いで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)50mLを添加し、室温で30分間撹拌した。余った次亜塩素酸ナトリウムを分解させるために、エタノールを50mL添加して反応を終了させた。
分液ロートを用い、500mLの塩化メチレンを用いた抽出を3回繰り返して有機層を分取した後、エバポレーターで塩化メチレンを留去し、2Lの温エタノールに溶解させてから冷凍庫(−4℃)中で一晩静置し、両末端にカルボキシル基を有するPEGのみを析出させ、回収し、減圧乾燥することにより両末端にカルボキシル基を有するPEG100gを得た。
【0041】
(実施例1)
(1)両末端にカルボキシル基を有するPEGとα−シクロデキストリンとを用いた擬ポリロタキサン水性分散体の調製
攪拌機付きの1L容のフラスコ内に、水650mLを加え、製造例1で調製した両末端にカルボキシル基を有するPEG20g及びα−シクロデキストリン80gを70℃まで加熱し、溶解させた。
攪拌翼を用い、700rpmの回転速度で攪拌しながら、0.4℃/分の冷却速度にて5℃まで冷却し、さらに同温度にて10時間攪拌し続けることにより、流動性のよい乳液状の擬ポリロタキサン水性分散体(固形分濃度13wt%)を得た。
レーザー回折式粒径測定装置を用いて測定した結果、擬ポリロタキサン水性分散体中の粒子の体積平均粒子径は10μmであった。
【0042】
(2)擬ポリロタキサン水性分散体の乾燥
調製した擬ポリロタキサン水性分散体750gをダブルドラム型ドラムドライヤー(カツラギ工業社製、「D−0303型」)を用いてドラム表面温度120℃、ドラム回転数1rpm(乾燥時間40秒)にて乾燥し、乾燥体93gを得た。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.3mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は2.3wt%であった。
【0043】
(実施例2)
擬ポリロタキサン水性分散体の乾燥において、ドラム表面温度を170℃、ドラム回転数を2rpm(乾燥時間20秒)とした以外は実施例1と同様にして乾燥擬ポリロタキサンを得た。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.5mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は2.5wt%であった。
【0044】
(実施例3)
擬ポリロタキサン水性分散体の乾燥において、ドラム表面温度を100℃、ドラム回転数を0.5rpm(乾燥時間90秒)とした以外は実施例1と同様にして乾燥擬ポリロタキサンを得た。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.1mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は5.0wt%であった。
【0045】
(実施例4)
擬ポリロタキサン水性分散体の調製において、攪拌翼の回転速度を75rpm、冷却速度を0.1℃/分とした以外は、実施例1と同様にして乾燥擬ポリロタキサンを得た。調製した擬ポリロタキサン水性分散体は、流動性のよい乳液状であり、中位粒子径は50μmであった。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.3mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は2.0wt%であった。
【0046】
(実施例5)
擬ポリロタキサン水性分散体の調製において、攪拌翼の回転速度を7000rpm、冷却速度を10℃/分とした以外は、実施例2と同様にして乾燥擬ポリロタキサンを得た。調製した擬ポリロタキサン水性分散体は、やや流動性のある乳液状であり、中位粒子径は1.5μmであった。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.5mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は2.7wt%であった。
【0047】
(実施例6)
擬ポリロタキサン水性分散体の調製において、攪拌することなく静置下で冷却した以外は、実施例1と同様にして擬ポリロタキサン水性分散体を得た。調製した擬ポリロタキサン水性分散体は、僅かな流動性しかなく、ペースト状であったため水150gで希釈後(擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度11wt%)、スパチュラで攪拌し、流動性のある状態とした後、実施例1と同様にして乾燥し、乾燥擬ポリロタキサンを得た。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.3mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は3.1wt%であった。
【0048】
(実施例7)
製造例2で調製した両末端にカルボキシル基を有するPEGを使用した以外は、実施例1と同様にして乾燥擬ポリロタキサンを得た。調製した擬ポリロタキサン水性分散体は、やや流動性のある乳液状の分散体であり、中位粒子径は15μmであった。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.3mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は3.6wt%であった。
【0049】
(実施例8)
擬ポリロタキサン水性分散体の調製において、攪拌することなく静置下で冷却した以外は、実施例7と同様にして擬ポリロタキサン水性分散体を得た。調製した擬ポリロタキサン水性分散体は、全く流動性を示さなかったため水250gで希釈後(擬ポリロタキサン水性分散体の固形分濃度10wt%)、スパチュラで攪拌し、やや流動性のある状態とした後、実施例1と同様にして乾燥し、乾燥擬ポリロタキサンを得た。ドラムに付着した擬ポリロタキサン水性分散体の膜厚は0.3mmであった。また、得られた乾燥擬ポリロタキサンの含水率は3.4wt%であった。
【0050】
(比較例1)
擬ポリロタキサン水性分散体を凍結乾燥(−10〜20℃にて48時間乾燥)した以外は、実施例1と同様にして擬ポリロタキサンを得た。得られた擬ポリロタキサンは多孔質の塊状物であり、含水率は1.2wt%であった。
【0051】
(比較例2)
擬ポリロタキサン水性分散体を20℃にて96時間減圧乾燥した以外は、実施例1と同様にして擬ポリロタキサンを得た。得られた擬ポリロタキサンは硬い塊状物であり、含水率は4.0wt%であった。
【0052】
<評価>
実施例及び比較例で得られた擬ポリロタキサンについて、以下の方法により包接率を測定した。結果を表1に示した。
【0053】
(1)アダマンタンアミンとBOP試薬反応系を用いた擬ポリロタキサンの封鎖
1L容のフラスコ内で、室温でジメチルホルムアミド(DMF)170mLにアダマンタンアミン0.5gを溶解し、得られた乾燥擬ポリロタキサン50gに添加した後、速やかによく振りまぜた。
続いて、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)1.3gをDMF80mLに溶解したものを添加し、速やかによく振りまぜた。
さらに、ジイソプロピルエチルアミン0.50mLをDMF80mLに溶解したものを添加し、速やかによく振り混ぜた。得られた混合物を冷蔵庫中で一晩静置した。
【0054】
(2)ポリロタキサンの精製と包接率の測定
その後、DMF300mLを加えてよく混ぜ、遠心分離して上澄みを捨てる洗浄操作を行った。このDMFによる洗浄操作を合計2回繰り返した後、得られた沈澱を2000mLの熱水(70℃)に分散させ、よく攪拌し濾過する洗浄操作を行った。
この熱水による洗浄操作を合計4回繰り返し、回収した沈殿を凍結乾燥させ最終的に精製ポリロタキサンを得た。
得られたポリロタキサンの包接率は、H−NMRで同定した。得られた包接率は、擬ポリロタキサンの包接率とみなすことが出来る。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、高い包接率を有する乾燥擬ポリロタキサンを工業的に有利な方法で製造することができる擬ポリロタキサンの製造方法を提供することができる。