特許第6013244号(P6013244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6013244カーボンブラック組成物およびカーボンブラック含有塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013244
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】カーボンブラック組成物およびカーボンブラック含有塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20161011BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20161011BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20161011BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20161011BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161011BHJP
   C09D 157/00 20060101ALI20161011BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09C1/48
   C09C3/08
   C09C3/10
   C09D7/12
   C09D157/00
   C09D175/04
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-59822(P2013-59822)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-185210(P2014-185210A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小村 和史
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−049832(JP,A)
【文献】 特開2004−285140(JP,A)
【文献】 特開平10−287840(JP,A)
【文献】 特開昭51−138725(JP,A)
【文献】 特開平11−256067(JP,A)
【文献】 特開平11−256068(JP,A)
【文献】 特開平04−057867(JP,A)
【文献】 米国特許第04167421(US,A)
【文献】 特開平02−245231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09C 1/48
C09C 3/08
C09C 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックおよび下記一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物を溶媒中に含むことを特徴とするカーボンブラック組成物。
【化1】
[一般式(I)中、R1は、炭素数3〜21のアルキル基、炭素数5〜25のアルコキシアルキル基、アリールアルキル基、またはアリールオキシアルキル基を表し、2つのR1はそれぞれ異なっていても同一であってもよく、ただし少なくとも一方のR1は置換基として水酸基を含み;R2は、連結基を介して窒素原子と結合してもよいアルキル基またはシクロアルキル基を表し、2つのR2はそれぞれ異なっていても同一であってもよく、ただし2つのR2はいずれも水酸基を含まない;Lは、アルキレン基を表す。]
【請求項2】
一般式(I)中、2つのR1に含まれる水酸基の合計は2以上である請求項1に記載のカーボンブラック組成物。
【請求項3】
一般式(I)中、2つのR1は、それぞれ1つ以上の水酸基を含む請求項1または2に記載のカーボンブラック組成物。
【請求項4】
一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、下記一般式(II)で表される水酸基含有ジアミン化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物。
【化2】
[一般式(II)中、Xは水酸基含有アルキレン基を表し、−X−Yで表される基は一般式(I)中のR1で表される基と同義であり、2つのX、Yはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2およびLは、それぞれ一般式(I)と同義である。]
【請求項5】
一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、下記一般式(III)で表される水酸基含有ジアミン化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物。
【化3】
[一般式(III)中、Zは連結する−CH(OH)CH2−とともに一般式(I)中のR1で表される基を形成する置換基であり、2つのZはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2およびLは、それぞれ一般式(I)と同義である。]
【請求項6】
一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、下記一般式(IV)で表される水酸基含有ジアミン化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物。
【化4】
[一般式(IV)中、Zは連結する−CH(OH)CH2−とともに一般式(I)中のR1で表される基を形成する置換基であり、2つのZはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2は一般式(I)と同義である。]
【請求項7】
結合剤樹脂を更に含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物。
【請求項8】
前記結合剤樹脂はビニル系共重合体およびポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる請求項7に記載のカーボンブラック組成物。
【請求項9】
ポリイソシアネート化合物を更に含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物。
【請求項10】
前記溶媒は、ケトン系溶媒を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のカーボンブラック組成物を乾燥させることにより形成されたカーボンブラック含有塗膜。
【請求項12】
前記乾燥後に加熱処理を施すことにより形成された請求項11に記載のカーボンブラック含有塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック組成物に関するものであり、詳しくは、溶媒中でのカーボンブラックの高度な分散状態を実現し得るカーボンブラック組成物に関するものである。
更に本発明は、上記カーボンブラック組成物から得られるカーボンブラック含有塗膜にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、着色材料、導電性材料、充填剤等として、印刷インキ、塗料、化粧品、電池等の様々な分野に使用されている。また、磁気記録分野では、磁気テープや磁気ディスクの帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上等のために磁性層、非磁性層、バックコート層等にカーボンブラックを添加することが広く行われている。
【0003】
上記の通りカーボンブラックは様々な分野において使用される有用な素材であるが、溶媒中でストラクチャーと呼ばれる高次構造を形成し凝集する性質を有し、微粒子になるほどその性質が顕在化し各種弊害をもたらす。例えば塗布型磁気記録媒体においては、塗布液中でカーボンブラックが凝集すると、該塗布液を支持体上に塗布、乾燥させて形成される磁性層等の塗膜の平滑性を大きく低下させることとなる。また、印刷インク中でカーボンブラックが凝集すると、このインクを用いた印刷物における色ムラや色調悪化の原因となる。
【0004】
そのため従来、溶媒中でのカーボンブラックの分散性を高めるための試みがなされてきた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−344738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通りカーボンブラックは様々な分野において広く使用されており、その分散性向上(凝集防止)が常に求められている。これに対し上記特許文献1には、アミン化合物を用いることによりカーボンブラックの分散性を高めることが提案されている。しかし、特許文献1に記載のカーボンブラック分散技術は、後述するように、カーボンブラック分散液の保存性の点で、更なる改善が求められるものである。
【0007】
かかる状況下、本発明は、カーボンブラックが溶媒中に高度に分散された、保存性に優れた組成物(カーボンブラック組成物)を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の通り、特許文献1に記載のカーボンブラック分散技術は、カーボンブラック分散液の保存性の点で課題を有する。
この点について更に説明すると、特許文献1には、分散剤として2官能アミンを用いたカーボンブラック分散技術が提案されている。しかし、アミンに含まれるアミノ基は、カーボンブラック分散液中で併用される溶媒や、併用され得る成分である結合剤樹脂に含まれる官能基(例えばケトン系溶媒中のケトン基、ポリウレタン中のウレタン基等)と反応するなどの副反応によって、カーボンブラック分散液の保存性を低下させることが懸念される。
【0009】
これに対し本発明者は鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(I)で表される水酸基含有3級ジアミン化合物により、上記目的を達成することができることを新たに見出した。
本発明者は、一般式(I)で表される水酸基含有3級ジアミン化合物によってカーボンブラックの分散性向上と分散液の保存性を両立することができる理由について、以下のように推察している。
(1)3級アミンは各種官能基に対して安定であるため、一般式(I)で表される3級ジアミン化合物は、類似の構造を有する1級または2級のアルキルアミンやアルコキシアミンと比べて、溶媒、結合剤樹脂といった併用される成分との副反応の懸念が少ない。また、水酸基も同様に各種官能基に対して安定である。このことが、良好な保存性に寄与すると考えられる。
(2)一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、上記の通りカーボンブラック組成物の保存性向上に寄与する水酸基を、2つのアミノ基の一方のみに含み、他方には含まない。この水酸基を含まないアミノ基は、カーボンブラックとの親和性に優れるため、上記ジアミン化合物はカーボンブラックに対して高い吸着性を示すことができる。このことが、カーボンブラックのストラクチャー形成を阻害し分散性向上に寄与すると考えられる。水酸基はカーボンブラックとの親和性に乏しいが、一般式(I)で表されるジアミン化合物は水酸基が2つのアミノ基の一方のみに局在しているため、水酸基を含まないアミノ基による分散性向上を妨げることなく、水酸基がカーボンブラック組成物の保存性向上に寄与することができると考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]カーボンブラックおよび下記一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物を溶媒中に含むことを特徴とするカーボンブラック組成物。
【化1】
[一般式(I)中、R1は、炭素数3〜21のアルキル基、炭素数5〜25のアルコキシアルキル基、アリールアルキル基、またはアリールオキシアルキル基を表し、2つのR1はそれぞれ異なっていても同一であってもよく、ただし少なくとも一方のR1は置換基として水酸基を含み;R2は、連結基を介して窒素原子と結合してもよいアルキル基またはシクロアルキル基を表し、2つのR2はそれぞれ異なっていても同一であってもよく、ただし2つのR2はいずれも水酸基を含まない;Lは、アルキレン基を表す。]
[2]一般式(I)中、2つのR1に含まれる水酸基の合計は2以上である[1]に記載のカーボンブラック組成物。
[3]一般式(I)中、2つのR1は、それぞれ1つ以上の水酸基を含む[1]または[2]に記載のカーボンブラック組成物。
[4]一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、下記一般式(II)で表される水酸基含有ジアミン化合物である、[1]〜[3]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物。
【化2】
[一般式(II)中、Xは水酸基含有アルキレン基を表し、−X−Yで表される基は一般式(I)中のR1で表される基と同義であり、2つのX、Yはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2およびLは、それぞれ一般式(I)と同義である。]
[5]一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、下記一般式(III)で表される水酸基含有ジアミン化合物である、[1]〜[4]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物。
【化3】
[一般式(III)中、Zは連結する−CH(OH)CH2−とともに一般式(I)中のR1で表される基を形成する置換基であり、2つのZはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2およびLは、それぞれ一般式(I)と同義である。]
[6]一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、下記一般式(IV)で表される水酸基含有ジアミン化合物である、[1]〜[5]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物。
【化4】
[一般式(IV)中、Zは連結する−CH(OH)CH2−とともに一般式(I)中のR1で表される基を形成する置換基であり、2つのZはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2は一般式(I)と同義である。]
[7]結合剤樹脂を更に含む[1]〜[6]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物。
[8]前記結合剤樹脂はビニル系共重合体およびポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる[7]に記載のカーボンブラック組成物。
[9]ポリイソシアネート化合物を更に含む[1]〜[8]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物。
[10]前記溶媒は、ケトン系溶媒を含む[1]〜[9]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載のカーボンブラック組成物を乾燥させることにより形成されたカーボンブラック含有塗膜。
[12]前記乾燥後に加熱処理を施すことにより形成された[11]に記載のカーボンブラック含有塗膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンブラックが溶媒中に高度に分散したカーボンブラック組成物を提供することができる。更に、本発明のカーボンブラック組成物を用いることにより、カーボンブラックが高度に分散されているため優れた表面平滑性を有するカーボンブラック塗膜を提供することができる。かかる本発明のカーボンブラック組成物は、印刷インク、塗布型磁気記録媒体用塗布液等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のカーボンブラック組成物は、以下に詳述する一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物を溶媒中に含む。本発明のカーボンブラック組成物は、カーボンブラックを高度な分散状態で含むことができ、しかも良好な保存性を示すことができるものである。これらの点に関する本発明者の推察については、先に説明した通りである。
以下、本発明のカーボンブラック組成物について、更に詳細に説明する。なお以下において置換基を有する場合の「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。下記の置換基としては、例えばアルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)、アルコキシル基(例えば炭素数1〜6のアルコキシル基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。また、本発明において、「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0013】
カーボンブラック
本発明のカーボンブラック組成物に含まれるカーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック等の各種カーボンブラックを用途に応じて選択して使用することができる。本発明において使用可能なカーボンブラックについては、例えば、「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0014】
例えば塗布型磁気記録媒体では、非磁性層にカーボンブラックを混合させて公知の効果である表面電気抵抗Rsを下げること、光透過率を小さくすること、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。また、非磁性層にカーボンブラックを含ませることで潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。非磁性層に使用されるカーボンブラックの比表面積は通常、50〜500m2/g、好ましくは70〜400m2/g、DBP吸油量は通常、20〜400ml/100g、好ましくは30〜400ml/100gである。非磁性層に使用されるカーボンブラックの平均一次粒子径は通常、5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。
【0015】
また、塗布型磁気記録媒体のバックコート層に微粒子カーボンブラックを添加することで、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。バックコート層に使用される微粒子カーボンブラックとしては、平均一次粒子径が5〜30nmの範囲にあり、比表面積が60〜800m2/gの範囲にあり、DBP吸油量が50〜130ml/100gの範囲にあり、pHが2〜11の範囲にあるものが好ましい。
【0016】
上記カーボンブラックの詳細については、例えば特許第4149648号明細書段落[0033]、[0053]を参照できる。
【0017】
また、本発明のカーボンブラック組成物は、塗布型磁気記録媒体の磁性層形成のために使用することもできる。磁性層に含まれるカーボンブラックの詳細については、特許第4149648号明細書段落[0067]を参照できる。
【0018】
本発明のカーボンブラック組成物は、上記カーボンブラックを、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物および溶媒、ならびに任意に添加される各種成分とともに含むことで、塗布型磁気記録媒体形成用塗料組成物として、または該塗料組成物の調製のために使用することができる。例えば、塗布型磁気記録媒体の非磁性層またはバックコート層形成用塗料組成物として、または該塗料組成物の調製のために、本発明のカーボンブラック組成物を使用することで、カーボンブラックが高度に分散した非磁性層、バックコート層、磁性層を有する塗布型磁気記録媒体を得ることができる。
また、上記カーボンブラックは、印刷インクの顔料としても好適に使用されるものであり、これを含有する本発明のカーボンブラック組成物は、インクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等の各種印刷方式用の黒色インキとして好適に使用することができる。
【0019】
水酸基含有ジアミン化合物
次に、本発明のカーボンブラック組成物に、カーボンブラックおよび溶媒とともに含まれる一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物について説明する。
【0020】
【化5】
[一般式(I)中、R1は、炭素数3〜21のアルキル基、炭素数5〜25のアルコキシアルキル基、アリールアルキル基、またはアリールオキシアルキル基を表し、2つのR1はそれぞれ異なっていても同一であってもよく、ただし少なくとも一方のR1は置換基として水酸基を含み;R2は、連結基を介して窒素原子と結合してもよいアルキル基またはシクロアルキル基を表し、2つのR2はそれぞれ異なっていても同一であってもよく、ただし2つのR2はいずれも水酸基を含まない;Lは、アルキレン基を表す。]
【0021】
一般式(I)中、R1は、炭素数3〜21のアルキル基、炭素数5〜25のアルコキシアルキル基、アリールアルキル基、またはアリールオキシアルキル基を表す。
【0022】
1で表されるアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基である。その炭素数は、分散性向上の観点から3以上とし、溶剤溶解性の観点から21以下とする。上記炭素数は、好ましくは3〜18、より好ましくは3〜8の範囲である。
【0023】
1で表されるアルコキシアルキル基はR’OR−で表され、Rで表される主鎖のアルキレン基と、これと酸素原子を介して連結するR’で表されるアルキル基の炭素数の合計は、分散性向上の観点から5以上とし、溶剤溶解性の観点から25以下とする。上記炭素数は、好ましくは5〜18、より好ましくは5〜10の範囲である。
【0024】
1で表されるアリールアルキル基はArR−で表され、Rで表される主鎖のアルキレン基と、これと連結するArで表されるアリール基の炭素数の合計は、分散性向上の観点から8以上であることが好ましく、溶剤溶解性の観点から14以下であることが好ましい。上記アリール基は、より好ましくは フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基であり、更に好ましくはフェニル基である。
【0025】
1で表されるアリールオキシアルキル基はArOR−で表され、Rで表される主鎖のアルキレン基と、これと酸素原子を介して連結するArで表されるアリール基の炭素数の合計は、分散性向上の観点から9以上であることが好ましく、溶剤溶解性の観点から15以下であることが好ましい。上記アリールオキシアルキル基は、より好ましくはフェニルオキシメチレン基、ナフチルオキシメチレン基、ビフェニルオキシメチレン基であり、更に好ましくはフェニルオキシメチレン基である。
【0026】
以上説明したR1で表される基に含まれるアルキル基、アルキレン基、アリール基は、それぞれ無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。
【0027】
1で表されるアリールアルキル基およびアリールオキシアルキル基に含まれるアリール基の炭素数は、好ましくは6〜20であり、より好ましくは6〜10であり、更に好ましくは6である。上記アリール基は、後述するポリイソシアネート化合物との反応性の観点からは、無置換であることが好ましく、無置換フェニル基であることがより好ましい。
【0028】
より一層の分散性向上の観点から、一般式(I)で表されるジアミン化合物の1分子あたりの総炭素数は、13以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、例えば15〜30の範囲であることが好適である。
【0029】
一般式(I)で表されるジアミン化合物において、2つのR1はそれぞれ異なっていても同一であってもよい。ただし少なくとも一方のR1は置換基として水酸基を含む。前述のように、水酸基を含むことにより保存性に優れたカーボンブラック組成物の提供が可能となる。
【0030】
一般式(I)で表されるジアミン化合物は、R1で表される基の末端に水酸基を含んでいてもよく、側鎖に含んでいてもよい。カーボンブラック組成物の保存性向上の観点からは、組成物に含まれる分散剤は揮発性が低いことが好ましい。したがって、一般式(I)で表されるジアミン化合物は、沸点が高いことが好ましい。高沸点化の観点からは、水酸基はR1で表される基の側鎖に置換基として含まれることが好ましい。また、R1で表される基がアリールアルキル基またはアリールオキシアルキル基である場合、水酸基は末端基であるアリール基には含まれずに側鎖に含まれることが、後述するポリイソシアネート化合物との反応性の観点から好ましい。
1で表される基が有する水酸基は、少なくとも1つであり、高沸点化の観点からは2以上、例えば2〜4であることが好ましく、2であることがより好ましい。また、ジアミン化合物中に水酸基が2つ以上含まれることは、後述するポリイソシアネートとの反応(架橋反応)が連続的に進行することにより、より高強度の塗膜の形成が可能になる点からも好ましい。
【0031】
水酸基は、R1で表される基の一方のみに含まれていてもよく、両方にそれぞれ含まれていてもよい。合成の容易性の観点からは、2つのR1に、それぞれ1つ以上の水酸基が含まれていることが好ましい。
【0032】
したがって、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物の好ましい態様としては、2つのR1の側鎖にそれぞれ水酸基を含む、下記一般式(II)で表される水酸基含有ジアミン化合物を挙げることができる。
【0033】
【化6】
【0034】
一般式(II)中、Xは水酸基含有アルキレン基を表し、−X−Yで表される基は一般式(I)中のR1で表される基と同義であり、R2およびLは、それぞれ一般式(I)と同義である。
【0035】
更に、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物の中で、例えば後述のオキシランを用いる反応により得られる化合物としては、一般式(I)中のR1が、−CH(OH)CH2−により窒素原子と連結する、下記一般式(III)で表される水酸基含有ジアミン化合物を挙げることができる。
【0036】
【化7】
【0037】
一般式(III)中、Zは連結する−CH(OH)CH2−とともに一般式(I)中のR1で表される基を形成する置換基であり、2つのZはそれぞれ異なっていても同一であってもよく、R2およびLは、それぞれ一般式(I)と同義である。
【0038】
次に、一般式(I)中のLおよびR2について説明する。
【0039】
一般式(I)中、Lはアルキレン基を表す。Lで表されるアルキレン基の炭素数は、カーボンブラックの分散性の観点からは2以上であることが好ましく、化合物の溶剤溶解性の観点からは20以下であることが好ましく、2〜4の範囲であることがより好ましく、2であることが更に好ましい。Lで表されるアルキレン基は、直鎖であっても分岐していてもよいが、直鎖であることが好ましい。
【0040】
したがって、前記した一般式(III)の好ましい態様としては、Lで表される連結基が炭素数2のエチレン基である下記一般式(IV)で表される水酸基含有ジアミン化合物を挙げることができる。
【0041】
【化8】
【0042】
一般式(IV)中、Zは一般式(III)と同義であり、R2は一般式(I)と同義である。
【0043】
2は、連結基を介して窒素原子と結合してもよいアルキル基またはシクロアルキル基を表す。アルキル基としては、カーボンブラックへの吸着性と化合物の溶剤溶解性を両立する観点から、炭素数1〜10のものが好ましく、1〜5のものがより好ましく、1〜4のものがより好ましい。上記アルキル基は、直鎖であっても分岐していてもよいが、直鎖であることが好ましい。一方、シクロアルキル基としては、同様の観点から、炭素数6〜10のものが好ましい。上記連結基としては、特に限定されるものではなく、例えばアルキレン基を挙げることができる。アルキレン基の詳細は、先にLで表されるアルキレン基について記載した通りである。
【0044】
一般式(I)中、2つのR2はそれぞれ異なっていても同一であってもよい。ただし前述の通り、水酸基はカーボンブラックとの親和性に乏しいため、2つのR2はいずれも水酸基を含まないこととする。
【0045】
以上説明した一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物の具体例としては、後述の実施例に示す化合物を例示することができる。
【0046】
一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物の合成方法は、特に限定されるものではない。一例として、環状エーテルと1級アミノ基との反応を利用する方法を挙げることができる。
【0047】
上記反応において、環状エーテルと反応させる合成原料は、目的化合物である一般式(I)で表される化合物中の水酸基含有アミノ基の部分に1級アミノ基NH2−を有するジアミン化合物である。当該ジアミン化合物は、公知の方法により合成することができ、また市販品としても入手可能である。
【0048】
環状エーテルが開環し、この開環体と合成原料のジアミン化合物が有する1級アミノ基の2つの水素原子の一方または両方が反応することにより、一般式(I)中の2つのR1の一方または両方に水酸基を有する目的のジアミン化合物を得ることができる。使用する環状エーテルは、目的のジアミン化合物の構造に応じて選択すればよい。反応効率の観点からは、環状エーテルとしてオキシラン(三員環の環状エーテル)を用いることが好ましい。
【0049】
上記反応を行う雰囲気は特に限定されるものではなく、例えば空気中、窒素下のいずれでも反応を良好に進行させることができる。反応溶媒としては、環状エーテルおよびアミノ基に対して安定であり、かつ環状エーテルおよび合成原料のジアミン化合物を溶解可能なものを用いることが好ましい。反応終了後、例えば濃縮乾固により、目的のジアミン化合物を回収することができる。環状エーテル、合成原料のジアミン化合物、および反応生成物である一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、いずれも通常は室温で液体であり、お互いを溶解する溶媒となり得る。したがって、無溶媒でも反応を進行させることができる。無溶媒で反応を行う方法は、高濃度で環状エーテル基と1級アミノ基が反応するため反応が速く、しかも廃棄物も出ないことから、より望ましい方法である。
反応は室温で行ってもよく加温して行ってもよい。加温することは、反応が速く進行するため、より望ましい。加温は、反応系の温度が40℃〜140℃の範囲となるように行うことが好ましい。合成原料の環状エーテルおよびジアミン化合物の沸点が40℃〜140℃の範囲にある場合、初期から高温条件で反応させると原料が揮発するため反応が遅くなる。このような場合には、反応の進行と共に、徐々に昇温することが望ましい。
【0050】
カーボンブラックの分散性をより一層向上する観点からは、カーボンブラック100質量部に対して1〜50質量部の割合で、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物を使用することが好ましく、1〜20質量部の割合で使用することがより好ましい。また、同様の理由から本発明のカーボンブラック組成物において、カーボンブラックに対する溶媒の総量は、カーボンブラック100質量部に対して100〜5000質量部とすることが好ましい。本発明のカーボンブラック組成物において、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明のカーボンブラック組成物に含まれる溶媒は、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物と併用することでカーボンブラックを高度に分散する観点からは、ケトン系溶媒を含むものが好ましく、溶媒全量の50質量%以上をケトン系溶媒が占めることがより好ましく、100%ケトン系溶媒であってもよい。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン類を挙げることができる。また、ケトン系溶媒以外の溶媒としては、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒等の各種溶媒を挙げることができる。上記溶媒は1種単独で用いてもよく、任意の比率で2種以上組み合わせて用いてもよい。
ケトン系溶媒は一般に入手が容易であり、また比較的低沸点であり安全性も高いため取扱いも容易である。そのため、ケトン系溶媒は、磁気記録分野、印刷分野、化粧品分野等の各種分野において広く用いられている。溶媒としてケトン系溶媒を含む本発明のカーボンブラック組成物は、上記の各種分野において有用である。一般式(I)で表されるジアミン化合物は、各種官能基に対して安定である水酸基を含むものであるため、ケトン系溶媒に含まれるケトン基との副反応による保存性の低下の懸念が少ない点で、ケトン系溶媒との併用に適する化合物である。
【0052】
微粒子の分散性を高める一般的手法としては、樹脂(結合剤)により微粒子表面を被覆する方法が知られているが、本発明のカーボンブラック組成物は一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物を含むことで、樹脂を併用しないとしてもカーボンブラックの高度な分散状態を実現することができる。具体的には、本発明のカーボンブラック組成物は、樹脂を含まない状態でも、例えば動的光散乱法により測定される液中粒子径が150nm以下、好ましくは70nm、更に好ましくは50nm以下というカーボンブラックの高度な分散状態を実現することができる。
ここで光散乱法により測定される液中粒子径とは、本発明のカーボンブラック組成物におけるカーボンブラックの存在状態、即ち分散状態の指標であり、この値が小さいほどカーボンブラックが凝集を起こさず一次粒子に近い状態で良好に分散していることを意味する。動的光散乱法による測定は、例えばHORRIBA社製動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500を用いて行うことができる。なお、測定精度を高めるために測定対象の液を希釈したうえで液中粒径を測定することも可能である。この場合、測定精度をよりいっそう高めるためには、希釈溶媒として測定対象の液に含まれる溶媒を使用することが好ましく、測定対象の液と同一の溶媒を使用することがより好ましい。
【0053】
また、本発明のカーボンブラック組成物は樹脂を含むことで、カーボンブラックをより一層高度に分散させることができる。樹脂を併用することで、上記の液中粒子径として70nm以下、更には60nm以下または50nm以下という、きわめて高度な分散状態でカーボンブラックを分散させることも可能となる。なお樹脂の使用の有無にかかわらず、上記液中粒子径の下限値はカーボンブラックの一次粒子径または平均一次粒子径となる。
【0054】
使用可能な樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などを挙げることができ、中でもポリウレタン樹脂、ビニル系共重合体の使用が好ましい。樹脂は、カーボンブラック100質量部に対して、例えば1〜100質量部の割合で使用することができる。
【0055】
本発明のカーボンブラック組成物は、上記樹脂とともにイソシアネート化合物を含むこともできる。イソシアネート化合物は硬化剤として樹脂と架橋構造を形成することで、塗膜強度向上に寄与する成分である。
イソシアネート化合物としては、2官能以上、好ましくは3官能以上のイソシアネート化合物(ポリイソシアネート)を使用することが好ましい。イソシアネート化合物としては、例えば塗布型磁気記録媒体において硬化剤として使用される公知のものを、樹脂100質量部に対して5〜100質量部の量で使用することができる。使用可能なイソシアネート化合物の詳細については、例えば特許第4149648号明細書段落[0066]を参照できる。
【0056】
更に本発明のカーボンブラック組成物は、用途に応じて使用される公知の各種添加剤を含むことができる。
【0057】
本発明におけるカーボンブラック等の粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を当該性粉末の平均粒子サイズとする。
【0058】
本発明において、粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0059】
本発明のカーボンブラック組成物は、以上説明した水酸基含有ジアミン化合物、カーボンブラックおよび溶媒を、任意に添加される各種添加剤とともに、同時または順次混合することにより調製することができる。
【0060】
本発明のカーボンブラック組成物は、塗布型磁気記録媒体、印刷インキ、塗料、化粧品、電池等のカーボンブラックを高度に分散することが求められる各種分野への使用に適するものである。例えば、本発明のカーボンブラック組成物をそのまま、または磁気記録媒体に使用される各種添加剤を添加して、磁気記録媒体形成用塗料組成物とすることができる。当該塗料組成物は、例えば、非磁性層、バックコート層、または磁性層を形成するために使用することができる。
【0061】
更に本発明は、本発明のカーボンブラック組成物を乾燥させることにより形成されたカーボンブラック含有塗膜にも関するものである。
【0062】
先に説明した本発明のカーボンブラック組成物は、溶媒中に高度な分散状態でカーボンブラックを含むことができるので、かかる組成物を、例えば支持体上に塗布して乾燥させることで、カーボンブラックの凝集による表面荒れのない、優れた表面平滑性を有する塗膜を得ることができる。本発明のカーボンブラック含有塗膜の一態様は、磁気記録媒体のバックコート層、非磁性層、磁性層等であるがこれに限定されるものではなく、帯電防止シート等の各種形態で使用可能である。
【0063】
本発明のカーボンブラック含有塗膜を形成する際の乾燥は、塗膜形成のための公知の方法および条件により行うことができる。また、乾燥の後に加熱処理が施される場合もある。例えば、イソシアネート化合物を含む本発明のカーボンブラック組成物を用いて塗膜を形成する態様においては、乾燥後に加熱処理を施しイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基と一般式(I)で表されるジアミン化合物に含まれる水酸基との架橋反応を進行させることにより、塗膜強度を高めることができる。上記加熱処理については、イソシアネート基と水酸基との架橋反応(ウレタン化反応)に関する公知技術を適用することができる。
【0064】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0065】
一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物(ジアミンジオール)として、以下に示すジアミンジオール1〜5を合成した。
比較化合物として、以下に示すモノアミンジオール6を合成した。
【0066】
【化9】
【0067】
上記化合物の合成方法を、以下に示す。
【0068】
[合成例1]
N,N−ジメチルエチレンジアミン1.0質量部、フェニルグリシジルエーテル3.4質量部を混合し、120℃で5時間反応させた。得られた化合物が、ジアミンジオール1であることを、NMRにより確認した。
【0069】
[合成例2]
N,N−ジエチルエチレンジアミン1.0質量部、フェニルグリシジルエーテル2.6質量部を混合し、120℃で5時間反応させた。得られた化合物が、ジアミンジオール2であることを、NMRにより確認した。
【0070】
[合成例3]
N,N−ジメチルエチレンジアミン1.0質量部、ブチルグリシジルエーテル3.0質量部を混合し、120℃で5時間反応させた。得られた化合物が、ジアミンジオール3であることを、NMRにより確認した。
【0071】
[合成例4]
N,N−ジメチルエチレンジアミン1.0質量部、1,2−エポキシブタン 1.6質量部を混合し、50℃で5時間反応させた。得られた化合物が、ジアミンジオール4であることを、NMRにより確認した。
【0072】
[合成例5]
N,N−ジブチルエチレンジアミン1.0質量部、ブチルグリシジルエーテル 1.5質量部を混合し、120℃で5時間反応させた。得られた化合物が、ジアミンジオール5であることを、NMRにより確認した。
【0073】
[比較合成例1]
ベンジルアミン1.0質量部、フェニルグリシジルエーテル2.8質量部を混合し、120℃で5時間反応させた。得られた化合物が、モノアミンジオール6であることを、NMRにより確認した。
【0074】
上記NMRによる同定では、400MHzのNMR(BRUKER社製AVANCEII−400)を使用し、1H−NMR測定を行った。ジアミンジオール1、2、4、モノアミンジオール6の1H−NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
【0075】
<ジアミンジオール1 (C22H32N2O4)>
1H-NMR (400MHz, CDCl3, 25℃): 6.90-7.27ppm(10H, T), 4.08ppm(2H, m), 3.94ppm(4H, m), 2.44-2.86ppm(8H, Br), 2.23ppm(6H, S)
【0076】
【化10】
【0077】
<ジアミンジオール2 (C24H36N2O4)>
1H-NMR (400MHz, CDCl3, 25℃): 7.27ppm(4H, T), 6.94ppm(2H, T), 6.90ppm(4H, D), 4.08ppm(2H, m), 3.94ppm(4H, m), 2.44-2.86ppm(12H, Br), 1.02ppm(6H, T)
【0078】
【化11】
【0079】
<ジアミンジオール4(C12H28N2O2)>
1H-NMR (400MHz, CDCl3, 25℃): 3.52ppm(2H, m), 2.25-2.68ppm(m, 12), 2.23ppm(6H, S), 0.97ppm(6H, T)
【0080】
【化12】
【0081】
<モノアミンジオール6 (C25H29NO4)>
1H-NMR (400MHz, CDCl3, 25℃): 6.85-7.31ppm(15H, m), 4.10ppm(2H, m), 3.90ppm(4H, m), 2.73-2.92ppm(6H, Br)
【0082】
【化13】
【0083】
[実施例1]
下記カーボンブラック0.53質量部、ポリエーテルポリウレタン樹脂0.14質量部、塩化ビニル樹脂(カネカ製MR−104)0.22質量部、ジアミンジオール1 0.035質量部を、2−ブタノン(メチルエチルケトン)5.4質量部およびシクロヘキサノン3.6質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.1mmφジルコニアビーズ(ニッカトー製)50質量部を添加し15時間分散させて分散液を得た。
後述の方法で分散粒子径(動的光散乱法による液中粒子径)を測定したところ52nmであった。
上記分散液を帝人社製PENベース上に19μmのギャップを持つドクターブレードを用いて塗布し、室温30分放置させて乾燥し塗膜を作成した。作製した塗膜の平均粗さを後述の方法で測定したところ2.6nmであった。
【0084】
カーボンブラック(三菱化学社製#950)
平均一次粒子径:18nm
窒素吸着比表面積:260m2/g
DBP吸油量:79ml/100g(粉状)
pH:7.5
【0085】
分散粒子径(動的光散乱法による液中粒子径)の測定方法
分散液を、分散に用いた有機溶媒と同一のものを用いて固形分濃度0.2質量%に希釈した(固形分とはカーボンブラック・アミン添加剤・結合剤樹脂の合計質量を表す)。
得られた希釈液について、HORRIBA社製動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500を用いて測定した平均粒子径を分散粒子径とした。分散粒子径が小さいほど、カーボンブラックが凝集せず分散性が良好であることを意味する。
【0086】
塗膜表面粗さ測定方法
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5022による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmとして、上記塗膜の表面粗さを測定した。対物レンズ:20倍、中間レンズ:1.0倍、測定視野は260μm×350μmである。測定した表面をHPF:1.65μm、LPF:50μmのフィルター処理して、中心線平均表面粗さRa値を求めた。
【0087】
[実施例2]
ジアミンジオール1 0.035質量部をジアミンジオール2 0.037質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で分散液および塗膜の作製および評価を行った。分散粒子径は44nmであり、表面粗さは2.4nmであった。
【0088】
[実施例3]
ジアミンジオール1 0.035質量部をジアミンジオール3 0.031質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で分散液および塗膜の作製および評価を行った。分散粒子径は43nmであり、表面粗さは2.0nmであった。
【0089】
[実施例4]
ジアミンジオール1 0.035質量部をジアミンジオール4 0.021質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で分散液および塗膜の作製および評価を行った。分散粒子径は56nmであり、表面粗さは4.4nmであった。
【0090】
[実施例5]
ジアミンジオール1 0.035質量部をジアミンジオール5 0.039質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で分散液および塗膜の作製および評価を行った。分散粒子径は45nmであり、表面粗さは2.9nmであった。
【0091】
[比較例1]
ジアミンジオール1 0.035質量部をモノアミンジオール6 0.037質量部に変更した点以外は実施例1と同様の方法で分散液および塗膜の作製および評価を行った。分散粒子径は200nmであり、表面粗さは9.5nmであった。
【0092】
以上の結果を、下記表1にまとめて示す。
【0093】
【表1】
【0094】
上記の結果により、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物により、溶媒中でカーボンブラックを高度に分散することができ、更にはこれにより高い表面平滑性を有するカーボンブラック含有塗膜の形成が可能となることが示された。
【0095】
アミン反応性の評価
実施例1〜5で使用したジアミンジオールのシクロヘキサノン、メチルエチルケトンに対する反応性を、以下の方法で評価した。
ジアミンジオールおよび溶媒(シクロヘキサノンまたはメチルエチルケトン)が等モル相当になるように、それぞれ秤量し、これらを混合し、50℃のオーブン中で1時間放置した。その後、オーブンから取り出し、CDCl3の重溶媒に溶かし、NMR測定を行った。NMRスペクトルにおいて、アミン由来のピークおよび溶媒由来のピークとは異なるピークが確認された場合には反応性ありと判定することとして、アミン化合物と溶媒との反応性を評価したところ、実施例1〜5で使用したジアミンジオールは、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンに対して反応性を示さないことが確認された。
これに対し、比較のため、以下に示すジアミン化合物について同様の評価を行ったところ、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンに対する反応性を示すことが確認された。
【0096】
【化14】
【0097】
以上の結果から、一般式(I)で表される水酸基含有ジアミン化合物は、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンに含まれるケトン基との反応性に乏しいことが確認できる。かかる水酸基含有ジアミン化合物を用いることにより、ケトン基との副反応による保存性の低下がないか、または低下の少ないカーボンブラック組成物の提供が可能になる。
【0098】
揮発性の評価
実施例1で使用したジアミンジオール1、実施例2で使用したジアミンジオール2、比較例1で使用したモノアミンジオール6、およびアミン反応性の評価において比較のために用いたジアミン化合物(沸点119℃)を、それぞれ1g計量し100℃/3時間の条件で真空乾燥したところ、ジアミンジオール1、ジアミンジオール2、モノアミンジオール6の質量減少率は5%未満であった。これに対しアミン反応性の評価において比較のために用いたジアミン化合物の質量減少率は100%であった。
分散剤として使用する化合物の揮発性が高いことは、安全上好ましくないうえに、カーボンブラック分散液の保存性を低下させる原因となる。これに対し上記の結果から、実施例で使用したジアミンジオールは、揮発性が低いことが確認できる。この点については、ジアミンジオールに含まれる水酸基が、揮発性低下に寄与していると考えられる。
【0099】
以上の結果から、実施例で用いたジアミンジオールは、カーボンブラックを高度に分散することができるうえに、保存性に優れたカーボンブラック組成物の提供を可能にするものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、磁気記録分野、印刷分野、化粧品分野等の各種分野において有用である。