特許第6013296号(P6013296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013296
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】高周波伝送線路
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/08 20060101AFI20161011BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   H01P5/08 A
   H05K3/46 N
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-181955(P2013-181955)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-50678(P2015-50678A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】田野辺 博正
(72)【発明者】
【氏名】中島 史人
(72)【発明者】
【氏名】中西 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英二
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−204209(JP,A)
【文献】 特開昭63−088902(JP,A)
【文献】 特開2011−004355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランドプレーンと絶縁体、あるいはグランドプレーンと半導体とが交互に積層された多層配線基板と、
前記グランドプレーンが選択的に除去されたアンチパッド領域を、前記多層配線基板の最上層から最下層まで垂直方向に貫通して形成された高周波信号ビアと、
前記アンチパッド領域の外側に前記高周波信号ビアを囲うように点在配置されて、前記各グランドプレーンと接続するとともに、前記多層配線基板の最上層から最下層まで垂直方向に貫通して形成された複数のグランドビアと、
前記最上層に線状に形成されて、先端が前記高周波信号ビアの上端と接続された高周波信号線路とを備え、
前記多層配線基板は、前記高周波信号線路の伸延方向において当該高周波信号線路を有する領域Aと、当該領域Aの残余からなる領域Bとからなり、前記領域Aに配置された前記グランドビアの配置密度PAが、前記領域Bに配置された前記グランドビアの配置密度PBより高く、
前記各グランドビアは、前記アンチパッド領域の外側に略円周状に配置されており、前記領域Aに配置された前記グランドビアの配置間隔DAが、前記領域Bに配置された前記グランドビアの配置間隔DBより小さい
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波伝送線路において、
前記高周波信号線路は、前記アンチパッド領域の外周縁と交差する交点から前記先端までの部分において線路幅が拡張された幅広部を有し、
前記高周波信号線路の直下に位置する直下グランドプレーンにおける前記アンチパッド領域側の内側端部のうち、前記伸延方向と直交する直交方向に沿った、前記幅広部の側端部と前記内側端部との間の最大エッジ間距離D1が、前記伸延方向に沿った、前記先端と前記内側端部との間の最大エッジ間距離D2より小さい
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高周波伝送線路において、
前記高周波信号線路は、マイクロストリップ線路、または、グランデッドコプレーナ線路からなることを特徴とする高周波伝送線路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波伝送技術に関し、特に入力された高周波信号を、多層配線基板の最上層から最下層まで貫通して伝搬させるための高周波伝送線路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層配線基板を垂直貫通する擬似同軸線路構造の構造として高周波信号ビアの周囲に円周状にグランドビアを複数配置することで、高周波信号の伝搬時に発生するリターン電流によるインダクタンスを等価回路的に並列接続と等価にし、擬似同軸線路構造が持つインダクタンスの上昇を抑制させ、多層配線基板表面に形成した高周波信号線路の特性インピーダンスと整合させる手法が、非特許文献1で提案されている。
【0003】
この非特許文献1では、擬似同軸線路構造の特性インピーダンスを高周波信号線路の特性インピーダンスに整合させる手法が記述されており、擬似同軸線路構造を構成するグランドビア本数を増やすことが試みられている。
具体的には、グランドビアの本数が1本と4本のときについて比較検討されており、グランドビア4本の方がより高周波特性に優れているとしている。図15は、従来の高周波伝送線路の構成(グランドビア数4本)を示す説明図である。図16は、従来の高周波伝送線路の他の構成(グランドビア数1本)を示す説明図である。
【0004】
高周波信号線路が備える特性インピーダンスZは、高周波信号線路の電気容量CとインダクタンスLによって決定され、Z=√(L/C)で表現される。インダクタンスLの値は高周波信号が伝搬する際、グランドプレーン表面に発生するリターン電流との組で生じるループ回路によって決定される。したがって、そのループ回路をN個並列接続する構成とすれば、インダクタンスLは(1/N)に低減可能となる。
【0005】
非特許文献1では、4本のグランドビアを備えることで特性インピーダンスをZ’=√((L/4)/C)=(1/2)×√(L/C)=(1/2)×Zと半分に低減させている。一般的に擬似同軸線路構造の電気容量は、多層配線基板表面に形成される高周波信号線路の電気容量と比較して低い。このため、高いインダクタンスを備える擬似同軸線路構造の特性インピーダンスは上昇してしまう。この特性インピーダンスの上昇を抑制するため、インダクタンス低減のための手法としてグランドビアの本数を増やすことが非特許文献1で示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Thomas Neu, "Designing controlled-impedance vias", EDN, Oct. 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際、非特許文献1に記載されているFigure2に示された特性インピーダンス測定グラフにあるように、グランドビアを4本導入した擬似同軸線路構造の特性インピーダンスは51Ω〜52Ωの値となっている。測定器の特性インピーダンス、および、多層配線基板表面に形成された高周波信号線路の特性インピーダンスは、それぞれ50Ωとなっているため、これらとインピーダンス整合されている擬似同軸線路構造が形成されていると言える。非特許文献1に記載されているFigure3の通過損失特性に示されるように、およそ10GHzまでにおいては周波数軸上で見てほぼ振動が見られない比較的良好な特性が得られたと結論付けている。
【0008】
しかしながら、上記Figure3のグラフをより詳細に見る限りでは、信号周波数が10GHz以上の領域でグラフに振動が見られ始め、信号周波数が高いほどその振動の振幅が次第に増大している様子がグラフからうかがえる。さらに、10GHz以上の帯域においては、信号周波数が高いほど通過特性の絶対値の落ち込み方が増大する傾向を示している。よって、10GHz以上の高周波通過特性の線形性が必要である応用に対しては、本構造は不適となる。
【0009】
このことは、およそ10GHzまでは多層配線基板表面に形成された高周波信号線路と、垂直方向に形成された擬似同軸線路構造間の接続においては、集中定数回路を想定したインピーダンス整合のみの考慮でよかったものが、10GHz以上の周波数帯域では別の物理現象も考慮する必要性があることを示していることに他ならない。すなわち、集中定数回路では扱えない3次元空間を伝搬する電磁界の振る舞いを考慮しなければいけないことを示している。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、基板平面方向から垂直方向への屈曲部において、10GHz以上の高周波信号を少ない通過損失および反射損失で伝搬させることができる高周波伝送線路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明にかかる高周波伝送線路は、グランドプレーンと絶縁体、あるいはグランドプレーンと半導体とが交互に積層された多層配線基板と、前記グランドプレーンが選択的に除去されたアンチパッド領域を、前記多層配線基板の最上層から最下層まで垂直方向に貫通して形成された高周波信号ビアと、前記アンチパッド領域の外側に前記高周波信号ビアを囲うように点在配置されて、前記各グランドプレーンと接続するとともに、前記多層配線基板の最上層から最下層まで垂直方向に貫通して形成された複数のグランドビアと、前記最上層に線状に形成されて、先端が前記高周波信号ビアの上端と接続された高周波信号線路とを備え、前記多層配線基板は、前記高周波信号線路の伸延方向において当該高周波信号線路を有する領域Aと、当該領域Aの残余からなる領域Bとからなり、前記領域Aに配置された前記グランドビアの配置密度PAが、前記領域Bに配置された前記グランドビアの配置密度PBより高いものである
【0012】
さらに上記に加えて、前記各グランドビアが、前記アンチパッド領域の外側に略円周状に配置されており、前記領域Aに配置された前記グランドビアの配置間隔DAが、前記領域Bに配置された前記グランドビアの配置間隔DBより小さいものである。
【0013】
また、本発明にかかる上記高周波伝送線路の一構成例は、前記高周波信号線路が、前記アンチパッド領域の外周縁と交差する交点から前記先端までの部分において線路幅が拡張された幅広部を有し、前記高周波信号線路の直下に位置する直下グランドプレーンにおける前記アンチパッド領域側の内側端部のうち、前記伸延方向と直交する直交方向に沿った、前記幅広部の側端部と前記内側端部との間の最大エッジ間距離D1が、前記伸延方向に沿った、前記先端と前記内側端部との間の最大エッジ間距離D2より小さいものである。
【0014】
また、本発明にかかる上記高周波伝送線路の一構成例は、前記高周波信号線路が、マイクロストリップ線路、または、グランデッドコプレーナ線路からなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波信号線路に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域では電気容量が低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域では電気容量が高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号が折り曲がる高周波信号線路12と高周波信号ビア14との接続点において、より効果的に、高周波信号の反射や空間中への放射を抑制することができ、10GHz以上の高周波信号を、少ない通過損失および反射損失で伝搬させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】第1の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。
図1B図1AのI−I断面図である。
図1C図1Aの左側面図である。
図1D図1BのII−II断面図である。
図2A図1Aで流れる高周波電流の説明図である。
図2B図1Bで流れる高周波電流の説明図である。
図2C図1Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。
図2D図1Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
図3A】第1の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである
図3B】第1の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。
図4A】第2の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。
図4B図4AのI−I断面図である。
図4C図4Aの左側面図である。
図4D図4BのII−II断面図である。
図5A図4Aで流れる高周波電流の説明図である。
図5B図4Bで流れる高周波電流の説明図である。
図5C図4Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。
図5D図4Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
図6A】第2の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。
図6B】第2の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。
図7A】第3の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。
図7B図7AのI−I断面図である。
図7C図7Aの左側面図である。
図7D図7BのII−II断面図である。
図8A図7Aで流れる高周波電流の説明図である。
図8B図7Bで流れる高周波電流の説明図である。
図8C図7Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。
図8D図7Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
図9A図7Aにおける最大エッジ間距離を示す説明図である。
図9B図9AのI−I断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。
図9C図9AのII−II断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。
図10A】第3の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。
図10B】第3の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。
図11A】第4の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。
図11B図11AのI−I断面図である。
図11C図11Aの左側面図である。
図11D図11BのII−II断面図である。
図12A図11Aで流れる高周波電流の説明図である。
図12B図11Bで流れる高周波電流の説明図である。
図12C図11Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。
図12D図11Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
図13A図11Aにおける最大エッジ間距離を示す説明図である。
図13B図13AのI−I断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。
図13C図13AのII−II断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。
図14A】第4の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。
図14B】第4の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。
図15】従来の高周波伝送線路の構成(グランドビア数4本)を示す説明図である。
図16】従来の高周波伝送線路の他の構成(グランドビア数1本)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明にかかる各実施の形態においては、導体層やビアを銅箔、絶縁体を代表的なFR4を使用して図示しているが、決してこれに限ることはない。例えば、導体層やビアを金、絶縁体をセラミックやガラス、あるいは絶縁体の代替として半導体であるSiやSiGe、GaAs、InP等の材料にも適用可能であり、決してこれらに限るこがないことは言うまでもない。
【0018】
[第1の実施の形態]
まず、図1A図1Dを参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる高周波伝送線路10について説明する。図1Aは、第1の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。図1Bは、図1AのI−I断面図である。図1Cは、図1Aの左側面図である。図1Dは、図1BのII−II断面図である。
【0019】
本実施の形態にかかる高周波伝送線路10は、接地電位に接続された導体層である接地導体からなるグランドプレーン11Gと絶縁体あるいは半導体からなる絶縁層11Pとが交互に積層された多層配線基板11において、基板平面に沿って入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げて、最上層(基板上面)から最下層(基板底面)まで垂直方向に伝搬させるための高周波伝送線路である。この高周波伝送線路10は、例えば、10GHz〜100GHz以下の高速電気信号が多層配線基板11内を伝搬する電子機器や電子部品などに好適である。
【0020】
図1A図1Dに示すように、高周波伝送線路10は、主に、多層配線基板11、高周波信号線路12、高周波信号ビア14、グランドビア15から構成されている。
【0021】
高周波信号線路12は、金属などの導体からなり、多層配線基板11の最上層に線状に形成されて、先端が高周波信号ビア14の上端と接続されたマイクロストリップ線路である。
高周波信号ビア14は、金属などの導体からなり、多層配線基板11のうち、接地導体からなるグランドプレーン11Gが平面視略円形状に選択的に除去されたアンチパッド領域16の略中央を、多層配線基板11の最上層から最下層まで垂直方向に貫通して形成されたビアである。
【0022】
グランドビア15は、金属などの導体からなり、多層配線基板11のうち、アンチパッド領域16の外側に高周波信号ビア14を囲うように略円周状に複数点在配置されて、各グランドプレーン11Gと接続するとともに、多層配線基板11の最上層から最下層まで垂直方向に貫通して形成されたビアである。
これら高周波信号ビア14、グランドビア15、グランドプレーン11Gにより、擬似同軸線路構造が構成されている。
【0023】
本実施の形態は、多層配線基板11にグランドビア15を配置する際、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、グランドビア15の配置密度に粗密を与えるようにしたものである。
すなわち、多層配線基板11を、伸延方向Xにおいて高周波信号線路12を有する領域Aと、当該領域Aの残余からなる領域Bとに分割し、領域Aに配置されたグランドビア15の配置密度PAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置密度PBより高くなるよう、グランドビア15を配置している。
【0024】
図1Aでは、伸延方向Xと直交する直交方向Yに沿って、高周波信号ビア14を中心として、多層配線基板11を左右に2分割し、高周波信号線路12を有する左側の領域を領域Aとし、高周波信号線路12を有しない右側の領域を領域Bとしている。
また、図1Aの構成例では、領域Aに6つのグランドビア15を配置し、領域Bに2つのグランドビア15を配置している。したがって、高周波信号ビア14の周囲に配置されたグランドビア15の配置密度は、領域Aの配置密度PAが領域Bの配置密度PBより高くなっている。
【0025】
グランドビア15の配置状況については、配置密度PA,PBで定義するのではなく、アンチパッド領域16の外側に略円周状に配置された各グランドビア15の配置間隔で定義してもよい。
すなわち、領域Aに配置されたグランドビア15の配置間隔DAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置間隔DBより小さくなるよう、グランドビア15を配置してもよい。なお、領域A,B内におけるグランドビア15の配置間隔が異なる場合、それぞれの配置間隔の最小値を配置間隔DA,DBとして用いてもよい。
【0026】
図2Aは、図1Aで流れる高周波電流の説明図である。図2Bは、図1Bで流れる高周波電流の説明図である。図2Cは、図1Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。図2Dは、図1Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
【0027】
本実施の形態において、高周波信号は、高周波電流50とリターン電流51〜53が同時に流れることで伝搬される。これら高周波電流50とリターン電流51〜53は、表皮効果によって、導体表面を伝って流れる。すなわち、高周波電流50は、高周波信号線路12の表面から高周波信号ビア14の表面を流れる。
【0028】
これに対して、リターン電流51は、グランドビア15の表面を下側から上側に向かって流れる。また、リターン電流52は、多層配線基板11の内層に位置する内層グランドプレーン11Gにおいて、グランドビア15の表面からグランドプレーン11Gの下面、アンチパッド領域16側の内側端部、上面を介してグランドビア15の表面へ流れる。また、リターン電流53は、高周波信号線路12直下に位置する直下グランドプレーン11G、すなわち高周波信号線路12の底面グランドにおいて、グランドビア15の表面から直下グランドプレーン11Gの下面を介して内側端部へ流れた後、その内側端部に沿って高周波信号線路12直下まで流れ、その後に直下グランドプレーン11Gの上面を高周波電流50とは逆方向に流れる。
【0029】
このような電流分布において、高周波電流50とリターン電流51〜53との電流ループから決定されるインダクタンスLが上昇すると、擬似同軸線路構造の特性インピーダンスZが√(L/C)で記述されることから、高周波信号線路12のインピーダンスZ0と整合できなくなる。特に、図2Cに示すように、グランドビア15表面からグランドプレーン11G下面を介してアンチパッド領域16側の内側端部へ向かう多数のリターン電流52,53の電流パスが、全て電気的に並列接続されており、インダクタンスLの低減効果が現れる。この効果は、電気容量Cを高くした効果と等価であることが、特性インピーダンスを表す式√(L/C)から分かる。
【0030】
これにより、高周波信号ビア14と領域A側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ内側領域21における電気容量CAとして、領域Aに高い密度で配置されたグランドビア15の存在によって、実効的に高い電気容量を与えることと等価になる。このことは、高周波信号ビア14と領域B側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ外側領域22における電気容量CBとして低い容量を与えていることを意味する。このため、結果としてCA>CBの関係を与えていることになる。
【0031】
したがって、電気容量CA,CBの大小は、電界密度分布の大小に比例することから、高周波信号線路12に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号の反射や空間中への放射が抑制される。
【0032】
図3Aは、第1の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。図3Bは、第1の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。図3A,3Bにおいて、特性L1は、図15に示した従来の高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示し、特性L2は、本実施の形態にかかる高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示している。
【0033】
したがって、図3A図3Bから明らかなように、信号周波数10GHz以上において、反射損失および通過損失のいずれにおいても損失が改善されており、基板平面方向から垂直方向への屈曲部において、少なくとも信号周波数が10GHz〜60GHzの範囲の高周波信号を少ない通過損失および反射損失で伝搬できていることが分かる。
【0034】
[第1の実施形態の効果]
このように、本実施の形態は、多層配線基板11のうち、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、当該高周波信号線路12を有する領域Aに配置されたグランドビア15の配置密度PAを、当該領域Aの残余からなる領域Bに配置されたグランドビア15の配置密度PBより高くしたものである。
より具体的には、各グランドビア15を、アンチパッド領域16の外側に略円周状に配置し、領域Aに配置されたグランドビア15の配置間隔DAを、領域Bに配置されたグランドビア15の配置間隔DBより小さくしたものである。
【0035】
これにより、高周波信号線路12に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号が折り曲がる高周波信号線路12と高周波信号ビア14との接続点において、より効果的に、高周波信号の反射や空間中への放射を抑制することができ、10GHz以上の高周波信号を、少ない通過損失および反射損失で伝搬させることが可能となる。
【0036】
[第2の実施の形態]
次に、図4A図4Dを参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる高周波伝送線路10について説明する。図4Aは、第2の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。図4Bは、図4AのI−I断面図である。図4Cは、図4Aの左側面図である。図4Dは、図4BのII−II断面図である。
【0037】
第1の実施の形態では、高周波信号線路12がマイクロストリップ線路からなる場合を例として説明した。本実施の形態では、高周波信号線路12がグランデッドコプレーナ線路からなる場合について説明する。
【0038】
本実施の形態において、高周波信号線路12は、多層配線基板11の最上層に線状に形成された金属などの導体と、絶縁層11Pを介して最上層の直下に形成された直下グランドプレーン11Gからなる底面グランドとを有する、特性インピーダンスZ0のグランデッドコプレーナ線路から構成されている。
また、多層配線基板11の最上層には、上部グランドプレーン17が形成されている。この上部グランドプレーン17は、接地電位に接続された金属などの導体層からなり、当該導体層が高周波信号ビア14を中心として平面視略円環状に選択除去されてなる上部アンチパッド領域16Aを挟んで、高周波信号ビア14および高周波信号線路12の周囲に形成された接地導体である。
【0039】
本実施の形態にかかるその他の構造については、第1の実施の形態と同様であり、本実施の形態においても、多層配線基板11にグランドビア15を配置する際、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、グランドビア15の配置密度に粗密を与えるようにしたものである。
すなわち、多層配線基板11を、伸延方向Xにおいて高周波信号線路12を有する領域Aと、当該領域Aの残余からなる領域Bとに分割し、領域Aに配置されたグランドビア15の配置密度PAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置密度PBより高くなるよう、グランドビア15を配置している。
【0040】
図4Aの構成例では、領域Aに6つのグランドビア15を配置し、領域Bに2つのグランドビア15を配置している。したがって、高周波信号ビア14の周囲に配置されたグランドビア15の配置密度は、領域Aの配置密度PAが領域Bの配置密度PBより高くなっている。
【0041】
グランドビア15の配置状況については、配置密度PA,PBで定義するのではなく、アンチパッド領域16の外側に略円周状に配置された各グランドビア15の配置間隔で定義してもよい。
すなわち、領域Aに配置されたグランドビア15の配置間隔DAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置間隔DBより小さくなるよう、グランドビア15を配置してもよい。なお、領域A,B内におけるグランドビア15の配置間隔が異なる場合、それぞれの配置間隔の最小値を配置間隔DA,DBとして用いてもよい。
【0042】
図5Aは、図4Aで流れる高周波電流の説明図である。図5Bは、図4Bで流れる高周波電流の説明図である。図5Cは、図4Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。図5Dは、図4Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
【0043】
本実施の形態において、高周波信号は、高周波電流50とリターン電流51〜54が同時に流れることで伝搬される。これら高周波電流50とリターン電流51〜54は、表皮効果によって、導体表面を伝って流れる。すなわち、高周波電流50は、高周波信号線路12の表面から高周波信号ビア14の表面を流れる。
【0044】
これに対して、リターン電流51は、グランドビア15の表面を下側から上側に向かって流れる。また、リターン電流52は、多層配線基板11の内層に位置する内層グランドプレーン11Gにおいて、グランドビア15の表面からグランドプレーン11Gの下面、アンチパッド領域16側の内側端部、上面を介してグランドビア15の表面へ流れる。また、リターン電流53は、高周波信号線路12直下に位置する直下グランドプレーン11G、すなわち高周波信号線路12の底面グランドにおいて、グランドビア15の表面から直下グランドプレーン11Gの下面を介して内側端部へ流れた後、その内側端部に沿って高周波信号線路12直下まで流れ、その後に直下グランドプレーン11Gの上面を高周波電流50とは逆方向に流れる。また、リターン電流54は、上部グランドプレーン17において、グランドビア15の表面から上部グランドプレーン17の下面を介してアンチパッド領域16側の内側端部へ流れた後、その内側端部を高周波信号線路12と対向する端部まで流れ、その後にその端部を高周波電流50とは逆方向に流れる。
【0045】
このような電流分布において、高周波電流50とリターン電流51〜54との電流ループから決定されるインダクタンスLが上昇すると、擬似同軸線路構造の特性インピーダンスZが√(L/C)で記述されることから、高周波信号線路12のインピーダンスZ0と整合できなくなる。特に、図5Cに示すように、グランドビア15表面からグランドプレーン11G下面を介してアンチパッド領域16側の内側端部へ向かう多数のリターン電流53の電流パスが、全て電気的に並列接続されており、インダクタンスLの低減効果が現れる。この効果は、電気容量Cを高くした効果と等価であることが、特性インピーダンスを表す式√(L/C)から分かる。
【0046】
これにより、高周波信号ビア14と領域A側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ内側領域21における電気容量CAとして、領域Aに高い密度で配置されたグランドビア15の存在によって、実効的に高い電気容量を与えることと等価になる。このことは、高周波信号ビア14と領域B側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ外側領域22における電気容量CBとして低い容量を与えていることを意味する。このため、結果としてCA>CBの関係を与えていることになる。
【0047】
したがって、電気容量CA,CBの大小は、電界密度分布の大小に比例することから、高周波信号線路12に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号の反射や空間中への放射が抑制される。
【0048】
図6Aは、第2の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。図6Bは、第2の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。図6A,6Bにおいて、特性L1は、図15に示した従来の高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示し、特性L2は、本実施の形態にかかる高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示している。
【0049】
したがって、図6A図6Bから明らかなように、信号周波数10GHz以上において、反射損失および通過損失のいずれにおいても損失が改善されており、基板平面方向から垂直方向への屈曲部において、1少なくとも信号周波数が10GHz〜60GHzの範囲の高周波信号を少ない通過損失および反射損失で伝搬できていることが分かる。
【0050】
[第2の実施形態の効果]
このように、本実施の形態は、多層配線基板11のうち、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、当該高周波信号線路12を有する領域Aに配置されたグランドビア15の配置密度PAを、当該領域Aの残余からなる領域Bに配置されたグランドビア15の配置密度PBより高くしたものである。
より具体的には、各グランドビア15を、アンチパッド領域16の外側に略円周状に配置し、領域Aに配置されたグランドビア15の配置間隔DAを、領域Bに配置されたグランドビア15の配置間隔DBより小さくしたものである。
【0051】
これにより、高周波信号線路12がグランデッドコプレーナ線路からなる場合であっても、入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号が折り曲がる高周波信号線路12と高周波信号ビア14との接続点において高周波信号の反射や空間中への放射を抑制することができる。
【0052】
[第3の実施の形態]
次に、図7A図7Dを参照して、本発明の第3の実施の形態にかかる高周波伝送線路10について説明する。図7Aは、第3の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。図7Bは、図7AのI−I断面図である。図7Cは、図7Aの左側面図である。図7Dは、図7BのII−II断面図である。
【0053】
第1の実施の形態では、マイクロストリップ線路からなる高周波信号線路12が、アンチパッド領域16において等幅で高周波信号ビア14まで伸延する場合を例として説明した。本実施の形態では、アンチパッド領域16において、マイクロストリップ線路からなる高周波信号線路12に幅広部13を設けた場合について説明する。
【0054】
本実施の形態は、第1および第2の実施の形態と同様に、多層配線基板11にグランドビア15を配置する際、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、グランドビア15の配置密度に粗密を与えるようにしたものである。
すなわち、多層配線基板11を、伸延方向Xにおいて高周波信号線路12を有する領域Aと、当該領域Aの残余からなる領域Bとに分割し、領域Aに配置されたグランドビア15の配置密度PAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置密度PBより高くなるよう、グランドビア15を配置している。
【0055】
図7Aの構成例では、領域Aに6つのグランドビア15を配置し、領域Bに2つのグランドビア15を配置している。したがって、高周波信号ビア14の周囲に配置されたグランドビア15の配置密度は、領域Aの配置密度PAが領域Bの配置密度PBより高くなっている。
【0056】
グランドビア15の配置状況については、配置密度PA,PBで定義するのではなく、アンチパッド領域16の外側に略円周状に配置された各グランドビア15の配置間隔で定義してもよい。
すなわち、領域Aに配置されたグランドビア15の配置間隔DAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置間隔DBより小さくなるよう、グランドビア15を配置してもよい。なお、領域A,B内におけるグランドビア15の配置間隔が異なる場合、それぞれの配置間隔の最小値を配置間隔DA,DBとして用いてもよい。
【0057】
図8Aは、図7Aで流れる高周波電流の説明図である。図8Bは、図7Bで流れる高周波電流の説明図である。図8Cは、図7Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。図8Dは、図7Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
【0058】
本実施の形態において、高周波信号は、高周波電流50とリターン電流51〜53が同時に流れることで伝搬される。これら高周波電流50とリターン電流51〜53は、表皮効果によって、導体表面を伝って流れる。すなわち、高周波電流50は、高周波信号線路12の表面から高周波信号ビア14の表面を流れる。
【0059】
これに対して、リターン電流51は、グランドビア15の表面を下側から上側に向かって流れる。また、リターン電流52は、多層配線基板11の内層に位置する内層グランドプレーン11Gにおいて、グランドビア15の表面からグランドプレーン11Gの下面、アンチパッド領域16側の内側端部、上面を介してグランドビア15の表面へ流れる。また、リターン電流53は、高周波信号線路12直下に位置する直下グランドプレーン11G、すなわち高周波信号線路12の底面グランドにおいて、グランドビア15の表面から直下グランドプレーン11Gの下面を介して内側端部へ流れた後、その内側端部に沿って高周波信号線路12直下まで流れ、その後に直下グランドプレーン11Gの上面を高周波電流50とは逆方向に流れる。
【0060】
このような電流分布において、高周波電流50とリターン電流51〜53との電流ループから決定されるインダクタンスLが上昇すると、擬似同軸線路構造の特性インピーダンスZが√(L/C)で記述されることから、高周波信号線路12のインピーダンスZ0と整合できなくなる。特に、図8Cに示すように、グランドビア15表面からグランドプレーン11G下面を介してアンチパッド領域16側の内側端部へ向かう多数のリターン電流52,53の電流パスが、全て電気的に並列接続されており、インダクタンスLの低減効果が現れる。この効果は、電気容量Cを高くした効果と等価であることが、特性インピーダンスを表す式√(L/C)から分かる。
【0061】
これにより、高周波信号ビア14と領域A側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ内側領域21における電気容量CAとして、領域Aに高い密度で配置されたグランドビア15の存在によって、実効的に高い電気容量を与えることと等価になる。このことは、高周波信号ビア14と領域B側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ外側領域22における電気容量CBとして低い容量を与えていることを意味する。このため、結果としてCA>CBの関係を与えていることになる。
【0062】
これに加えて、本実施の形態は、高周波信号線路12のうち、アンチパッド領域16内に位置する部分に、線路幅が拡幅された幅広部13を有している。
この幅広部13は、平面視略六角形状をなしており、アンチパッド領域16内に収まる範囲で、高周波信号線路12の線路幅が直交方向(紙面上下方向)において双方向に等しく一定幅だけ拡幅されたものである。図7Aの例では、幅広部13のうち伸延方向Xにおける幅広部13の先端部が、高周波信号線路12とアンチパッド領域16外周縁とが交差する交点Pを円弧中心とした、伸延方向Xにおける高周波信号ビア14の端点Qを通る円弧形状をなしている。
【0063】
本実施の形態は、この幅広部13とその周囲に位置する各接地導体との最大エッジ間距離について、伸延方向Xにおける最大エッジ間距離と直交方向Yにおける最大エッジ間距離との間に対して、大小を与えるようにしたものである。
図9Aは、図7Aにおける最大エッジ間距離を示す説明図である。図9Bは、図9AのI−I断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。図9Cは、図9AのII−II断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。
【0064】
図9A図9Cに示すように、幅広部13の側端部と高周波信号線路12(幅広部13)直下に位置する直下グランドプレーン11Gのアンチパッド領域16側の内側端部との間のエッジ間距離の最大値をD1とし、高周波信号線路12(幅広部13)と幅広部13の側端部と直下グランドプレーン11Gのアンチパッド領域16側の内側端部との間のエッジ間距離の最大値をD2とした場合、D2>D1となるよう幅広部13が形成されている。
【0065】
この場合、図9A図9Cに示すように、実際のD1,D2については、高周波信号線路12と直下グランドプレーン11Gとの層間距離D3が存在するため、斜め方向の最大エッジ間距離となるが、D1,D2において層間距離D3が等しいため、D1として直交方向Yに沿った最大エッジ間距離を用い、D2として伸延方向Xに沿った最大エッジ間距離を用いても、その大小関係は変化しない。
したがって、D2に発生する電気容量、すなわち折り曲げ内側領域21における電気容量CAが、D1に発生する電気容量、すなわち折り曲げ外側領域22における電気容量CBより大きくなる。
【0066】
このため、第1の実施の形態と同様に、多層配線基板11にグランドビア15を配置する際、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、グランドビア15の配置密度に粗密を与えるのに加えて、本実施の形態では、幅広部13とその周囲に位置する各接地導体との最大エッジ間距離について、伸延方向Xにおける最大エッジ間距離と直交方向Yにおける最大エッジ間距離との間に対して、大小を与えるようにしたので、より顕著にCA>CBとすることができる。
【0067】
したがって、電気容量CA,CBの大小は、電界密度分布の大小に比例することから、高周波信号線路12に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、第1の実施の形態に比較して、より効果的に高周波信号の反射や空間中への放射が抑制される。
【0068】
図10Aは、第3の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。図10Bは、第3の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。図10A,10Bにおいて、特性L1は、図15に示した従来の高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示し、特性L2は、本実施の形態にかかる高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示している。
【0069】
したがって、図10A図10Bから明らかなように、信号周波数10GHz以上において、反射損失および通過損失のいずれにおいても損失が改善されており、基板平面方向から垂直方向への屈曲部において、少なくとも信号周波数が10GHz〜60GHzの範囲の高周波信号を少ない通過損失および反射損失で伝搬できていることが分かる。
【0070】
[第3の実施形態の効果]
このように、本実施の形態は、第1の実施の形態に加えて、高周波信号線路12のうち、アンチパッド領域16の外周縁と交差する交点Pから端点Qまでの部分において線路幅が拡張された幅広部13を設け、高周波信号線路12の直下に位置する直下グランドプレーン11Gにおけるアンチパッド領域16側の内側端部のうち、伸延方向Xと直交する直交方向Yに沿った、幅広部13の側端部と内側端部との間の最大エッジ間距離D1が、伸延方向Xに沿った、端点Pと内側端部との間の最大エッジ間距離D2より小さくしたものである。
【0071】
これにより、高周波信号線路12に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、第1の実施の形態よりさらに、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号が折り曲がる高周波信号線路12と高周波信号ビア14との接続点において、より効果的に、高周波信号の反射や空間中への放射を抑制することができる。
【0072】
[第4の実施の形態]
次に、図11A図11Dを参照して、本発明の第4の実施の形態にかかる高周波伝送線路10について説明する。図11Aは、第4の実施の形態にかかる高周波伝送線路の構成を示す上面図である。図11Bは、図11AのI−I断面図である。図11Cは、図11Aの左側面図である。図11Dは、図11BのII−II断面図である。
【0073】
第3の実施の形態では、高周波信号線路12がマイクロストリップ線路からなる場合を例として説明した。本実施の形態では、第2の実施の形態と同様、高周波信号線路12がグランデッドコプレーナ線路からなる場合について説明する。すなわち、本実施の形態は、第3の実施の形態に対して、第2の実施の形態を適用したものに相当する。
【0074】
本実施の形態において、高周波信号線路12は、第2の実施の形態と同様、多層配線基板11の最上層に線状に形成された金属などの導体と、絶縁層11Pを介して最上層の直下に形成された直下グランドプレーン11Gからなる底面グランドとを有する、特性インピーダンスZ0のグランデッドコプレーナ線路から構成されている。
また、多層配線基板11の最上層には、上部グランドプレーン17が形成されている。この上部グランドプレーン17は、接地電位に接続された金属などの導体層からなり、当該導体層が高周波信号ビア14を中心として平面視略円環状に選択除去されてなる上部アンチパッド領域16Aを挟んで、高周波信号ビア14および高周波信号線路12の周囲に形成された接地導体である。
【0075】
また、本実施の形態は、第1〜第3の実施の形態と同様に、多層配線基板11にグランドビア15を配置する際、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、グランドビア15の配置密度に粗密を与えるようにしたものである。
すなわち、多層配線基板11を、伸延方向Xにおいて高周波信号線路12を有する領域Aと、当該領域Aの残余からなる領域Bとに分割し、領域Aに配置されたグランドビア15の配置密度PAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置密度PBより高くなるよう、グランドビア15を配置している。
【0076】
図11Aの構成例では、領域Aに6つのグランドビア15を配置し、領域Bに2つのグランドビア15を配置している。したがって、高周波信号ビア14の周囲に配置されたグランドビア15の配置密度は、領域Aの配置密度PAが領域Bの配置密度PBより高くなっている。
【0077】
グランドビア15の配置状況については、配置密度PA,PBで定義するのではなく、アンチパッド領域16の外側に略円周状に配置された各グランドビア15の配置間隔で定義してもよい。
すなわち、領域Aに配置されたグランドビア15の配置間隔DAが、領域Bに配置されたグランドビア15の配置間隔DBより小さくなるよう、グランドビア15を配置してもよい。なお、領域A,B内におけるグランドビア15の配置間隔が異なる場合、それぞれの配置間隔の最小値を配置間隔DA,DBとして用いてもよい。
【0078】
図12Aは、図11Aで流れる高周波電流の説明図である。図12Bは、図11Bで流れる高周波電流の説明図である。図12Cは、図11Dのグランドプレーン下面で流れる高周波電流の説明図である。図12Dは、図11Dの直下グランドプレーン上面で流れる高周波電流の説明図である。
【0079】
本実施の形態において、高周波信号は、高周波電流50とリターン電流51〜54が同時に流れることで伝搬される。これら高周波電流50とリターン電流51〜54は、表皮効果によって、導体表面を伝って流れる。すなわち、高周波電流50は、高周波信号線路12の表面から高周波信号ビア14の表面を流れる。
【0080】
これに対して、リターン電流51は、グランドビア15の表面を下側から上側に向かって流れる。また、リターン電流52は、多層配線基板11の内層に位置する内層グランドプレーン11Gにおいて、グランドビア15の表面からグランドプレーン11Gの下面、アンチパッド領域16側の内側端部、上面を介してグランドビア15の表面へ流れる。また、リターン電流53は、高周波信号線路12直下に位置する直下グランドプレーン11G、すなわち高周波信号線路12の底面グランドにおいて、グランドビア15の表面から直下グランドプレーン11Gの下面を介して内側端部へ流れた後、その内側端部に沿って高周波信号線路12直下まで流れ、その後に直下グランドプレーン11Gの上面を高周波電流50とは逆方向に流れる。また、リターン電流54は、上部グランドプレーン17において、グランドビア15の表面から上部グランドプレーン17の下面を介してアンチパッド領域16側の内側端部へ流れた後、その内側端部を高周波信号線路12と対向する端部まで流れ、その後にその端部を高周波電流50とは逆方向に流れる。
【0081】
このような電流分布において、高周波電流50とリターン電流51〜54との電流ループから決定されるインダクタンスLが上昇すると、擬似同軸線路構造の特性インピーダンスZが√(L/C)で記述されることから、高周波信号線路12のインピーダンスZ0と整合できなくなる。特に、図12Cに示すように、グランドビア15表面からグランドプレーン11G下面を介してアンチパッド領域16側の内側端部へ向かう多数のリターン電流53の電流パスが、全て電気的に並列接続されており、インダクタンスLの低減効果が現れる。この効果は、電気容量Cを高くした効果と等価であることが、特性インピーダンスを表す式√(L/C)から分かる。
【0082】
これにより、高周波信号ビア14と領域A側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ内側領域21における電気容量CAとして、領域Aに高い密度で配置されたグランドビア15の存在によって、実効的に高い電気容量を与えることと等価になる。このことは、高周波信号ビア14と領域B側の接地電位との間の電気容量、すなわち折り曲げ外側領域22における電気容量CBとして低い容量を与えていることを意味する。このため、結果としてCA>CBの関係を与えていることになる。
【0083】
これに加えて、本実施の形態は、第3の実施の形態と同様、高周波信号線路12のうち、アンチパッド領域16内に位置する部分に、線路幅が拡幅された幅広部13を有している。
この幅広部13は、平面視略六角形状をなしており、アンチパッド領域16内に収まる範囲で、高周波信号線路12の線路幅が直交方向(紙面上下方向)において双方向に等しく一定幅だけ拡幅されたものである。図11Aの例では、幅広部13のうち伸延方向Xにおける幅広部13の先端部が、高周波信号線路12とアンチパッド領域16外周縁とが交差する交点Pを円弧中心とした、伸延方向Xにおける高周波信号ビア14の端点Qを通る円弧形状をなしている。
【0084】
本実施の形態は、この幅広部13とその周囲に位置する各接地導体との最大エッジ間距離について、伸延方向Xにおける最大エッジ間距離と直交方向Yにおける最大エッジ間距離との間に対して、大小を与えるようにしたものである。
図13Aは、図11Aにおける最大エッジ間距離を示す説明図である。図13Bは、図13AのI−I断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。図13Cは、図13AのII−II断面における最大エッジ間距離を示す説明図である。
【0085】
図13A図13Cに示すように、幅広部13の側端部と高周波信号線路12(幅広部13)直下に位置する直下グランドプレーン11Gのアンチパッド領域16側の内側端部との間のエッジ間距離の最大値をD1とし、高周波信号線路12(幅広部13)と幅広部13の側端部と直下グランドプレーン11Gのアンチパッド領域16側の内側端部との間のエッジ間距離の最大値をD2とした場合、D2>D1となるよう幅広部13が形成されている。
【0086】
この場合、図13A図13Cに示すように、実際のD1,D2については、高周波信号線路12と直下グランドプレーン11Gとの層間距離D3が存在するため、斜め方向の最大エッジ間距離となるが、D1,D2において層間距離D3が等しいため、D1として直交方向Yに沿った最大エッジ間距離を用い、D2として伸延方向Xに沿った最大エッジ間距離を用いても、その大小関係は変化しない。
したがって、D2に発生する電気容量、すなわち折り曲げ内側領域21における電気容量CAが、D1に発生する電気容量、すなわち折り曲げ外側領域22における電気容量CBより大きくなる。
【0087】
このため、第1の実施の形態と同様に、多層配線基板11にグランドビア15を配置する際、高周波信号線路12の伸延方向Xにおいて、グランドビア15の配置密度に粗密を与えるのに加えて、第3の実施の形態と同様に、幅広部13とその周囲に位置する各接地導体との最大エッジ間距離について、伸延方向Xにおける最大エッジ間距離と直交方向Yにおける最大エッジ間距離との間に対して、大小を与えるようにしたので、より顕著にCA>CBとすることができる。
【0088】
したがって、電気容量CA,CBの大小は、電界密度分布の大小に比例することから、高周波信号線路12に入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、第1の実施の形態に比較して、より効果的に高周波信号の反射や空間中への放射が抑制される。
【0089】
図14Aは、第4の実施の形態で得られる反射損失の周波数特性を示すグラフである。図14Bは、第4の実施の形態で得られる通過損失の周波数特性を示すグラフである。図14A,14Bにおいて、特性L1は、図15に示した従来の高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示し、特性L2は、本実施の形態にかかる高周波伝送線路構造による3次元電磁界シミュレーション結果を示している。
【0090】
したがって、図14A図14Bから明らかなように、信号周波数10GHz以上において、反射損失および通過損失のいずれにおいても損失が改善されており、基板平面方向から垂直方向への屈曲部において、少なくとも信号周波数が10GHz〜60GHzの範囲の高周波信号を少ない通過損失および反射損失で伝搬できていることが分かる。
【0091】
[第4の実施形態の効果]
このように、本実施の形態は、第1の実施の形態に加えて、第3の実施の形態と同様に、高周波信号線路12のうち、アンチパッド領域16の外周縁と交差する交点Pから端点Qまでの部分において線路幅が拡張された幅広部13を設け、高周波信号線路12の直下に位置する直下グランドプレーン11Gにおけるアンチパッド領域16側の内側端部のうち、伸延方向Xと直交する直交方向Yに沿った、幅広部13の側端部と内側端部との間の最大エッジ間距離D1が、伸延方向Xに沿った、端点Pと内側端部との間の最大エッジ間距離D2より小さくしたものである。
【0092】
これにより、高周波信号線路12がグランデッドコプレーナ線路からなる場合であっても、入力された高周波信号を、基板平面方向から垂直方向に折り曲げる際、第1の実施の形態よりさらに、折り曲げ外側領域22では電気容量CBが低減されて電界密度分布が低くなり、折り曲げ内側領域21では電気容量CAが高くなって電界密度分布が上昇する。したがって、高周波信号が折り曲がる高周波信号線路12と高周波信号ビア14との接続点において、より効果的に、高周波信号の反射や空間中への放射を抑制することができる。
【0093】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0094】
10…高周波伝送線路、11…多層配線基板、11G…グランドプレーン、11P…絶縁層、12…高周波信号線路、13…幅広部、14…高周波信号ビア、15…グランドビア、16…アンチパッド領域、17…上部グランドプレーン、21…折り曲げ内側領域、22…折り曲げ外側領域、A,B…領域、PA,PB…配置密度、DA,DB…配置間隔、CA,CB…電気容量、D1,D2…最大エッジ間距離、D3…層間距離、P…交点、Q…端点、X…伸延方向、Y…直交方向、Z…垂直方向。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図15
図16