【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シクロデキストリンと、前記シクロデキストリンに串刺し状に包接されるポリエチレングリコールと、前記ポリエチレングリコールの両末端に配置され前記シクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサン、並びに、ポリフェノール系酸化防止剤を含有
し、前記ポリフェノール系酸化防止剤は、ロズマリン酸であり、前記ポリフェノール系酸化防止剤の含有量が、ポリロタキサンに対して0.001〜1重量%である乾燥した固体状のポリロタキサン組成物である。
以下に、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、ポリロタキサンにポリフェノール系酸化防止剤を添加することにより、保存中のシクロデキストリンの遊離が少なく、優れた保存安定性を有するポリロタキサン組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のポリロタキサン組成物は、シクロデキストリンと、前記シクロデキストリンに串刺し状に包接されるポリエチレングリコールと、前記ポリエチレングリコールの両末端に配置され前記シクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンを含有する。
【0011】
ポリロタキサンは通常、シクロデキストリンとPEGとを混合し、シクロデキストリン分子の開口部に前記PEGが串刺し状に包接された擬ポリロタキサンとし、前記擬ポリロタキサンの両末端を封鎖基で封鎖して、シクロデキストリンが串刺し状態から脱離しないように調製することにより得られる。
【0012】
本発明のポリロタキサン組成物において、前記PEGの重量平均分子量は、1000〜50万であることが好ましく、1万〜30万であることがより好ましく、1万〜10万であることがさらに好ましい。前記PEGの重量平均分子量が1000未満であると、得られる架橋ポリロタキサンが特性の低いものとなることがある。前記PEGの重量平均分子量が50万を超えると、ポリロタキサンの保存安定性が低下する場合がある。
なお、本明細書において、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、PEG換算により求められる値である。GPCによってPEG換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、TSKgel SuperAWM−H(東ソー社製)などが挙げられる。
【0013】
前記PEGは、好ましくは、両末端に反応性基を有する。前記PEGの両末端は、従来公知の方法により反応性基を導入することが出来る。
前記PEGの両末端に有する反応性基は、採用する封鎖基の種類により適宜変更することができ、特に限定されないが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などが挙げられ、とりわけ、カルボキシル基が好ましい。前記PEGの両末端にカルボキシル基を導入する方法としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)と次亜塩素酸ナトリウムとを用いてPEGの両末端を酸化させる方法などが挙げられる。
【0014】
前記シクロデキストリンとしては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。なかでも、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、および、γ−シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、包接性の観点より、α−シクロデキストリンであることがより好ましい。これらのシクロデキストリンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
前記ポリロタキサンの包接率は、用途や使用目的にもよるが、6〜60%であることが好ましい。前記ポリロタキサンの包接率が6%未満であると、得られる架橋ポリロタキサンに滑車効果が発現しないことがある。前記ポリロタキサンの包接率が60%を超えると、環状分子であるシクロデキストリンが密に配置され過ぎてシクロデキストリンの可動性が低下することがある。シクロデキストリンが適度な可動性を有し、得られる架橋ポリロタキサンに良好な滑車効果を発現させるためには、前記ポリロタキサンの包接率は15〜40%であることがより好ましく、20〜30%であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において前記包接率とは、PEGへのシクロデキストリンの最大包接量に対するPEGを包接しているシクロデキストリンの包接量の割合であり、PEGとシクロデキストリンの混合比、水性媒体の種類などを変化させることにより、任意に調整することが出来る。また、前記最大包接量とは、PEG鎖の繰り返し単位2つに対し、シクロデキストリンが1つ包接された最密包接状態とした場合のシクロデキストリンの個数をいう。
【0016】
前記ポリロタキサンの包接率は、
1H−NMRにより測定することが出来る。具体的には、前記包接率は、DMSO−d
6にポリロタキサンを溶解し、NMR測定装置(バリアン・テクノロジーズ・ジャパン社製、「VARIAN Mercury−400BB」)により測定し、4〜6ppmのシクロデキストリン由来の積分値と3〜4ppmのシクロデキストリンおよびPEGの積分値の比較で算出することができる。
【0017】
本発明のポリロタキサン組成物におけるポリフェノール系酸化防止剤としては、例えば、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、タンニン酸、ガロタンニン、エラジタンニン、カフェー酸、ジヒドロカフェー酸、クロロゲン酸、イソクロロゲン酸、ゲンチシン酸、ホモゲンチシン酸、没食子酸、エラグ酸、ロズマリン酸、ルチン、クエルセチン、クエルセタギン、クエルセタゲチン、ゴシペチン、アントシアニン、ロイコアントシアニン、プロアントシアニジン、エノシアニンなどが挙げられる。なかでも、長期の保存安定性において高い安定化効果を示すため、ロズマリン酸、没食子酸、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、および、エピガロカテキンガレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
これらのポリフェノール系酸化防止剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
さらに、前記ポリフェノール系酸化防止剤は、植物に広く含有されている天然化合物であるため、人体に対する安全性が高いという好ましい特徴を有する。このため、本発明のポリロタキサン組成物は、酸化防止剤としてポリフェノール系酸化防止剤を含有することにより、高い保存安定性を有するだけでなく、得られる架橋ポリロタキサンを、化粧料、バイオマテリアルなど人体に直接作用するような用途において、優れた品質安定性と安全性を備えた材料として使用することができる。また、ポリフェノール系酸化防止剤は抗菌効果にも優れており、架橋ポリロタキサンが応用された最終製品の抗菌効果にも期待することができる。
【0019】
本発明のポリロタキサン組成物において、前記ポリフェノール系酸化防止剤の含有量は、ポリロタキサンに対して、0.001〜5重量%であることが好ましく、0.005〜2重量%であることがより好ましく、0.01〜1重量%であることがさらに好ましい。前記ポリフェノール系酸化防止剤の含有量が0.001重量%未満であると、保存安定性の向上に効果が見られない場合がある。前記ポリフェノール系酸化防止剤の含有量が5重量%を超えても、それ以上の効果が得られず経済的でない。
【0020】
本発明のポリロタキサン組成物を調製する方法は特に限定されないが、乾燥した固体状のポリロタキサン組成物を得る場合、ポリロタキサンとポリフェノール系酸化防止剤とを均一に混合するため、溶媒にポリロタキサンとポリフェノール系酸化防止剤とを投入し、攪拌混合することによりポリロタキサンとポリフェノール系酸化防止剤と溶媒とを含む混合液を調製し、該混合液を乾燥する方法が、保存安定性が優れるポリロタキサン組成物が得られるため好ましく、ポリロタキサン、ポリフェノール系酸化防止剤のうち少なくとも一方が溶媒に溶解している混合液を乾燥する方法がさらに保存安定性に優れるポリロタキサンが得られるためより好ましい。
【0021】
ポリロタキサンとポリフェノール系酸化防止剤と溶媒とを含む混合液の調製において、PEGを包接するシクロデキストリンが修飾基などで修飾されていない場合、少なくともポリロタキサンを溶解させる場合に使用できる溶媒としては、DMSO、アルカリ水溶液などが挙げられる。
【0022】
また、ポリロタキサンとポリフェノール系酸化防止剤と溶媒とを含む混合液の調製において、ポリフェノール系酸化防止剤が溶媒に溶解しない場合、事前にこれらを微細な粒子として混合することによって、より保存安定性に優れたポリロタキサン組成物を得ることができる。ポリフェノール系酸化防止剤を微細な粒子とする方法は、従来公知の方法を使用することができ、例えば、ボールミル、ピンミルなどの粉砕機による機械的粉砕、晶析などによる微細化などが挙げられる。
【0023】
前記ポリフェノール系酸化防止剤を微細な粒子とする場合、前記ポリフェノール系酸化防止剤の体積平均粒子径は、0.01〜100μmとすることが好ましく、0.1〜30μmとすることがより好ましく、0.1〜10μmとすることがさらに好ましい。前記ポリフェノール系酸化防止剤の体積平均粒子径を0.01μm未満にする場合、粉砕や晶析による調整が難しいだけで無く、それ以上の保存安定性の向上効果が無い。前記ポリフェノール系酸化防止剤の体積平均粒子径が100μmを超える場合は、得られるポリロタキサン組成物中に均一に分散せず、保存安定性の向上効果が低下する場合がある。
なお、前記ポリフェノール系酸化防止剤の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することが出来る。
【0024】
ポリロタキサンとポリフェノール系酸化防止剤と溶媒とを含む混合液を乾燥する方法としては、減圧乾燥、凍結乾燥など従来公知の方法を用いることができる。
【0025】
前記乾燥における乾燥温度は、使用する乾燥装置などにより異なるが、たとえば棚段式減圧乾燥機を使用した場合、ポリロタキサンの分解を誘発するラジカルの発生を抑制するため、20〜100℃であることが好ましく、40〜90℃であることがより好ましく、40〜80℃であることがさらに好ましい。前記乾燥温度が20℃未満であると、乾燥が不充分となる場合がある。前記乾燥温度が100℃を超えると、ポリロタキサンが分解し、包接率が低下するおそれがある。
【0026】
前記乾燥における系の圧力は特に限定されないが、通常、大気圧に近い圧力で乾燥を行う。また、減圧下で乾燥することも可能であり、大気圧以下の圧力で乾燥を行うことが好ましい。