特許第6013347号(P6013347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013347
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】熱電モジュールとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/32 20060101AFI20161011BHJP
   H01L 35/08 20060101ALI20161011BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20161011BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   H01L35/32 A
   H01L35/08
   H01L35/34
   H02N11/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-535569(P2013-535569)
(86)(22)【出願日】2011年10月26日
(65)【公表番号】特表2013-545298(P2013-545298A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】IB2011054781
(87)【国際公開番号】WO2012056411
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年10月22日
(31)【優先権主張番号】10189025.9
(32)【優先日】2010年10月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン,マダリナ アンドレーア
(72)【発明者】
【氏名】ハース,フランク
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−118297(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/115776(WO,A1)
【文献】 特表2010−510682(JP,A)
【文献】 特表2000−511351(JP,A)
【文献】 特表2013−500608(JP,A)
【文献】 特開平07−106642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00−34
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に電気的に接触連結されたプロセス熱電脚部をコーティングにより電気絶縁性固体材料で覆い、該電気絶縁性固体材料を有するコーティング膜に被覆金属の層を塗布することを特徴とする熱電モジュールの製造方法。
【請求項2】
直列に接触連結された熱電脚部に、上記電気絶縁性固体材料の溶液または懸濁液または溶融体または蒸気または粉末を塗布して上記熱電脚部を電気絶縁性固体材料でコーティングする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記電気絶縁性固体材料が、吹付法もしくは浸漬法、ブラシ塗布法、蒸着法、スパッタリングまたはCVD法で塗布される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記電気絶縁性固体材料が、酸化物、窒化物、ケイ酸塩、セラミックス、ガラス、無機または有機ポリマーから選ばれる請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記電気絶縁性固体材料が、マイカまたは耐熱性有機ポリマーから選ばれる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記被覆金属の層が、吹付法、電解めっき法、スパッタリング法またはPVD、CVDまたはMOCVD法で形成される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
金属の層が、吹付法、電解めっき法、スパッタリング法またはPVD、CVDまたはMOCVD法で塗布されて金属塗膜が得られ、及び該金属膜に残留する空隙が、その後のセラミックのコーティングまたは空隙封鎖材料の浸透により除かれる請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記熱電脚部が、溶接、はんだ付け、吹き付けまたは加圧により相互に電気的に接触連結されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
直列に電気的に接触連結された熱電脚部が電気絶縁性固体材料でコーティングにより覆われ、及び一層の被覆金属層が電気絶縁性固体材料のコーティング膜に塗布されている熱電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電モジュールとその製造方法、またその方法で得られる熱電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術の熱電モジュール(TEM)は、電気的に直列に連結され、熱的には並列に連結されたp型脚部とn型脚部とからなる。
【0003】
図1はそのようなモジュールを示し、図中でQinは入熱を示しし、Qoutは出熱を示す。
【0004】
従来の構造は二枚のセラミック板からなり、この間に個々の脚部が交互に置かれている。図2に示すように、二つの脚部はそれぞれ端面で電気的に接続され、p型脚部とn型脚部は、バリアー層(S)とソルダー(L)と電気接点(K)の順の配列で接続されている。
【0005】
通常は、この(導電性)接触連結部に加えて、バリアー層またはソルダー層として働くいろいろな他の層が実際の材料に設けられている。しかしながら、二つの脚部の電気接続は、最終的には金属ブリッジ(Fe、Ni、Al、Pt、Cu、Zu、Ag、Au、スチールや真鍮などの合金、その他からなる)により達成される。
【0006】
全体構造に安定性を付与し、またすべての数の脚部にわたって必要な実質的に均一である熱的カップリングを保証するためには、キャリアプレートが必要となる。通常このために、剛直なセラミックが、例えば酸化物または窒化物からなる、より具体的にはAl2O3、SiO2またはAlNからなる剛直セラミックが用いられる。これらの材料は、安定性だけでなく電子的な電気絶縁にも寄与し、また適当な熱安定性をもっている必要がある。またこれらのセラミック板は電気絶縁も行う。この全体構造が熱電モジュール(TEM)を形成する。
【0007】
熱源と放熱板の間に置かれた複数のTEMは電気的に連結されて、通常熱電発電機を形成する。
【0008】
350℃を越える高温の分野で使用するためには、ほとんどの熱電材料を、シールすることにより昇華または気化による材料の減量から、また外部媒体、たとえば空気による酸化等の汚染による破壊や損傷から保護する必要がある。このため、例えばJP2200632723に記載のように、TEMは通常、金属ハウジングで密封されている。
【0009】
この典型的な構造には、一連の欠点が伴う。セラミックや接続部には、一定の値までしか機械的な力をかけることができない。機械的及び/又は熱的なストレスは、容易に接触連結部の割れまたは脱離を引き起こし、全体のモジュールを使用できなくすることがある。
【0010】
また、絶縁板/導電体(電極)/TE材料/電極/絶縁板の層配列をもつ従来の構造にも、この熱交換器の平面状の表面でしか熱電モジュールに接続できない用途上の制限が加わる。
【0011】
十分で最適である熱流を保証するためには、モジュール表面と熱源/放熱板の間が密に結合していることが好ましい。このためにはモジュール全部品の一体的な結合が重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、既知の熱電モジュールの欠点を克服することができ、熱的カップリングが適性化されて熱移動が改善され、熱電モジュールの封止が容易でいろいろな方法で可能となる熱電モジュールとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、本目的は、直列に電気的に接触連結されたプロセス熱電脚をコーティングして電気絶縁性固体材料で覆うことを特徴とする熱電モジュールの製造方法により達成される。
【0014】
本目的はまた、上記方法で得られる熱電モジュールにより達成される。
【0015】
本目的はまた、直列に電気的に接触連結された熱電脚部をコーティングにより電気絶縁性固体材料で覆った熱電モジュールにより達成される。
【0016】
本発明は、モジュールの構造とデザインに関して複数の改良を提案するものであって、これらの提案により、熱的カップリングの適正化による熱流動の改善とこのモジュールまたはTEGの容易でいろいろな方法での封止が可能となる。
【0017】
本発明によれば、「コーティングにより覆う」は、電力の供給のためのまた熱電モジュールから電力を運搬するための電気接点連結部以外の、直列に接触連結された熱電脚部の全体の熱電モジュールを完全に覆うコーティングをいう。この熱電モジュールは、したがって、全ての側面が電気絶縁性固体材料で覆われている。特に、図2に示すように電気接点で連結された熱電製のn型およびp型材料からなる構造は、本発明に方法でコーティングされて覆われる。したがってこのコーティングは、図1に示す、熱電モジュールを形成する個々の脚部が交互に設けられた二枚のセラミック板の内部に存在していてもよい。
【0018】
本発明ではコーティングを行うため、本発明により非平面的な構造の熱電脚部をコーティングすることもできる。
【0019】
直列に接触連結された熱電脚部に、電気絶縁性固体材料の溶液または懸濁液または溶融物または蒸気または粉末を塗布して、熱電脚部を電気絶縁性固体材料でコーティングすることが好ましい。
【0020】
吹付法または浸漬法、ブラシ塗布法、蒸着法、スパッタリングまたはCVD法で固体材料を塗布することが好ましい。
【0021】
電気絶縁性固体材料は、酸化物、窒化物、ケイ酸塩、セラミックス、ガラス、無機または有機ポリマーから選ばれることが好ましい。例えば、セラミックスは酸化物であっても窒化物であってもよい。例えば、有機ポリマーは、ポリイミド(例えば、カプトンR)などの耐熱性有機ポリマーであってもよく、例えばフォルタフィックスRSP650ブラックのようなシリコーン樹脂系コーティング膜であってもよい。高温モジュール用には、例えばマイカが好ましく、低温モジュールには、例えばカプトンRなどのポリイミドが好ましい。
【0022】
したがって、この電気絶縁材料は、吹付法または浸漬法、またはこれらの方法の組合せで塗布できる。あるいはこの材料をブラシ塗布法で塗布することもできる。プロセス条件下で、例えば高温で熱電モジュールが損傷を受けないのなら他の物理的方法も可能であり、例えばスパッタリングやPVD、CVD法、あるいは当業界の熟練者には既知のこれらの変法も可能である。
【0023】
したがって、この電気絶縁性固体材料を、例えば、プラズマ溶射や粉末溶射、コールドスプレー、ワイアを用いるフレーム溶射などの吹付法で、あるいは蒸着法やスパッタリングなどの真空中での物理蒸着法(PVD)、化学蒸着(CVD)、または他のこれらの方法の変法で塗布することができる。
【0024】
この電気絶縁材料が、熱電モジュールをあるいは電気的に接触連結された脚部を完全に覆い、また電気絶縁に十分な厚みをもっていることが好ましい。このコーティング膜の厚みは、好ましくは5μm〜5mmであり、特に好ましくは20μm〜2mm、特に50μm〜1mmである。
【0025】
電気絶縁性固体材料のコーティングに、好ましい金属層コーティングを適用することもできる。この金属層は、熱電モジュールの電気的な接点、即ち電力を供給・輸送するラインが、この金属層と導電的に接触しないように塗布される。これは熱電モジュールのショートを避けるためである。したがって、これらの電力の供給・輸送用のラインは、被覆金属の層から除外される。
【0026】
この金属層も、いずれか所望の適当な方法を用いて塗布できる。この金属層は、吹付法、電解めっき法、スパッタリング法またはPVD、CVDまたはMOCVD法で形成されることが好ましい。一般に、全ての適当な熱的・化学的・物理的または電気化学的方法をこのコーティング膜形成に用いることができる。適当な金属吹付法は、例えばアークワイヤ溶射法とプラズマ溶射法である。
【0027】
この金属層は、昇華または気化による材料減量と酸化または他の汚染による破壊または損傷を防止できるように、全体の熱電モジュールを密封シールする。用いる金属は、使用条件下で安定ないずれかの金属であり、上記の方法で塗布される。好ましい金属は、モリブデンとタングステン、鉄、タンタル、ニッケル、コバルト、クロム、銅、これらの混合物または合金、例えばニッケルメッキした銅や銅メッキしたスチールである。アルミニウムや亜鉛も、低温モジュールには適当であろう。
【0028】
複数の金属の組合せも可能である。その場合、第一の金属層を非常に薄く溶射し、その周りを第二の金属層で電気メッキする。特に、第一の金属層が完全な密封効果を持たず空隙または浸透性を保持している場合に、これが有利である。
【0029】
この金属層は、上述の効果に対して保護するのに十分な厚みを有している。この金属層の厚みは、好ましくは5μm〜5mmであり、特に好ましくは50μm〜2mm、特に100μm〜1mmである。
【0030】
この熱電モジュールを、先ずあるコーティング法で電気絶縁材料で覆うように塗布し、続く第二の工程で同様に金属ケースで覆うように塗布することが好ましい。
【0031】
この金属コーティング膜中に残留する空隙は、セラミックでコーティングして除くことができ、あるいは空隙封鎖材を浸透させて除くことができる。したがって、この金属を、水ガラス、ゾルーゲル前駆体、シリコーンまたはシリコーン樹脂等により湿潤させることができ、その場合、この湿潤媒体を次いで空隙中で熱処理、放射線処理または化学処理で分解させて、空隙を閉鎖することができる。
【0032】
単一工程で、個々の熱電モジュールをこれらのコーティング膜(塗膜)で電気的に絶縁すると共に封止でき、または一連の熱電モジュールをまず電気的に絶縁し、次いで封止することができる。
【0033】
本発明の構造により、いずれの所望形状をもつ、例えば円形、方形、平面状、非平面状または非対称状をもつ、直列に電気的に接触連結された脚部をもつ熱電モジュールを電気的に絶縁し、次いで強固に封止することができる。これにより、熱電モジュールの全部品間に一体的で強い結合を形成することができる。例えば、熱電脚部を先ず溶接、はんだ付け、吹き付けまたは圧力下で相互に接触連結させ、電気絶縁体をこの電極または接点に噴射し、強封止剤をこの電気絶縁体上に噴射する。
【0034】
モジュールの電気接点は、モジュールから金属ケースを通して気密な状態で導き出される。本発明のモジュールにより、モジュールの高温側と低温側の移動表面を高圧下でプレスして平面状のモジュール表面として、モジュール内での電気的また熱的抵抗を最小におさえながら、モジュールの高温側と低温側の熱移動が良くなるようにすることが可能となる、
この熱電脚部と電極、電気絶縁体、モジュール封止材の間の一体構造により、熱的結合を最適化し、電気抵抗と熱抵抗を最小にすることができる。
【0035】
本発明の製造方法は、複雑でなく、経済的で、単純で大スケールでの工業生産を可能とする。使用時に、本発明で封止された熱電モジュールを結合することは、従来のプロセス、例えばはんだ付け、溶接または加圧によりこの封止物または金属コーティング物を接続するのみで可能である。
【0036】
一つの特に優れた長所は、幾何的柔軟性である。噴霧電気絶縁材料や噴霧金属による封止は、ある特定のモジュールデザインに限定されるのでなく、いずれの所望のモジュールにも使用可能である。
【0037】
この金属ケースは固体であり、同時に延びるものであってもよい。これにより、熱的ストレスや機械的ストレスに耐え、これを補償することができ、このため内部の熱電モジュールを保護することができる。
【0038】
電気絶縁体と続く金属封止膜をもつ熱電モジュールである本発明の構造により、短期間で安価に発電機が製造できるように、即ち、単一工程で、直列に電気的に接触連結された熱電脚部の「裸の」熱電材料が、ホルダーに取り付けられ、この複合物が電気的に絶縁され封止されて熱電発電機が製造されるようになる。このため、個々の熱電脚部を電気的な接触連結をすることなく処理することができる。
【0039】
本発明はまた、上記方法で得ることのできる熱電モジュールと、直列に電気的に接触連結された熱電脚部が電気絶縁性固体材料で覆われるようにコーティングされている熱電モジュールに関する。
【0040】
この場合、電気絶縁性固体材料のコーティング膜(塗膜)に、被覆金属の層を塗布することが好ましい。
【0041】
本発明の熱電モジュールは、用いる材料の熱安定性により、好ましくは-50℃〜2000℃の温度の範囲で作動する、特に好ましくは-30〜1500℃、特に-25〜1000℃の温度の範囲で作動するペルチェ素子と発電素子の両方として使用できる。
【0042】
本発明の熱電モジュールでは、いずれの所望で適当な熱電材料も使用できる。これらの材料の例は、方コバルト鉱や半ホイスラー材料、包接化合物、酸化物、珪化物、硼化物、Bi2Te3やこの誘導体、PbTeや誘導体、アンチモン化亜鉛などのアンチモン化物、ジントル相である。
【0043】
本発明を、以下の実施例を基により詳細に説明する。
【実施例】
【0044】
実施例1
PbTe製の脚部をマトリックス中に挿入し、Fe製電極と電気的に接触連結させた。粉末溶射によりAl2O3のセラミックコーティング膜を均一に熱電脚部の両側に塗布して接触連結させた。プラズマ溶射によりこの粗セラミック表面に、第二のスチール製の膜を形成した。この金属膜の厚さは約0.5mmであり、セラミック層の厚みは約0.1mmであった。この金属層上での後処理は行わなかった。この金属層の研磨や含浸が考えられる。
実施例2
市販のBi2Te3製モジュールであって、内部で熱電脚部が金属で導電的に接触連結されており電気絶縁されていないものを、紙やすりP220を用いてその表面を粗くした。次いで、表面をエタノールで洗浄した。次いで、このモジュールの両側に、耐熱シリコーンコーティング樹脂(Fortafix(登録商標)SP650)のエアゾールを細かく噴霧し、室温で3時間乾燥させた。次いでこのコーティングモジュールをマッフル炉に移し、このコーティング膜をゆっくりとした窒素流下で300℃で3時間処理した。
図1
図2