(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材層が、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド及びセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種で形成されている請求項5記載の積層フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、側鎖に炭素数3〜10のアルキル基を有するオレフィン単位を含む環状オレフィン系樹脂(A)と塩素含有樹脂(B)とを含む樹脂組成物で形成されている。
【0020】
(A)環状オレフィン系樹脂
環状オレフィン系樹脂(A)は、側鎖に炭素数3〜10のアルキル基(C
3―10アルキル基)を有するオレフィン単位を含んでいればよく、C
3―10アルキル基は、環状オレフィン系樹脂の主鎖に対して、自由度の高い側鎖として存在することにより、変形により生じるエネルギーを熱エネルギーに変換できるためか、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度を上昇させて耐熱性を向上させても、弾性及び靱性を保持できる。なお、α−オレフィンにおいて、末端アルキル基(アルカン単位)の炭素数が3以上になると、室温で液体となるが、本発明でも、側鎖のアルキル基の炭素数が3以上になると、前述の効果が発現する。一方、炭素数が10を超えると、ガラス転移温度が低下しすぎる。
【0021】
本発明では、このような環状オレフィン系樹脂を含むため、適度な剥離性と密着性とを有するだけでなく、適度な弾性を有しているため、ロールでの巻き取りが可能であり、ロール・ツー・ロール方式で連続的に製造でき、ロール・ツー・ロール方式で加熱処理(例えば、140℃以上に加熱処理)して製造しても、剥離不良や離型層の破損(割れやひびなど)を抑制できるため、安定して製造でき、生産性を向上できる。
【0022】
C
3―10アルキル基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基などの直鎖状又は分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。これらのC
3―10アルキル基は、単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。これらのうち、耐熱性と弾性と靱性とのバランスに優れる点から、好ましくは直鎖状C
4−9アルキル基であり、さらに好ましくは直鎖状C
4−8アルキル基(特にn−ヘキシル基などの直鎖状C
5−7アルキル基)である。
【0023】
このような環状オレフィン系樹脂は、繰り返し単位として、C
3−10アルキル基を有する鎖状オレフィン単位及び/又はC
3−10アルキル基を有する環状オレフィン単位を含んでいてもよく、単独重合体であってもよいが、所望の特性を調整し易く、基材フィルムとの密着性や機械的特性の点から、前記鎖状オレフィン単位及び/又は前記環状オレフィン単位と、他の共重合性単位との共重合体が好ましく、C
3―10アルキル基を有さない環状オレフィン単位(A1)と、C
3―10アルキル基を有する鎖状又は環状オレフィン単位(A2)とを含む共重合体が特に好ましい。
【0024】
環状オレフィン単位(A1)を形成するための重合成分(モノマー)は、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンであり、単環式オレフィン、二環式オレフィン、三環以上の多環式オレフィンなどに分類できる。
【0025】
単環式オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの環状C
4−12シクロオレフィン類などが挙げられる。
【0026】
二環式オレフィンとしては、例えば、2−ノルボルネン;5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネンなどのC
1―2アルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデン−2−ノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンなどのアルコキシカルボニル基を有するノルボルネン類;5−シアノ−2−ノルボルネンなどのシアノ基を有するノルボルネン類;5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネンなどのアリール基を有するノルボルネン類;オクタリン;6−エチル−オクタヒドロナフタレンなどのC
1−2アルキル基を有するオクタリンなどが例示できる。
【0027】
多環式オレフィンとしては、例えば、ジシクロペンタジエン;2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、メタノオクタヒドロフルオレン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、ジメタノシクロペンタジエノナフタレン、メタノオクタヒドロシクロペンタジエノナフタレンなどの誘導体;6−エチル−オクタヒドロナフタレンなどの置換基を有する誘導体;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデンなどとの付加物、シクロペンタジエンの3〜4量体などが挙げられる。
【0028】
これらの環状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィンのうち、剥離性と柔軟性とのバランスに優れる点から、二環式オレフィンが好ましい。C
3―10アルキル基を有さない環状オレフィン(環状オレフィン単位(A)を形成するための環状オレフィン)全体に対して二環式オレフィン(特にノルボルネン類)の割合は10モル%以上であってもよく、例えば、30モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上(特に90モル%以上)であり、二環式オレフィン単独(100モル%)であってもよい。特に、三環以上の多環式オレフィンの割合が大きくなると、ロール・ツー・ロール方式での製造に用いることが困難となる。
【0029】
代表的な二環式オレフィンとしては、例えば、C
3―10アルキル基以外の置換基を有していてもよいノルボルネン(2−ノルボルネン)、C
3―10アルキル基以外の置換基を有していてもよいオクタリン(オクタヒドロナフタレン)などが例示できる。前記置換基としては、メチル基、エチル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、アミド基、ハロゲン原子などが例示できる。これらの置換基は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの置換基のうち、剥離性を損なわない点から、メチル基やエチル基などの非極性基が好ましい。これらの二環式オレフィンのうち、ノルボルネンやC
1−2アルキル基を有するノルボルネンなどのノルボルネン類(特にノルボルネン)が特に好ましい。
【0030】
C
3―10アルキル基を有する鎖状又は環状オレフィン単位(A2)を形成するための重合成分(単量体)は、環状オレフィン系樹脂(A)の主鎖に対して側鎖としてC
3―10アルキル基を形成可能であり、かつエチレン性二重結合を有する重合性のオレフィンであり、C
3―10アルキル基を有する鎖状オレフィン、C
3―10アルキル基を有する環状オレフィンに分類できる。なお、鎖状オレフィン単位は、環状オレフィンの開環により生じた鎖状オレフィン単位であってもよいが、両単位の割合を制御し易い点から、鎖状オレフィンを重合成分とする単位が好ましい。
【0031】
C
3―10アルキル基を有する鎖状オレフィンとしては、例えば、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどの直鎖状又は分岐鎖状α−鎖状C
5−13オレフィンなどが挙げられる。これらの鎖状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの鎖状オレフィンのうち、好ましくはα−鎖状C
6−12オレフィンであり、さらに好ましくはα−鎖状C
6−10オレフィン(特に1−オクテンなどのα−鎖状C
7−9オレフィン)である。
【0032】
C
3―10アルキル基を有する環状オレフィンは、前記環状オレフィン単位(A1)の項で例示された環状オレフィン骨格にC
3―10アルキル基が置換した環状オレフィンであってもよい。環状オレフィン骨格としては、二環式オレフィン(特にノルボルネン)が好ましい。好ましいC
3―10アルキル基を有する環状オレフィンとしては、例えば、5−プロピル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ペンチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−オクチル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネンなどの直鎖状又は分岐鎖状C
3―10アルキルノルボルネンなどが挙げられる。これらの環状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィンのうち、好ましくは直鎖状C
4―9アルキルノルボルネンであり、さらに好ましくは直鎖状C
4−8アルキルノルボルネン(特に5−ヘキシル−2−ノルボルネンなどの直鎖状C
5−7アルキルノルボルネン)である。
【0033】
環状オレフィン単位(A1)と鎖状又は環状オレフィン単位(A2)との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=50/50〜99/1、好ましくは60/40〜95/5(例えば70/30〜95/5)、さらに好ましくは75/25〜95/5程度である。環状オレフィン単位(A1)の割合が少なすぎると、耐熱性が低下し、多すぎると
、弾性及び靱性が低下し易い。
【0034】
環状オレフィン系樹脂(A)は、環状オレフィン単位(A1)及び鎖状又は環状オレフィン単位(A2)などのオレフィン単位以外に他の共重合性単位を含んでいてもよい。他の共重合性単位を形成するための重合成分(共重合性モノマー)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのα−鎖状C
2−4オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー;ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸などのエチレン系不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなど(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなどが挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、剥離性を損なわない点から、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基などの極性基を有する単位を実質的に含まない単量体が好ましく、エチレンやプロピレンなどのα−鎖状C
2−4オレフィンなどが汎用される。
【0035】
他の共重合性単位の割合は、イオン交換樹脂を含む層に対する剥離性を損なわない範囲で配合するのが好ましく、環状オレフィン単位(A1)及び鎖状又は鎖状オレフィン単位(A2)の合計に対して、例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0036】
環状オレフィン系樹脂(A)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において(溶媒:トルエン)、ポリスチレン換算で、例えば、10,000〜300,000、好ましくは15,000〜200,000(例えば、20,000〜150,000)、さらに好ましくは20,000〜100,000(特に25,000〜90,000)程度である。分子量が小さすぎると、製膜性が低下し易く、大きすぎると、粘度が高くなるため、取り扱い性が低下し易い。
【0037】
環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121−1087に準拠した方法において、例えば、100〜350℃程度の範囲から選択でき、耐熱性と機械的特性とのバランスの点から、例えば、150〜350℃、好ましくは180〜340℃(例えば、190〜320℃)、さらに好ましくは200〜300℃(特に210〜320℃)程度であり、高度な耐熱性が要求される用途では、例えば、270〜350℃、好ましくは280〜340℃(特に300〜335℃)程度であってもよい。ガラス転移温度が低すぎると、耐熱性が低いため、イオン交換樹脂を含む層との剥離不良が起こり易く、高すぎると、生産が困難となる。なお、本明細書において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。
【0038】
環状オレフィン系樹脂(A)の動的貯蔵弾性率E’は、昇温速度5℃/分及び周波数10Hzの条件で−50℃から250℃まで測定した動的粘弾性試験において、ガラス転移温度よりも低い温度領域(例えば、−50〜100℃、好ましくは−40〜50℃、さらに好ましくは−30〜0℃程度)に転移点を有するのが好ましい。転移点が無い場合、靱性が低下し、側鎖が長すぎる場合や側鎖を有する単位の割合が多すぎると、ガラス転移温度が低下し、耐熱性が低下する。なお、動的貯蔵弾性率は、実施例に記載の方法で測定でき、前記試験において、動的貯蔵弾性率E’と動的損失弾性率E”との比である力学的損失正接tanδが極大点をとることから評価できる。
【0039】
環状オレフィン系樹脂(A)は、付加重合により得られた樹脂であってもよく、開環重合(開環メタセシス重合など)により得られた樹脂であってもよい。また、開環メタセシス重合により得られた重合体は、水素添加された水添樹脂であってもよい。環状オレフィン系樹脂の重合方法は、慣用の方法、例えば、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合、チーグラー型触媒を用いた付加重合、メタロセン系触媒を用いた付加重合(通常、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合)などを利用できる。具体的な重合方法としては、例えば、特開2004−197442号公報、特開2007−119660号公報、特開2008−255341号公報、Macromolecules, 43, 4527(2010)、Polyhedron, 24, 1269(2005), J. Appl. Polym. Sci, 128(1), 216(2013), Polymer Journal, 43, 331(2011)に記載の方法などを利用できる。また、重合に用いる触媒も、慣用の触媒、例えば、Macromolecules, 31, 3184(1988)、Journal of Organometallic Chemistry, 2006年, 691巻, 193頁に記載の方法で合成された触媒などを利用できる。
【0040】
(B)塩素含有樹脂
塩素含有樹脂(B)は、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどの塩素化された樹脂であってもよいが、通常、塩素含有モノマーを重合成分とする重合体である。本発明では、環状オレフィン系樹脂(A)に塩素含有樹脂(B)を配合すると、イオン交換樹脂を含む層に対する適度な密着性(離型性)を維持しつつ、易接着層などの接着層を介在させることなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの汎用の基材にフィルムに密着できる。
【0041】
塩素含有モノマーとしては、例えば、塩化ビニルモノマー、塩化ビニリデンモノマーなどが挙げられる。これらの塩素含有モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、基材フィルムに対する密着性の点から、塩化ビニリデンモノマーが好ましい。
【0042】
塩素含有樹脂は、塩素含有モノマー以外の他の共重合性単位を含んでいてもよい。他の共重合性単位を形成するための重合成分としては、例えば、前記環状オレフィン系樹脂(A)の項で例示された共重合性モノマーなどが挙げられる。前記共重合性モノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記共重合性モノマーのうち、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリルなどが汎用される。
【0043】
他の共重合性単位(共重合性モノマー)の割合は、塩素含有樹脂の特性を損なわない程度であればよく、塩素含有樹脂全体に対して、通常、0.1〜50重量%(例えば、0.3〜25重量%)、好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1〜15重量%(例えば、3〜10重量%)程度であってもよい。
【0044】
塩素含有樹脂(B)としては、例えば、塩化ビニル系重合体[塩化ビニルモノマーの単独重合体(ポリ塩化ビニル)、塩化ビニル系共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)など]、塩化ビニリデン系重合体[塩化ビニリデンの単独重合体(ポリ塩化ビニリデン)、塩化ビニリデン系共重合体(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体など)など]などが挙げられる。これらの塩素含有樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
これらの塩素含有樹脂のうち、基材フィルムとの密着性を向上できる点から、塩化ビニリデン系重合体(特に、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体などの塩化ビニリデン系共重合体)が好ましい。塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体において、塩化ビニリデン単位と塩化ビニル単位の割合(モル比)は、例えば、前者/後者=99/1〜5/95、好ましくは97/3〜10/90、さらに好ましくは95/5〜50/50程度である。塩化ビニリデン系重合体は、水性エマルジョンに含有される乳化剤、界面活性剤などを含んでいなくてもよい。
【0046】
塩素含有樹脂(B)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で、例えば、10,000〜500,000、好ましくは20,000〜250,000、さらに好ましくは25,000〜100,000程度であってもよい。
【0047】
塩素含有樹脂(B)の割合は、環状オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、0.2重量部を超え、かつ100重量部未満であってもよく、例えば、0.5〜90重量部(例えば0.5〜60重量部)、好ましくは0.8〜70重量部(例えば1〜60重量部)、さらに好ましくは1.2〜50重量部(特に1.5〜30重量部)程度である。塩素含有樹脂(B)の割合が少なくても、基材フィルムに対する密着性を向上できるため、塩素含有樹脂(B)の割合は、環状オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して、例えば、0.5〜30重量部、好ましくは0.8〜10重量部(例えば1〜5重量部)、さらに好ましくは1.2〜3重量部(特に1.5〜2.5重量部)程度であってもよい。塩素含有樹脂の割合が少なすぎると、基材フィルムに対する密着力を向上させるのが困難となり、多すぎると、イオン交換樹脂を含む層に対する離型性が低下する。
【0048】
樹脂フィルムには、さらに他の樹脂や慣用の添加剤が含まれていてもよい。他の樹脂としては、例えば、鎖状オレフィン系樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)、側鎖に炭素数3〜10のアルキル基を有さないオレフィン単位を含む環状オレフィン系樹脂(エチレン−ノルボルネン共重合体など)などが挙げられる。慣用の添加剤としては、例えば、充填剤、滑剤(ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなど)、帯電防止剤、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤など)、難燃剤、粘度調整剤、増粘剤、消泡剤などが挙げられる。また、表面平滑性を損なわない範囲で、有機又は無機粒子(特にゼオライトなどのアンチブロッキング剤)を含んでいてもよい。
【0049】
特に、本発明では、電解質膜や電極膜を汚染し易いシリコーン化合物などの低分子量の離型剤を含んでいなくても剥離性を向上でき、シリコーン化合物を実質的に含んでいないのが好ましい。
【0050】
樹脂フィルム(離型層)の平均厚みは、例えば、0.01〜100μm程度の範囲から選択できるが、コーティングにより、表面が平滑で薄肉なフィルムも形成でき、例えば、0.01〜20μm、好ましくは0.03〜15μm、さらに好ましくは0.05〜10μm(特に0.1〜5μm)程度である。フィルムが薄肉であると、取り扱い性に優れ、ロール・ツー・ロール方式などに適するとともに、経済性も向上する。なお、平均厚みは、コーティング膜の場合、樹脂フィルムの塗工量(単位面積当たりの固形分重量)及び密度に基づいて算出できる。
【0051】
本発明の樹脂フィルムは、離型性及び耐熱性に優れるため、工業用の離型フィルムなどに利用でき、イオン交換樹脂を含む層に対して適度な密着性と剥離性とを有するため、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(MEA)を製造するための離型フィルム、特に、イオン交換樹脂を含む電解質膜及び/又は電極膜をその上に積層し、MEAを製造した後、MEAから剥離するためのフィルムに好ましく利用できる。
【0052】
[積層フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、離型性及び耐熱性に優れるため、単独(単層)で離型フィルムとして使用してもよいが、燃料電池の生産性を向上でき、薄肉で厚みの均一なフィルムを形成し易い点から、基材層(基材フィルム)の少なくとも一方の面に、前記樹脂フィルムを離型層として積層するのが好ましい。
【0053】
(基材層)
基材層は、燃料電池の製造工程において、離型フィルムの寸法安定性を向上でき、特に、ロール・ツー・ロール方式において張力が負荷されても、伸びを抑制でき、さらに乾燥工程や加熱圧着処理などによって高温に晒されても、高い寸法安定性を維持し、電解質膜や電極膜との剥離を抑制できる点から、耐熱性及び寸法安定性の高い材質で形成されているのが好ましく、具体的には、150℃における弾性率が100〜1000MPaの合成樹脂で形成されていてもよい。前記弾性率は、例えば、120〜1000MPa、好ましくは150〜1000MPa、さらに好ましくは200〜1000MPa程度であってもよい。弾性率が小さすぎると、寸法安定性が低下し、ロール・ツー・ロール方式での製造において電解質膜や電極膜との剥離が発生し、燃料電池の生産性が低下する。
【0054】
このような合成樹脂としては、例えば、各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が使用できるが、ロール・ツー・ロール方式で製造できる柔軟性を有する点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィンなど)、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、セルロース誘導体(セルロースアセテートなどのセルロースエステルなど)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。本発明では、離型層(樹脂フィルム)が基材層に対する密着性に優れるため、これらの熱可塑性樹脂は、密着性を向上させるための反応性基や極性基(反応性基で形成された側鎖など)を実質的に有さないのが好ましい。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド及びセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種(特に、ポリオレフィン、ポリエステル及びセルロースエステルからなる群より選択された少なくとも1種)が好ましく、耐熱性と柔軟性とのバランスに優れる点から、ポリエステルが特に好ましい。さらに、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリC
2−4アルキレンアリレート系樹脂が好ましく使用できる。
【0055】
基材層は、フィルム強度を向上させる点から、延伸フィルムで形成されていてもよい。延伸は、一軸延伸であってもよいが、フィルム強度を向上できる点から、二軸延伸が好ましい。延伸倍率は、縦及び横方向において、それぞれ、例えば、1.5倍以上(例えば、1.5〜6倍)であってもよく、好ましくは2〜5倍、さらに好ましくは3〜4倍程度である。延伸倍率が低すぎると、フィルム強度が不十分となり易い。
【0056】
基材層の表面平滑性は、コーティングにより離型層を形成できればよく、特に限定されないが、JIS B0601に準拠した算術平均粗さRaは1μm以下であってもよく、好ましくは100nm以下(例えば、10〜100nm)程度である。
【0057】
基材層の表面は、離型層との密着性を向上させるために、表面処理に供してもよい。表面処理としては、慣用の表面処理、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾンや紫外線照射処理などが挙げられる。これらのうち、コロナ放電処理が好ましい。
【0058】
基材層は、慣用の接着性樹脂で形成された易接着層(例えば、基材層がポリエステル樹脂である場合、低分子量のポリエステ
ル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂などの接着性樹脂で形成された易接着層など)を有していてもよく、易接着層を実質的に有していなくてもよい。これらのうち、離型層(樹脂フィルム)が基材層に対する密着性に優れ、基材層が易接着層を有していなくても、燃料電池の製造に必要な密着性を有する点から、易接着層を有さない基材層が特に好ましい。そのため、本発明では、易接着層を有さない基材層を用いることにより、積層体の層構造を簡略化でき、薄肉化することもできる。
【0059】
基材層の平均厚みは、例えば、1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは10〜100μm(特に20〜80μm)程度である。基材層の厚みが大きすぎると、ロール・ツー・ロール方式での生産が困難となり、薄すぎると、寸法安定性、ロール・ツー・ロール方式での搬送性(シワの混入など)が低下する。
【0060】
(イオン交換樹脂を含む層)
本発明の積層フィルム(積層体)は、固体高分子型燃料電池を製造するための離型フィルムであってもよく、この離型フィルムとして利用される場合、前記積層フィルム(離型フィルム)の離型層の上に、イオン交換樹脂を含む層(電解質膜、電極膜、膜電極接合体)を密着させる。そのため、本発明の積層フィルムは、離型層(樹脂フィルム単独で形成された離型層又は積層フィルムの離型層)の上にイオン交換樹脂を含む層が積層された積層体であってもよい。
【0061】
前記イオン交換樹脂としては、燃料電池で利用される慣用のイオン交換樹脂を利用できるが、なかでも、強酸性陽イオン交換樹脂や弱酸性陽イオン交換樹脂などの陽イオン交換樹脂が好ましく、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂(例えば、スルホン酸基を有するフッ素樹脂、架橋ポリスチレンのスルホン化物)が特に好ましい。特に、固体高分子型燃料電池では、側鎖にスルホン酸基(又は−CF
2CF
2SO
3H基)を有するフッ素樹脂、例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとのブロック共重合体などが好ましく利用される。
【0062】
イオン交換樹脂のイオン交換容量は0.1meq/g以上であってもよく、例えば、0.1〜2.0meq/g、好ましくは0.2〜1.8meq/g、さらに好ましくは0.3〜1.5meq/g(特に0.5〜1.5meq/g)程度であってもよい。
【0063】
このようなイオン交換樹脂としては、デュポン社製「登録商標:ナフィオン(Nafion)」などの市販品を利用できる。なお、イオン交換樹脂としては、特開2010−234570号公報に記載のイオン交換樹脂などを用いてもよい。
【0064】
イオン交換樹脂を含む層は、前記イオン交換樹脂で形成された電解質膜、前記イオン交換樹脂及び触媒粒子を含む電極膜であってもよい。
【0065】
電極膜(触媒層又は電極触媒膜)において、触媒粒子は触媒作用を有する金属成分(特に、白金などの貴金属単体又は貴金属を含む合金)を含んでおり、通常、カソード電極用電極膜では白金を含み、アノード電極用電極膜では白金−ルテニウム合金を含む。さらに、触媒粒子は、通常、前記金属成分を、導電材料(カーボンブラックなどの炭素材料など)に担持させた複合粒子として使用される。電極膜において、イオン交換樹脂の割合は、例えば、触媒粒子100重量部に対して、例えば、5〜300重量部、好ましくは10〜250重量部、さらに好ましくは20〜200重量部程度である。
【0066】
電解質膜の平均厚みは、例えば、1〜500μm、好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは10〜200μm程度である。
【0067】
電極膜の平均厚みは、例えば、1〜100μm、好ましくは2〜80μm、さらに好ましくは2〜50μm程度である。
【0068】
[樹脂フィルム、積層フィルム及び膜電極接合体の製造方法]
本発明の樹脂フィルムは、薄肉で、表面平滑なフィルムを形成し易い点から、基材の上に樹脂組成物を含む溶液をコーティングする方法により製造でき、具体的には、積層フィルムの場合、基材層の上に環状オレフィン系樹脂及び塩素含有樹脂を含む溶液をコーティング(又は流延)した後、乾燥する方法により製造できる。なお、樹脂フィルムを単層で製造する場合は、剥離可能な基材の上にコーティングしてもよい。
【0069】
コーティング方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、ブレードコーター法、バーコーター法、グラビアコーター法などが汎用される。
【0070】
溶媒としては、非極性溶媒を利用でき、例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類、ソルベントナフサなどの芳香族系油、テトラヒドロフランやジオキンサンなどのエーテル類などを利用できる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらのうち、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ソルベントナフサなどの芳香族系油、テトラヒドロフランなどの環状エーテルが好ましく、芳香族炭化水素類と環状エーテルとの混合溶媒が特に好ましい。
【0071】
溶液中における固形分濃度は、例えば、0.1〜50重量%、好ましくは0.3〜30重量%、さらに好ましくは0.5〜20重量%(特に0.8〜15重量%)程度である。
【0072】
乾燥は、自然乾燥であってもよいが、加熱して乾燥することにより溶媒を蒸発させてもよい。乾燥温度は、50℃以上であってもよく、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃程度である。
【0073】
イオン交換樹脂を含む層が形成された積層フィルムでは、離型層(樹脂フィルム単独で形成された離型層又は積層フィルムの離型層)の上に、イオン交換樹脂を含む層を積層してもよい。
【0074】
この積層フィルムは、離型層の上に、イオン交換樹脂を含む層(イオン交換樹脂を含む電解質膜及び/又はイオン交換樹脂を含む電極膜)をコーティングにより形成すればよく、例えば、第1のフィルム(離型フィルム)の離型層の上に電解質膜をコーティングにより積層し、第1の離型フィルムの上に電解質膜が積層された積層体を製造し、かつ第2のフィルムの離型層の上に電極膜をコーティングにより積層し、第2の離型フィルムの上に電極膜が積層された積層体を製造してもよい。
【0075】
電解質膜及び電極膜をコーティング(又は流延)により形成するために、電解質膜及び電極膜は、イオン交換樹脂(及び触媒粒子)を溶媒に溶解した溶液の状態でコーティングに供される。
【0076】
溶媒としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのC
1−4アルカノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、取り扱い性などの点から、水や、水とC
1−4アルカノールとの混合溶媒が汎用される。溶液中の溶質(イオン交換樹脂、触媒粒子)の濃度は、例えば、1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%、さらに好ましくは3〜50重量%程度である。
【0077】
コーティング方法としては、前記離型フィルムの製造方法で例示された慣用の方法が挙げられる。これらの方法のうち、ブレードコーター法、バーコーター法などが汎用される。
【0078】
イオン交換樹脂(及び触媒粒子)を含む溶液をコーティングした後、加熱して乾燥することにより溶媒を蒸発させてもよい。乾燥温度は、50℃以上であってもよく、電解質膜では、例えば、80〜200℃(特に100〜150℃)程度であり、電極膜では、例えば、50〜150℃(特に60〜120℃)程度である。
【0079】
本発明では、前記樹脂フィルム又は前記積層フィルムが柔軟性に優れるため、このような積層工程をロール・ツー・ロール方式で行うことができ、生産性を向上できる。さらに、離型層と基材層との組み合わせにより、寸法安定性にも優れるため、ロール・ツー・ロール方式でも、積層フィルム
の張力による伸びが抑制される。そのため、イオン交換樹脂を含む層が剥離することなく、ロール状に巻き取ることができ、生産性を向上できる。
【0080】
得られた積層体は、密着工程に供してもよい。密着工程では、第1及び第2の離型フィルムの離型層の上にそれぞれ積層された電解質膜と電極膜とを密着させて膜電極接合体が調製される。
【0081】
電解質膜と電極膜との密着は、通常、加熱圧着により密着される。加熱温度は、例えば、80〜250℃、好ましくは90〜230℃、さらに好ましくは100〜200℃程度である。圧力は、例えば、0.1〜20MPa、好ましくは0.2〜15MPa、さらに好ましくは0.3〜10MPa程度である。
【0082】
密着工程で密着した複合体(電解質層と電極膜とが密着した積層体)は、イオン交換樹脂を含む層(電解質膜及び/又は電極膜)から離型フィルムを剥離する剥離工程に供され、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体が得られる。本発明では、前述の乾燥工程や加熱圧着処理を経た積層体であっても適度な剥離強度を有するため、積層工程や密着工程では離型フィルムとイオン交換樹脂を含む層とが剥離せずに、剥離工程では容易に離型フィルムを剥離でき、作業性を向上できる。
【0083】
離型フィルム(樹脂フィルム又は積層フィルム)の離型層は、イオン交換樹脂を含む層に対して、所定の離型性を有する必要があり、離型層とイオン交換樹脂を含む層との剥離強度(特に、剥離工程での積層体の剥離強度)は、例えば、0.1〜100mN/mm、好ましくは0.5〜80mN/mm程度である。剥離強度が大きすぎると、剥離作業が困難となり、小さすぎると、積層工程及び密着工程での作業性が低下する。
【0084】
本明細書では、剥離強度は、20℃、50%RHで1時間以上静置した後、300mm/分の条件で180°剥離する方法で測定できる。
【0085】
さらに、第1の離型フィルムを剥離した電解質膜に対して、前記密着工程及び剥離工程と同様に、さらに第3の離型フィルムの離型層の上に電極膜(第2の離型フィルムがアノード電極用電極膜である場合、カソード電極用電極膜)が積層された積層体の電極膜を密着させて剥離し、慣用の方法で、各電極膜の上に燃料ガス供給層及び空気供給層をそれぞれ積層することにより膜電極接合体(MEA)が得られる。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた環状オレフィン系樹脂及び離型フィルムの特性は、以下の方法で評価した。
【0087】
[使用した原料]
イオン交換樹脂溶液:側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021CS」、固形分20重量%
PETフィルム:ユニチカ(株)製「ポリエステルフィルム エンブレット S50」、厚み50μm、易接着層なし
OPPフィルム:豊科フイルム(株)製「P3018」、厚み30μm、易接着層なし
TACフィルム:富士フイルム(株)製「Z−TAC」、厚み60μm、易接着層なし
PVDC:塩化ビニリデン系共重合体、旭化成ケミカルズ(株)製「PVDCレジン R204」
【0088】
なお、環状オレフィン系樹脂については、以下の方法で合成した。
【0089】
(Nb/Octの合成例)
乾燥した300mLの2口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、ジメチルア
ニリ
ニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート8.1mg、トルエン235.7mL、7.5モル/Lの濃度でノルボルネンを含有するトルエン溶液7.0mL、1−オクテン6.7mL、トリイソブチルアルミニウム2mLを添加して、反応溶液を25℃に保持した。この溶液とは別個に、グローブボックス中で、触媒として、92.9mgの(t−ブチルアミド)ジメチル−9−フルオレニルシランチタンジメチル[(t−BuNSiMe
2Flu)TiMe
2]をフラスコに入れ、5mLのトルエンに溶解させた。この触媒溶液2mLを300mLフラスコに加えて重合を開始した。2分後に2mLのメタノールを添加して反応を終了させた。次いで、得られた反応混合物を塩酸で酸性に調整した大量のメタノール中に放出して沈殿物を析出させ、濾別、洗浄後、乾燥して、2−ノルボルネン・1−オクテン共重合体(Nb/Oct)を6.5g得た。得られた共重合体の数平均分子量Mnは73,200、ガラス転移温度Tgは265℃、動的貯蔵弾性率(E’)は−20℃付近に転移点を有し、2−ノルボルネンと1−オクテンとの組成(モル比)は、前者/後者=85/15であった。
【0090】
(Nb/Hexの合成例)
1−オクテンを1−ヘキセンに変更し、配合量を4.8mLに変更する以外はNb/Octの合成例と同様にして、2−ノルボルネン・1−ヘキセン共重合体(Nb/Hex)を4.3g得た。得られた共重合体のMnは31600、Tgは300℃、動的貯蔵弾性率(E’)が−20℃付近に転移点を有し、2−ノルボルネンと1−ヘキセンとの組成(モル比)は、前者/後者=88/12であった。
【0091】
(Nb/Decの合成例)
1−オクテンを1−デセンに変更し、配合量を7.3mLに変更する以外はNb/Octの合成例と同様にして、2−ノルボルネン・1−デセン共重合体(Nb/Dec)を3.9g得た。得られた共重合体のMnは27100、Tgは240℃、動的貯蔵弾性率(E’)が−20℃付近に転移点を有し、2−ノルボルネンと1−デセンとの組成(モル比)は、前者/後者=85/15であった。
【0092】
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC6200」)を用い、JIS K7121に準じ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定を行った。
【0093】
[粘弾性測定]
試験片について、熱プレス法又は溶液キャスト法により厚み50〜100μmのフィルムを作製し、幅5mm、長さ50mmに切り出し、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製、RSA−III)を用い、チャック間距離20mm、昇温速度5℃/分及び角周波数10Hzの条件で、−100℃から250℃まで動的貯蔵弾性率(E’)を測定した。
【0094】
[環状オレフィン系樹脂の組成比]
環状オレフィン系樹脂(共重合体)の組成比は、
13C−NMRで測定した。
【0095】
[密着性(離型層と基材層との密着性)]
実施例及び比較例で得られた離型フィルムを20℃、50RH%で1時間以上静置後、離型層の上にセロハンテープ(ニチバン(株)製「CT405AP−15」)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、テープを剥がした面積に対して塗膜が残存した面積を求めて評価した。
【0096】
[離型性(離型層とイオン交換樹脂層との離型性)]
実施例及び比較例で得られた離型フィルム、イオン交換樹脂溶液(デュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021CS」、イオン交換樹脂の水−アルコール分散液、固形分濃度20重量%)を用意し、ドクターブレードを用いて、前記離型フィルムの離型層の上に前記イオン交換樹脂溶液をキャストし、その塗膜を100℃のオーブン内で乾燥させて、電解質膜であるイオン交換樹脂層(厚み20μm)を含む積層体を形成した。
【0097】
得られた積層体のイオン交換樹脂層の上にセロハンテープ(ニチバン(株)製「CT405AP−15」)を強く圧着させ、テープを剥がし、以下の基準で評価した。
【0098】
○…イオン交換樹脂層が全て剥がれる。
×…イオン交換樹脂層が剥がれない。
【0099】
比較例1
Nb/Octを、固形分濃度が5重量%となるように、トルエンに添加し、加温して溶解し、塗工液を調製した。得られた塗工液をメイヤーバーコーティング法によりPETフィルムの片面にコーティングし、100℃の温度で1分間乾燥して離型層(乾燥厚み0.3μm)を形成し、離型フィルムを得た。
【0100】
比較例2
PETフィルムの代わりにOPPフィルムを用いる以外は比較例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0101】
比較例3
PETフィルムの代わりにTACフィルムを用いる以外は比較例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0102】
実施例1
Nb/Oct 100重量部及びPVDC 1.0重量部を、固形分濃度が5重量%となるように、トルエン及びテトラヒドロフランの混合溶媒(トルエン/テトラヒドロフラン=70/30(重量比))に添加し、加温して溶解し、塗工液を調製した。得られた塗工液を用いて比較例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0103】
実施例2
PVDCの割合を1.2重量部に変更する以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0104】
実施例3
PVDCの割合を2重量部に変更する以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0105】
実施例4
固形分濃度を0.5重量%に変更し、乾燥後の離型層の厚み0.01μmとした以外は実施例2と同様にして離型フィルムを得た。
【0106】
実施例5
PVDCの割合を60重量部に変更する以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0107】
実施例6
Nb/OctをNb/Decに変更する以外は実施例2と同様にして離型フィルムを得た。
【0108】
実施例7
Nb/OctをNb/Hexに変更する以外は実施例2と同様にして離型フィルムを得た。
【0109】
実施例及び比較例で得られた離型フィルムを評価した結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1の結果から明らかなように、比較例1〜3では、離型層と基材層との密着性が低かった。これに対して、実施例では、密着性に優れ、特に、実施例では、密着性、離型性のバランスに優れていた。