特許第6013480号(P6013480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6013480アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013480
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/02 20060101AFI20161011BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20161011BHJP
   C22B 26/10 20060101ALI20161011BHJP
   C22B 26/20 20060101ALI20161011BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20161011BHJP
   C22B 7/04 20060101ALN20161011BHJP
【FI】
   B01D11/02 AZAB
   B09B3/00 304G
   B09B3/00 304J
   B09B3/00 304Z
   B09B3/00 304C
   C22B26/10
   C22B26/20
   C22B3/44 101Z
   !C22B7/04 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-523787(P2014-523787)
(86)(22)【出願日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2013068377
(87)【国際公開番号】WO2014007332
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-151744(P2012-151744)
(32)【優先日】2012年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】脇本 佳季
(72)【発明者】
【氏名】藤井 哲
(72)【発明者】
【氏名】漁長 由紀則
(72)【発明者】
【氏名】天野 喜一朗
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏也
(72)【発明者】
【氏名】山口 周
(72)【発明者】
【氏名】三好 正悟
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101993104(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101293663(CN,A)
【文献】 特開2011−212534(JP,A)
【文献】 特開2007−314359(JP,A)
【文献】 特開2000−154996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/00
B09B 3/00
C01F 11/00
C22B 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法であって、
中性アミノ酸含有水溶液に前記固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記中性アミノ酸含有水溶液に溶出させる溶出工程と、
前記溶出工程の後、前記中性アミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させて前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、前記塩を回収する回収工程と、を含み、
前記固形物に含まれる前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に対する前記溶出工程において前記中性アミノ酸含有水溶液に溶出した前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合である溶出率と、前記析出工程における前記塩の析出量とのピーク値を一致させる、又は、前記溶出率と前記析出量との積分値を最大化させるように、水と前記中性アミノ酸と前記固形物との混合比率を決定する方法。
【請求項2】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法であって、
中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つを含有した水溶液にpH調整剤を混合して生成されるアミノ酸含有混合水溶液に前記固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記アミノ酸含有混合水溶液に溶出させる溶出工程と、
前記溶出工程の後、前記アミノ酸含有混合水溶液に酸性ガスを接触させて前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、前記塩を回収する回収工程と、を含み、
前記固形物に含まれる前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に対する前記溶出工程において前記アミノ酸含有混合水溶液に溶出した前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合である溶出率と、前記析出工程における前記塩の析出量とのピーク値を一致させる、又は、前記溶出率と前記析出量との積分値を最大化させるように、水と前記中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つと前記固形物との混合比率を決定する方法。
【請求項3】
前記中性アミノ酸含有水溶液又は前記アミノ酸含有混合水溶液の等電点が、前記酸性ガスの第一酸解離定数に対して±1.5の範囲内である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性ガスは炭酸ガスである請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記回収工程後の中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む別の固形物を添加して、当該アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記中性アミノ酸含有水溶液又は前記アミノ酸含有混合水溶液に溶出させる第2溶出工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する従来の方法としては、例えば、以下の特許文献1に記載されるものが知られている。特許文献1には、ギ酸若しくはクエン酸を含む水溶液に鉄鋼スラグ等を添加してマグネシウム及びカルシウムを溶出させた後、当該水溶液に炭酸ガスを吹き込むことで炭酸塩(炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウム)として析出させることによって、鉄鋼スラグ等からマグネシウム及びカルシウムを抽出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−222713号公報(特許請求の範囲参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるギ酸若しくはクエン酸を含む水溶液では、マグネシウム及びカルシウムの溶解と、炭酸ガスの吹き込みとを繰り返した場合、マグネシウム及びカルシウムの抽出能力が大きく低下する。そのため、上記水溶液を繰り返して使用することができず、コストが嵩むという問題を抱えていた。
【0005】
本発明の目的は、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する水溶液を繰り返して使用することができ、抽出効率に優れるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する際に、アミノ酸含有水溶液を使用した場合、これを繰り返し使用してもその抽出能力が低下し難いことを見出して本発明に到達した。これは、アミノ酸とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とがキレート反応を起こし易く、さらに、酸性ガスの吹き込みによってアミノ酸が分離回復するからである。
【0007】
本発明に係るアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法の特徴構成は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法であって、中性アミノ酸含有水溶液に前記固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記中性アミノ酸含有水溶液に溶出させる溶出工程と、前記溶出工程の後、前記中性アミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させて前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、前記塩を回収する回収工程と、を含み、前記固形物に含まれる前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に対する前記溶出工程において前記中性アミノ酸含有水溶液に溶出した前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合である溶出率と、前記析出工程における前記塩の析出量とのピーク値を一致させる、又は、前記溶出率と前記析出量との積分値を最大化させるように、水と前記中性アミノ酸と前記固形物との混合比率を決定する点にある。
【0008】
本構成によれば、中性アミノ酸含有水溶液に固形物を投入すると、中性アミノ酸に含まれるカルボキシル基やアミノ基がアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属と反応してキレート錯体を形成して、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が溶出する。特に、中性アミノ酸含有水溶液は水に対する飽和溶解度が高いので、溶液中のアミノ酸濃度を高めてキレート反応を促進させることができ、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の溶出能力が高まる。よって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を多く溶出させ、例えば産業廃棄物などの固形物残渣を効率的に低減することができる。また、本構成によれば、酸性ガスを接触させるという簡便な操作によって、溶出工程において溶出させたアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として効率良く回収することができる。
【0009】
他の特徴構成は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法であって、中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つを含有した水溶液にpH調整剤を混合して生成されるアミノ酸含有混合水溶液に前記固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記アミノ酸含有混合水溶液に溶出させる溶出工程と、前記溶出工程の後、前記アミノ酸含有混合水溶液に酸性ガスを接触させて前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、前記塩を回収する回収工程と、を含み、前記固形物に含まれる前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に対する前記溶出工程において前記アミノ酸含有混合水溶液に溶出した前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合である溶出率と、前記析出工程における前記塩の析出量とのピーク値を一致させる、又は、前記溶出率と前記析出量との積分値を最大化させるように、水と前記中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つと前記固形物との混合比率を決定する点にある。
【0010】
本構成によれば、中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つを含有した水溶液にpH調整剤を混合することで中性付近の等電点を持つアミノ酸含有混合水溶液を生成することができる。この中性付近に等電点を持つアミノ酸含有混合水溶液は水に対する飽和溶解度が高いので、溶液中のアミノ酸濃度を高めてキレート反応を促進させることができ、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の溶出能力が高まる。よって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を多く溶出させ、例えば産業廃棄物などの固形物残渣を効率的に低減することができる。また、本構成によれば、酸性ガスを接触させるという簡便な操作によって、溶出工程において溶出させたアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として効率良く回収することができる。
【0011】
【0012】
【0013】
他の特徴構成は、前記中性アミノ酸含有水溶液又は前記アミノ酸含有混合水溶液の等電点が、前記酸性ガスの第一酸解離定数に対して±1.5の範囲内である点にある。
【0014】
酸性ガスは、第一酸解離定数の±1.5の範囲内であれば、所望の緩衝能を発揮することができる。本構成によれば、キレート錯体に酸性ガスを接触させたとき、酸性ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲内に中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液の等電点があるので、酸性ガスの緩衝能範囲とアミノ酸の緩衝能範囲とが重なり合い、塩の析出とアミノ酸の分離回復とを促進させる。よって、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の溶出能力が高いのに加えて、塩の析出能力が高いので、固形物残渣をより一層低減することができる。
【0015】
また、前記酸性ガスは炭酸ガスであると好適である。炭酸ガスの緩衝能範囲とアミノ酸の緩衝能範囲とが重なり合うので、塩の析出が促進されるのに相俟って炭酸ガスの消費量が増大する。すなわち、固形物残渣の低減と共に、温室効果ガスである二酸化炭素量を削減することができるので、効果的である。
【0016】
他の特徴構成は、前記回収工程後の中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む別の固形物を添加して、当該アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液に溶出させる第2溶出工程を含む点にある。
【0017】
本構成によれば、一度使用した中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液を再使用して、さらに別の固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出処理を実施することも可能であり、利便性が良い。特に、中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液は、酸性ガスを添加することでキレート錯体からのアミノ酸の分離回復能力が高いので、繰り返し使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例で使用した装置の概略図である。
図2】実施例1に係るフロー図である。
図3】実施例1に用いた各種アミノ酸、及びセメント、スラグの使用量を示す表である。
図4】実施例1に用いた各種アミノ酸、及びセメント、スラグの使用量を示す表である。
図5】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)。
図6】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)。
図7】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)。
図8】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)。
図9】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)。
図10】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)。
図11】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)。
図12】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)。
図13】実施例2に係るフロー図である。
図14】実施例2に係るアミノ酸含有水溶液を繰り返して使用したときのカルシウムイオンの溶出率(moL%)と析出率(moL%)とを示すグラフである。
図15】実施例3に係るアミノ酸の等電点とカルシウムイオンの溶出量(moL/L)との関係を示す表である。
図16】実施例3に係るアミノ酸の等電点とカルシウムイオンの溶出量(moL/L)との関係を示す図である。
図17】実施例3に係るアミノ酸の等電点とカルシウムイオンの溶出量(moL/L)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明に係るアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法は、中性アミノ酸を含む中性アミノ酸含有水溶液又は中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つを含有した水溶液にpH調整剤を混合して生成されるアミノ酸含有混合水溶液に、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物を添加して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を中性アミノ酸含有水溶液又はアミノ酸含有混合水溶液に溶出させる溶出工程を含む。
【0020】
(固形物)
本発明における固形物とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、及び、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一つを含むものを意味する。そのような固形物として、例えば、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等が挙げられる。
【0021】
天然鉱物としては、例えば、アルカリ金属の炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、水酸化物、塩化物等のそれぞれの単体や水和物等、並びに、アルカリ土類金属の炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、水酸化物、塩化物等のそれぞれの単体や水和物等が挙げられる。そのような天然鉱物の具体例としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム等からなる群から選択される少なくとも1つを主成分とする岩石、あるいは当該岩石の風化物ないし粉砕物等が挙げられる。
【0022】
また、廃材や製造工程で排出される副産物の具体例としては、セメント水和固形物で固化されたコンクリート、当該コンクリートを含む建築廃材、粉砕物や製鋼工程で排出される副産物の製鋼スラグ、キュポラスラグ、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、廃棄物焼却で発生するフライアッシュまたはこれらの溶融スラグ、製紙工程で発生するペーパスラッジ、都市ゴミ又は汚泥等が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる固形物は、例えば、粒径がおよそ1μm〜100μm程度になるように粉砕したもの用いると、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が溶出し易く好適である。
【0024】
(中性アミノ酸含有水溶液)
本発明における中性アミノ酸含有水溶液とは、少なくとも所定量の中性アミノ酸を含む水溶液を意味する。中性アミノ酸の他に必要に応じて、塩基性アミノ酸や酸性アミノ酸を混合させたり、溶液を安定に維持するために通常使用される公知の添加剤等を含有させても良い。なお、中性アミノ酸に塩基性アミノ酸又は/及び酸性アミノ酸を混合させた場合には、中性アミノ酸含有水溶液の等電点が中性付近(pH=約4〜8)となるのが好ましい。
【0025】
中性アミノ酸とは、アミノ基及びカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物であって、pHが約5〜7に等電点を有するものを意味する。具体的には、生体のタンパク質に含まれる、イソロイシン、ロイシン、バリン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパラギン、システィン、チロシン、アラニン、グルコサミン、グリシン、プロリン、セリンが挙げられるが、中性アミノ酸含有水溶液をより多く安定して繰り返し使用するのに特に好ましい中性アミノ酸としてはアラニンが挙げられる。塩基性アミノ酸とは、2つ以上のアミノ基を持つ有機化合物であって、アルカリ性側に等電点を有するものを意味し、具体的には、生体のタンパク質に含まれる、リシン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。酸性アミノ酸とは、2つのカルボキシル基を持つアミノ酸であって、酸性側に等電点を有するグルタミン酸やアスパラギン酸が挙げられる。なお、上述したアミノ酸に限定されず、N−アセチル−D−グルコサミンなどのN保護アミノ酸やC保護アミノ酸を使用しても良い。
【0026】
(アミノ酸含有混合水溶液)
本発明におけるアミノ酸含有混合水溶液とは、所定量の中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つを含有した水溶液にpH調整剤を混合することで、等電点が中性付近(pH=約4〜8)となる水溶液を意味する。pH調整剤としては、酸性アミノ酸に塩基性アミノ酸を混合しても良いし、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを混合しても良く、特に限定されない。また、必要に応じて、溶液を安定に維持するために通常使用される公知の添加剤等を含有させても良い。以降、特に区分する必要がある場合を除き、中性アミノ酸含有水溶液とアミノ酸含有混合水溶液とを含む意味で、中性アミノ酸含有水溶液等と表現する。
【0027】
中性アミノ酸含有水溶液等に含有させるアミノ酸の量は、中性アミノ酸含有水溶液等に添加される固形物の量に依存するものであり、作業者が適宜調節して、例えば、固形物中に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル数のおよそ0.01倍以上の量で添加すれば良いが、固形物の量が一定であればアミノ酸濃度が高い方が好適である。また、アミノ酸の種類に応じて水に対する飽和溶解度が異なっており、中性アミノ酸の飽和溶解度は、酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に比べて高い傾向にある。このため、水溶液中に含まれるアミノ酸濃度を効率よく高めることができるのは、中性アミノ酸又はpH調整剤を混合して等電点を中性付近とした各種アミノ酸である。
【0028】
溶出工程では、先ず、所定量の中性アミノ酸を含む中性アミノ酸含有水溶液や、例えば、所定量の塩基性アミノ酸と所定量の酸性アミノ酸とを混合して生成されるアミノ酸含有混合水溶液を調製する。次いで、調製した中性アミノ酸含有水溶液等に対して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物を添加して、例えば、しばらくの間静置するか、あるいは公知の攪拌装置を用いて攪拌・混合して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を中性アミノ酸含有水溶液等に溶出させる。
【0029】
具体的に言うと、例えば、中性アミノ酸に固形物であるセメントを添加したときのカルシウムイオンの溶出反応は、例えば以下のようなものが想定される。
(1)2HL+Ca(OH) → Ca(HL)2++2OH
(2)2HL+Ca(OH) → CaL+2H
ここで、Lは、中性アミノ酸の配位子を指す。
【0030】
これら(1)や(2)から分かるように、固形物に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、アミノ酸のカルボキシル基やアミノ基とキレート反応を起こし、キレート錯体(Ca(HL)2+、CaL)が生成される。このとき、カルシウムイオン(Ca2+)と結合していた水酸化物イオン(OH)が解離するため、水溶液がアルカリ側にシフトする。
【0031】
尚、中性アミノ酸含有水溶液等の使用量、静置時間、攪拌装置の攪拌速度、攪拌する際の温度、及び攪拌時間などの溶出工程における各種条件に関しては作業者が適宜調節して良いが、例えば、攪拌装置を使用して固形物の溶出工程を実施する場合、攪拌装置の攪拌速度はおよそ300rpm〜500rpm、攪拌する際の温度はおよそ10℃〜70℃、攪拌時間はおよそ0.5分以上が好適である。
【0032】
さらに本発明は、溶出工程後の中性アミノ酸含有水溶液等に酸性ガスを接触させてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、析出した塩を回収する回収工程とを含むものであっても良い。
【0033】
(酸性ガス)
本発明に適用可能な酸性ガスとしては、例えば、CO2、NOx、SOx、硫化水素などを挙げることができる。特にCO2(炭酸ガス)は、純粋な炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であれば適用できる。例えば、液化天然ガス(LNG)・液化石油ガス(LP)等の気体燃料、ガソリン・軽油等の液体燃料、石炭等の固体燃料等を燃焼させて発生する燃焼排ガス等を炭酸ガスとして用いることができる。
【0034】
析出工程において酸性ガスを中性アミノ酸含有水溶液等に接触させる方法は、公知の方法により行うことができ、特に制限はない。例えば、中性アミノ酸含有水溶液等に酸性ガスをバブリングする(吹き込む)方法、中性アミノ酸含有水溶液等と酸性ガスとを同一容器に封入して振とうする方法等が挙げられる。また、酸性ガスとして燃焼排ガス等を用いる場合には、中性アミノ酸含有水溶液等と接触させる前に吸着フィルタ等を通過させて、塵埃等を除去しても良い。尚、析出工程は任意の温度で実施できるが、温度が高いほど酸性ガスが溶け込み難くなるため、70℃以下で使用することが好ましい。
【0035】
析出工程にて例えば炭酸ガスを使用した場合、固形物から溶出した例えば、アルカリ土類金属のカルシウムイオンやマグネシウムイオンと炭酸とが反応して、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等の炭酸塩が生成されて析出する。具体的には、先述の(1)(2)で示した溶出反応後の水溶液に、炭酸ガスを接触させたときの析出反応は、以下のようになる。
(3)Ca(HL)2++HCO→ CaCO+2HL+H
(4)CaL+HCO → CaCO+HL+L
【0036】
析出工程においてキレート錯体を含有する水溶液に炭酸ガスを吹き込むと、キレート錯体からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が分離して炭酸塩が生成されると共に、キレート錯体から中性アミノ酸などが分離して、元の中性アミノ酸含有水溶液等の状態が回復される。すなわち、中性アミノ酸などは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を固形物から分離して炭酸塩を生成するための触媒として働き、繰り返し使用できるので有益である。
【0037】
ところで、酸性ガスが所望の緩衝能を発揮できる範囲として、第一酸解離定数に対して±1.5の範囲であることが知られている。そこで、本発明においては、中性アミノ酸含有水溶液等の等電点が、酸性ガスの第一酸解離定数に対して±1.5の範囲内であるのが好ましい。これは、酸性ガス((3)、(4)における左辺)の緩衝能範囲と回復するアミノ酸((3)、(4)における右辺)の緩衝能範囲とが重なることでバランスが取れ、酸性ガスの消費と炭酸塩の析出とが促進されるためである。
【0038】
酸性ガスの第一酸解離定数とは、炭酸ガスの場合、HCO→HCO+HとなるときのpHであり、pKa1=6.35となる。また、酸性ガスとしてのHSやHSOはpKa1=約6〜7である。このため、例えば、酸性ガスに炭酸ガスを用いる場合は、中性アミノ酸含有水溶液等の等電点は、4.75〜7.85の範囲内であることが好ましい。なお、アミノ酸の緩衝能範囲が等電点から±1.5であれば、アミノ酸はある程度の緩衝能を発揮するので、酸性ガスとアミノ酸との緩衝能範囲が重なるよう中性アミノ酸含有水溶液等の等電点は、約4〜8の範囲であれば良い。
【0039】
析出工程にて析出した塩は、その後の回収工程において、ろ過等の公知の方法によって回収することができる。回収された塩は、例えば、製紙、顔料、塗料、プラスチック、ゴム、織編物等の産業において充填材として利用することができる。
【0040】
また本発明は、回収工程後の中性アミノ酸含有水溶液等に、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む別の固形物を添加して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を当該中性アミノ酸含有水溶液等に溶出させる第2溶出工程を実施しても良く、次いで第2の析出工程及び回収工程を実施しても良い。即ち本発明では、初めの溶出工程で使用した中性アミノ酸含有水溶液等を用いて、第2の溶出工程、析出工程、及び回収工程を実施し、さらに第3の溶出工程、析出工程、及び回収工程を実施し、またさらに第4の・・・という具合に、同じ中性アミノ酸含有水溶液等に対して、溶出工程、析出工程、及び回収工程という一連のプロセスを繰り返して実施することができる。このとき、中性アミノ酸含有水溶液等に添加する固形物としては、前の溶出工程で使用したものと同一種類のものでも、異なる種類のものでも良く、特に限定されない。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
中性アミノ酸含有水溶液によって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出できることを確認するため、図1に示す装置を用いて、本発明に係る溶出工程を実施した。図1に示すように、当該装置は、反応容器1、攪拌機2、反応容器1内の溶液の温度を調整する水浴槽3、流量調整器4,5、混合装置6、計測計7、ガスクロマトグラフ8、逆流防止装置9、計算機10を備えて構成される。
【0043】
図2に示すフローに従って、中性アミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40g又はスラグ(高炉スラグ標準物質、(社)日本鉄鋼連盟標準化センター、高炉スラグ6号)3.66gを添加して混合水溶液を調製した。尚、上記セメント及びスラグのそれぞれに含まれるカルシウム量は、CaO換算で、64.2重量%及び42重量%であった。
【0044】
添加した17種類のアミノ酸とその重量、固形物の種類とその重量、及びモル比(固形物中のCaOの物質量(モル):添加したアミノ酸の物質量(モル))については図3及び図4に示す。また、セメント及びスラグのそれぞれに含まれるCaOの物質量(モル)を1としたときの各種アミノ酸の物質量(モル)を1又は0.1とした。即ち、本実施例においては、添加したアミノ酸の種類、固形物の種類、及びモル比の違いによって、68種類の混合水溶液を調整した。
【0045】
反応容器1に中性アミノ酸含有水溶液100mLを投入し、次いで所定量の固形物を投入して混合水溶液を調製し、攪拌機2を用いて400rpmで10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、各混合水溶液のpH及びカルシウムイオンの溶出率(混合水溶液中のCaOの物質量(モル)/固形物(セメント又はスラグ)中のCaOの物質量(モル)×100(%))を調べた。
【0046】
図5図8に固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示し、図9図12に固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示した。
【0047】
図5に示すように、セメント投入直後の各混合水溶液(モル比=1:0.1)のpHは、およそ5〜7となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、図9に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ11〜12となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0048】
図6に示すように、セメント投入直後の各混合水溶液(モル比=1:1)のpHは、およそ3〜7となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、図10に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ9〜11となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0049】
図7に示すように、スラグ投入直後の各混合水溶液(モル比=1:0.1)のpHは、およそ5〜8となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、図11に示すように各混合水溶液のpHは、およそ9〜11となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0050】
図8に示すように、スラグ投入直後の各混合水溶液(モル比=1:1)のpHは、およそ5〜7となり、幅広いpHとなったが、10分経過すると、図12に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ8〜10となり、アルカリ側に若干シフトした。
【0051】
以上より、いずれの混合水溶液においても、固形物投入直後は、酸性からアルカリ性に亘る幅広いpHとなるが、時間が経つとpHがアルカリ側にシフトする傾向があることが分かった。
【0052】
この傾向について説明すると、アミノ酸含有水溶液に固形物を投入した直後の混合水溶液のpHは、各種アミノ酸の持つ等電点により決定される。このため、中性アミノ酸(L−プロリンやL−アラニン等)を含む混合水溶液のpHは中性側となって、それぞれの混合水溶液に含まれるアミノ酸の種類に対応し全体として広い範囲のpHを示す。しかし、時間が経過するにつれて、固形物中のCaOが混合水溶液中に溶け出してCa(OH)2となり、これが解離して水酸化物イオン(OH-)が増加するためpHが高くなり、混合水溶液のpHがアルカリ側にシフトすると考えられる。
【0053】
従って、これらの結果から判断して、アミノ酸含有水溶液を使用することによって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出できることが確認された。
【0054】
尚、固形物投入後10分経過した混合水溶液のpHは、固形物から溶出するカルシウムイオンの中和点と各種アミノ酸の等電点とから決定されることとなる。即ち、図9図11に示される各混合水溶液では、各種アミノ酸の物質量(モル)よりも、溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)が高くなり、pHが主にカルシウムイオンの中和点によって決定されていずれの混合水溶液もアルカリ性となったためpHの範囲が狭くなったものと考えられる。一方、図12に示される各混合水溶液では、各種アミノ酸の物質量(モル)が、溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)と略同じか、あるいは溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)よりも高くなり、pHが主に各種アミノ酸の等電点から決定されたため、pHの範囲が広くなったものと考えられる。
【0055】
また、図9及び図10に示されるように、混合水溶液中のアミノ酸濃度が高いほど、カルシウムイオンの溶出率が高くなる傾向がある。また図11及び図12に示されるように、L−プロリンを除いて混合水溶液中のアミノ酸濃度が高いほどカルシウムイオンの溶出率が高くなるという傾向は、固形物としてスラグを用いた場合でも同様である。即ち、同種の固形物におけるCa溶出率はアミノ酸濃度に比例することが分かる。
【0056】
また、図5及び図9に示されるように、固形物がセメントの場合、pH範囲は、セメント投入直後でおよそ5〜7であったものが10分経過後におよそ11〜12となる。一方、図7及び図11に示されるように、固形物がスラグの場合、pH範囲は、スラグ投入直後でおよそ5〜8であったものが10分経過後におよそ9〜11となる。つまり、混合水溶液中のアミノ酸濃度が同じ場合、セメントを加えた場合の方が、投入直後から10分後までのpH変化が大きくなる。
【0057】
物質移動の駆動力はその物質の濃度に比例し、カルシウム移動の駆動力(F=−gradμCa)はカルシウム濃度に比例する。即ち、固形物に含まれるカルシウム量が多いほど(本実施形態では、固形物中の初期CaO含量が高いほど)、混合水溶液中の初期のカルシウム濃度との差が大きくなるため、カルシウム移動に係る駆動力が大きくなる。
【0058】
セメントのカルシウム含量はスラグのカルシウム含量より高いため、カルシウム移動に関してより大きな駆動力が働く。その結果、スラグよりもセメントの方が、カルシウムが溶出し易く、セメントを投入した混合水溶液のpHがよりアルカリ側にシフトしたためpH変化が大きくなったと考えられる。
【0059】
(実施例2)
中性アミノ酸含有水溶液を繰り返して使用した場合に、その中性アミノ酸含有水溶液のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出能力が維持されるか否かを確認するため、図1に示す装置を用いて、同じ中性アミノ酸含有水溶液に対して、本発明に係る溶出工程、析出工程、及び回収工程という一連のプロセスを繰り返し実施し、各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率と析出率とを調べた。
【0060】
図13に示すフローに従い、中性アミノ酸としてDL−アラニン2.40gを含有する中性アミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40gを添加して混合水溶液を調製し、実施例1と同様に10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。尚、このときのセメント中のCaOのモル数:添加したDL−アラニンのモル数=1:1とした。
【0061】
この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、カルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)を調べた。
【0062】
次いで、混合水溶液中の固形物残渣を吸引ろ過により除去してろ液を採取し、このろ液に対して、酸性ガスとして模擬燃焼排ガスを導入してバブリングして炭酸カルシウムを析出させた(析出工程)。
【0063】
模擬燃焼排ガスは、炭酸ガス(CO2)と窒素(N2)ガスとの混合ガスを用いた。模擬燃焼排ガスは、炭酸ガスと窒素ガスとを、それぞれ流量調整器4,5で流量を調整しつつ、混合装置6において所定の混合比で混合して供給した。本実施例では、模擬燃焼排ガスの組成を10vol%CO2+90vol%N2として、1リットル/分で90分間導入した。
【0064】
次いで、析出した炭酸カルシウムを吸引ろ過により回収してろ液(中性アミノ酸含有水溶液)を採取した(回収工程)。回収した炭酸カルシウムを乾燥して計量し、カルシウムイオンの析出率(Ca析出率:溶出工程で溶出したカルシウムイオンの量に対する炭酸カルシウム中のカルシウムの割合)を調べた。
【0065】
次いで、採取したろ液(中性アミノ酸含有水溶液)に対して、別の固形物としてセメント2.40gを再び添加して、上述と同様に第2の溶出工程、析出工程、回収工程という一連のプロセスを実施した。このようにして、本実施例では、同じ中性アミノ酸含有水溶液に対して、溶出工程、析出工程、回収工程というこの一連のプロセスを5回繰り返して実施した。
【0066】
各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)と析出率(Ca析出率)の結果を図14に示した。図14に示すように、多少のばらつきはあるものの、同じアミノ酸含有水溶液を少なくとも5回繰り返して使用したとしても、Ca溶出率の大きな低下は見られなかった。よって、中性アミノ酸含有水溶液は、固形物から炭酸塩を析出させる触媒として繰り返し使用できることが確認できた。
【0067】
(実施例3)
実施例1及び実施例2によって、中性アミノ酸を触媒として、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属がアミノ酸濃度に比例して溶出し、繰り返し中性アミノ酸を使用できることが確認された。本実施例では、析出工程において塩を析出する前段階である、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を溶出させる量について、酸性ガスの第一酸解離定数(pKa1)の±1.5の範囲内に等電点を有するアミノ酸が、他のアミノ酸に比べて優位であることを確認する。
【0068】
本実施例では、炭酸ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲内に等電点を有するアミノ酸(L−システィン、L−アラニン、DL−アラニン、L−プロリン、グリシン)や、他のアミノ酸(L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アルギニン)を含有するアミノ酸含有水溶液100mLを、各種アミノ酸ごとに調整した。次いで、セメント及びスラグのそれぞれに含まれるCaOの物質量(モル)と各種アミノ酸の物質量(モル)との比率を1:1とし、実施例1と同様の溶出工程を用いて、固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液中の溶出Ca濃度(mоL/L)を測定した。
【0069】
この測定した溶出Ca濃度(mоL/L)を、各種アミノ酸の飽和溶解度(1Lの水に対して飽和状態となるときのアミノ酸の物質量)に換算(図15)して、各種アミノ酸の等電点(pH)とカルシウムイオンの溶出量(moL/L)との関係をプロットした(図16図17)。図16に示すように、固形物がセメントの場合、炭酸ガスの第一酸解離定数(pKa1=6.35)の近傍(概ねpH=4〜8)に等電点を持つアミノ酸では、他のアミノ酸に比べてカルシウムイオンの溶出量が高いことが分かる。一方、pH=4〜8より酸性側又はアルカリ性側においては、カルシウムイオンの溶出量が少ない。また、図17に示すように、固形物がスラグの場合においても同様の傾向が見られた。
【0070】
これは、中性付近に等電点を持つアミノ酸の飽和溶解度は、酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に比べて高い傾向にあるからである。すなわち、カルシウムイオンの溶出率が小さくても、アミノ酸含有水溶液に溶解できるアミノ酸の飽和溶解度が大きければ、カルシウムイオンの溶出量の絶対値が高くなる。このため、後の析出工程で炭酸ガスを接触させると、カルシウムイオンの溶出量に比例して塩の析出量は増大する。さらに、中性付近に等電点を持つアミノ酸の緩衝能範囲は、炭酸ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲と重なるので、塩の析出とアミノ酸の分離回復を促進させる。よって、アミノ酸含有水溶液の等電点が、炭酸ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲内にあることで、固形物残渣の低減と共に、二酸化炭素の消費量を増大させることができる。
【0071】
以上説明したように、中性アミノ酸含有水溶液等を用いることで、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出効率が高まることが確認できた。一方、水1Lあたりに溶解できるアミノ酸の量は、各種アミノ酸固有の値であり、無限にアミノ酸濃度を高めることはできない。このため、アミノ酸の量を増やすために水量を増やしすぎると、装置が大型化してしまう。逆に固形物の投入量を少なくすることも考えられるが、大量の固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を回収するには非効率である。
【0072】
このため、水とアミノ酸と固形物との混合比率を最適化することで、溶出率と塩の析出量とのピーク値を一致させること、又は、溶出率と塩の析出量との積分値を最大化させることが好ましい。ここで、溶出率に着目したのは、固形物の残渣に反比例するからであり、析出量に着目したのは、析出工程における二酸化炭素などの温室効果ガス消費量に比例するからである。なお、この混合比率は、アミノ酸及び固形物の種類によって異なるため、本発明の実施段階において、適宜決定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、コンクリートを含む建築廃材や製鋼スラグ等の産業廃棄物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を回収するのに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 反応容器
2 攪拌機
3 水浴槽
4,5 流量調整器
6 混合装置
7 計測計
8 ガスクロマトグラフ
9 逆流防止装置
10 計算機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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