(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
グラビア塗工は、表面に凸凹加工が施されたグラビアロールを塗工液に浸し、グラビアロール表面の凹部に塗工液を一旦保持した後、連続搬送する基材フィルムにグラビアロールが接触することによって凹部に保持された塗工液を基材フィルム上に塗工する塗工方法である。
グラビア塗工に用いられるグラビアロールは、様々な使用用途で所望の塗工パターンや塗工量に応じて、表面の凹凸部のパターンや凹部の深さ等が種々選択される。
【0003】
ところで、リチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池には、正極-負極間を電気絶縁すると共に電解液を保持する機能を持つセパレータを有する。このようなセパレータには、異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を持たせる方法が一般的である。
【0004】
シャットダウン機能を有するセパレータとして、多孔質ポリオレフィンフィルムの表面に、無機フィラーを含む耐熱層が形成されたセパレータが報告されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、耐熱層は、高熱が発生してセパレータにおける多孔質ポリオレフィンフィルムが溶融しても、形状を維持しているため、正極と負極が直接接触することを防止する機能を有する。
このようなセパレータを形成する際には、基材としての多孔質ポリオレフィンフィルムの表面に、シリカ粒子、アルミナ粒子等の無機フィラー及びバインダー樹脂を含む塗工液を塗工して耐熱層を形成する。耐熱層を形成するための塗工方法として、工業的に大面積なセパレータを生産する場合において、グラビア塗工は好適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多孔質ポリオレフィンフィルムの表面に、シリカ粒子やアルミナ粒子等の硬質な無機フィラーを含む塗工液をグラビア塗工で塗工する場合、以下の(1),(2)の問題がある。
(1)グラビア塗工の際にグラビアロール表面が、シリカ粒子やアルミナ粒子等の硬質な無機フィラーによって摩耗する、「ロール摩耗」が発生し、グラビアロールの下地金属由来の不純物が、セパレータに混入する。ロール摩耗は、特に基材フィルムと直接的に接触するグラビアロール表面の凸部の頂頭部に発生する。
(2)グラビアロールの表面に、無機フィラーが凝集して付着し、時間経過とともに塗工中のグラビアロールの凹部に目詰まりが生じる。
【0007】
このような状況下、本発明の目的は、硬質の無機フィラーを含む塗工液を使用しても、ロール摩耗を抑制し、安定した塗工を実施することができるグラビアロールを提供することである。また、本発明の他の目的は当該グラビアロールによって基材フィルムに塗工を行う工程を有するセパレータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のグラビアロールを提供する。
<1> 金属製のロール本体の外周面に、ロール本体の中心軸と所定角度をなす複数の斜線状凸部を有し、該複数の斜線状凸部のそれぞれの間に形成される複数の斜線状凹部に塗工液を保持可能なグラビアロールであって、
前記ロール本体の外周全表面がダイヤモンドライクカーボン(DLC)層を有し、かつ、前記複数の斜線状凸部のそれぞれが、頂頭部が切頭され、頂頭部方向に向かうに従って徐々に幅が狭くなる台形型の断面形状を有してなるグラビアロール。
<2> 前記DLC層が、撥水性のあるDLC層である<1>に記載のグラビアロール。
<3> 前記DLC層の厚みが、0.1μm以上3.0μm以下である<1>または<2>に記載のグラビアロール。
<4> 前記ロール本体の外周表面と前記DLC層の間に中間層を有する<1>から<3>のいずれかに記載のグラビアロール。
<5> 前記中間層が、硬質クロムからなる<4>に記載のグラビアロール。
<6> 前記中間層の厚みが、10μm以上30μm以下である<5>に記載のグラビアロール。
<7> 前記複数の斜線状凹部のそれぞれが、台形型の断面形状を有する<1>から<6>のいずれかに記載のグラビアロール。
【0009】
すなわち、本発明のグラビアロールは、金属製のロール本体の外周面に、ロール本体の中心軸と所定角度をなす複数の斜線状凸部を有し、該複数の斜線状凸部のそれぞれの間に形成される複数の斜線状凹部に塗工液を保持可能なグラビアロールであって、前記ロール本体の外周全表面がDLC層を有し、かつ、前記複数の斜線状凸部のそれぞれが、頂頭部が切頭され、頂頭部方向に向かうに従って徐々に幅が狭くなる台形型の断面形状を有してなるグラビアロールである。
【0010】
本発明のグラビアロールは、金属製のロール本体の外周面の全体に、DLC層を有していることに特徴のひとつがある。
DLC層を構成するDLC(ダイヤモンドライクカーボン)は、ダイヤモンド状の炭素−炭素結合を含む炭素材料であり、高硬度で優れた耐摩耗性、低い摩擦係数、化学的に不活性で安定、腐食性雰囲気中でも侵されないなど、様々な特性をバランスよく備えている。なお、DLC層は、化学蒸着法(CVD)等の公知の製膜方法によって形成することができる。
そのため、DLC層は、金属製のロール本体を硬質の無機フィラーから保護する保護層として機能すると同時に、塗工対象の基材フィルムやドクターブレードとの摺動時に相手側の摩耗や損傷を抑制することができる。
【0011】
さらに、グラビアロールの凹凸を構成する複数の斜線状凸部のそれぞれは、頂頭部が切頭されており、かつ、上記DLC層により摺動性が向上しているため、塗工対象の基材フィルムと接触しても、基材フィルムを傷つけることを回避することができると共に、斜線状凸部が摩耗することも回避できる。
【0012】
また、複数の斜線状凸部のそれぞれは、頂頭部方向に向かうに従って徐々に幅が狭くなる台形型の断面形状を有しているため、該複数の斜線状凸部のそれぞれの間に形成される複数の斜線状凹部は、その斜線状凸部の壁面に沿って、保持された塗工液をスムーズに排出することができ、斜線状凹部への塗工液の残存が減少し、目詰まりが起こりづらくなり、優れた塗工性が持続する。
【0013】
前記DLC層が、撥水性のあるDLC層であることが好ましい。
DLCは、上述のように優れた耐摩耗性、耐薬品性などを有すが、グラビアロール表面のDLC層に、水系溶媒の塗工液が表面に付着し、無機フィラーが凝集することがある。そうなると、グラビアロールに保持される塗工液量が変動するため、安定した塗工を実施することができない。
そこで、DLC層を撥水性のあるDLC層とすることにより、水系溶媒の塗工液を使用した場合でも無機フィラーが付着しづらくなり、目詰まりがより起こりづらくなり、優れた塗工性が持続する。DLC層を撥水性のあるDLC層とするには、例えば、DLC層形成時にフッ素ドープすればよい。
【0014】
本発明のグラビアロールにおいて、ロール本体の外周を被覆するDLC層の厚みは、好適には0.1μm以上3μm以下である。この範囲であれば、上記DLC本来の性質を十分に発揮できる。
【0015】
また、ロール本体を被覆するDLC層はCVD等の方法で形成されるが、ロール本体の材質によっては密着性が不十分になる場合がある。また、DLC層は製膜や、グラビアロールの使用時にひびが入る等で欠陥部ができると、該欠陥部から塗工液が浸透し、下地のロール本体の金属材料を侵食する場合がある。
そこで、DLC層とロール本体との密着性を高め、かつ、DLC層の欠陥部から塗工液が浸透した場合でも、下地のロール本体の金属材料と塗工液が直接接触することが回避するために、本発明のグラビアロールは、ロール本体の外周表面とDLC層の間に中間層を有することが好ましい。
【0016】
中間層の材質としては、炭素材料であるDLC層と金属材料であるロール本体との接合性が高く、塗工液の成分に対して耐性が高いものが選択される。好適な具体例としては、硬質クロムやニッケルが挙げられ、特に硬質クロムが好ましく用いられる。中間層の厚みは、上記中間層の作用を得ることができる範囲で選択され、中間層の材質が、硬質クロムの場合には、10〜30μmが好ましい。
【0017】
また、本発明のグラビアロールは、前記複数の斜線状凹部のそれぞれが、台形型の断面形状を有していることが好ましい。
前記複数の斜線状凸部のそれぞれの間に形成される複数の斜線状凹部は、断面台形の形状であると、斜線状凹部の溝底部に塗工液の残存することがなくなり、目詰まりの発生がより抑制される。
【0018】
また、本発明は以下のセパレータの製造方法およびセパレータを提供する。
<8> <1>から<7>のいずれかに記載のグラビアロールを用いて塗工液を基材フィルムに塗工するセパレータの製造方法。
<9> 塗工液が無機フィラーを含む<8>に記載のセパレータの製造方法。
<10> 100m間隔で測定した、長さ方向におけるセパレータの目付けの、最大値と最小値との差が2g/m
2以下となるように無機フィラーを含む塗工液を基材フィルムに塗工し、基材フィルムの表面に無機フィラーを含む耐熱層が形成する工程を有する<9>に記載のセパレータの製造方法。
<11> 基材フィルムの表面に、無機フィラーを含む耐熱層が形成されたセパレータであって、100m間隔で測定した、長さ方向におけるセパレータの目付けの、最大値と最小値との差が2g/m
2以下であるセパレータ。
【0019】
本発明のセパレータの製造方法では、上述の特徴を有する本発明のグラビアロールを使用するため、均一な量の塗工液を基材フィルムに塗工することができる。また、グラビアロールが摺動性に優れるため、グラビアロールが塗工対象の基材フィルムと接触しても、基材フィルムの摩耗や損傷が起こりづらい。
そのため、本発明のセパレータの製造方法によれば、均一な量の塗工液を安定的に基材フィルム表面にグラビア塗工することができるため、品質が均一なセパレータを生産性よく製造することができる。特には、100m間隔で測定した、長さ方向におけるセパレータの目付けの、最大値と最小値との差が2g/m
2以下であるセパレータを製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、硬質の無機フィラーを含む塗工液を使用しても、ロール本体が摩耗しづらく、かつ、塗工対象の基材フィルムと接触しても、基材フィルムを傷つけることを回避することができ、安定的にグラビア塗工を行うことが可能なグラビアロールが提供される。また、当該グラビアロールを使用することにより、目付量が均等なセパレータを生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
なお、以下の実施形態において、二次電池のセパレータにおける、多孔質ポリオレフィンフィルムに対して耐熱層の塗工する場合について例示説明するが、これは本発明のグラビアロールの好適な対象としての例示であり、本発明のグラビアロールの使用用途はこれに限定されない。
【0024】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係るグラビアロールを備えたグラビア塗工装置100の使用状態を、
図1に基づいて説明する。
【0025】
グラビア塗工装置100は、グラビアロール1と、バックアップロール2、ドクターブレード3を主要部として構成される。
グラビアロール1は、詳しくは後述するように複数の斜線状凹部を有しており、その下部が塗工液Sに浸漬されるように配置した状態で、回転駆動装置(図示せず)により回転させることにより、斜線状凹部に塗工液を保持した状態で、基材フィルムFに塗工液Sを塗工する。
なお、バックアップロール2は、グラビアロール1による基材フィルムFへの塗工を安定化させるものであり、ドクターブレード3は、グラビアロール1の表面に保持された塗工液の量を調整するために使用されるものである。
【0026】
塗工液Sは、無機フィラー、バインダー樹脂、及び溶媒を含む。溶媒としては、水、イソプロピルアルコール等のアルコール溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。塗工液Sは、好ましくは溶媒として水を含有する水系塗工液である。このような溶媒を使用することにより、安定的にグラビア塗工を行うことが可能な塗工液が提供される。
無機フィラーとしては、シリカ粒子、チタニア粒子及びアルミナ粒子等が挙げられる。バインダー樹脂としては、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール等の水溶性樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム等のゴム、及び、アクリル樹脂などが挙げられる。なお、バインダー樹脂は溶媒に溶解せずにエマルジョンとして微分散していてもよい。無機フィラー及びバインダー樹脂として、具体的には、特開2013−46998号公報に記載されている無機フィラー及びバインダー樹脂が好適な一例として挙げられる。
【0027】
また、塗工対象となる基材フィルムは、セパレータにシャットダウン機能を持たせることができる多孔質ポリオレフィンフィルムである。多孔質ポリオレフィンフィルムとして、具体的には、特開2013−46998号公報に記載されている多孔質ポリオレフィンフィルムが好適な一例として挙げられる。
【0028】
以下、本実施形態1のグラビアロール1について詳細に説明する。
図2はグラビアロール1の斜視図であり、
図3はグラビアロール1の外周面の複数の斜線状凸部20及び複数の斜線状凹部30の拡大断面図である。なお、
図3において、グラビアロールの湾曲は省略記載している。
【0029】
グラビアロール1は、ロール本体10の外周面に複数の斜線状凸部20と斜線状凹部30が形成されている。なお、本実施形態ではロール本体10は直径150mmφ、長さ800mmのステンレス製であるが、これに限定されず、目的に応じてロール本体の材質、大きさは適宜選択される。
【0030】
図3に示すようにロール本体10の外周全表面には、DLC層11で被覆されており、ロール本体10とDLC層11との間には中間層12が設けられている。
【0031】
DLC層11を構成するDLC(ダイヤモンドライクカーボン)は、ダイヤモンド状の炭素−炭素結合を含む炭素材料であり、高硬度で優れた耐摩耗性、潤滑下で低い摩擦係数、摺動時に相手材を摩耗・損傷させない(低相手攻撃性)、化学的に不活性で安定、腐食性雰囲気中でも侵されないなど、様々な特性をバランスよく備えている。
【0032】
本実施形態のDLC層11の厚みは1μmである。ここで、DLC層11の厚みは、0.1μm以上3μm以下であることが好適である。この範囲であると、耐薬品性効果を維持し、より効果的に、乾燥凝集したスラリーが付着することを防止することができる。なお、DLC層の厚みは、光学干渉式測定器、またはレーザー変位計で測定することができる。光学干渉式測定器として有限会社オプトエレクトロニクスラボラトリ製MODEL:EL2を好適な一例として挙げることができる。
【0033】
また、DLC層11を構成するDLCは、撥水性DLCである。DLCはその構成炭素の割合によっては親水性の性質も有することがあるが、フッ素元素を原子、イオンの状態として分散することで、撥水性とすることができる。
【0034】
撥水性を有する元素であるフッ素を含有したDLC(フッ素DLC)は、DLC本来の耐薬品性、耐摩耗性に加え、フッ素を含まないDLCコート層よりも撥水性が高いという性質を有する。そのため、本発明のグラビアロールは、DLC層11をフッ素DLCとすることで、その撥水性によってスラリーの付着をより抑止することができる。
【0035】
ロール本体10の表面とDLC層11の間には、厚み15μmの硬質クロムからなる中間層12が設けられている。中間層12はロール本体10とDLC層11との密着性を高め、かつ、DLC層11の欠陥部から塗工液が浸透した場合でも、下地のロール本体10の金属材料と塗工液が直接接触することを避けることができる。なお、本実施形態での中間層12は厚み15μmであるが、ロール本体10とDLC層11との密着性を高め、かつ、DLC層11の欠陥部から塗工液Sが浸透した場合でも、下地のロール本体10の金属材料と塗工液が直接接触することを避けることができる厚みであればよい。中間層12が硬質クロムである場合には、10〜30μmが好適である。なお、中間層の厚みは、レーザー変位計で測定することができる。
【0036】
斜線状凸部20は、ロール本体10の外周面にロール本体10の中心軸と所定角度をなすようにらせん状に形成されている。なお、斜線状凸部20とロール本体10の中心軸との角度は、本実施形態では45°であるが、必要に応じて変化させたものを用いてもよい。また、
図3に示すように斜線状凸部20は、頂頭部20aが切頭され、頂頭部20a方向に向かう斜線状凸部20に従って徐々に幅が狭くなる台形型の断面形状を有している。
【0037】
複数の斜線状凹部30は、複数の斜線状凸部20のそれぞれの間に形成される凹部である。
図1に示すように塗工液Sは、斜線状凹部30に一旦保持された後に連続搬送する基材フィルムFにグラビアロール1が接触することによって斜線状凹部30に保持された塗工液Sが基材フィルムFの表面に塗工を行うことができる。
【0038】
グラビアロール1において、頂頭部20aの幅Wは40μmであり、隣接する斜線状凸部20の頂頭部20a間の距離Tは420μm、斜線状凸部20の頂頭部20aと溝底部30aの距離である斜線状凹部30の高さHは184μmである。
なお、距離T及び高さHは、斜線状凹部30の容量を規定するものであり、目的とする塗工液の保持量、すなわち、一回の塗工での塗工量を考慮して適宜決定される。通常、頂頭部20aの幅Wは10〜50μm、斜線状凸部の頂頭部間の距離Tが100〜500μmであり、斜線状凹部の高さHが100〜300μmである。
【0039】
グラビアロール1の斜線状凸部20及び斜線状凹部30は、未加工のロール本体10を彫刻加工によりらせん状に研削し斜線状凹部30を形成し、残存凸部を切頭することで斜線状凸部20(頂頭部20a)を形成することで製造することができる。
【0040】
塗工液Sが塗工された基材フィルムFを乾燥することでセパレータが得られる。
【0041】
セパレータの長さは、通常200m〜10000mであり、好ましくは500m〜5000mであり、より好ましくは1000m〜3000mである。なお、このような長さのセパレータを適宜切断して電池の部材として使用することができる。
【0042】
セパレータを100m間隔で測定した際の、長さ方向におけるセパレータの目付けの、最大値と最小値との差は、好ましくは2g/m
2以下であり、より好ましくは1g/m
2以下であり、さらに好ましくは0.5g/m
2以下である。当該差が小さいほどセパレータの品質が均一であり好ましい。
つまり、本発明のグラビアロールによれば、硬質の無機フィラーを含む塗工液を使用しても、ロール本体が摩耗しづらく、かつ、塗工対象の基材フィルムと接触しても、基材フィルムを傷つけることを回避することができ、安定的にグラビア塗工を行うことができるため、前記差が小さい、品質が均一なセパレータを得ることができる。
【0043】
(実施の形態2)
本発明の実施形態2に係るグラビアロールについて、図面に基づいて説明する。なお、本発明の実施形態2に係るグラビアロール及び該グラビアロールを有するグラビア塗工装置の基本構成は、上記本発明の実施形態1で説明した
図1及び
図2と同一であるので、共通する内容については適宜説明を簡略化、あるいは省略する。
【0044】
図4はグラビアロール1’の外周面の複数の斜線状凸部20及び複数の斜線状凹部30の拡大断面図である。なお、
図4において、グラビアロールの湾曲は省略記載している。
【0045】
グラビアロール1’は、ロール本体10の外周面に複数の斜線状凸部20と斜線状凹部30が形成されている。なお、本実施形態ではロール本体10は直径150mmφ、長さ800mmのステンレス製であるが、これに限定されず、目的に応じてロール本体の材質、大きさは適宜選択される。
【0046】
図4に示すようにロール本体10の外周全表面には、DLC層11で被覆されており、ロール本体10とDLC層11との間には中間層12が設けられている。
【0047】
DLC層11の構成や役割については上記実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0048】
本実施形態のDLC層11の厚みは1μmである。ここで、DLC層11の厚みは、0.1μm以上3μm以下であることが好適である。この範囲であると、耐薬品性効果を維持し、より効果的に、乾燥凝集したスラリーが付着することを防止することができる。また、DLC層11を構成するDLCは、撥水性DLCである。DLCはその構成炭素の割合によっては親水性の性質も有することがあるが、フッ素元素を原子、イオンの状態として分散することで、撥水性とすることができる。
【0049】
ロール本体10の表面とDLC層11の間には、厚み15μmの硬質クロムからなる中間層12が設けられている。中間層12の構成や役割については上記実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0050】
斜線状凸部20は、ロール本体10の外周面にロール本体10の中心軸と所定角度をなすようにらせん状に形成されている。なお、斜線状凸部20とロール本体10の中心軸との角度は、本実施形態では45°であるが。必要に応じて変化させたものを用いてもよい。また、
図4に示すように斜線状凸部20は、頂頭部20aが切頭され、頂頭部20a方向に向かう斜線状凸部20に従って徐々に幅が狭くなる台形型の断面形状を有している。
【0051】
複数の斜線状凹部30は、複数の斜線状凸部20のそれぞれの間に形成される凹部である。実施形態1の斜線状凹部30では溝底部30aが鋭角であったのに対し、本実施形態の斜線状凹部30では溝底部30aが平坦になっている。すなわち、本実施形態では斜線状凹部30のそれぞれが断面台形の形状を有している。
【0052】
溝底部30aが鋭角であると、塗工液Sが残存するなど時間の経過と共に塗工量が安定しなくなったり、塗工を一端止めた場合に塗工液Sに含まれる無機フィラーが溝底部30aに固着する場合があるが、溝底部30aが平坦で、斜線状凹部30のそれぞれが断面台形の形状であれば、塗工液Sが残存しづらくなり、塗工量が安定すると共に、無機フィラーが固着した場合においても容易に取り除くことができる。
【0053】
グラビアロール1’において、頂頭部20aの幅Wは30μmであり、隣接する斜線状凸部20の頂頭部20a間の距離Tは360μm、斜線状凸部20の頂頭部20aと溝底部30aの距離である斜線状凹部30の高さHは150μmであり、溝底部30aの幅W’は、65μmである。
なお、距離T及び高さH及び溝底部の幅W’は、斜線状凹部30の容量を規定するものであり、目的とする塗工液の保持量、すなわち、一回の塗工での塗工量を考慮して適宜決定される。通常、斜線状凸部の頂頭部間の距離Tが100〜500μmであり、斜線状凹部の高さHが100〜300μmであり、溝底部の幅W’が50〜200μmである。
【0054】
グラビアロール1’の斜線状凸部20及び斜線状凹部30は、未加工のロール本体10を彫刻加工によりらせん状に研削し斜線状凹部30(溝底部30a)及びを形成し、残存凸部を切頭することで斜線状凸部20(頂頭部20a)を形成することで製造することができる。
【0055】
塗工液Sが塗工された基材フィルムFを乾燥することでセパレータが得られる。
【0056】
セパレータの長さは、通常200m〜10000mであり、好ましくは500m〜5000mであり、より好ましくは1000m〜3000mである。なお、このような長さのセパレータを適宜切断して電池の部材として使用することができる。
【0057】
セパレータを100m間隔で測定した際の、長さ方向におけるセパレータの目付けの、最大値と最小値との差は、好ましくは2g/m
2以下であり、より好ましくは1g/m
2以下であり、さらに好ましくは0.5g/m
2以下である。当該差が小さいほどセパレータの品質が均一であり好ましい。
つまり、本発明のグラビアロールによれば、硬質の無機フィラーを含む塗工液を使用しても、ロール本体が摩耗しづらく、かつ、塗工対象の基材フィルムと接触しても、基材フィルムを傷つけることを回避することができ、安定的にグラビア塗工を行うことができるため、前記差が小さい、品質が均一なセパレータを得ることができる。
【0058】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の概念に含まれる限り、上記以外の構成を採用することもできる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
【0060】
<1.セパレータの目付(単位:g/m
2)>
セパレータから、一辺の長さが0.08mの正方形のサンプルを切り出し、切り出したサンプルの重量W(g)を測定した。得られたW(g)をセパレータの面積S(m
2)(=0.08×0.08)で除してセパレータの目付(W/S)を算出した。
【0061】
<2.基材フィルム>
高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032(ティコナ株式会社製))を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115(日本精鑞株式会社製))30重量%、この高分子量ポリエチレン粉末とポリエチレンワックスの合計100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))0.4重量部、酸化防止剤(P168(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。
【0062】
上記ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延してシートを作製した。当該シートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃の条件下で任意の倍率で延伸して、厚み16μm、空隙率53%、透気度100秒/100ccの多孔質ポリオレフィンフィルム(A)を得た。
【0063】
<3.塗工液>
「水:イソプロピルアルコール」の重量比が「95:5」である媒体に、固形分濃度が28重量%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC)(1110(ダイセルファインケム株式会社製)、真比重:1.6g/cm
3)とアルミナ粉末(AKP3000(住友化学株式会社製)、真比重:4.0g/cm
3)と、を「3:100」の重量比で添加、混合して、塗工液(A)を調製した。
【0064】
<実施例1>
上記実施の形態1のグラビアロールを備えたグラビア塗工機を用いて、塗工液を基材フィルムに塗工した。なお、DLC層11の厚みは、光学干渉式測定器(有限会社オプトエレクトロニクスラボラトリ製MODEL:EL2)を使用して測定した。また、中間層12の厚みは、レーザー変位計を使用して測定した。
まず、基材フィルムであるコロナ処理を行った多孔質ポリオレフィンフィルム(A)の片面に、塗工液(A)を塗工し、その後、塗工された塗工液を70℃で乾燥することによって、長さ1500mのセパレータ(A)を得た。
【0065】
得られたセパレータ(A)の目付けを、100m間隔で16点測定した。測定結果を表1に示す。
【0066】
<比較例1>
DLC層を備えない以外は上記実施の形態1のグラビアロールと同一のグラビアロールを備えたグラビア塗工機を用いて、コロナ処理を行った多孔質ポリオレフィンフィルム(A)の片面に、塗工液(A)を塗工し、その後、塗工された塗工液を70℃で乾燥することによって、長さ1500mのセパレータ(B)を得た。
【0067】
得られたセパレータ(B)の目付けを、100m間隔で16点測定した。測定結果を表1に示す。
【0068】
【表1】