特許第6013793号(P6013793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6013793
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】分散補償媒体
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/08 20060101AFI20161011BHJP
   H01S 3/13 20060101ALI20161011BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   H01S3/08
   H01S3/13
   G02B5/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-137052(P2012-137052)
(22)【出願日】2012年6月18日
(65)【公開番号】特開2014-3137(P2014-3137A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】長沼 和則
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−032916(JP,A)
【文献】 特開平02−023302(JP,A)
【文献】 J. Kuhl. et al.,"Compression of Femtosecond Optical Pulses withDielectric Multilayer Interferometers",IEEE Trans. on Quantum Electronics,1986年 1月,Vol.QE-22, No.1,p.182-185
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−1/39
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラス基板上に、誘電体多層膜を積層した、2種類の異なるミラーの対からなり、発振器の共振器内において群遅延分散を補償する分散補償媒体において、
前記ミラーの各々は、厚さlで屈折率がnlの低屈折率層および厚さhで屈折率がnhの高屈折率層が、前記基板面側からこの順で積層された組が、複数組繰り返し積層され、最上位置にある組の低屈折率層のみが2l×N(Nは自然数)の厚さを有しており、前記分散補償媒体は、
前記最上位置にある前記組の低屈折率層において、N=1である第1のミラーと、
前記最上位置にある前記組の低屈折率層において、N=2であって、前記第1のミラーの群遅延分散特性における群遅延分散値の正のピーク値を取る波長に、その群遅延分散特性における群遅延分散値の負のピーク値を取る波長が一致するように構成された第2のミラーと
から構成され、
前記第1のミラーおよび前記第2のミラーは、概ね平行に配置され、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの間で、各々のミラーの対向面においてそれぞれ1回以上の反射が生じ、前記共振器内における往復光路を形成するように配置されていることを特徴とする分散補償媒体。
【請求項2】
前記ミラーは、GT(Gires-Tournois)干渉計であって、前記低屈折率層の厚さlおよび前記高屈折率層の厚さhは、前記基板に対する入射角をθ、基準波長をλとするとき、それぞれ、式
【数1】
によって与えられることを特徴とする請求項1に記載の分散補償媒体。
【請求項3】
前記入射角は、0°より大きいことを特徴とする請求項2に記載の分散補償媒体。
【請求項4】
前記高屈折率層は、ZrO2:TiO2=9:1の混合物質であり、前記低屈折率層はSiO2であり、前記基板はBK7ガラス基板であることを特徴とする請求項1に記載の分散補償媒体。
【請求項5】
前記第1のミラーおよび前記第2のミラーを、前共振器を構成する終端鏡として利用することを特徴とする請求項1に記載の分散補償媒体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、測定装置または加工装置などに用いられる、パルスレーザ光源を構成する部品に関する。
【0002】
測定装置または加工装置などにおいては、パルスレーザ光源が使用されている。パルスレーザ光源の1つとして、モード同期を使用する極短パルスレーザが知られている。極短パルスレーザは研究開発用途のツールとして非常に有用であり、また最近では、薬剤検査、精密加工などの産業利用にも検討されている。例えば、極短パルスレーザは、主にその非常に短い時間幅を生かし、物質中の電子応答や格子振動などの超高速で起こる物理現象を観測する研究に用いられている。また、極短パルスレーザは、熱の効果が現れる前に物質に非常に大きなエネルギーを瞬間的に与える特性を持ち、加工・医療などの分野においても広く研究されている。
【0003】
フェムト秒レーザから発振されるパルスは、多数の波長の光から構成されている。モード同期技術により、それぞれの位相が揃えられるために数フェムト秒オーダーの極短パルスが実現されている。このようなモード同期技術を利用する場合、発振器内において、多数の波長の位相を整えるよう動作する分散補償媒体が利用されている。
【0004】
極短パルスレーザの増幅媒体としては、例えば、Cr4+:YAG単結晶が用いられてきた。この材料は発振波長域において正の群遅延分散を持っているので、透過する極短パルス光のパルス幅は広がってしまう。そのため、モード同期技術を利用した極短パルス光の時間幅を制限する要因の1つとして、共振器内の群速度分散制御が重要な技術課題となっている。
【0005】
長さ20mmのCr4+:YAG単結晶は、適切にレーザ発振器が構成された場合に、波長1.5μm付近においてモード同期発振する能力を持つ。そのパルス幅を200fs以下とするためには、YAG結晶の持つ正の群遅延分散を補償できるように、共振器内に、負の群遅延分散を持った分散補償媒体が必要である。
【0006】
極短パルスレーザに使用される分散補償媒体としては、例えば、非特許文献1の図2に示すようなチャープミラーの構造例がある。このチャープミラーは構造が複雑であって、その製造に精密さが求められるため、非常に高価なものであった。このため、極短パルスレーザ装置全体のコストを押し上げる要因となっていた。別の分散補償媒体の例としては、次に述べるGT干渉計がある。
【0007】
Cr4+:YAG単結晶(20mm、往復)の波長1.50μmに於ける群遅延分散は、+454fs2と報告されている(非特許文献4)。したがって、分散補償媒体は−800〜−1200fs2の群遅延分散を持つ必要がある。共振器の光路1周回中に同種の2枚のミラーを挿入して、1つのミラー当たり2回ずつ反射することで、合計4回の反射が起こる構成する場合を想定する。このとき、ミラーでの1回の反射あたり、−200〜−300fs2の群遅延分散が必要となる。
【0008】
図7は、従来技術の極短パルスレーザで使用される分散補償ミラーの構成を説明する図である。図7に示したミラー50は、上面から順に、厚さhの高屈折率層100aおよび厚さが2lのN(自然数〉倍の低屈折率層100bがある。その下に厚さhの第2の高屈折率層100bと、厚さlの第2の低屈折率層101bの組があり、同様の組が数〜10数組(n組)続き、基板102に至る構成を持つ。一般にこのような構成のミラーはGires-Tournois(GT)干渉計と呼ばれ、比較的低コストで実現可能であり、極短パルスレーザ共振器用分散補償媒体として利用されてきた(非特許文献2、非特許文献3)。
【0009】
上述のように、GTミラー50は、例えば光学ガラス102基板上に、高屈折率nhの誘電体および低屈折率nlの誘電体の2種類を交互に積層してミラーを形成する。基準波長をλ、基板102の法線方向に対する入射角θに対して、それぞれ次式(1)のように2種の誘電体の基準厚さhおよびlを定める。
【0010】
【数1】
【0011】
高屈折率層の基準厚さh、低屈折率層の基準厚さlのいずれも、基準となる光の波長λの1/4の長さに対応する厚みとなる。
【0012】
従来、パルスレーザ光源で用いられているGT干渉計ミラーにおいて、上述の1回の反射あたり、−200〜−300fs2の群遅延分散の要請を満たすことのできる構成の設計例は、以下の通りである。高屈折率層にZrO2:TiO2=9:1の混合物質(nh=2.12)を用い、低屈折率層にSiO2(nl=1.46)を用いて、基準波長1570nm、N=1、θ=30°、2つの層の繰り返しが13組とし、基板としてBK7ガラスを使用した。
【0013】
図8は、上述の設計例で得られたGTミラーのp偏波に対する群遅延分散を示した図である。縦軸に屈折率および群遅延分散を示している。概ね、80nmの幅の波長帯域にわたって、−200〜−300fs2の範囲の群遅延分散が得られている。この波長帯域で、本GTミラーは99.75%以上の反射率を有しており、発振器内に使用されるミラーとしての性能も充分である。この構成のGT干渉計ミラーを2枚用いることで、50fs程度のパルス幅が実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Robert Szipocs and Kdrpdt Ferencz, "Chirped multilayer coatings for broadband dispersion control in femtosecond lasers", / Vol. 19, No. 3 / OPTICS LETTERS, February 1, 1994
【非特許文献2】Jurgen kuhl and Joachim Heppner, "Compression of femtosecond optical pulses width dielectric multilayer interferometers", IEEE Transactions on Quntum Electronics, vol. QE-22, no.1, p.182 (1986)
【非特許文献3】Heppner and J. kuhl, "Intracavity chirp compensation in a colliding pulse mode-locked laser using thin - film interferometers", Applied Physics Letters, vol. 47, p-453 (1985)
【非特許文献4】Yuzo Ishida and Kazunori Naganuma; "Characteristics of femtosecond pulses near1.5 μm in a self-mode-locked Cr4+:YAG laser", Optics Letters, vol. 19, no. 23, p. 2003 (1994)
【非特許文献5】Kazunori Naganuma, Kazuo Mogi, and Hajime Yamada, "Group-delay measurement using the Fourier transform of an interferometxic cross correlation generated by white light," Optics Letters. vol. 15, p. 393 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
GT干渉計ミラーは比較的コストの安い電子ビーム蒸着により作製される。したがって、極短パルスレーザの分散補償媒体として、GT干渉計ミラーは、コストの高いイオンビームスパッターを用いて作製されるチャープミラーより安価である点に優位性がある。しかしながら、80nmの波長帯域では、30fs程度以下のパルス幅を持つ極短パルスを発生させるためには不充分である。したがって、より短いパルス幅の発振をさせるためにさらに負の群遅延分散の帯域幅を広げることのできる分散補償媒体が必要である。
【0016】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところはより広い波長帯域幅で負の群遅延分散を持つ、低コストの分散補償媒体を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はこのような課題を解決するために、請求項1の発明は、光学ガラス基板上に、誘電体多層膜を積層した、2種類の異なるミラーの対からなり、発振器の共振器内において群遅延分散を補償する分散補償媒体において、前記ミラーの各々は、厚さlで屈折率がnlの低屈折率層および厚さhで屈折率がnhの高屈折率層が、前記基板面側からこの順で積層された組が、複数組繰り返し積層され、最上位置にある組の低屈折率層のみが2l×N(Nは自然数)の厚さを有しており、前記分散補償媒体は、前記最上位置にある前記組の低屈折率層において、N=1である第1のミラーと、前記最上位置にある前記組の低屈折率層において、N=2であって、前記第1のミラーの群遅延分散特性における群遅延分散値の正のピーク値を取る波長に、その群遅延分散特性における群遅延分散値の負のピーク値を取る波長が一致するように構成された第2のミラーとから構成され、前記第1のミラーおよび前記第2のミラー、概ね平行に配置され、前記第1のミラーと前記第2のミラーとの間で、各々のミラーの対向面においてそれぞれ1回以上の反射が生じ、前記共振器内における往復光路を形成するように配置されていることを特徴とする分散補償媒体である。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1の分散補償媒体であって、前記ミラーは、GT(Gires-Tournois)干渉計であって、前記低屈折率層の厚さlおよび前記高屈折率層の厚さhは、前記基板に対する入射角をθ、基準波長をλとするとき、それぞれ、式
【0019】
【数2】
【0020】
によって与えられることを特徴とする。
【0021】
請求項3の発明は、請求項2の分散補償媒体であって、前記入射角は、0°より大きいことを特徴とする。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1の分散補償媒体であって、前記高屈折率層は、ZrO2:TiO2=9:1の混合物質であり、前記低屈折率層はSiO2であり、前記基板はBK7ガラス基板であることを特徴とする。
【0023】
請求項5の発明は、請求項1の分散補償媒体であって、前記第1のミラーおよび前記第2のミラーを、前共振器を構成する終端鏡として利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の分散補償媒体によって、従来技術の同種のGT干渉計を用いた構成と比べて、より広い波長帯域幅で負の群遅延分散を持つ分散補償媒体を、低コストのGT干渉計を用いて提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の分散補償媒体を含む極短パルスレーザ発振器の構成を示す概念図である。
図2図2は、本発明の分散補償媒体であるミラー対の構成を示す図である。
図3図3は、第1の構成のミラーの群遅延分散波長依存性の計算結果を示す図である。
図4図4は、第2の構成のミラーの群遅延分散波長依存性の計算結果を示す図である。
図5図5は、第1の構成のミラーと第2の構成のミラーを組み合わせた場合の群遅延分散波長依存性の計算結果を示す図である。
図6図6は、本発明の分散補償媒体の群遅分散を測定した結果である。
図7図7は、従来技術の極短パルスレーザで使用される分散補償ミラーの構成を説明する図である。
図8図8は、従来技術のGTミラーのp偏波に対する群遅延分散を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の分散補償媒体は、極短パルスレーザの発振器の光路内に置かれ、群遅延分散補償を行うために、負の群遅延分散を与える。上面から2層目の低屈折率層の厚さが2lの第1のGT干渉計ミラーが持つ群遅延分散の正のピーク位置に、上面から2層目の低屈折率層の厚さが4lの第2のGT干渉計ミラーの群遅延分散の負のピーク位置が重なるように各ミラーを構成して、第1のGT干渉計ミラーおよび第2のGT干渉計ミラーの2枚のミラーを対として使用することにより、必要な負の群遅延分散の波長帯域を広げる。
【0027】
第1のGT干渉計ミラーが持つ群遅延分散の正のピークの絶対量に対し、第2のGT干渉計ミラーが持つ群遅延分散の負のピーク値の絶対値は大きい。群遅延は光パルスが干渉計内に留まる時間と関係があるため、2層目の厚みが大きいほど遅延も大きくなる。その結果群遅延の傾きである群遅延分散のピークも大きくなる。そのため、この2種類のミラーを対にして使用した場合、ミラー対全体の群遅延分散における負の値を持つ波長帯域幅は、GT干渉計ミラー単独で持つ負の群遅延分散の波長帯域幅よりも広がる。共振器の光路1周回中に同種の2枚のミラーを挿入して使用する場合と比べて、負の値の群遅延分散を持つ波長帯域幅を広げることができる。さらに、本発明の分散補償媒体を、共振器の往復光路の中に用いることで、極短パルスレーザ光源を構成することができる。尚、後述するが、使用する増幅媒体によっては、共振器を構成する2つのミラー(終端鏡)を本発明の分散補償体のミラー対で兼ねることもできる。
【0028】
図1は、本発明の分散補償媒体を含む極短パルスレーザ発振器の構成を示す概念図である。極短パルスレーザ発振器1は、第1のミラー2および第2のミラー3の間に配置された増幅媒体7から構成される。励起光5が第2のミラー3の外部から入射され、発振出力光6は第1のミラー2から取り出される。本発明の分散補償媒体を構成する2つのミラー4a、4bのミラー対は、共振器を構成する2つのミラー2、3の間の光路中に置かれる。
【0029】
図2は、本発明の分散補償媒体であるミラー対の構成を示す図である。ミラー対20として、第1のGT干渉計ミラー21aおよび第2のGT干渉計ミラー21bが、概ね平行に配置されている。図2に示すように、2つのミラー21a、21bの各々の端部近傍において、それぞれ2回ずつ反射して、図面上の水平方向に往復の光路が形成されるように、2つのミラーを配置する。すなわち、図面の右方向に進む光路23−1、23−2と、左方向に進む光路22−1、22−2とからなる往復光路は、共振器の内部に含まれる。
【0030】
すなわち、本発明の分散補償媒体は、光学ガラス基板上に誘電体多層膜を積層した、2種類の異なるミラーの対からなり、発振器の共振器内において群遅延分散を補償する動作を行う。各々のミラーは、厚さlで屈折率がnlの低屈折率層および厚さhで屈折率がnhの高屈折率層が、基板面側から低屈折率層、高屈折率層の順で積層された組が、複数組繰り返し積層され、最上位置にある組の低屈折率層のみが2l×N(Nは自然数)の厚さを有している。本発明の分散補償媒体は、最上位置にある組の低屈折率層において、N=1である第1のミラーと、最上位置にある組の低屈折率層において、N=2であって、第1のミラーの群遅延分散特性における群遅延分散値の正のピーク値を取る波長に、その群遅延分散特性における群遅延分散値の負のピーク値を取る波長が一致するように構成された第2のミラーとから構成される。そして、第1のミラーと第2のミラーとは、概ね平行に配置され、第1のミラーと第2のミラーとの間で、各々のミラーの対向面においてそれぞれ2回以上の反射が生じ、共振器内における往復光路を形成するように配置されている。以下、より具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0031】
以下、Cr4+:YAG単結晶(長さ20mm)を増幅媒体とする極短パルスレーザに使用する分散補償媒体について記述する。第1の構成のミラーとして、図7の構成における高屈折率層にZrO2:TiO2=9:1の混合物質(nh=2.12)を用い、低屈折率層にSiO2(nl=1.46)を用いた。基準波長λを1530nm、N=1(第1の低屈折率層の係数)、θ=3°、p偏光、2つの層の繰り返しが13組、BK7ガラス基板の場合を考える。
【0032】
図3は、第1の構成のミラーの群遅延分散波長依存性の計算結果を示す図である。波長が1570nm近傍において、群遅延分散は、正の値のピークを取る。極短パルスレーザ共振器で使用するために、分散補償媒体には、ある程度の量の負の値の群遅延分散が要求される。負の値の群遅延分散を持つ条件を満たす波長帯域を、第1の構成のミラー21aの単体よりさらに広げるために、第2の構成のミラー21bを加える。
【0033】
第1の構成のミラー21aが、正の分散となっている波長域(正のピーク位置)に、絶対値のより大きい負の群遅延分散を持つ第2の構成のGT干渉計ミラー21bの負のピーク位置が重なるように各GTミラーを構成して、2枚のミラーの全体として、必要な負の群遅延分散量を備えた波長帯域を確保する。上述の第1の構成ミラー21aに対応する第2の構成のミラー22bは、基準波長λ=1600nm、N=2(第1の低屈折率層の係数)、θ=3°(入射角)、p偏光、2つの層の繰り返しが13組、BK7ガラス基板とした。
【0034】
図4は、第2の構成のミラーの群遅延分散の波長依存性の計算結果を示す図である。第2の構成のミラーは、第1の構成のミラーが正の群遅延分散のピークを持っている1570nm付近で、負のピークの群遅延分散を持っている。
【0035】
図5は、第1の構成のミラーと第2の構成のミラーを組み合わせた場合の群遅延分散波長依存性の計算結果を示す図である。図3に示した第1のミラー単独の場合と比べて、負の群遅延分散を持つ波長帯域が広がっていることがわかる。2種類のミラーでそれぞれ2回ずつ反射する共振器構成において、2種類のミラーの組み合わせ(ミラー対)に対して、パルス幅が200fs以下の極短パルスを発生させるのに必要な負の群遅延分散は、概ね−400〜−600fs2である。図5においては、−400fs2以下となる群遅延分散が110nm以上の波長帯域にわたって得られていることがわかる。幅110nmの帯域における2つのミラーの1回の反射の場合、反射率も99.5%以上となり、レーザ発振器での使用のためには実用上充分な反射率である。
【0036】
図6は、本発明の分散補償媒体の群遅分散を測定した結果である。第1の構成のミラーおよび第2の構成のミラーをそれぞれ電子ビーム蒸着により作製し、フーリエ変換相互干渉法(非特許文献5)で群遅分散を測定した結果である。第1の構成のミラー、第2の構成のミラーの各測定値および2つのミラーの合計の群遅分散を示している。2つのミラーの合計の群遅延分散は、設計どおり、120nmの波長帯域幅の範囲で概ね−400〜−600fs2の群遅分散が実現できている。図8に示したような、従来技術の同種のGT干渉計を単に組み合わせるだけの構成よりも、50%程度広い波長帯域で必要な負の群遅延分散を得ている。
【0037】
上述の実施例では、Cr4+:YAG単結晶(長さ20mm)を増幅媒体としており、2つのミラーの間における反射回数は、1つのミラー当たり2回の場合を示している。しかしながら、Cr4+:YAG単結晶(長さ10mm)を増幅媒体とする場合は反射回数1回とすべきであり、Cr4+:YAG単結晶(長さ30mm以上)を増幅媒体とする場合は反射回数を3回以上とするべきである。増幅媒体7は、Cr4+:YAG単結晶に限らないが、その群速度分散に合わせ反射回数を選べば良い。また、図1に示したミラー対の場合、光路を確保するために、入射角は0°よりも大きい必要がある。
【0038】
増幅媒体7としてCr4+:YAG単結晶(長さ5mm)と同程度の群速度分散を持つ物質を使用する場合、共振器を構成する2つのミラー(終端鏡)を本発明の分散補償体のミラー対で兼ねることもできる。すなわち、図1に示した極短パルスレーザ発振器において、共振器を構成するためのミラー2およびミラー3として、第2の構成のミラー4bおよび第1の構成のミラー4aをそれぞれ使用して、極短パルスレーザを構成することもできる。
【0039】
以上詳細に述べたように、本発明の分散補償媒体は、従来技術の同種のGT干渉計を用いた構成と比べて、より広い波長帯域幅で負の群遅延分散を持つ分散補償媒体を、低コストのGT干渉計を用いて提供することができる。本発明の分散補償媒体を用いることで、極短パルスレーザ光源を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、電子光学装置、特にパルスレーザ光源に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 極短パルスレーザ
2、3、 ミラー
4a、4b、21a、21b、50 GT干渉計ミラー
5 励起光
6 発振出力光
7 増幅媒体
100a、100b、100n 高屈折率層
101a、101b、101n 低屈折率層
102 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8