(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、固体原料の水溶性高分子と、水溶性高分子に対する溶解抑制剤と、水とを含有する。また、研磨用組成物は、好ましくは砥粒、塩基性化合物、キレート剤、及び界面活性剤を更に含有する。そして、研磨用組成物は水溶性高分子等の各成分を水に混合して調製される。
【0010】
研磨用組成物は、研磨対象物としてのシリコン基板の表面を研磨する用途に使用される。シリコン基板の研磨工程には、例えばシリコン単結晶インゴットから円盤状にスライスされたシリコン基板に対して、その表面を平面化する粗研磨工程(一次研磨・二次研磨)及び粗研磨工程後のシリコン基板の表面に存在する微細な凹凸を更に除去して鏡面化する最終研磨工程が含まれる。研磨用組成物は最終研磨する用途に使用されることが特に好ましい。そして、研磨用組成物を用いて表面を研磨されたシリコン基板は半導体基板の製造に好適に用いることができる。
【0011】
(水)
水は他の成分の分散媒又は溶媒となる。水は研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下とされることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルターによる粒子の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。具体的にはイオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。
【0012】
(水溶性高分子)
水溶性高分子は、研磨時やリンス処理時等のシリコン基板の表面処理時において、シリコン基板の研磨面の濡れ性を高める。研磨用組成物は、水溶性高分子として、研磨用組成物の調製時に固体又は固形の状態で水に投入される固体原料の水溶性高分子を含有する。固体原料とは、水に溶解する前の原料の状態において、温度23℃、相対湿度50%、及び1気圧の環境下にて目視で固体又は固形の状態のものを意味する。なお、以下では「固体原料の水溶性高分子」を単純に「水溶性高分子」と記載する。
【0013】
水溶性高分子としては、分子中に、カチオン基、アニオン基及びノニオン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するもの、具体的には、分子中に水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、第四級窒素構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を含むもののいずれも使用することができる。具体例としては、セルロース誘導体、ポリ(N−アシルアルキレンイミン)等のイミン誘導体、ポリビニルアルコールの水酸基部分の一部を第四級窒素構造に置換したポリビニルアルコール誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンを構造の一部に含む共重合体、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルカプロラクタムを構造の一部に含む共重合体、ポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体、これらのジブロック型やトリブロック型、ランダム型、交互型といった複数種の構造を有する重合体等が挙げられる。
【0014】
上記水溶性高分子の中でも、シリコン基板の研磨面における濡れ性の向上、パーティクルの付着の抑制、及び表面粗さの低減等の観点から、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、又はポリオキシアルキレン構造を有する重合体が好適である。セルロース誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。セルロース誘導体の中でも、シリコン基板の研磨面に濡れ性を与える能力が高く、良好な洗浄性を有する点から、ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。また、水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
水溶性高分子の重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で、1000以上であることが好ましく、より好ましくは10000以上であり、更に好ましくは100000以上であり、最も好ましくは200000以上である。水溶性高分子の重量平均分子量の増大によって、シリコン基板の研磨面の濡れ性が高まる傾向となる。水溶性高分子の重量平均分子量は、2000000以下であることが好ましく、より好ましくは1000000以下であり、更に好ましくは800000以下であり、一層好ましくは500000以下であり、最も好ましくは300000以下である。水溶性高分子の重量平均分子量の減少によって、研磨用組成物の安定性がより保たれる傾向となる。また、水溶性高分子の重量平均分子量を1000000以下とした場合には、シリコン基板の研磨面のヘイズレベルが低減する。
【0016】
研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、0.002質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.004質量%以上であり、更に好ましくは0.006質量%以上であり、一層好ましくは、0.008質量%以上、最も好ましくは0.01質量%以上である。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量の増大によって、シリコン基板の研磨面の濡れ性がより向上する傾向となる。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下であり、一層好ましくは、0.05質量%以下であり、最も好ましくは0.03質量%以下である。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量の減少によって、研磨用組成物の安定性がより保たれる傾向となる。
【0017】
(溶解抑制剤)
溶解抑制剤は、水溶性高分子の表面に付加されること、具体的には水溶性高分子の官能基、例えば水酸基等の水溶化部位(親水性部位)に結合されることにより、水溶性高分子の親水性を一時的に低下させて、水溶性高分子の水に対する溶解速度を低減させるものである。溶解抑制剤は、研磨用組成物の調製時において、水溶性高分子の表面に付加された状態(表面処理水溶性高分子)として水溶性高分子と共に水に混合される。そして、表面処理水溶性高分子は水に溶解する過程で水溶性高分子と溶解抑制剤とに分離される。その結果、研磨用組成物中に水溶性高分子と溶解抑制剤とが含有される。
【0018】
表面処理水溶性高分子は、水中に投入されると、水への溶解前に均一分散が進行して水分散体となった後、溶解抑制剤が加水分解されつつ徐々に溶解が進行して水溶解体となる。そのため、水溶性高分子を表面処理水溶性高分子の状態として水に溶解させた場合には、未処理の固体原料の水溶性高分子を水に溶解させた場合と比較して、水溶性高分子の溶解不良(ママコ発生等)を顕著に抑制することができる。その結果、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着を抑制することができる。
【0019】
溶解抑制剤としては、例えばアルデヒド類、具体的には、ホルムアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリセルアルデヒド等のモノアルデヒドや、シュウ酸ジアルデヒド(エタンジアール)、マロン酸ジアルデヒド(プロパンジアール)、コハク酸ジアルデヒド(ブタンジアール)等のジアルデヒドが挙げられる。溶解抑制剤の中でも、パーティクルの付着をより好適に抑制することができる点から、シュウ酸ジアルデヒドが特に好ましい。溶解抑制剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、水溶性高分子の表面に溶解抑制剤を付加する表面処理としては、例えば、特開昭49−71077号公報や特開2000−63565公報等に開示される表面処理を適用することができる。
【0020】
研磨用組成物中における溶解抑制剤の含有量(調製時に水溶性高分子の表面に付加される溶解抑制剤の付加量に基づく含有量)は、1質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは5質量ppm以上である。研磨用組成物中における溶解抑制剤の含有量の増大、即ち調製時における水溶性高分子の親水性低下の度合が増大することによって、水溶性高分子に起因するパーティクルの付着が減少する。研磨用組成物中における溶解抑制剤の含有量は、80質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50質量ppm以下であり、更に好ましくは30質量ppm以下であり、最も好ましくは15質量ppm以下である。研磨用組成物中における溶解抑制剤の含有量の減少によって、溶解抑制剤に起因するパーティクルの付着が減少する。
【0021】
溶解抑制剤の含有量は、水溶性高分子の重量平均分子量及び水溶性高分子の含有量に対して特定の関係を満たすように設定されている。即ち、水溶性高分子の重量平均分子量をA、水溶性高分子の含有量[質量%]をB、溶解抑制剤の含有量[質量ppm]をCとしたときに、C/(A×B)の値が特定の値となっている。
【0022】
水溶性高分子の重量平均分子量A、水溶性高分子の含有量B、及び溶解抑制剤の含有量Cはそれぞれ、水溶性高分子を均一に溶解させる場合の難易性と相関を有する。
重量平均分子量Aが大きい場合は、1つの分子中に水酸基等の水和点の点数が多くなる。そのため、重量平均分子量Aが大きい水溶性高分子ほど、溶解のために必要な水の量が多くなり、水溶性高分子を均一に溶解させることが困難になる傾向がある。したがって、水溶性高分子の重量平均分子量Aは、水溶性高分子1分子についての均一に溶解させることの困難性を表すパラメータといえる。
【0023】
水溶性高分子の含有量Bが大きい場合は、系中の水溶性高分子の分子数が多くなる。そのため、含有量Bが大きいほど、系中における水溶性高分子の分子同士の接触の頻度が増大する。その結果、分子同士が絡まりやすくなり、水溶性高分子を均一に溶解させることが困難になる傾向がある。したがって、水溶性高分子の含有量Bは、系中における水溶性高分子全体についての均一に溶解させることの困難性を表すパラメータといえる。
【0024】
したがって、水溶性高分子の重量平均分子量Aと水溶性高分子の含有量Bとの積(A×B)は、系中の水溶性高分子の総合的な均一に溶解させることの困難性を表すパラメータとなり、この数値が大きいほど、水溶性高分子を均一に溶解させることが困難であることになる。
【0025】
一方、溶解抑制剤の含有量Cが大きい場合は、系中の溶解抑制剤の分子数が多くなる。そのため、含有量Cが大きいほど、水溶性高分子における多くの水和点に対して溶解抑制剤の作用が及ぶことになる。その結果、水溶性高分子の水和点の作用が抑制されて、水溶性高分子を均一に溶解させることが容易になる傾向がある。したがって、C/(A×B)は、系中の水溶性高分子の総合的な均一に溶解させることの困難性に対する、水溶性高分子の同困難性を低下させる溶解抑制剤の作用の大きさの比率を表すパラメータとなる。そして、この数値が大きいほど、水溶性高分子を均一に溶解させることが容易であることになる。
【0026】
C/(A×B)の値は、好ましくは2.5×10
−3以上であり、より好ましくは3.0×10
−3以上であり、更に好ましくは3.5×10
−3以上であり、最も好ましくは4.0×10
−3以上である。C/(A×B)の値の増大によって、水溶性高分子を均一に溶解させることが容易となり、結果としてシリコン基板の研磨面に付着するパーティクルが減少する。
【0027】
しかし、一方でC/(A×B)の数値が大きくなりすぎた場合にも、シリコン基板の研磨面に付着するパーティクルが増大するという問題が生じる。これは水溶性高分子に対して過剰に存在する溶解抑制剤がシリコン基板の研磨面に付着することにより生じているものと考えられる。そのため、C/(A×B)の値は、好ましくは70×10
−3以下であり、より好ましくは30×10
−3以下であり、更に好ましくは20×10
−3以下であり、より更に好ましくは10×10
−3であり、最も好ましくは6.0×10
−3以下である。C/(A×B)の値の減少によって、溶解抑制剤自身が異物になることが抑えられるため、パーティクルが減少する。
【0028】
なお、溶解抑制剤の含有量C及びC/(A×B)の値は、調製時に用いる上記表面処理水溶性高分子における溶解抑制剤の付加量を変化させることによって調整することができる。そして、研磨用組成物中における溶解抑制剤の含有量Cは、研磨組成物中に含まれる溶解抑制剤側の加水分解物量として測定することができる。調製時に水溶性高分子の表面に付加される溶解抑制剤と上記加水分解物とが異なる化学構造となる場合には、上記加水分解物量の測定値に対して適宜、換算処理を行うことによって溶解抑制剤の含有量Cを算出することができる。研磨組成物中に含まれる上記加水分解物量は、例えば、高速液体クロマトグラフィやキャピラリー電気泳動装置を用いることにより測定することができる。
【0029】
(砥粒)
研磨用組成物中には砥粒を含有させることができる。砥粒はシリコン基板の表面に対して、物理的な作用を与えて物理的に研磨する。
【0030】
砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、及び有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、並びに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子及び窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。
【0031】
これらの具体例の中でもシリカが好ましい。シリカの具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、及びゾルゲル法シリカから選ばれるシリカ粒子が挙げられる。これらシリカ粒子の中でも、シリコン基板の研磨面に生じるスクラッチを減少させるという観点において、コロイダルシリカ及びフュームドシリカから選ばれるシリカ粒子、特にコロイダルシリカを用いることが好ましい。これらのうち一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
シリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上であり、更に好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる。シリカの真比重は、好ましくは2.2以下であり、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.9以下である。シリカ真比重の減少によって、研磨後のシリコン基板の表面品質が向上する作用がある。具体的にはヘイズの改善効果などがある。シリカの真比重は、シリカの粒子を乾燥させた際の重量とこのシリカの粒子に容量既知のエタノールを満たした際の重量とから算出される。
【0033】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm以上であり、更に好ましくは20nm以上である。砥粒の平均一次粒子径の増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる。砥粒の平均一次粒子径は100nm以下であることが好ましく、より好ましくは70nm以下であり、更に好ましくは50nm以下である。砥粒の平均一次粒子径の減少によって、研磨用組成物の安定性が向上する。
【0034】
砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法により測定される比表面積から算出される。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて行うことができる。
【0035】
砥粒の平均二次粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上であり、更に好ましくは30nm以上である。砥粒の平均二次粒子径の増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる。砥粒の平均二次粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは150nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。砥粒の平均二次粒子径の減少によって、研磨用組成物の安定性が向上する。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、大塚電子社製、FPAR−1000を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0036】
砥粒の長径/短径比の平均値は1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.05以上であり、更に好ましくは1.1以上である。上記長径/短径比の平均値の増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる。砥粒の長径/短径比の平均値は3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.5以下である。上記長径/短径比の平均値の減少によって、シリコン基板の研磨面に生じるスクラッチが減少する。
【0037】
上記長径/短径比は、砥粒の粒子形状を示す値であり、例えば、電子顕微鏡を用いた写真観察により求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて、所定個数(例えば200個)の砥粒を観察し、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を算出するとともに、その平均値を算出することにより、長径/短径比の平均値を求めることができる。
【0038】
研磨用組成物中における砥粒の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる。研磨用組成物中における砥粒の含有量は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下である。砥粒の含有量の減少によって、研磨用組成物の安定性が向上する。
【0039】
(塩基性化合物)
研磨用組成物中には塩基性化合物を含有させることができる。塩基性化合物は、シリコン基板の研磨面に対して、化学的な作用を与えて化学的に研磨する(ケミカルエッチング)。これにより、シリコン基板を研磨する際の研磨速度を向上させることが容易となる。
【0040】
塩基性化合物の具体例としては、アルカリ金属の水酸化物又は塩、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。第四級アンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物又は塩の具体例としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウム又はその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン等が挙げられる。これらの塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
塩基性化合物の中でも、アンモニア、アンモニウム塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、及び第四級アンモニウム水酸化物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。塩基性化合物の中でも、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一種がより好ましい。塩基性化合物の中でも、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、及び水酸化テトラエチルアンモニウムから選ばれる少なくとも一種が更に好ましく、一層好ましくはアンモニア及び水酸化テトラメチルアンモニウムの少なくとも一方であり、最も好ましくはアンモニアである。
【0042】
研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.002質量%以上であり、更に好ましくは0.003質量%以上である。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる傾向となる。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以下であり、最も好ましくは0.1質量%以下である。研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の減少によって、シリコン基板の形状が維持され易くなる傾向となる。
【0043】
研磨用組成物のpHは8.0以上であることが好ましく、より好ましくは8.5以上であり、更に好ましくは9.0以上である。研磨用組成物のpHの増大によって、シリコン基板を研磨する際に高い研磨速度が得られる傾向となる。研磨用組成物のpHは12.5以下であることが好ましく、より好ましくは12.0以下であり、更に好ましくは11.5以下である。研磨用組成物のpHの減少によって、シリコン基板の形状が維持され易くなる傾向となる。
【0044】
(キレート剤)
研磨用組成物中にはキレート剤を含有させることができる。キレート剤は、研磨系中の金属不純物成分を捕捉して錯体を形成することによってシリコン基板の金属汚染を抑制する。
【0045】
キレート剤の具体例としては、アミノカルボン酸系キレート剤、及び有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが挙げられる。有機ホスホン酸系キレート剤の具体例としては、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸が挙げられる。これらキレート剤の中でも、有機ホスホン酸系キレート剤、特にエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)を用いることが好ましい。キレート剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(界面活性剤)
研磨用組成物中には界面活性剤を含有させることができる。界面活性剤は、シリコン基板の研磨面の荒れを抑制する。これにより、シリコン基板の研磨面のヘイズレベルを低減することが容易となる。特に、研磨用組成物に塩基性化合物を含有させた場合には、塩基性化合物による化学的研磨(ケミカルエッチング)によってシリコン基板の研磨面に荒れが生じ易くなる傾向となる。このため、塩基性化合物と界面活性剤との併用は特に有効である。
【0047】
界面活性剤としては、重量平均分子量が1000未満のものが好ましく、アニオン性又はノニオン性の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の中でも、ノニオン性界面活性剤が好適に用いられる。ノニオン性界面活性剤は、起泡性が低いため、研磨用組成物の調製時や使用時の取り扱いが容易となる。また、例えばイオン性の界面活性剤を用いた場合よりも、pH調整が容易となる。
【0048】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、オキシアルキレンの単独重合体、複数の種類のオキシアルキレンの共重合体、ポリオキシアルキレン付加物が挙げられる。オキシアルキレンの単独重合体の具体例としては、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレン及びポリオキシブチレンが挙げられる。複数の種類のオキシアルキレンの共重合体の具体例としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール及びポリオキシエチレンポリオキシブチレングリコールが挙げられる。
【0049】
ポリオキシアルキレン付加物の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物等が挙げられる。更に具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0050】
これらのノニオン性界面活性剤の中でも、オキシアルキレンの単独重合体又は複数の種類のオキシアルキレンの共重合体を用いることが好ましい。この場合には、研磨後のシリコン基板の研磨面のヘイズを実用上特に好適なレベルにまで低減することが容易である。それは、僅かな親水性を有するエーテル結合と僅かな疎水性を有するアルキレン基がこれらの重合体の分子鎖中に交互に存在することが理由と考えられる。
【0051】
また、オキシアルキレンの単独重合体又は複数の種類のオキシアルキレンの共重合体におけるオキシエチレン単位の比率は、85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。重合体中のオキシエチレン単位の比率の増大によって、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着が抑制される傾向がある。
【0052】
また、ノニオン性界面活性剤のHLB(hydrophile-lipophile Balance)値は、17以上であることが好ましく、より好ましくは18以上である。ノニオン性界面活性剤のHLB値の増大によって、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着が抑制される傾向がある。
【0053】
なお、界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
研磨用組成物中における界面活性剤の含有量は、0.0001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上である。界面活性剤の含有量の増大によって、研磨後の半導体基板表面のヘイズがより減少される傾向がある。研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は0.05質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以下である。界面活性剤の含有量の減少によって、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着が抑制される傾向がある。
【0054】
(その他成分)
研磨用組成物は、必要に応じて研磨用組成物に一般に含有されている公知の添加剤、例えば有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等を更に含有してもよい。例えば、有機酸、有機酸塩、無機酸及び無機酸塩のいずれかを添加した場合には、水溶性高分子との相互作用により、研磨後のシリコン基板の研磨面の親水性を向上させることができる。
【0055】
有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の具体例としては、有機酸の具体例で記載した有機酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0056】
無機酸の具体例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の具体例としては、無機酸の具体例で記載した無機酸のナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0057】
有機酸塩及び無機酸塩の中でも、シリコン基板の金属汚染を抑制するという点から、アンモニウム塩が好ましい。
有機酸及びその塩、並びに無機酸及びその塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
防腐剤及び防カビ剤の具体例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
次に、本実施形態の研磨用組成物の製造方法について記載する。
【0059】
研磨用組成物は、表面処理水溶性高分子(溶解抑制剤を表面に付加した水溶性高分子)を水に溶解させる溶解工程を経ることにより調製される。また、必要に応じて砥粒等の各成分が更に混合される。
【0060】
溶解工程では、水中に表面処理水溶性高分子が投入され、水に対する表面処理水溶性高分子の分散が進行する。その後、攪拌操作を行うことによって、分散した表面処理水溶性高分子から溶解抑制剤が加水分解されるとともに、溶解抑制剤が分離した水溶性高分子の水への溶解が徐々に進行する。その結果、水溶性高分子及び溶解抑制剤が水に溶解された研磨用組成物が調製される。溶解工程に供される表面処理水溶性高分子としては、溶解工程後に上記C/(A×B)の値が上記特定値となるように、固体原料の水溶性高分子の表面に対する溶解抑制剤が調整された表面処理水溶性高分子が用いられる。
【0061】
また、表面処理水溶性高分子は、水に均一に分散させるという観点から粒度の細かいものを用いることが好ましい。具体的には、表面処理水溶性高分子の粒度は1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下であり、最も好ましくは200μm以下である。上記範囲の粒度の表面処理水溶性高分子を用いた場合には、水に対して表面処理水溶性高分子が均一に分散しやすくなることにより、微細な分散体が得られる。その結果として、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着を抑制する効果が得られる。
【0062】
一方、表面処理水溶性高分子の粒度が細かすぎると、研磨後のシリコン基板の研磨面に微小な粒度の異物に起因するパーティクルが付着する傾向がある。そのため、表面処理水溶性高分子は、微小な粒度の異物を除去するという観点から、粒度が一定値以上のものを用いることが好ましい。具体的には、表面処理水溶性高分子の粒度は10μm以上であることが好ましく、より好ましくは20μm以上であり、更に好ましくは50μm以上であり、一層好ましくは90μm以上であり、最も好ましくは120μm以上である。上記範囲の粒度の表面処理水溶性高分子を用いた場合には、微小な粒度の異物が少なくなり、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着を抑制する効果が得られる。
【0063】
溶解工程において、表面処理水溶性高分子が水に分散された分散体に塩基性化合物を加える等して、分散体を塩基性(例えばpH8以上12以下)とした後に攪拌操作を行うことが好ましい。この場合には、表面処理水溶性高分子から水溶性高分子及び溶解抑制剤への加水分解が促進されて、水溶性高分子を更に好適に溶解させることができる。
【0064】
また、溶解工程においては、水に対して表面処理水溶性高分子を均一に分散させるとともに、水溶性高分子を均一に溶解させるという観点から、表面処理水溶性高分子の固体粒子に対する水の接触率を可能な限り高くするように混合することが好ましい。具体的には、水に対する表面処理水溶性高分子の投入速度や溶解時間(攪拌時間)等の条件を設定することが好ましい。
【0065】
水1Lに対する表面処理水溶性高分子の投入速度は0.01g/分以上であることが好ましく、より好ましくは0.1g/分以上、更に好ましくは1g/分以上、一層好ましくは5g/L以上、最も好ましくは10g/L以上である。また、水1Lに対する表面処理水溶性高分子の投入速度は100g/分以下であることが好ましく、より好ましくは70g/分以下、一層好ましくは50g/L以下、最も好ましくは30g/L以下である。
【0066】
溶解時間は1時間以上であることが好ましく、より好ましくは3時間以上、最も好ましくは6時間以上である。また、溶解時間は48時間以下であることが好ましく、より好ましくは36時間以下、最も好ましくは24時間以下である。
【0067】
表面処理水溶性高分子と水とを混合するための攪拌機としては、例えば、プロペラ撹拌機、ホモミキサー、ホモジナイザーを用いることができる。プロペラ撹拌機を用いた場合には、100rpm以上2000rpm以下とすることが好ましい。ホモミキサーやホモジナイザーを用いた場合には、1000rpm以上10000rpm以下とすることが好ましい。
【0068】
次に、半導体基板の製造方法について記載する。
半導体基板の製造方法は、本実施形態の研磨用組成物を用いてシリコン基板の表面を研磨する研磨工程を有する。研磨工程においては、シリコン基板の表面に研磨用組成物を供給しながら、同表面に研磨パッドを押し付けてシリコン基板及び研磨パッドを回転させる。このとき、研磨パッドとシリコン基板表面との間の摩擦による物理的作用によってシリコン基板の表面は研磨される。研磨用組成物が砥粒を含有する場合には、砥粒とシリコン基板表面との間の摩擦による物理的作用によってもシリコン基板の表面は研磨される。研磨用組成物が塩基性化合物を含有する場合には、上記物理的作用に加えて、塩基性化合物による化学的作用によってもシリコン基板の表面は研磨される。
【0069】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)研磨用組成物は、固体原料の水溶性高分子と、水溶性高分子に対する溶解抑制剤と、水とを含有する。水溶性高分子の重量平均分子量をA、水溶性高分子の含有量[質量%]をB、溶解抑制剤の含有量[質量ppm]をCとしたときに、C/(A×B)の値が70×10
−3以下である。これにより、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着を抑制することができる。
【0070】
(2)好ましくは、溶解抑制剤の含有量は80質量ppm以下である。この場合には、溶解抑制剤に起因するパーティクルの付着を抑制することができ、研磨後のシリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着を更に抑制することができる。
【0071】
(3)好ましくは、水溶性高分子の重量平均分子量は1000000以下である。この場合には、シリコン基板の研磨面のヘイズレベルを低減させることができる。
(4)研磨用組成物は、シリコン基板を研磨する用途、特にシリコン基板を最終研磨する用途に用いられることで、品質の安定したシリコン基板を得ることが容易となる。
【0072】
(5)半導体基板の製造方法は、上記(1)欄で述べた研磨用組成物を用いてシリコン基板を研磨する研磨工程を含む。これにより、品質の安定したシリコン基板が形成され、同シリコン基板から品質の高い半導体基板を製造することができる。
【0073】
なお、前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。
【0074】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、製造時及び販売時には濃縮された状態であってもよい。すなわち、前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液の形態で製造及び販売してもよい。
【0075】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。この場合の希釈倍率は、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは5倍以上であり、更に好ましくは10倍以上である。上記希釈倍率が増大することによって、研磨用組成物の原液の輸送コストが安価になるとともに、保管場所を節約することができる。上記希釈倍率は、好ましくは100倍以下であり、より好ましくは50倍以下であり、更に好ましくは40倍以下である。上記希釈倍率が減少することによって、研磨用組成物の原液の安定性が保たれ易くなる。
【0076】
・ 前記実施形態の研磨用組成物に含有される各成分は製造の直前にフィルターによりろ過処理されたものであってもよい。前記実施形態の研磨用組成物は、使用の直前にフィルターによりろ過処理して使用されるものであってもよい。ろ過処理が施されることによって、研磨用組成物中の粗大異物が取り除かれて品質が向上する。
【0077】
上記ろ過処理に用いるフィルターの材質及び構造は特に限定されるものではない。フィルターの材質としては、例えば、セルロース、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート、ガラス等が挙げられる。フィルターの構造としては、例えばデプス、プリーツ、メンブレン等が挙げられる。
【0078】
・ 前記実施形態の研磨用組成物を用いた研磨工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもののいずれを用いてもよい。
【0079】
・ 前記実施形態の研磨用組成物を用いてシリコン基板を研磨するに際して、一度研磨に使用された研磨用組成物を回収して、シリコン基板の研磨に再び使用してもよい。研磨用組成物を再使用する方法としては、例えば、研磨装置から排出された研磨用組成物をタンク内に回収し、再度研磨装置内へ循環させて使用する方法が挙げられる。研磨用組成物を再使用することは、廃液として排出される研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷が低減できる点、及び使用する研磨用組成物の量が減ることによりシリコン基板の研磨にかかる製造コストを抑制できる点において有用である。
【0080】
研磨用組成物を再使用する場合には、研磨により消費・損失された水溶性高分子等の各成分の一部又は全部を、組成物調整剤として添加することが好ましい。組成物調整剤は、各成分を個々に添加してもよいし、各成分を循環タンクの大きさや研磨条件等に応じた任意の比率にて混合した状態で添加してもよい。再使用される研磨用組成物に対して組成物調整剤を添加することにより、研磨用組成物の組成が維持されて、研磨用組成物の機能を持続的に発揮させることができる。
【0081】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、シリコン基板を研磨する以外の用途で使用されてもよい。例えば、ステンレスなどの金属、プラスチック、ガラス、及びサファイア等の研磨製品を得るために用いてもよい。
【0082】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)固体原料の水溶性高分子の表面に溶解抑制剤を付加して、水に対する溶解速度を低減させた表面処理水溶性高分子と、水とを配合してなり、前記水溶性高分子と前記溶解抑制剤と含有する研磨用組成物。
【実施例】
【0083】
ヒドロキシエチルセルロース(水溶性高分子)の表面に溶解抑制剤としてのシュウ酸ジアルデヒドを付加した表面処理水溶性高分子をイオン交換水に表1に示す投入速度にて投入するとともに表1に示す条件で混合することにより、ヒドロキシエチルセルロース及びシュウ酸ジアルデヒドを含有する実施例1〜45及び比較例1の混合液を調製した。表面処理水溶性高分子としては、水溶性高分子の重量平均分子量、及びシュウ酸ジアルデヒドの付加量が異なる表面処理水溶性高分子をそれぞれ用いている。また、ヒドロキシエチルセルロースをそのままの状態でイオン交換水に表1に示す投入速度にて投入するとともに表1に示す条件で混合することにより、ヒドロキシエチルセルロースを含有する比較例2の混合液を調製した。
【0084】
次に、上記各例の混合液と、平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカ(砥粒)と、アンモニア(塩基性化合物)と、イオン交換水とを配合して、実施例1〜45、及び比較例1〜2の研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物の共通組成を表2に示す。また、各例の研磨用組成物中における水溶性高分子及び溶解抑制剤(シュウ酸ジアルデヒド)の含有量、並びに含有される水溶性高分子の重量平均分子量を表4に示す。研磨用組成物中における溶解抑制剤の含有量は、高速液体クロマトグラフィを用いて測定した。研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、表面処理水溶性高分子の配合量と溶解抑制剤の含有量とに基づいて算出した。
【0085】
次に、各例の研磨用組成物を用いて、予備研磨後のシリコン基板の表面を表3に記載の条件で研磨した(最終研磨に相当)。シリコン基板は、直径が300mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm以下であるシリコン基板を株式会社フジミインコーポレーテッド製の研磨スラリー(商品名GLANZOX 1103)を用いて予備研磨したものを用いた。そして、各例の研磨用組成物について、パーティクル及びヘイズレベルの評価を行った。
【0086】
(パーティクル)
ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置“Surfscan SP2”を用いて、研磨後のシリコン基板の研磨面に存在する37nm以上の大きさのパーティクルの個数を計測した。その結果を表4の“パーティクル”欄に示す。表4の“パーティクル”欄に示した“A”は、パーティクルの個数が100個未満、“B”は100個以上120個未満、“C”は120個以上140個未満、“D”は140個以上160個未満、“E”は160個以上200個未満、“F”は200個以上300個未満、“G”は300個以上であることを表す。
【0087】
(ヘイズレベル)
ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置“Surfscan SP2”を用いて、同装置のDWOモードで研磨後のシリコン基板の研磨面を計測したときに得られる測定値に基づいて同研磨面のヘイズレベルを評価した。その結果を表4の“ヘイズレベル欄”に示す。表4の“ヘイズレベル欄”に示した“A”は、測定値が0.11ppm未満、“B”は0.11ppm以上0.12ppm未満、“C”は0.12ppm以上0.13ppm未満であることを表す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
表4に示すように、水溶性高分子及び溶解抑制剤を含有する各実施例及び比較例1を用いた場合には、溶解抑制剤を含有しない比較例2を用いた場合と比較して、パーティクルの計測値が低くなっている。そして、C/(A×B)の値が70×10
−3以下である各実施例は、C/(A×B)の値が70×10
−3を超える比較例1と比較してパーティクルの計測値が更に低くなっている。この結果から、シリコン基板の研磨面に対するパーティクルの付着を抑制するという観点において、水溶性高分子の重量平均分子量(A)、水溶性高分子の含有量(B)、及び溶解抑制剤の含有量(C)が特定の関係を満たすように研磨用組成物を調製することが有効であると示唆される。