(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。実施例の各ブロックを構成するトランジスタは特に制限されないが、公知のCMOS(相補型MOSトランジスタ)等の集積回路技術によって、単結晶シリコンのような1個の半導体基板上に製造される。即ち、ウェルと、素子分離領域と、酸化膜と、を形成する工程と、その後、ゲート電極と、ソース・ドレイン領域となる第1と第2半導体領域と、を形成する工程により製造される。MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の回路記号は、P型MOSFET(以下PMOSとする)にはゲートに丸の記号を付すことで、N型MOSFET(以下NMOSとする)と区別することとする。
【0021】
以下、MOSFETを簡略化してMOSあるいはMOSトランジスタと呼ぶことにする。但し本発明に用いられるトランジスタは、金属ゲートと半導体層の間に設けられた酸化膜を含む電界効果トランジスタだけに限定されるわけではなく、絶縁膜を間に含むMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)等の一般的なFETも含む。
【0022】
図1に、ISFETアレイ1002の模式図をしめす。
図1(b)は、ISFETアレイ1002の上面図であり、
図1(a)は、
図1(b)のAA’線における断面図である。ISFETアレイ1002には、その底部にISFETのイオン感応膜100が位置するウェル703が2次元状に配置される。ウェル703は、半導体プロセスで形成された数100nm〜数μm程度の大きさの穴である。そして、測定の際には、各ウェル703の中に、測定対象となる生体分子701が付着したビーズ702が装填される。特に生体分子701がDNAである場合は、DNA701をビーズ702に付着させる際に、エマルジョンPCRなどの方法で測定対象のDNAを複製し、ビーズ上のDNA本数を増やしておくと、発生する水素イオン(詳細は
図4で後述する)の量が増えて検出が容易になる。
【0023】
ISFETは通常、イオン感応膜100、保護膜101、フローティング電極102、ゲート電極103、ゲート酸化膜104、ドレイン105、ソース106、シリコン基板107、基板コンタクト110からなる。場合によってはフローティング電極102とゲート電極103が無く、ゲート酸化膜104の上に直接、保護膜101とイオン感応膜100を積層する場合もある。生体分子701から発生するイオンを測定する際は、感応膜100を溶液108に接触させ、また、参照電極109を溶液108中に浸す。この状態で、参照電極に電圧VREFを与えると、イオン感応膜100、保護膜101、ゲート酸化膜104での容量性結合を介してドレイン−ソース間にチャネルが誘起され、
図2(b)に示すようなドレイン電流―参照電極電圧特性が得られる。この時、溶液108中にイオンが存在すると、イオン感応膜100と溶液108の間に界面電位が発生し、ゲート電極にかかる実効的な電圧が変化する。界面電位の大きさはイオンの濃度に依存するため、例えば溶液108のイオン濃度がC1からC2に変化すると、トランジスタの閾値がV1からV2に変化したように見える。この閾値の変化から、溶液108のイオン濃度を測定することが可能である。
【0024】
図3は、生体分子計測装置全体の一構成例を示すブロック図である。測定対象の生体分子701は、ビーズ702に付着する形で、ISFETアレイチップ300上に装填される。その後、1種または複数種類の試薬が、送液装置307によって試薬容器301〜305から送液され、ISFETアレイチップ300上で生体分子701と反応する。この反応の生成物であるイオンの濃度変化を、ISFETアレイチップ300で検出する。反応後の廃液は、廃液容器306で回収される。送液装置307の実現方法としては、例えば、一般的な送液ポンプを複数使用しても良いし、またはアルゴンなどの不活性ガスを、試薬容器ごとに用意されたバルブを介して圧力を調整しながら試薬容器301〜305に注入して、ガスの圧力で容器から試薬を押し出しても良い。コントローラ308は、あらかじめプログラムされた実験シーケンスとデータ処理装置309で取得したデータに応じて、送液装置307の送液ポンプの送液量の調整、ISFETアレイチップ300の動作状態の制御、データ処理装置309の制御、試薬流路310〜312上またはISFETアレイ上に配置された参照電極109の電圧を制御する。データ処理装置309は、ISFETアレイチップ300から出力されたデータを取得、解析するもので、一般的なA/D変換器を搭載したインターフェースボードとコンピュータから構成される。
【0025】
検出対象のイオンは、
図1(a)のイオン感応膜100の材料を選択することで変更する事ができる。イオン感応膜の材料の中で、特に半導体プロセスで成膜しやすい材料としては、酸化シリコンSiO2、窒化シリコンSi3N4、酸化アルミニウムAl2O3、酸化タンタルTa2O5などがある。これらの材料は、それぞれイオンごとに検出感度が異なり、例えばTa2O5は上記材料の中で、水素イオンの検出感度が最も高く、一方でナトリウムイオンに関する感度が最も低い。従って、Ta2O5は、水素イオンを測定する用途、言い換えれば、溶液の水素イオン指数pHを測る用途に好適である。
【0026】
以下、生体分子測定装置として、DNAの伸長反応によって発生する水素イオン濃度の変化を測定する半導体DNAシーケンサを例に、本発明の詳細な実施方法を説明するが、本発明の適用先はDNAシーケンサに限定されない。ISFETは前述のようにイオン感応膜を選ぶことで種々のイオンを検出可能であり、ナトリウムイオンやカリウムイオンが変化するような生体分子の測定に適用可能である。
【0027】
まず、
図4を用いて、DNAの構造と伸長反応について説明する。
図4(a)は、一本鎖DNAを模式的に表した図である。実際の一本鎖DNAは、リン酸とデオキシリボースからなる鎖に4種類の塩基が結合し、複雑な立体構造を形成するが、ここでは簡単のため、リン酸とデオキシリボースからなる鎖を直線404で表し、4種類の塩基、すなわちアデニンをA(400)、チミンをT(401)、シトシンをC(402)、グアニンをG(403)のように記号で表す。
【0028】
図4(b)はDNAの伸長反応を模式的にあらわしたものである。ATCGの1本鎖405に、TAGからなるプライマ406が結合した状態を示す。この状態で、シトシンを含むデオキシリボヌクレオチド3リン酸(dNTP)の一種(dCTP)407とDNAポリメラーゼが存在すると、dCTPがG末端に結合すると同時に、
図4(c)に示すように、2リン酸409と水素イオン408が離脱する。
【0029】
水素イオンの検出でDNA配列を決定する方法は以下のとおりである。まず、配列を決定したい未知の1本鎖DNAにプライマを結合させる。この状態で、dCTP、dTTP、dATP、dGTPの4種の試薬を順番に注入し、それぞれの試薬を注入した際の水素イオン濃度を測定する。例えばdATPを注入した時に水素イオンが発生すれば、元の1本鎖DNAのうちプライマが結合した部分を除いた先頭が、Aの相補塩基、すなわちTであった事が分かる。上記試薬の注入と水素イオン濃度を測定することで、順番にDNA配列を決定する事ができる。
【0030】
図3の生体分子計測装置によるDNA配列決定手順を
図5に示す。以下、ISFETアレイチップ上の1つのISFETと、その直上に形成された1つのウェルをまとめてセルと呼ぶこととする。ビーズ702の装填が終わった段階でISFETアレイチップ300を装置にセットし、測定を開始すると、装置はあらかじめ決められた手順で試薬dNTPを選択し(600)、送液装置307によって試薬をISFETアレイチップ300上のフローセルに注入する(601)。この時、各ISFETの閾値を測定する(602)と、どのセルで水素イオンが発生したかがわかる。次に、洗浄液603を注入し、反応しなかったdNTPと、反応生成物である水素イオン、2リン酸を洗い流す(604)。洗浄が終わった後、次のdNTPを選択して(605〜608)、注入する、というフローを繰り返す。
【0031】
伸長反応の有無による閾値の変化を、
図6を用いて説明する。
図6(a)は1つのセルを模式的にあらわしたものであり、ISFET700上にDNA701が固定されていることをしめす。ここに、時刻T1で洗浄液、時刻T2でdNTP、時刻T3で洗浄液が注入される。各時刻でのISFETの閾値変化が
図6(b)および
図6(c)である。伸長反応があるときは、時刻T2でdNTPが注入された段階で水素イオンが発生するため、
図6(b)のように閾値が変化する。その後、時刻T3で刻洗浄によって水素イオンが元の濃度に戻るため、閾値も元のレベルに戻る。一方、伸長反応がない場合は水素イオンが発生しないため、
図6(c)のように、どの時刻でも閾値は変化しない。
【0032】
以下、
図7以下を用いて、本実施例に係る生体分子計測装置の詳細を説明する。
【0033】
図7は、ISFETアレイチップ300の構成例を示したブロック図である。
図7において、電源はアナログ電源電圧VDDA、アナロググラウンド電圧VSSA、デジタル電源電圧VDD、デジタルグラウンド電圧VSSである。デジタル電源電圧はおもにデジタル回路部、すなわち、列デコーダ1008、列選択ドライバ1009、レジスタ1005、列選択スイッチ1006、出力ドライバ1007に供給され、それ以外の回路にはアナログ電源電圧が供給される。ISFET基板電圧VBBIは、オンチップの電源回路1013において、アナログ電源電圧VDDAとアナロググラウンド電圧VSSAから生成される。XADDとYADDはそれぞれ行アドレスと列アドレスであり、
図4のコントローラ308が生成する。行デコーダ1000は、一般的なnビットデコーダであり、入力されたnビットの行アドレスXADDに従い、内部の2^n本の行選択信号ROWのうちのj番目の1本を活性化する。列デコーダ1008も行デコーダ1000と同様の回路で、mビットの列アドレスYADDに基づいて内部の2^m本の列選択信号COLのうち、k番目の1本を活性化する。n、mの値は、例えば1024セル×1024セル=100万並列のISFETアレイの場合、n=10、m=10である。行選択ドライバ1001は、行選択信号ROWと行選択パルスXSから、2^n本の行選択線WLのうち1つを活性化するものであり、例えば2^n個の単純なOR論理回路で実現できる。列選択ドライバ1009も行選択ドライバと同様である。
【0034】
ここで、
図7におけるISFETアレイ1002は、ISFETとISFETを選択するための手段とをワード線WLとデータ線DLAの交点に2次元状に並べたものである。
図8は、ISFETアレイ1002の構成例である。各々のセルは、2つの選択トランジスタ1200、1201とISFET700から構成される。各々のセルは、行選択線WLk、ソース線SLk、データ線DLAk、DLBkに接続される。また、ISFETアレイ内の全てのトランジスタの基板電位は共通で、ISFET基板電源VBBI(1202)が供給される。先に述べたように、行アドレスXADDによってj番目のWLjがH状態に活性化されると、WLjに接続される全てのセルにおいて、選択トランジスタが導通状態となり、同一WLj上の全てのISFETが、それぞれ接続されるソース線SLとデータ線DLAに接続される。
図8では、全てのトランジスタがNMOSである例を示したが、もちろん全てをPMOSで構成しても良い。この場合、行選択線WLの論理が反転する。
【0035】
ソース線SLk、データ線DLAk、DLBkは、読み出し回路1011中のアンプ1003中のk番目のアンプ1003kに接続される。
図12にアンプの詳細を示す。本アンプは2つの一般的な定電流源1700、1704、2つのアンプ1701、1702、および出力用のアンプ1703とトランジスタ1705からなる。2201と2300はアナログスイッチである。2201はコントローラ308からの駆動信号φ1に基づき、ソース線SLkとデータ線DLAkとDLABkをそれぞれ定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702から切り離す。一方、2300は、コントローラ308からの駆動信号φ0に基づき、ソース線SLkとデータ線DLAkとDLABkをプリチャージ電圧VPCに接続するためのスイッチである。DNA配列を測定する場合は2201は接続状態、2300は切断状態である。まず、この時のアンプの動作について説明する。
【0036】
定電流源1700と1703は片方の端子がアナロググラウンド電圧 VSSAに接続され、一定の電流をVSSAへ引き抜く。1701と1702は増幅率1倍のボルテージフォロワ構成のアンプであり、一般的な差動増幅回路で実現できる。これらのアンプにより、DLAkとDLBkとの間に、トランジスタ1705と、定電流源1704に流れる一定電流Idで決定される一定電圧VABを発生させる。かかる構成によれば、ISFETアレイ中の選択ISFETのソース・ドレイン電圧はおよそVABの一定値で固定され、また、ドレイン電流は定電流源1700で決定される定電流Idに固定される。ISFETが線形領域で動作していれば、ドレイン電流Idとゲートソース間電圧Vgs、ソース・ドレイン間電圧Vdsは以下の式を満たす。
Id=β{(Vgs−Vth)−1/2×Vds}×Vds (1)
ここで、βはデバイス特有の定数、Vthはデバイスの閾値である。いま、溶液中のイオンにより、ISFETの閾値が+ΔVthだけずれたとすると、アンプ1003kによりドレイン電流Id一定、ソース・ドレイン電圧Vdsが一定という動作条件になっている事を加味すると式は以下のように書ける。
Id=β{(Vgs´−(Vth+ΔVth))−1/2×Vds}×Vds(2)
Idは0ではないので(1)式を(2)式で割って整理すると、
Vgs´−Vgs=ΔVth (3)
式(3)より、ゲート電圧すなわち参照電極電圧を固定しておけば、閾値の変動はソース電位の変動として出力される。Vdsは一定なので、ソース電位の変動はドレイン電位の変動となり、結果としてΔVthがアンプ出力端子AOkより出力される。
【0037】
アナログ信号は2^m台のアナログデジタル変換器1004でデジタル信号に変換され、その結果がそれぞれ2^m台のレジスタ1005に保持される。先に述べたように、アナログデジタル変換器1004の精度はオフセットばらつき量とイオン検出時の信号量に依存するが、おおむね10ビットから15ビット程度あれば十分である。列選択スイッチ1006は、レジスタに保存されているアナログデジタル変換結果を、列選択線YLkによって選択し、出力ドライバ1007を介して外部に出力する。当然ながら、ISFETアレイチップ300のデータ出力ピンDATAの本数が許す限りは同時に複数のレジスタの値を出力してもよい。以上、ここまではチップ上でアナログの閾値信号をデジタル信号に変換する構成について説明してきたが、アナログの閾値信号を直接チップ外部に出力し、データ処理装置に搭載されるアナログデジタル変換器で変換しても良い。この場合、
図7のアナログデジタルコンバータ1004は不要である。データ出力ピンDATAに余裕がある場合は、全てのアンプからのアナログ出力をDATAピンに出力すればよく、こうするとレジスタ1005、列選択スイッチ1006、出力ドライバ1007が不要になり、回路面積を削減する事が可能である。データ出力ピンに余裕がない場合は、レジスタ1005の代わりにサンプルホールド用のキャパシタを接続し、また、後段の列選択スイッチ1006を一般的なアナログスイッチで実装し、出力ドライバをアナログのアンプに置き換えて、マルチプレクス動作をさせればよい。
【0038】
以下、
図9以降を用いて、具体的なオフセット・ドリフト低減手法を説明する。
図9(a)は、NMOS型のISFET構造にトラップされた電荷のうち、フローティングゲートに蓄積された電子を引き抜く(ISFET700から基板107へ移動させる)様子を模式的に表した図であり、
図9(b)は、引き抜き前後の閾値電圧の変化を模式的に表した図である。
図9(a)のように、フローティングゲート102中に電子801がトラップされている状況を考える。この時、フローティングゲート中に電子が存在しない状態の閾値をVT0とすると、電子がトラップされた場合は閾値がVT0よりも高くなる。従って、電子がランダムにトラップされているISFETアレイの閾値分布は
図9(b)上段の「引き抜き前」に示す形になる。
【0039】
この状態で、参照電極電圧VREFを0Vとし、ゲート酸化膜電圧VOXが、通常の動作中の電圧(例えば5V)より十分高い電圧になるように、ISFET基板電圧VBBIに例えば30Vの電圧をかける。VBBIに30Vを印加した結果、ゲート酸化膜104に基板107からフローティングゲート102にむかう向きに強い電界が発生する。この電界により、基板107からフローティングゲート102に向かってトンネル電流が流れる。トンネル電流の発生要因は、酸化膜の厚みによってFowler−Nordheimトンネリングかダイレクトトンネリングであり、おおむね酸化膜厚が5nm以上の場合はFowler−Nordheimトンネル効果が、5nm未満の場合はダイレクトトンネリングが支配的である。いずれの場合も、トラップ電子801が基板方向に引き抜かれ、その結果
図9(b)下段の「引き抜き後」に示す通り、ISFETの閾値分布はVT0以下となり、引き抜き前に比べてばらつきを低減する事ができる。ここで重要な点は、ISFETアレイチップ300内の各ISFET間で、参照電極109の参照電圧VREFと基板107の基板電圧VBBIが、全て共通な点である。これにより、基板電圧に高電圧を印加することで、全てのISFETのフローティングゲート中の電子を、一括して引き抜くことが可能となる。従って、一つ一つのISFETの電子を引き抜くよりも、高速に閾値ばらつきを低減可能である。また、この際に流れる電流は各々のゲート酸化膜に流れるトンネル電流のみであるため、全てのISFETに対して一括して電子の引き抜き動作をしても、ISFETアレイチップ300全体の消費電流は低く抑えられる。
【0040】
以上の電荷引き抜き動作を実現するための回路構成を、
図10に示す。
図10のISFETアレイ1002の回路構成は、
図8と同一である。但し、上述の通り各ISFET間で参照電圧VREFと基板電圧VBBIは全て共通であるので、
図10ではこの点を明示的に図示している。配線1102は、各ISFETの感応膜から、溶液108を介して参照電極109に至る導通経路を、等価回路的に表現したものである。基板駆動ドライバ1100は、ゲート酸化膜104に、基板107からフローティングゲート102に向かう向きの電界を印加するためのドライバであり、出力電圧である基板電圧VBBIに、例えば30Vを印加するドライバである。これに対し、参照電極駆動ドライバ1101は、出力電圧である参照電圧VREFに、例えば0Vを印加するドライバである。係る回路構成によって、
図9で説明した引き抜き動作が可能となる。
【0041】
図11の選択回路1010は、
図7の行選択ドライバ1001にOR論理ゲートと行選択線全活性化信号CGXを加えたものである。CGXを活性化すると、入力されている行アドレスXADDの値や行選択パルスXSの状態によらず、全ての行選択線WLjが活性化される。
【0042】
図12は、
図8のアンプ1003のうちk番目のものを示す図である。2種類のアナログスイッチ2201と2300のうち、アナログスイッチ2201は、ソース線SLkとデータ線DLAkとDLABkをそれぞれ定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702から切り離すためのスイッチであり、コントローラ308からの駆動信号φ1によって制御される。一方、アナログスイッチ2300は、ソース線SLkとデータ線DLAkとDLABkをプリチャージ電圧VPCに接続するためのスイッチであり、コントローラ308からの駆動信号φ0によって制御される。
【0043】
図13を用いて、上記回路の動作について説明する。電子の引き抜き動作を行うためには、まず、スイッチ制御信号φ1を非活性化し、定電流源1700、アンプ1701、1702をそれぞれソース線SLk、データ線DLAk、DLBkから切断すると同時に、行選択線全活性化信号CGXとスイッチ制御信号φ0を活性化する。すると、全ての行選択線WL1〜WLnが活性化されると同時に、全てのソース線SL、データ線DLA、DLBがプリチャージ電源VPCに接続される。
【0044】
次に、ISFET基板電圧VBBIとプリチャージ電圧VPCを、アナログ電源電圧VDDAより十分高い電圧、例えば30Vに設定する。すると、ISFETの基板電位が30Vとなる。その結果、全てのISFETの酸化膜電圧VOXはイオン感応膜と保護膜、ゲート酸化膜の容量比で決まる電圧、例えば10Vとなり、フローティングゲートにトラップされた電子が基板へと引き抜かれる。このとき、選択線を活性化し、かつプリチャージ電圧VPCをVBBIと同じにする理由は、ソース線SL、データ線DLA、DLBをVBBIと同じ電圧に充電しておくためである。言い換えれば、もしSL、DLA、DLBをフローティングにすると、ISFETの基板に高電位VBBIを印加した時に、基板-ソース間、基板-ドレイン間が順バイアスされ、基板から、ソース線SL、データ線DLA、DLBに向かって電流が流れてしまう。その結果、ソース線SL、データ線DLA、DLBの充電が完了するまで、基板電位VBBIが安定せず、電荷の引き抜きに時間がかかる恐れがあるためである。
【0045】
その後、引き抜きを開始して十分な時間TDCが経過した後、VBBIとVPCを0Vに戻し、次に選択線全活性化信号CGXとスイッチ制御信号φ1を非活性化し、スイッチ制御信号φ0を活性化する事で閾値ばらつき低減手順は完了となる。ISFETが一般的なMOS構造をもつと仮定した場合、引き抜きに要する時間はmsのオーダーであり、TDCも同程度の時間で良い。
【0046】
このように、本願発明に係る生体分子計測装置は、複数のワード線WLと、複数のワード線と交差する方向に延伸する複数のデータ線DLAと、複数のワード線WLと複数のデータ線DLAの交点において基板107上に設けられ、それぞれがイオン感応膜100およびゲート酸化膜104を有する複数のイオン感応トランジスタ700と、基板107を介して、ゲート酸化膜104のそれぞれに、イオン感応トランジスタ700内に蓄積されたキャリアをイオン感応トランジスタ700から基板107に移動させる電圧である基板電圧VBBIを印加する第1ドライバ(基板駆動ドライバ1100)を有することを特徴とする。係る構成により、本願発明に係る生体分子計測装置は、
図10(b)で説明した通り、ISFETの閾値ばらつきを低減することが可能となる。
【0047】
なお、以上の説明においては、基板107をp型半導体とし、ISFET700内にトラップされるキャリアを電子として説明した。この場合は、基板駆動ドライバ1100は、少なくとも基板電圧VBBIを参照電圧VREFより高電圧とするドライバである。
【0048】
これに対し、基板107がn型半導体の場合は、ISFET700内にトラップされるキャリアはホールとなる。この場合は反対に、基板駆動ドライバ1100は、少なくとも基板電位VBBIを参照電圧VREFより低電圧とするドライバである。
【0049】
なお、ISFETアレイ1002をチップとした単位で、またはISFETアレイチップ300の単位で、測定毎に当該部材は交換されることが想定される。その場合、当該ISFETアレイ1002またはISFETアレイチップ300は生体分子計測装置の外部となるが、このような場合も本願発明の技術的範囲に属するものである。すなわち、複数のワード線WLと、複数のワード線と交差する方向に延伸する複数のデータ線DLAと、複数のワード線WLと複数のデータ線DLAの交点において基板107上に設けられ、それぞれがイオン感応膜100およびゲート酸化膜104を有し、試料のイオン濃度を測定する複数のイオン感応トランジスタ700と、を有するチップ(300または1002)に対して制御を行う生体分子計測装置であって、基板107を介して、ゲート酸化膜104のそれぞれに、イオン感応トランジスタ700内に蓄積されたキャリアをイオン感応トランジスタ700から基板107に移動させる電圧である基板電圧を印加する第1ドライバ1100を有する装置も、本願発明の技術的範囲に属する。
【0050】
閾値ばらつきを低減する別の方法を
図14に示す。以下ではホットキャリアを用いた閾値ばらつき低減法を説明するが、その際にホットキャリアの例としてホットエレクトロンを用いて説明する。但し、ホットホールでも同様の議論が可能である。まず、
図14(a)に示すように、ISFET基板電位VBBIを0V、参照電極の電圧を、通常動作時の電圧(例えば5V)より十分高い電圧とする。すると、ゲート酸化膜の両端に先ほどとは逆の方向、すなわちフローティングゲートから基板にむかう向きに電界が発生する。この結果、すべてのISFETにチャネル2100が形成される。いま、ISFETのソース・ドレイン間に、高電圧VHEをかけると、チャネルに高エネルギーをもった電子(ホットエレクトロン)による電流が流れ、ホットエレクトロン注入効果によってフローティングゲートに電子801が注入される。
【0051】
もし、全てのセルに一括でホットエレクトロン注入をした場合は、閾値分布は、
図14(b)の2103から2104へと、全体的に高閾値側へシフトする。各フローティングゲートへのホットエレクトロンの注入量、すなわち、高閾値側へのシフト量は、ゲートの電位に依存する。すなわち、イオン感応膜や保護膜にトラップされた電荷により、全体的に正の電位を持っている(=見かけ上の閾値が低い)場合は、より多くの電子が注入されることで、より閾値は高くなり、一方、全体的に負の電位を持っている(=見かけ上の閾値が高い)場合は電子の注入量は少なくなり、結果的に閾値は少ししか高くならない。その結果、自己整合的に、閾値の分布範囲が狭くなる。より積極的には、各ISFETの閾値を測定し、閾値によってセル毎にホットエレクトロン注入量を変えることで、
図14(b)の2105のように、より閾値ばらつきを少なくすることも可能である。
【0052】
以上の電荷注入動作を実現するための回路構成を、
図15に示す。
図15は、全てのセルに一括でホットエレクトロン注入をする際の回路構成であり、アンプ1003kに2種類のアナログスイッチ2201と2600を加えたものである。アナログスイッチ2201は、ソース線SLkとデータ線DLAkとDLABkをそれぞれ定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702から切り離すためのスイッチであり、コントローラ308からの駆動信号φ1によって制御される。一方、アナログスイッチ2600は、データ線DLAkとDLABkをそれぞれホットエレクトロン注入用電圧VHEとアナロググラウンド電圧VSSAに接続するためのスイッチであり、駆動信号φ2によって制御される。駆動信号φ2は、列選択線全活性化信号CGYと、コントローラ308から入力される補償動作開始信号CPSのAND論理をとって生成される。ホットキャリア注入用ドライバ1600は、ISFETのソース・ドレイン間に高電位VHEをかけ、
図14(a)で説明した電子注入動作を行うためのドライバであり、データ線DLAkと駆動信号φ2によって接続されている間、データ線DLAkに高電位VHEを印加する。ここで、
図15では、全てのセルに一括でホットキャリア注入を行うため、ホットキャリア注入用ドライバ1600は、隣接するアンプ1003k+1のデータ線DLAk+1にも同様に高電位VHEを印加する。
【0053】
これに対し、各セルに個別にホットエレクトロンを注入する際の回路構成を
図16に示す。
図16に示すアンプは、アンプ1003kに3種類のアナログスイッチ2201、2600と2601を加えたものである。アナログスイッチ2201は、ソース線SLkとデータ線DLAkとDLABkをそれぞれ定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702から切り離すためのスイッチであり、コントローラ308からの駆動信号φ1によって制御される。一方、アナログスイッチ2600は、データ線DLAkとDLABkをそれぞれホットキャリア注入用電圧VHEとアナロググラウンド電圧VSSAに接続するためのスイッチであり、駆動信号φ3kによって制御される。駆動信号φ3kは、列選択線YLkと、コントローラ308から入力される補償動作開始信号CPSのAND論理をとって生成される。アナログスイッチ2601はデータ線DLAkとDLABkをともにアナロググラウンド電圧VSSAに接続するためのスイッチであり、駆動信号φ4kによって制御される。駆動信号φ4kは、φ3kの反転信号と、コントローラ308から入力される補償動作開始信号CPSのAND論理をとって生成される。
【0054】
図17(a)は、全てのISFETのフローティング電極に一括して電荷を書き込む場合の、主な信号の駆動手順を示したフローチャートであり、
図18は、具体的な信号の駆動タイミングを示したタイミングチャートである。補正動作を開始後(2800)、行選択線全活性化信号CGXと補償動作開始信号CPSを活性化すると同時にスイッチ制御信号φ1を非活性化して、ISFETアレイから定電流源1700、アンプ1701、1702を切り離す(2801)。すると、全ての行選択線WLが活性化状態となり、全てのISFETがソース線SLとデータ線DLAに接続される。次に参照電極電圧を、VDDAより高く、先の電荷引き抜きの時よりは低い電圧、例えば15Vに設定すると同時に、列選択線全活性化信号CGYに幅TCGの正のパルスを入力する(2802)。その結果、スイッチ駆動信号φ3kが活性化され、データ線DLAがホットキャリア注入用電圧VHEに充電される。一方、データ線DLBはアナロググラウンド電位0Vになるため、全てのISFETのソース・ドレイン間に電流が流れ、ホットエレクトロンが発生する。発生したホットエレクトロンはVREFに印加された正電圧によってフローティングゲートへと引き込まれる。次に、列選択線全活性化信号CGYが非活性化されると同時に参照電極電圧VREFを5Vに戻し、注入を終了する。最後に、行選択線全活性化信号CGXと補償動作開始信号CPSを非活性化し(2803)、補償動作を完了する(2804)。
【0055】
セル毎に閾値を測定してホットエレクトロン注入量を変える場合は、アンプを
図16に示す構成にし、
図17(b)に示す手順で補正動作を行えばよい。
図17(b)を用いて、ホットエレクトロンをセル毎に注入する手順を説明する。補正動作が開始されると(2805)、まずコントローラ308によりアドレスがXADD=0、YADD=0、に設定される。また、補償動作開始信号CPSは非活性化する。駆動信号φ1はHとし、定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702がISFETアレイに接続される(2806)。この状態でXADD=0、YADD=0により選択されるISFETの閾値が測定される(2807)。データ処理装置309は、閾値の測定結果をコントローラ308に転送し、コントローラ308は、転送された閾値測定結果が目標値を超えているか否かを判定する(2808)。もし、目標値に到達していない場合は、駆動信号φ1をLとし、定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702がISFETアレイから切断し、また、補償動作開始信号CPSを活性化する(2809)。次に、列選択パルスYSにあらかじめ決められた幅TPWを持つ正のパルスを入れると、コントローラ308により設定されたアドレスのISFETに、TPWに相当する量のホットエレクトロンが注入される(2810)。その後、駆動信号φ1をHとし、定電流源1700、アンプ1701、アンプ1702をISFETアレイに再接続し、補償動作開始信号CPSは非活性化して(2811)、再び閾値測定手順2807へと戻る。この手順は2808で閾値が目標値を超えたと判断されるまで繰り返し行われる。2808にて、閾値が目標値を超えたと判断されると、XADDまたはYADDを1増やして次のISFETが選択され(2813)、再び閾値測定とホットエレクトロン注入の手順が実行される。アドレスは、全セルの補正が完了するまでインクリメントされていき、全てのISFETの閾値が目標閾値を超えた段階で補正動作完了とする(2812、2814)。
【0056】
係る手順を実現するための、
図17(b)の2806から2811までの手順1回分に相当する信号の具体的な駆動タイミングを示したのが
図19である。まず、選択するISFETに相当するアドレスXADDとYADDがコントローラ308により設定される。また、参照電極電圧は、5Vに設定される。次に、行選択パルスXS及び列選択パルスYS、駆動信号φ1が活性化され、選択セルの行選択信号WLjおよび列選択信号YLkが活性化される。これにより、選択セルのISFETの閾値に応じた信号が、データ線DLAkとDLBkの間に読み出される。このとき、非選択のデータ線にも信号が発生するが、列選択スイッチ1006によりデータ出力線に出力されるのは、選択したISFETの閾値のみである。次に、読み出された閾値が目標値に達しているかをコントローラ308が確認し、未達の場合は補償動作開始信号CPSが活性化されると同時に、参照電極電圧VREFが高電圧15V、ホットキャリア注入用電圧VHEが10Vに設定される。その後、再び行選択パルスXS及び列選択パルスYSに正のパルスが印加されると、選択セルの行選択線WLjと、選択セルに対応するアンプ1003k内の駆動信号φ3kが活性化される。すると、選択セルに対応するデータ線DLAk、DLBkの間にホットキャリア注入用電圧が印加される。一方、非選択のセルに対応するデータ線DLA、DLBには、選択信号φ4kが活性化されることにより、アナロググラウンド電圧VSSAが印加される。その結果、選択セルのISFETのチャネルにのみ電流が流れ、選択セルのフローティングゲートへ電子が注入される。なお、以上のフローにおいて、ISFET基板電圧VBBIは、0Vに固定される。
【0057】
このように、本願発明に係る生体分子計測装置は、イオン感応トランジスタ700にキャリアを注入する第2ドライバ(ホットキャリア注入用ドライバ1600)を有することを特徴とする。係る特徴によって、
図14(b)で説明した通り、ISFETの閾値ばらつきを低減することが可能となる。
【0058】
ホットキャリア注入用ドライバ1600は、
図15のようにイオン感応トランジスタ700のそれぞれに一括してキャリアを注入するドライバでも良く、
図16のように各イオン感応トランジスタ700に個別にキャリアを注入するドライバでも良い。
【0059】
以上、ここまではフローティング電極内の電荷を引き抜く手法と、フローティング電極内に電荷を注入する方法を個別に説明してきたが、もちろん電荷の引き抜きと注入の両方を実施しても良い。電荷の引き抜きと注入の両方に対応したアンプ回路を
図20に示し、その時の回路の動作フローを
図21に示す。
図20と21はそれぞれ、既に上記で説明した回路、フローを足し合わせたものであり、詳細な説明は割愛する。
【0060】
電荷を引き抜く手法と、フローティング電極内に電荷を注入する方法の両者を実施する効果を、
図22を用いて説明する。電荷を引き抜く手法のみを採用すると、電子がトラップされて閾値が+側にシフトしたISFETの閾値を−側へと戻すことはできるが、ホールがトラップされたISFETの閾値を制御することはできない。従って、電荷の一括引き抜きの前後で、ISFETの閾値分布は
図22(a)から(b)のように変化する。これだけでも、ISFET全体の閾値分布ばらつきを低減できたと言えるが、さらに個別に電荷を注入することで、閾値が−側に大きくシフトした(ホールがトラップされた)ISFETの閾値を、+側に戻すことも可能となる。その結果、閾値分布は
図22(c)のようになり、ISFETの閾値分布ばらつきを大きく低減することが可能となる。
【0061】
この場合の駆動タイミングのチャートを
図23に示す。
図23は
図13で説明した一括電荷引き抜き時の信号駆動手順と、
図19で説明した個別電荷注入時の信号駆動手順を足し合わせたものであり、詳細な説明は割愛する。ここで、電荷の引き抜きと注入とは、
図23に示した通り、電荷を引き抜き、その後注入する順序で行わなくてはいけないことに留意されたい。反対に、先に電荷を注入し、その後電荷を引き抜いたとすると、最初の工程でせっかく注入された電荷が、次の電荷引き抜きの工程で一緒に引き抜かれてしまい、結果として電荷注入による閾値ばらつき低減の効果が失われるためである。
【0062】
従って、コントローラ308は、第1ドライバ1100を駆動した後に第2ドライバ1600を駆動する制御を行う。また、この点を計測方法に着目した形で表現すると、(a)基板107を介して、ゲート酸化膜104のそれぞれに、イオン感応トランジスタ700内に蓄積されたキャリアをイオン感応トランジスタ700から基板107に移動させる電圧である基板電圧VBBIを印加する工程(第1ドライバ1100の駆動)の後に、(b)イオン感応トランジスタ700の少なくとも1つに、キャリアを注入する工程(第2ドライバ1600の駆動)を行う。
【0063】
以上で説明した閾値補正は、UV照射等の生体分子を破壊する工程を含まないため、DNAのシーケンス前、シーケンス中、シーケンス後のいかなるタイミングでも実行可能である。従って、チップ製造時に発生する初期オフセットの解消のみならず、シーケンス中に発生するドリフトの解消にも適用可能である。一方、従来の閾値補償手法であるUV照射はシーケンス中には適用できず、従って、ドリフトの解消には使えない。この理由は、ISFETアレイチップ上に配置されたDNAがUV照射によって分解されてしまうためである。
【0064】
本発明手法による補正タイミングの例として、シーケンス前、シーケンス中の毎測定後に実行する場合のフローチャートをそれぞれ
図24と
図25に示す。
【0065】
シーケンス中に補正動作をする場合、かならずしも毎測定後に補償動作を実行する必要はない。例えば、測定があらかじめ決められた回数Nth回終わった時点で補正動作をしたり(
図26)、もしくは、ドリフトによる閾値シフト量があらかじめ決められた基準値を超えた時点で初めて補正を実行したりしても良い。この、閾値シフト量が基準値を超えたかどうかの判定は、4種の試薬dATP、dGTP、dCTP、dTTPのそれぞれを注入し測定した後に行っても良いし(
図27(a))、これら4種の試薬をまとめて1サイクルとして、1サイクルの測定が終了した後に行っても良い(
図27(b))。こうすることで、実験途中の補正動作回数を低減する事ができ、毎測定後に補正動作をする場合と比べてシーケンス時間を高速化することが可能である。また、補正回数を意図的に減らすことで、測定精度を犠牲にして、シーケンス時間を高速化する事も可能である。この場合、測定精度を計算する際に補正回数をパラメータに加えることで、測定精度計算をより正確に実施できる。
【0066】
本実施例は、1種類のサンプルから抽出したDNA断片を1つのISFETアレイチップで測定する事を想定している。すなわち、1サンプル分のDNA測定が終われば、ISFETアレイチップは廃棄し、次のサンプルを測定する際は新しいISFETアレイチップを用いる。このようにチップを使い捨てとすることで、サンプル間のコンタミネーションを防止する事ができる。
【0067】
一方、コンタミネーションをある程度許す場合は、チップを使いまわしても良い。すなわち、1つ目のサンプルの測定が終わった時点で、サンプルを洗い流し、次のサンプルを導入して測定する。この場合、サンプルを入れ替えるタイミングでオフセット補償動作を実行する事で、前サンプルの測定に起因するドリフトの影響をキャンセルでき、2つ目のサンプルの測定精度を向上する事が可能である。
【0068】
ここまでは、
図1に示すISFETを仮定し、そのフローティング電極102の電荷量を制御する手法について述べてきたが、ISFETの変形例として、
図28に示すように、ゲート酸化膜104とフローティング電極102の間に、補正電荷を注入する専用の注入層3701を設けても良い。補正電荷の注入層3701は、例えば窒化シリコンSi3N4からなる。さらにこの上に酸化膜3700を設けることで、いわゆるMONOS(Metal−Oxide−Nitride−Oxide−Silicon)構造を構成する。MONOS構造は、不揮発メモリの電荷保持にも使われる構造であり、電荷の保持を意図しないISFETのフローティング電極と比べて、高い信頼性で電荷を保持する事が期待できる。
【0069】
本発明は、電子の引き抜きと注入の際、ISFET基板電圧VBBIとホットキャリア注入用電圧VHEとプリチャージ電圧VPCに、アナログ電源電圧VDDAより高い電圧を必要とする。これらの電圧は、電源回路1013の代わりに、昇圧機能を持った電源回路1012をチップ上に実装して生成する。昇圧機能は典型的なスイッチトキャパシタ回路などで実装すればよい。もちろん、これらの電圧をチップの外部から直接入力しても良い。このようにすることで、キャパシタなどの素子を必要とする昇圧回路が不要になり、チップ面積を削減する事ができる。
【0070】
本実施例は、
図8に示すISFETアレイ構成のように、1つのセルが3つのトランジスタからなる構成を仮定した例であるが、本発明の適用先は3トランジスタ構成のセルに限定されるものではなく、
図29に示すように、一つのセルが2つのトランジスタ(
図29(a))、および1つのトランジスタ(
図29(b))からなるISFETアレイについても同様に適用可能である。このように、セルを構成するトランジスタ数を減らすことで、チップ面積を軽減する事ができる。
【符号の説明】
【0071】
100 イオン感応膜
101 保護膜
102 フローティング電極
103 ゲート電極
104 ゲート酸化膜
105 ドレイン端子
106 ソース端子
107 シリコン基板
108 溶液
109 参照電極
110 基板端子
300 ISFETアレイチップ
301、302、303、304、305 試薬容器
306 廃液容器
307 送液装置
308 コントローラ
309 データ処理装置
310、311、312 試薬流路
400 アデニン
401 チミン
402 シトシン
403 グアニン
404、405、406 リン酸とデオキシリボースからなる鎖
407 dCTP
408 水素イオン
409 2リン酸
600〜608 DNAの塩基配列決定手順を示すチャート
700 イオン感応トランジスタ
701 生体分子
702 ビーズ
703 ウェル
800 トラップ正電荷
801 トラップ負電荷
1000 行デコーダ
1001 行選択ドライバ
1002 ISFETアレイ
1003 アンプ
1004 A/Dコンバータ
1005 レジスタ
1006 列選択スイッチ
1007 出力ドライバ
1008 列デコーダ
1009 列選択ドライバ
1010 選択回路
1011 読み出し回路
1012 昇圧回路
1013 電源回路
1100 基板駆動ドライバ
1101 参照電極駆動ドライバ
1102 ISFETの感応膜から溶液を介して参照電極に至る導通経路を等価的に表した配線
1200、1201、1300 選択トランジスタ
1202 ISFETアレイ基板
1600 ホットキャリア注入用ドライバ
1700、1704 定電流源
1701、1702、1703 アンプ
1705 トランジスタ
2100 チャネル
2101 選択セル
2102 非選択セル
2103、2104、2105 閾値分布
2300 アナログスイッチ
2302 読み出しアンプ及び電流源
2400、2401、2402 閾値分布
2600、2601 アナログスイッチ
2800〜2814 閾値補正動作手順を示すチャート
3200〜3212 閾値補正動作手順を示すチャート
3300〜3303 閾値補正動作手順を示すチャート
3400〜3404 閾値補正動作手順を示すチャート
3500〜3508 閾値補正動作手順を示すチャート
3800〜3825 閾値補正動作手順を示すチャート
AO アナログ出力
CGX 行選択線全活性化信号
CGY 列選択線全活性化信号
CLK1、CLK2、CLK クロック入力
COL、COLk 列選択信号
CPS 補正動作開始信号
DATA データ出力
DLA、DLAk、DLA1、DLAm、DLB、DLBk、DLB1、DLBm データ線
dNTP、dATP、dCTP、dTTP、dGTP デオキシリボヌクレオチド3リン酸
H+ 水素イオン
IN アンプ入力端子
ISFET イオン感応トランジスタ
Nflow 試薬フロー回数
Nth 補正動作上限界数
OUT アンプ出力端子
PPi 2リン酸
ROW、ROWj 行選択信号
RST リセット入力
SL、SLk ソース線
TDC、TCG、TPW パルス幅
VAB データ線間電圧
VBBI ISFET基板電圧
VBIAS バイアス電圧
VDD デジタル電源電圧
VDDA アナログ電源電圧
VHE ホットキャリア注入用電圧
VH1、VH2、VH3、VL1、VL2 電圧
VOX 酸化膜電圧
VPC プリチャージ電圧
VREF 参照電極電圧
VSS デジタルグラウンド電圧
VSSA アナロググラウンド電圧
VT0 フローティングゲート中に電子が存在しない状態の閾値
WL、WLj、WL1、WLn 行選択線
XADD 行アドレス
XS 行選択パルス
YADD 列アドレス
YL、YLk、YL1、YLm 列選択線
YS 列選択パルス
ΔVRD 読み出し回路の入力電圧範囲
ΔVTH イオンの濃度変化に起因する閾値変動量
φ0、φ1、φ2、φ3、φ4、φ3k、φ4k アナログスイッチ駆動信号。