(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられるアルミニウム合金製磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性及び加工性が優れたJIS5086(3.5質量%以上4.5質量%以下のMg、0.50質量%以下のFe、0.40質量%以下のSi、0.20質量%以上0.70質量%以下のMn、0.05質量%以上0.25質量%以下のCr、0.10質量%以下のCu、0.15質量%以下のTi、0.25質量%以下のZn、残部Al及び不可避的不純物)によるアルミニウム合金基板から製造されている。さらに、アルミニウム合金製磁気ディスクは、めっき前処理工程における金属間化合物抜け落ちによるピット不具合の改善を目的にJIS5086中の不純物であるFe、Si等の含有量を制限しマトリックス中の金属間化合物を小さくしたアルミニウム合金基板、或いはめっき性改善を目的にJIS5086中のCu及び/又はZnを意識的に添加したアルミニウム合金基板等から製造されている。
【0003】
一般的なアルミニウム合金製磁気ディスクは、まず円環状アルミニウム合金基板を作製し、該アルミニウム合金基板にめっきを施し、次いで該アルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることにより製造されている。
【0004】
例えば、前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは以下の製造工程により製造される。まず、所望の化学成分としたアルミニウム合金を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚みの圧延材を作製する。この圧延材は、必要に応じ冷間圧延の途中等に焼鈍を施すことが好ましい。次に、この圧延材を円環状に打抜き、前記製造工程により生じた歪み等を除去するため、円環状にしたアルミニウム合金板を積層し、両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行う。これにより、円環状アルミニウム合金基板は作製される。
【0005】
このようにして作製された円環状アルミニウム合金基板に、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング、ジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解めっきし、該めっき表面にポリッシングを施した後、磁性体をスパッタリングする。これにより、アルミニウム合金製磁気ディスクは製造される。
【0006】
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化が求められている。大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。
【0007】
しかしながら、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると剛性が低下してしまうため、磁気ヘッドと磁気ディスクが衝突するという問題(ヘッドクラッシュ)がある。これは、磁気ディスクを高速で回転させると気流が発生し、その気流により磁気ディスクの振動(フラッタリング)が起こるが、基板の剛性が低いと磁気ディスクの振動が大きくなり、ヘッドがその変化に追従できないためである。ヘッドクラッシュが起こると磁気ディスク表面に凹凸又はキズが入り記録エラーとなることがある。そのため、アルミニウム合金基板の高剛性化が求められている。
【0008】
また、磁気ディスクの高密度化により、1ビットあたりの磁気領域が益々微小化されるため、磁気ディスクのめっき表面に微細なピット(孔)があっても、データ読み取り時にエラーを起こす原因となる。このため磁気ディスクのめっき表面にはピットが少ない高い平滑性が求められる。
【0009】
このような実情から、近年ではめっき表面が平滑で高い剛性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板が強く望まれ、検討がなされている。例えば、特許文献1では、Al−Mg系合金にMn及びZrを添加し、アルミニウム合金基板の再結晶温度を上げ、再結晶を抑制させることで強度を高め、磁気ヘッドと磁気ディスクが衝突した際に微細な凹凸を生じさせない方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、アルミニウム合金基板の剛性とめっき表面の平滑性とに着目し、これらの特性とアルミニウム合金基板の成分及び組織との関係について鋭意調査研究した。この結果、アルミニウム合金基板のSi含有量及びFe含有量が、剛性とめっき表面の平滑性とに大きな影響を与えることを見出した。また、第2相粒子(Si粒子又はAl−Fe−Si系化合物等)のサイズ及び分布密度が、剛性とめっき表面の平滑性とに大きな影響を与えることも見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは本発明を為すに至ったものである。
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板について詳細に説明する。
【0024】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、単層のベア材又は3層のクラッド材として用いられる。クラッド材とは異なる2つ以上の合金板を冶金的に接合した合金板のことで、ここでは3層クラッド材の中間材を心材とし、心材の両面にある材料を皮材とする。また、アルミニウム合金基板は特別な記載がない場合、ベア材とクラッド材の両方を含む。
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るAl−Si−Fe系磁気ディスク用アルミニウム合金基板を構成するベア材及びクラッド材の心材のアルミニウム合金成分及びその含有率について説明する。
【0026】
(シリコン)
Siは、主としてSi粒子として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のSiの含有率が0.5質量%未満では、アルミニウム合金の剛性が不十分となる。一方、アルミニウム合金中のSiの含有率が24.0質量%を超過すると、粗大なSi粒子が生成し、ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にSi粒子が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。クラッド材の心材の場合は、基板側面に存在する粗大なSi粒子がエッチング時、ジンケート処理時、切削時に脱落して、基板側面に大きな窪みが発生する。特に基板側面の心材と皮材の境界部に大きな窪みが発生すると、めっきと基板の密着性が悪くなり、めっき剥離が生じてしまう。そのため、アルミニウム合金中のSiの含有率は、0.5質量%以上24.0質量%以下の範囲とする。また、Siの含有率は、剛性及び圧延性の兼合いから1.0質量%以上18.0質量%以下の範囲が好ましい。さらに好ましくは1.5質量%以上13.0質量%以下の範囲である。
【0027】
(鉄)
Feは、主としてAl−Fe−Si系化合物として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のFeの含有率が0.01質量%未満では、剛性が不十分となる。一方、アルミニウム合金中のFeの含有率が3.00%を超過すると粗大なAl−Fe−Si系化合物が生成し、ベア材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl−Fe−Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する。クラッド材の心材の場合は、基板側面に存在する粗大なAl−Fe−Si系化合物がエッチング時、ジンケート処理時、切削時に脱落して、基板側面に大きな窪みが発生する。特に基板側面の心材と皮材の境界部に大きな窪みが発生すると、めっきと基板の密着性が悪くなり、めっき剥離が生じてしまう。そのため、アルミニウム合金中のFeの含有量は、0.05質量%以上3.00質量%以下の範囲とする。また、Feの含有率は、0.10質量%以上3.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0028】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、上述したSi及びFeのほか、アルミニウム合金基板の剛性をさらに向上させるために、好ましくは0.005質量%以上2.000質量%以下のCu、好ましくは0.1質量%以上6.0質量%以下のMg、好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下のNi、好ましくは0.01質量%以上2.00質量%以下のCr、好ましくは0.01質量%以上2.00質量%以下のMn、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のNa、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のSr、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のP、好ましくはTi及びBの含有量の合計が0.005質量%以上0.500質量%以下からなる群から選択される1又は2以上の元素を選択的にさらに含有するアルミニウム合金を用いることもできる。以下これらの選択元素を説明する。
【0029】
(銅)
Cuは、主としてAl−Cu系化合物として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。また、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっきの平滑性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のCuの含有率が0.005質量%以上であることによって、剛性向上の効果と平滑生を向上させる効果とを一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCuの含有率が2.000質量%以下であることによって、粗大なAl−Cu系化合物の生成を抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl−Cu系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性を向上させる効果を一層得ることができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl−Cu系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のCuの含有率は、0.005質量%以上2.000質量%以下の範囲が好ましく、0.010質量%以上2.000質量%未満の範囲がより好ましい。
【0030】
(マグネシウム)
Mgは、主としてMg−Si系化合物として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のMgの含有率が0.1質量%以上であることによって、剛性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のMgの含有率が6.0質量%以下であることによって、粗大なMg−Si系化合物が生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にMg−Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なMg−Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のMgの含有率は、0.1質量%以上6.0質量%以下の範囲が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%未満の範囲がより好ましい。
【0031】
(ニッケル)
Niは、主としてAl−Ni系化合物として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のNiの含有率が0.1質量%以上であることによって、剛性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のNiの含有率が2.0質量%以下であることによって、粗大なAl−Ni系化合物が生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl−Ni系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl−Ni系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のNiの含有率は、0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲が好ましく、0.3質量%以上2.0質量%未満がより好ましい。
【0032】
(クロム)
Crは、主としてAl−Cr系化合物として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のCrの含有率が0.01質量%以上であることによって、剛性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のCrの含有率が2.00質量%以下であることによって、粗大なAl−Cr系化合物が生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl−Cr系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl−Cr系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のCrの含有率は、0.01質量%以上2.00質量%以下の範囲が好ましく、0.1質量%以上2.0質量%未満がより好ましい。
【0033】
(マンガン)
Mnは、主としてAl−Mn−Si系化合物として存在し、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のMnの含有率が0.01質量%以上であることによって、剛性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のMnの含有率が2.00質量%以下であることによって、粗大なAl−Mn−Si系化合物が生成することを抑制する。ベア材の場合、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時にAl−Mn−Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができる。クラッド材の心材の場合は、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の粗大なAl−Mn−Si系化合物が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のMnの含有率は、0.01質量%以上2.00質量%以下の範囲が好ましく、0.1質量%以上2.0質量%未満がより好ましい。
【0034】
Al−Si−Fe系合金として、上述したSi及びFeのほか、アルミニウム合金基板のめっき表面の平滑性をさらに向上させるために、好ましくは、0.005質量%以上2.000質量%以下のZnをさらに含有するアルミニウム合金を用いることもできる。以下この元素を説明する。
【0035】
(亜鉛)
Znは、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっきの平滑性及び密着性を向上させる効果がある。アルミニウム合金中のZnの含有率が0.005質量%以上であることによって、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、めっきの平滑性を向上させる効果を一層得ることができる。また、アルミニウム合金中のZnの含有率が2.000質量%以下であることによって、ベア材の場合、ジンケート皮膜が均一となりめっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができる。クラッド材の場合は、基板側面のジンケート皮膜が均一となりめっき密着性が低下することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることをより一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のZnの含有率は、0.005質量%以上2.000質量%以下の範囲が好ましく、0.100質量%以上2.000質量%未満の範囲がより好ましい。
【0036】
(ナトリウム、ストロンチウム、リン)
Na、Sr及びPは、アルミニウム合金基板中のSi粒子を微細化し、めっき性を改善する効果が得られる。また、アルミニウム合金基板中のSi粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板中の剛性のバラつきを低減させる効果がある。そのため、アルミニウム合金中に、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のNa、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のSr、好ましくは0.001質量%以上0.100質量%以下のPからなる群から選択された1又は2以上の元素を選択的に添加されてもよい。但し、Na、Sr、Pのそれぞれが0.001質量%未満では、上記の効果が得られない。一方、Na、Sr、Pのそれぞれが0.100%を超過して含有してもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。また、Na、Sr、Pを添加する場合のNa、Sr、Pのそれぞれの含有量は、0.003質量%以上0.025質量%以下の範囲がより好ましい。
【0037】
(チタン、ホウ素)
Ti及びBは、鋳造時の凝固過程において、TiB
2などのホウ化物又はAl
3Tiを形成し、これらが結晶粒核となるため、結晶粒を微細化することが可能となる。これによりめっき性が改善する。また、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。但し、Ti及びBの含有量の合計が0.005質量%未満では、上記の効果が得られない。一方、Ti及びBの含有量の合計が0.500質量%を超過してもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。そのため。Ti及びBを添加する場合のTi及びBの含有量の合計は、0.005質量%以上0.500質量%以下の範囲が好ましく、0.010質量%以上0.100質量%以下の範囲がより好ましい。
【0038】
(その他の元素)
また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の残部は、アルミニウムと不可避的不純物とからなる。ここで、不可避的不純物(例えばV等)は、各々が0.03%以下で、かつ合計で0.15%以下であれば、本発明で得られるアルミニウム合金基板としての特性を損なうことはない。
【0039】
(皮材の組成)
次に、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板を構成するクラッド材の皮材の合金成分及びその含有率について説明する。
【0040】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金基板では、ベア材のみでもめっき表面の優れた平滑性を得ることは可能であるが、第2相粒子が少ない皮材を心材の両面に付けることで、めっき表面がより平滑になる。
【0041】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金基板では、皮材は、純Al又はAl−Mg系合金のいずれを用いてもよい。純Al及びAl−Mg系合金は、他の合金に比べ、比較的粗大な第2相粒子が少なく、めっき性に優れる。
【0042】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金基板に用いる純Alの皮材は、0.005質量%以上0.600質量%以下のCuと、0.005質量%以上0.600質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.300質量%以下のSiと、0.001質量%以上0.300質量%以下のFeと、を含有し、残部Al及び不可避的不純物から構成されるものが好ましい。
【0043】
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金基板に用いるAl−Mg系合金の皮材は、0.3質量%以上8.0質量%以下のMgと、0.005質量%以上0.600質量%以下のCuと、0.005質量%以上0.600質量%以下のZnと、0.010質量%以上0.300質量%以下のCrと、0.001質量%以上0.300質量%以下のSiと、0.001質量%以上0.300質量%以下のFeと、を含有し、残部Al及び不可避的不純物から構成されるものが好ましい。
【0044】
(磁気ディスク用アルミニウム合金基板の第2相粒子の分布状態)
次に、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板のクラッド材の心材及びベア材における第2相粒子の分布状態について説明する。
【0045】
3μm以上100μm以下の最長径を有する第2相粒子は、アルミニウム合金基板の剛性を向上させる効果がある。本発明の実施形態においては、クラッド材の心材又はベア材の金属組織中において、3μm以上100μm以下の最長径を有する第2相粒子が、100個/mm
2以上50000個/mm
2以下の分布密度で分散することが好ましい。3μm以上100μm以下の最長径を有する第2相粒子が、100個/mm
2以上の分布密度で分散することによって、十分な剛性が一層得られる。また、クラッド材の心材又はベア材の金属組織中において、3μm以上100μm以下の最長径を有する第2相粒子が50000個/mm
2以下の分布密度で分散することによって、ベア材ではエッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時に第2相粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制でき、めっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができる。また、クラッド材では、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の第2相粒子が脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じることを一層抑制できる。そのため、クラッド材の心材又はベア材の金属組織中において、3μm以上100μm以下の最長径を有する第2相粒子が100個/mm
2以上50000個/mm
2以下の分布密度で分散することが好ましく、1000個/mm
2以上30000個/mm
2未満の分布密度で分散することがより好ましい。なお、アルミニウム合金基板中に存在する第2相粒子の最長径が3μm未満であればこの第2相粒子により発生する窪みなどは問題視されないため、分布密度の対象から除外する。
【0046】
また、アルミニウム合金基板中に存在する100μmを超える最長径の第2相粒子は、0個/mm
2であることが好ましい。100μmを超える最長径の第2相粒子が、1個/mm
2以上であると、ベア材ではエッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時に第2相粒子が脱落して大きな窪みが発生し平滑なめっき表面が得られない可能性がある。また、クラッド材ではエッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の第2相粒子が脱落して大きな窪みが発生し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じる可能性がある。なお、本発明において最長径とは、光学顕微鏡で観測される第2相粒子の平面画像において、まず、輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を計測し、次に、この最大値を輪郭線上における全ての点について計測し、最後に、これら全最大値のうちから選択される最も大きなものをいう。
【0047】
(磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法)
以下、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造工程の各工程及びプロセス条件を詳細に説明する。
【0048】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板のベア材を用いた磁気ディスクの製造方法を
図1に示すフローを参照しながら説明する。ここで、アルミニウム合金の調製(ステップS101)〜冷間圧延(ステップS105)は、アルミニウム合金板を製造する工程であり、ディスクブランクの作製(ステップS106)〜磁性体の付着(ステップS111)は、製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクとする工程である。まず、ベア材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造する工程を説明する。
【0049】
まず、上述の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって加熱・溶融することによって調製する(ステップS101)。つぎに、調製されたアルミニウム合金の溶湯から半連続鋳造(DC鋳造)法又は連続鋳造(CC)法等によりアルミニウム合金を鋳造する(ステップS102)。鋳造時の冷却速度は0.1〜1000℃/sの範囲が好ましい。鋳造時の冷却速度が0.1℃/s未満だと最長径3〜100μmの第2相粒子の分散密度が50000個/mm
2を超え、エッチング時、ジンケート処理時、切削又は研削加工時に第2相粒子が脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性が低下する可能性がある。一方、鋳造時の冷却速度が1000℃/sを越える場合は最長径3〜100μmの第2相粒子の分散密度が100個/mm
2未満となり、十分な剛性が得られない可能性がある。なお、鋳造時の冷却速度が高い方が微細な第2相粒子が密に分布して性能が安定するため、鋳造方法としてはDC鋳造法よりも冷却速度が速いCC法の方がより好ましい。つぎに、鋳造されたアルミニウム合金の均質化処理を実施する(ステップS103)。均質化処理は行わなくても良いが、実施する場合には、例えば400〜500℃で1時間以上等の条件で行うことが好ましい。つぎに、均質化処理をしたアルミニウム合金を熱間圧延し板材とする(ステップS104)。熱間圧延するに当たっては、特にその条件は限定されるものではなく、熱間圧延開始温度を300〜500℃とし、熱間圧延終了温度は260〜400℃とする。つぎに、熱間圧延した板を冷間圧延して1.0mm程度のアルミニウム合金板とする(ステップS105)。熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度及び/又は板厚に応じて定めれば良く、圧延率を20〜80%とする。冷間圧延の前又は冷間圧延の途中で、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の加熱ならば、300〜450℃で0.1〜10時間の条件で行うことが好ましく、連続式の加熱ならば、400〜500℃で0〜60秒間保持の条件で行うことが好ましい。
【0050】
アルミニウム合金板を磁気ディスク用として加工するには、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作成する(ステップS106)。つぎに、ディスクブランクを大気中にて300℃以上450℃以下で30分以上の加圧焼鈍を行い平坦化したアルミニウム合金基板を作成する(ステップS107)。つぎに、アルミニウム合金基板を切削加工、研削加工、脱脂、エッチングする(ステップS108)。つぎに、アルミニウム合金基板表面にジンケート処理(Zn置換処理)を施す(ステップS109)。つぎに、ジンケート処理した表面に下地処理(Ni−Pめっき)し、アルミニウム合金基盤を作成する(ステップS110)。つぎに、下地処理した表面にスパッタリングで磁性体を付着させ磁気ディスクとする(ステップS111)。
【0051】
つぎに、クラッド材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクの製造方法を
図2に示すフローを参照しながら説明する。ここで、アルミニウム合金の調製(ステップS201)〜冷間圧延(ステップS205)は、アルミニウム合金板を製造する工程であり、ディスクブランクの作製(ステップS206)〜磁性体の付着(ステップS211)は、製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクとする工程である。
【0052】
まず、心材、皮材に対し、上述の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって加熱・溶融することによって調製する(ステップS201)。つぎに、所望組成に配合されたアルミニウム合金の溶湯から半連続鋳造(DC鋳造)法又は連続鋳造(CC)法等によりアルミニウム合金を鋳造する(ステップS202−1)。つぎに、皮材用鋳塊の均質化処理を行い、熱間圧延して所望の皮材とする工程と、心材用鋳塊を面削し所望の板厚とした心材とし、心材の両面に皮材を合わせて合わせ材とする工程を行う(ステップS202−2)。
【0053】
クラッド材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を圧延圧接法で製造する場合、心材には、例えば、半連続鋳造(DC鋳造)法又は連続鋳造(CC)法等で調製した鋳塊を用いる。鋳造後、面削若しくは切削等の機械的除去及び/又はアルカリ洗浄等の化学的除去を行って酸化皮膜を除去しておくと、後の心材と皮材との圧接が良好になされる(ステップS202−1、S202−2)。
【0054】
皮材はDC鋳造法又はCC法等で得た鋳塊を面削し、熱間圧延して所定寸法の板材とする。熱間圧延前に均質化処理は実施してもしなくても良いが、実施する場合には350℃以上550℃以下で1時間以上等の条件で行うことが好ましい。皮材を所望の厚さとするための熱間圧延をするに当たっては、特にその条件は限定されるものではなく、熱間圧延開始温度を350℃以上500℃以下とし、熱間圧延終了温度は260℃以上380℃以下とすることが好ましい。また、皮材を所望の厚さとするための熱間圧延後の素板を硝酸又は苛性ソーダ等で素洗いすると、当該熱間圧延で生成した酸化皮膜が除去され、心材との圧接が良好になされる(ステップS202−1、S202−2)。
【0055】
本発明の実施形態において、心材と皮材とをクラッドするにあたり、皮材のクラッド率(クラッド材全厚さに対する皮材厚さの比率)は特に限定されるものではないが、必要な製品板強度及び/又は平坦度、研削量に応じて適宜定められ、3%以上30%以下とするのが好ましく、5%以上20%以下とするのがより好ましい。例えば、熱間圧延して板厚15mm程度の皮材とする工程と、心材用鋳塊を面削し板厚270mm程度の心材とし、心材の両面に皮材を合わせて合わせ材とする。
【0056】
つぎに、鋳造したアルミニウム合金の均質化処理をする(ステップS203)。心材と皮材との合わせ材の均質化処理を実施する場合には、例えば、400℃以上500℃以下で1時間以上等の条件で行うことが好ましい。
【0057】
心材と皮材との合わせ材を均質化処理する際には、心材と皮材の界面の酸化皮膜の生成を極力抑制する必要がある。そのためには、酸化皮膜が生成し易い組成を有するアルミニウム合金を均質化処理する場合には、例えば、窒素ガス又はアルゴンガスなどの不活性ガス、一酸化炭素などの還元性ガス、真空などの減圧ガスなどの非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0058】
つぎに、均質化処理をしたアルミニウム合金を熱間圧延し板材とする(ステップS204)。熱間圧延を行うことで、心材と皮材がクラッドされる。熱間圧延を行うにあたっては、特にその条件は限定されるものではなく、熱間圧延開始温度を300℃以上500℃以下が好ましく、熱間圧延終了温度は260℃以上400℃以下が好ましい。なお、ここで板厚は3.0mm程度とする。
【0059】
熱間圧延によって得られたアルミニウム合金板は、冷間圧延によって所望の製品板厚に仕上げられる(ステップS205)。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度及び/又は板厚に応じて定めれば良く、圧延率を20%以上80%以下が好ましい。
【0060】
冷間圧延の前又は冷間圧延の途中で、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の加熱ならば、300℃以上450℃以下で0.1時間以上10時間以下の条件で行うことが好ましい。なお、ここで板厚は1.0mm程度とする。
【0061】
上述の各工程は何れも第2相粒子の生成に関係するが、本発明の実施形態に係る心材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の特性は、特にステップS202−1の心材の鋳造時における冷却速度が大きく影響している。心材の鋳造時の冷却速度は、所望の第2相粒子の分布を得るためには冷却速度は0.1℃/s以上1000℃/s以下とすることが好ましい。
【0062】
心材の鋳造時の冷却速度が0.1℃/s未満であると最長径3μm以上100μm以下の第2相粒子の分布密度が50000個/mm
2を超え、エッチング時、ジンケート処理時、切削時に基板側面の第2相粒子が脱落して大きな窪みが発生し、基板側面の心材と皮材の境界部にめっき剥離が生じる可能性がある。一方、心材の鋳造時の冷却速度が1000℃/sを越えると最長径3μm以上100μm以下の第2相粒子の分布密度が100個/mm
2未満となり、十分な剛性が得られない可能性がある。従って、心材の鋳造時の冷却速度は0.1℃/s以上1000℃/s以下の範囲が好ましい。
【0063】
本発明の実施形態において、心材と皮材をクラッドするには種々の方法が適用できる。例えば、ブレージングシートの製造等に通常使用される圧延圧接法が挙げられる。この圧延圧接法においては、心材と皮材の合わせ材に、均質化処理(ステップS203)、熱間圧延(ステップS204)、冷間圧延(ステップS205)をこの順序で施すことにより行われる。
【0064】
クラッド材のアルミニウム合金板を磁気ディスク用として加工するには、ディスクブランクの作製(ステップS206)〜磁性体の付着(ステップS211)の工程を実施する。ディスクブランクの作製(ステップS206)〜磁性体の付着(ステップS211)の工程は、ベア材のアルミニウム合金板を磁気ディスク用として加工する工程であるディスクブランクの作製(ステップS106)〜磁性体の付着(ステップS111)の工程と同様である。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
(ベア材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板)
まず、ベア材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の実施例について説明する。表1及び表2に示す成分組成の各合金を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS101)。表1及び表2中「−」は、測定限界値以下を示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
つぎに、表3及び表4に示すように、合金No.A1〜A7、A11〜A36及びAC1〜AC4は、アルミニウム合金溶湯をDC鋳造法により、合金No.A8〜A10は、アルミニウム合金溶湯をCC法により鋳造し鋳塊を作製した(ステップS102)。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
合金No.A1〜A7、A11〜A36及びAC1〜AC4の鋳塊は両面15mmの面削を行った。No.A1〜A9、A11〜A36及びAC1〜AC4の合金は480℃で3時間の均質化処理を施した(ステップS103)。No.A1〜A8、A11〜A36及びAC1〜AC4の合金は圧延開始温度460℃、圧延終了温度340℃で熱間圧延を行ない、板厚3.0mmの熱延板とした(ステップS104)。No.A1〜A6、A8〜A36及びAC1〜AC4の合金の熱延板は400℃で2時間の条件で焼鈍を行い冷間圧延(圧延率66.7%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした(ステップS105)。前記アルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS106)。
【0073】
ディスクブランクを400℃で3時間加圧焼鈍を施した(ステップS107)。端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面10μm研削)を行った(ステップS108)。その後、AD−68F(上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD−107F(上村工業製)により65℃で1分のエッチングを行い、さらに30%HNO
3水溶液(室温)で20秒間デスマットした。表面を整えたディスクブランク表面に、AD−301F−3X(上村工業製)を用いてジンケート処理を施した(ステップS109)。ジンケート処理した表面に無電解Ni−Pめっき処理液(ニムデンHDX(上村工業製))を用いてNi−Pを17μm厚さに無電解めっきした後羽布により仕上げ研磨(研磨量4μm))を行った(ステップS110)。
【0074】
鋳造(ステップS102)工程後のアルミニウム合金鋳塊、冷延(ステップS105)工程後のアルミニウム合金板、研削加工(ステップS108)工程後のアルミニウム合金基板、及びめっき処理研磨(ステップS110)工程後のアルミニウム合金基盤について以下の評価を行った。
【0075】
〔鋳造時の冷却速度〕
鋳造(ステップS102)後の鋳塊のDAS(Dendrite Arm Spacing)を測定し、鋳造時の冷却速度を算出した。DASは光学顕微鏡により鋳塊厚さ方向の断面組織観察を行い、2次枝法により測定した。測定は、鋳塊の厚さ方向の中央部の断面を用いた。
【0076】
〔剛性〕
冷延(ステップS105)後のアルミニウム合金板を400℃、3時間の条件で加熱した後、共振法によりヤング率を測定し、剛性の評価を行った。剛性の測定は、日本テクノプラス株式会社製のJE−RT型の装置を用い室温で行った。ヤング率75GPa以上のものを優良(◎印)とし、ヤング率72GPa以上75GPa未満のものを良好(○印)とし、ヤング率72GPa未満のものを不良(×印)とした。
【0077】
〔最長径3〜100μmと最長径100μmを超える第2相粒子の分布密度〕
最長径3〜100μmと最長径100μmを超える第2相粒子の分布密度(個/mm
2)は、研削加工(ステップS108)後のアルミニウム合金基板断面を光学顕微鏡により400倍で1mm
2観察し、最長径3〜100μmと最長径100μmを超える第2相粒子を数え、分布密度を求めた。
【0078】
〔めっき表面の平滑性〕
Ni−Pめっき処理研磨(ステップS110)後のアルミニウム合金基盤の表面を光学顕微鏡により500倍で1mm
2観察し、最長径5μm以上の大きさのピットの個数を数え、単位面積当たりの個数(個数密度:個/mm
2)を求めた。ピットが0〜10個/mm
2の場合を優良(◎印)とし、10〜20個/mm
2の場合を良好(○印)、20個/mm
2を超える場合を不良(×印)とした。以上の評価結果を表5及び表6に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
表5及び表6に示すように、実施例1〜実施例43では、めっき表面が平滑で高い剛性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板が得られた。一方、比較例1〜比較例4は、めっき表面の平滑性又は剛性が劣っていた。比較例1は、Siの含有量が少ないためにヤング率が低く、剛性に劣った。比較例2は、Siの含有量が多かったために粗大なSi粒子が多く生成されたため、このSi粒子がめっき前処理で脱落して大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が悪くなった。比較例3は、Feの含有量が少ないためにヤング率が低く、剛性に劣った。比較例4は、Feの含有量が多かったために粗大なAl−Fe−Si系化合物が多く生成されたため、この化合物がめっき前処理で脱落して大きな窪みが発生した。その結果、めっき表面にピットが多数発生し、めっき表面の平滑性が悪くなった。
【0082】
(クラッド材磁気ディスク用アルミニウム合金基板)
次に、クラッド材の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の実施例について説明する。
【0083】
表7〜表10に示す成分組成の各合金を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS201)。表7及び表8はクラッド材の心材、表9及び表10はクラッド材の皮材の成分組成を示す。表7〜表10中「−」は測定限界値以下を示す。
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】
【0088】
表11及び表12に示すように、心材用鋳塊として合金No.B1〜B7、B11〜B36、BC1及びBC2のアルミニウム合金溶湯は、DC鋳造法により、合金No.B8〜B10のアルミニウム合金溶湯は、CC法により鋳塊を作製した(ステップS202−1)。皮材用鋳塊は、全合金DC鋳造法により作製した。合金No.B1〜B7、B11〜B36、BC1及びBC2の心材は、鋳塊の両面15mmの面削を行ない心材とした(ステップS202−2)。皮材は、鋳塊の両面15mmの面削を行い、大気中にて520℃で6時間の均質化処理をし、熱間圧延を行ない合金No.C1〜C7、C11〜C36、CC1及びCC2は板厚15mmの熱間圧延板とし、合金No.C8〜C10は板厚0.5mmの熱間圧延板とした。その後、熱間圧延板を苛性ソーダで素洗いし皮材とし、心材の両面に皮材を合わせて合わせ材とした。次に、480℃で3時間の均質化処理を施した(ステップS203)。圧延開始温度460℃、圧延終了温度340℃で熱間圧延を行ない、板厚3.0mmの熱延板とした(ステップS204)。合金No.B7及びC7の合金以外の熱延板は400℃で2時間の条件で焼鈍を行い冷間圧延(圧延率66.7%)により最終板厚の1.0mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした(ステップS205)。前記アルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS206)。
【0089】
【表11】
【0090】
【表12】
【0091】
ディスクブランクを400℃で3時間加圧焼鈍を施した(ステップS207)。端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面10μm研削)を行った(ステップS208)。その後、AD−68F(上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD−107F(上村工業製)により65℃で1分のエッチングを行い、さらに30%HNO
3水溶液(室温)で20秒間デスマットした。表面を整えたディスクブランク表面に、AD−301F−3X(上村工業製)を用いてダブルジンケート処理を施した(ステップS209)。ジンケート処理した表面に無電解Ni−Pめっき処理液(ニムデンHDX(上村工業製))を用いてNi−Pを17μm厚さに無電解めっきした後羽布により仕上げ研磨(研磨量4μm))を行った(ステップS210)。
【0092】
前記鋳造(ステップS202−1)工程後の鋳塊、前記冷延(ステップS205)工程後のアルミニウム合金板、前記研削加工(ステップS208)工程後のアルミニウム合金基板、及び前記めっき処理研磨(ステップS210)工程後のアルミニウム合金基盤について以下の評価を行った。
【0093】
〔心材用鋳塊の鋳造時の冷却速度〕
鋳造(ステップS202−1)後の鋳塊のDASを測定し、鋳造時の冷却速度を算出した。DASは光学顕微鏡により鋳塊厚さ方向の断面組織観察を行い、2次枝法により測定した。測定は、鋳塊の厚さ方向の中央部の断面を用いた。
【0094】
剛性、心材中の最長径3〜100μmと最長径100μmを超える第2相粒子の分布、及びめっき表面の平滑性の評価は、ベア材と同様の方法で行った。以上の評価結果を表13及び表14に示す。
【0095】
【表13】
【0096】
【表14】
【0097】
表13及び表14に示すように、実施例44〜実施例86では、めっき表面が平滑で高い剛性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板が得られた。一方、比較例5及び比較例6は何れも剛性が劣っていた。比較例5は、Siの含有量が少ないためにヤング率が低く、剛性に劣った。比較例6は、Feの含有量が少ないためにヤング率が低く、剛性に劣った。
【0098】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0099】
本出願は、2014年10月31日に出願された、日本国特許出願特願2014−223387号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2014−223387号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。