(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記層(Y)が、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する重合体(F)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子デバイス。
前記多層構造体(W)が、前記層(Y)に隣接して配置された層(Z)をさらに含み、前記層(Z)は、リン原子を含有する官能基を有する重合体(BOa)を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子デバイス。
前記工程(I)において、コーティング液(S)を前記基材(X)上に塗工した後、前記コーティング液(S)中の溶媒を除去する乾燥工程とを有し、前記乾燥工程における乾燥温度が140℃未満である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明について、以下に例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、物質、条件、方法、数値範囲等を例示する場合があるが、本発明はそのような例示に限定されない。また、例示される物質は、特に注釈がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0029】
特に注釈がない限り、この明細書において、「特定の部材(基材、層等)上に特定の層を積層する」という記載の意味には、該部材と接触するように該特定の層を積層する場合に加え、他の層を挟んで該部材の上方に該特定の層を積層する場合が含まれる。「特定の部材(基材、層等)上に特定の層を形成する」、「特定の部材(基材、層等)上に特定の層を配置する」という記載も同様である。また、特に注釈がない限り、「特定の部材(基材、層等)上に液体(コーティング液等)を塗工する」という記載の意味には、該部材に該液体を直接塗工する場合に加え、該部材上に形成された他の層に該液体を塗工する場合が含まれる。
【0030】
[電子デバイス]
本発明の多層構造体(W)を用いた量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、電子デバイス本体と、電子デバイス本体の表面を被覆する保護シートを備える。本発明の電子デバイスに用いる保護シートは、基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Y)とを含む多層構造体(W)を備える。多層構造体(W)の詳細については後述する。保護シートは、多層構造体(W)のみによって構成されていてもよいし、他の部材もしくは他の層を含んでもよい。以下では、特に注釈がない限り、保護シートが多層構造体(W)を備える場合について説明する。
【0031】
本発明の電子デバイスの一例の一部断面図を
図1に示す。
図1の電子デバイス11は、電子デバイス本体1と、電子デバイス本体1を封止するための封止材2と、電子デバイス本体1の表面を保護するための保護シート3と、を備える。封止材2は、電子デバイス本体1の表面全体を覆っている。保護シート3は、電子デバイス本体1の表面を保護できるように配置されていればよく、電子デバイス本体1の表面上に直接配置されていてもよいし(図示せず)、
図1のように封止材2等の他の部材を介して電子デバイス本体1の表面上に配置されていてもよい。
図1に示されるように、第1の保護シートが配置された表面とは反対側の表面に、第2の保護シートが配置されてもよい。その場合、その反対側の表面に配置される第2の保護シートは、第1の保護シートと同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0032】
好適な保護シートは、量子ドット蛍光体材料を、高温、酸素、および湿気等の環境条件から保護する。好適な保護シートとしては、疎水性で、量子ドット蛍光体材料と化学的および機械的に適合性があり、光安定性および化学安定性を示し、高温耐熱性を有し、非黄変の透明な光学材料が挙げられる。好適には、1つ以上の保護シートは、量子ドット蛍光体材料と屈折率が整合される。好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体材料のマトリックス材および1つ以上の隣接する保護シートは、類似の屈折率を有するように屈折率が整合され、その結果、保護シートを通じて量子ドット蛍光体材料に向かって伝送する光の大半が、保護シートから蛍光体材料内に伝送されるようになる。この屈折率整合により、保護シートとマトリックス材料との間の界面における光学的損失が減少される。
【0033】
本発明の量子ドット蛍光体材料のマトリックス材料としては、ポリマー、有機および無機の酸化物等が挙げられる。好適な実施形態において、ポリマーは、実質的に半透明または実質的に透明である。好適なマトリックス材料としては、後記する分散用樹脂の他に、例えば、エポキシ、アクリレート、ノルボルネン、ポリエチレン、ポリ(ビニルブチラール):ポリ(ビニルアセテート)、ポリ尿素、ポリウレタン;アミノシリコーン(AMS)、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリフェニルアルキルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジアルキルシロキサン、シルセスキオキサン、フッ化シリコーン、ならびにビニルおよび水素化物置換シリコーン等のシリコーンおよびシリコーン誘導体;メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、およびラウリルメタクリレート等のモノマーから形成されるアクリルポリマーおよびコポリマー;ポリスチレン、アミノポリスチレン(APS)、およびポリ(アクリルニトリルエチレンスチレン)(AES)等のスチレン系ポリマー;ジビニルベンゼン等、二官能性モノマーと架橋したポリマー;リガンド材料との架橋に好適な架橋剤、リガンドアミン(例えば、APSまたはPEIリガンドアミン)と結合してエポキシを形成するエポキシド等が挙げられる。
【0034】
本発明の保護シートは、好適には固体材料である。固体材料としては、例えば、硬化された液体、ゲル、またはポリマー等が挙げられる。保護シートは、特定の用途に応じて、可撓性または非可撓性材料を含んでもよい。保護シートは、好ましくは、平面層であり、特定の照明用途に応じて、任意の好適な形状および表面積構造を含んでもよい。好適な保護シート材料には、後記する多層構造体(W)の材料以外にも、当該技術分野で既知の任意の好適な保護シート材料を使用できる。多層構造体(W)以外の保護シートとして好適なバリア材料としては、例えば、ガラス、ポリマー、および酸化物が挙げられる。ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。酸化物としては、SiO
2、Si
2O
3、TiO
2、Al
2O
3等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせても使用できる。好ましくは、本発明の保護シートは、異なる材料または組成物を含む少なくとも2つの層(例えば、基材(X)と層(Y))を含み、その結果、多層状の保護シートが、保護シート内のピンホール欠陥配列を排除または減少させ、量子ドット蛍光体材料内への酸素および湿気の侵入に対する効果的なバリアを提供するようになる。保護シートの材料、厚さ、および数は、具体的な用途に依存することになり、好適には、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの厚さを最小化しながらも、量子ドット蛍光体のバリア保護および輝度を最大化するように、選択される。好ましい実施形態において、各保護シートは、積層体(積層フィルム)、好ましくは二重積層体(二重積層フィルム)を含み、各保護シートの厚さは、ロールツーロールまたは積層製造プロセス時の皺を排除するのに十分に厚い。保護シートの数または厚さは、さらに、量子ドット蛍光体材料が、重金属または他の毒性材料を含む実施形態においては、法的な毒性指針に依存し、その指針は、より多いまたはより厚い保護シートを要する場合がある。バリアのさらなる検討事項には、費用、入手可能性、および機械的強度が挙げられる。
【0035】
好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、多層構造体(W)を備える保護シートを2つ以上含み、これらの保護シートは量子ドット蛍光体材料の各側面に隣接する。また、各側面上に、多層構造体(W)を備える保護シート以外の他の保護シートを1つ以上備えていてもよい。すなわち、前記各側面上に2つまたは3つの層(保護シート)を含んでいてもよい。より好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、量子ドット蛍光体材料の各側面上に、2つの保護シートを含み、そのうち少なくとも1つは多層構造体(W)を備える保護シートを含む。
【0036】
本発明の量子ドット蛍光体を含む層は、任意の望ましい寸法、形状、構造、および厚さであり得る。量子ドット蛍光体は、所望の機能に適切な任意の充填率で、マトリックス材料内に埋め込むことができる。量子ドット蛍光体を含む層の厚さおよび幅は、湿式コーティング、塗装、回転コーティング、スクリーン印刷等、当該技術分野で既知の任意の方法によって制御することができる。特定の量子ドット蛍光体フィルムの実施形態において、量子ドット蛍光体材料は、500μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは50〜150μm、最も好ましくは50〜100μmの厚さを有し得る。
【0037】
好ましい実施形態において、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの上部および底部保護シート層は機械的に密封される。
図1に示す実施形態に示されるように、上部保護シート層および/または底部保護シート層は、一緒に狭圧されて、量子ドット蛍光体を密封する。好適には、端部は、環境内の酸素および湿気への量子ドット蛍光体材料の曝露を最小化するために、量子ドット蛍光体および保護シート層の被着の直後に狭圧される。バリア端部は、狭圧、スタンピング、溶融、ローリング、加圧等によって、密封することができる。
【0038】
好ましい実施形態において、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの上部および底部保護シート層を機械的に密封する際には、任意の接着剤を用いてよいが、端部接着の容易さ、量子ドットの高い光学特性を保持するという観点から、エポキシ樹脂等の好適な光学接着材料を用いることが好ましい。
【0039】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、テレビ、コンピュータ、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、ゲーム機、電子読書装置、デジタルカメラ等のディスプレイ装置のためのバックライトユニット(BLU)、屋内または屋外の照明(例えば、舞台照明、装飾照明、アクセント照明、博物館照明等)の照明用途に使用可能である。
【0040】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、光起電力用途での使用に好適な、量子ドット下方変換層またはフィルムとして使用することもできる。本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、太陽光の一部を、太陽電池の活性層によって吸収可能な、より低エネルギーの光に変換することができる。その変換された光の波長は、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体によるこのような下方変換によって、活性層によって吸収および電力に変換することができる。したがって、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体を採用する太陽電池は、増加した太陽光変換効率を有し得る。
【0041】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、光源、光フィルター、および/または一次光の下方変換器としての使用を含む。ある特定の実施形態において、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は一次光源であり、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスが、電気的刺激時に光子を放出する電子発光性量子ドット蛍光体を含む、電子発光性デバイスである。ある特定の実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは光フィルターであり、量子ドット蛍光体が、ある特定の波長または波長範囲を有する光を吸収する。量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、特定の波長または波長範囲の通過を、その他のものを吸収またはフィルタリング除去しながら、可能にすることができる。ある特定の実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、下方変換器であり、それによって、一次光源からの一次光の少なくとも一部分が、量子ドット蛍光体を含む電子デバイス内で量子ドット蛍光体によって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光として再放出される。好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、フィルターおよび一次光下方変換器の両方であり、それによって、一次光の第1の部分が、量子ドット蛍光体を含む電子デバイス内の量子ドット蛍光体によって吸収されることなく量子ドット蛍光体を含む電子デバイスを通過することを可能にし、一次光の少なくとも第2の部分は、量子ドット蛍光体によって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光に下方変換される。
【0042】
封止材2は、電子デバイス本体1の種類および用途等に応じて適宜付加される任意の部材である。封止材としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレンブタジエン共重合体等が挙げられる。
【0043】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの保護シートは、可撓性を有してもよい。この明細書において、可撓性とは、直径が50cmのロールに巻き取ることが可能であることを意味する。例えば、直径が50cmのロールに巻き取っても、目視による破損が見られないことを意味する。直径が50cmよりも小さいロールに巻き取ることが可能であることは、電子デバイスもしくは保護シートがより柔軟性が高いことになるため好ましい。
【0044】
多層構造体(W)を含む保護シートは、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、高温高湿度条件下においても、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れる。そのため、該保護シートを用いることによって、量子ドット蛍光体を酸素および水等から保護することができ、過酷な環境下でも劣化が少ない電子デバイスが得られる。
【0045】
多層構造体(W)は、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム等基板フィルムと称されるフィルムとしても使用できる。その場合、多層構造体は、基板と保護フィルムとを兼ねてもよい。また、保護シートの保護対象となる電子デバイスは、前記した例示に限定されず、例えば、ICタグ、光通信用デバイス、燃料電池等であってもよい。
【0046】
保護シートは、多層構造体(W)の一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(例えば、耐光性)が高い樹脂からなることが好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体、ポリ3−フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。保護シートの一例は、一方の表面に配置されたアクリル樹脂層を含む。
【0047】
表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(例えば、紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤等を併用してもよい。
【0048】
量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体を封止する封止材に保護シートを接合する場合、保護シートは、封止材との接着性が高い接合用樹脂層を含むことが好ましい。封止材がエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる場合、接合用樹脂層としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートが挙げられる。保護シートを構成する各層は、公知の接着剤もしくは上述した接着層を用いて接着してもよい。
【0049】
[実施形態1]
本発明の実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む電子デバイスでは、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用する。量子ドット蛍光体分散樹脂成形体は、樹脂中に量子ドット蛍光体を分散させて分散液(組成物)を得て、該分散液を用いて成形することで得られる。成形方法は、特に限定されず、公知の方法を使用できる。分散用樹脂としては、シクロオレフィン(共)重合体が好ましい。シクロオレフィン(共)重合体としては、例えば、下記式[Q−1]で表されるシクロオレフィン重合体(COP)または下記式[Q−2]で表されるシクロオレフィン共重合体(COC)が挙げられる。このようなシクロオレフィン(共)重合体として、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、COPタイプとして、ZEONEX(登録商標)シリーズ(日本ゼオン株式会社製)、COCタイプとして、APL5014DP(三井化学株式会社製、化学構造;―(C
2H
4)
x(C
12H
16)
y―;添字x、yは0より大きく1より小さい実数であり、共重合比を表す)等が挙げられる。
【0050】
【化1】
【化2】
式[Q−1]中、R
1、R
2は、それぞれ独立に、同一または異なって、水素原子;炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(好適にはアルキル基);塩素もしくはフッ素のハロゲン原子;およびハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R
1、R
2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ形成してもよい。rは、正の整数である。
式[Q−2]中、R
3は、水素原子;炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(好適にはアルキル基);塩素もしくはフッ素のハロゲン原子;およびハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R
4、R
5は、それぞれ独立に、同一または異なって、水素原子;炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基(好適にはアルキル基);塩素もしくはフッ素のハロゲン原子;およびハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R
4またはR
5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ形成してもよい。x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の関係式を満たす。
【0051】
式[Q−1]で表されるシクロオレフィン重合体(COP)は、例えばノルボルネン類を原料とし、グラブス触媒等を利用した開環メタセシス重合をした後、水素化することにより得られる。式[Q−2]で表されるシクロオレフィン共重合体(COC)は、例えばノルボルネン類を原料とし、メタロセン触媒等を利用してエチレン等との共重合により得られる。
【0052】
樹脂中に量子ドット蛍光体を分散させる方法は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で樹脂を溶媒に溶解した溶液に、量子ドット蛍光体を分散媒に分散させた分散液を不活性ガス雰囲気下で加えて混練することが好ましい。その際に用いる分散媒は樹脂を溶解する溶媒であることが好ましく、分散媒と溶媒が同一であることがより好ましい。前記溶媒および分散媒は制限なく使用できるが、好ましくはトルエン、キシレン(o−、m−またはp−)、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶媒が使用できる。また、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン(o−、m−またはp−)、トリクロルベンゼン等の塩素系炭化水素溶媒も使用できる。また、以上の工程で使用する不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0053】
なお、実施形態1に適用される量子ドット蛍光体は、その粒径が1〜100nmを指し、数十nm以下の場合は、量子効果を発現する蛍光体である。量子ドット蛍光体の粒径は、2〜20nmの範囲内が好ましい。
【0054】
量子ドット蛍光体の構造は、無機蛍光体コアおよびこの無機蛍光体の表面に配位したキャッピング層(例えば、脂肪族炭化水素基を有する有機不動態層)から構成され、無機蛍光体のコア部(金属部)は有機不動態層によって被覆されている。一般に、量子ドット蛍光体粒子の表面には、主に凝集防止等を目的として有機不動態層がコア表面に配位されている。さらに、有機不動態層(シェルとも呼ばれる。)は、凝集防止以外に、コア粒子を周囲の化学的環境から保護すること、表面に電気的安定性を付与すること、特定溶媒系への溶解性を制御することの役割を担う。また、有機不動態は、目的に応じて化学構造を選択できるが、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数6〜18程度の脂肪族炭化水素(例えばアルキル基)を有する有機分子であってもよい。
【0055】
[無機蛍光体]
無機蛍光体としては、例えば、II族−VI族化合物半導体のナノ結晶、III族−V族化合物半導体のナノ結晶等が挙げられる。これらのナノ結晶の形態は特に限定されず、例えば、InPナノ結晶のコア部分に、ZnS/ZnO等からなるシェル部分が被覆されたコア・シェル(core−shell)構造を有する結晶、またはコア・シェルの境が明確でなくグラジエント(gradient)に組成が変化する構造を有する結晶、あるいは同一の結晶内に2種以上の化合物結晶が部分的に分けられて存在する混合結晶または2種以上のナノ結晶化合物の合金等が挙げられる。
【0056】
[キャッピング剤]
次に、無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成するための試剤)としては、炭素数2〜30、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜18の直鎖構造または分岐構造を有する脂肪族炭化水素基を有する有機分子が挙げられる。無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成するための試剤)は、無機蛍光体に配位するための官能基を有する。このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、水酸基、エーテル基、カルボニル基、スルフォニル基、ホスフォニル基またはメルカプト基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基が好ましい。
【0057】
実施形態1の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスにかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造に用いる組成物には、0.01〜20質量%の濃度範囲で樹脂(例えば、シクロオレフィン(共)重合体)中に量子ドット蛍光体が均一に分散されている。また、実施形態1の量子ドット蛍光体を含む組成物には、好ましくは0.1質量%を超え15質量%未満、より好ましくは1質量%を超え10質量%未満の濃度範囲でシクロオレフィン(共)重合体中に量子ドット蛍光体が均一に分散されているのがよい。量子ドット蛍光体の濃度が0.01質量%未満の場合には、発光素子用の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体として十分な発光強度が得られず、好ましくない。一方、量子ドット蛍光体の濃度が20質量%を超える場合には、量子ドット蛍光体の凝集が起こる可能性があり、量子ドット蛍光体が均一に分散された量子ドット蛍光体分散樹脂成形体が得られず、好ましくない。
【0058】
[量子ドット蛍光体の調製方法]
実施形態1で使用する量子ドット蛍光体は、所望の化合物半導体のナノ結晶が得られる金属前駆体を用いてナノ結晶を製造した後、次いで、これをさらに有機溶媒に分散する。そして、ナノ結晶を所定の反応性化合物(シェル部分の化合物)により処理することにより、無機蛍光体の表面に炭化水素基が配位した構造を有する量子ドット蛍光体を調製することができる。処理方法は、特に制限されず、例えば、ナノ結晶の分散液を反応性化合物の存在下に還流させる方法が挙げられる。また、量子ドット蛍光体の製造方法としては、例えば、特開2006−199963号公報に開示された方法を用いることができる。
【0059】
実施形態1で使用する量子ドット蛍光体において、無機蛍光体(コア部)表面を被覆する有機不動態層を構成する炭化水素基の量は、特に限定されないが、無機蛍光体1粒子(コア)に対し、炭化水素基の炭化水素鎖が通常2〜500モルの範囲であり、好ましくは10〜400モルの範囲であり、より好ましくは20〜300モルの範囲である。炭化水素鎖が2モル未満の場合は、有機不動態層としての機能を付与することができず、例えば蛍光体粒子が凝縮しやすくなる。一方、炭化水素鎖が500モルを超える場合は、コア部からの発光強度を低下させるだけでなく、無機蛍光体に配位できない過剰の炭化水素基が存在するようになり、液状封止樹脂の性能低下を引き起こしやすくなる傾向がある。また、量子ドット蛍光体のコストアップとなってしまう。
【0060】
また、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体は、量子ドット蛍光体を含む組成物を成形物に成形して製造してもよい。この成形物は、光源から照射された光の少なくとも一部を吸収して、成形物中に含まれる量子ドット蛍光体から2次光を発光する成形物として有効な働きをする。量子ドット蛍光体を含む組成物の成形方法としては、例えば当該組成物を基材に塗布あるいは型に充填した後、前記不活性ガス雰囲気下で加熱乾燥により溶媒を除去し、必要に応じて基材または型から剥離する方法等がある。また、量子ドット蛍光体を含む組成物を、LEDチップを封止する封止材として使用することもできる。
【0061】
量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法としては、例えば、シクロオレフィン系(共)重合体を溶媒に溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液に、得られる成形体中の量子ドット蛍光体の濃度が0.01〜20質量%の範囲となるように、量子ドット蛍光体を分散させて、次いで混練することにより量子ドット蛍光体を含む組成物を製造する工程と、前記量子ドット蛍光体を含む組成物を基材に塗布あるいは型に充填して、加熱乾燥する工程と、を備える方法が挙げられる。溶媒および分散媒は前記したとおりである。
【0062】
前記加熱乾燥等により量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を製造、あるいはさらにその後、加圧成形により、樹脂レンズ、樹脂板および樹脂フィルム等を製造することができる。
【0063】
図2には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材の少なくとも一部に使用した発光装置の例の断面図が示される。
図2において、発光装置100は、LEDチップ10、リード電極12、カップ14、封止材16,17を含んで構成されている。必要に応じて、発光装置100の上部に樹脂レンズ20が配置される。カップ14は、適切な樹脂またはセラミックスにより形成することができる。また、LEDチップ10は限定されないが、量子ドット蛍光体と協働して適宜な波長の光源を構成する発光ダイオードを使用することができる。また、封止材16は、量子ドット蛍光体18が分散された量子ドット蛍光体を含む組成物を用いて形成することができる。これらにより、例えばLEDチップ10からの発光を使用して封止材16から白色光を出す白色光源等を形成することができる。また、封止材17は、LED、リード線等を封止している。これらの封止材16および封止材17は、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)雰囲気下で、まずカップ14内に樹脂(例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂)等を所定量注入し、公知の方法により固化して封止材17を形成し、その後封止材17上に量子ドット蛍光体を含む組成物を注入し、加熱乾燥することにより封止材16を形成することに製造できる。
【0064】
また、カップ14に収容された封止材16の上方に、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成されたレンズ状の樹脂(樹脂レンズ20)、または少なくともその一部に凸状部を有するフィルムまたは均一な膜厚を有するフィルムを配置し、樹脂レンズ20から光を放射する構成としてもよい。この場合には、封止材16中に量子ドット蛍光体18を分散させなくてもよい。なお、量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用した場合における当該封止材16の厚みは、0.01mm以上0.4mm未満であることが好ましい。当該封止材16の厚みが0.4mmを超える場合は、カップ14の凹部内の深さにも依存するものの、当該封止材16をカップ14の凹部内に封止する際にリード電極12に接続しているワイヤーに過大な負荷を与えてしまい、好ましくない。また、量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用した場合の、当該封止材16の厚みが、0.01mm未満であると、蛍光体を含む封止材として十分ではない。
【0065】
封止材16中に量子ドット蛍光体18を分散させない場合、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成されたレンズ状の樹脂20(樹脂レンズ20)を配置するのが好ましい。
【0066】
図3は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用した発光装置の例の断面図を示す。
図3は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材に使用しない発光装置の例である。この場合、レンズ状の樹脂(樹脂レンズ20)は、量子ドット蛍光体18を、0.01〜20質量%の濃度範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散させた組成物を成形した量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成される。
【0067】
図4は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物および量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用した発光装置の例の断面図を示す。
図4は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材の一部に使用し、その上部に量子ドット蛍光体分散樹脂成形体からなる樹脂レンズ20を配置した発光装置の例である。この場合においても、いずれの樹脂にも、量子ドット蛍光体18が0.01〜20質量%の濃度範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散されて形成される。
【0068】
また、
図2、
図3および
図4に示された発光装置は、量子ドット蛍光体の消光を抑制でき、発光装置として安定した動作が維持できるため、この発光装置を組み込んだ携帯電話、テレビ、ディスプレイ、パネル類等の電子機器、その電子機器を組み込んだ自動車、コンピュータ、ゲーム機等の機械装置類は、長時間安定した駆動が可能である。
【0069】
[実施形態2]
図5には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物の一例の断面図が示される。
図5において、量子ドット蛍光体を含む構造物は、量子ドット蛍光体18が分散用樹脂中に濃度0.01〜20質量%の範囲で分散されている量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22と、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の全面を被覆し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22への酸素等の透過を低減するガスバリア層(保護シート)24とを含んで構成されている。なお、他の実施形態において、ガスバリア層24は、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の表面の一部を被覆する構成であってもよい(
図6、7参照)。また、ガスバリア層24は、酸素の他、水蒸気の透過を低減できる点から、多層構造体(W)より構成されることが好ましい。
【0070】
ここで、ガスバリア層24とは、量子ドット蛍光体を含む構造物の近傍で発光ダイオード(LED)を2,000時間連続発光させた場合における量子ドット蛍光体18の分光放射エネルギーが初期値の80.0%以上を維持できる程度に量子ドット蛍光体18を酸素等から保護できる層をいう。また、本発明の電子デバイスとしては、2,000時間連続発光させた場合における量子ドット蛍光体18の分光放射エネルギーが初期値の85.0%以上であるものが好ましく、89.0%以上であるものがより好ましく、90.0%以上であるものがさらに好ましい。なお、前記分光放射エネルギーは、量子ドット蛍光体の蛍光波長における放射エネルギーである。分光放射エネルギーは、例えば、大塚電子製量子効率測定装置QE−1000を用いて測定できる。
【0071】
前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22を構成する分散用樹脂には、例えば実施形態1で説明したシクロオレフィン(共)重合体を使用することができる。また、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の製造方法としては、実施形態1において説明した量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法を適用できる。
【0072】
なお、以上の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22およびガスバリア層24を構成する本発明の多層構造体(W)は、いずれも光透過性を有しており、発光ダイオードが発生した光を量子ドット蛍光体18まで、および量子ドット蛍光体18で波長が変換された光を量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の外部まで透過することができる。
【0073】
図6には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物を応用した発光装置の一例の断面図が示される。
図6において、発光装置100は、LEDチップ10、リード電極12、カップ14、量子ドット蛍光体18が分散されている封止材16、量子ドット蛍光体18が分散されていない封止材17及びガスバリア層24を含んで構成されている。
図6の例では、カップ14の蓋として前記ガスバリア層24が使用されている。また、封止材16は、実施形態1で説明した量子ドット蛍光体を含む組成物から成形した前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22により構成されている。前記封止材16及び封止材17は、
図1の場合と同様のものを使用できる。これらの構成要素のうち、量子ドット蛍光体18、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22、ガスバリア層24は上述した通りである。LEDチップ10は限定されないが、量子ドット蛍光体と協働して適宜な波長の光源を構成する発光ダイオードを使用することができる。また、カップ14は、適切な樹脂またはセラミックスにより形成することができる。また、封止材17は、LEDチップ10、リード電極12等を封止する。
【0074】
図7には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物を応用した発光装置の他の例の断面図が示され、
図6と同一要素には同一符号を付している。
図7の例では、カッ14の表面(
図6の蓋の部分を含む)と、カップ14の外に露出しているリード電極12の表面がガスバリア層24により被覆されている。なお、リード電極12の表面は、その一部がガスバリア層24により被覆されずに露出している。これは、例えば実装基板上の電源供給経路との間で電気的に導通をとるためである。本例でも、ガスバリア層24が封止材16の図における上面を被覆している。これにより、酸素等が封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18まで浸透することを回避あるいは低減することができる。また、LEDチップ10からの光の一部は、封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18で他の波長の光に変換された後、LEDチップ10からの光と混合され、ガスバリア層24を透過して外部に取り出される。
【0075】
図6に示された構成では、カップ14の蓋がガスバリア層24で形成されており、封止材16の図における上面を被覆している。これにより、酸素等が封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18まで浸透することを回避あるいは低減することができる。
【0076】
また、以上に述べた量子ドット蛍光体分散樹脂組成物もしくはその成形体または量子ドット蛍光体を含む構造物は、例えば植物育成用照明、有色照明、白色照明、LEDバックライト光源、蛍光体入り液晶フィルター、蛍光体含有樹脂板、育毛機器用光源、通信用光源等に適用することもできる。
【0077】
[多層構造体(W)]
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスに用いる多層構造体(W)は、基材(X)とアルミニウムを含む層(Y)とを含む。層(Y)は、アルミニウムを含む化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」ともいう)とリン化合物(B)との反応生成物(D)を含む。
【0078】
[基材(X)]
基材(X)の材質は、特に制限されず、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;木材;ガラス等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂が好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルムを含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムであることがより好ましい。
【0079】
基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。基材(X)の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、およびナイロン−66からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0080】
熱可塑性樹脂からなるフィルムを基材(X)として用いる場合、基材(X)は延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(印刷、ラミネート等)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0081】
基材(X)が層状である場合、その厚さは、得られる多層構造体の機械的強度および加工性が良好になる観点から、1〜1,000μmが好ましく、5〜500μmがより好ましく、9〜200μmがさらに好ましい。
【0082】
[層(Y)]
層(Y)は、化合物(A)とリン化合物(B)との反応生成物(D)を含む。化合物(A)はアルミニウムを含有する化合物である。リン化合物(B)は、リン原子を含有する官能基を有する。リン化合物(B)は、無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)である。化合物(A)、リン化合物(B)について以下に説明する。
【0083】
[化合物(A)]
化合物(A)は、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)(以下、単に「金属酸化物(Aa)」ともいう)が好ましい。
【0084】
[アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)]
アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)は、通常、粒子の形態でリン化合物(B)(好ましくは、無機リン化合物(BI))と反応させる。
【0085】
アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2〜14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であるが、少なくともアルミニウムを含む。金属原子(M)は、アルミニウム単独であってもよいし、アルミニウムとそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(Aa)として、2種以上の金属酸化物(Aa)を併用してもよい。
【0086】
金属原子(M)に占めるアルミニウムの割合は、通常、50モル%以上であり、60〜100モル%であってもよく、80〜100モル%であってもよい。金属酸化物(Aa)の例には、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法等の方法によって製造された金属酸化物が含まれる。
【0087】
金属酸化物(Aa)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基の例には、後述する一般式〔I〕のR
1が含まれる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(Aa)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(Aa)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(Aa)」と読み替えることもできる。
【0088】
[加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)]
無機リン化合物(BI)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は、下記一般式〔I〕で表される化合物(Ea)を少なくとも1種含むことが好ましい。
Al(R
1)
k(R
2)
3−k 〔I〕
式中、R
1は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜15のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R
2は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基である。kは1〜3の整数である。R
1が複数存在する場合、R
1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R
2が複数存在する場合、R
2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0089】
化合物(E)は、化合物(Ea)に加えて、下記一般式〔II〕で表される化合物(Eb)を少なくとも1種含んでいてもよい。
M
1(R
3)
m(R
4)
n−m 〔II〕
式中、M
1は、アルミニウム以外の金属原子であって周期表の2〜14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子である。R
3は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜15のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基である。mは1〜nの整数である。nはM
1の原子価に等しい。R
3が複数存在する場合、R
3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R
4が複数存在する場合、R
4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0090】
R
1およびR
3のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベンジロキシ基、ジフェニルメトキシ基、トリチルオキシ基、4−メトキシベンジロキシ基、メトキシメトキシ基、1−エトキシエトキシ基、ベンジルオキシメトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシメトキシ基、フェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基等が挙げられる。
【0091】
R
1およびR
3のアシロキシ基としては、例えば、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、tert−ブチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0092】
R
1およびR
3のアルケニルオキシ基としては、例えば、アリルオキシ基、2−プロペニルオキシ基、2−ブテニルオキシ基、1−メチル−2−プロペニルオキシ基、3−ブテニルオキシ基、2−メチル−2−プロペニルオキシ基、2−ペンテニルオキシ基、3−ペンテニルオキシ基、4−ペンテニルオキシ基、1−メチル−3−ブテニルオキシ基、1,2−ジメチル−2−プロペニルオキシ基、1,1−ジメチル−2−プロペニルオキシ基、2−メチル−2−ブテニルオキシ基、3−メチル−2−ブテニルオキシ基、2−メチル−3−ブテニルオキシ基、3−メチル−3−ブテニルオキシ基、1−ビニル−2−プロペニルオキシ基、5−ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0093】
R
1およびR
3のβ−ジケトナト基としては、例えば、2,4−ペンタンジオナト基、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオナト基、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナト基、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト基、1,3−ブタンジオナト基、2−メチル−1,3−ブタンジオナト基、2−メチル−1,3−ブタンジオナト基、ベンゾイルアセトナト基等が挙げられる。
【0094】
R
1およびR
3のジアシルメチル基のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等の炭素数1〜6の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等の芳香族アシル基(アロイル基)等が挙げられる。
【0095】
R
2およびR
4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0096】
R
2およびR
4のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基(フェネチル基)等が挙げられる。
【0097】
R
2およびR
4のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−エチル−1−エテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、3−メチル−2−ブテニル基、4−ペンテニル基等が挙げられる。
【0098】
R
2およびR
4のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
【0099】
R
1、R
2、R
3およびR
4における置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1〜6のアシル基;炭素数7〜10のアラルキル基;炭素数7〜10のアラルキルオキシ基;炭素数1〜6の炭素数1〜6のアルキルアミノ基;炭素数1〜6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0100】
R
1およびR
3としては、ハロゲン原子、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜6のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜10のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアシル基を有するジアシルメチル基が好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましい。
【0101】
R
2およびR
4としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。式〔I〕のkは、好ましくは3である。
【0102】
M
1としては、周期表の4族に属する金属原子が好ましく、チタン、ジルコニウムがより好ましい。M
1が周期表の4族に属する金属原子の場合、式〔II〕のmは好ましくは4である。
【0103】
なお、ホウ素およびケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではこれらを金属に含めるものとする。
【0104】
化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ−sec−ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)として、2種以上の化合物(Ea)を併用してもよい。
【0105】
化合物(Eb)としては、例えば、テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)チタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン等のチタン化合物;テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上の化合物(Eb)を併用してもよい。
【0106】
化合物(E)において、本発明の効果が得られる限り、化合物(E)に占める化合物(Ea)の割合に特に限定はない。化合物(Ea)以外の化合物(例えば、化合物(Eb))が化合物(E)に占める割合は、例えば、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%であってもよい。
【0107】
化合物(E)が加水分解されることによって、化合物(E)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に変換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(Aa)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0108】
本明細書においては、[金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数]の比が0.8以上である化合物を金属酸化物(Aa)に含めるものとする。ここで、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)は、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)であり、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外される。金属酸化物(Aa)における前記比は、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。この比の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0109】
前記加水分解縮合が起こるためには、化合物(E)が加水分解可能な特性基を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないもしくは極めて緩慢となるため、目的とする金属酸化物(Aa)の調製が困難になる。
【0110】
化合物(E)の加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法によって特定の原料から製造してもよい。該原料には、化合物(E)、化合物(E)の部分加水分解物、化合物(E)の完全加水分解物、化合物(E)が部分的に加水分解縮合してなる化合物、および化合物(E)の完全加水分解物の一部が縮合してなる化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0111】
無機リン化合物(BI)含有物(無機リン化合物(BI)、または、無機リン化合物(BI)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(Aa)は、リン原子を実質的に含有しないことが好ましい。
【0112】
[リン化合物(B)]
リン化合物(B)は、リン原子を含有する官能基を有する。リン化合物(B)は、無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)であり、無機リン化合物(BI)が好ましい。
【0113】
[無機リン化合物(BI)]
無機リン化合物(BI)は、金属酸化物(Aa)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。無機リン化合物(BI)としては、そのような部位(原子団または官能基)を2〜20個含有する化合物が好ましい。そのような部位の例には、金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれる。そのような部位としては、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0114】
無機リン化合物(BI)としては、例えば、リン酸、二リン酸、三リン酸、4分子以上のリン酸が縮合したポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等のリンのオキソ酸、およびこれらの塩(例えば、リン酸ナトリウム)、ならびにこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物(例えば、塩化ホスホリル)、脱水物(例えば、五酸化二リン))等が挙げられる。
【0115】
これらの無機リン化合物(BI)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの無機リン化合物(BI)の中でも、リン酸を単独で使用するか、リン酸とそれ以外の無機リン化合物(BI)とを併用することが好ましい。リン酸を用いることによって、後述するコーティング液(S)の安定性と得られる多層構造体(W)のガスバリア性が向上する。リン酸とそれ以外の無機リン化合物(BI)とを併用する場合、無機リン化合物(BI)の50モル%以上がリン酸であることが好ましい。
【0116】
[有機リン化合物(BO)]
有機リン化合物(BO)が有するリン原子を含む官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらから誘導される官能基(例えば、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等を挙げることができ、中でもリン酸基およびホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。
【0117】
有機リン化合物(BO)は前記リン原子を含む官能基を有する、重合体(BOa)であることが好ましい。該重合体(BOa)としては、例えば、アクリル酸6−[(2−ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシル、メタクリル酸2−ホスホノオキシエチル、メタクリル酸ホスホノメチル、メタクリル酸11−ホスホノウンデシル、メタクリル酸1,1−ジホスホノエチル等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体;ビニルホスホン酸、2−プロペン−1−ホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸等のビニルホスホン酸類の重合体;ビニルホスフィン酸、4−ビニルベンジルホスフィン酸等のビニルホスフィン酸類の重合体;リン酸化デンプン等が挙げられる。重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよい。また、重合体(BOa)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上併用してもよい。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体およびビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましい。すなわち、重合体(BOa)としては、ポリ(ビニルホスホン酸)が好ましい。また、重合体(BOa)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物あるいはビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することによっても得ることができる。
【0118】
また、前記重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。リン原子を含む官能基を有する単量体と共重合することができる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロアルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイミド、フェニルマレイミド等が挙げられ、中でも(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン、マレイミド、およびフェニルマレイミドが好ましい。
【0119】
より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン原子を含む官能基を有する単量体に由来する構成単位が重合体(BOa)の全構成単位に占める割合は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上が特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0120】
前記重合体(BOa)の分子量に特に制限はないが、数平均分子量が1,000〜100,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると、層(Y)を積層することによる耐屈曲性の改善効果と、後述するコーティング液(T)の粘度安定性とを、高いレベルで両立することができる。
【0121】
多層構造体(W)の層(Y)において、無機リン化合物(BI)を含む場合、層(Y)における無機リン化合物(BI)の質量W
BIと有機リン化合物(BO)の質量W
BOの比W
BO/W
BIが0.01/99.99≦W
BO/W
BI<6.00/94.00の関係を満たすものが好ましく、バリア性能に優れる点から、0.10/99.90≦W
BO/W
BI<4.50/95.50の関係を満たすものがより好ましく、0.20/99.80≦W
BO/W
BI<4.00/96.00の関係を満たすものがさらに好ましく、0.50/99.50≦W
BO/W
BI<3.50/96.50の関係を満たすものが特に好ましい。すなわち、W
BOは0.01以上6.00未満の微量であるのに対して、W
BIは94.00より多く99.99以下という多量に用いるのが好ましい。なお、層(Y)において無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)が反応している場合でも、反応生成物を構成する無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の部分を無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の質量(反応前の無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の質量)、を層(Y)中の無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の質量に含める。
【0122】
[反応生成物(D)]
反応生成物(D)は、アルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)との反応で得られる。アルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することで生成する化合物も反応生成物(D)に含まれる。反応生成物(D)としては、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物(Da)、アルミニウムを含む化合物(A)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(Db)、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(Dc)が好ましく、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(Dc)がより好ましい。
【0123】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,080〜1,130cm
−1の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(Aa)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM−O−Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外線吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M−O−Pの結合に基づく特性吸収帯が1,080〜1,130cm
−1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800〜1,400cm
−1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。
【0124】
これに対し、金属アルコキシドあるいは金属塩等の金属化合物と無機リン化合物(BI)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られる。その場合、赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数が1,080〜1,130cm
−1の範囲から外れるようになる。
【0125】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm
−1以下が好ましく、150cm
−1以下がより好ましく、100cm
−1以下がさらに好ましく、50cm
−1以下が特に好ましい。
【0126】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルは実施例に記載の方法で測定できる。ただし、実施例に記載の方法で測定できない場合には、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法等の反射測定、多層構造体から層(Y)をかきとり、ヌジョール法、錠剤法等の透過測定という方法で測定してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0127】
また、層(Y)は、反応に関与していない金属酸化物(Aa)および/または無機リン化合物(BI)を部分的に含んでいてもよい。
【0128】
層(Y)において、金属酸化物(Aa)を構成する金属原子と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子とのモル比は、[金属酸化物(Aa)を構成する金属原子]:[無機リン化合物(BI)に由来するリン原子]=1.0:1.0〜3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0〜3.0:1.0の範囲にあることがより好ましい。この範囲外ではガスバリア性能が低下する。層(Y)における該モル比は、層(Y)を形成するためのコーティング液における金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)との混合比率によって調整できる。層(Y)における該モル比は、通常、コーティング液における比と同じである。
【0129】
反応生成物(D)の平均粒子径は、5nm以上50nm以下である。平均粒子径の上限は40nm以下であることが好ましく、35nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径の下限は15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。反応生成物(D)の平均粒子径としては、15nm以上40nm以下がより好ましく、20nm以上35nm以下であることがさらに好ましい。粒径が5nm未満の場合、ダンプヒート後のバリア性能が低下することがある。また、粒径が50nmよりも大きいときは、十分なバリア性能が得られず、全光線透過率あるいはヘイズが低下する。反応生成物(D)の平均粒子径の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0130】
反応生成物(D)の平均粒子径は、反応に使用する溶液の濃度、コーティング液の粘度、温度条件(反応温度、乾燥温度、熱処理温度等)、化合物(A)とリン化合物(B)の混合比率(アルミニウム原子とリン原子とのモル比等)等を変更するもしくは適宜組み合わせることで制御することができる。
【0131】
また、層(Y)の前駆体層の反応生成物(D)前駆体の平均粒子径は、5nm未満が好ましく、より厳しいレトルト処理後でも優れたバリア性能を示す点から、4nm未満がより好ましく、3nm未満がさらに好ましい。乾燥処理後の層(Y)の前駆体層の反応生成物(D)前駆体の平均粒子径が前記範囲にあることで、得られる層(Y)における反応生成物(D)の平均粒子径が小さくなり、より優れたバリア性能が得られる。また、反応生成物(D)前駆体の平均粒子径の下限に特に制限はないが、例えば、0.1nm以上であってもよく、1nm以上であってもよい。なお、反応生成物(D)前駆体の平均粒子径の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0132】
[層(Z)]
多層構造体(W)は、層(Z)をさらに含んでもよい。層(Z)は、リン原子を含む官能基を有する重合体(BOa)を含む。層(Z)は、層(Y)に隣接して配置されることが好ましい。すなわち、層(Z)と層(Y)は、互いに接触するように配置されることが好ましい。また、層(Z)は、層(Y)を挟んで基材(X)と反対側(好ましくは反対側の表面)に配置されることが好ましい。換言すれば、基材(X)/層(Y)/層(Z)の順に配置されることが好ましい。好ましい一例では、層(Z)が、層(Y)を挟んで基材(X)と反対側(好ましくは反対側の表面)に配置され、かつ、層(Y)に隣接して配置される。層(Z)は、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する重合体(F)をさらに含んでもよい。層(Z)における重合体(BOa)の種類、量等は、層(Y)のにおけるものと使用できる。
【0133】
層(Z)は、重合体(BOa)のみによって構成されてもよいし、重合体(BOa)および重合体(F)のみによって構成されてもよいし、他の成分をさらに含んでもよい。層(Z)に含まれる他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;酢酸塩、ステアリン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(BOa)および重合体(F)以外の高分子化合物:可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。層(Z)における前記の他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。層(Z)は、アルミニウムを含む化合物(A)、リン化合物(B)、およびアルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)との反応生成物(D)のうちの少なくとも1つを含まない。典型的には、層(Z)は、少なくとも金属酸化物(Aa)を含まない。
【0134】
[無機蒸着層、化合物(Ac)、化合物(Ad)]
多層構造体(W)は、さらに無機蒸着層を含んでもよい。無機蒸着層は、無機物を蒸着することによって形成することができる。無機物としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層は、酸素あるいは水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。本発明の多層構造体(W)中の層(Y)は、アルミニウムを含有する無機蒸着層を含んでいてもよい。例えば、層(Y)は、アルミニウムの蒸着層(Ac)および/または酸化アルミニウムの蒸着層(Ad)を含んでいてもよい。
【0135】
無機蒸着層の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法、熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、有機金属気相成長法等の化学気相成長法を用いることができる。
【0136】
無機蒸着層の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002〜0.5μmが好ましく、0.005〜0.2μmがより好ましく、0.01〜0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性あるいは機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが0.002μm未満であると、酸素あるいは水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。
【0137】
多層構造体(W)に含まれる層(Y)は、アルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)との反応生成物(D)のみによって構成されていてもよく;アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物(Da)のみによって構成されていてもよく;アルミニウムを含む化合物(A)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(Db)のみによって構成されていてもよく;アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(Dc)のみによって構成されていてもよい。また、前記したいずれの態様においても、層(Y)は他の成分をさらに含むことができる。他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;有機リン化合物(BO)以外の重合体(F);可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Y)における前記他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0138】
[重合体(F)]
重合体(F)は、例えば、エーテル結合、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体(Fa)であってもよい。
【0139】
重合体(Fa)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレングリコール系重合体;ポリケトン;ポリビニルアルコール、炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜50モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)等のポリビニルアルコール系重合体;セルロース、デンプン、シクロデキストリン等の多糖類;ポリ(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン−アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル酸系重合体;エチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物、スチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体の加水分解物等のマレイン酸系重合体等が挙げられる。一方で、高い透明性を有する層(Y)を得るためには、少なくともポリビニルアルコール系重合体を含まないことが好ましい。
【0140】
重合体(Fa)は、重合性基を有する単量体(例えば、酢酸ビニル、アクリル酸)の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよいし、水酸基および/またはカルボキシル基を有する単量体と該基を有さない単量体との共重合体であってもよい。なお、重合体(Fa)として、2種以上の重合体(Fa)を併用してもよい。
【0141】
重合体(Fa)の分子量は特に制限されないが、より優れたガスバリア性および機械的強度を有する多層構造体を得るために、重合体(Fa)の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(Fa)の重量平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
【0142】
多層構造体の外観を良好に保つ観点から、層(Y)における重合体(Fa)の含有量は、層(Y)の質量を基準(100質量%)として、85質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。重合体(Fa)は、層(Y)中の成分と反応していてもよく、反応していなくてもよい。
【0143】
層(Y)の厚さ(多層構造体(W)が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05〜4.0μmが好ましく、0.1〜2.0μmがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。また、多層構造体の柔軟性が増すため、その力学的特性を基材自体の力学的特性に近づけることもできる。多層構造体(W)が2層以上の層(Y)を有する場合、ガスバリア性の観点から、層(Y)1層当たりの厚さは0.05μm以上であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(S)の濃度あるいはその塗工方法によって制御できる。
【0144】
層(Y)の厚さは、多層構造体(W)の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することによって測定できる。
【0145】
[多層構造体(W)の製造方法]
多層構造体(W)について説明した事項は多層構造体(W)の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、多層構造体(W)の製造方法について説明した事項は、多層構造体(W)に適用できる。
【0146】
本発明の多層構造体(W)の製造方法としては、例えば、アルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)と溶媒とを含むコーティング液(S)(第1コーティング液)を基材(X)上に塗工して、反応生成物(D)前駆体を含む層(Y)の前駆体層を形成する工程(I)、および層(Y)の前駆体層を140℃以上の温度で熱処理することによって、反応生成物(D)を含む層(Y)の形成工程(II)を含む製造方法が挙げられる。また、前記製造方法は、工程(I)に用いるコーティング液(S)に有機リン化合物(BO)を含んでいてもよく、工程(I)に用いるコーティング液(S)に有機リン化合物(BO)を含まない場合に、有機リン化合物(BO)含有コーティング液(T)を工程(II)で得られた層(Y)表面に塗工する工程(I’)を含んでいてもよい。なお、化合物(A)、無機リン化合物(BI)、有機リン化合物(BO)、およびそれらの質量比については上述したため、製造方法においては重複する説明を省略する。
【0147】
[工程(I)]
工程(I)では、アルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)と溶媒とを含むコーティング液(S)(第1コーティング液)を基材(X)上に塗工することによって基材(X)上に反応生成物(D)前駆体を含む層(Y)の前駆体層を形成する。コーティング液(S)は、アルミニウムを含む化合物(A)、リン化合物(B)および溶媒を混合することによって得られる。層(Y)が、アルミニウムの蒸着層(Ac)または酸化アルミニウムの蒸着層(Ad)を含む場合には、それらの層は上述した一般的な蒸着法によって形成できる。以下、好適な実施態様として、金属酸化物(Aa)、無機リン化合物(BI)、および溶媒を用いる態様を用いて説明する。
【0148】
好適な実施態様として、コーティング液(S)は、金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)と溶媒とを溶媒中で混合して反応させることによって調製できる。具体的に、コーティング液(S)は、金属酸化物(Aa)の分散液と、無機リン化合物(BI)を含む溶液とを混合する方法;金属酸化物(Aa)の分散液に無機リン化合物(BI)を添加し、混合する方法等によって調製できる。これらの混合時の温度は、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。コーティング液(S)は、他の化合物(例えば、重合体(F)(好ましくはポリビニルアルコール系重合体を除く))を含んでいてもよく、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(Q)を含んでいてもよい。
【0149】
金属酸化物(Aa)の分散液は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法に従い、例えば、化合物(E)、水、および必要に応じて酸触媒もしくは有機溶媒を混合し、化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって調製することができる。化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって金属酸化物(Aa)の分散液を得た場合、必要に応じて、得られた分散液に対して特定の処理(前記酸化合物(Q)の存在下の解膠等)を行ってもよい。使用する溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0150】
無機リン化合物(BI)を含む溶液は、無機リン化合物(BI)を溶媒に溶解させて調製できる。溶媒としては、無機リン化合物(BI)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。無機リン化合物(BI)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール類)を含んでいてもよい。
【0151】
コーティング液(S)の固形分濃度は、該コーティング液の保存安定性および基材(X)に対する塗工性の観点から、1〜20質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましく、3〜10質量%がさらに好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(S)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(S)の質量で除して算出することができる。
【0152】
コーティング液(S)は、ブルックフィールド形回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗工時の温度において3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,500mPa・s以下であることがより好ましく、2,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3,000mPa・s以下であることによって、コーティング液(S)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。また、コーティング液(S)の粘度としては、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましい。
【0153】
コーティング液(S)において、所定の反応生成物(D)の平均粒子径を得る点から、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.01:1.00〜1.50:1.00が好ましく、1.05:1.00〜1.45:1.00がより好ましい。アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、コーティング液(S)の乾固物の蛍光X線分析を行い、算出することができる。
【0154】
コーティング液(S)は、基材(X)の少なくとも一方の面の上に直接塗工してもよいし、他の層(J)を介して基材(X)上に塗工してもよい。また、コーティング液(S)を塗工する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工したりすることによって、基材(X)の表面に接着層(G)を形成しておいてもよい。
【0155】
コーティング液(S)の塗工は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0156】
通常、工程(I)において、コーティング液(S)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。乾燥後の溶媒含有率および反応生成物(D)前駆体の平均粒子径が特定範囲にあることが、得られる多層構造体がダンプヒート処理後においても優れたガスバリア性を有するために肝要である。
【0157】
乾燥処理後の層(Y)の前駆体層の溶媒含有率は、0.4wt%以下であり、より厳しいダンプヒート処理条件下でも優れたバリア性能を示す点から、0.3wt%以下が好ましい。乾燥処理後の溶媒含有率が前記範囲より大きいと、続く熱処理工程(II)において反応生成物(D)前駆体の粒子サイズが増大しやすくなるため、得られる層(Y)における反応生成物(D)の平均粒子径が大きくなり、十分なバリア性能が得られないことがある。溶媒含有率の下限に特に制限はないが、製造コストの観点から通常0.01wt%以上であることが好ましい。溶媒含有率の測定方法は、後述する実施例におけるメタノールおよび水分の含有率の測定方法を利用できる。
【0158】
乾燥処理後の反応生成物(D)前駆体の平均粒子径は、5nm未満であり、より厳しいダンプヒート処理条件下でも優れたバリア性能を示す点から、4nm未満が好ましく、3nm未満がより好ましい。乾燥処理後の反応生成物(D)前駆体の平均粒子径が前記範囲より大きいと、得られる層(Y)における反応生成物(D)の平均粒子径が大きくなり、十分なバリア性能が得られないことがある。反応生成物(D)前駆体の平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、0.1nmであってもよく、1nmであってもよい。なお、反応生成物(D)前駆体の平均粒子径の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0159】
また、層(Y)前駆体の赤外線吸収スペクトルにおいて、1,080〜1,130cm
−1の範囲における吸光度の極大値A
Rと850〜950cm
−1の範囲における吸光度の極大値A
Pとの比A
R/A
Pが2.0以下であることが好ましく、1.4以下がより好ましい。1,080〜1,130cm
−1の範囲における吸光度の極大値A
Rは上述したようにM−O−Pの結合に基づき、850〜950cm
−1の範囲における吸光度の極大値A
PはM−O−Mの結合に基づく。すなわち前記比A
R/A
Pはアルミニウムを含む金属酸化物(Aa)の反応生成物(D)への反応率を表す指標と考えることが可能である。本発明では、乾燥工程後の層(Y)前駆体において、金属酸化物(Aa)の反応生成物(D)への反応が一定量以下に抑えられていることが、良好なバリア性能を有する多層構造体を得るために効果的であると考えられる。したがって、比A
R/A
Pが前記範囲より大きいと、得られる多層構造体のバリア性能が不十分となることがある。
【0160】
前記溶媒含有率および反応生成物(D)前駆体の平均粒子径を満たすためには、コーティング液(S)の塗工後の乾燥温度は、例えば、140℃未満が好ましく、60℃以上140℃未満が好ましく、70℃以上130℃未満がより好ましく、80℃以上120℃未満がさらに好ましい。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、1秒以上1時間未満が好ましく、5秒以上15分未満がより好ましく、5秒以上300秒未満がさらに好ましい。特に、乾燥温度が100℃以上の場合(例えば、100〜140℃)は、乾燥時間は1秒以上4分未満が好ましく、5秒以上4分未満がより好ましく、5秒以上3分未満がさらに好ましい。乾燥温度が100℃を下回る場合は(例えば、60〜99℃)、乾燥時間は3分以上1時間未満が好ましく、6分以上30分未満がより好ましく、8分以上25分未満がさらに好ましい。
【0161】
[工程(II)]
工程(II)では、工程(I)で形成された層(Y)の前駆体層を、140℃以上の温度で熱処理することによって層(Y)を形成する。本発明では、上述した特定の溶媒含有率および平均粒子径を有する層(Y)前駆体を140℃以上の温度で熱処理することが、より優れたバリア性能を得るために重要である。工程(II)の熱処理温度は、工程(I)の乾燥温度よりも高いことが好ましい。
【0162】
工程(II)では、反応生成物(D)が生成する反応が進行する。該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、140℃以上であり、170℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応率を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度は、基材(X)の種類等によって異なるため、特に限定されないが、270℃以下であってもよい。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は270℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は240℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等で実施してもよい。熱処理時間は、1秒〜1時間が好ましく、1秒〜15分がより好ましく、5〜300秒がさらに好ましい。
【0163】
熱処理は、前記溶媒含有率および反応生成物(D)前駆体の平均粒子径を満たすために、処理温度を変化させて2段階以上で行うことが好ましい。すなわち、工程(II)は、第1熱処理工程(II−1)と第2熱処理工程(II−2)を含むことが好ましい。熱処理を2段階以上で行う場合、2段階目の熱処理(以下、第2熱処理)の温度は、1段階目の熱処理(以下、第1熱処理)の温度より高いことが好ましく、第1熱処理の温度より15℃以上高いことがより好ましく、25℃以上高いことがさらに好ましく、35℃以上高いことが特に好ましい。
【0164】
また、工程(II)の熱処理温度(2段階以上の熱処理の場合は、第1熱処理温度)は、良好な特性を有する多層構造体が得られる点から、工程(I)の乾燥温度より30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、55℃以上高いことがさらに好ましく、60℃以上高いことが特に好ましい。
【0165】
工程(II)の熱処理を2段階以上で行う場合、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より高く、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であり、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下であることが好ましく、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より15℃以上高く、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であり、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下であることがより好ましく、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より25℃以上高く、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であり、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下であることがさらに好ましい。特に、各熱処理温度が200℃以上の場合、各熱処理時間は、0.1秒〜10分が好ましく、0.5秒〜15分がより好ましく、1秒〜3分がさらに好ましい。各熱処理温度が200℃を下回る場合は、各熱処理時間は、1秒〜15分が好ましく、5秒〜10分がより好ましく、10秒〜5分がさらに好ましい。
【0166】
[工程(I’)]
前記製造方法において有機リン化合物(BO)を用いる場合、工程(I’)として、有機リン化合物(BO)および溶媒を混合することによって得たコーティング液(T)(第2コーティング液)を工程(II)で得た層(Y)上に塗工してもよい。工程(I’)では、有機リン化合物(BO)および溶媒を混合することによって得たコーティング液(T)(第2コーティング液)を工程(II)の第1熱処理工程(II−1)後の層(Y)上に塗工した後に続いて工程(II)の第2熱処理工程(II−2)に供することが好ましい。
【0167】
コーティング液(T)に用いられる溶媒は、有機リン化合物(BO)の種類に応じて適宜選択すればよいが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはそれらの混合溶媒であることが好ましい。有機リン化合物(BO)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホラン等を含んでもよい。
【0168】
コーティング液(T)における固形分の濃度は、溶液の保存安定性あるいは塗工性の観点から、0.01〜60質量%が好ましく、0.1〜50質量%がより好ましく、0.2〜40質量%がさらに好ましい。固形分濃度は、コーティング液(S)に関して記載した方法と同様の方法によって求めることができる。また、本発明の効果が得られる限り、コーティング液(T)は、上述した層(Y)に含まれる他の成分(例えば、重合体(F))を含んでもよい。
【0169】
コーティング液(S)の塗工と同様に、コーティング液(T)を塗工する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。コーティング液(T)を塗工した後、溶媒を除去する。コーティング液(T)の溶媒の除去方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を適用することができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度以下であることが好ましい。コーティング液(T)の塗工後の乾燥温度は、例えば、90〜240℃程度であってもよく、100〜200℃が好ましい。
【0170】
工程(II)は工程(I)に連続する、または加熱温度を段階的に変更することができる同一の加熱設備を用いることができる。さらに、工程(II)は工程(I’)に先んじることができる。
【0171】
本発明の多層構造体(W)の製造方法の好ましい一態様では、工程(I)でコーティング液(S)の塗工後に、乾燥処理を行って層(Y)の前駆体層を形成し、さらに工程(II)の熱処理を行う。このとき、熱処理の温度が乾燥処理の温度より30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましい。
【0172】
前記製造方法が工程(I’)を含む場合、本発明の多層構造体(W)の製造方法の他の好ましい一態様では、工程(I)のコーティング液(S)を塗工し、乾燥処理を行って層(Y)の前駆体層を形成した後、工程(II)の第1熱処理工程(II−1)を行う。続いて工程(I’)のコーティング液(T)を塗工し、乾燥処理を行った後、さらに工程(II)の第2熱処理工程(II−2)を行う。このとき、第1熱処理の温度が工程(I)の乾燥処理の温度より30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましい。また、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より高いことが好ましい。
【0173】
本発明の多層構造体(W)において、層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されたものであってもよく、層(Y)が他の部材(例えば、接着層(G)、他の層(J))を介して基材(X)に積層されたものであってもよい。
【0174】
[押出しコートラミネート]
多層構造体(W)は、例えば、基材(X)に直接または接着層(G)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに他の層(J)を直接または接着層(G)を介して押出しコートラミネート法により形成することによって、押出しコートラミネートにより形成された層をさらに有することができる。本発明で用いることができる押出しコートラミネート法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。典型的な押出しコートラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに送り、Tダイのフラットスリットから取り出した熱可塑性樹脂を冷却することによって、ラミネートフィルムが製造される。
【0175】
押出しコートラミネート法としては、例えば、シングルラミネート法、サンドイッチラミネート法、タンデムラミネート法等が挙げられる。本発明の多層構造体(W)を含む積層体を用いることによって、押出しコートラミネート後も高いバリア性能を維持し、かつ光の透過性の低下を小さくすることができる。
【0176】
[接着層(G)]
多層構造体(W)において、接着層(G)を用いて、基材(X)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(G)は、接着性樹脂から構成されていてもよい。接着性樹脂から構成される接着層(G)は、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工することによって形成できる。該接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる2液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤または接着剤に、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。基材(X)と層(Y)とを接着層(G)を介して強く接着することによって、多層構造体(W)に対して印刷あるいはラミネート等の加工を施す際に、ガスバリア性または外観の悪化をより効果的に抑制することができる。接着層(G)の厚さは0.01〜10.0μmが好ましく、0.03〜5.0μmがより好ましい。
【0177】
[他の層(J)]
多層構造体(W)は、様々な特性(例えば、ヒートシール性、バリア性、力学物性)を向上させるために、他の層(J)を含んでもよい。このような多層構造体(W)は、例えば、基材(X)に直接または接着層(G)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに該他の層(J)を直接または接着層(G)を介して接着または形成することによって製造できる。他の層(J)としては、例えば、インク層;ポリオレフィン層、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層等の熱可塑性樹脂層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0178】
多層構造体(W)は、商品名または絵柄等を印刷するためのインク層を含んでもよい。このような多層構造体(W)は、例えば、基材(X)に直接または接着層(G)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに該インク層を直接形成することによって製造できる。インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂もしくはその他の樹脂を主剤とするインクあるいは電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。層(Y)へのインク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法が挙げられる。インク層の厚さは0.5〜10.0μmが好ましく、1.0〜4.0μmがより好ましい。
【0179】
多層構造体(W)において、層(Y)中に重合体(Fa)を含む場合は、接着層(G)または他の層(J)(例えば、インク層)との親和性が高いエーテル結合、カルボニル基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有しているため、層(Y)とその他の層(J)との密着性が向上する。このため、ダンプヒート処理後も層間接着力を維持することができ、デラミネーション等の外観不良を抑制することが可能となる。
【0180】
本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性、力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお、各層の間には必要に応じて、アンカーコート層または接着剤からなる層を設けてもよい。
【0181】
[多層構造体(W)の構成]
多層構造体(W)の構成の具体例を以下に示す。多層構造体(W)は基材(X)、層(Y)以外の他の部材(例えば、接着層(G)、他の層(J))を有していてもよいが、以下の具体例において、他の部材の記載は省略している。また、以下具体例を複数層積層したり組み合わせたりしてもよい。
(1)層(Y)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)、
(3)層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)、
(5)層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)、
(7)層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)、
(9)層(Y)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(10)層(Y)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(11)層(Y)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(12)層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層
【0182】
本発明の電子デバイスの保護シートとして用いられる多層構造体(W)および電子デバイスは、ディスプレイ、太陽電池等への応用の観点から全光線透過率が86.5%以上であるものが好ましく、90.0%以上であるものがより好ましい。また、多層構造体(W)および電子デバイスは、ヘイズが3.0以下であるものが好ましい。光線透過率およびヘイズの測定方法および測定条件は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0183】
本発明の多層構造体(W)および保護シートとしては、ダンプヒート処理前およびダンプヒート処理後において、20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が0.7mL/(m
2・day・atm)以下であり、0.5mL/(m
2・day・atm)以下であるものが好ましく、0.3mL/(m
2・day・atm)以下であるものがより好ましく、0.1mL/(m
2・day・atm)以下であるものがさらに好ましい。酸素透過度の低い多層構造体(W)および保護シートを用いることで、実使用時に量子ドット蛍光体の量子効率低下が抑制され、かつ大気下での長期的な使用時も性能保持率の高い量子ドット蛍光体を含有する電子デバイスを提供することができる。ダンプヒート処理の条件、酸素透過度の測定方法および測定条件は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0184】
本発明の多層構造体(W)および保護シートとしては、ダンプヒート試験前およびダンプヒート試験後において、40℃、90%RHの条件下における透湿度が1.0g/(m
2・day)以下であり、0.5g/(m
2・day)以下であるものが好ましく、0.3g/(m
2・day)以下であるものがより好ましく、0.2g/(m
2・day)以下であるものがさらに好ましい。透湿度の低い多層構造体(W)および保護シートを用いることで、実使用時に量子ドット蛍光体の量子効率低下が抑制され、かつ大気下での長期的な使用時も性能保持率の高い量子ドット蛍光体を含有する電子デバイスを提供することができる。ダンプヒート試験の条件、透湿度の測定方法および測定条件は、後述する実施例に記載のとおりである。
【実施例】
【0185】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0186】
(1)赤外線吸収スペクトルの測定
フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One
測定モード:減衰全反射法
測定領域:800〜1,400cm
−1【0187】
(2)各層の厚さ測定
収束イオンビーム(FIB)を用いて多層構造体を切削し、断面観察用の切片を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM−2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
【0188】
(3)平均粒子径の測定
超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡を用いて測定を行い、反応生成物(D)の粒子の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(100個以上)の平均粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製Mac−View Ver.4)を用いて算出した。このとき、粒子の粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。測定条件は以下の通りとした。
装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製SU8010
加速電圧:0.5kV
倍率:100,000倍
【0189】
(4)メタノール含有率の測定
コーティング液(S−1)の塗工、乾燥後の多層構造体を短冊状に切り、ヘッドスペースGC−MSを測定した結果、水のみが検出されメタノールは検出されなかった(検出下限5ppm)。測定条件は以下の通りとした。
装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製COMBI PAL PolarisQ TraceGC
ヘッドスペース温度:100℃
カラム温度:40℃で5分間保持した後、5℃/分で140℃まで昇温して10分間保持
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:1.0mL/分
【0190】
(5)水分含有率の測定
コーティング液(S−1)の塗工、乾燥後の多層構造体を短冊状に切り、カールフィッシャー水分率計にて含水率を測定した。同加熱条件(温度、時間)で処理した基材の水分率を同様に測定し、差し引くことによって層(Y)前駆体の水分率を求めた。測定条件は以下の通りとした。
装置:三菱化成株式会社製CA−06型
温度:100℃
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:0.2L/分
滴定法:電量滴定法
【0191】
(6)酸素透過度の測定
酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロールズ社製MOCON OX−TRAN2/20
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0192】
(7)透湿度の測定
水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロールズ社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH
【0193】
(8)全光線透過率およびヘイズの測定
全光線透過率およびヘイズの測定は、ヘイズメーターを用いて測定した。
装置:村上色彩技術研究所社製 HR−100
条件:ISO13468−1に準拠
【0194】
<コーティング液(S−1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を攪拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加え、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で攪拌を続け、目的のコーティング液(S−1)を得た。該コーティング液(S−1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。
【0195】
<有機リン化合物(BO−1)の合成例>
窒素雰囲気下、ビニルホスホン酸10gおよび2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩0.025gを水5gに溶解させ、80℃で3時間攪拌した。冷却後、重合溶液に水15gを加えて希釈し、セルロース膜であるスペクトラムラボラトリーズ社製の「Spectra/Por」(登録商標)を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(BO−1)を得た。重合体(BO−1)は、ポリ(ビニルホスホン酸)である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で10,000であった。
【0196】
<コーティング液(T−1)の製造例>
前記合成例で得た有機リン化合物(BO−1)を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T−1)を得た。
【0197】
<コーティング液(T−2)の製造例>
前記合成例で得た有機リン化合物(BO−1)を91質量%、重合体(F)として重量平均分子量100,000のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124)を9質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T−2)を得た。
【0198】
<コーティング液(T−3)の製造例>
前記合成例で得た有機リン化合物(BO−1)を91質量%、重合体(F)として重量平均分子量60,000のポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製「アルコックス(登録商標)L−6」)を9質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T−3)を得た。
【0199】
<実施例1−1>
まず、基材(X)として、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである東レ株式会社製の「ルミラー(登録商標) P60」(厚さ12μm)(以下、「X−1」と略称することがある)を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.30μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S−1)を塗工した。塗工後のフィルムを、80℃で10分間乾燥することによって、基材上に層(Y−1)の前駆体を形成した。このようにして、基材(X−1)/層(Y−1)前駆体という構造を有する構造体を得た。得られた構造体の層(Y)前駆体の赤外線吸収スペクトル、反応生成物(D)前駆体の平均粒子径、および溶媒(メタノールおよび水分の合計量)含有率を前記の方法で測定した。続いて、180℃で3分間熱処理した後、220℃で10秒間熱処理することによって層(Y−1)を形成した。このようにして、基材(X−1)/層(Y−1)という構造を有する多層構造体(W1−1)を得た。
【0200】
層(Y−1)前駆体における反応生成物(D)前駆体の平均粒子径、溶媒含有率およびA
R/A
P、並びに層(Y−1)における反応生成物(D)の平均粒子径を表1に示す。また、多層構造体(W1−1)の層(Y−1)前駆体のSEM写真を
図8に示し、層(Y−1)のSEM写真を
図9に示し、両者の赤外線吸収スペクトルの測定結果を
図10に示す。
【0201】
得られた多層構造体(W1−1)上に接着層を形成し、該接着層上にアクリル樹脂フィルム(厚さ50μm、住友化学株式会社製の「テクノロイ」(登録商標))をラミネートすることによって積層体を得た。続いて、該積層体の多層構造体(W1−1)上に接着層を形成した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムとラミネートした。このようにして、ポリエチレンテレフタレートフィルム/接着層/基材(X−1)/層(Y−1)/接着層/アクリル樹脂フィルム、という構成を有する保護シート(1−1)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A−1102」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A−3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。ポリエチレンテレフタレートフィルムには、エチレン−酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルムである東洋紡株式会社製の「シャインビーム」(登録商標)の「Q1A15」(厚さ50μm)を用いた。得られた保護シート(1−1)の酸素透過度、透湿度、全光線透過率およびヘイズを測定した。結果を表1に示す。
【0202】
続いて、保護シート(1−1)の耐久性試験として、恒温恒湿試験機を用いて、大気圧下、85℃、85%RHの雰囲気下に1,000時間保護シートを保管する試験(ダンプヒート試験)を行った。試験後の保護シート(1−1)について、酸素透過度および透湿度を測定した結果を表1に示す。
【0203】
<実施例1−2>
コーティング液(S−1)の塗工後の乾燥条件を80℃10分間から120℃3分間に変更したこと以外は実施例1−1の多層構造体(W1−1)の作製と同様にして、基材(X−1)/層(Y−2)という構造を有する多層構造体(W2−1)を作製した。また、多層構造体(W1−1)を多層構造体(W2−1)に変更したこと以外は実施例1−1の保護シート(1−1)の作製と同様にして、保護シート(2−1)を作製した。
【0204】
<実施例1−3>
コーティング液(S−1)の塗工後の乾燥条件を80℃10分間から120℃1分間に変更したこと、および乾燥後の層(Y)の厚みを0.30μmから0.45μmに変更したこと以外は実施例1−1の多層構造体(W1−1)の作製と同様にして、基材(X−1)/層(Y−3)という構造を有する多層構造体(W3−1)を作製した。また、多層構造体(W1−1)を多層構造体(W3−1)に変更したこと以外は実施例1−1の保護シート(1−1)の作製と同様にして、保護シート(3−1)を作製した。
【0205】
<実施例1−4>
180℃3分間の熱処理後、無機リン化合物(BI)の質量W
BIと有機リン化合物(BO)の質量W
BOの比W
BO/W
BI=1.10/98.90となるようにバーコーターを用いてコーティング液(T−1)を塗工し、110℃で3分間乾燥させ、続いて、220℃で1分間熱処理すること以外は実施例1−1の多層構造体(W1−1)の作製と同様にして、基材(X−1)/層(Y−4)という構造を有する多層構造体(W4−1)を作製した。また、多層構造体(W1−1)を多層構造体(W4−1)に変更したこと以外は実施例1−1の保護シート(1−1)の作製と同様にして、保護シート(4−1)を作製した。
【0206】
<実施例1−5および1−6>
コーティング液(T−1)をコーティング液(T−2)および(T−3)に変更した以外は実施例1−4の多層構造体(W4−1)の作製と同様にして、多層構造体(W5−1)および(W6−1)を作製した。また、多層構造体(W1−1)を多層構造体(W5−1)および(W6−1)に変更した以外は実施例1−1の保護シート(1−1)の作製と同様にして、保護シート(5−1)および(6−1)を作製した。
【0207】
<比較例1−1>
コーティング液(S−1)の塗工後の乾燥条件を80℃10分間から160℃1分間に変更したこと以外は実施例1−1の多層構造体(W1−1)の作製と同様にして、基材(X−1)/層(CY−1)という構造を有する多層構造体(CW1−1)を作製した。また、多層構造体(W1−1)を多層構造体(CW1−1)に変更したこと以外は実施例1−1の保護シート(1−1)の作製と同様にして、保護シート(C1−1)を作製した。
【0208】
<比較例1−2>
コーティング液(S−1)の塗工後の乾燥条件を80℃10分間から80℃1分間に変更したこと以外は実施例1−1の多層構造体(W1−1)の作製と同様にして、基材(X−1)/層(CY−2)という構造を有する多層構造体(CW2−1)を作製した。また、多層構造体(W1−1)を多層構造体(CW2−1)に変更したこと以外は実施例1−1の保護シート(1−1)の作製と同様にして、保護シート(C2−1)を作製した。
【0209】
多層構造体(W2−1)〜(W6−1)および(CW1−1)〜(CW2−1)ならびに保護シート(2−1)〜(6−1)および(C1−1)〜(C2−1)について、実施例1−1と同様に各項目を測定した。結果を表1に示す。
【0210】
【表1】
【0211】
以下の実施例および比較例において、量子効率および分光放射エネルギーは、大塚電子製量子効率測定装置QE−1000により測定した。なお、前記分光放射エネルギーは、本実施例で使用した量子ドット蛍光体の蛍光波長における放射エネルギーである。
【0212】
[量子ドット蛍光体を含有する電子デバイス]
<実施例2−1>
50mLガラス製スクリューボトルに、アルゴンガス雰囲気下、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製、ZEONEX(登録商標)480R;構造式[Q−1]を含む非晶質樹脂)5gと、真空凍結脱気した後にアルゴンガス雰囲気下で保存した脱水トルエン(和光純薬工業株式会社製)5gとを仕込み、室温下ローラー式攪拌機上で撹拌することで溶解させ、樹脂溶液(r1)を得た。
【0213】
得られた樹脂溶液(r1)に、82mg/mLに調製された量子ドット蛍光体のトルエン分散液3.05gをアルゴンガス雰囲気下で加えた。ここで量子ドット蛍光体の分子構造としては、コア・シェル構造を有し、コアがInP、シェルがZnSで、ミリスチン酸をキャッピング剤として用いたナノ粒子であって、コアの直径2.1nmのものを用いた。その後、株式会社シンキー社製自転・公転式撹拌装置ARV310−LEDを用いて十分に混練し、量子ドット蛍光体をシクロオレフィンポリマーに対して5質量%含有した分散液(量子ドット蛍光体を含む組成物)を得た。その分散液をポリメチルペンテン製シャーレ上に置いたシリコーンリング(外径55mm×内径50mm×厚1mm)の内側に注ぎ込んだ。そのままアルゴンガス雰囲気下で風乾させ板状の成形物を得た後に、窒素ガスを流通させたイナートオーブン中で、40℃の温度で5時間乾燥させることにより溶媒を完全に除去し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を得た。
【0214】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の表面に実施例1−1の保護シート(1−1)を接着性樹脂を用いて張り合わせ、ガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物(u1)を得た。ガスバリア層の厚さは12.5μmであった。この量子ドット蛍光体を含む構造物(u1)の量子効率を大塚電子(株)製量子効率測定装置QE−1000を用いて測定したところ74%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率80%と遜色のない結果である。
【0215】
また、量子ドット蛍光体を含む構造物(u1)を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2,000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.42(mW/nm)であったのに対し、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは0.41(mW/nm)であった。従って、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して97.6%という高い値を保っていた。
【0216】
<実施例2−2>
実施例2−1で得た量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を180℃に加熱したプレス機を用いて、20MPaのプレス圧で加工し、100μmの厚みを持った量子ドット蛍光体を含む樹脂フィルムを得た。
【0217】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体を含む樹脂フィルムの表面に実施例1−1の保護シート(1−1)を接着性樹脂を用いて張り合わせ、ガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物(u2)を得た。ガスバリア層の厚みは12.5μmであった。
【0218】
前記構造物(u2)につき、実施例2−1と同様に、量子効率、発光初期における分光放射エネルギー、および2,000時間経過後の分光放射エネルギーを測定した。結果を表2に示す。量子効率は76%と良好であり、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して97.4%という高い値を保っていた。
【0219】
<比較例2>
量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の表面に比較例1−1の保護シート(C1−1)を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で量子ドット蛍光体を含む構造物(u3)を得た。この量子ドット蛍光体を含む構造物(u3)の量子効率を大塚電子(株)製量子効率測定装置QE−1000を用いて測定したところ76%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率82%と遜色のない結果である。
【0220】
また、量子ドット蛍光体を含む構造物(u3)を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2,000時間連続して発光させた。発光初期における分光放射エネルギー、および2,000時間経過後の分光放射エネルギーを測定した結果を表2に示す。2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して78.5%まで減少した。
【0221】
<比較例3>
量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の表面にEVOHフィルム(日本合成製、ソアノールD2908を共押出法により作製した厚さ15μmのフィルム、酸素透過度0.5mL/(m
2・day)、透湿度130g/m
2・24hrs)を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で量子ドット蛍光体を含む構造物(u4)を得た。この量子ドット蛍光体を含む構造物(u4)の量子効率を大塚電子(株)製量子効率測定装置QE−1000を用いて測定したところ76%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率82%と遜色のない結果である。
【0222】
また、量子ドット蛍光体を含む構造物(u4)を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2,000時間連続して発光させた。発光初期における分光放射エネルギー、および2,000時間経過後の分光放射エネルギーを測定した結果を表2に示す。2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して71.4%まで減少した。
【0223】
【表2】
本発明は、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスであって、前記電子デバイスが保護シートを備え、前記保護シートが、基材(X)と前記基材(X)に積層された層(Y)とを含む多層構造体(W)を含み、前記層(Y)がアルミニウムを含む化合物(A)とリン化合物(B)との反応生成物(D)を含み、前記反応生成物(D)の平均粒子径が5〜50nmの範囲内である、電子デバイスに関する。