特許第6014801号(P6014801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014801
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】微細部位イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20161013BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   H01J37/317 D
   H01J37/28 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-163242(P2012-163242)
(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-22344(P2014-22344A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業「FIB光イオン化ナノ質量イメージング装置の実用化開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
(72)【発明者】
【氏名】坂本 哲夫
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−243667(JP,A)
【文献】 田中耕一、佐藤貴弥、吉野健一,「遅延引き出し法の基礎」,Journal of the Mass Spectrometry of Japan,日本,日本質量分析学会,2009年,Volume 57, No. 1,Page 31-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01J 37/28
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を画像化する微細部位イメージング装置であって、該微細部位イメージング装置は、
ターゲットとなる試料に集束イオンビームをパルス状に照射する集束イオンビーム照射部と、
前記集束イオンビーム照射部の集束イオンビームのパルスタイミングを制御可能なイオンビームパルス制御部と、
前記集束イオンビーム照射部から照射される集束イオンビームにより励起される2次イオンから2次イオン像を生成するためのイメージング部と、
前記集束イオンビーム照射部から照射される集束イオンビームにより励起される2次イオンに対して、集束イオンビームが照射されていないタイミングで引出電界をパルス状に印加する引出電界発生部と、
前記引出電界発生部の引出電界のパルスタイミングを制御可能な引出電界パルス制御部と、
前記イオンビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を異ならせたときにイメージング部により生成される2次イオン像を画像認識により比較解析する2次イオン像比較部と、
前記2次イオン像比較部による比較結果により、イオンビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を決定する遅延時間決定部と、
を具備することを特徴とする微細部位イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細部位イメージング装置において、前記遅延時間決定部は、フィードバック制御により最適遅延時間を決定することを特徴とする微細部位イメージング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の微細部位イメージング装置であって、さらに、ターゲットとなる試料に電子ビームをパルス状に照射する電子ビーム照射部と、
前記電子ビーム照射部の電子ビームのパルスタイミングを制御可能な電子ビームパルス制御部と、を具備し、
前記イメージング部は、電子ビーム照射部から照射される電子ビームにより励起される2次電子から2次電子像も生成し、
前記2次イオン像比較部は、電子ビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を異ならせたときにイメージング部により生成される2次電子像も画像認識により比較解析し、
前記遅延時間決定部は、2次イオン像比較部による比較結果により、電子ビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間も決定する、
ことを特徴とする微細部位イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の微細部位イメージング装置において、前記集束イオンビーム照射部及び電子顕微鏡は、試料の置かれるテーブルの表面法線に対して45度になるようにそれぞれ配置されることを特徴とする微細部位イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細部位イメージング装置に関し、特に、試料を画像化する微細部位イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)や走査型電子顕微鏡(SEM)等には、集束イオンビーム等の微小スポットを有するイオンビームが用いられる。例えば、TOF−SIMSを用いれば、走査イオン顕微鏡(SIM)像観察を高分解能で行うことができ、これに質量分析装置を組み合わせれば、2次イオン像が得られる。2次イオン像を得ることにより試料の微細部位を画像化し、種々の解析を行うことが可能となる。2次イオン像を取得する際には、視野を設定するためにはSIM像により表面画像を観察すれば良いが、分析に先だってイオンビームを試料に照射することになり、試料表面の損耗や変質が避けられない。
【0003】
また、例えば、TOF−SIMSでは、試料表面に向けてイオンビームを照射すると共に、試料表面と分析装置との間に直流高電圧を印加し、所謂引出電界を発生させて質量分析装置に2次イオンを引き込んでいる。しかしながら、照射されるイオンビームは、印加される引出電界の影響を受け屈曲されてしまい、所望の照射位置と異なる位置にイオンビームが照射されてしまい、その結果、2次イオン像がずれてしまうことが知られている。2次イオン像の取得には、正2次イオン、負2次イオンそれぞれに対して印加する引出電界の向きは逆向きとなるため、正2次イオン像、負2次イオン像の間にも位置ずれの問題は生じる。さらに、位置ずれについては、電子線を用いて試料の表面観察を行う走査型電子顕微鏡においても問題となる。
【0004】
例えば特許文献1には、このような位置ずれを補正する集束イオンビーム装置が開示されている。特許文献1では、2次イオン像の移動量を予め測定しておき、この移動量に応じて試料が載置されるX−Yステージを移動するか、集束イオンビームの走査電極を制御することで、2次イオン像のずれを補正している。この場合でも、予め集束イオンビームを照射して移動量を測定する必要があるため、試料表面の損耗や変質が避けられない。さらに、凹凸のある試料の場合には、その移動量を正確に予測することは難しかった。また、引出電界を印加した際にビームが屈曲した状態となり、その状態で測定することになるため、厳密には試料に対するビームの入射角度が変わってしまう問題もあった。
【0005】
また、例えば特許文献2には、予め試料に検出用マークを登録しておき、この登録されたマークを基に位置情報のずれ量を算出してイオンビームの照射位置を補正する集束イオンビーム装置が開示されいている。この場合でも、画像化された2次イオン像は、照射される集束イオンビームが屈曲された状態で生成されたものであるため、2次イオン像にゆがみが生ずる可能性があり、位置補正だけでは十分補正できない場合があった。さらに、凹凸のある試料の場合には、その移動量を正確に予測することは難しかった。
【0006】
他に、非特許文献1には、遅延引出方式により高分解能とするTOF−SIMSが開示されている。これは、イオンビームの照射により発生したイオンを、加速することなく自由飛行させ、イオンビーム照射後、数百ns遅延させた後に引き出すものである。これにより、発生したイオンを同時にまとめて引き出すことが可能となり、質量分解能を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−227145号公報
【特許文献2】特開2010−9987号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中耕一、佐藤貴弥、吉野健一著「遅延引き出し法の基礎」日本質量分析学会、2009年、Vol.57、No. 1、p.31−36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SIM像観察やSEM像観察、さらには、正2次イオン像、負2次イオン像の取得に際して、集束イオンビームの照射位置ずれを発生させないためには、何れの場合においても、試料表面と分析装置との間の引出電界を印加せず、無電界の条件とするのが集束イオンビームや電子線の直進性を考えると最も良い。しかしながら、電界を印加しなければ、表面で発生した2次イオンを質量分析装置に取り込むことができない。この点については、上述の特許文献1や特許文献2では解決することができなかった。
【0010】
さらに、非特許文献1の技術は、遅延時間が長すぎると発生したイオンが散逸してしまい質量分析装置に引き出せなくなり、感度が低下してしまう。さらに、遅延時間をどの程度にすれば良いか判断するのも難しかった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、集束イオンビームの照射位置のずれが生じず、最適化された条件で2次イオン像を得ることが可能な微細部位イメージング装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による微細部位イメージング装置は、ターゲットとなる試料に集束イオンビームをパルス状に照射する集束イオンビーム照射部と、集束イオンビーム照射部の集束イオンビームのパルスタイミングを制御可能なイオンビームパルス制御部と、集束イオンビーム照射部から照射される集束イオンビームにより励起される2次イオンから2次イオン像を生成するためのイメージング部と、集束イオンビーム照射部から照射される集束イオンビームにより励起される2次イオンに対して、集束イオンビームが照射されていないタイミングで引出電界をパルス状に印加する引出電界発生部と、引出電界発生部の引出電界のパルスタイミングを制御可能な引出電界パルス制御部と、イオンビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を異ならせたときにイメージング部により生成される2次イオン像を画像認識により比較解析する2次イオン像比較部と、2次イオン像比較部による比較結果により、イオンビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を決定する遅延時間決定部と、を具備するものである。
【0013】
ここで、遅延時間決定部は、フィードバック制御により最適遅延時間を決定しても良い。
【0014】
さらに、ターゲットとなる試料に電子ビームをパルス状に照射する電子ビーム照射部と、電子ビーム照射部の電子ビームのパルスタイミングを制御可能な電子ビームパルス制御部と、を具備し、イメージング部は、電子ビーム照射部から照射される電子ビームにより励起される2次電子から2次電子像も生成し、2次イオン像比較部は、電子ビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を異ならせたときにイメージング部により生成される2次電子像も画像認識により比較解析し、遅延時間決定部は、2次イオン像比較部による比較結果により、電子ビームパルス制御部によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間も決定する、ものであっても良い。
【0015】
また、集束イオンビーム照射部及び電子顕微鏡は、試料の置かれるテーブルの表面法線に対して45度になるようにそれぞれ配置されれば良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の微細部位イメージング装置には、集束イオンビームの照射位置のずれが生じず、最適化された条件で2次イオン像を得ることが可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の微細部位イメージング装置を説明するための概略ブロック図である。
図2図2は、遅延時間に対する2次イオン強度の変化グラフである。
図3図3は、2次イオン像がぶれた状態となった一例である。
図4図4は、本発明の微細部位イメージング装置の他の実施例を説明するための概略ブロック図である。
図5図5は、本発明の微細部位イメージング装置により得られる各像の具体例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の微細部位イメージング装置を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、試料を画像化する本発明の微細部位イメージング装置は、集束イオンビーム照射部10と、イオンビームパルス制御部20と、イメージング部30と、引出電界発生部40と、引出電界パルス制御部50と、2次イオン像比較部60と、遅延時間決定部70とから主に構成されている。ターゲットとなる試料1は、テーブル2上に載置されている。テーブル2は、例えば導電体からなるX−Yステージであれば良い。
【0019】
集束イオンビーム照射部10は、ターゲットとなる試料1に集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)をパルス状に照射可能な装置である。集束イオンビーム照射部10は、イオンを電界で加速したビームを集束させてターゲットに照射するものである。集束イオンビーム照射部10を用い、パルスモードではなく直流モードとすることで、SIM像を観測することが可能となる。SIM像は、イオンビームを試料1に照射した際に試料1から飛び出してくる2次電子を測定することにより、試料表面の様子を観測したものである。集束イオンビーム照射部10は、イオンビームをパルス状に照射できるように構成されており、所定のパルスタイミング(パルス幅、パルス周期)でイオンビームがターゲットに照射される。このパルスタイミングは、後述のイオンビームパルス制御部20により制御可能なように構成されている。
【0020】
イオンビームパルス制御部20は、集束イオンビーム照射部10の集束イオンビームのパルスタイミングを制御可能なものである。イオンビームパルス制御部20は、例えば集束イオンビーム照射部10のスイープ機構の電極を断続的にシフト制御すれば良い。これにより、集束イオンビームがアパーチャ板の開口部を断続的に通過するように制御され、断続的に通過したイオンビームがパルス状となる。このパルス状のイオンビームのパルスタイミングが、イオンビームパルス制御部20にて制御される。例えばイオンビームパルス制御部20は集束イオンビーム照射部10のスイープ機構の電極を駆動するためのパルス電源であり、このパルス電源のパルス周期を用いてパルスタイミングを制御できるように構成されていれば良い。
【0021】
イメージング部30は、集束イオンビーム照射部10から照射される集束イオンビームにより励起される2次イオンから2次イオン像を生成するものである。具体的には、イメージング部30は、例えば飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)や飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)であれば良い。集束イオンビームにより励起された2次イオンは、後述の引出電界発生部40による引出電界によりイメージング部30に引き込まれる。
【0022】
引出電界発生部40は、集束イオンビーム照射部10から照射される集束イオンビームにより励起される2次イオンに対して、集束イオンビームが照射されていないタイミングで引出電界をパルス状に印加するものである。引出電界発生部40による引出電界により、集束イオンビームにより励起された2次イオンがイメージング部30のほうに引き出される。引出電界発生部40の引出電界は、正2次イオン分析時と負2次イオン分析時では、それぞれ反対向きに印加される。引出電界発生部40は、例えばパワートランジスタ等を用いた高電圧パルス回路からなるものであり、テーブル2とイメージング部30との間に所定のパルスタイミング(パルス幅、パルス周期)で引出電界を印加可能なものであれば良い。このパルスタイミングは、後述の引出電界パルス制御部50により制御可能なように構成されている。集束イオンビームが照射されていないタイミングで引出電界を印加するため、イオンビームパルスの照射タイミングは、引出電界は印加されていない無電界の条件とする。したがって、イオンビームが屈曲するおそれがなく、イメージング部30では意図した位置の像が生成されることになる。
【0023】
引出電界パルス制御部50は、引出電界発生部40の引出電界のパルスタイミングを制御可能なものである。引出電界パルス制御部50は、引出電界発生部40のパルス電圧を所定のパルスタイミングで出力するように、例えばパワートランジスタをオンオフ制御できれば良い。
【0024】
2次イオン像比較部60は、イメージング部30により生成される2次イオン像を画像認識により比較解析するものである。比較解析する2次イオン像は、イオンビームパルス制御部20によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部50によるパルスタイミングの遅延時間を異ならせたときの画像である。
【0025】
以下、図2に、遅延時間に対する2次イオン強度の変化グラフを示す。図2(a)は、遅延引出を行わない場合、即ち、集束イオンビーム照射時において既に引出電界が印加されている条件において、質量分析装置の各種パラメータを最適化しておき、徐々に遅延時間を増加させていった場合の2次イオン強度である。また図2(b)は、遅延引出を行った場合、即ち、例えば遅延時間0.25μsにおいてイメージング部30である質量分析装置の各種パラメータを最適化しておき、徐々に遅延時間を増加させていたった場合の2次イオン強度である。図2(a)では、遅延時間0μsとは集束イオンビーム照射と同時に引出電界を印加したことを意味し、遅延時間が正の領域が遅延引出を行った場合を意味する。図2(a)から分かる通り、遅延時間0.1μs程で2次イオン強度が最大となり、以降は急激に減少している。これは、遅延時間が過多となると、試料表面から放出された2次イオンが空間的に散逸してしまい、イメージング部30への2次イオンの取り込み率が減少するためである。一方、図2(b)から分かる通り、最適化した遅延時間において2次イオン強度が最大となり、その後は図2(a)と同様に、遅延時間が過多となり、試料表面から放出された2次イオンが空間的に散逸してしまい、イメージング部30への2次イオンの取り込み率が減少し、2次イオン強度が急激に低下している。このように、遅延時間が過多である場合には、2次イオン強度の減少、即ち、感度の低下という問題が現れるため、遅延時間は短くすべきである。しかしながら、引出電界発生部40による引出電界を作るための高電圧パルスは、0Vの無電界状態から所定の高電圧に達するまでの間にはある程度の遷移時間が存在する。この期間内に接するほどに遅延時間を短くすると、集束イオンビームの照射中に引出電界が印加されることになる。この結果、集束イオンビームが屈曲されてしまい、2次イオン像は無電界における画像と電界印加状態の画像が重畳して現れたもの、即ち、得られた像がぶれた状態となってしまう。図3に、2次イオン像がぶれた状態となった一例を示す。このように、ビーム照射中に電界の変化が起こると、2次イオン像のぶれの原因となる。そこで、本発明の微細部位イメージング装置では、生成された2次イオン像を、2次イオン像比較部60を用いて画像認識により比較解析する。ここで、2次イオン像が重畳された画像になったり、遅延時間を異ならせた画像間が位置ずれを起こした画像になっていないかを判定する。ここで、画像認識としては、例えば画像間の差分を取ったり、画像中の特徴点を抽出してこの特徴点の移動量を抽出したりして、画像の位置ずれを検出すれば良い。このような画像認識技術は、従来の又は今後現れる技術を用いれば良い。
【0026】
そして、遅延時間決定部70は、2次イオン像比較部60による比較結果により、イオンビームパルス制御部20によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部によるパルスタイミングの遅延時間を決定する。即ち、2次イオン像比較部60による比較結果により、2次イオン像が重畳された画像になったり位置ずれを起こした画像になったりしないようなパルスタイミングの遅延時間を決定する。即ち、遅延時間が略ゼロのところから始め、2次イオン像が位置ずれしなくなるまで遅延させていき、位置ずれしなくなった遅延時間をパルスタイミングとして用いれば良い。
【0027】
このように構成することで、本発明の微細部位イメージング装置は、集束イオンビームの照射位置のずれが生じず、最適化された条件で2次イオン像を得ることが可能となる。
【0028】
さらに、遅延時間決定部70は、例えば時々刻々と変わる温度条件等により最適な遅延時間がずれる場合があるため、これを防止するために、フィードバック制御により最適遅延時間を決定しても良い。即ち、遅延時間決定部70は、新たな試料を観測時に一度だけ遅延時間を決定しても良いし、観測中はフィードバック制御を行い、例えば遅延時間を短くすることを試みつつ、位置ずれが起きた場合には遅延時間を長くするようにフィードバック制御することも可能である。
【0029】
図4に、本発明の微細部位イメージング装置の他の実施例を説明するための概略ブロック図を示す。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、詳説を省略する。図示例では、図1の例に対して、ターゲットとなる試料1に電子ビームをパルス状に照射する電子ビーム照射部80をさらに有している。また、電子ビーム照射部80と集束イオンビーム照射部10は、位置関係は特に限定されないが、試料1の置かれるテーブル2の表面法線に対して45度になるようにそれぞれ配置されれば良い。電子ビーム照射部80は、例えば電子顕微鏡であれば良い。電子ビーム照射部80により試料に電子ビームを照射し、そこから発生してきた2次電子から得られる像を観察することが可能である。この電子ビームも、引出電界の影響を受けるため、引出電界が印加される間に電子ビームを当てると、電子ビームが屈曲して画像の位置ずれが問題となる。したがって、この例でも、電子ビーム照射部80の電子ビームのパルスタイミングを制御可能な電子ビームパルス制御部90を設ければ良い。なお、集束イオンビームのパルスタイミングと電子ビームのパルスを同期させれば、集束イオンビームを照射中でも、走査型電子顕微鏡により同一箇所を観察することができる。しかしながら、例えば事前に集束イオンビームの照射エリアを決定するためであれば、電子ビームはパルス化しなくても勿論良い。
【0030】
イメージング部30では、電子ビーム照射部80から照射される電子ビームにより励起される2次電子から2次電子像も生成する。そして、2次イオン像比較部60は、電子ビームパルス制御部90によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部50によるパルスタイミングの遅延時間を異ならせたときにイメージング部により生成される2次電子像も画像認識により比較解析する。さらに、遅延時間決定部70では、2次イオン像比較部60による比較結果により、電子ビームパルス制御部90によるパルスタイミングに対する引出電界パルス制御部50によるパルスタイミングの遅延時間も決定すれば良い。
【0031】
このように構成することにより、2次電子像(SEM像)、走査イオン顕微鏡像(SIM像)、正2次イオン像、負2次イオン像がすべて位置ずれなく得ることが可能となる。図5に、本発明の微細部位イメージング装置により得られる各像の具体例を示す。上段は本発明の微細部位イメージング装置により得られた画像であり、下段は比較例として、遅延制御を行わず引出電界を印加したまま得られた画像である。引出電界を印加しない無電界の状態で、集束イオンビームの照射位置と電子ビームの照射位置を試料の同じ場所に一致させた。比較例では、引出電界を印加すると、集束イオンビーム及び電子ビームは電界による変更を受け、互いに上下に位置ずれを生じていることが見て取れる。また、正2次イオン像や負2次イオン像取得時には、それぞれ電界の向きが逆となるため、この場合にも上下方向にずれが生じていることが分かる。一方、本発明の微細部位イメージング装置では、集束イオンビームや電子ビームが照射される瞬間には無電界の状態が維持されているため、何れの像においても位置ずれは一切生じておらず、また、ビーム照射時に電界の変動がないため像のぶれもないないことが分かる。しかも、遅延時間は常に最適化された状態で像が生成されているため、得られる像は何れも明瞭なものとなっている。
【0032】
なお、本発明の微細部位イメージング装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 試料
2 テーブル
10 集束イオンビーム照射部
20 イオンビームパルス制御部
30 イメージング部
40 引出電界発生部
50 引出電界パルス制御部
60 2次イオン像比較部
70 遅延時間決定部
80 電子ビーム照射部
90 電子ビームパルス制御部
図1
図2
図3
図4
図5