特許第6014830号(P6014830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6014830Nb−W酸化物触媒の製造方法、Nb−W酸化物触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014830
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】Nb−W酸化物触媒の製造方法、Nb−W酸化物触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/10 20060101AFI20161013BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20161013BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20161013BHJP
   B01J 35/06 20060101ALI20161013BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20161013BHJP
   C07C 41/30 20060101ALN20161013BHJP
   C07C 43/205 20060101ALN20161013BHJP
   C07C 45/46 20060101ALN20161013BHJP
   C07C 49/84 20060101ALN20161013BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   B01J37/10
   B01J37/08
   B01J37/04 102
   B01J35/06 D
   B01J23/30 Z
   !C07C41/30
   !C07C43/205 B
   !C07C45/46
   !C07C49/84 C
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-539548(P2013-539548)
(86)(22)【出願日】2012年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2012060539
(87)【国際公開番号】WO2013057976
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-228064(P2011-228064)
(32)【優先日】2011年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】奥村 和
(72)【発明者】
【氏名】石田 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】高畑 亮太
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 石田宗一郎 他,Nb2O5-WOx酸化物積層ファイバー触媒によるFriedel-Crafts反応,第108回触媒討論会討論会A予稿集,触媒学会,2011年 9月13日,Page397
【文献】 K.OKUMURA et al.,Layered Nb2O5-WOx Sheet Catalyst Composed of Nanofibers That Are Active in Friedel-Crafts Reactions,Chemistry Letters,2011年 5月 5日,Vol.40 No.5,Pages527-529
【文献】 奥村和 他,タングステン酸性酸化物種によるフリーデル・クラフツ反応,表面科学,日本表面科学会,2011年 2月10日,Vol.32 No.2,Pages81-87
【文献】 奥村和 他,Nb-W酸化物ナノファイバー触媒によるフリーデル・クラフツ反応,第106回触媒討論会討論会A予稿集,触媒学会,2010年 9月15日,Page354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07B 61/00
C07C 41/30
C07C 43/205
C07C 45/46
C07C 49/84
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アンモニウムニオブオキサレートとタングステン酸アンモニウムを130〜210℃で水熱合成し、
(2)得られた生成物を水又は酸水溶液中で20〜120℃で攪拌処理し、
(3)前記工程(2)の後の混合液から減圧又は加圧濾過によって固形分を取得し、
(4)前記固形分を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で300〜500℃で焼成する工程を備える、Nb−W酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、前記攪拌処理は、0.1〜20mol/Lのシュウ酸又は酒石酸水溶液中で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(4)において、前記焼成は、窒素雰囲気下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記焼成は、375〜475℃で行われる請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nb−W酸化物触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載されているように、アンモニウムニオブオキサレートとタングステン酸アンモニウムの水熱合成によって得られるNb−W酸化物(Nb−WO)触媒は、Friedel-Craftsアルキル化又はアシル化反応の優れた触媒である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Okumura, T. Tomiyama, S. Shirakawa, S. Ishida, T. Sanada, M. Arao, M. Niwa, J. Mater. Chem. 2011, 21, 229.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記触媒は、高活性ではあるが、触媒反応後の沈殿に時間がかかるため再利用を困難であり、また、再利用を繰り返すと活性が急速に低下するという課題を有している。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、再利用が容易であり且つ再利用を繰り返しても活性が低下しにくいNb−W酸化物触媒の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、(1)アンモニウムニオブオキサレートとタングステン酸アンモニウムを130〜210℃で水熱合成し、(2)得られた生成物を水又は酸水溶液中で20〜120℃で攪拌処理し、(3)前記工程(2)の後の混合液から減圧又は加圧濾過によって固形分を取得し、(4)前記固形分を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で300〜500℃で焼成する工程を備える、Nb−W酸化物触媒の製造方法が提供される。
【0006】
本発明者らは、Nb−W酸化物触媒の再利用を容易にすべく鋭意検討を行ったところ、水熱合成によって得られたNb−W酸化物は壊れやすいファイバー構造(以下、このような構造物を「Nb−W酸化物ファイバー」と称する。)であったのに対し、これに対して上記工程(2)〜(4)を行うことによって、Nb−W酸化物ファイバーの切断片が凝集して形成されたシートが積層された構造(以下、このような構造を「積層ファイバー構造」と称し、構造物を「Nb−W酸化物積層ファイバー」と称する。)になることが分かった。そして、この構造のNb−W酸化物触媒は、触媒反応後に速やかに沈殿するので回収・再利用が容易であり、且つ再利用を繰り返しても活性が低下しにくいことが分かり、本発明の完成に到った。
【0007】
本発明者らの実験によると、工程(2)において攪拌せずに、水熱合成によって得られたNb−W酸化物ファイバーを単に水又は酸水溶液に浸漬させた場合には活性が低かった。また、工程(2)の後の混合液から固形分を取得する工程を自然濾過によって行った場合も活性が低かった。さらに、固形分の焼成処理を酸素ガス雰囲気下で行ったり、300℃未満や500℃超の温度で行ったりした場合も活性が低かった。以上より、上記工程(1)〜(4)を行うことによって初めて、再利用が容易であり且つ再利用を繰り返しても活性が低下しにくいNb−W酸化物触媒が製造可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(a)〜(c)は、攪拌・濾過工程を行なっていない試料と、1.9Mのシュウ酸水溶液で処理して得られた試料のSEM画像を示す。
図2図2は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーに含まれるファイバーの長さ・太さ分布を示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーのBJH細孔径分布を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーについて測定したIRスペクトルである。
図5図5は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーが脱水反応によって形成されていることを説明するための説明図である。
図6図6は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーが、Friedel-Craftsアルキル化反応において再利用を繰り返しても活性が低下しないことを示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーが触媒反応後に速やかに沈殿することを示す写真である(反応終了から30分経過後の写真)。
図8図8は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーが、Friedel-Craftsアシル化反応において再利用を繰り返しても活性の低下が緩やかであることを示すグラフである。
図9図9は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーを用いて連続反応を行うための装置構成を示す。
図10図10は、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーを用いて連続反応を行った場合に30日が経過しても活性が低下しないことを示すグラフである。
図11図11は、種々の媒体を用いて攪拌処理を行った場合に得られる、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーのSEM画像である。
図12図12は、種々の媒体を用いて攪拌処理を行って作製された、本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーの活性が、Friedel-Craftsアルキル化反応において再利用を繰り返しても活性が低下しにくいことを示すグラフである。
図13図13は、焼成温度を変えて作製した本発明の実施例のNb−W酸化物積層ファイバーの活性を示すグラフである。
図14図14(a)〜(b)は、1.9Mの酒石酸水溶液で処理して得られた試料(1.9M酒石酸処理試料)のSEM画像を示す。
図15図15は、1.9M酒石酸処理試料のBJH細孔径分布を示すグラフである。
図16図16は、1.9M酒石酸処理試料のXRDスペクトルである。
図17図17は、1.9M酒石酸処理試料のNH−TPD測定の結果を示すグラフである。
図18図18は、1.9M酒石酸処理試料を用いて連続反応を行った場合に60日が経過しても活性が低下しないことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態のNb−W酸化物触媒の製造方法は、(1)アンモニウムニオブオキサレートとタングステン酸アンモニウムを130〜210℃で水熱合成し、(2)得られた生成物を水又は酸水溶液中で20〜120℃で攪拌処理し、(3)前記工程(2)の後の混合液から減圧又は加圧濾過によって固形分を取得し、(4)前記固形分を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で300〜500℃で焼成する工程を備える。
【0011】
<工程(1)水熱合成工程>
工程(1)では、アンモニウムニオブオキサレートとタングステン酸アンモニウムを130〜210℃で水熱合成する。具体的には、例えばアンモニウムニオブオキサレートとタングステン酸アンモニウム(それぞれ、結晶水を含んでもいい。)の混合水溶液を容器中に密閉し、オートクレーブを用いて130〜210℃に加熱して水熱合成する。一例では、容器は、テフロン容器であり、密閉前に窒素バブリングを行う。水熱合成によって、Nb−W酸化物(例:Nb−WO)のファイバー状の結晶が形成されて析出する。このファイバーは直径が10〜30nm程度であり、長さが1〜10μm程度である。タングステンは6価の状態であり、この状態のNb−W酸化物は触媒活性をほとんど示さない。
【0012】
タングステン酸アンモニウムとアンモニウムニオブオキサレートの重量比は、特に限定されないが、W/Nbのモル比が2〜100になるように設定することが好ましい。このモル比が小さすぎても大きすぎても触媒活性が低下するからである。このモル比は、具体的には例えば2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,50,100であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0013】
水熱合成の温度は、130〜210℃であり、好ましくは150〜190℃である。水熱合成の温度が低すぎると合成反応が進行せず、高すぎるとテフロン容器が破損するためである。水熱合成の温度は、具体的には例えば、130,140,150,160,170,180,190,200,210℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0014】
水熱合成の時間は、例えば1〜500時間であり、好ましくは12〜250時間である。この時間が短すぎると得られるNb−W酸化物の量が少なく、長すぎると得られる触媒の活性が低下する。この時間は、具体的には例えば、1,5,10,12,15,20,30,40,50,60,70,80,90,100,200,250,300,500時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0015】
<工程(2)攪拌工程>
工程(2)では、上記工程で得られた生成物(Nb−W酸化物ファイバー)を水又は酸水溶液中で20〜120℃で攪拌処理する。
【0016】
本発明者らの実験によると、この工程において攪拌せずに、Nb−W酸化物ファイバーを単に水又は酸水溶液に浸漬させた場合には活性が低かったので、この工程において攪拌を行うことは非常に重要である。攪拌の方法や程度は、特に限定されないが、Nb−W酸化物ファイバーが適度に切断されて得られる切断片の平均長が0.1〜1μmになる程度に行うことが好ましい。切断片が長すぎると積層ファイバー構造が形成されにくく、切断片が短すぎると触媒活性が低下すると考えられるからである。攪拌は、例えば、マグネチックスターラーやメカニカルスターラーによって行うことができる。マグネチックスターラーで攪拌を行う場合、攪拌子の回転数は、例えば100〜1000rpmである。
【0017】
攪拌は、水又は酸水溶液中で行う。Nb−W酸化物ファイバー又はその切断片の表面には水酸基が多数存在しているが、水又は酸水溶液中では脱水反応によって凝集が促進されると考えられる。酸の種類としては、シュウ酸、酒石酸、塩酸、リン酸、酢酸等が挙げられるが、シュウ酸又は酒石酸を用いた場合、再利用しても触媒活性が特に低下しにくいのでシュウ酸又は酒石酸が好ましい。シュウ酸酒石酸の濃度は、特に限定されないが、例えば0.1〜20mol/Lであり、0.1〜10mol/Lが好ましく、0.2〜4.6mol/Lがさらに好ましい。この濃度は、具体的には例えば0.1,0.2,0.5,1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5,5,6,7,8,9,10,15,20mol/Lであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、アンモニア水溶液中で攪拌を行ったところ、Nb−W酸化物ファイバーが溶解してしまったので、アンモニア水溶液は使用できない。
【0018】
水又は酸水溶液の温度は、20〜120℃である。低すぎても高すぎても積層ファイバー構造が形成されにくいと考えられるからである。温度は、好ましくは70〜99℃である。この範囲であれば、沸騰が起こらず且つ積層ファイバー構造が形成されやすいからである。温度は、具体的には例えば20,25,30,40,50,60,70,80,90,99,100,110,120℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0019】
攪拌処理の時間は、特に限定されないが、例えば、1〜100時間である。短すぎても長すぎても積層ファイバー構造が形成されにくいからである。この時間は、具体的には例えば、1,5,10,15,20,30,50,100時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
<工程(3)濾過工程>
工程(3)では、上記工程(2)の後の混合液から減圧又は加圧濾過によって固形分を取得する。本発明者らの実験によると、自然濾過によって固形分を取得した場合は触媒活性が低かったので、減圧又は加圧濾過のように固形分に対して圧力が加わる方法で固形分を取得することが必要である。減圧濾過は、例えば、ブフナー漏斗とアスピレーターを用いて行うことができる。
【0021】
濾紙の前後の圧力差は、特に限定されないが、例えば10〜90kPaであり、具体的には例えば、10,20,30,40,50,60,70,80,90kPaであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0022】
<工程(4)焼成工程>
工程(4)では、上記工程(3)で得られた固形分を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で300〜500℃で焼成する。この焼成工程によって触媒活性が向上する。触媒活性が向上する原理は必ずしも明らかではないが、この焼成の際に、アンモニウム残渣が還元剤として働いてタングステンが還元されることによって4価のタングステンが生成されることが要因であると推測される(非特許文献1の図10を参照。)。酸素や空気中で焼成を行った場合、触媒活性が非常に低いので、不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で焼成を行うことが重要である。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスが上げられ、還元性ガスとしては、水素ガスが挙げられる。焼成の温度は、300〜500℃である。焼成の温度が低すぎても高すぎても、触媒活性が低くなるからである。また、焼成の温度は、好ましくは、375〜475℃である。この場合に、触媒活性が特に高くなるからである。焼成の温度は、具体的には例えば300,350,375,400,425,450,475,500℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
以上の工程によって、積層ファイバー構造を有するNb−W酸化物触媒が製造される。この触媒は、触媒反応後に沈殿しやすく、また再利用しても触媒活性が低下しにくいという利点を有している。
【0024】
このNb−W酸化物触媒でのW/Nbのモル比は、好ましくは2.4〜200である。モル比が小さすぎても大きすぎても触媒活性が低下するからである。W/Nbのモル比は、具体的には例えば、2.4,3,4,6,8,10,15,20,30,40,50,100,200であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、Nb−W酸化物触媒でのW/Nbのモル比は、原料でのモル比に完全に一致せず、水熱合成の時間にもよるが、例えば1.2〜2倍程度大きくなる。原料中のNbのうち、Nb−W酸化物に取り込まれないものがあるからであり、水熱合成の時間が長くなるほど、Nb−W酸化物触媒でのW/Nbのモル比は、原料でのモル比に近づく傾向がある。
【実施例】
【0025】
<<1.積層ファイバー構造を有するNb−W酸化物触媒の調製>>
以下の方法に従って、積層ファイバー構造を有するNb−W酸化物触媒を調製した。
【0026】
<工程(1)水熱合成工程>
ビーカーに脱イオン水60mlとタングステン酸アンモニウム・パラ五水和物2.03gを加え,スターラー上で完全に溶けるまで攪拌した。別のビーカーに脱イオン水10mlとアンモニウムニオブオキサレート0.263gを加え完全に溶けるまで攪拌した。上記二つの溶液を混合し三口フラスコに移し30分窒素(50ml/min)でバブリングした(原料でのW/Nbのモル比は10であった。)。Nで満たされたグローブボックス内でオートクレーブに移し密閉し,水熱合成反応装置で170℃,48時間,回転速度15rpmの条件下で合成した。水熱合成後,室温までオートクレーブを冷却した後,青白色の固体の生成物を脱イオン水でろ過し,乾燥機で一晩乾燥させ白色の固体を得た。
【0027】
<工程(2)攪拌工程>
Nb−WO 1.2gに対して40mlの0.2,0.8,1.9,4.6Mシュウ酸水溶液を三角フラスコに加え、80℃,10時間攪拌(マグネチックスターラー、450rpm)した。
【0028】
<工程(3)濾過工程>
攪拌工程後の混合液をブフナー漏斗とアスピレーターを用いて吸引濾過し,一晩乾燥させ薄緑色の固体を得た。
【0029】
<工程(4)焼成工程>
窒素雰囲気下50ml/min,450℃(2時間,5℃/min)で焼成し,濃い青色の試料を得た。この試料は、後述するように、積層ファイバー構造を有している。1.9Mのシュウ酸水溶液で処理して得られた試料(以下、「1.9M試料」と称する。他の濃度のシュウ酸で処理したものも同様。)において、ICP分析によってW/Nbのモル比を測定したところ22であった。
【0030】
<<2.SEM画像>>
攪拌・濾過工程を行なっていない試料(以下、「未処理試料」)、1.9Mのシュウ酸水溶液で処理して得られた試料(以下、「1.9M試料」と称する。他の濃度のシュウ酸で処理したものも同様。)のSEM画像を図1(a)〜(c)に示す。これらのSEM画像から明らかなように、未処理試料では、ファイバーが凝集しておらず、1.9M試料は、ファイバーが凝集して形成されたシートが積層された構造になっている。この結果は、攪拌・濾過工程によって、積層ファイバー構造が形成されたことを示している。
【0031】
<<3.長さ・太さ分布>>
次に、積層ファイバー構造に含まれるファイバーの長さ・太さ分布を測定した。その結果を図2に示す。図2に示すように、ファイバーの平均直径は、26nmであり、平均長さは270nmであった。攪拌・濾過工程を行なっていない試料では、ファイバーの平均長さは数μmであったので、攪拌・濾過工程によってファイバーが切断されて、その長さが1/10程度になったことが分かる。
【0032】
<<4.比表面積及びBJH細孔径分布>>
0.2,0.8,1.9,4.6M試料について、窒素吸着等温線を測定し、その結果に基づいて比表面積及びBJH細孔径分布を求めた。比表面積を表1に示し、BJH細孔径分布を図3に示す。
表1から明らかなように、攪拌・濾過工程の有無に関わらず、全ての試料で比表面積はほぼ同じであった。積層ファイバー構造では、ファイバーが凝集しているにも関わらず、比表面積が減少しなかったのは驚くべき結果である。
【0033】
【表1】
【0034】
また、図3のBJH細孔径分布を参照すると、未処理の試料に比べて、攪拌・濾過工程を行った試料では、細孔径のサイズが小さくなっていることが分かる。表1と図3の結果を合わせると、積層ファイバー構造では、凝集しているファイバー間に微細な孔が非常に多く存在していることが分かる。
【0035】
<<5.IRスペクトル>>
焼成工程前の1.9M試料と未処理試料について測定したIRスペクトルを図4に示す。点線で囲った部分は、水酸基の伸縮モードに対応する。1.9M試料では、この領域のピーク強度が大幅に低下している。この結果は、攪拌・濾過工程によって水酸基が大幅に減少したことを示しており、この結果は、図5に示すように、脱水反応によって積層ファイバー構造が形成されていることを示唆している。
【0036】
<<6.Friedel-Craftsアルキル化反応>>
1.9M試料と未処理試料を触媒として用いて、以下の式に示すFriedel-Craftsアルキル化反応を行った。反応条件は、以下の通りである。
【0037】
触媒量:20mg
反応温度:80℃
反応時間:3時間
Arバブリング量:30ml/min
アニソール:92.5mmol
ベンジルアルコール:6.2mmol
【0038】
【化1】
【0039】
反応が終わる度に、上澄み液を除去し、反応基質を追加する操作を10回繰り返し、ベンジルアルコールの転化率の推移を調べた。その結果を図6に示す。図6から明らかなように、未処理試料の触媒は、再利用の度に転化率が低下し、10回目には活性がほぼ0になった。一方、1.9M試料では、10回の繰り返し後もほぼ100%の転化率を保っていた。この結果は、積層ファイバー構造を有する本発明のNb−W酸化物触媒が、再利用を繰り返しても活性が低下しにくいものであることを示している。
【0040】
また、反応終了から30分経過後のフラスコ内の触媒の状態を図7(a)及び(b)に示す。図7(a)に示すように、未処理試料は、30分経過後もほとんど沈殿しておらず、十分に沈殿するまで、一晩放置する必要があった。一方、1.9M試料は、30分経過後には十分に沈殿していた。この結果は、積層ファイバー構造を有する本発明のNb−W酸化物触媒が、再利用しやすいものであることを示している。
【0041】
<<7.Friedel-Craftsアシル化反応>>
1.9M試料と未処理試料を触媒として用いて、以下の式に示すFriedel-Craftsアシル化反応を行った。反応条件は、以下の通りである。
【0042】
触媒量:0.1g
反応温度:140℃
反応時間:3時間
Arバブリング量:30ml/min
アニソール:92.5mmol
オクタン酸:2mmol
【0043】
【化2】
【0044】
反応が終わる度に、上澄み液を除去し、反応基質を追加する操作を10回繰り返し、オクタン酸の転化率の推移を調べた。その結果を図8に示す。図8から明らかなように、未処理試料の触媒は、再利用の度に転化率が低下し、10回目には転化率が約10%にまで低下した。一方、1.9M試料では、10回の繰り返し後の転化率は約43%であった。この結果は、積層ファイバー構造を有する本発明のNb−W酸化物触媒が、再利用を繰り返しても活性が低下しにくいものであることを示している。
【0045】
<<8.Friedel-Craftsアルキル化流通反応>>
図9に示す裝置構成及び反応条件で、Friedel-Craftsアルキル化反応を行った。その結果を図10に示す。図10から明らかなように、未処理試料を触媒として用いたものは、15日程度で活性が低下しているのに対し、1.9M試料は、30日が経過しても活性が低下しなかった。この結果は、積層ファイバー構造を有する本発明のNb−W酸化物触媒が、高い耐久性を有するものであることを示している。
【0046】
<<9.攪拌工程で用いる媒体の影響>>
攪拌工程で用いる媒体としてシュウ酸の代わりに、塩酸水溶液(濃度:1.9M)、リン酸水溶液(濃度:1.9M)、酢酸水溶液(濃度:1.9M)又は水を用いた以外は上記と同様の方法で工程(1)〜(4)を行った。得られた試料のSEM画像を図11に示す。図11に示すように、何れの媒体を用いた場合にも積層ファイバー構造が形成されていることが分かる。なお、アンモニア水溶液を用いた実験も行ったが、ファイバーが溶解して生成物が得られなかった。
得られた試料を触媒として用いて、上記の「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の条件で実験を行った。その結果を図12に示す。図12から明らかなように、何れの媒体を用いた場合も未処理試料よりも良好な結果を示したが、シュウ酸を用いた場合よりも結果が良くなかった。
【0047】
<<10.原料比の影響>>
原料でのW/Nbのモル比が触媒活性に与える影響を調べた。攪拌・濾過工程の有無は、再利用しない場合の触媒活性には影響が小さいので、攪拌・濾過工程を行わず、焼成工程を500℃で行った試料を用いて、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の実験を行った。本実験では、原料でのW/Nbのモル比を1,5,10とした。その結果を表2に示す。なお、反応条件は、表2の通りとした。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から分かるように、W/Nbのモル比が1のものは触媒活性が低かった。この結果は、W/Nbのモル比が小さすぎると、触媒活性が低くなることを示している。なお、Nbが含まれていないものは、触媒活性がなかったので、W/Nbのモル比は大きすぎても好ましくない。
【0050】
<<11.攪拌の有無の影響>>
攪拌工程での攪拌の有無が触媒活性に与える影響を調べた。1.9M試料の作製工程において、上記の通り攪拌を行った試料、攪拌せずに室温で放置した試料、攪拌せずに80℃に放置した試料、固体が回収できるまで攪拌を継続して水及びシュウ酸を蒸発させた試料を準備し、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の反応を行った。その結果を表3に示す。なお、反応条件は、表3の通りとした。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から分かるように、攪拌工程を行わない場合、触媒活性が非常に低くなった。この結果は、高活性な触媒を得るために、攪拌工程が重要であることを示している。また、水及びシュウ酸を蒸発させてしまった試料では、活性が高くなかった。
【0053】
<<12.濾過の方法の影響>>
濾過工程での濾過の方法が触媒活性に与える影響を調べた。1.9M試料の作製工程において、上記の通り吸引濾過を行った試料と、自然濾過を行った試料を準備し、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の反応を行った。その結果を表4に示す。なお、反応条件は、表4の通りとした。
【0054】
【表4】
【0055】
表4から分かるように、自然濾過を行った場合、触媒活性が非常に低くなった。この結果は、高活性な触媒を得るために、試料に圧力が加わる方法で(つまり、減圧又は加圧下で)濾過を行うことが重要であることを示している。
【0056】
<<13.焼成温度の影響>>
焼成温度が触媒活性に与える影響を調べた。1.9M試料の作製工程において、焼成温度を300〜500℃の間で変化させて試料を準備し、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の反応を行った。その結果を表5及び図13に示す。なお、反応条件は、表5の通りとした。
【0057】
【表5】
【0058】
表5及び図13から分かるように、450℃で焼成を行った場合に触媒活性が最も高くなり、それよりも高温にすると触媒活性が急速に低下することが分かった。一方、400℃にしても触媒活性の低下は小さかった。
【0059】
<<14.焼成時の雰囲気ガスの影響>>
焼成時の雰囲気ガスの種類が触媒活性に与える影響を調べた。攪拌・濾過工程を行わず、焼成工程を500℃で行った未処理試料の作製工程において、焼成時の雰囲気ガスを窒素、酸素、空気に変えて試料を準備し、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の反応を行った。その結果を表6に示す。なお、反応条件は、表6の通りとした。
【0060】
【表6】
【0061】
また、焼成時の雰囲気ガスを6%H及び30%H(それぞれ残りの成分はアルゴン)に変えて試料を準備し、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の反応を行った。その結果を表7に示す。なお、反応条件は、表7の通りとした。
【0062】
【表7】
【0063】
表6及び表7から、焼成工程は不活性ガス又は還元性ガス雰囲気下で行うことが重要であることが分かった。
【0064】
<<15.水熱合成時間の影響>>
水熱合成時間が触媒活性に与える影響を調べた。攪拌・濾過工程を行わず、焼成工程を500℃で行った未処理試料の作製工程において、水熱合成時間を変えて試料を準備し、「6.Friedel-Craftsアルキル化反応」と同様の反応を行った。その結果を表8〜表9に示す。なお、反応条件は、表8の通りとした。
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【0067】
表8から明らかなように、水熱合成時間が168時間の場合に触媒活性が最高になった。また、表9から明らかなように、水熱合成時間が12時間までは生成量が急速に増大し、それ以降はなだらかに増大することが分かった。
【0068】
<<16.酒石酸を用いたNb−W酸化物触媒調製>>
上記「1.積層ファイバー構造を有するNb−W酸化物触媒の調製」で説明した方法において、原料でのW/Nbのモル比を5にし、シュウ酸水溶液の代わりに0.2,0.8,1.9,4.6,8.0Mの酒石酸水溶液を用いて、Nb−W酸化物触媒の調製を行った。
【0069】
1.9Mの酒石酸水溶液で処理して得られた試料(以下、「1.9M酒石酸処理試料」と称する。他の濃度の酒石酸水溶液で処理したものも同様。)のSEM画像を図14(a)〜(b)に示す。これらのSEM画像から明らかなように、1.9M酒石酸処理試料は、図1(b)及び(c)に示すシュウ酸水溶液で処理した1.9M試料と同様に、ファイバーが凝集して形成されたシートが積層された構造になっている。この結果は、シュウ酸水溶液の代わりに酒石酸水溶液を用いても、同様に、積層ファイバー構造が形成可能であることを示している。
【0070】
<<17.比表面積及びBJH細孔径分布>>
未処理試料(原料でのW/Nbのモル比を5にし、攪拌・濾過工程を行なわずに調製した試料)、0.2,0.8,1.9,4.6,8.0M酒石酸処理試料について、窒素吸着等温線を測定し、その結果に基づいて比表面積及びBJH細孔径分布を求めた。比表面積を表10に示し、BJH細孔径分布を図15に示す。
表10から明らかなように、0.2,0.8,1.9,4.6,8.0M酒石酸処理試料の表面積は、何れも未処理試料よりも大きかった。積層ファイバー構造では、ファイバーが凝集しているにも関わらず、比表面積が未処理試料よりも大きくなったのは驚くべき結果である。なお、表1の未処理試料と、表10の未処理試料とで、比表面積の値が異なるのは、両者のW/Nbのモル比が互いに異なることに起因している。
【0071】
【表10】
【0072】
また、図15のBJH細孔径分布を参照すると、未処理の試料に比べて、酒石酸水溶液中での攪拌、及びその後の濾過工程を行った試料では、細孔径のサイズが小さくなっていることが分かる。また、酒石酸水溶液の濃度が大きくなるにつれて、細孔径のサイズが小さくなっていることが分かる。
【0073】
<<18.XRD測定>>
未処理試料、0.2,0.8,1.9,4.6,8.0M酒石酸処理試料について、XRD測定を行った。その結果を図16に示す。図16のXRDスペクトルを参照すると、酒石酸の濃度が高まるにつれて、ピーク強度が低下している。この理由は、必ずしも明らかではないが、Wの一部が酒石酸に溶解してファイバーが細くなっていることが要因であると推測している。
【0074】
<<19.NH−TPD測定>>
未処理試料、0.2,0.8,1.9,4.6,8.0M酒石酸処理試料について、NH−TPD測定を行なって、酸量を測定した。その結果を図17に示す。図17に示すように、酒石酸処理を行うことによって酸量が大きくなっていることが分かる。この結果から酒石酸で処理した試料は酸量が多く、流通反応において長期間高活性を示す触媒であることが分かる。
【0075】
<<20.Friedel-Craftsアルキル化流通反応>>
1.9M酒石酸処理試料を用い、「8.Friedel-Craftsアルキル化流通反応」で説明した方法によって、Friedel-Craftsアルキル化流通反応を行った。その結果を図18に示す。「8.Friedel-Craftsアルキル化流通反応」では、30日で実験を打ち切ったが、1.9M酒石酸処理試料を用いた実験では、3ヶ月以上経過した現在も実験を継続しているが、現在でも転化率100%を維持している(図18には60日目までの結果を示している。)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18