特許第6014877号(P6014877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6014877
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】透過模様印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20161013BHJP
   B42D 25/378 20140101ALI20161013BHJP
【FI】
   B41M3/14
   B42D15/10 378
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-239427(P2013-239427)
(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-98140(P2015-98140A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−25093(JP,A)
【文献】 特開2012−121219(JP,A)
【文献】 特開2014−223763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材上の少なくとも一部に、前記基材と異なる色の印刷模様を備え、
前記印刷模様は、光遮断性の特性を有する第1のインキにより形成された第一の領域と、前記第1のインキと色相が同じ、かつ、前記第1のインキよりも濃い色の第2のインキにより形成された第二の領域から成り、
前記第一の領域は、前記第1のインキの膜厚を前記第2のインキの膜厚より厚くすることで前記第二の領域と反射光下で等色に形成され、
透過光下で、前記第一の領域と前記第二の領域が透過光量の差による明暗で区分けして視認可能なことを特徴とする透過模様印刷物。
【請求項2】
前記第一のインキは、光遮断性の高い金属顔料を含んでいることを特徴とする請求項1記載の透過模様印刷物。
【請求項3】
前記第一の領域を構成している印刷要素の周囲長は、前記第二の領域を構成している印刷要素の周囲長よりも単位面積当りの合計が短いことを特徴とする請求項1又は2記載の透過模様印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、反射光下と透過光下で画像の一部の色彩が変化する透過模様印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンター、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのため、前述したような複製や偽造を防止するため、プリンターやコピー機では再現不可能な様々な偽造防止技術が必要とされている。
【0003】
この偽造防止技術の一つとして、用紙の粗密や薄厚によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆる透かし技術が存在する。この透かし技術は、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で真偽判別が可能な技術であり、また、知名度も抜群に高いことから、古くから存在する古典的な技術であるにも関わらず、今なお世界中の銀行券で用いられている。
【0004】
透かし技術は、用紙の製造段階で形成する必要があることから、用紙メーカでなければ製造不可能であり、加えて用紙メーカが製造した場合でも製造コストが高くなるという問題があることから、これを擬似的に再現する方法として、印刷工程で特殊な浸透型インキを用いて、この透かしに相当する透過画像を印刷で形成する偽造防止技術が存在する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、浸透型インキを用いて透過光下で透かしのような透過画像を認証する透かし印刷を用いた偽造防止技術に関しては、浸透型インキ自体が多くのメーカから市販されており、一般人であっても容易に入手可能であることから、偽造者にとっても作製が容易であるという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するために、本出願人はすでに、反射光下では等色に観察されるが、透過率が異なる二つのインキをペアインキとして用いて印刷画像を形成する技術であって、反射光下で視認される反射画像とは異なる透過光下で視認される透過画像を形成してなる真偽判別と偽造防止効果に優れた透過潜像印刷物を出願している(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0007】
また、本出願人は、浸透型インキに着色顔料を混合した有色浸透インキと有色浸透インキと対を成す反射インキをペアインキとして、特殊で複雑な網点構成によって画像を形成する印刷物であって、反射光下で観察できる画像と透過光下で観察できる画像とが全く相関のない異なる画像であることを特徴とする透過潜像印刷物をすでに出願している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−228900号公報
【特許文献2】特開2011−37234号公報
【特許文献3】特開2011−143669号公報
【特許文献4】特開2012−223905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2から特許文献4に記載の技術はいずれも極めて淡い濃度のペアインキを用いて形成する必要があり、このペアインキの濃度は極端に淡いために潜像領域以外の他の部分への流用も難しい。このような専用のペアインキによって印刷機の印刷胴を2胴も占有してしまうため、潜像画像以外に使用できる色数が限定され、セキュリティ印刷物全体の色彩をデザインする上で大きな制約となっていた。
【0010】
また、特許文献3及び特許文献4に記載の技術は、拡散反射光下で見えていた有意情報が、正反射光下では全く相関のない異なる有意情報へと変化する、いわゆる画像のチェンジ効果を実現した技術であるが、所望の効果を得るためには、複数の微細な印刷要素同士が重なり合わないように印刷しなければならず、極めて高精度な刷り合わせが要求され、印刷者の高い技能と高精度な印刷機が必須であり、製造難易度が高いという問題があった。
【0011】
また、特許文献1から特許文献4に記載の技術はすべて、浸透型インキを用いて印刷画像を形成する技術であるため、所望の効果を得るために浸透型インキの使用は必須であり、浸透型インキを安定して転移させる必要があった。この浸透インキは一般的なUVインキや溶剤インキとは印刷適性が異なるため、このインキを用いて連続して安定した品質で印刷するためには一定の経験と技量が必要であり、特殊印刷に従事していない、一般的な技量の印刷作業者では潜像画像印刷物を印刷することが難しいという問題があった。
【0012】
本発明は、前述した課題の解決を目的とし、デザイン上や製造上の自由度の拡大を目的とするものであり、印刷画像の色彩が極めて淡い濃度に制限されることがなく、高精度な刷り合わせが要求されず、かつ、印刷者の高い技能と高精度な印刷機を必要とせず、特殊な浸透型インキを用いずとも一定の効果を発現する透過模様印刷物を提供するものである。
【0013】
さらに、光遮断性及び反射濃度の異なる二つのペアインキを用いて、反射光下で等色に観察できる印刷画像において、透過光下で部分的に色彩が変化することを特徴とする真偽判別と偽造防止効果に優れた透過模様印刷物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における透過模様印刷物は、光透過性を有する基材上の少なくとも一部に、基材と異なる色の印刷模様を備え、その印刷模様は、光遮断性を有する第1のインキにより形成された第一の領域と、第1のインキと色相が同じで、かつ、第1のインキよりも濃い色の第2のインキにより形成された第二の領域から成り、第一の領域は、第1のインキの膜厚を第2のインキより厚くすることで第二の領域と反射光下で等色に形成され、透過光下で第一の領域と第二の領域が透過光量の差による明暗で区分けして視認可能なことを特徴とする。
【0015】
本発明における透過模様印刷物において、第1のインキは、光遮断性の高い金属顔料を含んでいることを特徴とする。
【0016】
本発明における透過模様印刷物の第一の領域を構成している印刷要素の周囲長は、第二の領域を構成している印刷要素の周囲長よりも単位面積当りの合計が短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の透過模様印刷物は、極端に濃度が淡くなくとも充分な効果を発揮するため、ペアインキの色彩については自由に設計することができる。また、少なくともペアインキのうちの一方のインキは、印刷膜厚を片方のインキよりも薄くすることによって濃い濃度のインキを使用することができる。そのため、セキュリティ印刷物の、透過模様印刷物が付与された以外の領域にも流用することができ、セキュリティ印刷物全体としても色彩豊かなデザインとすることができる。
【0018】
本発明の透過模様印刷物においては、二つの印刷領域を異なるインキで形成する単純な構成であるため、従来技術のような高精度な刷り合わせを必要とせず、製造難度が低い。
【0019】
本発明の透過模様印刷物は、光遮断性に優れたインキを厚く盛るため、従来の技術のように浸透型インキを用いなくとも透過光下における二つのインキの異色性を高めることができる。このため、印刷が難しい浸透型インキの使用が必須条件ではなくなった。
【0020】
以上の手法で形成した透過模様印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れ、また最新のデジタル機器を用いたとしても透過画像の再現は不可能であることから、偽造防止効果に優れる。また、特別な道具を用いることがなく、透かすだけで認証できるため、判別性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明における透過模様印刷物を示す。
図2】本発明における透過模様印刷物の構成の概要を示す。
図3】本発明における透過模様印刷物の断面を示す。
図4】本発明における透過模様印刷物の観察状態を説明するための図である。
図5】本発明における透過模様印刷物の第一の領域の構成の一例を示す。
図6】本発明における透過模様印刷物の第二の領域の構成の一例を示す。
図7】透過時のドットロスを示す。
図8】本発明における透過模様印刷物の構成の概要を示す。
図9】本発明における別の態様の透過模様印刷物の観察状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0023】
図1に、本発明における透過模様印刷物(1)を示す。透過模様印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されて成る。
【0024】
本発明における透過模様印刷物(1)を構成する基材(2)は、上質紙やコート紙、透明フィルムやプラスティックのように、光を透過する特性、いわゆる光透過性を有する必要がある。不透明なプラスティックや金属では透過光下での効果は得られない。基材(2)や印刷画像(3)の色彩については特に制約はない。
【0025】
図2に、印刷画像(3)の構成の概要を示す。印刷画像(3)は、第一の領域(4)と第二の領域(5)の二つの領域を有する。本実施の形態において、印刷画像(3)は桜の花びら全体を表し、第一の領域(4)は二つの花びら、第二の領域(5)は三つの花びらを表して成る。印刷画像(3)は、基材(2)と異なる色彩を有していれば、透明以外の如何なる色彩であっても良い。
【0026】
反射光下において、第一の領域(4)と第二の領域(5)は等色に観察される。本発明でいう等色とは、観察者が注意を払わずに画像を一瞥した場合に、同じ色彩であると感じられる程度に二つの色彩が近い状態を指すこととする。具体的には色差ΔEが9以下の数値までを本発明上の等色と定義する。
【0027】
第一の領域(4)は、透明以外の色彩を有し、かつ、隣り合う第二の領域(5)よりも光透過性が低い必要がある。このような第一の領域(4)の特性を充たすために、印刷で本発明の透過模様印刷物(1)を形成するにあたっては、第一の領域(4)を形成するインキである第1のインキには、第二の領域(5)を形成するインキである第2のインキと比較して、より高い光遮断性が必要となる。これは、本発明の透過光下での効果を生じさせるために必須となる特性である。
【0028】
第一の領域(4)を形成する第1のインキは、高い光遮断性を有する必要がある。具体的には、二酸化チタンや酸化鉄、酸化亜鉛等のような光反射性の高い金属顔料を含んだインキを用たり、二酸化ケイ素や炭酸カルシウム等を含んだインキを用いることもできる。あるいは、特殊な金属顔料を含まない一般的なインキを用いて、厚い膜厚で印刷することで高い光遮断性を実現しても良い。
【0029】
一方、第二の領域(5)を形成する第2のインキは、高い光遮断性を有する必要はなく、第1のインキと比較して、相対的に光遮断性が低い必要がある。着色するにあたっては、一般的な着色顔料や着色染料を用いても良い。これは、透過光下で観察した場合に、第二の領域(5)を明るい色彩とするために必要とされる特性である。効果をより強調したい場合には、従来技術同様に透かしインキ(浸透型インキ)に着色染料や着色顔料を混合したインキを用いても問題ない。このようなインキを「有色浸透インキ」と呼ぶが、このインキについては、後述する。
【0030】
また、第一の領域(4)は隣り合う第二の領域(5)と等色である必要があるものの、それぞれの領域を形成するインキ自体の色彩は異なっている必要がある。具体的には、第1のインキと第2のインキの色相は同じであるが、その濃淡は異なる必要がある。より具体的には、第1のインキと第2のインキを仮に同じインキ膜厚で同じ網点面積率で印刷した場合には、第1のインキよりも第2のインキのほうが濃い反射濃度を有している必要がある。
【0031】
第1のインキと第2のインキはその濃淡が異なる関係にあるが、印刷画像(3)上の第一の領域(4)と第二の領域(5)は等色としなければならない。濃淡の異なるインキで形成した領域を等色関係にするために、本発明の透過模様印刷物(1)においては図3に示すように、それぞれ第一の領域(4)と第二の領域(5)のインキ膜厚を異ならせることでこの関係を実現している。具体的には、淡い第1のインキで厚いインキ皮膜を構成することによって第一の領域(4)を構成し、濃い第2のインキで薄いインキ皮膜を構成することによって第二の領域(5)を構成する。
【0032】
以上の構成で形成した透過模様印刷物(1)の効果を図4に説明する。図4に示すように、透過模様印刷物(1)を反射光下で観察した場合、観察者(7)には、第一の領域(4)と第二の領域(5)が等色である印刷画像(3)が視認される。
【0033】
また、図4(b)に示すように、透過模様印刷物(1)を透過光下で観察した場合、観察者(7)には、第一の領域(4)と第二の領域(5)が異色に変化した印刷画像(3)が区分けされて視認される。具体的には、第一の領域(4)は暗い色彩で、第二の領域(5)は明るい色彩で視認される。
【0034】
以上のように本発明の透過模様印刷物(1)は、観察条件に応じて、印刷画像(3)の中の第一の領域(4)と第二の領域(5)が等色となり、もしくは第一の領域(4)と第二の領域(5)が異色となる効果を有する。
【0035】
なお、本発明における「反射光下での観察」とは、観察者の視点が正反射光がほとんど存在しない領域中にあって、透過模様印刷物(1)を可視光下で観察している状況を示しており、本発明における「透過光下での観察」とは、観察者の視点が透過光下の領域中にあって、透過模様印刷物(1)を観察している状況を示している。
【0036】
本発明の透過模様印刷物(1)の最大の特徴は、色相は同じだが、濃淡の異なる非等色ペアインキを用い、それぞれのインキの膜厚を制御することによって二つの領域を等色にすることにある。このように、非等色ペアインキを用いてそれぞれの印刷領域のインキ膜厚を変えて構成する主な二つの理由について以下に記す。
【0037】
非等色ペアインキを用いて等色の印刷領域を構成する二つの理由のうち、一つについて以下に説明する。発明が解決しようとする課題でも触れたが、オフセット印刷のようなインキ転移量の少ない印刷方式を用いて、本発明のように画像を変化させる特殊な効果を有する印刷画像を形成した場合、印刷画像の色彩は、一般に淡い色彩であることが求められることが多い。
【0038】
これは、優れた光学変化特性を有する最新の機能性顔料を含んだインキを用いたとしても、オフセット印刷等で転移させられるインキ転移量には限界があり、結果として、形成した画像で実現できる色彩変化等は極めて小さくなるため、もともとの印刷画像が高い濃度であった場合には、その変化が認識されづらいことが一因にある。そのため、例えば、引用文献2から引用文献4までに挙げた潜像印刷物を印刷する場合、極端に淡い色彩で等色の関係にある等色ペアインキが必要になる。
【0039】
一方、印刷機が一度に使用できるインキの色数には当然のことながら制約があり、例えば、セキュリティ印刷物を印刷するために四色印刷機を用いた場合、この潜像画像を印刷するためだけに、等色ペアインキを使用しなければならず、同じ色彩のインキによって二色分のユニットが占有される。
【0040】
また、この二色が極端に淡い色彩である場合には、潜像画像以外のセキュリティ印刷物に必要とされる他の印刷要素、例えば、地紋模様や彩紋、文字、マーク、記号、記載事項等への流用も困難である。そのため、一般的な四色印刷機を使用した場合には、潜像画像以外の領域を二種類の色ですべて形成する必要がある。
【0041】
たとえ機能が優先されるセキュリティ印刷物であっても、印刷物上の色数が多く、色鮮やかな表現が成されたものがより見栄えが良いことは言うまでもなく、潜像画像の形成にあたって、前述したように流用の効かない極端に淡い二種類のインキを使用しなければならないことは、セキュリティ印刷物全体としての色彩設計上の大きな負荷となっていた。
【0042】
本技術では、印刷画像(3)の形成にあたって従来のような等色ペアインキではなく、色相は同じでも濃淡の大きく異なった非等色ペアインキを用いることで、この問題を解決した。すなわち、非等色ペアインキのうち、濃い第2のインキを一般のインキと同じ程度の濃度のインキとすることで、第2のインキは潜像画像以外のセキュリティ印刷物に必要とされる他の印刷要素、地紋模様や彩紋、文字、マーク、記号、記載事項等への流用が可能となった。
【0043】
このような構成を用いることで、従来の技術と比較して印刷胴は1胴余るため、他の任意の色を用いることができる。これが非等色ペアインキを用い、それぞれのインキ膜厚を変えて構成する理由の一つである。
【0044】
非等色ペアインキを用いてインキ膜厚を変えて構成する二つの理由のうち、もう一つの理由について以下に説明する。等色である二つの領域を異なるインキで形成する場合、インキ自体の色彩が同じである等色ペアインキを用いて同じ印刷膜厚で形成するのが一般的である。この場合、二つの領域の光透過性の差異は、完全に二つのインキの機能性のみに依存することとなる。言い換えれば、印刷物の効果は、二つのインキの性能のみによって決定され、仮に使用するインキの性能が充分でない場合、印刷作業において効果を高めるために成し得る工夫はない。
【0045】
通常、インキ中に含まれる特定の機能性材料由来の効果を高くしようと意図する場合には、インキ中に含まれる機能性材料の配合率を高くすることが一般的である。本透過模様印刷物(1)においても当然のことながら、第1のインキ中の光遮断性を有する機能性材料は、印刷適性を阻害しない範囲で最大の量を配合することを前提としている。しかし、本透過模様印刷物(1)はオフセット印刷で形成できることが特徴の一つであり、オフセット印刷においてインキ中に配合できる機能性材料の量は他のグラビアやスクリーンといったその他の印刷方式と比較して極めて少なく、機能性材料の配合割合を最大まで高めたとしても、満足な結果を得ることが難しい場合がある。このような場合には、一般的な等色ペアインキを用いて印刷画像(3)を形成する従来の技術においては、インキの性能が充分でないと判断され、この時点で効果のある透過模様印刷物(1)の形態は不可能となる。
【0046】
これに対し、本発明の透過模様印刷物(1)においては、従来のような二つのインキの性能に加え、印刷作業によってインキ皮膜の厚さの差異を設けるよって、その効果をより一層高めることを意図している。すなわち、インキ皮膜の厚薄によってそれぞれの領域における光透過性の差異を高めている。
【0047】
物質を突きぬける透過光は、入射する物質の材質や色彩、密度等の様々な特性の違いによってその大小が変化するが、その中でも物質の厚さの違いによる変化は顕著である。物質の厚さが厚くなれば透過光は減少し、物質の厚さが薄くなれば透過光は増大する。本発明の第一の領域(4)では、低い光透過性が求められることから、第一の領域(4)のインキ膜厚を厚く形成することで、第一の領域(4)の光透過性を低く抑えることができる。また、第1のインキの高い光遮断性が、インキ中に含まれる二酸化チタンや酸化亜鉛等の機能性材料によって実現されている場合、基本的にはインキ膜厚が厚ければ厚いほど、これらの機能性材料の転移量もインキ膜厚に比例して多くなるため、第一の領域(4)の光透過性が低くなり、本発明の効果がより高まる。また同時に、一方の第二の領域(5)に関しては光透過性が高いことが望まれるため、インキ膜厚を薄く抑えることによってこの特性を充たすことができ、第一の領域(4)と第二の領域(5)の光透過性の差異を顕著にすることによって、本発明の効果を高めることができる。
【0048】
以上のように、機能性材料の配合割合を最大まで高めた第1のインキを用いた上で、インキ膜厚を厚くすることによって第一の領域(4)の光透過性をより低く抑え、一方の第2のインキでインキ膜厚を相対的に薄くすることで第二の領域(5)の光透過性を高く保ち、本発明の効果を高めている。これが非等色ペアインキを用いインキ膜厚を変えて二つの領域を構成するもう一つの理由である。
【0049】
以上のような理由によって、非等色ペアインキを用いてインキ膜厚を変えて二つの領域を構成した本発明の透過模様印刷物(1)を作製しており、いずれも発明の効果を高めるために必須となる構成である。
【0050】
また、上記の必須の構成に加えて、図6及び図7に示すように第一の領域(4)と第二の領域(5)を構成する単位面積当たりに含まれる印刷要素の周囲長を異ならせた構成を併用しても良い。これは、第一の領域(4)と第二の領域(5)の透過性を異ならせるために有効な工夫の一つである。
【0051】
より具体的には、第一の領域(4)及び第二の領域を構成する、網点、画線、画素等の印刷要素の合計の周囲長において、第二の領域(5)の単位面積当たりに含まれる印刷要素の合計の周囲長を、第一の領域(4)の単位面積当たりに含まれる印刷要素の合計の周囲長より長くすることで本発明の透過模様印刷物(1)の効果を高めることができる。
【0052】
本明細書でいう印刷要素とは、網点や画線、画素等の画像を形成するための微小な要素のことであり、周囲長とは、印刷要素が印刷されている印面と、印刷要素が印刷されていない基材(2)、すなわち、余白部との境界線の長さのことである。すなわち、「単位面積当たりに含まれる印刷要素の合計の周囲長」とは、一定面積中における印刷要素と基材(2)が接する境界の長さをすべて足し合わせた長さのことである。
【0053】
第一の領域(4)においては、この長さを可能な限り短くすることが望ましい。この理由については後述するが、具体的な構成としては、図6(a)に示すようにベタで塗りつぶすか、ベタで塗りつぶさない場合には、図6(b)に示す構成のように幅の広い画線で形成されるか、図6(c)に示すように解像度の低い画素や網点で形成する。
【0054】
なお、第一の領域(4)が、図6(a)に示すようなベタで塗りつぶされた形態の場合、印刷要素は一つ、つまり、ベタの部分全体が印刷要素と成り、図6(b)に示すような画線の形態及び図6(c)に示すような画素の形態の場合、印刷要素は複数配置されて成る。
【0055】
本明細書における「画線」とは、印刷画像を形成する最小単位である印刷網点を特定の方向に連続して配置したものであり、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線を言う。一方、「画素」とは、印刷網点を一塊にしたものであり、円や三角形、四角形を含む多角形、星型等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等も含まれる。
【0056】
また、第二の領域(5)は、網点、画線、画素等の複数の印刷要素で構成できるが、いずれの印刷要素を用いて構成したとしても、第一の領域(4)よりも単位面積当たりに含まれる印刷要素の合計の周囲長を長くすることが望ましい。この理由については後述するが、具体的な構成としては、図5(a)に示すように微細な画線で形成されるか、図5(b)に示す構成のように微細な画素や網点で形成される。
【0057】
まず、図7を用いて、第一の領域(4)の単位面積あたりの周囲長を短く構成し、第二の領域(5)の単位面積あたりの周囲長を長く構成する理由について説明する。
【0058】
一般に、基材(2)に印刷された印刷要素を透過光で観察した場合、観察される印刷要素は、実際に印刷した大きさよりもわずかに小さく視認される。これは、印刷した印刷要素と基材(2)が接する境界から透過光が画像部へとわずかに回り込み、境界から一定の距離ΔLだけ印刷要素の面積が減少するためである。この結果、印刷要素は淡く感じられる。本明細書において本現象を「透過時のドットロス」と呼ぶこととする。
【0059】
この透過時のドットロスは、印刷要素と基材(2)の接する境界からの一定の距離ΔLの範囲で発生するものであるから、印刷要素と基材(2)の接する境界の長さ、すなわち印刷要素の周囲長が長いほうが、この効果は顕著になる。
【0060】
よって、図7(a)に示すように、ベタに構成された印刷要素(8)、すなわち単位面積当たりに含まれる印刷要素の周囲長が短い画像を透過光下で観察した場合に生じる透過時のベタな画像要素(8´)のドットロスよりと、図7(b)に示すように、密に構成された印刷要素(9)、すなわち単位面積当たりに含まれる印刷要素の周囲長が長い画像の透過時の密な画像要素(9´)のドットロスを比較した場合、図7(b)に示した密に構成された印刷要素(9)の方が、ドットロスは相対的に大きくなる。
【0061】
結果として、反射光下では同じ濃淡で構成されていた画像であっても、単位面積当たりに含まれる、画線や画素、網点等の印刷要素の合計の周囲長が長いほうが、透過光下ではより淡く見え、効果がより高まる。
【0062】
以上のように、本発明の透過模様印刷物(1)の透過光下での効果を高めることを目的として、透過時のドットロスを利用してより効果的に明度の差を生み出すために、第二の領域(5)の単位面積当たりに含まれる印刷要素の合計の周囲長を、第一の領域(4)の単位面積当たりに含まれる印刷要素の合計の周囲長よりも大きく設計しても良い。なお、周囲長については、スクリーン線数等によって決定しても良い。
【0063】
また、第一の領域(4)と第二の領域(5)のそれぞれの領域の印刷要素の面積率は同じである必要はなく、等色性を高めるために必要に応じて、第一の領域(4)の印刷要素の面積率と第二の領域(5)の印刷要素の面積率の大小を調整しても良い。
【0064】
また、第1のインキだけでなく、第2のインキにも特殊な機能性インキを用いても良い。第2のインキに用いることが可能な機能性インキとして、最も効果が高い、「有色浸透インキ」について説明する。有色浸透インキとは、印刷した画像が透過光下で透けて見える(非印刷部よりも明るく観察される)効果を有する浸透成分を含む浸透型インキに、色材を混合することで形成したインキである。
【0065】
有色浸透インキとは、基材に印刷した場合に、反射光下では、はっきりと視認できる色彩を有した画像を形成できる一方、透過光下では、その画像を極端に淡く変化させる効果を有する。言い換えると、通常の着色インキと比較して、「透かすと画像がより淡く見える」効果を有したインキである。有色浸透インキは、浸透成分と色材とを含んで構成され、浸透成分が基材内部の光の散乱を抑制することで生じさせる透過率の上昇によって、画像が淡く見える効果を実現している。
【0066】
浸透成分が透かしインキとして一般に販売されているインキに相当する程度の性能を備えていれば、一定量の色材を混合して「透かすと画像が淡く見える」効果を有する有色浸透インキとすることは可能である。有色浸透インキに混合する色材は、着色顔料や着色染料として販売されている印刷色材を用いれば良い。印刷物として市場に流通させることを目的とすると、長期にわたる堅牢性が得られやすい着色顔料を用いることが望ましい。
【0067】
なお、本発明における浸透成分とは、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる働きを成す成分のことを指し、具体的には、セルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等を指す。これらの成分は、印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
【0068】
また、本発明における「浸透型インキ」とは、前述した浸透成分を含み、一般に透かしインキとして販売されているインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA製ベストワン透かしインキ、帝国インキ製ユニマーク、東洋インキ製SMXすかしインキ、合同インキ製E2ニス等が存在する。本発明の有色浸透インキは、これらのインキを用いても作製可能である。
【0069】
第1のインキには光遮断性に優れる機能性インキを用い、一方の第2のインキに有色浸透インキを用いた場合、第一の領域(4)の光透過性は低く、第二の領域(5)の光透過性は高くなり、明暗のコントラストによって本発明の透過模様印刷物(1)の効果は最も高まるため、透過光下での効果を優先したい場合には最も望ましい構成である。
【0070】
また、第1のインキ及び第2のインキに脱刷や印刷不良等の発生の有無を見極めることを目的又は真偽判別性の向上を目的として、蛍光顔料や蛍光染料、燐光顔料、蓄光顔料等の発光顔料や発光染料、赤外線吸収材料や赤外反射材料等の機能性材料を添加しても何ら問題ない。
【0071】
また、実施の形態の説明では、印刷画像(3)が桜の花びらを表現した有意情報を表し、透過光下で有意情報が異なる色彩へと変化する例で説明したが、図8に示す例のように、第一の領域(4´)と第二の領域(5´)が一つの有意情報(アルファベットの「B」の文字)の濃淡が反転した関係にある2つの画像の構成を用いて印刷画像(3´)を形成することによって、図9に示すように印刷画像(3´)は有意情報を表さず、透過光下で有意情報が異なる濃淡で表現されて出現する形態とすることもできる。
【0072】
本発明の透過模様印刷物(1)の印刷方式は、オフセット印刷で十分な効果を発揮するが、製造者のシーズに応じてフレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリーン印刷等で形成しても良い。
【0073】
また、コンビネーション印刷機を用い、異なる印刷方式、例えばオフセット印刷とフレキソ印刷により、効果的に膜厚差を設け、形成することも可能である。
【0074】
本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。
【0075】
また、本発明における「色相が同じ」とは、二つの色において赤、青、黄といった色の様相が一致し、可視光領域の波長の強弱の分布が二つの色において相関を有することである。
【0076】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した透過模様印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0077】
本実施例は、実施の形態同様に図1から図4までを用いて説明する。図1に実施例1における透過模様印刷物(1)を示す。透過模様印刷物(1)は、基材(2)の上に、緑色の印刷画像(3)が形成されて成る。基材(2)には、一般的な白色上質紙(しらおい 日本製紙製)を使用した。
【0078】
印刷画像(3)は、図2に示す第一の領域(4)と第二の領域(5)から構成した。反射光下の観察では、第一の領域(4)と第二の領域(5)は目視上等色の緑色に観察できる。
【0079】
第一の領域(4)は、図3(a)に示すような面積率100%のベタの構成で第1のインキを用いて形成した。第1のインキは、チタンを顔料とする白インキ(No.3 UVLカートン白 GW T&K TOKA製)に緑インキ(UVL Panton381 緑 T&K TOKA製)を7:3で混合することで作製した。この第1のインキは高い光遮断性を有する。以上の構成の第一の領域(4)をオフセット印刷で印刷した。
【0080】
第二の領域(5)は、図2(b)に示すような網点面積率100%のベタの構成で、第2のインキを用いて形成した。これを緑インキ(UVL Panton381 緑 T&K TOKA製)をベースに、極微量の黄色顔料と赤色顔料を添加して色調整して作製した第2のインキを用いて印刷した。本実施例1において第1のインキと第2のインキは同じ緑の色相であって、反射濃度のみ異なるインキとなった。第2のインキのほうが濃く、第1のインキと比較して緑成分の反射濃度が約2分の1である。以上の構成の第二の領域(5)をオフセット印刷で印刷した。それぞれの印刷膜厚は図3に示すように第一の領域(4)のインキ膜厚を第2のインキのインキ膜厚の約二倍となるように調整し、第一の領域(4)と第二の領域(5)を等色化した。
【0081】
以上の構成で作製した透過模様印刷物(1)の効果について、図4を用いて以下に説明する。図4(a)に示すように、透過模様印刷物(1)を反射光下で観察した場合、観察者(7)には、第一の領域(4)と第二の領域(5)が等色の緑色で花びらとして視認された。
【0082】
また、図4(b)に示すように、透過模様印刷物(1)を透過光下で観察した場合、観察者(7)には、第一の領域(4)と第二の領域(5)が異色に変化した印刷画像(3)が視認された。具体的には第一の領域(4)は暗い緑色で、第二の領域(5)は明るい緑色で視認された。
【0083】
以上のように本発明の透過模様印刷物(1)は、観察条件に応じて、印刷画像(3)の中の第一の領域(4)と第二の領域(5)が等色となり、もしくは第一の領域(4)と第二の領域(5)が異色となる効果を有することが確認できた。
【実施例2】
【0084】
本実施例は、第二の印刷領域(5)を形成する第2のインキに有色浸透インキを用いた例である。第二の領域(5)以外の構成は、実施例1と同様であるため省略する。
【0085】
第二の領域(5)は、図2(b)に示すような網点面積率100%のベタの構成で、第2のインキを用いて形成した。網点構成で形成した。これを第2のインキである表1のインキを用いて印刷した。本実施例において第1のインキは第2のインキと比較して緑成分の濃度が約2分の1である。以上の構成の第二の領域(5)をオフセット印刷で印刷した。表1の浸透型インキはいわゆる透かしインキである。
【0086】
【表1】
【0087】
以上の構成で作製した透過模様印刷物(1)の効果について、図4を用いて以下に説明する。図4(a)に示すように、透過模様印刷物(1)を反射光下で観察した場合、観察者(7)には、第一の領域(4)と第二の領域(5)が緑色の花びらとして視認された。
【0088】
また、図4(b)に示すように、透過模様印刷物(1)を透過光下で観察した場合、観察者(7)には、第一の領域(4)と第二の領域(5)が異色に変化した印刷画像(3)が視認された。具体的には第一の領域(4)は暗い緑色で、第二の領域(5)は極めて明るい緑色で視認された。第一の実施例と比較して第二の領域(5)はより明るく淡い緑色であった。
【0089】
以上のように本発明の透過模様印刷物(1)は、観察条件に応じて、印刷画像(3)の中の第一の領域(4)と第二の領域(5)が等色となり、もしくは第一の領域(4)と第二の領域(5)が異色となる効果を有することが確認できた。
【符号の説明】
【0090】
1 透過模様印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 第一の領域
5 第二の領域
6 光源
7 観察者の視点
8 ベタな印刷要素
8´ 光透過時のベタな画像要素
9 密な印刷要素
9´ 光透過時の密な画像要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9