(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料の一つに、炭素繊維からなる強化材とマトリクス樹脂とにより形成される炭素繊維強化複合材料がある。マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの種々の樹脂が使用されており、なかでもエポキシ樹脂が広く使われている。一方、炭素繊維は、再生セルロース、ポリアクリロニトリル、ピッチ等を出発原料として製造され、その化学組成の約90%以上が炭素からなる繊維となっている。
【0003】
このような炭素繊維は、例えば高強度炭素繊維や高弾性炭素繊維等に区分され、軽量でかつ比強度および比弾性率に優れ、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れている。そのため、スポーツ・レジャー用品の構成部品や宇宙・航空機用器材等の広範囲にわたる用途の繊維強化複合材料として使用されており、またさらなる用途開発が進められている。
【0004】
炭素繊維とマトリクス樹脂からなる炭素繊維強化複合材料の製造方法としては、マトリクス樹脂を薄く塗布した離型紙上に、炭素繊維を一方向に並べて配置したり、製織した炭素繊維を配置したりすることにより樹脂を含浸させるプリプレグ法や、樹脂浴中に炭素繊維を浸して通過させるディッピング法等が挙げられる。炭素繊維強化複合材料の多くは、プリプレグ法により得られている。
【0005】
このような炭素繊維強化複合材料の製造の際、炭素繊維は、伸度が小さくかつ脆いという性質を有しているために機械的摩擦等によって毛羽が発生しやすい。そのため、毛羽の発生の抑制等を目的として、炭素繊維強化複合材料の製造工程においては炭素繊維にサイジング処理が施される。サイジング処理を施すことによって炭素繊維に収束性を付与することで、毛羽の発生を抑えることが可能となる。
【0006】
また、炭素繊維強化複合材料は様々な構造材料として適用されることから、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度は優れていることが望まれる。そのため、炭素繊維強化複合材料の強化材である炭素繊維は、特に航空機、車両等に適用する場合においてさらなる高性能化の要望が高まっており、高強度化を目指した開発が行われている。
【0007】
例えば、サイジング剤により炭素繊維に収束性以外の機能を付与して強度を向上させる技術として、以下のような方法が知られている。
エポキシ基を有するゴムラテックスを含むサイジング剤を用いてサイジング処理を施すことにより、得られる炭素繊維強化複合材料の0°引張強度と衝撃強さに優れ、かつ接着強さに優れた炭素繊維強化複合材料を与える炭素繊維束および平滑性を向上させる方法(特許文献1)。
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物を含むサイジング剤を用いてサイジング処理を施すことにより、得られる炭素繊維強化複合材料の0°引張強度と圧縮強度に優れ、かつ繊維長手方向に垂直な方向の引張強度および層間せん断強度を向上させる方法(特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[サイジング剤]
本発明のサイジング剤は、下記式(I)で表される単官能のエポキシ化合物(以下、単官能エポキシ化合物(I)と称する。)を含有するサイジング剤である。また、本発明のサイジング剤は、炭素繊維束に付着させる炭素繊維束用サイジング剤として用いることができる。この単官能エポキシ化合物(I)は、アルキル基、フェニル基、およびアルキルフェニル基のうちのいずれかの基の末端に、グリシジルエーテル基が結合した構造を有している。なお、本発明において、単官能エポキシ化合物(I)は、1種を単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0020】
式中、Rはアルキル基、フェニル基またはアルキルフェニル基を表す。
Rがアルキル基の場合、単官能エポキシ化合物(I)、即ち、アルキルモノグリシジルエーテル中のアルキル基の炭素原子数は、揮発を抑制する観点から、3以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、このアルキルモノグリシジルエーテル中のアルキル基の炭素原子数は、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは30以下である。アルキル基の炭素原子数が200以下であると、このアルキル基が折れ曲がって官能基(グリシジルエーテル基)を封鎖することを防ぎやすくすることができ、適度な接着性を得やすくすることができ、結果として0°引張強度の低下を確実に抑制することができやすくなる。なお、このアルキル基は、直鎖状であっても良いし、分岐鎖状であっても良い。
【0021】
また、Rがアルキルフェニル基の場合、このアルキルフェニル基中のアルキル基の炭素原子数は、揮発を抑制する観点から1以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。また、アルキルフェニル基中のアルキル基の炭素原子数は、200以下であることが好ましく、より好ましくは100以下、さらに好ましくは30以下である。炭素原子数が200以下であると、アルキルフェニル基中のアルキル基が折れ曲がって官能基(グリシジルエーテル基)を封鎖することを防ぎやすくすることができ、適度な接着性を得やすくすることができ、結果として0°引張強度の低下を抑制しやすくなる。
【0022】
なお、このアルキルフェニル基におけるアルキル基の数は1つ(即ちモノアルキルフェニル基)であっても良いし、複数(例えば、ジアルキルフェニル基)であっても良い。
さらに、これらのアルキル基は、直鎖状であっても良いし、分岐鎖状であっても良い。
【0023】
以上より、式(I)中のRは、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1以上200以下のアルキル基を有しても良いフェニル基、あるいは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数3以上200以下のアルキル基を表すことができる。
【0024】
単官能エポキシ化合物(I)を含むサイジング剤は、炭素繊維強化複合材料中の炭素繊維とマトリクス樹脂の界面層に適度な接着性を形成することができやすく、引張荷重時のクラック進展の抑制ができやすくなり、0°引張強度に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができやすくなる。
【0025】
単官能エポキシ化合物(I)の具体例としては、例えば、アルキルモノグリシジルエーテル(共栄社化学社製、商品名:エポライトM−1230、このアルキルモノグリシジルエーテルは、アルキルモノグリシジルエーテル中のアルキル基の炭素数が12〜13の混合物である)やフェニルグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX−141)、アルキルフェニルモノグリシジルエーテル(三菱化学社製、商品名:YED122、このアルキルフェニルモノグリシジルエーテル中のアルキル基の炭素数は4である)等が挙げられる。
【0026】
本発明のサイジング剤は、単官能エポキシ化合物(I)からなることもでき、また、単官能エポキシ化合物(I)以外に、その他のエポキシ化合物を含んでいてもよい。なお、エポキシ化合物とは、分子構造中にエポキシ基を有する化合物を意味し、エポキシ樹脂も含まれる。
【0027】
サイジング剤に含むことができるその他のエポキシ化合物は、炭素繊維束のサイジング処理に用いることができるものであれば良い。その中でも、粘度調整の観点から、その他のエポキシ化合物として、液状のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。液状のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAから得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFから得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールSから得られるビスフェノールS型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、アルカンジオールジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし、複数種類を併用しても良い。
【0028】
また、サイジング剤は、サイジング処理後の炭素繊維束の取り扱い性、耐擦過性および耐毛羽性の向上、マトリクス樹脂の含浸性の向上の点から、必要に応じて、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等のエポキシ樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
また、本発明のサイジング剤を炭素繊維束に塗布する際に例えば水分散液として用いる場合、サイジング剤には乳化剤が含まれていることが好ましい。乳化剤により、サイジング剤が炭素繊維束に浸透しやすくなり、単繊維毎に充分にサイジング剤を付着させることが容易にできやすくなる。なお、サイジング剤に含有されるエポキシ化合物の全量(100質量部)に対して、乳化剤は質量比で1/50(2質量部)以上、1/2(50質量部)以下含まれることが好ましい。また、乳化剤は、質量比で3/20(15質量部)以上、1/3(33質量部)以下含まれることがより好ましい。乳化剤の含有量が2質量部以上であると、良好な安定性を有するサイジング剤液を容易に得ることができやすくなる。また、乳化剤の含有量が50質量部以下であると、このサイジング剤液で炭素繊維を処理した際に、炭素繊維の表面が乳化剤によって被覆されてサイジング剤が有効に作用し得なくなることを容易に防ぐことができやすくなり、炭素繊維の0°引張強度向上の効果を容易に得ることができやすくなる。
【0030】
乳化剤は、特に限定されないが、サイジング剤の貯蔵安定性に優れる点から、ノニオン系乳化剤であることが好ましい。
ノニオン系乳化剤は、炭素繊維束へのサイジング剤の付着性を向上させることができるものであれば特に限定されない。しかし、特にエポキシ化合物のみ(単官能エポキシ化合物(I)、及び必要に応じてその他のエポキシ化合物)からなるサイジング剤を乳化させる場合には、ノニオン系乳化剤として、高級アルコールエーテル型ポリオキシエチレン付加物、高級脂肪酸型ポリオキシエチレン付加物、及びアルキルフェニルエーテル型ポリオキシエチレン付加物等を用いることが好ましい。また、本発明のサイジング剤では、エポキシ化合物に対する乳化性能が特に高いことから、ノニオン系乳化剤として、アルキルフェニルエーテル型ポリオキシエチレン付加物を用いることがより好ましい。また、本発明のサイジング剤は、乳化剤の他、必要に応じて分散剤等の任意の補助成分が添加されていても良い。
【0031】
サイジング剤中のエポキシ化合物の合計含有割合は、乳化剤の添加割合の観点から、65質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。また、サイジング剤中のエポキシ化合物の合計含有割合は、炭素繊維束へのサイジング剤の付着性の観点から、80質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、サイジング剤に含有される全てのエポキシ化合物中に占める単官能エポキシ化合物(I)の割合は、10質量%以上100質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上、60質量%以下とすることがより好ましい。
エポキシ化合物中の単官能エポキシ化合物(I)の割合が10質量%以上であれば、サイジング処理による炭素繊維束への機能が充分に得られやすい。また、100質量%以下であれば、粘度調整が容易になり、サイジング処理後の炭素繊維束に充分な収束性が得られやすい。
【0033】
[サイジング剤が付着した炭素繊維束]
本発明のサイジング剤が付着した炭素繊維束(以降、サイジング処理炭素繊維束と称することがある)は、炭素繊維束に、前述のサイジング剤が付着している。また、本発明のサイジング処理炭素繊維束は、炭素繊維束と、本発明のサイジング剤とからなることができる。サイジング処理炭素繊維束に用いる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維やピッチ系炭素繊維、レーヨン・セルロース系炭素繊維等の種々の炭素繊維を用いることができる。この中でも、高弾性及び高強度の所望の炭素繊維を得ることが容易である点から、ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0034】
また、サイジング処理炭素繊維束に用いる炭素繊維は、例えば、引張弾性率が250GPa以上の中弾性タイプの炭素繊維であっても良く、300GPa以上の高弾性タイプの炭素繊維であっても良い。しかし、サイジング処理炭素繊維束には、引張弾性率が250GPa以上300GPa未満の炭素繊維を用いることが好ましい。これにより、後述する広範囲な用途に使用するのに適した炭素繊維強化複合材料を容易に作製することができる。なお、この引張弾性率は、JIS−R7608の引張試験により測定することができる。
【0035】
また、サイジング処理炭素繊維束に用いる炭素繊維束は、サイジング剤が付着される前に、必要に応じて電解表面処理等の表面酸化処理が施されていてもよい。この炭素繊維束の単繊維数は適宜設定することができるが、電解表面処理が良好に行われる観点から6,000本以上60,000本以下とすることが好ましい。
【0036】
本発明のサイジング処理炭素繊維束におけるサイジング剤の付着率Aは、下記式(II)により求めることができる。
付着率A(%)=100×(W2−W1)/W1 ・・式(II)
W1:サイジング剤付着前の炭素繊維束の質量
W2:サイジング剤付着後の炭素繊維束(サイジング処理炭素繊維束)の質量。
【0037】
本発明のサイジング処理炭素繊維束は、サイジング剤が付着していない炭素繊維束の乾燥質量(100質量%)に対して、本発明のサイジング剤が0.01質量%以上4.0質量%以下付着していることが好ましい。即ち、上記サイジング剤の付着率Aが、0.01質量%以上、4.0質量%以下であることが好ましい。また、付着率Aは、0.20質量%以上1.00質量%以下であることがより好ましい。サイジング剤の付着率Aが0.01質量%以上であれば、炭素繊維束の表面をサイジング剤で充分に覆いつくすことが容易にでき、炭素繊維強化複合材料の界面樹脂層を介してマトリクス樹脂から炭素繊維に伝わる応力の伝達が非常に良好になる。また、サイジング剤の付着率が4.0質量%以下であれば、炭素繊維束の表面にサイジング剤が堆積しすぎるのを抑制することが容易になるため、界面樹脂層を介してマトリクス樹脂から炭素繊維に伝わる応力の伝達に不具合が生じて機械的特性が低下することを防止しやすい。
【0038】
なお、本発明のサイジング処理炭素繊維束は、スポーツ・レジャー用品の構成部品や宇宙・航空機用器材等の広範囲にわたる用途の炭素繊維強化複合材料に用いることができる。また、この炭素繊維強化複合材料は、マトリクス樹脂と、本発明のサイジング処理炭素繊維束とからなることができる。このマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などを用いることができる。
【0039】
[サイジング処理炭素繊維束の製造方法]
本発明のサイジング処理炭素繊維束の製造方法は、束状にした複数本の炭素繊維(炭素繊維束)に、上述した本発明のサイジング剤を付着させるサイジング処理工程を有する。サイジング処理工程に供する炭素繊維束を製造する方法は、特に限定はないが、例えば、炭素繊維原料を含有する紡糸原液を紡糸して炭素繊維前駆体繊維束を得た後、この炭素繊維前駆体繊維束を焼成して炭化する方法が挙げられる。
【0040】
この炭素繊維原料は、作製する炭素繊維に応じて選択することができる。例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維を作製する場合はポリアクリロニトリル系重合体、ピッチ系炭素繊維を作製する場合は少なくともピッチ、レーヨン・セルロース系炭素繊維を作製する場合は少なくともレーヨン・セルロースを炭素繊維原料として用いることができる。なお、ポリアクリロニトリル系重合体はアクリロニトリルの単独重合体であっても良いし、アクリロニトリルと他のモノマー(例えばメタクリル酸メチル)との共重合体であっても良い。
【0041】
紡糸原液は、例えば、これらの炭素繊維原料をジメチルアセトアミド等の溶剤に溶解させることによって作製することができる。なお、紡糸方法は、特に限定されず、例えば、炭素繊維の分野で公知の方法を採用でき、具体的には、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などを用いることができる。
【0042】
また、前駆体繊維束を炭化する前に、例えば、220〜300℃の酸化性雰囲気下(例えば空気中)で前駆体繊維束の熱処理(耐炎化工程)を行うこともできる。さらに、繊維束の炭化処理を1段階(1工程)で行っても良いし、複数の段階(工程)に分けて行っても良い。具体的には、繊維束を例えば600〜700℃の不活性ガス中で熱処理(前炭素化工程)した後に、800〜2000℃の不活性ガス中で熱処理(炭素化工程)しても良い。
【0043】
さらに、サイジング処理工程に供する炭素繊維束には、必要に応じて電解表面処理等の表面酸化処理を施してもよい。なお、これらの工程を通して、繊維束を構成する単繊維数は変化しない。
【0044】
サイジング処理工程では、サイジング剤が付着していない(サイジング処理前の)炭素繊維束に、サイジング剤を付着させる。サイジング剤を付着させる方法は、所望量のサイジング剤を炭素繊維束に均一に付着させることができる方法であれば特に限定はない。しかし、サイジング剤を均一に付着させる観点から、サイジング剤を水及び有機溶剤のうちの一方または両方に分散させたサイジング分散液を調製し、それを炭素繊維束に付着させ、乾燥する方法が好ましい。また、作業環境の観点から、サイジング剤を水に分散させたサイジング分散液を調製し、それを炭素繊維束に付着させ、乾燥する方法がより好ましい。有機溶剤としては、例えば、アセトン、エタノール、ジメチルフォルムアミド等が挙げられる。サイジング分散液は、人体、環境、サイジング処理工程への影響が少ない点から、サイジング剤を水に分散させた水分散液であることが好ましい。
【0045】
サイジング分散液を炭素繊維束に付着させる方法としては、例えば、ローラーサイジング法、スプレー法、サイジング分散液中に炭素繊維束を浸漬させて塗布するローラー浸漬法等が挙げられる。なかでも、一束あたりの単繊維数が多い炭素繊維束であってもサイジング剤を均一に付着させることが容易である点から、ローラー浸漬法が好ましい。
【0046】
なお、サイジング剤の炭素繊維束に対する付着量は、サイジング分散液のサイジング剤濃度やサイジング剤の塗布量(絞り量)を調節することで調整できる。
【0047】
また、サイジング剤を付着させた炭素繊維束を乾燥する際には、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを用いれば良い。乾燥条件としては、サイジング剤の分散液の分散媒(水や有機溶剤)を完全に蒸発させる観点から、120〜250℃の乾燥温度で、10秒〜10分間の乾燥時間が好ましく、150〜230℃の乾燥温度で、30秒〜4分間の乾燥時間がより好ましい。
【0048】
以上説明した本発明のサイジング剤およびそのサイジング剤を用いてサイジング処理を施した炭素繊維束によれば、0°引張強度に優れかつ炭素繊維に収束性が付与された炭素繊維強化複合材料を得ることができる。単官能エポキシ化合物(I)を用いることによる技術的作用についての詳細は明確ではないが、単官能のエポキシ化合物(I)をサイジング剤に使用することで、炭素繊維に収束性を付与するとともに、適度な界面接着性を形成することができ、引張荷重時のクラック進展の抑制が行われ、炭素繊維強化複合材料としての0°引張強度が向上する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
なお、実施例1は参考例である。
【0050】
各例では、炭素繊維束に各種サイジング剤によるサイジング処理を施してサイジング処理炭素繊維束を作製し、収束性の評価を行った。また、以下に示すように、サイジング処理炭素繊維束にマトリクス樹脂を含浸してプリプレグを作製し、このプリプレグ中のマトリクス樹脂を硬化させた後に、0°引張強度の測定を行った。
【0051】
[評価方法]
1)収束性評価
サイジング処理炭素繊維束の収束度合いを観察し、下記の評価基準で目視判定した。
◎:均一な太さの繊維束であり、単繊維のバラケが全く見られず、収束性に優れる。
○:均一な太さの繊維束であり、単繊維のバラケはわずかに見られるが、収束性は良好である。
△:均一な太さの繊維束であるが、単繊維のバラケが見られ、収束性が少し劣る。
【0052】
2)0°引張強度測定
(マトリクス樹脂)
エポキシ樹脂組成物(三菱レイヨン社製、商品名:#350(130℃硬化タイプ))をマトリクス樹脂として用いた。
【0053】
(プリプレグの作製)
離型紙上に前記マトリクス樹脂を薄く均一に塗布してホットメルトシートを作製し、このマトリクス樹脂上にサイジング処理後の炭素繊維束を並列に引き揃えて配置して、マトリクス樹脂を含浸させることにより、マトリクス樹脂含有率約35質量%、繊維目付150g/m
2のプリプレグを作製した。
【0054】
(硬化板の作製及び0°引張強度測定)
前記プリプレグを、炭素繊維束の向きを一方向に揃えて積層し、オートクレーブを用いて加熱・加圧硬化(圧力0.6MPa下で、室温から1℃/分の昇温スピードで130℃まで昇温し、2時間保持する)させ、厚さ1mmの硬化板(炭素繊維強化複合材料)を作製した。ついで、得られた硬化板から長さ230mm、幅12.5mmの試験片を切り出し、この試験片に対してASTM−D3039に従って0°引張強度を測定した。引張り試験機の引張スピードは2.0mm/分とし、測定回数nを5として各測定値から平均値を算出し、各例における0°引張強度とした。
【0055】
[実施例1]
単官能エポキシ化合物(I)であるアルキルモノグリシジルエーテル(共栄社化学製、商品名:エポライトM−1230)(100質量部)を、ノニオン系乳化剤(ADEKA社製、商品名:F88)(15質量部)を用いて水に分散させ、固形分濃度2.0質量%を有するサイジング分散液(水分散液)を得た。
【0056】
次いで、サイジング剤未処理の炭素繊維束(三菱レイヨン社製、商品名:パイロフィル TR50S、単繊維数12,000本、ストランド強度5,000MPa、ストランド弾性率242GPa)を、上記の水分散液中にローラー浸漬した後、更に熱風乾燥してボビンに巻き取ることにより、サイジング剤で処理された炭素繊維束を得た。得られたサイジング処理炭素繊維束のサイジング剤の付着率Aは、上述した式(II)により求めたところ、0.5質量%であった。
【0057】
[実施例2]
単官能エポキシ化合物(I)であるアルキルモノグリシジルエーテル(共栄社化学社製、商品名:エポライトM−1230)(40質量部)と、その他のエポキシ化合物であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:JER828)(60質量部)とを混合し、ノニオン系乳化剤(ADEKA社製、商品名:F88)(15質量部)を用いて水に分散させ、固形分濃度2.0質量%を有するサイジング分散液(水分散液)を得た。このサイジング分散液を用いた以外は実施例1と同様にして、サイジング処理炭素繊維束を作製した。
【0058】
[実施例3〜4]
サイジング剤の作製に用いるその他のエポキシ化合物を、それぞれトリグリシジルp−アミノフェノール(三菱化学社製、商品名:JER630)およびテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(三菱化学社製、商品名:JER604)に変更した以外は、実施例2と同様にしてサイジング処理炭素繊維束を得た。
【0059】
[実施例5]
単官能エポキシ化合物(I)をフェニルグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:EX−141)に変更した以外は、実施例2と同様にしてサイジング処理炭素繊維束を得た。
【0060】
[実施例6]
単官能エポキシ
化合物(I)をアルキルフェニルモノグリシジルエーテル(三菱化学社製、商品名:YED122)に変更した以外は、実施例2と同様にしてサイジング処理後の炭素繊維束を得た。
【0061】
[比較例1]
単官能エポキシ化合物(I)の代わりに、他の単官能のエポキシ化合物である臭素化クレゾールモノグリシジルエーテル(日本化薬社製、商品名:BROC)を用いた以外は、実施例2と同様にしてサイジング処理炭素繊維束を得た。
【0062】
[比較例2〜4]
単官能エポキシ化合物(I)の代わりに、それぞれ、その他のエポキシ化合物であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:JER828)、トリグリシジルp−アミノフェノール(三菱化学社製、商品名:JER630)及びテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(三菱化学社製、商品名:JER604)を用いて、サイジング剤に単官能エポキシ化合物(I)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてサイジング処理炭素繊維束を得た。
【0063】
[比較例5]
単官能エポキシ化合物(I)の代わりに、その他のエポキシ化合物である、ゴム編成エポキシ樹脂(DIC社製、商品名:TSR601)(60質量部)と、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:EX−614)(40質量部)とを用いて、サイジング剤に単官能エポキシ化合物(I)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてサイジング処理後の炭素繊維束を得た。
【0064】
実施例および比較例で得られたサイジング処理炭素繊維束の収束性の評価結果、及び、これらのサイジング処理炭素繊維束から得られた硬化板における0°引張強度の測定結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、単官能エポキシ化合物(I)を含む本発明のサイジング剤を用いた実施例1〜6では、0°引張強度に優れた硬化板(炭素繊維強化複合材料)が得られた。なお、実施例1及び3は、サイジング処理炭素繊維束の収束性は比較例に対してやや劣るが、良好な収束性を有しており、生産には全く影響がなかった。また、実施例1は、実施例2〜6と比較して0°引張強度が優れていた。
【0067】
一方、単官能エポキシ化合物(I)の代わりに他の単官能エポキシ化合物を用いた比較例1は、単官能エポキシ化合物(I)を用いる実施例2に比べて炭素繊維強化複合材料の0°引張強度が大きく劣っていた。また、多官能エポキシ化合物のみを用いる比較例2〜4においても、単官能エポキシ化合物(I)と多官能エポキシ化合物とを併用する実施例2〜4に比べて炭素繊維強化複合材料の0°引張強度が大きく劣っていた。さらに、多官能エポキシ化合物のみを用いる比較例5も、実施例1〜5に比べて、炭素繊維複合材料の0°引張強度が大きく劣っていた。