特許第6015224号(P6015224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015224
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】金属酸化物ナノ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/32 20060101AFI20161013BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20161013BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20161013BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20161013BHJP
   C01G 19/02 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C01B13/32
   C01G23/053ZNM
   C01G25/02
   C01G19/00 A
   C01G19/02 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-177059(P2012-177059)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34495(P2014-34495A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】金 仁華
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/122956(WO,A1)
【文献】 特開2008−248136(JP,A)
【文献】 特開2007−070136(JP,A)
【文献】 特開2008−162995(JP,A)
【文献】 特開平02−263707(JP,A)
【文献】 特開2008−024556(JP,A)
【文献】 特開2008−019106(JP,A)
【文献】 特開2007−176753(JP,A)
【文献】 特開2005−281080(JP,A)
【文献】 特表2008−504199(JP,A)
【文献】 特開2010−208920(JP,A)
【文献】 特開2010−007124(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0010513(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B13/00−13/36
C01G1/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントから構成された2元共重合体と金属酸化物とを含有する金属酸化物ナノ構造体を製造する方法であって、
2元共重合体を含む水溶液(A)と、硫酸チタン、塩化チタン、硫酸オキソジルコニウム、硫酸スズ、塩化スズ及び塩化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の水溶性金属イオン化合物を含む水溶液(B)を混合し、2元共重合体と金属イオン化合物が複合してなる、ポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液(C)を得る工程、
前記工程で得られた複合ミセル水溶液(C)を水蒸気形成温度以上にて水熱反応させる工程、
を有することを特徴とする金属酸化物ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記2元共重合体におけるポリアミンセグメントが、分岐構造を有するポリエチレンイミンからなるセグメントである請求項1記載の金属酸化物ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記2元共重合体におけるポリアミンセグメントの重量平均分子量が200〜10万の範囲である請求項1又は2記載の金属酸化物ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記2元共重合体が、ポリエチレンイミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントからなるものであって、エチレンイミンモノマーユニット(CHCHNH)とエチレングリコールモノマーユニット(CHCHO)とのモル比が1/1〜1/10の範囲である請求項1〜3の何れか1項記載の金属酸化物ナノ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントとが構成する2元共重合体と金属イオンからなるポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液を水熱条件下にて反応させる、金属酸化物ナノ構造体の安価かつ簡易な合成方法、及び当該製造方法により得られる金属酸化物ナノ構造体からなる粉体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物ナノ材料は、半導体材料、電子材料、触媒、センサなど多岐の用途に応用されている。その中、酸化チタンは、無機顔料、光触媒材料、色素増感太陽電池、導電材料、光学材料などの分野で非常に有用な材料として知られている。IT産業、半導体産業等での需要に応じてこれらの金属酸化物の特性に、更に量子効果、可視光下での透明性などの特性付与が要求され、均一な粒径分布を有するナノサイズ金属酸化物が求められている。
【0003】
近年、金属酸化物ナノ材料の製造方法の開発が注目を集め、様々なプロセスが開発されている。例えば、均一沈殿法の他、気相法、液相法、固相法などが挙げられる。その中、水熱合成法は金属酸化物粉体の簡易かつ有効な合成手法としてよく使われている。これは、サブミクロン以下の金属酸化物微粒子を合成する手法として知られており、特に、亜臨界、超臨界水状態の反応場を利用することにより、反応溶液に大きな過飽和度を与えるため、核生成・成長による微粒子が形成し、通常の水熱条件に比べ、結晶性の高い微粒子を合成することができる(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0004】
水熱合成において、粒子サイズを安定化させるために、通常有機化合物を保護剤として用いることが要求される。特に、水溶性ポリマー、またはジオール類などを保護剤として用いることが多い(例えば、特許文献3〜4参照)。
【0005】
前記特許文献3には、ポリエチレングリコールを用いた酸化亜鉛粉末の水熱合成法が記載されている。しかし、ポリエチレングリコールの粒子成長抑制効果は低く、得られる酸化物の粒径は100μm以上になってしまう。
【0006】
また、前記特許文献4では、チタンアルコキシド又はチタン金属塩の加水分解生成物を出発原料とし、それにアルカリ水溶液、水、ジオールまたはトリオールを混合した後、水熱合成法により酸化チタン超微粒子を作製している。しかし、この方法で得られた酸化チタンの90%累積強度粒度分布系は約46nmであり、粒子サイズの抑制は不十分であった。
【0007】
これらの方法は、特定の金属イオンに対して特定保護剤を組み合わせて用いることで、特定の金属酸化物ナノ粒子を得ることを示しているが、金属イオンの種類を問わず、共通の有機系保護剤を用い、水熱法で制御された大きさを有する金属酸化物ナノ粒子または金属酸化物ナノ構造体を製造できる技術には至ってない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−184339号公報
【特許文献2】特開2008−248136号公報
【特許文献3】特開2008−024556号公報
【特許文献4】特開2007−176753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、種々の金属イオンを原料にし、それらを水熱法で金属酸化物にする際、ナノメートルサイズのレベルで且つ均一性を有する金属酸化物構造体とする効率的な製造方法、及び該製造方法により得られる金属酸化物ナノ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造を有する有機高分子化合物と金属イオンとの相互作用による均一系水溶液中に形成するポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液を水熱合成条件下にて反応させることで、金属酸化物の核生成・成長がこのミセル中にて誘導・制御されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントから構成された2元共重合体と金属酸化物とを含有する金属酸化物ナノ構造体を製造する方法であって、
2元共重合体を含む水溶液(A)と、硫酸チタン、塩化チタン、硫酸オキソジルコニウム、硫酸スズ、塩化スズ及び塩化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の水溶性金属イオン化合物を含む水溶液(B)を混合し、2元共重合体と金属イオン化合物が複合してなる、ポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液(C)を得る工程、
前記工程で得られた複合ミセル水溶液(C)を水蒸気形成温度以上にて水熱反応させる工程、
を有することを特徴とする金属酸化物ナノ構造体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法では、一連の金属酸化物をナノメートルオーダーのサイズで且つその結晶状態を精密に制御できることを特徴とする。金属酸化物からなるナノ結晶は、紫外線吸収、高屈折率、導電性などを示すことができるので、本発明の金属酸化物ナノ構造体は産業上、特に電極材料、特殊塗料、有機系高分子のフィラーなどに好適に用いることができる。特に、サイズが10nm以下の金属酸化物を含む金属酸化物ナノ構造体は、透明性に優れるので、透明電極、紫外線カット用透明フィルムのフィラー、高屈折率調製用透明フィルムフィラーとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1〜4における190℃×15時間で水熱合成した酸化チタンナノ構造体各サンプルのX線回折パターンである(a.実施例1;b.実施例2;c.実施例3;d.実施例4)。
図2】実施例1〜4における190℃×15時間で水熱合成した酸化チタンナノ構造体各サンプルのTEM写真像である(a.実施例1;b.実施例2;c.実施例3;d.実施例4)。
図3】実施例5〜7における、異なるジルコニウム化合物を用いて200℃×15反応時間にて水熱合成したてジルコニアナノ構造体のTEM写真像である(a.実施例5;b.実施例6;c.実施例7)。
図4】実施例8、9における、180℃×12時間の条件下にて水熱合成したスズドープ酸化インジウムナノ構造体のTEM写真像である(a.実施例8;b.実施例9)。
図5】実施例10における、230℃×15時間の条件下にて水熱合成した酸化スズナノ構造体のTEM写真像である。
図6】比較例における、2元共重合体を添加せず、190℃×15時間の条件下で水熱合成した酸化チタンのTEM写真像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の金属酸化物ナノ構造体の製造方法の詳細を説明する。本発明の金属酸化物ナノ構造体の製造方法は、ポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントから構成された2元共重合体と、製造しようとする金属酸化物を構成する金属イオンとが複合してなるポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液を水熱法で反応させる製法である。
【0015】
〔ポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液の調製工程〕
本発明において使用するポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントから構成される2元共重合体は、適切な溶液条件下で、金属イオンと配位結合、静電結合及び水素結合などの相互作用をすることにより、2元共重合体(ポリマー)と金属イオンとが複合したポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液を形成する。この複合ミセル中には、金属イオンがミセル核中に濃縮されることにより、均一系の水相に金属イオンがミセルの空間中に隔離された状態となる。
【0016】
この2元共重合体を構成するポリアミンセグメントとしては、アミン官能基を有するポリマーからなるセグメントであれば良く、そのアミン官能基は、1級、2級、3級アミンのいずれでも、それら官能基の混合状態でも良い。
【0017】
ポリアミンセグメントにおけるポリアミンは、一般的に産業上広く利用されていることから入手が容易な、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、キトサン、ポリジアリルアミン、ポリ(N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ[4−(N,N−ジメチルアミノメチルスチレン)]などを好適に用いることができる。中でも、ポリエチレンイミンは工業的に入手しやすく、化学的安定性も優れ、金属イオンとの配位性も強いので、特に好ましく用いることができる。
【0018】
前記ポリエチレンイミンに存在するエチレンイミン単位は、金属イオンと強い相互作用可能であることから、金属イオンの安定な濃縮体を提供する高分子鎖である。その構造は二級または三級アミンのエチレンイミン単位を主な繰り返し単位とし、直鎖状、分岐状のいずれであっても良い。
【0019】
市販されている分岐状ポリエチレンイミンは3級アミンによって分岐状となっており、そのまま本発明で使用する2元共重合体の原料として用いることができる。金属酸化物ナノ構造体の形態に対してこのポリエチレンイミンの分岐度(3級アミン/全てのアミンのモル比)としては特に限定されなく、工業的な製造面、入手のし易さ等も鑑みると分解度の範囲が(15〜40)/100であることが好ましい。
【0020】
前記2元共重合体(X)を構成するポリアミンセグメント(a)の分子量としては特に限定されるものではないが、低すぎると、ポリマー・金属イオン複合ミセル構造を維持する能力が低下しやすくなることにつれ金属酸化物ナノ構造体の水熱合成が難しくなることがあり、高すぎると水熱合成中での金属酸化物ナノ構造体の凝集をきたすことがある。従って、得られる金属酸化物ナノ構造体の大きさ、粒径分布及び分散性がより優れたものを得るためには、前記ポリアミンセグメントの重量平均分子量としては通常500〜100万の範囲であり、1000〜50万の範囲であることが好ましく、2000〜10万の範囲であることが最も好ましい。
【0021】
本発明で用いる2元共重合体を構成するポリエチレングリコールセグメントはポリマー・金属イオン複合ミセルの安定性・形態・大きさなどに直接係ることがある。したがって、ポリエチレングリコールセグメントの重量平均分子量としては通常200〜10000の範囲であり、500〜5000の範囲であることが最も好ましい。
【0022】
ポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントの各成分の鎖を構成するポリマーのモル比としては特に限定されるものではないが、得られる金属酸化物ナノ構造体の大きさ、粒径分布及び分散性に優れた点から、通常1/1〜1/100の範囲であり、特に1/1〜1/30が好ましく、1/1〜1/10の範囲であることが最も好ましい。即ち、2元共重合体としては、ポリエチレンイミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントからなるものであって、エチレンイミンモノマーユニット(CHCHNH)とエチレングリコールモノマーユニット(CHCHO)とのモル比が1/1〜1/10の範囲であるものを用いることが最も好ましい。
【0023】
前記2元共重合体は、水、または親水性溶剤中で、その媒体に応じたミセルの分散体を形成する。製造しようとする金属酸化物ナノ構造体又はその分散体の使用目的等に応じて水、親水性溶剤、またはその混合溶媒を種々選択して用いることができる。
【0024】
前記親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プルピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシシラン、N―メチルピロリドンをあげることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。
【0025】
前記2元共重合体を媒体中に分散させて、ミセルの分散体を調整する方法としては、特に限定されるものではなく、通常、室温で静置、又は攪拌によって、容易に得ることができるが、必要に応じて超音波処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0026】
ポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液の調製工程は、製造しようとする金属酸化物を構成する金属イオンを含む水溶液と前述の2元共重合体の水溶液とを混合することにより、安定なポリマー・金属イオン複合ミセルの水溶液を調製するものである。該金属イオンを含有する水溶液は、製造しようとする金属酸化物を構成する金属イオンを存在させればよく、水性媒体へ溶解性を有する金属塩等をそのまま用いて溶解させてもよく、または、あらかじめ塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸水溶液を調製し、これに金属酸化物を構成する金属イオンを含む金属塩、金属錯体などを溶解させてもよい。例えば、酸化チタンを製造する場合にあっては、チタンイオンを存在させるべく、硫酸チタン(Ti(SO)、塩化チタン(TiCl)、硝酸チタン(Ti(NO)、オキシ硝酸チタン(TiO(NO)、テトラキス乳酸チタン(IV)(C122012Ti)等を使用することができる。
【0027】
また、酸化ジルコニウムを製造する場合には、ジルコニウムを存在させるべく、硫酸ジルコニウム(Zr(SO)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl)、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO)等を、酸化スズを製造するにあたっては硫酸スズ、塩化スズ、硝酸スズを、酸化インジウムを製造するにあたっては、硫酸インジウム、塩化インジウムを使用することができる。
【0028】
本発明の製造方法におけるポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液の調製工程には、2元共重合体の濃度を1〜30%(重量)にすることが好ましい。合成工程の効率、操作のし易さ及び2元共重合体の水への溶解特性を考慮すると、3〜20重量%の濃度範囲にすることが更に好ましい。
【0029】
また、製造しようとする金属酸化物ナノ構造体の使用目的に応じて、2元共重合体と金属イオンとの使用割合を選択すればよいが、水熱法でえられるナノ構造体の均一性の観点からは、2元重合体を構成するポリアミンセグメント中のアミン基のモル数に対する金属イオンのモル比として(0.05〜2.0):1の範囲に設定することが好ましく、特に(0.1〜1.0):1の範囲に設定することが好ましい。
【0030】
前述のように、製造しようとする金属酸化物を構成する金属イオンの水中溶解度などが種類によって異なるゆえ、必要に応じて塩酸、硫酸、酢酸など酸類、またはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどアルカリ類化合物を用い、ポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液のpH値を0.5〜10.0にすることが好ましく、さらに製造しようとする金属酸化物の析出挙動に応じて反応溶液のpH値を1〜5にすることが特に好ましい。水溶液のpH値が小さいほど、つまり溶液環境の酸性が強いほど2元共重合体を構成するポリアミンセグメントのプロトン化が促進され、ポリマー・金属イオン複合ミセル構造体の凝集状態が進化するゆえ、ミセルのサイズが大きくなる傾向が見られる。
【0031】
前述のポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液の調製工程には、2元共重合体と金属イオン水性溶液を混合後、室温下均一かつ安定させる時間としては、1時間以上行うことが好ましく、さらに金属イオンの特性に応じて2時間以上安定させることが特に好ましい。
【0032】
〔水熱合成工程〕
本発明の製造方法では水熱合成工程を応用するものであり、前記で得られたポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液に設定温度下にて水熱合成を実施する。本発明の製造方法にあっては、前述のポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントが構成する2元共重合体と、製造しようとする金属酸化物を構成する金属イオンとの相互作用による複合ミセル構造から、金属イオンの閉じ込みと酸化物核生成及びその成長の抑制を利用することで、製造される金属酸化物の粒子径を小さくすることができ、ナノレベルの金属酸化物を簡便に且つ安定して製造することができる。
【0033】
例えば、酸化チタンナノ構造体を製造する場合にあっては、ポリマー・チタンイオン複合ミセル構造の安定性を良好とする観点から、2元共重合体を構成するポリアミンセグメントとポリエチレングリコールセグメントのモル比を1:(1〜5)にすることが好ましく、1:(2〜4)であることが特に好ましい。また、この2元共重合体の濃度は、反応水溶液における1〜30wt%にすることが好ましいが、3〜20wt%にすることが特に好ましい。
【0034】
前述の酸化チタンナノ構造体の水熱合成の場合、さらに反応系におけるチタンイオンの添加量としては、2元共重合体を構成するポリアミンセグメント中のアミン基本単位に対するチタンイオンのモル比を0.2/1〜5/1にすることが好ましく、特に0.4/1〜3/1にすることが好ましい。
【0035】
前述の酸化チタンナノ構造体の水熱合成の場合にあっては、ポリマー・チタンイオン複合ミセル水溶液の安定性を高めるため、エタノール、メタノールなどの水溶性溶媒を適量に添加することができる。
【0036】
水熱反応は、前述のポリマー・金属イオン複合ミセル水溶液を、オートクレーブ等の水熱反応容器内に入れて実施する方法で良い。反応系溶液が強酸性でありpH値が低い時には、水熱反応容器は酸に強い材質が要求され、テトラフルオロエチレン製容器または内側にテトラフルオロエチレン塗布処理が行われた容器を用いることが好ましい。また、この反応溶液内は、必要に応じて窒素などのガスをパージしてガス置換することができる。
【0037】
水熱合成における反応温度は、製造しようとする金属酸化物の種類により適宜決定されるが、概ね、100〜300℃とすることが好ましい。金属酸化物ナノ構造体として酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化スズ、スズドープ酸化インジウムなどを製造する場合には、反応温度が100〜240℃程度とすればよい。
【0038】
水熱合成における反応時間は、1〜24時間とすることが好ましい。これは、金属酸化物の種類と反応温度により決定すればよいが、一般的には反応温度が高い、反応時間が長いほど得られた金属酸化物の粒径が大きくなる傾向が見られる。
【0039】
水熱合成工程における攪拌速度は、反応容器の容積、攪拌方式、目的の金属酸化物の種類により決定すればよい。
【0040】
水熱合成の終了後、反応系溶液に対して遠心分離処理を行うことにより、生成物を効率よく得ることができる。遠心分離処理における諸条件(回転数、処理時間、使用溶媒など)は、製造しようとする金属酸化物ナノ構造体の種類に応じて決定すればよい。
【0041】
また、水熱合成の際には、本発明の効果を妨げない限り、反応系に対して、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性高分子、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)等の水溶性キレート剤、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)等の水溶性有機アンモニウム塩等の添加剤を適宜添加することができる。
【0042】
〔金属酸化物ナノ構造体〕
本発明の製造方法にて得られる金属酸化物ナノ構造体は、3〜20nmの範囲の一次粒子径を有するナノ粒子であり、これらのナノ粒子が密に集合してなる直径50〜300nmの範囲の球形、又は長軸方向が50〜300nmの範囲の回転楕円体である。
【0043】
前述のように、本発明の金属酸化物ナノ構造体の製造方法は、目的の金属酸化物を構成する金属イオンの種類を適宜選択することで異なる金属酸化物ナノ構造体を安価かつ容易に合成できることを特徴とする。前述のように、本発明の製造方法では、金属酸化物の種類として特に限定されるものではないが、原料入手容易性、ナノ構造体の得られやすさ、および応用分野の汎用性の観点より、金属酸化物として、酸化チタン、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、酸化ジルコニウムであることが最も好ましいものである。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0045】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜70°の条件で測定を行った。
【0046】
[示差走査熱量分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをSIIナノ技術示差走査熱量分析測定装置(TG−TDA6300)にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から800℃の温度範囲にて測定を行った。
【0047】
[透過型電子顕微鏡による微細構造分析]
エタノールで分散された試料をサンプル支持膜に載せ、それを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡装置(JEM−2000FS)にて観察した。
【0048】
[蛍光X線元素分析]
サンプルの粉末をプレスして日本理学製蛍光X線測定装置(ZSX100e)にて元素測定を行った。
【0049】
実施例で用いた2元共重合体(X−1)、(X−2)
X−1:ポリエチレングリコール(PEG;重量分子量:約2000)とポリエチレンイミン(PEI;重量分子量:約10000)が3:1のPEG:PEIモル比で構成したものである。製造方法としては、特開2010−7124号公報の合成例1に記載の方法で合成した。
【0050】
X−2:ポリエチレングリコール(PEG;重量分子量:約5000)とポリエチレンイミン(PEI;重量分子量:約10000)が3:1のPEG:PEIモル比で構成したものである。
【0051】
実施例1〜4〔酸化チタンナノ構造体〕
1.6gの2元共重合体(X−1)の粉末を室温(25℃)下40mlの蒸留水に溶かして5wt%濃度の40ml(X−1)溶液を調製した。10mlの上記溶液を容積28mlのテトラフルオロエチレン製水熱反応容器に入れ、攪拌しながら表1に示したように、それぞれ容量の硫酸チタン化合物溶液(和光純薬製、30%濃度)を滴下した。反応系のpHは調整しなかった。混合後のpH値は0.5〜0.9の範囲にあった。室温下で一時間攪拌後、190℃に設定した恒温加熱器中に移送し、反応容器を静置して15時間水熱反応を行った。反応後の懸濁液に対して、蒸留水洗浄・遠心分離の操作を3回繰り返して行った後、試料を50℃で一晩減圧乾燥した。実施例1〜4試料の粉末X線回折パターン(図1)は、2θが25.4°、38.0°、48.1°、54.2°、55.3°、62.9などである位置に強いX線回折ピークが現れ、アナターゼ結晶構造の酸化チタンのX線回折標準データと一致し、得られた酸化チタンナノ構造体がアナターゼ酸化チタンを含むものであることを確認した。また、各ピークのブロード化現象を観察し、それらピークの半値幅値からScherrer式を用いた理論計算結果は、実施例1〜4で得られた試料におけるそれぞれ結晶子の大きさがそれぞれ7.9nm、10.5nm、16.1nm,17.0nmであることを示した。TEMの観察結果(図2)によると、各サンプルには、X線分析結果と同じ大きさを有する一次粒子の存在が確認されたが、原料である硫酸チタンの添加量の増加につれ、一次粒子同士の凝集による一定サイズの集合体になる傾向が見られた。実施例1〜2で得られた試料は良い分散状態を示し、実施例3には大きさが16.1nmの一次粒子が構成する直径100nmの集合体が観察され、実施例4にはこの集合体が約150nmになったことが分かった。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例5〜7〔ジルコニアナノ構造体〕
表2に示すような各条件下において、2元共重合体(X−2)とジルコニウム化合物(硫酸ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、塩素酸化ジルコニウム)を用いたジルコニアナノ構造体合成用の反応溶液を調整し、室温下でこの反応溶液を一時間攪拌後、200℃×15時間の条件下にて水熱合成を行った。その後、蒸留水洗浄・遠心分離を経て析出物を減圧乾燥した。X線回折結果は、得られた試料がすべて斜方晶または正方晶構造の酸化ジルコニウムであることを示唆した。また、TEM観察結果(図3)及びX線回折データ由来の計算結果によると実施例5〜7における水熱合成した酸化ジルコニウムの粒径がそれぞれ4.8nm、4.3nm、4.5nmであることが判明した。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例8〜9〔スズドープ酸化インジウムナノ構造体〕
表3に示したように塩化インジウム、硫酸スズ及び2元共重合体(X−2)を用いたスズドープ酸化インジウムナノ構造体合成用の反応溶液を調整し、室温下でこの反応溶液を一時間攪拌後、180℃×12時間の条件下にて水熱合成を行った。その後、蒸留水洗浄・遠心分離を経て析出物を減圧乾燥した。X線回折結果は、得られた試料がすべて酸化インジウムと酸化スズが共存するナノ構造体の形成を示唆した。TEM観察結果(図4)、実施例8と実施例9における得られた試料が大きさ約20nmの球状粒子、並びに直径約20nm、長さ約100nmのロッド状粒子を呈することを示した。また、蛍光X線元素分析結果、実施例8の試料には7wt%のSnOの存在が確認され、実施例9の試料にはSnOが8wt%を含有することが分かった。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例10〔酸化スズナノ構造体〕
0.195gの塩化錫(IV)を10mlの5wt%前記2元共重合体(X−1)溶液に溶かし、さらに2.27mlの85%リン酸を加え、室温下一時間攪拌を経て透明な溶液を調製した。この溶液を28ml容積の水熱反応容器に入れ、230℃×15時間水熱合成を行った。得られた試料のX線回折結果は、析出物がすべて酸化スズの結晶であることを示唆した。TEMの観察結果(図5)によると酸化スズ結晶子の平均サイズが4.8nmであることを確認した。
【0058】
比較例
2mlの30%硫酸チタン原液を10mlの蒸留水中に希釈して28ml容積の水熱容器中にて190℃×15時間水熱反応を行った。白色の沈殿物を洗浄・乾燥後、X線回折分析・TEM観察した。その結果、得られた試料がすべてアナターゼ構造を有する酸化チタンであり、一次粒子の平均粒径が実施例2の10.5nmに比較して倍以上値の27.5nmであることを確認した(図6)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6