特許第6015259号(P6015259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015259情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および磁気ディスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015259
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および磁気ディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20161013BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
   G11B5/73
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-196591(P2012-196591)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-53057(P2014-53057A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 克明
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−018398(JP,A)
【文献】 特開2009−176397(JP,A)
【文献】 特開2012−131026(JP,A)
【文献】 特開2011−079111(JP,A)
【文献】 特開2001−288455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
G11B 5/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨する工程、加熱した硫酸と過酸化水素水とを含む洗浄液を用いてガラスを洗浄する洗浄工程およびコロイダルシリカを含むスラリーを用いてガラス主表面を研磨する工程を順次含むガラス基板の製造方法であって、該スラリー中に直鎖飽和ジカルボン酸が含まれていることを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記コロイダルシリカスラリーがpH3以上5以下である請求項1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記コロイダルシリカ中に含まれる直鎖飽和ジカルボン酸の直鎖の炭素数が2〜7である請求項1または2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記直鎖飽和ジカルボン酸がコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸およびアゼライン酸からなる群から選ばれる1以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記コロイダルシリカを含むスラリーを用いてガラス主表面を研磨する工程が仕上げ研磨工程であり、その後、アルカリ性の水溶液を用いた洗浄工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記コロイダルシリカの平均粒径が10〜50nmである請求項1〜5のいずれか1項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
情報記録媒体が磁気ディスクである請求項1〜6のいずれか1項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られた情報記録媒体用ガラス基板の主表面に磁気記録層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は情報記録媒体用ガラス基板および磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の磁気ディスクの高容量化の動きの中で、ガラス基板については技術課題として、表面平滑性向上とガラス表面の付着物低減がある。ガラス表面の付着物低減に係る技術課題とは次のようなものである。すなわち、ガラス基板に残留する異物としては、研磨レートが高いことなどの理由からガラス研磨に好適に用いられている酸化セリウム砥粒が異物として残ることが知られている。
【0003】
特許文献1には、アルミノシリケートガラスからなるガラス円板について、酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用いる研磨工程を経て情報記録媒体用ガラス基板を製造する方法において、酸化セリウム研磨工程に引き続いてガラス円板を、硫酸濃度20質量%以上80質量%以下、過酸化水素濃度1質量%以上10質量%以下である洗浄液を用いて50℃以上100℃以下の液温において洗浄することが開示されている。
【0004】
また、最終研磨工程として、典型的には酸性に調整したコロイダルシリカを含むスラリー(以下、コロイダルシリカスラリーともいう)を用いて研磨を行い、その後、コロイダルシリカ残渣を減少させるためにアルカリ性水溶液(またはアルカリ性洗浄液)を用いてガラスの洗浄を行うことが開示されている。
【0005】
表面平滑性向上に係る技術課題の解決手段としては、一次粒子の平均粒径が5〜50nmであるコロイダルシリカと重量平均分子量が1000〜5000であるアクリル酸/スルホン酸共重合体とを含有してなりpHが0.5〜5であるガラス基板用研磨液組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−18398号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−191696号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは前記アクリル酸/スルホン酸共重合体を添加したコロイダルシリカスラリーによる平滑性の改善効果を検証したところ、若干の改善はみられた。一方、該アクリル酸/スルホン酸共重合体を添加したコロイダルシリカスラリーでは、潤滑性が上昇するため、研磨レートが低下することもわかった(後述する[実施例1]の項に記載)。このことから、アクリル酸/スルホン酸共重合体を添加したコロイダルシリカスラリーでは研磨レートが下がることによって平滑性が改善されていると考えられる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ガラス円板について、コロイダルシリカを含むスラリーを用いて研磨をする工程を含む情報記録媒体用ガラス基板を製造する方法において、研磨レートを低下させることなくより平滑な情報記録媒体用ガラス基板が得られる製造方法および磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、Alを多く含むアルミノシリケートガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨する場合の研磨レートおよび研磨面を決める因子として酸のキレート能に着目し、コロイダルシリカスラリーを酸性に調整する際の酸の種類について調べたところ、酸の種類によって研磨面の荒れ方が異なることを見出した。
【0010】
前記面荒れの原因を調査したところ、直鎖飽和ジカルボン酸を含むコロイダルシリカスラリーを用いることにより、研磨面が荒れにくいことを確認した。直鎖飽和ジカルボン酸は、末端にカルボン酸を有し且つ直鎖であることにより、分岐状または環状の酸と比較してキレート能が小さいため、コロイダルシリカスラリーに含有させても研磨面が荒れにくいと考えられる。このことから、直鎖飽和ジカルボン酸をコロイダルシリカスラリーの酸調整剤として使用することにより、研磨レートが低下することなく平滑性が改善することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
.セリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨する工程、加熱した硫酸と過酸化水素水とを含む洗浄液を用いてガラスを洗浄する洗浄工程およびコロイダルシリカを含むスラリーを用いてガラス主表面を研磨する工程を順次含むガラス基板の製造方法であって、該スラリー中に直鎖飽和ジカルボン酸が含まれていることを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.前記コロイダルシリカスラリーがpH3以上5以下である前項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.前記コロイダルシリカ中に含まれる直鎖飽和ジカルボン酸の直鎖の炭素数が2〜7である前項1または2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.前記直鎖飽和ジカルボン酸がコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸およびアゼライン酸からなる群から選ばれる1以上である前項1〜のいずれか1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.前記コロイダルシリカを含むスラリーを用いてガラス主表面を研磨する工程が仕上げ研磨工程であり、その後、アルカリ性の水溶液を用いた洗浄工程を含む前項1〜のいずれか1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.前記コロイダルシリカの平均粒径が10〜50nmである前項1〜のいずれか1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.情報記録媒体が磁気ディスクである前項1〜6のいずれか1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
.前項に記載の製造方法により得られた情報記録媒体用ガラス基板の主表面に磁気記録層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法
【0012】
アルカリ金属酸化物(以下、単にアルカリという場合がある。)を含むガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨するとガラス表面が荒れるという問題がある。この現象は次のようにして起こると考えられる。すなわち、図1(a)〜(c)に示すように、アルカリ金属酸化物を含むガラス[図1(a)]を酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨すると、リーチングによりヒドロニウムイオンがガラス中のアルカリ金属イオンと交換され[図1(b)]、該ガラス表面のリーチング層をコロイダルシリカで研磨することによりガラス表面が荒れる[図1(c)]。
【0013】
以上で述べたようにアルカリ金属酸化物を含むガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨する場合の研磨面の平滑性を決める因子は、ガラスのアルカリ量およびコロイダルシリカのサイズであると考えられる。これに対し研磨レートを決める因子は、ガラスのアルカリ量およびコロイダルシリカのサイズに加えコロイダルシリカスラリーのpHであると考えられる。適度なリーチング現象が起こればガラス表面が軟化して研磨レートが向上すると考えられるからである。この観点からの好ましいpHは3〜5である。
【0014】
Alを多く含むガラス、典型的にはAl含有量が4モル%以上であるガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨する場合においても研磨面の平滑性を決める因子はガラスのAl量およびコロイダルシリカのサイズであると考えられる。なお、ガラスがアルカリを含有する場合は先に述べたようにアルカリ量も同因子に含まれる。
【0015】
図2(a)〜(c)に示すように、アルミノシリケートガラス中のAl量が多くなるとガラスの耐酸性が悪化し、コロイダルシリカスラリー中の酸がキレート作用の大きいものであるとアルミニウムイオンがキレートされる[図2(b)]。該ガラス表面のリーチング層をコロイダルシリカで研磨することによりガラス表面が荒れる[図2(c)]。この為、酸性に調整したコロイダルシリカスラリーを用いてアルミノシリケートガラスの最終研磨を行うと表面が荒れてしまう場合がある。なお、同図はガラスがアルカリを含有する場合についてのものであるが、ガラスがアルカリを含有しないあるいはごく少量、典型的には4モル%未満含有する場合についても同様である。
【0016】
Alを多く含むガラスの研磨レートを決める因子はガラスのAl量、コロイダルシリカのサイズおよびコロイダルシリカスラリーのpHであり、さらにアルカリを含有する場合はアルカリ量も同因子に含まれると考えられる。
【0017】
Alを多く含むアルミノシリケートガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨する場合の研磨面を決める因子としては先に述べたもの以外にコロイダルシリカスラリー中の酸のキレート能が特に重要であることを本発明者は見出し本発明に至った。すなわち、研磨面を決める因子として、ガラスのアルカリ量もしくはAl量およびコロイダルシリカのサイズが挙げられるが、これらに加えて酸のキレート能が特に重要であるのは、アルミニウムをキレート効果により引き抜くことによりガラスのネットワークが破壊され、ガラス表面の硬度低下及び面荒れが発生すると考えられるからである。
【0018】
また、後述する実験例1の図3に示すように、酸性水溶液にガラスを浸漬すると、ガラス表面の硬度が低下することから、酸性水溶液はアルミノシリケートガラスに対してエッチング性があり、さらに表面を荒らしてしまうおそれがあると考えられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、平滑性の高い情報記録媒体用ガラス基板が研磨レートを低下させることなく得られる。また、今後求められる高記録容量化にも十分に対応可能な磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)〜(c)は、汎用的なアルカリを含むガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨した場合におけるガラス表面の模式図を示す。
図2図2は、Alを多く含むアルミノシリケートガラスを酸性に調整したコロイダルシリカスラリーで研磨する場合におけるガラス表面の模式図を示す。
図3図3は、ガラス板を、pH2のHNO水溶液またはpH11のNaOH水溶液に浸漬し、表面変位(nm)と硬度(GPa)との相関性を調べた結果を示す。
図4図4(a)〜(h)は、ガラス基板を酸含有水溶液に浸漬した後、AFMを用いて1μm×1μmのRaを測定した結果を示す。
図5図5(a)〜(h)は、ガラス基板を酸含有水溶液に浸漬した後、アルカリ含有水溶液に浸漬し、AFMを用いて1μm×1μmのRaを測定した結果を示す。
図6図6(a)〜(e)は、酸を含むコロイダルシリカスラリーでガラス基板を研磨した後、アルカリ性の洗浄液によるスクラブ洗浄を行い、Raを測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、コロイダルシリカを含むスラリーを用いてガラス主表面を研磨する工程を含むガラス基板の製造方法であって、該スラリーに直鎖飽和ジカルボン酸が含まれているガラス基板の製造方法に関する。
【0022】
(ガラス板)
ガラス板の製造方法は特に限定されず、各種方法を適用できる。例えば、通常使用される各成分の原料を目標組成となるように調合し、これをガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌または清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、周知のフロート法、プレス法、フュージョン法またはダウンドロー法などの方法により所定の厚さの板ガラスに成形し、徐冷後必要に応じて研削、研磨などの加工を行った後、所定の寸法・形状のガラス基板とされる。成形法としては、特に、大量生産に適したフロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、例えば、フュージョン法、ダウンドロー法も好ましい。
【0023】
本発明における情報記録媒体用ガラス基板は情報記録媒体に用いられるものであれば特に限定されないが、典型的には磁気ディスクに用いられる。以下では磁気ディスク用ガラス基板を例にして説明するが、本発明はこの例に限定されない。
【0024】
先ず、ガラスからなるガラス板からガラス円板を切り出す。そのガラスは典型的にはアルミノシリケートガラスでありそのAl含有量は通常は4モル%以上である。通常Alはガラスの必須成分とされるがその理由は次のようなことである。すなわち、磁気ディスクにおいて高速回転時の振動特性やまたは強度を改善するためには、ヤング率、比弾性率、比重、熱膨張係数、傷つきにくさまたは破壊靭性などの諸特性を考慮した、適切なガラス組成のガラス基板を用いる必要がある。これら機械的特性を達成するにはAlが有効な成分である。
【0025】
高温成膜などに用いられるガラスとしては、アルカリ金属酸化物を含有しないか、またはアルカリ金属酸化物を合計で4モル%未満含有する低アルカリアルミノシリケートガラスであって、且つAlの含有量が4モル%以上であるガラスが好ましい。
【0026】
上述したように、アルミノシリケートガラス中のAlの含有量が4モル%以上となると、ガラスの耐酸性が悪化し、ヒドロニウムイオンがガラス中のアルカリイオンと交換され、酸によりアルミニウムイオンがキレートされ、コロイダルシリカで研磨するとガラス表面が荒れるおそれがある。本発明においては、キレート能が小さい直鎖飽和ジカルボン酸を含むコロイダルシリカスラリーを用いてガラス主表面を研磨する工程を含むことにより、ガラスにおけるAlの含有量が10モル%以上である場合にも、研磨面が荒れるのを防ぐことができる。
【0027】
ガラスとしては、具体的には、例えば、下記ガラス1〜3が挙げられる。
(ガラス1)モル%表示で、SiOを55〜75%、Alを5〜17%、LiO+NaO+KOを0〜27%、MgO+CaO+SrO+BaOを0〜20%含有し、これら成分の含有量の合計が90%以上であるアルミノシリケートガラス。
(ガラス2)
モル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で4%未満含有するか、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない低アルカリアルミノシリケートガラス。
(ガラス3)
モル百分率表示でSiOを67〜72%、Alを11〜14%、Bを0〜2%未満、MgOを4〜9%、CaOを4〜6%、SrOを1〜6%、BaOを0〜5%含有し、MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量合計が14〜18%、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で4%未満含有するか、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない低アルカリアルミノシリケートガラス。
【0028】
以下にそれぞれのガラス組成について説明する。なお、以下では「モル%」を単に「%」と表示する。
(ガラス1)
SiOはガラスの骨格を形成する成分であり、必須である。SiOが55%未満では比重が大きくなる、ガラスにキズが付きやすくなる、失透温度が上昇しガラスが不安定になる、または耐酸性が低下する。SiOの含有量は好ましくは60%以上、より好ましくは61%以上、特に好ましくは62%以上、最も好ましくは63%以上、典型的には64%以上である。
【0029】
但し、SiOが75%超ではヤング率が低くなる、比弾性率が低くなる、熱膨張係数が小さくなる、または粘性が高くなりすぎガラスの溶解が困難になる。SiOの含有量は好ましくは71%以下、より好ましくは70%以下、最も好ましくは68%以下である。耐酸性はSiOが63モル%未満になると低下しやすくなる。
【0030】
Alはガラスの骨格を形成し、ヤング率や比弾性率、破壊靭性を高くする成分であり、必須である。5%未満ではヤング率が低くなる、比弾性率が低くなる、また破壊靭性が低くなる。Alの含有量は好ましくは6%以上、より好ましくは7%以上、典型的には8%以上である。但し、Alが17%を超えると熱膨張係数が小さくなる、粘性が高くなりすぎガラスの溶解が困難になる、または耐酸性が低下する。Alの含有量は好ましくは15%以下、より好ましくは14%以下である。耐酸性はAlが12.5%超になると低下しやすくなる。
【0031】
上記の通り、SiOが少なくAlが多いガラスは耐酸性が低くなる。このため、(SiO−Al)が小さくなるとガラスの耐酸性は顕著に低下する。一方、ヤング率、比弾性率または破壊靭性などの機械特性を向上させるにはAlが多いことが有効であり、機械特性に優れたガラスは耐酸性が低い傾向がある。(SiO−Al)は典型的には48〜62%である。
【0032】
MgO、CaO、SrOおよびBaOはいずれも必須ではないが、ガラスの溶解性を改善し、熱膨張係数を高くする成分であり、これら4成分の含有量の合計R’Oが20%までの範囲で含有してもよい。20%超では比重が大きくなる、またはガラスが傷つきやすくなる。好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、最も好ましくは6%以下、典型的には4%以下である。
【0033】
また、ヤング率、比弾性率、比重、熱膨張係数、傷つきにくさまたは破壊靭性といった機械特性を高めるためには、SiO+Al+RO+R’Oを90%以上とする必要がある。90%未満ではこの効果が小さくなる。好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは97%以上である。
【0034】
ガラス1は本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。
【0035】
例えば、TiO、ZrO、Y、Nb、TaおよびLaはヤング率、比弾性率または破壊靭性を高くする効果がある。これらのいずれか1以上を含有する場合、合量で7%以下が好ましい。合量が7%超では比重が大きくなる、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがあり、より好ましくは5%未満、特に好ましくは4%未満、最も好ましくは3%未満である。
【0036】
はガラスの溶解性を改善し、比重を小さくし、またガラスを傷つきにくくする効果がある。これを含有する場合3%以下が好ましい。Bが3%超ではヤング率が低くなる、比弾性率が低くなる、または揮散によりガラスの品質を低下させるおそれがある。Bの含有量はより好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.5%以下である。
【0037】
SO、Cl、As、Sb、SnOおよびCeOはガラスを清澄する効果がある。これらのいずれかを含有する場合、合計で2%以下が好ましい。
【0038】
(ガラス2)
SiOは必須成分である。SiOが62%未満ではガラスが傷つきやすくなり、好ましくは65%以上であり、74%を超えると溶解性が低下してガラス製造が困難になり、好ましくは69%以下である。
【0039】
Alは必須成分である。Alが7%未満では耐熱性が不足し、ガラスが分相しやすくなって基板を加工・洗浄した後に平滑な表面を維持できなくなり、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがあり、好ましくは9%以上であり、18%を超えると溶解性が低下しガラス製造が困難になり、または耐硫酸性などの耐酸性が低下し、好ましくは12%以下である。
【0040】
なお、ガラスをよりキズつけにくくするには、SiOおよびAlの含有量の合計が70%以上であることが好ましく、より好ましくは72%以上である。
【0041】
はガラスの溶解性を改善する効果があり、必須である。Bが2%未満ではガラスの溶解性が低下し、好ましくは7%以上であり、15%を超えるとガラスが分相しやすくなって基板を加工・洗浄した後に平滑な表面を維持できなくなり、または耐硫酸性などの耐酸性が低下し、好ましくは12%以下である。
【0042】
MgO、CaO、SrOおよびBaOはガラスの溶解性を改善する成分であり、いずれか1成分以上を含有しなければならない。これら成分の含有量の合計ROが8%未満ではガラスの溶解性が低下してガラス製造が困難になり、好ましくは10%以上である。一方、ROが21%を超えるとガラスが傷つきやすくなり、好ましくは16%以下である。
【0043】
これら4成分の内MgOおよびCaOの少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。MgOおよびCaOの含有量の合計MgO+CaOが3%未満ではガラスの溶解が困難になるおそれがある、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがある。MgO+CaOが18%超では失透温度が高くなり成形が困難になるおそれがある。
【0044】
また、これら4成分の内SrOまたはBaOを含有する場合、それらの含有量の合計SrO+BaOは6%以下であることが好ましい。SrO+BaOが6%超では硫酸を含む洗浄液を用いたときにSrOまたはBaOと硫酸とが反応して難溶性の硫酸塩が生成され面荒れが助長されるおそれがある。
【0045】
ガラス2は本質的に上記7成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を合計で5%以下であれば含有してもよい。上記7成分以外の成分の含有量の合計が5%超ではガラスが傷つきやすくなる。以下では上記7成分以外の成分について例示的に説明する。
【0046】
ZnOはMgO、CaO、SrO、BaOと同様の効果を奏する成分であり、5%以下の範囲で含有してもよい。その場合、ZnOの含有量とROの合計は8〜21%であることが好ましく、より好ましくは10〜16%である。
【0047】
LiO、NaOおよびKOは耐熱性を低下させるので、これら3成分の含有量の合計ROは0%であるか4%未満とされる。この観点からはROは0%であることが好ましいが、ROが0%でない場合であっても1%未満であることが好ましい。
【0048】
VなどのTiよりも原子番号が大きな原子の酸化物はガラスを傷つきやすくするおそれがあるので、これら酸化物を含有する場合にはそれらの含有量の合計は3%以下とすることが好ましく、より好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.3%以下である。
【0049】
SO、F、Cl、As、Sb、SnO等は清澄剤として代表的な成分であり、合計でも1%未満が典型的である。
【0050】
(ガラス3)
SiOは必須成分である。SiOが67%未満ではガラスが傷つきやすくなり、72%を超えると溶解性が低下してガラス製造が困難になる。
【0051】
Alは必須成分である。Alが11%未満ではガラスが分相しやすくなって基板を加工・洗浄した後に平滑な表面を維持できなくなり、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがあり、14%を超えると耐硫酸性などの耐酸性が低下し、または溶解性が低下してガラス製造が困難になる。
【0052】
は必須成分ではないが、ガラスの溶解性を改善する効果があり、2%未満の範囲で含有してもよい。Bが2%以上では耐硫酸性などの耐酸性または耐熱性が低下するおそれがある。
【0053】
MgO、CaOおよびSrOはガラスの溶解性を改善する成分であり、必須である。MgO、CaO、SrOの各含有量がそれぞれ4%未満、4%未満、1%未満では溶解性が低下する。MgO、CaO、SrOの各含有量がそれぞれ9%超、6%超、6%超ではガラスが傷つきやすくなる。
【0054】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの溶解性を改善する効果があり、5%以下の範囲で含有してもよい。BaOが5%超ではガラスが傷つきやすくなる。
【0055】
ROが14%未満ではガラスの溶解性が低下してガラス製造が困難になる。一方、ROが18%を超えるとガラスが傷つきやすくなる。
【0056】
また、BaOを含有する場合、SrO+BaOは6%以下であることが好ましい。SrO+BaOが6%超では硫酸を含む洗浄液を用いたときにSrOおよびBaOと硫酸とが反応して難溶性の硫酸塩が生成され面荒れが助長されるおそれがある。
【0057】
ガラス3は本質的に上記7成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を合計で5%以下であれば含有してもよい。上記7成分以外の成分の含有量の合計が5%超ではガラスが傷つきやすくなる。以下では上記7成分以外の成分について例示的に説明する。
【0058】
ZnOはMgO、CaO、SrO、BaOと同様の効果を奏する成分であり、5%以下の範囲で含有してもよい。その場合、ZnOの含有量とROの合計は8〜21%であることが好ましく、より好ましくは10〜16%である。
【0059】
LiO、NaOおよびKOは徐冷点を低下させるので、これら3成分の含有量の合計ROは0%であるか4%未満とされる。この観点からはROは0%であることが好ましいが、ROが0%でない場合であっても1%未満であることが好ましい。
【0060】
VなどのTiよりも原子番号が大きな原子の酸化物はガラスを傷つきやすくするおそれがあるので、これら酸化物を含有する場合にはそれらの含有量の合計は3%以下とすることが好ましく、より好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.3%以下である。
【0061】
SO、F、Cl、As、Sb、SnO等は清澄剤として代表的な成分であり、合計でも1%未満が典型的である。
【0062】
ガラス板の比重は2.60以下であることが好ましい。2.60超では磁気ディスクドライブ回転時にモーター負荷がかかって消費電力が大きくなる、またはドライブ回転が不安定になるおそれがある。好ましくは2.55以下、より好ましくは2.53以下、最も好ましくは2.52以下である。
【0063】
また、ガラス板の−50〜+70℃の範囲における熱膨張係数(平均線膨張係数)は60×10−7/℃以上であることが好ましい。60×10−7/℃未満では金属製のドライブなど他の部材の熱膨張係数との差が大きくなり、温度変動時の応力発生による基板の割れなどが起こりやすくなるおそれがある。好ましくは62×10−7/℃以上、より好ましくは65×10−7/℃以上、最も好ましくは70×10−7/℃以上である。
【0064】
さらに、ガラス板のヤング率は80GPa以上、比弾性率は32MNm/kg以上であることが好ましい。ヤング率が80GPa未満であるか比弾性率が32MNm/kg未満であるとドライブ回転中に反りまたはたわみが発生しやすく、高記録密度の情報記録媒体を得ることが困難になるおそれがある。ヤング率が81GPa以上かつ比弾性率が32.5MNm/kg以上であることがより好ましい。
【0065】
前記典型例のガラスからなるガラス板は、ヤング率、比弾性率、比重、熱膨張係数、傷つきにくさまたは破壊靭性等の諸特性が優れたものとなりやすい。
【0066】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、典型的には、ガラス円板をラッピングするラッピング工程と、酸化セリウム砥粒を用いて研磨する酸化セリウム研磨工程と、加熱した硫酸と過酸化水素水とを含む洗浄液を用いてガラスを洗浄する洗浄工程、その後にコロイダルシリカスラリーを用いて研磨をするシリカ研磨工程を含むことが好ましい。
【0067】
(ラッピング工程)
本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ラッピング工程を含んでもよい。ラッピング工程においては、ガラス円板の中央に円孔を開け、面取り、主表面ラッピング、端面鏡面研磨を順次行う。なお、主表面ラッピング工程を粗ラッピング工程と精ラッピング工程とに分け、それらの間に形状加工工程(円形ガラス板中央の孔開け、面取り、端面研磨)を設けてもよい。
【0068】
また、端面鏡面研磨は、ガラス円板を積層して内周端面を酸化セリウム砥粒を用いたブラシ研磨を行い、エッチング処理をしてもよいし、内周端面のブラシ研磨の代わりにそのエッチング処理された内周端面に例えばポリシラザン化合物含有液をスプレー法等によって塗布し、焼成して内周端面に被膜(保護被膜)形成を行ってもよい。
【0069】
主表面ラッピングは通常、平均粒径が6〜8μmである酸化アルミニウム砥粒または酸化アルミニウム質の砥粒を用いて行う。ラッピングされた主表面は通常、20〜40μm研磨される。また、ラッピングは樹脂にダイヤモンド砥粒を埋め込んだパッドを用いた固定砥粒によるラッピングを行ってもよい。
【0070】
これらの加工において、中央に円孔を有さないガラス基板を製造する場合には当然、ガラス円板中央の孔開けおよび内周端面の鏡面研磨は不要である。
【0071】
(酸化セリウム研磨工程)
その後、ガラス円板の主表面を、酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用いて研磨する。この主表面研磨工程は、ウレタン製研磨パッド、もしくは、スエードパッドを用いて行い、例えば、三次元表面構造解析装置[例えばADE社製Opti−flat(商品名)]を用いて波長領域がλ≦5mmの条件で測定されたうねり(Wa)が1nm以下となるように研磨する。また、研磨による板厚の減少量(研磨量)は、典型的には5〜15μmである。
【0072】
主表面研磨工程は、1回の研磨で行ってもよいし、サイズの異なる酸化セリウム砥粒を用いて2回以上実施してもよい。なお、酸化セリウム砥粒は公知のものでよく、通常は酸化セリウム以外にランタン等の希土類金属酸化物またはフッ素等を含む。
【0073】
また、本発明における酸化セリウム研磨工程はラッピング工程で発生したキズ除去を目的とする酸化セリウム主表面研磨工程を含むが、それに限らず、ラッピング工程後に酸化セリウムによる端面鏡面研磨が行われればそれも含む。
【0074】
(洗浄工程)
次に、ガラス円板の洗浄を行う。この洗浄工程では、純水による浸漬工程を行い、次に、硫酸と過酸化水素水とを混合して加熱した洗浄液に浸漬する工程を行い、最後に純水でリンスする工程を実施する。尚、この洗浄工程の前に、酸性洗浄剤またはアルカリ洗浄剤を用いた前洗浄工程を実施してもよい。また、純水による浸漬工程またはリンス工程においては、超音波洗浄を併用したり、流水またはシャワー水による洗浄を行ってもよい。
【0075】
本発明の製造方法においては、セリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨し、加熱した硫酸と過酸化水素水とを含む洗浄液を用いてガラスを洗浄して、セリウム系研磨剤の残留を抑制した後にコロイダルシリカを含むスラリーを用いてガラス主表面を研磨することにより、主表面に面荒れの少ない情報記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【0076】
洗浄液における硫酸濃度は20質量%以上80質量%以下、過酸化水素濃度は1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは硫酸濃度は50質量%以上80質量%以下、過酸化水素濃度は3質量%以上10質量%以下である。硫酸及び過酸化水素の濃度が該下限以上とすることにより、酸化セリウム砥粒が溶解されずに残留するのを防ぐことができる。硫酸及び過酸化水素の濃度が該上限以下とすることにより、上記アルミノシリケートガラスのリーチングによる面荒れが顕著となるのを防ぎ、後述する仕上げ研磨を行っても目的とする平坦性を得易くなるとともに、汎用的に使用される樹脂製のガラス冶具が酸化・分解するのを防ぐことができるため、好ましい。
【0077】
また、同様な理由から、洗浄液の液温は50℃以上100℃以下であることが好ましい。また、浸漬時間は5分以上30分以下であることが好ましい。詳細には、50℃以上60℃未満の洗浄液に25分以上30分以下、60℃以上70℃未満の洗浄液に15分以上30分以下、70℃以上100℃以下の洗浄液に5分以上30分以下の条件で浸漬することがより好ましい。
【0078】
(仕上げ研磨工程)
上記洗浄工程では硫酸を使用するためリーチングムラの発生が起こることがあり、ガラス円板の主表面を再度研磨して平坦性を改善する。また、ガラス円板の端面に残存している酸化セリウム砥粒が主表面に再付着している場合もあるが、この再付着砥粒も除去される。
【0079】
仕上げ研磨工程では、通常、コロイダルシリカ砥粒を含むスラリーを用いて最終研磨を行う。仕上げ研磨工程では、通常、平均粒径が10〜50nmのコロイダルシリカ砥粒を含むスラリーを用いて研磨する。また、コロイダルシリカ砥粒を含むスラリーでの研磨の前または後に化学強化を行ってもよい。
【0080】
コロイダルシリカ砥粒を含むスラリーによる研磨では、水ガラスを原料とするコロイダルシリカでは、一般的に中性領域においてゲル化が進行しやすいため、pHが好ましくは1〜6、より好ましくは2〜5で行うことが好ましい。
【0081】
酸性にする為のpH調整剤としては、少なくとも1種類以上の直鎖飽和ジカルボン酸を用いる。直鎖飽和ジカルボン酸は、末端にカルボン酸を有し且つ直鎖であることにより、分岐状または環状の酸と比較してキレート能が小さいことから、コロイダルシリカスラリーに含有させても研磨面が荒れにくいため、より平滑な情報記録媒体用ガラス基板が得られる。
【0082】
直鎖飽和ジカルボン酸としては、直鎖の炭素数が7以下のものが好ましく、5以下のものがより好ましい。炭素数を7以下とすることにより、水に溶けやすく好ましい。直鎖飽和ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸(直鎖の炭素数2)、グルタル酸(直鎖の炭素数3)、アジピン酸(直鎖の炭素数4)、ピメリン酸(直鎖の炭素数5)、スベリン酸(直鎖の炭素数6)、アゼライン酸(直鎖の炭素数7)が挙げられる。これらの酸は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせてもよい。これらの酸のpKa1が3.9〜4.5であり、pHを3〜5に調整する場合はスラリーに緩衝効果を持たせることができ、pH範囲としては好ましい。
【0083】
前記直鎖飽和ジカルボン酸以外のpH調整剤としては、酸であれば無機酸が好ましい。無機酸としては、塩酸、硝酸または硫酸が好ましい。特に硝酸が好ましい。硫酸はガラス成分の中で使われるストロンチウムまたはカルシウムと結合し、水に溶けにくい塩を作ることから好ましくない。また、塩酸の場合、電子デバイスの中で塩素を嫌う場合があり、好ましくない。
【0084】
pH調整に関しては次のように実施する。pH4以上の場合は、直鎖の炭素数4以下の直鎖飽和ジカルボン酸に関しては、その酸のみでpH調整することが可能である。直鎖の炭素数5以上の直鎖飽和ジカルボン酸に関しては、pH4以上であれば、その酸のみでpH調整が可能であるが、pH4未満であれば、硝酸と組み合わせてpH調整をすることが好ましい。その場合、直鎖型飽和ジカルボン酸をスラリーに対して1重量%以上入れることが好ましい。これは、バッファーとしての機能を持たせる為に必要である。
【0085】
研磨具はスエードパッドであることが好ましい。このスエードパッドは発泡樹脂層を有し、そのショアA硬度が20°以上75°以下であり、密度が0.2〜0.9g/cmであることが好ましい。
【0086】
仕上げ研磨工程の後、コロダルシリカ砥粒を除去するために洗浄を行う。この洗浄工程では、少なくとも1回はpH10以上のアルカリ性洗浄剤による洗浄を行うことが好ましい。このように最終研磨工程として酸性に調整したコロイダルシリカスラリーを用いて研磨を行い、その後、アルカリ性洗浄液を用いてガラスの洗浄することによりコロイダルシリカ残渣を減らすことが可能になる。
【0087】
すなわち、酸性に調整したコロイダルシリカスラリー中のコロイダルシリカ表面はシラノール基がほとんど乖離しておらず、不活性な状態であるため、研磨中にガラス基板と強固に付着することがなく、この状態で、アルカリ性水溶液で洗浄を行った場合、ζ電位が、ガラス基板およびコロイダルシリカともにマイナスとなり、電位的に反発することにより、コロイダルシリカがガラス基板に残りにくくなると考えられる。
【0088】
洗浄方法は、ガラス円板を浸漬して超音波振動を加えてもよいし、スクラブ洗浄を用いてもよい。また、両方を組み合わせてもよい。さらに、洗浄の前後に、純水による浸漬工程またはリンス工程を行うことが好ましい。
【0089】
最終のリンス工程後にガラス円板を乾燥するが、乾燥方法としてはイソプロピルアルコール蒸気を用いる乾燥方法、スピン乾燥または真空乾燥などが用いられる。
【0090】
上記一連の工程により、高度に平坦化されたガラス基板が得られる。このようなガラス基板の主表面に磁気記録層を形成した磁気ディスクにおいては、高密度記録が可能になる。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0092】
[実験例1]
モル%表示組成が概略、SiO:64.5%、Al:12%、ZrO:1.8%、LiO:12.8%、NaO:5.5%、KO:3.4%、であるガラス板を、pH2のHNO水溶液、またはpH11のNaOH水溶液に浸漬し、表面変位(nm)と硬度(GPa)との相関性を調べた。以下の測定条件により測定した結果を図3に示す。
【0093】
測定器:MTS社 Nano Indenter G2000
測定圧子:バーコビッチ圧子
測定条件(パラメータ:条件)
試験開始を許容するドリフト値:0.600nm/s
最大押し込み深さ:200nm
連続剛性測定に使用した周波数:75Hz
連続剛性測定に使用した振幅値:1nm
歪み速度:0.05 1/s
測定回数:1サンプルにつき6点評価
【0094】
その結果、図3に示すように、酸性水溶液にガラスを浸漬するとアルカリ性水溶液の場合と比較して、ガラス硬度が低下した。これは、酸によってガラス表面のアルカリ金属成分がリーチングされ、ガラス表面が軟化したためであると考えられる。また、酸性水溶液はアルミノシリケートガラスに対してエッチング性があり、さらに表面を荒らしてしまうおそれがあることがわかる。
【0095】
[実験例2]
モル%表示組成が概略、SiO:64.5%、Al:12%、ZrO:1.8%、LiO:12.8%、NaO:5.5%、KO:3.4%、であるガラス板から外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmのドーナツ状ガラス円板50枚を切り出し、内周面および外周面をダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、上下主表面を酸化アルミニウム砥粒を用いて第一研削工程を実施した。
【0096】
次に、内外周の端面について幅0.15mm、角度45°の面取り部を設ける面取り加工を行った。面取り加工後、内外周の端面について、研磨材として粒径1〜1.5μmφの酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用い、研磨具としてブラシを用いて、ブラシ研磨により鏡面加工を行った。研磨量は、半径方向の除去量で30μmであった。
【0097】
次に第1研削工程で研削されたガラス基板は、第2の固定砥粒工具と研削液を用いて両面研削装置(浜井産業社製、製品名:16BF−4M5P)によりガラス基板の上下主平面を研削した(第2研削工程)。第2の固定砥粒工具として平均粒径が4μmのダイヤモンド砥粒を樹脂の結合剤で結合した固定砥粒工具(3M社製、製品名:Trizact4μmAA1)を用いた。この時の研磨量は136μmであった。研削されたガラス基板を、アルカリ性洗剤溶液に浸漬した状態で超音波洗浄した。
【0098】
次に平均粒径0.8〜1μmφの酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用い、研磨具としてスエードパッドを用いて、両面研磨装置により上下主表面の研磨加工を行った。研磨量は、上下主表面の厚さ方向で計25μmであった。ガラス円板の主表面研磨後に予備洗浄として、純水での浸漬洗浄、アルカリ洗浄剤での超音波洗浄、純水でのリンスをこの順で実施した。
【0099】
次に、以下のように洗浄を行った。硫酸71.4%、過酸化水素水、7.7%の水溶液を80℃に加温し、その中にガラスを入れて洗浄を行った。その後、純水でガラスをリンスした後、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨スラリーを用いて両面研削装置(浜井産業社製、製品名:16BF−4M5P)によりガラス基板の上下主平面を研磨した。研磨スラリーは、純水12.5Lに対して、クエン酸を62.5g添加し、良く撹拌した後、触媒化成社製コロイダルシリカ砥粒SI40を2.5L加えて、良く撹拌したものを使用した。この時のpHは4.0であった。研磨パッドに関しては、ショアA硬度が60°、密度が0.62g/cmのスエードパッドを使用した。
【0100】
その後、純水で水洗した後、アルカリ性の洗浄液による超音波洗浄、アルカリ性の洗浄液によるスクラブ洗浄、さらにアルカリ性の洗浄液による超音波洗浄を実施後、純水にてリンスを行い、IPA乾燥用いて、乾燥した。この基板をAFM(SIIナノテクノロジー製SPA400)にて1μm×1μmの範囲でRaを測定したところ、0.111nmであった。
【0101】
[実験例3]
以下のように、予察試験を行った。実験例2で得られたガラス基板を下記の水溶液に2時間超音波照射を行いながら浸漬した。その後、AFMを用いて1μm×1μmのRaを測定した。その結果を表1および図4に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1および図4に示すように、直鎖型飽和ジカルボン酸であるコハク酸、アジピン酸、ピメリン酸およびアゼライン酸においては、基板面の荒れが抑制されていることが確認できた。これは、直鎖型飽和ジカルボン酸をコロイダルシリカスラリーに含有させると直鎖型飽和ジカルボン酸はキレート作用が小さいのでガラス面を荒れにくくする作用があるためであると考えられる。
【0104】
[実験例4]
実験例2で得られたガラス基板を表2に示す酸性水溶液に10分間超音波照射を行いながら浸漬した。その後、表2に示すアルカリ性水溶液に10分間超音波照射を行いながら浸漬した。その後、AFMを用いて1μm×1μmのRaを測定した。その結果を表2および図5に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2および図5に示すように、直鎖型飽和ジカルボン酸のうちピメリン酸を用いる酸浸漬処理を行えばその後に水酸化ナトリウム水溶液を用いて浸漬処理を行ってもガラス基板表面の荒れは抑制されRaとして0.111nmという小さい値が得られた。この観点からは、直鎖型飽和ジカルボン酸としてピメリン酸を用いることが好ましいことがわかる。なお、例11のRaは比較的小さい値であるがトリエタノールアミンは高価でありガラス基板洗浄には不適である。
【0107】
[実施例1]
次の研磨試験を実施した。実験例2で得られたガラス基板を以下のコロイダルシリカスラリーとスエードパッドにて研磨を行った。すなわち、コロイダルシリカスラリーの構成は表3の酸の種類1からpHまでの欄に示す通りであり、コロイダルシリカとしては触媒化成社製コロイダルシリカSI40を用い、その使用量は表3のシリカ量の欄に示す。
【0108】
その後、pH12のアルカリ性の洗浄液による超音波洗浄後、pH10のアルカリ性の洗浄液によるスクラブ洗浄を行い、その後、純水でリンスをしたのち、乾燥させ、Raの測定を前記と同じ条件にて実施した。例17は比較例、例18〜21は実施例である。その結果を表3および図6に示す。なお、研磨レートも表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
表3および図6に示すように、直鎖型飽和ジカルボン酸を含むコロイダルシリカスラリーを使用してガラスを研磨した場合、研磨面が荒れにくいことが確認された。比較のために平均分子量5000のアクリル酸/スルホン酸共重合体のナトリウム塩を例17のスラリーに0.1%添加したスラリーを用いた研磨試験を例17〜21と同様にして行った。その結果Raは0.082nmと比較的小さかったが研磨レートは0.025μm/minとなり低下することがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6