特許第6015320号(P6015320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015320
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】四三酸化マンガン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/02 20060101AFI20161013BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20161013BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161013BHJP
【FI】
   C01G45/02
   C01G45/12
   H01M4/505
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-221628(P2012-221628)
(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2014-73927(P2014-73927A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
(72)【発明者】
【氏名】松永 敬浩
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/046735(WO,A1)
【文献】 特開2011−251862(JP,A)
【文献】 特開2001−261343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00−45/12
H01M 4/00−4/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が少なくとも0.1mL/gで、細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積が0.04mL/g以上である四三酸化マンガン。
【請求項2】
マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程を有する四三酸化マンガンの製造方法であって、該晶析工程においてマンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得、該スラリー中の四三酸化マンガンの固形分濃度が2重量%を超え3.4重量%以下、該スラリー中の四三酸化マンガンの平均滞在時間を10時間以下として晶析させる、細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が少なくとも0.1mL/gで、細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積が0.04mL/g以上である四三酸化マンガンの製造方法。
【請求項3】
マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程を有する四三酸化マンガンの製造方法であって、該晶析工程においてマンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得、該スラリー中の四三酸化マンガンの固形分濃度を2重量%以下として晶析させる、細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が少なくとも0.1mL/gで、細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積が0.04mL/g以上である四三酸化マンガンの製造方法。
【請求項4】
細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が少なくとも0.1mL/gで、細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積が0.04mL/g以上である四三酸化マンガンと、リチウム及びリチウム化合物の少なくとも一方とを混合する混合工程と、これを熱処理する加熱工程と、を有することを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムマンガン系複合酸化物の原料等として使用される四三酸化マンガンに関する。より詳細には、焼成による粒子同士の融着が少ないリチウムマンガン系複合酸化物が得られる四三酸化マンガンに関する。
【背景技術】
【0002】
四三酸化マンガンは、リチウム原料及び他の金属原料と混合、焼成されることでリチウムマンガン系複合酸化物となる。例えば、四三酸化マンガンと水酸化リチウムを粉砕混合した後、焼成することで得られた斜方晶LiMnOが報告されている(特許文献1)。これ以外にも、四三酸化マンガン、炭酸リチウム、オキシ水酸化コバルト及び水酸化ニッケル等をスラリーとし、これを湿式粉砕した後、焼成することで得られたリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が報告されている(特許文献2)。
【0003】
四三酸化マンガンを用いたこれらのリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法では、焼成中にリチウムマンガン系複合酸化物の粒子同士が融着する現象、いわゆるネッキング現象が生じやすかった。ネッキング現象のため、これらの製造方法で得られるリチウムマンガン系複合酸化物はその粒子径や粒子形状などが不均一になる。
【0004】
不均一なリチウムマンガン系複合酸化物を均一にするため、焼成後のリチウムマンガン系複合酸化物は、これを粉砕または解砕することが必要であった(特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、焼成後に粉砕や解砕を行う場合、リチウムマンガン系複合酸化物の製造コストが高くなるだけでなく、粉砕媒体の摩耗粉がこれに混入するなどの問題が指摘されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−086180号公報
【特許文献2】特開2012−023015号公報
【特許文献3】特開2000−007341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2で開示された、リチウムマンガン系複合酸化物を焼成後に粉砕や解砕するリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法では、コスト増加や摩耗粉の混入が生じるだけではなく、リチウムマンガン系複合酸化物の微粒子が発生する。微粒子が存在すると、リチウムマンガン系複合酸化物をリチウムイオン電池の正極活物質として用いた場合に、マンガンの溶出が起きやすくなる。
【0008】
微粒子は分級等の粒度調整により除去できる。しかしながら、粉砕後に分級を行うと、得られるリチウムマンガン系複合酸化物の収率が低下するだけでなく、製造工程の更なる追加になり、更なる製造コストの増加となる。
【0009】
従来の四三酸化マンガンを原料とした製造方法では、ネッキング現象による由来するこの様な諸問題があり、製造規模が大きくなるほどこれらの問題は顕著であった。
【0010】
本発明では、これらの課題を解決し、焼成による粒子同士の融着、すなわちネッキング現象が少ないリチウムマンガン系複合酸化物を与える四三酸化マンガンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、四三酸化マンガンの細孔の容積が、焼成によるリチウムマンガン系複合酸化物粒子の融着挙動に影響を及ぼすことを見出した。さらに、四三酸化マンガンの一定の範囲の細孔直径の細孔を制御することで、ネッキング現象が抑制できることを本発明者らは見出した。
【0012】
すなわち、本発明は細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が少なくとも0.1mL/gである四三酸化マンガンである。
【0013】
以下、本発明の四三酸化マンガンについて説明する。
【0014】
本発明の四三酸化マンガンは、細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が少なくとも0.1mL/gであり、0.2mL/g以上であることが好ましく、0.21mL/g以上であることがより好ましく、0.24mL/g以上であることが更に好ましい。直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が0.1mL/g未満であると、これを原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の粒子同士の融着(以下、単に「融着」ともいう)が起こりやすくなる。融着が生じると、得られるリチウムマンガン系複合酸化物の粒子形状が不均一になるだけでなく、その平均粒子径が大きくなりやすい。このようなリチウムマンガン系複合酸化物は、焼成後の後に粉砕工程又は解砕工程が必要となる。
【0015】
細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積が多いほど、融着が抑制されやすくなる。その一方、当該細孔の細孔容積の上限には任意であるが、細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積は0.5mL/g以下、更には0.4mL/g以下、また更には0.3mL/g以下であればよい。
【0016】
ここで、細孔容積は、一般的な水銀圧入法により測定することができる。また、細孔直径は水銀圧入法において、細孔が円筒状であるとしたみなした場合の細孔の直径である。
【0017】
細孔直径0.3μm未満の細孔の細孔容積が融着に与える影響が少ない。これに加え、細孔直径0.3μm未満の細孔の細孔容積は、四三酸化マンガンの充填性に与える影響が小さい。そのため、本発明の四三酸化マンガンにおいては、細孔直径0.3μm未満の細孔は存在してもよい。細孔直径0.3μm未満の細孔の細孔容積として、0.001mL/g以上、0.02mL/g以下、更には0.003mL/g以上、0.015mL/g以下を例示することができる。
【0018】
細孔直径0.3〜2μmの細孔の細孔容積、及び、細孔直径0.3μm未満の細孔の細孔容積の合計容積、すなわち、細孔直径2μm以下の細孔の細孔容積が多くなっても、四三酸化マンガンを原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の充填性に与える影響は小さい。したがって、本発明の四三酸化マンガンは、細孔直径2μm以下の細孔の細孔容積が0.1mL/gを超え、更には0.2mL/g以上であることが例示できる。一方、細孔直径2μm以下の細孔の細孔容積は必要以上に高くなくてよい。そのため、細孔直径2μm以下の細孔の細孔容積は、例えば、0.52mL/g以下、更には0.4mL/g以下、また更には0.3mL/g以下であればよい。
【0019】
細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積が多いほど、融着がより抑制される傾向がある。そのため、本発明の四三酸化マンガンは、細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積が0.03mL/g以上であることが好ましく、0.04mL/g以上であることがより好ましく、0.05mL/g以上であることが更に好ましく、0.06mL/g以上であることが更により好ましく、0.08mL/g以上であることが特に好ましい。一方、四三酸化マンガン及びこれを原料とするリチウムマンガン系複合酸化物の充填性の低下を防止する観点から、細孔直径0.5〜1μmの細孔の細孔容積は0.2mL/g以下であることが好ましく、0.16mL/g以下であることがより好ましく、0.12mL/g以下であることが更に好ましい。
【0020】
本発明の四三酸化マンガンにおいては、細孔直径が2μmを超える細孔が存在してもよい。この場合、本発明の四三酸化マンガンの最頻細孔径は1.5μm以上、更には2μm以上となる。一方で、細孔直径が大きい細孔、例えば、細孔直径5μm以上の細孔、の細孔容積が増加すると、四三酸化マンガンの充填性が低くなりやすい。そのため、本発明の四三酸化マンガンの最頻細孔径は5μm以下であることが好ましく、4.5μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることが更に好ましい。
【0021】
更に、四三酸化マンガン中の細孔容積が多くなるほど、四三酸化マンガン及びこれを原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の充填性が低くなる傾向にある。したがって、本発明の四三酸化マンガンは、全細孔容積が1.5mL/g以下であることが好ましく、1.1mL/g以下であることがより好ましく、0.9mL/g以下であることが更に好ましい。
【0022】
本発明の四三酸化マンガンの比表面積は2m/g以上であることが好ましく、2.5m/g以上であることがより好ましく、3m/g以上であることが更に好ましく、3.5m/gであることが更により好ましく、4m/g以上であることが特に好ましい。比表面積が2.5m/g以上であれば、融着がより生じにくくなる。また、比表面積が10m/g以下、更には9m/g以下であることで、四三酸化マンガン及びこれを原料とするリチウムマンガン系複合酸化物の充填性が低下しにくくなる。
【0023】
なお、比表面積は、例えば、BET比表面積測定法などの窒素吸着法により測定することができる。
【0024】
本発明の四三酸化マンガンをリチウムマンガン系複合酸化物の原料として使用したリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性、特に充放電サイクル特性及び出力特性を高くする観点から、本発明の四三酸化マンガンの平均粒子径は1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましく、8μm以上であることが更により好ましく、また、10μm以上であることが好ましい。一方、平均粒子径の上限としては、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0025】
四三酸化マンガンは、その結晶構造がスピネル構造である。この結晶構造は、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のX線回折パターンを示す構造である。
【0026】
四三酸化マンガンは、化学式でMnと表わされる。そのため、四三酸化マンガン中のマンガンに対する酸素の割合(酸素(O)/マンガン(Mn);以下、「x」とする。)は、x=1.33〜1.34となり、これは化学式でMnO1.33〜1.34と表される。しかしながら、上記の結晶構造、すなわち、スピネル構造を有していれば、本発明の四三酸化マンガンにおけるxは、x=1.2〜1.4(すなわち、化学式でMnO1.2〜1.4)であってもよく、さらにx=1.25〜1.4(すなわち、化学式でMnO1.25〜1.4)であってもよく、また更には1.3〜1.4(すなわち、化学式でMnO1.3〜1.4)であってもよい。
【0027】
次に、本発明の四三酸化マンガンの製造方法について説明する。
【0028】
本発明の四三酸化マンガンは上記の細孔を有していれば、その製造方法は任意である。例えば、本発明の四三酸化マンガンは、マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程を有する四三酸化マンガンの製造方法であって、該晶析工程においてマンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得、該スラリー中の四三酸化マンガンの固形分濃度が2重量%を超え、該スラリー中の四三酸化マンガンの平均滞在時間を10時間以下として晶析させる製造方法(以下、「高濃度法」とする)により得ることができる。
【0029】
若しくは、本発明の四三酸化マンガンは、マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程を有する四三酸化マンガンの製造方法であって、該晶析工程においてマンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得、該スラリー中の四三酸化マンガンの固形分濃度を2重量%以下として晶析させる製造方法(以下、「低濃度法」とする)により得ることができる。
【0030】
晶析工程では、マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる。マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させるには、マンガン水酸化物の結晶相が全く生成しない態様、及び、マンガン水酸化物の微結晶が短時間析出した後、それが六角板状の結晶に成長する前に四三酸化マンガンに添加する態様も含まれる。すなわち、本発明の四三酸化マンガンの製造方法は晶析工程において、六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じないことを特徴とする。六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じたか否かは、得られた四三酸化マンガンの粒子形状を観察することによって判断できる。
【0031】
晶析工程では、マンガン塩水溶液からアルカリ性領域でマンガン水酸化物結晶を析出させ、該マンガン水酸化物を酸化剤によって酸化する工程(以下、酸化工程)を有しない。すなわち、晶析工程では、マンガン塩水溶液からアルカリ性領域でマンガン水酸化物結晶を析出させずに四三酸化マンガンを晶析させる。そのため、本発明の四三酸化マンガンの製造方法における晶析工程では、酸化工程を経ることなく四三酸化マンガンを製造することができる。
【0032】
晶析工程では、マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を混合して、四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得る。これにより晶析工程において反応雰囲気を変更せずに四三酸化マンガンを得ることができる。そのため、晶析工程では、マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を混合することで連続的に四三酸化マンガンを製造することができる。
【0033】
マンガン塩水溶液は、硫酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、及び酢酸マンガンの群から選ばれる少なくとも1種、又は、硫酸、塩酸、硝酸及び酢酸などの各種の酸水溶液に金属マンガン又はマンガン酸化物等を溶解したものも使用できる。
【0034】
マンガン塩水溶液のマンガンイオン濃度は、例えば、1mol/L以上を挙げることができる。
【0035】
アルカリ水溶液は、アルカリ性を示す水溶液であり、アルカリ性を示し、なおかつ、錯化能を有さない水溶液であることが好ましい。アルカリ水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を挙げることができる。
【0036】
アルカリ水溶液の濃度として、例えば、0.1mol/L以上を挙げることができる。
【0037】
晶析工程においては、四三酸化マンガンを晶析させたスラリーの固形分濃度が本発明の範囲となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液とが混合されれば、マンガン水溶液とアルカリ水溶液との混合方法は任意の方法を選択することができる。
【0038】
混合方法としては、マンガン塩水溶液にアルカリ水溶液を添加して混合する方法、マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を純水やスラリーなどの溶媒中に添加して混合する方法等が例示できる。マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を十分かつ均一に反応させるため、混合方法はマンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を溶媒中に添加して混合する方法が好ましい。
【0039】
低濃度法による晶析工程では、マンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得、該スラリー中の四三酸化マンガンの固形分濃度(以下、単に「固形分濃度」ともいう)が2重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。これにより、標準水素電極に対する酸化還元電位(以下、単に「酸化還元電位」とする)及び平均滞在時間の影響をほとんど受けることなく、本発明の四三酸化マンガンを得ることができる。これにより、四三酸化マンガンが晶析できる条件範囲がより広くなる。
【0040】
高濃度法による晶析工程では、マンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して四三酸化マンガンを晶析させたスラリーを得、該スラリー中の四三酸化マンガンの固形分濃度が2重量%を超えることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが更に好ましい。当該固形分濃度、及び、以下の平均滞在時間を兼ね備えることにより、本発明の四三酸化マンガンがより効率よく得られる。
【0041】
ここで、固形分濃度は、マンガン塩水溶液とアルカリ溶液を混合して得られる四三酸化マンガンが晶析したスラリーの重量に対する、該スラリーに含まれる四三酸化マンガンの重量により求めることができる。例えば、以下の様な方法により固形分濃度を測定することを挙げることができる。晶析反応中に、四三酸化マンガンを含む反応スラリーの一部を採取し、採取した反応スラリーその重量を測定する。その後、これをろ過、水洗し、その後、乾燥して四三酸化マンガンの乾燥粉を得る。得られた乾燥粉の重量を測定し、以下の式から固形分濃度を求めることができる。
【0042】
固形分濃度(重量%)=(乾燥粉重量(g)/反応スラリー重量(g))×100
【0043】
晶析工程では、晶析した四三酸化マンガンが、反応スラリー中に滞在する平均時間(以下、「平均滞在時間」とする)が1時間以上であることが好ましい。平均滞在時間をこの範囲とすることで、本発明の四三酸化マンガンが得られやすくなる。
【0044】
高濃度法において、平均滞在時間が長くなると、得られる四三酸化マンガンの細孔容積が少なくなりやすい。そのため、高濃度法による晶析工程においては、平均滞在時間が10時間以下であり、8時間以下であることが好ましく、6時間以下であることがより好ましく、4時間以下であることが更に好ましく、2.5時間以下であることが更により好ましい。
【0045】
一方、低濃度法において、平均滞在時間が短いほど単位時間及び単位体積当たりの四三酸化マンガンの収量が多くなる。そのため、低濃度法による晶析工程における平均滞在時間としては、例えば、10時間以下、更には8時間以下、また更には2.5時間以下を挙げることができる。
【0046】
平均滞在時間はマンガン塩水溶液から晶析した四三酸化マンガンが、反応スラリー中に滞在する平均時間であるが、これは、例えば、反応スラリーの固形分濃度を目的とする濃度とし、当該固形分濃度で四三酸化マンガンを晶析させた時間をもって平均滞在時間とすることが挙げられる
晶析工程において、四三酸化マンガンを晶析させる際のマンガン塩水溶液のpHは、マンガン水酸化物の生成し難いpHであることが好ましく、pH6以上、pH9以下であることがより好ましく、pH6.5以上、pH8以下であることが更に好ましい。マンガン塩水溶液のpHをこの範囲とすることで、水酸化マンガンがより生成しにくくなる。
【0047】
晶析工程において、四三酸化マンガンを晶析させる際のマンガン塩水溶液のpHはこれらの範囲であり、なおかつ、pHを一定に維持することが更に好ましい。pHを一定に維持するとは、pHを±0.5とすることであり、好ましくはpHを±0.3とすることであり、更に好ましくはpHを±0.1とすることである。
【0048】
晶析工程において、四三酸化マンガンが晶析する際の酸化還元電位が高くなることで四三酸化マンガンの単一相が得られやすくなる。そのため、晶析工程における酸化還元電位は、300mV以下、さらには200mV以下であれば、単一相の四三酸化マンガンが一層得られやすくなる。
【0049】
高濃度法による晶析工程においては、酸化還元電位が100mV以上であることが好ましく、140mV以上であることがより好ましい。酸化還元電位をこの範囲とすることで、本発明の四三酸化マンガンを得ることができる。
【0050】
一方、低濃度法による晶析工程においては、酸化還元電位が低い場合であっても、本発明の細孔容積を有する四三酸化マンガンが得られる。そのため、低濃度法による晶析工程においては、例えば、酸化還元電位が−100mV以上、更には−50mV以上、また更には0mV以上であれば、本発明の四三酸化マンガンを得ることができる。
【0051】
マンガン塩水溶液の酸化還元電位はこれらの範囲であり、なおかつそれを一定に維持することが更に好ましい。酸化還元電位を一定に維持するとは、酸化還元電位を±50mVの範囲で維持することであり、好ましくは酸化還元電位を±30mVの範囲で維持することであり、更に好ましくは酸化還元電位を±20mVの範囲で維持することである。
【0052】
晶析工程では、40℃以上、更には50℃以上、また更には60℃以上として四三酸化マンガンを晶析することが好ましい。また、95℃以下、更には90℃以下とすることが好ましい。晶析をする際のマンガン塩水溶液の温度をこの範囲とすることで、四三酸化マンガンの晶析が促進されるだけではなく、四三酸化マンガンが粒子径の均一な粒子になりやすくなる。
【0053】
晶析工程では、酸化剤を使用して晶析を行なうことが好ましい。酸化剤の種類は空気等の酸素含有ガスなどの気体酸化剤や、過酸化水素などの液体酸化剤が例示できる。工業的な観点から、酸化剤として気体酸化剤を使用することが好ましく、空気を使用することがより好ましい。
【0054】
晶析工程では、錯化剤を共存させずに晶析することが好ましい。錯化剤とは、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、及びEDTAの他、これらと同様の錯化能を有するものを指す。
【0055】
これらの錯化剤は、四三酸化マンガンの晶析挙動に影響を及ぼす。そのため、錯化剤の存在下で得られた四三酸化マンガン、本発明の製造方法で得られる四三酸化マンガンとは異なる細孔特性を有しやすい。
【0056】
本発明の四三酸化マンガンは、リチウムマンガン系複合酸化物のマンガン原料として使用することができる。
【0057】
以下、本発明の四三酸化マンガンをマンガン原料として使用した、リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法について説明する。
【0058】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法は、上述の四三酸化マンガンと、リチウム及びリチウム化合物の少なくとも一方とを混合する混合工程と、これを熱処理する加熱工程と、を有する。
【0059】
混合工程において、混合方法は任意の方法を選択できるが、乾式混合であることが好ましい。これにより、融着がより抑制されやすくなる。乾式混合の方法は、例えば、乳鉢や、ライカイ機などを使用した磨砕力による混合方法や、バーチカルグラニュレーターなどを使用したせん断力による混合方法を挙げることができる。
【0060】
混合工程において、四三酸化マンガンをリチウム化合物と混合する際に、リチウムマンガン系複合酸化物のリチウム二次電池正極材料の特性を改善するために、異種金属化合物を添加してもよい。異種金属化合物は、構成元素としてマンガン及びリチウムとは異なる金属元素を有する。例えば、構成元素としてAl、Mg、Ni、Co、Cr、Ti及びZrの群から選ばれる少なくとも1種を含む化合物である。
【0061】
加熱工程において、熱処理方法は任意の方法を選択できる。熱処理方法として、酸素ガス、空気等の酸化雰囲気中、500℃以上、900℃以下で、5時間以上焼成することを例示できる。
【0062】
本発明の四三酸化マンガンをマンガン原料として使用したリチウムマンガン系複合酸化物は、融着がほとんど生じない。そのため、本発明の四三酸化マンガンと、これを原料として得られたリチウムマンガン系複合酸化物とは、その平均粒径が同程度になる。例えば、本発明の四三酸化マンガンの平均粒子径に対する、これを原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の平均粒子径(以下、「粒子径比」とする)は、1.5以下であり、1.2以下であることが好ましく、1.15以下であることがより好ましく、1.1以下であることが更に好ましい。一方、加熱工程において、四三酸化マンガンが収縮する場合があるが、粒子径比は0.9以上、更には0.95以上となる。
【0063】
加熱工程後のリチウムマンガン系複合酸化物は融着、いわゆるネッキングがほとんど生じない。そのため、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法においては、粉砕工程又は解砕工程が必須ではない。
【0064】
一方、加熱工程後のリチウムマンガン系複合酸化物は、その粒子が物理的に接触している状態、いわゆる緩慢凝集状態である場合がある。二次電池正極材としてリチウムマンガン系複合酸化物を使用する際に、当該緩慢凝集は簡単に崩れる。そのため、緩慢凝集をした状態でもよいが、必要に応じて、例えば、加熱工程の後に、篩分けなどの緩慢凝集をほぐす工程を有していてもよい。
【0065】
リチウムマンガン系複合酸化物は結晶構造がスピネル型であることが好ましい。リチウムマンガン系複合酸化物は下記化学式(1)で表される。
【0066】
Li1+xMn2−x−y (1)
【0067】
上記式(1)中、MはLi,Mn,O以外の元素から選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素を示し、x,yはそれぞれ下記式(2),(3)を満たす。
【0068】
0≦x≦0.33 (2)
0≦y≦1.0 (3)
【0069】
リチウム化合物は、如何なるものを用いてもよい。リチウム化合物として、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム、及びアルキルリチウム等が例示される。好ましいリチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、及び炭酸リチウムの群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。
【0070】
本発明の四三酸化マンガンを原料として得られたリチウムマンガン系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明により、焼成による粒子同士の融着が少ないリチウムマンガン系複合酸化物を与える四三酸化マンガン及びその製造方法を提供することができる。
【0072】
本発明の四三酸化マンガンにより、焼成後、粉砕工程や解砕工程を必要としないリチウムマンガン系複合酸化物及びその製造方法、さらには、これによる従来よりも製造コストが低いリチウムマンガン系複合酸化物及びその製造方法を提供することができる。
【0073】
本発明の四三酸化マンガンにより、これを原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の粒子径の制御が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】実施例2の四三酸化マンガン及びマンガン酸リチウムの粒子径分布(実線:四三酸化マンガン、破線:マンガン酸リチウム)
図2】比較例2の四三酸化マンガン及びマンガン酸リチウムの粒子径分布(実線:四三酸化マンガン、破線:マンガン酸リチウム)
【実施例】
【0075】
次に、本発明を具体的な実施例で説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
(細孔容積)
細孔容積の測定には、市販の水銀ポロシメータ(商品名:AUTO PORE IV、MICRO MERITICS製)を用いた。圧力範囲を大気圧から414MPaとして試料の細孔容積を測定した。当該圧力範囲で測定できる細孔直径の範囲は0.003μm以上、400μm以下である。
【0077】
(平均粒子径)
平均粒子径の測定には、市販の粒度測定装置(商品名:MICROTRAC HRA 9320−X100,日機装株式会社製)を用いた。試料を純水に分散させ、そこにアンモニア水を添加してpH=8.5とすることで測定溶液を調製した。測定溶液は、これを3分間超音波分散した後、平均粒子径を測定した。
【0078】
(BET比表面積)
BET比表面積の測定には、市販の比表面積測定装置(商品名:FlOW SORB III、MICRO MERITICS製)を用いて、BET1点法の窒素吸着により測定した。BET比表面積の測定に先立ち、空気流通下、150℃で40分間加熱して試料の脱気処理を行った。
【0079】
(タップ密度)
JIS R1628に準じて密度を測定し、これをタップ密度とした。
【0080】
(プレス密度)
直径13mmの金型に試料1gを充填し、これを1t/cmでプレスすることにより成型体を得た。得られた成型体の重量をその体積で除して得られた密度をプレス密度とした。
【0081】
(X線回折測定)
試料の結晶相をX線回折によって測定した。測定は一般的なX線回折装置で測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0082】
JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンをスピネル構造の四三酸化マンガンのX線回折パターン、及び、JCPDSパターンのNo.35−782のX線回折パターンをマンガン酸リチウムのX線回折パターンとし、これらのX線回折パターンと試料のX線回折パターンとを対比することにより、試料の結晶相の同定を行った。
【0083】
(固形分濃度の測定)
固形分濃度は、晶析反応中に以下のように測定した。晶析反応中に、マンガン酸化物を含む反応スラリーの一部を採取した。採取した反応スラリーその重量を測定した後、これをろ過、水洗し、その後、110℃で乾燥してマンガン酸化物の乾燥粉を得た。得られた乾燥粉の重量を測定し、以下の式から固形分濃度を求めた。
【0084】
固形分濃度(重量%)=(乾燥粉重量(g)/反応スラリー重量(g))×100
【0085】
実施例1
(四三酸化マンガンの製造)
純水を80℃とし、その酸化還元電位が200mVとなるように空気を吹き込みながら攪拌した。2mol/Lの硫酸マンガン水溶液と、2.8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をこれに連続的に添加することでマンガン酸化物を晶析させ、固形分濃度が5.4重量%の反応スラリーを得た。
【0086】
水酸化ナトリウム水溶液の添加は、反応スラリーのpHが7となるようにして、反応スラリーに適宜添加した。
【0087】
反応スラリーに硫酸マンガン水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を添加すると同時に、固形分濃度を維持しながら、これと同量の反応スラリーを抜き出しながら4時間晶析させた。これにより、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を4時間として晶析を行った。その後、反応スラリーをろ過、洗浄、乾燥してマンガン酸化物を得た。
【0088】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0089】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンと炭酸リチウムとを、モル比で、2Li/Mn=1.16となるように乳鉢で乾式混合して、混合物を得た。得られた混合物を850℃で6時間焼成し、リチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0090】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.215Åであった。
【0091】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0092】
実施例2
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を0mVとしたこと、反応スラリーのpHを8としたこと、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.25mol/Lとしたこと、反応スラリーの固形分濃度を0.9重量%としたこと、及び、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を2.25時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0093】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0094】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0095】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.220Åであった。
【0096】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0097】
実施例3
(四三酸化マンガンの製造)
スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を8時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0098】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。本実施例の四三酸化マンガンのタップ密度は1.4g/cmであった。
【0099】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0100】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.218Åであった。
【0101】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0102】
実施例4
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を100mVとしたこと、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.25mol/Lとしたこと、スラリーの固形分濃度を0.9重量%としたこと、及び、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を2.25時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0103】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0104】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0105】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.218Åであった。
【0106】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0107】
実施例5
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を−50mVとしたこと、反応スラリーのpHを8.5としたこと、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.25mol/Lとしたこと、スラリーの固形分濃度を0.9重量%としたこと、及び、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を2.25時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0108】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0109】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0110】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.217Åであった。
【0111】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0112】
実施例6
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を140mVとしたこと、反応スラリーのpHを7.4としたこと、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.13mol/Lとしたこと、スラリーの固形分濃度を3.4重量%としたこと、及び、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を4時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0113】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0114】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0115】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.215Åであった。
【0116】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0117】
実施例7
(四三酸化マンガンの製造)
純水を90℃とし、その酸化還元電位が200mVとなるように空気を吹き込みながら攪拌した。2mol/Lの硫酸マンガン水溶液と、2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をこれに連続的に添加することでマンガン酸化物を晶析させ、固形分濃度が2.2重量%の反応スラリーを得た。
【0118】
固形分濃度が2.2重量%となった時点で硫酸マンガン水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液の添加を止め、固形分濃度を維持した。このまま6時間攪拌して、反応スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を6時間とした。その後、反応スラリーをろ過、洗浄、乾燥してマンガン酸化物を得た。
【0119】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0120】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0121】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.216Åであった。
【0122】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0123】
実施例8
(四三酸化マンガンの製造)
純水を80℃としたこと、及び、酸化還元電位を150mVとしたこと以外は、実施例7と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0124】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0125】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0126】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.219Åであった。
【0127】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0128】
実施例9
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を200mVとしたこと以外は、実施例7と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0129】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0130】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0131】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.216Åであった。
【0132】
本実施例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0133】
比較例1
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を100mV、及び、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を18時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0134】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。本比較例の四三酸化マンガンのタップ密度は1.77g/cmであった。
【0135】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0136】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.216Åであった。
【0137】
本比較例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0138】
比較例2
(四三酸化マンガンの製造)
酸化還元電位を180mV、及び、スラリー中のマンガン酸化物の平均滞在時間を18時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0139】
得られたマンガン酸化物の結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度はx=1.33(MnO1.33)であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。本比較例の四三酸化マンガンのタップ密度は1.77g/cmであった。
【0140】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られた四三酸化マンガンを使用したこと以外は実施例1と同様な方法によってマンガンマンガン系複合酸化物を得た。
【0141】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物の結晶相はマンガン酸リチウム単相であり、その格子定数は8.216Åであった。
【0142】
本比較例の四三酸化マンガンの評価結果を表1に、マンガン酸リチウムの評価結果を表2に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
これらの実施例より、本発明の四三酸化マンガンは細孔直径が0.3〜2μmの細孔の細孔容積が0.1mL/g以上、さらには0.2mL/g以上と多かった。さらに、本発明の四三酸化マンガンは、その平均粒子径が9μm以上、10μm以上、さらには15μm以上のいずれの粒子径においても当該細孔直径の細孔容積が多かった。一方、比較例の四三酸化マンガンと比べ、本発明の四三酸化マンガンは、タップ密度が1.4g/cm以下と、充填性が低い傾向にあった。
【0145】
また、低濃度法においては、スラリーの酸化還元電位が−50mV以上と、低い酸化還元電位による晶析であっても、四三酸化マンガンの単一相が得られることが確認できた。
【0146】
【表2】
【0147】
本発明の四三酸化マンガンから得られたマンガン酸リチウムは、そのタップ密度が1.3g/cm以上であった。しかしながら、そのプレス密度は2.4g/cm以上、2.8g/cm以下と高く、充填性に優れる比較例の四三酸化マンガンと同等の充填性を示した。
【0148】
実施例及び比較例の粒子径比を表3にまとめた。
【0149】
【表3】
【0150】
表3より、本発明の四三酸化マンガンはその粒子径比が1.5以下、更には1.2以下であり、焼成時に融着が生じていないことが確認できた。一方、充填性に優れる比較例の四三酸化マンガンは焼成時に融着が生じ、その粒子径比は1.4以上、さらには1.7以上であり、マンガン酸リチウムの粒子径は、四三酸化マンガンの2倍近くの粒子径であった。
図1
図2