(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
両端が開口した中空部を有する筒状の軸部と、前記軸部の一方端に固定された攪拌部と、を有する溶融金属攪拌用回転体であって、前記中空部には、一方端側に配置された大径孔部と、前記大径孔部に連通するように前記大径孔部の他方側に配置されたガス供給用の小径孔部とが形成され、前記大径孔部の断面積は、前記小径孔部の断面積の10倍以上である溶融金属攪拌用回転体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2に開示された溶融金属攪拌用回転体は、いずれも、上記した効果を奏することができるものの、以下説明するように別の問題があった。
【0006】
従来の溶融金属攪拌用回転体92(以下、単に回転体という場合がある。)が組み込まれた溶融金属攪拌装置90の概略構成図を
図9(a)に示す。
図9(a)に示すように、加熱しつつ溶融状態を保持する保持炉94に収納された溶融金属95に浸漬された回転体92は、その上端に接続されたモーター91で矢印B方向に回転しつつ溶融金属95を攪拌する。なお、符号93は、溶融金属95の表層に存在する溶融金属95から生じた不純物を含むスラグである。
【0007】
ここで、溶融金属攪拌装置90は、窒素やアルゴン等のガス(不活性ガス)を溶融金属95中で気泡化し、当該気泡化したガスにより溶融金属95に含まれる製品欠陥の起因となる水素ガスなどの不純物を浮遊させて除去し、溶融金属95を清浄化する装置である。したがって、回転体92は、その下端部分の正断面図である
図10に示すように、不図示の窒素やアルゴン等のガス(不活性ガス)を所定の圧力および流量で供給する供給部から供給されたガスが下方に向かい流通する貫通孔部92dを有しており、貫通孔部92dを流通するガスは、攪拌部92aの中央に設けられた小径孔部92eを通じて溶融金属95中に放出される。なお、
図10において、符号92cは、上記貫通孔部92dを有する円筒形状の筒体であり、符号92bは、筒体92cが挿着され固定される中空孔部を有する円筒形状の軸部である。なお、小径孔部92eは、溶融金属95の清浄化のため細かいガスを溶融金属に供給するため設けられている。
【0008】
図9(a)に示すように、上記のように攪拌部の小径孔部から放出されたガスは、当該攪拌部の回転に伴い気泡化され細かい気泡96となり溶融金属95中に分散された状態で供給される。そして、溶融金属95中に分散した細かな気泡96は、溶融金属95の表面に達するまでに溶融金属中に含まれる水素を除去する。
【0009】
図9(b)に、溶融金属95の清浄化が終了し、回転体92の回転を停止した溶融金属攪拌装置90の状態を示す。
図9(b)に示すように、回転体92の回転を停止してもガスの供給を停止しない場合には、攪拌部が回転していないためガスが細かい気泡とならず、大きな気泡97が溶融金属95中に供給される。この大きな気泡97が、溶融金属95の表層部まで達し表層部で破裂すると、表層部に存在するスラグ93が清浄化された溶融金属95に巻き込まれる場合がある。この巻き込まれたスラグを含む例えば溶融アルミニウムを使用し、例えば低圧鋳造等でアルミホイールやシリンダーヘッド等を製造すると、スラグが欠陥の起因となるため、回転体の回転を停止すると同時にガスの供給を停止する制御が検討されている。
【0010】
しかしながら、上記のように回転体92の回転を停止すると同時に溶融金属95に浸漬したままガスの供給を停止すると、
図10に示すように、貫通孔部92dの開口端まで溶融金属98が侵入するという問題があった。
【0011】
すなわち、回転体92の小径孔部92eには、当該小径孔部92eの保持炉における配置高さに相当する溶融金属95の圧力が作用しているが、回転体92を溶融金属95に浸漬したままガスの供給を停止すると、小径孔部92eに作用している溶融金属95の圧力により溶融金属95が小径孔部92eに押し込まれ、小径孔部92eより大径の貫通孔部92dに侵入する。そして、貫通孔部92dに溶融金属98が存在したまま回転体92を引き上げると、当該溶融金属98が固化して小径孔部92eおよび貫通孔部92dが閉ざされる。このように小径孔部92eおよび貫通孔部92dの中で溶融金属98が固化した場合、回転体92を次に使用する前に、回転体92を酸洗し、工具等を用いて固化した溶融金属98を除去する補修作業が必要であり、その補修作業に多大な工数を要したり、補修作業中に回転体92が破損し再使用できなくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記従来技術の回転体の問題を本発明者らが鋭意検討してなされたものであり、溶融金属に浸漬した状態においてガスの供給を停止した場合にも、軸部の貫通孔部にまで溶融金属が侵入することを抑制可能な溶融金属攪拌用回転体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、溶融金属攪拌用回転体であって、両端が開口した中空部を有する筒状の軸部と、前記軸部の一方端に固定された攪拌部と、を有する溶融金属攪拌用回転体であって、前記中空部には、一方端側に配置された大径孔部と、前記大径孔部に連通するように前記大径孔部の他方側に配置されたガス供給用の小径孔部とが形成され、前記大径孔部の断面積は、前記小径孔部の断面積の10倍以上であることを特徴とする。
【0014】
上記溶融金属攪拌用回転体は、小径孔部が前記軸部の全長から前記大径孔部の長さを除いた長さに渡って形成されているのが好適である。
【0015】
また、上記大径孔部の容積/前記小径孔部の容積の値は0.4以上であるのが好適である。
【0016】
また、上記小径孔部の一方端側の端面と軸部の一方端との距離は、大径孔部の直径の0.8倍以上であるのが好適である。
【0017】
また、上記大径孔部の内面にMgOまたはBNを主体とする層が形成されているのが好適である。
【0018】
また、上記小径孔部を有する筒体は、前記軸部に形成された中空部に装着されているのが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶融金属に浸漬した状態においてガスの供給を停止した場合にも、軸部の貫通孔部にまで溶融金属が侵入することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0022】
[実施形態1]
本発明に係る実施形態1の溶融金属攪拌用回転体(以下、回転体と言う場合がある。)について、
図1〜3を参照して説明する。ここで、
図1は、本発明に係る第1実施形態の回転体の正断面図、
図2は、
図1の左側面図、
図3は、
図1のD部の拡大図である。
【0023】
図1に示すように、回転体1は、軸芯Iと、軸芯Iに沿い軸芯Iと同軸に形成された両端が開口した中空部1gとを有し、軸芯I回りに回転されるセラミックスを主体として構成された軸部1fと、軸芯Iに沿う方向において軸部1fの一方端に固定された攪拌部1aとを有しており、溶融金属に浸漬されて攪拌部1aから気泡を放出しつつ溶融金属を攪拌する。
【0024】
[軸部]
本実施形態1においては、中空部1gの一方端には、当該一方端側に開口した開口部を有する大径孔部2iが配置され、大径孔部2iの他方側には、大径孔部2iに連通するようにガス供給用の小径孔部1iが配置されている。また、小径孔部1iのさらに右方(他方)側は、大径孔部2iと同じ内径のガス供給側大径孔部1jが形成されている。なお、大径孔部2iとガス供給側大径孔部1jとは、必ずしも同じ内径とする必要はない。
【0025】
図1において、符号1kは、不図示のモーターと連結される継手部である。図示するように略椀形状をなす継手部1kは、その底面がOリング1mを介し軸部1fの右端面に当接するように配置され、不図示の螺子で固定されており、半径方向において中央部に、配管1nを介してガス供給装置Pに接続されたガス供給用の孔部1Lが形成されている。ガス供給用の孔部1Lから供給されたガスは、上記ガス供給側大径孔部1jを介して小径孔部1iに供給され、小径孔部1iから大径孔部2iに供給される。
【0026】
図1に示すように、回転体1の回転中心となる軸芯Iを有する本実施形態1の軸部1fは、好ましい実施形態であって、軸芯Iに沿う方向(以下、この方向を軸芯方向と言い、軸芯と直交する方向を半径方向と言う。)の肉厚がほぼ一定であり、略円筒形状の中空部1gを有している。この略円筒形状の中空部1gの内面により、上記大径孔部2iとガス供給側大径孔部1jとが形成されている。また、上記軸部1fの左方側(一方側)であって、大径孔部2iの他方側には、上記略円筒形状の中空部1gの内面に、中空部1gの内径とほぼ同一の外径を有する略円筒形状の筒体1hが挿着され固定されている。この筒体1hには、軸芯方向に延設された上記小径孔部1iが形成されている。なお、筒体1hは、好ましくは軸部1fと同一の熱膨張係数を有するセラミックス、より好ましくは軸部1fと同一のセラミックスで構成される。
【0027】
上記中空部1gの内面に対する筒体1hの固定方法は特段限定されることはなく、例えば耐熱性の接着剤で中空部1gの内面に固定してもよい。さらに、セラミックスで筒体1hを構成する場合には、下記で詳細に説明するように焼き嵌めや冷し嵌めによる締り嵌めで中空部1gの内面に固定することが好ましい。
【0028】
なお、上記中空部1gの内面を略円筒形状とし、その左方側の内面に筒体1hを配置する構成は必須ではない。例えば軸部1f(中空部1g)および筒体1hの半径方向における断面形状は略矩形枠形状としてもよい。しかしながら、軸部1fを肉厚がほぼ一定で角部の無い略円筒形状とすることで、溶融金属への浸漬時および溶融金属からの引き上げ時に、肉厚の急変部に生じる過大な熱応力による軸部1fの破損を抑制できる。
【0029】
[攪拌部]
好ましくは軸部1fと同一の熱膨張係数を有するセラミックス、より好ましくは軸部1fと同一のセラミックスで構成され、半径方向において中央部に貫通孔1tを有する大略円盤形状をなす攪拌部1aは、
図1および2に示すように、軸部1fの左端(一方側端部)に挿着され固定されている。攪拌部1aは、軸芯Iの周りに45°の等角度で形成され、放射状に延びた8本の攪拌脚1dを有し、攪拌部1aの回転に伴い攪拌脚1dは溶融金属を攪拌する。
【0030】
本実施形態1の攪拌脚1dの軸部1fと反対側の一面には、当該攪拌脚1dの延びる方向に沿い各々ガス分散溝1cが形成されている。各ガス分散溝1cは、大径孔部2iと接続されている。この構成により、小径孔部1iを通じ大径孔部2iから供給されたガスは、回転体1の回転に伴い各ガス分散溝1cで細かな気泡に分断され、溶融金属中に供給される。
【0031】
なお、攪拌部1aと軸部1fとの固定方法は特段限定されず、例えば上記した耐熱性の接着剤や機械的な螺子固定などで固定してもよい。しかしながら、特に上記したセラミックスで攪拌部1aを構成した場合には、軸部1fと筒体1hとの固定と同様に焼き嵌めや冷し嵌めによる締り嵌めで軸部1fに攪拌部1aを固定することが好ましい。締り嵌めで固定する場合、例えば中空部1gの内面の内径または攪拌部1aの貫通孔の内径で締め代を除した値である嵌合率は0.01/1000〜0.5/1000の範囲内であるのが好ましい。嵌合率が0.01/1000未満であると、締付け力が不十分であり攪拌部1aまたは筒体1hが脱落するおそれがある。また、嵌合率が0.5/1000を超えると、締付け力が大きくなりすぎ、攪拌部1aまたは軸部1fが破損するおそれがある。より好ましい嵌合率は0.2/1000〜0.3/1000である。
【0032】
[機能]
以上に述べた大径孔部2iの半径方向の断面積は、小径孔部1iの断面積の10倍以上とするのが好適である。また、大径孔部2iの軸芯方向の長さE、すなわち
図3に示すように、小径孔部1iの一方端側の端面と軸部1fの一方端との距離が、大径孔部2iの直径の0.8倍以上であるのが好適である。
【0033】
本実施形態1にかかる回転体1は、このような構成を有しているので、次のような作用効果を奏することができる。すなわち、溶融金属に浸漬した状態においてガスの供給を停止し、大径孔部2iに溶融金属が侵入した場合でも、系内の残圧により小径孔部1iからガスの放出が維持され、溶融金属から回転体1を引き上げている間に、溶融金属を大径孔部2iから排出する。そして、大径孔部2iはその断面積が大きく加えてその一方端側が開口しているので、侵入した溶融金属は容易に当該開口から排出される。その結果、大径孔部2iに侵入した溶融金属が、小径孔部1iまで到達することが抑制され、小径孔部1iにおける溶融金属の固化が防止される。さらに、細かいガスを溶融金属に供給する小径孔部1iを設けることにより、処理された溶融金属の所定の清浄度を確保することができる。
【0034】
[軸部等の材料構成]
軸部1fおよび好ましくは筒体1hおよび攪拌部1aを構成するセラミックスとしては、溶融金属中における強度を満足すれば酸化物・窒化物・炭化物・硼化物その他各種のセラミックスを使用することができるが、優れた高温強度を有する窒化珪素質セラミックス(窒化珪素セラミックスまたはサイアロンセラミックス)を使用することが好ましい。
【0035】
軸部1f・攪拌部1a・筒体1hを窒化珪素セラミックスで構成する場合には、例えば次のようにして形成することができる。原料粉末として、窒化珪素粉末93〜99質量%と、Mgを酸化物換算して1〜5質量%を含むMg源粉末、希土類元素を酸化物換算して1〜5質量%含む希土類源粉末を、エチルアルコールを溶媒とし、窒化珪素質のボールを用いボールミル中で混合し、スラリーを形成する。得られたスラリーに有機バインダを添加した後、スプレードライヤーで乾燥して、造粒粉を作製する。得られた造粒粉を篩いわけした後、冷間静水圧プレス(CIP)で造粒粉を成形し、成形体を得る。得られた成形体を大気雰囲気中において脱脂し、次いで、常圧の窒素雰囲気中で1600〜1900℃の範囲で焼結して焼結体を形成し、必要な部位には適宜機械加工を焼結体に施すことにより軸部1f・攪拌部1a・筒体1hを得ることができる。なお、上記窒化珪素粉末としては、α化率90%以上、平均粒子径(D50):0.3〜0.8μm、酸素量:0.1〜2.0質量%、Al:0.01質量%以下、Fe:0.01%質量以下のものが好ましい。また、希土類元素としてはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの何れの元素でも好適に用いることができるが、これらの中でもY、Ce、Sm、Dy、Er、Yb、Lu、とりわけY、Erが特性およびコストの面で望ましい。また、上記希土類源粉末およびMg源粉末は、いずれも平均粒径が1μm以下、純度99%以上であることが好ましい。
【0036】
軸部1f・攪拌部1a・筒体1hをサイアロンセラミックスで構成する場合には、例えば次のようにして形成することができる。原料粉末として、窒化珪素粉末84〜90質量%と、AlN固溶体粉末を1〜5質量%と、希土類元素を酸化物換算して5〜9質量%含む希土類源粉末と、Alを酸化物換算して1〜5質量%を含むAl源粉末を、エチルアルコールを溶媒とし、窒化珪素質のボールを用いボールミル中で混合し、スラリーを形成する。得られたスラリーに有機バインダを添加した後、スプレードライヤーで乾燥して造粒粉を作製する。得られた造粒粉を篩いわけした後、冷間静水圧プレス(CIP)で造粒粉を成形し、成形体を得る。得られた成形体を大気雰囲気中で脱脂し、次いで、常圧の窒素雰囲気中で1600〜1900℃の範囲で焼結して焼結体を形成し、必要な部位には適宜機械加工を焼結体に施すことにより軸部1f・攪拌部1a・筒体1hを得ることができる。
【0037】
[変形例]
図3に示されるように、大径孔部2iの内面に酸化マグネシウム(MgO)または窒化ホウ素(BN)を主体とする層を形成してもよい。好ましくは0.05〜0.5mmの厚みのMgOまたはBNの層を例えばスプレー塗布などで形成することにより、大径孔部2iの内面は溶融金属が濡れにくい状態となる。その結果、溶融金属に浸漬した状態においてガスの供給を停止したときに、上記した小径孔部1iからのガスの放出による大径孔部2iからの溶融金属の排出がより円滑となる。その結果、溶融金属は小径孔部1iに到達することが抑制され、小径孔部1iにおける溶融金属の固化が防止でき、かつ大径孔部2iの内面に溶融金属が付着し、固化することを防止できる。このように大径孔部2iの内面に付着し、固化した溶融金属は、回転体の繰り返しの使用により堆積し、大径孔部2iを閉塞させる可能性があるため、大径孔部2iの内面にMgOまたはBNの層を形成し、溶融金属の濡れ性を低くすることは有効である。
【0038】
また、
図4には、実施形態1の他の変形例が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図4の例では、筒体1hが軸部1fと一体成形されている。この場合、使用される材料は上述した軸部1fと同じである。
【0039】
[実施形態2]
図5には、実施形態2の回転体の正断面図が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図5において、ガス供給側大径孔部1jには、筒体1hと同じ外形で、上記小径孔部1iと同じ内径の小径孔部3iが軸芯方向に延設された筒体3hが配置されている。この小径孔部3iは、小径孔部1iとその中心軸を共通にし、小径孔部1iに連通するように配置されている。本例では、継手部1kが、その底面がOリング1mを介し筒体3hの右端面に当接するように配置されている。また、小径孔部1i、3iにより、上記軸部1fの全長から上記大径孔部2iの長さを除いた長さに渡って小径孔部1iと同じ径のガス通路が形成されている。本実施形態2では、大径孔部2iの容積を小径孔部1iと3iの容積の和で除した値(大径孔部2iの容積/小径孔部1iと3iの容積の和)が0.4以上となるように大径孔部2i、小径孔部1i、3iの各サイズを決定するのが好適である。
【0040】
以上の構成によれば、中空部1gの容積が小径孔部3iの容積まで絞られているので、溶融金属に浸漬した状態においてガスの供給を停止したときに、大径孔部2iの容積に対して小径孔部3iの容積が小さいために小径孔部3i中の圧力がより上昇し、大径孔部2iに侵入した溶融金属がより効果的に排出される。その結果、上記した小径孔部1iからのガスの放出による大径孔部2iからの溶融金属の排出がより円滑となる。その結果、溶融金属は小径孔部1iに到達することが抑制され、小径孔部1iにおける溶融金属の固化が防止でき、かつ大径孔部2iの内面に溶融金属が付着し、固化することを防止できる。
【0041】
上記筒体3hの材料は、筒体1hと同じであってもよいし、カーボンを使用してもよい。カーボンを使用することにより、筒体3hの材料コストを低減することができる。
【0042】
[変形例]
図6には、実施形態2の変形例が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図6においては、上記筒体1hと筒体3hとが一体成形されている。この場合、筒体1hと筒体3hとを、上述した筒体1hと同じ材料で形成する。これにより、工業生産上安価に回転体を製造することができる。
【0043】
また、
図7には、実施形態2の他の変形例が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図7においては、上記筒体1hと筒体3hとが軸部1fと一体成形されている。この場合、使用される材料は上述した軸部1fと同じである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
形状が複雑でかつ貫通孔1tから放出される低温のガスの接触状態が変化するため耐熱衝撃性が求められる攪拌部1aは、窒化珪素セラミックスで構成した。具体的には、平均粒径0.6μm、酸素量0.9%、α化率95%の窒化珪素質粉末95質量%と、平均粒径1μmのY
2O
3粉末3質量%、平均粒径0.1μmのMgO粉末2質量%を、溶媒としてエチルアルコールを用い窒化珪素質のボールを用いたボールミル中で混合した。得られたスラリーにバインダとしてポリビニルブチラールを1%添加して混合を加えてスラリーとした後、スプレードライヤーで乾燥して、造粒粉を作成した。得られた造粒粉を平均粒径60μmになるように篩いわけした後、1000kg/cm
2の圧力で冷間静水圧プレス(CIP)により成形体を形成した。得られた成形体を大気雰囲気中、500℃、20時間の条件で、大気中で脱脂し、窒素、常圧雰囲気中において1750℃で5時間の条件で焼結し、外径240mm、総厚み60mm、攪拌脚1dの厚み35mmの
図1、2で示す攪拌部1aを得た。なお、攪拌部1aにおけるガス分散溝1cの幅は15mmおよび深さは20mmとした。
【0046】
断面形状の変化が少なくかつ溶融金属との接触状態がほぼ一定であるため要求される耐熱衝撃性のレベルの低い軸部1fおよび筒体1hは、サイアロンセラミックスで構成した。具体的には、原料粉末として、BET比表面積が7m
2/g、α化率が90%のSi
3N
4粉末87.0質量%と、平均粒径が2.5μmのAlN固溶体粉末(組成6AlN・SiO
2)を3.0質量%と、平均粒経が1.2μmのY
2O
3粉末を7.0質量%と、平均粒経が0.6μmのAl
2O
3粉末を3.0質量%と、エチルアルコールを溶媒とし、窒化珪素質のボールを用いボールミル中で混合した。得られたスラリーにバインダとしてポリビニルブチラールを1%添加した後、スプレードライヤーで乾燥して、造粒粉を作製した。得られた造粒粉を平均粒径60μmになるように篩いわけした後、100MPaの圧力で冷間静水圧プレス(CIP)により成形し、扇形状の成形体を得た。CIP法により得られた成形体を大気雰囲気中、500℃、20時間の条件で脱脂し、次いで、常圧の窒素雰囲気中で1750℃、5時間の条件で焼結し、軸部1fおよび筒体1hを形成した。なお、軸部1fの全長は1000mm、外径は60mm、内径は40mmとし、筒体1hの外径は40mm、その小径孔部(貫通孔部)1iの内径は12.7mmとした。
【0047】
以上の手順により、
図1に示される回転体を製造し、実施例1とした。本実施例1では、大径孔部2iの断面積を小径孔部1iの断面積の10倍とし、大径孔部2iの軸芯方向の長さEは、32mmとした(大径孔部2iの直径の0.8倍)。
【0048】
実施例1と同様の手順により回転体を製造し、
図3に示されるように、大径孔部2iの内面にMgOおよびBNを主体とする層をスプレー塗布で形成して実施例2、3とした。
【0049】
また、実施例1と同様の手順により
図5に示される用回転体を製造し、実施例4とした。なお、筒体3hは、カーボンを材料として製造した。また、本実施例4では、大径孔部2iの容積/小径孔部1iの容積の値を0.4とした。
【0050】
なお、比較例として、
図8に示されるように、筒体1hが軸部1fの左方側(一方側)端部に配置された回転体9を準備した。
図8の例では、
図1と同一要素に同一符号を付している。本比較例では、上記筒体1hの配置により、
図1等に示された大径孔部2iが設けられていない点を除いて、実施例1と同様の手順により、実施例1と同じサイズで溶回転体9を製造した。
【0051】
上記各実施例・比較例の回転体1、9を溶融金属攪拌装置に組み込み、1000kgの容量を持つ保持炉に750℃で加熱保持された溶融アルミニウムの中に浸漬してアルゴンガスを供給しつつ600rpmの回転数で100時間、溶融アルミニウムを攪拌した。そして、攪拌作業が完了した後、溶融アルミニウムに浸漬した状態のままで攪拌部1aの回転を停止するとともにガスの供給を停止し、停止後5〜10秒で回転体1を溶融アルミニウムから引き上げた。引き上げに掛った時間は5〜10秒である。
【0052】
各実施例・比較例における、溶融アルミニウムから引き上げた後に確認した大径孔部2iおよび小径孔部1iへの溶融金属の侵入状況および溶融アルミニウムの清浄化の程度を示す溶融アルミニウムの水素含有量を表1に示す。なお、表1に示す溶融アルミニウムの侵入状況の欄において、大径孔部2iの内面に固化した溶融アルミニウムが付着しておらずかつ小径孔部1iに固化した溶融アルミニウムが存在していない場合には「○」と、大径孔部2iの内面に固化した溶融アルミニウムが付着しているが、小径孔部1iに固化した溶融アルミニウムが存在しないしていない場合には「△」と、小径孔部1iに固化した溶融アルミニウムが存在していた場合には「×」と表示してある。
【0053】
表1に示す溶融アルミニウム中の水素含有量は、アルゴンガスが十分に溶融アルミニウムに供給できていたかを意味する値であり、イニシャルバブル方式で溶融アルミニウムの水素含有量を測定するガス量分析装置(エイコーエンジニアリング株式会社製 型式:ALFAITH M−DP MK2)を使用し、溶融アルミニウムを150g坩堝に採取し、この坩堝を減圧室に配置し、減圧室を100mmHgまで序々に減圧し、最初に気泡が目視される時点を入力し、その時の溶融アルミニウムの温度と圧力から、溶融アルミニウム中の水素含有量を求めた。いずれの実施例および比較例でも、残存水素量は、規定値である0.18cc/100g未満であった。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、実施例1である
図1の構成の回転体では、大径孔部2iの内面に固化した溶融アルミニウムが付着していたが、小径孔部1iに固化した溶融アルミニウムが存在していなかったため、評価が△となった。また、実施例2および実施例3である大径孔部2iの内面にMgOおよびBNを主体とする層を形成した回転体では、大径孔部2iの内面に固化した溶融アルミニウムが付着しておらずかつ小径孔部1iに固化した溶融アルミニウムが存在しなかったため、評価が○となった。これは、MgOまたはBNを主体とする層を形成することにより、大径孔部2iの内面に溶融アルミニウムの付着を抑制できるためと推定される。さらに、実施例4である
図5の構成の回転体では、大径孔部2iおよび小径孔部1iに全く溶融アルミニウムが侵入しておらず、評価が○となった。これは、ガスの供給を停止したときに、貫通孔1tから溶融金属が進入しようとしたときに、大径孔部2iの容積に対して、小径孔部3iの容積が小さいために小径孔部3i中の内圧が上昇し、上記溶融アルミニウムの進入を抑制できるためと推定される。
【0056】
一方、比較例である
図8の構成の回転体の場合は、小径孔部1iに固化した溶融アルミニウムが存在していたため、評価が×となった。