特許第6015475号(P6015475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015475封止材用Au基はんだ合金及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015475
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】封止材用Au基はんだ合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 3/00 20060101AFI20161013BHJP
   B21B 1/40 20060101ALI20161013BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20161013BHJP
   B23K 35/40 20060101ALI20161013BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B21B3/00 L
   B21B1/40
   B21B45/02 320J
   B23K35/40 340H
   B23K35/30 310A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-21070(P2013-21070)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-151329(P2014-151329A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩一
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−183795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
B21B 45/00−45/08
B23K 35/00−35/40
JSTPlus,
JST7580,
JSTChina,
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn、Ge、Siの少なくとも1種を含有するAu基はんだ合金の製造方法であって、Au基はんだ合金を熱間又は温間でフープ状に圧延加工する際に、ワークロールの排出側に圧延直後のAu基はんだ合金を挟んで冷却ガイドロールと冷却ガスノズルを対向させて設置し、表面温度30℃以下の冷却ガイドロールを圧延直後のAu基はんだ合金の片面側に接触させると共に、圧延直後のAu基はんだ合金の他面側に冷却ガスノズルから30℃以下の空気又は不活性ガスを0.1l/分以上の流量で吹き付けながら、厚み30μm以下に圧延加工することを特徴とするAu基はんだ合金の製造方法。
【請求項2】
前記冷却ガイドロール及び冷却ガスノズルをワークロールの排出部から200mm以内に設置することを特徴とする、請求項1に記載のAu基はんだ合金の製造方法。
【請求項3】
前記冷却ガイドロールの直径をワークロールの直径の半分以下とし、且つ冷却ガイドロールをワークロールの排出部から冷却ガイドロールの中心軸までの距離がワークロールの直径以内となるように設置することを特徴とする、請求項1又は2に記載のAu基はんだ合金の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の方法により得られたフープ状のAu基はんだ合金を、プリフォーム状に打ち抜き加工するか若しくはテープ状にスリット加工することを特徴とするAu基はんだ合金の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により得られたフープ状のAu基はんだ合金、厚みが30μm以下であり且つ幅方向の反りが100μm以下であることを特徴とするAu基はんだ合金の製造方法
【請求項6】
請求項に記載の方法により得られたプリフォーム状のAu基はんだ合金、厚みが30μm以下であり且つ反りが20μm以下であることを特徴とするAu基はんだ合金の製造方法
【請求項7】
請求項に記載の方法により得られたテープ状のAu基はんだ合金、厚みが30μm以下であり且つ蛇行が10cm/m以下であることを特徴とするAu基はんだ合金の製造方法
【請求項8】
前記Au基はんだ合金はSnを18.0質量%以上25.0質量%含有し、残部がAu及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項のいずれかに記載のAu基はんだ合金の製造方法
【請求項9】
前記Au基はんだ合金はGeを11.0質量%以上15.0質量%含有し、残部がAu及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項のいずれかに記載のAu基はんだ合金の製造方法
【請求項10】
前記Au基はんだ合金はSiを2.5質量%以上4.0質量%含有し、残部がAu及び不可避不純物であることを特徴とする、請求項のいずれかに記載のAu基はんだ合金の製造方法
【請求項11】
前記Au基はんだ合金は更にPを0.001質量%以上0.050質量%以下含有することを特徴とする、請求項10のいずれかに記載のAu基はんだ合金の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用のAu基はんだ合金に関するものであり、特にSAWフィルタや水晶発振子等の封止材として用いられるAu基はんだ合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の接続用材料として、従来からPbあるいはSnを主成分とする半田が用いられてきた。例えば、Pbを主成分とするPb基合金はんだは、一般に軟質なため、基板に半導体を接合する場合のように熱膨張係数の差によって発生する機械的ストレスを吸収することが出来るので、半田付けの熱疲労強さが優れており、パワートランジスタのように大きなシリコンチップをCu母材に接合する場合等に適している。
【0003】
Sn−37質量%共晶はんだ合金は、融点が183℃と低く260℃以上のリフローに耐えることができないため、電子部品の実装用はんだとして使用されてきた。Sn−Ag系やSn−Sb系のようなSn基はんだ合金は、耐クリープ特性に優れており、Pb系はんだの代替として半導体の低温接合用に用いられている。また、融点が200〜230℃程度なので、Sn−37質量%共晶はんだ合金に替わる無鉛はんだとして、例えばSn−Ag−Cu系のはんだが実用化され使用されている。
【0004】
一方、Au−Sn系やAu−Ge系などのAu基はんだ合金は、主成分がAuであるため、Sn基はんだ合金やPb基はんだ合金に比べて耐酸化性、耐食性、機械的特性に優れている。そのため、Au基はんだ合金は、半導体素子と基盤の接合に加え、微細で高気密性が求められるSAWフィルタや水晶振動子等の封止材として使用されている。
【0005】
このようなAu基はんだ合金の封止材としての用途については、例えば、特許文献1に、Auが78質量%以上79.5質量%未満、残部がSnからなるAu基はんだ合金を用いた電子部品の気密封止方法が記載されている。また、特許文献2、特許文献3及び特許文献4には、Au基はんだ合金を電子部品の気密封止に使用するハーメチックシールカバーとその製造方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、Au基はんだ合金は常温では脆く、割れやすい性質を有する。そのため、テープ状に加工するスリット加工あるいはプリフォーム状に加工する打ち抜き加工において、はんだ縁部に脆さに起因した割れ不良が発生しやすい。このような割れ不良が存在すると、Au基はんだ合金をSAWフィルタや水晶振動子の封止材として使用する際の接合時にボイドの起点となり、リーク不良の原因となることがあるため、割れ不良は極力抑制しなければならない。
【0007】
そのため、スリット加工あるいは打ち抜き加工での割れ不良を抑制する様々な提案がなされてきた。例えば、特許文献5には、Auが10〜90質量%、残部がSnからなる箔状のAu基はんだ合金に対し、200〜270℃で5分〜10時間の熱処理を施すことで加工性が向上し、スリット加工時の割れを防止できることが記載されている。特許文献6には、Snが15〜25質量%、残部がAuからなる薄板状又は箔状のAu−Snはんだ合金について、打ち抜き加工によりプリフォームはんだ材とする際の割れを防止するために、プリフォームはんだ材の外形を構成する各辺と圧延方向のなす角度を25〜65°とすることが記載されている。
【0008】
また、特許文献7には、Au−Snはんだ合金又はAu−Gaはんだ合金について、打ち抜き加工におけるチッピングやクラックを防止するため、50〜320℃の温度範囲で打ち抜き加工を行う方法が記載されている。更に、特許文献8には、Au−Ge合金、Au−Sb合金、Au−Si合金の打ち抜き加工において、チッピングやクラックを防止するために、100〜350℃の温度範囲で打ち抜き加工を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-176999号公報
【特許文献2】特許第4285753号公報
【特許文献3】特開2005−166955号公報
【特許文献4】特開2006−294743号公報
【特許文献5】特開2003―183795号公報
【特許文献6】特許第3901686号公報
【特許文献7】特許第2821786号公報
【特許文献8】特許第2821787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、SAWフィルタや水晶振動子の分野においては軽薄短小化が進み、これに伴って封止材として使用されるテープ状あるいはプリフォーム状のAu基はんだ合金も厚み30μm以下と薄型が主流となってきている。そのため、テープ状あるいはプリフォーム状に加工する前に、Au基はんだ合金をフープ状に圧延加工する工程で厚みを30μm以下にする必要があるが、得られるフープ状のAu基はんだ合金が圧延加工時に塑性変形してしまい、幅方向に無視できない大きさの反りが発生するという問題があった。
【0011】
即ち、前述のとおりAu基はんだ合金は常温では脆く、割れやすいため、フープ状に加工する圧延加工においては、はんだ合金の融点近くまで熱を加えながら圧延する熱間圧延あるいは温間圧延が一般的である。しかし、熱間圧延あるいは温間圧延で厚み30μm以下に圧延すると、ワークロールから排出された直後のはんだ合金は融点近くまで加熱されているため、巻取りテンションにより容易に塑性変形してしまい、幅方向に反りが発生することが分かった。
【0012】
しかも、反りを有するフープ状のAu基はんだ合金を用いて、打ち抜き加工によりプリフォーム状のAu基はんだ合金を作製すると、反りに起因した割れ不良が発生しやすくなり、得られたプリフォーム状のAu基はんだ合金にも30μm以上の大きな反りが発生してしまう。反りの大きいプリフォーム状Au基はんだ合金は、実装時にフィーダー等に引っ掛かって作業性を著しく低下させ、更には濡れ広がりのばらつきが生じるためリーク不良の原因となりやすい。
【0013】
また、反りを有するフープ状のAu基はんだ合金で、スリット加工によりテープ状のAu基はんだ合金を作製した場合、テープ形状の全体に蛇行が発生してしまい、また切断部には割れが発生しやすい。蛇行したテープ状Au基はんだ合金は、上記した反りの大きいプリフォーム状Au基はんだ合金の場合と同様に、実装時の作業性を低下させるだけでなく、リーク不良の原因となる恐れがある。
【0014】
そのため、封止材として使用されるAu基はんだ合金においては、割れを抑えるだけでなく、反りや蛇行についても発生を極力抑える必要がある。しかしながら、従来から上記特許文献5〜8に記載されているようにスリット加工時や打ち抜き加工時における割れを防止する方法は数多く提案されてきたが、厚み30μm以下に圧延する際に発生する反りの問題については有効な対策が存在せず、従ってフープ状だけでなくプリフォーム状やテープ状のAu基はんだ合金でも反りや蛇行を有効に防止し得ない現状であった。
【0015】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、常温で脆く割れやすいAu基はんだ合金を熱間圧延あるいは温間圧延でフープ状に圧延加工する際に、厚み30μm以下に圧延しても幅方向に反りが発生することがなく、これをプリフォーム状やテープ状に加工しても反りや蛇行が発生しないAu基はんだ合金の製造方法、並びに、その方法で得られる厚み30μm以下で反りや蛇行のないAu基はんだ合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明が提供するAu基はんだ合金の製造方法は、Sn、Ge、Siの少なくとも1種を含有するAu基はんだ合金の製造方法であって、Au基はんだ合金を熱間又は温間でフープ状に圧延加工する際に、ワークロールの排出側に圧延直後のAu基はんだ合金を挟んで冷却ガイドロールと冷却ガスノズルを対向させて設置し、表面温度30℃以下の冷却ガイドロールを圧延直後のAu基はんだ合金の片面側に接触させると共に、圧延直後のAu基はんだ合金の他面側に冷却ガスノズルから30℃以下の空気又は不活性ガスを0.1l/分以上の流量で吹き付けながら、厚み30μm以下に圧延加工することを特徴とする。
【0017】
本発明が提供するAu基はんだ合金の一つは、上記本発明のAu基はんだ合金の製造方法により得られたフープ状のAu基はんだ合金であって、厚みが30μm以下であり且つ幅方向の反りが100μm以下であることを特徴とする。
【0018】
また、上記本発明のフープ状のAu基はんだ合金を用い、通常のごとく打ち抜き加工あるいはスリット加工することによって、反りが20μm以下のプリフォーム状のAu基はんだ合金、あるいは蛇行が10cm/m以下のテープ状のAu基はんだ合金を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Sn、Ge、Siの少なくとも1元素を含有するAu基はんだ合金の圧延加工により、厚みが30μm以下でありながら、幅方向の反りが100μm以下に制御されたフープ状Au基はんだ合金を提供することができる。更には、このフープ状Au基はんだ合金を用いて、打ち抜き加工により反りが20μm以下のプリフォーム状Au基はんだ合金を、またスリット加工によって蛇行が10cm/m以下のテープ状Au基はんだ合金を得ることができる。従って、本発明のAu基はんだ合金は、封止材用として、中でも高い接合信頼性が要求されるSAWフィルタや水晶振動子の封止材用として、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明方法におけるAu基はんだ合金の圧延工程を模式的に示す説明図である。
図2】フープ状Au基はんだ合金における幅方向の反りの測定方法を模式的に示す説明図である。
図3】実施例における各試料のフープ状Au基はんだ合金の幅方向の反りを比較して示したグラフである。
図4】テープ状Au基はんだ合金の蛇行の測定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるAu基はんだ合金の製造方法は、Sn、Ge、Siの少なくとも1種を含有するAu基はんだ合金を熱間又は温間でフープ状に圧延加工する工程と、得られたフープ状Au基はんだ合金を更にプリフォーム状に打ち抜き加工する工程あるいはテープ状にスリット加工する工程に係るものである。特に上記圧延加工工程において、ワークロールから排出された直後のAu基はんだ合金を冷却ガイドロールと冷却ガスノズルから吹き付ける冷却ガスで両面側から冷却することにより、厚み30μm以下で且つ反りのないフープ状のAu基はんだ合金を得ることが重要である。
【0022】
そこで、まず上記圧延加工工程について詳しく説明する。Au基はんだ合金の圧延加工においては、図1に示すように、Au基はんだ合金1の母合金等を巻出ロール2から巻き出して1対のワークロール4に供給し、厚み30μm以下のフープ状に圧延した後、巻取ロール3に巻き取る。その際、割れ等を防ぐためにAu基はんだ合金1を融点近くまで加熱して圧延するが、本発明ではワークロール4の排出側に圧延直後のAu基はんだ合金1aを挟んで冷却ガイドロール6と冷却ガスノズル7を対向させて設置し、圧延直後のAu基はんだ合金1aを両面側から冷却する。尚、図1中の符号5はバックアップロールである。
【0023】
即ち、ワークロール4から排出された圧延直後のAu基はんだ合金1aの片面側に表面温度を30℃以下に制御した水冷又は空冷による冷却ガイドロール6を接触させると同時に、圧延直後のAu基はんだ合金1aの他面側には冷却ガスノズル7から30℃以下の空気又は不活性ガスを吹き付ける。冷却ガイドロール6と冷却ガスノズル7は圧延直後のAu基はんだ合金1aを挟んで対向するように設置してあるので、圧延直後のAu基はんだ合金1aは両面から冷却されるだけでなく、その冷却箇所は圧延直後のAu基はんだ合金1aの両面(表面側と裏面側)でほぼ同一箇所となる。
【0024】
本発明において圧延直後のAu基はんだ合金の冷却は、その表面側と裏面側に対向して配置した冷却ガイドロールと冷却ガスノズルを用いて実施することが必要である。圧延直後のAu基はんだ合金の冷却の表面側と裏面側を、共に冷却ガイドロールで冷却すると、冷間圧延を施すことになるため割れの発生、破断などの不都合が生じる。また、圧延直後のAu基はんだ合金の冷却の表面側と裏面側を、共に冷却ガスノズルから吹き付ける冷却ガスで冷却すると、フープ状のAu基はんだ合金がばたつき、しわが発生するため好ましくない。尚、冷却ガイドロールと冷却ガスノズルを冷却直後のAu基はんだ合金のどちら側の面に設置するかは任意である。
【0025】
上記冷却ガイドロールの表面温度は30℃以下に制御し、また冷却ガスノズルから吹き付ける空気又は不活性ガスの温度は30℃以下とする。冷却ガイドロールの表面温度及び冷却ガスノズルから吹き付ける空気又は不活性ガスの温度が30℃を超えると、融点近くの温度で圧延された圧延直後のAu基はんだ合金を十分に冷却することができず、巻き取られたフープ状Au基はんだ合金の幅方向の反りを抑制することができない。冷却ガイドロールの表面温度及び冷却ガスノズルから吹き付ける空気又は不活性ガスの温度を10℃より低くしても、必要以上に冷却するだけで更なる冷却効果は望めず、経済的に不利になるだけであるため10℃を下限とすることが好ましい。
【0026】
上記冷却ガスノズルから吹き付ける空気又は不活性ガスの流量は0.1l/分以上とする。流量が0.1l/分未満になると、空気又は不活性ガスの温度によっては十分な冷却効果を得ることができない恐れがある。ただし、流量が0.5l/分を超えると、フープ状Au基はんだ合金が圧延加工中にバタつき、しわが発生するため好ましくない。尚、冷却ガスノズルから吹き付ける空気又は不活性ガスは、圧縮された30℃以下の空気又は不活性ガスをボンベ等から供給すればよいが、空気又は不活性ガスを30℃以下に冷却してポンプ等でノズルに供給することもできる。また、使用する不活性ガスに制限はないが、窒素又はアルゴンなどが好ましい。
【0027】
上記圧延直後のAu基はんだ合金の冷却箇所は、可能な限りワークロールの排出側に近づけることが好ましい。具体的には、冷却ガイドロールと冷却ガスノズルを、ワークロールの排出部から200mm以内とすることが好ましく、100mm以内とすることが更に好ましい。このように冷却ガイドロールと冷却ガスノズルを設置して、Au基はんだ合金の冷却箇所をワークロールの排出側に近づけることによって、冷却効率が上がると共に急速な冷却が可能となり、反り等のない優れた品質のフープ状Au基はんだ合金を製造することができる。
【0028】
また、冷却ガイドロールについては、その直径をワークロールの直径の半分以下とし、且つワークロールの排出部から冷却ガイドロールの中心軸までの距離がワークロールの直径以内となるように設置することが好ましい。更に、冷却ガスノズルについては、少なくともワークロールの長さと等しい長さの冷却ガス噴出用開口部を有することが好ましい。このように冷却ガイドロールと冷却ガスノズルの形状や設置位置を設定することによって、圧延により得られるフープ状Au基はんだ合金の品質が向上すると共に品質のバラツキが少なくなり、安定的な製造が可能となる。
【0029】
上記圧延加工工程により得られた本発明のフープ状のAu基はんだ合金は、厚みが30μm以下であって、近年におけるSAWフィルタや水晶振動子等の軽薄短小化の要望に適応可能である。同時に、このフープ状のAu基はんだ合金は、一般的なフープ状のはんだ合金と同様の10〜50mmの幅を有し、この幅の範囲において幅方向の反りを100μm以下に抑えることができる。
【0030】
また、本発明のフープ状Au基はんだ合金は、通常のごとくプリフォーム状に打ち抜き加工してプリフォーム状Au基はんだ合金とし、若しくはテープ状にスリット加工してテープ状Au基はんだ合金とすることができる。しかも、打ち抜き加工やスリット加工に際しては、積極的に加熱などを行わなくても、割れや反りなどの欠陥のない、優れたプリフォーム状Au基はんだ合金若しくはテープ状Au基はんだ合金を得ることができる。
【0031】
即ち、本発明によるプリフォーム状Au基はんだ合金は、厚みが30μm以下であって、且つ反りが20μm以下である。また、本発明によるテープ状Au基はんだ合金は、厚みが30μm以下であって、且つ蛇行が10cm/m以下である。これらのプリフォーム状Au基はんだ合金及びテープ状Au基はんだ合金は、封止材用として、特に高い接合信頼性が要求されるSAWフィルタや水晶振動子の封止材用として優れている。
【0032】
次に、本発明のAu基はんだ合金の主成分であるAu及び添加元素であるSn、Ge、Si及びPのについて具体的に説明する。
【0033】
<Au>
Auは本発明の第1元素であり、主成分をなしている。そして、主成分であるAuは、Au基はんだ合金の優れた耐酸化性、耐食性、機械的特性に寄与している。即ち、Auは、チップの裏面にメタライズがされることなどからも分かるように、非常に接合性に優れる材料である。Auは最も酸化し難く、接合性や濡れ性を大きく下げる原因となる酸化膜を形成し難い。更に、Auは一般的な酸に溶けず、このことからの容易に推測できるように耐食性に優れている。
【0034】
このように、本発明のAu基はんだ合金は、優れた接合性や耐食性を有すると共に良好な機械的特性を有するAuを主成分としている。そして、この優れたAuの性質を更に実用的に使い易いはんだ材料とするため、本発明のAu基はんだ合金は以下の元素を添加含有するができる。
【0035】
<Sn、Ge、Si>
Sn、Ge、Siは本発明の第2元素群であり、この第2元素群の少なくとも1種を必須の添加元素として含有することが必要である。これらの元素をAuに添加することによって、共晶反応を示し、融点をはんだ合金として使用可能な400℃以下まで低下させることができる。この効果を発揮する最適な添加量は、チップや基盤の表面状態、リフロー温度、リフロー時間等に左右されるものの、各元素において以下の範囲が好ましい。
【0036】
即ち、本発明のAu基はんだ合金における第2元素群の各元素の含有量は、Snを含有する場合は18.0質量%以上25.0質量%、Geを含揺する場合は11.0質量%以上15.0質量%、Siを含有する場合は2.5質量%以上4.0質量%の範囲が好ましい。尚、各元素の含有量が上記の好ましい範囲を外れると、液相線と固相線の温度差が50℃以上となるため、はんだの基本特性である濡れ性が著しく低下してしまい、封止材用はんだとして使用困難となる場合がある。
【0037】
<P>
Pは任意の添加元素であり、はんだ合金の濡れ性を向上させ、更には接合時にボイドの発生を低減させる効果がある。即ち、Pは自らが酸化しやすいため、接合時にはんだの主成分よりも優先的に酸化が進み、はんだ母相の酸化を防ぎ、還元を促進させることによって、濡れ性を確保するのである。これにより良好な接合が可能となり、ボイドの生成も起こり難くなる。
【0038】
本発明のAu基はんだ合金におけるPの含有量は、0.001質量%以上0.050質量%以下の範囲が好ましい。Pの含有量が0.050質量%を超えると、Pの酸化物が多量に発生して、ボイド率を高くしたり接合強度を下げたりするため好ましくない。逆に0.001質量%未満では、期待する還元効果や濡れ性の向上効果が得られない。
【0039】
以下に、本発明による好ましいAu基はんだ合金の組成を具体的に示す。第1の好ましいAu基はんだ合金は、Snを18.0質量%以上25.0質量%含有し、残部がAu及び不可避不純物である。第2の好ましいAu基はんだ合金は、Geを11.0質量%以上15.0質量%含有し、残部がAu及び不可避不純物である。第3の好ましいAu基はんだ合金は、Siを2.5質量%以上4.0質量%含有し、残部がAu及び不可避不純物である。これらの好ましいAu基はんだ合金は、更にPを0.001質量%以上0.050質量%以下含有することができる。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
原料として、それぞれ純度99.99質量%以上のAu、Sn、Ge、Si、Pを準備した。これらの原料を所定量秤量し、高周波溶解炉用グラファイト製るつぼに投入した。原料の入ったグラファイト製るつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素ガスを原料1kg当たり0.7l/分の流量で流した。
【0041】
この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。原料の金属が溶融しはじめたら石英製混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに溶解炉からるつぼを取り出して、るつぼ内の溶湯をグラファイト製の鋳型に流し込んだ。尚、鋳型は板幅35mm×板厚3mm×高さ120mmの板状鋳型を使用した。
【0042】
各原料の配合組成を変えて上記操作を繰り返すことにより、試料1〜13の各はんだ母合金を作製した。得られた試料1〜13の各はんだ母合金のインゴットについて、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成を分析し、得られた組成分析結果をそれぞれ設定した配合組成と共に下記表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
次に、上記試料1〜13の各はんだ母合金を、ワークロール(直径2インチ)とバックロール(直径6インチ)の4段ロールを使用し、ワークロールの表面温度を試料1〜3及び試料10〜11は250℃、試料4〜9は330℃、及び試料12〜13は320℃にそれぞれ設定して、厚み3.0mm→0.5mm→0.080mm→0.050mm→0.030mmのパススケジュールで熱間圧延を行い、幅35mm×厚み0.030mmのフープ状はんだ合金を製造した。
【0045】
上記熱間圧延加工の際に、試料1〜10については、圧延直後のAu基はんだ合金を冷却ガイドロールと冷却ガスノズルの冷却手段を用いて冷却した。具体的には、図1に示すように、ワークロール4の排出部から20mmの位置に空冷により表面温度を20℃に制御した冷却ガイドロール6(直径15mm)を設置して、圧延直後のAu基はんだ合金1aの片面側に接触させた。同時に、圧延直後のAu基はんだ合金1aの他面側に、上記冷却ガイドロール6と対向させて幅50mmの平型の冷却ガスノズル7を配置して、圧延直後のAu基はんだ合金1aと冷却ガイドロール6との接触部の他面側に温度20℃の窒素ガスを0.5l/分の流量で吹き付けた。尚、試料11〜13は従来の熱間圧延により加工し、上記冷却手段による冷却は行わなかった。
【0046】
上記熱間圧延加工で得られた試料1〜13の各フープ状Au基はんだ合金について、ニコン製3次元測定顕微鏡により幅方向の反りを評価した。具体的には、図2に示すようにフープ状Au基はんだ合金1bを台座8に載せ、フープ状Au基はんだ合金1bの一端における台座8の表面からの高さを基準点として、基準点からの高さ方向の変化量を1mm毎に測定した。測定により得られた最大変化量の絶対値が100μm未満の場合を「○」、100μm以上200μm未満の場合を「△」、及び200μm以上の場合を「×」とした。
【0047】
上記各フープ状Au基はんだ合金における幅方向の反りの評価結果を、上記熱間圧延の温度、冷却手段の有無と共に、下記表2に示した。また、試料1〜3及び試料11の各Au−Sn系のフープ状Au基はんだ合金における幅方向の反りの評価結果を図3にプロットして示した。
【0048】
これらの結果から明らかなように、本発明による冷却を実施した試料1〜10のフープ状Au基はんだ合金は、いずれも幅方向の反りが100μm未満に抑制されていることが分かる。一方、冷却手段による冷却を行わなかった試料11〜13では、幅方向の反りが200μm以上と格段に大きかった。
【0049】
[実施例2]
上記実施例1で得られた試料1〜13の各フープ状Au基はんだ合金について、更にプリフォーム状に打ち抜き加工を行って、割れ及び反りの評価を行った。また、テープ状にスリット加工を行って、割れ及び蛇行の評価を行った。
【0050】
具体的には、打ち抜き加工では、上記試料1〜13の各フープ状Au基はんだ合金を、通常の方法により外寸3.5mm×2.5mm及び内寸2.5×1.5mmの枠状に打ち抜き加工を行った。この打ち抜き加工により得られたプリフォーム状Au基はんだ合金について、割れの有無を目視確認して割れ不良の発生率を求め、割れ不良の発生率が0.5%未満の場合を「○」、0.5%以上1.0%未満の場合を「△」、1.0%以上の場合を「×」と評価した。
【0051】
更に、割れの無い良好な各プリフォーム状Au基はんだ合金について、ニコン製3次元測定顕微鏡により反りを測定した。反りの測定方法は、プリフォーム状Au基はんだ合金を設置した台座の表面を基準点として、プリフォーム状Au基はんだ合金の4角の高さ変化量を測定した。4角の高さ変化量の最大値が20μm未満の場合を「○」、20μm以上30μm未満の場合を「△」、30μm以上の場合を「×」として評価した。
【0052】
次に、スリット加工においては、上記試料1〜13の各フープ状Au基はんだ合金を、通常の方法により幅3.0mmにスリット加工した。その後、スリット加工により得られたテープ状Au基はんだ合金を長さ1mにカットし、スリット切断部の割れの有無を目視確認して割れ不良の発生率を求めた。割れ不良発生率が0.5%未満の場合を「○」、0.5%以上1.0%未満の場合を「△」、1.0%以上の場合を「×」として評価した。
【0053】
また、スリット加工により得られたテープ状Au基はんだ合金の蛇行についても、図4に示すように、長さ1mのテープ状Au基はんだ合金1cの一端を固定して鉛直に懸垂し、鉛直方向に対する1m当りの蛇行変化量を測定した。1m当たりの蛇行変化量が10cm未満の場合を「○」、10cm以上20cm未満の場合を「△」、30cm以上の場合を「×」とした。
【0054】
上記打ち抜き加工により得られたプリフォーム状Au基はんだ合金の割れ及び反りの評価結果と、スリット加工により得られたテープ状Au基はんだ合金の割れ及び蛇行の評価結果を、下記表2に示した。
【0055】
【表2】
【0056】
これらの結果から分かるように、本発明による試料1〜10のフープ状Au基はんだ合金は、打ち抜き加工時における割れが少なく且つ反りも小さくなり、はんだ材料として優れたものであることが確認できた。一方、圧延直後の冷却を行わなかった試料11〜13のフープ状Au基はんだ合金では、打ち抜き加工時における割れ不良が多く且つ反りも大きくなり、好ましくない結果となった。
【0057】
また、本発明による試料1〜10のフープ状Au基はんだ合金は、スリット加工時においても割れ不良が少なく、蛇行も小さくなることから、はんだ材料として優れたものであることが確認できた。一方、圧延直後の冷却を行わなかった試料11〜13では、スリット加工時において割れ不良が多く且つ蛇行も大きくなり、好ましくない結果となった。
【符号の説明】
【0058】
1 Au基はんだ合金
1a 圧延直後のAu基はんだ合金
1b フープ状Au基はんだ合金
1c テープ状Au基はんだ合金
2 巻出ロール
3 巻取ロール
4 ワークロール
5 バックアップロール
6 冷却ガイドロール
7 冷却ガスノズル
8 台座
図1
図2
図3
図4