(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015540
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】カドミウムを含有する排出液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 17/00 20060101AFI20161013BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
C22B17/00 101
C22B3/46
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-89627(P2013-89627)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-214316(P2014-214316A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】越野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘志
(72)【発明者】
【氏名】井原 義昭
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 万雄
(72)【発明者】
【氏名】開田 将史
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−013670(JP,A)
【文献】
特開昭48−038827(JP,A)
【文献】
特公昭50−036215(JP,B1)
【文献】
実開昭52−142907(JP,U)
【文献】
実開昭56−081972(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 17/00
C22B 19/00
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛含有鉱の製造工程中の排水処理工程において行われるカドミウムを含有する排出液の処理方法であって、
前記排出液中のカドミウムを、第1セメンテーション処理と、前記第1セメンテーション処理を経た前記排出液に対して行う、金属亜鉛粉末による第2セメンテーション処理と、からなる2段階のセメンテーション処理によって分離回収する処理方法であり、
前記第1セメンテーション処理は、前記排出液中に、亜鉛純度95%以上99.0%以下の蒸留亜鉛プレートを浸漬することにより、前記カドミウムを析出させる処理であることを特徴とする排出液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱の製造工程から排出されるカドミウムを含有する排出液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等から不純物を分離回収して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストから還元焙焼処理を経て得ることができる。資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。しかし、一方でこのような鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物が高い割合で含有されている。
【0003】
そして、酸化亜鉛の製造プラントにおいては、上記不純物の分離回収の過程で排出液からカドミウムを分離回収する処理が必須である。
【0004】
このような排出液の処理方法として、従来、上記排出液に、金属亜鉛粉末を投入し、セメンテーション反応によりカドミウムを析出して分離回収する方法が一般的に行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−137236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の方法においては、カドミウム濃度を環境基準値以下の極めて低い濃度にまで確実に低下させるために、理論上必要な化学当量の凡そ2倍の量の金属亜鉛粉末を添加していた。この金属亜鉛粉末は高価であり、また酸化を防止するための取り扱いも煩雑であるため、製造現場等においては、湿式工程等から排出される排出液から、カドミウムを分離回収処理する際に、金属亜鉛粉末の使用量の低減が求められていた。
【0007】
本発明は、酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱の製造工程から排出されるカドミウムを含有する排出液の処理方法について、従来方法よりも低コストで、カドミウムを十分に分離回収することのできる排出液の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、亜鉛含有鉱の製造工程から排出されるカドミウムを含有する排出液の処理を、排出液中に亜鉛プレートを浸漬して予備的なセメンテーション処理を行う第1のセメンテーション処理と、第1のセメンテーション処理後に行う、従来同様のセメンテーション処理である第2セメンテーション処理との2段階からなるセメンテーション処理とすることにより、カドミウムの分離回収のために消費される亜鉛の総量を大幅に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。より、具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 亜鉛含有鉱の製造工程から排出されるカドミウムを含有する排出液の処理方法であって、前記排出液中のカドミウムを、第1セメンテーション処理と、前記第1セメンテーション処理を経た前記排出液に対して行う第2セメンテーション処理と、からなる2段階のセメンテーション処理によって分離回収する処理方法であり、前記第1セメンテーション処理は、前記排出液中に亜鉛プレートを浸漬することにより、前記カドミウムを析出させる処理であることを特徴とする排出液の処理方法。
【0010】
(2) 前記亜鉛プレートが、亜鉛純度95%以上である(1)に記載の排出液の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱の製造工程から排出されるカドミウムを含有する排出液の処理方法として、従来方法よりも低コストで、カドミウムを十分に分離回収することのできる排出液の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】カドミウムを含有する排出液を、本発明の排出液の処理方法によって処理する工程を含む全体プロセスの一例である酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスを示すフローチャートである。
【
図2】本発明の排出液の処理方法を行うための装置の概要を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好ましく適用することができる亜鉛含有鉱の製造プロセスの具体例として酸化亜鉛鉱の製造に係る全体プロセスを挙げ、同プロセスに本発明の排出液の処理方法を適用した実施態様を、本発明の好ましい一実施態様として説明する。但し、本発明は以下の実施態様に限定されるものではなく、カドミウムを含有する排出液を処理する工程を含む、その他の亜鉛含有鉱の製造プロセスにも広く適用可能なものである。
【0014】
<全体プロセス>
図1に示すように、本実施態様に係る酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスは、鉄鋼ダストを還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S10、還元焙焼工程S10で得た粗酸化亜鉛からカドミウム等を分離回収して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S20、及び、湿式工程S20で得た酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S30と、乾燥加熱工程S30から排出された排ガスを固体と気体へ分離する固気分離処理を行う排ガス処理工程S40と、湿式工程S20から排出される排出液を分離処理する排水処理工程S50と、を備えるプロセスである。
【0015】
本発明の排出液の処理方法は、上記全体プロセスの中の排水処理工程S50における排出液の処理を、本願特有の2段階にわたるセメンテーション処理を行う方法とすることにより、カドミウムを含有する排出液から、従来方法よりも低コストで、従来と少なくとも同等の高い回収率で、カドミウムを分離回収できる処理方法である。
【0016】
<還元焙焼工程>
鉄鋼ダストから粗酸化亜鉛を回収する還元焙焼工程S10を行う具体的な方法としては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)による還元焙焼法を採用するのが一般的である。このキルン内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、揮発した金属亜鉛は排ガス中で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、ロータリーキルンからの排ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛として回収される。
【0017】
<湿式工程>
湿式工程S20では、還元焙焼工程S10を経て回収された粗酸化亜鉛を、処理液によってレパルプすることにより粗酸化亜鉛スラリーとする。この処理により、粗酸化亜鉛に含有されるカドミウム等を処理液中に分配する。このレパルプ水として用いる処理液としては、淡水にNaCO
3又はNa(OH)
2を溶解した溶解液等を用いることができる。
【0018】
上記処理によって粗酸化亜鉛中のカドミウムは、処理液中に除去される。そしてこの状態において固液分離により、不純物が分配された処理液を分離して排出液とする。尚、固液分離のための脱水処理については、シックナー等の重力沈降式スラリー濃縮装置や真空脱水機等の水分強制脱水装置を用いることができる。尚、一般的な基準として、亜鉛製錬の原材料となる酸化亜鉛鉱におけるカドミウムの含有率は0.1%未満であることが求められる。
【0019】
上記処理を経て不純物を十分に除去した酸化亜鉛スラリーについては、真空吸引型脱水機等によって脱水し、酸化亜鉛ケーキとした上で、次工程の乾燥加熱工程S30に投入する。
【0020】
<乾燥加熱工程>
湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の乾燥加熱装置に装入して焼成する乾燥加熱工程S30により、カドミウム等の濃度を更に低減した酸化亜鉛鉱を製造することができる。
【0021】
<排ガス処理工程>
排ガス処理工程S40では、乾燥加熱工程S30においてDRKから排出された排ガスの固気分離処理を行う。
【0022】
<排水処理工程>
排水処理工程S50は、湿式工程S20において粗酸化亜鉛から分離されたカドミウム等を含有する廃液から、カドミウム等の不純物を分離回収し、更に、廃液中に微量含まれる重金属を中和処理により析出し、最終的にpHを調整して無害の排水とする工程である。本願の排出液の処理方法は、この排水処理工程S50におけるカドミウムの分離回収を行う方法として好ましく用いることができるものである。
【0023】
[排出液の処理方法]
以下、本発明の排出液の処理方法の詳細について説明する。上記全体プロセスにおいて、排水処理工程に投入される排出液には、一般的に150〜300mg/l程度のカドミウムが含まれる。この排出液からカドミウムを分離回収するための処理としては、従来、金属亜鉛粉末を用いたセメンテーション処理によってカドミウムを析出する方法が広く用いられている。本願の排出液の処理方法は、このセメンテーション処理を2段階に分けて行うこととし、その1段階目の第1セメンテーション処理においては、従来広く用いられている金属亜鉛粉末に替えて、亜鉛プレートを排出液中に浸漬することによって、セメンテーション処理を行うものである。そして、この亜鉛プレートは、亜鉛純度が95%で以上であればよく、98%以上であることが好ましい。よって、比較的安価で取得可能な蒸留亜鉛プレート(亜鉛純度98.5%程度)等の通常製品レベルの品質を有する亜鉛プレートを広く用いることができる。これにより、カドミウムの分離回収処理に係るコストを低減することができる。
【0024】
そして、第1セメンテーション処理を経て、カドミウム濃度が30mg/l以下程度まで低下した排出液に対して、従来同様の亜鉛粉末を用いた処理である第2セメンテーション処理を行う。第2セメンテーション処理を経た排出液のカドミウム濃度は、排出液としての排水管理基準値を確実に下回る10mg/l以下まで、十分に低減することができる。
【0025】
図2は、本発明の排出液の処理方法を実施可能な装置である排出液処理装置1を模式的に示した説明図である。
図2に示す通り、排出液処理装置1は、第1セメンテーション処理を行う第1処理槽10と、第1処理槽10内に排出液に浸漬可能な態様で配置されている複数の亜鉛プレート11、第2セメンテーション処理を行う第2処理槽20、排出液投入管30、排出液移送管40、排出液排出管50、を備える。
【0026】
湿式処理工程等から排出されたカドミウムを含有する排出液は、排出液投入管30よりa方向に向けて排出されて、第1処理槽10内に投入される。第1処理槽10内では、排出液と亜鉛プレート11とのセメンテーション反応である第1セメンテーション処理が行われる。
【0027】
尚、セメンテーション処理の促進のため、第1処理槽10の他に予備層(図示せず)を別途設け、ポンプ等で第1処理槽10と予備層との間で排出液を適宜循環させることが好ましい。この場合、液循環量は、0.5L/秒以上であることが好ましく、1L/秒以上であることが更に好ましい。
【0028】
上記の第1セメンテーション処理により、排出液中のカドミウムの一部が析出され、排出液のカドミウム濃度は30mg/l以下程度まで低減する。
【0029】
第1セメンテーション処理によってカドミウム濃度が上記範囲程度にまで低減した排出液は、第1処理槽10から排出液移送管40を通ってb方向に移送され、第2処理槽20に投入される。第2処理槽20内では金属亜鉛粉末を添加し、従来公知の方法によるセメンテーション処理である第2セメンテーション処理が行われる。尚、この際、攪拌機21によって槽内の排出液を攪拌することが一般的である。この第2セメンテーション処理により排出液中のカドミウムが更に析出され、排出液のカドミウム濃度が更に低減し、カドミウム濃度が10mg/l以下となる。
【0030】
第2セメンテーション処理によって、十分にカドミウム濃度の低減を達成した第2セメンテーション処理後の排出液を排出液排出管50を通じて第2処理槽から排出し、中和処理、pH調整等の次工程へとc方向に移送し、その後、無害化された状態で排出液は放流される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
まず第1段階の処理として、粗酸化亜鉛製造工程の湿式処理からの排出液と同様の成分からなる試験用カドミウム含有排出液を上記排出液処理装置1の第1処理槽10と同様の構成を備える試験用第1処理槽に投入して、当該排出液からのカドミウムの分離回収を試みた。同排出液中の処理前のカドミウム含有率は、164.875mg/lであった。又、試験用第1処理槽には、40cm×10cm×2cmの亜鉛プレートを40枚(亜鉛純度99%、全表面積39200cm
2)設置した。尚、試験用第1処理槽内の試験用カドミウム含有排出液については、循環用ポンプを用いて試験用第1処理槽と併設した予備槽との間を繰返して循環させ循環量は1L/秒とした。時間経過に伴う同排出液中のカドミウム濃度の推移を測定した結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果より、上記第1処理槽での処理によって、カドミウム濃度は、30mg/l以下となり、初期の1/5以下にまでカドミウム濃度を低減させることができた。したがって、差分の約145mg/lが亜鉛プレートによって回収されており、これによって第2セメンテーションにおける金属亜鉛粉末の使用量も1/5以下と大幅に低下できることが理解できる。このように、亜鉛プレートによる予備的なセメンテーションによってカドミウムを短時間に回収できることは従来知られていなかったことである。なお、この後、従来公知の2当量相当の金属亜鉛粉末による第2セメンテーション処理を行うことによりカドミウム濃度を10mg/l以下にすることができた。
【符号の説明】
【0035】
S10 還元焙焼工程
S20 湿式工程
S30 乾燥加熱工程
S40 排ガス処理工程
S50 排水処理工程
ST51 第1セメンテーション処理
ST52 第2セメンテーション処理
1 排出液処理装置
10 第1処理槽
11 亜鉛プレート
20 第2処理槽
21 攪拌機
30 排出液投入管
40 排出液移送管
50 排出液排出管