(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Alを2質量%以上8質量%以下含有し、Geを0.001質量%以上0.03質量%以下含有し、残部が製造上不可避的に含まれる元素を除きZnからなることを特徴とするPbフリーZn−Al系合金ヒューズ。
【背景技術】
【0002】
一般的に電子部品には、過電流や過昇温による故障や破損を防ぐため保護装置を付けており、設計温度を調整することによって電子部品等を保護するものがヒューズである。
ヒューズは、例えば、その材料によって分別すると、ペレット型温度ヒューズと可溶合金型温度ヒューズの2種類に分けることができる。
【0003】
ペレット型温度ヒューズは、金属ケース、有機化合物ペレットの感温材を用いた温度ヒューズであり、金属ケースの中に絶縁ブッシュ、スプリング、可動接点、円板、感温ペレットが組み込まれ、ケース開口部を封止材で密封した構造を持つ。動作前はリード線、可動接点、金属ケース、リード線の経路で電流が流れており、周囲温度が上昇すると感温ペレットが熱によって溶融して、スプリングが伸び、可動接点がリードから押し離されて、電流が遮断される仕組みになっている。
【0004】
また、可溶合金型温度ヒューズは、低融点可溶合金を感温材に用いており、通電回路に組み込み、周囲温度の過昇時に低融点可溶合金を溶融して回路を遮断する仕組みになっている。可溶合金型温度ヒューズには、アキシャルリード線タイプと、ラジアルリード線タイプの2種類があり、低融点可溶合金にリード線を溶接し、可溶合金は表面に動作時の溶断を確実に行なわせるために特殊樹脂をコーティングした後に絶縁ケースに入れ、ケース開口部を封止材で密封した構造である。そして、機器の異常温度上昇に伴って温度ヒューズの本体、およびリード線より熱を感知し、可溶合金の融点に達すると可溶合金は溶融し、溶融した可溶合金は特殊樹脂の促進により表面張力が発揮され、可溶合金をリード線に球状化して溶断するようになっている。
【0005】
また、溶断特性の面からヒューズを分類すると、普通溶断型、タイムラグ溶断型、速動溶断型の3種類に分類される。普通溶断型は、通信機器等に用いられる一般的なものであり、タイムラグ溶断型と速動溶断型の特徴を併せ持つ。タイムラグ溶断型は、モーターやサージ電流用であり、モーターの起動電流など瞬間的な過電流に対しては溶断せず、過電流に対する溶断時間が長く、瞬間的な過電流を伴う回路の保護をするのに用いられる。速動溶断型は、過電流に速やかに反応して溶断時間が短いのが特徴であり半導体保護用等に使用される。
【0006】
以上のように電子部品等の保護のため各種ヒューズが使用されているが、Pbフリーのヒューズとして例えばZn系ヒューズが使用されている。しかし、用途によって課題はいろいろと残されているため、このZn系ヒューズについていろいろと調べられており、例えば、特許文献1〜3のような先願が公開されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、溶断特性の調整が可能であり、従来品に比較して通電時の温度上昇が低く、また機械的性質やプレスや鍛造等の加工性等の諸特性が改善されると共に、自動車用のヒューズとして長期的に安定して使用できる比較的安価な材料を提供することを目的として、重量%でAl:3.0〜8.0%およびMg:0.0005〜0.06%を含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛合金材を用いたヒューズが開示されており、このヒューズ材は、溶断部が鍛造加工および打抜きにより板状、または、通常の伸線加工により直径0.1〜5.0mmの線状に仕上げられ、標準的な6.4%Al−0.005%Mgを含むヒューズ材は、瞬間的な過電流には溶断せず比較的長い時間の過電流により溶断するという自動車用ヒューズとして好適な「タイムラグ溶断型」を示す、と記載されている。
【0009】
特許文献2には、タンタルコンデンサ等に内蔵させるZn−Alを含む合金からなるヒューズ素子において、ヒューズ溶断温度を充分に低減でき、しかも鉛フリーはんだによるはんだ付け実装に対し安全に保持できるヒューズ素子を提供することを目的として、ZnとAlとGeとを含有し、AlとGeのそれぞれの含有量が0.5〜15%、AlとGeとの合計量が5〜20%、残部がZnの合金が細線に加工されてなるヒューズ素子が開示されている。そして、AlとGeのそれぞれの含有量を0.5〜15%とする理由は、260℃〜370℃での溶解熱量H260℃〜370℃と全溶解熱量ΣHとの比H260℃〜370℃/ΣHを0.2以上としてヒュ−ズ素子溶断温度をZn−Alヒュ−ズ素子の溶断温度よりも一段と低くするためである、とも述べられている。
【0010】
特許文献3には、環境上問題のある有害金属を含まず動作温度を260℃以上の高温領域に設定できる低融点可溶合金を使用した可溶合金型温度ヒューズおよび回路保護素子を提供することを目的として、一対のリ−ド部材1、2に低融点可溶合金3が抵抗溶接により接合され、低融点可溶合金3の表面にはフラックスの被膜4が形成され、アルミナ等のセラミック碍管の絶縁容器またはケース5に収容して構成される可溶合金型温度ヒューズが開示されている。そして、たとえば、低融点可溶合金3には、溶融動作温度が381℃の95Zn―5Al、溶融動作温度352℃の89Zn―6Al―5Geまたは溶融動作温度343℃の93Zn―4Al―3Mg(wt%)が使用され、フラックスは耐熱性の良いロジン誘導体と有機酸アミド誘導体との配合で調製され、さらに、Sn、InおよびGaのいずれかを溶融動作温度の低下調整のため添加することができる、との記載もされている。さらに[請求項1]には、一対のリ−ド部材に接続された電極部間にフラックスの被膜を有する低融点可溶合金を接続して絶縁ケ−スに収容した温度ヒューズにおいて、前記低融点可溶合金はZn−Al系合金、Zn―Al―Ge系合金およびZn―Al―Mg系合金から選択されるいずれかの合金を使用し、溶融動作温度を260℃〜400℃の範囲内で設定したことを特徴とする可溶合金型温度ヒューズが開示されており、そして、[請求項8]には、前記低融点可溶合金はAlを1.5〜7.0wt%、Geを1.5〜7.0wt%、残部がZnおよび不可避不純物からなるZn−Al−Ge系合金を使用することを特徴とする回路保護素子について開示されている。
【0011】
しかし、このような特許文献において、開示されている技術に関しても各々問題があると言わざるを得ない。
特許文献2には、タンタルコンデンサ等に内蔵させるZn−Alを含む合金からなるヒューズ素子において、ヒューズ溶断温度を充分に低減でき、しかも鉛フリーはんだによるはんだ付け実装に対し安全に保持できるヒューズ素子を提供することを目的として、ZnとAlとGeとを含有し、AlとGeのそれぞれの含有量が0.5〜15%、AlとGeとの合計量が5〜20%、残部がZnの合金が細線に加工されてなるヒューズ素子が開示されている。そして、AlとGeのそれぞれの含有量を0.5〜15%とする理由は、260℃〜370℃での溶解熱量H260℃〜370℃と全溶解熱量ΣHとの比H260℃〜370℃/ΣHを0.2以上としてヒュ−ズ素子溶断温度をZn−Alヒュ−ズ素子の溶断温度よりも一段と低くするためである、とも述べられている。しかし、Zn−Al−Geの固相線温度は356℃であり、AlとGeの合計量を5〜20%とすることによって固相線温度が350℃以下になることはなく、溶断温度が260〜350℃になることはない。さらにZnと比較し、AlやGeの熱容量は大きく変わらず、AlとGeの合計量が5〜20%の範囲で変えたところで260℃〜370℃での溶解熱量H260℃〜370℃と全溶解熱量ΣHとの比H260℃〜370℃/ΣHは大きくは変わらないと考えられている。加えて、コスト面から考えて汎用品に使用されるZn系はんだにGeを0.5質量%以上15質量%以下という量を含有させたらコストが非常に高くなり、実用的に使用することは困難だと考えられる。このように特許文献2に記載の技術は技術的な説明が不明瞭であり、コスト的に実用性は低く、よって実際に利用可能な技術になっていないことは明確である。
【0012】
特許文献3には、環境上問題のある有害金属を含まず動作温度を260℃以上の高温領域に設定できる低融点可溶合金を使用した可溶合金型温度ヒューズおよび回路保護素子を提供することを目的として、一対のリ−ド部材1、2に低融点可溶合金3が抵抗溶接により接合され、低融点可溶合金3の表面にはフラックスの被膜4が形成され、アルミナ等のセラミック碍管の絶縁容器またはケース5に収容して構成される可溶合金型温度ヒューズが開示されている。そして、たとえば、低融点可溶合金3には溶融動作温度が381℃の95Zn―5Al、溶融動作温度352℃の89Zn―6Al―5Geまたは溶融動作温度343℃の93Zn―4Al―3Mg(wt%)が使用され、フラックスは耐熱性の良いロジン誘導体と有機酸アミド誘導体との配合で調製され、さらに、Sn、InおよびGaのいずれかを溶融動作温度の低下調整のため添加することができる、との記載もされている。さらに[請求項1]には、一対のリ−ド部材に接続された電極部間にフラックスの被膜を有する低融点可溶合金を接続して絶縁ケ−スに収容した温度ヒューズにおいて、前記低融点可溶合金はZn−Al系合金、Zn―Al―Ge系合金およびZn―Al―Mg系合金から選択されるいずれかの合金を使用し、溶融動作温度を260℃〜400℃の範囲内で設定したことを特徴とする可溶合金型温度ヒューズが開示されており、そして、[請求項8]には前記低融点可溶合金はAlを1.5〜7.0wt%、Geを1.5〜7.0wt%、残部がZnおよび不可避不純物からなるZn−Al−Ge系合金を使用することを特徴とする請求項6に記載の回路保護素子が開示されている。
そして、低融点可溶合金にAlを1.5〜7.0wt%、Geを1.5〜7.0wt%、残部をZnとするのは、融点が381℃である95Zn-5Al組成の共晶合金から溶融温度をより低下させる。この組成範囲を外れると、合金の融点が高くなりすぎ発熱抵抗の発熱加温による溶断動作が緩慢となって回路保護素子として満足な効果が得られない。すなわち、Geの範囲が7wt%を超えると合金が脆くなり材料の加工が困難となり、1.5wt%未満では融点の低下効果が見られない。最良の組成は、前述のAlを6wt%、Geを5wt%、残部がZnであり、Ge添加により低融点可溶合金の酸化抑止効果が期待できる、と記載されている。
しかし、Ge含有量が1.5〜7.0wt%では含有量が多くコストアップになってしまう。そしてGe1.5質量%未満によるGeの効果は述べられておらず、逆に1.5wt%未満では融点の低下効果が見られない、と記載されており、特許文献3に記載にされているZn−Al−Ge系合金に関す発明は、Ge含有量が1.5〜7.0wt%であると解釈できる。なお、Geの耐候性向上効果の記載は全くない。
【0013】
そこで本発明は、これらの課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、PbフリーのZn−Al系合金を基本組成としたヒューズ材、およびヒューズを提供するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるPbフリー
Zn−Al系合金ヒューズは、Alを2質量%以上8質量%以下含有し、Geを0.001質量%以上0.03質量%以下含有し、残部が製造上不可避的に含まれる元素を除きZnからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のヒューズ材およびヒューズは、加工性や溶断特性に優れるだけではなく、通電時の発熱が抑制され、加えて、耐環境性や濡れ性や接合性にも優れるヒューズ材料、およびヒューズを提供することができる。これによって、電子部品等の破損や過昇温による発火、火災等を確実に抑制でき、かつ目的に合わせた保護回路設計が可能になる。加えて本発明のヒューズ材料はPbフリーであり、環境汚染等にも配慮された好適な材料である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明によるPbフリーのヒューズ材料、およびヒューズについて詳しく説明する。
本発明によるヒューズ材料、および
ヒューズは、Alを2質量%以上8質量%以下含有し、Geを0.001質量%以上0.5質量%未満含有する。
さらに表面の酸化膜の厚さが50nm以下であってよい。加えて、これらのヒューズ材料等はAl含有量が2質量%以上4.5質量%以下であることがより一層好ましく、さらに、Ni、Cu、Ag、およびPの少なくとも1種以上を含有してよい。
【0020】
本発明によるヒューズ材料は、従来のヒューズ材料よりも各種要求特性に対して高特性化している。そのために、Zn−Al系合金の共晶点付近の組成を基本として、Geを少量含有させることにより耐候性、耐環境性を向上させており、加えて表面酸化膜を薄く抑えることにより濡れ性、接合性等の特性も向上させている。以下、本発明の必須元素、条件等についてさらに詳しく説明する。
【0021】
<Znについて>
Znは本発明において、必須の元素である。Znの融点は419℃であり、温度ヒューズに適した融点を持つため、選択される。さらに、比電気抵抗も5.92(μΩ・cm)と低いことも大きな選定理由である。加えて、各種元素を固溶したり、金属間化合物を適度に生成するため、溶断特性等を調整しやすく、さらには機械的強度も付与しやすい。以上のような理由を主な背景として、Znは本発明の主成分として選定される。
【0022】
<Alについて>
Alは本発明において、必須の元素であり、Alを含有させる目的は、融点の調整、溶断特性の調整、機械的特性の向上、通電時の温度上昇抑制効果等が挙げられる。
まず、Alを含有させることにより融点が調整できる。すなわち、AlはZnと共晶合金を生成し、共晶点はAl=5質量%であり、その固相線温度は381℃である。したがって、Al含有量を共晶点の組成付近にすることにより、固相線温度を381℃にすることができ、そして目的に合わせて液相線温度を調整することができる。そして固相線温度と液相線温度を調整することにより、溶断特性をかなりの自由度を持って制御することが可能となる。
【0023】
さらに、Alを含有させることにより機械的特性や加工性も調整することができる。すなわち、Znだけでは圧延等を行う際、比較的柔らかいため、蛇行やうねり等を生じてしまい、目的とする形状にしづらく、当然、生産性も悪い。Alを含有させることにより適度な強度を付与できるとともに、共晶点付近では結晶の微細化によりクラックが入りづらくなり、伸び率も向上して実用に十分耐えうる、使いやすい材料となる。
【0024】
加えてAlは比電気抵抗が2.65(μΩ・cm)とZnより小さく、電気を流しやすくてジュール熱の発生を抑制できる。このため、通電時に余計な電力消費が抑えられ、もちろん、ジュール熱によるヒューズ周辺部の発熱を抑制でき、電子部品、電子回路等の故障頻度を低減できたり、耐熱性を下げられたり、小型化が可能となったりする。
【0025】
このような優れた特性向上効果を持つAlの含有量は2.0質量%以上8.0質量%以下である。Al含有量が2.0質量%未満では、その含有量が少なすぎて十分な機械的特性を得ることができない。さらに、液相線温度と固相線温度の差が大きくなりすぎてヒューズの溶接時に結晶粒が大きくなりすぎたり溶け別れ現象を生じたりして十分な接合強度が得られなかったりしてしまう。一方、Al含有量が8.0質量%を超えてしまうと、前述したような溶け別れ現象を生じたり、液相線温度が410℃以上となって融点が高くなりすぎてしまう。
【0026】
Al含有量が2.0質量%以上4.5質量%以下であると、共晶点よりZnリッチ側となり、酸化が進行しやすいAl含有量が少ないため、より一層良好な接合性が得られるとともに耐候性も向上する。このため、Al含有量を2.0質量%以上4.5質量%以下にすることによって、さらに優れたヒューズ材料、およびヒューズとなる。
【0027】
<Geについて>
Geは本発明において、必須元素であり、Geを含有させる主な目的は、濡れ性や耐候性の向上にある。すなわち、Znは比較的酸化しやすく、反応性の良い元素であり、Alはさらに酸化しやすいため、Zn−Al合金は必ずしも十分な耐候性、耐食性、耐環境性を持っているとは言い難い。この耐候性等の向上に劇的な効果を発揮する元素がGeである。
【0028】
GeをZn−Al合金に含有させることにより、Geが表面に凝縮され、ZnやAlの主成分金属の酸化を抑制し、よって、酸化膜が厚くなるのを抑制するのである。これによって濡れ性が向上し、ヒューズを接合する十分な接合強度を得ることができる。当然、酸化劣化抑制にも効果があり、耐候性の向上にも繋がる。そして、Geは少量で十分に効果を発揮し、逆に量が多くなるとZn−Al合金の加工性や機械的特性を低下させるだけでなく、高価なGeが増加するためコスト的にも不利になる。さらに、Geが0.5質量%を超えてしまうと、酸化膜が厚くなり過ぎて十分な濡れ性や接合性が得られなくなってしまう。
【0029】
Geの含有量は、Geを0.001質量%以上0.5質量%未満である。0.001質量%未満では含有量が少なすぎてGeを含有させた効果が実質的に現れず、0.5質量%以上になるとZn−Al−Ge合金が硬くなりすぎ、加工性が大きく低下したり、ワイヤ形状やリボン形状のヒューズが折れやすくなり、不良や故障の原因となってしまう。Geを含有させることにより合金が硬くなる理由はGeが半金属的な性質を示して脆いためである。
【0030】
<Niについて>
Niは必要に応じて含有してよい元素である。Niを含有させる目的は、結晶の微細化による加工性の向上である。つまり、NiはZnやAlにほとんど固溶しないため、溶融後の冷却時に初晶として析出し、その初晶が核となって結晶が微細化するのである。このため、柔らかさが増し、加工性、応力緩和性が向上するのである。Niの含有量は3.0質量%以下である。3.0質量%を超えてしまうと、他の元素含有量がどのような量であってもNi含有量が多すぎて結晶が粗大化してしまい、加工性や機械的特性等が低下してしまう。
【0031】
<Cuについて>
Cuは必要に応じて含有してよい元素である。Cuを含有させる目的は固溶強化である。すなわち、CuはZnに約3質量%まで固溶して転位を止める働きをする。このため、強度が上がるのである。なお、Cuは強度を向上させてクラック進展等を抑制するが、Cu自身が柔軟性を有するため合金の柔軟性や伸び率を低下させることはなく、したがって、応力緩和性などを下げることはない。そして、含有量が3.0質量%を超えてしまうと合金の硬度が上がり、急激に加工性を低下させてしまう。
【0032】
<Agについて>
Agは必要に応じて含有してよい元素である。Agを含有させる目的もCuと同様に固溶強化である。すなわち、Ag−Zn系状態図とCu−Zn系状態図から推察できるようにこれらの状態図は非常に似ており、このためAgの効果もCuと同様である。Agの含有量は要求される合金特性を考慮して決定すればよいが、上限値は3.0質量%である。Agの含有量が3.0質量%を超えてしまうと合金が硬くなりすぎてしまい、急激に加工性を低下させてしまう。
【0033】
<Pについて>
Pは必要に応じて含有してよい元素であり、その効果は濡れ性の向上にある。Pが濡れ性を向上させるメカニズムは以下のとおりである。Pは還元性が強く、自ら酸化することによって合金表面の酸化を抑制するとともに、接合面を還元して濡れ性を向上させるのである。
【0034】
また、Pの含有により接合時にボイドの発生を低減させる効果も得られる。即ち、すでに述べたようにPは自らが酸化しやすいため、優先的に酸化が進む。その結果、ヒューズ母相の酸化を防ぎ、溶接等での接合時に接合面を還元して濡れ性を確保することができる。そしてこの接合の際、ヒューズや接合面表面の酸化物がなくなるため、酸化膜によって形成される未接合部が発生しにくくなり、接合性や長期信頼性等を向上させるのである。
【0035】
なお、Pは合金や接合面を還元して酸化物になると気化し雰囲気ガスに流され残らない。このため、Pの残渣が信頼性等に悪影響を及ぼす可能性はなく、この点からも優れた元素と言える。Pを含有する場合の量は、0.500質量%以下が好ましい。Pは非常に還元性が強いため、微量を含有させれば濡れ性向上の効果が得られる。0.500質量%を超えて含有しても、濡れ性や接合性の向上の効果はあまり変わらず、過剰な含有によって、PやP酸化物の気体が多量に発生して未接合部の割合を増やしてしまったり、Pが脆弱な相を形成して偏析し、接合部を脆化して信頼性を低下させたりする恐れがある。特にワイヤなどを加工する場合に、断線の原因になりやすいことが確認されている。
【0036】
<表面酸化膜について>
本発明におけるヒューズの酸化膜の厚さは50nm以下であってよい。つまり、酸化膜の厚さが厚くなってしまうと、ヒューズを接合する際、酸化膜が接合面の金属接続部と直接接することができず、したがって合金化が不十分となり、実用に耐えうる接合強度を得ることができなくなるからである。金属同士を接合するには接合物同士の合金化が進まなければならないが、金属間に厚い酸化膜があるとこの合金化が進まないのである。このため、ヒューズの酸化膜の厚さは50nm以下であるのが好ましい。接合条件には依存するものの、酸化膜の厚さが50nm以下の範囲内であれば、概ね良好な接合が可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
まず、原料としてそれぞれ純度99.9質量%以上のZn、Al、Ge、Ni、Cu、Ag、P、およびTiを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく均一になるように留意しながら切断、粉砕等を行い、3mm以下の大きさに細かくした。次に、高周波溶解炉用グラファイトるつぼに、これら原料から所定量を秤量して入れた。
原料の入ったるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7L/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく攪拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかにるつぼを取り出し、るつぼ内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型には、ワイヤ押出用に直径19mm×長さ100mmの円柱形状のものと、打抜き品用に幅40mm×長さ200mm×厚さ5mmのものを使用した。
このようにして試料1のはんだ母合金を作製した。原料の混合比率を変えた以外は試料1と同様にして試料2〜
38のはんだ母合金を作製した。これら試料1〜38のはんだ母合金の組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて分析した。その分析結果を下記の表1に示す。
【0038】
【表1】
(注)表中の※を付した試料は比較例である。
【0039】
次に、上記試料1〜38の各はんだ母合金について、下記のごとく、押出機でワイヤ状に、そして、圧延機でシート状に加工した。また、ワイヤ押出時、単位長さ当りの断線やキズ等の不良数をカウントして加工性評価1とした。そして、シート状に圧延加工した各試料について、単位長さ当りのクラックやカケ等の不良数をカウントして加工性評価2とし、さらにプレス機で打抜いた際の不良率を算出して加工性評価3とした。ワイヤ形状、シート形状に加工した各試料について、走査射型オージェ電子分光装置(ULVAC−PHI製、型式:SAM−4300)を用いて酸化膜の厚さを測定した。その結果を表1に示す。なお、試料の表面粗さも接合性や溶接性に影響を及ぼすため、制御する必要があることから、押出用ダイスの孔内の表面加工や圧延用ロールの表面加工を調整することによって、全ての試料(ワイヤ、シート、打抜き品)の表面粗さ(Ra)を0.50±0.15μmの範囲内とした。
さらにこれらの試料を使い、引張強度を測定し機械的特性の評価とし、溶断特性、温度上昇、耐候性についても評価した。
【0040】
<加工性評価1(ワイヤ形状への加工)>
準備した表1に示す試料1〜38の各母合金(直径19mm×長さ100mm)を直径1.0mmのワイヤ形状へ押出機を用いて加工した。この際、押出されたワイヤの表面酸化が進まないようにワイヤ排出口には窒素を流しながら押出した。そして、ワイヤを50mを押出し、断線やキズが無かった場合を「○」、1回以上の断線、または1か所以上のキズが発生した場合を「×」と評価した。
【0041】
<加工性評価2(シート形状への加工)>
準備した表1に示す試料1〜38の各母合金(幅40mm×長さ200mm×厚さ5mm)を、圧延機を用いて圧延用油を塗布しながら送り速度を調整して厚さ0.10mmまで圧延した。シート10m当たり、バリやクラック等が無かった場合を「○」、バリやクラック等が1〜3箇所発生した場合を「△」、4箇所以上発生した場合を「×」と評価した。
【0042】
<加工性評価3(打抜き品への加工)>
圧延後のシート状の各試料をスリッター加工により30mmの幅に裁断し、金型プレス機を用いて、0.7mm×0.7mmの四角形状に打抜き、各1000個の打抜き品を製造した。打抜き品にバリやカケなどの不良が見られたものを「不良品」とし、そのような不良が無く、きれいに0.7mm×0.7mmの四角形状に打抜けたものを「良品」として不良率を算出し、加工性評価3とした。
【0043】
<機械的特性の評価(引張強度)>
加工性評価1と同様の方法で直径1.0mmのワイヤ形状に加工した各試料を100mmに切断し、引張強度測定用の試料とした。引張試験機はA&D株式会社製、テンシロン万能試験機を用いて測定した。
【0044】
<温度上昇についての評価>
加工性評価2と同様の方法でシート形状に加工した各試料をスリッターを使って1.0mmに裁断し、さらにフォイルカッターを使って長さ5.0mmの形状に加工し、温度上昇を測定するための試料(幅1.0mm×長さ5.0mm×厚さ0.10mm)を準備した。この各試料の両端を各電極に抵抗溶接法で接続した。そしてこの接合体に2.0(A)の電流を流し、上昇した温度を測定した。なお、外気温度は20℃一定となるように制御した。
試料38の上昇した温度を100%として、他の試料の温度上昇の程度を相対評価した。
【0045】
<耐候性評価>
温度上昇についての評価を行う際に製造した方法で同様の試料を製造し、耐候性評価用の試料とした。すなわち、各試料について、幅1.0mm×長さ5.0mm×厚さ0.10mmの形状をした試料を準備した。これらの試料を収容した恒温恒湿槽を、85℃85%RH−1000時間の加速試験を行った。酸化膜の厚さの増加率が初期の厚さに比較し、30%未満の場合を「○」、30%以上100%未満の場合を「△」、100%以上を「×」と評価した。
【0046】
【表2】
(注)表中の※を付した試料は比較例である。
【0047】
上記表2から分かるように、本発明の要件を満たしている試料1〜23は、各評価項目において良好な特性を示している。つまり、ワイヤ形状に加工しても断線やキズは全く発生せず、シート形状に加工してもバリやクラック等は発生せず、各試料について1000個ずつ打抜き品を製造しても不良は発生せず全て良品であった。また、引張強度は全て100MPa以上と高く、温度上昇は一般的に使用されている試料38よりも抑えられており、耐候性についても酸化膜の増加率が抑えられており良好な結果を示した。
【0048】
一方、本発明の要件を満たしていない試料24〜38はほとんどの評価項目で好ましくない結果となっている。すなわち、ワイヤ形状に加工した際には断線やキズが多発し、シート形状に加工してもバリやクラック等は発生し、各試料について1000個ずつ打抜き品を製造した際も不良品が多く、不良率は30〜35%であった。また、引張強度は全て45MPa以下と低かった。耐候性についても酸化膜の増加率が大きく悪い結果となった。