(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015598
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】インゴットの切断方法及びワイヤソー
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20161013BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20161013BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
B24B27/06 F
H01L21/304 611W
B28D5/04 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-177039(P2013-177039)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-44268(P2015-44268A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】上林 佳一
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−042896(JP,A)
【文献】
特開2000−141201(JP,A)
【文献】
特開2008−188721(JP,A)
【文献】
特開2012−106322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
B23D 57/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤでワイヤ列を形成し、インゴットと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給しながら、前記ワイヤ列に前記インゴットを押し当てることで、前記インゴットをウェーハ状に切断するインゴットの切断方法であって、
前記ワイヤを交換した後の1本目の前記インゴットを切断する際の、前記インゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率が、前記ワイヤを交換した後の2本目以降の前記インゴットを切断する際の前記比率の1/2以下となり、かつ、前記インゴットの切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量が、前記インゴットの中央部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量よりも小さい値になるように制御することを特徴とするインゴットの切断方法。
【請求項2】
複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤによって形成されるワイヤ列と、インゴットを保持しながら前記ワイヤ列に前記インゴットを押し当てるインゴット送り手段と、前記インゴットと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給するノズルを具備し、前記ノズルから前記インゴットと前記ワイヤとの接触部に前記加工液を供給しながら、前記インゴット送り手段により前記インゴットを前記ワイヤ列に押し当てることでウェーハ状に切断するワイヤソーであって、
前記ワイヤを交換した後の1本目の前記インゴットを切断する際の、前記インゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率が、前記ワイヤを交換した後の2本目以降の前記インゴットを切断する際の前記比率の1/2以下となり、かつ、前記インゴットの切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量が、前記インゴットの中央部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量よりも小さい値になるように制御する制御手段を具備することを特徴とするワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーによってインゴットをウェーハ状に切断する切断方法及びワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウェーハの大型化が望まれており、この大型化に伴い、インゴットの切断には専らワイヤソーが使用されている。
ワイヤソーは、ワイヤ(高張力鋼線)を高速走行させて、ここにスラリを掛けながら、ワーク(例えばシリコンインゴットが挙げられる。以下、単にインゴットと言うこともある。)を押し当てて切断し、多数のウェーハを同時に切り出す装置である(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、
図4に、従来の一般的なワイヤソーの一例の概要を示す。
図4に示すように、ワイヤソー101は、主に、インゴットを切断するためのワイヤ102、ワイヤ102を巻回したワイヤガイド103、ワイヤ102に張力を付与するための張力付与機構104、切断されるインゴットを送り出すインゴット送り手段105、切断時に、SiC微粉等の砥粒をクーラントに分散して混合したスラリを供給するためのノズル106等で構成されている。
【0004】
ワイヤ102は、一方のワイヤリール107から繰り出され、トラバーサ108を介してパウダクラッチ(定トルクモータ109)やダンサローラ(デッドウェイト)(不図示)等からなる張力付与機構104を経て、ワイヤガイド103に入っている。ワイヤ102はこのワイヤガイド103に300〜400回程度巻回された後、もう一方の張力付与機構104’を経てワイヤリール107’に巻き取られている。
【0005】
また、ワイヤガイド103は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラであり、巻回されたワイヤ102が、駆動用モータ110によって予め定められた周期で往復方向に駆動できるようになっている。
【0006】
そして、ワイヤガイド103、巻回されたワイヤ102の近傍には、ノズル106が設けられており、切断時にはこのノズル106から、ワイヤガイド103、ワイヤ102にスラリを供給できるようになっている。そして、切断後には廃スラリとして排出される。
【0007】
このようなワイヤソー101を用い、ワイヤ102に張力付与機構104を用いて適当な張力をかけて、駆動用モータ110により、ワイヤ102を往復方向に走行させ、スラリを供給しつつインゴットをスライスすることにより、所望のスライスウェーハを得ている。
【0008】
上記のワイヤソーを用いて複数のインゴットを繰り返し切断する際、一般的なインゴットの切断方法では、全てのインゴットの切断において、ワイヤ新線供給量は同じ条件で切断を行っている。
一般的に、インゴットの切断開始部分でのワイヤ新線供給量と切断終了部分でのワイヤ新線供給量は、中央部分切断時でのワイヤ新線供給量よりも小さい値になっている。なお、例えば直径300mmのインゴットの場合、インゴットの切断開始部分とは、インゴットの外周端にワイヤが最初に接触する部分から15mmの部分とし、またインゴット中央部分とは、外周端から150mmの部分に相当する。
【0009】
また、インゴットから切り出されたウェーハの厚さの分布を確認すると、インゴットの切断開始部分におけるウェーハの厚さが、中央部分に対して薄くなる。このように、ワイヤソーによるインゴットの切断では切断開始部分が最も薄くなる。以下では、ウェーハ面内の切断開始部分の厚さと中央部分の厚さの差を厚さムラと呼ぶ。
【0010】
切断開始部分の厚さが薄くなる現象は、切断開始部分で使われるワイヤの線径が大きいことに起因する。ワイヤの線径を小さくするにはワイヤを摩耗させればよい。ワイヤの摩耗量を調節する方法としては、ワイヤ新線供給量を変える方法が挙げられる。ワイヤ新線供給量を大きくするとワイヤの摩耗は小さく、ワイヤ新線供給量を小さくするとワイヤの摩耗が大きくなる。
【0011】
従って、切断開始部分の厚さが薄くなる問題を解消する方法として、切断開始部分を切断している時のワイヤ新線供給量を小さくする方法があり、厚さムラを小さくすることができる。また、インゴットの切断をする前にワイヤを巻き戻して既に使用されて摩耗した部分を切断に使うことで、厚さムラを小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−86140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、ウェーハ面内の厚さムラを小さくしても、ワイヤを交換した後の1本目と2本目以降に切断されるインゴットから切り出されるウェーハの間では、厚さムラの大きさが2〜3μm程度の差がでてしまう。ワイヤを交換した後の1本目に切断されるインゴットから切り出されるウェーハは、特に切断開始部分の厚さがより薄くなり、厚さムラの差が顕著に出てしまう。
これはワイヤを交換した後の1本目のインゴットの切断で最初に使われる部分のワイヤの線径と、インゴット2本目以降の切断で最初に使われる部分のワイヤの線径が異なることに起因する。
【0014】
これは、2本目以降では切断開始前にワイヤを巻き戻すことにより、既にインゴットの切断に使用された部分の摩耗したワイヤが切断開始位置で使われるのに対して、ワイヤを交換した後の1本目のインゴットの切断では、全く摩耗していない新品の状態のワイヤが切断開始位置で使われるためである。尚、2本目以降のインゴットの切断については、基本的に切断開始部分を切断する際のワイヤの線径は一定となっている。
ワイヤを交換した後の1本目のインゴットを切断する前に、ワイヤを摩耗させるための予備切断を行えば、上記の問題は解消されることになるが、それでは、無駄な切断を行うことになり、装置生産性の観点でデメリットとなり実施が難しい。以上のような理由により、ワイヤを交換した後の1本目のインゴットと2本目以降のインゴットの切断とで、厚さムラに差が出て、厚さムラのばらつきが大きくなることが問題となっている。
【0015】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、ワイヤを交換した後の1本目と2本目以降のインゴットから切り出されるウェーハの間の厚さムラのバラツキを抑制するインゴットの切断方法及びワイヤソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明によれば、複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤでワイヤ列を形成し、インゴットと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給しながら、前記ワイヤ列に前記インゴットを押し当てることで、前記インゴットをウェーハ状に切断するインゴットの切断方法であって、前記ワイヤを交換した後の1本目の前記インゴットを切断する際の、前記インゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率が、前記ワイヤを交換した後の2本目以降の前記インゴットを切断する際の前記比率の1/2以下となるように制御することを特徴とするインゴットの切断方法を提供する。
【0017】
このようにすれば、ワイヤを交換した後の1本目と2本目以降のインゴットから切り出されるウェーハの間の厚さムラのバラツキを抑制することができる。
【0018】
また本発明によれば、複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤによって形成されるワイヤ列と、インゴットを保持しながら前記ワイヤ列に前記インゴットを押し当てるインゴット送り手段と、前記インゴットと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給するノズルを具備し、前記ノズルから前記インゴットと前記ワイヤとの接触部に前記加工液を供給しながら、前記インゴット送り手段により前記インゴットを前記ワイヤ列に押し当てることでウェーハ状に切断するワイヤソーであって、前記ワイヤを交換した後の1本目の前記インゴットを切断する際の、前記インゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率が、前記ワイヤを交換した後の2本目以降の前記インゴットを切断する際の前記比率の1/2以下となるように制御する制御手段を具備することを特徴とするワイヤソーが提供される。
【0019】
このようなものであれば、ワイヤを交換した後の1本目と2本目以降のインゴットから切り出されるウェーハの間の厚さムラのバラツキを抑制することができるものとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の切断方法及びワイヤソーであれば、ワイヤ交換1本目のインゴットから切断したウェーハ特有の厚さムラを、2本目以降のインゴットから切断したウェーハの厚さムラと同水準にすることができる。これにより、後工程であるラップ工程等における加工条件を揃えることができ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のワイヤソーの一例を示した概略図である。
【
図2】インゴット送り手段の一例を示す概略図である。
【
図3】実施例1、2、比較例における厚さムラと単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率の関係を示す図である。
【
図4】従来の切断方法に使用されるワイヤソーの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上述したように、ワイヤ交換後1本目のインゴットから切り出されたウェーハと2本目以降のインゴットから切り出されたウェーハの間で、特に切断開始部分でのワイヤの線径の違いから厚さムラの差が大きくなる。切断ロット間(1本目の切断と、2本目以降の切断)で、厚さムラのバラツキがあると、厚さムラを取り除くのに必要なラップ工程等の後工程での必要取り代もロット毎に異なり、加工条件を揃えられない点でデメリットがあった。そこで、本発明者は、ワイヤを交換した後の1本目のインゴットの切断開始部分において、ワイヤ新線供給量を小さくし、切断中にワイヤをより摩耗させて線径を細くすることで、切断ロット間の厚さムラのバラツキを抑制できることに想到し、本発明を完成させた。
【0023】
まず、本発明のワイヤソーについて
図1、
図2を参照しながら説明する。
図1に示すように、本発明のワイヤソー1は、主に、インゴットWを切断するためのワイヤ2、ワイヤガイド3、ワイヤ2に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構4、4’、インゴットWを保持しつつ相対的に押し下げるインゴット送り手段5、切断時にワイヤ2に加工液を供給するためのノズル6等で構成されている。
【0024】
ワイヤ2は、一方のワイヤリール7から繰り出され、トラバーサ14を介してパウダクラッチ(定トルクモータ15)やダンサローラ(デッドウェイト)(不図示)等からなるワイヤ張力付与機構4を経て、ワイヤガイド3に入っている。ワイヤ2が複数のワイヤガイド3に300〜400回程度巻回されることによってワイヤ列17が形成される。ワイヤ2はもう一方のワイヤ張力付与機構4’を経てワイヤリール7’に巻き取られている。このワイヤとしては、例えば高張力鋼線等を用いることができる。ワイヤリール7、7’はワイヤリール用駆動モータ16、16’によって回転駆動される。更に、張力付与機構4、4’によって、ワイヤ2にかかる張力は精密に調整される。
【0025】
ノズル6はインゴットWとワイヤ2との接触部に加工液を供給する。このノズル6は、特に限定されないがワイヤガイド3に巻回されたワイヤ2の上方に配置することができる。ノズル6はスラリタンク(不図示)に接続されており、供給されるスラリはスラリチラー(不図示)により供給温度が制御されてノズル6からワイヤ2に供給できるようになっているものとすることができる。
ここで、インゴットWの切断中に使用する加工液の種類は特に限定されず、従来と同様のものを用いることができ、例えば炭化珪素砥粒やダイヤモンド砥粒をクーラントに分散させたものとすることができる。クーラントとしては、例えば水溶性又は油性のクーラントを用いることができる。
【0026】
インゴットWの切断時には、
図2に示すようなインゴット送り手段5によって、インゴットWはワイヤガイド3に巻回されたワイヤ2に送り出される。このインゴット送り手段5は、インゴットを送り出すためのインゴット送りテーブル10、LMガイド11、インゴットを把持するインゴットクランプ12、スライスあて板13等からなっており、コンピュータ制御でLMガイド11に沿ってインゴット送りテーブル10を駆動させることにより、予めプログラムされた送り速度で先端に固定されたインゴットを送り出すことが可能である。
【0027】
ワイヤガイド3は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に所定のピッチで溝を切ったローラであり、ワイヤ2の損傷を防いでワイヤ断線などを抑制できるようになっている。更に、ワイヤガイド3は駆動用モータ8によって、巻回されたワイヤ2が軸方向に往復走行できるようになっている。ワイヤ2を往復走行させる際、ワイヤ2の両方向への走行距離を同じにするのではなく、片方向への走行距離の方が長くなるようにする。このようにして、ワイヤの往復走行を行うことで長い走行距離の方向に新線が供給される。
【0028】
更に、本発明のワイヤソーでは、インゴットWの切断時におけるワイヤ新線供給量を以下に説明するように制御するための制御手段9を具備している。この制御手段9は、ワイヤ2を新しいものに交換した後の1本目のインゴットWを切断する際の、インゴットWの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率(切断開始部分の切断時におけるワイヤ新線供給量/中央部分の切断時におけるワイヤ新線供給量)が、ワイヤ2を交換した後の2本目以降のインゴットWを切断する際の上記比率の1/2以下となるように制御をする。この制御手段9を、特に限定されないが例えば駆動用モータ8に接続することによりワイヤガイド3の駆動速度を制御して、インゴットの切断位置に応じてワイヤ新線供給量を変化させることができる。
【0029】
このような本発明のワイヤソー1であれば、1本目のインゴットWの切断開始部分を切断する際の上記比率を2本目以降のインゴットWの切断開始部分を切断する際に比べて1/2以下とすることで、単位時間当たりのワイヤ供給量を適切に少なくし、未使用の状態で線径が大きいままのワイヤ2の摩耗を進めて線径を小さくすることができる。その結果、ワイヤ2の交換後、1本目のインゴットWから切り出されるウェーハの厚さムラと、2本目以降のインゴットWから切り出されるウェーハの厚さムラの差が大きくなることを抑制できるものとなる。各々のウェーハの厚さムラのバラツキが小さければ、ラップ工程等での加工条件を揃えることができ、後工程での生産性を向上させることができる。
【0030】
次に本発明のインゴットの切断方法について説明する。ここでは、
図1に示すような本発明ワイヤソー1を用いた場合について述べる。
まず初めに、ワイヤソー1において、切断に使用していない新品の状態のワイヤ2にワイヤを交換する。そして、ワイヤ2を交換した後に1本目に切断するインゴットWを準備する。次に、インゴット送り手段5によりインゴットWを保持する。そして、ワイヤ2に張力付与機構4、4’によって張力を付与しながら、駆動用モータ8によって軸方向へ往復走行させる。
【0031】
次に、インゴット送り手段5によりインゴットWを相対的に押し下げて、インゴットWをワイヤ列17に押し当て、1本目のインゴットWの切断を開始する。インゴットWを切断する際には、加工液をノズル6からインゴットWとワイヤ2との接触部に供給しながら切断を進める。
このとき、この1本目のインゴットWの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率が、2本目以降のインゴットWを切断する際の上記比率の1/2以下となるように制御する。それぞれのワイヤ新線供給量(例えば1本目又は2本目以降のインゴットの切断開始部分又は中央部分の切断時におけるワイヤ新線供給量)は、適宜切断条件(例えば切断するインゴットの材質や直径等)によって設定することができる。
【0032】
上記のように制御をしながら、更にインゴットを下方に押し下げ切断を進め、切断を完了させた後、インゴットWを送り出す方向を逆転させることにより、ワイヤ列17から切断済みのインゴットWを引き抜き、切り出したウェーハを回収する。そして、2本目以降に切断するインゴットWを準備し上記と同様の手順で切断を行う。このとき、2本目以降の切断は、上記比率が1本目に対し2倍以上となるようにする。
上記のように、新品に交換した後のワイヤ2で複数のインゴットWを順番に、繰り返しウェーハ状に切断していく。
【0033】
このような、切断方法であれば、1本目のインゴットWの切断開始部分を切断する際の上記比率を2本目以降のインゴットWの切断開始部分を切断する際に比べて1/2以下とすることで、単位時間当たりのワイヤ供給量を適切に少なくし、未使用の状態で線径が大きいままのワイヤ2の摩耗を進めて線径を小さくすることができる。その結果、ワイヤ2の交換後、1本目のインゴットWから切り出されるウェーハの厚さムラと、2本目以降のインゴットWから切り出されるウェーハの厚さムラの差が大きくなることを抑制できる。各々のウェーハの厚さムラのバラツキが小さければ、ラップ工程等での加工条件を揃えることができ、後工程での生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図1に示すような、本発明のワイヤソーにおいて、ワイヤを新品の状態のワイヤに交換してから、複数のインゴットの切断を本発明の切断方法に従って繰り返し行った。
各インゴットから切り出されたウェーハの厚さムラを測定し、各インゴットから切り出されたウェーハ毎の厚さムラの平均を算出した。尚、厚さムラとは前述したようにウェーハ面内の切断開始部分の厚さと中央部分の厚さの差である。
実施例1では、ワイヤを交換した後の1本目のインゴットを切断する際の、インゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率は10%とした。そして、2本目以降のインゴットを切断する際の、インゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率は26%とした。つまり、1本目のインゴットを切断する際の上記比率は、2本目以降のインゴットを切断する際の上記比率の10/26となるように制御した。
その結果を
図3、表1に示す。
図3のグラフの縦軸は厚さムラ、横軸はインゴットの中央部分の切断時に対する切断開始部分の切断時の単位時間当たりのワイヤ新線供給量の比率を表している。表1に示すように、1本目のインゴットから切り出されたウェーハの厚さムラの平均は0.8μmとなった。そして、2本目以降のインゴットから切り出されたウェーハの厚さムラの平均は0.5μmとなった。従って、厚さムラの差は0.3μmであり、後述する比較例と比べて非常に厚さムラのバラツキが小さくなることが確認された。
【0036】
(実施例2)
ワイヤを交換した後の1本目のインゴットを切断する際の上記比率を33%、2本目以降のインゴットを切断する際の上記比率を66%としたこと以外、実施例1と同様な条件で、インゴットの切断を繰り返し行った。すなわち、1本目のインゴットを切断する際の上記比率は、2本目以降のインゴットを切断する際の上記比率の1/2であった。
インゴットの切断が終了した後、実施例1と同様な方法で厚さムラを測定し平均を算出した。
その結果、
図3、表1に示すように、1本目のインゴットから切り出されたウェーハの厚さムラの平均は4.0μmとなった。そして、2本目以降のインゴットから切り出されたウェーハの厚さムラの平均は4.5μmとなった。従って、厚さムラの差は0.5μmとなり実施例1と同様に、非常に厚さムラのバラツキが小さくなることが確認された。
【0037】
(比較例)
ワイヤを交換した後の1本目のインゴットを切断する際と2本目以降のインゴットを切断する際の上記比率を同じ値としたこと以外、実施例2と同様な条件で、インゴットの切断を繰り返し行った。まず、ワイヤを交換した後の1本目のインゴットを切断する際と2本目以降のインゴットを切断する際の上記比率を66%とした。
インゴットの切断が終了した後、実施例1と同様な方法で厚さムラを測定し平均を算出した。
その結果、
図3、表1に示すように、1本目のインゴットと2本目以降のインゴットから切り出されたウェーハの厚さムラの差は2.6μmとなり、実施例1、2に比べて厚さムラのバラツキが大きくなったことが確認された。
また、上記比率を33%、26%、10%として同様に切断を繰り返した結果、厚さムラの差はそれぞれ、2.4μm、2.2μm、3.2μmとなり、実施例1、2に比べて厚さムラのバラツキが大きくなったことが確認された。
【0038】
表1に、実施例、比較例における実施結果をまとめたもの示す。
【0039】
【表1】
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0041】
1…ワイヤソー、 2…ワイヤ、 3…ワイヤガイド、
4、4’…張力付与機構、 5…インゴット送り手段、 6…ノズル、
7、7’…ワイヤリール、 8…駆動用モータ、 9…制御手段、
10…インゴット送りテーブル、 11…LMガイド、 12…インゴットクランプ、
13…スライスあて板、 14…トラバーサ、 15…定トルクモータ、
16、16’…ワイヤリール用駆動モータ、17…ワイヤ列。