特許第6015737号(P6015737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015737
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】再生型イオン交換装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20161013BHJP
   B01J 49/00 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C02F1/42 B
   B01J49/00 113
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-230827(P2014-230827)
(22)【出願日】2014年11月13日
(65)【公開番号】特開2016-93779(P2016-93779A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2015年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 洋一
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−205993(JP,A)
【文献】 特開2000−254524(JP,A)
【文献】 特開昭51−077583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 49/00−49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれイオン交換樹脂を収容する第1室及び第2室を有し、第1室及び第2室の一方にカチオン交換樹脂が収容され、他方にアニオン交換樹脂が収容され、該第1室と第2室とが連通手段によって連通されている再生型イオン交換装置の運転方法であって、
該第1室、連通手段、及び第2室の順に原水を通水する採水工程と、
該カチオン交換樹脂及び該アニオン交換樹脂を再生する再生工程と、
該カチオン交換樹脂及び該アニオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程と、
を有する再生型イオン交換装置の運転方法において、
該採水工程では、該第1室及び第2室に原水を上向流で通水し、
該洗浄工程は、
該第1室に原水を上向流で通水して該第1室内の樹脂を洗浄し、洗浄排水を該第1室から排出する第1洗浄工程と、
該第1洗浄工程後に、該第1室に原水を上向流で通水して該第1室内の樹脂を洗浄し、該第1室の洗浄排水を該連通手段により該第2室に供給し、該第2室に該洗浄排水を上向流で通水して該第2室内の樹脂を洗浄する第2洗浄工程と、
を備え
前記第1洗浄工程では前記第2室への通液を停止し、
前記第1洗浄工程と前記第2洗浄工程との間で、前記第1室への原水の供給を継続させ、第1室から流出する洗浄排水を第2室に導くように前記連通手段を切り替えることにより第2洗浄工程に移行し、
前記第2洗浄工程後、前記第1室へ原水を連続して通水しながら採水工程に復帰することを特徴とする再生型イオン交換装置の運転方法。
【請求項2】
請求項において、前記再生工程では、前記第1室及び第2室において再生液を下向流で通水することを特徴とする再生型イオン交換装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第2洗浄工程では、前記第2室の洗浄排水の少なくとも一部を頂部に設けた抜出管から排出することを特徴とする再生型イオン交換装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを備えた再生型のイオン交換装置の運転方法に関し、特に、イオン交換装置の再生後のイオン交換樹脂洗浄を原水で行うようにしたイオン交換装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業等における純水や超純水製造設備などにおいて、イオン交換装置が広く用いられている。このイオン交換装置として、特開2011−72927号公報及び特開2012−205993号公報には、塔内を遮水性の仕切板によって上下2室に区画し、一方の室にアニオン交換樹脂を充填し、他方の室にカチオン交換樹脂を充填し、塔外を引き回された連通手段によって上室と下室とが連通された2床1塔型イオン交換装置(Double Bed Polisher、以下DBPと略すことがある。)が記載されている。
【0003】
このDBPでは、イオン交換樹脂の再生時に、各室に別々に酸溶液又はアルカリ溶液が供給される。従って、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが混合することがなく、しかも、両室を区画する仕切板は遮水性であり、一方の室に供給された酸又はアルカリが仕切板を通過して他方の室に流入することがなく、逆再生が防止される。再生終了後、酸溶液、アルカリ溶液の代わりに、各室に純水を通水し、各経路及び樹脂を洗浄する。塔内上部に充填している不活性樹脂間に再生薬品が溜まっており、これを攪拌洗浄するために、洗浄は下向流で実施される。
【0004】
従来、洗浄工程において各室に通水される純水には、DBP処理水よりも高純度の純水、例えばサブシステムのUFブライン水などが用いられていた。これは、洗浄を下向流で実施する際に、採水時は処理水側となる上層のイオン交換樹脂が汚染されることを防止するためである。下向流での洗浄水にDBP原水を用いた場合、原水中に含まれるイオンにより処理水側のイオン交換樹脂が汚染し、到達水質の低下や、再生後の採水開始当初の水質悪化が起こる。このため、DBPでは洗浄水として高純度水を用いるようにしており、この高純度の洗浄水を貯留する水槽を設ける必要があった。
【0005】
一方、強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂とが混合された混合イオン交換樹脂層を有する混床式イオン交換装置では、原水槽の水を用いて再生することが多い。従って、DBPでは、高純度の洗浄水を貯留する水槽が必須であることがコストの増加を招き、DBPの適用拡大にとって不利となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−72927号公報
【特許文献2】特開2012−205993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の再生後の洗浄に原水を使用するとともに、再生後の水質が良好となる再生型イオン交換装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の再生型イオン交換装置の運転方法は、それぞれイオン交換樹脂を収容する第1室及び第2室を有し、第1室及び第2室の一方にカチオン交換樹脂が収容され、他方にアニオン交換樹脂が収容され、該第1室と第2室とが連通手段によって連通されている再生型イオン交換装置の運転方法であって、該第1室、連通手段、及び第2室の順に原水を通水する採水工程と、該カチオン交換樹脂及び該アニオン交換樹脂を再生する再生工程と、該カチオン交換樹脂及び該アニオン交換樹脂を洗浄する洗浄工程と、を有する再生型イオン交換装置の運転方法において、該採水工程では、該第1室及び第2室に原水を上向流で通水し、該洗浄工程は、該第1室に原水を上向流で通水して該第1室内の樹脂を洗浄し、洗浄排水を該第1室から排出する第1洗浄工程と、該第1洗浄工程後に、該第1室に原水を上向流で通水して該第1室内の樹脂を洗浄し、該第1室の洗浄排水を該連通手段により該第2室に供給し、該第2室に該洗浄排水を上向流で通水して該第2室内の樹脂を洗浄する第2洗浄工程と、を備え、前記第1洗浄工程では前記第2室への通液を停止し、前記第1洗浄工程と前記第2洗浄工程との間で、前記第1室への原水の供給を継続させ、第1室から流出する洗浄排水を第2室に導くように前記連通手段を切り替えることにより第2洗浄工程に移行し、前記第2洗浄工程後、前記第1室へ原水を連続して通水しながら採水工程に復帰するものである。
【0011】
前記再生工程では、前記第1室及び第2室において再生液を下向流で通水することが好ましい。
【0012】
本発明では、前記第2洗浄工程にて、前記第2室の洗浄排水の少なくとも一部を頂部に設けた抜出管から排出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂の再生後の洗浄に原水を使用する。本発明では、洗浄工程の当初(第1洗浄工程)において、第1室に原水を上向流通水し、この洗浄排水を系外に排出する。第1洗浄工程の洗浄排水中の再生薬剤成分が低下してきたならば第2洗浄工程に移行し、第1室からの洗浄排水を第2室に上向流通水して洗浄し、第2室の洗浄排水を系外に排出する。
【0014】
第1室内のイオン交換樹脂に付着した再生薬剤成分は、第1洗浄工程において除去され、系外に排出されるので、第2洗浄工程において第1室内から再生薬剤成分が上室に流入することはない。
【0015】
第1室にカチオン交換樹脂を充填した場合、第1洗浄工程及び第2洗浄工程では、洗浄水(原水)中のカチオンが、第1室内の下部のカチオン交換樹脂に吸着するが、第1室内のカチオン交換樹脂全体のカチオン交換容量が大きいので、第1室内の上部のカチオン交換樹脂にまでは吸着が進行しない。そのため、採水再開後の第1室流出水中のカチオン濃度は十分に低いものとなる。第1室内にアニオン交換樹脂を充填した場合も同様に、採水再開後の第1室流出水中のアニオン濃度は十分に低いものとなる。
【0016】
第2洗浄工程では、第1室流出水が第2室に上向流通水され、第2室内のイオン交換樹脂に付着していた再生薬剤成分が除去される。第1室内にカチオン交換樹脂が充填され、第2室内にアニオン交換樹脂が充填されている場合、第1室流出水中のアニオンが第2室内の下部のアニオン交換樹脂に吸着するが、第2室内のアニオン交換樹脂全体のアニオン交換容量が大きいので、上部のアニオン交換樹脂にまでは吸着が進行しない。そのため、採水再開後の第2室流出水(処理水)中のアニオン濃度は十分に低いものとなる。第1室内にアニオン交換樹脂が充填され、第2室内にカチオン交換樹脂が充填されている場合も同様に、採水再開後の第2室流出水(処理水)中のカチオン濃度は十分に低いものとなる。
【0017】
このように、再生後の洗浄工程で洗浄水として原水を使用した場合でも採水再開直後から処理水の水質が良好となる。
【0018】
また、再生後の洗浄に原水を使用するため、高純度の純水等よりなる洗浄水を貯留する水槽を設ける必要がなく、コストを削減することができる。
【0019】
本発明では、第1及び第2洗浄工程において洗浄水を上向流通水すると、イオン交換樹脂が第1室及び第2室内で浮上して浮上層よりなる固定床を形成する。従って、第1洗浄工程から第2洗浄工程に移行する場合には、第1室への原水の通水を停止せずに継続し、第1室流出水を連通手段によって第2室に流入させて第2洗浄工程を開始するのが好ましい。このように原水の上向流通水を継続したまま第1洗浄工程から第2洗浄工程に移行すると、第1洗浄工程で第1室内に形成されたイオン交換樹脂の固定床(浮上層)が崩落することなく第2洗浄工程でも維持される。
【0020】
さらに、この第2洗浄工程から採水工程に移行するに際しても、原水の上向流通水を停止させずに採水を開始するようにすると、イオン交換樹脂の固定床(浮上層)が崩落せずに、浮上状態を維持する。このように、洗浄工程で形成されたイオン交換樹脂固定床がそのまま採水工程にまで継続すると、吸着帯が乱れず、良好な水質の処理水を採水することができる。
【0021】
なお、上向流通水により室内で浮上した固定床が形成された状態において上向流通水を停止すると、固定床の下部からイオン交換樹脂が順次に崩落しながら沈降する。この際に、イオン交換樹脂が攪拌され、比較的下部に位置していたアニオン吸着量の多いカチオン交換樹脂(又はカチオン吸着量の多いアニオン交換樹脂)の一部がイオン交換樹脂床の上部に移動してしまい、採水再開後の採水工程において処理水室が早期に悪化するおそれがある。
【0022】
上記のように、原水の上向流通水を第1洗浄工程、第2洗浄工程、及び採水工程で停止することなく継続することにより、この間の固定床の崩落がなく、採水工程の処理水質が長期にわたって良好なものとなる。
【0023】
採水工程及び洗浄工程で上向流通水する場合、再生工程では再生薬剤を下向流通水することが好ましい。再生薬剤を下向流通水すると、イオン交換樹脂床の上部ほど十分に再生されるので、上向流通水による採水工程開始時には、イオン交換樹脂床の上部ほどイオン交換容量の多いイオン交換樹脂が存在することになる。採水工程において、このイオン交換樹脂床に原水が上向流通水されると、処理水の水質が良好になるとともに、採水可能水量が多くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施の形態に係るイオン交換装置の採水工程及び再生工程を示す概略的な断面図である。
図2】実施の形態に係るイオン交換装置の洗浄工程を示す概略的な断面図である。
図3】別の実施の形態に係るイオン交換装置を示す概略的な断面図である。
図4】実験例1〜3の説明図である。
図5】実験例1〜3の結果を示すグラフである。
図6】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
図7】比較例2,3の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1及び図2を参照し、実施の形態について説明する。
【0026】
イオン交換装置の塔体1は筒軸心方向を鉛直方向とした円筒部1aと、頂部の鏡板部1bと、底部の鏡板部1cとによって外殻が構成されている。鏡板部1bは上に凸に湾曲し、鏡板部1cは下に凸に湾曲している。
【0027】
この塔体1内が遮水性の仕切板2によって上室20と下室30との2室に区画されている。この実施の形態では、仕切板2は、水を全く通過させない金属又は合成樹脂製のものであり、鏡板部1cと同様に下に凸に湾曲している。仕切板2の周縁部は、円筒部1aの内周面に対し溶接等により水密的に結合されている。
【0028】
上室20内の上部に第1の集配水部材4が配置され、この第1の集配水部材4に上部給排配管3が接続されている。上室20内の下部に第2の集配水部材6が設置され、この集配水部材6に第1の連通配管5が接続されている。下室30内の上部に第3の集配水部材9が設置され、この集配水部材9に第2の連通配管8が接続されている。連通配管5,8は、第3の連通配管11によって接続され、この連通配管11に弁12が設置されている。
【0029】
連通配管5,8の末端部には、再生液の給排手段としての弁7,10が設けられている。下室30の下部には、第4の集配水部材14が設置され、この集配水部材14に下部給排配管13が接続されている。
【0030】
上室20内の大部分にアニオン交換樹脂21が充填され、このアニオン交換樹脂21の上側に粒状の不活性樹脂22が充填されている。第1の集配水部材4はこの不活性樹脂22内に埋設されている。
【0031】
下室30内の大部分にカチオン交換樹脂31が充填され、このカチオン交換樹脂31の上側に粒状の不活性樹脂32が充填されている。第3の集配水部材9はこの不活性樹脂32中に埋設されている。不活性樹脂としては、イオン交換樹脂よりも比重の小さいポリアクリロニトリル系樹脂などが用いられる。不活性樹脂の粒径は、イオン交換樹脂と同程度が好ましい。
【0032】
なお、図示は省略するが、上室20の下部及び下室30の下部にそれぞれガラスビーズなどイオン交換樹脂より比重の大きい粒子を充填し、集配水部材6,14をこの高比重粒子充填層内に埋設してもよい。このようにすれば、集配水部材6,14から流出した水がアニオン交換樹脂21及びカチオン交換樹脂31内に均一に分散供給される。
【0033】
集配水部材4,6,9,14は、水を通すが、イオン交換樹脂の通過を阻止するものであり、従来のイオン交換装置で使用されている集水板や、放射状に延在させた配管に多数のスリットを設けたストレーナーなどを使用することができる。例えば、イオン交換樹脂の大きさが約0.4mm程度の場合、ストレーナーとしてスリットの幅が約0.2mmのものを使用するのが好ましい。集配水部材4,6,9,14は、鏡板部1b、仕切板2、鏡板部1cに沿う形状を有しており、鏡板部1b、仕切板2、鏡板部1cに沿うデッドスペースが小さいものとなっている。
【0034】
[採水工程]
このイオン交換装置を用いた脱イオン水の生産(採水)時のフローを図1(a)に示す。この場合、弁12を開、弁7,10を閉とし、下部給排配管13から原水(被処理水)を供給する。この原水は集配水部材14、カチオン交換樹脂31、不活性樹脂32、集配水部材9、連通配管8,11,5、集配水部材6、アニオン交換樹脂21、不活性樹脂22、集配水部材4、上部給排配管3の順に流れ、処理水(脱イオン水)として取り出される。
【0035】
[再生工程]
カチオン交換樹脂31及びアニオン交換樹脂21の再生時には、図1(b)のように弁12を閉、弁7,10を開とし、上部給排配管3からNaOHなどのアルカリ溶液を上室20に供給すると共に、第3の連通配管8からHCl、HSOなどの酸溶液を下室30に供給する。アルカリ溶液は、集配水部材4、不活性樹脂22、アニオン交換樹脂21、集配水部材6、連通配管5の順に流れ、再生廃水(アルカリ)として流出し、これによりアニオン交換樹脂21が再生される。酸溶液は、集配水部材9、不活性樹脂32、カチオン交換樹脂31、集配水部材14、下部給排配管13の順に流れ、再生廃水(酸)として流出し、これにより、カチオン交換樹脂31が再生される。
【0036】
[第1洗浄工程]
再生終了後は、図2(a)の通り、第1洗浄工程を行う。すなわち、弁7、12を閉、弁10を開とし、下部給排配管13から原水を供給する。原水は、下部給排配管13、集配水部材14、カチオン交換樹脂31、不活性樹脂32、集配水部材9、第3の連通配管8の順に流れ、洗浄排水として流出する。洗浄排水は排水処理設備に送られる。このようにして、下室30のカチオン交換樹脂31及び不活性樹脂32をリンスする第1洗浄工程が実施される。この第1洗浄工程では、上室20への通液は停止している。
【0037】
第1洗浄工程は、第3の連通配管8から排出される下室30の洗浄排水の電気伝導度又は酸濃度が所定値以下となるまで行われる。
【0038】
[第2洗浄工程]
下室30の洗浄排水の酸濃度が所定値以下となると、下部給排配管13からの原水の供給は継続したまま、図2(b)の通り、弁7,10を閉、弁12を開とし、第2洗浄工程を実施する。下部給排配管13から供給された原水は、集配水部材14、カチオン交換樹脂31、不活性樹脂32、集配水部材9、連通配管8,11,5、集配水部材6、アニオン交換樹脂21、不活性樹脂22、集配水部材4、上部給排配管3の順に流れ、洗浄排水として流出する。このようにして、下室30のカチオン交換樹脂31及び不活性樹脂32と、上室20のアニオン交換樹脂21及び不活性樹脂22をリンスする第2洗浄工程が行われる。
【0039】
第2洗浄工程は、上部給排配管3から排出される上室20の洗浄排水の比抵抗値が所定値以上、例えば18MΩ・cm以上となるまで行われる。
【0040】
上室20の洗浄排水の比抵抗値が所定値以上となると、下部給排配管13からの原水の供給は継続したまま、図1(a)の通り、採水工程に復帰する。
【0041】
この実施の形態では、図1(b)に示す再生工程において、アニオン交換樹脂21とカチオン交換樹脂31とが混ざり合うことは全くない。また、再生用のアルカリ溶液が下室30に流入したり、酸溶液が上室20に混入したりすることが全くなく、逆再生が完全に防止される。加えて、アニオン交換樹脂21とカチオン交換樹脂31とを同時に並行して再生することができ、再生時間が著しく短いものとなる。また、再生剤を下向流で通水しており、不活性樹脂の充填により、十分に再生されたイオン交換樹脂が各イオン交換樹脂の上部に固定され、採水時は被処理水の出口側にこのイオン交換樹脂が位置するため、高水質の処理水を得ることができる。また、下向流での再生剤の通水は、樹脂が流動しないので上向流での再生剤の通水と比較して、流速を速くすることができ、再生効率が良い。
【0042】
この実施の形態では、図2(a)、(b)に示す洗浄工程において、洗浄に原水を使用するため、高純度の純水を貯留する再生用水槽を設ける必要がなく、コストを削減することができる。また、第1洗浄工程(図2(a))において、原水を用いて下室30の樹脂を十分に洗浄してから、上室20と下室30とを連通して第2洗浄工程に移行するため、酸を含んだ下室30の洗浄排水が上室20に混入して逆再生が生じることはない。
【0043】
第1洗浄工程及び第2洗浄工程では、洗浄水(原水)中のカチオンが下室30内の下部のカチオン交換樹脂31に吸着するが、下室30内の上部のカチオン交換樹脂31にまでは吸着が進行しない。そのため、採水再開後の下室30流出水中のカチオン濃度は十分に低いものとなる。
【0044】
第2洗浄工程では、下室30流出水が上室20に上向流通水され、下室30流出水中のアニオン(主として、原水に含まれているアニオン)が上室20内の下部のアニオン交換樹脂21に吸着するが、上室20内の上部のアニオン交換樹脂21にまでは吸着は進行しない。そのため、採水再開後の上室20流出水(処理水)中のアニオン濃度は十分に低いものとなる。
【0045】
洗浄工程において上向流での原水の通水を開始すると、イオン交換樹脂が浮上して固定床を形成する。採水工程前に原水の通水を停止すると、イオン交換樹脂が流動しながら沈降して吸着帯が乱れ、その後の上向流での採水工程では、処理水の水質が低下するおそれがある。本実施形態によれば、洗浄工程から採水工程に復帰するまで、上向流での原水の通水を継続するため、塔内で浮上して固定床を形成したイオン交換樹脂がその状態を維持し、処理水の水質低下を防止できる。
【0046】
このイオン交換装置は、1つの塔体1内を1枚の仕切板2によって上下2室に区画したものであり、塔体の高さが低く、設置スペースも小さい。また、上室20と下室30とを連通する配管5,11,8が短くてすむ。
【0047】
このイオン交換装置では集配水部材4,6,9,14が鏡板部1b、仕切板2、鏡板部1cに沿って設けられており、水の局部的な滞留が防止される。
【0048】
このイオン交換装置では、上室20及び下室30の上部に不活性樹脂22,32を充填しており、アニオン交換樹脂21及びカチオン交換樹脂31の流動が防止され、採水時及び再生時に液が均等にアニオン交換樹脂21及びカチオン交換樹脂31と接触するようになっており、高水質の脱イオン水が得られると共に、十分に再生が行われるようになる。
【0049】
上記実施形態では、上室20にアニオン交換樹脂を収容し、下室30にカチオン交換樹脂を収容しているが、逆としてもよい。上記実施形態では、上室20と下室30とが配管5,11,8を介して連通されているが、塔体1の外部を引き回されている限り、これに限定されない。また、この実施の形態では、3個の弁7,10,12を用いているが、2個の三方弁を用いて流路切り替えを行うようにしてもよい。
【0050】
本発明では、図3に示すように、塔体1の塔頂部に、洗浄排水の抜出手段としての抜出管42を接続してもよい。抜出管42には弁41が設けられている。抜出管42の上室20への開口部には、メッシュ、ストレーナーなどの粒子流出防止部材(図示略)が設置されている。
【0051】
図3のイオン交換装置の採水工程、再生工程及び第1洗浄工程では、弁41は閉とされ、液の流れは図1(a),(b)及び図2(a)と同一である。第2洗浄工程では弁41を開とし、上室20の洗浄排水の一部を抜出管42から排出する。抜出管42からも洗浄排水を排出するので、塔頂部での再生液排出(リンス)が促進される。
【0052】
本発明では、再生剤の希釈水に原水を用いてもよい。カチオン交換樹脂31を数%濃度のHCl溶液により再生する場合、再生工程では、塔内雰囲気は%オーダーのHCl、つまりはHイオンが存在している状態である。希釈水としての原水に含まれるカチオン(Na、Caなど)はmg/Lレベルであるため、再生工程ではカチオン交換樹脂に希釈用原水中のカチオンは吸着され難い。希釈水に原水を用いることで、再生処理のコストを削減できる。
【0053】
本発明では、上記のイオン交換装置を複数塔たとえば2塔並列に設置し、一方の装置で採水を行い、他方の装置を予備としてもよい。一方の装置が再生・洗浄工程へ移行するに伴い、他方(予備)の装置が採水工程を開始することで、採水を継続することができる。再生・洗浄工程が終了したイオン交換装置は、他方のイオン交換装置が再生工程に移行するまで待機する。
【0054】
上記実施形態では、イオン交換装置は、塔体1内を仕切板2によって上室20と下室30との2室に区画し、上室20及び下室30の一方にカチオン交換樹脂を収容し、他方にアニオン交換樹脂を収容する構成(2床1塔)としたが、カチオン交換樹脂を収容する塔、アニオン交換樹脂を収容する塔、及びこれら2つの塔を連通する連通配管を有する構成(2床2塔、2床3塔等)としてもよい。
【実施例】
【0055】
以下に、実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
【0056】
<実験例1>
図1に示すイオン交換装置を用いた。諸元は次の通りである。
【0057】
塔体直径 : 500mm
塔体の高さ : 5000mm
上室容積 : 200L
下室容積 : 200L
アニオン交換樹脂 :(栗田工業株式会社EX−AG)
カチオン交換樹脂 :(栗田工業株式会社EX−CG)
アニオン交換樹脂の充填量 : 100L
カチオン交換樹脂の充填量 : 100L
不活性樹脂(ランクセス株式会社IN−42)22の充填量 : 80L
不活性樹脂(ランクセス株式会社IN−42)32の充填量 : 80L
【0058】
原水として、NaClを超純水に濃度1ppmとなるように溶解したものを用い、次の採水工程、再生工程、洗浄工程及び試験採水を行った。
【0059】
[採水工程]
このイオン交換装置に図1(a)の通り、上記原水をSV=50h−1にて120h通水した。
【0060】
[再生工程]
次いで、再生剤として下記の酸溶液及びアルカリ溶液を用い、図1(b)の通り通水して、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂を同時に再生した。
【0061】
再生条件
HCl :4% SV=5h−1、30分
NaOH :4% SV=5h−1、30分
【0062】
[洗浄工程]
次いで、図4(a)の通り、弁12を閉、弁7、10を開とし、上記原水を、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂のそれぞれにSV=100h−1にて5min間、下向流で通水して洗浄した。
【0063】
[試験採水]
この洗浄後、図4(b)のように、弁7、10を閉、弁12を開とし、下部給排配管13から超純水を供給し、上部給排配管3から取り出される流出水の比抵抗値の経時変化を測定した。結果を図5に示す。
【0064】
<実験例2>
実験例1において、洗浄工程で使用される原水のNaCl濃度を1.5ppmとしたこと以外は実験例1と同一条件にて採水、再生及び洗浄を行い、上部給排配管3の流出水の比抵抗値の経時変化を測定した。結果を図5に示す。
【0065】
<実験例3>
実験例1において、洗浄工程で使用される原水のNaCl濃度を2ppmとしたこと以外は実験例1と同一条件にて採水、再生及び洗浄を行い、上部給排配管3の流出水の比抵抗値の経時変化を測定した。結果を図5に示す。
【0066】
図5の通り、洗浄用原水のNaCl濃度が1ppmの実験例1では、上部給排配管3の流出水の比抵抗値が速やかに18MΩ・cm以上となった。これに対し、洗浄用原水のNaCl濃度が1.5ppm及び2ppmの実験例2,3では、比抵抗値の立ち上がりが遅延し、比抵抗値は18MΩ・cm以上に達しなかった。イオン交換装置の原水のイオン負荷として、1.5ppm以上のNaCl濃度となることは十分考えられ、再生処理後の洗浄処理において、原水を下向流で通水することは好ましくないことが確認された。
【0067】
この実験例1〜3より、洗浄工程はダウンフローとせず、アップフローとする必要があることが認められた。但し、アップフローで洗浄を実施するということは、一度塔内のイオン交換樹脂を浮上させることになる。一度イオン交換樹脂を浮上させて固定床を形成させた場合、その後停止などを行うと、イオン交換樹脂が流動しながら沈降するため吸着帯が乱れ、再度アップフローによる採水に移行しても水質低下は避けられない。従って、アップフローで洗浄を行ったときには、アップフロー通水を停止することなく、採水工程に移行する必要がある。
【0068】
また、実験例1〜3では、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂ともに、洗浄工程前の押出し工程までは、塔内に再生薬品が抜け切れていないため、洗浄初期から洗浄水をカチオン交換樹脂→アニオン交換樹脂に直列に通水して洗浄することは不適切であった。
【0069】
<実施例1>
実験例1〜3と同一のイオン交換装置に原水(NaClを超純水にNaCl濃度2.5ppmとなるように溶解したもの。導電率0.55mS/m)を実験例1〜3と同様にして通水して採水工程を行った。
次いで、実験例1〜3と同様にして再生を行った。
その後、図2(a),(b)の手順に従い、該原水により第1及び第2洗浄工程を行った。第1及び第2洗浄工程の通水SVは100h−1とした。
【0070】
第3の連通配管8から排出される下室30の洗浄排水がpH4.5となった後、原水の供給は継続したまま、弁7,10を閉、弁12を開とし、第2洗浄工程を行った。なお、この実施例1では、図7(b)のように、上部給排配管3から排出される上室20流出水を原水側へ戻し、循環させるようにした。この循環通水を開始後の上部給排配管3流出水の比抵抗値の経時変化を測定した。結果を図6に示す。
【0071】
<比較例1>
実施例1と同一条件にて採水及び再生を行った後、図7(a)のように弁12を閉とし、比抵抗18MΩ・cm以上の超純水を、アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂のそれぞれに通水流量10m/hにて5分、下向流で通水して洗浄処理を行った。次いで、図7(b)のように、弁7,10を閉、弁12を開とし、原水を下部給排配管13から上向流で通水し、上部給排配管3から排出される上室20の処理水を模擬原水側へ戻し、循環させるようにした。この循環通水を開始後、上部給排配管3から排出される処理水の比抵抗値の経時変化を測定した。結果を図6に示す。
【0072】
<比較例2>
比較例1において、図7(a)の洗浄処理に超純水の代りに原水(NaCl濃度2.5ppm)を用いたこと以外は比較例1と同一条件にて各処理を行った。循環通水の開始後、上部給排配管3から排出される処理水の比抵抗値の経時変化を測定した。結果を図6に示す。
【0073】
図6の通り、再生後の洗浄処理を、原水を下向流で通水して行った比較例2の場合、比抵抗値の立ち上がりが遅延し、比抵抗値は18MΩ・cmに達しなかった。再生後の洗浄処理を、模擬原水を上向流で下室に通水し、続いて下室から上室へ上向流で連続して通水して行った実施例1と、上室及び下室のそれぞれに超純水を下向流で通水して行った比較例1とでは、比抵抗値の立ち上がりや処理水の水質が同程度の良好なものとなる。
【符号の説明】
【0074】
1 塔体
1b,1c 鏡板
2 仕切板
3 上部給排配管
4,6,9,14 集配水部材
5,8,11 連通配管
13 下部給排配管
20 上室
30 下室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7