特許第6015749号(P6015749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015749光導波路素子及び光導波路素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015749
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】光導波路素子及び光導波路素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   G02F1/035
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-510599(P2014-510599)
(86)(22)【出願日】2014年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2014053943
(87)【国際公開番号】WO2014129508
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-32058(P2013-32058)
(32)【優先日】2013年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】市川 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝利
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/004683(WO,A1)
【文献】 米国特許第06156255(US,A)
【文献】 特開平11−002848(JP,A)
【文献】 特開2005−292287(JP,A)
【文献】 特開2010−078914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125,1/21−7/00
G02B 6/12−6/14
C30B 29/30
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の抗電界を下げる不純物をドープすることによって、第1方向に延びる光導波路を前記基板に形成する光導波路形成工程と、
前記光導波路を含む第1リッジ部及び前記第1リッジ部と交差する第2リッジ部を形成するリッジ形成工程と、
前記基板のうち、前記第2リッジ部によって区分される一方の領域に、前記基板のトレンチ部における電界が前記基板の抗電界を越え、且つ、前記第2リッジ部における電界が前記基板の抗電界を越えないように電圧を印加することにより、前記領域の分極方向を反転する分極処理工程と、
を備え
前記トレンチ部は、前記一方の領域のうち、前記第1リッジ部及び前記第2リッジ部よりも前記基板の厚さが小さい部分である、光導波路素子の製造方法。
【請求項2】
前記分極処理工程において、前記第1リッジ部における電界が前記第1リッジ部の抗電界を越えるように前記電圧を印加する、請求項1に記載の光導波路素子の製造方法。
【請求項3】
前記リッジ形成工程において、前記第2リッジ部の高さが前記基板の平坦度より大きくなるように、前記第2リッジ部を形成する、請求項1又は請求項2に記載の光導波路素子の製造方法。
【請求項4】
前記分極処理工程において、液体電極を用いて前記領域に電圧を印加する、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の光導波路素子の製造方法。
【請求項5】
前記リッジ形成工程において、前記第1リッジ部と交差する第3リッジ部をさらに形成し、
前記トレンチ部は、第2リッジ部及び第3リッジ部に挟まれた部分であり、
前記分極処理工程において、前記基板のうち、前記第2リッジ部と前記第3リッジ部とに挟まれる領域に、前記トレンチ部における電界が前記基板の抗電界を越え、前記第1リッジ部における電界が前記第1リッジ部の抗電界を越え、且つ、前記第2リッジ部及び前記第3リッジ部における電界が前記基板の抗電界を越えないように前記電圧を印加することにより、前記領域の分極方向を反転する、請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の光導波路素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及び光導波路素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学効果を奏する基板と、基板に設けられた光導波路と、を備える光導波路素子がある。例えば、特許文献1及び非特許文献1に記載の光変調素子では、光導波路が設けられた基板の一部を分極反転させることにより、光帯域の拡大を図っている。また、特許文献2に記載の集積型光変調素子では、光導波路が設けられた基板の一部を分極反転させることにより、チャープ及びスキューのない高精度の光信号の発生を図っている。一方、動作電圧の低減及び帯域の拡大を図るために光導波路を含む部分をリッジ構造とする光変調素子が知られており、広く使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−284129号公報
【特許文献2】特開2008−116865号公報
【特許文献3】特開2005−275121号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Janner, Davide, Michele Belmonte, and Valerio Pruneri. ”Tailoring the Electrooptic Response and Improving the Performance of Integrated LiNbO3 Modulators by Domain Engineering.” Journal of Lightwave Technology 25.9 (2007): 2402−2409.
【非特許文献2】Schreiber, G., et al. ”Efficient cascaded difference frequency conversion in periodically poled Ti: LiNbO3 waveguides using pulsed and cw pumping.” Applied Physics B 73.5−6 (2001): 501−504.
【非特許文献3】Janner, D., et al. ”Grinding free electric−field poling of Ti indiffused z−cut LiNbO3 wafer with submicron resolution.” Applied Physics A 91.2 (2008): 319−321.
【非特許文献4】宮澤信太郎, and 栗村直. 分極反転デバイスの基礎と応用, オプトロニクス社. ISBN4−902312−11−5, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の両課題である動作電圧の低減及び帯域の拡大を解決するためには、分極反転構造及びリッジ構造をともに備える光変調素子が考えられる。このような光変調素子を作製するために、例えば、光導波路を有するリッジ部を備える基板において、リッジ部及びリッジ部以外の平坦部(トレンチ部の底面)に跨がる領域の強誘電分極方向を反転する必要がある。リッジ状の部分のみを反転した構成でも、特許文献1の効能を実現することはできるが、平坦部(トレンチ底部)も含めて分極反転し、分極壁をリッジ状の光導波路部から遠ざけた位置に形成することが望ましい。この理由として、分極反転工程においてリッジの幅に相当する精細な形状制御が必要であること、反転面積が小さいので、反転面積をモニタ制御するための電流量のモニタに対してより高感度及び高精度が要求されること、強誘電体結晶の分極壁では応力及びトラップ電荷の密度が大きいので、屈折率が不均一となりやすく、光の散乱による伝搬光の損失及び不要偏波成分の発生が生じやすいこと、温度変化に光導波路基板の歪み及び捻れが大きくなり、干渉計型の光デバイスでは安定性の劣化を招くこと、などがある。この場合、リッジ部と平坦部とでは基板の厚さが異なるので、分極反転工程において基板に高電圧を印加した際に、リッジ部における電界の強度は、平坦部における電界の強度よりも小さくなる。このため、分極反転のための電圧の調整が複雑化し、所望の領域を超えて意図しない領域の分極方向が反転されるおそれがある。その結果、光変調素子における光制御の帯域拡大幅、並びに、光信号の品質及び精度が低下するおそれがある。
【0006】
なお、光導波路がリッジ構造でなく平坦な構造の場合、分極反転の制御を正確に行う方法が、非特許文献2及び非特許文献3に示されている。Tiなどの不純物拡散工程の際に形成させる薄い分極反転層を研磨などで除去する方法(非特許文献2)、または、分極反転層が形成されない不純物拡散工程の条件を用いる(非特許文献3)ことが有効であり、マイクロメートル以下の精度で分極反転壁の位置を制御した例が報告されている。Tiなどの不純物拡散によって光導波路を形成した基板の分極反転域の精密な制御において、薄い分極反転層の存在が本質的な阻害要因であるのか、薄い分極反転層の存在ではなく微小な分極反転域の存在が支配的な阻害要因なのか、不純物を拡散した部分の抗電界の低下及び微小な分極反転域の存在が支配的な阻害要因なのか、いまだ科学的な結論は出ていないが、非特許文献2及び非特許文献3の手法が制御性改善に一定の効果があることは事実である。
【0007】
しかしながら、リッジ構造の光導波路を形成した場合、上記に示した方法を用いても、今なお、分極反転域の制御を正確に行うことが難しい。特許文献3には、光導波路が形成されている面の反対側にリッジ部の高さよりも深い溝を形成して、分極反転領域の制御を行う方法が開示されている。リッジ型導波路のような表面の比較的小さな凹凸構造及び基板の厚さの不均一性に関わりなく、裏面に形成した深い溝の形状に対応した分極反転域を得るという、強引な方法である。特許文献1の構成のデバイス及び特許文献2の構成のデバイスを作成する際に極めて有効な方法であるが、非特許文献1と同様に、基板の加工プロセスが必要である。
【0008】
本発明は、基板の分極反転処理の精度を向上可能な構造を有する光導波路素子及び光導波路素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る光導波路素子の製造方法は、基板の抗電界を下げる不純物をドープすることによって、第1方向に延びる光導波路を基板に形成する光導波路形成工程と、光導波路を含む第1リッジ部及び第1リッジ部と交差する第2リッジ部を形成するリッジ形成工程と、基板のうち、第2リッジ部によって区分される一方の領域に電圧を印加することにより、一方の領域の分極方向を反転する分極処理工程と、を備える。
【0010】
この光導波路素子の製造方法によれば、基板の抗電界を下げる不純物をドープして光導波路を形成し、光導波路を含む第1リッジ部及び第1リッジ部に交差する第2リッジ部を形成している。そして、第2リッジ部によって区分される基板の一方の領域に分極反転処理のために高電圧を印加した場合、一方の領域のうちの第1リッジ部以外の部分に生じる電界が、第2リッジ部に生じる電界よりも大きくなる。このため、基板の抗電界が、第2リッジ部に生じる電界よりも大きく、一方の領域のうちの第1リッジ部以外の部分に生じる電界よりも小さくなるように電圧を調整することによって、分極方向が反転される領域を第2リッジ部により制限することができ、第2リッジ部を超えた部分の分極反転を防ぐことが可能となる。また、第1リッジ部には、基板の抗電界を下げる不純物が含まれるので、一方の領域の第1リッジ部の分極方向を反転することが可能となる。その結果、基板の分極反転処理の精度を向上することが可能となる。
【0011】
本発明の他の側面に係る光導波路素子の製造方法では、リッジ形成工程において、第2リッジ部の高さが基板の平坦度より大きくなるように、第2リッジ部を形成してもよい。基板の平坦度は、基板の厚さの不均一性のことであり、裏面を基準とした基板の厚さの最大値と最小値との差である。この平坦度が第2リッジ部の高さよりも大きい場合、第2リッジ部の高さよりも大きい高さを有する部分が一方の領域に含まれる可能性がある。この部分の分極方向を反転させるために電圧を大きくすると、第2リッジ部における電界が大きくなって、第2リッジ部を超えて分極方向の反転が行われるおそれがある。このため、第2リッジ部の高さが基板の平坦度より大きくなるようにすることで、第2リッジ部による分極反転の制御の確実性を向上することが可能となる。その結果、分極反転処理の精度をさらに向上することが可能となる。
【0012】
本発明の他の側面に係る光導波路素子の製造方法では、分極処理工程において、液体電極を用いて領域に電圧を印加してもよい。この場合、基板と液体電極との接触を確実に行うことができ、基板に印加される電圧の均一性を向上できる。その結果、分極反転処理の精度をさらに向上することが可能となる。
【0013】
本発明の他の側面に係る光導波路素子の製造方法では、リッジ形成工程において、第1リッジ部と交差する第3リッジ部をさらに形成し、分極処理工程において、基板のうち、第2リッジ部と第3リッジ部とに挟まれる領域に電圧を印加することにより、領域の分極方向を反転してもよい。これによれば、第2リッジ部と第3リッジ部とに挟まれる領域に電圧を印加した場合、挟まれる領域のうちの第1リッジ部以外の部分に生じる電界が、第2リッジ部及び第3リッジ部に生じる電界よりも大きくなる。このため、基板の抗電界が、第2リッジ部及び第3リッジ部に生じる電界よりも大きく、挟まれる領域のうちの第1リッジ部以外の部分に生じる電界よりも小さくなるように電圧を調整することによって、分極方向が反転される領域を第2リッジ部及び第3リッジ部により制限することができ、第2リッジ部及び第3リッジ部を超えた部分の分極反転を防ぐことが可能となる。また、第1リッジ部には、基板の抗電界を下げる不純物が含まれるので、一方の領域の第1リッジ部の分極方向を反転することが可能となる。その結果、基板の分極反転処理の精度を向上することが可能となる。
【0014】
本発明の一側面に係る光導波路素子は、第1方向に延びる第1リッジ部と、第1リッジ部と交差する第2リッジ部と、を有する基板を備える。第1リッジ部は、第1方向に延びる光導波路を有している。光導波路は、基板の抗電界を下げる不純物を含んでいる。基板は、第1方向に沿って順に配置された第1領域及び第2領域を有している。第1領域の分極方向は、第2領域の分極方向と反対である。第2リッジ部は、第1領域と第2領域との境界上に設けられている。
【0015】
この光導波路素子によれば、基板は、第1方向に延びる第1リッジ部と、第1リッジ部に交差する第2リッジ部と、を有するとともに、第1方向に沿って順に配置された第1領域及び第2領域を有している。この第2領域の分極方向を反転するために第2領域に電圧を印加した場合、第2領域のうち第1リッジ部以外の部分に生じる電界が、第2リッジ部に生じる電界よりも大きくなる。このため、基板の抗電界が第2リッジ部に生じる電界よりも大きく、第1リッジ部以外の部分に生じる電界よりも小さくなるように電圧を調整することによって、第2領域の分極反転を第2リッジ部により制限することができ、第2リッジ部を超えた部分の分極反転を防ぐことが可能となる。また、第1リッジ部には、基板の抗電界を下げる不純物を含む光導波路を有しているので、第2領域の第1リッジ部の分極方向を反転することが可能となる。
【0016】
本発明の他の側面に係る光導波路素子では、第2リッジ部の高さは、前記基板の平坦度より大きくてもよい。基板の平坦度が第2リッジ部の高さよりも大きい場合、第2リッジ部の高さよりも大きい高さを有する部分が第2領域に含まれる可能性がある。この部分の分極方向を反転させるために電圧を大きくすると、第2リッジ部における電界が大きくなって、第2リッジ部を超えて分極方向の反転が行われるおそれがある。このため、第2リッジ部の高さが基板の平坦度より大きくなるようにすることで、第2リッジ部による分極反転の制御の確実性を向上することが可能となる。その結果、分極反転処理の精度をさらに向上することが可能となる。
【0017】
デバイスの省電力化が重要視される現在、駆動電圧の低減に効果の高いリッジ型導波路が特に有効であり、本技術の産業的価値は高い。また、ニオブ酸リチウムを基板とする場合には、高さ5−6μm程度のリッジが適しており、基板の厚さの不均一性を5μm以下、好ましくは2μm以下に抑えることが望ましい。SAWデバイス用単結晶の国際規格よりも厳しい厚さの均一性(非特許文献4のTable 2)が求められるが、不均一性が2μm以下の基板は入手可能であるので、本技術は実現性が高い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基板の分極反転処理の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態に係る光導波路素子の構成を概略的に示す斜視図である。
図2図1の光導波路素子の製造方法の一例を示す工程図である。
図3図2のリッジ形成工程における基板の構成を概略的に示す平面図である。
図4図2の分極処理工程で用いられる分極反転装置の構成を概略的に示す図である。
図5図4の分極反転装置における基板のマスキング方法の一例を概略的に示す図である。
図6】比較例の基板におけるトレンチ部周辺を概略的に示す拡大図である。
図7図4の分極反転装置における基板のマスキング方法の第1変形例を概略的に示す図である。
図8図4の分極反転装置における基板のマスキング方法の第2変形例を概略的に示す図である。
図9図4の分極反転装置における基板のマスキング方法の第3変形例を概略的に示す図である。
図10図4の分極反転装置における基板のマスキング方法の第4変形例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は、一実施形態に係る光導波路素子の構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、光導波路素子1は、例えば光変調素子であって、基板10と、信号電極20と、を備えている。
【0022】
基板10は、一方向(以下、「方向A(第1方向)」という。)に沿って延びる板状部材であって、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO、以下「LN」という。)などの電気光学効果を奏する誘電体材料(強誘電体)から構成されている。基板10の方向Aに沿った長さは例えば10〜150mm程度、基板10の方向Aと直交する方向(以下、「方向B」という。)に沿った長さは例えば0.1〜3mm程度、基板10の厚さは例えば0.2〜1mm程度である。基板10は、方向Aにおける両端面である端面10a及び端面10bと、方向Bにおける両端面である側端面10c及び側端面10dと、を有している。
【0023】
基板10は、第1領域10eと、第2領域10fと、第3領域10gと、を有している。第1領域10e、第2領域10f及び第3領域10gは、方向Aに沿って順に配置されている。第1領域10eでは、誘電体材料の結晶軸方向Zは、例えば基板10の主面10mの法線軸NV方向と反対方向に向いている。第2領域10fでは、誘電体材料の結晶軸方向Zは、例えば基板10の主面10mの法線軸NV方向に向いている。第3領域10gでは、誘電体材料の結晶軸方向Zは、例えば基板10の主面10mの法線軸NV方向と反対方向に向いている。ここで、誘電体の分極方向は、結晶軸方向Zと同じ方向に向いている。すなわち、第1領域10eの分極方向は、第2領域10fの分極方向と反対であり、第1領域10eの分極方向は、第3領域10gの分極方向と同じである。
【0024】
基板10は、リッジ部11(第1リッジ部)と、リッジ部12(第2リッジ部)と、リッジ部13(第3リッジ部)と、トレンチ部14と、を有している。リッジ部11は、主面10mに設けられ、端面10aから端面10bまで方向Aに沿って延びている。リッジ部11の方向Aと直交する断面形状は、台形状を呈している。リッジ部11の頂部の幅は、例えば9μm程度である。リッジ部11の底部の幅は、例えば12μm程度である。リッジ部11の高さは、例えば6μm程度である。リッジ部11における基板10の厚さTr1は、例えば1mm程度である。リッジ部11は、光導波路11aを含んでいる。光導波路11aは、直線型の光導波路であって、端面10aから端面10bまで方向Aに沿って延びている。光導波路11aは、基板10にチタン等の不純物がドープされて成る。
【0025】
リッジ部12は、第1領域10eと第2領域10fとの境界面であるドメインウォールD1上に設けられ、側端面10cから側端面10dまで方向Bに沿って延びている。ドメインウォールD1は、リッジ部12の両側面のうち第2領域10f側の側面12aに位置し、側面12aから基板10の裏面10nまで延びている。リッジ部12の方向Bと直交する断面形状は、台形状を呈している。リッジ部12の頂部の幅は、例えば9〜20μm程度である。リッジ部12の底部の幅は、例えばリッジ形状が台形であって底角が75度であった場合には12〜23μm程度である。リッジ部12の高さは、例えば6μm程度である。リッジ部12における基板10の厚さTr2は、例えば1mm程度である。
【0026】
リッジ部13は、第2領域10fと第3領域10gとの境界面であるドメインウォールD2上に設けられ、側端面10cから側端面10dまで方向Bに沿って延びている。ドメインウォールD2は、リッジ部13の両側面のうち第2領域10f側の側面13aに位置し、側面13aから基板10の裏面10nまで延びている。リッジ部13の方向Bと直交する断面形状は、台形状を呈している。リッジ部13の頂部の幅は、例えば9〜20μm程度である。リッジ部13の底部の幅は、例えばリッジ形状が台形であって底角が75度であった場合には12〜23μm程度である。リッジ部13の高さは、例えば6μm程度である。リッジ部13における基板10の厚さTr3は、例えば1mm程度である。
【0027】
なお、加工前のウェハは、その厚さが不均一である場合がある。この場合、リッジ部12及びリッジ部13の高さは、ウェハの平坦度(TTV;Total Thickness Variation)よりも大きくしてもよい。ここで、ウェハの平坦度とは、ウェハ裏面を基準面として厚さ方向に測定した高さのウェハ全面における最大値と最小値との差である。
【0028】
トレンチ部14は、リッジ部12及びリッジ部13に挟まれた部分であって、リッジ部11によって側端面10c側と側端面10d側とに分断されている。トレンチ部14における基板10の厚さTtは、例えばリッジ部12における基板10の厚さTr2からリッジ部12の高さを減じた厚さとすればよい。
【0029】
信号電極20は、外部から供給される電気信号である変調信号を伝送し、変調信号に応じた電界を光導波路11aに印加するための長尺の部材である。信号電極20は、例えば金(Au)から構成されている。信号電極20は、第1部分20aと、第2部分20bと、第3部分20cと、第4部分20dと、を有している。
【0030】
第1部分20aは、基板10の第1領域10eにおける主面10m上に設けられている。第1部分20aは、基板10の側端面10cからリッジ部11まで方向Bに延びている。第1部分20aの一端は、変調信号を供給するための外部回路に電気的に接続される。第2部分20bは、第1領域10eにおけるリッジ部11上に設けられ、第1部分20aの他端からドメインウォールD1まで方向Aに延びている。第2部分20bの一端は第1部分20aの他端に接続されている。
【0031】
第3部分20cは、第2領域10fにおけるリッジ部11上に設けられ、ドメインウォールD1からドメインウォールD2まで方向Aに延びている。第3部分20cの一端は第2部分20bの他端に接続されている。第2部分20b及び第3部分20cは、変調信号により形成される電界を光導波路11aに印加する作用部として機能する。第4部分20dは、リッジ部13上に設けられ、第3部分20cの他端から側端面10cまで方向Bと反対方向に延びている。第4部分20dの一端は第3部分20cの他端に接続され、第4部分20dの他端は終端回路に電気的に接続されている。
【0032】
なお、光導波路素子1は、バッファ層(不図示)をさらに備えてもよい。バッファ層は、基板10上に設けられ、リッジ部11においてはリッジ部11と信号電極20との間に位置している。バッファ層は、光導波路11aを伝搬する光の信号電極20による吸収を低減するために設けられる。バッファ層は、例えばシリコン酸化物(例えばSiO)等によって構成されている。
【0033】
以上のように構成された光導波路素子1では、端面10aから光導波路11aに入力光が入力される。入力光は、光導波路11aを伝搬する。このとき、信号電極20により伝送される変調信号によって形成される電界が光導波路11aに印加されることによって、光導波路11aの屈折率が変化する。光導波路11aを伝搬する光は、光導波路11aの屈折率変化に応じて変調される。変調された光は、変調光として端面10bから出力される。
【0034】
ここで、第1領域10eにおける誘電体材料の結晶軸方向Zは、基板10の主面10mの法線軸NV方向と反対方向に向いている。第2領域10fにおける誘電体材料の結晶軸方向Zは、基板10の主面10mの法線軸NV方向に向いている。このため、第1領域10eにおいては、低周波の誘導位相量は、第2部分20bの長さに比例して増加し、高周波の誘導位相量は、第2部分20bの長さが大きくなるに従い緩やかに増加する。一方、第2領域10fにおいては、低周波及び高周波の誘導位相量の変化量はそれぞれ、第1領域10eにおける低周波及び高周波の誘導位相量の変化量と同じであるが、低周波及び高周波の誘導位相量の変化の方向は、第1領域10eにおける低周波及び高周波の誘導位相量の変化の方向と反対である。すなわち、第2領域10fにおいては、低周波の誘導位相量は、第2部分20bの長さに比例して減少し、高周波の誘導位相量は、第2部分20bの長さが大きくなるに従い緩やかに減少する。このため、低周波の誘導位相量と高周波の誘導位相量との差が低減され、光周波数応答特性が平坦化される。その結果、広帯域化が可能となる。
【0035】
次に、図1及び図2を参照して、光導波路素子1の製造方法の一例について説明する。図2は、光導波路素子1の製造方法の一例を示す工程図である。図2に示されるように、光導波路素子1の製造方法は、光導波路形成工程S01と、リッジ形成工程S02と、分極処理工程S03と、バッファ層形成工程S04と、熱処理工程S05と、電極形成工程S06と、を備えている。
【0036】
光導波路形成工程S01では、基板10(ウェハ)の主面10mに光導波路11aを形成する。例えば、基板10の主面10m上において、光導波路11aが形成される部分に不純物をドープすることによって、光導波路11aを形成する。例えば、光導波路11aが形成される部分に不純物を蒸着し、蒸着した不純物を熱拡散することによって、不純物をドープする。ドープされる不純物は、基板10に含まれる誘電体材料の抗電界Ec(分極反転電界ともいう。)を下げる不純物であればよく、例えばチタン(Ti)、銅(Cu)、クロム(Cr)等である。抗電界Ecとは、誘電体の自発分極の分極方向が反転する電界である。例えば、光導波路用として市販されているLN結晶の抗電界Ecは、約21kV/mmであるが、チタンをドープしたLN結晶の抗電界Ectは、LN結晶の抗電界Ecよりも小さいため反転しやすい。
【0037】
リッジ形成工程S02では、光導波路形成工程S01において光導波路11aが形成された基板10の主面10mに、リッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13を形成する。具体的に説明すると、リッジ形成工程S02では、まず、例えばフォトリソグラフィにより、リッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13に対応する主面10m上の領域を覆うようにして、マスクMを形成する。
【0038】
図3は、リッジ形成工程S02において、マスクMが形成された基板10の構成を概略的に示す平面図である。図3に示されるように、マスクMは、基板10の主面10m上において、リッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13が形成される部分を覆うように形成される。そして、マスクMをエッチングマスクとして用いて、ドライエッチング、ウェットエッチング等により基板10の主面10mを化学的に除去することによって、リッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13を形成する。なお、サンドブラスト及び切削加工等により基板10の主面10mを機械的に除去することにより、リッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13を形成してもよい。リッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13の形成後、マスクMを除去する。
【0039】
分極処理工程S03では、分極反転装置3を用いて、基板10の所望の領域の分極方向を反転する。図4に示されるように、分極反転装置3は、挟持部材31と、封止部材32と、液体電極33と、液体電極34と、高電圧電源35と、ポラライザ36と、アナライザ37と、を備えている。挟持部材31は、基板50を挟持するための一対の板状部材であって、例えばアクリル板等の透明な樹脂板である。封止部材32は、例えば環状の樹脂材(Oリング)である。液体電極33及び液体電極34は、導電性の液体であって、例えば塩化リチウム(LiCl)水溶液である。ポラライザ36及びアナライザ37は、クロスニコル像観察用の偏光板である。
【0040】
高電圧電源35は、高電圧を供給するための装置である。高電圧電源35は、制御装置41と、信号発生器42と、高電圧アンプ43と、電流モニタ44と、を備えている。制御装置41は、例えばPC(Personal Computer)であって、電流モニタ44によってモニタされた電流に応じて信号発生器42に制御信号を送信する。信号発生器42は、例えばパルスジェネレータであって、制御装置41から出力された制御信号に応じて、数Vの電圧を有するパルス信号を出力する。高電圧アンプ43は、電圧を増幅する回路であって、信号発生器42から出力されたパルス信号の電圧を増幅する。高電圧アンプ43は、増幅したパルス信号を液体電極34に出力し、液体電極33及び液体電極34間に高電圧Vを印加する。電流モニタ44は、基板10に流れた電流をモニタする。
【0041】
以上のように構成された分極反転装置3では、一対の挟持部材31によって、封止部材32を介して基板50が挟持されるとともに、基板50の一方面と挟持部材31との間に液体電極33が充填され、基板50の他方面と挟持部材31との間に液体電極34が充填される。そして、高電圧電源35は、制御装置41からの制御信号に基づいて、信号発生器42により信号を発生し、高電圧アンプ43を介して、液体電極33及び液体電極34の間に高電圧Vを印加する。そして、制御装置41は、電流モニタ44によってモニタされた電流を時間積分した電荷量が、反転させる領域の面積に応じて定められる値に達したことを検出すると、信号発生器42に信号の出力を停止させる。なお、挟持部材31に挟持された基板50は、所望の領域に対して抗電界Ecを超える電界を印加するためにマスキングされた基板10である。
【0042】
図5は、分極反転装置3における基板10のマスキング方法の一例を概略的に示す図である。図5に示されるように、基板50は、基板10と、基板10の主面10mに設けられたマスク層51と、を備えている。マスク層51は、絶縁性を有し、例えば絶縁性樹脂から構成されている。マスク層51は、基板10の端面10aからリッジ部12の頂面までの部分と、端面10bからリッジ部13の頂面までの部分と、を覆うように主面10mに設けられている。マスク層51は、主面10mのうちリッジ部12の頂面とリッジ部13の頂面とに挟まれた部分の上に開口51aを有している。マスク層51は、例えばスピンコートまたはフォトリソグラフィにより形成され得る。
【0043】
分極反転装置3を用いた分極反転原理について説明する。なお、厚さTr1、厚さTr2及び厚さTr3がいずれも厚さTrとして説明している。この分極反転装置3では、液体電極33及び液体電極34間に電圧Vが供給される。このとき、マスク層51の開口51aを介して、基板10に電圧Vが印加される。リッジ部12及びリッジ部13における電界Erは、リッジ部12及びリッジ部13における基板10の厚さTrで電圧Vを割った値(V/Tr)である。また、トレンチ部14における電界Etは、トレンチ部14における基板10の厚さTtで電圧Vを割った値(V/Tt)である。
【0044】
そして、基板10の抗電界Ecが電界Erと電界Etとの間(Er<Ec<Et)になるように電圧Vが調整される。なお、リッジ部11における電界は、平均的には電界Erと等しくなる。しかしながら、リッジ部11にはチタン等の不純物がドープされているので、リッジ部11における抗電界Ectは、抗電界Ecよりも小さいため、電界Erによって分極反転が可能となる。また、マスク層51が設けられた位置での電界Epは、電界Erよりも小さい。このため、基板10のうちリッジ部12及びリッジ部13に挟まれた領域の分極方向が反転し、第2領域10fが形成される。
【0045】
図2に戻って、バッファ層形成工程S04では、基板10の主面10m上にリッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13を形成した後、光導波路11aを覆うように、基板10の主面10mにバッファ層を形成する。主面10m全体を覆うように、基板10の主面10mにバッファ層を形成してもよい。真空蒸着法、イオンアシスト真空蒸着法、スパッタリング法、及び、CVD(chemical vapor deposition)法等の汎用的な薄膜堆積方法によって、バッファ層を形成する。バッファ層は、例えばシリコン酸化物(SiO)またはアルミニウム酸化物(Al)等によって構成されている。
【0046】
熱処理工程S05では、バッファ層形成工程S04において形成されたバッファ層の酸素欠損を補填するために、バッファ層に熱処理を施す。この熱処理は、酸素含有雰囲気中において、約600度程度の温度において行われる。
【0047】
電極形成工程S06では、バッファ層上に信号電極20を形成する。具体的に説明すると、フォトリソグラフィにより、バッファ層上にレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、信号電極20のための開口を有する。次に、レジストパターンをマスクとして例えばメッキ法を用いて、バッファ層上に信号電極20を形成する。電極形成工程S06において、バッファ層上に接地電極を形成してもよい。信号電極20の形成後、レジストパターンを除去する。
【0048】
以上のようにして、光導波路素子1が作製される。なお、バッファ層形成工程S04及び熱処理工程S05は、リッジ形成工程S02と分極処理工程S03との間に行われてもよく、バッファ層を設けない場合には省略されてもよい。
【0049】
上述の光導波路素子1の製造方法によれば、基板10の抗電界Ecを下げる不純物を基板10にドープして方向Aに延びる光導波路11aを形成し、光導波路11aを含む方向Aに延びるリッジ部11及びリッジ部11に交差するリッジ部12及びリッジ部13を形成している。そして、基板10のうち、リッジ部12及びリッジ部13に挟まれる領域(リッジ部12によって区分される一方の領域)に電圧Vを印加している。このとき、トレンチ部14に生じる電界Etが、リッジ部12及びリッジ部13に生じる電界Erよりも大きくなる。このため、基板10の抗電界Ecがリッジ部12及びリッジ部13に生じる電界Erよりも大きく、トレンチ部14に生じる電界Etよりも小さくなるように電圧Vを調整することによって、分極方向が反転される第2領域10fの広がりをリッジ部12及びリッジ部13により制限することができる。
【0050】
すなわち、第2領域10fは、方向Aの反対方向において、リッジ部12の側面12aまで広がって形成されるが、リッジ部12を超えて形成されない。また、第2領域10fは、方向Aにおいて、リッジ部13の側面13aまで広がって形成されるが、リッジ部13を超えて形成されない。このように、リッジ部12及びリッジ部13を超えて分極反転されることを防ぐことができる。また、リッジ部11には、基板10の抗電界Ecを下げる不純物が含まれるので、リッジ部12及びリッジ部13に挟まれるリッジ部11の分極方向を反転することが可能となる。その結果、基板10の分極反転処理の精度を向上することが可能となる。
【0051】
本来、リッジ部11における電界Erは基板の抗電界Ecを超えていないので、リッジ部11、または基板裏面のリッジ部11に対向する位置に分極反転核が発生し、基板10を貫通して反転領域が成長していくことはない。しかし、Tiのような不純物を拡散したリッジ部分では、上記の条件で分極反転処理を行えば、トレンチ部14の分極反転部とつながった形状で分極方位が反転し、一方、不純物を拡散していないリッジ部12及びリッジ部13では、電界Erが基板の抗電界Ecを超えない限り分極方位が反転しないことが、再現性良く観察される。
【0052】
リッジ部11の分極反転を安定的に再現性良く反転を行える条件では、以下の現象が起きていると推定できる。抗電界Ecに近い電界が印加されたリッジ部11の表面では、多数の微小な分極反転核が発生する。不純物の含まれる部分の抗電界は、基板材料本来の抗電界Ecよりも小さいので、微小な分極反転核は不純物であるTiの拡散距離と同程度(一般的な光ファイバ通信用波長1550nmの光導波路の場合、深さは3〜4μm)の深さまでは成長し得るものの、基板10を貫通して成長していくには至らない。一方、トレンチ部14では、電界Etが抗電界Ecを超えているので、多数箇所で分極反転核が発生し、核が基板を貫通することを経て、分極反転域の成長と反転部分の面積の拡大とが進む。分極反転壁がリッジ部11の斜面に達すると、新たな分極反転核の発生と貫通による分極反転域の拡大とは止まる、または大きく抑制されると考えられる。しかしながら、電界Erが抗電界Ec以下であっても分極反転壁の移動は起こり得るので、リッジ部11において数μm程度に成長した分極反転域と、トレンチ部14において成長拡大してきた分極反転部と、の合区(マージ)が起こり得る。さらに、リッジ部11における新たな分極反転核の発生、数μm程度への成長、そしてマージが繰り返されれば、トレンチ部14において成長拡大してきた分極反転部の面積の拡大は続き、最終的にはリッジ部11全体を含めて一体となった分極反転域が形成される。なお、抗電界以下の電界であっても、微小な分極反転核が形成されること及び分極壁が移動することは、非特許文献4の3.1.4節「選択的核生成」に解説されている。
【0053】
不純物が拡散していないリッジ部12及びリッジ部13においても、表面に微小な分極反転核が形成されて、分極壁及び微小な核が移動していると考えられる。このため、リッジ部12,13においても、徐々にではあるが分極反転が進んでいると思われる。しかしながら、リッジ部12,13において形成される分極反転領域がごく小さいので、トレンチ部14において成長拡大してきた分極反転部のリッジ部12,13に向かう成長は、リッジ部11に向かう成長に比べて極めて遅い。したがって、リッジ部12,13に向かう反転域の拡大は進まないと見なしても、実工程管理上の問題は無い。
【0054】
また、液体電極33,34を用いて、リッジ部12及びリッジ部13に挟まれる領域に電圧Vを印加している。このため、基板10と液体電極33,34との接触を確実に行うことができ、基板10に印加される電圧の均一性を向上できる。その結果、分極反転処理の精度をさらに向上することが可能となる。
【0055】
なお、本発明の一態様に係る光導波路素子及び光導波路素子の製造方法は上記実施形態に限定されない。例えば、光導波路素子1は、光変調素子に限られず、光スイッチ、偏波コントローラ等であってもよい。その場合、分極反転を形成する形状によって、リッジ部12及びリッジ部13は適宜変更してもよい。伝搬光の光路を切替える光スイッチの場合、及び、2つの光を合波干渉させるマッハツエンダー光変調器などの場合、光導波路が直線状の部分だけでは構成できず、斜行させたり屈曲させた光導波路部が必要となるが、その部分がリッジ導波路の場合、例えば、リッジ部12及びリッジ部13は方向Aに垂直でなくてもよく傾斜させてもよい。また、分極反転させる領域が端面10a、端面10b、側端面10c及び側端面10dを含まない、すなわち、基板10内で閉じている場合、その分極反転させる領域を囲むようにリッジ部を設けてもよい。また、光導波路素子1が方向Aに延びる複数の光導波路を有する構成では、方向Bと交差するリッジ部を設け、光導波路間で分極方向が異なるように領域を分けてもよい。
【0056】
また、光導波路11aは、マッハツェンダ(Mach-Zehnder)型の光導波路であってもよく、光導波路素子1の変調方式に応じた構造を有してもよい。
【0057】
基板10は、第1領域10e及び第2領域10fを有し、第3領域10gを有しなくてもよい。この場合、光導波路素子1は、リッジ部13を有しなくてもよい。このように、基板10が方向Aに沿って順に配列された2以上の複数の領域を有していればよく、領域の数は限定されない。また、隣り合う領域の分極方向は互いに反対であって、基板10は、隣り合う領域のドメインウォール(境界面)上に設けられたリッジ部を有していればよい。
【0058】
また、リッジ形成工程S02において、光導波路11aが形成された基板10の平坦度を測定し、リッジ部12及びリッジ部13の高さが基板10の平坦度よりも大きくなるように、リッジ部12及びリッジ部13を形成するとよい。
【0059】
図6を用いて、基板の平坦度が分極反転に及ぼす影響を説明する。図6は、比較例の基板におけるトレンチ部周辺を概略的に示す拡大図である。図6に示されるように、比較例の基板110では、裏面110nが膨らんでおり、リッジ部112及びリッジ部113の高さが基板110の平坦度よりも小さい。すなわち、トレンチ部114における基板110の厚さTtは、リッジ部112及びリッジ部113における基板110の厚さTrよりも大きい。ここで、トレンチ部114の分極方向を反転させるために、電圧Vを大きくして、トレンチ部114の電界Et(=V/Tt)を基板110の抗電界Ecよりも大きくする。比較例の基板110では、トレンチ部114における基板110の厚さTtは、リッジ部112及びリッジ部113における基板110の厚さTrよりも大きいので、リッジ部112及びリッジ部113における電界Er(=V/Tr)は、基板110の抗電界Ecよりも大きくなる。このため、リッジ部112及びリッジ部113の分極方向が反転され、さらにリッジ部112及びリッジ部113を超えて分極反転されるおそれがある。
【0060】
これに対し、図5に示されるように、基板10では、リッジ部12及びリッジ部13の高さは基板10の平坦度よりも大きい。すなわち、リッジ部12及びリッジ部13における基板10の厚さTrは、トレンチ部14における基板10の厚さTtよりも大きい。ここで、トレンチ部14の分極方向を反転させるために、電圧Vを大きくして、トレンチ部14の電界Etを基板10の抗電界Ecよりも大きくする。このとき、基板10では、リッジ部12及びリッジ部13における基板10の厚さTrは、トレンチ部14における基板10の厚さTtよりも大きいので、基板10の抗電界Ecが電界Erと電界Etとの間(Er<Ec<Et)になるように電圧Vを調整することができる。このため、リッジ部12及びリッジ部13によって、分極反転される基板10の範囲を制限することができる。このように、基板10では、リッジ部12及びリッジ部13による分極反転の制御の確実性を向上することが可能となる。その結果、分極反転処理の精度をさらに向上することが可能となる。
【0061】
また、分極反転装置3における基板10のマスキング方法は、上述の方法に限定されない。以下に、基板10のマスキング方法の変形例について説明する。
【0062】
(第1変形例)
図7は、分極反転装置3における基板10のマスキング方法の第1変形例を概略的に示す図である。図7に示されるように、基板50は、マスク層51に代えてマスク層52を備えている点で、図5の基板50と相違する。すなわち、図7の基板50では、マスク層52は、基板10の裏面10nのうち基板10の端面10aからリッジ部12に対向する位置までの部分と、端面10bからリッジ部13に対向する位置までの部分と、を覆うように裏面10nに設けられている。マスク層52は、裏面10nのうちリッジ部12に対向する位置とリッジ部13に対向する位置とに挟まれた部分の上に開口52aを有している。マスク層52は、絶縁性を有し、例えば絶縁性樹脂から構成されている。マスク層52は、例えばスピンコートまたはフォトリソグラフィにより形成され得る。
【0063】
この分極反転装置3においても、図5の分極反転装置3と同様にして、基板10の所望の領域の分極方向を反転することができる。また、フォトリソグラフィなどで形成される絶縁性樹脂(マスク層52)がリッジ部11、リッジ部12及びリッジ部13により散乱されることがないので、分極反転の境界(ドメインウォールD1及びドメインウォールD2)がシャープに精度よく形成できる。
【0064】
(第2変形例)
図8は、分極反転装置3における基板10のマスキング方法の第2変形例を概略的に示す図である。図8に示されるように、基板50は、金属膜53がさらに設けられている点で、図7の基板50と相違する。すなわち、図8の基板50では、金属膜53は、封止部材32に囲まれた範囲において、マスク層52上に設けられている。金属膜53は、開口52aにおいて基板10の裏面10nに設けられ、基板10と接触を成している。金属膜53は、導電性を有し、例えばクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、金(Au)等から構成されている。金属膜53は、例えばリフトオフ法により形成され得る。
【0065】
この分極反転装置3においても、図5の分極反転装置3と同様にして、基板10の所望の領域の分極方向を反転することができる。また、金属膜53を用いることにより、印加される電界の均一性を向上することができる。
【0066】
(第3変形例)
図9は、分極反転装置3における基板10のマスキング方法の第3変形例を概略的に示す図である。図9に示されるように、分極反転装置3は、挟持部材31、封止部材32、液体電極33及び液体電極34を備えていない点で、図5図7図8の分極反転装置3と相違する。基板50は、マスク層51に代えて、金属膜54及び金属膜55を備えている点で図5の基板50と相違する。すなわち、図9の基板50では、基板10の主面10mのうち、リッジ部12とリッジ部13とに挟まれた部分に金属膜54が設けられ、基板10の裏面10nのうち金属膜54に対向する部分を覆うように金属膜55が設けられている。金属膜54及び金属膜55は、導電性を有し、例えばCr、Al、Au等から構成されている。金属膜54及び金属膜55は、例えばリフトオフ法により形成され得る。
【0067】
この分極反転装置3においても、図5の分極反転装置3と同様にして、基板10の所望の領域の分極方向を反転することができる。また、金属膜54及び金属膜55を用いることにより、印加される電界の均一性を向上することができる。また、液体電極33及び液体電極34の液漏れ等が生じることがなく、簡単に分極反転を行うことが可能となる。
【0068】
(第4変形例)
図10は、分極反転装置3における基板10のマスキング方法の第4変形例を概略的に示す図である。図10に示されるように、分極反転装置3は、挟持部材31、封止部材32、液体電極33及び液体電極34を備えていない点で、図5図7図8の分極反転装置3と相違する。基板50は、さらに金属膜54を備えている点で、図8の基板50と相違する。
【0069】
この分極反転装置3においても、図5の分極反転装置3と同様にして、基板10の所望の領域の分極方向を反転することができる。また、液体電極33及び液体電極34の液漏れ等が生じることがなく、簡単に分極反転を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1…光導波路素子、10…基板、10e…第1領域、10f…第2領域、11…リッジ部(第1リッジ部)、12…リッジ部(第2リッジ部)、13…リッジ部(第3リッジ部)、33,34…液体電極、11a…光導波路、A…方向(第1方向)、D1…ドメインウォール(境界)、Ec…抗電界。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10