【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、粉末の平均粒径は、レーザー光回折法により求めた重量平均値である。また、HIP装置においてHIP炉内のカーボンヒータ部分の温度を白金ロジウム熱電対により測定し、その測定温度を金属酸化物焼結体の温度とみなして昇温、降温制御を行った。
【0047】
[実施例1]
原料粉末として、Y
2O
3粉末を用いた例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製の純度99.9質量%以上のY
2O
3粉末を用い、これに第一稀元素化学工業(株)製ZrO
2粉末を0.5質量%添加した。更に有機分散剤と有機結合剤を加えた後、エタノール中でジルコニア製ボールミル分散・混合処理した。処理時間は24hであった。その後、スプレードライ処理を行って平均粒径が20μmの顆粒原料(出発原料)を作製した。
次に、得られた出発原料を直径10mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で長さ20mmのロッド状に仮成形した後、198MPaの圧力で、静水圧プレスしてCIP成形体を得た。続いて得られたCIP成形体をマッフル炉に入れ、大気中800℃で3時間熱処理して脱脂した。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1500℃〜1700℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1500℃〜1800℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例
、参考例では昇温レートの設定を表1に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、
図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ14mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例1−1、1−5、
参考例1−1、1−3及び比較例1について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[実施例2]
原料粉末として、Lu
2O
3粉末を用いた例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製の純度99.9質量%以上のLu
2O
3粉末を用い、それ以外は実施例1と同様にして脱脂済みCIP成形体を得た。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1600℃〜1800℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1600℃〜1850℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例
、参考例では昇温レートの設定を表2に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、
図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ14mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例2−1、2−5、
参考例2−1、2−3及び比較例2について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
[実施例3]
原料粉末として、Sc
2O
3粉末を用いた例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製の純度99.9質量%以上のSc
2O
3粉末を用い、それ以外は実施例1と同様にして脱脂済みCIP成形体を得た。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1600℃〜1800℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1600℃〜1850℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例
、参考例では昇温レートの設定を表3に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、
図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ14mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例3−1、3−5、
参考例3−1、3−3及び比較例3について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
上記表1〜表3の結果より、出発原料の種類によらず、Y
2O
3粉末、Lu
2O
3粉末、Sc
2O
3粉末の全てにおいて、実施例1−1〜1−4、2−1〜2−4、3−1〜3−4のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを60℃/hにすると、比較例1〜3のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約2.5分の1に低減(改善)した。また、実施例1−5、1−6、2−5、2−6、3−5、3−6のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを30℃/hまで小さくすると、比較例1〜3のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約5分の1まで大幅に低減(改善)した。また、
参考例1−1、1−2、2−1、2−2、3−1、3−2のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを150℃/hに小さくするだけでも、比較例1〜3のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約半分にまで低減(改善)できることも確認した。
また、実施例1−1〜1−
6、参考例1−1、1−2、実施例2−1〜2−
6、参考例2−1、2−2、実施例3−1〜3−
6、参考例3−1、3−2のようにそれぞれ単位長さ当りの透過損失が改善した金属酸化物焼結体の方が、光学面内部の残存気泡量が圧倒的に減少していた。
以上の結果から、HIP処理工程における少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを150℃/h以下にすると、従来の昇温レートでHIP処理した場合に比べて、金属酸化物焼結体中に残存する気泡量が著しく減少し、極めて透過損失の少ない、真に透明な透光性酸化物焼結体が得られることが判明した。なお、
参考例1−3、2−3、3−3の結果から、単位長さ当りの透過損失の改善効果が出始める昇温レートの上限は180℃/hであることも確認した。
また、従来の昇温レート(400℃/h)の場合にはHIP処理工程での粒成長が促進しており、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを150℃/h以下にしたHIP処理工程においては、粒成長が抑制されていることが判明した。但し、
参考例1−3、2−3、3−3の結果から、粒成長の抑制効果が実質的に出始める昇温レートの上限は180℃/hである。
以上の結果から、HIP処理工程において、昇温過程の昇温レートについて焼結粒成長が抑制されるような条件を選択すると、何らかの因果関係により、金属酸化物焼結体中に残存する気泡量が著しく減少し、極めて透過損失の少ない、真に透明な透光性酸化物焼結体が得られることが分かる。そして、この焼結粒成長が抑制される条件は、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを従来に比べ極めて小さくした、180℃/h以下とすることにより達成できることが判明した。
【0054】
[実施例4]
次に、光学機能を付与した金属酸化物焼結体として、Tb
4O
7粉末とY
2O
3粉末を混合させて焼結したテルビウム系セスキオキサイドファラデー素子の例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製のいずれも純度99.9質量%以上のTb
4O
7粉末とY
2O
3粉末を用い、これらの原料粉末を1:1の体積比率で混合した後、これに第一稀元素化学工業(株)製ZrO
2粉末を0.5質量%添加した。更に有機分散剤と有機結合剤を加えた後、エタノール中でジルコニア製ボールミル分散・混合処理した。処理時間は24hであった。その後、スプレードライ処理を行って平均粒径が20μmの顆粒原料(出発原料)を作製した。
次に、得られた出発原料を直径10mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で長さ20mmのロッド状に仮成形した後、198MPaの圧力で、静水圧プレスしてCIP成形体を得た。続いて得られたCIP成形体をマッフル炉に入れ、大気中800℃で3時間熱処理して脱脂した。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1500℃〜1700℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1500℃〜1800℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例
、参考例では昇温レートの設定を表4に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、
図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例4−1、4−5、
参考例4−1、4−3及び比較例4について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
上記の通り、実施例1〜3と同様に、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを60℃/hにすると(実施例4−1〜4−4)、比較例4のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約2.2分の1に低減(改善)した。また、実施例4−5、4−6のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを30℃/hまで小さくすると、比較例4のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約6分の1まで大幅に低減(改善)した。また、
参考例4−1、4−2のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを150℃/hに小さくするだけでも、比較例4のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約半分にまで低減(改善)できることも確認した。また、実施例4−1〜4−
6、参考例4−1、4−2のようにそれぞれ単位長さ当りの透過損失が改善した金属酸化物焼結体の方が、光学面内部の残存気泡量が圧倒的に減少していた。なお、
参考例4−3の結果から、単位長さ当りの透過損失の改善効果が出始める昇温レートの上限は180℃/hであることも確認した。
また、実施例1〜3と同様に、従来の昇温レート(400℃/h)の場合にはHIP処理工程での粒成長が促進しており、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを150℃/h以下にしたHIP処理工程においては、粒成長が抑制されていることが判明した。但し、
参考例4−3の結果から、粒成長の抑制効果が実質的に出始める昇温レートの上限は180℃/hである。
以上の結果から、テルビウム系セスキオキサイドファラデー素子の場合においても、HIP処理工程において、昇温過程の昇温レートについて焼結粒成長が抑制されるような条件を選択すると、何らかの因果関係により金属酸化物焼結体中に残存する気泡量が著しく減少し、これにより極めて透過損失の少ない、真に透明なテルビウム系セスキオキサイドファラデー焼結体が得られることが分かった。そして、この焼結粒成長が抑制される条件は、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを従来に比べ極めて小さくした、180℃/h以下とすることにより達成できることが判明した。
【0057】
最後に、上記のようにして得られた実施例4−1〜4−
6、参考例4−1〜4−3の焼結体をテルビウム系セスキオキサイドファラデー素子として、その外周に磁化が飽和するのに十分なサイズのSmCo磁石を被せ、当該光学機能ユニットを、偏光子と検光子の間の光学軸上にセットした。次いで、波長1064nmの光を前後両方向から入射してファラデ―回転効果を確認した。その結果、いずれも順方向での透過損失は0.1dB未満、逆方向での消光比は40dB以上であった。
このように本発明の製造方法を用いることで、光学機能を有する金属酸化物焼結体においても、極めて透過損失の少ない、真に透明な酸化物焼結体が得られることが確認された。
【0058】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。