特許第6015780号(P6015780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6015780-透光性金属酸化物焼結体の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015780
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】透光性金属酸化物焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/645 20060101AFI20161013BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20161013BHJP
   C04B 41/80 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C04B35/64 302Z
   C04B35/00 J
   C04B41/80 A
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-560652(P2014-560652)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2013084064
(87)【国際公開番号】WO2014122865
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-23029(P2013-23029)
(32)【優先日】2013年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
(72)【発明者】
【氏名】島田 忠克
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−134958(JP,A)
【文献】 特開2009−256762(JP,A)
【文献】 特開昭63−030374(JP,A)
【文献】 特開昭60−231469(JP,A)
【文献】 特開昭62−105955(JP,A)
【文献】 特開昭62−091467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/64− 35/65
C04B 35/00− 35/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Y、Sc、ランタニド、Ti、Zr、Al、Ga、Si、Ge、Pb、Biからなる群から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物粒子から構成された金属酸化物であって透光性を有する金属酸化物の焼結体について1400〜1900℃の温度範囲で設定されるHIP熱処理温度Tで熱間等方圧プレス処理を施して透光性の焼結体を得る透光性金属酸化物焼結体の製造方法であって、上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程における室温からHIP熱処理温度Tまでの温度範囲が複数段階に分割され、この分割された段階ごとに昇温レートが制御されており、少なくともHIP熱処理温度Tを含む最終段階の昇温レートが10℃/h以上60℃/h以下であることを特徴とする透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項2】
上記昇温過程における温度範囲が2〜20の段階に等分割されることを特徴とする請求項1記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項3】
上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程の最終段階の昇温レートが10℃/h以上60℃/h以下であり、それ以外の段階の昇温レートが200℃/h以上800℃/h以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程の全段階の昇温レートが10℃/h以上60℃/h以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項5】
上記焼結体は、Y、Sc、Lu、Tb、Yb、Gd、Nd、Eu、Ho、Dy、Tm、Sm、Pr、Ce、Erからなる群から選択される1種又は2種以上の希土類酸化物粒子と、該希土類酸化物粒子に対する添加量1質量%以下(ただし、0質量%を含まない)のZr酸化物粒子とを上記金属酸化物の構成材料とした希土類セスキオキサイド焼結体である請求項1〜4のいずれか1項記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項6】
上記金属酸化物は、イットリア安定化ジルコニア、Al23−26質量%MgO、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、アルミナ、Y3Al512、Lu3Al512、Tb3Ga512、Bi4Ge312又はGd2SiO5である請求項1〜4のいずれか1項記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
上記金属元素の酸化物粒子を用いて所定形状にプレス成形した後に焼結し、次いで熱間等方圧プレス処理を施す請求項1〜6のいずれか1項記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項8】
上記金属酸化物の焼結体は、上記金属元素の酸化物粒子と、添加される焼結抑制助剤、有機添加剤、光学機能賦活剤の1又は2以上の剤とからなる原料粉末から作製されたものである請求項1〜7のいずれか1項記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物焼結体、わけても可視域及び/又は赤外域において透光性を有する透光性金属酸化物焼結体の製造方法に関し、特にその光学用途として、固体レーザー用媒質、電子線シンチレータ材、磁気光学デバイス用材料、発光管、光屈折率窓材、光シャッター、光記録素子、透光性防弾材等に利用される金属酸化物焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数ある金属酸化物焼結体のうちの幾つかのものは透光性を有するほどに緻密化することが知られている。また、その焼結体の製造工程において熱間静水圧プレス(HIP(Hot Isostatic Press)処理工程を経たものに特に透光性が顕著に発現することが確認されている。また、このように透光性を有する金属酸化物焼結体は、近年様々な光学用途に用いられるようになり、広く積極的にこれらの開発が進められている。
【0003】
例えば、特公平2−2824号公報(特許文献1)には、鉛、ランタン、ジルコニウム、チタンの各酸化物を主成分とする磁器成型体(PLZT)を理論密度の97%以上の密度まで真空中にて焼成後、溶融型酸化アルミニウム、溶融型酸化ジルコニウム、溶融型酸化マグネシウムのうち少なくとも1種からなる粒径50μm〜3000μmの粉末を、密に充填した耐熱容器内に、該焼成体を埋入したのち、HIP処理する方法が開示されており、これにより極めて高い透明度と緻密さを有する光学デバイス用磁器が安定して量産できるとされている。
【0004】
また、特公平2−25864号公報(特許文献2)には、Y232モル%以上、TiO2を3〜20モル%及びZrO2からなる成形体を酸素含有雰囲気中で焼成し、HIP処理し、次いで酸化処理することを特徴とする透光性ジルコニア焼結体の製造方法が開示されており、これにより優れた透光性及び高い屈折率を有する透光性ジルコニア焼結体が得られるとされている。
【0005】
更に、特開平3−275560号公報(特許文献3)及び特開平3−275561号公報(特許文献4)には、イットリウム・アルミニウム・ガーネットからなり、波長3〜4μmの赤外光による3mm厚さの直線透過率が75%以上である透光性イットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体であって、粉末を成形・焼結して高密度化した後、1500〜1800℃、500kg/cm2以上にてHIP処理する方法、並びに純度99.6%以上及び比表面積(BET値)4m2/g以上のYAG粉末を、温度1300〜1700℃及び圧力100〜500kg/cm2での真空中におけるホットプレスにより理論密度比95%以上に緻密化し、次に温度1400〜1800℃及び圧力500kg/cm2以上でHIP処理することを特徴とする透光性YAG焼結体の製造方法が開示されており、これらにより高密度で透光性にすぐれたYAG焼結体を得ることができるとされている。
【0006】
更にまた、特許第2638669号公報(特許文献5)には、適切な形状と組成を有する生圧粉体を形成し、予備焼結工程を1350〜1650℃の温度範囲で行い、HIP処理工程を1350〜1700℃の温度で行い、そして再焼結工程を1650℃を超える温度で行うセラミック体の製造方法が開示されており、これにより高度に透明な多結晶セラミック体を製造できるとしている。
【0007】
その他にも、特開平6−211573号公報(特許文献6)には、純度が99.8%以上で、その一次粒子の平均径が0.01〜1μmのY23粉末を一旦理論密度の94%以上に焼結させた後、更にこの焼結体を100kg/cm2以上のガス圧下、1600〜2200℃の温度範囲でHIP処理することを特徴とする透明なY23焼結体の製造方法が開示されており、これにより焼結助剤として放射性元素であるThO2を含まない系で、またはLiFやBeO等を含まない純粋なY23焼結体を得られるとしている。
【0008】
これ以外には、特許第4237707号公報(特許文献7)に、HIP後に、加圧含酸素雰囲気中でアニールされた、平均結晶子径が0.9〜9μm、測定波長1.06μmでの光損失係数が0.002cm-1以下、測定波長633nmでの透過波面歪みが0.05λcm-1以下の希土類ガーネット焼結体が開示されており、これにより着色の無い、光損失が小さく、気孔の生成を防止した測定波長1.06μmでの光損失係数が0.002cm-1以下のガーネット焼結体を得られるとしている。
【0009】
更には、特開2008−1556号公報(特許文献8)に、焼結助剤として、Ge、Sn、Sr、Baからなる群の少なくとも一種の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm未満含有する、純度99.9%以上の高純度希土類酸化物粉末を、バインダーを用いて、成形密度が理論密度比58%以上の成形体に成形し、該成形体を熱処理してバインダーを除去した後、水素、アルゴンガスあるいはこれらの混合ガス雰囲気中、もしくは真空中で1400〜1650℃、0.5時間以上で焼成し、その後、1000〜1650℃の処理温度及び49〜196MPaの圧力でHIP処理を実施することを特徴とする、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法が開示されており、これにより緻密化が促進され、光透過率が向上するとしている。
【0010】
更にこの他にも、特開2008−143726号公報(特許文献9)には、Y23を主成分とする多結晶焼結体からなる電子線蛍光用多結晶透明Y23セラミックスであって、該多結晶焼結体は気孔率が0.1%以下であり、平均結晶粒子径が5〜300μmであり、かつランタニド元素を含有することを特徴とする電子線蛍光用多結晶透明Y23セラミックスの製造方法であって、Y23粉末及びランタニド酸化物粉末を含有する成形体を酸素雰囲気下1500〜1800℃で焼成して一次焼成体を得る一次焼成工程と、該一次焼成体を更に温度1600〜1800℃かつ圧力49〜198MPaで焼成する二次焼成工程と、を備えることを特徴とする製造方法が開示されており、これにより量産性に優れた、高濃度に蛍光元素(ランタニド元素)を含有させることができ、更には、蛍光元素を電子線蛍光用多結晶透明Y23セラミックスの全域にわたって非常に分散性よく均一に含有させた電子線蛍光用多結晶透明Y23セラミックスができるとしている。
【0011】
また最近では、特開2010−241678号公報(特許文献10)に、A2+xyz7、ここで−1.15≦x≦+1.1、0≦y≦3及び0≦z≦1.6、並びに3x十4y十5z=8で、かつAは希土類イオンの群から選択される少なくとも1つの3価カチオンであり、Bは少なくとも1つの4価カチオンであり、Dは少なくとも1つの5価カチオンであり、及びEは少なくとも1つの2価アニオンである光学セラミック物質の製造方法であって、SiO2、TiO2、Zr02、HfO2、Al23及びフッ化物からなる群から選択される少なくとも1つの焼結助剤を含む出発物質の粉末混合物から成形体を製造する工程を含み、好ましくは500℃と900℃の間の温度で予備焼結する工程を含み、1400℃と1900℃の間の温度で前記予備焼結成形体を焼結する工程を含み、前記焼成成形体を真空にて好ましくは1400℃と2000℃の間の温度で、かつ好ましくは10MPaと198MPaの間の圧力で加圧する工程(HIP処理)を含む光学セラミック物質の製造方法が開示されており、これにより単結晶と同様な光学特性を有する光学セラミック物質が製造できるとしている。
【0012】
以上のように、透光性を有する酸化物焼結体の開発、特にHIP処理工程を含んだ酸化物焼結体の開発は近年盛んに進められており、特に焼結体の透光性を改善する検討が種々行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平2−2824号公報
【特許文献2】特公平2−25864号公報
【特許文献3】特開平3−275560号公報
【特許文献4】特開平3−275561号公報
【特許文献5】特許第2638669号公報
【特許文献6】特開平6−211573号公報
【特許文献7】特許第4237707号公報
【特許文献8】特開2008−1556号公報
【特許文献9】特開2008−143726号公報
【特許文献10】特開2010−241678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、透光性の改善が可能な透光性金属酸化物焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ところで、上記のようにこれまでに透光性を有する様々な酸化物焼結体でHIP工程を含んだ開発事例は数多くあるものの、これらのHIP工程の条件を精査してみると、ほとんどの事例では雰囲気ガス・温度・圧力・保持時間のみを規定しているだけであり、HIP工程における昇温レートについてまで規定したものは少ない。更に、たとえHIP工程における昇温レートについて言及されていても、その昇温レートは極めて速いものばかりであって、敢えて遅くすることを規定した事例は見当たらなかった。例えば、特許第2638669号公報(特許文献5)の明細書中には、1分間に約10乃至50℃の加熱速度(即ち、600乃至3000℃/h)で昇温し、1350乃至1700℃の温度においてアルゴンガス中圧力5000乃至25000psiの圧力で1/2乃至2時間加熱するHIP工程が開示されている。あるいは特開平6−211573号公報(特許文献6)の明細書中には、所定の温度(1800〜2050℃)まで200℃/hで昇温し、所定の圧力(150〜2000kg/cm2)で2〜3h保持し、200℃/hで降温するHIP工程が開示されている。また、特許第4237707号公報(特許文献7)の明細書中には、Ar雰囲気、10〜250MPa、1350〜1850℃、1〜100時間保持のHIP処理工程における昇温速度の1例として500℃/hが開示されている。更に、特開2008−1556号公報(特許文献8)の実施例中には、圧力媒体Ar、同時昇温昇圧法、800℃/h昇温、1000〜1650℃の処理温度、圧力49〜196MPa、処理時間3時間というHIP処理条件が開示されている。
発明者らは、代表的な透光性を有する酸化物焼給体の製造工程において、特にHIP工程での昇温レートを、先行技術文献には記載のない小さい(遅い)範囲、即ち初めて60℃/hよりも小さくなるように調整して検討してみたところ、従来の高速昇温HIP工程(前述の通り、従来のHIP処理の昇温レートは200〜800℃/hと極めて高速である)を施した酸化物焼結体に比べ、一段と透光牲が向上するという画期的な事実が確認され、この知見を基に鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記の透光性金属酸化物焼結体の製造方法を提供する。
〔1〕 Mg、Y、Sc、ランタニド、Ti、Zr、Al、Ga、Si、Ge、Pb、Biからなる群から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物粒子から構成された金属酸化物であって透光性を有する金属酸化物の焼結体について1400〜1900℃の温度範囲で設定されるHIP熱処理温度Tで熱間等方圧プレス処理を施して透光性の焼結体を得る透光性金属酸化物焼結体の製造方法であって、上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程における室温からHIP熱処理温度Tまでの温度範囲が複数段階に分割され、この分割された段階ごとに昇温レートが制御されており、少なくともHIP熱処理温度Tを含む最終段階の昇温レートが10℃/h以上60℃/h以下であることを特徴とする透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔2〕 上記昇温過程における温度範囲が2〜20の段階に等分割されることを特徴とする〔1〕記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔3〕 上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程の最終段階の昇温レートが10℃/h以上60℃/h以下であり、それ以外の段階の昇温レートが200℃/h以上800℃/h以下であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔4〕 上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程の全段階の昇温レートが10℃/h以上60℃/h以下であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔5〕上記焼結体は、Y、Sc、Lu、Tb、Yb、Gd、Nd、Eu、Ho、Dy、Tm、Sm、Pr、Ce、Erからなる群から選択される1種又は2種以上の希土類酸化物粒子と、該希土類酸化物粒子に対する添加量1質量%以下(ただし、0質量%を含まない)のZr酸化物粒子とを上記金属酸化物の構成材料とした希土類セスキオキサイド焼結体である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔6〕上記金属酸化物は、イットリア安定化ジルコニア、Al23−26質量%MgO、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、アルミナ、Y3Al512、Lu3Al512、Tb3Ga512、Bi4Ge312又はGd2SiO5である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔7〕上記金属元素の酸化物粒子を用いて所定形状にプレス成形した後に焼結し、次いで熱間等方圧プレス処理を施す〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
〔8〕 上記金属酸化物の焼結体は、上記金属元素の酸化物粒子と、添加される焼結抑制助剤、有機添加剤、光学機能賦活剤の1又は2以上の剤とからなる原料粉末から作製されたものである〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の透光性金属酸化物焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の製造方法によって製造された金属酸化物焼結体の光学特性に比べて一段と透光性の向上した透光性金属酸化物焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る透光性金属酸化物焼結体の製造方法におけるHIP処理工程の温度プロファイルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る透光性金属酸化物焼結体の製造方法について説明する。
本発明に係る透光性金属酸化物焼結体の製造方法は、金属酸化物を主成分とする焼結体について1000〜2000℃の温度範囲で設定されるHIP熱処理温度Tで熱間等方圧プレス処理を施して透光性の焼結体を得る透光性金属酸化物焼結体の製造方法であって、上記熱間等方圧プレス処理の昇温過程における室温からHIP熱処理温度Tまでの温度範囲が複数段階に分割され、この分割された段階ごとに昇温レートが制御されており、少なくともHIP熱処理温度Tを含む最終段階の昇温レートが10℃/h以上180℃/h以下であることを特徴とするものである。その詳細は以下の通りである。
【0020】
[製造工程]
本発明では、原料粉末(出発原料)として所定の金属酸化物の粒子等を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が95質量%以上に緻密化した焼結体を作製することが好ましい。その後、後述する熱間等方圧プレス処理(以下、HIP処理)を施す。なお、その後に適宜アニール処理等の後工程を加えてもよい。
【0021】
(原料粉末)
本発明で用いる原料粉末としては、焼結体として透光性を示すあらゆる金属酸化物の粒子を好適に利用できる。即ち、焼結体として透光性を示す金属酸化物群から選択される1種又は2種以上の粒子を原料粉末として利用できる。例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、スピネル(Al23−26質量%MgO)、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、アルミナ、YAG(Y3Al512)、LuAG(Lu3Al512)、TGG(Tb3Ga512)、各種セスキオキサイド、BGO(Bi4Ge312)、GSO(Gd2SiO5)及びその他一般的に透光性を有することが確認又は予想されている金属酸化物を構成する各構成元素の酸化物粒子であり、例えばMg、Y、Sc、ランタニド、Ti、Zr、Al、Ga、Si、Ge、Pb、Biからなる群から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物粒子であることが好ましい。
これらの金属酸化物の粒子を適正比率となるように秤量したものを原料粉末として好適に利用できる。
【0022】
また、M23型セスキオキサイド焼結体(Mは、Y、Sc及びランタニド系元素からなる群から選択される1種又は2種以上の希土類元素である。)を作製する場合には、Y、Sc及びランタニド系元素からなる群から選択される1種又は2種以上の希土類元素の酸化物粒子、特にY、Sc、Lu、Tb、Yb、Gd、Nd、Eu、Ho、Dy、Tm、Sm、Pr、Ce、Erの群から選択される1種又は2種以上の希土類元素の酸化物粒子とZr酸化物粒子とからなる粉末を用いるとよい。なお、ZrO2粉末の添加量は、1質量%以下(ただし、0質量%を含まない)が好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。ZrO2粉末を全く添加しないと、焼結工程での気泡合体が促進され、気泡成長を起こしてミクロンサイズの粗大な気泡となってしまい透光性を損なうおそれがある。ZrO2粉末を1質量%超添加すると、焼結工程で当該ZrO2の一部が第二相としてM23型セスキオキサイド焼結体中に偏析して透光性を損なうおそれがあるため好ましくない。
【0023】
なお、上述した金属酸化物粒子の純度は99.9質量%以上が好ましい。また、それらの粒子形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された穎粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、これらの原料粉末の作製工程については特に限定されず、共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0024】
本発明では、使用する金属酸化物粒子の原料粉末の粒度分布(該粒子が凝集して二次粒子化している場合はこの二次粒子の粒度分布)において最小値側からの累積が2.5%の粒径(D2.5値)が180nm以上2000nm以下であるものが好ましい。D2.5値が180nm未満であると、焼結工程で気泡が合体成長し、ミクロンサイズの粗大な気泡となってしまい透光性を損なうおそれがあり、D2.5値が2000nm超であると、成形時に発生する粒間空隙が粗大になりすぎ、また構成される粒子もすでに十分に大きいため粒子の表面自由エネルギーが小さくなってしまい、焼結がなかなか進まなくなり、緻密で透光性の焼結体を提供することが困難となる場合がある。
なお、粒径の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば液体溶媒中に粉末原料を分散し、光散乱法あるいは光回折法により測定して得られる値を参照することが、粒度分布の評価までできるため好ましい。
【0025】
本発明で用いる原料粉末には、この他に適宜、焼結抑制助剤を添加してもよい。特に高い透光性を得るために、各透光性金属酸化物に見合った焼結抑制助剤を添加することが好ましい。ただし、その純度は99.9質量%以上が好ましい。なお、焼結抑制助剤を添加しない場合には、使用する原料粉末についてその一次粒子の粒径がナノサイズであって焼結活性が極めて高いものを選定するとよい。こうした選択は適宜なされてよい。
【0026】
更に、製造工程での品質安定性や歩留り向上を目的として、各種の有機添加剤を添加することが好ましい。本発明においてはこれらについても特に限定されず、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。
【0027】
また、本発明で用いる原料粉末には、目的とする光学用途に見合うように適宜光学機能賦活部が添加される場合がある。例えば所望の波長にてレーザー発振させるために反転分布状態を作ることのできるレーザー物質、電離放射線を高感度に受光して蛍光するシンチレータ物質、あるいは過飽和吸収機能を付与してパルスレーザー発振させるための過飽和吸収体としてのネオジムやプラセオジム、クロム、その他のものが様々に添加される場合がある。本発明においては、これらの付活剤についても適宜加えることが可能である。その場合の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0028】
(プレス成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧するプレス工程や、変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Press)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。
【0029】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度も特に制限はないが、もしもバインダー等の有機成分を添加した場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0030】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気ガスは特に制限されないが、不活性ガス、酸素、水素等が好適に利用でき、あるいは真空としてもよい。
【0031】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には、選択された出発原料を用いて製造しようとする焼結体の融点よりも数十℃から100乃至200℃程度低温側の温度が好適に選択される。このとき、できるだけ高温にして相対密度が95質量%以上に緻密化されるようにすることが好ましい。また、選択された温度の近傍に立方晶以外の相に相変化する温度帯が存在する金属酸化物焼結体を製造しようとする際には、厳密にその温度以下となるように管理して焼結すると、非立方晶から立方晶への相転移が事実上発生しないことから材料中に光学歪やクラックなどが発生し難いというメリットが得られる。
【0032】
焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には数時間程度で十分な場合が多いが、金属酸化物焼結体の相対密度が95質量%以上に緻密化される時間を確保するとよい。
【0033】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に必ず熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Press))処理工程を設けるものとする。本工程で用いるHIP装置としては一般的な装置構成のものでよく、高圧容器内に上記焼結工程までの処理が終了した焼結体を配置し、加圧ガス媒体により該焼結体全体を均等に加圧すると共に、高圧容器内に配置された電気抵抗加熱装置により所定のHIP熱処理温度Tまで加熱してHIP処理を行うものである。このようなHIP装置としては、例えば穴の開いたカーボン製蓋付きルツボ(カーボン容器)に焼結体を収納し、該カーボン容器をカーボンヒータを加熱手段としたHIP炉内に配置し、HIP炉内に加圧ガス媒体を導入して焼結体全体を加圧した状態でカーボンヒータにより加熱する構成のものが好適に用いられる。
【0034】
また、このときの加圧ガス媒体の種類としてはアルゴン等の不活性ガス、又はAr−O2が好適に利用でき、印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0035】
HIP熱処理温度Tは、焼結体を構成する金属酸化物の種類及び/又は焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1000〜2000℃、好ましくは1400〜1900℃の範囲で設定される。このとき、焼結工程の場合と同様に焼結体を構成する金属酸化物の融点以下及び/又は相転移点以下とすることが必須であり、HIP熱処理温度Tが2000℃超では本発明で想定している金属酸化物焼結体を構成する金属酸化物の融点を超えるか相転移点を超えてしまい、適正なHIP処理を行うことが困難となる。また、HIP熱処理温度Tが1000℃未満では焼結体の透光性改善効果が得られない。
【0036】
なお、本発明においてHIP処理に関していう温度はすべて金属酸化物焼結体の温度である。実際のHIP装置では、金属酸化物焼結体はHIP炉のカーボンヒータの内側にあるカーボン容器内にセットされた状態にあることから焼結体の直接の測温は困難であるが、昇温、降温過程におけるカーボンヒータ部とカーボン容器との温度差が10℃以下であり、カーボン容器とその内部にある金属酸化物焼結体の温度はほぼ等しいことからHIP炉内のカーボンヒータ部分の測温結果を金属酸化物焼結体の温度とみなすことができる。従って、HIP装置では、HIP炉内のカーボンヒータ部分の温度を熱電対(例えば白金ロジウム等)により測定し、その測定温度に基づいて金属酸化物焼結体の昇温、降温制御を行う。
【0037】
ここで、本発明の製造方法は、HIP処理の昇温過程における温度範囲が複数段階に分割され、この分割された段階ごとに昇温レートが制御されており、少なくともHIP熱処理温度Tを含む最終段階の昇温レートが10℃/h以上180℃/h以下、好ましくは10℃/h以上150℃/h以下、より好ましくは10℃/h以上60℃/h以下、特に好ましくは20℃/h以上40℃/h以下であることを特徴とするものである。昇温レートが180℃/h超では焼結体の透光性改善効果が得られず、10℃/h未満ではHIP処理に要する時間がかかり過ぎて生産性の面で不適である。なお、このときの昇温過程における温度制御は、上記測温結果に基づくPID(Proportional Integral Derivative Controller)制御により行われることが好ましい。
【0038】
また、HIP処理における加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透光性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透光性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。
【0039】
図1に、本発明に係る透光性金属酸化物焼結体の製造方法におけるHIP処理工程の金属酸化物焼結体の温度プロファイルの例を示す。ここでは、HIP熱処理温度Tが1625℃の場合の昇温過程、温度保持過程、降温過程からなる温度プロファイルを示しており、温度プロファイルP11、P12、P21、P22が本発明に関するものであり、温度プロファイルP99は従来のものである。
【0040】
温度プロファイルP11を例にとり、本発明におけるHIP処理の温度制御の設定を説明する。
まず本発明では、HIP熱処理温度Tが1625℃に設定されると、HIP処理の昇温過程における室温からHIP熱処理温度Tまでの温度範囲Sが複数段階に分割される。この分割の仕方はHIP処理の効率と焼結体の透光性改善効果の兼ね合いから決めればよいが、例えば温度範囲Sを2〜20の段階に等分割するとよい。図1では温度範囲S(室温(25℃)から1625℃まで)が14等分されている。
次に、この分割された段階ごとに昇温レートを設定するが、少なくともHIP熱処理温度Tを含む最終段階の昇温レートが10℃/h以上180℃/h以下となるように設定する。その条件を満たせば、それ以外の段階の昇温レートの設定は任意であり、例えば、HIP処理の生産性を考慮して、昇温過程の最終段階の昇温レートを10℃/h以上180℃/h以下とし、それ以外の段階の昇温レートを200℃/h以上800℃/h以下とするとよい。図1の温度プロファイルP11では、昇温過程の最終段階(14)の昇温レートを60℃/hとし、それ以外の段階(1)〜(13)の昇温レートを従来の温度プロファイルP99と同じ400℃/hとしている。
次に、HIP熱処理温度Tの温度で一定時間保持する(温度保持過程)。この保持時間については特に制限はなく、選択される材料(焼結体を構成する金属酸化物の種類)に好適な時間で設定すればよい。図1の温度プロファイルP11では保持時間3時間である。
次に、焼結体を室温まで冷却する(降温過程)。この降温過程における降温レートについては特に制限はなく、空冷又は自然放冷でよく、少なくとも上記昇温過程のように敢えて遅いレートを選定する必要はない。ただし、過度な冷却速度及び/又は過度な圧力抜きは、製造される金属酸化物焼結体に衝撃が加わってクラックの発生原因となるため好ましくない。図1の温度プロファイルP11では従来の温度プロファイルP99における降温レートと同じ400℃/hとしている。
【0041】
以上のように設定した温度プロファイルP11にしたがってHIP処理を実行することにより、透光性を改善することができる。
【0042】
なお、HIP熱処理における温度プロファイルとしては、少なくともHIP熱処理温度Tを含む最終段階の昇温レートが10℃/h以上180℃/h以下という条件を満たせばよいため、例えばHIP処理の昇温過程の全段階の昇温レートが10℃/h以上180℃/h以下であってもよい。図1の温度プロファイルP12は、昇温過程の全段階(1)〜(14)の昇温レートが60℃/hであり、それ以外(温度保持過程、降温過程)は温度プロファイルP11と同じである。
【0043】
また、図1において、温度プロファイルP21は、昇温過程の段階(1)〜(13)の昇温レートが400℃/h、最終段階(14)の昇温レートが30℃/hであり、それ以外(温度保持過程、降温過程)は温度プロファイルP11と同じである。
また、温度プロファイルP22は、昇温過程の全段階(1)〜(14)の昇温レートが30℃/hであり、それ以外(温度保持過程、降温過程)は温度プロファイルP11と同じである。
なお、従来の温度プロファイルP99は、昇温過程の全段階(1)〜(14)の昇温レートが400℃/hであり、それ以外(温度保持過程、降温過程)は温度プロファイルP11と同じである。
【0044】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、HIP処理工程までの一連の工程を経た金属酸化物焼結体について、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/8以下が好ましく、λ/10以下が特に好ましい。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学測定を精密に行うことができる。
【0045】
以上の本発明の透光性金属酸化物焼結体の製造方法によれば、極めて高い透光性を有する金属酸化物焼結体を提供することができる。
本発明の製造方法においては、得られた焼結体を目的とする光学用途に見合うように適宜アセンブリしてデバイス化してよい。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、粉末の平均粒径は、レーザー光回折法により求めた重量平均値である。また、HIP装置においてHIP炉内のカーボンヒータ部分の温度を白金ロジウム熱電対により測定し、その測定温度を金属酸化物焼結体の温度とみなして昇温、降温制御を行った。
【0047】
[実施例1]
原料粉末として、Y23粉末を用いた例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製の純度99.9質量%以上のY23粉末を用い、これに第一稀元素化学工業(株)製ZrO2粉末を0.5質量%添加した。更に有機分散剤と有機結合剤を加えた後、エタノール中でジルコニア製ボールミル分散・混合処理した。処理時間は24hであった。その後、スプレードライ処理を行って平均粒径が20μmの顆粒原料(出発原料)を作製した。
次に、得られた出発原料を直径10mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で長さ20mmのロッド状に仮成形した後、198MPaの圧力で、静水圧プレスしてCIP成形体を得た。続いて得られたCIP成形体をマッフル炉に入れ、大気中800℃で3時間熱処理して脱脂した。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1500℃〜1700℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1500℃〜1800℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例、参考例では昇温レートの設定を表1に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ14mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例1−1、1−5、参考例1−1、1−3及び比較例1について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[実施例2]
原料粉末として、Lu23粉末を用いた例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製の純度99.9質量%以上のLu23粉末を用い、それ以外は実施例1と同様にして脱脂済みCIP成形体を得た。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1600℃〜1800℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1600℃〜1850℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例、参考例では昇温レートの設定を表2に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ14mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例2−1、2−5、参考例2−1、2−3及び比較例2について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
[実施例3]
原料粉末として、Sc23粉末を用いた例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製の純度99.9質量%以上のSc23粉末を用い、それ以外は実施例1と同様にして脱脂済みCIP成形体を得た。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1600℃〜1800℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1600℃〜1850℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例、参考例では昇温レートの設定を表3に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ14mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例3−1、3−5、参考例3−1、3−3及び比較例3について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
上記表1〜表3の結果より、出発原料の種類によらず、Y23粉末、Lu23粉末、Sc23粉末の全てにおいて、実施例1−1〜1−4、2−1〜2−4、3−1〜3−4のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを60℃/hにすると、比較例1〜3のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約2.5分の1に低減(改善)した。また、実施例1−5、1−6、2−5、2−6、3−5、3−6のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを30℃/hまで小さくすると、比較例1〜3のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約5分の1まで大幅に低減(改善)した。また、参考例1−1、1−2、2−1、2−2、3−1、3−2のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを150℃/hに小さくするだけでも、比較例1〜3のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約半分にまで低減(改善)できることも確認した。
また、実施例1−1〜1−6、参考例1−1、1−2、実施例2−1〜2−6、参考例2−1、2−2、実施例3−1〜3−6、参考例3−1、3−2のようにそれぞれ単位長さ当りの透過損失が改善した金属酸化物焼結体の方が、光学面内部の残存気泡量が圧倒的に減少していた。
以上の結果から、HIP処理工程における少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを150℃/h以下にすると、従来の昇温レートでHIP処理した場合に比べて、金属酸化物焼結体中に残存する気泡量が著しく減少し、極めて透過損失の少ない、真に透明な透光性酸化物焼結体が得られることが判明した。なお、参考例1−3、2−3、3−3の結果から、単位長さ当りの透過損失の改善効果が出始める昇温レートの上限は180℃/hであることも確認した。
また、従来の昇温レート(400℃/h)の場合にはHIP処理工程での粒成長が促進しており、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを150℃/h以下にしたHIP処理工程においては、粒成長が抑制されていることが判明した。但し、参考例1−3、2−3、3−3の結果から、粒成長の抑制効果が実質的に出始める昇温レートの上限は180℃/hである。
以上の結果から、HIP処理工程において、昇温過程の昇温レートについて焼結粒成長が抑制されるような条件を選択すると、何らかの因果関係により、金属酸化物焼結体中に残存する気泡量が著しく減少し、極めて透過損失の少ない、真に透明な透光性酸化物焼結体が得られることが分かる。そして、この焼結粒成長が抑制される条件は、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを従来に比べ極めて小さくした、180℃/h以下とすることにより達成できることが判明した。
【0054】
[実施例4]
次に、光学機能を付与した金属酸化物焼結体として、Tb47粉末とY23粉末を混合させて焼結したテルビウム系セスキオキサイドファラデー素子の例について説明する。
ここでは、信越化学工業(株)製のいずれも純度99.9質量%以上のTb47粉末とY23粉末を用い、これらの原料粉末を1:1の体積比率で混合した後、これに第一稀元素化学工業(株)製ZrO2粉末を0.5質量%添加した。更に有機分散剤と有機結合剤を加えた後、エタノール中でジルコニア製ボールミル分散・混合処理した。処理時間は24hであった。その後、スプレードライ処理を行って平均粒径が20μmの顆粒原料(出発原料)を作製した。
次に、得られた出発原料を直径10mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で長さ20mmのロッド状に仮成形した後、198MPaの圧力で、静水圧プレスしてCIP成形体を得た。続いて得られたCIP成形体をマッフル炉に入れ、大気中800℃で3時間熱処理して脱脂した。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1500℃〜1700℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が96%になるよう焼結温度や保持時間を調整した。
続いて、上記焼結体について、更に加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度T1500℃〜1800℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。本実施例、参考例では昇温レートの設定を表4に示すように9種類に変化させて処理した。降温レートについては400℃/hで固定した。なお、図1の温度プロファイルP99に準ずる条件で比較例サンプルも作製した。
こうして得られた各HIP処理サンプルを、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートして、波長1064nmにおけるそれぞれの透過率を測定し、焼結体単位長さ当りの可視域透過損失を換算して求めた。また、それぞれの光学面内部の気泡状態について電子顕微鏡(SEM)観祭した。
また、実施例4−1、4−5、参考例4−1、4−3及び比較例4について光学面を塩酸による恒温ミラーエッチング処理して焼結粒界が明確に見えるようにした状態でSEM観察して焼結粒径を測定し、その400個分の平均値を平均焼結粒径として求めた。
その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
上記の通り、実施例1〜3と同様に、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを60℃/hにすると(実施例4−1〜4−4)、比較例4のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約2.2分の1に低減(改善)した。また、実施例4−5、4−6のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを30℃/hまで小さくすると、比較例4のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約6分の1まで大幅に低減(改善)した。また、参考例4−1、4−2のように少なくとも温度範囲Sにおける最終段階(14)の昇温レートを150℃/hに小さくするだけでも、比較例4のように従来の昇温レートの場合(昇温レートを遅くしない場合(400℃/h))に比べて単位長さ当りの透過損失が約半分にまで低減(改善)できることも確認した。また、実施例4−1〜4−6、参考例4−1、4−2のようにそれぞれ単位長さ当りの透過損失が改善した金属酸化物焼結体の方が、光学面内部の残存気泡量が圧倒的に減少していた。なお、参考例4−3の結果から、単位長さ当りの透過損失の改善効果が出始める昇温レートの上限は180℃/hであることも確認した。
また、実施例1〜3と同様に、従来の昇温レート(400℃/h)の場合にはHIP処理工程での粒成長が促進しており、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを150℃/h以下にしたHIP処理工程においては、粒成長が抑制されていることが判明した。但し、参考例4−3の結果から、粒成長の抑制効果が実質的に出始める昇温レートの上限は180℃/hである。
以上の結果から、テルビウム系セスキオキサイドファラデー素子の場合においても、HIP処理工程において、昇温過程の昇温レートについて焼結粒成長が抑制されるような条件を選択すると、何らかの因果関係により金属酸化物焼結体中に残存する気泡量が著しく減少し、これにより極めて透過損失の少ない、真に透明なテルビウム系セスキオキサイドファラデー焼結体が得られることが分かった。そして、この焼結粒成長が抑制される条件は、少なくとも温度範囲Sにおける最終段階の昇温レートを従来に比べ極めて小さくした、180℃/h以下とすることにより達成できることが判明した。
【0057】
最後に、上記のようにして得られた実施例4−1〜4−6、参考例4−1〜4−3の焼結体をテルビウム系セスキオキサイドファラデー素子として、その外周に磁化が飽和するのに十分なサイズのSmCo磁石を被せ、当該光学機能ユニットを、偏光子と検光子の間の光学軸上にセットした。次いで、波長1064nmの光を前後両方向から入射してファラデ―回転効果を確認した。その結果、いずれも順方向での透過損失は0.1dB未満、逆方向での消光比は40dB以上であった。
このように本発明の製造方法を用いることで、光学機能を有する金属酸化物焼結体においても、極めて透過損失の少ない、真に透明な酸化物焼結体が得られることが確認された。
【0058】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
P11、P12、P21、P22、P99 温度プロファイル
S 温度範囲
図1