特許第6015801号(P6015801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6015801酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、および透明導電膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6015801
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、および透明導電膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20161013BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20161013BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C04B35/00 J
   C23C14/34 A
   C23C14/08 K
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-76713(P2015-76713)
(22)【出願日】2015年4月3日
(62)【分割の表示】特願2011-525866(P2011-525866)の分割
【原出願日】2010年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-127297(P2015-127297A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2015年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2009-182761(P2009-182761)
(32)【優先日】2009年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】中山 徳行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/016388(WO,A1)
【文献】 特開2005−290458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムとセリウムの酸化物からなり、セリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%である酸化物焼結体であって、
該酸化物焼結体は、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第2相として蛍石型構造のCeOのみからなる平均粒径3μm以下の結晶粒微細に分散しており、かつ下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比(I)が25%以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
I=CeO相(111)/In相(222)×100[%]
【請求項2】
酸化インジウム粉末と酸化セリウム粉末からなる原料粉末を混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼結法によって焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する酸化物焼結体の製造方法であって、
原料粉末の平均粒径を1.5μm以下とし、該原料粉末を混合した後、成形し、得られた成形物を焼結して、焼結後、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第二相として蛍石型構造のCeO相からなる平均粒径3μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体となることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の酸化物焼結体の製造方法において、成形物を常圧焼成法で、酸素ガスを含有する雰囲気中、焼結温度を1250〜1650℃とし、焼結時間を10〜30時間として、スパッタリング法による透明導電膜の形成に用いられるターゲット用の酸化物焼結体を得ることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
請求項に記載の酸化物焼結体の製造方法において、ホットプレス法で、原料粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中で、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結して、スパッタリング法による透明導電膜の形成に用いられるターゲット用の酸化物焼結体を得ることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化物焼結体を加工して得られ、酸化物焼結体の密度が6.3g/cm以上であるスパッタリング用ターゲット。
【請求項6】
インジウムとセリウムの酸化物からなり、セリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%である透明導電膜であって、
該透明導電膜は、ビックスバイト型構造のIn相のみからなる結晶質で、セリウムがIn相に固溶しており、かつキャリア移動度が35cm−1−1以上であることを特徴とする透明導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、および透明導電膜に関し、より詳しくは、青色LEDや太陽電池に適した透明導電膜の高速成膜とノジュールレス成膜を実現できるスパッタリング用ターゲット、それを得るために最適な酸化物焼結体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域における高い透過率とを有するため、太陽電池や液晶表示素子、その他各種受光素子の電極などに利用されている。そのほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなどのための各種の防曇用の透明発熱体としても利用されている。
実用的な透明導電膜としてよく知られているものには、酸化スズ(SnO)系、酸化亜鉛(ZnO)系、酸化インジウム(In)系の薄膜がある。酸化スズ系では、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO)やフッ素をドーパントとして含むもの(FTO)が利用され、酸化亜鉛系では、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO)やガリウムをドーパントとして含むもの(GZO)が利用されている。しかし、最も工業的に利用されている透明導電膜は、酸化インジウム系である。その中でもスズをドーパントとして含む酸化インジウムは、ITO(Indium−Tin−Oxide)膜と称され、特に低抵抗の膜が容易に得られることから、幅広く利用されている。
低抵抗の透明導電膜は、太陽電池、液晶、有機エレクトロルミネッセンスおよび無機エレクトロルミネッセンスなどの表面素子や、タッチパネルなど、幅広い用途で好適に用いられる。これらの透明導電膜の製造方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法が良く用いられている。特にスパッタリング法は、蒸気圧の低い材料の成膜の際や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的に広範に利用されている。
【0003】
スパッタリング法では、薄膜の原料としてスパッタリング用ターゲットが用いられる。ターゲットは、成膜したい薄膜の構成元素を含む固体材料であり、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などの焼結体や、場合によっては単結晶が使われる。この方法では、一般に真空装置を用い、一旦高真空にした後、希ガス(アルゴン等)を導入し、約10Pa以下のガス圧のもとで、基板を陽極とし、ターゲットを陰極とし、これらの間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによって弾き飛ばされるターゲット成分の粒子を、基板上に堆積させて膜を形成する。
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いるものは高周波スパッタリング法といい、直流プラズマを用いるものは直流スパッタリング法という。
一般に、直流スパッタリング法は、高周波スパッタリング法と比べて成膜速度が速く、電源設備が安価であり、成膜操作が簡単であるなどの理由で、工業的に広範に利用されている。しかし、絶縁性ターゲットでも成膜することができる高周波スパッタリング法に対して、直流スパッタリング法では、導電性のターゲットを用いなければならない。
スパッタリングの成膜速度は、ターゲット物質の化学結合と密接な関係がある。スパッタリングは、運動エネルギーをもったアルゴン陽イオンがターゲット表面に衝突して、ターゲット表面の物質がエネルギーを受け取って弾き出される現象であり、ターゲット物質のイオン間結合もしくは原子間結合が弱いほど、スパッタリングによって飛び出す確率は増加する。
【0004】
ITOなどの酸化物の透明導電膜をスパッタリング法で成膜する際には、膜の構成金属の合金ターゲット(ITO膜の場合はIn−Sn合金)を用いてアルゴンと酸素の混合ガス中における反応性スパッタリング法によって酸化物膜を成膜する方法と、膜の構成金属の酸化物からなる焼結体ターゲット(ITO膜の場合はIn−Sn−O焼結体)を用いてアルゴンと酸素の混合ガス中でスパッタリングを行う反応性スパッタリング法によって酸化物膜を成膜する方法がある。
このうち合金ターゲットを用いる方法は、スパッタリング中に酸素ガスを多めに供給するが、膜の特性(比抵抗、透過率)は、成膜速度や成膜中に導入する酸素ガス量に対する依存性が極めて大きく、一定の膜厚、特性の透明導電膜を安定して製造することはかなり難しい。
一方、金属酸化物ターゲットを用いる方法は、膜に供給される酸素の一部がターゲットからスパッタリングにより供給されるので、残りの不足酸素量を酸素ガスとして供給するが、膜の特性(比抵抗、透過率など)は、成膜速度や成膜中に導入する酸素ガス量に対する依存性が合金ターゲットを用いる時よりも小さく、一定の膜厚で、一定の特性の透明導電膜を安定して製造することができるため、工業的には酸化物ターゲットを用いる方法が採られている。
【0005】
このような背景から、透明導電膜をスパッタリング法で成膜して量産する場合には、金属酸化物ターゲットを用いた直流スパッタリング法が主に採用されている。ここで生産性や製造コストを考慮すると、直流スパッタリング時の酸化物ターゲットの特性が重要となる。すなわち、同一の電力を投入した場合に、より高い成膜速度が得られる酸化物ターゲットが有用である。さらに、高い直流電力を投入するほど成膜速度が上がるため、工業的には、高い直流電力を投入しても、ターゲットの割れやノジュール発生によるアーキングなどの異常放電が起こらずに、安定して成膜することが可能な酸化物ターゲットが有用となる。
ここでノジュールとは、ターゲットがスパッタリングされていくと、ターゲット表面のエロージョン部分(ターゲットの、スパッタリングされている部分を言う)に、エロージョン最深部のごくわずかな部分を除き、発生する黒色の析出物(突起物)のことをいう。一般に、ノジュールは、外来の飛来物の堆積や表面での反応生成物ではなく、スパッタリングによる掘れ残りであるとされている。ノジュールは、アーキングなどの異常放電の原因となっており、ノジュールの低減によってアーキングは抑制されることが知られている(非特許文献1参照)。したがって、安定した成膜を行うには、ノジュール、すなわちスパッタリングによる掘れ残りの発生しない酸化物ターゲットの使用が必要となる。
【0006】
一方、イオンプレーティング法は、10−3〜10−2Pa程度の圧力下で、金属あるいは金属酸化物を抵抗加熱あるいは電子ビーム加熱することで蒸発させ、さらに蒸発物を反応ガス(酸素)とともにプラズマにより活性化させてから基板に堆積させる方法である。透明導電膜の形成に用いるイオンプレーティング用ターゲット(タブレットまたはペレットとも呼ぶ)についても、スパッタリング用ターゲットと同様で、酸化物タブレットを用いた方が安定して一定の膜厚、一定の特性の透明導電膜を製造することができる。酸化物タブレットは均一に蒸発することが求められ、化学的な結合が安定で蒸発しにくい物質が、主相として存在する蒸発しやすい物質と共存しないほうが好ましい。
以上、ITOなどの酸化物の透明導電膜を直流スパッタリング法やイオンプレーティング法で形成するためには、ノジュール発生によるアーキングなどの異常放電が起こらずに、安定して成膜することが可能な酸化物ターゲットが重要であると言える。
【0007】
さて、上記のプロセスで形成されたITO膜などの透明導電膜の多くは、n型の縮退した半導体であり、キャリアである電子が電気伝導を高めるうえで大きく寄与する。したがって、従来から、ITO膜を低抵抗化させるために、キャリア電子濃度をできるだけ高めるようにされてきた。
ITO膜は、一般に結晶化温度が190〜200℃程度であることが知られ、この温度を境に、非晶質あるいは結晶質の膜が形成される。例えば、基板を室温に維持してスパッタリング法で膜を形成した場合には、結晶化するのに必要な熱エネルギーが与えられずに非晶質の膜となる。一方、結晶化温度以上の温度、例えば300℃程度の基板温度の場合には、結晶質の膜が形成される。
ITOの非晶質と結晶質の膜では、キャリア電子の生成機構が異なる。一般に、非晶質膜の場合は、キャリア電子のほとんど全てが酸素欠損によって生成する。一方、結晶質膜の場合には、酸素欠損だけでなく、スズのドーピング効果によるキャリア電子の生成も期待できる。
【0008】
酸化インジウムは、常圧あるいはそれよりも低い圧力で安定な立方晶系の結晶相のビックスバイト(bixbyte)と呼ばれる結晶構造をとる。ビックスバイト構造における3価のインジウムの格子点に、4価のスズが置き換わることでキャリア電子が生成する。スズはドーパントとして最もキャリア電子濃度を高めることが可能な元素であり、酸化スズ換算で10重量%添加すると最も低抵抗になることが知られている。すなわち、ITO膜を結晶質とすることによって、酸素欠損とスズのドーパントの双方によってキャリア電子が多量に生成するため、酸素欠損のみの非晶質の膜より低い電気抵抗を示す膜を形成することが可能である。
【0009】
しかし、近年、進歩の著しいLED(Light Emitting Diode)や太陽電池では、ITOでは達成することの困難な特性が必要とされる場合が出てきている。それらの一例として、青色LEDでは、光の取り出し効率を高めるために、波長460nm付近の青色光に対する透明導電膜の屈折率が高いことが必要とされている。青色LEDの発光層には窒化ガリウム層が用いられる。窒化ガリウム層の光学的な特徴として、屈折率が約2.4と高い点が挙げられる。発光層からの光の取り出し効率を高めるためには、透明導電膜と窒化ガリウム層との屈折率の整合性をよくする必要があり、透明導電膜には2.4にできるだけ近い屈折率が求められる。屈折率は物質固有の値であり、一般に知られる酸化インジウムの屈折率は1.9〜2.0と低い。また、透明導電膜には低い表面抵抗が求められる。窒化ガリウム層の電気的な特徴として、膜面方向の電流拡散が十分でないことがその理由である。しかし、キャリア電子濃度を高めて電気抵抗を下げようとすると、酸化インジウム系の透明導電膜の屈折率は、1.9〜2.0よりさらに低下し、1.8〜1.9を示すようになる。前記の通り、ITO膜は、ドーパントであるスズによってキャリア電子濃度が著しく高められた材料であるため、このように低抵抗の結晶膜を得ようとすると屈折率が低下してしまい、これが解決すべき課題となっていた。
また、屈折率や比抵抗以外にも、ITO膜よりも優れた、ウエットエッチングによるパターニング性などの特性が要求される。前述の青色LEDにおいても、低温で形成された非晶質の透明導電膜に、弱酸によるウエットエッチングによるパターニングを施し、その後、非酸化性雰囲気中の熱処理によって非晶質の透明導電膜を結晶化させて低抵抗化させるプロセスが好ましい。このプロセスを用いることによって、高精細にパターニングされた透明電極を形成することが可能である。
【0010】
透明導電膜の他の用途例として、太陽電池がある。太陽電池の表面電極として用いる場合、可視光だけでなく、赤外光の透過率が高い透明導電膜であれば、太陽光を効率よく取り込むことができる。ITO膜は、比抵抗を低くすることができるが、キャリア電子濃度が高いため、赤外光の反射率や吸収が高く、透過率が低くなってしまうことが問題であった。
また、裏面電極の一部として用いられる場合には、太陽光の取り込み効率を高めることを目的として、モジュール全体の屈折率調整を行うために屈折率を高めた透明導電膜を用いることがあるが、この場合でも、青色LED用途と同じ理由から、ITO膜では不十分であった。ただし、太陽電池用途では、青色LEDのように、弱酸によるウエットエッチングによる高精細なパターニングは必要とはされない。
【0011】
酸化インジウム系透明導電膜の屈折率を高める方法の一つとして、高い屈折率を示す酸化物を添加する方法がある。
特許文献1には、銀系薄膜上にスパッタリング法にて防湿性に優れた透明薄膜を効率的に成膜でき、しかもこの成膜時に上記銀系薄膜が損傷を受け難いスパッタリングターゲットが記載され、銀との固溶域を実質的に持たない金属元素の酸化物を含有する導電性透明金属酸化物にて構成され、銀との固溶域を実質的に持たない上記金属元素の含有割合が導電性透明金属酸化物の金属元素に対し5〜40atom%(原子%)であるスパッタリングターゲットが提案されている。具体的には、銀との固溶域を実質的に持たない金属元素として少なくともチタン元素又はセリウム元素を含むことが好ましいことが記載され、同様に適用できる金属元素として、ジルコニウム元素、ハフニウム元素、タンタル元素があげられている。また、導電性透明金属酸化物として酸化インジウム好ましいことが記載されている。
また、特許文献1には、銀との固溶域を実質的に持たない金属元素であるチタン元素又はセリウム元素の金属酸化物は2.3以上の高屈折率を有しており、かつ、該高屈折率材料として、チタン元素とセリウム元素の合計の含有割合が導電性透明金属酸化物の金属元素に対し5〜40atom%となる量含有しているため、このスパッタリングターゲットを用いて成膜される透明薄膜の屈折率を約2.1〜2.3まで増大させることが可能としている。
【0012】
また、特許文献2には、銀系薄膜を挟持する構成の導電膜の透明薄膜を成膜する際に適用される混合酸化物の焼結体のスパッタリングターゲットが提案されている。銀系薄膜を狭持する構成の導電膜の透明薄膜を成膜する際、耐湿性に優れた透明薄膜を効率的に成膜でき、しかもこの成膜時に上記銀系薄膜が損傷を受け難いスパッタリングターゲットとするために、具体的には、酸化インジウムと酸化セリウムを基材とする混合酸化物に、各々基材の混合割合より少ない量にて酸化スズあるいは/および酸化チタンを含有せしめた混合酸化物の焼結体を用いている。すなわち、特許文献1と同様に、酸化セリウムが高屈折率であることから、酸化インジウムと酸化セリウムの混合酸化物の屈折率も、酸化セリウムの添加割合に従って高屈折率となっている。
さらに、酸化インジウムと酸化セリウムの混合酸化物は、酸化セリウムが十分な導電性をもたないことから、酸化セリウムの混合比率を高めるに従い、その混合酸化物の焼結体を用いたターゲットの導電性は急激に低下し、直流スパッタリング法での成膜が困難な、導電性の低いターゲットとなっている。
【0013】
上記したように、特許文献1および2によれば、銀系薄膜上にスパッタリング法にて防湿性に優れた透明薄膜を効率的に成膜できることや、チタン元素又はセリウム元素の金属酸化物は2.3以上の高屈折率を有していることから、このスパッタリングターゲットを用いて成膜される透明薄膜の屈折率を約2.1〜2.3まで増大させることなどが期待される。ところが、上記したように、直流スパッタリング法を用いて透明導電膜の成膜を行って量産する場合には、工業的には、高い直流電力を投入しても、ターゲットの割れやノジュール発生によるアーキングなどの異常放電が起こらずに、安定して成膜することが可能な酸化物ターゲットが有用となるという観点からすれば、スパッタリング電圧を上げるなどして成膜速度を上げる条件を選択したときに、前記したアーキングの原因となるノジュール発生を抑制すること、あるいはイオンプレーティング法におけるスプラッシュを抑制することが必要であるが、これを可能とするような酸化物焼結体の組織等に関する検討は全くなされていない。
すなわち、上記透明導電膜の安定的な成膜に適用されるターゲットを得るための酸化物焼結体に関して、工業的に必要な特性まで考慮されてはいなかった。
【0014】
さらに、特許文献1および2においては、単純に酸化スズあるいは酸化チタンを添加することによって、ターゲットを得るための焼結体の製造方法、あるいは、導電性を向上させる方法については検討されているが、インジウムとセリウム酸化物として含有からなる酸化物焼結体の組織を詳しく解析し制御することによって焼結体密度を向上させる方法、あるいは上記のスパッタリング法を用いた成膜時におけるアーキングやイオンプレーティング法を用いた成膜時におけるスプラッシュなどを回避する方法については何ら検討されていない。また、結晶質の透明導電膜を形成した場合については、添加元素である酸化スズあるいは酸化チタンの、透明導電膜の屈折率に与える影響についても何ら検討されていない。
一方、特許文献3には、極めて平滑で、仕事関数が高く、非晶質である透明導電性薄膜と、該透明導電性薄膜を安定的に成膜可能な酸化物焼結体およびこれを用いたスパッタリングターゲットが提案され、該酸化物焼結体は、セリウムを3質量%〜20質量%、スズを0.1質量%〜4質量%、およびチタンを0.1質量%〜0.6質量%含み、残部が実質的にインジウムおよび酸素からなり、さらにセリウム、スズおよびチタンが、インジウムサイトに固溶しており、焼結密度が7.0g/cm以上であって、平均結晶粒径が3μm以下であることが望ましい旨が記載されている。
この特許文献3においても、該スパッタリングターゲットを用いて形成した結晶質の透明導電膜の屈折率を高めることに関しては何ら検討されていない。特に、スズが及ぼす低屈折率化への影響については何ら言及がない。
さらに、該酸化物焼結体については、スパッタリング中の焼結割れとその部分に発生するノジュールを抑制する目的で、セリウム、スズおよびチタンがインジウムサイトに固溶した酸化インジウムの結晶粒を平均粒径3μm以下に制御しているが、セリウムが酸化インジウムに固溶せずに酸化セリウムの結晶粒として存在し、それがノジュールの起点となるという問題に関しては何ら検討されていない。
以上のように、低い比抵抗と高い屈折率を有するインジウムとセリウムを含有する酸化物焼結体に関する従来技術では、結晶質の透明導電膜を量産する上で重要となる、スパッタリング成膜におけるノジュール抑制あるいはイオンプレーティング成膜におけるスプラッシュ防止などについて十分な検討がなされておらず、これら課題を解決したインジウムとセリウムからなる酸化物焼結体の出現が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−260134号公報
【特許文献2】特開平9−176841号公報
【特許文献3】特開2005−320192号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「透明導電膜の技術(改訂2版)」、オーム社、2006年12月20日発行、p.238〜239
【非特許文献2】「透明導電膜の新展開」、シーエムシー、1999年3月1日発行、p.117〜125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、低い比抵抗と高い屈折率を有し、結晶質の透明導電膜を、高い成膜速度と、ならびに、スパッタリング成膜におけるノジュールレスを実現できるスパッタリング用ターゲット、あるいはスプラッシュ防止を実現できるイオンプレーティング用タブレット、及びそれを得るのに最適な酸化物焼結体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、インジウムとセリウムを含む酸化物からなる酸化物焼結体の構成相と組織を変えて多くの酸化物焼結体試料を作製し、これを原料としたスパッタリング法、あるいは、イオンプレーティング法により、酸化物透明導電膜を成膜し、その成膜速度などの製造条件や、アーキングの原因となるノジュール発生イオンプレーティング時のスプラッシュ発生に対して、酸化物焼結体の構成相と組織がどのように影響するかについて、詳細に検討を行った。
その結果、(1)インジウムとセリウムの酸化物からなる酸化物焼結体中のセリウム含有量をCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%とするとともに、(2)上記酸化物焼結体が実質的に、ビックスバイト型構造のIn相と蛍石型構造のCeO相で構成され、In相中に分散するCeO相からなる結晶粒の平均粒径を3μm以下に制御することで、基板上に上記透明導電膜を形成する際に投入電力を大きくして成膜速度を高めた場合でも、従来に比して、アーキングの原因となるノジュールの発生を抑制することができ、その結果、効率的にかつ安定して、低い比抵抗と高い屈折率を有する、結晶質の透明導電膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、インジウムとセリウムの酸化物からなり、セリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%である酸化物焼結体であって、該酸化物焼結体は、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第2相として蛍石型構造のCeOのみからなる平均粒径3μm以下の結晶粒微細に分散しており、かつ下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比(I)が25%以下であることを特徴とする酸化物焼結体が提供される。
I=CeO相(111)/In相(222)×100[%]
【0021】
また、本発明の第の発明によれば、酸化インジウム粉末と酸化セリウム粉末からなる原料粉末を混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼結法によって焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する酸化物焼結体の製造方法であって、原料粉末の平均粒径を1.5μm以下とし、該原料粉末を混合した後、成形し、得られた成形物を焼結して、焼結後、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第二相として蛍石型構造のCeO相からなる平均粒径3μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体となることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法が提供される。
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、成形物を常圧焼成法で、酸素ガスを含有する雰囲気中、焼結温度を1250〜1650℃とし、焼結時間を10〜30時間として、スパッタリング法による透明導電膜の形成に用いられるターゲット用の酸化物焼結体を得ることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法が提供される。
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、ホットプレス法で、原料粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中で、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結して、スパッタリング法による透明導電膜の形成に用いられるターゲット用の酸化物焼結体を得ることを特徴とする酸化物焼結体の製造方法が提供される。
【0022】
一方、本発明の第の発明によれば、第1の発明の酸化物焼結体を加工して得られ、酸化物焼結体の密度が6.3g/cm以上であるスパッタリング用ターゲットが提供される。
さらに、本発明の第の発明によれば、インジウムとセリウムの酸化物からなり、セリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%である透明導電膜であって、該透明導電膜は、ビックスバイト型構造のIn相のみからなる結晶質で、セリウムがIn相に固溶しており、かつキャリア移動度が35cm−1−1以上であることを特徴とする透明導電膜が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のインジウムとセリウムの酸化物からなる酸化物焼結体は、酸化物焼結体中のセリウム含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%であり、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第2相として蛍石型構造のCeO相が平均粒径3μm以下の結晶粒として分散しているため、スパッタリング成膜速度を高めた成膜条件への移行も可能で、透明導電膜を量産できる。その結果、効率的に、インジウムとセリウムの酸化物からなる低抵抗かつ高屈折率を有する透明導電膜を得ることができ、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、主たる結晶相のIn相に、CeO相の結晶粒を微細分散させた例として、セリウムがCe/(In+Ce)原子数比で9原子%含まれた酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像とエネルギー分散型X線分析法(EDS)による面分析結果を示す写真である。
図2図2は、インジウムおよびセリウムを酸化物として含有し、セリウムがCe/(In+Ce)原子数比で9原子%含まれた、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されている実施例1の酸化物焼結体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図3図3は、比較例3の酸化物焼結体を用いてスパッタリングしたときのアーキング発生状況を示すグラフである。
図4図4は、インジウム、セリウムおよびチタンを酸化物として含有し、セリウムがCe/(In+Ce+Ti)原子数比で4原子%、チタンがTi/(In+Ce+Ti)原子数比で1原子%含まれた、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されている参考例3の酸化物焼結体のX線回折測定結果を示すチャートである。
図5図5は、主たる結晶相のIn相に、CeO相の結晶粒を微細分散させた例として、セリウムがCe/(In+Ce+Ti)原子数比で4原子%、チタンがTi/(In+Ce+Ti)原子数比で1原子%含まれた参考例3の酸化物焼結体の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像とエネルギー分散型X線分析法(EDS)により面分析した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の酸化物焼結体とその製造方法、ターゲット、および透明導電膜について図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
1.酸化物焼結体
本発明は、インジウムとセリウムの酸化物からなり、セリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%である酸化物焼結体であって、
該酸化物焼結体は、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第2相として蛍石型構造のCeOのみからなる平均粒径3μm以下の結晶粒微細に分散しており、かつ前記の式で定義されるX線回折ピーク強度比(I)が25%以下のものである。
【0027】
上記したように、従来、インジウムとセリウムを含む酸化物からなる透明導電膜の形成を目的としたスパッタリング用ターゲットでは、該酸化物焼結体の構成相や組織の最適化などが十分に検討されていないために、スパッタリング法で酸化物透明導電膜を得るときに、アーキングの原因となるターゲット表面のノジュール発生を抑制できず、透明導電膜を高速で製造できなかった。本発明では、インジウムとセリウムからなる酸化物焼結体を、その構成相と組織の面から詳しく検討し、酸化物透明導電膜の成膜速度への影響や、成膜時のアーキングの原因となるターゲット表面のノジュール発生への影響を解明したものである。
【0028】
本発明の酸化物焼結体は、インジウムとセリウムの酸化物からなり、さらにセリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%であり、かつビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第二相として蛍石型構造のCeO相が平均粒径3μm以下の結晶粒として微細に分散している。
【0029】
(a)組成
本発明の酸化物焼結体は、スパッタリング法やイオンプレーティング法により、低い比抵抗と高い屈折率を有する結晶質の透明導電膜が得られるように、セリウムの含有量がCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%であることが必要である。
酸化物焼結体のセリウム含有量が、Ce/(In+Ce)原子数比で0.3原子%未満の場合は、これを原料として形成された透明導電膜において、最低限必要なキャリア電子が生成されず好ましくない。酸化物焼結体を原料として形成された透明導電膜が、高い移動度によって低い比抵抗を示すためには、酸素欠損によって生成するキャリア電子に加え、セリウムのドーピングによる少量のキャリア電子を生成させることが必要である。なお、スズは、酸化インジウムに添加した場合のキャリア電子生成の効果が著しく高いため、含有させてはならない。スズと比較して、前記効果はやや劣るが、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、およびテルルなどの元素も同様の理由から、含有させるのは好ましくない。ただし、上記特性に影響を与えない程度の量の不可避不純物については、その限りではない。
一方、酸化物焼結体のセリウム含有量が、Ce/(In+Ce)原子数比で9原子%を超える場合には、酸化物焼結体中に分散する蛍石型構造のCeO相の割合が増加してしまい、CeO相は、In相と比較すると電気抵抗が高く成膜速度が低下し、工業的に生産効率が低下してしまう。また、過剰のCeを添加すると、形成される結晶質の透明導電膜の比抵抗が高くなってしまい、青色LEDや太陽電池の透明電極として使用する場合に必要な8×10−4Ω・cm以下とすることが困難である。
【0030】
本発明の酸化物焼結体は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、およびタングステンからなる金属元素、あるいはシリコン、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、およびテルルなどの金属元素を含有しないが、上記特性に影響を与えない程度の量の不可避不純物については、その限りではない。
【0031】
(b)生成相とその形態
本発明の酸化物焼結体は、上記組成範囲であるだけでなく、その組織がビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第2相として蛍石型構造のCeO相が平均粒径3μm以下の結晶粒として微細に分散していることが必要である。
【0032】
上記の主相であるビックスバイト型構造のIn相には、セリウムはほとんど固溶しない。一方、分散相である蛍石型構造のCeO相にもインジウムはほとんど固溶しない。ただし、両相において、非平衡的にインジウムの一部がセリウムによって置換されるか、あるいは、セリウムの一部がインジウムによって置換されていてもよく、化学量論組成からの多少のずれ、金属元素の欠損、または酸素欠損を含んでいても構わない。
前記特許文献3では、酸化物焼結体であるIn相のインジウムサイトにセリウム、スズおよびチタンが固溶すると記載されている。本来、In相にはセリウムは固溶しにくいが、特許文献3の場合には、主にスズを含むことによってセリウムが固溶しやすくなったものと推定される。また、前記特許文献1および2でも、ほとんどの実施例においてスズやチタンがセリウムに対して比較的高い組成比で含まれるため、同様にセリウムが固溶しやすくなったものと推定される。しかし、本発明の組成範囲を超えるような、多量のセリウムを添加する場合はその限りではなく、例えばIn、Ce、Sn、Tiのいずれかを含む複合酸化物などが別の相として形成される可能性がある。
また、本発明の酸化物焼結体は、上記のようにセリウムがほとんど固溶しないビックスバイト型構造のIn相の主相と、第2相である蛍石型構造のCeO相の関係が、下記の式(1)で定義されるX線回折ピーク強度比(I)で表され、該X線回折ピーク強度比が25%以下であることが必要である。特に、X線回折ピーク強度比が20%以下であることが好ましい。X線回折ピーク強度比が25%を超えると、スパッタリングの際にアーキングが頻発するようになり好ましくない。
I=CeO相(111)/In相(222)×100[%] (1)
第2相として蛍石型構造のCeO相は、平均粒径3μm以下の結晶粒として微細に分散していなければならず、結晶粒が平均粒径3μmを超えるとスパッタリングの際にアーキングが頻発するようになり好ましくない。結晶粒の平均粒径は、2μm以下であることがより好ましい。
【0033】
(c)焼結体組織とノジュール
本発明の酸化物焼結体は、直流スパッタリング時にノジュールが生じにくい焼結体組織を有している。
インジウムとセリウムの酸化物からなる酸化物焼結体を加工して、例えば、直流スパッタリング用ターゲットとした場合、該ターゲット表面には、主相のIn相と第二相としてのCeO相の結晶粒が存在するが、このうちCeO相の結晶粒径や分散状態によって、ターゲット表面にノジュールが発生する問題が起こる場合がある。CeO相は、In相と比較すると電気抵抗が高く、スパッタリングされにくいという特徴を有している。一般的なITOの酸化物焼結体は、Snが固溶した、平均粒径10μm程度の粗大なIn相の結晶粒で構成されているが、上記組成範囲のインジウムとセリウムの酸化物からなる酸化物焼結体が、ITO焼結体と同じように、In相、CeO相とも粗大な結晶粒で構成されている場合は、In相の結晶粒が優先的にスパッタリングされる一方で、CeO相の結晶粒のスパッタリングは進行せず、CeO相の粗大な結晶粒がターゲット表面に掘れ残ってしまう。この掘れ残りが起点となって、次第にノジュールが成長するようになり、アーキングなどの異常放電が頻発するようになってしまう。
【0034】
このように掘れ残りによって形成されたノジュールを抑制するためには、上記組成範囲のインジウムとセリウムの酸化物からなる酸化物焼結体の組織を微細化することが必要である。すなわち、該酸化物焼結体中のCeO相の結晶粒を微細分散させることが必要である。CeO相は還元状態で導電性を有するため、それ自身が異常放電の原因となることはなく、微細分散されることによってノジュール成長の起点となりにくい。
図1に、CeO相の結晶粒を主相であるIn相中に微細分散させた参考例として、セリウムがCe/(In+Ce)原子数比で9原子%含まれた酸化物焼結体を挙げて、その破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像とエネルギー分散型X線分析法(EDS)による面分析の結果を示す。写真左上の二次電子像では判別できないが、写真右下の面分析結果では、主相であるIn相と第2相であるCeO相が明確に識別される。これは、ビックスバイト型構造のIn相にはセリウムがほとんど固溶せず、また分散相である蛍石型構造のCeO相にもインジウムがほとんど固溶しないためであると考えられる。ここで、CeO相の結晶粒は、平均粒径が3μm以下で1μm以下のものが多く、また、この酸化物焼結体を加工したターゲットを用いると、スパッタリングにおいて掘れ残りを起点としたノジュール発生はほとんど起こらないことが確認された。これにより、図1のように、In相を主相として、第2相のCeO相が微細分散された組織であればスパッタリングの進行に伴い生成されがちなノジュールの抑制に有効であることが明らかである。
また、図5に、主たる結晶相のIn相に、CeO相の結晶粒を微細分散させた例として、セリウムがCe/(In+Ce)原子数比で4原子%、チタンがTi/(In+Ce+Ti)原子数比で1原子%含まれた実施例3の酸化物焼結体の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像とエネルギー分散型X線分析法(EDS)によって面分析した結果を示す。写真左上の二次電子像では判別できないが、写真下中央の面分析結果では、主相であるIn相と第2相であるCeO相が明確に識別される。これは、ビックスバイト型構造のIn相にはセリウムがほとんど固溶せず、また分散相である蛍石型構造のCeO相にもインジウムがほとんど固溶しないためであると考えられる。そして、写真右下の面分析結果では、一部の結晶粒にインジウムとチタンが共存している様子が観察されることから、主相であるIn相にTiが固溶していると判断される。ここで、CeO相の結晶粒は、平均粒径が3μm以下で1μm以下のものが多く、また、この酸化物焼結体を加工したターゲットを用いると、スパッタリングにおいて掘れ残りを起点としたノジュール発生はほとんど起こらないことが確認された。これにより、図5のように、In相を主相として、第2相のCeO相が微細分散された組織であればスパッタリングの進行に伴い生成されがちなノジュールの抑制に有効であることが明らかである。
【0035】
上記のように、ノジュール抑制のためには、CeO相からなる結晶粒の平均粒径が3μm以下であることが必要である。さらには、2μm以下に制御されることが好ましい。なお、酸化物焼結体中のセリウム含有量が0.3原子%未満の場合は、微細なCeO相の結晶粒が均一に分散されなくなり、本発明のノジュール抑制方法が有効でなくなる。
このように本発明では、酸化物焼結体中のCeO相の分散状態が規定されるとともに、In相との構成比も規定される。本発明の酸化物焼結体における、主相のIn相と分散相のCeO相の構成比は、前出の(1)式で定義されるX線回折ピーク強度比(I)が25%以下である。
また、本発明では、酸化物焼結体を構成する結晶粒を微細化することによって、強度を向上させている。すなわち、スパッタリング時に投入する直流電力を高めたことにより熱などによる衝撃を受けても、酸化物焼結体が割れにくいものとなる。
【0036】
2.酸化物焼結体の製造方法
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、酸化インジウム粉末と酸化セリウム粉末からなる原料粉末を混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼成法によって、焼結する。あるいは上記混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する。
上記原料粉末の平均粒径を1.5μm以下とし、焼結後の酸化物焼結体が、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第二相として蛍石型構造のCeO相からなる平均粒径3μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体が得られるのに十分な温度、時間で加熱処理する。これにより、ビックスバイト型構造のIn相が主たる結晶相となり、第二相として蛍石型構造のCeO相からなる平均粒径3μm以下、より好ましくは2μm以下の結晶粒が微細分散した酸化物焼結体とすることができる。
【0037】
すなわち、上記の相構成ならびに各相の組成を有する酸化物焼結体は、その性能が、酸化物焼結体の製造条件、例えば原料粉末の粒径、混合条件および焼成条件に大きく依存する。
本発明の酸化物焼結体は、平均粒径1.5μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化セリウム粉末を原料粉末として用いることが必要である。
【0038】
上記したように、原料粉末の平均粒径を1.5μm以下とすることにより、本発明の酸化物焼結体の組織は、ビックスバイト型構造のIn相が主相であって、蛍石型構造のCeO相からなる第二相が存在するが、CeO相からなる結晶粒は、主相に対して微細かつ均一に分散しており、結晶粒の平均粒径が3μm以下とすることが可能となる。さらに、酸化インジウム粉末および酸化セリウム粉末を平均粒径1μm以下に調整することによって、第二相のCeO相からなる結晶粒の平均粒径を2μm以下に制御することが可能となる。
原料粉末として、平均粒径が1.5μmを超えた酸化インジウム粉末や酸化セリウム粉末、および酸化チタン粉末などを用いると、得られる酸化物焼結体中に主相となるIn相とともに存在する、第二相のCeO相からなる結晶粒の平均粒径が3μmを超えてしまう。
【0039】
非特許文献2には、ITOの焼結メカニズムについて、焼結時にITO成形体を加熱・昇温する速度を一定の速度より速くすると、緻密化が進行しにくい蒸発・凝縮機構、あるいは、表面拡散機構によるネックの成長および粒成長が起きる時間が短縮され、焼結の駆動力が温存された状態で体積拡散の温度域へ達することができるために、緻密化が進み、焼結密度が向上することが説明されている。この場合、原料粉末の粒径に相当する焼結前の粒子間距離dは、焼結過程の体積拡散による物質移動によって、d’に縮む。このように、原料粉末の粒子2個の焼結に限った場合、焼結体の結晶粒径は2d’になる。ただし、通常は、同種の酸化物の粒子が複数個隣接するため、最終的に焼結体の結晶粒径は2d’を超えるものと考えられる。
本発明のように、酸化インジウムにセリウムがほとんど固溶しない場合、焼結体の酸化セリウム相の結晶粒径を小さくするためには、酸化セリウム原料粉末の粒径を小さくすることが重要となる。
前記の通り、CeO相の平均粒径が3μmを超える大きな結晶粒はスパッタリングされにくく、掘れ残りやすい。このためスパッタリングを続けると、ターゲット表面で比較的大きな残留物となり、これがノジュールの起点となって、アーキングなど異常放電の原因となってしまう。
【0040】
酸化インジウム粉末は、ITO(インジウム−スズ酸化物)の原料であり、焼結性に優れた微細な酸化インジウム粉末の開発は、ITOの改良とともに進められてきた。そして、現在でもITO用原料として大量に使用されているため、平均粒径1.5μm以下、より好ましくは1μm以下の原料粉末を入手することは容易である。
ところが、酸化セリウム粉末の場合、酸化インジウム粉末に比べて使用量が少ないため、焼結体製造用の原料粉末として、平均粒径1.5μm以下、より好ましくは1μm以下に相応しい粉末を、粉砕等を行わずそのまま利用できる状態で入手することは困難である。したがって、粗大な酸化セリウム粉末を平均粒径1.5μm、より好ましくは1μm以下まで粉砕することが必要となる。
【0041】
本発明の酸化物焼結体を得るためには、上記平均粒径を有する酸化インジウム粉末と酸化セリウム粉末からなる原料粉末を混合した後、混合粉末を成形し、成形物を常圧焼結法によって焼結するか、あるいは混合粉末をホットプレス法によって成形し焼結する。常圧焼結法は、簡便かつ工業的に有利な方法であって好ましい手段であるが、必要に応じてホットプレス法も用いることができる。
【0042】
1)常圧焼結法
本発明の酸化物焼結体を得るために常圧焼結法を用いる場合、まず成形体を作製する。上記原料粉末を樹脂製ポットに入れ、バインダー(例えば、PVAを用いる)などとともに湿式ボールミル等で混合する。本発明の酸化物焼結体を得るためには、上記ボールミル混合を18時間以上行うことが好ましい。この際、混合用ボールとしては、硬質ZrOボールを用いればよい。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒を行う。その後、得られた造粒物を、冷間静水圧プレスで9.8MPa(0.1ton/cm)〜294MPa(3ton/cm)程度の圧力をかけて成形し、成形体とする。
常圧焼結法の焼結工程では、酸素の存在する雰囲気において所定の温度範囲に加熱する。1250〜1650℃、より好ましくは焼結炉内の大気に酸素ガスを導入する雰囲気において1300〜1500℃で焼結する。焼結時間は10〜30時間であることが好ましく、より好ましくは15〜25時間である。
焼結温度を上記範囲とし、前記の平均粒径1.5μm以下、より好ましくは1μm以下に調整した酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末を原料粉末として用いることで、In相マトリックス中に、結晶粒の平均粒径が3μm以下、より好ましくは2μm以下のCeO相からなる結晶粒が微細分散した緻密な酸化物焼結体を得ることが可能である。
焼結温度が低すぎると焼結反応が十分進行しない。特に密度6.0g/cm以上の高密度の酸化物焼結体を得るためには、1250℃以上が望ましい。一方、焼結温度が1650℃を超えると、酸化物焼結体中のCeO相の結晶粒成長が著しくなってしまう。この粗大化したCeO相の結晶粒がアーキングの原因となってしまう。
【0043】
特許文献3では、特許文献1および2も同様であるが、従来技術ではインジウムおよびセリウムの他に相当量のチタンやスズを入れているため、酸化インジウム相にセリウムが固溶するが、本発明では、チタンやスズを含んでいないため、酸化インジウム相にセリウムが固溶しないことが特徴となっている。
焼結雰囲気は、酸素の存在する雰囲気が好ましく、焼結炉内の大気に酸素ガスを導入する雰囲気であれば、なお一層好ましい。焼結時の酸素の存在によって、酸化物焼結体の高密度化が可能となる。焼結温度まで昇温する場合、焼結体の割れを防ぎ、脱バインダーを進行させるためには、昇温速度を0.2〜5℃/分の範囲とすることが好ましい。また、必要に応じて、異なる昇温速度を組み合わせて、焼結温度まで昇温するようにしてもよい。昇温過程において、脱バインダーや焼結を進行させる目的で、特定温度で一定時間保持してもよい。焼結後、冷却する際は酸素導入を止め、1000℃までを0.2〜10℃/分、0.2〜5℃/分が好ましく、特に、0.2℃〜1℃/分の範囲の降温速度で降温することが好ましい。
【0044】
2)ホットプレス法
本発明において、酸化物焼結体の製造にホットプレス法を採用する場合、混合粉末を不活性ガス雰囲気又は真空中において、2.45〜29.40MPaの圧力下、700〜950℃で1〜10時間成形し焼結する。ホットプレス法は、上記の常圧焼結法と比較して、酸化物焼結体の原料粉末を還元雰囲気下で成形、焼結するため、焼結体中の酸素含有量を低減させることが可能である。しかし、950℃を超える高温で成形焼結すると、酸化インジウムが還元され、金属インジウムとして溶融するため注意が必要である。
【0045】
次に、ホットプレス法により、本発明の酸化物焼結体を得る場合の製造条件の一例を挙げる。すなわち、まず、平均粒径1.5μm以下、より好ましくは1μm以下の酸化インジウム粉末、ならびに平均粒径1.5μm以下、より好ましくは1μm以下の酸化セリウム粉末を原料粉末とし、これらの粉末を、所定の割合になるように調合する。
調合した原料粉末を、常圧焼結法のボールミル混合と同様、好ましくは混合時間を18時間以上とし、十分混合し造粒までを行う。次に、造粒した混合粉末をカーボン容器中に給粉してホットプレス法により焼結する。焼結温度は700〜950℃、圧力は2.45MPa〜29.40MPa(25〜300kgf/cm)、焼結時間は1〜10時間程度とすればよい。ホットプレス中の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス中または真空中が好ましい。
スパッタリング用ターゲットを得る場合、より好ましくは、焼結温度は800〜900℃、圧力は9.80〜29.40MPa(100〜300kgf/cm)、焼結時間は1〜3時間とすればよい。
【0046】
3.スパッタリング用ターゲット
本発明の酸化物焼結体は、所定の大きさに切断し、表面を研磨加工し、バッキングプレートに接着してスパッタリング用ターゲットとなる。
【0047】
スパッタリング用ターゲットの密度は、6.3g/cm以上、好ましくは6.8g/cm以上、特に7.0g/cm以上であることが好ましい。密度が6.3g/cm未満である場合、クラックや割れ、ノジュール発生の原因となる。
密度が6.3g/cmを下回ると、焼結体自体の強度が劣るため、僅かな局所的熱膨張に対してもクラックや割れが起こりやすくなる。
【0048】
4.インジウムとセリウムの酸化物からなる透明導電膜とその成膜方法
本発明では、上記の酸化物焼結体をスパッタリング用ターゲットとして用い、基板上に、主に結晶質の透明導電膜を形成する。
基板としては、ガラス、合成石英、PETやポリイミドなどの合成樹脂、ステンレス板など用途に応じて各種の板又はフィルムが使用できる。特に、結晶質の透明導電膜を形成する場合には加熱が必要となるため、耐熱性を有する基板であることが必要となる。
スパッタリング法では、透明導電膜の成膜速度を向上させるために、投入する直流電力を高めることが一般的に行われている。これまで述べてきたように、本発明の酸化物焼結体においては、In相を主たる相とし、第二相であるCeO相の結晶粒が平均粒径3μm以下、より好ましくは2μm以下で均一に微細分散されているため、ノジュール成長の起点となりにくい。したがって、投入する直流電力を高めても、ノジュール発生は抑制され、その結果アーキングなどの異常放電を抑え込むことができる。
【0049】
1)スパッタリング法による成膜
透明導電膜をスパッタリング法で基板上に形成する場合、密度が6.3g/cm以上の酸化物焼結体を加工して得られるスパッタリング用ターゲットを使用する。スパッタリング法としては、高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法とも言う)やパルススパッタリング法でもよいが、特に、直流スパッタリング法(DCスパッタリング法とも言う)によれば、成膜時の熱影響が少なく、高速成膜が可能であるため工業的に有利である。なお、パルススパッタリング法とは、高周波スパッタリング法における一般的な周波数13.56MHzよりも低い数百kHzの周波数を採用したり、印加電流・印加電圧の波形を変化(例えば矩形状に変化)させたりする方法である。透明導電膜を直流スパッタリング法で形成するには、スパッタリングガスとして不活性ガスと酸素、特にアルゴンと酸素からなる混合ガスを用いることが好ましい。また、スパッタリング装置のチャンバー内を0.1〜1Pa、特に0.2〜0.8Paの圧力として、スパッタリングすることが好ましい。
【0050】
本発明においては、例えば、2×10−4Pa以下まで真空排気後、アルゴンと酸素からなる混合ガスを導入し、ガス圧を0.2〜0.5Paとし、ターゲットの面積に対する直流電力、すなわち直流電力密度が1〜3W/cm程度の範囲となるよう直流電力を印加して直流プラズマを発生させ、プリスパッタリングを実施することができる。このプリスパッタリングを5〜30分間行った後、必要により基板位置を修正したうえでスパッタリングすることが好ましい。
本発明では、基板を加熱せずに室温で成膜できるが、基板を50〜500℃、特に250〜500℃に加熱することもできる。例えば、高精細の透明電極を必要とする青色LEDでは、非晶質の透明導電膜を一旦形成し、弱酸を用いたウエットエッチングによるパターニングを施した後に、非酸化性雰囲気での熱処理によって結晶化させて低抵抗化させるため、成膜時の基板は室温近傍など低温に維持したほうがよい。他に、太陽電池では、弱酸を用いたウエットエッチングによるパターニングを必要としないため、基板温度を250℃以上の高温に維持して、結晶質の透明導電膜を形成する。また、用途によっては、基板が樹脂板、樹脂フィルムなど低融点のものを用いるため、この場合は加熱しないで成膜することが望ましい。
【0051】
2)得られる透明導電膜
このように、本発明の酸化物焼結体から作製したスパッタリング用ターゲットを用いることで、光学特性、導電性に優れた非晶質あるいは結晶質の透明導電膜を、直流スパッタリング法によって、比較的高い成膜速度で、基板上に製造することができる。
得られる透明導電膜の組成は、スパッタリング用ターゲットの組成とほぼ同じになる。膜厚は、用途により異なるが、10〜1000nmとすることができる。なお、非晶質の透明導電膜は、不活性ガス雰囲気下、300〜500℃に10〜60分間加熱して、結晶質とすることができる。
結晶質の透明導電膜の比抵抗は、抵抗率計による四探針法によって測定した表面抵抗と膜厚の積から算出され、8×10−4Ω・cm以下である。なお、非晶質であっても、比抵抗を8×10−4Ω・cm以下を示すことは十分可能である。結晶質の透明導電膜のキャリア電子濃度および移動度は、ホール効果測定より求められ、35cm−1−1以上である。この膜の生成相は、X線回折測定によって同定され、酸化物焼結体とは異なり、酸化インジウム相のみである。また、屈折率は、分光エリプソメーターによって測定され、波長460nmで、2.1以上である。
なお、本発明の酸化物焼結体から形成した結晶質あるいは非晶質の透明導電膜は、低比抵抗は必要とせず、高屈折率のみを必要とする用途、例えば光ディスクの用途などにも好適である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例、比較例を用いて、本発明を具体的に示すが、本発明は、これらによって何ら限定されるものではない。
【0053】
(酸化物焼結体の評価)
得られた酸化物焼結体の密度は、端材を用いて、アルキメデス法で求めた。続いて得られた酸化物焼結体の生成相は、端材の一部を粉砕し、X線回折装置(フィリップス製X‘pertPRO MPD)を用いて粉末法により同定を行った。そして、下記の式で定義されるX線回折ピーク強度比(I)を求めた。
I=CeO相(111)/In相(222)×100[%] (1)
また、粉末の一部を用いて、酸化物焼結体のICP発光分光法による組成分析を行った。さらに、走査電子顕微鏡ならびにエネルギー分散型X線分析法(SEM−EDS,カールツァイス製ULTRA55およびブルカー製QuanTax QX400)を用いて、酸化物焼結体の組織観察ならびに面分析を行った。これらの像の画像解析結果から、CeO相の結晶粒の平均粒径を求めた。
【0054】
(透明導電膜の基本特性評価)
得られた透明導電膜の組成をICP発光分光法によって調べた。透明導電膜の膜厚は、表面粗さ計(テンコール社製Alpha−Step IQ)で測定した。成膜速度は、膜厚と成膜時間から算出した。膜の比抵抗は、抵抗率計(ダイアインスツルメンツ社製ロレスタEP MCP−T360型)による四探針法によって測定した表面抵抗と膜厚の積から算出した。膜のキャリア電子濃度および移動度は、ホール効果測定より求めた。膜の生成相は、酸化物焼結体と同様、X線回折測定によって同定した。また、屈折率を分光エリプソメーター(J.A.Woolam製 VASE)によって測定し、特に青色光に対する特性を評価するため、波長460nmの屈折率を比較した。
【0055】
(実施例1)
酸化インジウム粉末および酸化セリウム粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末とした。セリウム含有量がCe/(In+Ce)原子数比で9原子%となるように、これらの粉末を調合し、水とともに樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrOボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。造粒物を、冷間静水圧プレスで3ton/cmの圧力をかけて成形した。
次に、成形体を次のように焼結した。炉内容積0.1m当たり5リットル/分の割合で、焼結炉内の大気に酸素を導入する雰囲気で、1400℃の焼結温度で20時間焼結した。この際、1℃/分で昇温し、焼結後の冷却の際は酸素導入を止め、1000℃までを10℃/分で降温した。
得られた酸化物焼結体を、直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタリング面をカップ砥石で最大高さRzが3.0μm以下となるように磨いた。加工した酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタリングターゲットとした。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、図2に示すように、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行った。図2より、酸化物焼結体はビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、16%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.87g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ(前出の図1参照)、CeO相の平均粒径は1.1μmであった。これらの結果を表1に示す。
次に、アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置(アネルバ製SPF−530H)の非磁性体ターゲット用カソードに、上記スパッタリングターゲットを取り付けた。基板には、大きさが50mm角、厚さが0.5mmの合成石英を用い、ターゲット−基板間距離を49mmに固定した。1×10−4Pa未満まで真空排気後、アルゴンと酸素の混合ガスを酸素の比率が1.0%になるように導入し、ガス圧を0.3Paに調整した。なお、上記の酸素の比率1.0%において、最も低い比抵抗を示した。
直流電力200W(1.10W/cm)を印加して直流プラズマを発生させ、スパッタリングを実施した。投入した直流電力とスパッタリング時間の積から算出される積算投入電力値12.8kwhに到達するまで、直流スパッタリングを連続して実施した。この間、アーキングは起こらず放電は安定していた。スパッタリング終了後、ターゲット表面を観察したが、ノジュールの発生は特に見られなかった。次に、直流電力200、400、500、600W(1.10〜3.29W/cm)と変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。いずれの電力でもアーキングは起こらず、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数はゼロであった。
続いて、直流スパッタリングによる成膜を行った。10分間のプリスパッタリング後、スパッタリングターゲットの直上、すなわち静止対向位置に基板を配置し、基板温度500℃でスパッタリングを実施して、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、6.6×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.6×1020cm−3、キャリア電子移動度36cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.21であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0056】
(実施例2)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で7原子%となるように、平均粒径1.5μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、14%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.88g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は2.7μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は500℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、5.4×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.5×1020cm−3、キャリア電子移動度46cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.20であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0057】
(実施例3)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で5原子%となるように、平均粒径1μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、9%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.92g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.3μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は400℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、4.6×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.4×1020cm−3、キャリア電子移動度57cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.19であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であることが確認された。
次に、基板温度を室温(25℃)として直流スパッタリングによる成膜を行い、その後、窒素中で熱処理を行った。
室温で形成された膜の比抵抗を測定したところ、7.5×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は4.9×1020cm−3、キャリア電子移動度17cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.17であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、非晶質の膜であった。
続いて、この非晶質の膜を窒素雰囲気中において、400℃にて、30分間の熱処理を行った。その結果、膜の比抵抗は4.9×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.2×1020cm−3、キャリア電子移動度58cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.20であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0058】
(実施例4)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で4原子%となるように、平均粒径1.5μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、8%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.91g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は2.8μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は400℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、4.2×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.3×1020cm−3、キャリア電子移動度65cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.17であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0059】
(実施例5)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で1原子%となるように、平均粒径1μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、2%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.86g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.1μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は400℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、4.4×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は1.6×1020cm−3、キャリア電子移動度88cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.14であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0060】
(実施例6)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で0.3原子%となるように、平均粒径1μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、0.5%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.70g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.2μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、7.6×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は1.0×1020cm−3、キャリア電子移動度82cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.13であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0061】
(参考例1)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化チタン粉末を平均粒径1.5μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Ti)原子数比で8原子%ならびにチタン含有量がTi/(In+Ce+Ti)原子数比で1原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、酸化物焼結体はビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、25%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.06g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は2.7μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は400℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、5.6×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は3.1×1020cm−3、キャリア電子移動度36cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.14であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびチタンは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0062】
(参考例2)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化チタン粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Ti)原子数比で5原子%ならびにチタン含有量がTi/(In+Ce+Ti)原子数比で0.5原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、14%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.01g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.5μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は400℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、5.4×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.5×1020cm−3、キャリア電子移動度46cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.17であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびチタンは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0063】
(参考例3)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化チタン粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Ti)原子数比で4原子%ならびにチタン含有量がTi/(In+Ce+Ti)原子数比で1原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、図4のように、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、7%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.06g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ(図5参照)、CeO相の平均粒径は1.1μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は400℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、5.0×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.5×1020cm−3、キャリア電子移動度50cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.16であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびチタンは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0064】
(参考例4)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化チタン粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Ti)原子数比で0.3原子%ならびにチタン含有量がTi/(In+Ce+Ti)原子数比で0.3原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、1%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.05g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.0μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、5.0×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は1.5×1020cm−3、キャリア電子移動度83cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.12であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびチタンは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0065】
(参考例5)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化ジルコニウム粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Zr)原子数比で0.3原子%ならびにジルコニウム含有量がZr/(In+Ce+Zr)原子数比で0.3原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、1%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.98g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.0μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、5.2×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は1.5×1020cm−3、キャリア電子移動度80cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.12であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびジルコニウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
なお、ジルコニウムの代わりに、ハフニウム、モリブデン、あるいはタングステンを同組成添加した場合についても、ほぼ同様の結果を得た。
【0066】
(実施例7)
成膜方法をイオンプレーティング法に変更し、セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で2原子%となる酸化物焼結体からなるタブレットを用いて、成膜を実施した。
酸化物焼結体の作製方法は、実施例1のスパッタリングターゲットの場合とほぼ同様の作製方法であるが、先に述べたように、イオンプレーティング用のタブレットとして用いる場合には、密度を低くする必要があるため、焼結温度を1100℃とした。タブレットは、焼結後の寸法が直径30mm、高さ40mmとなるよう予め成形した。得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、4%であった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、4.67g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は1.0μmであった。
このような酸化物焼結体をタブレットとして用い、イオンプレーティング法によるプラズマガンを用いた放電をタブレットが使用不可となるまで継続した。イオンプレーティング装置として、高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)が可能な反応性プラズマ蒸着装置を用いた。成膜条件としては、蒸発源と基板間距離を0.6m、プラズマガンの放電電流を100A、Ar流量を30sccm、O流量を10sccmとした。タブレットが使用不可となるまでの間、スプラッシュなどの問題は起こらなかった。
タブレット交換後、成膜を実施した。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、タブレットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、3.3×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.1×1020cm−3、キャリア電子移動度92cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.13であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0067】
(比較例1)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で0.1原子%となるように、平均粒径1μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相のみが確認された。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.74g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、極少量のCeO相が点在している様子が観察され、CeO相の平均粒径は1.0μmであった。これらの結果を表1に示す。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、1.3×10−3Ωcmと高い値を示した。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は6.2×1019cm−3、キャリア電子移動度68cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.12であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0068】
(比較例2)
セリウム含有量がCe/(In+Ce)で表される原子数比で11原子%となるように、平均粒径1.5μm以下となるよう調整した原料粉末を調合したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、28%と高かった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.69g/cmとやや低かった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は2.6μmであった。また、CeO相の結晶粒の体積比率増加に起因すると推測されるが、In相の結晶粒がやや微細化している様子が観察された。このことによって、前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比が高くなったものと考えられる。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は500℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、1.0×10−3Ωcmと高かった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は2.8×1020cm−3、キャリア電子移動度21cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.18であった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0069】
(比較例3)
平均粒径2μmの酸化セリウム粉末を原料粉末として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相および蛍石型構造のCeO相で構成されていることが確認された。前記式(1)で表されるCeO相(111)のX線回折ピーク強度比は、18%であった。
酸化物焼結体の密度を測定したところ、6.72g/cmであった。続いて、SEMによる酸化物焼結体の組織観察を行ったところ、CeO相の平均粒径は4.2μmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kWhに到達するまで、直流スパッタリングを実施した。スパッタリングを開始してから、しばらくアーキングは起こらなかったが、積算時間が11.2kWhを経過後から、しだいにアーキングが起こるようになった。積算時間到達後、ターゲット表面を観察したところ、多数のノジュールの生成が確認された。続いて、直流電力200、400、500、600Wと変化させ、それぞれの電力で10分間ずつスパッタリングを行い、アーキング発生回数を測定した。図3に、実施例2とともに、各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数を示した。図3より、直流電力増加とともにアーキングが頻発するようになっていることは明らかである。なお、アーキングが頻発したため、成膜は実施しなかった。
【0070】
(比較例4)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化チタン粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Ti)原子数比で0.3原子%ならびにチタン含有量がTi/(In+Ce+Ti)原子数比で3原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相による回折ピークのみが観察され、蛍石型構造のCeO相による回折ピークは観察されなかった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.04g/cmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、3.0×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は5.6×1020cm−3、キャリア電子移動度37cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.07と低かった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびチタンは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0071】
(比較例5)
酸化インジウム粉末、酸化セリウム粉末および酸化スズ粉末を平均粒径1μm以下となるよう調整して原料粉末としたこと、さらにはセリウム含有量がCe/(In+Ce+Sn)原子数比で0.3原子%ならびにスズ含有量がSn/(In+Ce+Sn)原子数比で3原子%となるように調合したことを除いては、実施例1と同様の方法で酸化物焼結体、さらにはスパッタリングターゲットを作製した。
得られた酸化物焼結体の組成分析をICP発光分光法にて行ったところ、原料粉末の配合時の仕込み組成とほぼ同じであることが確認された。次に、X線回折測定による酸化物焼結体の相同定を行ったところ、ビックスバイト型構造のIn相による回折ピークのみが観察され、蛍石型構造のCeO相による回折ピークは観察されなかった。酸化物焼結体の密度を測定したところ、7.09g/cmであった。
次に、実施例1と同様の方法によって、直流スパッタリングにおけるアーキング発生について調べた。積算投入電力値12.8kwhに到達するまでアーキングは起こらず放電は安定していた。また、直流電力を変化させた場合の各直流電力での1分間当たりアーキング発生平均回数もゼロであった。
続いて、実施例1と同様に、直流スパッタリングによる成膜を行った。なお、基板温度は300℃とし、膜厚200nmの透明導電膜を形成した。得られた透明導電膜の組成は、ターゲットとほぼ同じであることが確認された。
膜の比抵抗を測定したところ、2.6×10−4Ωcmであった。また、ホール効果測定を行ったところ、キャリア電子濃度は7.3×1020cm−3、キャリア電子移動度33cm−1−1であった。波長460nmの屈折率は、2.04と低かった。X線回折測定によって膜の結晶性を調べた結果、酸化インジウム相のみからなる結晶質の膜であり、セリウムおよびスズは酸化インジウム相に固溶していることが確認された。
【0072】
【表1】
【0073】
「評価」
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜7では、平均粒径1.5μm以下に調整した酸化インジウム粉末および酸化セリウム粉末を用いて、セリウム含有量をCe/(In+Ce)原子数比で0.3〜9原子%の範囲に調合して、インジウム酸化物とセリウム酸化物からなる酸化物焼結体(第1の酸化物焼結体)を作製しており、ビックスバイト型構造のIn相を主相とし、第2相である蛍石型構造のCeO相が平均粒径3μm以下の結晶粒として微細分散された焼結体組織を有することが確認された。さらに、In相とCeO相の結晶粒の粒径と分散状態の関係は、前出の式(1)で表されるIn相(222)に対するCeO相(111)のX線回折ピーク強度比において、25%以下であることが確認された。
実施例1〜6の酸化物焼結体は、焼結体密度が6.3g/cm以上であり、いずれも高密度を示した。これらの酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして、直流スパッタリングを実施したところ、長時間の連続スパッタリング後でもCeO相起因のスパッタリングの掘れ残りを起点としたノジュールの発生はみられず、直流電力200〜600Wの範囲で変化させてもアーキングが発生しないことが明らかとなった。
実施例1〜6において形成された結晶質の透明導電膜の比抵抗は8×10−4Ω・cm以下と良好であり、この低い比抵抗が35cm−1−1を超える高いキャリア電子移動度に依存することが確認された。同時に、光学特性に関しては、キャリア電子濃度が低く抑制された結果、波長460nmにおける屈折率が2.1を超える高い値を示すことが確認された。なお、実施例3では、非晶質であるためキャリア電子移動度は低いものの、波長460nmにおける屈折率が2.1を超える高い値を示した。
【0074】
実施例1〜6に対して、比較例1では、セリウム含有量を本発明の範囲から外れた、Ce/(In+Ce)原子数比で0.1原子%としている。セリウム含有量が低すぎるため、形成された結晶質の透明導電膜は、十分なキャリア電子濃度を生成することができず、比抵抗は1.3×10−3Ω・cmを示し、青色LEDや太陽電池の用途などで必要な比抵抗8×10−4Ω・cm以下を示すには至らなかった。
同様に、比較例2では、セリウム含有量を本発明の範囲から外れた、Ce/(In+Ce)原子数比で11原子%としている。セリウム含有量が高過ぎるため、形成された結晶質の透明導電膜は、キャリア電子移動度が低下してしまい、比抵抗は1.0×10−3Ω・cmを示し、青色LEDや太陽電池の用途などで必要な比抵抗8×10−4Ω・cm以下を示すには至らなかった。
実施例1〜6に対して、比較例3では、平均粒径2μmの比較的粗大な酸化セリウム粉末を原料粉末として用いたことによって、酸化物焼結体に分散されたCeO相からなる結晶粒の平均粒径が3μmを超えている。このような組織の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとし、直流スパッタリングを実施したところ、長時間の連続スパッタリング後にノジュールが発生し、アーキングが頻発することが確認された。すなわち、実施例1〜6のように、平均粒径1.5μm以下に調整した酸化セリウム粉末を用いて、CeO相からなる結晶粒の平均粒径が3μm以下となるよう微細分散された酸化物焼結体の組織が、ノジュール発生とアーキング発生の抑制に有効であることが明らかとなった。
実施例1〜6に対して、比較例4は、本発明の酸化物焼結体の構成元素とは異なるチタンを原子数比で3原子%含有している。チタン含有量が高過ぎるため、形成された結晶質の透明導電膜は、キャリア電子濃度が高くなり過ぎてしまい、屈折率は2.07を示し、青色LEDの用途などで必要な屈折率2.1を示すには至らなかった。
比較例5の酸化物焼結体は、インジウムおよびセリウムの他に、本発明の酸化物焼結体の構成元素とは異なるスズをSn/(In+Ce+Sn)原子数比で3原子%含有している。スズを含むため、形成された結晶質の透明導電膜は、キャリア電子濃度が高くなり過ぎてしまい、屈折率は2.04を示し、青色LEDの用途などで必要な屈折率2.1を示すには至らなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のインジウムとセリウムの酸化物からなる酸化物焼結体は、スパッタリング法による酸化物透明導電膜の生産に使用することができる。この透明導電膜は、青色LED(Light Emitting Diode)や太陽電池の表面電極、光ディスク用の高屈折率膜として、工業的に極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5