(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、陽極と発光層との間にそれらと接する態様で単一層として用いた場合でも、優れた輝度特性および耐久性を有する有機EL素子を実現できる薄膜を与える電荷輸送性ワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、フッ素原子を含有する所定の電荷輸送性物質と、フッ素原子を含有しない所定の電荷輸送性物質と、ヘテロポリ酸からからなるドーパント物質とを含む電荷輸送性ワニスから得られた薄膜が、陽極と発光層との間にそれらと接する態様で単一層として用いた場合でも、優れた輝度特性および耐久性を有する有機EL素子を与えることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. フッ素原子を含有する電荷輸送性物質と、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質と、ヘテロポリ酸からなるドーパント物質と、有機溶媒とを含み、前記フッ素原子を含有する電荷輸送性物質が、トリアリールアミン化合物と、フッ素原子を含有するアリールアルデヒド化合物と、カルボニル基を有するフルオレン誘導体とを縮合させて得られる重量平均分子量1,000〜200,000の重合体であり、前記フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質が、オリゴアニリン化合物であることを特徴とする電荷輸送性ワニス、
2. 前記フッ素原子を含有する電荷輸送性物質が、式(1)で示されるトリアリールアミン化合物と、式(2)で示されるフッ素原子を含有するアリールアルデヒド化合物と、式(3)または式(4)で示されるカルボニル基を有するフルオレン誘導体とを縮合させて得られる重合体である1の電荷輸送性ワニス、
【化1】
(式中、Ar
1〜Ar
3は、互いに独立して、Z
1で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表すが、各アリール基を構成する炭素原子の少なくとも1つは非置換であり、Ar
4は、少なくとも1つのZ
3で置換されているとともに、Z
4で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R
1〜R
8は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子、Z
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20の(ポリ)エチレンオキシド基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはエテニル基もしくはエチニル基で置換されているとともに、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、Z
1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
2は、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基を表し、Z
3は、フッ素原子、炭素数1〜20のフッ化アルキル基、または炭素数6〜20のフッ化アリール基を表し、Z
4は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
5で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
5は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、またはシアノ基を表す。)
3. 前記トリアリールアミン化合物が、式(5)で示されるトリフェニルアミン誘導体である2の電荷輸送性ワニス、
【化2】
(式中、R
11〜R
22は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
2は、上記と同じ意味を表す。)
4. 前記アリールアルデヒド化合物が、式(6)または式(7)で示されるベンズアルデヒド誘導体である2または3の電荷輸送性ワニス、
【化3】
(式中、R
23は、フッ素原子または炭素数1〜20のフッ化アルキル基を表し、R
24〜R
27は、互いに独立して、水素原子、ニトロ基、シアノ基、またはニトロ基もしくはシアノ基で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、R
28〜R
32は、互いに独立して、フッ素原子または炭素数1〜20のフッ化アルキル基を表す。)
5. 前記オリゴアニリン化合物が、式(8)で表される1〜4のいずれかの電荷輸送性ワニス、
【化4】
(式中、R
33〜R
38は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、シアノ基、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、Z
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、−NHY
2、−NY
3Y
4、−C(O)Y
5、−OY
6、−SY
7、−SO
3Y
8、−C(O)OY
9、−OC(O)Y
10、−C(O)NHY
11、または−C(O)NY
12Y
13基を表し、Y
2〜Y
13は、互いに独立して、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、X
1は、−NY
1−、−O−、−S−、−(CR
39R
40)
l−または単結合を表し、R
39およびR
40は、前記R
33と同じ意味を表し、lは、1〜20の整数であり、Y
1は、互いに独立して、水素原子、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、Z
6は、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、シアノ基、またはZ
8で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、Z
7は、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、シアノ基、またはZ
8で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
8は、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、またはシアノ基を表し、mおよびnは、互いに独立して、1〜10の整数であり、m+n≦10を満たす。)
6. 前記ヘテロポリ酸化合物が、リンタングステン酸である1〜5のいずれかの電荷輸送性ワニス、
7. さらに、硬化剤を含む1〜6のいずれかの電荷輸送性ワニス、
8. 前記硬化剤が、アクリレート系硬化剤である7の電荷輸送性ワニス、
9. 1〜8のいずれかの電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜、
10. 9の電荷輸送性薄膜を有する電子デバイス、
11. 9の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、
12. 陽極、陰極、発光層および9の電荷輸送性薄膜を少なくとも備えて構成され、前記陽極と発光層との間に、それら各層と接する態様で前記電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、
13. 1〜8のいずれかの電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法、
14. 9の電荷輸送性薄膜を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、
15. 式(1)で示されるトリアリールアミン化合物と、式(2)で示されるフッ素原子を含有するアリールアルデヒド化合物と、式(3)または式(4)で示されるカルボニル基を有するフルオレン誘導体とを縮合させて得られ、重量平均分子量が1,000〜200,000であることを特徴とする重合体
【化5】
(式中、Ar
1〜Ar
3は、互いに独立して、Z
1で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表すが、各アリール基を構成する炭素原子の少なくとも1つは非置換であり、Ar
4は、少なくとも1つのZ
3で置換されているとともに、Z
4で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R
1〜R
8は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子、Z
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20の(ポリ)エチレンオキシド基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはエテニル基もしくはエチニル基で置換されているとともに、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、Z
1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
2は、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基を表し、Z
3は、フッ素原子、炭素数1〜20のフッ化アルキル基、または炭素数6〜20のフッ化アリール基を表し、Z
4は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
5で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
5は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、またはシアノ基を表す。)
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電荷輸送性ワニスは、陽極と発光層との間にそれらと接する態様で単一層として薄膜を形成した場合でも、優れた輝度特性および耐久性を有する有機EL素子を与え得る。この理由は定かではないが、フッ素原子を含む電荷輸送性物質が薄膜の表面側(発光層側)に移行し易いため、フッ素原子を含む電荷輸送性物質が薄膜の表面側(発光層側)に、それを含まない電荷輸送性物質が薄膜の裏面側(陽極側)にそれぞれ偏在し、単一層内で正孔注入部位と正孔輸送部位に相分離し、陽極から発光層に向かって正孔注入性成分が減少し、かつ、正孔輸送性成分が増加する結果、それら2層が存在する場合と同様の正孔注入輸送層として機能するためであると推察される。
本発明の電荷輸送性ワニスを用いることで、素子中の機能性多層膜を単一膜化することができるため、製造プロセス条件の簡便化による高歩留化や低コスト化、あるいは素子の軽量化、コンパクト化等を図り得る。
また、本発明の電荷輸送性ワニスは、スピンコート法やスリットコート法など、大面積に成膜可能な各種ウェットプロセスを用いた場合でも、電荷輸送性に優れた薄膜を再現性よく製造できるため、近年の有機EL素子の分野における進展にも十分対応できる。
さらに、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜は、帯電防止膜、有機薄膜太陽電池の陽極バッファ層等としても使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性ワニスは、フッ素原子を含有する電荷輸送性物質と、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質と、ヘテロポリ酸からなるドーパント物質と、有機溶媒とを含み、フッ素原子を含有する電荷輸送性物質が、トリアリールアミン化合物と、フッ素原子を含有するアリールアルデヒド化合物と、カルボニル基を有するフルオレン誘導体とを縮合させて得られる重量平均分子量1,000〜200,000の重合体であり、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質が、オリゴアニリン化合物であることを特徴とする。
本発明において、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性と同義である。電荷輸送性物質とは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、ドーパント物質と共に用いた際に電荷輸送性があるものでもよい。電荷輸送性ワニスとは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、それにより得られる固形膜が電荷輸送性を有するものでもよい。
【0010】
本発明において、フッ素原子を含有する電荷輸送性物質の製造に用いられるトリアリールアミン化合物としては、特に限定されるものではないが、式(1)で示される化合物が好ましい。
【0012】
式(1)において、Ar
1〜Ar
3は、互いに独立して、Z
1で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表すが、アルデヒド化合物やフルオレン誘導体との縮合反応に寄与する部位が必要であるため、各アリール基を構成する炭素原子の少なくとも1つは非置換(すなわち、炭素原子上が水素原子)である。
炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられるが、好ましくは、Z
1で置換されていてもよいフェニル基である。
置換基Z
1は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
2は、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基を表す。
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3〜20の環状アルキル基などが挙げられる。
【0014】
炭素数2〜20のアルケニル基の具体例としては、エテニル基、n−1−プロペニル基、n−2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−エチルエテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、n−1−ペンテニル基、n−1−デセニル基、n−1−エイコセニル基等が挙げられる。
【0015】
炭素数2〜20のアルキニル基の具体例としては、エチニル基、n−1−プロピニル基、n−2−プロピニル基、n−1−ブチニル基、n−2−ブチニル基、n−3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、n−1−ペンチニル基、n−2−ペンチニル基、n−3−ペンチニル基、n−4−ペンチニル基、1−メチル−n−ブチニル基、2−メチル−n−ブチニル基、3−メチル−n−ブチニル基、1,1−ジメチル−n−プロピニル基、n−1−ヘキシニル基、n−1−デシニル基、n−1−ペンタデシニル基、n−1−エイコシニル基等が挙げられる。
中でも、置換基Z
1としては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、Ar
1〜Ar
3が非置換のアリール基であること)が最適である。
また、置換基Z
2としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
【0016】
具体的なトリアリールアミン化合物としては、式(5)で示されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0018】
式(5)において、R
11〜R
22は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表す。ここで、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびZ
2としては、上記と同様のものが挙げられる。
R
11〜R
22としては、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、水素原子、フッ素原子、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、全て水素原子が最適である。
【0019】
また、フッ素原子を含有するアリールアルデヒド化合物としては、特に限定されるものではないが、式(2)で示される化合物が好ましい。
【0021】
式(2)において、Ar
4は、少なくとも1つのZ
3で置換されているとともに、Z
4で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、このアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
置換基Z
3は、フッ素原子、炭素数1〜20のフッ化アルキル基、または炭素数6〜20のフッ化アリール基を表し、Z
4は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
5で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
5は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、またはシアノ基を表す。
炭素数1〜20のフッ化アルキル基および炭素数6〜20のフッ化アリール基としては、例えば、上述した炭素数1〜20のアルキル基および炭素数6〜20のアリール基の炭素原子上の水素原子の少なくとも1つをフッ素原子に置換した基が挙げられる。
その他、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、Z
3としては、フッ素原子、炭素数1〜10のフッ化アルキル基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜4のフッ化アルキル基がより好ましく、フッ素原子、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基がより一層好ましい。
また、Z
4としては、Z
5で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、Z
5で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、Z
5で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基がより一層好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)がさらに好ましい。
そして、Z
5としては、塩素原子、臭素原子が好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)がより好ましい。
【0022】
フッ化アルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基、ノナフルオロブチル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−ウンデカフルオロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−デカフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。
フッ化アリール基の具体例としては、4−フルオロフェニル基、2,3−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,5−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、1−フルオロ−2−ナフチル基、1−フルオロ−3−ナフチル基、1−フルオロ−4−ナフチル基、1−フルオロ−5−ナフチル基、1−フルオロ−6−ナフチル基、1−フルオロ−7−ナフチル基、1−フルオロ−8−ナフチル基、2−フルオロ−1−ナフチル基、2−フルオロ−3−ナフチル基、2−フルオロ−4−ナフチル基、2−フルオロ−5−ナフチル基、2−フルオロ−6−ナフチル基、2−フルオロ−7−ナフチル基、2−フルオロ−8−ナフチル基、パーフルオロナフチル基等が挙げられる。
【0023】
具体的なアリールアルデヒド化合物としては、式(6)または式(7)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
式(6)において、R
23は、フッ素原子または炭素数1〜20のフッ化アルキル基を表し、R
24〜R
27は、互いに独立して、水素原子、ニトロ基、シアノ基、またはニトロ基もしくはシアノ基で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基を表し、これらフッ化アルキル基およびアルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、R
23としては、フッ素原子、炭素数1〜10のフッ化アルキル基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜4のフッ化アルキル基がより好ましく、フッ素原子、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基がより一層好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
また、R
24〜R
27としては、水素原子、非置換の炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、水素原子、非置換の炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、水素原子、非置換の炭素数1〜4のアルキル基がより一層好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましく、全て水素原子が最適である。
【0026】
式(7)において、R
28〜R
32は、互いに独立して、フッ素原子または炭素数1〜20のフッ化アルキル基を表し、このフッ化アルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、R
28〜R
32としては、フッ素原子、炭素数1〜10のフッ化アルキル基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜4のフッ化アルキル基がより好ましく、フッ素原子、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基がより一層好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基がさらに好ましく、全てフッ素原子が最適である。
【0027】
さらに、カルボニル基を有するフルオレン誘導体としては、特に限定されるものではないが、式(3)または式(4)で示される化合物が好ましい。
【0029】
式(3)において、R
1〜R
8は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表す。ここで、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびZ
2としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、R
1〜R
8としては、水素原子、フッ素原子、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、全て水素原子が最適である。
【0030】
また、式(4)において、R
1〜R
7は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、またはZ
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子、Z
2で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20の(ポリ)エチレンオキシド基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはエテニル基もしくはエチニル基で置換されているとともに、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基を表す。ここで、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびZ
2としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、R
1〜R
7としては、水素原子、フッ素原子、Z
2で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、全て水素原子が最適である。
また、R
9およびR
10としては、水素原子、Z
2で置換されていてもよい、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数2〜10の(ポリ)エチレンオキシド基が好ましく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、共に水素原子が最適である。
また、置換基Z
2としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
【0031】
上述したトリアリールアミン化合物、アリールアルデヒド化合物およびフルオレン誘導体の縮合反応は、酸触媒の存在下で縮合重合して得ることができる。
この反応では、トリアリールアミン化合物のアリール基1当量に対して、アルデヒド化合物およびフルオレン誘導体を合計で0.01〜10当量程度の割合で用いることができるが、0.05〜5当量が好ましく、0.1〜3当量がより好ましい。
この場合、アルデヒド化合物およびフルオレン誘導体の使用比率は、通常、アルデヒド化合物1当量に対して、フルオレン誘導体を0.1〜20当量程度の割合で用いることができるが、1〜15当量が好ましく、5〜10当量がより好ましい。
酸触媒としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸などの鉱酸類;p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸一水和物などの有機スルホン酸類;ギ酸、シュウ酸などのカルボン酸類等を用いることができる。
酸触媒の使用量は、その種類によって種々選択されるが、通常、トリアリールアミン類1当量に対して、0.001〜10当量、好ましくは0.01〜5当量、より好ましくは0.1〜1当量である。
【0032】
上記の縮合反応は無溶媒でも行えるが、通常溶媒を用いて行われる。溶媒としては反応を阻害しないものであれば全て使用することができ、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。特に、環状エーテル類が好ましい。
また、使用する酸触媒が、例えばギ酸のような液状のものであるならば、酸触媒に溶媒としての役割を兼ねさせることもできる。
【0033】
縮合時の反応温度は、通常40〜200℃である。反応時間は反応温度によって適宜設定されるが、通常30分から50時間程度である。
以上のようにして得られる重合体の重量平均分子量Mwは、通常500〜200,000、好ましくは1,000〜100,000である。
【0034】
本発明の電荷輸送性ワニスでは、上述したフッ素原子を有する重合体からなる電荷輸送性物質とともに、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質としてオリゴアニリン化合物を用いる。
オリゴアニリン化合物としては、特に限定されるものではなく、従来公知のオリゴアニリン化合物から適宜選択して用いることができるが、本発明においては、式(8)で表されるオリゴアニリン化合物を用いることが好ましい。
【0036】
式(8)において、式中、R
33〜R
38は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、シアノ基、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、Z
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基、−NHY
2、−NY
3Y
4、−C(O)Y
5、−OY
6、−SY
7、−SO
3Y
8、−C(O)OY
9、−OC(O)Y
10、−C(O)NHY
11、または−C(O)NY
12Y
13基を表し、Y
2〜Y
13は、互いに独立して、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、X
1は、−NY
1−、−O−、−S−、−(CR
39R
40)
l−または単結合を表し、R
39およびR
40は、R
33と同じ意味を表し、lは、1〜20の整数であり、Y
1は、互いに独立して、水素原子、Z
6で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基、またはZ
7で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、Z
6は、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、シアノ基、またはZ
8で置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表し、Z
7は、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、シアノ基、またはZ
8で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基もしくは炭素数2〜20のアルキニル基を表し、Z
8は、ハロゲン原子(ただし、フッ素原子を除く)、ニトロ基、またはシアノ基を表し、mおよびnは、互いに独立して、1〜10の整数であり、m+n≦10を満たす。
【0037】
炭素数2〜20のヘテロアリール基の具体例としては、2−チエニル基、3−チエニル基、2−フラニル基、3−フラニル基、2−オキサゾリル基、4−オキサゾリル基、5−オキサゾリル基、3−イソオキサゾリル基、4−イソオキサゾリル基、5−イソオキサゾリル基、2−チアゾリル基、4−チアゾリル基、5−チアゾリル基、3−イソチアゾリル基、4−イソチアゾリル基、5−イソチアゾリル基、2−イミダゾリル基、4−イミダゾリル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基等が挙げられる。
その他、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0038】
式(8)において、X
1としては、−NY
1−または単結合が好ましい。
R
33〜R
36としては、水素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、Z
7で置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、全て水素原子が最適である。
R
37およびR
38としては、水素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、Z
7で置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、Y
3およびY
4がZ
7で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基である−NY
3Y
4基が好ましく、水素原子、炭素数12〜24のジアリールアミノ基がより好ましく、同時に水素原子またはジフェニルアミノ基がより一層好ましい。
R
39およびR
40としては、水素原子、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、Z
7で置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、共に水素原子が最適である。
【0039】
Y
1としては、水素原子、Z
6で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が最適である。なお、複数のY
1は、互いに異なっていても全て同一であってもよい。
特に、R
33〜R
36が、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、R
37およびR
38が、水素原子、炭素数12〜24のジアリールアミノ基、X
1が、−NY
1−または単結合、かつ、Y
1が、水素原子、メチル基の組み合わせが好ましく、R
33〜R
36が、全て水素原子、R
37およびR
38が、同時に水素原子またはジフェニルアミノ基、X
1が、−NY
1−、単結合、Y
1が、水素原子の組み合わせがより好ましい。
【0040】
なお、Y
1〜Y
13およびR
33〜R
40において、置換基Z
6は、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、シアノ基、Z
8で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、塩素原子、臭素原子、Z
8で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
また、置換基Z
7は、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、シアノ基、Z
8で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、塩素原子、臭素原子、Z
8で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
そして、Z
8は、塩素原子、臭素原子が好ましく、存在しないこと(すなわち、非置換であること)が最適である。
【0041】
式(8)において、mおよびnは、互いに独立して、1〜10の整数であり、m+n≦10を満たすが、得られる薄膜の電荷輸送性とオリゴアニリン化合物の溶解性とのバランスを考慮すると、2≦m+n≦8を満たすことが好ましく、2≦m+n≦6を満たすことがより好ましく、2≦m+n≦4を満たすことがより一層好ましい。
【0042】
上記フッ素原子を含有しないオリゴアニリン化合物の分子量は、通常300〜5,000であるが、溶解性を高める観点から、好ましくは4,000以下、より好ましくは3,000以下、より一層好ましくは2,000以下である。
なお、本発明で用いられるオリゴアニリン化合物の合成法としては、特に限定されるものではないが、ブレティン・オブ・ケミカル・ソサエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of Chemical Society of Japan)(1994年、第67巻、p.1749−1752)、シンセティック・メタルズ(Synthetic Metals)(1997年、第84巻、p.119−120)、国際公開2008/032617号、国際公開2008/032616号、国際公開2008/129947号などに記載の方法が挙げられる。
【0043】
式(8)で表されるオリゴアニリン化合物の具体例として、下記式で表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本発明の電荷輸送性ワニスにおいて、フッ素原子を含有する電荷輸送性物質と、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質との使用比率は特に限定されるものではないが、得られる有機EL素子の輝度特性および耐久性をより高めることを考慮すると、フッ素原子を含有する電荷輸送性物質を、質量比で、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質1に対して、0.1〜5程度とすることが好ましく、0.5〜3程度とすることがより好ましく、0.5〜1程度とすることがより一層好ましい。
【0047】
さらに本発明の電荷輸送性ワニスは、ドーパント物質としてヘテロポリ酸化合物を含む。
ヘテロポリ酸とは、代表的に式(A)で示されるKeggin型あるいは式(B)で示されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【0049】
ヘテロポリ酸化合物の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、本発明で用いるヘテロポリ酸化合物は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。
本発明においては、有機EL素子の輝度特性向上の点を考慮すると、リンモリブデン酸またはリンタングステン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
なお、本発明においては、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で示される構造から元素の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手し、あるいは、公知の合成方法に従い適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
すなわち、例えば、一般的には、リンタングステン酸は化学式H
3(PW
12O
40)・nH
2Oで、リンモリブデン酸は化学式H
3(PMo
12O
40)・nH
2Oでそれぞれ示されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)またはW(タングステン)もしくはMo(モリブデン)の数が多いもの、または少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法に従い適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態および公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0050】
本発明においては、ヘテロポリ酸、好ましくはリンタングステン酸を、質量比で、オリゴアニリン化合物1に対して2〜10程度、好ましくは2.5〜9.0程度とすることで、有機EL素子に用いた場合に高輝度を与える電荷輸送性薄膜を再現性よく得ることができる。
すなわち、そのような電荷輸送性ワニスは、オリゴアニリン化合物の質量(W
H)に対するヘテロポリ酸の質量(W
D)の比が、2≦W
D/W
H≦10、好ましくは2.5≦W
D/W
H≦9.0を満たす。
【0051】
また、本発明の電荷輸送性ワニスは、当該ワニスから得られる薄膜の耐溶剤性を向上させることを目的として、硬化剤を含んでいてもよい。
このような硬化剤としては、特に限定されるものではなく、(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、ブロックイソシアネート基を有する化合物等の従来公知の種々の硬化剤が挙げられるが、(メタ)アクリレート化合物やそれを含む組成物などのアクリレート系硬化剤が好ましく、特に多官能(メタ)アクリレート化合物やそれを含む組成物などの多官能アクリレート系硬化剤がより好ましい。
アクリレート系硬化剤の具体例としては、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ビスフェノールAエチレングリコール付加物(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレングリコール付加物(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンメタノールジ(メタ)アクリレート、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレングリコール付加物トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレングリコール付加物トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、変性ε−カプロラクトントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロピレングリコール付加物トリス(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレングリコール付加物テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、オグソールEA−0200,同EA−F5003,同EA−F5503,同EA−F5510(以上、大阪ガスケミカル(株)製)、NKエステルA−BPEF,同A−BPEF/PGMAC70(以上、新中村化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0052】
硬化剤を用いる場合、その使用量は、得られる薄膜に目的とする耐溶剤性を付与するとともに、薄膜が有する電荷輸送性等の本来の特性に悪影響を及ぼさない限り任意であるが、フッ素原子を含有する電荷輸送性物質、フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質およびヘテロポリ酸からなるドーパント物質の合計質量1に対して、質量比で、0.01〜10程度とすることが好ましく、0.05〜5.0程度とすることがより好ましく、0.10〜2.0程度とすることがより一層好ましい。
【0053】
電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる溶媒としては、電荷輸送性物質およびドーパント物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。このような高溶解性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒を用いることができる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5〜100質量%とすることができる。
なお、電荷輸送性物質およびドーパント物質は、いずれも上記溶媒に完全に溶解しているか、均一に分散している状態となっていることが好ましい。
【0054】
また、本発明の電荷輸送性ワニスに、25℃で10〜200mPa・s、特に35〜150mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50〜300℃、特に150〜250℃の高粘度有機溶媒を少なくとも一種類含有させることができる。このような溶媒を加えることで、ワニスの粘度の調整が容易になり、平坦性の高い薄膜を再現性良く与える、用いる塗布方法に応じたワニス調製が容易になる。
高粘度有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、シクロヘキサノール、エチレングリコール、1,3−オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
本発明のワニスに用いられる溶媒全体に対する高粘度有機溶媒の添加割合は、固体が析出しない範囲内であることが好ましく、固体が析出しない限りにおいて、添加割合は、5〜80質量%であることが好ましい。
【0055】
さらに、基板に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、その他の溶媒を、ワニスに使用する溶媒全体に対して1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%の割合で混合することもできる。
このような溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、エチルラクテート、n−ヘキシルアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0056】
本発明のワニスの粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度に応じて適宜設定されるものではあるが、通常、25℃で1〜50mPa・sである。
また、本発明における電荷輸送性ワニスの固形分濃度は、ワニスの粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1〜10.0質量%程度であり、ワニスの塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜3.0質量%である。
【0057】
以上で説明した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、焼成することで基材上に電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、スリットコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられるが、塗布方法に応じてワニスの粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0058】
また、本発明のワニスを用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面および高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることが可能である。
【0059】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度等を勘案して、概ね100〜260℃の範囲内で適宜設定されるものではあるが、有機EL素子の陽極と発光層との間にそれらと接する態様で設けて機能性単一膜(正孔注入輸送層)として用いる場合、140〜250℃程度が好ましく、150〜230℃程度がより好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0060】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、有機EL素子内で用いる場合、5〜200nm程度とすることができるが、本発明で用いる2種類の電荷輸送性物質の相分離の程度を高めて有機EL素子の輝度特性や寿命特性をより高めることを考慮すると、10〜100nmが好ましく、20〜50nmがより好ましく、25〜45nmがより一層好ましい。
膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0061】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にUVオゾン処理、酸素−プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
【0062】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる機能性単一膜(正孔注入輸送層)を有するOLED素子の作製方法の例は、以下のとおりである。
陽極基板上に本発明の電荷輸送性ワニスを塗布し、上記の方法により焼成を行い、電極上に機能性単一膜を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。発光領域をコントロールするために任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
【0063】
発光層を形成する材料としては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq
3)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)(Znq
2)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)および4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、電子輸送材料または正孔輸送材料と発光性ドーパントとを共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
電子輸送材料としては、Alq
3、BAlq、DPVBi、(2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、シロール誘導体等が挙げられる。
【0064】
発光性ドーパントとしては、キナクリドン、ルブレン、クマリン540、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)
3)、(1,10−フェナントロリン)−トリス(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオナート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)
3phen)等が挙げられる。
【0065】
キャリアブロック層を形成する材料としては、PBD、TAZ、BCP等が挙げられる。
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li
2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al
2O
3)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化ストロンチウム(SrF
2)、Liq、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
【0066】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
上記OLED素子作製において、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、発光性高分子層を形成することによって本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる機能性単一膜(正孔注入輸送層)を有するPLED素子を作製することができる。
具体的には、陽極基板上に本発明の電荷輸送性ワニスを塗布して上記の方法により機能性単一膜を作製し、その上に発光性高分子層を形成し、さらに陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
【0067】
使用する陰極および陽極材料としては、上記OLED素子作製時と同様のものが使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
発光性高分子層の形成法としては、発光性高分子材料、またはそれにドーパント物質を加えた材料に溶媒を加えて溶解するか、均一に分散し、機能性単一膜の上に塗布した後、焼成することにより成膜する方法が挙げられる。
発光性高分子材料としては、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)などのポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0068】
溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等を挙げることができ、溶解または均一分散法としては撹拌、加熱撹拌、超音波分散等の方法が挙げられる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
焼成する方法としては、不活性ガス下または真空中、オーブンまたはホットプレートで加熱する方法が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用した装置は以下のとおりである。
(1)基板洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(2)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS−A100
(3)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET−4000
(4)高分子分子量測定:(株)島津製作所製(カラム:SHODEX GPC KF−803L+GPC KF−804L,カラム温度:40℃,検出器:UV検出器(254nm)およびRI検出器,溶離液:THF,カラム流速:1.0ml/min.)
(5)EL素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC−E2L1G1−N
(6)EL素子の輝度等の測定:(有)テック・ワールド製 I−V−L測定システム
【0070】
[1]フッ素原子を含有する電荷輸送性物質の合成
[合成例1]ポリマー1の合成
【化15】
【0071】
トリフェニルアミン10.0g(40.76mmol)、ペンタフルオロベンズアルデヒド0.44g(2.44mmol)、9−フルオレノン7.68g(42.80mmol)およびp−トルエンスルホン酸1.62g(8.15mmol)に1,4−ジオキサン20gを加えた。この溶液を110℃まで昇温し、そのまま4時間撹拌した後、室温まで冷却した。冷却後、テトラヒドロフラン(以下、THF)10gを加えて希釈し、メタノール500ml/28%アンモニア水100mlに滴下して30分間撹拌した。析出した粉末を吸引ろ過で回収し、THF40mlに溶解させた。この溶液をメタノール500mlに滴下して30分間撹拌した。析出した粉末を吸引ろ過で回収し、減圧乾燥してポリマー1(3.8g)を得た。
Mw(GPC)=1,800
IR(cm
-1):1587、1505、1323、1274、1178、1111、1074、993、965、750、694、632
【0072】
[合成例2]ポリマー2の合成
【化16】
【0073】
トリフェニルアミン10.0g(40.76mmol)、ペンタフルオロベンズアルデヒド0.78g(4.48mmol)、9−フルオレノン7.27g(40.35mmol)およびp−トルエンスルホン酸1.62g(8.15mmol)に1,4−ジオキサン20gを加え、110℃まで昇温し、そのまま3時間撹拌した後、室温まで冷却した。冷却後、THF10gを加えて希釈し、メタノール500ml/28%アンモニア水100mlに滴下して30分間撹拌した。析出した粉末を吸引ろ過で回収し、THF40mlに溶解させた。この溶液をメタノール500mlに滴下して30分間撹拌した。析出した粉末を吸引ろ過で回収し、減圧乾燥してポリマー2(4.5g)を得た。
Mw(GPC)=1,900
IR(cm
-1):1587、1504、1488、1324、1272、1162、1122、1067、1016、819、750、692、620
【0074】
[2]フッ素原子を含有しない電荷輸送性物質の合成
[合成例3]オリゴアニリン化合物1の合成
【化17】
【0075】
4,4’−ジアミノジフェニルアミン10.00g(50.19mmol)、4−ブロモトリフェニルアミン34.17g(105.40mmol)、およびキシレン(100g)の混合懸濁液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.5799g(0.5018mmol)とターシャルブトキシナトリウム10.13g(105.40mmol)とを加え、窒素下130℃で14時間撹拌した。
その後、反応混合液を濾過し、その濾液に飽和食塩水を加えて分液処理をした後、有機層から溶媒を留去して得られた固体を1,4−ジオキサンを用いて再結晶し、目的のオリゴアニリン化合物1を得た(収量:22.37g、収率:65%)。
1H−NMR(CDCl
3):δ7.83(S,2H),7.68(S,1H),7.26−7.20(m,8H),7.01−6.89(m,28H).
【0076】
[3]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例1]電荷輸送性ワニスA
合成例1で得られたポリマー1(139mg)、合成例3で得られたオリゴアニリン化合物1(31mg)およびリンタングステン酸(関東化学(株)製)(155mg)の混合物に窒素循環型グローブボックス内で1,3−ジメチルイミダゾリジノン(3g)を加えて、50℃で加熱撹拌して、溶解させた。これにシクロヘキサノール(3g)を加えて撹拌し、緑色溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性ワニスAを得た。
【0077】
[実施例2]電荷輸送性ワニスB
ポリマー1、オリゴアニリン化合物1およびリンタングステン酸の使用量を、154mg、26mgおよび128mgとした以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスを調製した。
【0078】
[実施例3]電荷輸送性ワニスC
ポリマー1 139mgの代わりに合成例2で得られたポリマー2 139mgを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスを調製
した。
【0079】
[実施例4]電荷輸送性ワニスD
ポリマー1 154mgの代わりに合成例2で得られたポリマー2 154mgを用いた以外は、実施例2と同様の方法で電荷輸送性ワニスを調製した。
【0080】
[比較例1]電荷輸送性ワニスE
ポリマー1を用いず、オリゴアニリン化合物1およびリンタングステン酸の使用量を、64mgおよび319mgとした以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスを調製した。
【0081】
[実施例9]電荷輸送性ワニスF
合成例2で得られたポリマー2(139mg)、合成例3で得られたオリゴアニリン化合物1(31mg)およびリンタングステン酸(関東化学(株)製)(155mg)の混合物に窒素循環型グローブボックス内でジプロピレングリコール(1.2g)を加えて、50℃で加熱撹拌して、溶解させた。これにジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(4.8g)を加えて撹拌し、緑色溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性ワニスFを得た。
【0082】
[実施例10]電荷輸送性ワニスG
さらに硬化剤オグソールEA−F5003(111mg)を加えて混合物を調製した以外は、実施例9と同様の方法で電荷輸送性ワニスGを調製した。
【0083】
[4]有機EL素子(OLED素子)の作製およびその特性評価
電気特性を評価する際の基板には、インジウム錫酸化物が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板(以下ITO基板と略す)を用いた。ITO基板は、O
2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)を用いて、表面上の不純物を除去してから使用した。
【0084】
[実施例5]電荷輸送性ワニスAを用いたOLED素子の作製
実施例1で得られた電荷輸送性ワニスAを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、50℃で5分間乾燥し、さらに230℃で15分間焼成し、ITO基板上に30nmの均一な薄膜を形成した。
【0085】
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10
-5Pa)を用いてトリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq
3)、フッ化リチウム、およびアルミニウムの薄膜を順次積層し、OLED素子を得た。この際、蒸着レートは、Alq
3およびアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ40nm、0.5nmおよび100nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、OLED素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。
酸素濃度2ppm以下、露点−85℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着材(ナガセケムテックス(株)製,XNR5516Z−B1)により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製,HD−071010W−40)をOLED素子と共に封止基板内に収めた。
貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6000mJ/cm
2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着材を硬化させた。
【0086】
[実施例6]電荷輸送性ワニスBを用いたOLED素子の作製
電荷輸送性ワニスAの代わりに実施例2で得られた電荷輸送性ワニスBを用いた以外は、実施例5と同様の方法でOLED素子を作製した。
【0087】
[実施例7]電荷輸送性ワニスCを用いたOLED素子の作製
電荷輸送性ワニスAの代わりに実施例3で得られた電荷輸送性ワニスCを用いた以外は、実施例5と同様の方法でOLED素子を作製した。
【0088】
[実施例8]電荷輸送性ワニスDを用いたOLED素子の作製
電荷輸送性ワニスAの代わりに実施例4で得られた電荷輸送性ワニスDを用いた以外は、実施例5と同様の方法でOLED素子を作製した。
【0089】
[比較例2]電荷輸送性ワニスEを用いたOLED素子の作製
電荷輸送性ワニスAの代わりに比較例1で得られた電荷輸送性ワニスEを用いた以外は、実施例5と同様の方法でOLED素子を作製した。
【0090】
[実施例11]電荷輸送性ワニスFを用いたOLED素子の作製
電荷輸送性ワニスAの代わりに実施例9で得られた電荷輸送性ワニスFを用いた以外は、実施例5と同様の方法でOLED素子を作製した。
【0091】
[実施例12]電荷輸送性ワニスGを用いたOLED素子の作製
電荷輸送性ワニスAの代わりに実施例10で得られた電荷輸送性ワニスGを用いた以外は、実施例5と同様の方法でOLED素子を作製した。
【0092】
電流−電圧−輝度測定システムを用い、実施例5〜8,11,12および比較例2で得られたOLED素子の電気特性を2回繰り返し測定した。各測定時の駆動電圧7Vにおける電流密度、輝度および電流効率を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示されるようにポリマー1またはポリマー2を添加していない電荷輸送性ワニスEを用いた比較例2では、電流効率が著しく低く、電流密度に対して輝度が低いことがわかる。
また、ポリマー1またはポリマー2を添加している実施例5〜8,11,12では、1回目の測定と2回目の測定で特性にほとんど変化がないのに対し、比較例2では輝度が約半分に低下している。この事実は、比較例2のOLED素子は寿命が短く、実施例5〜8,11,12のOLED素子では寿命が長いことを示している。
このように、ポリマー1およびポリマー2を電荷輸送性ワニスに添加することにより、OLED素子の電流効率を向上させることができ、さらに素子を長寿命化することができることがわかる。
【0095】
[5]薄膜のトルエン耐性評価
[実施例13]電荷輸送性ワニスFから作製した薄膜のトルエン耐性評価
実施例9で得られた電荷輸送性ワニスFを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、100℃で1分間乾燥し、さらに230℃で15分間焼成し、ITO基板上に30nmの均一な薄膜を形成した。この基板にトルエン0.5mlを載せて、1分間放置後、スピンコートによりトルエンを除去し、120℃で1分間乾燥後、触針式膜厚計で膜厚を測定し、トルエンでのストリッピング前の膜厚と比較することにより、残膜率を算出した。
【0096】
[実施例14]電荷輸送性ワニスGから作製した薄膜のトルエン耐性評価
電荷輸送性ワニスFの代わりに実施例10で得られた電荷輸送性ワニスGを用いた以外は、実施例13と同様の方法で残膜率を算出した。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示されるように、硬化剤を添加したワニスを用いることでトルエン耐性に優れた薄膜が得られることがわかる。
実施例11〜14の結果から、硬化剤の添加によって、OLED特性を変化させずに膜のトルエン耐性を向上できることがわかる。このことは、トルエン等を用いた発光層を形成するような場合であっても、再現性よく高耐久性の有機EL素子を製造できることを示唆している。