(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、鉄が主成分で、ニッケルを1質量%〜2質量%含有するニッケル酸化鉱石から、ニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬プロセスとして、硫酸を用いた高圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach:HPAL法)が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法とは異なり、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利となる。
【0003】
具体的に、この高圧酸浸出法によるニッケル製錬方法は、例えばニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する工程(鉱石スラリー調製工程)と、その鉱石スラリーに硫酸を添加し、加圧浸出反応器(以下では「オートクレーブ」を具体例として説明する)にて220℃〜280℃の高温高圧下で浸出処理を施し、鉱石中のニッケル及びコバルトを浸出して浸出スラリーを得る工程(浸出工程)と、浸出スラリー中の浸出残渣とニッケル及びコバルトを含む浸出液とを固液分離する工程(固液分離工程)と、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液のpHを3〜4に調整して鉄等の不純物元素を中和分離する工程(中和工程)と、中和分離後の浸出液に硫化水素ガス等の硫化剤を供給してニッケルコバルト混合硫化物を回収する工程(硫化工程)とを有している。
【0004】
このような高圧酸浸出法では、浸出工程において、オートクレーブ内の浸出液の酸化還元電位及び温度を制御することにより、主要不純物である鉄をヘマタイト(Fe
2O
3)の形で浸出残渣に固定し、一方でニッケル及びコバルトを選択的に浸出することができるので、非常に大きなメリットがある。
【0005】
ここで、浸出工程においては、例えば
図1に示すように、2本の硫酸添加配管(ライン)11A,11Bを通じてオートクレーブ1の隔室1aへの硫酸が添加される。硫酸が添加された鉱石スラリーは、攪拌機を有する隔室1aから隔室1gへと順次に移動する間に、鉱石からニッケル及びコバルト、さらに不純物等が浸出される。
【0006】
硫酸を供給するためのポンプ(硫酸供給ポンプ)としては、容積式ポンプの一つであるダイヤフラムポンプが多用されている。従来、例えば
図8に示すように、オートクレーブ1に対して、硫酸供給ポンプP(PA,PB)から供給された硫酸を2本の硫酸添加配管LA,LBを介して同時に供給する。この硫酸供給ポンプPは、例えば、常用としての1基(ポンプPA)と保守点検用として待機させている1基(ポンプPB)との計2基を備えている。硫酸供給ポンプPは、例えば、3つ以上のダイヤフラムD(DA
1〜DA
3,DB
1〜DB
3)から構成されており、それぞれのダイヤフラムDには吐出口S(Sa
1〜Sa
3,Sb
1〜Sb
3)が設けられている。
【0007】
図8に示すように、例えば、硫酸供給ポンプPが、吐出口Sを設けた3つのダイヤフラムDを備えている場合(吐出口は3つ)、硫酸添加配管LAには吐出口Sa
1及び吐出口Sa
2の計2つの吐出口から、硫酸添加配管LBには吐出口Sa
3の1つの吐出口から硫酸を供給する。したがって、硫酸添加配管LAからは、硫酸添加配管LBから添加される硫酸量の約2倍の量の硫酸を添加することが可能となっている。
【0008】
硫酸添加配管LA及び硫酸添加配管LBは、上述したように、それぞれ2基の硫酸供給ポンプPA,PBが共通に接続されている。例えば、硫酸供給ポンプPAを使用する場合には、硫酸添加配管LAに設けられた弁Vのうち、硫酸供給ポンプPA側の弁Va
1,Va
2を開け、一方で硫酸供給ポンプPB側の弁Va
3,Va
4は閉めておく。また、硫酸添加配管LBに設けられた弁Vのうち、硫酸供給ポンプPA側の弁Vb
1,Vb
2を開け、一方で硫酸供給ポンプPB側の弁Vb
3,Vb
4は閉めておく。硫酸添加配管L内に供給する硫酸の流量調整は、硫酸供給ポンプPのポンプスピードとピストンのストロークを調整することによって行うことができる。
【0009】
具体的に、ポンプスピードは、硫酸供給ポンプPに設けられた吐出口(例えば、ポンプPAにおいては吐出口Sa
1,Sa
2,Sa
3)の全てで共通であり、また、ストロークは、例えばポンプPAの場合には、吐出口Sa
1、吐出口Sa
2、吐出口Sa
3でそれぞれ個別に調整することができる。なお、ポンプスピードに対しては適切なストロークがあり、ストロークの調整が適切でないと硫酸の添加流量が安定しないばかりか、そのポンプPや配管Lに振動が生じて設備に負担が掛かることの他、配管Lの破損等を招くおそれがある。
【0010】
さて、高圧酸浸出法によるニッケル製錬方法では、オートクレーブ1を高温で且つ高圧の条件として処理が行われるため、硫酸供給ポンプPは、そのオートクレーブ1の内圧を上回る吐出圧力で運転を続けるという厳しい条件で使用される。このことから、硫酸供給ポンプPにおいては、保守点検の頻度やトラブル発生の頻度も多くなる。したがって、そのような保守点検やトラブル発生時でも操業を停止しなくてもよいように、硫酸供給ポンプPは、通常、複数基(一般的には「2基」)が準備される。このようにして複数基の硫酸供給ポンプPを準備することで、通常操業においては、一方の硫酸供給ポンプ(例えば硫酸供給ポンプPA)を稼働させ、他方の硫酸供給ポンプ(例えば硫酸供給ポンプPB)を待機させる。なお、待機中の硫酸供給ポンプPは「予備機」とも呼ばれる。そして、保守点検時には、稼働中の硫酸供給ポンプPAと待機中の硫酸供給ポンプPBの系列を切り替え、つまり、硫酸供給ポンプPAを待機中とし、硫酸供給ポンプPBを稼働させて、硫酸供給ポンプPAの保守点検を実施しながら硫酸供給ポンプPBを使用して操業を継続させるという方法が一般的となる。
【0011】
ここで、硫酸供給ポンプPを予備機(例えば硫酸供給ポンプPB)へと切り替える場合には、運転中の硫酸供給ポンプPAを停止させた後に、予備機の硫酸供給ポンプPBの運転を開始させる必要がある。そのため、オートクレーブ1への硫酸添加は一時的に停止することになり、これにより、稼働率の低下だけではなく、ニッケルやコバルト等の浸出率が大幅に低下し、ニッケル酸化鉱の製錬方法における浸出工程後の工程にて添加する中和剤等の添加量を調整する必要が生じる。そして、これらの添加量の調整を含む一連の切り替え作業は、少なくとも数時間を要していた。
【0012】
上述したように、硫酸供給ポンプPは、過酷な条件で運転されるために保守点検頻度が高くなる一方で、その保守点検等のために切り替え作業を行う必要があるため、高負荷及び高稼働率での運転を維持することは困難であった。さらに、保守点検等のための切り替えに伴って、浸出工程後の工程における薬剤添加量の調整も必要となっていた。
【0013】
例えば特許文献1には、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧浸出に基づく湿式製錬方法において、浸出工程と固液分離工程における処理の簡素化、中和工程における中和剤消費量及び澱物量の削減、さらに効率的な水の繰り返し使用等によって、製錬プロセス全体として簡素で且つ高効率とする方法が開示されている。しかしながら、このような先行技術には、浸出工程にて使用する硫酸添加設備やその運転方法については提案されておらず、高い稼働率で硫酸添加する方法が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、以下の順序で図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
1.ニッケル酸化鉱の湿式製錬方法
2.硫酸添加設備
3.硫酸添加設備の運転方法
3−1.通常操業時における運転方法
3−2.硫酸供給ポンプの稼働停止時における運転方法
【0023】
≪1.ニッケル酸化鉱の湿式製錬方法≫
本実施の形態に係る硫酸添加設備は、ニッケル酸化鉱の高圧酸浸出処理を用いた湿式製錬方法における浸出工程にて使用するオートクレーブに硫酸を添加する硫酸添加設備である。以下では、その硫酸添加設備及びその運転方法について具体的に説明するが、その説明に先立ち、高圧酸浸出法によるニッケル酸化鉱の湿式製錬方法の概要について説明する。
【0024】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーから残渣を分離してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して浸出液中の不純物元素を中和澱物として分離して中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成する硫化工程(ニッケル回収工程)S4とを有する。
【0025】
[浸出工程]
浸出工程S1では、オートクレーブ(高温加圧容器)を用い、ニッケル酸化鉱のスラリー(鉱石スラリー)に硫酸を添加して温度230℃〜270℃程度、圧力3MPa〜5MPa程度の条件下で攪拌し、浸出残渣と浸出液からなる浸出スラリーを形成する。
【0026】
ニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0027】
この浸出工程S1における浸出処理では、例えば下記式(i)〜(v)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。なお、この浸出工程S1では、次工程の固液分離工程S2で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣のろ過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
【0028】
・浸出反応
MO+H
2SO
4⇒MSO
4+H
2O ・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4⇒Fe
2(SO
4)
3+6H
2O ・・(ii)
FeO+H
2SO
4⇒FeSO
4+H
2O ・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2⇒Fe
2(SO
4)
3+H
2O ・・(iv)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O⇒Fe
2O
3+3H
2SO
4 ・・(v)
【0029】
上述した浸出工程S1における、鉱石スラリーを装入したオートクレーブへの硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg〜400kgとする。
【0030】
さて、詳しくは後述するが、本実施の形態に係る硫酸添加設備は、この浸出工程S1において使用するオートクレーブに硫酸を添加するための設備である。
図1は、オートクレーブ1の概要と、そのオートクレーブ1に硫酸を添加する硫酸添加配管(硫酸添加ライン)11の構成を示す図である。
図1に示すように、オートクレーブ1は、特に限定されないが、複数の隔室(
図1の例では隔室1a〜隔室1gの7つ)に分かれており、鉱石スラリー装入配管2を介して隔室1aに鉱石スラリーが装入されるとともに、硫酸添加配管11を介してニッケル等を浸出させるための硫酸が添加される。装入された鉱石スラリーと硫酸は、隔室1aから隔室1gに向かって順に移送され、各隔室において攪拌機3による攪拌が実行されながら浸出処理が施される。隔室1gにおける攪拌処理の終了後、得られた浸出スラリーは浸出スラリー排出配管4を介して排出され、次に固液分離工程S2へと移送される。
【0031】
本実施の形態に係る硫酸添加設備は、
図1に示すように、例えば2つの硫酸添加配管11A,11Bを備えている。また、この硫酸添加設備は、硫酸添加配管11に硫酸を供給するダイヤフラムポンプからなる硫酸供給ポンプを備えている。本実施の形態に係る硫酸添加設備では、硫酸供給ポンプの最大能力と稼働率を向上させることができ、ニッケルの浸出率や後工程における薬剤(中和剤等)の添加量を安定させ、当該ニッケル酸化鉱の湿式製錬プロセス全体として効率的な処理を行うことを可能にする。詳しくは後述する。
【0032】
[固液分離工程]
固液分離工程S2では、浸出工程S1で形成される浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣を得る。
【0033】
この固液分離工程S2では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合に応じて減少させることができる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
【0034】
[中和工程]
中和工程S3では、浸出液の酸化を抑制しながら、pHが4以下となるように酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、3価の鉄を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液(中和終液)とを得る。
【0035】
具体的に、中和工程S3では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル回収用の母液の元となる中和終液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S3では、このようにして浸出液に対する中和処理を施すことで、高圧酸浸出法による浸出処理で用いた過剰の酸を中和して中和終液と生成するとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去する。
【0036】
[硫化工程(ニッケル回収工程)]
硫化工程S4では、ニッケル回収用母液である中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹きこみ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液(硫化後液)とを生成する。なお、中和終液中に亜鉛が含まれる場合には、ニッケル及びコバルトを硫化物として分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0037】
この硫化工程S4では、ニッケルコバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理し、混合硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分は、オーバーフローさせて貧液として回収する。
【0038】
≪2.硫酸添加設備≫
本実施の形態に係る硫酸添加設備は、上述したニッケル酸化鉱の高圧酸浸出法における浸出工程にて使用するオートクレーブに硫酸を添加するための設備である。
【0039】
具体的には、本実施の形態に係る硫酸添加設備は、オートクレーブ内に硫酸を添加する複数の硫酸添加配管と、硫酸添加配管に接続されてその硫酸添加配管に硫酸を供給する複数の硫酸供給ポンプとが、それぞれ同数(n+1)(nは1以上の整数)備えられている。そして、この硫酸添加設備において、第1〜第n+1の硫酸供給ポンプのそれぞれは、3基以上のダイヤフラムと、そのダイヤフラムの数と同数の吐出口とを有しており、第k(kは1から1+nの整数)の硫酸供給ポンプが有する3基以上のダイヤフラムのうちの半数を超えるダイヤフラムの吐出口は、第kの硫酸添加配管に接続され、一方で3基以上のダイヤフラムのうちの半数未満のダイヤフラムの吐出口は、第kの硫酸添加配管以外の他の硫酸添加配管に接続されていることを特徴としている。
【0040】
(硫酸添加設備の具体的な構成について:2系統の場合)
図2は、硫酸添加設備の構成図の一例を示す図である。
図2では、硫酸添加配管11と、硫酸供給ポンプ12とを、それぞれ2つずつ(2系統:「A」系統、「B」系統とする)備えている硫酸添加設備10の例を示している。
【0041】
なお、以下では適宜、第1(A系統)の硫酸添加配管11を「硫酸添加配管11A」とし、第2(B系統)の硫酸添加配管11を「硫酸添加配管11B」とする。また、第1(A系統)の硫酸供給ポンプ12を「硫酸供給ポンプ12A」とし、第2(B系統)の硫酸供給ポンプ12を「硫酸供給ポンプ12B」とする。
【0042】
硫酸添加配管11は、後述する硫酸供給ポンプ12により硫酸供給槽(図示しない)等から送液された硫酸の流路となる。硫酸添加配管11を通過した硫酸は、ニッケル酸化鉱を高温高圧下で浸出するためのオートクレーブ1内に添加される。
【0043】
この硫酸添加配管11には、複数の弁(流通弁)31,32が設けられている。硫酸添加配管11では、その弁31,32によって硫酸の流通のON/OFFが制御され、オートクレーブ1内への硫酸の添加が調整される。なお、弁31,32は、操作者の手によって開閉させる手動式、コンピュータ制御により開閉させる自動式のいずれでもよい。
【0044】
硫酸供給ポンプ12は、図示しない硫酸供給槽からの硫酸を、上述した硫酸添加配管11に送液するためのポンプであり、ダイヤフラムポンプからなる。ここで、ダイヤフラムポンプは、膜を往復運動させることにより流体の吸引及び排出を行うポンプである。例えば、ダイヤフラムポンプは、モーター駆動によるシリンダーの動作によって膜を膨張・収縮させて流体を送液するように構成されている。あるいは、フランジ部材により密閉状態で収容され、空気圧で加圧又は減圧される構造となっており、加圧により膜が収縮し減圧により膜が膨張することによる往復運動で流体を送液するように構成されている。
【0045】
このダイヤフラムポンプからなる硫酸供給ポンプ12は、ダイヤフラム(膜)21と、流体である硫酸を吐出する吐出口(ポンプヘッド)22とを有している。
【0046】
上述したように、硫酸添加設備10は、オートクレーブ1内に硫酸を添加する2つの硫酸添加配管11A,11Bと、硫酸添加配管11に接続されてその硫酸添加配管11A,11Bに硫酸を供給する2つの硫酸供給ポンプ12A,12Bとを備えている。
【0047】
この硫酸添加設備10において、第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12Bのそれぞれは、3基のダイヤフラム21と、そのダイヤフラム21の数と同数の吐出口22とを有している。なお、第1の硫酸供給ポンプ12Aの3基のダイヤフラム21aにおける3つの吐出口22aをそれぞれ「吐出口22a
1〜22a
3」とし、第2の硫酸供給ポンプ12Bの3基のダイヤフラム21bにおける3つの吐出口22bをそれぞれ「吐出口22b
1〜22b
3」とする。
【0048】
そして、第1の硫酸供給ポンプ12Aが有する3基のダイヤフラム21aのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21a
1,21a
2の吐出口22a
1,22a
2は、第1の硫酸添加配管11Aに接続されている。一方で、3基のダイヤフラム21aのうちの半数未満の残りのダイヤフラム、すなわち残り1基のダイヤフラム21a
3の吐出口22a
3は、第1の硫酸添加配管11A以外の第2の硫酸添加配管11Bに接続されている。
【0049】
同様に、第2の硫酸供給ポンプ12Bが有する3基のダイヤフラム21bのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21b
1,21b
2の吐出口22b
1,22b
2は、第2の硫酸添加配管11Bに接続されている。一方で、3基のダイヤフラム21bのうちの半数未満の残りのダイヤフラム、すなわち残り1基のダイヤフラム21b
3の吐出口22b
3は、第2の硫酸添加配管11B以外の第1の硫酸添加配管11Aに接続されている。
【0050】
(硫酸添加設備の具体的な構成について:3系統の場合)
また、
図3は、硫酸添加設備の構成図の一例を示す図であり、硫酸添加配管11と、硫酸供給ポンプ12とを、それぞれ3つずつ(3系統:「A」系統、「B」系統、「C」系統とする)備えている硫酸添加設備10’の例を示している。
【0051】
硫酸添加配管11、硫酸供給ポンプ12が3系統備えられている硫酸添加設備10’においては、第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12B、第3の硫酸供給ポンプ12Cのそれぞれは、3基のダイヤフラム21と、そのダイヤフラム21の数と同数の吐出口22とを有している。第1の硫酸供給ポンプ12Aの3基のダイヤフラム21aにおける3つの吐出口22aをそれぞれ「吐出口22a
1〜22a
3」とし、第2の硫酸供給ポンプ12Bの3基のダイヤフラム21bにおける3つの吐出口22bをそれぞれ「吐出口22b
1〜22b
3」とし、第3の硫酸供給ポンプ12Cの3基のダイヤフラム21cにおける3つの吐出口22cをそれぞれ「吐出口22c
1〜22c
3」とする。
【0052】
そして、第1の硫酸供給ポンプ12Aが有する3基のダイヤフラム21aのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21a
1,21a
2の吐出口22a
1,22a
2は、第1の硫酸添加配管11Aに接続されている。一方で、3基のダイヤフラム21aのうちの半数未満の残りのダイヤフラム、すなわち残り1基のダイヤフラム21a
3の吐出口22a
3は、第1の硫酸添加配管11A以外の第2の硫酸添加配管11Bに接続されている。
【0053】
同様に、第2の硫酸供給ポンプ12Bが有する3基のダイヤフラム21bのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21b
1,21b
2の吐出口22b
1,22b
2は、第2の硫酸添加配管11Bに接続されている。一方で、3基のダイヤフラム21bのうちの半数未満の残りのダイヤフラム、すなわち残り1基のダイヤフラム21b
3の吐出口22b
3は、第2の硫酸添加配管11B以外の第3の硫酸添加配管11Cに接続されている。
【0054】
同様に、第3の硫酸供給ポンプ12Cが有する3基のダイヤフラム21cのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21c
1,21c
2の吐出口22c
1,22c
2は、第3の硫酸添加配管11Cに接続されている。一方で、3基のダイヤフラム21cのうちの半数未満の残りのダイヤフラム、すなわち残り1基のダイヤフラム21c
3の吐出口22c
3は、第3の硫酸添加配管11C以外の第1の硫酸添加配管11Aに接続されている。
【0055】
なお、以上では、系統数が2系統の場合及び3系統の場合の硫酸添加設備10,10’の構成を説明したが、系統数はこれらの場合に限られず、ニッケル酸化鉱の処理量、硫酸添加量等に応じて、4系統以上の硫酸添加配管11や硫酸供給ポンプ12を備えるものとすることもできる。例えば、硫酸添加配管11、硫酸供給ポンプ12が4系統以上備えられている設備であっても、第4、第5、・・・第n+1の硫酸供給ポンプ12は同様にして構成され、半数を超える吐出口22が第kの硫酸添加配管11に接続され、半数未満の残りの吐出口22が第kの硫酸添加配管11以外の硫酸添加配管11に接続される。第kの硫酸供給ポンプの半数未満の残りのダイヤフラムの吐出口22が接続される硫酸添加配管11は、第kの硫酸供給ポンプ以外の半数未満の残りのダイヤフラムの吐出口22が接続される硫酸添加配管11と重複しないように接続される。
【0056】
(従来の硫酸添加設備との対比)
ここで、
図8に示したように、従来の硫酸添加設備100においては、硫酸添加配管LAへは第1の硫酸供給ポンプPAの吐出口Sa
1及び吐出口Sa
2の計2つの吐出口から、硫酸添加配管LBへは第1の硫酸供給ポンプPAの吐出口Sa
3の1つの吐出口から、それぞれ硫酸を添加していた。したがって、硫酸添加配管LAに対しては、硫酸添加配管LBに対して添加できる量よりも約2倍の硫酸を添加することが可能な構成となっている。この硫酸添加配管LA及び硫酸添加配管LBには、2基の硫酸供給ポンプ(第1の硫酸供給ポンプPA、第2の硫酸供給ポンプPB)が共通して接続されており、例えば第1の硫酸供給ポンプPAを使用する場合には、その第1の硫酸供給ポンプPA側の弁Va
1〜Va
2、Vb
1〜Vb
2を開けた状態とし、第2の硫酸供給ポンプPB側の弁Va
3〜Va
4、Vb
3〜Vb
4を閉めた状態としておく。
【0057】
高温高圧下で浸出処理を施すオートクレーブ内に硫酸を添加するための硫酸添加設備において、その構成要素である硫酸供給ポンプPA,PBは厳しい条件で使用されることになる。そのため、硫酸供給ポンプPA,PBにおいては保守点検やトラブル発生の頻度も高くなる。このことから、保守点検やトラブル発生時に操業停止時間を極力減らすために、上述したように、常用の硫酸供給ポンプ1基(例えば第1の硫酸供給ポンプPA)と予備の硫酸供給ポンプ1基(例えば第2の硫酸供給ポンプPB)との計2基が準備される。
【0058】
通常操業中では、第1の硫酸供給ポンプ(例えば第1の硫酸供給ポンプPA)は稼働中の状態となり、予備機である第2の硫酸供給ポンプ(例えば第2の硫酸供給ポンプPB)は待機中の状態となる。一方で、保守点検等のための稼働停止を要する際には、稼働中の硫酸供給ポンプPAを一旦停止させた上で(オートクレーブ1への硫酸添加を停止させた上で)、待機中の硫酸供給ポンプPBに運転を切り替え、第1の硫酸供給ポンプPAを待機中の状態として保守点検を実施していた。このようなことから、従来の硫酸添加設備100において保有している硫酸供給ポンプPA,PBの稼働率としては、予備機を有さなければならないことから50%しかなかった。
【0059】
他方で、稼働中の硫酸供給ポンプにおける設計負荷は、設備投資を抑えるためにそのポンプの最大能力に近い値で設計されており、実際の運転においても、最大能力に近い値で運転している。さらに、ニッケル酸化鉱の湿式製錬法における浸出処理では、処理する鉱石中に含まれる、マグネシウムを代表とする不純物の品位が上昇した場合には、浸出しやすい不純物の浸出に硫酸が消費されてしまい、目的とする金属(ニッケル及びコバルト)の浸出率が悪化する。この場合には、硫酸の添加量を増加して浸出率を確保しており、すなわち硫酸供給ポンプの負荷をさらに高めて対応している。
【0060】
ところが、硫酸供給ポンプの負荷の増加よってポンプを最大能力に極めて近い値で運転する場合、配管やポンプにおける振動発生といったトラブルや、ダイヤフラムの逆止弁や油圧系の安全弁等における異常トラブル、ダンプナー(脈動圧力緩和装置)の接続部からの硫酸漏れ等のトラブルが発生する可能性が著しく高くなる。実操業においても、高負荷運転時ほど、これらのようなトラブルの増加が著しくなっていた。
【0061】
このような実情において、本発明者は、硫酸添加設備に備えられた硫酸供給ポンプの予備機を通常操業中においても運転させるようにすることで、硫酸供給ポンプの最大能力を引き上げ、また硫酸供給ポンプの負荷の低下による稼働率の向上を検討した。その結果、例えば
図2、
図3に示す硫酸添加設備10のように硫酸添加配管11と硫酸供給ポンプ12とを構成することによって、硫酸供給ポンプの最大能力及び稼働率を向上させることができることを見出した。
【0062】
具体的に、例えば
図2に示す2系統からなる硫酸添加設備10のように、第1の硫酸供給ポンプ12Aにおいては、3基以上のダイヤフラム21aのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21a
1,21a
2の吐出口22a
1,22a
2を使用して第1の硫酸添加配管11Aに硫酸を供給する。また一方で、第2の硫酸供給ポンプ12Bにおいては、3基以上のダイヤフラム21bのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21b
1,21b
2の吐出口22b
1,22b
2を使用して第2の硫酸添加配管11Bに硫酸を供給する。
【0063】
また、例えば
図3に示す3系統からなる硫酸添加設備10’のように、第1の硫酸供給ポンプ12Aにおいては、3基以上のダイヤフラム21aのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21a
1,21a
2の吐出口22a
1,22a
2を使用して第1の硫酸添加配管11Aに硫酸を供給する。一方で、第2の硫酸供給ポンプ12Bにおいては、3基以上のダイヤフラム21bのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21b
1,21b
2の吐出口22b
1,22b
2を使用して第2の硫酸添加配管11Bに硫酸を供給する。さらに、第3の硫酸供給ポンプ12Cにおいては、3基以上のダイヤフラム21bのうちの半数を超える、すなわち2基のダイヤフラム21c
1,21c
2の吐出口22c
1,22c
2を使用して第3の硫酸添加配管11Cに硫酸を供給する。
【0064】
このように、それぞれの硫酸供給ポンプ12において、3基以上のダイヤフラム21のうちの半数を超える吐出口22を、別々の硫酸添加配管11に接続させて、それぞれの硫酸添加配管(第1の硫酸添加配管11A、第2の硫酸添加配管11B、第3の硫酸添加配管11C)を通じて硫酸添加が可能となるように構成する。このことにより、従来では予備機として使用していた硫酸供給ポンプをも併せた2基以上の並列運転が可能となり、ポンプの最大能力を向上させるとともに稼働率を高めることができる。
【0065】
また、一方の硫酸供給ポンプ12A(12B、12C)の保守点検やトラブル発生時にその硫酸供給ポンプの稼働を停止させる場合であっても、オートクレーブ1への硫酸添加を止めることなく、極めて効率的な操業を行うことができる。なお、一の硫酸供給ポンプ12A(12B、12C)の保守点検等の稼働停止時における操作については後で詳述するが、保守点検等を行う対象ではない硫酸供給ポンプ12、例えば第1の硫酸供給ポンプ12Aを保守点検対象としない場合、その第1の硫酸供給ポンプ12Aにおいては、3基以上のダイヤフラム21aのうちの半数未満である1基のダイヤフラム21a
3の吐出口22a
3を使用して第2の硫酸添加配管11Bに硫酸を供給するようにする。このような場合、保守点検や発生したトラブルへの対応時間の間だけ、オートクレーブへの硫酸添加量が約25%減少するものの、硫酸添加量の不足を最低限に抑えることができる。
【0066】
≪3.硫酸添加設備の運転方法≫
以下に、本実施の形態に係る硫酸添加設備の運転方法について、上述した
図2に一例を示す硫酸添加設備10を用いたときの、通常操業時における運転方法と、保守点検等の所定の硫酸供給ポンプの稼働停止時における運転方法との場合に分けて説明する。
【0067】
<3−1.通常操業時における運転方法>
本実施の形態に係る硫酸添加設備10は、
図2に示したように、2つの硫酸添加配管11A,11Bと、2つの硫酸供給ポンプ12A,12Bとが備えられている。そして、第1の硫酸供給ポンプ12Aが有する3基のダイヤフラム21aのうちの半数を超える2基のダイヤフラム21a
1,21a
2の吐出口22a
1,22a
2は、第1の硫酸添加配管11Aに接続されており、一方で、3基のダイヤフラム21aのうちの半数未満の残りの1基のダイヤフラム21a
3の吐出口22a
3は、第2の硫酸添加配管11Bに接続されている。同様に、第2の硫酸供給ポンプ12Bが有する3基のダイヤフラム21bのうちの半数を超える2基のダイヤフラム21b
1,21b
2の吐出口22b
1,22b
2は、第2の硫酸添加配管11Bに接続されており、一方で、3基のダイヤフラム21bのうちの半数未満の残りの1基のダイヤフラム21b
3の吐出口22b
3は、第1の硫酸添加配管11Aに接続されている。
【0068】
このような硫酸添加設備10において、通常操業時には、第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12Bのそれぞれで、3基のダイヤフラム21a(21b)のうちの半数を超える2基のダイヤフラム21a
1,21a
2(21b
1,21b
2)を運転させ、半数未満の残りの1基のダイヤフラム21a
3(21b
3)は停止させるようにする。
【0069】
そして、その運転中のダイヤフラム21a
1,21a
2(21b
1,21b
2)の吐出口22a
1,22a
2(22b
1,22b
2)から、その吐出口22と接続された硫酸添加配管11を介してオートクレーブ内に硫酸を添加させる。具体的には、第1の硫酸供給ポンプ12Aにおける運転中のダイヤフラム21a
1,21a
2の吐出口22a
1,22a
2から吐出する硫酸を、接続された第1の硫酸添加配管11Aを介してオートクレーブ1内に添加する。一方で、第2の硫酸供給ポンプ12Bにおける運転中のダイヤフラム21b
1,21b
2の吐出口22b
1,22b
2から吐出する硫酸を、接続された第2の硫酸添加配管11Bを介してオートクレーブ1内に添加する。
【0070】
この通常運転に際しては、実際の運転開始前に、上述した2基の吐出口22、例えば第1の硫酸供給ポンプ12Aにおける吐出口22a
1,22a
2と接続された第1の硫酸添加配管11Aに設置された弁31A
1,31A
2を開け、一方で吐出口22a
3に接続された第2の硫酸添加配管11Bに設置された弁32B
1,32B
2を閉めておく。なお、第2の硫酸供給ポンプ12Bに接続された硫酸添加配管11A,11Bに設置された弁31,32の開閉制御についても同様にして行う。なお、
図2において、弁31,32の開閉状態は、「開」状態を白抜きの弁とし、「閉」状態を黒抜きの弁とする。
【0071】
そして、第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12Bの2基それぞれのプライミングを行った後に、それぞれの硫酸供給ポンプ12A,12Bからの第1の硫酸添加配管11A、第2の硫酸添加配管11Bへの硫酸供給が開始される。
【0072】
通常運転時の操作については、例えば
図4に一例を示すようなDCS上の操作パネル50を操作することによって自動的に行うことができる。具体的に、通常運転時においては、第1の硫酸供給ポンプ12Aに関して『ポンプA−ラインA』の選択スイッチ51を選び、第2の硫酸供給ポンプ12Bに関して『ポンプB−ラインB』の選択スイッチ54を選び、硫酸添加開始シーケンススタートのボタン55を押下する。
【0073】
なお、この
図4に示す操作パネル50において、『ポンプA−ラインA』の選択スイッチ51は、上述したように第1の硫酸供給ポンプ12Aから第1の硫酸添加配管11Aを介して硫酸を添加するシーケンスの選択スイッチであり、『ポンプA−ラインB』の選択スイッチ52は、第1の硫酸供給ポンプ12Aから第2の硫酸添加配管11Bを介して硫酸を添加するシーケンスの選択スイッチである。また、『ポンプB−ラインA』の選択スイッチ53は、第2の硫酸供給ポンプ12Bから第1の硫酸添加配管11Aを介して硫酸を添加するシーケンスであり、『ポンプB−ラインB』の選択スイッチ54は、上述したように第2の硫酸供給ポンプ12Bから第2の硫酸添加配管11Bを介して硫酸を添加するシーケンスの選択スイッチである。
【0074】
第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12Bの両ポンプを起動させた後、それぞれのポンプ12A,12Bのダイヤフラム21の吐出口22についてストロークを調整しながらポンプスピードを上げていく。また、第1の硫酸供給ポンプ12Aにおける吐出口22a
3、第2の硫酸供給ポンプ12Bにおける吐出口22b
3については、ストロークをゼロに設定してポンプとしての稼働をさせない。
【0075】
ここで、
図5の、オートクレーブ1と硫酸添加配管11との構成を示した図を用いて、オートクレーブ1に硫酸を添加する際の、硫酸添加配管11に設けられた弁の開閉制御について具体的に説明する。
図5に示すように、オートクレーブ1に接続された硫酸添加配管11Aには、例えば3つの弁33A,34A,35Aと、配管内の圧力を検知する圧力計40Aと、配管内の硫酸の流量を検知する流量計41Aとが設けられている。なお、硫酸添加配管11Bにおいても、同様にして、弁、圧力計、流量計が設けられている。
【0076】
硫酸添加配管11Aを介してオートクレーブ1に硫酸を添加する場合を例に挙げると、硫酸添加の開始前は、硫酸添加配管11Aに設けられた全ての弁33A,34A,35Aは閉じており、その硫酸添加配管11Aに硫酸を供給する硫酸供給ポンプ12Aは停止している。続いて、オートクレーブ1への硫酸添加を開始するに際しては、先ず、硫酸供給ポンプ12Aのプライミング(硫酸添加配管11A内のエアー抜き)が行われ、圧力計40Aを監視することで硫酸添加配管11A内の圧力が、例えば500kPag〜800kPagであるか否かが確認される。そして、圧力が所定の圧力であることが確認されると、例えば
図6に示すDCS(分散制御システム)上の操作パネル60により、硫酸供給ポンプ12A,12Bのうち硫酸供給ポンプ12Aの選択スイッチ61を選び、硫酸添加開始シーケンスのスタートボタン63を押下する。なお、
図6に示す操作パネル60において、選択スイッチ62は、硫酸供給ポンプ12Bを運転させるための操作スイッチである。
【0077】
このような操作により硫酸供給ポンプ12Aの運転が開始されると、その硫酸供給ポンプ12Aのストロークを調整しながらポンプスピードを上げていき、所定の時間が経過した後に、硫酸添加配管11Aに設けられた弁33A,34Aが開く。なお、適宜、硫酸添加配管11A内における硫酸の流量が流量計41Aにより検知される。オートクレーブ1の圧力よりも硫酸添加配管11Aの圧力が高くなければ、硫酸をオートクレーブ1内に添加することが不可能となるため、硫酸添加配管11Aの圧力計40Aの指示値と、オートクレーブ1の圧力を示す圧力計1Pの指示値との差が所定の値(設定値)に達した後に、弁35Aが開き、オートクレーブ1への硫酸添加が開始される。
【0078】
なお、通常操業時においては、上述したように硫酸供給ポンプ12Bの稼働により硫酸添加配管11Bからの硫酸添加も行われるが、硫酸添加配管11Bからも硫酸添加配管11Aと同様に弁の開閉が行われ、オートクレーブ1への硫酸添加が行われる。
【0079】
上述したように、通常操業時においては、第1の硫酸供給ポンプ12Aから、吐出口22a
1,22a
2に接続された第1の硫酸添加配管11Aを介してオートクレーブ1に硫酸を添加し、また第2の硫酸供給ポンプ12Bから、吐出口22b
1,22b
2に接続された第2の硫酸添加配管11Bを介してオートクレーブ1に硫酸を添加する。このような予備機を含めた複数並列運転を可能にした硫酸添加設備10の最大能力は、設計値としては例えば以下のようになる。
【0080】
[硫酸添加設備10のポンプ最大能力]=
[第1の硫酸供給ポンプ12Aの吐出口22a
1+吐出口22a
2]
+
[第2の硫酸供給ポンプ12Bの吐出口22b
1+吐出口22b
2]
=26m
3/hr + 26m
3/hr
=52m
3/hr
【0081】
これに対して、従来の硫酸添加設備100を用いた操業、すなわち、
図8に示すように予備機(第2の硫酸供給ポンプPB)は停止させた状態で第1の硫酸供給ポンプPAのみを稼働させる操業では、その従来の硫酸添加設備100の最大能力は、設計値としては例えば以下のようになる。
【0082】
[従来の硫酸添加設備のポンプ最大能力]=
[第1の硫酸供給ポンプPAの吐出口Pa
1+吐出口Pa
2]
+
[第1の硫酸供給ポンプPAの吐出口Pa
3]
=26m
3/hr + 13m
3/hr
=39m
3/hr
【0083】
このように、本実施の形態に係る硫酸添加設備10の運転方法によれば、従来の硫酸添加設備100に比べて、そのポンプの最大能力を引き上げることができ、さらにその最大能力の引き上げに伴ってその能力に余裕をもって運転させることができる。このことにより、トラブルの発生を減少させることができ、稼働率を有効に高めることができる。
【0084】
<3−2.硫酸供給ポンプの稼働停止時における運転方法>
さらに、本実施の形態に係る硫酸添加設備10(
図2を参照)によれば、所定の硫酸供給ポンプ12の保守点検やトラブル発生時等の稼働を停止させる必要がある場合においても、オートクレーブ1に対する硫酸の添加を継続させることができる。
【0085】
具体的に、硫酸添加設備10に備えられた第n(硫酸添加設備10ではn=1又は2)の硫酸供給ポンプ12のいずれか一つにおける保守点検等による稼働停止時には、稼働を停止させる第nの硫酸供給ポンプ12以外の硫酸供給ポンプ12を運転させた状態で、その第nの硫酸供給ポンプ12が有する3基以上のダイヤフラム21のうちの半数を超えるダイヤフラム21を停止させて第nの硫酸供給ポンプ12をポンプ停止状態とする。
【0086】
すなわち、硫酸添加設備10において、第2の硫酸供給ポンプ12Bを保守点検のために停止させる場合を例に挙げて説明すると、先ず、その稼働を停止させる第2の硫酸供給ポンプ12B以外の、つまり第1の硫酸供給ポンプ12Aを運転させた状態で、その第2の硫酸供給ポンプ12Bが有する3基のダイヤフラム21bのうちの半数を超える2基のダイヤフラム21b
1,21b
2を停止させて第2の硫酸供給ポンプ12Bをポンプ停止状態とする。なお、第2の硫酸供給ポンプ12Bの残り1基のダイヤフラム21b
3は通常操業時においては非運転の状態であるため、ダイヤフラム21b
1,21b
2を停止させることによって第2の硫酸供給ポンプ12Bは完全にポンプ停止状態となる。
【0087】
そして、ポンプ停止状態となった第2の硫酸供給ポンプ12B以外の、つまり第1の硫酸供給ポンプ12Aにおいて、3基以上のダイヤフラム21aのうちの半数未満の1基のダイヤフラム21a
3を運転させ、そのダイヤフラム21a
3の吐出口22a
3と接続された第2の硫酸添加配管11Bを介して硫酸をオートクレーブ1内に添加する。つまり、通常操業時には停止していた、3基以上のダイヤフラム21aのうちの半数未満のダイヤフラム21a
3を運転させ、その吐出口22a
3に接続された第2の硫酸添加配管11Bを介して硫酸を添加することによって、第2の硫酸供給ポンプ12Bの運転により行われていた第2の硫酸添加配管11Bからの硫酸添加を行うようにする。
【0088】
なお、
図7は、第2の硫酸供給ポンプ12Bを保守点検等のために停止させたときの状態(弁31,32の開閉状態)を示す構成図である。
【0089】
このようにして運転させることで、第2の硫酸供給ポンプ12Bを保守点検等のために停止させる必要がある場合でも、第1の硫酸供給ポンプ12Aのみによって、第1の硫酸添加配管11A及び第2の硫酸添加配管11Bの両方の配管から、オートクレーブ1内に硫酸を添加することができる。しかも、そのポンプ停止状態とする第2の硫酸供給ポンプ12Bの稼働を停止させる際も、第1の硫酸供給ポンプ12Aの吐出口22a
1,22a
2からは、通常操業時から継続して硫酸を供給し続けることができるため、稼働率を極めて有効に高めることができる。なお、このような操業状態では、保守点検や発生したトラブルへの対応時間の間だけ、オートクレーブ1への硫酸添加量としては約25%減少するものの、硫酸添加量の不足は最低限に抑えることができ、効果的な操業が可能となる。
【0090】
ここで、第2の硫酸供給ポンプ12Bの保守点検等による稼働停止時における具体的な操作の流れについて説明する。
【0091】
[1]先ず、稼働を停止させる第2の硫酸供給ポンプ12Bの緊急停止ボタンを押下して第2の硫酸供給ポンプ12Bを停止させる。この操作により、
図5に示す第2の硫酸添加配管11Bに設けられた弁33Bが閉まる。一方で、この
図5に示すように、主として配管内の残留硫酸をパージするための窒素(N
2)ガスを供給する窒素供給配管70に設けられた弁71,弁72が開き、第2の硫酸添加配管11Bに対するN
2パージが開始される。
【0092】
なお、硫酸添加配管11内に残留した硫酸の除去操作としては、例えば硫酸添加配管11B内におけるN
2パージの場合、窒素供給配管70における弁71,72が開き、窒素ボンベから供給されたN
2ガスが硫酸添加配管11Bに通過し、その後オートクレーブ1内にも吹き込まれる。所定の設定時間のN
2ガスによるパージが完了すると、硫酸添加配管11Bにおける弁34B,35B、さらに窒素供給配管70における弁71,72が閉まり、硫酸添加が完全に停止する。なお、硫酸添加配管11A内におけるN
2パージの操作についても、同様にして、窒素供給配管70における弁73,74の開閉制御と、硫酸添加配管11Aにおける弁34A,35Aにおける開閉制御により行われる。
【0093】
[2]次に、第2の硫酸添加配管11Bからの硫酸添加が完全に停止すると、
図2に示す構成図において、第2の硫酸供給ポンプ12Bから第2の硫酸添加配管11Bに硫酸を供給するための弁31B
1,31B
2を閉めた後、第1の硫酸供給ポンプ12Aから第2の硫酸添加配管11Bに硫酸を供給するための弁32B
1,32B
2を開ける。
【0094】
[3]次に、第2の硫酸添加配管11B内の圧力を調整する。
【0095】
[4]次に、DSC上の操作パネル3(
図4を参照)において、『ポンプB−ラインB』の選択スイッチ54の選択を解除し、『ポンプA−ラインB』の選択スイッチ52を押下して選択する。
【0096】
[5]次に、第1の硫酸供給ポンプ12Aのポンプ出力及びストロークを最低負荷まで低下させる。なお、適宜、第2の硫酸添加配管11B内における硫酸の流量が流量計41Bにより検知される。
【0097】
[6]次に、DSC上の操作パネル3(
図4を参照)において、硫酸添加開始シーケンスのスタートボタン55を押下する。これにより、
図5に示す構成図における、第2の硫酸添加配管11Bに設けられた弁33B,34Bが開く。
【0098】
[7]そして、第1の硫酸供給ポンプ12Aのポンプ出力及びストロークを調整し、
図5に示す第2の硫酸添加配管11Bの圧力計40Bとオートクレーブ1の圧力計1Pとの差圧が設定値となると、弁35Bが開くことによって、第1の硫酸供給ポンプ12Aの吐出口22a
3から吐出する硫酸の、第2の硫酸添加配管11Bを介したオートクレーブ1への添加が開始される。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0100】
<実施例1、比較例1>
実施例1として、
図2に構成図を示した硫酸添加設備10を用いた硫酸添加操業を行った。一方で、比較例1として、
図8に構成図を示した従来の硫酸添加設備を用いた硫酸添加操業を行った。
【0101】
下記表1は、実施例1及び比較例1のそれぞれの操業における最大硫酸添加量を比較したデータを示すものである。この表1から明らかなように、硫酸添加設備10を用いた実施例1の操業によれば、従来操業(比較例1)と比べて、第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12Bの最大能力が増加することが分かる。
【0102】
【表1】
【0103】
次に、実施例1の硫酸添加設備10を用いた硫酸添加操業における硫酸供給ポンプ12(第1の硫酸供給ポンプ12A、第2の硫酸供給ポンプ12B)と、比較例1の従来の硫酸添加設備を用いた硫酸添加操業における硫酸供給ポンプの稼働率を比較した。なお、稼働率とは、硫酸供給ポンプ自体のトラブルによる停止時間のみを使用して計算したものであり、他の設備や工程の影響による硫酸添加の停止時間は影響していない。
【0104】
下記表2は、稼働率を比較したデータを示すものである。この表2から明らかなように、従来の硫酸添加設備に比べて、硫酸添加設備10における硫酸供給ポンプの稼働率が増加したことが分かる。
【0105】
【表2】