(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。本明細書において、数値範囲を表す「〜」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0014】
図1は、一実施形態による磁気記録媒体の断面図である。
【0015】
磁気記録媒体10は、エネルギーアシスト磁気記録方式の記録媒体である。エネルギーアシスト磁気記録方式は、エネルギー(熱)を与えることで磁気記録層14の保磁力を低下させ、この状態で外部磁界を印加して記録する方式であり、熱安定性を保ちながら磁性粒子を微細化できる。
【0016】
磁気記録媒体10は、大気雰囲気下のほか、不活性雰囲気下で使用できる。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気のほか、特に、原子量の小さいヘリウム雰囲気が回転に伴う気流の影響を小さくできるので好ましい。記録時および再生時の少なくとも一方の磁気記録媒体10の回転数は、7200〜20000rpmであってよい。
【0017】
磁気記録媒体10は、例えば
図1に示すようにガラス基板11、ヒートシンク層12、シード層13、磁気記録層14、および保護層15を有する。尚、磁気記録媒体10は、
図1の構成に限定されない。磁気記録媒体10は、ガラス基板11と、磁気記録層14とを有していればよく、例えばヒートシンク層12、シード層13、および保護層15を有しなくてもよい。また、磁気記録媒体10は、ガラス基板11と磁気記録層14との間に、密着層、軟磁性裏打ち層、中間層などをさらに有してもよい。また、磁気記録媒体10は、ガラス基板11の両側に磁気記録層14を有してもよい。
【0018】
先ず、ガラス基板11について説明する。ガラス基板11は、表層に化学強化による圧縮応力層を有し、中心に貫通穴のある円盤形状を有する。ガラス基板11の寸法は、典型的には内径が20mm、外径が65mmもしくは95mm、厚みが0.635mmもしくは0.8mmである。
【0019】
化学強化法としては、例えばイオン交換法などがある。イオン交換法は、ガラス基板11を処理液(例えば硝酸ナトリウム溶融塩や硝酸カリウム溶融塩、もしくはそれらの混合塩)に浸漬する。これにより、ガラスに含まれるイオン半径の小さなイオンがイオン半径の大きなイオンに交換される。例えば、ガラスに含まれるLiイオンがNaイオンに交換される。または、ガラスに含まれるNaイオンがKイオンに交換される。あるいは、その両方が行われる。イオン交換によって、Na、K、またはその両方の元素が導入され、圧縮応力層が形成される。化学強化法により元素が導入されると、その部位に圧縮応力が発生する。ガラス構造の緩和によって、発生する応力が弱められることがあるため、圧縮応力層の深さは、導入元素の深さより浅い、もしくは同じである。
【0020】
化学強化により導入される元素(以下、単に「導入元素」とも呼ぶ)は、その深さλを浅くする観点から、Kのみであることが好ましい。また、ガラス中のLiO
2含有量を低くしガラスの歪点Tsを高くする観点からも、導入元素はKのみであることが好ましい。
【0021】
化学強化処理条件はガラス基板11の厚さなどに応じて適宜選定されるが、350〜550℃の処理液に0.1〜20時間、ガラス基板11を浸漬させることが典型的である。経済的な観点から、処理液の温度は好ましくは350〜500℃、浸漬時間は0.2〜16時間である。より好ましい浸漬時間は0.5〜10時間である。
【0022】
圧縮応力層は、ガラス基板11の表面の全てに形成されてよい。ガラス基板11は、表面として、両主表面11a、11b、内周接続面11c、および外周接続面11dを有する。両主表面11a、11bは、互いに平行とされる。
【0023】
内周接続面11cは、両主表面11a、11bの内周縁同士をつなぐ。内周接続面11cは、例えば
図1に示すように、両主表面11a、11bに対して垂直な垂直面を有し、その垂直面と各主表面11a、11bとの間に各主表面11a、11bに対し傾斜した傾斜面をさらに有する。尚、内周接続面11cは、傾斜面と主表面11a、11bとの間、および傾斜面と垂直面との間のそれぞれに、湾曲面を有してもよい。また、内周接続面11cは、垂直面や傾斜面を有しなくてもよく、全体的に断面円弧状の湾曲面を有してもよい。幅W1は、ガラス基板11の径方向(
図1の左右方向)における内周接続面11cの幅を表す。
【0024】
外周接続面11dは、両主表面11a、11bの外周縁同士をつなぐ。外周接続面11dは、例えば
図1に示すように、両主表面11a、11bに対して垂直な垂直面を有し、その垂直面と各主表面11a、11bとの間に各主表面11a、11bに対し傾斜した傾斜面をさらに有する。尚、外周接続面11dは、傾斜面と主表面11a、11bとの間、および傾斜面と垂直面との間のそれぞれに、湾曲面を有してもよい。また、外周接続面11dは、垂直面や傾斜面を有しなくてもよく、全体的に断面円弧状の湾曲面を有してもよい。幅W2は、ガラス基板11の径方向(
図1の左右方向)における外周接続面11dの幅を表す。
【0025】
ガラス基板11のガラスの歪点Tsは585℃以上である。585℃未満では、磁気記録層14の成膜プロセスにおいて、成膜温度を低く抑える必要があり、保磁力の高い磁気記録層14の成膜が困難になるおそれがある。
【0026】
歪点Tsは、好ましくは600℃以上、より好ましくは635℃以上、さらに好ましくは650℃以上、特に好ましくは655℃以上、一層好ましくは660℃以上である。歪点Tsが635℃以上であると、650℃以上での磁気記録層14の成膜が可能になり、磁気記録層14の品質向上に寄与する。歪点Tsは、ガラス製造時の成形性の観点から、好ましくは750℃以下、より好ましくは720℃以下、さらに好ましくは700℃以下である。
【0027】
本発明者は、ガラス基板11の化学強化後の内外周端近傍の応力分布によるリタデーションと、ガラス基板11の化学強化による導入元素の深さλとをそれぞれ適切に調整することで、歪点Ts以上の温度での加熱による変形を抑制できることを見出した。ガラス基板11の化学強化後の内外周端近傍の応力分布に着目したのは、ガラス基板11の内外周端近傍では、内外周端から遠い部分に比べて、表面粗さが粗いので、化学強化後の応力の異方性が大きくなるためである。
【0028】
ガラス基板11の応力の異方性は、ガラス基板11のリタデーションで表すことができる。ガラス基板11のリタデーションは、主表面11a、11bに対し垂直に波長543nmの光を照射し、直交する2つの直線偏波の位相差を検出することで測定する。
【0029】
先ず、ガラス基板11のリタデーションについて説明する。以下、ガラス基板11の内周端11eから径方向外側に0.2mmの位置でのリタデーションをRI
0.2と表記する。RI
0.2は、周方向全周に亘って測定する。RI
0.2の最大値をRI
0.2MAX、RI
0.2の最小値をRI
0.2MIN、RI
0.2の最大値と最小値との差の大きさをRI
0.2DEFと表記する。また、ガラス基板11の外周端11fから径方向内側に0.2mmの位置でのリタデーションをRO
0.2と表記する。RO
0.2は、周方向全周に亘って測定する。RO
0.2の最大値をRO
0.2MAX、RO
0.2の最小値をRO
0.2MIN、RO
0.2の最大値と最小値との差の大きさをRO
0.2DEFと表記する。
【0030】
ガラス基板11は、RI
0.2MAXおよびRO
0.2MAXがそれぞれ4nm以下であって、且つRI
0.2DEFおよびRO
0.2DEFがそれぞれ1.2nm以下である。よって、ガラス基板11の内外周端近傍において応力の異方性が小さく且つそのばらつきも小さく、これらの影響による熱処理時のガラス基板11の変形を抑制できる。すなわち、化学強化したガラス基板を歪点Ts以上の温度で加熱したときの変形を抑制できる。
【0031】
RI
0.2MAXおよびRO
0.2MAXは、好ましくは3.5nm以下、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは2.5nm、特に好ましくは2nm、一層好ましくは1.5nmである。
【0032】
また、RI
0.2DEFおよびRO
0.2DEFは、好ましくは1.1nm以下、より好ましくは1.0nm以下、さらに好ましくは0.9nm以下、特に好ましくは0.8nm以下、一層好ましくは0.7nm以下である。
【0033】
RI
0.2は、化学強化前の、両主表面11a、11bと内周接続面11cとの表面粗さの差などに依存する。同様に、RO
0.2は、化学強化前の、両主表面11a、11bと外周接続面11dとの表面粗さの差などに依存する。表面が粗いほどイオン交換が進みやすく、表面粗さの差が大きいほど化学強化後の応力の異方性が大きくなる。従って、RI
0.2やRO
0.2を小さくするためには、内周接続面11cや外周接続面11dを、両主表面11a、11bと同様に化学強化前に鏡面研磨することが有効である。
【0034】
尚、RI
0.2やRO
0.2を小さくするためには、化学強化時に、内周接続面11cおよびその近傍、ならびに外周接続面11dおよびその近傍を粘土などの保護層で保護することも有効である。また、化学強化後に、内周接続面11cおよびその近傍、ならびに外周接続面11dおよびその近傍をエッチングすることも有効である。
【0035】
RI
0.2は、幅W1の影響をうける。幅W1が小さいほど、RI
0.2が小さくなる。同様に、RO
0.2は、幅W2の影響をうける。幅W2が小さいほど、RO
0.2が小さくなる。幅W1および幅W2は、それぞれ、好ましくは0.15mm以下、より好ましくは0.12mm以下、さらに好ましくは0.10mm以下、特に好ましくは0.08mm以下、一層好ましくは0.06mm以下である。また、幅W1および幅W2は、それぞれ、ガラス基板11の欠けを防止する観点から、0.03mm以上である。
【0036】
幅W1や幅W2が0.08mm以下である場合、内周端11eから径方向外側に0.1mmの位置でのリタデーションRI
0.1や外周端11fから径方向内側に0.1mmの位置でのリタデーションRO
0.1が重要である。RI
0.1やRO
0.1は、周方向全周に亘って測定する。以下、RI
0.1の最大値をRI
0.1MAX、RI
0.1の最小値をRI
0.1MIN、RI
0.1の最大値と最小値との差の大きさをRI
0.1DEFと表記する。また、RO
0.1の最大値をRO
0.1MAX、RO
0.1の最小値をRO
0.1MIN、RO
0.1の最大値と最小値との差の大きさをRO
0.1DEFと表記する。
【0037】
RI
0.1MAXおよびRO
0.1MAXは、それぞれ、好ましくは5nm以下、より好ましくは4.5nm以下、さらに好ましくは4nm以下、特に好ましくは3.5nm、一層好ましくは3nmである。RI
0.1MAXおよびRO
0.1MAXは、低いほどよいが、典型的には0.1nm以上である。
【0038】
RI
0.1DEFおよびRO
0.1DEFは、それぞれ、好ましくは、2.5nm以下、より好ましくは2.0nm以下、さらに好ましくは1.5nm以下、特に好ましくは1.0nm以下、一層好ましくは0.8nm以下である。
【0039】
次に、ガラス基板11の化学強化による導入元素の深さλについて説明する。各主表面11a、11bのうち、内周端11eから径方向外側に0.5mm以上離れ且つ外周端11fから径方向内側に0.5mm以上離れる全ての部分において、導入元素の深さλが3〜9μmである。これにより、化学強化後のガラス基板を歪点Ts以上の温度で加熱したときの変形を抑制できる。その理由は、導入元素の導入量が適量であり、化学強化後の熱処理時にガラス基板11の応力を吸収するように導入元素(より詳細には導入元素のイオン)が適度に移動するためと考えられる。尚、熱処理時にガラス基板11にかかる応力は、加熱ムラや支持ムラ、重力などによって生じる。
【0040】
導入元素の深さλは、好ましくは3.5μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは4.5μm以上、特に好ましくは5μm以上である。
【0041】
導入元素の深さλは、ガラス基板11の切断面を板厚方向に化学組成分析すること、またはガラス基板11の主表面11a、11bを深さ方向にエッチングしながら化学組成分析することで測定される。切断面の化学組成分析には、電子線マイクロアナライザ分析(EPMA)、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)等が用いられる。また、エッチングを伴う化学組成分析には、X線光電子分光分析(XPS)等が用いられる。イオン交換により導入された元素がエッチング時に移動するのを抑制するため、エッチングはC
60でのエッチングが好ましい。
【0042】
図2は、一例によるガラス基板の導入元素の深さの測定方法の説明図である。
図2(a)は全体図、
図2(b)は一部拡大図である。
【0043】
先ず、
図2(a)に示すように、主表面11a、11bから深さ方向に0.1μm毎に導入元素の濃度を測定する。測定値が低下してほぼ一定になった深さからさらに深さ21μm分まで濃度を測定する。但し、ほぼ一定になった深さが9μm未満の場合には、深さ30μmまでの濃度を測定する。なお、
図2(a)および
図2(b)では0.1μm毎に導入元素の濃度を全てプロットすると、表示点が増えすぎて、図が見づらくなるので、間引きしてプロットしている。
【0044】
次いで、
図2(a)に示すL(μm)を、「L=(ΔC/10)+C
MIN」の式から求める。ここで、ΔCは表面から測定した一番深いところ(この例では深さ30μm)までの最大濃度C
MAXと最小濃度C
MINとの差の大きさを表す。Lは、小数点以下2桁以上を切り捨てる。
【0045】
次いで、
図2(a)に示すように、深さがLよりも10μm深い位置から、深さがLよりも20μm深い位置までの濃度の平均値C
AVEを求める。
【0046】
最後に、
図2(b)に示すように、深さが0.75×Lの位置から深さが1.05×Lの位置までの濃度分布を最小二乗直線LSで近似し、その最小二乗直線LS上において濃度がC
AVEとなる深さを導入深さλとする。
【0047】
尚、導入元素が複数種類である場合、そのうち、より深く侵入している導入元素の深さを、導入元素の深さλとする。
【0048】
ところで、導入元素は、化学強化後の熱処理時にガラス内でイオン交換しながら移動すると考えられる。導入元素がNaである場合、イオン交換される元素はLiである。導入元素がKである場合、イオン交換される元素はNaである。導入元素がNaとKの両方である場合、イオン交換される元素はLiとNaの両方である。導入元素の移動量は、下記の式(1)で算出されるXで表される。
X=CA×CB×(CC/CD)×λ/d・・・(1)
上記式(1)において、ガラスの組成を酸化物換算で表したときの全酸化物の合計のモル数を100としたときの、ガラス中のAl
2O
3のモル数をCA、ガラス中のイオン交換される元素の酸化物換算のモル数をCB、ガラス中のMgOのモル数をCC、ガラス中のMgOとCaOの合計のモル数をCDで夫々表す。これらの値は、導入元素が導入された深さよりも深い位置において計測する。Al
2O
3はイオン交換を促進するため、CAが大きいほど、導入元素が移動しやすい。CBは、イオン交換される元素が複数である(例えばLiとNaの両方である)場合、その複数の元素の合計の含有量である。CBが大きいほど、イオン交換される元素の量が多いので、導入元素の移動が進みやすい。アルカリ土類元素の酸化物のうち、CaOよりもMgOのほうがイオン交換しやすくするはたらきが強い。よって、CC/CDが大きいほど、導入元素が移動しやすい。一方、λはイオン交換による導入元素の深さ(μm)、dはガラス基板11の厚み(μm)であって、λ/dは導入元素の導入量を相対的に表す。λ/dが大きいほど、導入元素の導入量が相対的に多く、導入元素の移動量が相対的に大きい。
【0049】
Xは、導入元素の移動のしやすさと、導入元素の導入量との積である。化学強化後の熱処理時に、導入元素が適度に移動することで、ガラス基板の変形が抑制できるように、Xは、好ましくは0.1〜1.3である。Xは、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.2以上、特に好ましくは0.3以上である。また、Xは、より好ましくは1.1以下、さらに好ましくは0.9以下、特に好ましくは0.8以下、一層好ましくは0.7以下である。CAが8以上の場合、導入元素が非常に移動しやすくなるため、Xは0.4以下が好ましく、0.35以下がさらに好ましく、0.3以下が特に好ましく、0.25以下が一層好ましい。CAが7以下の場合、導入元素が移動しにくくなるため、ガラス基板の変形が抑制できるように、Xは0.35以上がより好ましく、0.45以上がさらに好ましく、0.55以上が特に好ましく、0.6以上が一層好ましい。
【0050】
ガラス基板11のガラスとしては、例えばSiO
2とAl
2O
3とを主成分として含有するアルミノシリケートガラスが用いられる。アルミノシリケートガラスは、化学強化前に、酸化物基準のモル%表示でNa
2OおよびLi
2Oを1〜25%含有するものであってよい。
【0051】
ガラス基板11は、導入元素が導入された深さよりも深い位置において、酸化物基準のモル%表示で、SiO
2を60〜75%、Al
2O
3を5〜15%、B
2O
3を0〜12%、MgOを0〜20%、CaOを0〜12%、SrOを0〜10%、BaOを0〜10%、Na
2Oは0%を超え20%以下、K
2Oを0〜10%、Li
2Oを0〜15%、TiO
2を0〜5%、ZrO
2を0〜5%含有し、かつ、これらを合計で95%以上含有し、Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計が1〜25%であることが好ましい。
【0052】
ガラス基板11は、導入元素が導入された深さよりも深い位置において、酸化物基準のモル%表示で、SiO
2を65〜70%、Al
2O
3を6〜12%、B
2O
3を0〜3%、MgOを1〜18%、CaOを0〜10%、SrOを0〜6%、BaOを0〜2%、Na
2Oを0.5〜12%、K
2Oを0〜3%、Li
2Oを0〜5%、TiO
2を0〜3%、ZrO
2を0〜3%含有し、かつ、これらを合計で95%以上含有し、Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計が2〜15%であることがより好ましい。
【0053】
次に、ガラス基板11の各成分について説明する。各成分の説明において、%はモル%を意味する。
【0054】
SiO
2は、ガラスの骨格を形成する必須成分である。SiO
2の含有量が60%未満の場合、耐酸性が著しく低下しやすく、歪点Tsが低下しやすく、傷が生じやすくなる。また、この場合、液相温度が上昇すると共に、温度T
2(粘度が10
2dPa・sとなる温度)および温度T
4(粘度が10
4dPa・sとなる温度)が低下しやすく、失透が生じやすくなる。従って、SiO
2の含有量は、60%以上、好ましくは63%以上、より好ましくは66%以上、さらに好ましくは67%以上、特に好ましくは68%以上である。
【0055】
一方、SiO
2の含有量が75%超の場合、温度T
2および温度T
4が上昇しやすく、ガラスの溶解が困難となりやすく、清澄時の脱泡性が低下し欠点が生じやすくなる。また、この場合、比弾性率E/ρが低下しやすい。さらに、この場合、ガラスの50〜350℃における平均線膨張係数α(以下、単に「平均線膨張係数α」ともいう)が小さくなりやすい。従って、SiO
2の含有量は、75%以下、好ましくは70%以下である。
【0056】
Al
2O
3は、ヤング率、耐アルカリ性を高める必須成分である。Al
2O
3の含有量が5%未満の場合、ヤング率Eが低下しやすく、また、歪点Tsが低下しやすい。従って、Al
2O
3の含有量は、5%以上とし、好ましくは6%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは8%以上、特に好ましくは9%以上、一層好ましくは10%以上である。
【0057】
一方、Al
2O
3の含有量が15%超の場合、密度ρが大きく比弾性率E/ρが小さくなりやすく、フラッタリング特性が悪化しやすい。また、この場合、耐酸性が低下しやすい。さらに、この場合、液相温度が高くなりすぎる傾向があるため成形が困難となりやすい。従って、Al
2O
3の含有量は、15%以下、好ましくは12%以下、より好ましくは11.5%以下、さらに好ましくは11%以下、特に好ましくは10.5%以下である。
【0058】
B
2O
3は、耐薬品性、耐傷性、ガラスの溶解性を向上させるために、含有してもよい。一方、B
2O
3の含有量が12%超の場合、ヤング率Eひいては比弾性率E/ρが低下しやすく、歪点Tsも低下しやすい。従って、B
2O
3の含有量は、12%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0059】
MgOは、必須ではないが、溶解性の向上、ヤング率Eひいては比弾性率E/ρの向上、歪点Tsの上昇のため、20%以下の範囲で含有してもよい。MgOの含有量が20%超の場合、液相温度が上昇しやすく、製造が困難になりやすい。MgOの含有量は、好ましくは18%以下、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは12%以下、一層好ましくは10%以下である。また、MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは5%以上、一層好ましくは8%以上である。
【0060】
CaOは、歪点の低下を抑えながら溶解温度を低くし、失透温度を下げるために、含有してもよい。また、化学強化の際のイオン交換速度
を遅くするはたらきがあり、導入元素の深さλを浅く抑えるのに有効である。CaOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上、一層好ましくは5%以上である。
【0061】
一方、CaOの含有量が12%超の場合、ヤング率E、比弾性率E/ρ、ガラス転移点Tgが低下しやすい。また、化学強化の際のイオン交換速度が極端に遅くなりすぎて圧縮応力層を形成するのに時間がかかりすぎるおそれがある。従って、CaOの含有量は、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、特に好ましくは8%以下、一層好ましくは7%以下である。
【0062】
SrOは必要に応じて含有してもよいが、溶解性を向上するため10%以下の範囲で含有してもよい。10%を超えると化学強化の際のイオン交換速度が極端に遅くなりすぎて圧縮応力層を形成するのに時間がかかりすぎるおそれがある。好ましくは6%、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0063】
BaOは必要に応じて含有してもよいが、溶解性を向上するため10%以下の範囲で含有してもよい。10%を超えると化学強化の際のイオン交換速度が極端に遅くなりすぎて圧縮応力層を形成するのに時間がかかりすぎるおそれがある。また、ガラスが脆くなりキズがつきやすくなるおそれがある。好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.2%以下、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0064】
MgO、CaO、SrO、およびBaO(以下、「RO」と総称する)の含有量の合計は、比弾性率E/ρの値を増大させるため、また、ガラスの溶解性を向上させるため含有してもよい。好ましくは4%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは13%以上、一層好ましくは15%以上である。ROの含有量の合計が22%超の場合、液相温度が上昇して粘性が低下しやすく、また耐酸性が低くなりやすい。ROの含有量の合計は、22%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは19%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは17%以下、一層好ましくは16%以下である。
【0065】
Na
2OはK溶融塩を用いたイオン交換により圧縮応力層を形成させ、また、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須である。好ましくは0.5%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%、一層好ましくは5%以上である。また、Na
2Oが20%を超えると歪点が低下する、もしくはガラスの耐候性が低下する、ヤング率が低下するおそれがある。好ましくは20%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは8%以下、一層好ましくは7%以下である。
【0066】
K
2Oは必須ではないが、化学強化の際に導入元素の深さλが深くなりすぎるのを防ぐために含有させてもよい。但し、10%を超えると化学強化の際のイオン交換速度が極端に遅くなりすぎて圧縮応力層を形成するのに時間がかかりすぎるおそれがある。もしくは歪点が低下する、もしくはガラスの耐候性が低下するおそれがある。好ましくは10%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0067】
Li
2OはNa溶融塩を用いたイオン交換により圧縮応力層を形成させ、また、ヤング率を高くする成分であり含有させてもよいが、一方で、15%を超えると、化学強化の際のイオン交換速度が速く、表面圧縮層が深くなりすぎるおそれがある。また、歪点が低下して耐熱性が悪化するおそれがある。好ましくは15%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは0.8%、一層好ましくは0.5%以下、より一層好ましくは0.1%以下、さらに一層好ましくは0.05%以下、特に一層好ましくは実質的に含有しない。
【0068】
Na
2OおよびLi
2Oは、化学強化によりイオン交換を起こさせる元素であり、ガラスの溶融性を向上させる成分であるため合量で1%以上含有させる。Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上、一層好ましくは5.5%以上である。
【0069】
一方、Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計が25%超の場合、ヤング率Eひいては比弾性率E/ρが低下しやすく、フラッタリング特性が悪化するおそれがある。また、歪点Tsが低下しやすく、磁気記録層の成膜時の基板加熱の際に熱変形をおこしやすくなる。従って、Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計は、25%以下とし、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは12%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0070】
Na
2O、Li
2OおよびK
2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり合計で1%以上含有させる。Na
2OおよびLi
2OおよびK
2Oの含有量の合計は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上、一層好ましくは5.5%以上である。
【0071】
一方、Na
2O、Li
2OおよびK
2Oの含有量の合計が25%超の場合、歪点が低下しやすく、磁気記録層の成膜時の基板加熱の際に熱変形しやすくなる。また、線膨張係数αが増大し、耐熱衝撃性が低下するため、後述のとおり磁気記録媒体の製造時にガラス基板11の冷却速度を上げることができず、生産性が低下するおそれがある。Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計は、25%以下、好ましくは18%以下、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは11%以下、特に好ましくは9.5%以下、一層好ましくは8.5%以下、最も好ましくは8%以下である。
【0072】
TiO
2は、溶解性の向上のため、もしくは酸やアルカリに対する化学的耐久性の向上のため、5%以下の範囲で含有できる。TiO
2の含有量が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇しやすく成形性が悪化しやすいほか、表面が傷つきやすくなる。TiO
2の含有量は、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0073】
ZrO
2は、ガラスのヤング率Eおよび比弾性率E/ρを向上させるため、もしくは酸やアルカリに対する化学的耐久性の向上のため含有してもよい。しかし、ZrO
2が多すぎると、失透温度が上昇する。従って、ZrO
2の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下、一層好ましくは実質的に含有しない。
【0074】
ガラス基板11は、その他の成分をそれぞれ1%以下、合計で5%以下含有してもよい。たとえば、剛性、耐候性、溶解性、失透性等の改善を目的に、ガラス基板11は、ZnO、WO
3、Nb
2O
5、V
2O
5、Bi
2O
3、MoO
3、P
2O
5等を含有してもよい。また、ガラスの溶解性、清澄性を改善するため、ガラス基板11は、清澄剤に起因する成分として、SO
3、F、Cl、SnO
2、PbO、As
2O
3、CeO
2、Sb
2O
3などを含有してもよい。SnO
2の含有量が0.01%以上で脱泡性が向上する。また、SnO
2の含有量が0.5%超の場合、材料特性に影響しやすい。尚、PbO、As
2O
3、Sb
2O
3は、含有してもよいが、ガラスのリサイクルを容易にするため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0075】
ガラス基板11の水分量を表すβ−OHは、0.05〜0.35mm
−1であることが好ましい。β−OHが0.35mm
−1を超えると、歪点Tsが低くなるおそれがある。β−OHは、より好ましくは0.3mm
−1、さらに好ましくは0.25mm
−1で、特に好ましくは0.2mm
−1、一層好ましくは0.15mm
−1である。
【0076】
ガラス基板11のヤング率Eは70GPa以上であることが好ましい。70GPa未満では後述の比弾性率が小さくなり、磁気記録媒体10の回転中にフラッタリングが起きやすくなるだけでなく、ガラスの耐クラック性や破壊強度が不十分となるおそれがある。より好ましくは75GPa以上、さらに好ましくは80GPa以上、特に好ましくは81GPa以上、一層好ましくは82GPa以上である。典型的にはガラス材料の制約から、ヤング率は88GPa以下である。
【0077】
ガラス基板11の密度ρは2.55g/cm
3以下であることが好ましい。密度ρが2.55を超えるとヤング率Eを密度ρで割った比弾性率E/ρが小さくなりフラッタリングが起きやすくなる。密度ρは、より好ましくは2.53g/cm
3以下、さらに好ましくは2.51g/cm
3以下、特に好ましくは2.49g/cm
3以下、一層好ましくは2.47g/cm
3以下である。典型的には密度ρは2.35g/cm
3以上である。
【0078】
ガラス基板11の比弾性率E/ρは、28MNm/kg以上が好ましい。比弾性率E/ρが28MNm/kgより小さいと、前述のフラッタリングが起きやすくなるだけでなく、ローラー搬送中、もしくは部分的な支持の場合に自重で撓んでしまい、製造工程で正常に流動させられないおそれがある。比弾性率E/ρは、より好ましくは30MNm/kg以上、さらに好ましくは31MNm/kg以上、特に好ましくは32MNm/kg以上、一層好ましくは33MNm/kg以上である。
【0079】
なお、比弾性率E/ρを28MNm/kg以上とするには、例えばヤング率Eが70GPa以上であれば、密度ρを2.50g/cm
3以下とし、ヤング率Eが80GPa以上であれば、密度ρを2.85g/cm
3以下とすればよい。比弾性率E/ρは、典型的には35MNm/kg以下である。
【0080】
ガラス基板11の平均線膨張係数αは、好ましくは30×10
−7〜80×10
−7/℃である。平均線膨張係数αが30×10
−7/℃未満、または80×10
−7/℃超では、磁気記録層14との熱膨張差が大きくなりすぎ、剥がれ等の欠点が生じやすくなる。
【0081】
また、この平均線膨張係数αが35×10
−7/℃以上であれば、ガラス基板11を保持する金属製のスピンドルチャックとの平均線膨張係数との差が小さく、ガラス基板11の割れなどが抑制できるため、より好ましい。平均線膨張係数αは、さらに好ましくは40×10
−7/℃以上、特に好ましくは45×10
−7/℃以上、一層好ましくは50×10
−7/℃以上である。一方、この平均線膨張係数αが70×10
−7/℃以上である場合、耐熱衝撃性が低下するため、磁気記録媒体の製造プロセスにおいてガラス基板11の冷却速度を上げることができず生産性が低下する。平均線膨張係数αは、好ましくは65×10
−7/℃以下、より好ましくは60×10
−7/℃以下、一層好ましくは55×10
−7/℃以下である。
【0082】
ガラス基板11は、例えばフロート法、スロットダウンドロー法、またはフュージョン法(所謂、オーバーフローダウンドロー法)により板状に成形されたガラスを加工してなる。もしくは、プレス法により成形されたガラスを加工してもよい。尚、板状のガラスは、円柱状に成形されたガラスをワイヤーソーで切断して作製されてもよい。
【0083】
ガラス基板11は、磁気記録媒体10の製造に用いられる。ガラス基板11上には、例えば、前述の如く、ヒートシンク層12、シード層13、磁気記録層14、保護層15などが形成される。この過程で、ガラス基板11は、歪点Ts以上の温度に加熱される。
【0084】
ヒートシンク層12は、エネルギーアシスト磁気記録時に発生する磁気記録層14の余分な熱を効果的に吸収する。ヒートシンク層12は、熱伝導率および比熱容量が高い金属により形成できる。ヒートシンク層12の材料としては、一般的なものが用いられる。
【0085】
シード層13は、ヒートシンク層12と磁気記録層14との間の密着性を確保する。また、シード層13は、磁気記録層14の磁性結晶粒の粒径および結晶配向を制御する。さらに、シード層13は、熱的なバリアとして磁気記録層14の温度上昇および温度分布を制御する。シード層13の材料としては、一般的なものが用いられる。
【0086】
磁気記録層14は、エネルギーアシスト磁気記録用の材料からなり、特に熱アシスト磁気記録用の材料が好ましい。その材料としてはCoおよびFeのうちのいずれか1つを少なくとも含む材料とすることが好ましく、さらにPt、Pd、Ni、Mn、Cr、Cu、Ag、Auのうちの少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。例えば、CoCr系合金、CoCrPt系合金、FePt系合金、FePd系合金等を用いることができる。磁気特性向上等の観点から、特にFePt系合金が好ましい。
【0087】
磁気記録層14は、信号を書き込む層である。磁気記録層14は複数層構造であってよく、各層は磁性結晶粒および非磁性部で構成されるグラニュラー構造を有する。磁気記録層14の材料としては、一般的なものが用いられるが、エネルギーアシスト磁気記録用の材料であり、特に熱アシスト磁気記録用の材料が好ましい。尚、磁気記録層14は単層構造であってもよい。
【0088】
磁気記録層14の面記録密度は、800Gbits/in
2以上であってよい。
【0089】
保護層15は、磁気記録層14を保護する。保護層15は、単層構造、積層構造のいずれでもよい。保護層15の材料としては、一般的なものが用いられる。
【0090】
ところで、磁気記録媒体10の製造方法は、歪点Ts以上の温度でガラス基板11を加熱する加熱工程を有する。
【0091】
本実施形態によれば、上述の如く、ガラス基板11の化学強化後の内外周端近傍の応力分布と、ガラス基板11の化学強化による導入元素の深さλとがそれぞれ適切に調整されているため、加熱工程における歪点Ts以上の温度での加熱による変形が抑制できる。
【0092】
前記加熱工程において、歪点Tsを基準として10℃低い温度T1(T1=Ts−10)以上の温度にガラス基板11を加熱する間の時間平均の温度をT
ave(℃)、温度T1以上の温度にガラス基板11を加熱する時間をt
ave(分)とすると、下記式(2)で算出されるYが140以下である。
Y=(T
ave−Ts)×t
ave・・・(2)
上記式(2)で温度T1以上の温度を考慮するのは、温度T1以上の温度ではガラスが流動しやすいためである。T
aveは、加熱温度が温度T1以上の間、加熱温度を積分し、その積分値を時間t
aveで割ることにより求める。T
aveとTsとの差(T
ave−Ts)は、ガラスの流動しやすさを表す。
【0093】
Yは、ガラスの流動しやすさと、ガラスが流動し得る時間との積であって、ガラスの流動によるガラス基板11の変形しやすさを表す。Yが140以下であれば、ガラスの流動によるガラス基板11の変形が抑制できる。Yは、より好ましくは130以下、さらに好ましくは120以下、特に好ましくは110以下、一層好ましくは100以下である。
【0094】
また、前記加熱工程において、ガラス基板11を500℃以上の温度に加熱する間の時間平均の温度をT
500(℃)、ガラス基板11を500℃以上の温度に加熱する時間をt
500(分)とすると、下記式(3)で算出されるZが5〜32である。
Z=(T
500/Ts)×(t
500)
1/2×λ・・・(3)
上記式(3)で500℃(℃)以上の温度を考慮するのは、500℃以上の温度で導入元素が他の元素とイオン交換しながら移動しやすいためである。尚、典型的な化学強化では400〜500℃でイオン交換が行われる。T
500は、加熱工程においてガラス基板11の温度が500℃以上の間、その温度を積分し、その積分値を時間t
500で割ることにより求める。T
500/Tsは、加熱工程における導入元素の移動しやすさの指標となる。t
500の平方根は、加熱工程における導入元素の移動距離を相対的に表す。λは、化学強化による導入元素の深さを表しており、導入量を相対的に表す。よって、Zは、加熱工程における導入元素の移動しやすさと、加熱工程における導入元素の移動距離の相対値と、化学強化による導入元素の導入量の相対値との積であって、加熱工程において導入元素がどれくらいの範囲に移動したかを相対的に示す量となる。
【0095】
Zが5〜32であれば、導入元素が適度な範囲に移動し、ガラス基板11の変形が抑制できる。Zは、より好ましくは7以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは15以上、一層好ましくは20以上である。また、Zは、より好ましくは30以下、さらに好ましくは28以下、特に好ましくは26以下、一層好ましくは24以下である。
【0096】
加熱工程におけるガラス基板11の最高温度T
MAXは、600℃以上であることが好ましい。これにより、600℃以上の温度で磁気記録層14を成膜することで、磁気記録層14の特性を向上できる。T
MAXは、より好ましくは620℃以上、さらに好ましくは630℃以上、特に好ましくは640℃以上、一層好ましくは650℃以上である。
【0097】
また、T
MAXは、歪点Ts以上、かつ歪点Tsを基準として15℃高い温度T2(T2=Ts+15)以下であることが好ましい。T
MAXがTs以上T2以下であると、加熱時の変形抑制効果が享受できる。T
MAXがT2より高いと、ガラスの流動による変形が顕著になる。歪点Tsが735℃以上のガラス基板11を製造することは困難であるので、T
MAXは750℃以下であることが好ましい。T
MAXは、より好ましくは730℃以下、さらに好ましくは720℃以下、特に好ましくは710℃以下、一層好ましくは700℃以下である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。例1〜5、11〜12、17〜19が実施例、例6〜10、13〜16、20〜22が比較例である。
【0099】
(ガラス素板の作製)
表1で表示したガラス組成(酸化物基準のモル%)になるように原料を調製し、調製した原料を白金坩堝に入れ1650℃の温度で3時間加熱し溶解して溶融ガラスを作製し、溶融ガラスを板状に成形しガラス素板を作製した。作製したガラス素板から試験片を切り出し、平均線膨張係数α(×10
−7/℃)、歪点Ts(℃)、密度ρ(g/cm
3)、ヤング率E(GPa)、比弾性率E/ρを測定した。以下に各物性の測定方法を示す。
【0100】
平均線膨張係数αは、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定し、JIS R3102(1995年度)に準拠して測定した。
【0101】
歪点Tsは、歪点測定装置を用いて、JIS R3103−2(2001年度)に準拠して測定した。
【0102】
密度ρは、アルキメデス法によって測定した。
【0103】
ヤング率Eは、超音波パルス法(オリンパス、DL35)により25℃で測定した。
【0104】
結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
表1から明らかなように、ガラスA、ガラスB、ガラスCのいずれも、酸化物基準のモル%表示で、SiO
2を60〜75%、Al
2O
3を5〜15%、B
2O
3を0〜12%、MgOを0〜20%、CaOを0〜12%、SrOを0〜10%、BaOを0〜10%、Na
2Oを0〜20%、K
2Oを0〜10%、Li
2Oを0〜15%、TiO
2を0〜5%、ZrO
2を0〜5%の範囲内で含有し、Na
2OおよびLi
2Oの含有量の合計が1〜25%の範囲内であった。
【0106】
特に、ガラスBおよびガラスCは、SiO
2を65〜70%、Al
2O
3を6〜12%、B
2O
3を0〜3%、MgOを1〜18%、CaOを0〜10%、SrOを0〜6%、BaOを0〜2%、Na
2Oを0.5〜12%、K
2Oを0〜3%、Li
2Oを0〜5%、TiO
2を0〜3%、ZrO
2を0〜3%の範囲内で含有し、Na
2O、Li
2O、およびK
2Oの含有量の合計が2〜15%の範囲内であった。
【0107】
(ガラス基板の作製)
得られたガラス素板は、下記の手順で加工した。
【0108】
第1ステップでは、ガラス素板を加工することにより、中央部に円孔を有する円盤状のガラス基板を得た。
【0109】
第2ステップでは、砥石でガラス基板の内外周を研削した。ガラス基板のガラスがガラスAの場合、内外周に、両主表面に対し垂直な垂直面と、各主表面と垂直面との間に各主表面に対し45°で傾斜する傾斜面とを形成した。一方、ガラス基板のガラスがガラスBまたはガラスCの場合、内外周に、両主表面に対し垂直な垂直面のみを形成した。
【0110】
第3ステップでは、アルミナ砥粒を用いてガラス基板の両主表面をラッピング加工し、砥粒を洗浄除去した。
【0111】
第4ステップでは、ガラス基板の外周をブラシ研磨し、第2ステップによる加工変質層(傷など)を除去し、鏡面加工した後、洗浄した。ブラシ研磨では、酸化セリウム砥粒を含有する研磨液を用い、加工変質層を確実に除去し、表面粗さを十分に低減するため長時間研磨した。これにより、ガラス基板のガラスがガラスAの場合、ガラス基板の主表面と傾斜面の間及び垂直面と傾斜面の間の角部が面取りされて湾曲面が形成された。一方、ガラス基板のガラスがガラスBまたはガラスCの場合、ガラス基板の主表面と垂直面の間の角部が面取りされて湾曲面が形成された。また、ガラス基板のガラスがガラスBにおいて、他の実施例に比べて研磨時間を短くして、ガラス基板の外周の表面粗さが高いガラス基板を作成し、これを例13とした。
【0112】
第5ステップでは、ガラス基板の内周をブラシ研磨し、第2ステップによる加工変質層(傷など)を除去し、鏡面加工した後、洗浄した。ブラシ研磨では、酸化セリウム砥粒を含有する研磨液を用い、加工変質層を確実に除去し、表面粗さを十分に低減するため長時間研磨した。これにより、ガラス基板のガラスがガラスAの場合、ガラス基板の主表面と傾斜面の間及び垂直面と傾斜面の間の角部が面取りされて湾曲面が形成された。一方、ガラス基板のガラスがガラスBまたはガラスCの場合、ガラス基板の主表面と垂直面の間の角部が面取りされて湾曲面が形成された。また、ガラス基板のガラスがガラスBにおいて、他の実施例に比べて研磨時間を短くして、ガラス基板の内周の表面粗さが高いガラス基板を作成し、これを例13とした。
【0113】
第6ステップでは、ダイヤモンド砥粒を含有する固定粒工具と研削液を用いて、ガラス基板の両主表面をラッピング加工し、洗浄した。
【0114】
第7ステップでは、両面研磨装置によりガラス基板の両主表面を1次研磨し、洗浄した。1次研磨では、硬質ウレタン製の研磨パッドと、酸化セリウム砥粒を含有する研磨液とを用いた。
【0115】
第8ステップでは、上記両面研磨装置によりガラス基板の両主表面を2次研磨し、洗浄した。2次研磨では、軟質ウレタン製の研磨パッドと、1次研磨よりも平均粒径の小さい酸化セリウム砥粒を含有する研磨液とを用いた。
【0116】
第9ステップでは、上記両面研磨装置によりガラス基板の両主表面を3次研磨し、洗浄した。3次研磨では、軟質ウレタン製の研磨パッドと、コロイダルシリカを含有する研磨液とを用いた。
【0117】
第10ステップでは、3次研磨後のガラス基板に対し、スクラブ洗浄、洗剤溶液に浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄を順次行い、イソプロピルアルコール蒸気による乾燥を行った。
【0118】
上記の手順により、直径65mm、板厚0.8mm、中央部に20mmの円孔を有する円盤状のガラス基板を得た。内周接続面の幅W1、および外周接続面の幅W2は、表2〜4に示す通りであった。
【0119】
続いて、例1〜6、8、10〜13、15〜19、21〜22では、ガラス基板の化学強化処理を行った。化学強化処理では、これらのガラス基板を425℃の95重量%のKNO
3および5重量%のNaNO
3を混合した溶融塩にそれぞれ表2〜4記載の浸漬時間にて浸漬した。
【0120】
(ガラス基板の評価)
化学強化による導入元素の深さλは、電子線マイクロアナライザ分析(EPMA)を用いて前述の方法で算出した。導入元素の深さλは、ガラス基板の内周端から径方向外側に0.5mmの2箇所、ガラス基板の内周端から径方向外側に11mmの2箇所、ガラス基板の外周端から径方向内側に0.5mmの2箇所で測定した。計6箇所で測定したλの最大値λ
MAXと最小値λ
MINとを表2〜4に示す。
【0121】
リタデーションは、後述の熱変形試験の前に、フォトニックラティス社製WPA−microにより測定した。特許文献3との比較のため、化学強化による導入元素の深さλが10μm以上である例6および例10において、ガラス基板の内周端から径方向外側に0.5mmの位置から、ガラス基板の外周端から径方向内側に0.5mmの位置までにおけるリタデーションR
0.5を測定した。測定結果は、リタデーションR
0.5の最大値をR
0.5MAX、リタデーションR
0.5の最大値と最小値との差の大きさをR
0.5DEFで示す。例6のガラス基板は、R
0.5MAXが0.8nm、R
0.5DEFが0.6nmであった。例10のガラス基板は、R
0.5MAXが0.9nm、R
0.5DEFが0.7nmであった。例6および例10ではR
0.5MAXが1nm未満であるが、後述の熱処理試験の前後での変形量ΔDが3.5μmを超えるものであった。
【0122】
熱処理試験では、電気炉を炉内温度400℃に加熱した後、電気炉にガラス基板を投入し、
図3および
図4に示すように、両主表面を鉛直にしたガラス基板の下部を鉄製の台座20、21で挟持した。ガラス基板の投入から0.5分後より、電気炉の設定温度を200℃/分の速さで表2〜4の最高温度T
MAXまで昇温し、その後、最高温度T
MAXで保持時間t
MAXにて保持した。その後、電気炉の設定温度を60℃/分の速さで降温した。電気炉の炉内温度が400℃以下となった後、ガラス基板を電気炉外に取り出して室温のシリカウール上に主表面を略水平にして置き、そのまま放置して冷却した。鉄製の台座20、21は直方体であって、その外形寸法は約70mm×90mm×高さ12mmであった。最高温度T
MAXでの保持時間t
MAX、t
AVE、t
500、T
AVE、T
500は、表2〜4に示すとおりであった。
【0123】
図5は、一例による熱処理試験の前後の、ガラス基板の一方の主表面の形状変化を示す図である。
図5において、破線31は熱処理試験前の主表面の形状を、実線32は熱処理試験後の主表面の形状をそれぞれ誇張して表す。
【0124】
熱処理試験前の主表面の形状は、NIDEK社製のフラットネステスターFT−17により測定した。測定範囲は、ガラス基板の中心から半径13.30〜32.06mmの範囲とした。この測定範囲の全体に0.5mmピッチで複数の縦線を設定すると共に0.5mmピッチで複数の横線を設定し、縦線と横線との交点を測定点とした。
【0125】
熱処理試験前の主表面の形状は、各測定点のxyz直交座標で表した。ここで、x軸およびy軸を含むxy平面は、複数の測定点の最小二乗平面とした。尚、x軸は横線に平行とし、y軸は縦線に平行とした。
【0126】
熱処理試験後の主表面の形状は、熱処理試験前の主表面の形状と同様に、各測定点のxyz直交座標で表した。
【0127】
熱処理試験の前後で、座標軸を揃えることにより、主表面の形状を比較し、各測定点のz軸方向における変化量Δzを測定した。
【0128】
図6は、一例による熱処理試験の前後の、各測定点の変化量を示す図である。ここで、変化量Δzの正負は、変化方向を表す。変化量Δzの最大値(>0)と、変化量Δzの最小値(<0)との差の大きさを変形量ΔDとした。
【0129】
結果を、ガラスの種類や化学強化条件、熱処理条件などと共に、表2〜4に示す。尚、表2〜4に示す条件以外の条件は、例1〜21において同じとした。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
表2〜4から明らかなように、例1〜5、11〜12、17〜19では、RI
0.2MAXおよびRO
0.2MAXが4nm以下、RI
0.2DEFおよびRO
0.2DEFが1.2nm以下、且つ導入元素の深さλが3〜9μmであった。また、これらの例では、上記式(1)で算出されるXが0.1〜1.3の範囲内であり、上記式(2)で算出されるYが140以下であり、上記式(3)で算出されるZが5〜32の範囲内であった。そのため、これらの例では、熱処理試験の前後での変形量ΔDが3.5μm以下であった。
【0133】
特に、例11〜12、17〜19では、ヤング率Eが80GPa以上、比弾性率E/ρが30MNm/kg以上、歪点Tsが635℃以上であり、平均線膨張係数αが40×10
−7〜70×10
−7/℃の範囲内であった。例11〜12、17〜19では、歪点Tsが635℃以上のガラスを用いため、650℃以上での熱処理が可能であった。
【0134】
一方、例6〜10、14〜16、20〜22では、導入元素の深さλが3〜9μmの範囲外であった。また、例6、8、10、13、15、16、22では、RI
0.2MAXが4nmより大きかった。また、例6、8、10、13、15、16、21、22では、RI
0.2DEFが1.2nmより大きかった。そのため、これらの例では、熱処理試験の前後での変形量ΔDが3.5μmより大きかった、または熱処理試験の前後での変形量ΔDが大き過ぎてガラス基板が割れてしまった。例13は、導入元素の深さが3〜9μmの範囲内であったが、内外周端の表面粗さが高いため、RI
0.2MAXが4nmより大きく、さらにRI
0.2DEFも1.2nmより大きくなり、問題があった。
【0135】
特に、例6および例10では、特許文献3に記載の要件を満たしているが、問題が有った。
【0136】
以上、磁気記録媒体用のガラス基板の実施形態などについて説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0137】
例えば、上記実施形態の磁気記録媒体の記録方式は熱アシスト磁気記録方式であるが、本発明はこれに限定されない。磁気記録媒体の記録方式は、例えば、マイクロ波アシスト磁気記録方式などの他のエネルギーアシスト磁気記録方式でもよいし、通常の磁気記録方式でもよい。
【解決手段】表層に化学強化による圧縮応力層を有し、中心に貫通穴のある円盤形状を有する磁気記録媒体用のガラス基板であって、ガラスの歪点(Ts)が585℃以上であって、内周端から径方向外側に0.2mmの位置および外周端から径方向内側に0.2mmの位置のそれぞれにおいて、主表面に対し垂直に波長543nmの光を照射して測定されるリタデーションの最大値が4nm以下であり、且つ、前記リタデーションの最大値と最小値との差の大きさが1.2nm以下であり、各主表面のうち、前記内周端から径方向外側に0.5mm以上離れ且つ前記外周端から径方向内側に0.5mm以上離れる全ての部分において、化学強化により導入された導入元素の深さ(λ)が3〜9μmである、磁気記録媒体用のガラス基板。