(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の判定手段は、筒体と該筒体の内部を減圧する減圧部からなり、植物に着生している果実を筒体端部に当接させた姿勢で筒体の内部を減圧することによって果実を筒体端部に吸着させて支持する支持手段と、該支持手段によって支持された果実を押圧する押圧手段と、該押圧手段の押圧力から果実の粘弾性を算出する演算手段と、を有している請求項1に記載の収穫装置。
前記果実はブルーベリーであり、前記第1の判定手段は、果実の果皮の青色判定によって収穫すべき果実か否かを判定し、前記第2の判定手段は、果実の粘弾性が0.59N/mm以下である果実を収穫すべき果実と判定し、前記収穫手段は、果柄との着生強度が0.98N以下の果実を果柄から採取するようになっている請求項1から5のいずれかに記載の収穫装置。
植物に着生している果実を筒体端部に当接させた姿勢で筒体の内部を減圧することによって果実を筒体端部に吸着させ、筒体端部に吸着させた果実を押圧し、その押圧力から果実の粘弾性を算出して収穫すべき果実か否かを判定する請求項7に記載の収穫方法。
前記果実はブルーベリーであり、果実の果皮の青色判定によって収穫すべき果実か否かを判定し、果実の粘弾性が0.59N/mm以下である果実を収穫すべき果実と判定し、果柄との着生強度が0.98N以下の果実を果柄から採取して収穫する請求項7から11のいずれかに記載の収穫方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作業の省力化や効率化、農作物の生産性向上を目的として、植物工場や農作業ロボットなどの研究開発が進められている。
【0003】
農作業ロボットの一例としては、アメリカなどの広大なブルーベリー農場で使用される「ブルーベリーハーベスタ」と呼ばれる振動収穫機を挙げることができる。この振動収穫機は、熟したブルーベリーを枝から振り落として収穫する機械である。
【0004】
ところで、ブルーベリーの果実は一粒毎に熟度が異なるとともに、収穫後に追熟して甘みが増すことがない。そのため、上記する振動収穫機を用いてブルーベリーを収穫した場合には、最適収穫時期ではないブルーベリーを収穫してしまうといった問題や収穫されたブルーベリーに熟度や甘みが多様に異なる実が混在してしまうといった問題があり、特に高価な生食用のブルーベリーは、熟練者によって一粒毎に熟度が判定されて収穫されているのが現状である。
【0005】
しかしながら、生食用のブルーベリーは長期保存が効かないため、その収穫時期には熟練者が連日に亘って熟度判定と収穫を行う必要があり、ブルーベリーの収穫作業は多大な労力と時間を要することが知られている。さらに、熟練者が行うブルーベリーの熟度判定は未熟者には極めて困難であり、ブルーベリーの収穫には熟練した技術が要求されるため、熟練者の労力を軽減して収穫作業を効率化することは難しい。そこで、最適収穫時期の果実の判別と収穫を自動的に行う収穫ロボットの開発が当該分野における希求の課題となっている。
【0006】
このような問題に対し、画像処理技術を利用して最適収穫時期の果実を判別し、最適収穫時期と判別された果実を収穫する技術が特許文献1〜3に開示されている。
【0007】
特許文献1〜3に開示されている果実収穫装置はいずれも、カメラで撮像された画像のイチゴの色(着色率)に基づいてそのイチゴが最適収穫時期か否かを判別するとともに、その画像に基づいて収穫対象となるイチゴの位置を特定し、最適収穫時期と判別されたイチゴの位置にマニピュレータや吸引部を移動させて収穫対象のイチゴを収穫する装置である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ブルーベリーの果実は、一般に成熟するに従って果皮の色が濃い青色となるとともに、果柄の基部(果実のへたの付け根部分)の色も濃い青色となる。さらに、ブルーベリーの果実は、果実が成熟するに従って柔らかくなり、もぎ取り易くなることから、ブルーベリー収穫の熟練者は、これら複数の要素を総合的に評価して果実の熟度を判定している。
【0010】
特許文献1〜3に開示されている果実収穫装置によれば、カメラで撮像された画像の果実の色(着色率)に基づいてその果実が最適収穫時期か否かを判別できるものの、果実の柔らかさや果実のもぎ取り易さといった指標を判別することができない。
【0011】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、果皮の色や果実の柔らかさ、果実のもぎ取り易さといった複数の指標に基づいて果実の熟度判定を行う果実において、これら複数の判定指標を連続的に評価して当該果実を収穫することのできる収穫装置と収穫方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成した本発明に係る収穫装置は、以下を包含する。
(1)植物に着生している果実を果柄から採取して収穫する収穫装置であって、植物に着生している果実の果皮の色から収穫すべき果実か否かを判定する第1の判定手段と、植物に着生している果実の粘弾性から収穫すべき果実か否かを判定する第2の判定手段と、前記第1の判定手段と第2の判定手段によって収穫すべき果実と判定された果実のうち果柄との着生強度が所定の着生強度以下の果実を果柄から採取して収穫する収穫手段と、を備えている収穫装置。
(2)前記第2の判定手段は、筒体と該筒体の内部を減圧する減圧部からなり、植物に着生している果実を筒体端部に当接させた姿勢で筒体の内部を減圧することによって果実を筒体端部に吸着させて支持する支持手段と、該支持手段によって支持された果実を押圧する押圧手段と、該押圧手段の押圧力から果実の粘弾性を算出する演算手段と、を有している(1)に記載の収穫装置。
(3)前記収穫手段は、前記支持手段と、該支持手段と植物を離間させる移動手段と、からなり、果実を前記支持手段の筒体端部に当接させた姿勢で筒体の内部を減圧することによって果実を筒体端部に吸着させて支持し、前記支持手段と植物を離間させることによって果柄との着生強度が所定の着生強度以下の果実を果柄から採取するようになっている(2)に記載の収穫装置。
(4)前記支持手段の筒体内部の圧力が調整されるようになっている(3)に記載の収穫装置。
(5)前記支持手段の筒体端部には緩衝材が設けられている(2)から(4)のいずれかに記載の収穫装置。
(6)前記果実はブルーベリーであり、前記第1の判定手段は、果実の果皮の青色判定によって収穫すべき果実か否かを判定し、前記第2の判定手段は、果実の粘弾性が0.59N/mm(60gf/mm)以下である果実を収穫すべき果実と判定し、前記収穫手段は、果柄との着生強度が0.98N(100gf)以下の果実を果柄から採取するようになっている(1)から(5)のいずれかに記載の収穫装置。
【0013】
また、上記した目的を達成した本発明に係る収穫方法は、以下を包含する。
(7)植物に着生している果実を果柄から採取して収穫する収穫方法であって、植物に着生している果実の果皮の色から収穫すべき果実か否かを判定するステップと、植物に着生している果実の粘弾性から収穫すべき果実か否かを判定するステップと、果実の果皮の色と果実の粘弾性から収穫すべき果実と判定された果実のうち果柄との着生強度が所定の着生強度以下の果実を果柄から採取して収穫するステップと、からなる収穫方法。
(8)植物に着生している果実を筒体端部に当接させた姿勢で筒体の内部を減圧することによって果実を筒体端部に吸着させ、筒体端部に吸着させた果実を押圧し、その押圧力から果実の粘弾性を算出して収穫すべき果実か否かを判定する(7)に記載の収穫方法。
(9)果実の果皮の色と果実の粘弾性から収穫すべき果実と判定された際に、果実を筒体端部に吸着させた状態で筒体と植物を離間させる(8)に記載の収穫方法。
(10)果実の果皮の色と果実の粘弾性から収穫すべき果実と判定された際に、筒体内部の圧力を調整する(8)または(9)に記載の収穫方法。
(11)外光条件が一定となる条件下で、果実の果皮の色から収穫すべき果実か否かを判定する(7)から(10)のいずれかに記載の収穫方法。
(12)前記果実はブルーベリーであり、果実の果皮の青色判定によって収穫すべき果実か否かを判定し、果実の粘弾性が0.59N/mm(60gf/mm)以下である果実を収穫すべき果実と判定し、果柄との着生強度が0.98N(100gf)以下の果実を果柄から採取して収穫する(7)から(11)のいずれかに記載の収穫方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の収穫装置および収穫方法によれば、果皮の色や果実の柔らかさ、果実のもぎ取り易さといった複数の指標に基づいて果実の熟度判定を行う果実において、これら複数の判定指標を連続的に評価して収穫適期の果実を収穫することができ、熟練者の収穫労力を軽減して果実の収穫作業を効率化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の収穫装置と収穫方法の実施の形態を説明する。
【0017】
[収穫装置の実施の形態]
図1は、本発明の収穫装置の一実施の形態を示した図であり、
図2は、
図1で示す収穫装置のエンドエフェクタを拡大して示した一部拡大図である。
【0018】
図1で示す収穫装置100は、アーム51を有する移動ロボット(RH1)50で構成され、前記アーム51の先端には、植物Pに着生している果実Bを果柄から採取して収穫するための収穫用エンドエフェクタ10が取り付けられている。
【0019】
前記移動ロボット50は、左右前方に設けられた駆動輪52と左右後方に設けられた2つのキャスタ53を有する差動駆動型の移動装置であり、その内部に搭載されたモータ(不図示)で左右前方の駆動輪52を駆動させ、左右後方のキャスタ53を同期して所定角度だけ傾けることによって、移動ロボット50を任意の方向へ移動させることができる。
【0020】
ここで、移動ロボット50の前記モータを駆動させる制御信号(駆動信号)や移動ロボット50のアーム51を駆動させるための制御信号は、例えば外部から送信して入力してもよいし、作業者等が移動ロボット50に直接入力してもよい。
【0021】
作業者等は、移動ロボット50の前記モータを駆動させて当該移動ロボット50を所望の位置まで移動させ、移動ロボット50のアーム51を所望に駆動させることによって、アーム51の先端に取り付けられた収穫用エンドエフェクタ10を収穫対象の果実Bの近傍に配置することができる。
【0022】
図2で示す収穫用エンドエフェクタ10は、(1)果実の果皮の色、(2)果実の柔らかさ、(3)果実のもぎ取り易さ、といった複数の指標に基づいて果実の熟度判定を行い、それらの熟度判定に基づいて成熟したと判定した果実を収穫するためのものである。
【0023】
具体的には、収穫用エンドエフェクタ10は、果実の位置と果皮の色を検出するための撮像カメラ(第1の判定手段)11と、撮像カメラ11を搭載するための筐体12と、筐体12から前方へ突出する果実吸着用パイプ(筒体)13と、パイプ13の鉛直下方から該パイプ13と交差するように配置され、その基端部14を回転中心として鉛直面内で回転して先端部15に設けられた先端ピン16で収穫対象の果実を押圧する押圧手段17と、押圧手段17の押圧力から果実の粘弾性を算出する演算手段20と、を備えている。
【0024】
前記果実吸着用パイプ13は、
図3で示すように、コンプレッサ(減圧部)21と接続されており、パイプ13の内部は任意の圧力まで減圧されるようになっている。より具体的には、タンク22に直結する圧力センサ23の計測値に基づいてコンプレッサ21のon/off制御を行い、タンク22の内圧を所定の圧力まで低下させ、パイプ13の先端部18と当接するように、もしくは、先端部18の近傍に果実Bを配置した姿勢で電磁弁24を開放することによって、パイプ13の内部を任意の圧力まで減圧させ、パイプ13の先端部18に果実Bを吸着させる。ここで、電磁弁24よりもパイプ13側に配設された圧力センサ25の計測値に基づいて電磁弁24を開閉することで、パイプ13の内部の圧力を調整し、パイプ13に対する果実Bの吸着力を調整することができる。なお、電磁弁26を開放することによって、パイプ13の内部を大気へ開放し、パイプ13に対する果実Bの吸着力を低下させてパイプ13の先端部18から果実Bを離すことができる。
【0025】
このように、植物Pに着生している果実Bをパイプ13の先端部18に当接させた姿勢でコンプレッサ21を用いてパイプ13の内部を減圧することによって、収穫対象の果実Bをパイプ13の先端部18に吸着させて支持することができる。そして、果実Bがパイプ13の先端部18に吸着されて支持された状態で押圧手段17をその基端部14を回転中心として鉛直面内で回転することによって、当該押圧手段17の先端ピン16で果実Bを押圧することができる。
【0026】
また、押圧手段17の根元部9を構成するアルミ板の表面には歪みゲージ(不図示)が貼り付けられており、上記したようにパイプ13の先端部18に果実Bを吸着して支持した状態で押圧手段17の先端ピン16で果実Bを押圧すると、果実Bの粘弾性によって根元部9を構成するアルミ板が撓んで表面歪みが発生するため、その表面歪みを根元部9のアルミ板の表面に貼り付けられた歪みゲージで計測し、演算手段20にて計測された表面歪みから押圧手段17の押圧力(果実Bから作用する反力)を算出して果実Bの粘弾性を算出できるようになっている。
【0027】
なお、パイプ13の先端部18には、果実Bの傷付きを抑制したり、果実Bとの密着性を高めるために、トーラス形状のクッション材(緩衝材)19が取り付けられている。
【0028】
すなわち、果実Bをパイプ13の先端部18に吸着させて支持する支持手段がパイプ13とコンプレッサ21とから構成され、果実の柔らかさを判定する判定手段(第2の判定手段)が前記支持手段と押圧手段17と演算手段20とから構成される。
【0029】
さらに、収穫装置100は、収穫用エンドエフェクタ10と植物Pを離間させる移動手段を備えており、果実Bがパイプ13の先端部18に吸着されて支持された状態で収穫用エンドエフェクタ10と植物Pを離間させることによって、果実Bを果柄から採取して収穫できるようになっている。すなわち、果実のもぎ取り易さに基づいて果実Bを収穫する収穫手段が前記移動手段と前記支持手段とから構成される。
【0030】
[収穫方法の実施の形態]
以下、
図4〜
図6を参照して、
図2で示す収穫用エンドファクタによる果実の収穫方法を具体的に説明する。ここで、収穫対象となる果実としては、例えばブルーベリー、ラズベリー、ストロベリー、ミカンやレモン等の柑橘類、桜桃、リンゴ、梨、ビワ、ブドウ、マンゴー、パパイヤ、ドラゴンフルーツ等を挙げることができるものの、以下、略円形状のブルーベリーを収穫対象とする場合について具体的に説明する。
【0031】
[収穫用エンドファクタの位置決め]
まず、移動ロボット50を移動させるとともに、移動ロボット50のアーム51を駆動させ、収穫対象となるブルーベリーBが収穫用エンドエフェクタ10に搭載された撮像カメラ11の撮像範囲に含まれるように収穫用エンドエフェクタ10を配置する。ここで、収穫用エンドエフェクタ10の果実吸着用パイプ13の先端部18は、撮像カメラ11によるブルーベリーBの撮像を阻害しない位置に配置するのが好ましい。
【0032】
[撮像カメラで撮像された画像の画像処理による熟度判定]
次いで、撮像カメラ11によって撮像された画像からブルーベリーBの一粒毎の位置と果皮の色を検出し、その検出結果に基づいて収穫すべきブルーベリーか否か(ブルーベリーの熟度)を判定する。
【0033】
具体的には、画像処理ライブラリOpenCVを用いて画像中から青色の果実の一粒毎の位置を検出するプログラムを作成し、撮像カメラ11によって撮像された画像のRGB値から青色検出を行い、ブルーベリーBの着生位置を推定する。次いで、ラベリングによるノイズ処理を施した後、青色検出の位置に対してハフ変換(Hough変換)による円検出を行い、一粒毎のブルーベリーBの位置を推定する。このハフ変換は、デジタル画像処理で用いられる特徴抽出法の一つであり、本実施の形態においては、三次元ハフ空間を使用し、撮像カメラ11で撮像された画像データを中心と半径を表す3つのパラメータに変換して「円」を検出し、一粒毎のブルーベリーBの位置と熟度を精緻に判定する。
【0034】
なお、このハフ変換による円検出は、検出する円の大きさに対して適切な範囲を設定することによって、ブルーベリーBの誤検出を抑制することができる。
図4は、撮像カメラ11によって撮像された画像の一例を示した図であって、
図4(a)は画像中の果実が相対的に小さい場合の画像の一例を示した図であり、
図4(b)は画像中の果実が相対的に大きい場合の画像の一例を示した図である。図中、ハフ変換による円検出によってブルーベリーBの果実として検出された果実は、円で包囲して表記している。
【0035】
図4(a)で示すように、画像中のブルーベリーが相対的に小さい(撮像カメラ11とブルーベリーBとの距離が相対的に大きい)場合には、目視で見つけられる青色のブルーベリー42個のうち31個のブルーベリーをハフ変換による円検出によって検出することができる。一方で、
図4(b)で示すように、画像中のブルーベリーが相対的に大きい(撮像カメラ11とブルーベリーBとの距離が相対的に小さい)場合には、目視で見つけられる青色のブルーベリー2個のうちハフ変換による円検出によって2個全てのブルーベリーを検出することができる。
【0036】
このように、画像処理を行う際に、画像中の果実の大きさ(撮像カメラ11と果実との距離)に応じて、例えばラベリングによるノイズ除去や検出可能な「円」の最小半径・最大半径、画像中の相互の円同士の間に存在すべき距離などを適切に設定することによって、一粒毎のブルーベリーBの誤検出を抑制することができる。
【0037】
なお、画像処理におけるノイズとしては、太陽光が反射した栽培室の内壁や栽培用備品等が考えられるものの、
図5(a)、(b)で示すように、ブルーベリー自体の葉や緑色の果実については、上記する青色検出によって確実に除去できることを本発明者等は確認している。
【0038】
[果実の柔らかさによる熟度判定]
次に、上記する青色検出によってブルーベリーの果皮の色から熟したブルーベリーと判定されたブルーベリーに対し、ブルーベリーの柔らかさの指標となる一粒毎の粘弾性を検出し、その検出結果に基づいて収穫すべきブルーベリーか否か(ブルーベリーの熟度)を判定する。なお、本実施の形態においては、粘弾性として粘弾性率を検出する場合について説明するが、たとえば粘弾性力をブルーベリーの柔らかさの判定指標としてもよい。
【0039】
具体的には、移動ロボット50を移動させ、もしくは、移動ロボット50のアーム51を駆動させ、上記する青色検出によって推定されたブルーベリーの位置へ収穫用エンドエフェクタ10の果実吸着用パイプ13の先端部18を移動させ、パイプ13の先端部18を収穫対象のブルーベリーBに当接させる。そして、コンプレッサ21を用いてパイプ31の内部を減圧し、パイプ13の先端部18にブルーベリーBを吸着させて支持する(
図6(a)参照)。
【0040】
ブルーベリーBをパイプ13の先端部18に支持した状態で、サーボモジュールを用いて収穫用エンドエフェクタ10の押圧手段17をその基端部14を回転中心として一定速度で回転駆動させ、押圧手段17の先端ピン16でブルーベリーBを一定速度で押圧し、ブルーベリーBを所定の変形量(例えば1mm程度)だけ変形させる。その際、ブルーベリーの粘弾性によって押圧手段17の根元部9の表面に歪みが発生し、その表面歪みを根元部9の表面に貼り付けられた歪みゲージで計測して、押圧手段17の先端ピン16に対するブルーベリーの反力(粘弾性力)を算出する。そして、ブルーベリーBの変形量(例えば1mm程度)と反力(粘弾性力)の関係を測定して、ブルーベリーBの粘弾性率を算出する(
図6(b)参照)。なお、ブルーベリーBの粘弾性率を算出するに当たり、押圧手段17の根元部9の撓み量を考慮した補正も行っている。
【0041】
ここで、収穫対象となるブルーベリーは、多くの果実が密集して結実しており、柔らかさによる熟度判定の対象となる果実とそれに隣接する果実の距離が極めて小さい場合が多い。したがって、上記するようにブルーベリーBを筒体形状のパイプ13で吸着させて支持することによって、たとえばブルーベリーBを把持手段などで支持する場合と比較して、相対的に小さい体格でブルーベリーBを支持できるとともに、隣接するブルーベリーBを傷付けたり、隣接するブルーベリーBに干渉せずに判定対象となるブルーベリーBを支持することができる。また、判定対象となるブルーベリーBを押圧する押圧手段17をパイプ13と交差するように配置し、その押圧手段17を基端部14を回転中心として回転させることによって、ブルーベリーBの表面のうちパイプ13側の表面を押圧手段17の先端ピン16で押圧することができるため、判定対象となるブルーベリーBに隣接するブルーベリーBと押圧手段17の先端ピン16が衝接することを抑制できるとともに、エンドファクタ10全体の体格を小型化することもできる。
【0042】
ブルーベリーBの粘弾性率を算出した結果、その粘弾性率が所定の範囲内にある場合には、ブルーベリーが熟していると判定し、以下で述べる果実のもぎ取り易さによる熟度判定を実行する。
【0043】
一方で、ブルーベリーBの粘弾性率が所定の範囲内にない(例えば所定の硬さよりも硬い)場合には、ブルーベリーが熟していないと判定し、
図3で示す電磁弁26を開放してパイプ13の内部を大気へ開放し、パイプ13の先端部18からブルーベリーBを離してそのブルーベリーBは収穫しないものとする。そして、移動ロボット50を移動させ、もしくは、移動ロボット50のアーム51を駆動させ、青色検出によって熟したブルーベリーと判定された別途のブルーベリーBの位置へ収穫用エンドエフェクタ10の果実吸着用パイプ13の先端部18を移動させて、新たに果実の柔らかさによる熟度判定を実行する。
【0044】
[果実のもぎ取り易さによる熟度判定]
次に、上記する熟度判定によってブルーベリーの粘弾性から熟したブルーベリーと判定されたブルーベリーに対し、ブルーベリーのもぎ取り易さの指標となる果実と果柄の着生強度に基づいて収穫する。ここで、着生強度とは、果実と果柄を分離する際に必要とされる力である。
【0045】
具体的には、上記の果実の柔らかさによる熟度判定で使用したパイプ13とコンプレッサ21を利用し、ブルーベリーBをパイプ13の先端部18に吸着させて支持した状態で移動ロボット50を移動させ、もしくは、移動ロボット50のアーム51を駆動させて、収穫用エンドエフェクタ10をブルーベリーBの樹木の果柄から離間させる。これにより、ブルーベリーBを果柄から引っ張り、ブルーベリーBを果柄から採取して収穫する(
図6(c)参照)。
【0046】
その際、パイプ13の内部の圧力を制御し、ブルーベリーBに作用するパイプ13への吸着力を変化させ、所定の吸着力以下の着生強度で果柄に着生しているブルーベリーB(もぎ取れ易い果実)のみを収穫する。一方、所定の吸着力よりも高い着生強度で果柄に着生しているブルーベリーB(もぎ取れ難い果実)は、収穫用エンドエフェクタ10をブルーベリーBの樹木の果柄から離間させた際に、果実と果柄の着生強度がブルーベリーBに作用するパイプ13への吸着力に打ち勝ち、果柄に着生された状態でパイプ13の先端部18と離間して収穫されない。
【0047】
これにより、もぎ取れ易くて熟したブルーベリーB(収穫適期果)のみを収穫することができ、もぎ取れ難くて熟していないブルーベリーBは収穫されず、そのブルーベリーBが完熟するまで樹木に着生させることができる。
【0048】
なお、収穫用エンドエフェクタ10をブルーベリーBの樹木の果柄から離間させてブルーベリーBを収穫する際に、パイプ13の内部の圧力を制御してブルーベリーBに作用するパイプ13への吸着力を変化させてもよいが、上記した果実の柔らかさによる熟度判定においてブルーベリーBをパイプ13の先端部18に吸着させて支持する際に、予め果実のもぎ取り易さの指標なる着生強度に基づいてパイプ13の内部の圧力を制御してブルーベリーBに作用するパイプ13への吸着力を調整することによって、パイプ13の内部の圧力が略一定の状態で果実の柔らかさによる熟度判定ともぎ取り易さに基づく果実の収穫を実行することができ、果実の収穫工程を簡素化することができる。
【0049】
なお、熟したブルーベリーBをパイプ13の先端部18に吸着させて収穫した後は、移動ロボット50を移動させ、もしくは、移動ロボット50のアーム51を駆動させてそのブルーベリーBを所定の収容箱まで運び、
図3で示す電磁弁26を開放してパイプ13の内部を大気へ開放し、パイプ13の先端部18からブルーベリーBを離して収容箱に収容する。
【0050】
[検査用試料による果実の粘弾性と着生強度と糖度を測定した実験とその結果]
本発明者等は、果実の柔らかさによる熟度判定ともぎ取り易さによる熟度判定の判定基準となる果実の粘弾性と着生強度を特定するために、粘弾性や着生強度の異なる複数のブルーベリー果実(検査用試料)を用意し、それぞれの検査用試料に対して粘弾性測定と着生強度測定と糖度測定を実施した。
【0051】
[粘弾性測定と着生強度測定]
粘弾性測定(果実の柔らかさの指標)と着生強度測定(果実のもぎ取り易さの指標)は、引張り試験と圧縮試験を実施可能なレオメータ(粘弾性測定器)(レオテック製:RTC-3005D)を用いて実施した。
【0052】
図7を参照して、検査用試料の粘弾性の測定方法を概説すると、ブルーベリーの果柄が略水平方向となるようにレオメータの試料台に検査用試料を載置し、その試料台をレオメータの歪みゲージと接続された円柱形状のアダプタ(直径2mm)方向へ1mm/secで移動させた。そして、試料台に載置された検査用試料を当該アダプタで1mmだけ押圧し、その際の反力(粘弾性力)[gf]を測定した。その反力を単位長さで除することによって、ブルーベリーの柔らかさの指標となる粘弾性率[gf/mm]を算出した。
【0053】
次に、
図8を参照して、検査用試料の着生強度の測定方法を概説すると、レオメータのアダプタに検査用試料の果柄を把持するためのクリップを取り付け、ブルーベリーの果柄が略鉛直上方へ向くようにレオメータの試料台に検査用試料を載置し、その検査用試料が試料台から離間しないように略コの字状の固定手段で当該検査用試料を固定した。そして、検査用試料の果柄を前記クリップで把持し、試料台をレオメータのアダプタから離間する方向へ1mm/secで移動させ、検査用試料の果実と果柄が分離する際の分離力(ピーク値)[gf]を測定し、この分離力をブルーベリーのもぎ取り易さの指標となる着生強度[gf]とした。
【0054】
[糖度測定]
糖度測定は、デジタル糖度測定器(ATAGO製:PR-101)を用いて実施した。
検査用試料の糖度の測定方法を概説すると、果柄を取り除いたブルーベリー果実をポリウレタン・ナイロンからなる合成繊維で縫製された布地で包み、市販の絞り器を用いて布地で包まれた状態のブルーベリーを潰してその果汁を採取した。次いで、その採取した果汁を遠心分離機を用いて16度、13000rpmで10分間遠心分離し、採取した果汁の上澄み液のみを抽出した。そして、抽出した果汁の上澄み液を上記したデジタル糖度測定器のサンプルステージのプリズム上に滴下し、検査用試料のブルーベリーのBrix値(可溶性固形分濃度)[%]を測定した。なお、ブルーベリー果実の果汁の大部分は糖分であるため、測定されたBrix値をブルーベリーの糖度[%]とした。
【0055】
[検査用試料による果実の粘弾性と着生強度と糖度を測定した結果]
図9は、検査用試料による果実の粘弾性と着生強度と糖度の関係を示した図である。なお、検査用試料であるブルーベリーの果実は、一般に糖度10%が消費者の甘みの判断基準となるため、図中、糖度10%以上の検査用試料を◇(菱形)、糖度10%よりも低い検査用試料を△(三角)で表記した。
【0056】
図示するように、粘弾性率(果実の柔らかさの指標)が60[gf/mm](0.59[N/mm])以下、着生強度(果実のもぎ取り易さの指標)が100[gf](0.98[N])以下である検査用試料は、糖度が10%以上である確率が高いことが確認された。特に、粘弾性率(果実の柔らかさの指標)が28[gf/mm](0.27[N/mm])以上かつ60[gf/mm](0.59[N/mm])以下である検査用試料は、糖度が10%以上である確率が極めて高くなることが確認された。
【0057】
この実験結果より、上記する収穫装置を用いて収穫対象のブルーベリーを収穫する際、果実の柔らかさによる熟度判定の判定基準となる果実の粘弾性率閾値を60[gf/mm]以下、好ましくは28[gf/mm]以上かつ60[gf/mm]以下とし、果実のもぎ取り易さによる熟度判定の判定基準となる果実の着生強度閾値を100[gf]以下とすることによって、消費者が甘みを感じる糖度10%以上の果実を効率的に収穫できることが実証された。
【0058】
なお、上記する粘弾性率や着生強度の閾値は、特に収穫されるブルーベリーを生食用とした際に消費者が甘みを感じるような閾値に設定したが、例えば甘みを抑えた生食用やジャムなどの加工食用として使用する場合には別途の閾値を設定することができる。また、上記する粘弾性率や着生強度の閾値は、ブルーベリーの品種などに応じて適宜設定することができる。
【0059】
なお、上記する実施の形態においては、移動ロボット(RH1)のアームの先端に果実を収穫するための収穫用エンドエフェクタを取り付け、移動ロボットを移動させたり、アームを駆動させて前記収穫用エンドエフェクタを収穫対象の果実に近接させる形態について説明したが、例えば作業者等が収穫用エンドエフェクタを収穫対象の果実に近接させて使用してもよい。
【0060】
また、上記する実施の形態においては、撮像カメラで撮像された画像の画像処理によって収穫対象の果実の位置を推定する形態について説明したが、たとえばステレオカメラや超音波センサなどといった収穫対象の果実の三次元位置を特定するための別途の装置を適用してもよい。
【0061】
なお、たとえば自然環境の農場現場などで上記する収穫装置を使用する場合には、日にちや時間に応じて外光条件が変化(晴天や曇りなど)し、撮像カメラで撮像された画像の画像処理による青色検出の精度が低下する可能性があるものの、外光を遮断して人工照明を用いる地下や植物工場内、或いは夜間などといった外光条件が略一定となる条件下で上記する収穫装置を使用することによって、撮像カメラの露光調整を省略し、画像処理による青色検出の精度を維持することができる。また、夜間に上記する収穫装置を使用する場合には、熟した果実(収穫適期果)を確実に収穫することができると共に、作業者の収穫労力を軽減して果実の収穫作業を効率化することもできる。
【0062】
また、上記する実施の形態においては、収穫対象となる果実をパイプの先端部に吸着させた状態で略水平方向に引っ張って果柄から採取する形態について説明したが、たとえば鉛直下方へ引っ張って果柄から採取したり、果柄が延びる方向へ果実を引っ張って果柄から採取してもよい。例えば果柄が延びる方向へ果実を引っ張って果柄から採取する場合には、果実と果柄の着生強度が果実と果柄の接続部の周囲で不均一となる場合であっても、果実を引っ張る方向に起因する着生強度の変化を抑制することができ、果実のもぎ取り易さによる熟度判定の精度を維持することができる。
【0063】
また、上記する実施の形態においては、移動ロボットを移動させたり、アームを駆動させて植物から収穫用エンドエフェクタを離間させることによって、収穫対象となる果実を果柄から採取する形態について説明したが、たとえば植物を移動装置に載置し、植物側を収穫用エンドエフェクタから離間させることによって、収穫対象となる果実を果柄から採取してもよい。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。