【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 発行者名:公益社団法人 日本化学会 関東支部、刊行物名:日本化学会 第5回関東支部大会(2011)講演予稿集、発行年月日:2011年8月16日 発行者名:社団法人 電気化学会、刊行物名:2011年電気化学秋季大会 講演要旨集、発行年月日:平成23年9月9日 発行者名:一般社団法人日本太陽エネルギー学会、刊行物名:太陽・風力エネルギー講演論文集(2011)、発行年月日:2011年9月21日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記機能性半導体層は平均粒子径の異なる2種以上の粒子を含有し、少なくとも1種の粒子の平均粒子径が2〜40nmのものであることを特徴とする請求項1または2の色素増感太陽電池用光電極。
前記平均粒子径の異なる2種以上の粒子は、平均粒子径が2〜40nmの粒子の含有割合が50〜95質量%であることを特徴とする請求項4に記載の色素増感太陽電池用光電極。
前記光電極構造体における透光性基板および機能性半導体層のロールプレス処理された層よりなる積層体の波長500nmの光透過率が20〜85%であり、かつ、波長700nmの光透過率が30〜85%であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池用光電極。
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池用光電極を備え、当該色素増感太陽電池用光電極が、電解質部分を介して対極と対向するよう設けられていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本明細書においては、「A〜B」の形で標記する数値範囲は、特にことわりのない限り、A以上B以下(ただし、A<B)を意味する。
【0020】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の色素増感太陽電池を構成するセルの構成の一例を示す説明用断面図である。
【0021】
〔光電変換素子〕
この色素増感太陽電池を構成するセル(以下、「光電変換素子」ともいう。)10は、透光性基板21上に光電変換層23が形成された色素増感太陽電池用光電極(以下、単に「光電極」ともいう。)20と、透光性基板(図示せず)上に例えば白金などよりなる導電層(図示せず)が形成された対極16とが、これらの光電変換層23および導電層が電解質部分12を介して対向するよう配置されている。
【0022】
光電極20は、負極として作用するものであって、具体的には、透明導電層21b(
図2(a)参照。)を有する透光性基板21と、この透光性基板21の透明導電層21bに積層して設けられた光電変換層23とを備えるものである。
【0023】
〔光電変換層〕
光電変換層23は、半導体粒子(以下、「特定の半導体粒子群」という。)と、増感色素とを含有し、ロールプレス処理されたものであり、具体的には、特定の半導体粒子群を含有するペーストの塗膜23A(
図2(b)参照。)がロールプレス処理された機能性半導体層23αに、増感色素が担持されたものである。
光電変換層23がロールプレス処理された機能性半導体層23αを有することにより、当該機能性半導体層23αを多数のナノ細孔が形成されたものとすることができるため、透光性基板21の単位面積当たりの半導体粒子の表面積の割合が極めて大きくなり、これにより、十分な量の増感色素を担持させることができ、結局、高い光吸収効率が得られる。
【0024】
光電変換層23は平均粒子径が2〜40nmの半導体微粒子を含有させることで構成してもよい。
例えば、平均粒子径20nm程度のナノサイズの半導体微粒子をもちいた場合(後述する、光閉じ込め効果を十分に利用しなかった場合)は透過率の高い光電変換層を作成することができる。
また、光電変換層23が平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子を含有させることで、例えば平均粒子径20nm程度のナノサイズの半導体粒子は、長波長の光を透過しやすい傾向にあるところ、例えば平均粒子径100nm程度の大粒径の半導体粒子が混在することにより光が散乱され、機能性半導体層23α中における光路長が増大される、いわゆる光閉じ込め効果を十分に得ることができる。その結果、増感色素について十分な光吸収効率が得られ、従って、色素増感太陽電池において高い光電変換効率が達成される。
【0025】
この光電変換素子10においては、透光性支持体21a上に透明導電層21bおよび機能性半導体層23αがこの順に設けられた光電極構造体20K(
図2(c)参照。)の波長500nmの光透過率が20〜85%であり、かつ、波長700nmの光透過率が30〜85%であることが好ましい。この光透過率が過大であると、内部散乱が起きずに光が透過してしまうために光電極において十分な光吸収効率を得ることができなくなるおそれがあり、一方、光透過率が過小であると、表面反射が生じて光電極内に光の入射しないおそれがある。
【0026】
〔半導体粒子〕
半導体粒子は、電子伝達作用を発揮するものであって、このような半導体粒子を構成する半導体としては、具体的には、例えばTiO
2、SnO、ZnO、WO
3、Nb
2O
5 、In
2O
3、ZrO
2、Ta
2O
5、TiSrO
3 などの酸化物半導体;CdS、ZnS、In
2S、PbS、Mo
2S、WS
2、Sb
2S
3、Bi
2S
3、ZnCdS
2、CuS
2などの硫化物半導体;CdSe、In
2Se
2、WSe
2、PbSe、CdTeなどの金属カルコゲナイド;GaAs、Si、Se、InPなどの元素半導体などが挙げられ、例えばSnOとZnOとの複合体、TiO
2とNb
2O
5の複合体などの、これらの2種以上よりなる複合体を用いることもできる。また、半導体の種類はこれらに限定されるものでは無く、2種類以上混合して用いることもできる。
半導体粒子を構成する半導体としては、上記の中でTi、Zn、Sn、Nbの酸化物が好ましく、特にTiO
2が好ましい。
TiO
2よりなるチタニア粒子としては、アナターゼ結晶型のものおよびルチル結晶型のものが挙げられて共に使用可能であるが、特にアナターゼ結晶型のチタニア粒子を用いると、プラスチックフィルムよりなる透光性支持体による色素増感太陽電池において、確実に所期の性能が得られる。
【0027】
特定の半導体粒子群に含有される平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子を用いる場合は、互いに同種のものであってもよく、異種のものであってもよいが、同種のものであることが好ましい。
半導体粒子としては、チタニア粒子を用いることが好ましい。
【0028】
特定の半導体粒子群を構成する半導体粒子のうちの平均粒子径が小さい半導体粒子(以下、「半導体小粒子」ともいう。)の平均粒子径は好ましくは2〜40nm、より好ましくは15〜25nmである。また、特定の半導体粒子群を構成する半導体粒子のうちの平均粒子径が大きい半導体粒子(以下、「半導体大粒子」ともいう。)は、光散乱能を有するものであって、その平均粒子径は好ましくは50nm以上、より好ましくは80〜400nm、特に好ましくは90〜120nmである。
【0029】
光電変換層23を構成する特定の半導体粒子群における半導体小粒子の含有割合は、50〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜70質量%である。半導体小粒子の割合が過多であると、半導体大粒子による十分な光閉じ込め効果を得ることができず、増感色素について高い光吸収効率が得られない。一方、半導体小粒子の割合が過少であると、光電変換能が十分に得られないものとなる。
【0030】
また、光電変換層23を形成すべき機能性半導体層23αの厚みは、1〜40μmであることが好ましく、より好ましくは3〜30μmである。さらに好ましくは、3〜20μmである。
光電変換層を形成すべき機能性半導体層の厚みが過小である場合は、十分な量の増感色素を担持できないために得られる色素増感太陽電池が十分な光電変換効率を得ることができないものとなってしまう。一方、光電変換層を形成すべき機能性半導体層の厚みが過大である場合は、得られる光電変換層において増感色素から注入された電子の拡散距離が増大するために電荷の再結合によるエネルギーロスが大きくなってしまう。
【0031】
〔増感色素〕
光電変換層23において半導体粒子に担持される増感色素としては、増感作用を示すものであれば特に限定されず、N3錯体、N719錯体(N719色素)、Ruターピリジン錯体(ブラックダイ)、Ruジケトナート錯体などのRu錯体;クマリン系色素、メロシアニン系色素、ポリエン系色素などの有機系色素;金属ポルフィリン系色素やフタロシアニン色素などを挙げることができ、この中ではRu錯体が好ましく、特に、可視光域に広い吸収スペクトルを有するため、N719色素およびブラックダイが好ましく挙げられる。
N719色素は(RuL
2(NCS)
2・2TBA)で表される化合物であり、Blackdye色素は(RuL´
1(NCS)
3・2TBA)で表される化合物である。ただし、Lは、4,4´−ジカルボキシ−2,2´−ビピリジン、L´は、4,4´,4″−テトラ−カルボキシ−2,2´,2″−ターピリジン、TBAは、テトラブチルアンモニウムカオチンである。これらは単独でもしくは2種類以上を混合して用いることができる。
【0032】
光電変換層23における増感色素の担持量は、機能性半導体層23αの単位表面積当たりの量が1×10
−8〜1×10
−7mol/cm
2、好ましくは3×10
−8〜7×10
−8mol/cm
2とされることが好ましい。増感色素の担持量がこの範囲内であることにより、半導体粒子の表面に増感色素が単分子層として担持されるため、増感色素において励起された電子が電解質部分の電解質を還元するなどのエネルギーロスが発生せずに十分な吸収効率が得られる。
【0033】
〔透光性基板〕
この例の光電変換素子10を構成する透光性基板21は、透光性支持体21a上に透明導電層21bが形成されてなるものである。
透光性支持体21aとしては、ガラス、プラスチックなど種々の材料よりなるものを用いることができ、プラスチック製のものとしては、透光性、耐熱性、耐化学薬品特性などの観点から、例えば、板状またはフィルム状のシクロオレフィン系ポリマー、板状またはフィルム状のアクリル尿素系ポリマー、板状またはフィルム状のポリエステル、板状またはフィルム状のポリエチレンナフタレートなどを用いることが好ましい。
【0034】
透光性基板21の表面抵抗は100Ω/cm
2以下であることが好ましく、15Ω/cm
2以下であることがより好ましい。表面抵抗は、三菱化学アナリテック社のLoresta−GPの型番MCP−T610で測定した。この機器はJIS K7194−1994に準拠している。単位はΩ/sq.またはΩ/□で示されるが、実質的には、Ωである(sq.、□は無次元)。
また、本発明において、表面抵抗は試験片の表面に沿って流れる電流と平行方向の電位傾度を、表面の単位幅当たりの電流で除した数値を意味する。この数値は、各辺1cmの正方形の相対する辺を電極とする二つの電極間の表面抵抗に等しいと、JIS K6911−1995に定義されている。
【0035】
〔透明導電層〕
透光性支持体21aの一面に形成される透明導電層21bは、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)などよりなるものが挙げられる。
【0036】
〔光電変換層の形成方法〕
以上のような光電極20の光電変換層23は、
図2に示されるように、以下の工程(1)〜(5)をこの順に経て製造することができる。
(1)透光性支持体21a上に透明導電層21bを形成させて透光性基板21を得、必要に応じて表面処理を施す透光性基板製造工程(
図2(a)参照。)。
(2)半導体粒子を含有するペーストを調整するペースト調製工程。
(3)透光性基板21の透明導電層21b上にペーストを塗布して乾燥させた塗膜23Aを得る塗膜形成工程(
図2(b)参照。)。
(4)透光性基板21上に形成された塗膜23Aをロールプレス処理して機能性半導体層23αを得るロールプレス処理工程(
図2(c)参照。)。
(5)機能性半導体層23αに増感色素を担持させる色素担持工程(
図2(d)参照。)。
【0037】
〔透光性基板製造工程〕
透光性基板21は、透光性支持体21a上に対して例えばスパッタリング法などによって透明導電層21bが形成されることにより、得られる。
透明導電層21bの形成は、透明導電層21bの透光性支持体21aに対する密着性や耐久性の観点から、加熱処理しながら行われることが好ましい。
加熱処理の温度は、例えば、通常、100〜150℃とされるが、透光性基板21を構成する透光性支持体21aがプラスチック製のものである場合は、加熱処理の温度は当透光性支持体21aを構成するプラスチックの耐熱温度より低い温度とされる。ここに、「耐熱温度」とは、プラスチックの軟化点温度または融点温度のいずれか低い方の温度を意味する。
【0038】
〔透光性基板の表面処理〕
以上の透光性基板21は、超音波洗浄処理、エッチング処理およびはUV−オゾン処理などの表面処理のうち1つまたは2つ以上を組み合わせて、その表面、すなわち透明導電層21bの表面に表面処理が施されたものであってもよく、このような表面処理が施された透光性基板21は、得られる色素増感太陽電池が優れた光電変換効率を示すものとなる。
この理由としては、表面処理を施すことによって透光性基板21上にペーストを塗布する際の濡れ性およびプレス処理後の半導体粒子の透光性基板21との密着性が共に向上したものとなることによると考えられ、例えば、表面処理前の透光性基板21の表面の接触角は90°より大きく、表面処理後の接触角は80〜90°程度に減少することが確認されている。
この透光性基板21の表面処理法は、超音波洗浄処理、エッチング処理及びUV−オゾン処理以外に、スパッタリングなどの他の処理法も適宜使用可能であり、これらに限定されない。
【0039】
超音波洗浄処理は、超音波洗浄器および超音波洗浄用洗剤を用い、洗浄剤を入れた容器内に透光性基板を浸漬し、その容器を水で満たした超音波洗浄器に入れ、数分〜10分間超音波を発信させることにより、当該透光性基板の表面における微細な付着物などを洗浄・除去する処理である。
また、エッチング処理は、高周波スパッタ装置「SVC−700RFII」(サンユー電子(株)製)に透光性基板をセットし、高真空条件(5Pa)とした後、逆スパッタ(エッチング)処理を20W、10分間の条件で行われるものである。具体的には、高周波の交流電位をかけることによりプラズマを発生させ、その内のプラス電荷を帯びたアルゴン原子をマイナス電荷をかけた基板に衝突させることによって、基板上の付着物を除去する。
さらに、UV−オゾン処理は、処理対象物をUV−オゾン洗浄装置「OC−2506」(岩崎電気(株)製)に入れ、5分間前後紫外線照射を行うことにより、行われるものである。
【0040】
〔ペースト調製工程〕
本発明の製造方法に用いられるペーストは、半導体粒子を含有しており、任意に溶剤や、バインダーを含有することができる。
光電変換層23を構成する特定の半導体粒子群を含有するペーストの調製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明者らが創出したアルコキサイドを4級アンモニウム塩により加水分解する塩基性法が好ましく用いることができる。この塩基性法は、具体的には、半導体小粒子を得るためのアルコキサイドを、4級アンモニウム塩によって加水分解することにより得、同様にして半導体大粒子を得るためのアルコキサイドを、4級アンモニウム塩によって加水分解することにより得、これらを混合することにより、調製することができる。
得られる半導体粒子の平均粒子径は、加水分解に供される4級アンモニウム塩の添加量を調整することにより、制御することができ、4級アンモニウム塩の添加量を大きくするに従って、平均粒子径の小さい半導体粒子を得ることができる。
【0041】
4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いることができるが、メチル基については限定されず、炭素数が1〜4個のアルキル基を有するものを例示することができる。
また、半導体大粒子を得るためのアルコキサイドとしては、上述の半導体粒子を構成する金属のアルコキサイドを用いることができる。
具体的には、例えば半導体粒子がチタニア粒子である場合は、半導体粒子のアルコキサイドとしてTi(OC
3H
5)
4を用い、4級アンモニウム塩として、TMAHを用いることができる。
【0042】
ペースト中の特定の半導体粒子群の含有割合は、5〜85質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。さらに好ましくは、8〜20質量%である。
【0043】
塩基性法で作製したペーストを用いることで、水を溶媒の主成分とするペーストを用いることができ、環境負荷の小さいペーストを作製することができる。
【0044】
〔塗膜形成工程〕
この工程は、透光性基板21の透明導電層21b上にペーストを塗布して乾燥させた塗膜23Aを得る工程であって、透光性基板21の透明導電層21b上にペーストを塗布する方法としては特に制限はなく、例えばドクターブレード法やスプレー法など、公知の種々の方法に従って行うことができる。
また、乾燥温度は、例えば室温とすることができる。
透明導電層21b上における水性ペーストが塗布された領域が作用極として機能し、用途によってこの作用極領域の面積を適宜に選択することができる。
本発明の製造方法によって製造することができる作用極の面積は、後述のロールプレス処理工程に用いられるロールプレス機の性能によっても異なるが、例えば20cm×20cm程度の大きさ、あるいはそれ以上の大きさの領域を有するものを作製することもできる。
【0045】
〔ロールプレス処理工程〕
この工程は、塗膜23Aをロールプレス処理して機能性半導体層23αを得る工程であって、ロールプレス処理を行うことによって、塗膜23A中の半導体粒子同士が十分に密着され、高い電子伝達能を得ることができる。
【0046】
ロールプレス処理が行われることで、機能性半導体層23αの表面には、ロールプレス処理方向と平行(略平行を含む。以下同じ。)に延びるロールプレス痕跡が形成される。ロールプレス痕跡が生じることで、色素増感太陽電池用光電極を曲げた場合や、衝撃など一時的な外部応力が加わった場合に、外部応力を緩和できるため、ロールプレス痕跡がない場合と比べて、外部応力に対して強い構成とすることができる。
【0047】
ロールプレス痕跡は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、目視で観察することができる。ロールプレス痕跡の存在により、機能性半導体層23αの表面では、ロールプレス処理方向に平行な方向(第一の方向)と第一の方向に直交する垂直な方向(第二の方向、以下、単に「垂直方向」と称することがある。)とでは表面粗さRaが大きく異なっており、第二の方向の表面粗さRaが第一の方向の表面粗さRaの1.2倍以上となる。
なお、平面プレス法(ロールプレス処理ではなく、平板を上下に合わせ、その間に塗膜23Aをはさみ、プレス処理をする方法)を用いた場合、表面粗さRaは上述のような異方性を有していない。したがって、第一の方向をどのように設定したとしても、第二の方向の表面粗さRaが第一の方向の表面粗さRaの1.2倍以上になることはない。上述した応力緩和の観点からは、この値は1.25倍以上とされるのが好ましい。
【0048】
また、表面粗さRaは原子力間顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。機能性半導体層23αの表面粗さRaは、ロールプレス処理方向に対して、垂直方向の方が平行方向よりも、表面粗さRaは大きな値になる。これは、主にロールプレス痕跡が形成されるメカニズムによる。すなわち、ロールプレス処理の際に、所定のテンションが付与された透光性基板に対してロールが回転しながら接触するため、ロール表面の表面形状が単に転写されるのではなく、ロールの外周面が機能性半導体層に対して若干相対移動する。その結果、機能性半導体層に接触するロールの部位の表面形状がロールプレス処理方向の所定範囲にわたって機能性半導体層の表面に転写されると考えられる。
【0049】
また、ロールプレス処理は大きな面積を処理する際に、平プレスと比べ有利である。平プレスは、面積が大きくなることで、単位面積あたりのプレス圧が低下するため、大きな面積をプレス処理する際に、面積に比例して圧力を大きくする必要があるため、作製する面積と共に機械が大きくなり工業的に適さない。しかし、ロールプレス処理では、作製する面積が大きくなったとしてもロールにかける圧力を増加させる必要はなく、常に一定の力でよいため、工業的に適している。
また、ロールプレス処理を用いることにより、光電極の高速な生産及び生産コストの低減が可能となる。このことは、当該光電極を備えた色素増感太陽電池の高速生産および生産コスト低減に寄与する。
【0050】
ロールプレス処理は、15〜35℃の範囲内で行うことが好ましい。
ただし、ロールプレス処理の温度は、これらに限定されるわけではなく、機能性半導体層に求められる物性を付与するために、これより温度を上げて行うこともできる。
また、光電変換層形成用ペーストに溶媒が用いられていた場合、溶剤の沸点+50℃以下にしなければならない。これは、前記の温度以上で加工を行った場合は、用いている溶媒が急激に蒸発してしまい、表面に荒れを生じるためである。
また、光電変換形成用ペーストに溶媒を用いていない場合は、200℃を超えないことが好ましい。なぜなら、200℃を超える温度で処理すると、半導体層の性能を低下させる原因となるほか、基板にプラスチックを用いるため、基板にゆがみが生じやすくなったり、ロールプレス処理で使用しているペーストを酸化してしまい、粒子同士の密着を阻害する要因になったりするためである。この200℃よりも基板材質の軟化点(温度)やガラス転移温度が低い場合、その温度よりも低い温度で処理することが必要である。
【0051】
そして、このロールプレス処理は、透光性基板21上に機能性半導体層23αが形成された積層体における波長400〜800nmの光透過率が、ロールプレス処理前の値の105〜170%、より好ましくは110〜170%、特に好ましくは110〜130%となる条件で行われることが好ましく、例えばロールプレス処理が40MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力で行われることが好ましく、また、500MPa以下、好ましくは150MPa以下の圧力で行われることが好ましい。これにより、上記の光透過率を実現するとともに、機能性半導体層23αの表面粗さを50nm以下とし、平滑性を高めることができる。また、ロールプレス痕跡も同時に発生させることができる。
ロールプレス処理に係る圧力が高すぎる場合は、特にプラスチック製基板を用いた場合に当該プラスチック製基板の透光性支持体自体が歪んで色素増感太陽電池の性能に悪影響を及ぼすのみならず、さらに当該透光性支持体上に形成された透明導電層が破損することがあるため、好ましくない。
また、ロールプレス処理が行われることにより、機能性半導体層23αの厚みは、ロールプレス処理前の値の95〜30%となることが好ましい。より好ましくは、90%〜50%である。
【0052】
〔UV−オゾン処理〕
ロールプレス処理工程後であって次の色素担持工程前に、必要に応じて、ロールプレス処理された機能性半導体層23αの表面処理としてUV−オゾン処理を行うことができる。透光性基板21の表面処理としてUV−オゾン処理を行った場合も行わなかった場合も、このUV−オゾン処理を行うことができる。
このUV−オゾン処理を施すことによって、機能性半導体層23αを構成する半導体粒子の表面を洗浄できるばかりでなく、半導体粒子の親水基を増加させて、増感色素を吸着しやすい状態とすることにもなると考えられ、結果的に、得られる色素増感太陽電池を光電変換効率の高いものとすることができる。
なお、ペースト調製工程において塩基性法など、チタニア粒子の作製に使用されるTMAHが未反応物として機能性半導体層23α中に残留してしまう方法を用いた場合、UV−オゾン処理によってこのTMAHを分解して半導体粒子を表面洗浄することができる。このUV−オゾン処理は、透光性基板21についてのUV−オゾン処理と同様にして行うことができる。
【0053】
〔色素担持工程〕
増感色素を光電極構造体20Kの機能性半導体層23αに担持させる方法としては特に限定されず、例えば増感色素をアルコール類、ニトリル類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、アミド類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素、水などの溶媒あるいはこれらの2種以上による混合溶媒に溶解させ、これに機能性半導体層23αが形成された光電極構造体20Kを浸漬する浸漬法や、スプレー塗布法、印刷塗布法などが挙げられる。
【0054】
以上のような製造方法によって得られる色素増感太陽電池用光電極による色素増感太陽電池は、透光性支持体がプラスチック製のものであっても光電変換効率が高いものができる。これは、柔らかいプラスチック製の透光性支持体上で半導体粒子を加圧することにより、半導体粒子が多少透明導電層内にめり込むような構造となり、より密接な接合が得られるためと推察される。固い材質の透光性支持体の場合はこのような弾性を有さないため、プラスチックの透光性支持体を用いたものよりも性能が低くなるものと推察される。
【0055】
〔電解質部分〕
本発明の色素増感太陽電池において、光電極20および対極16との間に介在される電解質部分12は、液体状、固体状、凝固体状、常温溶融塩状態のいずれのものであってもよい。
また、この電解質部分12の厚み、すなわち光電極20と対極16との離間距離は、例えば1〜100μmとされる。
【0056】
電解質部分12が例えば溶液状のものである場合は、この電解質部分12は、電解質、溶媒、および添加物で構成されることが好ましい。
電解質としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウムなどの金属ヨウ化物とヨウ素の組み合わせや、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどの第4級アンモニウム化合物のヨウ素塩−ヨウ素の組み合わせ、あるいは前記ヨウ素、ヨウ素化合物のかわりに臭素化合物−臭素の組み合わせ、コバルト錯体の組み合わせでもよい。電解質がイオン性液体の場合は、特に溶媒を用いなくてもよい。電解質は、ゲル電解質、高分子電解質、固体電解質でもよく、また、電解質の代わりに有機電荷輸送物質を用いてもよい。
【0057】
電解質部分12が溶液状のものである場合の溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル系溶媒や、エチレンカーボネートのようなカーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒などが挙げられる。
【0058】
電解質部分12が溶液状のものである場合、電解質溶液における電解質の濃度は、電解質の種類によっても異なるが、例えば電解質がヨウ素塩−ヨウ素の組み合わせである場合は、0.1〜5.0Mであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.0Mである。
【0059】
〔対極〕
対極16は、光電変換素子10の正極として機能するものであり、電解質を還元する機能を有する物質、例えば白金等の金属や導電性高分子、カーボン等を、ITO、FTOなどの導電性金属酸化物や金属で形成された基板上に担持することにより形成することができる。対極16は、通常、導電性の支持体や、それと同様の導電性層を有する支持体に、上記の金属やカーボン、導電性高分子よりなる導電性膜が設けられて構成されていてもよいが、十分な強度および密封性が得られるのであれば、支持体を有することは必須ではない。
【0060】
〔光電変換素子の製造方法〕
以上の光電変換素子10は、例えば電解質部分12が液状のものである場合は、光電極20および対極16を適宜のスペーサを介して対向配置させ、これらの光電極20および対極16間に電解質部分12を封入することにより、色素増感太陽電池を構成する光電変換素子10が得られる。
以上の光電変換素子10は、用途に応じて様々な形状で作製することが可能であり、その形状は特に限定されない。
【0061】
この色素増感太陽電池における光電変換は、以下のように行われる。
まず、光電極20の透光性基板21を透過して入射した太陽光が、光電変換層23の半導体粒子の表面に担持された基底状態の増感色素に吸収されてこの増感色素が励起され、電子が発生される。この電子が半導体粒子に注入され、この半導体粒子に注入された電子は光電変換層23中を拡散して透明導電層21bおよび結線17を経由して対極16へ導かれる。一方、電子を失った増感色素は、電解質部分12から電子を受け取って基底状態に戻る。そして、電子を渡して酸化された電解質部分12は、対極16から電子を受け取って還元され、基の状態に戻る。以上の一連の過程により、光電変換層23と電気的に接続された透光性基板21と、対極16との間に起電力が発生する。
【0062】
以上の光電変換素子10からなる色素増感太陽電池によれば、色素増感太陽電池用光電極20の光電変換層23に特定の平均粒子径の異なる2種以上の半導体粒子を用いた場合は、当該光電変換層23に含有される増感色素についていわゆる光閉じ込め効果による高い光吸収効率を達成させることができると共に、この光電変換層23にペーストを用いて特定の方法によって形成することにより、透光性基板21の透光性支持体21aがどのような材質のものであっても、すなわち例えば従来高い光吸収効率を得ることが困難であったプラスチック製基板を用いた場合であっても当該光電変換層23を高い密着性で透光性基板21上に形成することができ、その結果、プラスチック製基板を用いた場合にも、入射光量を変化させても高いレベルの光電変換効率を維持できる。
【0063】
〔変形例〕
以上の光電変換素子においては、種々の変更を加えることができる。
例えば、
図3に示されるように、光電変換層23の表面上に、半導体大粒子のみよりなる光散乱層25が形成されたものであってもよい。この光電変換素子10Aの光散乱層25は、例えば溶媒として水を用い、バインダーおよび有機溶剤を含有せず、半導体大粒子を含有するペーストの塗膜よりなるものとすることもできる。
光散乱層25の厚みは、例えば1〜15μmとすることができる。
このような光散乱層25が形成されてなる色素増感太陽電池用光電極20Aを有する光電変換素子10Aによれば、極めて高い光閉じ込め効果を得ることができ、その結果、極めて高い光電変換効率が達成された色素増感太陽電池を構成することができる。
【0064】
また例えば、以上の光電変換素子を構成する色素増感太陽電池用光電極は、光電変換層が、バインダーおよび有機溶剤を含有せず、特定の半導体粒子群を含有するペーストの塗膜に増感色素を担持させた後に、ロールプレス処理することにより得られる増感色素担持加圧半導体層よりなるものであってもよい。
なお、この例の色素増感太陽電池用光電極はペーストの塗膜に増感色素を担持させた後、ロールプレス処理することにより得られるものであるが、製造工程中、ロールプレス処理の際に増感色素の剥離が発生してしまうため、ペーストの塗膜をロールプレス処理した後に増感色素を担持させて作製した第1の実施形態における光電極20に比して得られる色素増感太陽電池の性能が低い。
【0065】
<第2の実施形態>
この例の色素増感太陽電池を構成する色素増感太陽電池用光電極は、光電変換層を構成する機能性半導体層が、ペーストの塗膜をロールプレス処理して得られる層上に、特定の半導体粒子群を含有し、バインダーおよび有機溶剤を含有しないペーストの塗膜よりなる層を1層以上形成させた多層構造であることの他は第1の実施形態と同様の構成を有するものである。
【0066】
この光電変換層26(
図4(c)参照。)は、具体的には、第1の実施形態における機能性半導体層23αと同様にして得られる、特定の半導体粒子群を含有するペーストの塗膜をロールプレス処理して得られる層23B(
図4(a)参照。)上に、特定の半導体粒子群を含有するペーストの塗膜23C(
図4(b)参照。)を1層以上形成させた機能性半導体層23βに、増感色素を担持させたものである。
ペーストの塗膜23Cは、1〜3層積層させることができる。
また、このペーストの塗膜23Cを形成させるためのペーストに含有される特定の半導体粒子群の種類や含有割合は、前記塗膜をロールプレス処理して得られる層23Bを形成させるためのペーストに含有される特定の半導体粒子群の種類や含有割合と同じであっても異なっていてもよい。
【0067】
この例の光電変換素子においては、塗膜をロールプレス処理して得られる層23Bの層厚が例えば1〜20μmとされ、1層のペーストの塗膜23Cの層厚が例えば1〜15μmとされる。
【0068】
この色素増感太陽電池用光電極の製造方法としては、
図4(a)〜(c)に示されるように、第1の実施形態において形成される光電極構造体20K、すなわち透光性支持体21a上に透明導電層21bおよび塗膜をプレス処理して得られる層23Bがこの順に形成されたものにおける当該層23B上に、ペーストの塗膜23Cを形成させた光電極構造体20Lを形成し、この光電極構造体20Lにおける機能性半導体層23βに増感色素を上述の方法などによって担持させる方法を挙げることができる。具体的には、上記の第1の実施形態における製造工程のロールプレス処理工程(4)の後に、ペーストの塗膜23Cを1〜3層形成し、その後、色素担持工程(5)を行う。
【0069】
透光性基板21上に塗膜をロールプレス処理して得られる層23Bを得るための当該塗膜を形成した状態において行われるロールプレス処理は、第1の実施の形態におけるロールプレス処理と同様の条件で行うことができる。すなわち、ロールプレス処理は、透光性基板21上に塗膜をロールプレス処理して得られる層23Bが形成された積層体における波長400〜800nmの光透過率が、ロールプレス処理前の値の105〜170%、より好ましくは110〜170%、特に好ましくは110〜130%となる条件で行われることが好ましい。
【0070】
ロールプレス処理に係る圧力が高すぎる場合は、特にプラスチック製の透光性支持体を用いた場合に当該透光性支持体自体が歪んで色素増感太陽電池の性能に悪影響を及ぼすのみならず、さらに当該透光性支持体上に形成した透明導電層が破損することがあるため、好ましくない。
また、このロールプレス処理が行われることにより、機能性半導体層23βを構成する塗膜をロールプレス処理して得られる層23Bの厚みが、ロールプレス処理前の値の80〜30%となることが好ましい。
【0071】
また、ロールプレス処理工程後のペーストの塗膜23Cを積層させた後であって、次の色素担持工程前に、必要に応じて、機能性半導体層23βの表面処理として第1の実施の形態における場合と同様の方法によってUV−オゾン処理を行うことができる。透光性基板21の表面処理としてUV−オゾン処理を行った場合も行わなかった場合も、このUV−オゾン処理を行うことができる。
このUV−オゾン処理を施すことによって、機能性半導体層23βを構成する半導体粒子の表面を洗浄できるばかりでなく、半導体粒子の親水基を増加させて、増感色素を吸着しやすい状態とすることにもなると考えられ、結果的に、得られる色素増感太陽電池を光電変換効率の高いものとすることができる。
なお、ペースト調製工程において塩基性法などチタニア粒子の作製に使用されるTMAHが未反応物として機能性半導体層23β中に残留してしまう方法を用いた場合、UV−オゾン処理によってこのTMAHを分解して半導体粒子を表面洗浄することができる。
【0072】
この例の光電変換素子10Aからなる色素増感太陽電池用光電極によれば、第1の実施形態における光電変換素子10と同様の効果を得ることができる。
さらに、機能性半導体層23βが、ロールプレス処理された層23Bと、層23B上に形成された層23Cとを有することで、透光性支持体との密着性を高めつつ、電池性能をさらに向上させることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
(チタニア半導体粒子懸濁液の調製)
オルトチタン酸テトライソプロピル56.8gを、イオン交換水200mL中によく撹拌しながら滴下し、滴下終了後、さらに1時間撹拌を続けることで加水分解を完結させ、目的とする水酸化チタンの沈殿物を得た。沈殿物は濾紙を用いて濾別し、イオン交換水で十分に洗浄した。
5.8gのテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を溶解させたイオン交換水にこの沈殿物を加え、さらにイオン交換水を追加して試料の全量を160gとした。
この試料を、140℃で4時間加熱還流を行った後、ガラスフィルターでマイクロクリスタルを除去することで、白濁半透明なコロイド溶液を得た。
得られたコロイド溶液を密閉したオートクレーブ容器に移し260℃で8時間水熱合成を行い、この水熱合成後、エバポレーターを用いてコロイド溶液の溶媒をエタノールに置換した後、超音波分散の処理を行い、平均粒子径20nmのアナターゼ結晶型のチタニア粒子〔A〕を含むエタノール懸濁液〔A〕を得た(以上の操作を「半導体粒子懸濁液の調製操作」という。)。
なお、TMAHが分解して生成されるトリメチルアミンは、コロイド溶液の溶媒をエタノールに置換する操作の際にほぼ全量除去される。
【0074】
この半導体粒子懸濁液の調製操作において、TMAHの添加量を1.5gとしたことの他は同様にして、平均粒子径100nmのアナターゼ結晶型のチタニア粒子〔B〕を含むエタノール懸濁液〔B〕を得た。
なお、エタノール懸濁液〔A〕、〔B〕に含有されるチタニア粒子について、エタノール懸濁液をスライドガラス上にドクターブレード法で塗布・乾燥後、XRDパターンを測定し、得られたXRDパターンから半価幅を求め、Scherrerの式(D=K×λ/βcosθ)を用いることにより、平均粒子径を算出し、かつ、チタニア粒子の結晶型を確認した。ただし、式中、Dは結晶子の長さ、βは半価幅、θは回折角、K=0.94、λ=1.5418である。
チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕は、その結晶型がほぼ100%アナターゼ結晶型であり、ルチル結晶型の存在は確認されなかった。
なお、Scherrerの式は、平均粒子径が50nmを超える場合は誤差が大きくなるため、平均粒子径が50nmを超えた場合は、次の方法を用いた。すなわち、エタノール懸濁液をスライドガラス上にドクターブレード法で塗布・乾燥後、SEMを用いて撮像し、画像に得られた、粒子の粒子半径の算出平均を取ることで平均粒子径とした。
【0075】
(光電変換層形成用水性ペーストの調製)
これら2種類のエタノール懸濁液〔A〕,〔B〕について、各々のチタニア粒子の濃度を、まず、るつぼの質量(W)を電子天秤で秤り、その後、るつぼにエタノール懸濁液を取り、るつぼとエタノール懸濁液の総質量(W1)を秤り、これを電気炉内に入れ、150℃で2時間保持してエタノール懸濁液の溶媒を完全に除去し、次いで、再び質量(W2)を秤り、式{チタニア粒子の濃度(wt%)=(W2−W)/(W1−W)×100}から求めた。
そして、それぞれの濃度に基づいて、チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕が重量比で7:3となるように混合し、この混合液を再びエバポレーターを用いて溶媒をほぼ完全に水で置換した上で濃縮することにより、最終的に、チタニア粒子の濃度が10wt%であって水を媒体とする光電変換層形成用ペースト〔1〕を得た。
【0076】
この光電変換層形成用水性ペースト〔1〕を、ドクターブレード法により、シート抵抗13Ω/□(Ω/cm
2)のITO/PEN(ポリエチレンナフタレート)基板(王子トービ製)よりなる透光性基板に、0.5cm×0.5cmの大きさの作用極領域に塗布した後、室温で乾燥させて塗膜を得、この塗膜に対して、ロールプレス処理には、金属ロールを用いた、ロールプレス機を使用した。ロールプレス機を用い、所定のプレス圧の直径25cmのロールプレスを1rpmでロールプレス処理を行った。ロールプレスの圧力はクリアランスを調整し、感圧フィルム(「プレスケール、富士フィルム社製」)を用い、加重を確認した。なお、感圧フィルムは、チタニア塗布膜が形成されていない基板面に配置した。プレス圧力は、ロールクリアランスを調整して感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら設定した。このペーストを圧力100MPaで両面からロールプレス処理を行い、透光性基板上に機能性半導体層が形成された光電極構造体を得た。
【0077】
このロールプレス処理を行うことにより、機能性半導体層における波長400〜800nmの光透過率は、ロールプレス処理前の値に対して110%増加し、層厚は70%に減少し、6μmであった。セル実効面積については、デジタルマイクロスコープおよび校正スケールを用い、有効数字4桁での補正を行った。この光電極構造体の波長200〜900nmの透過率の測定結果をロールプレス処理前後のサンプルにおいて行った。なお、透過率測定はU−4000(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて行った。また、膜厚測定は触針式表面形状測定器DEKTAK(ULVAC製)を用いて行った。
【0078】
ロールプレス処理後に、基板上に形成した塗膜の千倍および2万倍のSEM写真を観察したところ、
図5に示すように、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡が確認された。
さらに、ロールプレス処理の前後における機能性半導体層の膜厚を計測し、原子力間顕微鏡(AFM)を用いて、機能性半導体層の表面粗さRaを測定した。測定手順は以下の通りである。
まず、機能性半導体層表面のうち、一辺が10μmの正方形の領域をAFMで測定する。このとき、ロールプレス処理方向と当該正方形領域の一辺とが平行または略平行となるようにする。
この正方形領域300を、
図7に示すように、ロールプレス方向に延び、幅がそれぞれ3μm、4μm、3μmの帯状領域310、320、および330に分け、各帯状領域310、320、330においてAFMを用いて表面粗さRaを算出する。得られた表面粗さRaの値を合計して3で除した値を第一の方向の表面粗さRaとする。
次に、正方形領域300を、
図8に示すように、ロールプレス方向と直交する方向に延び、幅がそれぞれ3μm、4μm、3μmの帯状領域410、420、および430に分け、各帯状領域410、420、430においてAFMを用いて表面粗さRaを算出する。得られた表面粗さRaの値を合計して3で除した値を第二の方向の表面粗さRaとする。
そして、第二の方向の表面粗さRaを第一の方向の表面粗さRaで除して表面粗さ比率を算出した。
その結果、表面粗さ比率は、35.0nm/19.3nm=1.81であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性が確認された。
なお、本発明における表面粗さRaの定義は、ASME B46.1中に記載のImg.Raに準拠した。
【0079】
(増感色素の担持・光電極の作製)
一方、増感色素としてシス−ビス(イソチオシアナート)−ビス(2,2’−ジピリジル−4,4’−ジカルボン酸)−ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウムを用い、エタノール中に0.2mMの濃度で溶解させて色素溶液を得、この色素溶液中に上記の機能性半導体層を形成させた光電極構造体を24時間浸漬させ、機能性半導体層に増感色素が担持された光電極〔1〕を得た。
なお、この光電極〔1〕について上記と同様にしてSEM観察を行ったところ、ロールプレス処理後のSEM観察において確認されたロールプレス痕跡が同様に観察された。
【0080】
(色素増感太陽電池の作製)
電解質溶液として、ヨウ素、ヨウ化リチウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドおよびt−ブチルピリジンが溶解されたアセトニトリル溶液を用いた。これらはそれぞれ0.05M、0.1M、0.6Mおよび0.5Mになるよう窒素雰囲気下でアセトニトリルに溶解されたものである。
対極としては、100μmの厚みのTi板に白金が蒸着されたものを用いた。
上記の光電極〔1〕に、厚さ50μmの絶縁スペーサ、対極の順に組み合わせ、光電極〔1〕と対極との間にマイクロシリンジで電解質溶液を注入することにより、色素増感太陽電池〔1〕を作製した。
【0081】
(色素増感太陽電池の性能評価)
この色素増感太陽電池〔1〕に、「ソーラーシミュレータ」(ペクセル社製)を用いて、AM1.5、100mW/cm
2の擬似太陽光を照射しながら「2400型ソースメータ」(KEITHLEY社製)を用いてI−V特性を測定して短絡電流、開放電圧、形状因子ffの値を得ると共に、これらの値を用いて下記式(1)により、光電変換効率を算出した。
式(1);光電変換効率(%)=[短絡電流値(mA/cm
2)×開放電圧値(V)×{形状因子ff/入射光(100mW/cm
2)}]×100
【0082】
〔実施例2〕
チタニア粒子〔A〕のみのペーストを用いた他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔2〕を得、この色素増感太陽電池〔2〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、実施例1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、34.1nm/17.5nm=1.95であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性が確認された。
【0083】
〔実施例3〕
チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕が重量比で6:4となるように混合したペーストを用いた他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔3〕を得、この色素増感太陽電池〔3〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、実施例1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、13.7nm/9.0nm=1.52であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性が確認された。
【0084】
〔実施例4〕
ITO/PEN基板の代わりにITO/PETを用いたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔4〕を得、この色素増感太陽電池〔4〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、実施例1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、23.9nm/18.8nm=1.27であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性が確認された。
【0085】
〔実施例5〕
作用極領域を0.5cm×4.5cmとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔5〕を得、この色素増感太陽電池〔5〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、実施例1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、25.5nm/16.6nm=1.54であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性が確認された。
【0086】
〔実施例6〕
ペーストに市販のペースト「PECC−K01」(ペクセル社製)を用いたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔6〕を得、この色素増感太陽電池〔6〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、実施例1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、30.0nm/16.4nm=1.83であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性が確認された。
実施例1から6のデータを表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
〔比較例A−1〕
ロールプレス処理の代わりに、平プレス処理には、ミニテストプレス−10(東洋精機製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。このときの加重は圧力100MPaであった。
ロールプレス処理に代えて平プレス処理を行ったことの他は実施例1と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔A−1〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔A−1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、
図6に示す拡大写真のように、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
【0089】
〔比較例A−2〕
ロールプレス処理の代わりに、平プレス処理には、ミニテストプレス−10(東洋精機製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。このときの加重は圧力100MPaであった。
ロールプレス処理に代えて平プレス処理を行ったことの他は実施例2と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔A−2〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔A−2〕について実施例2と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
【0090】
〔比較例A−3〕
ロールプレス処理の代わりに、平プレス処理には、ミニテストプレス−10(東洋精機製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。このときの加重は圧力100MPaであった。
ロールプレス処理に代えて平プレス処理を行ったことの他は実施例2と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔A−3〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔A−3〕について実施例3と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
【0091】
〔比較例A−4〕
ロールプレス処理の代わりに、平プレス処理には、ミニテストプレス−10(東洋精機製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。このときの加重は圧力100MPaであった。
ロールプレス処理に代えて平プレス処理を行ったことの他は実施例4と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔A−4〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔A−4〕について実施例4と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
〔比較例A−5〕
ロールプレス処理の代わりに、平プレス処理には、ミニテストプレス−10(東洋精機製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。このときの加重は圧力100MPaであった。
ロールプレス処理に代えて平プレス処理を行ったことの他は実施例5と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔A−5〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔A−5〕について実施例5と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
【0092】
〔比較例A−6〕
ロールプレス処理の代わりに、平プレス処理には、ミニテストプレス−10(東洋精機製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。このときの加重は圧力100MPaであった。
ロールプレス処理に代えて平プレス処理を行ったことの他は実施例6と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔A−6〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔A−6〕について実施例6と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
比較例A−1からA−6のデータを表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
〔比較例C−1〕
塗膜に対してロールプレス処理を行わず、150℃で10分間、加熱処理を行ったことの他は実施例1と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔C−1〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔C−1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、実施例1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。ただし、表面粗さRaの測定においては、ロールプレス処理を行っていないため、正方形領域を任意の位置に設定し、表面粗さRaの測定値が小さい方の方向を第一の方向とした。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、45.0nm/42.4nm=1.06であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性は認められなかった。
【0095】
〔比較例C−2〕
塗膜に対してロールプレス処理を行わず、150℃で10分間、加熱処理を行ったことの他は実施例2と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔C−2〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔C−2〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、比較例C−1と同様の手順で表面粗さRaを測定し、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。
表面粗さRa測定の結果、表面粗さ比率は、45.3nm/43.0nm=1.05であり、第二の方向と第一の方向とで表面粗さRaの異方性は認められなかった。
【0096】
〔比較例C−3〕
塗膜に対してロールプレス処理を行わず、150℃で10分間、加熱処理を行ったことの他は実施例6と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔C−3〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔C−3〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。
比較例C−1からC−3のデータを表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
〔比較例D−1〕
塗膜に対してプレス処理および加熱処理を行わず、常温で10分間保持した他は実施例1と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔D−1〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔D−1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。
【0099】
〔比較例D−2〕
塗膜に対してプレス処理および加熱処理を行わず、常温で10分間保持した他は実施例2と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔D−2〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔D−2〕について実施例2と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。
【0100】
〔比較例D−3〕
塗膜に対してプレス処理および加熱処理を行わず、常温で10分間保持した他は実施例6と同様にして比較用の色素増感太陽電池〔D−3〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔D−3〕について実施例6と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。
比較例D−1からD−3までのデータを表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
〔比較例E−1〕
透光性基板として、ITO/PEN基板の代わりにシート抵抗9Ω/□(Ω/cm
2)のFTO/導電性ガラス基板を使用し、プレス処理を行わず、光電変換層形成用水性ペースト〔1〕の塗布・乾燥処理後に520℃で1時間焼成処理を行い、対極として導電性ガラスに白金をスパッタしたものを用いたことの他は実施例1と同様にして比較用の色素増感型太陽電池〔E−1〕を得、この比較用の色素増感太陽電池〔E−1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行ったところ、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。また、機能性半導体における波長に対する透過率と膜厚を測定した。
比較例E−1のデータを表5に示す。
【0103】
【表5】
【0104】
実施例1〜実施例6に係る本発明の色素増感太陽電池においては、機能性半導体層を形成する際にロールプレス処理を行って表面粗さRaを50nm以下にしていることにより、高い光電変換効率が得られていることが確認された。
また、実施例1、5の結果を比較することにより、作用極領域を大きくすると光電変換効率の大きさに影響し多少低くなる傾向を示すが、ほぼ同等の光電変換効率が得られることが確認された。
【0105】
一方、プレス処理を行わなかった比較用色素増感太陽電池に係る比較例D−1、D−2、D−3の結果から、プレス処理を行わないと高い光電変換効率が得られないことが確認された。これは、プレス処理を行わなかった結果、チタニア粒子間およびチタニア粒子と透光性基板との接合性が低いものとなってしまうことが大きな要因であると考えられる。
また、実施例2の結果から、粒径の小さい1種類の半導体粒子のみを用いた太陽電池は、粒径の異なる2種の半導体粒子を用いる本発明のものに比して高い光電変換効率が得られないことが確認されたが、高い透過率を有する色素増感太陽電池を作成することができる。
【0106】
ロールプレス痕跡は、ロールプレスを行った実施例1〜6において、SEMを用いることで観察された。ロールプレス痕跡は、ロールプレスの回転方向と平行に延びるように生じていることが確認された。また、AFMを用いた機能性半導体層の表面粗さRaの測定において、ロールプレス処理方向に平行な第一の方向と、第一の方向に直交する第二の方向とで表面粗さRaを比較したところ、第二の方向の表面粗さRaの方が第一の方向の表面粗さRaよりも大きく、1.2倍以上の値を示した。これは、ロールプレス処理に起因するロールプレス痕跡の凹凸が、第一の方向に延びているため、生じたと考えられる。
平プレスを用いてサンプルを作製した比較例A−1〜A−6では、ロールプレス痕跡のように特定方向に延びる痕跡は認められなかった。
【0107】
〔実施例F−1〕
ロールプレス処理の条件を圧力80MPaとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔F−1〕を得、この色素増感太陽電池〔F−1〕および光電極構造体について実施例1と同様の測定を行った。
【0108】
〔実施例F−2〕
プレス処理の条件を圧力160MPaとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔F−2〕を得、この色素増感太陽電池〔F−2〕および光電極構造体について実施例1と同様の測定を行った。
【0109】
〔実施例F−3〕
ロールプレス処理の条件を圧力60MPaとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔F−3〕を得、この色素増感太陽電池〔F−3〕および光電極構造体について実施例1と同様の測定を行った。
【0110】
〔実施例F−4〕
ロールプレス処理の条件を圧力40MPaとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔F−4〕を得、この色素増感太陽電池〔F−4〕および光電極構造体について実施例1と同様の測定を行った。
【0111】
〔比較例F−5〕
ロールプレス処理の条件を圧力20MPaとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔F−5〕を得、この色素増感太陽電池〔F−5〕および光電極構造体について実施例1と同様の測定を行った。
【0112】
〔比較例F−6〕
ロールプレス処理の条件を圧力10MPaとしたことの他は実施例1と同様にして色素増感太陽電池〔F−6〕を得、この色素増感太陽電池〔F−6〕および光電極構造体について実施例1と同様の測定を行った。
なお、F−3からF−6については、いずれもプレス後の機能性半導体層の膜厚は6μmであった。また、透過率の測定はしていない。さらに、F−5、F−6については、後述するようにロールプレス痕跡がなかったため、比較例C−1と同様の方法で表面粗さRaを測定した。
【0113】
〔実施例G−1〕
機能性半導体膜厚を実施例1よりも低下させて作成した以外は、同様にして色素増感太陽電池〔G−1〕を得、この色素増感太陽電池〔G−1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
【0114】
〔実施例G−2〕
機能性半導体膜厚を実施例1よりも増加させて作成した以外は、同様にして色素増感太陽電池〔G−2〕を得、この色素増感太陽電池〔G−2〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
この際、得られた、機能性半導体層に対して、SEMを用いて表面観察を行い、ロールプレス処理方向と平行に延びるロールプレス痕跡を確認した。
また、機能性半導体における波長に対する透過率とプレス処理前後の膜厚を測定した。
【0115】
〔実施例H−1〕
実施例1と同様にして得られた光電変換層形成用水性ペースト〔1〕を塗布し、機能性半導体層を形成し、この機能性半導体層にUV−オゾン処理を施し、その後、増感色素を担持させることにより、色素増感太陽電池〔H−1〕を得、これらの色素増感太陽電池〔H−1〕について実施例1と同様にして短絡電流、開放電圧、形状因子ff、光電変換効率の値を得た。
【0116】
(UV−オゾン処理)
処理対象物をUV−オゾン洗浄装置「OC−2506」(岩崎電気(株)製)に入れ、5分間紫外線照射を行った。
【0117】
実施例F−1、F−2、G−1、G−2、およびH−1のデータを表6に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
また、実施例F−3、F−4、および比較例F−5、F−6のデータを表7に示す。
【0120】
【表7】
【0121】
表7において実施例F−3、F−4に示すように、ロールプレス処理の圧力を40MPaまで下げても、機能性半導体層の表面粗さRaは50nm以下に保たれており、電池性能にも変化は見られなかった。一方、さらに圧力を下げた比較例F−5、F−6では、機能性半導体層の表面にロールプレス痕跡を認めず、表面粗さRaは50nmを超えていた。さらに、比較例F−5、F−6は、実施例F−3、F−4に比して電池性能が著しく低下していた。これは、圧力の低下により機能性半導体層における半導体粒子の密着度が低下した結果、光電変換層において電子が移動しにくくなったことによるものと考えられる。比較例F−5、F−6において形状因子(フィルファクター)の数値が低下していることは、この推測の裏付けの一つと言える。
また、このことは、ロールプレス痕跡がロールプレス処理により当然に生じる現象ではなく、機能性半導体層における半導体粒子の密着度が良好であることを示す一つの指標となることをも示している。
【0122】
また、表6に示すように、機能性半導体層にUV−オゾン処理を施すことにより、これを行わなかった場合は例えば実施例1と比較して、高い光電変換効率を得られることが示された。
これは、機能性半導体層へのUV−オゾン処理により、機能性半導体層に含有される半導体粒子の親水基が増加されて当該半導体粒子が色素吸着しやすいものとなり、その結果、得られる色素増感太陽電池が高い光電変換効率を得られると推察される。