(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記並行配線のうちの一方は、バイアスT回路を介して電流源に接続され且つバイアスインダクタを介して前記直列に接続された複数の検出部の一端に接続されており、前記電流源から前記直列に接続された複数の検出部にバイアス電流を供給するためのバイアス電流供給配線として機能すると共に、前記直列に接続された複数の検出部から並列に電気信号を読み出すための読み出し配線として機能する、請求項1に記載の粒子・光子検出器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、一般の粒子・光子検出器には、応答が速いことともに、有感面積が大きいことが求められる。ところが、上述したように、高速応答性を追求して検出部をなす超伝導体配線の長さを短くすると、必然的に有感面積が小さくなり、検出器としての実用性が損なわれる。この課題は、検出部を並列に接続し、実効的なインダクタンスを低下させることにより解決されてきた(例えば特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
【0007】
しかしながら、並列に接続することは次の三つの問題を生じさせる。
(1)第一の問題は、検出器全体に流す電流が大きくなって、発熱が増え、低温を保てなくなることである。検出器において、超伝導体を用いた配線すなわち検出部上では抵抗値がゼロであるため発熱はない。一方、外部から検出器に電流を導入する経路(以下、伝送線路と記載する。)は、当該伝送線路を介した外部からの熱の流入により低温部(特にその検出部)の温度が上昇することを防ぐために、熱伝導率が低い材料、たとえば真鍮やステンレスを用いて構成されている。真鍮やステンレスは、伝導率は低いが、伝送線路の配線が1Ω前後の抵抗値を有する。伝送線路における発熱量Qは、電流値をIc、抵抗値をRcとすると、Q=Ic
2Rcと表され、M個の検出部を並列に接続して各検出部に同じ電流値Iを供給するようにすると、Ic=MIとなり、伝送線路における発熱量はQ=(MI)
2×Rc=M
2I
2×Rcとなって、検出部の並列数Mの二乗すなわちM
2に比例するので、並列化には限界がある。例えば、抵抗値が1Ωの配線の場合、伝送線路の配線における発熱量Qは上述したようにQ=I
2Rcと表されるので、100mAの電流を流すと発熱量は10mWに達する。一方、検出部を冷却するための冷凍機の冷却能力は典型的には1W以下で、安定に低温を維持するには、発熱量は10mW以下としなければならない。したがって、超伝導体配線を用いた粒子・光子検出器の一つの検出部に供給される電流の値が典型的にmA程度であることを考慮すると、並列にする検出部の数は100程度が限界となる。
【0008】
(2)第二の問題は、不感領域が発生することである。粒子・光子を検出した際、超伝導体配線で構成される検出部は常伝導状態に転移して、そこを流れる電流が減少する。減少した電流は、多くは並列に接続された別の検出部に分配されることになる。その後、常伝導状態に転移した検出部が再び超伝導状態に回復すると、これらの超伝導体配線の検出部は抵抗ゼロの閉回路を形成する。常伝導体であれば閉回路を流れる電流は、並列に接続される他の回路部分における電圧降下に起因した誘導起電力により電流が回復するが、超伝導体の閉回路では他の回路部分の抵抗値がゼロであるために閉回路を形成する他の部分において電圧降下が生じておらず、一度常伝導状態に転移した検出部を流れる電流は減少したままとなる。超伝導体配線からなる検出部を用いた粒子・光子検出器では、各検出部の電流値が臨界電流に近い場合にのみ各検出部が検出器として動作するため、電流が流れていない状態になった検出部は不感領域となり、実効的な有感面積が低下するという問題が生じる。なお、不感領域となった検出部は、並列に接続した他の検出部(配線部)が粒子または光子を検出すると電流が分配され、再び検出器として動作するようになる。
【0009】
(3)第三の問題は、信号強度が低下することである。非特許文献3においては、複数の超伝導体配線を検出部として並列に配置したユニットを、更に直列に接続して、一端を接地し、他端から信号を読み出す。単一の検出部の場合には出力電圧はおよそバイアス電流Iと読み出し回路のインピーダンスRを用いて概ねI×Rと表されるが、直列接続の配置と並列接続の配置を併用した場合には、一つの検出部に流す電流をI、直列数N、並列数Mとすると、出力電圧はおよそIR/Nで、直列数を増やすと信号強度は減少する(非特許文献4)。
【0010】
よって、本発明の目的は、従来技術に存する課題を解決して、高速な応答速度と大きな有感面積と少ない発熱と大きな信号強度とを兼ね備え且つ不感領域の発生を防ぐことができる粒子・光子検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み、本発明は、超伝導状態に保たれた検出部に粒子又は光子が衝突して該
検出部が常伝導状態に転移することにより、粒子又は光子が検出されたことを示す電気信
号を出力する粒子・光子検出器であって、直列に接続された複数の検出部と、該直列に接
続された複数の検出部と並列に設けられた二つの並行配線とを備え、該直列に接続された
複数の検出部の各接続部
および先頭の検出部の出力端が交互に前記二つの並行配線に抵抗器を介して接続されており、前記二つの並行配線のうちの少なくとも一方を通して、前記複数の検出部からの電気信号を読み出すようにした粒子・光子検出器を提供する。
【0012】
前記粒子・光子検出器において、前記抵抗器の抵抗値は、常伝導状態に転移したときの前記検出部の抵抗値よりも小さくなっていることが好ましい。
【0013】
さらに、前記並行配線のうちの一方は、バイアスT回路を介して電流源に接続され且つバイアスインダクタを介して前記直列に接続された複数の検出部の一端に接続されており、前記電流源から前記直列に接続された複数の検出部にバイアス電流を供給するためのバイアス電流供給配線として機能すると共に、前記直列に接続された複数の検出部から並列に電気信号を読み出すための読み出し配線として機能することが好ましい。
【0014】
前記並行配線のうちの他方は、接地されたグランド配線であってもよく、前記複数の検出部から電気信号を読み出すための読み出し配線であってもよい。
【0015】
上記粒子・光子検出器では、複数の検出部を用いることにより、検出部の個数に比例して有感面積が増大する。また、複数の検出部を直列に接続し、出力される電気信号の読み出し方法に工夫を凝らさない場合には、回路全体のカイネティックインダクタンスが、[一つの検出部のカイネティックインダクタンス]×[直列接続した検出部の数]となるので、粒子・光子検出器の動作速度(回路出力で見た応答時間)は検出部の直列数に比例して遅くなる。これに対して、上記粒子・光子検出器では、直列に接続された複数の検出部の各接続部を交互に二つの並行配線に抵抗器を介して接続することにより、粒子又は光子が衝突した検出部が超伝導状態から常伝導状態に転移したときに、その手前で抵抗器を介して二つの並行配線の何れかに電流が流れるので、動作速度の低下を防ぐばかりでなく、応答を早くすることができる。
【0016】
また、このような配置にすることで、従来のように検出部を並列接続した配置における発熱の問題を解決することができる。すなわち、発熱は低温部と常温部をつなぐ伝送線路において起こるが、検出部が直列に接続されているために、直列に接続した検出部の数によらず、一個の粒子・光子検出器と同じ電流値で動作させることができ、この結果、発熱量はN個の検出部を並列に接続する場合に比べてN
2分の1と極めてきわめて小さくなる。
【0017】
さらに、従来のように複数の検出部を並列に接続する配置では、一度ある検出部が粒子又は光子を検出すると、並列に接続された他の検出部が粒子又は光子を検出するまで、その検出部は検出器として動作しない不感領域となっていた。これに対して、本発明による粒子・光子検出器では、粒子又は光子が衝突した検出部が超伝導状態から常伝導状態に転移したときにその検出部の手前の接続部から抵抗器を介して二つの並行配線のうちの何れかに電流が流れ、電圧降下を生じさせるので、速やかに超伝導状態に回復することができる。したがって、検出部の接続部と二つの並行配線との間に接続される抵抗器の値を適切に選択することで、個々の検出部の不感時間を調節することができる。
【0018】
加えて、非特許文献3のように、並列接続と直列接続を組み合わせて用いた場合に比べ、信号強度も大きくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の検出部の接続部を交互に二つの並行配線に抵抗を介して接続することにより、高速応答、大面積、低発熱、大信号強度を兼ね備え、不感領域がない粒子・光子検出器を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明による粒子・光子検出器の実施形態を説明する。
【0022】
最初に、本発明との対比のために、
図1から
図3を参照して、従来の粒子・光子検出器110について説明する。
図1は単一の検出部112を用いた従来の粒子・光子検出器の構成図である。粒子・光子検出器110は、1つの検出部112と、1つのシャント抵抗114と、同軸ケーブルからなる伝送線路116と、バイアスT回路118と、増幅器120とによって構成されており、粒子や光子が検出部112に衝突すると検出部112から電気信号を出力するようになっている。検出部112とシャント抵抗114とは並列に接続されており、この並列接続の一端が接地され、他端は伝送線路116に接続されている。また、伝送線路116はバイアスT回路118を介して増幅器120に接続されている。なお、
図1中の点線150で囲まれた部分(検出部112とシャント抵抗114)は超伝導転移温度より低い温度(典型的には液体ヘリウム温度4.2K)に冷却される。
【0023】
検出部112の概略形状を
図2(a)に、等価回路を
図2(b)に示す。検出部112は、所定のパターンを有し超伝導体によって形成された配線(以下、超伝導体配線と記載する。)112aであり、この超伝導体配線112aの両端にはボンディングパッド112bが形成されている。超伝導体配線112a及びボンディングパッド112bは例えばNbN(チッ化ニオブ)の薄膜によって形成される。NbN薄膜の膜厚は典型的には10nm以下であり、超伝導体配線112aの線幅は典型的には数十nmから1μm程度である。超伝導体配線112aは、
図2(a)ではミアンダ状パターンに形成されているが、これに限定されるものではなく、任意のパターンとすることができる。この超伝導体配線112aのパターン領域が、粒子および光子を検出できる有感面積に対応し、その大きさは数μm
2から数万μm
2である。例えば非特許文献5に開示されている粒子・光子検出器の場合、検出部112の薄膜の材質がNbN、厚さが10nmであり、超伝導体配線112aの線幅が800nm、検出部12のサイズが200μm×200μm、超伝導臨界電流が581μA、カイネティックインダクタンスが1.1μH、有感面積が0.02mm
2である。
【0024】
検出部112の等価回路は、
図2(b)に示されているように、コイル122と、スイッチ124と、抵抗126とによって表すことができ、スイッチ124と抵抗126が並列に接続され、この並列接続されたスイッチ124及び抵抗126に対してコイル122が直列に接続された回路構成を有している。検出部112が超伝導状態に保たれているときは、スイッチ124が導通されている状態であり、検出部112の抵抗はゼロとなる。
一方、粒子や光子が検出部112の超伝導体配線112aに衝突すると、その衝突箇所の微小領域部分が常伝導状態となることに対応して、スイッチ124が開放状態とされて、抵抗126の抵抗値が超伝導体配線112aに現れ、この抵抗値変化に応じた電気信号が出力される。
【0025】
図3は非特許文献3及び非特許文献4に開示されている粒子・光子検出器110´の構成図である。以下では、
図3に示されている構造の粒子・光子検出器110´を並列・直列接続配置の粒子・光子検出器と記載する。
【0026】
並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110´では、超伝導体配線からなる検出部112が並列にM個、直列にN個、接続されている(
図3では、各検出部をD
M,Nで表している)。直列接続の一端は接地されており、他端はシャント抵抗114を介して接地されるとともに、伝送線路116、バイアスT回路118を介して増幅器120に接続されている。かかる構成の粒子・光子検出器110´では、例えばM=8、N=8として、前述した非特許文献5に記載されている粒子・光子検出器を接続した場合、合成インダクタンスは1μHとなり、単一の検出部(超伝導体配線)112を用いた粒子・光子検出器と同じになる。一方、面積は64倍になるので、感度が向上する。また、臨界電流値は8倍となるため、動作させるために必要なバイアス電流も8倍となり、伝送線路116で消費される電力は64倍と大きくなる。
【0027】
次に、
図4を参照して、本発明による粒子・光子検出器10について説明する。
図4は本発明による粒子・光子検出器10の構成図である。
粒子・光子検出器10は、N個の検出部D
1,…,D
N(参照符号12)と、N個の抵抗器14と、伝送線路16と、バイアスT回路18と、増幅器20と、バイアスインダクタ22と、シャント抵抗24と、二つの並行配線26,28とを備え、
図4中で点線50で囲まれた部分(N個の検出部D
1,…,D
N、N個の抵抗器14、バイアスインダクタ22、シャント抵抗24及び二つの並行配線26,28)が超伝導転移温度より低い温度(典型的には液体ヘリウム温度4.2K)に冷却されている。
【0028】
検出部D
1,…,D
N(参照符号12)の各々は、前述した検出部112と同一の構成を有するものであり、超伝導体配線によって形成されている。したがって、ここでは、各検出部D
1,…,D
Nの構成についての詳しい説明は省略する。N個の検出部D
1,…,D
Nは接続部によって直列に接続されており、直列に接続された検出部D
1,…,D
Nと並列に二つの並列配線26,28が設けられている。直列に接続された検出部D
1,…,D
Nの各接続部は、交互に、二つの並行配線26,28に抵抗器14を介して接続されている。抵抗器14の抵抗値は、常伝導状態に転移したときの検出部D
1,…,D
Nの抵抗値よりも小さくなるように選択される。
図4に示されている実施形態では、二つの並行配線26,28のうちの一方の並行配線26を伝送線路16に接続して、検出部D
1,…,D
Nからの電気信号を抵抗器14を通して並列に外部へ読み出すための読み出し配線として機能させる一方、他方の並行配線28を接地させてグランド配線として機能させている。
【0029】
伝送線路16は、その一端が上述したように並行配線26に接続されていると共に、他端がバイアスT回路18を介してバイアス電流源(図示せず)と増幅器20とに接続されている。バイアスT回路18は、コイルとコンデンサとによって構成されており、伝送線路16がコイルとコンデンサとに共通に接続されていると共に、コイルにおける伝送線路16と反対側の端子がバイアス電流源(図示せず)に接続され且つコンデンサの伝送線路16と反対側の端子が増幅器20に接続されている。このようなバイアスT回路の構成はすでに知られたものであり、ここでは詳しい説明を省略する。
【0030】
粒子・光子検出器10を動作させるには超伝導臨界電流よりも少し低い電流(バイアス電流)Iを各検出部D
1,…,D
N(参照符号12)に与える必要がある。そこで、
図4に示されている実施形態では、直列に接続された検出部D
1,…,D
Nの一端を接地すると共に、他端をバイアスインダクタ22を介して並行配線26に接続している。
【0031】
このような構成により、バイアス電流Iは、バイアス電流源から、バイアスT回路18、伝送線路16、並行配線26及びバイアスインダクタ22を通して個々の検出部D
1,…,D
Nに供給され、粒子・光子検出器10を動作させることができる。すなわち、並行配線26は、各検出部D
1,…,D
Nにバイアス電流を供給するバイアス電流供給配線として機能している。なお、バイアスインダクタ22の抵抗値は、並行配線26と直列に接続された検出部D
1,…,D
N(検出部12)とを接続する抵抗器14の抵抗値よりも十分に小さいので、バイアス電流は、並行配線26からバイアスインダクタ22を通して直列に接続された検出部D
1,…,D
Nに供給されることになる。
【0032】
また、直列に接続された複数の検出部D
1,…,D
Nの各接続部が交互に二つの並行配線26,28に抵抗器14を介して接続されており、抵抗器14の抵抗値が常伝導状態に転移したときの検出部D
1,…,D
Nの抵抗値よりも小さいので、粒子又は光子が衝突した検出部D
1,…,D
Nが超伝導状態から常伝導状態に転移すると、その手前で抵抗器14を介して二つの並行配線26,28の何れかに電流が流れて電圧降下が生じ、これが並行線路26を介して電気信号として読み出される。さらに、粒子や光子を検出した検出部D
1,…,D
Nからの電気信号(高周波信号となる)は、並行配線26及び伝送線路16を通してバイアスT回路18に伝達され、バイアス電流源の側へはコイルによって遮断される一方、バイアスT回路18のコンデンサを介して増幅器20へ出力されて増幅され、増幅された電気信号を利用して増幅されて粒子・光子が検出部12に衝突したことが検出される。すなわち、並行配線26は、読み出し配線として機能し、各検出部D
1,…,D
Nからの電気信号が、抵抗器14を通して並行配線26へ並列に読み出された後、伝送線路16、バイアスT回路18を通して増幅器20に伝達され、検出部12に粒子や光子が衝突したことが検出される。
【0033】
抵抗器14の抵抗値Rは個々の検出部D
1,…,D
Nが常伝導状態から超伝導状態に回復するまでの時間(回復時間)τに影響を与え、直列に接続される検出部D
1,…,D
Nの数Nが十分に大きい場合には、回復時間τは概ねL/2Rとなる。抵抗器14の抵抗値Rは、高速動作の観点からは高い方が望ましい一方、安定的に動作させる観点からは低い方が望ましく、目的に応じて、1〜1kΩ程度の範囲で、検出器14が動作する範囲において任意に選択すればよい。
【0034】
さらに、伝送線路16に接続されている並行配線26の伝送線路16側の端部には、シャント抵抗24が接続されている。シャント抵抗24は、検出部12をなす超伝導体配線全体が常伝導状態に転移した際の発熱を防ぐ機能を果たす。
【0035】
このように、粒子・光子検出器10は、N個の検出部D
1,…,D
Nを用いているので、有感面積が増加する利点を有する。また、N個の検出部D
1,…,D
Nが直列に接続されているので、一つの検出部を用いる場合と同じ電流値で粒子・光子検出器10を動作させることができる。発熱は、低温部(
図1中の点線50で囲まれた部分)と常温部とを接続する伝送線路16において起こるが、粒子・光子検出器10で使用する電流値を低く保つことができるので、N個の検出部D
1,…,D
Nを並列に接続した場合と比較して、伝送線路16における発熱量は1/N
2と極めて低くなる。
【0036】
さらに、前述したように、粒子・光子検出器の応答速度は、カイネティックインダクタンスに比例するので、N個の検出部D
1,…,D
Nを単に直列に接続した場合、各検出部D
1,…,D
Nのカイネティックインダクタンス(以下、単にインダクタンスと記載する。)をLとすると、検出部12の全体のインダクタンスはN×Lとなり、直列接続した検出部D
1,…,D
Nの数Nに比例して応答速度が低下する。これに対して、
図4に示されている実施形態の粒子・光子検出器10では、直列に接続した検出部D
1,…,D
Nの接続部が交互に二つの並行配線26,28に接続されており、全ての検出部D
1,…,D
Nが超伝導状態のときには並行配線26,28にほとんど電流が流れないが、一部の検出部D
1,…,D
Nが常伝導状態になって抵抗値が増加すると、抵抗器14を通して並行配線26又は28に電流が流れるようになる。したがって、読み出し回路の抵抗値を大きくしたのと同じ効果が得られ、応答速度を速くすることができる。
【0037】
また、常伝導状態から超伝導状態に回復する原動力となるのは、検出部12が超伝導状態から常伝導状態になることにより検出部12に生じた抵抗値の変化に起因する誘導起電力(V=−L×di/dt)であり、回復時間は検出部12のインダクタンスに比例する。各検出部D
1,…,D
Nを並列に接続した場合、一つの検出部に粒子又は光子が衝突して常伝導状態に転移したことによってその検出部の抵抗値が増加すると、その検出部を流れていた電流は並列に接続されている他の検出部に分配されることになるが、他の検出部は超伝導状態であり、抵抗がほとんどなく、電流の増加による電圧降下がほとんど生じないので、常伝導状態に転移した検出部には電流が流れず、不感領域になる。これに対して、
図4に示されている実施形態の粒子・光子検出器10では、直列に接続した検出部D
1,…,D
Nの接続部が抵抗器14を介して交互に二つの並行配線26,28に接続されており、一部の検出部D
1,…,D
Nが常伝導状態になって抵抗値が増加すると、抵抗器14を通して二つの並行配線26、28の何れかに電流が流れ込み、電圧降下が生じるので、常伝導状態になった検出部D
1,…,D
Nがすばやく超伝導状態に復帰する。また、検出部12からの出力電圧の変化も大きくなるので、信号強度も増加する。
【0038】
以上、
図4に示されている実施形態を参照して本発明による粒子・光子検出器10を説明したが、本発明は図示される実施形態に限定されるものではない。例えば、
図4に示されている実施形態では、一方の並行配線26を読み出し配線とし、検出部D
1,…,D
Nからの電気信号を並列に読み出しているが、
図5に示されている実施形態の粒子・光子検出器10´のように、並行配線26に加えて、他方の並行配線28にも伝送線路30を介して増幅器32と接続すると共にシャント抵抗34を介して接地することにより、二つの並行配線26,28の両方から電気信号を読み出すようにしてもよい。
【実施例】
【0039】
図4に示されている実施形態(以下、本実施形態と記載する。)において、検出部D
1,…,D
Nの直列数を64、バイアス電流Iを200μA、シャント抵抗24の抵抗値を50Ω、抵抗器14の抵抗値Rを50Ω、伝送線路16の電気長を2nsとし、各検出部D
1,…,D
Nについて、カイネティックインダクタンスすなわち
図2(b)に示されている等価回路のコイル122のインダクタンスを1μH、スイッチ時の抵抗すなわち
図2(b)に示されている等価回路の抵抗126の抵抗値を500Ω、スイッチ時間を1nsとして、増幅器20に入力される電圧波形を計算したシミュレーション結果を
図6に示す。比較のため、
図6には、
図1に示されているように検出部を一つだけ用いた粒子・光子検出器110において、本実施形態の粒子・光子検出器10の各検出部12と同じ特性の検出部112を用い、検出部112のバイアス電流を200μAとした場合、および、
図3に示されている並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110´において、有感面積を同一とするために並列数8・直列数8で、本実施形態の粒子・光子検出器10と同じ特性の検出部112を用い、個々の検出部112のバイアス電流が本実施形態による粒子・光子検出器10の各検出部D
1,…,D
Nと同じく200μAとなるように伝送線路116におけるバイアス電流を1600μAとした場合について、同様に行ったシミュレーションの結果を示している。
図6中の実線1が
図1に示されている単一の検出部を用いた粒子・光子検出器110からの出力電圧の波形であり、破線2が本実施形態による粒子・光子検出器10からの出力電圧の波形であり、点線3が
図3に示されている並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110’からの出力電圧の波形である。
【0040】
図4に示されている本実施形態による粒子・光子検出器10では、
図1に示されている単一の検出部112を用いた粒子・光子検出器110の場合よりも出力電圧の波高が半分程度になっているが、有感面積が大きく、かつ、応答速度が極めて速い。また、
図3に示されている並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110´の出力電圧は、波高が本実施形態による粒子・光子検出器10の3分の1以下であり、応答速度も遅い。さらに、並列・直列接続配置の粒子・光子検出部110と本実施形態の粒子・光子検出器10とは何れも64個の検出部を用いており、有感面積は同一となるが、本実施形態による粒子・光子検出器10では、並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110’と比較して、電流値が1/8、伝送線路における発熱量は1/64となり、発熱量が極めて小さくなる。
【0041】
図7は上述したシミュレーションにおいて、粒子・光子を検出した際に、検出部を流れる電流がどのように減少・回復するかを示したグラフである。
図7において、実線1は並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110´における各検出部D
M,N(検出部112)を流れる電流の波形を示し、点線2は本実施形態による粒子・光子検出器10における各検出部D
N(検出部12)を流れる電流の波形を示す。実線1で示されている電流波形から分かるように、並列・直列接続配置の粒子・光子検出器110´では、いったん減少した電流値が回復しないため、不感領域が発生する。これに対して、点線2に示されている電流波形から分かるように、本実施形態による粒子・光子検出器10では、速やかに電流値が回復し、電流値が元に戻る時間スケールは10ns程度と早い。この回復時間は、1個の検出部D
NのカイネティックインダクタンスLkと挿入した抵抗器14値の抵抗値Rを用いてLk/2Rと表される。
【0042】
このように、本発明により、大面積・高速応答・大信号強度を兼ね備え、なおかつ不感領域がなく、少ない電流値で動作する、粒子・光子検出器を実現することができる。