【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成25年4月1日掲載アドレス http://www.mrs.org/s13−program−c/#tab3
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発太陽光発電システム未来技術研究開発省資源・低環境負荷型太陽光発電システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ金属を供給する基板の上方に、単層若しくは複層構造若しくは3次元構造の酸化物層、及びアルカリ金属の添加を必要とするカルコゲン化物系材料からなる光吸収層又は発光層の順で積層された光学素子において、
前記アルカリ金属を供給する基板と前記酸化物層との間にアルカリ金属拡散促進層としての機能を有する金属膜を挿入した構造であり、前記金属膜により前記アルカリ金属を供給する基板からのアルカリ金属の前記酸化物層中での拡散を促進させ、そのアルカリ金属を前記光吸収層又は発光層へ供給する構造であることを特徴とする光学素子。
前記アルカリ金属を供給する基板は、アルカリ金属含有基板そのもの、又は基体の基板上にアルカリ金属含有膜を形成した構造の基板であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
前記アルカリ金属を供給する基板と前記金属膜とは、アルカリ金属を含有した金属基板そのもの、又は基体の基板上にアルカリ金属を含有した金属層を形成した構造の、金属膜兼用基板を構成していることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
前記酸化物層は、前記光吸収層又は発光層の直下に形成された透明膜と、その透明膜の直下に形成された反射鏡若しくは散乱層とからなる複層構造であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の光学素子。
前記酸化物層と前記光吸収層又は発光層との間に、オーミック特性改善のための電極が形成された構造であることを特徴する請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の光学素子。
前記製膜工程及び前記酸化物層形成工程は、アルカリ金属を含有した金属基板そのもの、又は基体の基板上にアルカリ金属を含有した金属層を形成した構造の、前記アルカリ金属を供給する基板と前記金属膜とを兼ね備えた金属膜兼用基板の上に、前記酸化物層を形成することを特徴とする請求項1記載の光学素子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
カルコゲン化物(カルコパイライト、ケステライト等を含む)系材料を光吸収層又は発光層として用いた光学素子(太陽電池、光センサ、発光素子、受光素子等)は、高効率で費用効率が高い光学素子として注目を集めている。カルコゲン化物系材料のうち特にカルコパイライト系材料を光吸収層として用いた光学素子に対してはアルカリ金属の微量な添加が特性の改善に有用であることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一般的に基板として用いられるソーダライムガラス(SLG)は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属を含有している。そのため、SLG基板上に金属裏面電極、カルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)を積層した光学素子の場合、SLG基板のアルカリ金属が自然拡散により金属裏面電極を通過し、光吸収(発光)層に供給される。この方法を用いて、カルコゲン化物系材料を用いた光吸収層又は発光層に非常に容易にアルカリ金属添加が行え、特性を改善できる。
【0004】
ところが、近年、光学素子の裏面構造の多機能化(反射鏡やテクスチャ形成等)の目的で、透明導電膜などの酸化物層(酸化ケイ素:SiO
2、酸化チタン:TiO
2、酸化亜鉛:ZnO、アルミナ:Al
2O
3、酸化スズ:SnO
2等)をSLG基板とカルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)との間に挿入形成することが行われるようになった。しかしながら、この構造の場合は、上記酸化物層がアルカリバリアとして働き、SLG基板から自然拡散により供給されるアルカリ金属が上記酸化物層を十分に通過することができず、カルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)へのアルカリ金属の供給が阻害されてしまう。なお、酸化物層がアルカリバリアとしての機能を有することは公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そこで、上記の問題を解決するために、主として以下の2つの対策方法のいずれかが用いられている。第1の対策方法は、
図14の素子断面図に示すように、基板1とカルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)3との間に酸化物層(単層若しくは複層構造:3次元構造を含む)2を挿入した構造を製造する際に、カルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)3の形成中にアルカリ金属であるナトリウム(Na)を、黒丸で模式的に示すようにフッ化ナトリウム(NaF)等の形態で添加する方法である(例えば、非特許文献2参照)。なお、カルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)3の形成工程の前後の工程にてナトリウム(Na)をフッ化ナトリウム(NaF)等の形態で添加するようにしてもよい。
【0006】
また、第2の対策方法は、
図15の素子断面図に示すように、基板1とカルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)5との間に酸化物層(単層若しくは複層構造:3次元構造を含む)2を挿入した構造における光吸収層(又は発光層)5の直下にアルカリ金属供給層4を形成する方法である(例えば、非特許文献3参照)。すなわち、この場合、基板1の上に、酸化物層2、アルカリ金属供給層4、カルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)5の順で積層された構造が得られる。アルカリ金属供給層4としては、ケイ酸塩ガラス薄膜、アルカリ金属を添加したモリブデン(Mo)が用いられる。この第2の対策方法によれば、アルカリ金属供給層4からのアルカリ金属がカルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)5に添加される。
なお、アルカリ金属供給層4とカルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)5との間にアルカリ金属の拡散を妨げない層(金属膜等)を挿入する場合もある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る光学素子の第1の実施形態の概略断面図を示す。同図において、光学素子10は、SLG基板等のアルカリ金属含有層11の上に金属膜12、酸化物層13、及びカルコゲン化物系光吸収(発光)層14の順に積層された構造である。金属膜12はモリブデン(Mo)やタングステン(W)等の金属からなる薄膜である。酸化物層13は、アルカリ金属の拡散がしにくい膜の一例であり、例えば透明導電膜である。酸化物層13には、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミナ(Al
2O
3)、酸化スズ(SnO
2)、酸化インジウムスズ(ITO)等が用いられる。なお、
図1では酸化物層13は単層としているが、後述するように複層構造あるいは3次元構造でもよい。
【0017】
カルコゲン化物系光吸収層(又は発光層)14は、アルカリ金属の添加を必要とするカルコゲン化物系材料を用いた光吸収層(又は発光層)で、光学素子10が太陽電池、光センサ、受光素子等として用いられる場合は光吸収層として用いられ、発光素子として用いられるときは発光層として用いられる。なお、本明細書において、以下、「光吸収層(又は発光層)」を簡単のため「光吸収(発光)層」と表記するものとする。
【0018】
光学素子10は、アルカリ金属含有層11とカルコゲン化物系光吸収(発光)層14との間に酸化物層13を挿入した構造において、アルカリ金属含有層11と酸化物層13との間に金属膜12が挿入された構造に特徴がある。金属膜12はアルカリ金属含有層11から自然拡散により供給されるアルカリ金属(例えばNa)の、酸化物層13中の拡散を促進するアルカリ金属拡散促進層としての機能を有する。これにより、酸化物層13がアルカリ金属の拡散がしにくい材料であっても、
図1に黒丸で模式的に示すアルカリ金属が、矢印で示すように、アルカリ金属含有層11から金属膜12、酸化物層13を通過してカルコゲン化物系光吸収(発光)層14に十分な量で供給される。なお、金属膜12により酸化物層13中のアルカリ金属が促進されることについての検証実験結果については後述する。
【0019】
本実施形態の光学素子10によれば、多機能化のために酸化物層13をアルカリ金属含有層11とカルコゲン化物系光吸収(発光)層14との間に導入した構造でも、金属膜12が酸化物層13中のアルカリ金属の拡散を促進するアルカリ金属拡散促進層としての機能を有することから、カルコゲン化物系光吸収(発光)層14にアルカリ金属を供給できるので、既存のアルカリ金属供給方法(ソーダライムガラス基板からの自然拡散によるアルカリ金属供給方法)をそのまま利用できる。そのため、本実施形態の光学素子10によれば、公知のカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法(3段階法、セレン化法等)をそのまま利用できる。また、透明導電膜等の酸化物層13の下に金属膜12を形成するため、金属膜12がカルコゲン化物系光吸収(発光)層14と酸化物層13との境界部分での導電性、透明性を劣化させるような影響を与えることはない。
【0020】
なお、光学素子10において、カルコゲン化物系光吸収(発光)層14と酸化物層13との間に、オーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する場合もある。この構造の光学素子では、上記の電極の一部又はすべてを酸化物層13に置き換えることにより、電極形成にかかるコストを低減することが可能となる。また、上記の電極として一般に用いられている電極材料Moに比べ、亜鉛(Zn)の地殻存在度は高い。そこで、Moからなる電極の一部若しくはすべてを酸化亜鉛(ZnO)に置き換えて形成した場合は、原料価格を抑えることができる。
【0021】
なお、上記の電極の一部を酸化物層に代替する構造の光学素子は、酸化物層は電極であるMoの一部もしくはすべてを酸化亜鉛(ZnO)以外の他の導電性を有する酸化物(例えば、酸化スズ(SnO
2)、酸化インジウムスズ(ITO)等)で置き換えてもよい。このような構造の光学素子においても、金属膜12が酸化物層中のアルカリ金属の拡散を促進するアルカリ金属拡散促進層としての機能を有することから、アルカリ金属がアルカリ金属含有層11から金属膜12、酸化物層及び電極(又は電極機能を有する酸化物層)を通過してカルコゲン化物系光吸収(発光)層14に十分な量で供給される。
(第2の実施形態)
【0022】
図2は、本発明に係る光学素子の第2の実施形態の概略断面図を示す。同図中、
図1と同一構造部分には同一符号を付してある。ところで、有効光路長を増大するためにカルコゲン化物系光吸収(発光)層の下層(上層でもよい)に直接反射鏡や散乱層(アルミニウム(Al)、銀(Ag)等:ナノ粒子を含む)を形成すると、カルコゲン化物系光吸収(発光)層の形成元素(特にセレン(Se)や硫黄(S))と反射鏡や散乱層材料とが反応して反射鏡や散乱層材料の変質が発生する。そこで、カルコゲン化物系光吸収(発光)層と反射鏡や散乱層との間に透明膜等の酸化物層を挿入して、反射鏡や散乱層の反射・散乱特性を保ちながら、上記の変質を防止することが行われる。
【0023】
しかしながら、この構造の場合は前述したように、透明膜等の酸化物層がアルカリバリアとして働き、アルカリ金属含有層から供給されるアルカリ金属が上記酸化物層を十分に通過することができず、カルコゲン化物系光吸収(発光)層へのアルカリ金属の供給が阻害されてしまう。
【0024】
そこで、本実施形態の光学素子20は、
図2に示すように、カルコゲン化物系光吸収(発光)層14と反射鏡若しくは散乱層(Al、Ag等:ナノ粒子を含む)22との間に透明膜23を挿入した光学素子において、SLG基板等のアルカリ金属含有層11と反射鏡もしくは散乱層(Al、Ag等:ナノ粒子を含む)22との間にMoやW等の金属からなる金属膜21を介在させた構造としている。この光学素子20は、酸化物層が反射鏡若しくは散乱層22と透明膜23との複層構造である。
【0025】
前述した金属膜12と同様に、金属膜21はアルカリ金属拡散促進層としての機能を有し、供給されるアルカリ金属の、反射鏡若しくは散乱層22と透明膜23との複層構造の酸化物層中の拡散を促進する。このため、光学素子20では、
図2に黒丸で模式的に示すアルカリ金属が矢印で示すように、アルカリ金属含有層11から金属膜21、反射鏡若しくは散乱層22、透明膜23を通過してカルコゲン化物系光吸収(発光)層14に十分な量で供給される。
【0026】
従って、光学素子20の製造に際しては、従来から行われているアルカリ金属含有層11からカルコゲン化物系光吸収(発光)層14への自然拡散によるアルカリ金属の供給方法をそのまま用いることができる。そのため、本実施形態の光学素子20によれば、公知のカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法(3段階法、セレン化法等)をそのまま利用できる。また、透明膜23の下方に金属膜21を形成するため、金属膜21がカルコゲン化物系光吸収(発光)層14と透明膜23との境界部分での導電性、透明性を劣化させる影響を与えることはない。
【0027】
なお、光学素子20において、カルコゲン化物系光吸収(発光)層14と透明膜23との間に、オーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する場合もあるが、この構造の場合も、上記と同様の効果が得られる。また、上記の電極の一部又は全部を透明膜23に導電性をもたせて代替することも可能である。
(第3の実施形態)
【0028】
図3は、本発明に係る光学素子の第3の実施形態の概略断面図を示す。同図中、
図1と同一構造部分には同一符号を付してある。ところで、SnO
2、In
2O
3、ZnO等の酸化物層は、化学エッチングや製膜条件の最適化などの形成方法により容易にテクスチャ構造を形成することができることが公知文献(O.Kluth,et al.,“Texture etched ZnO:Al coated glass substrates for silicon based thin film solar cells”,Thin Solid Films 351(1999)247±253)に開示されている。このテクスチャ構造の酸化物層を透明導電膜としてカルコゲン化物系光吸収(発光)層とアルカリ金属含有層との間に挿入することで、カルコゲン化物系光吸収(発光)層中の有効光路長の増大が図れ、その結果カルコゲン化物系光吸収(発光)層の光吸収率(発光率)を向上させることができる。
【0029】
図3に示す光学素子30は、カルコゲン化物系光吸収(発光)層33の直下に、テクスチャ構造を有する酸化物層32を設けてカルコゲン化物系光吸収(発光)層33の光路長を長くした構造において、テクスチャ構造を有する酸化物層32とアルカリ金属含有層11との間にMoやW等の金属からなる金属膜31を介在させた構造としている。酸化物層32はテクスチャ構造を有する3次元構造の酸化物層で、例えば透明導電膜である。
【0030】
前述した金属膜12、21と同様に、金属膜31はアルカリ金属拡散促進層としての機能を有し、アルカリ金属含有層11から供給されるアルカリ金属のテクスチャ構造を有する酸化物層32中の拡散を促進する。このため、光学素子30では、
図3に黒丸で模式的に示すアルカリ金属が矢印で示すように、アルカリ金属含有層11から金属膜31、テクスチャ構造を有する酸化物層32を通過してカルコゲン化物系光吸収(発光)層33に十分な量で供給される。
【0031】
従って、光学素子30では、従来から行われているアルカリ金属含有層11からカルコゲン化物系光吸収(発光)層33への自然拡散によるアルカリ金属の供給方法を用いることができる。そのため、本実施形態の光学素子30によれば、公知のカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法(3段階法、セレン化法等)をそのまま利用できる。また、透明導電膜等の酸化物層32の直下に金属膜31を形成するため、金属膜31がカルコパイライト系光吸収層33と酸化物層32との境界部分での導電性、透明性を劣化させるような影響を与えることはない。
【0032】
なお、光学素子30において、テクスチャ構造を有する酸化物層32とカルコゲン化物系光吸収(発光)層33との間に、オーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する場合もあるが、この構造の場合も、上記と同様の効果が得られる。また、上記の電極の一部又は全部を酸化物層32に導電性を与えて代替することも可能である。
【0033】
また、光学素子30の変形例として、テクスチャ構造を有する酸化物層32とカルコゲン化物系光吸収(発光)層33との間に、テクスチャ表面での反射率を向上させる目的で、透明膜/反射膜(Al,Ag等)からなる反射鏡を形成する構造がある。この構造の場合も、テクスチャ構造を有する酸化物層32とアルカリ金属含有層11との間にMoやW等の金属からなる金属膜31を介在させた構造とすることにより、第3の実施形態と同様の効果が得られる。
【0034】
なお、この変形例においても、透明膜/反射膜(Al,Ag等)からなる反射鏡の上部にオーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する場合もあるが、この構造の場合も、上記と同様の効果が得られる。また、上記の電極の一部又は全部を酸化物層32に導電性を与えて代替することも可能である。
(第4の実施形態)
【0035】
図4は、本発明に係る光学素子の第4の実施形態の概略断面図を示す。同図中、
図1と同一構造部分には同一符号を付してある。ところで、シリコン系太陽電池において、透明導電膜中に金属粒子(Agナノ粒子等)を埋め込んだ構造を作製することにより、光閉じ込め効果により太陽電池の光吸収特性が改善することが非特許文献(Hidenori Mizuno,et al.,“Light Trapping by Ag Nanoparticles Chemically Assembled inside Thin-Film Hydrogenated Microcrystalline Si Solar Celles”,Japanese Journal of Applied Physics 51(2012)042302.)にて報告されている。カルコゲン化物系材料においても、透明導電膜中に金属粒子(Agナノ粒子等)を埋め込んだ構造を作製することにより同様の効果が期待できる。
【0036】
そこで、本実施形態の光学素子40は、
図4に示すように、カルコゲン化物系光吸収(発光)層14の直下に、金属粒子(Ag,Al等)43を導入した散乱鏡構造の酸化物層42を設けて光吸収(発光)特性を改善した光学素子において、SLG基板等のアルカリ金属含有層11と散乱鏡構造の酸化物層42との間にMoやW等の金属からなる金属膜41を介在させた構造としている。散乱鏡構造の酸化物層42は複層構造の酸化物層で、例えば透明導電膜である。
【0037】
前述した金属膜12、21、31と同様に、金属膜41はアルカリ金属拡散促進層としての機能を有し、供給されるアルカリ金属の、散乱鏡構造の酸化物層42中の拡散を促進する。このため、光学素子40では、
図4に黒丸で模式的に示すアルカリ金属が矢印で示すように、アルカリ金属含有層11から金属膜41、散乱鏡構造の酸化物層42を通過してカルコゲン化物系光吸収(発光)層14に十分な量で供給される。
【0038】
従って、光学素子40の製造に際しては、従来から行われているアルカリ金属含有層11からカルコゲン化物系光吸収(発光)層14への自然拡散によるアルカリ金属の供給方法をそのまま用いることができる。そのため、本実施形態の光学素子40によれば、公知のカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法(3段階法、セレン化法等)をそのまま利用できる。また、散乱鏡構造の酸化物層42の下に金属膜41を形成するため、金属膜41がカルコゲン化物系光吸収(発光)層14と散乱鏡構造の酸化物層42との境界部分での導電性、透明性を劣化させるような影響を与えることはない。
【0039】
なお、光学素子40において、散乱鏡構造の酸化物層42とカルコゲン化物系光吸収(発光)層14との間に、オーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する場合もあるが、この構造の場合も、上記と同様の効果が得られる。また、散乱鏡構造の酸化物層42が導電性を有する場合、上記の電極の一部又は全部を導電性を有する散乱鏡構造の酸化物層42で代替することも可能である。
(第5の実施形態)
【0040】
図5は、本発明に係る光学素子の第5の実施形態の概略断面図を示す。同図中、
図1と同一構造部分には同一符号を付してある。
図5に示す光学素子50は、アルカリ金属含有層11の上に金属膜51、酸化物から成る光吸収(発光)層52の順で積層された構造であり、カルコゲン化物系光吸収(発光)層は存在しない。金属膜51はMoやW等の金属材料で形成された薄膜である。また、酸化物から成る光吸収(発光)層52は、単層あるいは複層構造、あるいは3次元構造の酸化物層である。
【0041】
金属膜51は、前述した金属膜12、21、31と同様に、アルカリ金属拡散促進層としての機能を有し、供給されるアルカリ金属の酸化物から成る光吸収(発光)層52中の拡散を促進する。このため、光学素子50では、
図5に黒丸で模式的に示すアルカリ金属が矢印で示すように、アルカリ金属含有層11から金属膜51を通して酸化物から成る光吸収(発光)層52に供給され、酸化物から成る光吸収(発光)層52内で横方向にも拡散される。この光学素子50は、酸化物層そのものが、光吸収(発光)層として用いられる。酸化物から成る光吸収(発光)層52自体の発光(紫外線等)を使用する場合、アルカリ金属ドープによるキャリア寿命の低下により光応答が速くなる可能性がある。この光学素子50では、金属膜51によるアルカリ金属拡散機能により、アルカリ金属含有層11から酸化物から成る光吸収(発光)層52への自然拡散によるアルカリ金属の供給方法を用いることができる。
(第6の実施形態)
【0042】
図6は、本発明に係る光学素子の第6の実施形態の概略断面図を示す。同図中、
図1と同一構造部分には同一符号を付してある。以上の第1〜第5の実施形態の光学素子では、アルカリ金属含有層11の上に金属膜12、21、41、あるいは51を製膜していたが、
図6に示す本実施形態の光学素子55は、金属膜がアルカリ金属含有層を兼ねる金属膜兼用基板56を用いる点に特徴がある。
【0043】
具体的には、金属膜兼用基板56は、アルカリ金属を含有した金属基板、または基体の基板上にアルカリ金属を含有した金属層を形成した構造の基板で、例えばMo、W、Al、Ag、ステンレス、あるいは鋼板からなる。上記のアルカリ金属含有金属基板や、アルカリ金属を含有した金属層は、前述した金属膜12,21,41,51と同様に、アルカリ金属拡散促進層として働くと同時に、アルカリ金属供給層としても働く。このため、光学素子55では、
図6に黒丸で模式的に示すアルカリ金属が矢印で示すように、金属膜兼用基板56から酸化物層13を通過してカルコゲン化物系光吸収(発光)層14に十分な量で供給される。
【0044】
従って、光学素子55の製造に際しては、従来から行われているアルカリ金属含有層からカルコゲン化物系光吸収(発光)層14への自然拡散によるアルカリ金属の供給方法をそのまま用いることができる。そのため、本実施形態の光学素子55によれば、公知のカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法(3段階法、セレン化法等)をそのまま利用できる。また、散乱鏡構造の酸化物層13の下に金属膜兼用基板56を形成するため、金属膜兼用基板56がカルコゲン化物系光吸収(発光)層14と酸化物層13との境界部分での導電性、透明性を劣化させるような影響を与えることはない。
【0045】
なお、光学素子55においても、酸化物層13とカルコゲン化物系光吸収(発光)層14との間に、オーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する場合もあるが、この構造の場合も、上記と同様の効果が得られる。また、酸化物層13が導電性を有する場合、上記の電極の一部又は全部を導電性を有する酸化物層13で代替することも可能である。
【0046】
次に、本発明に係る光学素子の製造方法の一実施形態について説明する。
図7は、本発明に係る光学素子の製造方法の一実施形態の各工程における素子断面図を示す。本実施形態では、まず、
図7(A)に示すように、基板61上に金属膜62を製膜する。ここで、基板61は、アルカリ金属含有基板(ソーダライムガラス等)そのものか、あるいは基体の基板上にアルカリ金属含有膜(アルカリ金属化合物(NaF、KF等)、ケイ酸塩ガラス薄膜等)を形成した構造の基板である。基板61は、前述したアルカリ金属含有層11に相当する。金属膜62はMoやW等の金属材料で形成された薄膜であり、前述した金属膜12等に相当する。基板61にはポリイミド箔や、金属箔のようにフレキシブル製を有するフィルムである場合も含む。なお、前述した金属膜兼用基板56を用いる場合は、金属膜62の製膜は不要である。
【0047】
基板61上に金属膜62を製膜する方法としては、スパッタ法、特開2008−255389号公報に開示されているミラートロン法、反応性プラズマ蒸着(RPD)法、蒸着法、電子ビーム(EB)蒸着法、イオンプレーティング法、めっき法、レーザーアブレーション法、水溶液析出法などがある。なお、金属膜62の透明度を高めるために、酸化、セレン化、硫化処理を金属膜62に対して行う場合もある。
【0048】
続いて、
図7(B)に示すように、金属膜62上に酸化物層63を製膜する。酸化物層63は、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミナ(Al
2O
3)、酸化スズ(SnO
2)等の、単層あるいは複層構造、あるいは3次元構造である。複層構造の例としては、金属膜/透明導電膜の構造、あるいは透明導電膜中に金属粒子を埋め込んだ構造などがある。3次元構造の例としてはテクスチャ構造がある。金属膜62上に酸化物層63を製膜する方法としては、スパッタ法、ミラートロン法、反応性プラズマ蒸着(RPD)法、ゾルゲル法、化学気相成長法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、水溶液析出法などがある。なお、酸化物層63は一部に金属等の非酸化膜を含んでいてもよい。
【0049】
最後に、
図7(C)に示すように、酸化物層63の表面にカルコゲン化物系光吸収(発光)層64を製膜して光学素子の製造が完成する。アルカリ金属の添加を必要とする光吸収(発光)層であるカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法としては、多元蒸着法(3段階法等)、セレン化法、硫化法、原子層堆積(ALD)法、湿式製膜法、分子線エピタキシー法、気相成長法(CVD、MOCVD法等)、真空蒸着法、スピンコート法、塗布法などがある。製造された光学素子は前述した光学素子10に相当する。
【0050】
本実施形態の光学素子の製造方法では、アルカリ金属拡散層としての機能を有する金属膜62を基板61と酸化物層63との間に形成しているため、基板61からカルコゲン化物系光吸収(発光)層64へのアルカリ金属の供給方法として、従来の自然拡散によるアルカリ金属の供給方法をそのまま用いることができるため、公知のカルコゲン化物系光吸収(発光)層の製膜方法(3段階法、セレン化法等)をそのまま利用できる。
なお、酸化物形成工程により形成された酸化物層63の上にオーミック特性改善のために薄い金属層(電極)を形成する工程を挟み、その後に金属層(電極)の上にカルコゲン化物系光吸収(発光)層64を製膜するようにしてもよい。
【実施例1】
【0051】
次に、本発明の光学素子の実施例1と、その検証実験の結果について説明する。
図8(a)は、本発明に係る光学素子の実施例1の断面図、同図(b)は、一般的な透明導電膜利用CIGS太陽電池の一例の断面図を示す。
図8(a)、(b)中、同一構造部分には同一符号を付してある。
図8(a)の断面図に示す本発明に係る光学素子の実施例1は、CIGS太陽電池100で、アルカリ金属含有基板であるソーダライムガラス(SLG)基板101上に、Moからなる金属膜102を形成し、更に金属膜102の上に透明導電膜(ZnO:Ga)103、Moからなる裏面電極(正極)104、カルコパイライト[Cu(In,Ga)Se
2(=CIGS)]からなる光吸収層(CIGS層)105、硫化カドミウム(CdS)からなるバッファ層106、i−ZnO層(半絶縁層)107、透明導電膜(ZnO:Al)108、Alからなる表面電極(負極)109が順次積層された構造である。
【0052】
SLG基板101は前述した光学素子の実施形態におけるアルカリ金属含有層11に相当する。金属膜102は前述した光学素子の実施形態におけるアルカリ金属拡散促進層としての機能を有する金属膜12に相当する。また、透明導電膜(ZnO:Ga)103は前述した光学素子の実施形態における酸化物層13に相当する。更に、CIGS層105は前述した実施形態におけるカルコゲン化物系光吸収(発光)層14の一例であり、カルコパイライト系材料からなる光吸収層である。更に、前述した
図1等の光学素子の実施形態では図示を省略したが、本実施例では、オーミック特性改善のための電極104が透明導電膜(ZnO:Ga)103とCIGS層105との間に形成されている。
【0053】
SLG基板101上に、Moからなる金属膜102と透明導電膜(ZnO:Ga)103と裏面電極104とが、それぞれ高周波マグネトロンスパッタリングおよび反応性プラズマ堆積法により積層されている。CIGS層105は、裏面電極104上に例えば3段階法により堆積されている。3段階法自体は公知であり、また本発明の要旨ではないので、その詳細な説明は省略するが、インジウム(In)、ガリウム(Ga)及びセレン(Se)を同時蒸着する第1段階と、続いて銅(Cu)及びSeを同時蒸着する第2段階と、最後にIn、Ga及びSeを同時蒸着する第3段階を経る蒸着方法である。また、バッファ層106、i−ZnO層107、透明導電膜108は、それぞれ化学浴析出法及び高周波マグネトロンスパッタリングにより形成されている。更に、表面電極109は、真空蒸着法により透明導電膜108上に形成されている。
【0054】
ここで、一例として、SLG基板101は0.7mmの厚さであり、金属膜102の膜厚は0.07μm、透明導電膜(ZnO:Ga)103の膜厚は0.4〜0.7μm、Moからなる裏面電極104の厚さは0.03μm、カルコパイライト系光吸収層(CIGS層)105の厚さは1.8μmである。また、バッファ層106は0.06μm、i−ZnO層107は0.07μm、透明導電膜108は0.5μmの厚さである。また、各セルの有効面積は0.48cm
2とした。
【0055】
図8(b)に示す断面構造のCIGS太陽電池150は、カルコパイライト(CIGS)を光吸収層として用いる、高い変換効率が得られる薄膜太陽電池として一般的に知られている代表的な太陽電池である。本実施例のCIGS太陽電池100は、
図8(b)に示す一般的なCIGS太陽電池150と比較すると、SLG基板101と透明導電膜103との間に、Mo膜である金属膜102が挿入された構造である点に特徴がある。なお、光は、表面電極109の上方から入射する。
【0056】
次に、本実施例のCIGS太陽電池100におけるCIGS層105へのアルカリ金属(Na)の拡散の程度について、一般的なCIGS太陽電池150などと比較した検証実験結果について説明する。
【0057】
図9〜
図11は、二次イオン質量分析法(SIMS)によるCIGS層中のNa濃度分布を示す。
図9〜
図11中、横軸はCIGS層105からSLG基板101方向に進むほど大となる値の深さ(Depth)を示し、縦軸はNa濃度を示す。CIGS層105は
図9〜
図11において約0.8μm〜約2.0μmの範囲内に形成されている。なお、
図9〜
図11において「GZO」は透明導電膜(ZnO:Ga)を示す(後述の
図12、
図13も同様)。
【0058】
図8(b)に示した一般的な透明導電膜利用CIGS太陽電池150の分布特性は、
図10に示されるのに対し、
図8(a)に示した本実施例の太陽電池100の分布特性は
図11に示す如くになった。一般的な透明導電膜利用CIGS太陽電池150の場合は、
図10に示すようにSLG基板101からCIGS層105へのNa拡散層は非常に少なく、拡散が透明導電膜103で阻害されていることが確認された。
【0059】
これに対し、本実施例の太陽電池100では、
図11に示すように、SLG基板101からCIGS層105へのNa拡散量が多く、金属膜102によりアルカリ金属(Na)の透明導電膜103での拡散が大きく促進されることが確認された。本実施例の太陽電池100におけるこのCIGS層中のNa拡散量は、SLG上に透明導電膜を設けずに直接、Moによる裏面電極、CIGS層の順で積層した一般的な構造の場合に得られる
図9に示されるNa濃度分布特性と同程度であり、非常に多い。
【0060】
図12は、電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)により評価したCIGS層中のNa濃度分布を示す。
図12の電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)によって(加速電圧5kV)評価されたNa濃度分布において、
図8(b)に示した「Mo/GZO/SLG」や「GZO/SLG」のようにSLG基板と透明導電膜GZOとの間に金属膜を設けない構造では、CIGS層中にNaは観察されなかった。これに対し、
図12に「GZO/Mo/SLG」、及び
図8(a)に示した「Mo/GZO/Mo/SLG」のようにSLG基板と透明導電膜GZOとの間にMoからなる金属膜を挿入した構造では、CIGS層中にNa濃度が存在することが観察された。この結果、金属膜102によりSLG基板からのアルカリ金属(Na)の透明導電膜103での拡散が大きく促進されたことが確認された。なお、
図12において、黒丸が複数個あるのは、複数回の評価を行い、各評価時に得られたNa濃度であることを示している。
【0061】
図9〜
図12により、本実施例の太陽電池100では、Moによる金属膜102がSLG基板101に含有するアルカリ金属(Na)の透明導電膜103での拡散が促進する作用があることが示された。Na拡散のメカニズムとしては、(1)アルカリ金属(Na)と金属膜102のMoとが、Na
2MoO
4等の化合物を形成し、化合物の形態でスムーズに上部層のCIGS層へ拡散している可能性、もしくは(2)上部の透明導電膜103の膜質が変化して透明導電膜103中の拡散を促進していることが考えられる。
【0062】
次に、本実施例の太陽電池の電気特性及び効率を一般的な太陽電池の電気特性及び効率と対比して説明する。
図13は、本実施例の太陽電池の電流-電圧特性を、一般的な太陽電池の電流-電圧特性と対比して示す。
図13の電流-電圧特性は、横軸が光照射時の太陽電池の電圧、縦軸が光照射時の太陽電池の電流を有効面積で除算した電流密度を示す。金属膜102を有しない一般的な透明導電膜利用CIGS太陽電池150の場合は、
図13に点線Iで示すようにCIGS層のアルカリ金属供給量不足のときに見られる典型的な特性劣化(特に開放電圧の低下)が確認された。
【0063】
一方、SLG基板上に透明導電膜を設けずに直接、裏面電極、CIGS層の順で積層した一般的な構造の太陽電池の電流-電圧特性は、CIGS層のアルカリ金属供給量が十分であり、
図13に実線IIIで示されるように、開放電圧が上記の特性Iに比べて大きく改善される。また、本実施例の太陽電池100は、
図13に破線IIで示すように、上記の一般的な構造の太陽電池の電流-電圧特性IIIに比べて遜色のない特性が得られた。
【0064】
ここで、上記のSLG基板上に透明導電膜を設けずに直接、裏面電極、CIGS層の順で積層した一般的な構造の太陽電池(1)と、本発明利用構造の本実施例の太陽電池100(2)と、一般的な透明導電膜利用構造の太陽電池(3)のそれぞれについて、変換効率と、端子を開放した時の出力電圧である開放電圧と、短絡した時の電流である短絡電流を有効面積で除算した短絡電流密度と、開放電圧と短絡電流との積を最大電圧Vmaxと最大電流Imaxとの積で除算したパラメータである曲線因子とを、まとめると表1のようになった。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から分かるように、本実施例の太陽電池の特性(特に変換効率)は、SLG基板とCIGS層との間に透明導電膜を有しない一般的な構造の太陽電池の特性にほぼ匹敵し、一般的な透明導電膜利用構造の太陽電池に比べて特性が大幅に改善されていることが確認された。
【0067】
なお、以上の実施形態及び実施例において、単層若しくは複層構造若しくは3次元構造の酸化物層13等は、一部に金属等の非酸化物を含んでいてもよい。また、第2〜第5実施形態の光学素子20,30,40,50におけるアルカリ金属含有層11と金属膜21,31,41,51とからなる構造部分を、第6の実施形態の金属膜兼用基板56と同様の金属膜兼用基板に置き換えてもよい。