(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から10の何れかにおいて、RFIDタグパッケージのサイズが、縦4mm以下×横4mm以下×高さ1.0mm以下、又は縦2.5mm以下×横2.5mm以下×高さ1.0mm以下であるRFIDタグ。
【背景技術】
【0002】
製品の情報や識別、管理、偽造防止の目的で、商品、包装、カード、書類等にはICチップを搭載した非接触式RFIDタグ(以下、単に「RFIDタグ」という。)が多数利用されている。ICチップには商品の名称、価格等の情報が書き込まれており、管理、販売、使用する際には、リーダやリーダライタ(以下、リーダとリーダライタを合わせて「リーダ等」ということがある。)によって、これらのICチップの情報を無線で読み取り、利用できる。製造日や製造所、残金等の情報を、後でリーダライタによって書き込むことができるものもある。このようにしてRFIDタグは商品管理の利便性向上や安全性の向上、また人為的ミスをなくす等大きなメリットをもたらしている。
【0003】
RFIDタグは、商品に取り付けたりカードに内蔵したりするという性格上、小型薄型化の要求も強い。特に、従来はロット番号を刻印・記入して管理したりあるいは管理そのものができていなかったものへの利用として近年着目されている。具体的には眼鏡や時計あるいは医療用サンプルや半導体等(以下、このような複雑な形状を有したり、又は平面視におけるサイズが縦5cm×横5cm程度以下の小さい物品を「小型多品種品」という。以下、同様。)の管理であり、商品(サンプル)の製造所、作業者、製造日、使用材料、寸法、特性、在庫数管理等に役立ち、管理作業者の手間を減らしてかつミスを防ぐことができる。これらのような利便性のある管理システム実現のためには、RFIDタグの小型化・薄型化が必要不可欠となる。
【0004】
比較的小型で薄型のRFIDタグとしては、
図1に示すように、フィルム基材1上にアンテナ20を形成し、ICチップ30を搭載したRFIDタグ85が開示されている(特許文献1、2)。また、より小型のRFIDとして、基板上にアンテナパターンとICチップを取り付けた後、封止してパッケージ化したもの(特許文献3)や、より薄く平坦にするために、基板を設けずに、独立したアンテナパターン上にICチップを取付けた後、封止してパッケージ化したもの(特許文献4)が開示されている。さらに、
図2に示すように、ICチップサイズまで小型化したRFIDタグ85として、ICチップ30上に直接アンテナ20を形成して封止したもの(オンチップアンテナ)が開示されている(特許文献5、6)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1、2のRFIDタグは、比較的小型で薄型であり、汎用のリーダ等でも200mm以上の通信距離を有する。しかし、フィルム基材に設けるアンテナとして、縦又は横が、数cm程度の大きさが必要なため、RFIDタグを取付ける対象が、上述した小型多品種品である場合には対応できず、対象となる製品や取付けについての制約が大きい。
【0007】
引用文献3、4のRFIDタグは、数mm角(縦2〜3mm×横2〜3mmを表す。以下、同様。)程度と小型であり、小型多品種品にも対応できる。しかし、引用文献3のRFIDタグは、アンテナを多層に設けるため、アンテナを設ける基材も多層構造が必要となり、コストがかかる上、全体の厚みも増す問題がある。引用文献4のRFIDタグは、基材で支持されない単体のアンテナを、多数個繋げたリードフレーム状の部材を用いるので、封止後に個々のパッケージに切断すると、アンテナの切断面がパッケージの外部に露出し、環境劣化等による通信特性や信頼性への影響が懸念される。しかも、引用文献3、4のような、数mm角程度サイズのRFIDタグは、一般に、通信距離が1〜2mm以下程度であり、実用的には十分とは言えない。リーダ等の側で対応することで、通信距離を伸ばすことは可能であるが、専用のリーダ等が必要になり、汎用のリーダ等が使えないため、使い勝手が悪い問題がある。
【0008】
引用文献5、6のRFIDは、サイズはICチップと同等(数100μm角程度)であり、小型多品種品に十分対応できる。しかし、通信距離が1mm以下又は接触レベルと短く、実際に使用する現場においては、作業の効率や自由度が低い問題がある。一方、通信距離を長くしようとすると、ICチップ自体のサイズを拡大する必要があるため、コスト高になる問題があった。
【0009】
サイズが10mm角程度以下(縦10mm程度×横10mm程度を表す。以下、同様。)で、かつ通信距離が、8mm程度以上であるようなRFIDタグであれば、小型多品種品を始めとして、適用範囲は大幅に拡大し、また汎用のリーダ等でも対応可能であるため、産業上利用価値が非常に高い。しかしながら、上述したように、サイズが数mm角オーダー以下のRFIDは、通信距離が短く、実用上は、使い勝手の悪いものであった。
【0010】
また、RFIDタグには耐久性への要求も強まっている。適用製品が、半導体パッケージ等の電子部品や射出成形品等の場合、リフローや成形時の加熱、あるいは使用時の発熱に晒されるため、250〜300℃で数秒程度の耐熱性を要するが、このような耐熱性は考慮されていない場合がほとんどである。また、RFIDタグはICチップとアンテナをはんだ付け等で機械的に接続する必要があり、そのため使用中に外力によって接続が外れてしまうことがあった。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、小型のRFIDタグ単体に比べて長い通信距離を実現し、しかもアンテナの設置にはんだ付け等の機械的接続が不要なため、設置が容易で信頼性に優れており、用いる導体は金属線等を用いることができるため、設置場所や設置形状の自由度が高いRFIDタグ及び自動認識システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下のものに関する。
1. ICチップと、このICチップと
ワイヤボンディングにより接続されて電気的閉回路を形成するアンテナと、前記ICチップ及びアンテナを封止する封止材とを有し、
それぞれの辺の長さ
の全てが前記ICチップの動作波長に比べて1/50以下である略直方体のRFIDタグパッケージと、このRFIDタグパッケージの周辺に、前記ICチップ及び前記アンテナと電気的に独立な導体を配置したRFIDタグであって、前記RFIDタグパッケージの前記アンテナが、略平面上に形成され、略四角形に周回するコイルアンテナであり、前記コイルアンテナの最も外側の終端部を含む1辺と前記導体との最短距離が、1mm以下であり、前記コイルアンテナの最も外側の終端部を含む1辺の延伸方向と前記導体の延伸方向とが、略平行であり、前記導体の端部付近に前記RFIDタグパッケージが配置されているRFIDタグ。
2. 項1において、導体が金属線、導電性の印刷物又は導電性の糸であるRFIDタグ。
3. 項1又は2において、導体が銅、アルミニウム、鉄又はニッケルを主成分とするRFIDタグ。
4. 項1から3の何れかにおいて、RFIDタグパッケージと導体との最短距離が、0.8mm以下であるRFIDタグ。
5. 項1から4の何れかにおいて、導体の表面が絶縁材料で覆われているRFIDタグ。
6. 項5において、RFIDタグパッケージと導体が、前記絶縁材料を介して配置されるRFIDタグ。
7. 項1から6の何れかにおいて、ICチップの動作周波数が、13.56MHz〜2.45GHzの間であるRFIDタグ。
8. 項7において、ICチップの動作周波数が、0.86〜0.96GHzの間であるRFIDタグ。
9. 項1から8の何れかにおいて、導体の長さが、ICチップの動作波長以下かつICチップの動作波長の1/8以上であるRFIDタグ。
10. 項1から9の何れかにおいて、導体の長さが、130mm以上かつ150mm以下であるRFIDタグ。
11. 項1から10の何れかにおいて、RFIDタグパッケージのサイズが、縦4mm以下×横4mm以下×高さ1.0mm以下、又は縦2.5mm以下×横2.5mm以下×高さ1.0mm以下であるRFIDタグ。
12. 項11において、RFIDタグパッケージのサイズが、縦2.5mm以下×横2.5mm以下×高さ0.3mm以下であるRFIDタグ。
13. 項1から12の何れかのRFIDタグと、リーダー又はリーダライタとを有する自動認識システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小型のRFIDタグ単体に比べて長い通信距離を実現し、しかもアンテナの設置にはんだ付け等の機械的接続が不要なため、設置が容易で信頼性に優れており、用いる導体は金属線等を用いることができるため、設置場所や設置形状の自由度が高いRFIDタグ及び自動認識システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いるRFIDタグパッケージとは、ICチップとアンテナをワイヤボンディング等で接続し、それらを封止材で封止したものをいう。アンテナやICチップを支持するための基材を有していてもよい。基材としては、樹脂製のものを使用するのがコストや加工性の面から望ましい。樹脂製の基材としては、表面が略平面であって、リフローや成形時の加熱、あるいは使用時の発熱に晒される時に必要な、250〜300℃で数秒程度の耐熱性と機械的強度を有し、熱膨張係数が小さい材料が好適であり、このようなものとして、ガラスエポキシ、フェノール、ポリイミド等が利用できる。また、表面が略平面であるとは、アンテナを形成するのに用いられる、一般的な金属箔付き基材(リジッド基材及びフレキシブル基材を含む。)の有する平面度をいう。アンテナを低コストでばらつきなく形成するためには、基材の片面に金属箔が貼り合わされた金属箔付き基材を用いて、エッチングによりアンテナを形成することが効果的である。さらにRFIDタグパッケージの薄型化のためには10〜50μm程度の薄い基材を用いることが有効である。前記条件を満たす基材として、ポリイミド基材の片面に銅箔が貼り合わされた銅箔付きポリイミド基材(例えば日立化成工業株式会社製 製品名:MCF−5000I、ポリイミド厚み25μm、銅箔厚み18μm)が利用できる。なお、比誘電率は、紙フェノールが4.6〜7.0程度、ガラスエポキシが4.4〜5.2程度、ポリイミドが3.5程度であり、これらの基材は全て利用できるが、比誘電率が高ければ、インダクタンスが増加するため、アンテナを小型化できる。なお、比誘電率は、紙フェノールやガラスエポキシより小さいが、基材が薄く形成可能で、耐熱性があり、物理的強度が強く、アンテナの形成性も良好な点で、銅箔付きポリイミド基材を用いるのが望ましい。
【0016】
アンテナとは、RFIDのリーダ等と電磁結合して電力を受け取り、ICチップに伝えて、ICチップを動作させる導体パターンをいう。アンテナは単層でもよく、その場合は、多層化する必要がないので、基材の片面に銅箔を貼り合せた、銅箔付きポリイミド基材の銅箔を用いて形成すると、低コストでばらつきなく形成することができる点で望ましい。
【0017】
図3に示すように、樹脂製の基材1上の中央部にICチップ30を配置し、このICチップ30の外周部の基材1の片面にアンテナ20を配置する。アンテナ20は、表面が略平面である基材1の外周部の長さのとれる領域に配置されるので、アンテナ形状の自由度が拡大し、アンテナ20のインダクタンスLとICチップ30の静電容量Cとを含めて形成される電気回路(以下、「LC共振回路」ということがある。ここで、Lはインダクタンス、Cは静電容量を示す。)の共振周波数の調整が容易となる。また、アンテナ20は、ICチップ30の外周部に設けられるので、コイルアンテナの場合、コイルの直径が大きくなり、インダクタンスが増加して、通信距離の確保と小型化に有利となる。略四角形に周回するコイルアンテナであると、一般に樹脂製の基材1は略四角形であるため、基材1の形状に合わせて表面をより広く利用してコイルアンテナを配置でき、コイルの開口や巻き数を大きくできる点で望ましい。なお、略四角形に周回するとは、略四角形のコイルアンテナが重畳することなく、内側から外側になるにつれて大きくなるように周回する形状であることをいう。略四角形とは、設計上の理由等で、コイルアンテナの角部や辺に丸みを設けたりする場合を含む意味である。また、アンテナ20は、ICチップ30と接続されて電気的閉回路を形成し、開放端を有しないようにする。ここで、電気的閉回路を形成し、開放端を形成しないとは、アンテナ20が長さ方向に端部を2箇所有しており、この端部2箇所とICチップ30の2つの電極(図示しない。)とがそれぞれ接続されていることを意味する。また、アンテナ端部とは、アンテナ20の長さ方向の端から1mm以内の領域をいう。ICチップ30と接続されて電気的閉回路を形成し、開放端を有しないアンテナの具体例としては、
図3のコイルアンテナ20が挙げられ、これにより、RFIDタグパッケージ80のサイズが小型でも、LC共振回路としてアンテナ20を容易に設計でき、かつ小面積で効率的にインダクタンスを得ることができるため、通信距離を確保するのが有利となる。
【0018】
アンテナの形状を、
図3に示す。アンテナ20の形状は、アンテナ20のインダクタンスとICチップ30の静電容量とを含めて形成される電気回路(LC共振回路)の共振周波数が、ICチップ30の動作周波数又はその付近となるように設計する。アンテナ20の形状としては、コイルアンテナ等が利用できる。ICチップ30と接続されて電気的閉回路を形成するコイルアンテナは、電気回路をLC共振回路として容易に設計することができ、かつ小面積で効率的にインダクタンスを得ることができるため、小型化することが可能となる点で望ましい。アンテナ20の設計手法については後述する。また、コイルアンテナの場合、巻線コイルを接着剤等で搭載することも可能だが、巻線コイルよりもエッチングで作製するコイルのほうがインダクタンス等の性能が安定しており、また、導線幅/導線間距離が、0.2mm/0.2mm〜0.05mm/0.05mm程度の微細な配線を形成することができるため小型化に有利であり、量産性にも優れているため、エッチング製法のほうが産業上有効である。
【0019】
また、
図3には、ICチップ30及びワイヤボンディングしたワイヤ40も図示している。銅箔付きポリイミドの銅箔をエッチングしてアンテナ20を形成するとき、ICチップ30を搭載する部分の銅箔も残しておき、ダイパッド(図示しない。)を形成しておくことで、ICチップ30のワイヤボンディング等の接続の際に剛性を保ち歩留まりが向上する。ICチップ30を搭載する部分の銅箔の上にダイボンドフィルム(図示しない。)を配置し、その上にICチップ30を固定する。ICチップ30は読み取り専用のものでもよいが、情報を書き込めるものの方が、作業履歴等を随時書き込めるため好適である。その後、ワイヤボンディングによってICチップ30とアンテナ20を直接接続する。
図3のコイルアンテナ20では、2箇所のアンテナ端部が、アンテナ20を間に挟んで位置するが、この間に位置するアンテナ20を、ワイヤボンディングのワイヤ40で跨いで、アンテナ端部とICチップ30とを直接接続することによって、ジャンパー線を設けたり、多層化してスルーホールを介して接続する必要がないため、低コスト化を図ることができる。
【0020】
アンテナは配線場所を調整することでフリップチップ接続により、アンテナとICチップとを直接接続することが可能になる場合がある。両面銅箔基材等を用いて多層配線すれば必ずフリップチップ接続ができるが、量産性減少、コスト上昇及び配線が封止後に表面に露出してしまう等の理由から片面銅箔基材を用いることが望ましい。両面銅箔基材等を用いて多層配線することで、コイルの直径を小さくすることができるため、RFIDタグパッケージの縦および横の寸法を減らし、小型化を実現できる。但し、この場合は、高さの寸法が若干増加する。また、デメリットとしては量産性減少、コスト上昇及び配線が封止後に表面に露出してしまう等があるため、やはり片面銅箔基材を用いて、単層のコイルアンテナを形成することが望ましい。
【0021】
図4は、封止材10によって封止された後、ダイシング加工によって、略直方体に形成されたRFIDタグパッケージ80を示す断面図である。基材1上にてダイパッド90上に搭載されたICチップ30、アンテナ20、ワイヤ40を、封止材10を用いて被覆し、一括して封止することで、それらを保護する。基材1として薄いものを用い、アンテナ20を表面が略平面である基材1の片面のみに単層で設けているので、封止後の厚みは、例えば0.2〜1.0mm程度にすることができる。封止後、ICチップ30やアンテナ20やワイヤ40等の金属配線部分は全て封入されるため、封止材10の外部からは、まったく触れられない構造となり、環境劣化の観点からも偽造防止の観点からも安全性・信頼性が向上する。
【0022】
封止材としては、通常半導体で使用されている封止材を使用することができ、比誘電率は2.6〜4.5程度である。RDIDタグパッケージ自体の性能を高めるためには、封止材の比誘電率は低いほうが好ましいが、比誘電率が高ければインダクタンスが増加するためアンテナを小型化することができる。
【0023】
このようにして作製されたRFIDタグパッケージは、基材が耐熱性180℃以上、封止材が耐熱性150℃以上であり、ワイヤボンディングを使用しているため、従来のPET(Polyetylene Terephthalate)等にアンテナを形成しているRFIDタグに比べて耐熱性が高く、高温でも正常に動作する。このため、適用製品が、半導体パッケージ等の電子部品や射出成形品等の場合、リフローや成形時の加熱、あるいは使用時の発熱に晒されるので、250〜300℃で数秒程度の耐熱性を要するが、このような用途にも対応可能である。
【0024】
以下、アンテナの設計手法について説明する。
アンテナの設計は、アンテナ線の形状、線の太さ、線の長さ、等によって決まる共振周波数を指標とする。この共振周波数を、使用するICチップの動作周波数に近づけることによって、リーダライタからの電力をアンテナが受け取り、ICチップに伝えて、ICチップが動作する。
【0025】
共振周波数をアンテナの図面から解析的に導出することは一般的に難しい。実際にはアンテナを試作して実験的に測定する方法が採られることが多い。しかし、本発明のRFIDタグは小型なので、アンテナの試作を手作業で正確に行うことは不可能であり、一方でエッチングマスク作製からエッチングまで行ってアンテナを作製するのは時間もコストもかかってしまう。このため、本発明では、電磁界シミュレータ(アンシス・ジャパン株式会社製シミュレータソフト 製品名:HFSS)を用いてアンテナ設計を行なうが、これにより、時間およびコストを削減することができる。電磁界シミュレータに、アンテナの形状、材質、およびICチップの静電容量等を入力することにより、シミュレーション結果から共振周波数を得る。そして、電磁界シミュレータにより求められる、アンテナのインダクタンスLとICチップの静電容量Cとを含めて形成される電気回路の共振周波数f
0が、ICチップの動作周波数又はその付近であるように、アンテナを設計する。なお、この場合の共振周波数とは、アンテナの両端にICチップを接続した場合の電気的閉回路のインピーダンスの虚数部がゼロとなる周波数のことである。
【0026】
設計の原理を理解しやすいのはコイルアンテナの両端にICチップを接続した場合の電気的閉回路を考えることであり、単純なLC共振回路と見立てることができる。
図3のコイルアンテナ20の電気的等価回路を、
図5に示す。この場合の共振周波数f
0は、コイルアンテナ20の等価回路であるコイル50のインダクタンスL、ICチップ30の等価回路であるコンデンサ60の静電容量Cを用いて、次式で表される。
【0027】
【数1】
Cは使用するICチップ30の選定によって変えられ、Lはコイルアンテナ20の形状(特にコイルアンテナ20の直径と巻数)によって調整することができ、その結果、目的の共振周波数f
0を実現することができる。特にLの調整は有効で、コイルアンテナ20の直径を大きくしたり、巻数を増やすことでLが増加し、その結果f
0は減少する。
【0028】
RFIDタグパッケージ(ICチップ)の共振周波数(動作周波数)は、電波法上特に商業的に利用価値が高い13.56MHz〜2.45GHzの範囲とすることが好ましい。UHF帯(Ultra High Frequency Band)の動作周波数0.86〜0.96GHz付近のRFIDの場合、電波の波長は30cm程度であるが、一方で、UHF帯用のICチップの大きさは、通常0.6mm角以下であるため、オンチップアンテナ方式では、ICチップが正常に動作するようなアンテナを、ICチップ上に形成することは困難である。また、数mm角程度サイズのRFIDタグにおいても、従来の設計手法を用いたアンテナでは、1mm程度の通信距離しか得られなかった。しかし、上記の電磁界シミュレータを用いた設計手法による本発明のRFIDタグパッケージによれば、従来の数cm角のアンテナを用いずとも、数mm角のアンテナでも、RFIDタグパッケージが動作するための通信距離を大幅に拡大できるという優れた特長がある。具体的には、略直方体に形成されたRFIDタグパッケージであって、全ての辺の長さが、UHF帯の波長30cmに対してその1/50以下である、縦4mm×横4mm×高さ1.0mm、又は縦2.5mm×横2.5mm×高さ1.0mmの大きさのRFIDタグパッケージにおいて、内部にアンテナが形成されており、通信距離は6mm以上である。
【0029】
RFIDタグパッケージは、半導体装置内等に埋め込んで使用することができる。また、両面テープ等でラベルのように商品やサンプルに貼り付けて管理等に利用することができ、商品を販売する際等に容易に取り外すことも可能である。さらに、本発明のRFIDタグと、リーダ等とを組み合わせることにより、眼鏡や時計あるいは医療用サンプルや半導体等のような小型多品種品であっても、通信距離が長く、作業性のよい自動認識システムを構成することができる。この場合、本発明のRFIDタグパッケージであれば、通信距離が長いので、汎用のリーダ等と組み合わせて自動認識システムを構成することも可能である。
【0030】
図6に、参考例1のRFIDタグ85を示す。RFIDタグパッケージ80の外部周辺には、RFIDタグパッケージ80のアンテナ20(略四角形のコイルアンテナ20)やICチップ30とは電気的に独立な、つまり電気的に接続されていない導体100を配置している。なお、導体100としては、金属の塊、金属の板、金属線(断面が円、楕円、正方形、長方形等のもの)、導電性のインクを用いて印刷した導電性の印刷物、導電性の糸(金属を含有した糸や、細い金属線を通常の糸に織り込んだものを含む)等が含まれるが、小型・軽量・デザイン性という観点から、金属線又は導電性の線状の印刷物又は金属を含有する糸(以下、これらを代表して「金属線」という。)が良好であるため、これ以降、導体100として、金属線を取り上げて説明する。
図6では、金属線100が外部アンテナとなり、リーダ(図示せず)からの信号を効率よくRFIDタグパッケージ80に伝え、結果的に通信距離が向上する。
【0031】
銅又はアルミニウム又は鉄又はニッケルのいずれかを主成分とする金属線を用いる場合は、安価で透磁率が高く、良好な外部アンテナとして働くため好適である。また、金属線は、金属線自身又は外部の金属と接触することで、外部アンテナとしての性能が減少するため、金属線の外部(表面)が、絶縁材料で被覆してある金属線を用いることも有効である。
【0032】
リーダからの信号を受けることで、金属線には電流が流れる。その電流によって、金属線周辺には磁束が発生する。発生した磁束は、RFIDタグパッケージのコイルアンテナに電流を発生させ、それによりICチップには電圧が印加されて動作する。この原理が活用できるのは、RFIDタグパッケージのアンテナがコイル状のためである。
【0033】
そのため、RFIDタグパッケージのコイルアンテナが一つの平面上に形成されており、この平面と略同一の平面上に金属線を配置すると、金属線で発生した磁束が多くコイルアンテナに伝わるため、効率が良く、通信距離が長くなる。
図7の参考例2のように、平面視において、略四角形のコイルアンテナ20と金属線100が大きく重なるような配置は、金属線100で発生した磁束が、コイルアンテナ20に伝わる効率が悪くなるため通信距離はあまり長くならず、望ましくない。
【0034】
RFIDタグパッケージのコイルアンテナが一つの平面上に形成されており、この平面と略同一の平面上でかつコイルアンテナと重ならない様に金属線を配置した場合は、RFIDタグパッケージのコイルアンテナから遠い位置よりも、近接した位置に金属線を配置すると、金属線100で発生した磁束が、コイルアンテナ20に伝わる効率が良くなるため通信距離が長くなる。特には、略四角形のコイルアンテナの最も外側の終端部を含む1辺と金属線(導体)との最短距離が、1mm以下であるのが望ましい。
【0035】
図8に示す本発明のRFIDタグの概略図のように、金属線100の端部付近にRFIDタグパッケージ80を配置することでも、RFIDタグ85の通信距離を長くすることができる。金属線100の端部付近とは、金属線100の端部から10mm程度以内(好ましくは2〜3mm以内、より好ましくは1mm以内)に、RFIDタグパッケージ80の外側の端部が位置するように配置することをいう。この配置方法は、特にRFIDタグ85を取り付ける対象物の大きさ、形状、デザイン等の理由で取り付け場所が制限される場合に有効であり、RFIDタグ85の設置において、自由度が飛躍的に向上する。
【0036】
金属線の端部付近にRFIDタグパッケージを配置する場合、金属線に対するRFIDタグパッケージの相対向きも重要である。直線状の金属線と略四角形に周回する形状のコイルアンテナを有するRFIDタグパッケージの場合、配置の組み合わせは、
図9(1)〜(8)に示すように、8通りになる。これらの中で、(1)や(2)のように、略四角形のコイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)の延伸方向と、金属線100(導体100)の延伸方向とが、略平行(つまり、方向が同じか又は180°異なる方向)であり、金属線100(導体100)の端部付近に、RFIDタグパッケージ80が配置されるのが、通信距離を拡張する上で必要である。理由として、リーダーからの信号を受け取る際に、金属線100の端部では電圧が高く電流が低い状態のためインピーダンスが高く、またRFIDタグパッケージ80のコイルアンテナにおいても、コイルの最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)では、電圧が高く電流が低い状態でインピーダンスが高いため、インピーダンス整合が取れているために、電力を効率よく伝送していることが考えられる。なお、コイルアンテナ20の最も外側の1辺(終端部付近)の延伸方向と、金属線100(導体100)の延伸方向とが、略平行(同じか又は180°異なる方向)とは、平行である状態から、何れかの方向に5°以内のずれであることを意味する。
【0037】
金属線100の形状は、
図8のように直線状でもよいが、
図10のように、L字、コの字、円形、楕円形、不定形でも利用できる。このように金属線100の形状を変化させても長い通信距離を実現できることは、対象物の大きさや取り付け・埋設場所に制限がある場合に特に有効である。
【0038】
金属線の長さは、ICチップの動作波長の半分程度が最も好適である。ICチップの動作周波数をf
0(Hz)、光の速度をc(m/秒)とすると、ICチップの動作波長λ(m)は次式で示せる。
【0039】
【数2】
例えば動作周波数が950MHzの場合、ICチップの動作波長は315.6mmであり、金属線の長さはその半分の157.8mm程度が理論上は好適である。但し、後述するように、実験的にはそれより短い場合が最適である。
【実施例】
【0040】
本発明では、RFIDタグパッケージとして、日立化成工業株式会社製UHF超小型パッケージタグ(外形が縦2.5mm×横2.5mm×高さ0.3mm)を用いた。このパッケージタグは、銅箔付きポリイミド基板(日立化成工業株式会社製、製品名:MCF−5000I、ポリイミド厚み25μm銅箔厚み18μm)をエッチングして、
図3に示すような、四角形に周回し、導線幅/導線間距離が0.100/0.125mmのコイルアンテナ20(本実施例においては、実際は4回巻きとした。)を略平面上に形成し、中央部にICチップ30を配置して、ワイヤボンディングによってICチップ30とアンテナ20を直接接続することで電気的閉回路を形成した後に、封止材10によって封止し、ダイシングによって略直方体のRFIDタグパッケージ80として形成したものである。ICチップ30の動作周波数は0.95GHz程度であり、RFIDタグパッケージ80のもっとも長い辺2.5mmは、ICチップ30の動作波長315.6mmの1/126程度である。
【0041】
以下、読取り評価の方法と実験結果について説明する。
リーダーは、ATID社製、製品名AT−870−UHFH(出力1W)を、出力24dBmで用いた。リーダーの読取り部を中心として、周囲1m四方に障害物がない状態で、RFIDタグ又はRFIDタグパッケージの読取り評価を行った。リーダーでRFIDタグ又はRFIDタグパッケージを読み取りつつリーダーとRFIDタグ又はRFIDタグパッケージとの距離を離し、読み取れなくなった時のリーダー読取り部からRFIDタグ又はRFIDタグパッケージまでの距離を通信距離として測定した。
【0042】
(比較例1)
RFIDタグパッケージを、そのままリーダーで読み取り距離を測定した結果を、表1に示す。読み取り距離は6mmであった。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例1)
図9(1)のように、導体100である金属線100の端部にRFIDタグパッケージ80を配置して通信距離を測定した結果を表2に示す。金属線100として、鉄が主成分であるSUS(Stainless Used Steel、ステンレス鋼)からなる、断面の直径が0.32mmの線であり、その表面が絶縁性のビニールで覆われているものを用いた。金属線100は、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20が形成されている略面内であり、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)との最短距離が0.1mmであり、コイルアンテナ20の最も外側の終端部付近の延伸方向と金属線100の延伸方向とが同じ方向であり、金属線100の端部付近にRFIDタグパッケージ80が位置するように配置した。
表2から、金属線100の長さがICチップ30の動作波長である315.6mm以下、かつICチップ30の動作波長の1/8である39.5mm以上において、RFIDタグパッケージ80単体の読み取り距離よりも長い距離で読み取れることがわかる。金属線100の長さが130mm以上150mm以下では、特に長い読み取り距離を実現している。
【0045】
【表2】
【0046】
(実施例2)
図9(1)と(2)のように、金属線100の端部にRFIDタグパッケージ80を配置して通信距離を測定した結果を表3に示す。
つまり、
図9(1)では、金属線100は、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20が形成されている略面内であり、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)との最短距離が0.1mmであり、コイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)の延伸方向と金属線100の延伸方向とが同じ方向であり、金属線100の端部付近にRFIDタグパッケージ80が位置するように配置した。また、
図9(2)は、
図9(1)とほぼ同様であるが、コイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)の延伸方向と金属線100の延伸方向とが180°異なる方向である点が異なる。
金属線100の長さは140mmとした。RFIDタグパッケージ80単体(比較例1)に比べて通信距離が長くなっていることが分かる。
【0047】
【表3】
【0048】
(比較例2)
図9(3)から(8)のように、金属線100の端部にRFIDタグパッケージ80を配置して通信距離を測定した結果を表4に示す。金属線100の長さは140mmとした。
つまり、
図9(3)〜(8)では、金属線100は、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20が形成されている略面内であり、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)との最短距離が0.1mmであり、金属線100の端部付近にRFIDタグパッケージ80が位置するように配置したが、コイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)の延伸方向と金属線100の延伸方向とが、同じ方向ではなく、又、180°異なる方向でもない。具体的には、
図9(3)、(4)、(7)及び(8)は、コイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)の延伸方向と金属線100の延伸方向とが90°異なる点で、
図9(1)及び(2)とは異なり、
図9(5)及び(6)は、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)との最短距離が1mmより離れている点で
図9(1)及び(2)とは異なる。
これらの比較例2では、通信距離がRFIDタグパッケージ80単体の時(比較例1)と変わらない。
【0049】
【表4】
【0050】
(実施例3)
図9(1)のように、金属線100がRFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20が形成されている略面内であり、RFIDタグパッケージ80のコイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)との最短距離が0.1mmであり、コイルアンテナ20の最も外側の終端部を含む1辺(終端部付近)の延伸方向と金属線100の延伸方向とが同じ方向であり、金属線100の端部にRFIDタグパッケージ80を配置して、かつ金属線100の形状を
図10(1)〜(6)のように形成した場合の通信距離を測定した結果を表5に示す。金属線100として、金属が直径0.32mmの被覆SUS線を用いた。金属線100の長さは全体で140mmとした。L字(1)は2辺を何れも70mmとした。コの字(2)は3辺を何れも46mm程度とした。円形(3)は直径50mm程度とした。円形(4)は直径40mm程度とし、RFIDタグパッケージ80が円のほぼ中心に配置されるように、円周から中心方向に向かう直線部を形成した。楕円(5)は70mm×25mmの範囲に収まるようにし、かつ湾曲部は円弧とした。不定形(6)はRFIDパッケージを囲むランダムな曲線とした。このように変形しても直線の状態に比べて通信距離が極端に短くなることはなく、中には長くなるものもある。
【0051】
【表5】
【0052】
(実施例4)
図9(1)のように、金属線100の端部にRFIDタグパッケージ80を配置して、RFIDタグパッケージ80と金属線100の間隔に対する通信距離の関係を測定した結果を、表6に示す。RFIDタグパッケージ80と金属線100の間隔が1mm以下において、RFIDタグパッケージ80単体の通信距離よりも長い距離で読み取れることがわかる。RFIDタグパッケージ80と金属線100の間隔が0.8mm以下や、絶縁材料を介して配置される場合(特に絶縁材料を隔てて密着(0mm)の場合)に、長い通信距離を実現している。
【0053】
【表6】