(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光学可変性顔料、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、吸油量60ml/100g以上の体質顔料を少なくとも含み、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、少なくとも、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートを含み、前記光学可変性顔料の凹版インキ全体に対する割合が、5〜25重量%であり、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の酸価が、40mgKOH/g以下であり、前記体質顔料の凹版インキ全体に対する割合が、10〜25重量%であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキ。
前記カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートが、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物を反応させることによって得られる1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応させた酸変性エポキシアクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキ。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、証券類及び切手類等は、その性質上偽造や変造がされにくいことが要求され、更には美的な要素も求められる。このような要求のために、銀行券等の印刷には、印刷物の仕上がりが非常に優れ、製版工程が複雑で、かつ、容易には偽造がされにくい彫刻凹版印刷が用いられている。
【0003】
この彫刻凹版印刷方式で作製される彫刻凹版印刷物の特徴として、独特の手触り感、細かくシャープな画線の形成が可能なこと、更には特殊な印刷機を用いなければ製造できないことが挙げられ、このような理由からも、前述したセキュリティ印刷物に彫刻凹版印刷が多用されている。以下、この彫刻凹版印刷を単に凹版印刷と表記する。
【0004】
凹版印刷とは、金属製の版面に凹状の画線を作製し、画線凹部にインキを詰め込み、凹版版面上の余剰のインキを拭き取り、強い圧力で用紙にインキを転移させる印刷方法である。
【0005】
凹版インキの一例としては、光学可変性顔料を配合した光学的に変化するインキや、着色顔料を配合することで、一定の色に認識される通常のインキが挙げられる。
【0006】
前述した光学的に変化するインキは、セキュリティ印刷の分野で知られている。光学的に変化するインキとは、見る角度を変えた場合に視認される色が異なる印刷物を提供することができるインキである。このような光学的に変化するインキは、スクリーン印刷法やフレキソ印刷法で基材に適用されることがほとんどであるが、凹版印刷でも適用されることがある。凹版印刷で適用されるインキは、溶剤を含む酸化重合硬化型インキが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、通常のインキとしては、一定の色に認識される紫外線が透過し得る着色濃度の低い紫外線硬化型凹版インキが、セキュリティ印刷の分野で提案されている。(例えば、特許文献2、3参照)。
【0008】
特許文献2には、活性エネルギー線硬化型の光学的に変化するインキ組成物も開示されている。また、特許文献3には、カルボキシル基含有アクリレートオリゴマー類を使用する凹版インキが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の酸化重合型の光学的に変化する凹版インキは、印刷直後は乾燥していないため、インキ皮膜が厚い凹版印刷では裏移りが生じやすい。また、酸化重合で形成可能なインキ皮膜は、耐アルカリ性が悪いという課題がある。
【0011】
特許文献2記載のインキ組成物では、中性のアクリレート類のみで紫外線硬化性樹脂組成物を構成しているため、光学可変性顔料をインキ化した場合、凹版インキとして必要な粘度に高めることができても、降伏値が非常に低く、凹版インキとしての拭き取り性を確保することが困難になる。インキ粘度を低くした場合、拭き取りは容易になるが、凹版印刷画線がにじむとともに、形状が不良となり、光学可変性顔料の転移性も悪化するという課題がある。
【0012】
特許文献3には、光学可変性顔料を配合する組成物の記載はなく、光学的に変化する凹版インキを提供するものではない。特許文献3には、50〜300mgKOH/gの酸価のアクリレートを用い、アルカリ洗浄可能な凹版インキを提供することが記載されているが、紫外線硬化性材料全体の酸価の限定がないため、光学可変性顔料を凹版インキ化する場合に実施例の紫外線硬化性材料を用いた場合、拭き取り性は良好であるが、光輝性が低く、光学的変化の小さい印刷物しか得られない。
【0013】
本発明の目的は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の酸価、体質顔料の種類及び光学可変性顔料の配合割合を限定することにより、アルカリ性ワイピング液による十分な拭き取り性、洗浄性を得るとともに、光学的変化の良好な印刷物を得る活性エネルギー線硬化型凹版インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、光学可変性顔料、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、吸油量60ml/100g以上の体質顔料を少なくとも含み、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、少なくともカルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートを含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキである。
【0015】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキに用いる吸油量60ml/100g以上の体質顔料は、シリカであることを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキである。
【0016】
また、本発明における活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の酸価が40mgKOH/g以下であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキである。
【0017】
また、本発明は、光学可変性顔料のインキ全体に対する割合が5〜25%であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキである。
【0018】
また、本発明は、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートが、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物を反応させることによって得られる一分子中に1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応させた酸変性エポキシアクリレートであることを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキである。
【0019】
さらに、本発明は、活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキを偽造防止印刷物へ使用するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の酸価、体質顔料の種類及び光学可変性顔料の配合割合を限定することにより、優れた拭き取り性、アルカリ性ワイピング液による洗浄性を有し、良好な光学的変化を有する印刷物を得る活性エネルギー線硬化型凹版インキを提供することが可能となった。
【0021】
すなわち、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートと、吸油量60ml/100g以上の体質顔料を用いることにより、優れた拭き取り性、アルカリ性ワイピング液による洗浄性を得ることが可能となり、吸油量60ml/100g以上の体質顔料と光学可変性顔料を使用することにより、優れた光学的変化を得ることが可能となった。
【0022】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の酸価を40mgKOH/g以下にすることにより、光学可変性顔料の分散が良好で光学的変化及び光輝性に優れる凹版印刷物が製造可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキは、光学可変性顔料、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、吸油量60ml/100g以上の体質顔料を少なくとも含む凹版インキであって、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートを少なくとも含む組成物である。
【0025】
本発明で用いる光学可変性顔料は、見る角度に依存して視認される色が変わる顔料であり、物理蒸着技術による多層薄膜干渉構造顔料、化学的反応による多層構造顔料又は液晶顔料を例示することができる。
【0026】
物理蒸着技術による多層薄膜干渉構造顔料としては、クロマフレア(JDSU社製)、化学的反応による多層構造顔料としては、カラーストリーム(メルク社製)、クロマシャイン(東洋アルミ社製)、コスミカラー(東洋アルミ社製)、液晶顔料としては、ヘリコンHC(旭化成ワッカーシリコン社製)を例示することができる。
【0027】
本発明で用いる光学可変性顔料のインキ全体に対する割合は5〜25%であり、好ましくは10〜20%である。5%未満では色変化に乏しく、25%を上回ると凹版版面から被印刷体へのインキ転移性が低下する。
【0028】
本発明で用いる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、紫外線及び電子線等の活性エネルギー線で硬化可能な樹脂であって、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートを少なくとも含み、凹版インキ用樹脂組成物としての粘度に調整するために、低粘度の親水性活性エネルギー線硬化性樹脂を配合する。また、必要により皮膜強度を得るために、親水性の活性エネルギー線硬化性オリゴマーを含有することができる。
【0029】
本発明で用いるカルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートとは、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート及びフェノールノボラック型エポキシアクリレート等の水酸基を有するアクリレートに多塩基酸無水物を付加させたアクリレートが挙げられる。
【0030】
これらの水酸基を有するアクリレートは、市場から入手が可能である。ペンタエリスリトールトリアクリレートは、ペンタエリスリトールテトラアクリレートとの混合物として市販されている。例えば、アロニックスM−306(東亞合成製)、ビスコート#300(大阪有機化学製)、ライトアクリレートPE−3A(共栄社化学製)、NKエステルA−TMM−3L(新中村化学製)、カヤラッドPET−30(日本化薬製)が挙げられる。ジペンタエリスリトールペンタアクリレートは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレートとの混合物として市販されている。例えば、アロニックスM−403(東亞合成製)、ライトアクリレートDPE−6A(共栄社化学製)、カヤラッドDPHA(日本化薬製)が挙げられる。ビスフェノールA型エポキシアクリレートは、例えば、ビスコート#540(大阪有機化学製)が挙げられる。
【0031】
また、水酸基を有するアクリレートとして、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物を反応させることによって得られる一分子中に1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートを用いることがより好ましい。
【0032】
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートに反応させる二塩基酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
【0033】
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物の反応は、無溶剤又は親水性活性エネルギー線硬化性材料中で実施することができる。ここで用いる親水性活性エネルギー線硬化性材料としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等の水溶性アクリレート若しくはアクリロイルモルホリンが挙げられる。反応を促進させるために、触媒を使用することが好ましく、この反応に用いる触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応生成物に対して0.1〜10重量%であり、反応温度は60〜140℃であり、反応時間は1〜24時間である。ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物の反応における、水酸基と酸無水物基の割合は、水酸基1当量に対して酸無水物基は1当量以下で用いる。1当量を越えて用いると、反応後未反応の酸無水物基が存在し、次工程のエポキシ化合物との反応の際、酸無水物基とエポキシ環が反応し、ゲル化する可能性がある。反応時は、熱重合防止のために空気又は酸素の吹き込みと熱重合禁止剤の添加が好ましく、熱重合禁止剤の添加量は、反応生成物に対して0.01〜0.2重量%である。熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、多価アルコールのグリシジルエーテル、多価カルボン酸のグリシジルエステル等が挙げられる。
【0035】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER828(三菱化学製)、エポトートYD−127、YD−128(東都化成製)、エピクロン840、850(DIC製)等が挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば、jER806(三菱化学製)、エポトートYDF−170(東都化成製)、エピクロン830(DIC製)等が挙げられる。
【0036】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、jER152、jER154(三菱化学製)、エポトートYDPN−638(東都化成製)、エピクロンN−740(DIC製)等が挙げられる。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、エポトートYDCN−701、YDCN−702、YDCN−703、YDCN−704(東都化成製)、エピクロンN−665、N−670(DIC製)、EOCN−104S(日本化薬製)等が挙げられる。
【0037】
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、YX8000、YX8034(三菱化学製)、サントートST−3000(東都化成製)、SR−HBA(阪本薬品製)、エポライト4000(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0038】
多価アルコールのグリシジルエーテルとしては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる(以上、ナガセケムテックス製デナコールシリーズ、共栄社化学製エポライトシリーズ、阪本薬品製SRシリーズ)。
【0039】
多価カルボン酸のグリシジルエステルとしては、アジピン酸ジグリシジルエステル(ナガセケムテックス製、デナコールEX−701)、o−フタル酸ジグリシジルエステル(ナガセケムテックス製、デナコールEX−721)等が挙げられる。
【0040】
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物を反応させることによって得られるアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物との反応は、例えば、無溶剤又は親水性活性エネルギー線硬化性材料中で行う。ここで用いる親水性活性エネルギー線硬化性材料としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等の水溶性アクリレート若しくはアクリロイルモルホリンが挙げられる。反応を促進させるために、触媒を使用することが好ましく、この反応に用いる触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応生成物に対して0.1〜10重量%であり、反応温度は60〜140℃であり、反応時間は3〜24時間である。ジペンタエリスリトールペンタアクリレートと二塩基酸無水物を反応させることによって得られるアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物の反応における、エポキシ環とカルボキシル基の割合は、エポキシ環1当量に対してカルボキシル基は1当量以上が好ましいが、次工程の多塩基酸無水物を反応させる際にゲル化が起きない場合は、1当量未満でも良い。反応時は、熱重合防止のために空気又は酸素の吹き込みと熱重合禁止剤の添加が好ましく、熱重合禁止剤の添加量は、反応生成物に対して0.05〜0.2重量%である。熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0041】
水酸基を有するアクリレートに反応させる多塩基酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
【0042】
水酸基を有するアクリレートと多塩基酸無水物の反応は、無溶剤又は親水性活性エネルギー線硬化性材料中で実施することができる。ここで用いる親水性活性エネルギー線硬化性材料としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等の水溶性アクリレート若しくはアクリロイルモルホリンが挙げられる。反応を促進させるために、触媒を使用することが好ましく、この反応に用いる触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応生成物に対して0.1〜10重量%であり、反応温度は60〜140℃であり、反応時間は1〜24時間である。水酸基を有するアクリレートと多塩基酸無水物の反応における水酸基と酸無水物基の割合は、水酸基1当量に対して酸無水物基は1当量以下で用いる。この割合によって、アクリレートの酸価が決まり、アルカリ洗浄性が左右されるため、酸価が40mgKOH/g以上になるように多塩基酸無水物を反応させる。反応時は、熱重合防止のために空気又は酸素の吹き込みと熱重合禁止剤の添加が好ましく、熱重合禁止剤の添加量は反応生成物に対して0.01〜0.2重量%である。熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0043】
酸価40mgKOH/gを下回るアクリレートのみ樹脂成分として用いると凹版インキとしての拭き特性が不良となるか、又はアルカリ水溶液を用いるワイピング液に分散しなくなり、被印刷体への拭き残り現象として現れる。なお、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートの使用は必須条件であるが、皮膜物性及びインキ物性を調整するために、カルボキシル基を含まない水溶性又は水分散性のオリゴマーアクリレートを併用して用いることができる。
【0044】
本発明において、低粘度の親水性活性エネルギー線硬化性樹脂とは、単官能または多官能のアクリレート、またはアクリルアミド類であり、水に溶解または分散するものである。
【0045】
単官能の親水性活性エネルギー線硬化性樹脂として、ポリエチレングリコールモノアクリレート、アクリロイルモルホリン、ヒドキシエチルアクリルアミド等を例示することができる。
【0046】
多官能の親水性活性エネルギー線硬化性樹脂として、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジグリセリンテトラアクリレート、ポリグリセリンポリアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等を例示することができる。
【0047】
本発明において、親水性の活性エネルギー線硬化性オリゴマーとは、親水性ウレタンアクリレート類であり、市販品としては、エベクリル2000、エベクリル2001(UCB社製)が挙げられる。
【0048】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の酸価は40mgKOH/g以下にすることが好ましい。組成物の酸価が40mgKOH/gを上回ると光学可変性顔料の分散が不良となり、印刷物の光学的変化及び光輝性が減退する。
【0049】
本発明に用いる体質顔料は、吸油量60ml/100g以上の体質顔料を用いる。吸油量とは、顔料とあまに油等の液体を機械的に練り合わせて堅いペースト状にするために必要なあまに油の量であって、顔料100gに対するあまに油の必要量(ml又はg数)で表す。吸油量の数値が高いほど少ない顔料配合でインキの粘度を上げることができる。
【0050】
吸油量60ml/100g以上の体質顔料としては、シリカが特に好ましい。シリカは、体質顔料として一般のインキに用いられるものである。吸油量60ml/100g未満の体質顔料を用いた場合、適度な凹版インキの粘度を得るために多量の体質顔料を配合する必要があり、結果として光学可変性顔料の光学可変性が低下し、体質顔料の種類によっては全く色変化が見られなくなる。また、炭酸カルシウムのような塩基性の体質顔料は、カルボキシル基含有アクリレートと反応するため用いることはできない。体質顔料として、シリカを用いた場合、インキ全体に対するシリカの含有率は、概ね10〜25%である。この含有率は、光学可変性顔料の含有率、カルボキシル基を有するアクリレートの種類によって異なってくる。概ね酸価が高いアクリレートを使用する場合は、シリカの配合率を低くし、酸価が低いアクリレートを使用する場合は、シリカの配合率を高める必要がある。シリカの含有率が10%を下回ると、凹版インキの粘度が低くなり、画線再現性が低下するとともに、ミスチングが発生しやすくなる。シリカの含有率が25%を上回ると、印刷物の光学的変化が低下する。
【0051】
本発明の凹版インキは、光学可変性顔料、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及び体質顔料を少なくとも含むインキであるが、これら以外に、光学可変性顔料の光学可変性を阻害しない範囲で、着色顔料、蛍光顔料、ワックス、分散剤及びシリカ以外の体質顔料を含むことができる。
【0052】
本発明の凹版インキは、活性エネルギー線硬化型である。活性エネルギー線としては、紫外線及び電子線が挙げられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0053】
活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、光重合開始剤を配合する。光重合開始剤としては、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア184、ルシリンTPO(BASF製)、KAYACURE DETX−S(日本化薬製)等を例示することができる。さらに、光重合開始助剤として、3級アミン類を用いることもできる。
【実施例1】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例により何等限定されるものではない。なお、本発明において、表の配合の数字は重量%を示す。
【0055】
(凹版インキ組成物の作製)
表1〜表6に示す配合のうち、光学可変性顔料を除く成分を、バタフライミキサーで攪拌混合し、3本ロールミルで分散してインキ組成物を作製し、光学可変性顔料を添加してバタフライミキサーで攪拌混合し、活性エネルギー線硬化型光学的変化凹版インキを作製した。
【0056】
(樹脂の製造例:樹脂1)
アロニックスM−403(東亞合成製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)900部、リカシッドSA(新日本理化製、無水コハク酸)103部、メチルハイドロキノン0.1部、N,N−ジメチルベンジルアミン0.3部を攪拌機付きセパラブルフラスコに仕込み、空気を吹き込みながら80℃で2時間反応させた。反応生成物に、jER152(三菱化学製、フェノールノボラック型エポキシ樹脂)183部、PEG400DA(日本化薬製、ポリエチレングリコール400ジアクリレート)1000部、メチルハイドロキノン2.2部、N,N−ジメチルベンジルアミン6.5部を加え、空気を吹き込みながら130℃で3時間反応させた。反応生成物に、リカシッドSA93部を加え、80℃で更に2時間反応させ、30℃における粘度が1.5Pa・sになるようにPEG400DAを加え、樹脂1を得た。樹脂3〜樹脂8は、同様の方法で製造した。
【0057】
(表1〜表6の材料の説明)
樹脂1:jER152に、アロニックスM−403のリカシッドSA付加物を反応させたのち、リカシッドSAを付加させた酸変性エポキシアクリレート(酸価62.3mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂2:親水性ウレタンアクリレート(UCB社製、エベクリル2000)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂3:ビスコート540(大阪有機化学社製、ビスフェノールA型エポキシアクリレート)にリカシッドSAを反応させた酸変性エポキシアクリレート(酸価152mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂4:アロニックスM−306(東亞合成製、ペンタエリスリトールトリアクリレート)にリカシッドSAを反応させたアクリレート(酸価141mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂5:jER152にアクリル酸を付加させたのち、リカシッドPA(新日本理化製、無水フタル酸)を付加させた酸変性エポキシアクリレート(酸価141mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂6:jER152にアロニックスM−403のリカシッドMH(新日本理化製、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸)付加物を反応させたのち、生成した水酸基の90%にリカシッドMHを付加させた酸変性エポキシアクリレート(酸価54.1mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂7:jER152にアロニックスM−403のリカシッドMH付加物を反応させたのち、生成した水酸基の75%にリカシッドMHを付加させた酸変性エポキシアクリレート(酸価42.3mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
樹脂8:jER152にアロニックスM−403のリカシッドMH付加物を反応させたのち、生成した水酸基の50%にリカシッドMHを付加させた酸変性エポキシアクリレート(酸価29.4mgKOH/g)をPEG400DAで希釈し、粘度1.5Pa・s(30℃)に調整した樹脂。
光重合開始剤:イルガキュア907(BASF社製)。
シリカ:ニップシール(東ソーシリカ社製) 吸油量 200ml/100g。
硫酸バリウム:日本化学製 吸油量 11ml/100g。
タルク:和光純薬製 吸油量 27〜57ml/100g。
酸化亜鉛:和光純薬製 吸油量 15ml/100g。
光学可変性顔料1:カラーストリームアークティックファイヤー(メルク社製)。
光学可変性顔料2:クロマシャインゴールドグリーン(東洋アルミ社製)。
【0058】
(凹版インキの評価)
作製した凹版インキは、拭き取り性、洗浄性、インキ転移性、印刷物品質、光輝性及び色変化について評価した。拭き取り性は、凹版版面にインキを供給し、ワイピングした後の版面上のインキの有無で評価した。洗浄性は、印刷後のワイピング部のタワシの状態等で評価した。インキ転移性及び印刷物品質は、凹版印刷した後の印刷物の均一性から評価した。光輝性及び色変化は、画線深さ50μm、画線幅0.5mm、画線長さ40mmのバーを25本配置した版面で印刷後(光学可変性顔料1の場合、黒上質紙に、光学可変性顔料2の場合、上質紙に印刷)、変角分光光度計(村上色彩技術研究所製)を用いて入射角45°、受光角0〜80°で5°ごとに測定し、CIE−L
*a
*b
*表色系の数値を得て評価した。
【0059】
樹脂の差異に関する実施例、比較例を表1、表2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
カルボキシル基を有しない樹脂2のみからなる比較例1は、印刷物の光輝性は高い(明度L
*の最大値が大きい)が、拭き取り性が不良となる。酸価が40mgKOH/g以下の樹脂8を用いる比較例2はアルカリ分散性が悪く、洗浄性が不良となるが、酸成分の酸価が40mgKOH/g以上である実施例1〜9は、洗浄性が良好で、拭き取り性も良好である。
【0063】
各実施例の印刷物に対する受光角を変化させたときのa
*に対するb
*をプロットしたグラフを
図1に示す。
図1においては、a
*及びb
*の数値で色を表しており、双方が大きくなると彩度が大きくなり、原点は白〜グレー〜黒の色を示している。受光角(観察角度)を変えたときのa
*及びb
*の変化が大きければ大きいほど色の変化は大きい。樹脂組成物全体の酸価が40mgKOH/g以上の実施例6〜9は、色変化と光輝性が最良の好ましい例である実施例1〜5と比較し、印刷物の光輝性が低く(明度L
*の最大値が小さい)、a
*及びb
*の変化が小さいことから色変化は小さい。すなわち、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートを含み、樹脂組成物全体の酸価が40mgKOH/g以下である樹脂組成物を用いた場合に、拭き取り性及び洗浄性が良好で、光輝性が高く(L
*の最大値が大きい)、かつ、色変化の大きい(a
*及びb
*の変化が大きい)印刷物を得ることができる。
【0064】
体質顔料の差異による実施例及び比較例を表3に示す。各実施例及び比較例の受光角を変えたときのa
*に対するb
*をプロットしたグラフを
図2に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
吸油量60ml/100g以下の体質顔料を用いる比較例3〜6の印刷物は、光輝性が低く(L
*の最大値が小さい)、受光角(観察角度)を変えたときのa
*及びb
*の変化が小さく、色変化は小さい。吸油量60ml/100g以上のシリカを用いた場合は、印刷物の光輝性が高く(L
*の最大値が大きい)、受光角(観察角度)を変えたときの、a
*及びb
*の変化が大きく、色変化が大きい。
【0067】
光学可変性顔料の配合率に関する実施例及び比較例を表4、表5、表6及び表7に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
光学可変性顔料を30%以上配合した場合、インキ転移性及び印刷物品質が不良になる。また、体質顔料を配合しない場合も、インキ転移性及び印刷物品質ともに不良になる。
【0073】
以上の実施例のように、カルボキシル基を有する酸価40mgKOH/g以上のアクリレートを含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、吸油量60ml/100g以上の体質顔料及び光学可変性顔料を少なくとも含むことにより、拭き取り性とアルカリ性ワイピング液による洗浄性が良好な活性エネルギー線硬化型凹版インキとすることができ、光学的に変化する凹版印刷物を得ることができる。
【0074】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体の酸価が40mgKOH/g以下の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いることにより、光輝性が高く、光学的変化の大きい凹版印刷物を得ることができる。さらに、光学可変性顔料の配合割合を25%以下にすることにより、インキ転移性、印刷物品質が良好となる。