特許第6016166号(P6016166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016166
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】複写牽制印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20161013BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20161013BHJP
【FI】
   B41M3/14
   B42D15/10 340
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-236802(P2013-236802)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-96309(P2015-96309A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛行
(72)【発明者】
【氏名】河村 英司
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−141729(JP,A)
【文献】 特開2008−213242(JP,A)
【文献】 特開2005−153398(JP,A)
【文献】 特開2011−074102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、前記基材と異なる色の印刷画像が形成され、前記印刷画像は、前記基材と異なる色相の第一の色材から成る複数の第一の要素と、前記基材及び前記第一の色材と異なる色相の第二の色材から成る複数の第二の要素を少なくとも有し、前記各要素が規則的に複数配置された第一の画像領域と、前記第一の画像領域に配置される各要素を形成する色材と異なる色相の画像要素が規則的に複数配置されて前記第一の画像領域の各要素を形成する色材の合成色で構成された第二の画像領域から成り、前記第一の画像領域と前記第二の画像領域は、所定の領域に配置された各要素の面積率及び/又は各要素を形成する色材の濃度の調整により可視光の反射光下で等色に形成され、複写機で複写すると、前記第一の画像領域と前記第二の画像領域の等色性が崩れて再現され、前記第一の画像領域と前記第二の画像領域が区分けして視認できることを特徴とする複写牽制印刷物。
【請求項2】
前記第一の画像領域に、更に、前記基材、前記第一の色材及び前記第二の色材と異なる色相の第三の色材から成る第三の要素、・・・、前記基材及び前記第一の色材乃至第n−1の色材と異なる色相の第nの色材(nは3以上の整数)から成る第nの要素が規則的に複数配置されたことを特徴とする請求項1記載の複写牽制印刷物。
【請求項3】
前記第二の画像領域に配置される前記画像要素は、i)前記第一の画像領域に配置される各要素を形成する前記色材の合成色と同じ色相の色材から成る、又は、ii)前記第一の画像領域に配置された各要素が重なって成る構成のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の複写牽制印刷物。
【請求項4】
前記第一の画像領域に、前記第一の要素乃至前記第nの要素が配置された場合、前記第二の画像領域に、前記第一の要素乃至前記第nの要素を形成する色材と異なる色相の第一の色合成要素、第二の色合成要素、・・・、第n−1の色合成要素が規則的に複数配置されたことを特徴とする請求項2記載の複写牽制印刷物。
【請求項5】
前記各要素が画線又は画素の少なくとも一つ、又はその組み合わせから成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複写牽制印刷物。
【請求項6】
前記第一の画像領域と前記第二の画像領域に配置される各要素が全て画線又は画素であって、前記第一の画像領域に配置される各要素の組み合わせを一つの要素セットとしたときに、前記要素セットと前記第二の画像領域に配置される前記画像要素が同一線上に配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複写牽制印刷物。
【請求項7】
前記第一の画像領域と前記第二の画像領域に配置される前記各要素の単位面積当たりの面積が等しいことを特徴とする請求項6記載の複写牽制印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の偽造、改竄を防止する必要性がある印刷物において、カラー複写機又はモノクロ複写機により複写した場合に模様が出現し、複写物であることが容易に判断できる印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の印刷物には、カラー複写機やモノクロ複写機(以下、「複写機」という。)による偽造、改竄を防止するためにさまざまな工夫がされている。代表的なものに、肉眼では解像出来ない細かさで画線や網点に粗密差を付与することで、目視では判別できない模様が複写機による複写物においては、再現性の劣化により模様が出現する印刷物が数多く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、複写時に模様が出現する効果を意図したものではないものの、観察環境(観察光源のエネルギー分布)の違いによって肉眼で観察できる色味が変わるメタメリズムを応用して、パターンを出現、消失させる技術がある(例えば、特許文献2参照)。この技術は、所定の分光エネルギー分布を有する光源もしくは所定の分光透過率を有するフィルタを介して観察することでパターンが確認できる。また、複写物においては、メタメリズムの効果は失われるが、複写物に再現される模様は一見して真正品と同じように再現され、パターンは出現しない。ただし、複写物においてはメタメリズムの効果が失われ、所定の観察環境で観察するとパターンが確認されず真正品との違いが判別可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−58223号公報
【特許文献2】特許第1371087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、複写機の高性能化に伴い高精細、高品質な複写物が得られるようになっており、特許文献1の印刷物に限らず、印刷画線や網点の解像度を異ならせることで、複写物において、再現性の低下により模様が出現する技術は、模様出現効果が著しく低下しているのが現状である。
【0006】
また、特許文献2の技術においては、複写時の模様出現を意図した技術ではなく、真正品に施された模様が、複写物にそのまま再現され、見た目で本物と偽物の区別がつかないことから、特許文献2の技術は、偽造品が使用されてしまうという問題がある。前述のように複写物ではメタメリズムの効果が失われ、所定の観察環境で違いが判るが、このような環境は、銀行や取引所等の限定された場所にしか設置されていないため、判別する環境が限られてしまう。このように、特許文献2の技術は、特定の環境での真偽判別は可能なものの、複写物において顕著なパターンが出現するわけではないので印刷物そのものを偽造するという行為を抑止することはできないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、近年の高精細、高品質な複写機であっても複写すると確実に模様が出現することで、複写による偽造を防止するとともに、複写物であることが即時に判別可能な印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複写牽制印刷物は、基材の少なくとも一部に、基材と異なる色の印刷画像が形成され、印刷画像は、基材と異なる色相の第一の色材から成る複数の第一の要素と、基材及び第一の色材と異なる色相の第二の色材から成る複数の第二の要素を少なくとも有し、各要素が規則的に複数配置された第一の画像領域と、第一の画像領域に配置される各要素を形成する色材と異なる色相の画像要素が規則的に複数配置されて第一の画像領域の各要素を形成する色材の合成色で構成された第二の画像領域から成り、第一の画像領域と第二の画像領域は、所定の領域に配置された各要素の面積率及び/又は各要素を形成する色材の濃度の調整により可視光の反射光下で等色に形成され、複写機で複写すると、第一の画像領域と第二の画像領域の等色性が崩れて再現され、第一の画像領域と第二の画像領域が区分けして視認できることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の複写牽制印刷物は、第一の画像領域に、更に、基材、第一の色材及び第二の色材と異なる色相の第三の色材から成る第三の要素、・・・、基材及び第一の色材乃至第n−1の色材と異なる色相の第nの色材(nは3以上の整数)から成る第nの要素が規則的に複数配置されたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の複写牽制印刷物は、第二の画像領域に配置される画像要素は、i)第一の画像領域に配置される各要素を形成する色材の合成色と同じ色相の色材から成る、又は、ii)第一の画像領域に配置された各要素が重なって成る構成のいずれかであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の複写牽制印刷物は、第一の画像領域に、第一の要素乃至第nの要素が配置された場合、第二の画像領域に、第一の要素乃至第nの要素を形成する色材と異なる色相の第一の色合成要素、第二の色合成要素、・・・、第n−1の色合成要素が規則的に複数配置されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の複写牽制印刷物は、各要素が画線又は画素の少なくとも一つ、又はその組み合わせから成ることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の複写牽制印刷物は、第一の画像領域と第二の画像領域に配置される各要素が全て画線又は画素であって、第一の画像領域に配置される各要の組み合わせを一つの要素セットとしたときに、要素セットと第二の画像領域に配置される画像要素が同一線上に配置されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の複写牽制印刷物は、第一の画像領域と第二の画像領域に配置される各要素の単位面積当たりの面積が等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複写牽制印刷物は、拡散反射光下で観察した場合には、二つの画像部が等色関係にあり目視による区分けが困難であるが、複写機で複写すると二つの画像部の等色関係が崩れることにより模様が確実に出現するため、複写物であることが一目瞭然となることで複写による偽造を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の複写牽制印刷物を示す図である。
図2】複写牽制印刷物に形成される印刷画像の構成を示す図である。
図3】第一の画像領域に配置される各要素の配置の例を示す図である。
図4】本発明の第一の画像領域に含まれない各要素の配置の例を示す図である。
図5】第二の画像領域に配置される色合成要素の構成を示す図である。
図6】色合成要素の構成の例を示す図である。
図7】第一の画像領域と第二の画像領域の各要素が同一線上に配置された状態を示す図である。
図8】第一の画像領域と第二の画像領域の各要素の面積率が等しく、同一線上に配置された状態を示す図である。
図9】各要素が画素で構成される場合の例を示す図である。
図10】第一の画像領域と第二の画像領域の画素で構成される各要素が同一線上に配置された状態を示す図である。
図11】第一の画像領域と第二の画像領域の画素で構成される各要素が同一線上に配置された状態を示す図である。
図12】第一の画像領域と第二の画像領域の画素で構成される各要素の面積率が等しく、同一線上に配置された状態を示す図である。
図13】一つの要素が画線と画素で構成される場合の例を示す図である。
図14】複写牽制印刷物の複写前の原本と、複写された複写物を示す図である。
図15】第一の画像領域に三つの要素が配置される例を示す図である。
図16】第二の画像領域に二つの要素が配置される例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他様々な形態が実施可能である。
【0018】
はじめに、本発明における複写牽制印刷物(以下、「印刷物(A)」という。)の概要について説明する。図1(a)は、本発明における印刷物(A)の平面図である。印刷物(A)の形態の例としては、紙幣、証券、パスポート、身分証明書等の偽造防止及び複写防止対策を要する貴重印刷物等の印刷物がある。印刷物(A)は、基材(1)の少なくとも一部に、基材(1)と異なる色の印刷画像(2)を備えている。基材(1)は、紙、フィルム、プラスチック等を用いることができ、印刷用の色材が形成可能な平面を備えていれば、特に限定されるものではない。
【0019】
さらに、印刷画像(2)は、図1(b)に示す第一の画像領域(3)と図1(c)に示す第二の画像領域(4)で構成される。図1に示す印刷画像(2)の例では、第二の画像領域(4)がポジ画像として「COPY」の文字で形成されており、第一の画像領域(3)がネガ画像として「COPY」の文字を取り囲むように形成されている状態を示しているが、第一の画像領域(3)がポジ画像として「COPY」の文字で形成され、第二の画像領域(4)がネガ画像として「COPY」の文字を取り囲むように形成されてもよい。また、ポジ画像として形成される第一の画像領域(3)又は第二の画像領域(4)は、「COPY」の文字に限定されるものではなく、他の文字で形成されても良いし、数字、記号、図形、マーク及び模様のいずれか又はその組み合わせで形成されても良い。また、印刷画像(2)全体の模様としては、図1(a)に示す構成に限定されず、数字、記号、図形、マークであっても良い。以降の説明では、図1に示す構成の例について説明する。次に、印刷画像(2)を構成する各領域の詳細について説明する。
【0020】
(第一の画像領域)
図2(a)は、印刷画像(2)の構成を示す図である。また、図2(b)は、図2(a)の太線で囲む部分を拡大した図であり、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)の境界部分の構成を示す図である。第一の画像領域(3)は、図2(b)の拡大図に示すように、第一の要素(11)と第二の要素(12)が、複数配置されて成る。
【0021】
なお、本発明において、第一の要素(11)及び第二の要素(12)は、画線及び画素の一方又はその組み合わせで構成される。なお、本明細書でいう「画線」とは、網点を一定方向に隙間無く連続して配置して構成した画像を構成する要素であって、点線や破線の分断線、曲線及び波線も含まれ、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術的思想の範囲に含まれる。また、本明細書でいう「画素」とは、印刷画像(2)を構成する最小単位である印刷網点自体か、印刷網点を複数集合させて形成した一塊の画像を構成する要素であって、例えば円、三角形や四角形等を含む多角形、星形等の各種図形、文字や記号等が含まれ、画素の形状は如何なるものであっても本発明における画素に含まれる。図2に示す第一の画像要素(11)及び第二の画像要素(12)は直線の画線で形成された状態を示しており、はじめに画線で構成される第一の画像領域(3)について説明する。
【0022】
本発明において、第一の画像領域(3)に配置される各要素が画線で構成される場合、第一の画像領域(3)は、図2(b)に示すように、線幅(W5)の第一の要素(11)と線幅(W6)の第二の要素(12)が、それぞれピッチ(P5、P6)で第1の方向(S1方向)に規則的に複数配置されて成る。なお、本発明において、第一の画像領域(3)に配置される各要素のピッチ、すなわち、図2(b)でいう第一の要素のピッチ(P5)と第二の要素のピッチ(P6)は、等しいピッチである。
【0023】
また、第一の要素(11)は、基材(1)と異なる色の第1の色相を有する色材から成り、第二の要素(12)は、基材(1)及び第一の要素(11)と異なる色の第2の色相を有する色材から成る。本発明の印刷物(A)において、第一の画像領域(3)は、更に、基材(1)、第一の要素(11)及び第二の要素(12)と異なる色相を有する第nの色材(nは3以上の整数)から成る第nの要素を加えてn個の要素を形成しても良いが、この構成については後述する。このとき、n個の要素の色は全て異なる色である。
【0024】
本発明において、第一の要素(11)と第二の要素(12)の配置は、隣接して配置、近接して配置又は一部が重なる配置のうちのいずれかである。なお、図2(b)において、第一の要素(11)と第二の要素(12)は、隣接して互いに重なることなく配置されている状態を示している。また、図3(a)は、第一の要素(11)と第二の要素(12)に隙間があり、近接して配置された状態を示している。なお、本発明において、第一の要素(11)と第二の要素(12)が近接した状態とは、後述する第一の要素(11)と第二の要素(12)のピッチ(P5、P6)の範囲内に、第一の要素(11)と第二の要素(12)が配置された状態のことである。このように、第一の要素(11)と第二の要素(12)を配置する理由は、第一の画像領域(3)を二色以上の色で構成するためであり、後述する本発明の印刷物(A)の複写物に模様が出現する効果を得るためである。
【0025】
なお、前述した第一の要素(11)と第二の要素(12)の一部が重なる配置の例としては、図3(b)に示すように、第一の要素(11)と第二の要素(12)のうち、一方の要素の一部に他方の要素の全体が重なる配置がある。なお、図3(b)は、第二の要素(12)の一部に第一の要素(11)全体が重なる配置を示す図であるが、一部が重なる状態を分かり易く説明するために、画線の方向にずらして図示しており、実際の印刷物(A)では、第一の画像領域(3)に亘って第一の要素(11)と第二の要素(12)が重なる配置となっている。図3(b)に示す配置において、第一の要素(11)と第二の要素(12)が重なる部分、すなわち、第一の要素の線幅(W5)の範囲は、第一の要素(11)を形成する色材の色相と第二の要素(12)を形成する色材の色相が混色して一つの色相として観察され、結果的に、第一の画像領域(11)を二色の色で構成することができることから、図3(b)に示す配置であっても良い。
【0026】
また、前述した第一の要素(11)と第二の要素(12)の一部が重なる配置の他の例としては、図3(c)に示すように、第一の要素(11)の一部と第二の要素(12)の一部が重なる配置がある。図3(c)においても、第一の要素(11)の一部と第二の要素(12)の一部が重なる状態を分かり易く説明するために、画線の方向にずらして図示しており、実際の印刷物(A)では、第一の画像領域(3)に亘って第一の要素(11)と第二の要素(12)の一部が重なる配置となっている。図3(c)に示す配置において、第一の要素(11)と第二の要素(12)が重なる部分、すなわち、図3(c)中の符号(W’)で示す範囲は、第一の要素(11)を形成する色材の色相と第二の要素(12)を形成する色材の色相が混色して一つの色相として観察される。結果的に図3(c)に示す配置の場合、第一の要素(11)を形成する色材の色相、第二の要素(12)を形成する色材の色相及び第一の要素(11)を形成する色材の色相と第二の要素(12)を形成する色材の色相が混色した色相の合計三色の色で構成することができることから、図3(c)に示す配置であっても良い。なお、図3(c)に示す第一の要素(11)と第二の要素(12)の配置については、結果的に、段落(0024)で説明した互いに異なる色相の色材によって、第一の要素から第三の要素を形成する構成と同じであり、第一の画像領域(3)に三つの要素が配置される構成については後述する。
【0027】
また、図2及び図3(a)乃至図3(c)に示すように配置された各要素において、一つの色相で構成される部分を線幅方向に分割して配置しても良く、例えば、図2に示す線幅(W5)の第一の要素(11)を、図3(d)に示すように、線幅(W5−A)の第1Aの要素(11A)と線幅(W5−B)の第1Bの要素(11B)に分割して、第二の要素(12)と交互に配置しても良い。また、図3(d)では、第一の要素(11)が分割された状態を示しているが、第二の要素(12)が分割されても良いし、第一の要素(11)と第二の要素(12)が重なる部分が分割されて配置される構成でも良い(図示せず)。
【0028】
図3(b)及び図3(c)に示す第一の要素(11)と第二の要素(12)の一部が重なる配置に対して、図4に示すように、同じ線幅の第一の要素(11)と第二の要素(12)が、同じ位置に重なる配置は、各要素を形成する色材の色が混色して第一の画像領域(3)が一色で構成されるため、本発明に含まれない。
【0029】
本発明において、第一の要素(11)と第二の要素(12)は、異なる色相の色材で形成されるが、第一の画像領域(3)を目視で観察した場合には、第一の要素(11)と第二の要素(12)の色相はそれぞれ単独では観察されず、混色されて第1の色相と第2の色相の合成色の色相で観察される必要がある。このような効果を得るためには、人の目の空間分解能を考慮した画線設計が必要であり、各要素の線幅(W5、W6)と、各要素が配置されるピッチ(P5、P6)は充分細かい必要がある。このような効果を得るためには、各要素の線幅(W5、W6)は、20μmから200μm程度で形成する必要があり、ピッチ(P5、P6)は80μmから1500μm程度が適しており、好ましくは100μmから1000μm程度が良い。なお、第一の要素(11)の線幅(W5)と第二の要素(12)の線幅(W6)は、同じでも良いし、異なっていても良いが、前述のように、第一の要素のピッチ(P5)と第二の要素のピッチ(P6)は等しいピッチである。
【0030】
本発明の印刷物(A)は、このような大きさとピッチの範囲で第一の要素(11)と第二の要素(12)を形成することで、人間の目視では、第一の要素(11)と第二の要素(12)を区別することができず、第一の画像領域(3)は、第一の要素(11)を形成する色材の色と第二の要素(12)を形成する色材の色が、加法混色の原理によって合成した一つの色として見える。
【0031】
本発明において、印刷画像(2)を形成するための各要素の色材には、一般的な印刷用のインキを用いて印刷すればよく、オフセット印刷やインクジェット印刷など、基材に画像が形成できる印刷方式であれば印刷方式に限定はない。
【0032】
(第二の画像領域)
本発明において、第二の画像領域(4)は、第一の画像領域(3)に配置される各要素を形成する色材と異なる色相の画像要素が規則的に複数配置されて成る。第二の画像領域(4)に配置される画像要素の形態は、第一の画像領域(3)に配置される要素の数に応じて異なり、具体的には、第一の画像領域(3)に配置される要素の数が、三つ以上かどうかで異なる。なお、ここでいう要素の数とは、異なる色相の色材で形成される要素の種類の数のことである。はじめに、第一の画像領域(3)に第一の要素(11)と第二の要素(12)の二つの要素が配置される場合の第二の画像領域(4)の構成について説明し、第二の画像領域(4)に三つ以上の要素が配置される第二の画像領域(4)の画像要素の詳細については後述する。
【0033】
第一の画像領域(3)に第一の要素(11)と第二の要素(12)の二つの要素が配置される場合、第二の画像領域(4)は、図2(b)の拡大図に示すように、第一の画像領域(3)に配置される各要素を形成する色材と異なる色相の画像要素(以下、色合成要素(20)という。)が規則的に複数配置されて成る。色合成要素(20)についても、第一の要素(11)及び第二の要素(12)と同様に、画素及び画線の一方又はその組み合わせで構成されるが、ここでは、画線の構成について説明する。
【0034】
本発明において、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)が画線で構成される場合、第二の画像領域(4)は、図2(b)に示すように、線幅(W20)の色合成要素(20)が一定のピッチ(P20)で、第1の方向(S1方向)に規則的に複数配置されて成る。色合成要素(20)を形成する色材及び印刷方式は特に限定はなく、基材(1)に着色できれば良い。
【0035】
色合成要素(20)は、第一の画像領域(3)に配置されている各要素の目視上の合成色と同じ色相を有しており、色合成要素(20)の具体的な構成について、以下に説明する。
【0036】
一つ目の色合成要素(20)の構成は、第一の画像領域(3)に配置される各要素を形成する色材を混合して、一つの色相を有する色材とし、混合した色材によって、図2(b)に示す色合成要素(20)が形成される構成である。例として、図2(b)に示す第一の要素(11)がマゼンタ色の色材で形成され、第二の要素(12)がシアン色の色材で形成されたとすると、混合した色材の色は、紫の色相を有した色材となり、この色材によって色合成要素(20)を形成する。なお、第一の要素(11)の線幅(W5)と第二の要素(12)の線幅(W6)が同じであれば、各要素の目視上の合成色は、第1の色相と第2の色相が1対1の割合で混色した合成色とほぼ等色となるので、第一の要素(11)を形成する色材と第二の要素(12)を形成する色材を1対1の割合で混合することで、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相の色材とすることができる。一方、第一の要素(11)の線幅(W5)と第二の要素(12)の線幅(W6)が異なる場合、各要素の目視上の合成色は、線幅の割合に応じて混色された合成色となるので、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相の色材とするために、第一の画像領域(3)に配置される各要素の線幅の割合に応じて、第一の要素(11)を形成する色材と第二の要素(12)を形成する色材の混合する割合を調整すれば良い。なお、本発明において、第一の要素(11)と第二の要素(12)を形成する色材の色は、上記色の例に限定されるものではない。
【0037】
二つ目の色合成要素(20)の構成は、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相の特色インキを用いて、図2(b)に示す色合成要素(20)が形成される構成である。一般的な印刷に用いられる色材の色はプロセスインキのCMYKであるが、DIC社、TOYO社、PANTONE社等の色見本帳による特色インキも市販されており、このようなインキを色合成要素(20)を形成するために用いることができる。
【0038】
三つ目の色合成要素(20)の構成を図5に示す。図5(b)は、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)の境界部分の一部拡大図であり、図5(c)は、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)の断面図である。三つ目の色合成要素(20)は、図5(b)の拡大図と図5(c)の断面図に示すように、第一の色相を有する色材から成る第一の要素(11)と第二の色相を有する色材から成る第二の要素(12)が重なって成る構成である。本発明において、色合成要素(20)が第一の要素(11)と第二の要素(12)が重なって成る場合の第一の要素(11)と第二の要素(12)の配置とは、図6(a)及び図6(b)に示すように、第一の要素(11)の線幅(W5)と第二の要素(12)の線幅(W6)が同じであって、第一の要素(11)と第二の要素(12)が同じ位置でずれることなく重なる配置である。
【0039】
三つ目の構成において色合成要素(20)は、互いに重なっている第一の要素(11)と第二の要素(12)を形成する色材の減法混色によって、第1の色相と第2の色相が混色して見える中で、第一の画像領域(3)に配置されている各要素の目視上の合成色と同じ色相として視認できる。
【0040】
本発明において、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)は人が目視で観察した場合に同じ色彩として感じられる等色関係であることがもう一つの重要な要件である。なお、本発明において等色とは、二つの観察対象の色差ΔEが3以下の値にある状態のことである。なお、本発明でいう「色彩」とは、色相、彩度、明度の概念を含んで色を表したものである。また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400nm〜700nm)の特定波長の強弱の分布を示すものである。
【0041】
本発明において、印刷画像(2)を構成する第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)を等色にするために、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)のピッチ(P20)と第一の画像領域(3)に配置される第一の要素(11)及び第二の要素(12)のピッチ(P5、P6)は同じピッチである。なお、このようなピッチの条件を満たしていれば、図2(b)に示すように、第一の画像領域(3)に配置される各要素と第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)は同一線上に配置されなくても良いが、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の差を、より目立たなくするためには、図7に示すように、第一の画像領域(3)に配置される各要素と、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)を同一線上に配置することが好ましい。
【0042】
ここでいう同一線上に配置とは、図7に示すように、隣接して配置された一つの第一の要素(11)と一つの第二の要素(12)を一つの要素セットとしたときに、一つ要素セットを構成する要素の一方の端から他方の端までの中心の位置(図7において一点鎖線で図示)と、色合成要素(20)の中心の位置が同じ位置に配置されることである。なお、第一の要素(11)と第二の要素(12)が近接して配置される場合と一部が重なって配置される場合においても、これと同様である。
【0043】
また、本発明において、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)を等色にするために、各要素の面積率及び/又は各要素を形成する色材の濃度を調整する必要がある。この理由は、前述したように、第一の画像領域(3)の目視上の色と第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)は同じ色相であるが、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)は視認される色の発現原理が異なり、各要素の面積率及び色材の濃度によって、色彩が異なるためである。なお、本発明において「面積率」とは、基材(1)の一定の面積の中に配置される要素の面積の割合のことである。本実施の形態では、画線で構成される例について説明しており、この場合、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の線幅を調整することで、面積率を調整することができる。また、各要素を形成する色材の濃度を調整する場合は、色材を構成する着色顔料の割合を調整したり、濃度調整のためのメジウム等の割合を調整することで可能である。
【0044】
また、本発明において、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の差をより目立たなくするためには、前述のように、第一の画像領域(3)に配置される各要素と、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)が同一線上に配置され、さらに、図8に示すように、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の面積率が等しいことが好ましい。なお、図8に示す構成では、第一の要素の線幅(W5)と第二の要素の線幅(W6)の和と色合成要素の線幅(W20)が等しい状態を示しており、このとき、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)の面積率は等しくなる。
【0045】
このように第一の画像領域(3)は、拡大して観察すると各要素の色材が並んでいるが、目視で観察した場合には、微小な各要素が合成された加法混色の原理で合成色が観察でき、第二の画像領域(4)は、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相の色合成要素(20)を、第一の画像領域(3)と等色関係で配置されることが本発明の重要な構成である。
【0046】
続いて、各要素が画素で構成される例について、図9を用いて説明する。図9(a)は、印刷物(A)の平面図である。また、図9(b)は、図9(a)の太線で囲む部分を拡大した図であり、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)の境界部分の構成を示す図である。第一の画像領域(3)は、図9(b)の拡大図に示すように、高さ(H5)、幅(R5)の第一の要素(11)が第一の方向(T1方向)にピッチ(P11)、第二の方向(T2方向)にピッチ(P12)で配置され、高さ(H6)、幅(R6)の第二の要素(12)がピッチ(P21、P22)で、第一の画像要素(11)が配置される方向と同じ方向に配置されて成る。各要素が画素で構成される場合においては、各要素が配置される方向のピッチが等しく、すなわち、図9(b)でいう第一の方向(T1方向)における第一の要素のピッチ(P11)と第二の要素ピッチ(P21)が等しく、第二の方向(T2方向)における第一の要素のピッチ(P12)と第二の要素ピッチ(P22)が等しい。なお、図9(b)に示す第一の要素(11)と第二の要素(12)は、第二の方向(T2方向)にずれて配置された状態を示しているが、第一の方向(T1方向)にずれて配置されても良い。また、第一の要素(11)と第二の要素(12)の配置は、図9(b)に示すような、隣接した配置の他に、近接した配置と一部が重なる配置があり、近接した配置と一部が重なる配置については、画線で説明した配置と同様である。また、第一の要素(11)及び第二の要素(12)を形成する色材は、画線で構成される場合と同様であるので説明を省略する。
【0047】
第一の画像領域(3)は、前述のように、第一の画像領域(3)に配置される各要素を形成する色材の合成色の色相で観察される必要があり、そのための第一の要素(11)の高さ(H5)と幅(R5)及び第二の要素(12)の高さ(H6)と幅(R6)は、20μmから200μm程度で形成する必要がある。また、第一の要素のピッチ(P11、P12)と第二の要素のピッチ(P21、P22)は、80μmから1500μm程度が適しており、好ましくは100μmから1000μm程度が良い。
【0048】
第二の画像領域(3)は、図9(b)の拡大図に示すように、高さ(H20)、幅(R20)の色合成要素(20)が第一の方向(T1方向)にピッチ(P31)、第二の方向(T2方向)にピッチ(P32)で配置されて成る。画線で構成される色合成要素(20)と同様に、画素で構成される色合成要素(20)においても、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相を有する構成であり、前述したように、第一の画像領域(3)に配置される各要素を形成する色材を混合した色材を用いても良いし、特色インキを用いても良いし、第一の画像領域(3)に配置される要素を積層する構成でも良い。ただし、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)を等色にするために、各要素の面積率及び/又は各要素を形成する色材の濃度を調整する必要がある。
【0049】
各要素が画素で構成される場合において、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)を等色にするために、第一の方向(T1方向)における第一の要素のピッチ(P11)と色合成要素のピッチ(P31)は等しく、第二の方向(T2方向)における第一の要素のピッチ(P12)と色合成要素のピッチ(P32)は等しい。なお、このようなピッチの条件を満たしていれば、図9(b)に示すように、第一の画像領域(3)に配置される各要素と第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)は同一線上に配置されなくても良いが、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の差を、より目立たなくするためには、図10に示すように、第一の画像領域(3)に配置される各要素と、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)を同一線上に配置することが好ましい。
【0050】
各要素が画線で構成される場合において、第一の画像領域(3)に配置される各要素と第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)を同一線上に配置するには、図10及び図11に示すように、各要素を配置する第一の方向(T1方向)と第二の方向(T2方向)のそれぞれの方向で、第一の画像領域(3)に配置される画素と第二の画像領域(4)に配置される画素の中心の位置が同じ配置とすれば良い。
【0051】
例えば、図10に示す画素の配置は、第一の要素(11)と第二の要素(12)が第二の方向(T2方向)にずれて配置され、第一の方向(T1方向)で第一の画像領域(3)に配置される画素と第二の画像領域(4)に配置される画素の中心の位置が同じ状態を示している。このとき、隣接して配置された一つの第一の要素(11)と一つの第二の要素(12)を一つの要素セットとしたときに、一つの要素セットを構成する要素の高さ方向における一方の端から他方の端までの中心の位置(図10において一点鎖線で図示)と、色合成要素(20)の高さ方向の中心の位置が同じ位置に配置される。
【0052】
また、図11に示す画素の配置は、第一の要素(11)と第二の要素(12)が第二の方向(T2方向)にずれて配置され、第二の方向(T2方向)で第一の画像領域(3)に配置される画素と第二の画像領域(4)に配置される画素の中心の位置が同じ状態を示している。このとき、隣接して配置された一つの第一の要素(11)と一つの第二の要素(12)を一つの要素セットとしたときに、一つの要素セットを構成する要素の幅方向における一方の端から他方の端までの中心の位置(図11において一点鎖線で図示)と、色合成要素(20)の幅方向の中心の位置が同じ位置に配置される。なお、第一の要素(11)と第二の要素(12)が第一の方向(T1方向)にずれて配置された場合においても、図10及び図11に示した配置と同様に、隣接する一つの第一の要素(11)と一つの第二の要素(12)を一つの要素セットとしたときに、一つの要素セットを構成する要素の高さ方向における一方の端から他方の端までの中心の位置と色合成要素(20)の高さ方向の中心の位置が同じであり、一つの要素セットを構成する要素の幅方向における一方の端から他方の端までの中心の位置が色合成要素(20)の幅方向の中心の位置が同じ配置とすれば良い(図示せず)。
【0053】
また、各要素が画素で構成される場合において、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の差をより目立たなくするためには、前述のように、第一の画像領域(3)に配置される各要素と、第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)が同一線上に配置され、さらに、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)に配置される各要素の面積率が等しいことが好ましい。この場合、一つの要素セットを構成する各要素の面積の和と一つの色合成要素(20)の面積が等しく、例えば、図12に示す構成は、一つの要素セットの幅(R5、R6)と色合成要素の幅(R20)が等しく、一つの要素セットの高さ、すなわち、第一の要素の高さ(H5)と第二の要素の高さ(H6)の和が色合成要素の高さ(H20)と等しい状態を示しており、このとき、一つの要素セットと一つの色合成要素(20)の面積が等しく、同じピッチで各要素が配置された第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)の面積率は等しくなる。
【0054】
続いて、画線と画素の組み合わせで構成される各要素について説明する。例として、第一の要素(11)について説明する。
【0055】
図13は、画線と画素で構成される第一の要素(11)を示す図であり、図13において、第一の要素(11)のうち画線で構成される部分を符号(11a)で示し、画素で構成される部分を符号(11b)で示している。
【0056】
第一の画像領域(3)は、前述のように、第一の画像領域(3)に配置される各要素を形成する色材の合成色の色相で観察される必要があり、そのためには、一つの第一の要素(11)が目視で観察したときに、第一の要素(11)全体に亘って一定の色相で観察される必要がある。画線と画素の組み合わせで第一の要素(11)が構成される場合には、画線で構成される部分(11a)と画素で構成される部分(11b)の単位面積当たりの面積率が等しい関係となるように、線幅(W5)、画素の高さ(H5)及び画素の幅(R5)、画素のピッチ(P11)を調整することで、一つの第一の要素(11)全体に渡って一定の色相で観察できる構成とすることができる。第二の要素(12)と色合成要素(20)が画線と画素で構成される場合においても、第一の要素(11)の構成と同様であるため説明を省略する。
【0057】
以上のように形成した印刷物(A)の画像を図14(a)に、複写物(B)を図14(b)に示す。印刷物(A)では第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)が目視では等色に感じられるように作製しているため一様な模様であるが、複写物(B)においては、各画像領域において印刷物(A)に比べて色再現性が異なるため等色関係が崩れて「COPY」の模様が現れ、複写物であることが一目瞭然となる。
【0058】
等色関係が崩れるのは、目視では等色に感じられる第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)が、拡大して観察すると、第一の画像領域(3)が複数色で形成されているのに対し、第二の画像領域(4)が合成色の単色で形成されている。このため、複写機でコピーした場合には、複写機のCMYKの色材のみを使用して、二つの異なる画像領域の構成を再現しなければならず、画像再現性の違いにより等色関係が崩れて模様が現れることになる。詳細には、複写機の画像読取部に設置されている光学センサーはRGBセンサーであり、スキャニングデータはRGBデータとなる。このデータを複写機の有する色材であるCMYKデータに変換した場合にはスキャニングデータであるRGBデータが持つ色とは完全に一致しないことになり、更に、画像を形成する印刷時においてもドットゲイン等の印刷現象が生じることで、結果的に等色関係が崩れることになる。なお、複写機で用いられる色材は、CMYKの色材であることから、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(12)に配置される各要素を形成する色材をCMYK以外の特色インキとすることによって、更に、複写物(B)において二つの画像領域の等色関係が崩れる効果が高くなる。
【0059】
以上の構成は、第一の画像領域(3)に第一の要素(11)と第二の要素(12)が複数配置されて成る構成であるが、段落(0024)で記載したように、更に、第一の画像領域(3)に第nの要素(nは3以上の整数)まで形成しても良い。この形態の一例として、第一の画像領域(3)に、第一の要素乃至第三の要素が配置される構成について図15を用いて説明する。
【0060】
図15(a)は、印刷画像(2)の構成を示す図であり、図15(b)は、図15(a)の太線で囲む部分を拡大した図であり、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)の境界部分の構成を示す図である。第一の画像領域(3)は、図15(b)の拡大図に示すように、線幅(W5)の第一の要素(11)と線幅(W6)の第二の要素(12)と線幅(W7)の第三の要素(13)がそれぞれピッチ(P5、P6、P7)で第1の方向(S1方向)に複数配置されて成る。第一の要素(11)と第二の要素(12)を形成する色材については前述のとおりである。そして、第三の要素(13)は、第一の要素(11)と第二の要素(12)を形成する色材の色相と異なり、かつ、基材(1)と異なる色相を有する色材によって形成される。
【0061】
第三の要素(13)の線幅(W7)についても、第一の画像領域(3)を目視で観察した場合に、第三の要素(13)の色相が単独で観察されないために、20μmから200μmの範囲で形成される。また、第三の要素(13)が配置されるピッチ(P7)は、第一の要素(11)と第二の要素(12)が配置されるピッチ(P5、P6)と同じピッチである。ここでは、図15に第一の画像領域(3)に三つの要素が配置される例について説明したが、本発明のピッチの最大値としている1500μm内であれば、更に、第一の要素(11)乃至第三の要素(13)と異なる色相を有する色材から成る第nの要素を配置する構成としても良い。
【0062】
第一の画像領域(3)は、以上の構成で形成されることで、人間の目視では、第一の要素(11)、第二の要素(12)及び第三の要素(13)を区別することができず、第一の画像領域(3)は、第一の要素(11)を形成する色材の色相、第二の要素(12)を形成する色材の色相及び第三の要素(13)を形成する色材の色相が、加法混色の原理によって合成された色として見える。
【0063】
第二の画像領域(4)に配置される色合成要素(20)の構成については、前述したように、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相を有する構成であり、第一の画像領域(3)に第三の要素(13)が加わった分の色相を加えた構成とする。
【0064】
具体的には、第一の要素(11)、第二の要素(12)及び第三の要素(13)を形成する色材を混合して一つの色相を有する色材とし、混合した色材によって、色合成要素(20)を形成する。この場合、第一の画像領域(3)の目視上の合成色と色合成要素(20)を形成する色材を同じ色相とするために、第一の要素(11)の線幅(W5)、第二の要素(12)の線幅(W6)及び第三の要素(13)の線幅(W7)に応じて、各要素を形成する色材の混合する割合を調整すれば良い。
【0065】
また、第二の画像領域(4)の色合成要素(20)は、第一の画像領域(3)に配置される各要素の目視上の合成色と同じ色相の特色インキを用いて形成しても良い。
【0066】
また、第二の画像領域(4)の色合成要素(20)は、図5及び図6に示す構成と同様に、第一の要素(11)、第二の要素(12)及び第三の要素(13)が重なる配置の構成としても良い。
【0067】
なお、第一の画像領域(3)に三つ以上の要素が配置される場合、例えば、図15に示す第一の要素(11)、第二の要素(12)及び第三の要素(13)が配置される場合には、第二の画像領域(4)に二つ以上の画像要素を配置することも可能である。なお、ここでいう画像要素の数は、異なる色相の色材で形成される画像要素の種類の数のことである。ただし、この場合の画像要素の数は、第一の画像領域(3)に配置される要素の数より小さい数であり、第二の画像領域(4)に配置される画像要素は、第一の画像領域(3)に配置される各要素と異なる色相で構成される。続いて、第二の画像領域(4)に複数の画像要素が配置される構成について説明する。
【0068】
図16は、第二の画像領域(4)に複数の画像要素が配置される構成を示す図である。ここでは、図16(b)の拡大図に示すように、第一の画像領域(3)に三つの要素が配置され、第二の画像領域(4)に、二つの画像要素が配置される例について説明する。なお、第二の画像領域(4)に配置される二つの画像要素のことを以降、「第一の色合成要素(20A)」、「第二の色合成要素(20B)」とする。
【0069】
第二の画像領域(4)に第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)が配置される場合においても、段落(0029)で説明した第一の画像領域(3)と同様に、目視で観察した場合に第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)の合成色の色相で観察される必要がある。このため、第一の色合成要素(20A)の線幅(W)と第二の色合成要素(20B)の線幅(W)は、第一の画像領域(3)に配置される各要素の線幅と同じ範囲で形成される。また、第一の色合成要素(20A)のピッチ(P20A)と第二の色合成要素のピッチ(P20B)は、第一の画像領域(3)に配置される各要素のピッチと同じである。
【0070】
また、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)を等色にするため、第一の画像領域(3)に配置される第一の要素(11)乃至第三の要素(13)の合成色と、第二の画像領域(4)に配置される第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)の合成色は同じ色相である必要がある。以下、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)の具体的な構成について説明する。なお、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)の構成を簡単に説明するため、図16に示す第一の画像領域(3)に配置される各要素の線幅(W5、W6、W7)と、第二の画像領域(4)に配置される各要素の線幅(W、W)はすべて等しいこととする。
【0071】
第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)の例としては、第一の要素(11)を形成する色材と第二の要素(12)を形成する色材を混合して第一の色合成要素(20A)を形成し、第二の要素(12)を形成する色材と第三の要素(13)を形成する色材を混合して第二の色合成要素(20B)を形成する構成がある。ただし、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)が等色になるように、色材の配合を適宜調整する必要がある。これは、各要素の線幅が等しい条件で、第一の要素(11)を形成する色材と第二の要素(12)を形成する色材及び第二の要素(12)を形成する色材と第三の要素(13)を形成する色材を単純に1対1の割合で混合すると、第二の画像領域(4)は、第一の画像領域(3)に対して、第二の要素(12)を形成する色材の色が強調され等色にならないからである。なお、ここでは、第二の要素(12)を形成する色材を、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)を形成する色材として混合する例について説明したが、これに限定されず、第一の要素(11)形成する色材又は第三の要素(13)を形成する色材を、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)を形成する色材として混合しても良い。
【0072】
また、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)は、前述した第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)を形成するために混合した色材と同じ色相の特色インキを用いても良い。
【0073】
また、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)は、第一の画像領域(3)に配置される各要素のうち、少なくとも二つの要素が重なって成る構成でも良い。例えば、第一の要素(11)と第二の要素(12)が重なって第一の色合成要素(20A)が形成され、第二の要素(12)と第三の要素(13)が重なって第二の色合成要素(20B)が形成される構成がある。ただし、色材を混合して第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)を形成する場合と同様に、単純に各要素を重ねると、第二の画像領域(4)は第二の要素(12)を形成する色材の色が強調され等色にならない。このため、第二の画像領域(4)に配置する第二の要素(12)を形成する色材の濃度を、第一の画像領域(3)に配置する第二の要素(12)を形成する色材より淡くなるように濃度調整することで、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)を等色にすることができる。
【0074】
ここでは、第二の画像領域(4)に複数の色相の画像要素が配置される構成を簡単に説明するため、第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)が二つの色相の合成色を有する構成について説明したが、三つの色相を含んでも良い。複数の色の色合成要素が配置されて第二の画像領域(4)が構成される場合に重要なことは、第一の画像領域(3)に配置される第一の要素(11)乃至第三の要素(13)の合成色と、第二の画像領域(4)に配置される第一の色合成要素(20A)と第二の色合成要素(20B)の合成色が同じ色相であることであり、第一の画像領域(3)と第二の画像領域(4)が等色になるように、第二の画像領域(4)に配置される複数の色の色合成要素を形成する色材の濃度調整、色材配合の調整や、色合成要素の面積率の調整を行えば良い。
【0075】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した複写牽制印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
図2に示すような、印刷物では一様な模様であるが、複写物において「COPY」と観察できる複写牽制印刷物を作製した。第一の画像領域の第一の要素をピッチ600μm、画線幅75μmの直線、色材にはオフセット印刷用プロセスシアンインキ(T&K TOKA製UVLカートン藍)を用いた。また、第二の要素をピッチ600μm、画線幅75μmの直線、色材にはオフセット印刷用プロセスマゼンタインキ(T&K TOKA製UVLカートン紅)を使用した。第二の画像領域の色合成要素(20)は、ピッチ600μm、画線幅120μm、色材には第一の要素で使用したプロセスシアンインキ、及び第二の要素で使用したプロセスマゼンタインキを1:1で混合して合成色を作製した。なお、基材には市販の上質紙(日本製紙製NPI上質)を用いた。オフセット印刷機を用いて印刷した複写牽制印刷物を、複写機において複写物を作製した結果、図14(b)のように「COPY」の模様が出現した。
【符号の説明】
【0077】
A 複写牽制印刷物(印刷物)
B 複写物
1 基材
2 印刷画像
3 第一の画像領域
4 第二の画像領域
11 第一の要素
12 第二の要素
13 第三の要素
20 色合成要素
20A 第一の色合成要素
20B 第二の色合成要素
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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