(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態の例示にのみ狭く限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ(以下「本ケミカルヒートポンプ」という。)の構成の概略を示す図である。これらの図で示すとおり、本ケミカルヒートポンプ1は、CaSO
4及びその水和物の少なくともいずれかを含む反応部2と、水を蒸発又は凝縮する蒸発凝縮部3と、反応部2及び蒸発凝縮部3を接続する接続パイプ4と、接続パイプ4の開閉を行う接続バルブと、を有し、反応部2に取り付けられる温度センサ5と、圧力センサ5に接続され、反応部2の温度が所定の温度を超えた場合に、反応部2の温度降下を行う温度降下部6と、を有することを特徴とする。
【0016】
本実施形態における反応部2は、反応器21を備えており、反応器21の外側に反応部側熱交換器22を備えている。この結果、反応部2は、反応部側熱交換器熱交換器22によって反応器21の外と熱の授受を行うことができる。なお本図において反応器21の数は説明のために一つの例を示しているが、複数備えていても良く、より多くの蓄熱を行わせるためには反応器を複数備えていることが好ましい。
【0017】
本実施形態における反応部2は、上記のとおり、この反応器21内の内部にCaSO
4及びその水和物の少なくともいずれかを収納している。本実施形態において、CaSO
4は化学的な反応によって蓄熱することのできる蓄熱剤として機能する。より具体的には、下記式で示されるように、水又は水蒸気との反応によって水和物(CaSO
4・H
2O)となる一方、水又は水蒸気を放出することによってCaSO
4となる。
【化1】
【0018】
また本ケミカルヒートポンプ1の蒸発凝縮部3は、上記のとおり、接続パイプ4によって反応部2と接続され、反応部2において発生する水又は水蒸気に対し凝縮又は蒸発を行うことができるものである。この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば本図で示すように、凝縮器31と、蒸発器32と、凝縮器31と蒸発器32とを接続する凝縮器−蒸発器接続パイプ33と、この接続パイプ33に配置され、この接続パイプ33の開閉を制御する制御バルブ34と、を有していることが好ましい。また、本図で示すように、凝縮器31及び蒸発器32のそれぞれには凝縮器側熱交換器331、蒸発器側熱交換器332からなる蒸発凝縮部側熱交換器が設けられており、これらによって凝縮器31及び蒸発器32は外部と熱交換可能となっている。より具体的には、凝縮器31は凝縮器側熱交換器311によって外部に熱を放出することで水蒸気を液体の水に変換することができ、蒸発器32は蒸発器側熱交換器321によって外部から熱を受け取る(熱を吸収する)ことで水を水蒸気に変換することができる。そして、凝縮器−蒸発器接続パイプ33及び制御バルブ34によって、凝縮器31によって凝縮された水を蒸発器32側に供給することができるようになる。すなわち、蒸発凝縮部3は、反応部2によって発生した水蒸気を凝縮器31によって凝縮し、凝縮器−蒸発器接続パイプ33によって蒸発器32に供給し、蒸発器32によって水を蒸発させ、水蒸気として反応部2に供給することができるようになる。
【0019】
また本ケミカルヒートポンプ1は、反応部2と蒸発凝縮部3とを接続する接続管である接続パイプ4を有している。接続パイプ4によって、本ケミカルヒートポンプは、反応部2において放出される水又は水蒸気を蒸発凝縮部3に送ることが可能となる一方、蒸発凝縮部に収納される水又は水蒸気を反応部2に送ることが可能となる。また接続パイプ4には、この接続を制御するための制御バルブが備えられており、この制御バルブの開閉を行うことで反応部2と蒸発凝縮部3との接続を制御することができる。なお本図で示すように、接続パイプ4は、反応器21と凝縮器31を接続する反応器−凝縮器接続パイプ41と、反応器21と蒸発器32を接続する反応器−蒸発器接続パイプ42と、を有し、更に、反応器−凝縮器接続パイプ41にはこの開閉を制御する反応器−凝縮器制御バルブ411を有しており、反応器−蒸発器接続パイプ42にはこの開閉を制御する反応器−蒸発器制御バルブ421を有しており、それぞれを制御することによって反応器21と凝縮器31、反応器21と蒸発器32の接続を制御することができる。
【0020】
また本ケミカルヒートポンプ1の反応部2には、温度センサ5が備えられている。これによりケミカルヒートポンプ1の反応部2の温度を計測することによって、収納されている材料の劣化を防止することができるようになる。温度センサ5としては、温度を計測することができる限りにおいて特に限定されることなく公知のものを採用することができ、例えば熱電対等を採用することができる。
【0021】
また本ケミカルヒートポンプ1には、上記温度センサ5に接続され、反応部の温度が所定の温度を超えた場合に、反応部2の温度降下を行う温度降下部6を備えている。温度降下を行わせる効果については後に詳述するが、温度降下を行うことによって、上記反応部2内に収納されるCaSO
4及びその水和物の劣化を顕著に防止することができるようになる。
【0022】
本実施形態の温度降下部6は、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、反応部2内、より具体的には反応器21内の温度が150℃を越えたとなった場合に、これ以下となるよう温度を降下させる機能を有することが好ましい。
【0023】
本実施形態における温度降下部6の構成としては、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、反応器21に反応器側補助熱交換器23を別途備え、反応器21内の温度が上記所定の温度を超えた場合に、この反応器側補助熱交換器を駆動させ、外部への熱放出量を増加させることが好ましい。このようにすることで、反応器21内の温度をより効率的に減少させることができる。この場合の例を
図2に示しておく。本図の例では、温度降下部6は反応器側補助熱交換器23の経路内に配置されるポンプに接続され、温度が所定の温度以上となった場合に、このポンプを駆動し、反応器21から熱を外部に放出させ、所定の温度以下となるまで駆動することのできる構成となっている。
【0024】
なお、温度降下部6の温度降下の他の例としては、例えば、反応器21内の温度が上記所定の温度を超えた場合に、この反応器側熱交換器23内における媒体の初期温度(反応器に接触する前の温度)を下げる媒体温度冷却装置24を反応器側熱交換器に接続することが好ましい。このようにすることで、反応器21内の温度をより効率的に減少させることができる。この例について
図3に例を示しておく。この反応器側熱交換器23内における媒体の初期温度(反応器に接触する前の温度)を下げる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば別の熱交換器を熱交換器22の流路の一部に取り付けるなどを採用することができるがこれに限定されない。
【0025】
更に、温度降下部6の温度降下の他の例としては、例えば、反応器21内の温度が上記所定の温度を超えた場合に、この反応器側熱交換器23内における媒体の流体量を調整する媒体流量調整装置を反応器側熱交換器に接続することも好ましい。このようにすることで、反応器21内の温度をより効率的に減少させることができる。なおこの媒体流量調整装置は、媒体を循環させるポンプの出力を調整して流量を調節するためのする出力調整機能で兼ねることができる。この場合の例について
図4に示しておく。
【0026】
また、本実施形態では、上記温度センサ及び温度降下部の構成とは別に、又は上記の構成に加え、反応部2内の圧力、より具体的には反応器21内の反応器−凝縮器接続パイプ42近傍に配置され圧力を検知する圧力センサ7、及びこの圧力センサ7に接続され、所定の圧力以上となった場合にこの圧力を降下させるための圧力降下部8を備えていることが好ましい。圧力センサ7、圧力降下部8を加えることで、上記反応部2内に収納されるCaSO
4及びその水和物の劣化を顕著に防止することができるようになる。この場合の例を
図5に示しておく。なお圧力センサの構成としては、特に限定されるわけではないが、ダイヤフラムを備え、このダイヤフラムの変位又は歪みを電気的な信号として出力する圧力計を用いることができる。
【0027】
圧力降下部7の構成としては、適宜調整可能であり、限定されるわけではないが、例えば、上記
図5で示すように、上記接続パイプ4に設けられる制御バルブ、より具体的には反応器−凝縮器制御バルブ41及び反応器−蒸発器制御バルブ42の開閉量を制御するモータ装置等の駆動装置であることは好ましい一例である。この結果、例えば、蒸発器32からCaSO
4に水蒸気が供給されている際に上記所定の圧力以上となった場合、反応器−蒸発器制御バルブ42の開閉量を少なくすることで、反応器内の圧力を降下させることが可能となり、又は、反応器21から凝縮器31側に水蒸気が供給されている際に上記所定の圧力以上となった場合、反応器−蒸発器制御バルブ42を開くことで、反応器内の圧力を降下させることが可能となる。
【0028】
本実施形態において、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、上記のように圧力センサを設け、反応部2内、より具体的には反応器21内の圧力が30kPaを越えたとなった場合に、これ以下となるよう温度を降下させる機能を有することが好ましい。
【0029】
なお次に、本ケミカルヒートポンプ1の一般的な動作について
図6を用いて説明する。本図中(A)は、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ1において、反応部2が高熱を外から吸収し、蒸発凝縮部3から排出する状態を示す図であり、本図中(B)は、蒸発凝縮部3が高熱を外部から吸収し、反応部2から排出する状態を示す図である。
【0030】
本図(A)の状態においては、高温側熱源からケミカルヒートポンプに高温の熱が供給される。具体的には反応部側熱交換器を介して高温の熱が供給されるため、この供給された熱により、反応部内で化学反応が起こり、蓄熱材から蒸気が発生する。発生した蒸気は、接続パイプ4を介して蒸発凝縮部3に導入される。具体的には、反応器21から反応器−凝縮器接続パイプ41を介して凝縮器31に蒸気が供給される。この状態において接続管4の接続バルブ411は開いた状態となっている。
【0031】
そして、蒸発凝縮部、具体的には凝縮器に導入された蒸気は、凝縮器内において熱を蒸発凝縮部外に排出し、又は、低温側熱源からの低温の熱を利用して凝縮され、液化する。なおこの動作終了後、反応器−凝縮器接続パイプ33の制御バルブ34を開き、凝縮器から蒸発器に液体を移動させる。
【0032】
一方、本図(B)の状態においては、蒸発凝縮部3において凝縮された水を外部からの熱を用いて再び蒸発させて蒸気とする。そして、接続バルブ41を開き、蒸気を接続パイプ4を介して反応部2に導入する。
【0033】
そして蒸気は反応部2に導入された後、CaSO
4と化学反応を起こし水和物となる。この際、反応部2内では熱が放出される。
【0034】
すなわち、この一連の流れにより、本ケミカルヒートポンプ1は外部を冷却することができる。具体的には、蒸発凝縮部が水を蒸発させて蒸気にする際、外から蒸発熱を吸収することとなるため、その熱の分だけ外部を冷却することができる。
【0035】
なお本実施形態では、上記図(B)において、反応部2に蒸気が導入された後、CaSO
4と化学反応を起こす際、高温高圧の状態となるが、特に反応部2内の蓄熱剤としてCaSO
4を用いたケミカルヒートポンプの場合、所定の温度、所定の圧力、より具体的には150℃、30kPaを超えた場合、急激な材料劣化を起こしてしまう虞がある。ここで、上記実施形態に係るケミカルヒートポンプに関し、その温度、圧力条件において如何に材料の劣化が起こるかについて説明する。
【0036】
図7,8は、〜100gのCaSO
4を約100mlの反応器に収納し、周囲に熱交換器を配置し、上記式(1)で示される反応を、それぞれ異なる圧力及び温度条件で蓄放熱動作を複数回行った場合の結果を示すものである。
図7の縦軸は反応器における反応材の温度を、横軸は時間を表しており、
図8の縦軸は反応材の理論半水・水和量を100%とした場合のCaSO
4の反応率を表しており、横軸は時間を表している。ここでの反応率は蒸発凝縮部の水位から求めており、水位計測手段のノイズが重畳した結果となっている点を断っておく。また、図中「A」、は、150℃以下、20kPaの温度及び圧力の範囲で蓄放熱反応を20回行わせた結果を示し、図中「B」は〜160℃の温度、及び、47kPaの圧力で蓄放熱反応を50回行わせた結果を示し、図中「C」は〜190℃の温度、100kPaの圧力で蓄放熱反応を100回行わせた結果を示す。また、下記表1に、本実験後、5時間の真空焼成を行い、室温、高湿度下での水和における反応材の失活率(水和反応できない材料の割合)を計測した結果を示しておく。
【表1】
【0037】
これらの結果、本材料系において、温度が150℃以下、圧力が20kPaでは100回の蓄放熱繰り返し後も劣化は殆ど起こらず、温度〜160℃、圧力47kPaでは50回の繰り返しで劣化が進行し、温度が〜190℃で、かつ、圧力が100kPaとなると急激に劣化し、20回程度の繰り返しでも半分近くの反応材が劣化してしまっている。これらの結果から、劣化を回避するための条件として、温度150℃以下、圧力30kPaの条件範囲が導出される。この劣化は本材料系に特有な劣化であって、上記温度範囲では数時間程度の繰り返し使用だけで効率の低下が発生してしまうことを意味する。したがって、上記温度を超えない範囲で使用することは極めて臨界的な効果を発揮することとなる。
【0038】
したがって、本ケミカルヒートポンプは、上記のとおり、反応部の温度を検知する温度センサ及びこれに接続された温度降下部を有するものとし、反応部が所定の温度を超えたことを検知した場合、温度降下部によって反応部の温度降下を行うことで、蓄熱剤の劣化を顕著に防止することができるようになる。この温度としては、150℃を超えると急激な劣化が始まるため、150℃を超えたことを温度センサが検知した場合、温度降下作業を行うことが好ましく、より好ましくは140℃である。温度降下作業開始温度を140℃とすることで150℃を越える前に事前に温度降下作業を行うことができるようになり、150℃を超えない制御とすることができるようになる。
【0039】
また、上記課題に対し、本ケミカルヒートポンプは、上記所定の温度以下でかつ所定の圧力以下にあることが好ましく、反応部内の圧力を検知する圧力センサ及びこれに接続された圧力降下部を有することが好ましく、反応部が所定の圧力を超えたことを検知した場合、圧力降下部によって反応部の圧力降下を行うことで、蓄熱剤の急激な劣化を顕著に防止することができるようになる。この圧力範囲としては、30kPaを超えると急激な劣化が始まるため、30kPaを超えたことを圧力センサが検知した場合、圧力降下作業を行うことが好ましく、より好ましくは20kPaである。圧力降下作業開始温度を90kPa以下とすることで30kPaを越える前に事前に圧力降下作業を行うことができるようになり、30kPaを超えない制御とすることができる。
【0040】
以上、本ケミカルヒートポンプによって、高い温度範囲で使用した場合であっても材料の劣化を防止することのでき長期に安定したケミカルヒートポンプ及びその制御方法を提供することができる。