特許第6016301号(P6016301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016301単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016301
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート
(51)【国際特許分類】
   B24B 1/00 20060101AFI20161013BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20161013BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20161013BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20161013BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B24B1/00 B
   C30B29/36 A
   C30B33/00
   B24D3/00 320A
   B24D3/00 350
   B24D3/00 310Z
   H01L21/304 622W
   H01L21/304 622F
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-26081(P2013-26081)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-151425(P2014-151425A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】貴堂 高徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−205555(JP,A)
【文献】 特開平10−058333(JP,A)
【文献】 特開平06−000775(JP,A)
【文献】 特開2008−006559(JP,A)
【文献】 特開2010−188487(JP,A)
【文献】 特開2008−081389(JP,A)
【文献】 特開2007−283410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 1/00
B24D 3/00
B24D 11/00
B24B 37/00
C30B 29/36
C30B 33/00
H01L 21/304
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項2】
クーラントが純水であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項3】
クーラントを用いないか、又は、クーラントとして用いる純水の供給速度が0ml/min超〜100ml/min以下であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項4】
被加工物テーブルの回転方向が研削プレート回転方向と逆方向であり、硬質パッドはセグメント化されたものであり、被加工物テーブルの回転速度が30rpm〜300rpmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
【請求項5】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有することを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
【請求項6】
平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されていることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項7】
前記金属酸化物が酸化セリウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項8】
前記金属酸化物が少なくとも酸化セリウムを含むことを特徴とする請求項7に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項9】
前記砥粒の比表面積が0.1m/g〜300m/gであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項10】
前記軟質パッドが、不織布系またはスエード系であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項11】
前記硬質パッドが、発泡ポリウレタン系であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項12】
前記砥粒を結合剤及び/又は接着剤で固定されたものであることを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【請求項13】
前記砥粒の固定は、固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料であるSiC(炭化珪素)は、現在広くデバイス用基板として使用されているSi(珪素)に比べてバンドギャップが広いことから、単結晶SiC基板を使用してパワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等を作製する研究が行われている。
【0003】
上記単結晶SiC基板は、例えば、昇華法で製造された単結晶SiCインゴットを切断し、その後、両面を鏡面加工することで形成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
切断された基板にはそり、うねりや加工歪が存在し、例えばダイヤモンド砥粒での研削加工でこれらを軽減した上でCMP(ケミカルメカニカルポリシング)で鏡面化することが行われているが、CMPの加工速度は小さいため、CMP前の加工歪層深さをできるだけ小さくすることが切望されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
SiC等の非酸化物セラミックスの鏡面加工にはメカノケミカルポリシング技術があり、例えば非特許文献2には、平均粒径0.5μm酸化クロム砥粒をアクリロニトリルやフェノールなどの樹脂で成形したポリシングディスク上で乾式研磨する手法と単結晶SiCの加工結果が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4499698号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】貴堂高徳、堀田和利、河田研治、長屋正武、前田弘人、出口喜宏、松田祥伍、武田篤徳、高鍋隆一、中山智浩、加藤智久:SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第21回講演予稿集、P72-73
【非特許文献2】須賀唯知:機械と工具、35, 92-96 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に開示された方法では、小さな単結晶試料に0.34MPaという量産工程では現実的でない加工荷重を必要としており、6インチ径をターゲットとした現在のSiCパワー半導体の実用化に向けた取組みに適用できるものではなかった。さらに、ここで開示されるポリシングディスクはいわゆるレジンボンドの砥石であり、微小なキズの発生を回避できるものではなかった。
従って、非特許文献2に開示された方法に基づいて、現在、デバイスに使用可能な鏡面を有する単結晶SiC基板の量産に用いることができる鏡面加工方法を開発するためには少なくとも、加工荷重の問題と微小なキズの発生の問題を解決する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決すべく、本発明者は、鋭意検討を重ね、少なくとも以下に示す複数のステップを経て、本発明に想到した。
【0010】
非特許文献2では、加工のメカニズムとして酸化クロムを触媒として試料表面が酸化され、砥粒によって除去されることで加工が進行するというメカノケミカル作用が主たるメカニズムと予想されることが開示されている。本発明者はメカノケミカル作用の内容にさらに踏み込んだ考察を行った結果、バンドギャップをもつ材料で構成される砥粒が被加工物との機械的摺動によりエネルギーが与えられ、砥粒表面の電子が励起されて電子正孔対が生じ、光触媒材料で説明される内容と同様の機構で、スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、あるいは原子状酸素といった非常に酸化力の強い活性種が生じて試料表面を酸化させるというメカニズムに到達した。被加工物が単結晶SiCの場合、酸化生成物はSiO・nHOとCOまたはCOであると想定され、SiO・nHOが砥粒によって除去されることで単結晶SiC基板の表面を鏡面に加工できるものと考えた。本明細書において、この作用をトライボ触媒作用と定義する。
本発明では、このトライボ触媒作用を有する砥粒を用いることによって、ダイヤモンド砥粒等を用いた機械的な除去作用に基づいて研削時に発生する単結晶SiC基板表面のキズの低減を図ることとした。
【0011】
トライボ触媒作用においては、機械的エネルギーを砥粒に効率的に与え、電子正孔対を大量に生ぜしめることが肝要である。電子正孔対の多くは、活性種生成に寄与することなく再結合して消滅してしまうので、活性種生成の確率を増大させることが必要になる。
本発明においては、大口径の単結晶SiC基板の加工を容易に量産に適用するため、研削装置に装着して用いることができることが必要である。研削装置を使用して砥粒のトライボ触媒作用を利用した加工を行うことは、これまで全く行われてこなかったので、トライボ触媒作用が効果的に発現する研削条件を新たに探索した。その結果、砥粒の種類、粒径の選定、クーラントの種類、供給速度、研削プレート回転速度等において、適切な範囲があることを見出した。
【0012】
また、従来、研削装置用の研削プレートとして一般的に使用されてきている、ボンド材で固めたいわゆる砥石を作製して使用した場合、微小なキズの発生は、トライボ触媒作用を利用した加工においても不可避であることがわかった。
そこで鋭意検討の結果、これまで研削装置には全く適用されることがなかったCMP用のパッドを研削プレートの基体として利用することに想到した。
【0013】
また、トライボ触媒作用を有する材料は種々あり、例えばダイヤモンドやSiC等もバンドギャップをもつ材料であるためトライボ触媒作用を示すが、単結晶SiCよりも軟らかくないため、単結晶SiC加工面にキズをつけてしまうので、不適である。
従って、本発明では、研削時に単結晶SiC加工面につくキズを低減するために、砥粒としては単結晶SiCよりも軟らかいものを用いることとした。
【0014】
本発明は、既存の研削装置を使用することで量産工程に適用可能であり、微小なキズの発生を抑制できる単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートを提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行うことを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工方法。
(2)クーラントが純水であることを特徴とする(1)に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
(3)クーラントを用いないか、又は、クーラントとして用いる純水の供給速度が0ml/min超〜100ml/min以下であることを特徴とする(1)に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
(4)被加工物テーブルの回転方向が研削プレート回転方向と逆方向であり、硬質パッドはセグメント化されたものであり、被加工物テーブルの回転速度が30rpm〜300rpmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工方法。
(5)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有することを特徴とする単結晶SiC基板の製造方法。
(6)平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されていることを特徴とする単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(7)前記金属酸化物が酸化セリウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(6)に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(8)前記金属酸化物が少なくとも酸化セリウムを含むことを特徴とする(7)に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(9)前記砥粒の比表面積が0.1m/g〜300m/gであることを特徴とする(6)〜(8)のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(10)前記軟質パッドが、不織布系またはスエード系であることを特徴とする(6)〜9のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(11)前記硬質パッドが、発泡ポリウレタン系であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(12)前記砥粒を結合剤及び/又は接着剤で固定されたものであることを特徴とする請求項6〜11のいずれか一項に記載の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
(13)前記砥粒の固定は、固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによってなされていることを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項の単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート。
【0016】
本明細書において、「単結晶SiC基板」との語は表面研削前、表面研削中及び表面研削後のいずれのものに対しても共通に用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、既存の研削装置を使用することで量産工程に適用可能であり、微小なキズの発生を抑制できると共に迅速に鏡面を得ることが可能な単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の研削プレートの構造を示す模式図である。
図2】本発明の研削プレートを使用する表面研削装置の一例の構造の一部を示す模式図である。
図3】本発明の第1の実施例における加工前の単結晶SiCインゴット表面の光学顕微鏡写真である。
図4】本発明の第1の実施例における加工後の単結晶SiCインゴット表面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートについて、図面を用いてその構成を説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
(単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート)
図1は、本発明一実施形態に係る単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートの一例を示す模式図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
図1に示す研削プレート10は、平坦面を有する台金1と、その上に軟質パッド2、硬質パッド3が順に貼付され、硬質パッド3の表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒(図示略)が固定されている。
この例では、軟質パッド2と硬質パッド3とは粘着シート4を介して貼付され、硬質パッド3は直角三角形状にセグメント化された8枚(3a)によって構成されており、台金1は、研削装置にネジで固定するためのネジ穴1aを有する。この場合、純水等のクーラントを用いるときの軟質パッドの吸水防止と硬質パッド貼付の安定化のため、粘着シート4を使用しているが、使用せずに硬質パッド3を軟質パッド2に直接貼付してもよい。
また、この例に示すように、軟質パッド2と粘着シート4は、ネジ穴1aに切粉やクーラントの侵入を防ぐための蓋をする目的で、ネジ穴1aに相当する部分に穴をあけない形態で用いてもよい。
【0021】
バンドギャップを有する砥粒は、単結晶SiC基板の表面研削中に被加工物との機械的摺動によりエネルギーが与えられ、砥粒表面の電子が励起されて電子正孔対が生じ、スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、あるいは原子状酸素といった非常に酸化力の強い活性種が生じて試料表面を酸化させ、生じたSiO・nHOが砥粒によって除去されることで単結晶SiC基板の表面を加工できるというトライボ触媒作用を生じさせる。
トライボ触媒作用を生じさせるバンドギャップを有する材料として特に、金属酸化物は、いずれも単結晶SiCよりも軟らかい材料であり、ほとんどのものはバンドギャップを持つ材料であるため、砥粒や顔料、光触媒他の用途でトライボ触媒作用を持つ粉末が工業的に入手できるので好ましく、使用できる。
【0022】
より好ましく使用できる金属酸化物粉末は、工業的入手のしやすさとバンドギャップを持つ材料であるためトライボ触媒作用を持つことを鑑み、酸化セリウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物粉末である。
【0023】
最も好ましく使用できる金属酸化物粉末は、工業的入手のしやすさ、バンドギャップを持つ半導体材料であるためトライボ触媒作用を持つこと、発揮する性能を鑑み、酸化セリウムである。
【0024】
砥粒はSiO・nHOを除去する能力を備えている必要があるため、ある程度の一次粒子径をもつことが必要である。しかし、一次粒子径が大きいものでは比表面積が小さくなり、光触媒作用と同様にトライボ触媒作用も効率よく発揮できなくなるため適正な範囲がある。すなわち、砥粒の機械的除去能力を考えたとき、粒径が大きい、すなわち比表面積が小さいほうが有利であるということがあるが、一方で、トライボ触媒作用は、一般の触媒作用と同様に表面が関与するので、比表面積が大きい方が効果が高い。したがって、両者のバランスが取れた領域が適正な範囲ということになる。
【0025】
砥粒の比表面積は、0.1m/g〜300m/gであることが好ましい。0.1m2/gより小さいとトライボ触媒作用が効率よく発揮できないおそれがあるためであり、300m/gより大きいと、SiO・nHOを効率よく除去できないおそれがあるためである。
【0026】
砥粒の比表面積は、0.5m/g〜200m/gであることがより好ましい。0.5m/g以上とすることにより、トライボ触媒作用がより効率よく発揮できるものとなり、200m/g以下とすることにより、SiO・nHOをより効率よく除去できるためである。
【0027】
砥粒の比表面積は、1m/g〜100m/gであることがより好ましい。1m/g以上とすることにより、トライボ触媒作用がさらに効率よく発揮できるものとなり、100m/g以下とすることにより、SiO・nHOをさらに効率よく除去できるためである。
【0028】
この研削プレートは台金を備えているので、研削装置で使用するため研削装置に装着することが可能である。
台金としては公知のものを用いることができ、例えば、その材料がシルミン等のアルミニウム合金であるものを用いることができる。
【0029】
この台金は被加工物と相対する向きに平坦面を有しており、研削プレートはこの平坦面の上に、軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された構造である。かかる構造を備えることにより、表面基準の加工が可能で、かつ被加工物である単結晶SiC基板の表面に発生するキズを最小限に抑えることができる。
【0030】
軟質パッドは、不織布系、またはスエード系のものとすることができる。
【0031】
硬質パッドは発泡ポリウレタン系のものとすることができる。
【0032】
研削プレートの加工に与る最表面には、硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定されている。この砥粒は、結合剤や接着剤を使用して硬質パッド表面に固定したものとすることができる。
また、砥粒の固定は、市販の固定砥粒フィルムを硬質パッドに貼付することによって行うことができる。
【0033】
(単結晶SiC基板の表面加工方法)
本発明の一実施形態に係る単結晶SiC基板の表面加工方法は、平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行うものである。
【0034】
研削プレートを装着する研削装置としては公知の研削装置を用いることができる。
図2は、本発明の研削プレートを装着する研削装置の一例の単結晶基板を研削する部分の構造を示す模式図である。図1に示した研削プレート10は 駆動部11に装着され、駆動部はモータベルトによって回転する。単結晶SiC基板12は、真空チャック装置(不図示)によって真空吸着により被加工物テーブル13に固定される。基板保持部14が被加工物テーブル13と共に回転しながら、研削プレート方向に送られることで基板の研削が行われる。
【0035】
研削条件を適切に選定することで、単結晶SiCに対する前記研削プレートのトライボ触媒作用を顕現せしめ、酸化生成物を生ぜしめることができる。
【0036】
研削プレートの回転速度は300rpm〜3000rpmが好ましい。300rpmより小さいと砥粒に与えられる機械的エネルギーが小さすぎてトライボ触媒作用が現れないおそれがあるためであり、3000rpmより大きいと発熱や装置振動等の問題が無視できなくなるおそれがあるためである。研削装置にトライボ触媒作用をもつ研削プレートを適用した例はこれまで無かったため、既存の研削装置の仕様内でトライボ触媒作用が発現するかどうかは明らかでなかったが、鋭意検討の結果、一般的な研削プレート回転速度が適用できることが判明した。
【0037】
研削プレートの回転速度は500rpm〜2000rpmがより好ましい。500rpm以上とすることにより、トライボ触媒作用をより十分な機械的エネルギーを生じさせることが可能となり、2000rpm以下とすることにより、発熱や装置振動等の問題をより確実に回避することが可能となるからである。
【0038】
被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と順方向とすることができる。この場合、被加工物テーブルの回転速度は研削プレート回転速度の80%〜120%であることが好ましい。80%未満又は120%超とすると、加工面の除去量が不均一になるおそれがあるためである。
【0039】
被加工物テーブルの回転方向は、研削プレート回転方向と逆方向とすることができる。この場合、加工面の除去量を均一にするため、硬質パッドを適切な形状にセグメント化した上で、被加工物テーブルの回転速度は30rpm〜300rpmであることが好ましい。
硬質パッドをセグメント化すなわち、適当なサイズに分離して貼付することにより、被加工物テーブルと逆方向に回転する研削プレート上の砥粒と被加工物加工面内の接触頻度を制御することができ、例えば被加工物中央部だけが多く削れてしまうといった不均一な加工を防ぐことができる。通常の研削装置では被加工物テーブルの回転中心は研削プレートの外周部に当たるように配置され、被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と逆方向であるため、研削プレート全面に砥粒があると、被加工物中央部への砥粒の接触頻度が高くなり、中央部だけが削れてしまうので、これを防ぐための適切なセグメント化は有効である。
また、30rpm未満又は300rpm超とすると、通常の研削装置の仕様外の運転となり、加工面の除去量が不均一になるおそれがあるためである。
【0040】
クーラントを用いる場合には純水を用いることが好ましい。不純物成分があるとトライボ触媒作用が現れなくなるおそれがあるためである。トライボ触媒作用は機械的エネルギーを効率的に電子正孔対の生成に寄与させることが重要であるが、不純物の介在そのものがこれを阻害するおそれがあり、また、水の潤滑作用を高めて摩擦抵抗を減らしてしまう結果、砥粒に与える機械的エネルギーを減らしてしまうおそれがある。また、不純物の介在は、酸化生成物を砥粒が効率的に除去するプロセスを阻害するおそれもある。
【0041】
クーラントを用いなくてもよく、クーラントとして純水を用いるときは純水の供給速度は100ml/min以下であることが好ましい。100ml/minを越えると、機械的摺動によって砥粒に与えられるエネルギーが小さくなりすぎてトライボ触媒作用が十分現れなくなるおそれがあるためである。また、純水の供給速度が大きすぎると、潤滑剤としての作用が大きくなり、摩擦抵抗を減らしてしまう結果、砥粒に与えるエネルギーが小さくなり、電子正孔対の発生も充分でなくなるおそれもあるためである。
【0042】
(単結晶SiC基板の製造方法)
本発明の一実施形態に係る単結晶SiC基板の製造方法は、平坦面を有する台金上に軟質パッド、硬質パッドが順に貼付された研削プレートであって、前記硬質パッドの表面に単結晶SiCよりも軟らかくかつバンドギャップを有する少なくとも1種以上の金属酸化物からなる砥粒が固定された研削プレートを研削装置に装着し、前記研削プレートによって酸化生成物を生ぜしめ、その酸化生成物を除去しながら表面の研削を行う工程を有するものである。本願の方法は、SiC表面での酸化を利用するのでその酸化障壁の高さに関係し、SiC基板の(0001)面のC面において、好ましく適用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(第1の実施例)
秀和工業株式会社製研削装置MHG−2000に装着できるように準備されたM12のネジ穴をもつ外径150mmのアルミニウム合金製の台金の被加工物と相対する面を平坦に加工し、ニッタ・ハース株式会社製CMP用パッドSUBA600(軟質パッド)を貼付し、そのSUBA600の上に、アズワン株式会社製FEP粘着シートフィルムを介して30×40×50mmの直角三角形状にセグメント化したニッタ・ハース株式会製CMP用パッドIC1000(硬質パッド)を8枚貼付して研削プレート基体を作製した。この研削プレート基体を旭ダイヤモンド工業製コンディショナーCMP−M100Aを使用してツルーイングを行った。ツルーイングされたIC1000セグメント表面に、やはり30×40×50mmの直角三角形状にセグメント化した住友スリーエム株式会社製トライザクトフィルム酸化セリウムを貼付してトライボ触媒作用をもつ単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートを作製した。
【0045】
次に、作製した研削プレートを研削装置MHG−2000に装着し、予め旭ダイヤモンド工業製ビトリファイドボンドダイヤモンドホイール(4000番)で平坦に研削加工されたタンケブルー製3インチ径のn型(000−1)4H−SiC(4°オフ)単結晶インゴット(C面)(単結晶SiC基板)を、真空チャックを用いて被加工物テーブルに固定し、表面加工を行った。
被加工物テーブルの回転方向は研削プレート回転方向と逆方向とし、被加工物テーブルの回転速度とし、純水の供給速度は0ml/min、すなわち乾式で加工を行った。被加工物テーブルは手動でじわじわ送ることで行い、砥石回転用モーター電流の値が2.4〜2.8Aの範囲内になるようにした。加工時間は3分間であった。
【0046】
単結晶インゴットの除去量は、加工前後のインゴット高さについてミツトヨ製ハイトメータを使用して面内9点の測定を行い、算出した結果、平均値で3.8μmであった。加工速度は1.3μm/minと高い値であった。加工後のインゴット高さの最大値と最小値の差は1.4μmであり、均一に加工されていた。
【0047】
図3に加工前のインゴット表面、図4に加工後のインゴット表面について、オリンパス製光学顕微鏡を使用し、暗視野観察を行った結果を示す。
加工前のインゴットで無数に観察された4000番ダイヤモンド砥粒による研削条痕は完全に消失しており、結晶欠陥や微小異物に起因する輝点のみが観察され、加工歪の無い鏡面が達成できていた。
【0048】
(第2の実施例)
第1の実施例で作製した単結晶SiC鏡面加工用研削プレートを使用して、純水供給量を10ml/min、50ml/min、100ml/minとした以外は第1の実施例と同一の研削条件で加工を行った。
加工速度はそれぞれ1.0μm/min、0.6μm/min、0.2μm/minであり、第1の実施例の場合と同様に、光学顕微鏡暗視野観察で研削条痕が完全に消失していることが確認された。
【0049】
(比較例1)
第1の実施例で作製した単結晶SiC鏡面加工用研削プレートを使用して、純水供給量を150ml/minとした以外は第1の実施例と同一の研削条件で加工を行ったところ、加工速度はほぼゼロであり、光学顕微鏡暗視野観察で研削条痕がほとんど消えていないことが確認された。純水供給量が150ml/minでは、機械的摺動によって砥粒に与えられるエネルギーが小さくなりすぎてトライボ触媒作用が現れなくなったと考えられる。
【0050】
(比較例2)
日本金剛砥石製レジンボンド酸化セリウム砥石を研削プレートとして使用し、第1の実施例と同様の加工を行ったところ、平均値としての加工速度は0.7μm/minであったが、インゴット中央部が多く削れるという不均一な削れ方であり、光学顕微鏡暗視野観察では、微小なキズが観察された。本発明と異なり、軟質パッドと硬質パッドの組合せの構成を持たないため、表面基準の加工ができず、さらに微小なキズの発生を抑えることができなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の単結晶SiC基板の表面加工方法、その製造方法及び単結晶SiC基板の表面加工用研削プレートは、単結晶SiC基板の作製に使用することができ、また、デバイスを形成した後の基板の裏面を加工して基板を薄くする工程に使用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 台金
2 軟質パッド
3 硬質パッド
10 単結晶SiC基板の表面加工用研削プレート
図1
図2
図3
図4